(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】導電性加水分解物及びその製造方法、導電性加水分解物含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 65/00 20060101AFI20220803BHJP
C09D 165/00 20060101ALI20220803BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20220803BHJP
C08L 25/18 20060101ALI20220803BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220803BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220803BHJP
C09D 5/24 20060101ALI20220803BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220803BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20220803BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20220803BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220803BHJP
H01B 1/20 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C08L65/00
C09D165/00
H01B1/12 D
C08L25/18
C08L63/00 A
C08L101/00
C09D5/24
C09D7/65
C09D4/00
C09D201/00
C09D133/00
H01B1/20 A
(21)【出願番号】P 2019007765
(22)【出願日】2019-01-21
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】松林 総
【審査官】佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-094495(JP,A)
【文献】特開2014-189597(JP,A)
【文献】特開2011-032382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09D 181/02
H01B 1/12
C09D 5/24
C09D 7/65
C09D 4/00
C09D 201/00
C09D 133/00
H01B 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体
を含み、
前記
導電性複合体は、前記ポリアニオンのアニオン基
とハロゲン化炭化水素との反応生成物の加水分解物
を含み、
前記ポリアニオンの前記アニオン基の一部は、前記ハロゲン化炭化水素との反応によって修飾されている、導電性加水分解物。
【請求項2】
水に分散し得る、請求項1に記載の導電性加水分解物。
【請求項3】
前記加水分解物がハロゲン化物イオンを含む、請求項1又は2に記載の導電性加水分解物。
【請求項4】
前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
【請求項5】
前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
【請求項6】
前記ポリアニオンの前記アニオン基の別の一部は、アミン化合物との反応によって修飾されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
【請求項7】
請求項1~5の何れか一項に記載の導電性加水分解物と、水系分散媒とを含む、導電性加水分解物含有液。
【請求項8】
請求項6に記載の導電性加水分解物と、有機溶剤とを含む、導電性加水分解物含有液。
【請求項9】
前記導電性加水分解物が粒子の状態で前記有機溶剤に分散されており、動的光散乱方式で測定される前記粒子の平均粒子径が、5nm以上1000nm以下である、請求項8に記載の導電性加水分解物含有液。
【請求項10】
バインダ成分をさらに含有する、請求項7~9のいずれか一項に記載の導電性加水分解物含有液。
【請求項11】
バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が水分散性エマルション樹脂である、請求項7に記載の導電性加水分解物含有液。
【請求項12】
バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が光硬化性アクリル樹脂である、請求項8又は9に記載の導電性加水分解物含有液。
【請求項13】
π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれた水系分散液に、
ハロゲン化炭化水素を添加して得られた反応液において、前記導電性複合体と前記
ハロゲン化炭化水素との反応生成物の析出物を得て、前記反応液中で前記反応生成物とともに生じた酸の存在下で、前記析出物に含まれる前記反応生成物を加水分解して、析出した状態を維持しつつ形成された導電性加水分解物を回収することを有する、導電性加水分解物の製造方法。
【請求項14】
前記導電性複合体100質量部に対して、前記
ハロゲン化炭化水素を500質量部以上添加する、請求項13に記載の導電性加水分解物の製造方法。
【請求項15】
請求項13又は14に記載の製造方法で得た導電性加水分解物に、水系分散媒を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法。
【請求項16】
請求項13又は14に記載の製造方法で得た導電性加水分解物に、有機溶剤及びアミン化合物を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法。
【請求項17】
さらにバインダ成分を混合することを有する、請求項15又は16に記載の導電性加水分解物含有液の製造方法。
【請求項18】
フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項7~12のいずれか一項に記載の導電性加水分解物含有液を塗工することと、前記塗工により形成した塗膜を乾燥することとを有する、導電性フィルムの製造方法。
【請求項19】
フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に、請求項1~6のいずれか一項に記載の導電性加水分解物を含む導電層と、を備えた、導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性加水分解物及びその製造方法、導電性加水分解物含有液及びその製造方法、並びに導電性フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)にポリスチレンスルホン酸がドープした導電性複合体を含む塗料を基材に塗布して、導電層を形成することがある。導電性複合体は、ポリスチレンスルホン酸を含む水系分散液中で3,4-エチレンジオキシチオフェンを重合させることにより得られる。重合後の水系分散液から導電性複合体を回収する方法として、水系分散液を凍結乾燥する方法、水系分散液中で導電性複合体にアミン化合物やエポキシ化合物を反応させ、疎水化した導電性複合体を析出させて回収する方法(例えば、特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、凍結乾燥する方法では、工業レベルで数十リットルの水系分散液を処理することは高コストであり、現実的ではない。
また、疎水化した導電性複合体の析出物を得た場合、析出物の密度は比較的低いので、有機溶剤に対する分散性(溶解性)は優れるが、水系分散媒に対して分散し難い問題がある。
【0005】
本発明は、導電性複合体の水系分散液から、親水性の導電性複合体を含む導電性加水分解物を容易に回収できる、導電性加水分解物の製造方法を提供する。また、導電性加水分解物と、導電性加水分解物含有液及びその製造方法、導電性加水分解物を含む導電層を備えた導電性フィルム及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、前記ポリアニオンのアニオン基に反応し得る有機ハロゲン化合物との反応生成物の加水分解物を含む、導電性加水分解物。
[2] 前記加水分解物が前記ポリアニオンを含み、前記ポリアニオンが有する少なくとも一部のアニオン基は、前記有機ハロゲン化合物に由来する有機基が脱離したアニオン基である、[1]に記載の導電性加水分解物。
[3] 前記加水分解物がハロゲン化物イオンを含む、[1]又は[2]に記載の導電性加水分解物。
[4] 前記π共役系導電性高分子が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
[5] 前記ポリアニオンが、ポリスチレンスルホン酸である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
[6] 前記加水分解物が前記ポリアニオンを含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とアミン化合物との反応物である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物。
[7] [1]~[5]の何れか一項に記載の導電性加水分解物と、水系分散媒とを含む、導電性加水分解物含有液。
[8] [6]に記載の導電性加水分解物と、有機溶剤とを含む、導電性加水分解物含有液。
[9] 前記導電性加水分解物が粒子の状態で前記有機溶剤に分散されており、動的光散乱方式で測定される前記粒子の平均粒子径が、5nm以上1000nm以下である、[8]に記載の導電性加水分解物含有液。
[10] バインダ成分をさらに含有する、[7]~[9]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物含有液。
[11] バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が水分散性エマルション樹脂である、[7]に記載の導電性加水分解物含有液。
[12] バインダ成分をさらに含有し、前記バインダ成分が光硬化性アクリル樹脂である、[8]又は[9]に記載の導電性加水分解物含有液。
[13] π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれた水系分散液に、有機ハロゲン化合物を添加して得られた反応液において、前記導電性複合体と前記有機ハロゲン化合物との反応生成物の析出物を得て、前記反応液中で前記反応生成物とともに生じた酸の存在下で、前記析出物に含まれる前記反応生成物を加水分解して、析出した状態を維持しつつ形成された導電性加水分解物を回収することを有する、導電性加水分解物の製造方法。
[14] 前記導電性複合体100質量部に対して、前記有機ハロゲン化合物を500質量部以上添加する、[13]に記載の導電性加水分解物の製造方法。
[15] [13]又は[14]に記載の製造方法で得た導電性加水分解物に、水系分散媒を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法。
[16] [13]又は[14]に記載の製造方法で得た導電性加水分解物に、有機溶剤及びアミン化合物を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法。
[17] さらにバインダ成分を混合することを有する、[15]又は[16]に記載の導電性加水分解物含有液の製造方法。
[18] フィルム基材の少なくとも一方の面に、[7]~[12]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物含有液を塗工することと、前記塗工により形成した塗膜を乾燥することとを有する、導電性フィルムの製造方法。
[19] フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に、[1]~[6]のいずれか一項に記載の導電性加水分解物を含む導電層と、を備えた、導電性フィルム。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性加水分解物の製造方法によれば、導電性加水分解物を析出物として容易に回収することができる。析出物として得られた導電性加水分解物は、比較的密度が低いので、分散媒に容易に分散させることができる。
本発明の導電性加水分解物は、親水性の導電性複合体を含むので、水系分散媒に容易に分散させることができる。
本発明の導電性加水分解物含有液は、導電性及び耐光性に優れた導電層を備えた導電性フィルムの材料として有用である。
本発明の導電性フィルムの製造方法によれば、導電性及び耐光性に優れた導電層を備えた導電性フィルムを容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<導電性加水分解物の製造方法>
本発明の第一態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含有する導電性複合体が水系分散媒中に含まれた水系分散液に、有機ハロゲン化合物を添加して得られた反応液において、前記導電性複合体と前記有機ハロゲン化合物との反応生成物の析出物を得て、前記反応液中で前記反応生成物とともに生じた酸の存在下で、前記析出物に含まれる前記反応生成物を加水分解して、析出した状態を維持しつつ形成された導電性加水分解物を回収することを有する、導電性加水分解物の製造方法である。
【0009】
〔反応液〕
本態様の反応液は、導電性複合体と、水系分散媒と、有機ハロゲン化合物とを含む。
【0010】
[導電性複合体]
本態様の導電性複合体は、π共役系導電性高分子とポリアニオンとを含む。導電性複合体中のポリアニオンはπ共役系導電性高分子にドープして、導電性を有する導電性複合体を形成している。
【0011】
(π共役系導電性高分子)
π共役系導電性高分子としては、主鎖がπ共役系で構成されている有機高分子であればよく、例えば、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン系導電性高分子、ポリアセチレン系導電性高分子、ポリフェニレン系導電性高分子、ポリフェニレンビニレン系導電性高分子、ポリアニリン系導電性高分子、ポリアセン系導電性高分子、ポリチオフェンビニレン系導電性高分子、及びこれらの共重合体等が挙げられる。空気中での安定性の点からは、ポリピロール系導電性高分子、ポリチオフェン類及びポリアニリン系導電性高分子が好ましく、透明性の面から、ポリチオフェン系導電性高分子がより好ましい。
【0012】
ポリチオフェン系導電性高分子としては、ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ(3-エチルチオフェン)、ポリ(3-プロピルチオフェン)、ポリ(3-ブチルチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルチオフェン)、ポリ(3-オクチルチオフェン)、ポリ(3-デシルチオフェン)、ポリ(3-ドデシルチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルチオフェン)、ポリ(3-ブロモチオフェン)、ポリ(3-クロロチオフェン)、ポリ(3-ヨードチオフェン)、ポリ(3-シアノチオフェン)、ポリ(3-フェニルチオフェン)、ポリ(3,4-ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4-ジブチルチオフェン)、ポリ(3-ヒドロキシチオフェン)、ポリ(3-メトキシチオフェン)、ポリ(3-エトキシチオフェン)、ポリ(3-ブトキシチオフェン)、ポリ(3-ヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクチルオキシチオフェン)、ポリ(3-デシルオキシチオフェン)、ポリ(3-ドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3-オクタデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヒドロキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジメトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジエトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジプロポキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジブトキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘキシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジヘプチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジオクチルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ジドデシルオキシチオフェン)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-プロピレンジオキシチオフェン)、ポリ(3,4-ブチレンジオキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-メトキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-エトキシチオフェン)、ポリ(3-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルチオフェン)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルチオフェン)が挙げられる。
ポリピロール系導電性高分子としては、ポリピロール、ポリ(N-メチルピロール)、ポリ(3-メチルピロール)、ポリ(3-エチルピロール)、ポリ(3-n-プロピルピロール)、ポリ(3-ブチルピロール)、ポリ(3-オクチルピロール)、ポリ(3-デシルピロール)、ポリ(3-ドデシルピロール)、ポリ(3,4-ジメチルピロール)、ポリ(3,4-ジブチルピロール)、ポリ(3-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシエチルピロール)、ポリ(3-メチル-4-カルボキシブチルピロール)、ポリ(3-ヒドロキシピロール)、ポリ(3-メトキシピロール)、ポリ(3-エトキシピロール)、ポリ(3-ブトキシピロール)、ポリ(3-ヘキシルオキシピロール)、ポリ(3-メチル-4-ヘキシルオキシピロール)が挙げられる。
ポリアニリン系導電性高分子としては、ポリアニリン、ポリ(2-メチルアニリン)、ポリ(3-イソブチルアニリン)、ポリ(2-アニリンスルホン酸)、ポリ(3-アニリンスルホン酸)が挙げられる。
上記π共役系導電性高分子のなかでも、導電性、透明性、耐熱性の点から、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)が特に好ましい。
導電性複合体に含まれるπ共役系導電性高分子は、1種類でもよいし、2種類以上でもよい。
【0013】
(ポリアニオン)
ポリアニオンは、アニオン基を有するモノマー単位を、分子内に2つ以上有する重合体である。ポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能し、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、またはカルボキシ基であることが好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、スルホ基を有するポリアクリル酸エステル、スルホ基を有するポリメタクリル酸エステル(例えば、ポリ(4-スルホブチルメタクリレート、ポリスルホエチルメタクリレート、ポリメタクリロイルオキシベンゼンスルホン酸)、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸等のスルホ基を有する高分子や、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンカルボン酸)、ポリイソプレンカルボン酸等のカルボキシ基を有する高分子が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
これらポリアニオンのなかでも、導電性をより高くできることから、スルホ基を有する高分子が好ましく、ポリスチレンスルホン酸がより好ましい。
ポリアニオンは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
ポリアニオンの質量平均分子量は2万以上100万以下であることが好ましく、10万以上50万以下であることがより好ましい。質量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィを用いて測定し、ポリスチレン換算で求めた質量基準の平均分子量である。
【0014】
導電性複合体中の、ポリアニオンの含有割合は、π共役系導電性高分子100質量部に対して1質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、10質量部以上700質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上500質量部以下の範囲であることがさらに好ましい。ポリアニオンの含有割合が前記下限値以上であれば、π共役系導電性高分子へのドーピング効果が強くなる傾向にあり、導電性がより高くなる。一方、ポリアニオンの含有量が前記上限値以下であれば、ドープに関与しないアニオン基の量が適度に抑えられる。
【0015】
導電性複合体中のポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
ポリアニオン中の全てのアニオン基中、余剰のアニオン基は、ポリアニオン中の全てのアニオン基に対し、30~90モル%であることが好ましく、45~75モル%であることがより好ましい。
【0016】
前記反応液に含まれる水の総質量に対する、前記導電性複合体の含有割合は、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
水を分散媒とする導電性複合体の分散液Wは、例えば、ポリアニオンの水溶液中で、π共役系導電性高分子を形成するモノマーを化学酸化重合することにより得られる。分散液Wは市販のものを使用してもよい。
前記化学酸化重合には、公知の触媒を適用してもよい。例えば、触媒及び酸化剤を用いることができる。触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄、塩化第二銅等の遷移金属化合物等が挙げられる。酸化剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩が挙げられる。酸化剤は、還元された触媒を元の酸化状態に戻すことができる。
【0018】
[水系分散媒]
水系分散媒は、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合液である。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤である。水系分散媒に含まれる水溶性有機溶剤は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
前記反応液に含まれる水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、10質量%以上90質量%以下が好ましく、20質量%以上70質量%以下がより好ましく、30質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。前記水の含有量は100質量%であっても構わない。水以外の残部は水溶性有機溶剤である。
前記水の含有量が上記範囲の下限値以上であると、導電性複合体の分散性を高めて、導電性複合体と有機ハロゲン化合物との反応を容易にすることができる。また、反応により生成した、疎水化された導電性複合体を容易に析出させることができる。
前記水の含有量が上記範囲の上限値以下であると、水溶性有機溶剤とともに有機ハロゲン化合物を添加することができ、反応液中に有機ハロゲン化合物を容易に溶解させることができる。
【0019】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール(イソプロパノール)、2-メチル-2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、アリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン系溶剤としては、例えば、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
窒素原子含有溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記反応液における反応が容易になることから、前記反応液に含まれる水溶性有機溶剤はアルコール系溶剤が好ましく、メタノール又はエタノールが好ましく、メタノールがより好ましい。
なお、本態様の反応を阻害しない限り、前記反応液に水溶性有機溶剤に該当しない非水溶性有機溶剤が混合されても構わないが、前記水系分散媒の質量に非水溶性有機溶剤の質量は含まれない。
【0020】
[有機ハロゲン化合物]
本態様の有機ハロゲン化合物は、導電性複合体の余剰のアニオン基に反応して、反応したアニオン基のプロトンを有機ハロゲン化合物に由来する有機基が置換することによって、前記余剰のアニオン基の負電荷を中和するものが好ましい。ここで、有機ハロゲン化合物の分子量は5000以下であることが好ましく、1000以下であることがより好ましい。本態様の有機ハロゲン化合物として、ポリ塩化ビニル等のハロゲン含有ポリマーは適切ではない。
本態様の有機ハロゲン化合物は、前記アニオン基に対する反応性がよいことから、ハロゲン化炭化水素であることが好ましい。前記アニオン基にハロゲン化炭化水素が反応すると、前記アニオン基のプロトンを炭化水素基が置換し、前記アニオン基の負電荷が中和される。
【0021】
(ハロゲン化炭化水素)
ハロゲン化炭化水素を構成する炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ベンジル基等が挙げられ、これらのうちでもアルキル基又はアルケニル基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
アルキル基としては、炭素数1以上12以下のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、i-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。
アルケニル基としては、炭素数3以上12以下のアルケニル基、例えば、プロペン基、ブテン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、デセン基、ドデセン基等が挙げられる。アルケニル基における二重結合の位置は、アニオン基の酸素原子に結合する炭素原子が含まれない位置であれば任意である。
【0022】
ハロゲン化炭化水素を構成するハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれでもよく、前記アニオン基のプロトンの炭化水素基による置換が容易になる点から、塩素、臭素又はヨウ素が好ましく、臭素又はヨウ素がより好ましい。
【0023】
塩化アルキルとしては、例えば、クロロメタン、クロロエタン、クロロプロパン、クロロブタン、クロロペンタン、クロロヘキサン、クロロヘプタン、クロロノナン、クロロデカン、クロロドデカン等が挙げられる。
塩化アルキルのアルキル基は、直鎖状でもよいし、分枝状でもよく、前記アニオン基との反応性の点からは、直鎖状であることが好ましい。塩化アルキルのアルキル基の炭素数は1以上12以下であることが好ましい。塩化アルキルの直鎖状で炭素数が3以上のアルキル基において、塩素が結合する炭素原子は、分子末端の炭素でもよいし、その他の位置の炭素でもよい。前記アニオン基との反応性が高い点では、分子末端の炭素に塩素が結合していることが好ましい。分子末端の炭素に塩素が結合している塩化アルキルとしては、例えば、1-クロロプロパン(1-プロピルクロリド)、1-クロロブタン(1-ブチルクロリド)、1-クロロペンタン(1-ペンチルクロリド)、1-クロロヘキサン(1-ヘキシルクロリド)、1-クロロオクタン(1-オクチルクロリド)等が挙げられる。
塩化アルケニルとしては、例えば、炭素数3以上12以下の塩化アルケニルが挙げられる。具体的には、例えば、クロロプロペン、クロロブテン、クロロペンテン、クロロヘキセン、クロロヘプテン、クロロノネン、クロロデセン、クロロドデセン等が挙げられる。塩化アルケニルにおける二重結合の位置は、塩素原子に結合する炭素原子が含まれない位置であれば任意である。
【0024】
臭化アルキルとしては、例えば、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモヘキサン、ブロモヘプタン、ブロモノナン、ブロモデカン、ブロモドデカン等が挙げられる。
臭化アルキルのアルキル基は、直鎖状でもよいし、分枝状でもよく、前記アニオン基との反応性の点からは、直鎖状であることが好ましい。臭化アルキルのアルキル基の炭素数は1以上12以下であることが好ましい。臭化アルキルの直鎖状で炭素数が3以上のアルキル基において、臭素が結合する炭素原子は、分子末端の炭素でもよいし、その他の位置の炭素でもよい。前記アニオン基との反応性が高い点では、分子末端の炭素に臭素が結合していることが好ましい。分子末端の炭素に臭素が結合している臭化アルキルとしては、例えば、1-ブロモプロパン(1-プロピルブロミド)、1-ブロモブタン(1-ブチルブロミド)、1-ブロモペンタン(1-ペンチルブロミド)、1-ブロモヘキサン(1-ヘキシルブロミド)、1-ブロモオクタン(1-オクチルブロミド)等が挙げられる。
臭化アルケニルとしては、例えば、炭素数3以上12以下の臭化アルケニルが挙げられる。具体的には、例えば、ブロモプロペン、ブロモブテン、ブロモペンテン、ブロモヘキセン、ブロモヘプテン、ブロモノネン、ブロモデセン、ブロモドデセン等が挙げられる。臭化アルケニルにおける二重結合の位置は、臭素原子に結合する炭素原子が含まれない位置であれば任意である。
【0025】
ヨウ化アルキルとしては、例えば、ヨードメタン(ヨウ化メチル)、ヨードエタン、ヨードプロパン、ヨードブタン、ヨードペンタン、ヨードヘキサン、ヨードヘプタン、ヨードノナン、ヨードデカン、ヨードドデカン等が挙げられる。
ヨウ化アルキルのアルキル基は、直鎖状でもよいし、分枝状でもよく、前記アニオン基との反応性の点からは、直鎖状であることが好ましい。ヨウ化アルキルのアルキル基の炭素数は1以上12以下であることが好ましい。ヨウ化アルキルの直鎖状で炭素数が3以上のアルキル基において、ヨウ素が結合する炭素原子は、分子末端の炭素でもよいし、その他の位置の炭素でもよい。前記アニオン基との反応性が高い点では、分子末端の炭素にヨウ素が結合していることが好ましい。分子末端の炭素にヨウ素が結合しているヨウ化アルキルとしては、例えば、1-ヨードプロパン(1-プロピルヨージド)、1-ヨードブタン(1-ブチルヨージド)、1-ヨードペンタン(1-ペンチルヨージド)、1-ヨードヘキサン(1-ヘキシルヨージド)、1-ヨードオクタン(1-オクチルヨージド)等が挙げられる。
ヨウ化アルケニルとしては、例えば、炭素数3以上12以下のヨウ化アルケニルが挙げられる。具体的には、例えば、ヨードプロペン、ヨードブテン、ヨードペンテン、ヨードヘキセン、ヨードヘプテン、ヨードノネン、ヨードデセン、ヨードドデセン等が挙げられる。ヨウ化アルケニルにおける二重結合の位置は、ヨウ素原子に結合する炭素原子が含まれない位置であれば任意である。
【0026】
前記反応液に含まれるハロゲン化合物の含有量は、前記反応液に含まれる前記導電性複合体に対して大過剰であることが好ましい。大過剰であることにより、前記アニオン基と前記ハロゲン化合物との反応における副生成物であるハロゲン化水素の酸の作用が高められる。具体的には、前記アニオン基と前記ハロゲン化合物との反応生成物の加水分解を促進し、前記アニオン基にプロトンが戻りやすくなる。このように復活したアニオン基に対して、別のハロゲン化合物が再度反応することにより、ハロゲン化水素がさらに生成される。また、一部のハロゲン化合物が直接加水分解されてアルコールになる場合にも、ハロゲン化水素がさらに生成される。つまり、本態様の反応液中で反応が進むほど、反応液中のハロゲン化水素濃度が高まり、目的の導電性加水分解物が生成され易くなる。
【0027】
前記反応液における、前記導電性複合体に対する前記ハロゲン化合物の添加量は、導電性複合体100質量部に対して、ハロゲン化合物を、500質量部以上添加することが好ましく、1000質量部以上10000質量部以下添加することがより好ましく、2000質量部以上5000質量部以下添加することがさらに好ましい。
前記添加量の範囲の下限値以上であることにより、反応液中にハロゲン化水素を生成させて、目的の導電性加水分解物を容易に得ることができる。
前記添加量の範囲の上限値以下であることにより、得られた導電性加水分解物を洗浄して、余分なハロゲン化合物を目的の導電性加水分解物から洗い流すことが容易になる。
【0028】
前記反応液において、(前記ハロゲン化合物のモル数)÷(前記ポリアニオンが有する全アニオン基のモル数)で表される比(モル比)は、1以上であることが好ましく、5以上10000以下であることがより好ましく、10以上1000以下であることがさらに好ましい。
前記モル比の範囲の下限値以上であることにより、反応液中にハロゲン化水素を生成させて、目的の導電性加水分解物を容易に得ることができる。
前記モル比の範囲の上限値以下であることにより、得られた導電性加水分解物を洗浄して、余分なハロゲン化合物を目的の導電性加水分解物から洗い流すことが容易になる。
【0029】
前記反応液に添加するハロゲン化合物は1種でもよいし、2種類以上でもよい。
【0030】
(反応工程)
本態様の反応液を調製する方法は、特に制限されず、例えば、水又は水及び水溶性有機溶剤の混合液に導電性複合体が分散された分散液に、有機ハロゲン化合物を添加する方法が挙げられる。
前記反応液における反応を促進する観点から、前記反応液を加熱することが好ましい。
前記加熱の温度としては、40~100℃が好ましく、60~80℃がより好ましい。
前記加熱の温度において、前記反応液における反応時間は、例えば1~12時間程度で行うことができる。
前記反応液を加熱するとともに、攪拌することにより、反応効率をより高めることができる。
【0031】
本態様の反応液おいて、初期には、導電性複合体のポリアニオンの余剰のアニオン基(π共役系導電性高分子にドープしていないアニオン基)の少なくとも一部にハロゲン化合物が反応することにより、アニオン基の負電荷が中和され、疎水化された導電性複合体が析出する。この析出物に含まれる中和された前記アニオン基は、その後、反応液中に生成したハロゲン化水素の酸の作用により加水分解されて、元のアニオン基となる。この結果、反応中期~後期の析出物においては、その析出状態を維持したまま、上記の加水分解が起こり、析出物に含まれる前記アニオン基の大部分が元のアニオン基となる。最終的には、元のアニオン基を有する導電性複合体が含有された加水分解物を含む、目的の導電性加水分解物が、反応液中に析出物として得られる。析出状態の導電性加水分解物は、強いせん断力を受けたり、長期間に渡って水系分散媒中に放置されたりしない限りは、その析出状態を維持することが可能である。
【0032】
(回収工程)
前記反応液中の析出状態の導電性加水分解物を回収する方法としては、例えば、濾過、遠心分離、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。
【0033】
濾過に使用するフィルターとしては、化学分析分野で用いられるろ紙が好ましい。このろ紙としては、例えば、アドバンテック社製ろ紙、保留粒子径7μm等が挙げられる。ここで、ろ紙の保留粒子径は目の粗さの目安であり、JIS P 3801〔ろ紙(化学分析用)〕で規定された硫酸バリウムなどを自然ろ過したときの漏えい粒子径により求められる。ろ紙の保留粒子径は、例えば2μm以上10μm以下、好ましくは5μm以上10μm以下とすることができる。
【0034】
(洗浄工程)
回収した析出状態の導電性加水分解物を洗浄用有機溶剤で洗浄してもよい。この洗浄によって、導電性加水分解物に残留する水系分散媒、未反応のハロゲン化合物、及び、副生成物のハロゲン化水素等を除去することができる。
洗浄用有機溶剤は、導電性加水分解物を溶解せずに洗浄可能なものが好適に使用される。洗浄用有機溶剤としては、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、窒素原子含有化合物系溶剤が好ましい。洗浄用有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
洗浄方法としては特に制限はなく、例えば、析出状態の導電性加水分解物の上から洗浄用有機溶剤をかけ流して洗浄してもよいし、洗浄用有機溶剤中で析出状態の導電性加水分解物を攪拌して洗浄してもよい。
【0035】
本発明の第一態様の製造方法で得られた導電性加水分解物は、反応前の導電性複合体と完全に同一ではあり得ない。反応過程でハロゲン化物イオンに接しているので、導電性複合体のπ共役系導電性高分子が有する正電荷の一部に、ハロゲン化物イオンがドープしていると考えられる。また、余剰のアニオン基の全てが加水分解されて元のアニオン基に戻るとは考え難く、加水分解されずに残留した前記中和されたままのアニオン基が少量存在すると考えられる。
【0036】
<導電性加水分解物>
本発明の第二態様は、π共役系導電性高分子及びポリアニオンを含む導電性複合体と、前記ポリアニオンのアニオン基に反応し得る有機ハロゲン化合物との反応生成物の加水分解物を含む、導電性加水分解物である。
【0037】
本態様の導電性加水分解物は、本発明の第一態様の方法で製造することができる。
本態様の導電性複合体、有機ハロゲン化合物、反応生成物、及び加水分解物の説明は、前述の第一態様における説明と同じであるので、省略する。
第一態様の製造方法で得られた導電性加水分解物は、水系分散媒中において、強いせん断力を加えられると、均一な分散状態となり得る程度に親水性である。
【0038】
本態様の導電性加水分解物には前記導電性複合体を構成する前記ポリアニオンが含まれている。このポリアニオンにおいては、アニオン基の全てがπ共役系導電性高分子にドープしてはおらず、ドープに関与しない余剰のアニオン基がある。この余剰のアニオン基は親水基であり、アニオン基が修飾されていない導電性複合体を含む導電性加水分解物の分散性は、水系分散媒においては高く、有機溶剤においては低い。
【0039】
前記導電性加水分解物中の前記導電性複合体のポリアニオンが有する前記余剰のアニオン基は、アミン化合物と反応して、負電荷が中和されていてもよい。つまり、導電性加水分解物に含まれる前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基とアミン化合物との反応物であってもよい。前記アニオン基の負電荷が中和されると、前記導電性加水分解物が疎水化される。この結果、疎水化された導電性加水分解物は、水系分散媒に分散し難くなり、有機溶剤に分散し易くなる。
前記ポリアニオンは、前記アニオン基と前記アミン化合物との反応によって、置換基(A)を有する。
【0040】
(置換基(A))
導電性複合体の詳細な分析は必ずしも容易ではないが、置換基(A)は下記式(A)で表される基であると推測される。
【0041】
-HN+R21R22R23 ・・・(A)
[式(A)中、R21~R23はそれぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭化水素基であり、ただし、R21~R23のうち少なくとも1つは置換基を有してもよい炭化水素基である。]
【0042】
置換基(A)において、左端の結合手は、アニオン基の負電荷と、アミン化合物の正電荷とが結合していることを表す。負に荷電し得るアニオン基として、例えば「-SO3
-」のように、酸素原子に活性なプロトンが結合したアニオン基が挙げられる。
【0043】
式(A)におけるR21~R23は水素原子、又は置換基を有していてもよい炭化水素基である。式(A)におけるR21~R23はアミン化合物に由来する置換基である。
式(A)における炭化水素基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~20の脂肪族炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。
脂肪族炭化水素基の置換基としては、フェニル基、水酸基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基の置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、水酸基等が挙げられる。
【0044】
本明細書において、「置換基を有していてもよい」とは、水素原子(-H)を1価の基で置換する場合と、メチレン基(-CH2-)を2価の基で置換する場合との両方を含む。
置換基としての1価の基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数2~4のアルケニル基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、トリアルコキシシリル基(トリメトキシシリル基等)、等が挙げられる。
置換基としての2価の基としては、酸素原子(-O-)、-C(=O)-、-C(=O)-O-等が挙げられる。
【0045】
前記アミン化合物は、第一級アミン、第二級アミン及び第三級アミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である。アミン化合物は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
第一級アミンとしては、例えば、アニリン、トルイジン、ベンジルアミン、エタノールアミン等が挙げられる。
第二級アミンとしては、例えば、ジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジフェニルアミン、ジベンジルアミン、ジナフチルアミン等が挙げられる。
第三級アミンとしては、例えば、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミン、トリベンジルアミン、トリナフチルアミン等が挙げられる。
前記アミン化合物のうち、導電性複合体を容易に疎水化できることから、第三級アミンが好ましく、トリオクチルアミン及びトリブチルアミンの少なくとも一方がより好ましい。
【0046】
低極性の有機溶剤への分散性が高くなることから、アミン化合物は、窒素原子上に炭素数が6以上の置換基を有することが好ましく、窒素原子上に炭素数が8以上の置換基を有することがより好ましい。
【0047】
<導電性加水分解物含有液の製造方法(1)>
本発明の第三態様は、前述した親水性の導電性加水分解物に、水系分散媒を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法である。
本態様の導電性加水分解物含有液における親水性の導電性加水分解物は、析出状態であってもよいし、分散状態又は溶解状態であってもよい。
本態様の水系分散媒の説明は、前述の説明と概ね同じであるが、本態様における水系分散媒の総質量に対する水の含有量は、50質量%超が好ましく、60質量%以上100質量%以下がより好ましく、80質量%以上100質量%以下がより好ましい。水の含有割合が上記範囲であると、親水性の導電性加水分解物を容易に分散させることができる。
【0048】
導電性加水分解物含有液中に、導電性加水分解物を充分に分散させるために、強いせん断力をかけながら攪拌できる、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理することが好ましい。
分散処理に供する導電性加水分解物含有液に含まれる親水性の導電性加水分解物の含有割合は、導電性加水分解物含有液の総質量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下がさらに好ましい。上記含有割合の範囲であると、導電性加水分解物が均一に分散された導電性加水分解物含有液を容易に得ることができる。
本態様で得られた水系の導電性加水分解物含有液は、本発明の第四態様である。
【0049】
<導電性加水分解物含有液の製造方法(2)>
本発明の第五態様は、疎水性の導電性加水分解物に、有機溶剤を混合することを有する、導電性加水分解物含有液の製造方法である。
前記疎水性の導電性加水分解物は、前記ポリアニオンを含み、前記ポリアニオンは、前記ポリアニオンが有する一部のアニオン基と前記アミン化合物との反応物である。前記アニオン基と前記アミン化合物との反応により、前記アニオン基の負電荷が中和されているため、前記導電性加水分解物は、疎水性を呈し、有機溶剤に容易に分散又は溶解される。
本態様の導電性加水分解物含有液における疎水性の導電性加水分解物は、析出状態であってもよいし、分散状態又は溶解状態であってもよい。
【0050】
(有機溶剤)
本発明の第五態様で用いる有機溶剤は、水溶性有機溶剤でもよいし、非水溶性有機溶剤でもよいし、水溶性有機溶剤及び非水溶性有機溶剤の混合溶剤でもよい。ここで、水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g以上の有機溶剤であり、非水溶性有機溶剤は、20℃の水100gに対する溶解量が1g未満の有機溶剤である。
【0051】
水溶性有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、窒素原子含有溶剤等が挙げられる。
水溶性有機溶剤の具体例は前述の通りである。
水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
水溶性有機溶剤のなかでも、導電性加水分解物の分散性を高める観点から、ケトン系溶剤が好ましく、メチルエチルケトンがより好ましい。
【0052】
非水溶性有機溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。
脂肪族炭化水素系溶剤としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ペンタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、イソプロピルベンゼン等が挙げられる。
非水溶性有機溶剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
本態様の導電性加水分解物含有液の総質量に対する有機溶剤の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上99.9質量%以下であることがより好ましく、80質量%以上99質量%以下であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有割合が上記範囲であると、疎水化された導電性加水分解物を容易に分散させることができる。
【0054】
導電性加水分解物含有液中に、導電性加水分解物を充分に分散させるために、強いせん断力をかけながら攪拌できる、高圧ホモジナイザーを用いて分散処理することが好ましい。
分散処理に供する導電性加水分解物含有液に含まれる疎水性の導電性加水分解物の含有割合は、導電性加水分解物含有液の総質量に対して、例えば、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下がさらに好ましい。上記含有割合の範囲であると、導電性加水分解物が均一に分散された導電性加水分解物含有液を容易に得ることができる。
本態様で得られた有機溶剤系の導電性加水分解物含有液は、本発明の第六態様である。
【0055】
本発明の第六態様の導電性加水分解物含有液において、前記疎水化された導電性加水分解物は粒子の状態で分散されていてもよい。
前記粒子の粒度は、例えば、5nm以上1000nm以下、好ましくは10nm以上400nm以下、より好ましくは100nm以上200nm以下、とすることができる。前記粒度が上記範囲にあると、分散状態がより安定に長期間に渡って維持されるので好ましい。
ここで、前記粒度とは、動的光散乱方式で測定される、前記粒子の平均粒子径を意味する。動的光散乱法は、光子相関法に基づいて、ホモダイン光学系によって、測定温度20~30℃の条件で測定される。測定装置として、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径・分子量測定システムのELSZ-2000ZSを用いることが好ましい。
【0056】
[バインダ成分の添加]
本発明の導電性加水分解物含有液にバインダ成分をさらに添加してもよい。また、バインダ成分とともに水系分散媒又は有機溶剤を添加してもよい。
導電性加水分解物含有液にバインダ成分を添加した後には攪拌してバインダ成分の分散性を高めることが好ましい。
【0057】
(バインダ成分)
バインダ成分は、前記π共役系導電性高分子及び前記ポリアニオン以外の樹脂又はその前駆体であり、熱可塑性樹脂、又は、導電層形成時に硬化する硬化性のモノマー又はオリゴマーである。熱可塑性樹脂はそのままバインダ樹脂となり、硬化性のモノマー又はオリゴマーは硬化により形成した樹脂がバインダ樹脂となる。
バインダ成分は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
バインダ樹脂の具体例としては、例えば、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン等が挙げられる。
導電性加水分解物含有液の分散媒が水系分散媒である場合、含有するバインダ樹脂としては、水分散性樹脂が好ましく、水分散性エマルション樹脂がより好ましい。水分散性樹脂は、エマルション樹脂又は水溶性樹脂である。
【0059】
水分散性エマルション樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂等であって、乳化剤によってエマルションにされたものが挙げられる。なかでも、導電性加水分解物含有液をフィルム基材に塗工した塗膜の強度が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。特に、ポリエステルフィルム基材に塗工する場合、フィルム基材に対する塗膜の密着性が高くなることから、ポリエステルエマルションが好ましい。
【0060】
水溶性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂(アクリル化合物)、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂であって、カルボキシ基やスルホ基等の酸基又はその塩を有するものが挙げられる。ここで、水溶性樹脂は、25℃の蒸留水100gに、1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上溶解するものが好ましい。
【0061】
水分散性樹脂が有するカルボキシ基、スルホ基等の酸基は、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のカチオンと塩を形成していてもよい。
【0062】
硬化性のモノマー又はオリゴマーは、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよいし、光硬化性のモノマー又はオリゴマーであってもよい。ここで、オリゴマーは、質量平均分子量が1万未満の重合体のことである。なお、質量平均分子量が1万を超えるポリマーは、硬化性を有さない。
硬化性のモノマーとしては、例えば、アクリルモノマー(アクリル化合物)、エポキシモノマー、オルガノシロキサン等が挙げられる。硬化性のオリゴマーとしては、例えば、アクリルオリゴマー(アクリル化合物)、エポキシオリゴマー、シリコーンオリゴマー(硬化型シリコーン)等が挙げられる。
バインダ成分としてアクリルモノマー又はアクリルオリゴマーを用いた場合には、加熱又は光照射により容易に硬化させることができる。バインダ成分としてオルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを用いた場合には、導電層に離型性(非粘着性)を付与することができる。
【0063】
硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、さらに硬化触媒を含むことが好ましい。例えば、熱硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、加熱によりラジカルを発生させる熱重合開始剤を含むことが好ましく、光硬化性のモノマー又はオリゴマーを含む場合には、光照射によりラジカルを発生させる光重合開始剤を含むことが好ましい。また、オルガノシロキサン又はシリコーンオリゴマーを含む場合には、硬化用の白金触媒を含むことが好ましい。
【0064】
導電性加水分解物含有液におけるバインダ成分の含有割合は、導電性加水分解物100質量部に対して、100質量部以上100000質量部以下であることが好ましく、100質量部以上50000質量部以下であることがより好ましい。バインダ成分の含有割合が前記下限値以上であれば、導電性加水分解物含有液をフィルム基材に塗工する際の製膜性と膜強度を向上させることができる。バインダ成分の含有割合が前記上限値以下であれば、導電性加水分解物の含有割合の低下による導電性の低下を抑制することができる。
【0065】
(高導電化剤)
導電性加水分解物は、導電性をより向上させるために、高導電化剤を含んでもよい。
高導電化剤は、糖類、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシ基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシ基および1個以上のカルボキシ基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
ただし、高導電化剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、及びバインダ成分以外の化合物である。
高導電化剤のなかでも、導電性向上の効果が高いことから、ヒドロキシ基を2つ有する直鎖状化合物であるグリコールが好ましく、プロピレングリコールがより好ましい。
導電性加水分解物含有液に含まれる高導電化剤は1種でもよいし、2種以上でもよい。
【0066】
高導電化剤の含有割合は導電性複合体100質量部に対して、1質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、10質量部以上5000質量部以下であることがより好ましく、100質量部以上2500質量部以下であることがさらに好ましい。高導電化剤の含有割合が前記下限値以上であれば、高導電化剤添加による導電性向上効果が充分に発揮され、前記上限値以下であれば、π共役系導電性高分子濃度の低下に起因する導電性の低下を防止できる。
【0067】
(その他の添加剤)
導電性加水分解物含有液には、その他の添加剤が含まれてもよい。
添加剤としては、本発明の効果が得られる限り特に制限されず、例えば、界面活性剤、無機導電剤、消泡剤、カップリング剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを使用できる。
ただし、添加剤は、前述したπ共役系導電性高分子、ポリアニオン、分散媒、バインダ成分、及び高導電化剤以外のものである。
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の界面活性剤が挙げられるが、保存安定性の面からノニオン系が好ましい。また、ポリビニルピロリドンなどのポリマー系界面活性剤を添加してもよい。
無機導電剤としては、金属イオン類、導電性カーボン等が挙げられる。なお、金属イオンは、金属塩を水に溶解させることにより生成させることができる。
消泡剤としては、シリコーン樹脂、ポリジメチルシロキサン、シリコーンオイル等が挙げられる。
カップリング剤としては、エポキシ基、ビニル基又はアミノ基を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、糖類等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、オキサニリド系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0068】
導電性加水分解物含有液が前記添加剤を含有する場合、その含有割合は、添加剤の種類に応じて適宜決められるが、例えば、導電性加水分解物100質量部に対して、0.001質量部以上5質量部以下の範囲とすることができる。
【0069】
<導電性フィルムの製造方法>
本発明の第七態様の導電性フィルムの製造方法は、フィルム基材の少なくとも一方の面に、本発明の導電性加水分解物含有液を塗工する塗工工程と、塗工した導電性加水分解物含有液からなる塗膜を乾燥させる乾燥工程とを有する方法である。塗膜を乾燥させると、導電層が形成される。
【0070】
前記フィルム基材としては、例えば、プラスチックフィルム、紙が挙げられる。
プラスチックフィルムを構成するフィルム基材用樹脂としては、例えば、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリレート、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミド、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどが挙げられる。これらのフィルム基材用樹脂のなかでも、安価で機械的強度に優れる点から、ポリエチレンテレフタレート、セルローストリアセテートが好ましい。
前記フィルム基材用樹脂は、非晶性でもよいし、結晶性でもよい。
また、フィルム基材は、未延伸のものでもよいし、延伸されたものでもよい。
また、フィルム基材の表面には、導電層の密着性を向上させるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理等の表面処理が施されてもよい。
【0071】
前記フィルム基材の平均厚みとしては、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上200μm以下であることがより好ましい。フィルム基材の平均厚みが前記下限値以上であれば、破断しにくくなり、前記上限値以下であれば、フィルムとして充分な可撓性を確保できる。
本明細書における部材(例えば、導電層やフィルム基材)の厚さは、任意の10箇所について厚さを測定し、その測定値を平均した値である。
【0072】
[塗工工程]
前記塗工工程において導電性加水分解物含有液を塗工する方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファウンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等のコーターを用いた塗工方法、エアスプレー、エアレススプレー、ローターダンプニング等の噴霧器を用いた噴霧方法、ディップ等の浸漬方法等を適用することができる。
上記のうち、簡便に塗工できることから、バーコーターを用いることがある。バーコーターにおいては、種類によって塗工厚が異なり、市販のバーコーターでは、種類ごとに番号が付されており、その番号が大きい程、厚く塗工できるものとなっている。
導電性加水分解物含有液のフィルム基材への塗工量は特に制限されないが、固形分として、0.1g/m2以上10.0g/m2以下の範囲であることが好ましい。
【0073】
[乾燥工程]
前記乾燥工程において乾燥する方法としては、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。加熱乾燥としては、例えば、熱風加熱や、赤外線加熱などの通常の方法を採用できる。加熱乾燥を適用する場合、加熱温度は、使用する分散媒に応じて適宜設定され、例えば、50℃以上150℃以下に設定できる。ここで、加熱温度は、乾燥装置の設定温度である。
導電性加水分解物含有液が活性エネルギー線硬化性のバインダ成分を含有する場合には、前記乾燥工程後に、乾燥した塗膜に活性エネルギー線を照射する活性エネルギー線照射工程をさらに有してもよい。活性エネルギー線照射工程を有すると、導電層の形成速度を速くでき、導電性フィルムの生産性が向上する。
活性エネルギー線照射工程を有する場合、使用される活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、可視光線等が挙げられる。紫外線の光源としては、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプなどの光源を用いることができる。
紫外線照射における照度は100mW/cm2以上が好ましい。照度が100mW/cm2未満であると、活性エネルギー線硬化性のバインダ成分が充分に硬化しないことがある。また、積算光量は50mJ/cm2以上が好ましい。積算光量が50mJ/cm2未満であると、充分に架橋しないことがある。なお、本明細書における照度、積算光量は、トプコン社製UVR-T1(工業用UVチェッカー、受光器;UD-T36、測定波長範囲;300nm以上390nm以下、ピーク感度波長;約355nm)を用いて測定した値である。
【0074】
<導電性フィルム>
本発明の第八態様の導電性フィルムは、フィルム基材と、前記フィルム基材の少なくとも一方の面に、本発明の導電性加水分解物を含む導電層と、を備える。
本態様のフィルム基材の説明は、前述の説明と同じであるので、省略する。
前記導電層にはバインダ成分又はバインダ成分が硬化した硬化物が含まれていてもよい。
前記導電層の平均厚さとしては、10nm以上20000nm以下であることが好ましく、20nm以上10000nm以下であることがより好ましく、30nm以上5000nm以下であることがさらに好ましい。導電層の平均厚さが前記下限値以上であれば、充分に高い導電性を発揮でき、前記上限値以下であれば、導電層を容易に形成できる。
【実施例】
【0075】
(製造例1)ポリスチレンスルホン酸の製造
1000mlのイオン交換水に206gのスチレンスルホン酸ナトリウムを溶解し、80℃で攪拌しながら、予め10mlの水に溶解した1.14gの過硫酸アンモニウム酸化剤溶液を20分間滴下し、この溶液を12時間攪拌した。
得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム含有溶液に、10質量%に希釈した硫酸を1000ml添加し、得られたポリスチレンスルホン酸含有溶液の約1000mlの溶媒を限外ろ過法により除去した。次いで、残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去して、ポリスチレンスルホン酸を水洗した。この水洗操作を3回繰り返した。
得られた溶液中の水を減圧除去して、無色の固形状のポリスチレンスルホン酸を得た。
【0076】
(製造例2)導電性複合体の水系分散液の製造
14.2gの3,4-エチレンジオキシチオフェンと、36.7gのポリスチレンスルホン酸を2000mlのイオン交換水に溶かした溶液とを20℃で混合した。
得られた混合溶液を20℃に保ち、掻き混ぜながら、200mlのイオン交換水に溶かした29.64gの過硫酸アンモニウムと8.0gの硫酸第二鉄の酸化触媒溶液とをゆっくり添加し、3時間攪拌して反応させた。
得られた反応液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
次いで、得られた溶液に200mlの10質量%に希釈した硫酸と2000mlのイオン交換水とを加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。残液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を3回繰り返した。
さらに、得られた溶液に2000mlのイオン交換水を加え、限外ろ過法により約2000mlの溶媒を除去した。この操作を5回繰り返し、濃度1.2質量%のポリスチレンスルホン酸ドープポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT-PSS)が水系分散媒に分散された導電性複合体の水系分散液を得た。
【0077】
(実施例1)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、1-ブチルブロミド25gを加え、80℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基に1-ブチルブロミドが反応してスルホン酸のブチルエステルが形成され、余剰のスルホン酸基が消失したと推測される。また、PEDOTの一部には、臭化物イオンがドープしたと推測される。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSと1-ブチルブロミドとの反応物である、疎水化された導電性複合体(疎水化導電性複合体)が析出した。
析出した疎水化導電性複合体は互いに凝集して沈殿し易い固体状の析出物となった。その後、PSSのスルホン酸ブチルエステルが形成された際に副生成物として発生した臭化水素(HBr)及び1-ブチルブロミド自身の加水分解によって発生した臭化水素に由来する酸の作用により、析出物において、一部のスルホン酸ブチルエステルが加水分解され、スルホン酸に戻った。析出物を含む反応液中には、PEDOT-PSS(1.2g)に対して1-ブチルブロミドが大過剰で存在するので、PSSのスルホン酸は再度エステル化されるとともに、臭化水素濃度がさらに高まる。このように、スルホン酸のエステル化とスルホン酸エステルの加水分解が交互に繰り返される結果、析出物は析出状態を保ったまま、析出物中に含まれるPEDOT-PSSのスルホン酸エステルの大部分が加水分解された。
したがって、本実施例において、最終的には、疎水化導電性複合体の加水分解物(導電性加水分解物)の析出物が得られた。
導電性加水分解物は、後述するように水に対して分散可能である。このことから、導電性加水分解物のうち、大部分又はほとんど全部はスルホン酸が復活したPEDOT-PSSである。導電性加水分解物には、水分散性を損なわない範囲で、加水分解されずに残留したスルホン酸ブチルエステルが少量含まれていると考えられる。また、スルホン酸の一部には、水分散性を損なわない範囲で、臭化物イオンがドープしていると考えられる。
【0078】
次に、反応液中の導電性加水分解物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。
次に、得られた導電性加水分解物に100gの水を添加し、高圧ホモジナイザーでせん断力をかけながら攪拌することにより、水に対して導電性加水分解物が充分に分散された導電性加水分解物含有液が得られた。
続いて、導電性加水分解物含有液に、メタノール800gと、水分散性ポリエステル(互応化学工業社製、プラスコートRZ105、固形分濃度25質量%)100gを添加して、塗料を作製した。
最後に、#12のバーコーターを用いて、PETフィルム(東レ社製、ルミラー T60)上に塗布し、150℃で1分乾燥して導電性フィルムを得た。
【0079】
<評価>
実施例1の導電性フィルムについて、まず、製造後の初期表面抵抗値R0を測定した。次いで、カーボンアーク式の紫外線光源を有する耐光試験機を用いて、導電性フィルムの導電層に48時間の紫外線照射を行った後の表面抵抗値(耐光性試験後の表面抵抗値)R1を測定した。これらの測定には、抵抗率計(株式会社三菱化学アナリテック製ハイレスタ)を用い、印加電圧を10Vとした。各測定結果を表1に示す。
測定結果における表面抵抗値(単位:Ω/□(オームパースクエア))が小さい程、導電性が高いことを示す。また、R1/R0の比で表される表面抵抗値の上昇率の値が小さい程、耐光性が優れることを示している。なお、表中、「1.0E+10」は、「1.0×1010」を意味する。
以下の実施例、比較例においても同様にして各表面抵抗値を測定した。その結果を表1に併記する。
【0080】
(参考例1)
実施例1で得た導電性加水分解物のイソプロパノールに対する分散性を調べるために、少量の導電性加水分解物に過剰量のイソプロパノールを添加して高圧ホモジナイザーで分散処理したが、充分な分散状態にはならなかった。導電性加水分解物は親水性であることがこの結果からも確認された。
【0081】
(参考例2)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、1-ブチルブロミド1gを加え、80℃で4時間加熱攪拌した。このとき、PEDOT-PSSにおいてPSSのPEDOTと結合していない余剰のスルホン酸基に1-ブチルブロミドが反応してスルホン酸のブチルエステルが形成され、余剰のスルホン酸基が消失したと推測される。この結果、PEDOT-PSSの水分散性が低下し、PEDOT-PSSと1-ブチルブロミドとの反応物である、疎水化された導電性複合体(疎水化導電性複合体)が析出した。その析出物をろ取し、メタノール100gをかけ流して洗浄し、1.3gの析出物を得た。
次に、実施例1と同様に、参考例2の析出物1.3gに100gの水を添加し、高圧ホモジナイザーでせん断力をかけながら攪拌したが、析出物を水に対して充分に分散させることができなかった。
一方、参考例2の析出物1.3gにメチルエチルケトン200gを添加し、高圧ホモジナイザーでせん断力をかけながら攪拌すると、メチルエチルケトンに対して析出物を充分に分散させることができた。
これらの結果から、参考例2の反応液においては、導電性複合体に対して1-ブチルブロミドが大過剰で存在しないため、臭化水素による酸濃度が低く、PSSのスルホン酸ブチルエステルは加水分解されず、水に対する分散性が低い疎水化導電性複合体からなる析出物が得られたと考えられる。
【0082】
(実施例2)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、1-オクチルブロミド25g加え、80℃で4時間加熱攪拌した。この結果、実施例1と同様の反応により析出した析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。後は、実施例1と同様にして、導電性加水分解物含有液、塗料及び導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表1に示す。
【0083】
(実施例3)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、ヨウ化メチル25g加え、80℃で4時間加熱攪拌した。この結果、実施例1と同様の反応により析出した析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。後は、実施例1と同様にして、導電性加水分解物含有液、塗料及び導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gを加え、80℃で4時間加熱攪拌した。得られた溶液をろ過したが析出物がろ紙上に残らなかったため中止した。
【0085】
(比較例2)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、プロピレングリコール5gと、プラスコートRZ105の10gを添加して、塗料を作製した。後は、実施例1と同様に導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
(実施例4)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、1-ブチルブロミド25g加え、80℃で4時間加熱攪拌した。この結果、実施例1と同様の反応により析出した析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。
得られた導電性加水分解物1.2gにイソプロパノール497.74gと、トリオクチルアミン1.06gを添加して、導電性加水分解物に含まれるPEDOT-PSSのスルホン酸にトリオクチルアミンを反応させ、PEDOT-PSSのスルホン酸基にトリオクチルアミンが結合して疎水化された導電性加水分解物を生成した。この反応液を高圧ホモジナイザーで分散することにより、疎水化された導電性加水分解物が分散された導電性加水分解物含有液が得られた。
導電性加水分解物含有液に分散された導電性加水分解物の平均粒子径を動的光散乱方式で測定したところ、120nmであった。
ここで、平均粒子径は、光子相関法に基づいて、ホモダイン光学系によって、測定温度20~30℃の条件で、大塚電子株式会社製のゼータ電位・粒径・分子量測定システム「ELSZ-2000ZS」を用いて測定した。
【0088】
次に、導電性加水分解物含有液50gに、ペンタエリスリトールトリアクリレート45gと、ヒドロキシエチルアクリルアミド5gと、イルガキュア184の2gを加え、塗料を作製した。得られた塗料を#12のバーコーターを用いてPETフィルム(東レ社製、ルミラー T60)上に塗布し、400mJの紫外線照射を行うことにより塗料を硬化させ、導電性フィルムを得た。
得られた導電性フィルムについて、実施例1と同様に、評価した。その結果を表2に示す。
【0089】
(実施例5)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、1-オクチルブロミド25g加え、80℃で4時間加熱攪拌した。この結果、実施例1と同様の反応により析出した析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。後は、実施例4と同様にして、導電性加水分解物含有液、塗料及び導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表2に示す。
【0090】
(実施例6)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gに、メタノール200gと、ヨウ化メチル25g加え、80℃で4時間加熱攪拌した。この結果、実施例1と同様の反応により析出した析出物を濾過により回収し、メタノール100gで洗浄して、1.2gの導電性加水分解物を得た。後は、実施例4と同様にして、導電性加水分解物含有液、塗料及び導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表2に示す。
【0091】
(比較例3)
製造例2のPEDOT-PSSの水系分散液100gを凍結乾燥して、1.2gのPEDOT-PSS(導電性複合体)の凍結乾燥体を得た。
この凍結乾燥体に、イソプロパノール497.74gと、トリオクチルアミン1.06gを添加して、PEDOT-PSSのスルホン酸基にトリオクチルアミンが結合して疎水化された導電性複合体を生成した。この反応液を高圧ホモジナイザーで分散することにより、疎水化された導電性複合体を含む導電性高分子含有液を得た。後は、実施例4と同様にして、導電性高分子含有液に含まれる粒子の粒度を測定し、塗料及び導電性フィルムを得て、評価した。その結果を表2に示す。
【0092】
【0093】
実施例1~6の結果から、本発明に係る導電性加水分解物含有液からなる塗料は、導電性及び耐光性に優れた導電層を形成できることが理解される。実施例4~6の導電性加水分解物含有液を測定した粒度が、比較例3の粒度よりも小さいことが、実施例の優れた結果の要因の一つであると考えられる。
実施例4と比較例3の結果から、本発明に係る導電性加水分解物は、PEDOT-PSSの凍結乾燥体とは異なる特性を有するものであることが明らかである。