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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】車両用シート装置
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/20 20060101AFI20220803BHJP
   B60N 2/225 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B60N2/20
B60N2/225
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019001123
(22)【出願日】2019-01-08
(65)【公開番号】P2020111074
(43)【公開日】2020-07-27
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】前川 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】荒武 章太郎
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 健
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-148753(JP,A)
【文献】特開2010-233840(JP,A)
【文献】特開平06-328973(JP,A)
【文献】特開2018-083452(JP,A)
【文献】特開2011-068236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00 - 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される車両用シート装置において、
シートクッション、及び下端側を中心として回転可能なシートバックを有するシート本体と、
前記シートバックを回転変位させるための回転力を発揮可能な電動モータ、及び当該シートバックをシート前方側に回転変位させるための弾性力を発揮可能なバネを有する倒伏装置であって、前記電動モータ及び前記バネを利用して前記シートバックをシート前方側に倒伏させる倒伏機能を発揮可能な倒伏装置と
を備え
前記倒伏装置は、前記倒伏機能の作動時には、前記電動モータを稼働させて予め決められた位置まで前記シートバックをシート前方側に向けて回転変位させた後、前記バネの力を利用して当該シートバックを倒伏状態まで回転変位させる車両用シート装置。
【請求項2】
前記倒伏機能は、前記シートバックが予め決められた第2の位置を越えてシート後方側に後傾している状態から当該シートバックをシート前方側に倒伏させる場合に、作動可能となる請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
車両に搭載される車両用シート装置において、
シートクッション、及び下端側を中心として回転可能なシートバックを有するシート本体と、
前記シートバックを回転変位させるための回転力を発揮可能な電動モータ、及び当該シートバックをシート前方側に回転変位させるための弾性力を発揮可能なバネを有する倒伏装置であって、前記電動モータ及び前記バネを利用して前記シートバックをシート前方側に倒伏させる倒伏機能を発揮可能な倒伏装置と
を備え
前記倒伏機能は、前記シートバックが予め決められた第2の位置を越えてシート後方側に後傾している状態から当該シートバックをシート前方側に倒伏させる場合に、作動可能となる車両用シート装置。
【請求項4】
前記倒伏装置は、
前記シートバックの回転中心軸線と略同軸線上に配設され、前記電動モータの回転力を当該シートバックに伝達するための傾倒部材であって、前記シートバックに対して回転可能な傾倒部材と、
前記シートバックに連結され、前記傾倒部材と係合する係合位置と当該係合が解除された非係合位置との間で変位可能な係合部材であって、前記係合位置にあるときに前記回転力を前記シートバックに伝達可能とする係合部材と、
前記係合部材を係合位置に保持するためのロック位置と当該ロック位置から外れた非ロック位置との間で変位可能なロック部材と、
前記ロック部材を変位させるための電動式アクチュエータと、
前記電動モータ及び前記電動式アクチュエータの作動を制御する制御部と
を有する請求項1ないしのいずれか1項に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
車両に搭載される車両用シート装置において、
シートクッション、及び下端側を中心として回転可能なシートバックを有するシート本体と、
前記シートバックを回転変位させるための回転力を発揮可能な電動モータ、及び当該シートバックをシート前方側に回転変位させるための弾性力を発揮可能なバネを有する倒伏装置であって、前記電動モータ及び前記バネを利用して前記シートバックをシート前方側に倒伏させる倒伏機能を発揮可能な倒伏装置と
を備え
前記倒伏装置は、
前記シートバックの回転中心軸線と略同軸線上に配設され、前記電動モータの回転力を当該シートバックに伝達するための傾倒部材であって、前記シートバックに対して回転可能な傾倒部材と、
前記シートバックに連結され、前記傾倒部材と係合する係合位置と当該係合が解除された非係合位置との間で変位可能な係合部材であって、前記係合位置にあるときに前記回転力を前記シートバックに伝達可能とする係合部材と、
前記係合部材を係合位置に保持するためのロック位置と当該ロック位置から外れた非ロック位置との間で変位可能なロック部材と、
前記ロック部材を変位させるための電動式アクチュエータと、
前記電動モータ及び前記電動式アクチュエータの作動を制御する制御部と
を有する車両用シート装置。
【請求項6】
前記ロック部材は、前記ロック位置と前記非ロック位置との間で回転変位可能であり、
前記電動式アクチュエータは、操作ケーブルを介して前記ロック部材を回転変位させる請求項4又は5に記載の車両用シート装置。
【請求項7】
前記係合部材が、前記傾倒部材に対して上方側に変位したときに、前記バネの力が前記シートバックに伝達可能な状態となる請求項4ないし6のいずれか1項に記載の車両用シート装置。
【請求項8】
前記倒伏装置は、前記倒伏機能の作動時において、前記バネの力を利用する際には、前記電動モータを停止させる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車両用シート装置。
【請求項9】
前記シート本体をスライドさせるスライド装置を備え、
前記スライド装置は、前記倒伏機能が終了したときに、前記シート本体をシート前方側にスライドさせる請求項1ないしのいずれか1項に記載の車両用シート装置。
【請求項10】
記予め決められた位置とは、前記電動モータにて前記シートバックを回転変位させることが可能な範囲のうち、当該シートバックが最もシート前方側となる位置である請求項に記載の車両用シート装置。
【請求項11】
前記倒伏装置は、
前記シートバックの回転中心部位であって、シート幅方向一端側及び他端に設けられたリクライニング機構、及び
前記シートバックの回転中心部位において、シート幅方向に延びる駆動シャフトであって、前記2つのリクライニング機構に駆動力を伝達する駆動シャフトを有しており、
前記電動モータは、前記駆動シャフトに回転力を付与する請求項1ないし10のいずれか1項に記載の車両用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される車両用シート装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の発明では、バネの力のみを利用して「大倒し」機能を実現している。「大倒し」機能とは、例えば、3列シートを備えたミニバンの入口側2列目シート、又は車普通乗用車の助手席側前席用シート等において、当該シートよりシート後方側への乗降性を向上させる機能(例えば、「ウォークイン機能」)等を実現させるための機能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-83452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明では、バネの力のみを利用して「大倒し」機能を実現しているので、例えば、「大倒し」を実現するには、大きなバネ力を発揮可能なバネを必要とする。
【0005】
本開示は、上記点に鑑み、バネ力を低減可能な車両用シート装置の一例を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
車両に搭載される車両用シート装置は、例えば、以下の構成要件のうち少なくとも1つを備えることが望ましい。
すなわち、当該構成要件は、シートクッション(3)、及び下端側を中心として回転可能なシートバック(5)を有するシート本体(2)と、シートバック(5)を回転変位させるための回転力を発揮可能な電動モータ(12E)、及び当該シートバック(5)をシート前方側に回転変位させるための弾性力を発揮可能なバネ(13D)を有する倒伏装置(11)であって、電動モータ(12E)及びバネ(13D)を利用してシートバック(5)をシート前方側に倒伏させる倒伏機能を発揮可能な倒伏装置(11)とである。
【0007】
これにより、当該車両用シート装置は、電動モータ(12E)及びバネ(13D)を利用したハイブリッド方式にて「大倒し」を実現することが可能となり得る。したがって、当該車両用シート装置に係るバネ(13D)のバネ力は、特許文献1に記載の発明より小さくなり得る。
【0008】
なお、当該車両用シート装置は、以下の構成であってもよい。
すなわち、倒伏装置(11)は、倒伏機能の作動時には、電動モータ(12E)を稼働させて予め決められた第1位置までシートバック(5)をシート前方側に向けて回転変位させた後、バネ(13D)の力を利用して当該シートバック(5)を倒伏状態まで回転変位させることが望ましい。これにより、バネ力が低減され得る。
【0009】
倒伏装置(11)は、倒伏機能の作動時において、バネ(13D)の力を利用する際には、電動モータ(12E)を停止させることが望ましい。これにより、シートバック(5)が倒伏状態から起立状態に復帰する際に、シートバック(5)が倒伏する前の位置に復帰でき得る。
【0010】
倒伏機能は、シートバック(5)が予め決められた第2位置を越えてシート後方側に後傾している状態から当該シートバック(5)をシート前方側に倒伏させる場合に、作動可能となることが望ましい。これにより、バネ力が確実に低減可能となり得る。
【0011】
倒伏装置(11)は、シートバック(5)の回転中心軸線と略同軸線上に配設され、電動モータ(12E)の回転力を当該シートバック(5)に伝達するための傾倒部材(13A)であって、シートバック(5)に対して回転可能な傾倒部材(13A)と、シートバック(5)に連結され、傾倒部材(13A)と係合する係合位置と当該係合が解除された非係合位置との間で変位可能な係合部材(13B)であって、係合位置にあるときに回転力をシートバック(5)に伝達可能とする係合部材(13B)と、係合部材(13B)を係合位置に保持するためのロック位置と当該ロック位置から外れた非ロック位置との間で変位可能なロック部材(13C)と、ロック部材(13C)を変位させるための電動式アクチュエータ(13E)と、電動モータ(12E)及び電動式アクチュエータ(13E)の作動を制御する制御部(14)とを有することが望ましい。
【0012】
ロック部材(13C)は、ロック位置と非ロック位置との間で回転変位可能であり、電動式アクチュエータ(13E)は、操作ケーブル(13P)を介してロック部材(13C)を回転変位させることが望ましい。
【0013】
係合部材(13B)が、傾倒部材(13A)に対して上方側に変位したときに、バネ(13D)の力がシートバック(5)に伝達可能な状態となることが望ましい。
シート本体(2)をスライドさせるスライド装置(10)を備え、スライド装置(10)は、倒伏機能が終了したときに、シート本体(2)をシート前方側にスライドさせることが望ましい。これにより、例えば、「ウォークイン機能」が実現され得る。
【0014】
上記「予め決められた第1位置」とは、電動モータ(12E)にてシートバック(5)を回転変位させることが可能な範囲のうち、当該シートバック(5)が最もシート前方側となる位置であることが望ましい。
【0015】
倒伏装置(11)は、シートバック(5)の回転中心部位であって、シート幅方向一端側及び他端に設けられたリクライニング機構(12)、及びシートバック(5)の回転中心部位において、シート幅方向に延びる駆動シャフト(12D)って、2つのリクライニング機構(12)に駆動力を伝達する駆動シャフト(12D)を有しており、電動モータ(12E)は、駆動シャフト(12D)に回転力を付与することが望ましい。
【0016】
因みに、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的構成等との対応関係を示す一例であり、本開示は上記括弧内の符号に示された具体的構成等に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る車両用シート装置を示す図である。
図2】第1実施形態に係る車両用シート装置のブロック図である。
図3】第1実施形態に係るリクライニング機構を示す図である。
図4】第1実施形態に係る大倒し機構を示す図である。
図5】第1実施形態に係る大倒し機構を示す図である。
図6】第1実施形態に係る大倒し機構を示す図である。
図7】第1実施形態に係る車両用シート装置の作動説明図である。
図8】第1実施形態に係る車両用シート装置の作動を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の「発明の実施形態」は、本開示の技術的範囲に属する実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的構成や構造等に限定されるものではない。
【0019】
本実施形態は、車両に搭載されるシートに本開示に係る車両用シート装置が適用された例である。各図に付された方向を示す矢印及び斜線等は、各図相互の関係及び部材又は部位の形状等を理解し易くするために記載したものである。
【0020】
したがって、当該車両用シート装置は、各図に付された方向に限定されるものではない。各図に示された方向は、本実施形態に係る車両用シート装置が車両に組み付けられた状態における方向である。斜線が付された図は断面図を示すものではない。
【0021】
少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位は、「1つの」等の断りがされた場合を除き、少なくとも1つ設けられている。つまり、「1つの」等の断りがない場合には、当該部材は2以上設けられていてもよい。本開示に示された車両用シート装置は、少なくとも符号が付されて説明された部材又は部位等の構成要素を備える。
【0022】
(第1実施形態)
1.車両用シート装置の概要
車両用シート装置1は、図1に示されるように、シートクッション3及びシートバック5等を少なくとも備える。なお、シート本体2は、シートクッション3及びシートバック5等を含む部位の総称である。
【0023】
シートクッション3は着席者の臀部を支持するための部位である。シートバック5は着席者の背部を支持するための部位である。シートバック5は、下端側を中心として回転可能である。
【0024】
クッションフレーム7は、シートクッション3の骨格を構成する。当該クッションフレーム7は、シート前後方向に延びる2本のクッションサイドフレーム71、72、及び複数(本実施形態では、3つ)の連結フレーム73A~73C等を少なくとも備える。
【0025】
連結フレーム73A~73Cは、シート幅方向に延びてクッションサイドフレーム71とクッションサイドフレーム72とを連結する。なお、クッションフレーム7は、概ね左右対称な構造である。
【0026】
バックフレーム9はシートバック5の骨格を構成する。当該バックフレーム9は、シートバック5が起立状態(図1に示す状態)にあるときに、略上下方向に延びる2つのバックサイドフレーム91、92、及び複数(本実施形態では、3つ)の連結フレーム93A~93C等を少なくとも備える。
【0027】
連結フレーム93A~93Cは、シート幅方向に延びてバックサイドフレーム91とバックサイドフレーム92とを連結する。なお、バックフレーム9は、概ね左右対称な構造である。
【0028】
クッションフレーム7、つまりシート本体2は、2つのスライド装置10によりスライド可能に支持されている。2つのスライド装置10は同一の構造である。各スライド装置10は、固定レール10A、可動レール10B及び電動モータ10C等を少なくとも有して構成されている。
【0029】
各固定レール10Aは、直接的又は間接的に車両に対して固定されるレール部材である。各可動レール10Bは、シート本体2が固定されるとともに、対応する固定レール10Aに対してスライド可能な部材である。
【0030】
電動モータ10Cは、各可動レール10Bをスライドさせる駆動力を発揮する。当該電動モータ10Cの作動は、図2に示されるように、操作スイッチ10D及び制御部14により制御される。操作スイッチ10Dは、例えばシートクッション3の側面に設けられている。
【0031】
制御部14は、シート本体2又は車両(本実施形態では、シート本体2)に設けられている。なお、本実施形態では、操作スイッチ10Dからの指令信号は、制御部14入力される。制御部14は、当該指令信号を受けて電動モータ10Cの作動を制御する。
【0032】
2.倒伏装置
2.1 倒伏装置の概要
倒伏装置11は、図2に示されるように、リクライニング機構12、大倒し機構13及び制御部14等を少なくとも有して構成されている。制御部14は、リクライニング機構12及び大倒し装置13の作動等を制御可能である。
【0033】
制御部14は、CPU、ROM及びRAM等を有するマイクロコンピュータにて構成されている。制御作動を実行するためのプログラムは、ROM等の不揮発性記憶部に予め記憶されている。
【0034】
2.2 リクライナ装置の構造
本実施形態では、図1に示されるように、リクライニング機構12は、シート幅方向一端側及び他端側それぞれに設けられている。2つのリクライニング機構12は、左右対称構造である点を除き、同一の構造である。以下の説明は、シート幅方向一端側(本実施形態では、左側)のリクライニング機構12の説明である。
【0035】
リクライニング機構12は、バックサイドフレーム91の下端側であって当該バックサイドフレーム91の外側に装着されている。バックサイドフレーム91の外側とは、バックサイドフレーム91のうちシート幅方向においてバックサイドフレーム92と反対側をいう。
【0036】
本実施形態に係るリクライニング機構12は、電動式の「角度位置調整機構」により実現されている。角度位置調整機構12Aは、図3に示されるように、内歯歯車12B及び外歯歯車12C等を少なくとも有するタウメル式減速にて構成されている。
【0037】
内歯歯車12Bは、各歯先が中心側に向けて突出した環状歯車である。当該内歯歯車12Bは、クッションサイドフレーム71に直接的又は間接的に固定されている。つまり、内歯歯車12Bとクッションサイドフレーム71とは一体的に回転し得る。
【0038】
外歯歯車12Cは、各歯先が径方向外向きに突出した歯車であって、内歯歯車12Bに噛み合って自転しながら内歯歯車12B内を旋回する。つまり、外歯歯車12Cは、自身の中心を自転中心として回転しながら、内歯歯車12Bの中心を公転中心として当該自転中心が公転する遊星歯車である。
【0039】
外歯歯車12Cは、駆動シャフト12Dを介して電動モータ12E(図1参照)から回転力の供給を受けて自転する。駆動シャフト12Dは、図1に示されるように、シートバック5の回転中心部位において、シート幅方向に延びて2つのリクライニング機構12に駆動力を分配伝達する。
【0040】
なお、外歯歯車12Cの歯数Z1とし、内歯歯車12Bの歯数Z2(>Z1)とすると、外歯歯車12Cがn度だけ自転すると、当該外歯歯車12Cは、(Z2-Z1)/Z2×n度だけ公転する。
【0041】
このため、外歯歯車12Cが1回転する度に、外歯歯車12Cの自転中心は元の位置に対して公転方向にずれる。具体的には、外歯歯車12Cが1回転する度に、外歯歯車12Cの自転中心は、公転方向に360-[(Z2-Z1)/Z2×360]だけずれる。
【0042】
外歯歯車12Cは、溶接等の固定構造により傾倒部材13A(図4参照)に一体化固定されている。したがって、電動モータ(駆動シャフト12D)が回転すると、外歯歯車12Cが公転方向にずれるため、傾倒部材13Aは当該公転方向に回転する。
【0043】
つまり、外歯歯車12Cを公転方向にずらす力がシートバック5を回転させる力となる。換言すれば、リクライニング機構12は、電動モータ12Eの回転を減速して傾倒部材13Aに伝達する機能を発揮し、外歯歯車12Cは、減速機構を構成する当該リクライニング機構12の出力歯車として機能する。
【0044】
2.3 大倒し機構
大倒し機構13は、図4に示されるように、傾倒部材13A、係合部材13B、ロック部材13C、バネ13D(図5参照)及び電動式のアクチュエータ13E(図1参照)等を少なくとも有して構成されている。
【0045】
傾倒部材13Aは、図4に示されるように、シートバック5の回転中心軸線と略同軸線上に配設され、バックフレーム9を回転(リクライニング)させる力をバックサイドフレーム91に伝達するための部材である。
【0046】
つまり、傾倒部材13Aは、電動モータ12Eの回転力、つまりリクライニング機構12の出力をシートバック5(バックサイドフレーム91)に伝達するための部材である。因みに、傾倒部材13Aは、ラチェットプレート又は回転カムとも呼ばれる。
【0047】
傾倒部材13Aは、バックサイドフレーム91に対して回転可能に当該バックサイドフレーム91に連結されている。つまり、傾倒部材13Aとバックサイドフレーム91(バックフレーム9)とは、互いに独立してクッションサイドフレーム71に対して回転可能である。
【0048】
係合部材13Bは、バックフレーム9(本実施形態では、バックサイドフレーム91)に変位可能に連結され、かつ、傾倒部材13Aと係合する係合位置(図4参照)と当該係合が解除された非係合位置(図6参照)との間で変位可能である。因みに、係合部材13Bは、ポールとも呼ばれる。
【0049】
そして、係合部材13Bは、図4に示されるように、傾倒部材13Aの上方側において、バックサイドフレーム91の板面に沿ってシート前後方向に延びている。係合部材13Bのシート前方側は、連結ピン13Fによりバックサイドフレーム91に回転可能に連結されている。
【0050】
係合部材13Bのシート後方側には、傾倒部材13Aに設けられた被係合部13Gに係合する係合部13Hが設けられている。被係合部13G及び係合部13Hは、共に凹凸状の部位であって、被係合部13Gと係合部13Hと噛み合うように嵌り込むことにより、被係合部13Gと係合部13Hとが係合する。
【0051】
そして、被係合部13Gと係合部13Hとが係合しているときには、傾倒部材13Aに伝達された電動モータ12Eの回転力、つまりリクライニング機構12の出力がバックサイドフレーム91に伝達可能な状態となる。
【0052】
このため、係合部材13Bが係合位置にある場合において、外歯歯車12Cが公転すると、傾倒部材13Aとバックフレーム9とは、1つの部材としてクッションサイドフレーム71に対して回転する。
【0053】
被係合部13Gと係合部13Hとが非係合状態であるときには、リクライニング機構12の出力はバックサイドフレーム91に伝達不可な状態となり、バックサイドフレーム91は、傾倒部材13Aに対して回転可能な状態となる。
【0054】
このため、係合部材13Bが非係合位置にある場合、つまり係合部材13Bが、傾倒部材13Aに対して上方側に変位した場合には、バネ13Dの力がシートバック5に伝達可能な状態となるので、バックサイドフレーム91は、バネ13Dの力によりシート前方側に倒伏した(大倒し)となり得る。
【0055】
ロック部材13Cは、係合部材13Bを係合位置に保持するためのロック位置と当該ロック位置から外れた位置(以下、非ロック位置という。)との間で変位可能な部材である。本実施形態に係るロック部材13Cは、係合部13Hの上方側において、バックサイドフレーム91の板面に沿って略上下方向に延びている。
【0056】
ロック部材13Cは、上端側において連結ピン13Jを介してバックサイドフレーム91に回転可能に連結されている。ロック部材13Cの下端側には、係合部材13Bの摺接部13Kに滑り接触するカム部13Lが設けられている。
【0057】
そして、ロック部材13Cがロック位置にあるときには、当該ロック部材13Cの延び方向が仮想線Loと略平行となる。仮想線Loは、ロック部材13Cの揺動中心と傾倒部材13Aの揺動中心とを通る仮想線である。
【0058】
バックサイドフレーム91を挟んでロック部材13Cと反対側、つまりバックサイドフレーム91のうちバックサイドフレーム92に面した部位には、図5に示されるように、復帰バネ13M及びアーム部13Nが設けられている。
【0059】
復帰バネ13Mは、アーム部13Nを介してロック部材13Cをロック位置側に保持するための弾性力を発揮する。アーム部13Nの先端側には、操作ケーブル13Pの一端側が連結されている。
【0060】
操作ケーブル13Pの他端は、アクチュエータ13E(図1参照)に連結さている。このため、アクチュエータ13Eにより操作ケーブル13Pが引っ張られると、ロック部材13Cは、非ロック位置側に変位する。
【0061】
なお、バックサイドフレーム91には、係合部材13Bを非係合位置に保持するためのバネ(図示せず。)が設けられている。このため、ロック部材13Cが非ロック位置に変位すると、当該バネの弾性力により係合部材13Bは非係合位置側に変位する。そして、ロック部材13Cが非ロック位置からロック位置に復帰する際に、当該ロック部材13Cは、係合部材13Bを非係合位置から係合位置に変位させる。
【0062】
バネ13Dは、図5に示されるように、バックサイドフレーム91のうちバックサイドフレーム92に面した部位に設けられている。バネ13Dは、バックフレーム9をシート前方側に回転変位させるための弾性力を発揮する。
【0063】
本実施形態に係るバネ13Dは渦巻きバネである。当該バネ13Dの外周端13Q側がバックサイドフレーム91に係止固定されている。当該バネ13Dの中心端13R側が外歯歯車12Cに対して係止固定されている。このため、バネ13Dは、バックサイドフレーム91をシート前方側に倒伏させるような弾性力を当該バックフレーム9に作用させることが可能となる。
【0064】
係合部材13Bが係合位置にあるときは、傾倒部材13Aとバックサイドフレーム91とが一体化された状態となる。つまり、係合部材13Bが係合位置にあるときは、バックサイドフレーム91は、傾倒部材13Aに対して不動である。
【0065】
係合部材13Bが非係合位置にあるときは、傾倒部材13Aがバックサイドフレーム91に対して回転可能となる。つまり、係合部材13Bが非係合位置にあるときは、バックサイドフレーム91は、バネ13Dの弾性力により傾倒部材13Aに対して回転し得る。
【0066】
2.4 倒伏装置の作動
倒伏装置11は、電動モータ12E及びバネ13Dを利用してシートバック5をシート前方側に倒伏させる倒伏機能を発揮可能である。すなわち、制御部14は、図2に示すように、リクライニング機構12の電動モータ12E及び大倒し機構13のアクチュエータ13Eの作動を制御可能である。
【0067】
そして、倒伏装置11、つまり制御部14は、倒伏機能の作動時には、電動モータ12Eを稼働させて予め決められた位置(以下、最前位置Pfという。)までシートバック5をシート前方側に向けて回転変位させた後、バネ13Dの力を利用して当該シートバック5を倒伏状態まで回転変位させる。
【0068】
本実施形態に係る最前位置Pf(図7の実線の位置)とは、電動モータ12Eにてシートバック5を回転変位させることが可能な範囲のうち、当該シートバック5が最もシート前方側となる位置である。換言すれば、リクライニング機構12は、シートバック5を最前位置Pfを越えた位置までシート前方側に前傾回転させることができない。
【0069】
なお、本実施形態では、シートバック5が最前位置Pfに到達すると、シートバック5(バックサイドフレーム91、92)がストッパ等の規制部(図示せず。)接触する。このため、本実施形態では、機械的にシートバック5の前傾回転が停止させられる。
【0070】
そして、倒伏機能の作動時において、バネ13Dの力を利用する際、つまりシートバック5を最前位置Pfを越えた位置(図7の一点鎖線の位置)まで傾倒させる際には、制御部14は、電動モータ12Eを停止させるとともに、アクチュエータ13Eを作動させて係合部材13Bを非係合位置とする。これにより、シートバック5はバネ13Dの力により、最前位置Pfを越えた位置まで傾倒する。
【0071】
制御部14は、シートバック5が予め決められた位置(以下、後傾位置Prという。)を越えてシート後方側に後傾している状態(図7の二点鎖線の状態)からシートバック5をシート前方側に倒伏させる場合(以下、ウォークイン作動という。)に、倒伏機能が作動可能とする。
【0072】
そして、制御部14は、ウォークイン作動が開始され、倒伏機能が終了したときに、2つのスライド装置10、つまり電動モータ10Cを作動させて、予め決められた位置までシート本体2をシート前方側にスライドさせる。
【0073】
なお、本実施形態に係る制御部14は、倒伏機能の開始後、電動モータ12Eへの通電電流値が予め決められた閾値を越えたときに、最前位置Pfに到達したものとみなして、当該電動モータ12Eへの通電を遮断するとともに、アクチュエータ13Eを作動させる。
【0074】
このため、制御部14には、電動モータ12Eへの通電電流値を検出する電流計14Aの信号が入力されている。さらに、制御部14には、前傾角検出センサ14Bの信号及び後傾角検出センサ14Cの信号が入力されている。
【0075】
前傾角検出センサ14Bの信号は、倒伏機能が終了したか否かを検出するためにシートバック5の前傾角度を検出する。後傾角検出センサ14Cは、シートバック5が後傾位置Prを越えて後傾しているか否かを検出するためにシートバック5の後傾角度を検出する。
【0076】
本実施形態に係る前傾角検出センサ14Bは、シートバック5の前傾角度が倒伏状態となったときに、オン信号を発するリミットスイッチ又は近接スイッチにて構成されている。後傾角検出センサ14Cは、シートバック5の後傾角度が後傾位置Prを越えているときに、オン信号を発するリミットスイッチ又は近接スイッチにて構成されている。
【0077】
なお、図8は、上記制御部14の作動を示すフローチャートの一例である。なお、以下の説明の括弧内の符号は、図8の参照符号を意味する。
ウィークインスイッチ14D(図2参照)が操作されると、ウォークイン作動が開始される。なお、ウィークインスイッチ14Dは、シートバック5の上端部(いわゆる、肩口)及びシートクッション3の側面に設けられている。
【0078】
制御部14は、先ず、シートバック5が後傾位置Prより後傾しているか否かを判断する(S1)。制御部14は、シートバック5が後傾位置Prより後傾していないと判断した場合には(S1:NO)、アクチュエータ13Eを作動させて係合部材13Bを非係合位置とする(S5)。これにより、シートバック5はバネ13Dの力により、最前位置Pfを越えた位置まで傾倒する。
【0079】
制御部14は、シートバック5が後傾位置Prより後傾していると判断した場合には(S1:YES)、電動モータ12Eを稼働させる(S2)。これにより、シートバック5がシート前方側に回転変位し始める。次に、制御部14は、シートバック5が最前位置Pfに到達したか否かを判断する(S3)。
【0080】
制御部14は、シートバック5が最前位置Pfに到達していないと判断した場合には(S3:NO)、再び、S3を実行する。シートバック5が最前位置Pfに到達したと判断した場合には(S3:YES)、電動モータ12Eへの通電を遮断するとともに(S4)、アクチュエータ13Eを作動させる(S5)。
【0081】
次に、制御部14は、倒伏機能が終了したか否かを検出する(S6)。制御部14は、倒伏機能が終了していないと判断した場合には(S6:NO)、再び、倒伏機能が終了したか否かを検出する(S6)。
【0082】
制御部14は、倒伏機能が終了したと判断した場合に(S6:YES)、スライド装置10、つまり電動モータ10Cを作動させる(S7)。なお、本実施形態に係る制御部14は、電動モータ10Cへの通電電流が閾値を越えたときに、当該電動モータ10Cへの通電を遮断する。
【0083】
3.本実施形態に係る車両用シート装置の特徴
本実施形態に係る車両用シート装置1は、電動モータ12E及びバネ13Dを利用したハイブリッド方式にて「大倒し」を実現することが可能となり得る。したがって、当該車両用シート装置1に係るバネ13Dのバネ力は、特許文献1に記載の発明より小さくなり得る。
【0084】
制御部14は、倒伏機能の作動時には、電動モータ12Eを稼働させて最前位置Pfまでシートバック5をシート前方側に向けて回転変位させた後、バネ13Dの力を利用して当該シートバック5を倒伏状態まで回転変位させる。これにより、バネ力が低減され得る。
【0085】
制御部14は、倒伏機能の作動時において、バネ13Dの力を利用する際には、電動モータ12Eを停止させる。これにより、シートバック5が倒伏状態から起立状態に復帰する際に、シートバック5が倒伏する前の位置に復帰でき得る。
【0086】
なお、係合部材13Bが非係合位置にあるとき、つまりバネ13Dの力がシートバック5に作用している状態で電動モータ12Eが稼働すると、シートバック5が倒伏状態から起立状態に復帰する際に、シートバック5が倒伏する前の位置より前傾した位置に復帰する。
【0087】
制御部14は、シートバック5が後傾位置Prを越えてシート後方側に後傾している状態から当該シートバック5をシート前方側に倒伏させる場合に、倒伏機能を作動可能とする。これにより、バネ力が確実低減可能となる。
【0088】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、倒伏機能の作動時には、電動モータ12Eを稼働させて最前位置Pfまでシートバック5をシート前方側に向けて回転変位させた後、バネ13Dの力を利用して当該シートバック5を倒伏状態まで回転変位させた。
【0089】
しかし、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、当該開示は、例えば、シートバック5が最前位置Pfに到達する前からバネ13Dの力を利用して当該シートバック5を倒伏状態まで回転変位させてもよい。
【0090】
上述の実施形態では、倒伏機能の作動時において、バネ13Dの力を利用する際には、電動モータ12Eを停止させた。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、当該開示は、例えば、電動モータ12Eを停止させることなく、バネ13Dの力を利用して当該シートバック5を倒伏状態まで回転変位させてもよい。
【0091】
上述の実施形態では、シートバック5が後傾位置Prを越えてシート後方側に後傾している状態から当該シートバック5をシート前方側に倒伏させる場合に、倒伏機能を作動可能とした。
【0092】
しかし、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、当該開示は、例えば、シートバック5が後傾位置Prよりシート前方に位置する状態から倒伏機能を作動可能としてもよい。
【0093】
上述の実施形態に係る最前位置Pfは、電動モータ12Eにてシートバック5を回転変位させることが可能な範囲のうち、当該シートバック5が最もシート前方側となる位置であった。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。
【0094】
上述の実施形態に係る制御部14は、倒伏機能の開始後、電動モータ12Eへの通電電流値が予め決められた閾値を越えたときに、最前位置Pfに到達したものとみなした。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、当該開示は、例えば、シートバック5の回転角をエンコーダやポテンンショメータ等で検出して最前位置Pfに到達した否かを判断する構成であってもよい。
【0095】
上述の実施形態に係る前傾角検出センサ14B及び後傾角検出センサ14Cは、リミットスイッチ又は近接スイッチにて構成されていた。しかし、本開示はこれに限定されるものではない。すなわち、当該開示は、例えば、シートバック5の回転角をエンコーダやポテンンショメータ等で検出してもよい。
【0096】
本開示に係るリクライニング機構12及び大倒し機構13は、上述の実施形態に係る構成に限定されるものではない。さらに、本開示は、上述の実施形態に記載された開示の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0097】
したがって、上述した複数の実施形態のうち少なくとも2つの実施形態が組み合わせられた構成、又は上述の実施形態において、図示された構成要件もしくは符号を付して説明された構成要件のうちいずれかが廃止された構成でもよい。
【符号の説明】
【0098】
1… 車両用シート装置
2… シート本体
5… シートバック
7… クッションフレーム
9… バックフレーム
10… スライド装置
11… 倒伏装置
12… リクライニング機構
13A… 傾倒部材
13B… 係合部材
13C… ロック部材
13D… バネ
13E… アクチュエータ
13P… 操作ケーブル
14… 制御部
図1
図2
図3
図4
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図8