(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/00 20060101AFI20220803BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20220803BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20220803BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20220803BHJP
B60C 11/01 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B60C11/00 E
B60C11/03 100C
B60C11/13 C
B60C11/00 D
B60C11/12 A
B60C11/12 D
B60C11/01 B
(21)【出願番号】P 2019110817
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】冨田 達也
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-504307(JP,A)
【文献】特表2015-512352(JP,A)
【文献】実開昭61-132105(JP,U)
【文献】特開2002-114010(JP,A)
【文献】特開2013-133084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向溝を有し、
前記幅方向溝は、溝底側に、溝幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記幅方向溝の前記拡幅部の溝幅が、前記幅方向溝の前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側の溝深さ位置を基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向サイプを有し、
前記幅方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記幅方向サイプの前記拡幅部のサイプ幅が、前記幅方向サイプの前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側のサイプ深さを基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項3】
トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド周方向に延びる1本以上の周方向サイプを有し、
前記周方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記周方向サイプの前記拡幅部のサイプ幅が、前記周方向サイプの前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側のサイプ深さを基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記基準深さ位置における幅が最大幅ではなく、
前記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、前記基準深さ位置から、前記拡幅部が最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記タイヤ径方向領域は、前記拡幅部のタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域である、請求項1~4のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
トレッド周方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記幅方向溝の前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である、請求項1又は請求項1に従属する請求項4若しくは5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
トレッド周方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記幅方向サイプの前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である、請求項2又は請求項2に従属する請求項4若しくは5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
トレッド幅方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記周方向サイプの前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である、請求項3又は請求項3に従属する請求項4若しくは5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、前記第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.5倍以上である、請求項1~8のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、前記第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.8倍以上である、請求項1~9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記幅方向溝を有する、請求項1又は請求項1に従属する請求項4~6、9、10のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記幅方向サイプを有する、請求項2又は請求項2に従属する請求項4、5、7、9、10のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記周方向サイプを有する、請求項3又は請求項3に従属する請求項4、5、8~10のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩耗進展時のタイヤの排水性を向上させる技術として、タイヤのトレッド踏面に、摩耗進展時に溝幅が大きくなる溝を設けることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、摩耗進展時に溝幅が大きくなる部分が現れようとする際に、かかる部分の剛性が低くなって局所摩耗を生じさせ、タイヤに偏摩耗を生じさせるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向溝を有し、
前記幅方向溝は、溝底側に、溝幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記幅方向溝の前記拡幅部の溝幅が、前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側の溝深さ位置を基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
これによれば、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0007】
(2)トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向サイプを有し、
前記幅方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記幅方向サイプの前記拡幅部のサイプ幅が、前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側のサイプ深さを基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
これによっても、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0008】
(3)トレッド踏面に、トレッド周方向に延びる複数本の周方向主溝と、前記複数本の周方向主溝のうちトレッド幅方向に隣接する前記周方向主溝間に、又は、前記周方向主溝とトレッド端とにより、区画される複数の陸部と、を有する空気入りタイヤであって、
前記陸部に、トレッド周方向に延びる1本以上の周方向サイプを有し、
前記周方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅が前記トレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、
前記空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、前記周方向サイプの前記拡幅部のサイプ幅が、前記トレッド踏面における開口幅の2.5倍以上となるタイヤ径方向最外側のサイプ深さを基準深さ位置とするとき、
少なくとも前記基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、前記拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
これによっても、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0009】
ここで、「トレッド踏面」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填して、最大負荷荷重を負荷した際に路面と接地することとなるトレッド表面の、トレッド周方向全域にわたる面をいう。
また、「周方向主溝」とは、トレッド周方向に延び、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記トレッド踏面における開口幅が、1.5mm以上のものをいう。
また、「トレッド端」とは、上記トレッド踏面のタイヤ幅方向両側の最外側点をいう。
また、「幅方向溝」とは、トレッド幅方向に延び、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記トレッド踏面における開口幅が、1.0mm以上のものをいう。
また、「幅方向サイプ」とは、トレッド幅方向に延び、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記トレッド踏面における開口幅が、1.0mm未満のものをいう。
また、「周方向サイプ」とは、トレッド周方向に延び、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記トレッド踏面における開口幅が、1.5mm未満のものをいう。
また、「貯蔵弾性率」とは、JIS K7244に準拠し、温度25℃で測定したものをいうものとする。
【0010】
本明細書において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
また、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれかにおいて、前記基準深さ位置における幅が最大幅ではなく、前記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、前記基準深さ位置から、前記拡幅部が最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含むことが好ましい。
この構成によれば、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
なお、「最大幅となるタイヤ径方向位置」がタイヤ径方向に幅を有する場合には、該領域のタイヤ径方向最外側の位置をいう。
【0012】
(5)上記(1)~(4)のいずれかにおいて、前記タイヤ径方向領域は、前記拡幅部のタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域であることが好ましい。
この構成によれば、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0013】
(6)上記(1)又は上記(1)における上記(4)若しくは(5)において、トレッド周方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記幅方向溝の前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
なお、「厚さt」は、厚さが一定でない場合には、最大厚さをいうものとする。
【0014】
(7)上記(2)又は上記(2)における上記(4)若しくは(5)において、トレッド周方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記幅方向サイプの前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0015】
(8)上記(3)又は上記(3)における上記(4)若しくは(5)において、トレッド周方向断面視における、前記第1のトレッドゴムの、前記周方向サイプの前記拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0016】
(9)上記(1)~(8)のいずれかにおいて、前記第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、前記第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.5倍以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を特に抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0017】
(10)上記(1)~(9)のいずれかにおいて、前記第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、前記第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.8倍以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに特に抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0018】
(11)上記(1)又は上記(1)における(4)~(6)、(9)、(10)において、少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記幅方向溝を有することが好ましい。
この構成によれば、特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0019】
(12)上記(2)又は上記(2)における(4)、(5)、(7)、(9)、(10)において、少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記幅方向溝を有することが好ましい。
この構成によれば、特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0020】
(13)上記(3)又は上記(3)における(4)、(5)、(8)~(10)において、少なくともトレッド端により区画される前記陸部に、前記拡幅部を有する前記幅方向溝を有することが好ましい。
この構成によれば、特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【
図2】幅方向溝の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【
図4】幅方向サイプの一例を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の別の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【
図6】周方向サイプの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
ここで、空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも称する)の内部構造等については、従来のものと同様の構造とすることができる。一例としては、該タイヤは、一対のビード部と、該一対のビード部に連なる一対のサイドウォール部と、該一対のサイドウォール部間に配置されたトレッド部とを有するものとすることができる。また、該タイヤは、一対のビード部間をトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルトと、を有するものとすることができる。
以下、特に断りのない限り、寸法等は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷状態とした際の寸法等を指す。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【0025】
図1に示すように、本例のタイヤは、トレッド踏面1に、トレッド周方向に延びる複数本(図示例では3本)の周方向主溝2(2a、2b、2c)と、複数本の周方向主溝2のうちトレッド幅方向に隣接する周方向主溝2間に、又は、周方向主溝2(2a、2c)とトレッド端TEとにより、区画される複数(図示例では4つ)の陸部3(3a、3b、3c、3d)と、を有している。この例では、1つの周方向主溝2bは、タイヤ赤道面CL上に位置しており、他の周方向主溝2a、2cは、それぞれタイヤ赤道面CLを境界としたトレッド幅方向の一方の半部、他方の半部に位置している。そして、この例では、各トレッド幅方向半部に2つずつの陸部3が配置されている。図示のように、陸部3b、3cは、トレッド幅方向中央側の陸部であり、陸部3a、3dは、トレッド端TEに隣接する陸部である。
【0026】
図1に示した例では、周方向主溝2の本数は、3本であるが、2本又は4本以上とすることもできる。従って、陸部3の個数も、3つ又は5つ以上とすることができる。また、本例では、全ての陸部がリブ状陸部3であるが、少なくとも1つの陸部が、非リブ状陸部、すなわちブロック状陸部であっても良い。なお、「リブ状陸部」とは、陸部が、トレッド幅方向に延びる幅方向溝によってトレッド周方向に完全に分断されていない陸部をいう。従って、本明細書においては、幅方向サイプによってトレッド周方向に完全に分断されていても、「リブ状陸部」である。
【0027】
周方向主溝2の溝幅(開口幅(平面視において、溝の延在方向に対して垂直に測った開口幅))は、周方向主溝2の本数にもよるため特には限定されないが、例えば5~25mmとすることができる。同様に、周方向主溝2の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば6~18mmとすることができる。
【0028】
図示例では、トレッド踏面1の平面視において、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1つの周方向主溝2がトレッド周方向に対して傾斜して延びていても良く、その場合、トレッド周方向に対して、例えば5°以下の角度で傾斜して延びるものとすることができる。また、図示例では、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の周方向主溝2が、ジグザグ状、湾曲状などの形状を有していても良い。
【0029】
図示例では、各陸部3は、トレッド幅方向に延びる幅方向溝4を複数本有している。具体的には、本例では、トレッド端TEに隣接する(図示例でリブ状の)陸部3a、3dにおいては、トレッド端TEからトレッド幅方向内側に延びて(図示例でリブ状の)陸部3a、3d内で終端する幅方向溝4を、図示の範囲で3本ずつ有している。また、トレッド幅方向中央側の(図示例でリブ状の)陸部3b、3cにおいては、タイヤ赤道面CL上に位置する周方向主溝2bからトレッド幅方向外側に延びて(図示例でリブ状の)陸部3b、3c内で終端する幅方向溝4を図示の範囲で3本ずつ有している。幅方向溝4の本数は適宜設定することができる。なお、図示例では、全ての陸部3が幅方向溝4を有しているが、トレッド踏面1に幅方向溝4を有する場合は、いずれかの陸部3が幅方向溝4を有していれば良く、トレッド端TEにより区画される陸部3(図示例では陸部3a、3d)が幅方向溝4を有していることが好ましい。
ここで、幅方向溝4の溝幅(開口幅(平面視において、溝の延在方向に対して垂直に測った開口幅))は、幅方向溝4の本数にもよるため特には限定されないが、例えば1.0~1.5mmとすることができる。同様に、幅方向溝4の溝深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば4~18mmとすることができる。
なお、図示例では、いずれの幅方向溝4も、トレッド幅方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1本の幅方向溝4がトレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド幅方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、また、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましい。また、図示例では、幅方向溝4は、いずれも、トレッド幅方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の幅方向溝4が、屈曲した部分を有していても良い。
ここで、幅方向溝4は、排水性を向上させる観点から、例えば図示例のように、トレッド端TE又は周方向主溝2に開口していることが好ましい。一方で、陸部3の剛性を高めるために、幅方向溝4は、トレッド端TE及び周方向主溝2のいずれにも開口せず、両端が陸部3内で終端するものとすることもできる。また、トレッド幅方向に隣接する2本の周方向主溝2間に区画される陸部3においては、幅方向溝4は、該2本の周方向主溝2のうちいずれの方に開口していても良い。
【0030】
図示例では、各陸部3に複数本の幅方向溝4を有し、サイプを有していない。一方で、少なくとも1以上の陸部3において、幅方向溝4に代えて、あるいは、幅方向溝4に加えて、サイプを有する構成とすることもできる。なお、陸部3がサイプを有する実施形態については、後述する。
【0031】
図2は、幅方向溝の一例を模式的に示す断面図である。
図2は、トレッド幅方向に沿って延びる幅方向溝のトレッド周方向断面図である。
図2は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態を示している。
図2に示す例では、幅方向溝4は、トレッド踏面1側に、溝幅(断面視において、トレッド踏面に平行に測った幅)が(トレッド踏面1での開口幅に等しく)一定である、溝幅一定部分4aを有し、且つ、溝底側に、溝幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部4bを有している。図示例では、拡幅部4bは、断面視円形であり、タイヤ径方向の中央で最大幅W2をとる。一方で、拡幅部4bは、様々な形状とすることができ、他にも、例えば断面楕円形(タイヤ径方向の長さがタイヤ周方向の長さより大きくても小さくても良い)、矩形状等とすることができる。
なお、本例では、拡幅部4bよりタイヤ径方向外側の部分は、溝幅が一定である溝幅一定部分4aとしているが、当該部分は、溝幅が変化する部分とすることもできる。
【0032】
溝幅一定部分4aの溝幅W1は、特には限定されないが、例えば1.0~1.5mmとすることができる。拡幅部4bの最大幅W2は、特には限定されないが、例えば1.2~6.0mmとすることができる。幅方向溝の溝深さhは、特には限定されないが、例えば4.0~18.0mmとすることができる。なお、幅方向溝4の溝底における溝幅は、2.5W1より大きいことが好ましい。
溝幅一定部分4aの深さ方向の延在長さh1は、特には限定されないが、例えば2~12mmとすることができる。拡幅部4bの深さ方向の延在長さh2は、特には限定されないが、例えば1.5~8.0mmとすることができる。
【0033】
ここで、
図2に示すように、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、幅方向溝4のトレッド踏面1における開口幅(すなわち、本例では、サイプ幅一定部分4aの幅)をW1とするとき、拡幅部4の溝幅が2.5W1以上となるタイヤ径方向最外側の溝深さ位置を基準深さ位置Dとする。
上記基準深さ位置Dでは、通常、摩耗進展時において剛性が低くなり始める。
そして、本実施形態のタイヤでは、少なくとも基準深さ位置Dを含むタイヤ径方向領域において、拡幅部4bにより区画され、該拡幅部4bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG1の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG1の周囲の領域の第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率より大きい(具体的には、本実施形態では、第1のトレッドゴムG1の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率の1.5倍以上である)。
本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置Dから、拡幅部4bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含み、本例では、拡幅部4bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域である。
本例では、第1のトレッドゴムG1が拡幅部4bを殻状に覆っている。
本例において、第1のトレッドゴムG1は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する円環状である。なお、拡幅部4bが、トレッド周方向断面において、楕円形の場合には、第1のトレッドゴムG1は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する楕円形の環状とすることができ、また、拡幅部4bが、トレッド周方向断面において、矩形の場合には、第1のトレッドゴムG1は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する矩形の環状とすることができる。
また、本実施形態では、トレッド周方向断面視における、第1のトレッドゴムG1の、拡幅部4bの輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である。なお、本例では、第1のトレッドゴムG1の厚さtは、一定である。一方で、第1のトレッドゴムG1の厚さtは、変化していても良い。この場合、例えば、第1のトレッドゴムG1の厚さtを、タイヤ径方向内側から外側に向かって、漸増又は漸減するものとすることができる。
上記第1のトレッドゴムG1は、平面視で、幅方向溝4の延在方向の少なくとも一部の領域に存在していれば良いが、平面視で、幅方向溝4の延在方向の全域にわたって存在していることが好ましい。
以下、本実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0034】
本実施形態の空気入りタイヤは、陸部3に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向溝4を有し、幅方向溝4は、溝底側に、溝幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部4bを有している。これにより、摩耗進展時において溝幅の大きい拡幅部4bがトレッド表面に露出することで、摩耗進展時の排水性を向上させることができる。
そして、本実施形態の空気入りタイヤは、少なくとも基準深さ位置Dを含むタイヤ径方向領域において、拡幅部4bにより区画され、該拡幅部4bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG1の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG1の周囲の領域の第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率より大きい。これにより、摩耗進展時に、基準深さ位置D及びその付近の剛性を高めて、局所摩耗を抑制し、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤによれば、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置Dから、拡幅部4bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含むため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。特に、本例では、上記タイヤ径方向領域は、拡幅部4bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
また、本実施形態では、トレッド周方向断面視における、第1のトレッドゴムG1の、拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
さらにまた、本実施形態では、第1のトレッドゴムG1の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率の1.5倍以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を特に抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0036】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図3は、本発明の他の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
図3に示すトレッドパターンは、
図1に示したトレッドパターンと比較して、各陸部3が、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向サイプ5をさらに有している点で異なっている。
図3に示す他の実施形態における、周方向主溝2、陸部3、及び幅方向溝4については、図示の構成やその変形例も含め、
図1に示した一実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略し、以下、主に幅方向サイプ5について例示説明する。
【0037】
図示例では、各陸部3は、トレッド幅方向に延びる幅方向サイプ5を複数本有している。具体的には、本例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dにおいては、周方向主溝2a、2cのそれぞれからトレッド幅方向外側に延びて陸部3a、3d内で終端する幅方向サイプ5を、図示の範囲で3本ずつ有している。また、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cにおいては、周方向主溝2a、2cのそれぞれからトレッド幅方向内側に延びて陸部3b、3c内で終端する幅方向サイプ5を図示の範囲で3本ずつ有している。幅方向サイプ5の本数は適宜設定することができる。なお、図示例では、全ての陸部3が幅方向サイプ5を有しているが、トレッド踏面1に幅方向サイプ5を有する場合は、いずれかの陸部3が幅方向サイプ5を有していれば良く、トレッド端TEにより区画される陸部3(図示例では陸部3a、3d)が幅方向サイプ5を有していることが好ましい。
ここで、幅方向サイプ5のサイプ幅(開口幅(幅方向サイプ5の延在方向に対して垂直に測った開口幅))は、幅方向サイプ5の本数にもよるため特には限定されないが、例えば0.2~1.0mmとすることができる。同様に、幅方向サイプ5のサイプ深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば4.0~18.0mmとすることができる。
なお、図示例では、いずれの幅方向サイプ5も、トレッド幅方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1本の幅方向サイプ5がトレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド幅方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、また、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましい。また、図示例では、幅方向サイプ5は、いずれも、トレッド幅方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の幅方向サイプ5が、屈曲した部分を有していても良い。
ここで、幅方向サイプ5は、排水性を向上させる観点から、トレッド端TE又は図示例のように周方向主溝2に開口していることが好ましい。一方で、陸部3の剛性を高めるために、幅方向サイプ5は、トレッド端TE及び周方向主溝2のいずれにも開口せず、両端が陸部3内で終端するものとすることもできる。また、トレッド幅方向に隣接する2本の周方向主溝2間に区画される陸部3においては、幅方向サイプ5は、該2本の周方向主溝2のうちいずれの方に開口していても良い。
【0038】
ここで、図示例では、幅方向溝4と幅方向サイプ5とがトレッド周方向で見た際に、交互に配置されている。これにより陸部3の剛性のバランスをより適正化することができる。一方で、トレッド周方向で見た際に、トレッド周方向に隣接する2つの幅方向サイプ5間に幅方向溝4が2本以上連続して配置されている箇所を有していても良く、また、レッド周方向に隣接する2つの幅方向溝4間に幅方向サイプ5が2本以上連続して配置されている箇所を有していても良い。
また、図示例では、幅方向溝4及び幅方向サイプ5は、いずれも陸部3のトレッド幅方向中央で終端しているが、幅方向溝4と幅方向サイプ5とは、トレッド周方向に投影した際に重なる部分を有していても良く、あるいは、重ならないように配置しても良い。
【0039】
図4は、幅方向サイプの一例を模式的に示す断面図である。
図4は、トレッド幅方向に沿って延びる幅方向サイプのトレッド周方向断面図である。
図4は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態を示している。
図4に示す例では、幅方向サイプ5は、トレッド踏面1側に、サイプ幅(断面視において、トレッド踏面1に平行に測った幅)が(トレッド踏面1での開口幅に等しく)一定である、サイプ幅一定部分5aを有し、且つ、溝底側に、溝幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部5bを有している。図示例では、拡幅部5bは、断面視円形であり、タイヤ径方向の中央で最大幅W4をとる。一方で、拡幅部5bは、様々な形状とすることができ、他にも、例えば断面楕円形(タイヤ径方向の長さがタイヤ周方向の長さより大きくても小さくても良い)、矩形状等とすることができる。
なお、本例では、拡幅部5bよりタイヤ径方向外側の部分は、溝幅が一定である溝幅一定部分5aとしているが、当該部分は、溝幅が変化する部分とすることもできる。
【0040】
サイプ幅一定部分5aのサイプ幅W3は、特には限定されないが、例えば0.2~1.0mmとすることができる。拡幅部5bの最大幅W4は、特には限定されないが、例えば1.2~6.0mmとすることができる。幅方向サイプ5のサイプ深さgは、特には限定されないが、例えば4.0~18.0mmとすることができる。なお、幅方向サイプ5のサイプ底におけるサイプ幅は、2.5W3より大きいことが好ましい。
サイプ幅一定部分5aの深さ方向の延在長さg1は、特には限定されないが、例えば2~12mmとすることができる。拡幅部5bの深さ方向の延在長さg2は、特には限定されないが、例えば1.5~8.0mmとすることができる。
【0041】
ここで、
図4に示すように、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、幅方向サイプ5のトレッド踏面1における開口幅をW3とするとき、拡幅部5bの溝幅が2.5W3以上となるタイヤ径方向最外側の溝深さ位置を基準深さ位置D´とする。
上記基準深さ位置D´では、通常、摩耗進展時において剛性が低くなり始める。
なお、製造性の観点から、基準深さ位置Dと基準深さ位置D´とは同じ深さであることが好ましいが、異ならせることもでき、基準深さ位置Dを基準深さ位置D´より大きくすることも小さくすることもできる。
そして、本実施形態のタイヤでは、少なくとも基準深さ位置D´を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部5bにより区画され、該拡幅部5bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG3の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG3の周囲の領域の第2のトレッドゴムG4の貯蔵弾性率より大きい(具体的には、本実施形態では、第1のトレッドゴムG3の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG4の貯蔵弾性率の1.5倍以上である)。
本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置D´から、拡幅部5bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含み、本例では、拡幅部5bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域である。
本例では、第1のトレッドゴムG3が拡幅部5bを殻状に覆っている。
本例において、第1のトレッドゴムG3は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する円環状である。なお、拡幅部5bが、トレッド周方向断面において、楕円形の場合には、第1のトレッドゴムG3は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する楕円形の環状とすることができ、また、拡幅部5bが、トレッド周方向断面において、矩形の場合には、第1のトレッドゴムG3は、トレッド周方向断面において、途切れ部を有する矩形の環状とすることができる。
また、本実施形態では、トレッド周方向断面視における、第1のトレッドゴムG1の、拡幅部5bの輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である。なお、本例では、第1のトレッドゴムG1の厚さtは、一定である。一方で、第1のトレッドゴムG1の厚さtは、変化していても良い。この場合、例えば、第1のトレッドゴムG1の厚さtを、タイヤ径方向内側から外側に向かって、漸増又は漸減するものとすることができる。
なお、幅方向サイプ5を区画するトレッドゴムに関して、第2のトレッドゴムG4の貯蔵弾性率に対する、第1のトレッドゴムG3の貯蔵弾性率の比は、製造性の観点からは、幅方向溝4を区画するトレッドゴムに関する、第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率に対する、第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率の比と同じとすることが好ましいが、異ならせることもでき、いずれが大きくても小さくても良い。
上記第1のトレッドゴムG3は、平面視で、幅方向サイプ5の延在方向の少なくとも一部の領域に存在していれば良いが、平面視で、幅方向サイプ5の延在方向の全域にわたって存在していることが好ましい。
以下、
図3、
図4に示した他の実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0042】
図3、
図4に示した他の実施形態の空気入りタイヤによれば、まず、周方向主溝2、リブ状陸部3、及び幅方向溝4について、
図1に示した一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
加えて、
図3、
図4に示した本実施形態の空気入りタイヤは、陸部3に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向サイプ5を有し、幅方向サイプ5は、サイプ底側に、サイプ幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部5bを有している。これにより、摩耗進展時においてサイプ幅の大きい拡幅部5bがトレッド表面に露出することで、摩耗進展時の排水性を向上させることができる。
そして、
図3、
図4に示した実施形態の空気入りタイヤは、少なくとも基準深さ位置D´を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部5bにより区画され、該拡幅部5bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG3の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG3の周囲の領域の第2のトレッドゴムG4の貯蔵弾性率より大きい。これにより、摩耗進展時に、基準深さ位置D´及びその付近の剛性を高めて、局所摩耗を抑制し、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
以上のように、
図3、
図4に示した他の実施形態の空気入りタイヤによれば、摩耗進展時において、より一層、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置D´から、拡幅部5bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含むため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。特に、本例では、上記タイヤ径方向領域は、拡幅部5bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
また、本実施形態では、トレッド周方向断面視における、第1のトレッドゴムG3の、拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
さらにまた、本実施形態では、第1のトレッドゴムG3の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG4の貯蔵弾性率の1.5倍以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を特に抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0044】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。
図5は、本発明の別の実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
図5に示すトレッドパターンは、
図1に示したトレッドパターンと比較して、各陸部3が、トレッド周方向に延びる複数本の周方向サイプ6をさらに有している点で異なっている。
図5に示す別の実施形態における、周方向主溝2、陸部3、及び幅方向溝4については、図示の構成やその変形例も含め、
図1に示した一実施形態と同様であるため、詳細な説明を省略し、以下、主に周方向サイプ6について例示説明する。
【0045】
図示例では、各陸部3は、トレッド周方向に延びる周方向サイプ6を複数本有している。具体的には、本例では、トレッド端TEに隣接する各リブ状陸部3において、トレッド周方向に延びて、両端が陸部3内で終端する周方向サイプ6を、図示の範囲で4本ずつ有している。周方向サイプ6の本数は適宜設定することができる。なお、本例では、周方向サイプ6の両端がリブ状陸部3内で終端しているが、周方向サイプ6をトレッド周方向に連続して延びる1本の周方向サイプ6とすることもできる。なお、図示例では、全ての陸部3が周方向サイプ6を有しているが、トレッド踏面1に周方向サイプ6を有する場合は、いずれかの陸部3が周方向サイプ6を有していれば良く、トレッド端TEにより区画される陸部3(図示例では陸部3a、3d)が周方向サイプ6を有していることが好ましい。
ここで、周方向サイプ6のサイプ幅(開口幅(周方向サイプ6の延在方向に対して垂直に測った開口幅))は、周方向サイプ6の本数にもよるため特には限定されないが、例えば0.2~1.5mmとすることができる。同様に、周方向サイプ6のサイプ深さ(最大深さ)は、特には限定されないが、例えば4.0~18.0mmとすることができる。
なお、図示例では、いずれの周方向サイプ6も、トレッド周方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1本の周方向サイプ6がトレッド周方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド周方向に対して25°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、また、10°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましい。また、図示例では、周方向サイプ6は、いずれも、トレッド周方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の周方向サイプ6が、屈曲した部分を有していても良い。
【0046】
ここで、図示例では、各陸部3において、幅方向溝4及び周方向サイプ6は、トレッド幅方向に投影した際に重ならないように配置されているが、重なる部分を有するように配置しても良い。
【0047】
図6は、周方向サイプの一例を模式的に示す断面図である。
図6は、トレッド周方向に沿って延びる周方向サイプのトレッド幅方向断面図である。
図6は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態を示している。
図6に示す例では、周方向サイプ6は、トレッド踏面1側に、サイプ幅(断面視において、トレッド踏面1に平行に測った幅)が(トレッド踏面1での開口幅に等しく)一定である、サイプ幅一定部分6aを有し、且つ、溝底側に、溝幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部6bを有している。図示例では、拡幅部6bは、断面視円形であり、タイヤ径方向の中央で最大幅W6をとる。一方で、拡幅部6bは、様々な形状とすることができ、他にも、例えば断面楕円形(タイヤ径方向の長さがタイヤ幅方向の長さより大きくても小さくても良い)、矩形状等とすることができる。
なお、本例では、拡幅部6bのタイヤ径方向外側より部分は、溝幅が一定である溝幅一定部分6aとしているが、当該部分は、溝幅が変化する部分とすることもできる。
【0048】
サイプ幅一定部分6aの幅W5は、特には限定されないが、例えば0.2~1.5mmとすることができる。拡幅部6bの最大幅W6は、特には限定されないが、例えば1.2~6.0mmとすることができる。周方向サイプ5の深さg´は、特には限定されないが、例えば4.0~18.0mmとすることができる。なお、周方向サイプ6のサイプ底におけるサイプ幅は、2.5W5より大きいことが好ましい。
サイプ幅一定部分6aの深さ方向の延在長さg1´は、特には限定されないが、例えば2.0~12mmとすることができる。拡幅部6bの深さ方向の延在長さg2´は、特には限定されないが、例えば1.5~8.0mmとすることができる。
【0049】
ここで、
図6に示すように、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態において、周方向サイプ6のトレッド踏面1における開口幅をW5とするとき、拡幅部6bの溝幅が2.5W5以上となるタイヤ径方向最外側の溝深さ位置を基準深さ位置D´´とする。
上記基準深さ位置D´´では、通常、摩耗進展時において剛性が低くなり始める。
なお、製造性の観点から、基準深さ位置Dと基準深さ位置D´´とは同じ深さであることが好ましいが、異ならせることもでき、基準深さ位置Dを基準深さ位置D´´より大きくすることも小さくすることもできる。
そして、本実施形態のタイヤでは、少なくとも基準深さ位置D´´を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部6bにより区画され、該拡幅部6bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG5の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG5の周囲の領域の第2のトレッドゴムG6の貯蔵弾性率より大きい(具体的には、本実施形態では、第1のトレッドゴムG5の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG6の貯蔵弾性率の1.5倍以上である)。
本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置D´´から、拡幅部6bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含み、本例では、拡幅部6bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域である。
本例では、第1のトレッドゴムG5が拡幅部5bを殻状に覆っている。
本例において、第1のトレッドゴムG5は、トレッド幅方向断面において、途切れ部を有する円環状である。なお、拡幅部6bが、トレッド幅方向断面において、楕円形の場合には、第1のトレッドゴムG5は、トレッド幅方向断面において、途切れ部を有する楕円形の環状とすることができ、また、拡幅部6bが、トレッド幅方向断面において、矩形の場合には、第1のトレッドゴムG5は、トレッド幅方向断面において、途切れ部を有する矩形の環状とすることができる。
また、本実施形態では、トレッド幅方向断面視における、第1のトレッドゴムG5の、拡幅部6bの輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上である。なお、本例では、第1のトレッドゴムG5の厚さtは、一定である。一方で、第1のトレッドゴムG5の厚さtは、変化していても良い。この場合、例えば、第1のトレッドゴムG5の厚さtを、タイヤ径方向内側から外側に向かって、漸増又は漸減するものとすることができる。
なお、周方向サイプ6を区画するトレッドゴムに関して、第2のトレッドゴムG6の貯蔵弾性率に対する、第1のトレッドゴムG5の貯蔵弾性率の比は、製造性の観点からは、幅方向溝4を区画するトレッドゴムに関する、第2のトレッドゴムG2の貯蔵弾性率に対する、第1のトレッドゴムG1の貯蔵弾性率の比と同じとすることが好ましいが、異ならせることもでき、いずれが大きくても小さくても良い。
上記第1のトレッドゴムG5は、平面視で、周方向サイプ6の延在方向の少なくとも一部の領域に存在していれば良いが、平面視で、周方向サイプ6の延在方向の全域にわたって存在していることが好ましい。
以下、
図5、
図6に示した別の実施形態の空気入りタイヤの作用効果について説明する。
【0050】
図5、
図6に示した別の実施形態の空気入りタイヤによれば、まず、周方向主溝2、リブ状陸部3、及び幅方向溝4について、
図1に示した一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
加えて、
図5、
図6に示した本実施形態の空気入りタイヤは、陸部3に、トレッド周方向に延びる1本以上の周方向サイプ6を有し、周方向サイプ6は、サイプ底側に、サイプ幅がトレッド踏面1側より大きくなる拡幅部6bを有している。これにより、摩耗進展時においてサイプ幅の大きい拡幅部6bがトレッド表面に露出することで、摩耗進展時の排水性を向上させることができる。
そして、
図5、
図6に示した実施形態の空気入りタイヤは、少なくとも基準深さ位置D´´を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部6bにより区画され、該拡幅部6bの少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムG5の貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムG5の周囲の領域の第2のトレッドゴムG6の貯蔵弾性率より大きい。これにより、摩耗進展時に、基準深さ位置D´´及びその付近の剛性を高めて、局所摩耗を抑制し、タイヤの偏摩耗を抑制することができる。
以上のように、
図5、
図6に示した他の実施形態の空気入りタイヤによれば、摩耗進展時において、より一層、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置D´´から、拡幅部6bが最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含むため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。特に、本例では、上記タイヤ径方向領域は、拡幅部6bのタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
また、本実施形態では、トレッド幅方向断面視における、第1のトレッドゴムG5の、拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
さらにまた、本実施形態では、第1のトレッドゴムG5の貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムG6の貯蔵弾性率の1.5倍以上であるため、摩耗進展時において、偏摩耗の発生を特に抑制しつつも、排水性を向上させることができる。
【0052】
以上の各例において、上記タイヤ径方向領域は、少なくとも、タイヤ径方向において、基準深さ位置から、拡幅部が最大幅となるタイヤ径方向位置までの領域を含むことが好ましい。摩耗進展時において、偏摩耗の発生をより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。また、上記タイヤ径方向領域は、拡幅部のタイヤ径方向最内側端からタイヤ径方向最外側端までの全域であることがさらに好ましい。摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらに抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。
【0053】
また、上記の各例において、断面視(
図1~
図4の例ではトレッド周方向断面視、
図5、
図6の例では、トレッド幅方向断面視)における、第1のトレッドゴムの、拡幅部の輪郭線の法線方向の厚さtは、1.0mm以上であることが好ましい。上記の範囲とすることにより、摩耗進展時において、偏摩耗の発生をさらにより一層抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。同様の理由により、上記厚さtは、1.5mm以上とすることがより好ましい。一方で、陸部の剛性が高くなり過ぎて乗り心地性が低下しないようにするため、上記厚さtは、2.0mm以下とすることが好ましい。
【0054】
また、第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.5倍以上であることが好ましい。摩耗進展時において、偏摩耗の発生を特に抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。同様の理由により、第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の1.8倍以上であることがより好ましい。一方で、剛性段差が大きくなり過ぎないようにする観点からは、第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率は、第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率の3.5倍以下であることが好ましい。
【0055】
また、少なくともトレッド端により区画される陸部に、(上記貯蔵弾性率を第2のトレッドゴムより相対的に高くする第1のトレッドゴムを用いる、)拡幅部を有する幅方向溝を有することが好ましい。特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。
また、少なくともトレッド端により区画される陸部に、(上記貯蔵弾性率を第2のトレッドゴムより相対的に高くする第1のトレッドゴムを用いる、)拡幅部を有する幅方向サイプを有することが好ましい。特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。
また、少なくともトレッド端により区画される陸部に、(上記貯蔵弾性率を第2のトレッドゴムより相対的に高くする第1のトレッドゴムを用いる、)拡幅部を有する周方向サイプを有することが好ましい。特に少なくともトレッド端により区画される陸部において、摩耗進展時に、偏摩耗の発生を抑制しつつも、排水性を向上させることができるからである。
これらの構成は、トレッド端により区画される陸部での摩耗量が相対的に多いタイヤに特に好適である。
【0056】
なお、上記幅方向溝は、例えば対応する形状を有する金型を用いて作製することができる。また、上記幅方向サイプ及び周方向サイプは、例えば対応する形状を有するブレードを用いて作製することができる。また、貯蔵弾性率が高いトレッドゴムで拡幅部の一部を覆うためには、例えば加硫前のタイヤ表面のみを貯蔵弾性率が高いトレッドゴムで被覆したのち、加硫時に対応する金型形状がトレッドゴムに貫入する際に該トレッドゴムをタイヤ深さ方向に引きこむことにより作製することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態には何ら限定されない。例えば、
図3、
図4に示した他の実施形態においては、幅方向溝4が
図2に示した形状を有し、且つ、幅方向サイプ5が
図4に示した形状を有しているが、例えば、幅方向溝4が断面U字状、断面V字状の溝であり、且つ、幅方向サイプ5が
図4に示した形状を有するものとすることもできる。同様に、
図5、
図6に示した別の実施形態においては、幅方向溝4が
図2に示した形状を有し、且つ、周方向サイプ6が
図6に示した形状を有しているが、例えば、幅方向溝4が断面U字状、断面V字状の溝であり、且つ、周方向サイプ6が
図6に示した形状を有するものとすることもできる。
また、例えば、
図1~
図6に示した実施形態は、いずれも陸部が幅方向溝を有するものであったが、幅方向溝を有さず、いずれかの陸部が幅方向サイプ及び/又は周方向サイプのみを有する構成とすることもできる。その場合の幅方向サイプ及び/又は周方向サイプの配置、サイプ幅、サイプ深さ、形状等は、
図3~
図6に示した実施形態について説明したのと同様の構成とすることができる。すなわち、陸部に、トレッド幅方向に延びる複数本の幅方向サイプを有し、幅方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅がトレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、少なくとも基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きい、及び/又は、陸部に、トレッド周方向に延びる1本以上の周方向サイプを有し、周方向サイプは、サイプ底側に、サイプ幅がトレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、少なくとも基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きい、構成とすることができる。
さらに、
図1~
図6に示した構成とは異なり、幅方向溝を有し又は有さず、且つ、幅方向サイプ及び周方向サイプの両方を有する構成とすることもできる。この場合、幅方向サイプと周方向サイプとは交差していても、あるいは、交差していなくても良い。そして、幅方向サイプと周方向サイプとの両方又は一方のみについて、サイプ底側に、サイプ幅がトレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、少なくとも基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きい、構成とすることができる。
以上のように、トレッド踏面に、幅方向溝、幅方向サイプ、及び周方向サイプは、少なくともいずれかを有していれば良い。そして、幅方向溝、幅方向サイプ、及び周方向サイプのうち、いずれか1つ以上において、溝底側(サイプ底側)に、溝幅(サイプ幅)がトレッド踏面側より大きくなる拡幅部を有し、少なくとも基準深さ位置を含むタイヤ径方向領域において、拡幅部により区画され、該拡幅部の少なくとも一部を覆う溝壁表層部である第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率が、該第1のトレッドゴムの周囲の領域の第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率より大きい、構成とすれば良い。
なお、製造性の観点から、基準深さ位置D、基準深さ位置D´、及び基準深さ位置D´´は互いに同じ深さであることが好ましいが、異ならせることもでき、その場合、基準深さ位置D、基準深さ位置D´、基準深さ位置D´´の大小関係は問わない。
また、製造性の観点からは、幅方向溝、幅方向サイプ、及び周方向サイプを区画するトレッドゴムに関し、第2のトレッドゴムの貯蔵弾性率に対する、第1のトレッドゴムの貯蔵弾性率の比は、互いに同じとすることが好ましいが、異ならせることもでき、その場合の大小関係は問わない。
また、幅方向溝、幅方向サイプ、周方向サイプが角部を有する場合、いずれか1以上の角部に、面取り等により丸み部を形成してもよい。
本発明の空気入りタイヤは、特に、乗用車用タイヤや重荷重用タイヤ(特にトラック・バス用タイヤ)として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0058】
1:トレッド踏面、
2:周方向主溝、
3:陸部、
4:幅方向溝、4a:溝幅一定部分、4b:拡幅部、4b1:第1の拡幅部分、
4b2:第2の拡幅部分、
5:幅方向サイプ、5a:サイプ幅一定部分、5b:拡幅部、
6:周方向サイプ、6a:サイプ幅一定部分、6b:拡幅部、
G1、G3、G5:第1のトレッドゴム、
G2、G4、G6:第2のトレッドゴム、
CL:タイヤ赤道面、
TE:トレッド端