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7116700繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法,ならびに繊維強化プラスチック製線条体用緩衝材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造および方法,ならびに繊維強化プラスチック製線条体用緩衝材
(51)【国際特許分類】
   E04C 5/12 20060101AFI20220803BHJP
   E04C 5/07 20060101ALI20220803BHJP
   E04C 5/10 20060101ALI20220803BHJP
   D07B 1/14 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
E04C5/12
E04C5/07
E04C5/10
D07B1/14
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019054909
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020153187
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松田 文弘
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 徳明
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 太輔
(72)【発明者】
【氏名】留場 晃
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-125707(JP,A)
【文献】特開2002-020985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0007405(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00 - 5/20
D07B 1/00 - 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられ,上記筒状緩衝材が被せられている部分が,端末ソケット内に,内面が滑り止め加工されたくさびによって挟まれて固定されている,繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造であって,
上記筒状緩衝材が,
外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回され,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられたものである,
繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項2】
上記金属製メッシュシートを構成する細金属線の直径が直径2.00mm以下である,
請求項1に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項3】
上記摩擦緩衝シートと上記金属製メッシュシートとが接着剤によって接着されている,
請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項4】
上記筒状緩衝材の長手方向の長さが,上記くさびの長手方向の長さ以上である,
請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項5】
上記積層シートが,上記金属製メッシュシートの外面にさらに積層された噛み込み防止シートをさらに備えている,
請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造。
【請求項6】
外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられた筒状緩衝材を用意し,
繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に上記筒状緩衝材を被せ,
上記筒状緩衝材が被せられている部分を,内面が滑り止め加工されたくさびによって挟み,これを端末ソケット内にくさび止めする,
繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法。
【請求項7】
外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,
らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられている,
筒状緩衝材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に,端末ソケット(定着具)を定着(固定)する定着構造および方法に関する。この発明はまた,繊維強化プラスチック製線条体に対してその周囲から加えられる力を緩衝する緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維およびプラスチックの複合材によって構成されるFRP(Fiber Reinforced Plastics )(繊維強化プラスチック)は高い強度を有しており,FRPを用いて作製されたケーブル(ロープ,ロッド)は鋼撚線に比べて軽量で,高耐食性,非磁性などの優れた特性を持つ。炭素(カーボン)繊維,ガラス繊維,ケブラー繊維などがFRPに使用する繊維の素材として,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂などがFRPに使用するプラスチックの素材として,それぞれ用いられている。FRPケーブルは,たとえばプレストレストコンクリートの緊張材,電線の補強材等として使用される。
【0003】
FRPケーブルは,その長手方向への引っ張りについて鋼撚線と同等の高い強度を有する一方,局部的なせん断力や表面のキズなどに対しては弱い。このため,鋼撚線と同じようにくさびを直接にかませてその端末部にソケットを固定すると,せん断破壊や表層破壊によるすべりが発生し,ケーブルとソケットの高い定着効率を得ることができない。
【0004】
特許文献1は,炭素繊維強化プラスチック製ケーブル(CFRPケーブル)の末端部分に,表面および裏面に研磨粒子が付着した摩擦シートを被せ,さらにその上から金属製素線を網組したブレードネットチューブを被せ,上記摩擦シートおよびブレードネットチューブが被せられている部分をくさびに挟み込み,これを端末ソケット内にくさび止めする,端末定着構造および方法を開示する。摩擦シートおよびブレードネットチューブによってくさびによる局部的なせん断力を緩衝することができ,くさびの位置におけるCFRPケーブルのせん断破壊や表層破壊を生じにくくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2011/019075
【0006】
しかしながら,はじめにCFRPケーブルの末端部分に摩擦シートを被せ,次にその上にブレードネットチューブを被せる必要があるので,これらの2つの部材を現場で取付けるのにやや時間がかかる。また,ブレードネットチューブは,金属製素線のストランドをチューブ状に編組したものであり柔軟性と高い強度を併せ持つが,ストランドの直径が太いと,くさびによって周囲から強い力で締め付けられたときにストランドの直下にあるCFRPケーブルに局部的に強い力がかかってしまうことがある。
【発明の開示】
【0007】
この発明は,繊維強化プラスチック製線条体への緩衝材の取付け時間の短縮を図ることを目的とする。
【0008】
この発明はまた,くさびによる繊維強化プラスチック製線条体への局部的なせん断力をさらに均等に分散できるようにすることを目的とする。
【0009】
この発明はさらに,くさびを再利用しやすくすることを目的とする。
【0010】
繊維強化プラスチック製線条体は,炭素繊維,ガラス繊維,ケブラー繊維等の繊維材料と,エポキシ樹脂,ポリアミド樹脂,フェノール樹脂等の樹脂材料とを複合(混合)させた素材を,線条に形成したものである。線条体は長手方向にほぼ一様な断面形状を有し,長さが径に比べて長い。線条体にはケーブル,ロープ,ロッドなどが含まれる。
【0011】
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着構造は,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられ,上記筒状緩衝材が被せられている部分が,端末ソケット内に,内面に滑り止め加工が施されたくさびによって挟まれて固定されているものであって,上記筒状緩衝材が,外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回され,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられたものである。
【0012】
この発明による繊維強化プラスチック製線条体の端末定着方法は,外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回された筒状緩衝材であって,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられた筒状緩衝材を用意し,繊維強化プラスチック製の線条体の末端部分に上記筒状緩衝材を被せ,上記筒状緩衝材が被せられている部分を,内面に滑り止め加工が施されたくさびによって挟み,これを端末ソケット内にくさび止めするものである。
【0013】
この発明は,上述した筒状緩衝材も提供する。この発明による筒状緩衝材は,外面および内面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートの少なくとも外面に細金属線を織った金属製メッシュシートを積層した細長い積層シートがらせん状に巻回されたものであって,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに上記筒状緩衝材が被せられる線条体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように形付けられている。
【0014】
摩擦緩衝シートは,布(クロス),不織布,紙,フィルムなど,厚さ方向に緩衝機能を有するシート材を基材とし,その表面および裏面のそれぞれに,摩擦力を増強するための増摩粒子,たとえばアルミナ粒子,セラミック粒子,ダイヤモンド粒子等を付着させたものである。上記摩擦緩衝シートは,多層,たとえば2層,3層,4層に形成してもよい。
【0015】
金属製メッシュシートは細金属線(金属製の細線材)を細かい網目で織ったものである。細金属線の織り方は任意であり,平織,綾織,亀甲織,タイロッド織,トンキャップ織その他の織り方が採用される。ステンレス,鉄,アルミニウム,真鍮,銅,チタン,インコネル,ハステロイ等,任意の金属素材の細線を用いることができる。
【0016】
細金属線は,この明細書において2.00mm以下の直径の金属線を言う。直径 2.00mmを超える金属線を用いると,複数本の金属線を織った金属製メッシュシートを備える積層シートの強度が高くなりすぎ,積層シートを筒状緩衝材に成形しにくく(筒状に形付けしにくく)なってしまうことがある。直径2.00mm以下の複数本の金属線を織った金属製メッシュシートを用いて積層シートを構成することによって,繊維強化プラスチック製線状体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つように積層シートを形付けしやすい。
【0017】
金属製メッシュシートのメッシュ数(1インチ(25.4mm)あたりの網目の数)は任意とすることができる。もっとも,金属製メッシュシートは繊維強化プラスチック製線条体を覆うものであるから,目開きがあまりにも大きすぎる(網目が粗すぎる)ものでないのが好ましい。
【0018】
繊維強化プラスチック製線条体の末端部分は端末ソケット内にくさび止めされる。たとえば,長手方向に半割りされ,内面が滑り止め加工されたくさび(2分割体(2つの半体)),または長手方向に3つ割り,4つ割りされ,内面が滑り止め加工されたくさび(3分割体,4分割体)によって繊維強化プラスチック製線条体の末端部分を挟み,これを端末ソケットに押し入れる。端末ソケットはくさび状の中空を持つ。繊維強化プラスチック製線条体の末端部分を挟み込むくさびが端末ソケットの中空にきつく押し込まれ,これにより繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に,くさびを介して端末ソケットが定着(固定)される。
【0019】
くさび止めされる繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材が被せられる。すなわち,繊維強化プラスチック製線条体にくさびは直接にはかまされず,線条体とくさびとの間に筒状緩衝材が介在する。くさびが繊維強化プラスチック製線条体をその周囲から強く締め付けることで発生する局部的なせん断力が筒状緩衝材によって緩衝されかつ分散されるので,繊維強化プラスチック製線条体が端末ソケットの位置(くさびの位置)において損傷しにくくなり,高い定着効率(引張強度)を確保することができる。金属製メッシュシートを構成する金属線の直径が細いので,くさびによって周囲から強い力で締め付けられたときに金属製メッシュシートによってFRPケーブルに局部的に強い力がかかることもない。
【0020】
筒状緩衝材は表面および裏面に増摩粒子が付着した摩擦緩衝シートを含むので,長手方向に強く引っ張られても,増摩粒子によって生じる摩擦力によって繊維強化プラスチック製線条体が端末ソケット(くさび)から抜けにくい。もちろん,くさびの内面の滑り止め加工も摩擦力の増強に寄与し,くさびからの線条体の抜けを効果的に防止することができる。くさびの内面の滑り止め加工は,くさび内面の溝加工または凹凸加工でもよいし,くさび内面に金属粒子を固定したものでもよい。
【0021】
くさびの内面には滑り止め加工が施されているので,摩擦緩衝シートがくさびによって周囲から強く締め付けられると,くさびの内面に摩擦緩衝シートが食い込み,摩擦緩衝シートが破損し,摩擦緩衝シートがくさびの内面に硬く付着してしまう(こびりついてしまう)ことがある。この発明によると,摩擦緩衝シートの少なくとも外面に金属製メッシュシートが積層されているので,くさび内面に摩擦緩衝シートが直接に食い込むことはなく,摩擦緩衝シートの破損を防止することができ,その結果くさび内面への摩擦緩衝シートのこびりつきも軽減または防止することができる。このように摩擦緩衝シートの少なくとも外面に積層される金属製メッシュシートは,摩擦緩衝シートの保護材(くさび内面への摩擦緩衝シートのこびりつき防止材)として機能する。もちろん,くさびが繊維強化プラスチック製線条体をその周囲から強く締め付けることで発生する局部的なせん断力は金属製メッシュシートによっても緩衝されかつ分散されるので,金属製メッシュシートは定着効率の向上にも寄与する。くさび内面と摩擦緩衝シートとの間に金属製メッシュシートが介在することで,くさび内面に摩擦緩衝シートが付着しないまたは付着してもその量を少なくすることができるので,くさびを再利用しやすくなる。
【0022】
金属製メッシュシートは摩擦緩衝シートの外面のみならず内面にも重ね合わせてもよい。この場合,繊維強化プラスチック製線条体と摩擦緩衝シートの間に金属製メッシュシートが挟まれ,これらも直接に接触しないことになる。繊維強化プラスチック製線条体が複数本の繊維束を撚り合わせた撚り線によって構成される場合,上記線条体の表面にはらせん状の凹凸(またはらせん状の溝)が形成される。上記線条体に摩擦緩衝シートが直接に接触し,これが周囲から強い力で締め付けられると,上記線条体の表面の凸状部分において摩擦緩衝シートの厚さが薄くなり,凹状部分(溝)において摩擦緩衝シートの厚さが厚くなり,摩擦緩衝シートによる緩衝作用が均一にならなくなることが考えられる。摩擦緩衝シートの内面に金属製メッシュシートを積層することによって摩擦緩衝シートの保形効果が生じるので,線条体の表面の全体にわたって摩擦緩衝シートによる緩衝作用を均一化することができる。
【0023】
さらにこの発明によると,摩擦緩衝シートおよび金属製メッシュシートを積層した積層シートがらせん状に巻き回されて,らせん状の積層シートの側端同士が接触するときに線状体の直径に沿う直径の円筒状の中空を持つようにあらかじめ形付けられている筒状緩衝材が用意される。現場において繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材を被せれば(筒状緩衝材の円筒状中空内に線条体を通せば),それだけで筒状緩衝材の取付けが完了する。線条体に端末ソケットを定着するために要する時間を大幅に短くすることができる。
【0024】
筒状緩衝材は,細長い積層シートを円筒状の中空を確保してらせん状に巻き回したものであるから,らせん方向と逆方向に筒状緩衝材を捻じると,筒状緩衝材にはらせん状の隙間が形成され(側端同士の間にらせん状に隙間があく),これによって筒状緩衝材の中空の直径が拡がる。筒状緩衝材の中空直径を拡げることによって,繊維強化プラスチック製線条体の末端部分に筒状緩衝材を被せやすくなる。筒状緩衝材を繊維強化プラスチック製線条体の末端部に被せた後,筒状緩衝材をらせん方向に捩じると,筒状緩衝材の中空の直径が狭まる。筒状緩衝材は,積層シートの側端同士が接触するときに中空直径が繊維強化プラスチック製線条体の直径に沿う直径(線条体の直径に等しい直径またはわずかに大きい直径)を持つので,筒状緩衝材によって繊維強化プラスチック製線条体の表面を緩みなくしっかりと覆うことができる。
【0025】
テープ材等を用いて,筒状緩衝材の両端部を繊維強化プラスチック製線条体の外表面に固定してもよい。筒状緩衝材の緩みを防止することができる。もちろん,筒状緩衝材が被せられている箇所にくさびを取り付け,これを端末ソケットの中空内に押し込めば,くさびによって筒状緩衝材は周囲から強い力で締め付けられるので,筒状緩衝材が緩むことはない。
【0026】
一実施態様では,摩擦緩衝シートと金属製メッシュシートとが接着剤によって接着されている。摩擦緩衝シートと金属製メッシュシートとがばらけることがないので,現場において筒状緩衝材を線条体にさらに取り付けやすくなる。また,接着剤が硬化する前に積層シートを筒状に形付け,その状態で接着剤を硬化させることで,積層シートに筒状の形状をしっかりと付与することができる。
【0027】
好ましくは,筒状緩衝材の長手方向の長さが上記くさびの長手方向の長さ以上である。くさびによって締め付けられる繊維強化プラスチック製線状体の範囲を,その全長にわたって筒状緩衝材によって覆うことができるので,くさびによるせん断力が繊維強化プラスチック製線条体に局所的に加わることが効果的に防止される。
【0028】
好ましい実施態様では,上記積層シートが,上記金属製メッシュシートの外面にさらに積層された噛み込み防止シートを備えている。くさび内面への摩擦緩衝シートの付着をさらに効果的に防止することができる。噛み込み防止シートは,金属製メッシュシートであってもよいし,金属箔,金属箔付きフィルムであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】端末定着構造を,炭素繊維強化プラスチック製ケーブルの末端に適用した斜視図である。
図2】端末定着構造の製造工程を示す斜視図である。
図3】平坦にした筒状緩衝材(積層シート)の一部破断拡大斜視図である。
図4図3のIV-IV線に沿う筒状緩衝材の拡大断面図である。
図5】端末定着構造の製造工程を示す断面図である。
図6】端末定着構造の製造工程を示す斜視図である。
図7】くさびの内面を示す斜視図である。
図8】端末定着構造の製造工程を示す断面図である。
図9】端末定着構造の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1は,端末定着構造を,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製ケーブル(以下,CFRPケーブル1と呼ぶ)の末端に適用した実施例を示す斜視図である。図1に示す端末定着構造の詳細は,その製造工程を説明することによって明らかになるので,以下,図2図9を参照して図1に示す端末定着構造の製造工程を説明する。
【0031】
CFRPケーブル1は,炭素繊維およびエポキシ樹脂の複合材を材料とする,断面が円形の複数本の撚り線をさらに撚り合わせることで構成されている。撚り線は多数本の連続する炭素繊維と,多数本の炭素繊維に含侵されたエポキシ樹脂によって断面円形に形成されたものである。図1および図2には,1×7構造(1本の撚り線を中心にして,その周囲に6本の撚り線を撚り合わせた構造)を持つCFRPケーブル1が示されている。CFRPケーブル1の構造および直径は任意に設計することができる。
【0032】
CFRPケーブル1の末端部付近に被せられる筒状緩衝材2は,図3に拡大して示す細長い積層シート2A(その構造の詳細は後述する)を筒状に形成したものである。細長い積層シート2Aを,CFRPケーブル1の直径に沿う,好ましくは同じ直径を持つバー(CFRPケーブル1自体でもよい)にらせん状に巻き付け,積層シート2AにCFRPケーブル1の直径とほぼ同じ直径の円筒状の中空を持つ筒形状を付与することで,筒状緩衝材2は作られる。
【0033】
筒状緩衝材2を構成する積層シート2Aの側端同士は接着されていない。このため,たとえば筒状緩衝材2の両端部を両手で掴み,らせん方向と逆方向に捩じる(回転させる)と,隣り合う積層シート2Aの間(側端同士の間)にらせん状のすき間が形成され,筒状緩衝材2の中空の直径が拡がる。逆にらせん方向に沿って筒状緩衝材2を捻じると,隣り合う積層シート2Aの間のすき間が狭まり,積層シート2Aの側端同士が接触する。積層シート2Aの側端同士が接触しているときの筒状緩衝材2の直径が,CFRPケーブル1の直径にほぼ等しい。
【0034】
図3および図4を参照して,積層シート2Aは,その内面から外面に向かって,SUSメッシュシート2e,摩擦緩衝シート2d,SUSメッシュシート2c,およびSUSメッシュシート2aを,この順番に積層することによって作られる。最内層のSUSメッシュシート2eがCFRPケーブル1に,最外層のSUSメッシュシート2aが後述するくさび6に,それぞれ接触する。なお,SUSとは 1.2%以下の炭素および10.5%以上のクロムを含み,鉄以外の元素の合計が50%を超えない合金鋼を意味し,錆にくい特殊鋼である。SUSと同等の強度を持つ他の金属または合金,たとえばステンレス,鉄,アルミニウム,真鍮,銅,チタン,インコネル,ハステロイ,これらの合金等を用いることもできる。
【0035】
SUSメッシュシート2c,2eは,たとえば直径0.47mmの比較的細い線径を持つ多数本のSUS細線を平織した織金網である。平織に代えて,綾織,亀甲織,タイロッド織,トンキャップ織その他の織り方でSUS細線を織ってもよい。積層シート2A(図3)を筒状緩衝材2(図2)に形付けやすくするために,SUSメッシュシート2c,2eを構成するSUS細線には2.00mm以下の直径を有するものが用いられる。
【0036】
摩擦緩衝シート2dは,合成繊維クロスの表面および裏面に,多数のアルミナ粒子3を増摩材として接着(塗布)したものである。アルミナ粒子3は摩擦力を増強するために用いられる(図4においてはアルミナ粒子3の図示が省略されている)。摩擦緩衝シート2d単層の厚さに応じて,複数枚の摩擦緩衝シート2dを重合わせて用いることができ,図4には4枚の摩擦緩衝シートが重ねられて用いられている態様が示されている。
【0037】
合成繊維クロスに代えてその他のクロス,不織布,紙,フィルム等,厚さ方向に緩衝機能を有するシート材を摩擦緩衝シート2dとして用いてもよい。
【0038】
最外層のSUSメッシュシート2aは,たとえば直径0.47mmの多数本のSUS細線を平織または綾織した織金網である。最外層のSUSメッシュシート2aもSUS以外の金属または合金を用いることができ,SUSメッシュシート2aを構成するSUS細線もその直径が2.00mm以下のものが用いられる。SUSメッシュシート2aについては,SUS細線を織ったメッシュシートに代えて,金属箔,金属箔付きフィルムシートを用いることもできる。
【0039】
図4を参照して,最外層のSUSメッシュシート2aとこれに隣り合うSUSメッシュシート2cとの間に接着剤2bが塗布されている。接着剤2bは,SUSメッシュシート2a,SUSメッシュシート2c,摩擦緩衝シート2d,SUSメッシュシート2eに浸透し,これによって積層シート2Aを構成するすべてのSUSメッシュシート2a,2c,2eおよび摩擦緩衝シート2dは互いに接着されて一体化される。図4には接着剤2bが厚さを持つように強調して描かれているが,接着剤2bは上述のように浸透するので,厚さはほとんど無くなる。接着剤2bは最外層のSUSメッシュシート2aの外側から供給してもよいし,各シート間に供給してもよい。
【0040】
積層シート2Aを,CFRPケーブル1の直径に沿う直径のバーに側部同士を接触させてらせん状に巻き付けてしばらく放置することによって,積層シート2Aを構成するSUSメッシュシート2a,2c,2eが塑性変形し,上述したようにCFRPケーブル1の直径に沿う直径の中空を持つ筒形状が付与されて筒状緩衝材2となる。もちろん,接着剤2bも筒形状の保持に役立つ。
【0041】
図2を参照して,CFRPケーブル1に筒状緩衝材2を通し,CFRPケーブル1の末端部に筒状緩衝材2を被せる。筒状緩衝材2の長さは後述するくさび6の長手方向の長さよりも長ければよい。CFRPケーブル1の末端部の外周面を包むようにして筒状緩衝材2はCFRPケーブル1の外周面に被せられる。筒状緩衝材2に緩みが生じてらせん状のすき間が生じている場合には,らせん方向に筒状緩衝材2を捻じればよい。CFRPケーブル1に緩みなく(隙間なく)筒状緩衝材2が被せられる。
【0042】
筒状緩衝材2の両端を,粘着テープ等を用いてCFRPケーブル1の末端部付近に簡易に固定するようにしてもよい。筒状緩衝材2の一端または両端にあらかじめ粘着テープ等を設けておき(固定しておき),これをCFRPケーブル1に巻き付けることによって,筒状緩衝材2をCFRPケーブル1の末端部付近に固定してもよい。
【0043】
図1図5図6および図7を参照して,端末ソケット(端末スリーブ)5および4つのくさび6が用意される。端末ソケット5は,金属製(たとえばステンレス鋼製または鉄製)で,その外形は円筒状であり,内部に概略円錐状の中空5aを持つ。また端末ソケット5の末端部付近の外周面にはねじ溝5dが形成されている。端末ソケット5の口の小さい開口5b側から,端末ソケット5の中空5aに筒状緩衝材2が被せられたCFRPケーブル1の端末部が挿入され,口の大きい開口5c側から外に出される。
【0044】
端末ソケット5の外に出たCFRPケーブル1の端末部に,4つのくさび6を装着する。4つのくさび6はいずれも同一形状であり,その内面に長手方向に浅い窪み6aが形成され,窪み6aにはくさび6の長手方向に直交する方向に複数の溝(凹凸,刃,歯)6bが形成されている。窪み6aの形状(深さを含む)は長手方向において同一である。他方,くさび6の肉厚は先端から末端に向かうにしたがって厚くなっている。4つのくさび6を組み合わせると概略円錐状の外形となり(図6),端末ソケット5の中空5aの形状とほぼ合致する。くさび6の内面の窪み6a中の複数の溝6bは滑り止め(摩擦力向上)のために形成されている。
【0045】
くさび6の内面の窪み6aは浅く,CFRPケーブル1の末端部分(筒状緩衝材2が位置している部分)はその全体が窪み6aに入り込まず,CFRPケーブル1の末端部分を挟み込んだ状態において,隣り合うくさび6の間には長手方向に隙間があく。
【0046】
図8を参照して,端末ソケット5の口の大きい開口側から,くさび6を端末ソケット5の中空5aに押し込む。図9を参照して,くさび6をさらに強く端末ソケット5に押込むと,4つのくさび6が端末ソケット5の内壁によって周囲から押さえつけられて締付けられる。これよりCFRPケーブル1の末端部に,くさび6,さらには上述した筒状緩衝材2を介して,端末ソケット5が固定される(図1)。
【0047】
表1は,構造の異なる6個の端末定着構造(実施例1~5,比較例)のそれぞれについて行った評価試験の試験結果を示している。
【0048】
【表1】
【0049】
評価試験では,表1に示すように,摩擦緩衝シート2dの外面および内面のそれぞれにSUSメッシュシート2c,2eを積層し,さらに外側のSUSメッシュシート2c上にさらにSUSメッシュシート2aを積層した積層シート2A(図2図3参照)から形成される筒状緩衝材2を用いて,端末定着構造を作製し,作製した端末定着構造について引張試験を行った(実施例1)。また,SUSメッシュシート2aに代えてアルミメッシュシート(アルミニウム線を平織したメッシュシート)を積層した筒状緩衝材を用いて作成した端末定着構造についても引張試験を行った(実施例2)。
【0050】
評価試験ではさらに,最外層のSUSメッシュシート2aおよび最内層のSUSメッシュシート2eを設けずに,摩擦緩衝シート2dと摩擦緩衝シート2dの外面に積層されるSUSメッシュシート2cとを備える積層シートから構成される筒状緩衝材を用いて作成した端末定着構造(実施例3),最外層のSUSメッシュシート2aを設けずに,摩擦緩衝シート2dと摩擦緩衝シート2dの内外面に積層されるSUSメッシュシート2c,2eを備える積層シートから構成される筒状緩衝材を用いて作成した端末定着構造(実施例4),最外層のSUSメッシュシートに代えてポリエステル線を織ったポリエステル製メッシュシートを最外層に積層した積層シートから構成される筒状緩衝材を用いて作成した端末定着構造(実施例5),および摩擦緩衝シート2dのみから構成される筒状緩衝材を用いて作成した端末定着構造(比較例)のそれぞれについても,引張試験を行った。
【0051】
CFRPケーブル1としては,炭素繊維およびエポキシ樹脂の複合材を材料とする直径約5.00mmの撚り線を1×7構造(1本の撚り線を中心にしてその周囲に6本の撚り線を撚り合わせたもの)とした直径約15.2mmのものを用いた。このCFRPケーブル1の保証破断荷重は270kNである。
【0052】
引張試験では,所定の長さのCFRPケーブル1の一端に,上述したくさび6を用いた端末定着構造によって端末ソケット5を固定し,他端は熱硬化性樹脂を用いた端末定着構造によって端末ソケットを固定した。両端の端末ソケットを引張試験機にセットし,所定の引張速度で,熱硬化性樹脂を用いた端末定着構造を持つ一方の端末ソケットを引っ張った。
【0053】
評価試験では,比較例を除いて,端末定着構造のそれぞれについて複数回の定着効率試験を行い,複数回の試験のそれぞれにおいて定着効率(%)を算出した。表1,表2には,比較例を除いて,複数回の試験において得られた定着効率(%)の最小値(Min.)および最大値(Max.)が示されている。定着効率は次式によって算出される。
【0054】
定着効率(%)
=破断荷重(または抜け荷重)/保証破断荷重(=270kN)×100
【0055】
また,評価試験では定着時間も計測した。上述したように,CFRPケーブル1の末端に筒状緩衝材を取り付け,くさび6を取り付け,最後に端末ソケット5内にくさび6を押し込み,これによってCFRPケーブル1の末端部に端末ソケット5が固定される。表1の「定着時間」には,筒状緩衝材の取付けに要する時間が1分未満であったものについて「OK」が示されている。
【0056】
さらに,評価試験では,上述した定着効率試験を終えた後に,端末ソケット5からくさび6を引抜き,くさび6を分解し,くさび6の内面に摩擦緩衝シート2d等が付着しているかどうかを目視によって確認した。表1の「くさびへの付着」には,摩擦緩衝シート2d等の付着が確認できなければ「無し」,付着が確認できれば「有り」が示されている。
【0057】
表1の評価欄には,A,BまたはCのいずれかが示されている。Aは端末定着構造への採用に適する端末定着構造であることを,Bは採用可能である端末定着構造であることを,Cは採用に適さない端末定着構造であることを,それぞれ表している。
【0058】
表1を参照して,実施例1~5および比較例のいずれについても,定着時間が1分を超えることはなかった。筒状緩衝材は現場における端末定着作業に適することが分かる。
【0059】
また,表1を参照して,実施例1~5および比較例のいずれについても,定着効率の最小値が100%以上であり,保証破断荷重を下回ることはなかった。少なくとも摩擦緩衝シート2dをCFRPケーブル1とくさび6との間に介在させることによって,保証破断荷重未満の荷重でCFRPケーブル1が破断したり,端末ソケット5からCFRPケーブル1が抜け出てしまうことはなかったものである。
【0060】
もっとも,筒状緩衝材を摩擦緩衝シート2dのみで構成する(比較例)と定着効率の最大値を計測することができず,筒状緩衝材を摩擦緩衝シート2dと摩擦緩衝シート2dの外面に積層されるSUSメッシュシート2cとで構成する(実施例3)と,定着効率の最大値が100%に近い値となった。定着効率の最大値に余裕を持たせるとすれば,摩擦緩衝シート2dの外面および内面の両面にSUSメッシュシート2c,2eを積層するのが好ましいことが分かる(実施例1~2,実施例4~5)。
【0061】
CFRPケーブル1は複数本の繊維束を撚り合わせた撚り線によって構成されているので(図1図2参照),CFRPケーブル1の表面には凹凸(またはらせん状の溝)が形成される。CFRPケーブル1に直接に摩擦緩衝シート2dが接触しており,これが周囲から強い力で締め付けられると,CFRPケーブル1の表面の凸状部分において摩擦緩衝シート2dの厚さが薄くなり,凹状部分(溝)において摩擦緩衝シート2dの厚さが厚くなり,摩擦緩衝シート2dによる緩衝作用が均一にならなくなることが考えられる。実施例3と実施例4を参照して,摩擦緩衝シート2dの内面にもSUSメッシュシート2eを積層することによって摩擦緩衝シート2dの保形効果が生じ,これによってCFRPケーブル1の表面の全体にわたって摩擦緩衝シート2dによる緩衝作用が均一化され,定着効率が向上すると考えられる。
【0062】
実施例5は,摩擦緩衝シート2dの内外面にSUSメッシュシート2c,2eを積層し,さらに最外層にポリエステル製メッシュシートを積層した筒状緩衝材を用いたものであるが,定着効率の最小値がやや低い値となった。これは,最外層のポリエステル製メッシュシートが潰れやすく,ポリエステル製メッシュシートとこれに接するくさび6との間の摩擦力が弱まる(くさび6の内面の溝6bがポリエステル製メッシュシートに強く擦れあわない)ためであると考えられる。筒状緩衝材の最外層を構成する素材には金属素材が適していると考えられる。
【0063】
実施例1~5および比較例の端末定着構造について,引張試験を終えた後,端末ソケット5からくさび6を引抜き,くさび6を分解したところ,比較例の端末定着構造については摩擦緩衝シート2dがひどく破損しており,くさび6の内面の窪み6a中に摩擦緩衝シート2dが広範囲にわたって硬く付着する(こびりつく)ことが確認された。これは,くさび6の内面の窪み6aには,上述したように,滑り止めのための複数の溝(凹凸,刃,歯)6bが形成されており(図7参照),くさび6の内面が摩擦緩衝シート2dに強く擦れあい,その結果,摩擦緩衝シート2dが破損して溝6b内にきつく埋め込まれたものと考えられる。くさび6を再利用する場合,くさび6の内面に付着した摩擦緩衝シート2dは完全に取り除かなければならず,これにはかなりの時間が必要とされる。摩擦緩衝シート2dのくさび6の内面への付着は,比較例ほど広範囲ではないものの,実施例3~5でも確認された。他方,実施例1~2では,くさび6の内面に摩擦緩衝シート2dが付着することはなかった。くさび6の再利用を必要とする場合には,摩擦緩衝シート2dの少なくとも外面には金属製メッシュシートを積層するのが好ましいこと,より好ましくはくさび6の内面への摩擦緩衝シート2dの付着を防止するシート(上述した最外層のSUSメッシュシート2a)(噛み込み防止シート)をさらに積層するとよいことが分かる。
【0064】
実施例1~2を参照して,摩擦緩衝シート2dの外内面にSUSメッシュシート2c,2eを積層し,かつ最外層にさらにSUSメッシュシート2aを積層した筒状緩衝材2については,定着効率が高く,定着時間が短く,くさび6への付着もないことが確認された。また,最外層のSUSメッシュシート2aを構成する金属線材の線径は,定着効率にさほどの影響を与えないことも確認された。なお,SUSメッシュシート2aに代えてアルミニウム製メッシュシートを最外層に積層させた実施例2についても,実施例1と同様に高評価を得ることができた。
【符号の説明】
【0065】
1 CFRPケーブル
2 筒状緩衝材
2A 積層シート
2a,2c,2e SUSメッシュシート
2b 接着剤
2d 摩擦緩衝シート
3 アルミナ粒子
5 端末ソケット
6 くさび
6b 溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9