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  • 特許-操作されたヘテロ二量体タンパク質 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】操作されたヘテロ二量体タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20220803BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C07K16/00
C12P21/08 ZNA
C12N15/13
【請求項の数】 34
(21)【出願番号】P 2019546883
(86)(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-09
(86)【国際出願番号】 IB2018051305
(87)【国際公開番号】W WO2018158719
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】62/465,937
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100176094
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 満
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】セベ,レギス
(72)【発明者】
【氏名】イリガライ,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スケグロ,ダルコ
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-536349(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065708(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0315296(US,A1)
【文献】特表2015-502409(JP,A)
【文献】特表2013-515472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個のFabを含むヘテロ二量体抗体またはその抗原結合断片であって、少なくとも1個のFabは、
(a)静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常ドメイン1(CH1)であり、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で酸性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)および重鎖定常ドメイン1(CH1)と、静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)であり、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169位または170位(EUナンバリング)で塩基性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)および軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含むか、または
(b)静電気的操作によって改変されたVHドメインおよびCH1ドメインであり、39位で塩基性アミノ酸を含み、147位で酸性アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で塩基性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変されたVHドメインおよびCH1ドメインと、静電気的操作によって改変されたVLドメインおよびCLドメインであり、38位で酸性アミノ酸を含み、124位で塩基性アミノ酸を含み、且つ169位または170位(EUナンバリング)で酸性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変されたVLドメインおよびCLドメインと
を含み、
前記VHドメインおよびCH1ドメイン中の複数の前記アミノ酸と、前記VLドメインおよびCLドメイン中の複数の前記アミノ酸とは一対で電荷が相反しており、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応している、
ヘテロ二量体抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、少なくとも95%のヘテロ二量体化が達成されている、請求項1に記載のヘテロ二量体抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメインは、VH1サブタイプ、VH2サブタイプ、VH3サブタイプ、VH5サブタイプ、またはVH6サブタイプに由来する、請求項1または2に記載のヘテロ二量体抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインは、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び169位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
前記静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインは、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリの静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインと、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリの静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインとを含む請求項1~5のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
IgG Fc領域を含む請求項1~6のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
前記IgG Fc領域は、366位で置換を有する第1のCH3領域と、366位、368位、及び407位(EUナンバリング)で置換を有する第2のCH3領域とを含む、請求項7に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
前記IgG Fc領域は、366位及び354位で置換を有する第1のCH3領域と、366位、368位、407位、及び349位(EUナンバリング)で置換を有する第2のCH3領域とを含む、請求項7に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
前記第1のCH3領域は、置換T366W及びS354Cを含み、前記第2のCH3領域は、置換T366S、L368A、Y407A、及びY349C(EUナンバリング)を含む、請求項9に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
i.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記VL中のQ38K;
ii.前記VH及びCH1中のQ39K及びK147D、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38D及びQ124K;
iii.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;
iv.前記VH及びCH1中のQ39K、K147D、及びS165R、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38D、Q124K、及びK169D;
v.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170K;
ならびに
vi.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R
からなる群から選択される置換(EUナンバリング)を含む請求項1~10のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項12】
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、95から100%の間のヘテロ二量体化が達成されている、請求項1~11のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項13】
追加のFabは、
静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)であって、39位、147位で荷電アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と、
静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)であって、38位で荷電アミノ酸を含み、且つ124位及び169位または170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含み、
前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の複数の前記アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の複数の前記アミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応し、
1個のFabの前記静電気的操作によって改変されたVH中の39位、147位、及び165位(EUナンバリング)のそれぞれでの電荷は、前記追加のFabの前記静電気的操作によって改変されたVH中の39位、147位、及び165位(EUナンバリング)のそれぞれでの電荷と異なる、
請求項1~12のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項14】
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169D(EUナンバリング)を含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D及びS165Dを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;(ii)ラムダVL中のQ38K;(iii)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R、又は(iv)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170Kから選択される置換(EUナンバリング)を含む、請求項13に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
前記追加のFab中の鎖間ジスルフィド結合は、前記VH及びCH1ドメインに置換G44CおよびC220A(EUナンバリング)を、前記VL及びCLドメインに置換Q100CおよびC124A(EUナンバリング)をそれぞれ含む、改変されたVH-VL鎖間ジスルフィド結合に置き換えられている、請求項13又は14に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165R(EUナンバリング)を含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169D(EUナンバリング)を含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D、G44C、S165D、及びC220A(EUナンバリング)を含み、且つ前記VL及びCL中に、(i)カッパVL及びカッパCL中のQ38K、Q100C、Q124D、及びC214A;(ii)ラムダVL中のQ38K、G100C、及びC214A;(iii)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C、N170R、及びC214A;又は(iv)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C、E124D、N170K、及びC214Aから選択される置換(EUナンバリング)を含む、請求項15に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片。
【請求項17】
界面を形成するように対応している、静電気的操作によって改変されたVHドメインおよびCH1ドメインならびに静電気的操作によって改変されたVLドメインおよびCLドメインを含むヘテロ二量体抗体またはその抗原結合断片を調製する方法であって、前記VHドメインおよびCH1ドメイン中の少なくとも2個のアミノ酸を置換し、その結果、前記静電気的操作によって改変されたドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で酸性アミノ酸を含む、置換すること、ならびに前記VLドメインおよびCLドメイン中のアミノ酸を置換し、その結果、前記静電気的操作によって改変されたドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169位または170位(EUナンバリング)で塩基性アミノ酸を含む、置換することを含み、前記VHドメインおよびCH1ドメイン中の複数の記アミノ酸と、前記VLドメインおよびCLドメイン中の前記界面の対応する複数のアミノ酸とは一対で電荷が相反しており、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成している、方法。
【請求項18】
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、少なくとも95%のヘテロ二量体化が達成されている、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメインは、VH1サブタイプ、VH2サブタイプ、VH3サブタイプ、VH5サブタイプ、又はVH6サブタイプに由来する、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインは、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び169位で荷電アミノ酸を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインは、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び170位で荷電アミノ酸を含む、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片は、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリの静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインと、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリの静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメインとを含む、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片はIgG Fc領域を含む、請求項17~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記IgG Fc領域は、366位で置換を有する第1のCH3領域と、366位、368位、及び407位(EUナンバリング)で置換を有する第2のCH3領域とを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記IgG Fc領域は、366位及び354位で置換を有する第1のCH3領域と、366位、368位、407位、及び349位(EUナンバリング)で置換を有する第2のCH3領域とを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記第1のCH3領域は、置換T366W及びS354Cを含み、且つ前記第2のCH3領域は、置換T366S、L368A、Y407A、及びY349Cを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片は、
i.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記VL中のQ38K;
ii.前記VH及びCH1中のQ39K及びK147D、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38D及びQ124K;
iii.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;
iv.前記VH及びCH1中のQ39K、K147D、及びS165R、ならびにカッパVL及びカッパCL中のQ38D、Q124K、及びK169D;
v.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170K;
ならびに
vi.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R
からなる群から選択される置換を含む、請求項17~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、95から100%の間のヘテロ二量体化が達成されている、請求項17~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片は追加のFabを含み、前記追加のFabは、
静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)であって、39位、147位で荷電アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と、
静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)であって、38位で荷電アミノ酸を含み、且つ124位及び169位または170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む静電気的操作によって改変された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含み、
前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の前記アミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応し、
1個のFabの前記静電気的操作によって改変されたVH中の39位、147位及び165位のそれぞれでの電荷は、前記追加のFabの前記静電気的操作によって改変されたVH中の39位、147位及び165位のそれぞれでの電荷と異なる、
請求項17~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D及びS165Dを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;(ii)ラムダVL中のQ38K;(iii)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R、又は(iv)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D及びN170Kから選択される置換を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記追加のFabの天然のLC-HC鎖間ジスルフィド結合は、前記VH及びCH1ドメインに置換G44CおよびC220A(EUナンバリング)を、前記VL及びCLドメインに置換Q100CおよびC124A(EUナンバリング)をそれぞれ含む、改変されたVH-VL鎖間ジスルフィド結合に置き換えられている、請求項29又は30に記載の方法。
【請求項32】
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D、G44C、S165D、及びC220Aを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)カッパVL及びカッパCL中のQ38K、Q100C、Q124D、及びC214A;(ii)ラムダVL中のQ38K、G100C、及びC214A;(iii)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C N170R、及びC214A、又は(iv)ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C、E124D、N170K、及びC214Aから選択される置換を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
請求項1~14のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片を調製する方法であって、
(a)前記静電気的操作によって改変されたVHドメイン及びCH1ドメインのポリペプチドをコードする核酸と、前記静電気的操作によって改変されたVLドメイン及びCLドメインのポリペプチドを含む核酸とを含む宿主細胞を培養する工程であり、前記培養された宿主細胞は、前記静電気的操作によって改変されたポリペプチドを発現する、培養する工程、
ならびに
(b)前記宿主細胞の培養物から前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片を回収する工程を含む方法。
【請求項34】
請求項15又は16に記載のヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片を調製する方法であって、
(a)前記静電気的操作によって改変されたVHドメイン及びCH1ドメインのポリペプチドをコードする核酸と、前記静電気的操作によって改変されたVLドメイン及びCLドメインのポリペプチドを含む核酸とを含む宿主細胞を培養する工程であり、前記培養された宿主細胞は、前記静電気的操作によって改変されたポリペプチドを発現する、培養する工程、
(b)前記宿主細胞の培養物から前記ヘテロ二量体抗体又はその抗原結合断片を回収する工程、ならびに
(c)電気泳動システムを使用して、正しい重鎖-軽鎖の対形成を決定する工程
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出している配列表を含み、この配列表全体が参照より本明細書に組み込まれる。前記ASCIIコピー(2018年2月20日に作成した)は、名称がPAT057505-WO-PCT_SL.txtであり、サイズが201,737バイトである。
【0002】
本発明は、正しい重鎖及び軽鎖の対形成を促進する改変を含むヘテロ二量体抗体及びその断片、ならびにこれらの調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト疾患の治療薬としてのヘテロ二量体抗体(特に、二重特異性抗体)の投与は、大きな臨床的可能性があるが、ヘテロ二量体抗体の頑強な生成(特に、純粋で開発可能なヘテロ二量体抗体の製造)は依然として困難である。抗体の重鎖は無差別に抗体の軽鎖に結合し、その結果、所与の重鎖が、ラムダ軽鎖クラスとカッパ軽鎖クラスとの両方の多くの軽鎖配列と対形成する可能性がある(Edwards BM et al.,(2003)J.Mol.Biol.334:103-18)。これまでの研究では、重鎖と軽鎖との対形成が無作為に生じることが示されている(Brezinschek HP et al.,(1998)J.Immunol.160:4762-7)。この結合の結果として、2本の抗体重鎖と2本の抗体軽鎖の同時発現により、重鎖-軽鎖の対形成の混乱が自然と生じるが、製造可能性及び生物学的有効性にとっては、均一な対形成が必須の要件である。ヘテロ二量体抗体形式(例えば、DVD-Ig(Wu C et al.,(2007)Nat.Biotech.25(11):1290-7),CrossMab(Schaefer W et al.,(2011)PNAS 108(27):11187-92),又は「2イン1」抗体(‘two-in-one’ antibody)(Bostrom J et al.,(2009)Science 323(5921):1610-4))は、二重特異性抗体の製造を可能にするが、ライアビリティ(liability)が異なる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの近年の開発もかかわらず、当分野では、重鎖及び軽鎖が正しく対形成している、改善されたヘテロ二量体抗体形式と、この均一な対形成を達成して、誤対形成された夾雑物の生成を回避する方法との必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ヘテロ二量体抗体の重鎖及び軽鎖の対形成を改善するために、静電気的操縦機構(electrostatic steering mechanism)を適用して、抗体及び抗体断片のサブセットの重鎖及び軽鎖を操作した。界面残基を、2種の異なる重鎖と2種の異なる軽鎖とを同一の細胞中で共トランスフェクトさせて共発現させ、機能するヘテロ二量体の二重特異性抗体を構築した場合に、各軽鎖がその同種の重鎖を強く支持するように変異させた。
【0006】
重鎖-軽鎖の対形成の操作の設計戦略には、代表的なFabを特定することを含めた。代表的なFabの基準は、一般に使用される重鎖の可変ドメイン(VH)及び軽鎖の可変ドメイン(VL)のサブグループのメンバー(例えば、VH3、及びVκ1又はVλ1)であることであった。電荷操作では、いくつかの基準を考慮した。CDRへの相互作用接触は最終的には結合の喪失につながる可能性があり、従って回避すべきであることから、選択されたアミノ酸は、立体構造において可変ドメインCDRと接触してはならない。任意の所与のサブファミリのヘテロ二量体を生成し得るためには、最も一般的な抗体ファミリ内で、選択された位置が高度の保存されていなければならない。加えて、VHとVLとの界面の中心の位置、及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と軽鎖定常ドメイン(CL)との界面の中心の位置を回避して、この界面の縁の位置を選択することにより、これらのドメインの末端で塩架橋を形成し、それにより正しい重鎖-軽鎖形成を閉じる「クリップ効果」を生じさせることにより、ヘテロ二量体形成を強く支持する効果を達成し得た。この「クリップ効果」は、タンパク質を安定化させ、定常ドメインCH1及びCLの界面の不安定化を低減するのに役立った。従って、VHドメイン及びVLドメインの終わり、ならびにCH1ドメイン及びCLドメインの始まり及び終わりに、荷電残基を導入した。側鎖相互作用に基づく修飾のために残基を選択することとは対照的に、CH1ドメイン及びCLドメインの末端での電荷操作のための残基の選択は、それぞれの主鎖間で観察した最大12Åの距離に基づいた。
【0007】
一態様では、本発明は、多くのある特定の位置での置換を含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメインならびに操作されたVL及びCLドメインを含むヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。全ての置換位置のナンバリングは、EUナンバリングに従う。
【0008】
一実施形態では、本発明は、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインであり、39位、147位、及び165位で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメインと、操作されたVLドメイン及びCLドメインであり、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作されたVLドメイン及びCLドメインとを含むヘテロ二量体抗体又はその断片であって、VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、VLドメイン及びCLドメイン中の界面の対応するアミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成する、ヘテロ二量体又はその断片を提供する。指定の位置のアミノ酸が適切な電荷(負、正、又は中性/非荷電)であることを確実にするためには、野生型配列中の特定の位置のアミノ酸を、電荷が異なるアミノ酸に置換する必要があるだろう。例えば、野生型配列中のアミノ酸は、中性、塩基性、又は酸性の場合があり、置換により電荷が変化する。より具体的には、中性アミノ酸を塩基性又は酸性のアミノ酸に置換し得、塩基性アミノ酸を中性又は酸性のアミノ酸に置換し得、又は酸性アミノ酸を中性又は塩基性のアミノ酸に置換し得る。
【0009】
一実施形態では、本VHドメイン中において、39位の中性アミノ酸グルタミン(Q)を、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換し得る。塩基性アミノ酸(正の電荷)の例として、アルギニン(R)、リシン(K)、又はヒスチジン(H)が挙げられ、酸性アミノ酸(負の電荷)の例として、アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)が挙げられる。具体的には、これは、QからR、K、又はDへの置換である。本CH1ドメイン中において、147位の塩基性アミノ酸Kは、変化しないままであってもよいし(即ち、正の電荷を有する)、中性又は酸性のアミノ酸に置換されていてもよい。具体的には、この置換は酸性アミノ酸に対するものであり、KからDへの置換である。加えて、165位の中性アミノ酸セリン(S)は、変化しないままであってもよいし(即ち、中性である)、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換されていてもよい。具体的には、これはSからR又はDへの置換である。一実施形態では、本VHドメインは、VH1サブファミリ、VH2サブファミリ、VH3サブファミリ、VH5サブファミリ、又はVH6サブファミリに由来する。特定の実施形態では、本VHドメインはVH3サブファミリに由来する。
【0010】
軽鎖がカッパ(κ)サブタイプ由来である一実施形態では、本VLドメイン中において、38位の中性アミノ酸Qは、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換され得る。塩基性アミノ酸の例として、アルギニン(R)、リシン(K)、又はヒスチジン(H)が挙げられ、酸性アミノ酸の例として、アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)が挙げられる。具体的には、これは、QからR、K、又はDへの置換である。本CLドメイン中において、124位の中性アミノ酸Qは、変化しないままであってもよいし(即ち、中性である)、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換されていてもよい。具体的には、これはQからK又はDへの置換である。加えて、169位での塩基性アミノ酸Kは、変化しないままであってもよいし(即ち、正の電荷を有する)、中性又は酸性のアミノ酸に置換されていてもよく、具体的には、この置換は酸性アミノ酸に対してであり、KからDへの置換である。一実施形態では、このカッパ軽鎖は、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリに由来する。
【0011】
軽鎖がラムダ(λ)サブタイプ由来である一実施形態では、本VLドメイン中において、38位の中性アミノ酸Qは、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換され得る。塩基性アミノ酸の例として、アルギニン(R)、ロイシン(K)、又はヒスチジン(H)が挙げられ、酸性アミノ酸の例として、アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)が挙げられる。具体的には、この置換は塩基性アミノ酸に対してであり、QからKへの置換である。本CLドメイン中において、124位の酸性アミノ酸Eは、中性、塩基性、又は別の酸性アミノ酸に置換され得る。具体的には、この置換は別の酸性アミノ酸に対してであり、EからDへの置換である。加えて、170位の中性アミノ酸Nは、変化しないままであってもよいし(即ち、中性である)、塩基性又は酸性のアミノ酸に置換されていてもよい。具体的には、この置換は塩基性アミノ酸に対してであり、NからKへ、又はNからRへの置換である。一実施形態では、このラムダ軽鎖は、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリに由来する。
【0012】
一実施形態では、本操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位、147位、及び165位で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含み得、本操作されたVLドメイン及びCLドメインは、界面の対応する38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含み得る。従って、本発明は、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインと、操作されたVLドメイン及びCLドメインとを有するヘテロ二量体抗体又はその断片であって、
(i)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で酸性アミノ酸を含み、且つ165位で酸性アミノ酸を含み、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で塩基性アミノ酸を含み、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含む;
(ii)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位で塩基性アミノ酸を含み、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169/170位で酸性アミノ酸を含む;
(iii)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位でアミノ酸を含み得、147位で酸性アミノ酸を含み得、且つ165位で塩基性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で酸性アミノ酸を含み得る;
(iv)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で酸性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み得、124位で酸性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含み得る;
(v)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で酸性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で酸性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含み得る;
(vi)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み得、147位で酸性アミノ酸を含み得、且つ165位で塩基性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み得、124位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で酸性アミノ酸を含み得る;
(vii)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で酸性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で酸性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で中性アミノ酸を含み得る;
(viii)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み得、147位で酸性アミノ酸を含み得、且つ165位で中性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み得、124位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含み得る;
又は
(ix)操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で中性アミノ酸を含み得、操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で中性アミノ酸を含み得、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含み得る、
ヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。
【0013】
一実施形態では、本操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み得、147位で酸性アミノ酸を含み得、且つ165位で中性アミノ酸を含み得、本操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み得、124位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ169位(EUナンバリング)の塩基性アミノ酸を含み得る。あるいは、本操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で中性アミノ酸を含み得、本操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で中性アミノ酸を含み得、且つ169位(EUナンバリング)で塩基性アミノ酸を含み得る。あるいは、本操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み得、147位で塩基性アミノ酸を含み得、且つ165位で酸性アミノ酸含み得、本操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み得、124位で酸性アミノ酸を含み得、且つ1709位(EUナンバリング)で中性アミノ酸を含み得る。
【0014】
具体的な実施形態では、本発明は、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインを有するヘテロ二量体抗体又はその断片であって、この操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位、147位、及び165位(EUナンバリング)で、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、及び酸性アミノ酸をそれぞれ含み、従って、これらの位置でそれぞれ負の電荷、正の電荷、及び負の電荷が生じ、又はその逆も同様である、ヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。対応する操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で、対応する重鎖の界面のアミノ酸の電荷と反対の電荷を有するアミノ酸を含む。例えば、この操作された重鎖が、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位で酸性アミノ酸を含む場合には、対応する軽鎖は、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169/170位(EUナンバリング)で塩基性アミノ酸を含むだろう。あるいは、この操作された重鎖が、39位で塩基性アミノ酸を含み、147位で酸性アミノ酸を含み、且つ位で塩基性アミノ酸を含む場合には、対応する軽鎖は、38位で酸性アミノ酸を含み、124位で塩基性アミノ酸を含み、且つ169/170(EUナンバリング)で酸性アミノ酸を含むだろう。
【0015】
一実施形態では、本発明は、ヘテロ二量体抗体又はその断片であって、
i.VH及びCH1中におけるQ39D、S165D、ならびにVL中におけるQ38K、
ii.VH及びCH1中におけるQ39K、K147D、ならびにカッパVL及びカッパCL中におけるQ38D、Q124K、
iii.VH及びCH1中におけるQ39D、S165D、ならびにカッパVL及びカッパCL中におけるQ38K、Q124D、
iv.VH及びCH1中におけるQ39K、K147D、S165R、ならびにカッパVL及びカッパCL中におけるQ38D、Q124K、K169D、
v.VH及びCH1中におけるQ39D、S165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中におけるQ38K、E124D、N170K、
vi.VH及びCH1中におけるQ39D、S165D、ならびにラムダVL及びラムダCL中におけるQ38K、N170R
からなる群から選択される置換を含むヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。
【0016】
一実施形態では、本発明は、少なくとも2個のFabを含むヘテロ二量体抗体又はその断片であって、各Fabは抗原上の異なるエピトープに結合する、ヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。これらのエピトープは同一の抗原上にあってもよいし、あるいはこれらのエピトープは異なる抗原上にあってもよい。一実施形態では、このヘテロ二量体抗体又はその断片は、二重特異性又は三重特異性等の多重特異性であり得る。そのような多重特異性抗体では、VH及びCH1と、対応するVL及びCLとの界面のアミノ酸は、ヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面が確実に形成されるように、電荷が相反しているか、又は電荷/中性である必要がある。例えば、二重特異性抗体又はその断片では、第1のエピトープに結合するFabは、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインであって、39位、147位、及び165位(EUナンバリング)で、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、及び酸性アミノ酸をそれぞれ含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメインを有し得、対応する操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で、対応する重鎖の界面のアミノ酸の電荷と相反する電荷を有するアミノ酸を含む。従って、第2のエピトープに結合するFabは、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインであって、39位、147位、及び165位(EUナンバリング)で、塩基性アミノ酸、酸性アミノ酸、及び塩基性アミノ酸をそれぞれ含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメインを有し得、対応する操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で、対応する重鎖の界面のアミノ酸の電荷と相反する電荷を有するアミノ酸を含む。従って、操作された軽鎖は、電荷が対応する、その同種の重鎖とのみ会合して、正しい重鎖-軽鎖の対形成を保証するだろう。
【0017】
具体的な実施形態では、本発明は、二重特異性抗体又はその断片であって、第1のFabであり、置換Q39K、K147D、及びS165Rを含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメイン、ならびに置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含む操作されたVLドメイン及びCLドメインを含む第1のFabと、第2のFabであり、置換Q39D及びS165Dを含む操作されたVHドメイン及びCH1ドメイン、ならびに置換Q38K及びQ124Dを含む操作されたカッパVLドメイン及びカッパCLドメイン、又は置換Q38K、Q38K、及びN170R、もしくはQ38K、E124D、及びN170Kを含む操作されたラムダVLドメイン及びラムダCLドメインを含む第2のFabとを含む二重特異性抗体又はその断片を提供する。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、Fc領域を含むヘテロ二量体抗体又はその断片を提供する。一実施形態では、このFc領域は、例えばRidgway JBB et al.,(1996)Protein Engineering,9(7):617-21及び米国特許第5,731,168号明細書で説明されている「ノブ・イントゥ・ホール」アプローチに従う改変を含む操作されたCH3ドメインを含む。このアプローチは、重鎖のヘテロ二量体の形成を促進し、対応する重鎖ホモ二量体の構築を妨げることが分かっている。このアプローチでは、CH3ドメイン間の界面の小さいアミノ側鎖をより大きいアミノ側鎖に置き換えることによりノブが作成され、大きい側鎖をより小さい側鎖に置き換えることによりホールが構築される。一実施形態では、「ノブ」変異はT366Wを含み、「ホール」変異は、T366S、L368A、及びY407Vを含む(Atwell S et al.,(1997)J.Mol.Biol.270:26-35)。具体的な実施形態では、「ノブ」変異はT366W、S354Cを含み、「ホール」変異は、T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含み、その結果、対応するシステイン残基S354C及びY349Cの間にジスルフィド結合が形成され、ヘテロ二量体の形成がさらに促進される。
【0019】
本発明の別の態様は、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインと、操作されたVLドメイン及びCLドメインとを含むヘテロ二量体抗体又はその断片を調製する方法であって、このVHドメイン及びCH1ドメイン中の少なくとも2個のアミノ酸を置換し、その結果、操作されたドメインは、39位、147位、及び165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、置換すること、ならびにこのVLドメイン及びCLドメイン中のアミノ酸を置換し、その結果、操作されたドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、置換することを含み、VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、VLドメイン及びCLドメイン中の界面の対応するアミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成する、方法を提供する。
【0020】
本発明の更に別の態様では、ヘテロ二量体抗体又はその断片のための正しい重鎖及び軽鎖の対形成を促進する、本明細書で説明された静電気的操縦機構を、ヘテロ二量体抗体のVH-VL界面及びCH1-CL界面への改変と組み合わせて、鎖間ジスルフィド結合を操作した。この鎖間ジスルフィド結合は、同種の重鎖及び軽鎖の対形成をさらに促進する。加えて、操作されたジスルフィド結合により、簡単な電気泳動ベースの手順による、誤って構築された分子の容易な同定及び定量を可能にする、ヘテロ二量体抗体のプロファイリングのための分析手順が容易になる。これにより、重鎖-軽鎖の対形成が正しいヘテロ二量体抗体及びその断片のスクリーニング用の頑強でハイスループットのプラットフォームが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】精製済の二重特異性抗体がロードされている、非還元条件下で電気泳動にかけられたSDS-ポリアクリルアミドゲルを示す図である。対応する二重特異性抗体のアームが改変されているウェルの詳細を表9に示す。ウェル2~5では、二重特異性抗体のノブアームは、電荷操作に関連する改変を含み、ホールアームは、電荷操作及びジスルフィド結合操作に関連する改変を含んだ。ウェル7~10では、ノブアーム及びホールアームは、電荷操作に関連する改変を含まないが、ホールアームは、ジスルフィド結合操作に関連する改変を含む。ウェル2~5と比較してウェル7~10で観察され得るように、ジスルフィド結合操作のみでは、正しい重鎖-軽鎖の対形成を達成するには不十分であった。列1、6及び11は分子量マーカーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書で開示されているのは、高度なヘテロ二量体化を有する変異した重鎖及び軽鎖を含むヘテロ二量体抗体又はその断片である。同様に本明細書で開示されているのは、静電気的操縦を利用して、変異した場合に軽鎖とその同種の重鎖との正しい対形成が増加する界面残基を選択する方法である。同一の細胞中での変異した重鎖及び軽鎖の共トランスフェクション及び共発現により、機能するヘテロ二重性抗体又は抗体断片の構築が生じる。
【0023】
定義
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、少なくとも1個の免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むタンパク質(例えば、免疫グロブリン鎖又はその断片)を指す。用語「抗体」は、例えば、モノクローナル抗体(例えば、免疫グロブリンFc領域を有する完全長抗体)を含む。ある実施形態では、抗体は、完全長抗体又は完全長免疫グロブリン鎖を含む。ある実施形態では、抗体は、完全長抗体又は完全長免疫グロブリン鎖の抗原結合断片又は機能的断片を含む。
【0024】
ある実施形態では、抗体は、重(H)鎖可変ドメイン配列(本明細書ではVHと略す)と、軽(L)鎖可変ドメイン配列(本明細書ではVLと略す)とを含み得る。ある実施形態では、抗体は、1本の重鎖と、1本の軽鎖とを含むか、又はこれらからなる(本明細書では半抗体を称する)。別の例では、抗体は、2個のVH配列と2個のVL配列とを含み、これらにより2個の抗原結合部位が形成され、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fc、Fd、Fd’、Fv、一本鎖抗体(例えばscFv)、単一可変ドメイン抗体、ダイアボディ(Dab)(二価及び二重特異性)、ならびにキメラ(例えばヒト化)抗体が形成され、これらは、抗体全体の改変又は組換えDNA技術を使用して新たに合成されたものの改変により生成され得る。これらの機能的抗体断片は、それぞれの抗原又はレセプターと選択的に結合する能力を保持する。抗体及び抗体断片は、IgG、IgA、IgM、IgD、及びIgEが挙げられるがこれらに限定されない抗体の任意のクラス、及び抗体の任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)に由来し得る。抗体の調製は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であり得る。抗体は又、ヒト抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、又はインビトロで生成された抗体でもあり得る。抗体は、例えばIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4から選択される重鎖定常領域を有し得る。抗体は、例えばカッパ又はラムダから選択される軽鎖も有し得る。用語「免疫グロブリン」(Ig)は、本明細書では用語「抗体」と互換的に使用される。
【0025】
ある実施形態では、抗体は、抗体の抗原結合断片を含む。そのような断片の例として、下記が挙げられる:(i)Fab断片、即ち、VLドメイン、VHドメイン、CLドメイン、及びCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、即ち、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2個のFab断片を含む二価の断片;(iii)VHドメイン及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLドメイン及びVHドメインからなるFv断片;(v)VHドメインからなるダイアボディ(dAb)断片;(vi)ラクダ可変ドメイン又はラクダ化(camelized)可変ドメイン;(vii)一本鎖Fv(scFv)、例えば、Bird et al.,(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.,(1988)PNAS USA 85:5879-5883を参照されたい;(viii)単一ドメイン抗体。これらの抗体断片は、当業者に既知の従来の技術を使用して得られ、これらの断片は、無傷の抗体と同一の方法で有用性に関してスクリーニングされる。
【0026】
Fabは、本明細書で使用される場合、VH免疫グロブリンドメイン、CH1免疫グロブリンドメイン、VL免疫グロブリンドメイン、及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを指す。Fabは、独立して、又は完全長抗体もしくは抗体断片の文脈におけるポリペプチドとして、このポリペプチド領域を指す場合がある。
【0027】
本明細書で使用される場合、「免疫グロブリン可変ドメイン配列」は、免疫グロブリン可変ドメインの構造を形成し得るアミノ酸配列を指す。例えば、この配列は、天然に存在する可変ドメインのアミノ酸配列の全て又は一部を含み得る。例えば、この配列は、1個、2個もしくはより多くのN末端アミノ酸もしくはC末端アミノ酸を含んでもよいし、含まなくてもよく、又はタンパク質構造の形成に適合する他の変更を含んでもよい。
【0028】
用語「抗原結合部位」は、抗体の一部であって、抗原又はそのエピトープに結合する界面を形成する決定基を含む一部を指す。タンパク質(又はタンパク質模倣物)に関して、抗原結合部位は概して、抗原ポリペプチドに結合する界面を形成する1個又は複数個のループ(少なくとも4個のアミノ酸又はアミノ酸模倣物からなる)を含む。典型的には、抗体分子の抗原結合部位は、少なくとも1個もしくは2個のCDR及び/もしくは超可変ループを含むか、又はより典型的には、少なくとも3個、4個、5個もしくは6個のCDR及び/もしくは超可変ループを含む。
【0029】
一実施形態では、本抗体を組換えにより製造し得、例えば、ファージディスプレイにより又はコンビナトリアル法により製造し得る。抗体を生成するためのファージディスプレイ及びコンビナトリアル法は、当分野で既知である(例えば、Ladner他、米国特許第5,223,409号明細書;Kang他、国際公開第92/18619号パンフレット;Dower他、同第91/17271号パンフレット;Winter他、同第92/20791号パンフレット;Markland他、同第92/15679号パンフレット;Breitling他、同第93/01288号パンフレット;McCafferty他、同第92/01047号パンフレット;Garrard他、同第92/09690号パンフレット;Ladner他、同第90/02809号パンフレット;Fuchs et al.,(1991)Bio/Technology 9:1370-1372;Hay et al.,(1992)Hum Antibody Hybridomas 3:81-85;Huse et al.,(1989)Science 246:1275-1281;Griffths et al.,(1993)EMBO J 12:725-734;Hawkins et al.,(1992)J Mol Biol 226:889-896;Clackson et al.,(1991)Nature 352:624-628;Gram et al.,(1992)PNAS 89:3576-3580;Garrard et al.,(1991)Bio/Technology 9:1373-1377;Hoogenboom et al.,(1991)Nuc Acid Res 19:4133-4137;及びBarbas et al.,(1991)PNAS 88:7978-7982で説明されており、これら全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
【0030】
一実施形態では、本抗体は、完全ヒト抗体(例えば、ヒト免疫グロブリン配列から抗体を産生するように遺伝子操作されているマウス中で作られた抗体、もしくはヒトから単離された抗体)、又は非ヒト抗体(例えば、齧歯類(マウスもしくはラット)抗体、ヤギ抗体、霊長類(例えばサル)抗体、ラクダ抗体)である。ヒトモノクローナル抗体は、マウス系よりはむしろ、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウスを使用して生成され得る。目的の抗原により免疫付与されたこのトランスジェニックマウス由来の脾細胞を使用して、ヒトタンパク質由来のエピトープに特異的な親和性を有するヒトモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを生成する(例えば、Wood他、国際公開第91/00906号パンフレット、Kucherlapati他、同第91/10741号パンフレット;Lonberg他、同第92/03918号パンフレット;Kay他、同第92/03917号パンフレット;Lonberg,N.et al.,(1994)Nature 368:856-859;Green,L.L.et al.,(1994)Nature Genet.7:13-21;Morrison,S.L.et al.,(1994)PNAS USA 81:6851-6855;Bruggeman et al.,(1993)Year Immunol 7:33-40;Tuaillon et al.,(1993)PNAS 90:3720-3724;Bruggeman et al.,(1991)Eur J Immunol 21:1323-1326を参照されたい)。
【0031】
抗体は、可変領域又はその一部(例えばCDR)が、非ヒト生物(例えばラット又はマウス)中で生成されているものであり得る。キメラ抗体、CDR移植抗体、及びヒト化抗体は、本発明の範囲内である。非ヒト生物(例えばラット又はマウス)中で生成され、次いで、例えば可変フレームワーク又は定常領域で改変されてヒトでの抗原性が低下している抗体は、本発明の範囲内である。キメラ抗体は、当分野で既知の組換えDNA技術により製造され得る(Robinson他、国際公開第87/002671号パンフレット;Akira他、欧州特許出願公開第184187A1号明細書;Taniguchi,M.、同第171496A1号明細書;Morrison他、同第173494A1号明細書;Neuberger他、国際公開第86/01533号パンフレット;Cabilly他、米国特許第4,816,567号明細書;Cabilly他、欧州特許出願公開第125023A1号明細書;Better et al.,(1988)Science 240:1041-1043;Liu et al.,(1987)PNAS 84:3439-3443;Liu et al.,(1987),J.Immunol.139:3521-3526;Sun et al.,(1987)PNAS 84:214-218;Nishimura et al.,(1987),Canc.Res.47:999-1005;Wood et al.,(1985)Nature 314:446-449;及びShaw et al.,(1988),J.Natl Cancer Inst.80:1553-1559を参照されたい)。
【0032】
ヒト化抗体又はCDR移植抗体は、(重免疫グロブリン鎖及び又は軽免疫グロブリン鎖の)少なくとも1個又は2個であるが一般的には3個全てのレシピエントCDRがドナーCDRに置き換えられているだろう。この抗体は、非ヒトCDRの少なくとも一部に置き換えられていてもよいし、CDRの一部のみが非ヒトCDRに置き換えられていてもよい。標的抗原へのヒト化抗体の結合に必要なCDRの数を変えることが必要とされているだけである。好ましくは、ドナーは、齧歯類抗体(例えば、ラット抗体又はマウス抗体)であり、レシピエントは、ヒトフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークであるだろう。典型的には、CDRを提供する免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供する免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。一実施形態では、ドナー免疫グロブリンは非ヒト(例えば齧歯類)である。アクセプターフレームワークは、天然に存在する(例えばヒト)フレームワークもしくはコンセンサスフレームワークであるか、又はこれらと約85%以上(好ましくは90%、95%、99%もしくはより高く)同一の配列である。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「コンセンサス配列」は、関連する配列のファミリで最も頻繁に生じるアミノ酸(又はヌクレオチド)から形成された配列を指す(例えば、Winnaker,From Genes to Clones(Verlagsgesellschaft,Weinheim,Germany 1987)を参照されたい)。タンパク質のファミリでは、コンセンサス配列中の各位置は、このファミリ中のその位置で最も頻繁に生じるアミノ酸により占められている。2種のアミノ酸が同一の頻度で生じる場合、いずれかがコンセンサス配列に含まれ得る。「コンセンサスフレームワーク」は、コンセンサス免疫グロブリン配列中のフレームワーク領域を指す。
【0034】
抗体を、当分野で既知の方法によりヒト化し得る(例えば、Morrison,S.L.,(1985),Science 229:1202-1207;Oi et al.,(1986),BioTechniques 4:214、ならびにQueen他、米国特許第5,585,089号明細書、同第5,693,761号明細書、及び同第5,693,762号明細書を参照されたい。これら全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。ヒト化抗体又はCDR移植抗体を、CDR移植又はCDR置換により製造し得、免疫グロブリン鎖の1個の、2個又は全てのCDRが置き換えられ得る。例えば、米国特許第5,225,539号明細書;Jones et al.,(1986)Nature 321:552-525;Verhoeyan et al.,(1988)Science 239:1534;Beidler et al.,(1988)J.Immunol.141:4053-4060、及びWinter 米国特許第5,225,539号明細書を参照されたい。これら全ての内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。同様に本発明の範囲内なのは、特定のアミノ酸が置換されているか、欠失しているか、又は付加されているヒト化抗体である。ドナーからアミノ酸を選択する基準は、米国特許第5,585,089号明細書(例えば、米国特許第5,585,089号明細書の第12~16欄)で説明されており、この内容は参照により本明細書に組み込まれる。抗体をヒト化するための他の技術は、Padlan他、欧州特許出願公開第519596A1号明細書で説明されている。
【0035】
さらに他の実施形態では、本抗体は、重鎖定常領域であって、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgD、及びIgEの重鎖定常領域から選択される重鎖定常領域を有し、特に、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4の(例えばヒト)重鎖定常領域から選択される重鎖定常領域を有する。別の実施形態では、本抗体分子は、軽鎖定常領域であって、例えば、カッパ又はラムダの(例えばヒト)軽鎖定常領域から選択される軽鎖定常領域を有する。この定常領域を変更して(例えば変異させて)、本抗体の特性を改変させ得る(例えば、下記のうちの1つ又は複数を増加させ得るか、又は低下させ得る:Fcレセプターの結合、抗体のグリコシル化、システイン残基の数、エフェクター細胞機能、及び/又は補体機能)。一実施形態では、本抗体はエフェクター機能を有し、補体を固定し得る。他の実施形態では、本抗体はエフェクター細胞を動員しないか、又は補体を固定しない。別の実施形態では、本抗体は、Fcレセプターに結合する能力が低下しているか、又はこの能力を欠いている。例えば、本抗体は、Fcレセプターへの結合を支持しないサブタイプ、アイソタイプ、断片又は他の変異体であり、例えば、本抗体は、Fcレセプター結合領域が変異誘発されているか、又は欠失している。
【0036】
抗体の定常領域を変更する方法は当分野で既知である。機能が変更されている抗体(例えば、エフェクターリガンド(例えば、細胞上のFcR)又は補体のC1成分に対する親和性が変更されている抗体)を、この抗体の定常部分中の少なくとも1個のアミノ酸残基を異なる残基に置き換えることにより製造し得る(例えば、欧州特許出願公開第388151A1号明細書、米国特許第5,624,821号明細書、及び同第5,648,260号明細書を参照されたい。これら全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。マウス又は他の種の免疫グロブリンに適用した場合には、これらの機能を低下させるか、又は排除するであろう同様のタイプの変更を説明する可能性がある。
【0037】
「保存的アミノ酸置換」とは、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられている置換のことである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリは、当分野で定義されている。このファミリとして下記が挙げられる:塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リシン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H))、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E))、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン(G)、アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、トレオニン(T)、チロシン(Y)、システイン(C))、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、メチオニン(M)、トリプロファン(W))、ベータ-分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、トレオニン(T)、バリン(V)、イソロイシン(I))、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン(Y)、フェニルアラニン(F)、トリプロファン(W)、ヒスチジン(H))。
【0038】
ヘテロ二量体抗体
ある実施形態では、抗体はヘテロ二量体抗体であり、例えば、この抗体は、複数の免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、この複数のうちの第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第1のエピトープに対する結合特異性を有し、この複数のうちの第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列は、第2のエピトープに対する結合特異性を有する。ある実施形態では、第1のエピトープ及び第2のエピトープは同一の抗原上にあり、例えば、同一のタンパク質(又は多量体タンパク質のサブユニット)である。別の実施形態では、第1のエピトープ及び第2のエピトープは異なる抗原上にあり、例えば異なるタンパク質(又は多量体タンパク質の異なるサブユニット)である。ある実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、第3、第4、又は第5の免疫グロブリン可変ドメインを含む。ある実施形態では、ヘテロ二量体抗体は、二重特異性抗体、三重特異性抗体、又は四重特異性抗体である。
【0039】
具体的な実施形態では、本ヘテロ二量体抗体は、二重特異性抗体又はその断片である。二重特異性抗体は、二種以下のエピトープに対する特異性を有する。二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する第1の免疫グロブリン可変ドメイン配列と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する第2の免疫グロブリン可変ドメイン配列とを特徴とする。ある実施形態では、第1のエピトープ及び第2のエピトープは同一の抗原上にあり、例えば、同一のタンパク質(又は多量体タンパク質のサブユニット)である。ある実施形態では、第1のエピトープ及び第2のエピトープは重複する。ある実施形態では、第1のエピトープ及び第2エピトープは重複しない。ある実施形態では、第1のエピトープ及び第2のエピトープは異なる抗原上にあり、例えば、異なるタンパク質(又は多量体タンパク質の異なるサブユニット)である。ある実施形態では、二重特異性抗体は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する重鎖可変ドメイン配列及び軽鎖可変ドメイン配列と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する重鎖可変ドメイン配列及び軽鎖可変ドメイン配列とを含む。ある実施形態では、二重特異性抗体分子は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体とを含む。ある実施形態では、二重特異性抗体分子は、第1のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体又はその断片と、第2のエピトープに対する結合特異性を有する半抗体又はその断片とを含む。ある実施形態では、二重特異性抗体又はその断片は、第1のエピトープに対する結合特異性を有するFabと、第2のエピトープに対する結合特異性を有するFabとを含む。
【0040】
ヘテロ二量体抗体(特に二重特異性抗体)の製造に最も一般的に使用される方法は、異なる宿主細胞中で抗体の成分を別々に発現させ、その後に続いて精製し、機能するIgGへと構築することによる。しかしながら、そのような方法はコストが嵩み、且つ複雑な製造プロセスを伴う。従って、単一の宿主細胞の発現系が好ましいが、重鎖及び軽鎖の対形成の問題という課題を伴っている。
【0041】
この重鎖の対形成の問題は、単一の宿主細胞中で発現させた場合にホモ二量体及びヘテロ二量体を形成する、重鎖の能力を反映する。IgG中における2本の重鎖のホモ二量体化は、CH3ドメイン間の相互作用に媒介される。この重鎖のヘテロ二量体化を改善するために作られた最初の方法のうちの1つは、「ノブ・イントゥ・ホール」戦略を利用する(Ridgway et al.,(1996)上記参照)。重鎖ヘテロ二量体化を改善するさらなる方法として、特に下記が挙げられる:静電気的操縦変異の合理的な設計(Gunasekaran et al.,(2010)JBC,285:19637-46;Strop et al.,(2012)J.Mol.Biol.420:204-19)、コンピュータによる設計の使用(Moore et al.,(2011)mAbs,3:546-557;Von Kreudenstein et al.,(2013)mAbs 5:646-54)、配列の相違の利用であるが、IgG及びIgAのCH3ドメインの構造類似性の利用(鎖交換操作ドメイン(Strand Exchange Engineered Domains)(SEED)プラットフォーム;Davis et al.,(2010)Protein Eng.Des.Sel.,23:195-202)、ならびに共通の重鎖の使用(Fischer et al.,(2015)Nat Commun.6:6113)。国際公開第16/118742号パンフレット(Eli Lilly and Co)で説明されている最近の研究は、重鎖のヘテロ二量体化を達成するために両方のCH3ドメイン中に置換を含む二重特異性抗体に関する。この置換を、Lewis et al.,(2014)Nat.Biotech.32:191-8及び国際公開第14/150973号パンフレット(Eli Lilly & Co;下記で論じる)で説明されているように、VHドメイン及びVLドメインならびにCH1ドメイン及びCLドメインへの置換とも組み合わせた。
【0042】
軽鎖-重鎖の誤対形成問題に対処するために、これまでの方法は、単一の軽鎖を使用する二重特異性抗体の生成を含んでいる。これには、多様性を制限する単一の軽鎖を利用する重-軽鎖操作又は新規の抗体ライブラリが必要である(Merchant et al.,(1998)Nat.Biotech.16(7):677-81)。加えて、共通の軽鎖を有する抗体が、単一の軽鎖を有するトランスジェニックマウスから同定されている(国際公開第11/097603号パンフレット Regeneron;Dhimolea & Reichert(2012)mAbs,4:4-13)。別のアプローチは、1つの重鎖のCH1ドメインを、その同種の軽鎖のCLドメインと交換することであり(Crossmab技術、Schaefer et al.,(2011)上記参照)、これは、「ノブ・イントゥ・ホール」法も含んで重鎖を確実にヘテロ二量体化し得る(Merchant et al.,(1998)上記参照)。直交CH1-CL界面の設計(Lewis SM et al.,(2014)上記参照)、又は抗体の軽鎖-重鎖界面残基を操作するための静電気的操作機構(Liu Z et al.,(2015)JBC,290:7535-62)の使用も可能である。Fab界面の分析により、軽鎖と重鎖との間では、水素結合及びファンデルワールス相互作用が支配的であり、静電気的相互作用はまれであることが明らかとなった。
【0043】
ヘテロ二量体抗体を製造するさらなるプロトコルとして、例えば下記が挙げられるがこれらに限定されない:例えば国際公開第09/089004号パンフレット、同第06/106905号パンフレット、及び同第10/129304号パンフレットで説明されているような静電気的に操作するFc対形成;例えば国際公開第08/119353号パンフレット、同第11/131746号パンフレット、及び同第13/060867号パンフレットで説明されているようなFabアーム交換;例えば米国特許第4,433,059号明細書で説明されているような、例えば、アミン反応基及びスルフヒドリル反応基を有するヘテロ二官能性試薬を使用して二重特異性構造を生成するための抗体架橋による、二重抗体コンジュゲート;例えば米国特許第4,444,878号明細書で説明されているような、2本の重鎖の間のジスルフィド結合の還元及び酸化のサイクルを介して、異なる抗体からの半抗体(重鎖-軽鎖の対又はFab)を再結合させることにより生成された二重特異性抗体決定基;例えば米国特許第5,273,743号明細書で説明されているような三官能性抗体、例えば、スルフヒドリル反応基を介して架橋した3個のFab’断片;例えば米国特許第5,534,254号明細書で説明されているような生合成結合タンパク質、例えば、C末端テイルを介して(好ましくは、ジスルフィド反応性化学架橋又はアミン反応性化学架橋を介して)架橋したscFvの対;例えば米国特許第5,582,996号明細書で説明されているような二官能性抗体、例えば、定常ドメインが置き換えられているロイシンジッパー(例えば、c-fos及びc-jun)を介して二量体化した、結合特異性が異なるFab断片;例えば米国特許第5,591,828号明細書で説明されているような二重特異性及びオリゴ特異性の一価及びオリゴ価のレセプター、例えば、一方の抗体のCH1領域と、典型的には関連する軽鎖を有する他方の抗体のVH領域との間のポリペプチドスペーサーを介して連結された2種の抗体(2種のFab断片)のVH-CH1領域;例えば米国特許第5,635,602号明細書で説明されているような二重特異性DNA-抗体コンジュゲート、例えば、DNAの二本鎖部分を介した抗体又はFab断片の架橋;例えば米国特許第5,637,481号明細書で説明されているような二重特異性融合タンパク質、例えば、完全定常領域との間に親水性らせんペプチドリンカーを有する2個のscFvを含む発現構築物;例えば米国特許第5,837,242明細書で説明されているような多価及び多重特異性の結合タンパク質、例えば、一般にダイアボディと呼ばれる、Ig重鎖可変領域の結合領域を有する第1のドメインと、Ig軽鎖可変領域の結合領域を有する第2のドメインを有するポリペプチドの二量体(二重特異性、三重特異性又は四重特異性の分子を作る高次構造も開示されている);例えば米国特許第5,837,821号明細書で説明されているような、連結されたVL鎖及びVH鎖が、ペプチドスペーサーにより、抗体ヒンジ領域及びCH3領域にさらに接続されているミニボディ構築物(二量体化して二重特異性/多価分子を形成し得る);短いペプチドリンカー(例えば、5~10個のアミノ酸)で連結された、又はいずれの方向にも全くリンカーなしで連結されたVHドメイン及びVLドメイン(二量体を形成して二重特異性ダイアボディを形成し得る);例えば米国特許第5,844,094号明細書で説明されているような三量体及び四量体;例えば米国特許第5,864,019号明細書で説明されているような、一連のFV(又はscFv)を形成するためにVLドメインにさらに会合したC末端で架橋可能な基とペプチド結合により接続されたVHドメイン(又はファミリメンバー中のVLドメイン)のストリング;ならびに例えば米国特許第5,869,620号明細書で説明されているように、ペプチドリンカーを介してVHドメイン及びVLドメインの両方が連結されている一本鎖結合ポリペプチドは、非共有結合を介して又は化学架橋を介して多価構造体へと結合し、scFv型形式又はダイアボディ型形式の両方を使用して、例えば、ホモ二価、ヘテロ二価、三価、及び四価の構造体を形成する。
【0044】
電荷操作
二重特異性抗体分子を生成するための電荷操作の使用の具体例として、例えば国際公開第07/110205号パンフレット(Merck)で説明されているSEEDヘテロ二量体形成、ならびに国際公開第09/089004号パンフレット(Amgen)、欧州特許第1870459B1号明細書(Chugai)、国際公開第10/129304号パンフレット(Oncomed)、同第14/150973号パンフレット(Eli Lilly & Co及びUniversity of North Carolina)、ならびに同第16/118742号パンフレット(Eli Lilly and & Co)で説明されている技術が挙げられる。
【0045】
国際公開第07/110205号パンフレット(Merck)で説明されているSEEDヘテロ二量体は、IgA及びIgGの操作されたCH3ドメインを含み、第1及び第2の操作されたドメインは、ホモ二量体の形成よりも優先的に互いにヘテロ二量体を形成する。加えて、Fc領域に差次的にタグを付けて、ヒトIgG3アイソタイプがプロテインAに結合できないことを利用し得ることにより、ヘテロ二量体の効率的な精製が可能になる(米国特許第8,586,713号明細書)。
【0046】
国際公開第09/089004号パンフレット(Amgen Inc.)では、ホモ二量体の形成よりも重鎖ヘテロ二量体の形成を静電気的に支持するために、CH3ドメイン中で電荷操作を使用して二重特異性抗体分子を作製する方法が説明されており、且つ例示されている。この適用はさらに、適切な重鎖に結合するために各軽鎖の忠実度を高めて、重鎖のCH1ドメイン及び軽鎖の定常領域を操作して二量体化を支持し得ることも示唆する。軽鎖-重鎖相互作用のこの分析から、特定の軽鎖及び重鎖の対の結合を増強するために電荷対を配列に導入し得る位置が明らかとなった。この位置は、ラムダ軽鎖のT112及び重鎖のA141、ラムダ軽鎖のE156及び重鎖のS176、ならびにラムダ軽鎖のS171及び重鎖のS183を含んだ。さらなる位置が、国際公開第09/089004号パンフレットの表4及び表5に太字で示された。
【0047】
欧州特許第1870459B1号明細書(Chugai)では、VHとVLとの間の会合を、VH-VL界面で存在するアミノ酸を荷電アミノ酸に置換することにより調節し得ることが報告されており、このことは、「ノブ・イントゥ・ホール」技術と比べて異種分子の形成で有効である。彼らは、このことが、VHとVLとの間の会合の調節に適用され得るだけでなく、任意のポリペプチドの間での会合の調節にも適用され得ることを示唆する。示唆された改変は、sc(Fv)2のVH/VL界面中に存在する。VH/VLの界面が改変されたsc(Fv)2の調製物は、VHのQ39及びVLのQ38、ならびにVLのP44での改変を含んだ。
【0048】
国際公開第10/129304号パンフレット(Oncomed Pharmaceuticals.Inc.)では、ヘテロ二量体分子中のポリペプチド間の静電気的な及び/又は疎水性/親水性の相互作用の変更が、ホモ多量体よりも重鎖ヘテロ多量体の形成を支持する方法が説明されている。2個のポリペプチドの間の界面で相互作用するアミノ酸が、改変のために選択された。親水性相互作用に関与するアミノ酸残基は、より疎水性のアミノ酸残基及び/又は別のアミノ酸との電荷相互作用に関与するアミノ酸に置き換えられた。ヒトIgG2のCH3ドメイン中の236位、245位、249位、278位、286位、及び288位が、置換のために選択された。
【0049】
国際公開第14/150973号パンフレット(Eli Lilly & Co及びUniversity of North Carolina)で説明されている研究は、VHドメイン及びVLドメインならびにCH1ドメイン及びCLドメインの界面中に設計された残基を有するFab及び二重特異性抗体に関する。置換は、VH中の62位及びVL中の1位、ならびに/又はVH中の39位及びVL中の38位(Kabatナンバリング)で行なわれた。さらなる置換が、CH1中の172位及び/又は174位、ならびにCL中の135位及び/又は176位で行なわれた。正しい重鎖-軽鎖の対形成を試みて改善するために、重鎖中のK228D及び軽鎖中のD122kのさらなる「電荷交換」置換も行なわれた。これらの置換の様々な組み合わせによっても、達成され得る正しい重鎖-軽鎖の対形成の割合は依然として90%未満であった。
【0050】
国際公開第16/118742号パンフレット(Eli Lilly & Co)で説明されているより最近の研究は、特に、407位、及び366位、409位;407位、399位、及び366位、409位;360位、399位、407位、及び345位、347位、366位、409位;349位、370位、及び357位、364位;ならびに349位、366位、370位、409位、及び357位、364位、407位で、重鎖ヘテロ二量体化を改善するために、コンピュータによる合理的な設計に基づいて両方のCH3ドメイン中に置換を含む二重特異性抗体に関する。加えて、上記で詳細に説明したように、Lewis et al.,(2014)上記参照及び国際公開第14/150973号パンフレットで説明されているように、VHドメイン及びVLドメインに対して変異が行なわれた。これらの追加のCH3変異によってのみ、国際公開第14/50973号パンフレットで観察されたものよりも重鎖-軽鎖結合の改善を達成し得た。
【0051】
本発明では静電気的操作の概念も使用されているが、本発明者らは、電荷改変のための位置の選択に独特の基準を適用している。相互作用の中心ではなく重鎖-軽鎖の対形成の界面の縁の位置を選択すると、強い塩橋を介して正しい重鎖-軽鎖の形成を調節することにより、正しい重鎖-軽鎖の対形成を支持する「クリップ効果」が得られる。可変ドメインの終わりで、ならびにCH1ドメイン及びCL領域の始まり及び終わりで荷電残基(必要に応じて酸性又は塩基性)を置換することにより、CH1及びCLの界面の不安定化も減少する。そのような改変により、重鎖と、その最大100%同種の軽鎖との正しい対形成、及び相互作用ドメインの最小限の不安定化のみが達成されている。
【0052】
ジスルフィド結合操作
これまでの研究は、1個のCH1-CL界面内の天然の鎖間ジスルフィド結合の、操作された鎖間ジスルフィド結合への置き換えにより、同種のLC及びHCの対形成の増強が達成され得ることを説明している(米国特許出願公開第20140348839号明細書(MedImmune))。本発明のある実施形態では、電荷操作と、ジスルフィド結合操作との組み合わせが適用されている。天然の鎖間ジスルフィド結合は、文献で広く説明されているVH44-VL100ジスルフィド結合を安定化するFvに基づく設計を使用して、VH-VL界面内の結合に置き換えられた(Reiter et al.,(1996)Nat.Biotech.14:1239-45;Weatherill et al.,(2012)Protein Eng.Des.Sel.25(7):321-9)。そのような改変は、所望の独特のHC/LC対形成を供給結合的にロックすることを意図しており、加えて、二重特異性抗体の調製物をプロファイリングするのに必要な分析手順を容易にする。本明細書で説明された静電気的操作方法の厳密さにさらに追加する簡単な電気泳動ベースの手順を使用して、誤って構築された分子を容易に特定して定量し、正しく対形成した二重特異性抗体を達成し得る。静電気的操作により既に改変されているが、100%正しい同種の対形成を示さなかった重鎖及び軽鎖の対へのジスルフィド結合操作の追加により、誤って構築された分子を排除し得、重鎖とその同種の軽鎖との最大100%の正しい対形成を有する二重特異性抗体が得られる。
【0053】
核酸及び発現系
本発明は又、本明細書で説明された重鎖及び/又は軽鎖の定常ドメイン及び/又は可変ドメインをコードする核酸も包含する。本発明の核酸分子は、一本鎖の形態及び二本鎖の形態の両方のDNA及びRNA、ならびに対応する相補配列を含む。本発明の核酸分子は、完全長の遺伝子又はcDNA分子、及びこれらの断片の組み合わせを含む。本発明の核酸はヒト供給源に由来するが、本発明は、非ヒト種に由来するものを含む。
【0054】
「単離核酸」とは、天然に存在する供給源から単離された核酸の場合には、核酸が単離された生物のゲノム中に存在する隣接遺伝子配列から分離されている核酸のことである。テンプレートから酵素的に合成されたか、又は化学的に合成された核酸(例えば、PCR産物、cDNA分子、又はオリゴヌクレオチド)の場合には、そのようなプロセスから得られる核酸は単離核酸であることが理解される。単離核酸分子は、別個の断片の形態の核酸分子、又はより大きい核酸構築物の構成成分としての核酸分子を指す。好ましい一実施形態では、核酸は、内在性夾雑物質を実質的に含まない。核酸分子は好ましくは、実質的に純粋な形態で、且つ標準的な生化学的方法によるこの核酸分子の構成成分のヌクレオチド配列の同定、操作、及び回収を可能にする量又は濃度で、少なくとも1回は単離されているDNA又はRNAから由来している(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY(1989)で概説されているもの)。そのような配列は好ましくは、典型的には真核生物遺伝子中に存在する内部非翻訳配列(即ちイントロン)で中断されていないオープンリーディングフレームの形態で提供される、及び/又は構築される。非翻訳DNAの配列はオープンリーディングフレームから5’又は3’に存在し得、この配列は、コード領域の操作又は発現を妨げない。
【0055】
バリアント配列を、本明細書で概説するように、カセット変異誘発もしくはPCR変異誘発又は当分野で公知の他の技術を使用する、ポリペプチドをコードするDNA中のヌクレオチドの部位特異的変異誘発により、このバリアントをコードするDNAを生成し、その後に細胞培養物中で組換えDNA発現をさせることにより、調製し得る。
【0056】
本発明は又、上記の少なくとも1種のポリペプチドを含むプラスミド、発現ベクター、転写カセット又は発現カセットの形態の発現系及び発現構築物も提供する。加えて、本発明は、そのような発現系又は発現構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0057】
一実施形態では、本発明は、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインと、操作されたVLドメイン及びCLドメインとを含むヘテロ二量体抗体又はその断片を調製する方法であって、このVHドメイン及びCH1ドメインは、39位、147位、及び165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸を含み、このVLドメイン及びCLドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸を含み、この方法は、(a)この操作されたVHドメイン及びCH1ドメインのポリペプチドをコードする核酸と、この操作されたVLドメイン及びCLドメインのポリペプチドを含む核酸とを含む宿主細胞を培養する工程であり、培養された宿主細胞は、これらの操作されたポリペプチドを発現する、培養する工程、ならびに(b)この宿主細胞の培養物からヘテロ二量体抗体を回収する工程を含む、方法を提供する。
【0058】
本発明で有用な発現ベクターを、出発ベクター(例えば市販のベクター)から構築し得る。このベクターを構築し、軽鎖、重鎖、又は軽鎖及び重鎖の配列をコードする核酸分子を、このベクターの適切な部位に挿入した後、完成したベクターを、増幅及び/又はポリペプチド発現に適した宿主細胞に挿入し得る。選択した宿主細胞の発現ベクターによる形質転換を、公知の方法(例えば、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、DEAE-デキストラン媒介型トランスフェクション、又は他の既知の技術)により達成し得る。選択される方法は部分的に、使用される宿主細胞の種類と相関関係があるだろう。これらの方法及び他の適切な方法は当業者に公知であり、例えば、Sambrook et al.,2001,上記参照に記載されている。
【0059】
典型的には、この宿主細胞で使用される発現ベクターは、プラスミドの維持のための配列、ならびに外在性ヌクレオチド配列のクローニン及び発現のための配列を含むだろう。そのような配列(「隣接配列」と総称される)は、ある特定の実施形態では、典型的には下記のヌクレオチド配列のうちの1つ又は複数を含む:プロモーター、1個又は複数個のエンハンサー配列、複製起点、転写終結配列、ドナー及びアクセプタースプライス部位を含む完全なイントロン配列、ポリペプチド分泌のリーダー配列をコードする配列、リボソーム結合部位、ポリアデニル化配列、発現させるポリペプチドをコードする核酸を挿入するためのポリリンカー領域、ならびに選択可能なマーカー要素。
【0060】
適切な条件下で培養される場合には、宿主細胞を使用して二重特異性抗体を発現させ得、その後、この二重特異性抗体を、(この宿主細胞が培地中にこの二重特異性抗体を分泌する場合には)培養培地から回収し得るか、又は(この二重特異性抗体が分泌されない場合には)この二重特異性抗体を産生する宿主細胞から直接回収し得る。適切な宿主細胞の選択は、様々な要因(例えば、所望の発現レベル、活性に望ましい又は必須のポリペプチド改変(例えば、グリコシル化又はリン酸化)、及び生物学的に活性な分子へのフォールディングの容易さ)に依存するだろう。宿主細胞は、真核生物であってもよいし、原核生物であってもよい。
【0061】
発現用の宿主として利用可能な哺乳類細胞株は、当分野で公知であり、American Type Culture Collection(ATCC)から入手可能な不死化細胞株が挙げられるがこれに限定されず、当分野で既知の発現系で使用される任意の細胞株を使用して、本発明の組換えポリペプチドを作製し得る。一般に、宿主細胞を、所望の二重特異性抗体をコードするDNAを含む組換え発現ベクターで形質転換させる。利用され得る宿主細胞の中でも特に、原核生物、酵母、又は高等真核細胞である。原核生物として、グラム陰性又はグラム陽性の生物(例えば、大腸菌(E.coli)又は桿菌)が挙げられる。高等真核細胞として、昆虫細胞、及び哺乳類起源の確立された細胞株が挙げられる。適切な哺乳類宿主細胞の例として、下記が挙げられる:COS-7細胞、L細胞、Cl27細胞、3T3細胞、血清フリー培地中で増殖するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株又はその誘導対もしくは関連細胞株、HeLa細胞、BHK細胞株、CVIIEBNA細胞株、ヒト胎児由来腎臓細胞、例えば、293、293 EBNA又はMSR 293、ヒト上皮A431細胞、ヒトColo205細胞、他の形質転換された霊長類細胞株、正常な二倍体細胞、初代組織のインビトロ培養物由来の細胞株、初代移植片、HL-60、U937、HaK又はJurkat細胞。任意選択で、様々なシグナル変換アッセイ又はレポーターアッセイでポリペプチドを使用することが望ましい場合には、このポリペプチドの発現に哺乳類細胞株(例えば、HepG2/3B、KB、NIH 3T3又はS49)を使用し得る。あるいは、下等真核生物(例えば酵母)中で又は原核生物(例えば細菌)中でポリペプチドを産生させることが可能である。適切な酵母として、S.セレビシエ(S.cerevisiae)、S.ポンベ(S.pombe)、クリベロマイセス(Kluyveromyces)株、カンジダ(Candida)、又は異種ポリペプチドを発現し得るあらゆる酵母株が挙げられる。適切な細菌株として、大腸菌(E.coli)、B.スブチリス(B.subtilis)、S.チフィリウム(S.typhimurium)、又は異種ポリペプチドを発現し得るあらゆる細菌株が挙げられる。本二重特異性抗体が酵母又は細菌中で作製される場合、機能する産物を得るために、例えば適切な部位のリン酸化又はグリコシル化により、この酵母又は細菌中で産生される産物を改変することが望ましい場合がある。そのような共有結合性の付着を、既知の化学的な又は酵素的な方法を使用して達成し得る。
【実施例
【0062】
実施例1:合理的な設計
合理的な設計戦略を使用して一連のタンパク質を生成し、正しい重鎖-軽鎖の対形成等の望ましい特性を示す変異を特定した。重鎖-軽鎖の対形成の操作のための設計戦略には、代表的なFabを特定することが含まれた。代表的なFabの基準は、一般に使用されるVH及びVLのサブグループのメンバー(例えば、VH3及びVK1)であるか、又はラムダ軽鎖のメンバーであるということであった。Fab(抗c-Kit重鎖、配列番号7、及び軽鎖、配列番号21)の選択後、Fab界面のインシリコでの分析を実行して、重鎖と軽鎖との間の可能な相互作用に重要な残基を特定した。
【0063】
可変ドメインVH及びVKならびに定常ドメインCH1及びCK中で一連の変異を導入した後、AMBER99力場を使用して、モデリングソフトウェアMOE(Chemical Computing Group Inc.)でモデルを作成した。Blastp 2.2.30+プログラムを使用して、PDBデータベースに対して変異ドメインを実行した。同一性が最高であるpdbX線構造を選択して、最良のバリアント(pdb 3KDM)をモデル化した。
【0064】
1.1 残基位置の選択
軽鎖と、この軽鎖の同種の重鎖の正しい対形成を確実にするために、重鎖-軽鎖の構築を制御する方法を調べた。好ましいアプローチは、VH-VLドメイン及びCH1-CLドメインの電荷操作により、この構築を制御することであった。この実施例では、電荷操作の適切な位置を、人により誘導される設計により選択し、いくつかの基準を適用した。この選択したアミノ酸は、CDRと接触しないようにすべきであり、可能であれば、最も一般的な抗体ファミリ内で高度に保存されなければならない。界面の中心での位置は避けるべきであり、「クリップ効果」を達成するためにはむしろ、この位置は界面の縁であるべきである。一方のアームは荷電残基のセットを有すべきであり、他方のアームは、対応する3D位置でカウンター電荷又は中性電荷を有すべきである。操作の基準を満たした残基を下記の表1に列挙し、これらのうちのいくつかを、ヘテロ二量体抗体を作製するために調べた。エネルギーの最小化後、選択した側鎖の距離を確認するために、相同性モデリングを適用した。AMBER99力場を使用して、モデリングソフトウェアMOE(Chemical Computing Group Inc.)によりモデルを作成した。さらなる実験のために、10Å未満の側鎖距離のみを考慮した。例えば、K147DからT129Rまでの距離は10.1Åであり、この対形成をさらには追求しなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
実施例2:操作されたFabの発現及び精製
重鎖及び軽鎖のDNAをGeneArt(Regensburg,Germany)で合成し、制限酵素ライゲーションをベースとするクローニング技術を使用して哺乳動物発現ベクターにクローニングした。得られたプラスミドをHEK293T細胞に共トランスフェクトした。Fabの一時的な発現のために、各操作された鎖に関して等量のベクターを、ポリエチレンイミン(PEI;カタログ番号 Polysciences,Inc.)を使用して、懸濁液適応(suspension-adapted)HEK293T細胞に共トランスフェクトした。典型的には、1ml当たり100~200万個の細胞の密度での懸濁液中の細胞100mlを、操作された重鎖をコードする発現ベクター50μgと、操作された軽鎖をコードする発現ベクター50μgとを含むDNAでトランスフェクトした。次いで、組換え発現ベクターを宿主細胞に導入し、7日の期間にわたり細胞をさらに培養して、0.1%のプルロン酸(pluronic acid)、4mMのグルタミン、及び0.25μg/mlの抗生物質を補充した培養培地(HEK、血清フリー培地)に分泌させることにより、構築物を産生させた。次いで、産生された構築物を、免疫親和性クロマトグラフィーを使用して、細胞フリー上清から精製した。ろ過した馴化培地をプロテインA樹脂(CaptivA PriMab(商標),Repligen)300μlと混合し、PBSバッファーpH7.4で平衡化した。この樹脂を15カラム容量のPBS pH7.4で3回洗浄した後、10カラム容量のプロテインA溶出バッファー(50mMのクエン酸塩、90mMのNaCl、pH2.5)でFabを溶出させた。
【0067】
概念実証研究のために、インハウスで生成した抗c-Kit抗体のFabを選択した。2種の操作された軽鎖が、2種の異なる操作された重鎖に結合するという選択肢を有する競合研究を実施した。検証を容易にするために、ある特定の軽鎖又は重鎖のC末端には2個の追加のアラニン残基を融合させたが、他の軽鎖及び重鎖を、電荷が操作された実体のみとして保持した。表2に示すように、2個のアラニン残基を含むか、又は含まない、これらの異なる電荷操作鎖は、質量が異なった。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例3:操作されたFabの質量分析
Fabバリアントの正しい重鎖-軽鎖の対形成の評価を、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-UV-ESI-MS)により行なった。簡潔に言うと、精製済タンパク質を、スピン濃縮器(3000 MWCO、Millipore)を使用して100μLまで濃縮し、100%の水、0.05%のトリフルオロ酢酸(TFA)、及び100%のアセトニトリル、0.04%のTFAを含むUPLC(Acquity UPLC I-Class,Waters)による逆相クロマトグラフィー(カラムBEH C4 1.7μm 2.150mm,Waters)で分析した。5%~10%のアセトニトリル(0.2分で0.04%)の第1の勾配を適用し、次いで10%~45%のアセトニトリル(4分で0.04%)の第2の勾配を適用することにより、Fabバリアントを80℃で分離した。溶出したFabバリアントをUV(210~450nm)で検出し、エレクトロスプレーイオン化(ESI)によりイオン化させた後、QTOF(Xevo G2-S QTof,Waters)により質量を分析した。最後に、注入したFab混合物の相対組成を、UVシグナルと質量強度との二重積分により決定した。
【0070】
様々なHC-LCの組み合わせの対形成の結果を表3に示す。右側の欄は、正しいHC-LCの対形成の割合を示す。100%の値は、誤対形成がなく、軽鎖の100%がその同種の重鎖に結合したことを示す。例えば、95%の値は、軽鎖の95%がその同種の重鎖に結合したが、軽鎖がその同種の重鎖に結合しなかった5%の誤対形成が存在したことを示す。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例4:2本のカッパ軽鎖(VH3-VK_VH3-VK)を有するIgGへの翻訳
いくつかの好ましい変異セットを、多くのIgG1の可変領域及び定常領域に導入した。抗C-Kit抗体(配列番号29及び30)に加えて、抗HER3抗体(配列番号31及び32)ならびに抗IL-17抗体(配列番号33及び34)を使用して、IgG1設定でHC-LCの対形成を評価した。3種全ての抗体は、サブグループVH3/VK1のメンバーである。重鎖を正しく構築するために、抗体のCH3ドメインに導入された変異と共に、「ノブ・イントゥ・ホール」技術(Ridway et al.,上記参照)を使用した。下記の表4に従って、抗体の可変ドメイン、CH1ドメイン及びCLドメイン中に、さらなる変異を導入した。
【0073】
【表4】
【0074】
同一細胞中において標準的な一過性HEK発現を使用して、変異セットを含むヘテロ二量体抗体を生成し、正しい構築ならびに生化学的特性及び生物物理学的特性に関して評価した。さらに、操作されたヘテロ二量体抗体を、抗原の同時結合に関して評価した。親(非変異)IgG1との比較を表5に示す。Fabヘテロ二量体化の割合を、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-UV-ESI-MS;実施例3で説明されている)により決定した。例えば、IL-17/HER3ヘテロ二量体抗体で観察した72%の値は、IL-17軽鎖及びHER3軽鎖の72%がそれらの同種の重鎖に結合したが、IL-17軽鎖がHER3重鎖に結合し且つHER3軽鎖がIL-17重鎖に結合する28%の誤対形成が存在したことを示す。変異IL-17/変異HER3ヘテロ二量体抗体、及び変異IL-17/変異c-Kitヘテロ二量体抗体、及び変異c-Kit/変異HER3ヘテロ二量体抗体で観察したように、100%の値は、誤対形成が存在せず、軽鎖の100%がその同種の重鎖に結合したことを示す。
【0075】
【表5】
【0076】
実施例5:1本のカッパ軽鎖及び1本のラムダ軽鎖(VH3-VK_VH3-VL)を有するIgGへの翻訳
抗体のFab部分に電荷を導入する効果を評価するために、カッパ軽鎖を有する抗体を、ラムダ軽鎖を含む抗体と混合した。好ましい変異セットをIgG1に導入した。抗c-Kit抗体(配列番号29及び30)に加えて、抗HER3抗体(配列番号31及び32)、抗IL-17抗体(配列番号33及び34)、抗IL-18抗体(配列番号35及び36)を使用して、IgG1設定で重鎖-軽鎖の対形成を評価した。c-Kit抗体、HER3抗体及びIL-17抗体はサブグループVH3-VK1のメンバーであり、IL-18抗体は、サブルグープVL1のメンバーである軽鎖を含む。重鎖の正しい構築を確実にするために、抗体のCH3ドメイン中に導入した変異と共に、「ノブ・イントゥ・ホール技術」(上記参照)を使用した。下記の表6に従って、抗体の可変ドメイン、CH1ドメイン、及びCLドメイン中に、さらなる変異を導入した。
【0077】
【表6】
【0078】
変異セットを含むヘテロ二量体抗体を生成し、正しい構築に関して評価した。親(非変異)IgG1との比較を表7に示す。右側の欄は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-UV-ESI-MS;実施例3で説明されている)を使用して決定した場合のFabヘテロ二量体化の割合を示す。IL-17/IL-18ヘテロ二量体抗体で観察した71%の値は、IL-17軽鎖及びIL-18軽鎖の71%がそれらの同種の重鎖に結合したが、IL-17軽鎖がIL-18重鎖に結合し且つIL-18軽鎖がIL-17重鎖に結合する29%の誤対形成が存在したことを示す。変異IL-17/変異IL-18ヘテロ二量体抗体、及び変異c-Kit/変異IL-18ヘテロ二量体抗体で観察したように、100%の値は、誤対形成が存在せず、軽鎖の100%がその同種の重鎖に結合したことを示す。
【0079】
【表7】
【0080】
実施例6:表面プラズモン共鳴(SPR)結合分析
操作された抗体のそれらの抗原に対する結合の特徴を明らかにするために、直接結合アッセイを実施した。速度論的結合親和性定数(Kinetic binding affinity constant)(KD)を、分析物として組換えヒト抗原を使用して、プロテインA補足タンパク質で測定した。測定を、室温でBIAcore(登録商標)T200(GE Healthcare,Glattbrugg,Switzerland)により行なった。親和性測定のために、タンパク質を、10mMのNaP、150mMのNaCl、0.05%のTween20,pH5.8で希釈し、製造業者の推奨(GE Healthcare)に従って標準的なアミンカップリング手順を使用して、CM5研究グレードセンサーチップ(GE Healthcare、ref BR-1000-14)のフローセルに固定した。参照として機能するために、1個のフローセルをブランク固定した。その後に、参照フローセル及び測定フローセルに一連の分析物希釈液を注入することにより、結合データを取得した。データ評価の最中に二重参照を可能にするために、ゼロ濃度の試料(ランニングバッファーのみ)を含めた。データ評価のために、2倍の参照センサグラム(referenced sensogram)を使用し、定常状態分析により分析して平衡解離定数(KD)を作成した。結果を表5にまとめている(欄BIAcore(登録商標)-KD(nM)。
【0081】
実施例7:示差走査熱量測定(DSC)
表5(欄DSC-Tm(℃))に示すように、熱力測定を使用して、操作されたヘテロ二量体抗体、及びその親抗体の熱安定性を比較した。示差走査マイクロ熱量計(Nano DSC,TA instruments)で熱量測定を実行した。セル容積は0.5mlであり、加熱速度は1℃/分であった。全てのタンパク質を、PBS(pH7.4)中の1mg/mlの濃度で使用した。各タンパク質のモル熱容量を、タンパク質を含まない同一のバッファーを含む二重試料との比較により推定した。標準的な手順を使用して、部分モル熱容量及び融解曲線を分析した。サーモグラムをベースライン補正し、濃度を正規化した。
【0082】
実施例8:フレームワークが異なるIgGへの電荷操作の翻訳
フレームワークが異なる抗体のFabに電荷を導入する効果を評価するために、軽鎖フレームワークVK1、VK3、VL1、VL2、VL3と、重鎖フレームワークVH1、VH2、VH3、VH5、及びVH6を有する抗体を、カッパ軽鎖VK1及び重鎖VH3を含む抗体と混合する。ヒト起源のフレームワーク領域の配列を、The Immunoglobulin Factsbook,by Marie-Paule Lefranc,Gerard Lefranc,Academic Press 2001,ISBN 012441351から入手し得る。好ましい変異セットをIgG1に導入し、対応する、操作されていない親抗体と比較した。HER2及び5種の他の抗原A~Eに対する抗体を、抗IL-17抗体と組み合わせて使用して、IgG1設定で重鎖-軽鎖の誤対形成を評価した。重鎖の正しい構築を確実にするために、「ノブ・イントゥ・ホール」技術(上記参照)を使用した。
【0083】
抗原HER2又は抗原A~Eとして本明細書で列挙された多くの他の抗原を標的とする第1の結合アームと、IL-17を標的とする第2の結合アームとを有する二重特異性抗体を生成した。HER2に対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39D及びS165Dを含み、カッパVLドメイン及びカッパCLドメイン中にQ38K及びQ124Dを含むか、又はラムダVLドメイン及びラムダCLドメイン中にQ38K及びN170Rを含んだ。抗原Aに対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39D及びS165Dを含み、ラムダVLドメイン及びラムダCLドメイン中にQ38K又はQ38K及びN170Rを含んだ。抗原B、D、及びEに対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39D及びS165Dを含み、ラムダVLドメイン及びラムダCLドメイン中にQ38K及びN170Rを含んだ。抗原Cに対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39D及びS165Dを含み、ラムダVLドメイン中にQ38Kを含んだ。IL-17に対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、カッパVLドメイン及びカッパCLドメイン中にQ38D、Q124K、及びK169Dを含んだ。操作された二重特異性抗体の重鎖-軽鎖の対形成と、親二重特異性抗体との比較を、下記の表8に示す。生成された、操作された二重特異性抗体のほとんどに関して、液体クロマトグラフィー質量分析によるFabヘテロ二量体化の割合として測定した誤対形成は完全に排除された。それぞれの親二重特異性抗体と比較して、3種の操作された二重特異性抗体の場合には、誤対形成を最大5%観測したのみであった。この実施例は、二重特異性ヘテロ二量体抗体の重鎖-軽鎖の誤対形成の発生が、本明細書で開示された特定の静電気的操作変異を使用することによりほぼ排除され得、特定のフレームワーク領域を含む二重特異性ヘテロ二量体抗体に限定されないことを明確に示す。
【0084】
実施例9:フレームワークが異なるIgGへの電荷操作及びジスルフィド結合操作の翻訳
二重特異性抗体のFabへの電荷の導入に加えて、天然のLC-HC鎖間ジスルフィド結合を二重特異性抗体の1個のFab中の操作されたVH-VLジスルフィド結合に置き換える効果を評価した。軽鎖フレームワークVL2又はVL3と、重鎖フレームワークVH1、VH2、及びVH5とを有する抗体を、カッパ軽鎖VK1及び重鎖VH3を含む抗体と混合した。ヒト起源のフレームワーク領域の配列は、The Immunoglobulin Factsbook(上記参照)から得られる。好ましい静電気的変異セットを、1個のFabへの操作されたVH-VLジスルフィド結合の付加と共にIgG1に導入した。1個のFab中に荷電残基及び非天然のジスルフィド結合を有する、これらの操作された抗体を、1個のアームのみ中に非天然のジスルフィド結合で操作された、対応する親抗体と比較した。4種の抗原(抗原F、G、H、及びI)に対する抗体を、抗IL-17抗体と組み合わせて使用し、IgG1設定で重鎖-軽鎖の誤対形成を評価した。重鎖の正しい構築を確実にするために、「ノブ・イントゥ・ホール」技術(上記参照)を使用した。
【0085】
抗原F~Iとして本明細書で列挙された抗原を標的とする第1の結合アームと、IL-17を標的とする第2の結合アームとを有する二重特異性抗体を生成した。抗原F~Iに対する操作された抗体は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39D及びS165Dを含み、ラムダVLドメイン及びラムダCLドメイン中にQ38K及びN170Rを含んだ。IL-17に対する操作された抗体(配列番号73及び74)は、VHドメイン及びCH1ドメイン中に置換Q39K、G44C、K147D、S165R、及びC220Aを含み、カッパVLドメイン及びカッパCLドメイン中にQ38D、Q100C、Q124K、K169D、及びC214Aを含んだ。比較のために、ジスルフィド結合操作のみを有する抗IL-17抗体は、それぞれVH-CH1ドメイン中に置換G44C及びC220Aを含み且つLC中にQ100C、C124Aを含んだ(配列番号75及び76)。比較の結果を図1に示し、ウェルの内容物の詳細及び操作された位置を下記の表9に示す。
【0086】
この方法を使用して、正しく対形成された二重特異性抗体対誤対形成された二重特異性抗体を検出して定量する分析手順を大幅に簡素化し、なぜならば、SDS-PAGE又は任意の類似の電気泳動ベースのシステムにより、正しく構築された二重特異性抗体のみが完全長抗体(150kDa)として移動し得たからである。軽鎖と重鎖とが共有結合的に連結されていない誤対形成の場合では、不完全な分子と遊離軽鎖とがゲル上に現れた。電荷操作なしで生成された二重特異性抗体の場合に誤対形成を観察し、遊離した、対形成していない軽鎖(25kDaのバンド)及び不完全な分子(125kDaのバンド)をゲル上で検出した(図1;ウェル7~10)。逆に、ジスルフィド結合と荷電操作とを組み合わせる二重特異性抗体は、これらのバンドの痕跡のみを示した(図1;ウェル2~5)。この実施例は、二重特異性抗体の1個のFab中におけるLC-HC鎖間ジスルフィド結合操作と組み合わせて、本明細書で開示された特定の静電気的操作変異を使用することにより、二重特異性ヘテロ二量体抗体の場合の重鎖-軽鎖の誤対形成の発生を排除し得ることを明確に示す。ジスルフィド結合操作自体は、正しいLC-HCの対形成を駆動するには不十分であると思われた。加えて、重鎖及び軽鎖の誤対形成を電気泳動により測定し得ることから、分析手順が簡素化され、これにより、同種の重鎖及び軽鎖の正しい構築による二重特異性候補のハイスルースクリーニングが可能になる。
【0087】
【表8】
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
【表12】
【0092】
【表13】
【0093】
【表14】
【0094】
【表15】
【0095】
【表16】
【0096】
【表17】
【0097】
【表18】
【0098】
【表19】
【0099】
【表20】
【0100】
【表21】



本発明は、以下の態様を含む。
[1]
少なくとも2個のFabを含むヘテロ二量体抗体又はその断片であって、少なくとも1個のFabは、
(a)操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)であり、39位、147位で荷電アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と、
(b)操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)であり、38位で荷電アミノ酸を含み、124位及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含み、
前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の前記アミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応している、
ヘテロ二量体抗体又はその断片。
[2]
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、少なくとも95%のヘテロ二量体化が達成されている、[1]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[3]
前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位で酸性アミノ酸を含み、対応する前記操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含む、[1]又は[2]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[4]
前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み、147位で酸性アミノ酸を含み、且つ165位で塩基性アミノ酸を含み、対応する前記操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み、124位で塩基性アミノ酸を含み、且つ169/170位で酸性アミノ酸を含む、[1]又は[2]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[5]
前記操作された重鎖可変ドメインは、VH1サブタイプ、VH2サブタイプ、VH3サブタイプ、VH5サブタイプ、又はVH6サブタイプに由来する、[1]~[4]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[6]
前記操作された軽鎖可変ドメインは、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び169位で荷電アミノ酸を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[7]
前記操作された軽鎖可変ドメインは、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び170位で荷電アミノ酸を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[8]
Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリの操作された軽鎖可変ドメインと、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリの操作された軽鎖可変ドメインとを含む[1]~[7]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[9]
IgG Fc領域を含む[1]~[8]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[10]
前記IgG Fc領域は、336位で置換を有する第1のCH3領域と、336位、368位、及び407位で置換を有する第2のCH3領域とを含む、[9]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[11]
前記IgG Fc領域は、336位及び354位で置換を有する第1のCH3領域と、336位、368位、407位、及び349位で置換を有する第2のCH3領域とを含む、[9]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[12]
前記第1のCH3領域は、置換T336W及びS354Cを含み、前記第2のCH3領域は、置換T366S、L368A、Y407A、及びY349Cを含む、[11]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[13]
i.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記VL中のQ38K;
ii.前記VH及びCH1中のQ39K及びK147D、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38D及びQ124K;
iii.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;
iv.前記VH及びCH1中のQ39K、K147D、及びS165R、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38D、Q124K、及びK169D;
v.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170K;
ならびに
vi.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R
からなる群から選択される置換を含む[1]~[12]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[14]
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、最大100%のヘテロ二量体化が達成されている、[1]~[13]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[15]
追加のFabは、
操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)であって、39位、147位で荷電アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と、
操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)であって、38位で荷電アミノ酸を含み、且つ124位及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含み、
前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の前記アミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応し、
1個のFabの前記操作されたVH中の39位、147位、及び165位のそれぞれでの電荷は、前記追加のFabの前記操作されたVH中の39位、147位、及び165位のそれぞれでの電荷と異なる、
[1]~[14]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[16]
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D及びS165Dを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;(ii)前記ラムダVL中のQ38K;(iii)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R、又は(iv)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170Kから選択される置換を含む、[15]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[17]
前記追加のFab中の鎖間ジスルフィド結合は、操作されたVH-VL鎖間ジスルフィド結合に置き換えられている、[15]又は[16]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[18]
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D、G44C、S165D、及びC220Aを含み、且つ前記VL及びCL中に、(i)前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K、Q100C、Q124D、及びC214A;(ii)前記ラムダVL中のQ38K、G100C、及びC214A;(iii)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C N170R、及びC214A;又は(iv)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C、E124D、N170K、及びC214Aから選択される置換を含む、[17]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片。
[19]
界面を形成するように対応している、操作されたVHドメイン及びCH1ドメインならびに操作されたVLドメイン及びCLドメインを含むヘテロ二量体抗体又はその断片を調製する方法であって、前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の少なくとも2個のアミノ酸を置換し、その結果、前記操作されたドメインは、39位、147位及び165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、置換すること、ならびに前記VLドメイン及びCLドメイン中のアミノ酸を置換し、その結果、前記操作されたドメインは、38位、124位、及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む、置換することを含み、前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記荷電アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の前記界面の対応するアミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成している、方法。
[20]
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、少なくとも95%のヘテロ二量体化が達成されている、[19]に記載の方法。
[21]
前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で酸性アミノ酸を含み、147位で塩基性アミノ酸を含み、且つ165位で酸性アミノ酸を含み、前記操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で塩基性アミノ酸を含み、124位で酸性アミノ酸を含み、且つ169/170位で塩基性アミノ酸を含む、[19]又は[20]に記載の方法。
[22]
前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインは、39位で塩基性アミノ酸を含み、147位で酸性アミノ酸を含み、且つ165位で塩基性アミノ酸を含み、前記操作されたVLドメイン及びCLドメインは、38位で酸性アミノ酸を含み、124位で塩基性アミノ酸を含み、且つ169/170位で酸性アミノ酸を含む、[19]又は[20]に記載の方法。
[23]
前記操作された重鎖可変ドメインは、VH1サブタイプ、VH2サブタイプ、VH3サブタイプ、VH5サブタイプ、又はVH6サブタイプに由来する、[19]~[22]のいずれか一項に記載の方法。
[24]
前記操作された軽鎖可変ドメインは、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び169位で荷電アミノ酸を含む、[19]~[23]のいずれか一項に記載の方法。
[25]
前記操作された軽鎖可変ドメインは、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリに由来し、且つ38位、124位及び170位で荷電アミノ酸を含む、[19]~[23]のいずれか一項に記載の方法。
[26]
前記ヘテロ二量体抗体又はその断片は、Vκ1サブファミリ又はVκ3サブファミリの操作された軽鎖可変ドメインと、Vλ1サブファミリ、Vλ2サブファミリ、又はVλ3サブファミリの操作された軽鎖可変ドメインとを含む、[19]~[25]のいずれか一項に記載の方法。
[27]
前記ヘテロ二量体抗体又はその断片はIgG Fc領域を含む、[19]~[26]のいずれか一項に記載の方法。
[28]
前記IgG Fc領域は、336位で置換を有する第1のCH3領域と、336位、368位、及び407位で置換を有する第2のCH3領域とを含む、[27]に記載の方法。
[29]
前記IgG Fc領域は、336位及び354位で置換を有する第1のCH3領域と、336位、368位、407位、及び349位で置換を有する第2のCH3領域とを含む、[27]に記載の方法。
[30]
前記第1のCH3領域は、置換T366W及びS354Cを含み、且つ前記第2のCH3領域は、置換T366S、L368A、Y407A、及びY349Cを含む、[29]に記載の方法。
[31]
前記ヘテロ二量体抗体又はその断片は、
i.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記VL及びCL中のQ38K;
ii.前記VH及びCH1中のQ39K及びK147D、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38D及びQ124K;
iii.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;
iv.前記VH及びCH1中のQ39K、K147D、及びS165R、ならびに前記カッパVL及びカッパCL中のQ38D、Q124K、及びK169D;
v.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D、及びN170K;
ならびに
vi.前記VH及びCH1中のQ39D及びS165D、ならびに前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R
からなる群から選択される置換を含む、[19]~[30]のいずれか一項に記載の方法。
[32]
液体クロマトグラフィー質量分析により決定した場合に、最大100%のヘテロ二量体化が達成されている、[19]~[31]のいずれか一項に記載の方法。
[33]
前記ヘテロ二量体抗体又はその断片は追加のFabを含み、前記追加のFabは、
操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)であって、39位、147位で荷電アミノ酸を含み、且つ165位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作された重鎖可変ドメイン(VH)及び重鎖定常ドメイン1(CH1)と、
操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)であって、38位で荷電アミノ酸を含み、且つ124位及び169/170位(EUナンバリング)で荷電アミノ酸又は中性アミノ酸を含む操作された軽鎖可変ドメイン(VL)及び軽鎖定常ドメイン(CL)と
を含み、
前記VHドメイン及びCH1ドメイン中の前記アミノ酸と、前記VLドメイン及びCLドメイン中の前記アミノ酸とは一対で、電荷が相反しているか、又は荷電しており/中性であり、且つヘテロ二量体化に静電気的に有利な界面を形成するように対応し、
1個のFabの前記操作されたVH中の39位、147位及び165位のそれぞれでの電荷は、前記追加のFabの前記操作されたVH中の39位、147位及び165位のそれぞれでの電荷と異なる、
[19]~[32]のいずれか一項に記載の方法。
[34]
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D及びS165Dを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K及びQ124D;(ii)前記ラムダVL中のQ38K;(iii)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K及びN170R、又は(iv)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、E124D及びN170Kから選択される置換を含む、[33]に記載の方法。
[35]
前記追加のFabの天然のLC-HC鎖間ジスルフィド結合は、操作されたVH-VL鎖間ジスルフィド結合に置き換えられている、[33]又は[34]に記載の方法。
[36]
1個のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39K、K147D、及びS165Rを含み、且つ前記VL及びCL中に置換Q38D、Q124K、及びK169Dを含み、前記追加のFabは、前記VH及びCH1中に置換Q39D、G44C、S165D、及びC220Aを含み、且つ前記VH及びCL中に、(i)前記カッパVL及びカッパCL中のQ38K、Q100C、Q124D、及びC214A;(ii)前記ラムダVL中のQ38K、G100C、及びC214A;(iii)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C N170R、及びC214A、又は(iv)前記ラムダVL及びラムダCL中のQ38K、G100C、E124D、N170K、及びC214Aから選択される置換を含む、[35]に記載の方法。
[37]
[1]~[16]のいずれか一項に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片を調製する方法であって、
(a)前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインのポリペプチドをコードする核酸と、前記操作されたVLドメイン及びCLドメインのポリペプチドを含む核酸とを含む宿主細胞を培養する工程であり、前記培養された宿主細胞は、前記操作されたポリペプチドを発現する、培養する工程、
ならびに
(b)前記宿主細胞の培養物から前記ヘテロ二量体抗体又はその断片を回収する工程
を含む方法。
[38]
[17]又は[18]に記載のヘテロ二量体抗体又はその断片を調製する方法であって、
(a)前記操作されたVHドメイン及びCH1ドメインのポリペプチドをコードする核酸と、前記操作されたVLドメイン及びCLドメインのポリペプチドを含む核酸とを含む宿主細胞を培養する工程であり、前記培養された宿主細胞は、前記操作されたポリペプチドを発現する、培養する工程、
(b)前記宿主細胞の培養物から前記ヘテロ二量体抗体又はその断片を回収する工程、
ならびに
(c)電気泳動システムを使用して、正しい重鎖-軽鎖の対形成を決定する工程
を含む方法。
図1
【配列表】
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