(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】解剖学的構造が損なわれた肩甲骨に人工肩関節の関節窩部材を固定するための肩甲骨アンカー、および、関連する該肩甲骨アンカーを製造する方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/40 20060101AFI20220803BHJP
A61B 17/80 20060101ALI20220803BHJP
A61B 17/86 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
A61F2/40
A61B17/80
A61B17/86
(21)【出願番号】P 2019555762
(86)(22)【出願日】2018-04-12
(86)【国際出願番号】 EP2018059444
(87)【国際公開番号】W WO2018189322
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】102017000041420
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】515156197
【氏名又は名称】リマコーポレート・ソチエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】LIMACORPORATE S.P.A.
【住所又は居所原語表記】Via Nazionale, 52 Villanova 33038 San Daniele del Friuli(UD), Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スバイツ、ファウスト
(72)【発明者】
【氏名】プレッサッコ、ミケーレ
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0053968(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0179624(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第02929861(EP,A1)
【文献】特表2016-513498(JP,A)
【文献】米国特許第09561111(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/40
A61B 17/80
A61B 17/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
損傷した解剖学的構造を有する患者の肩甲骨(50)に、人工肩関節の関節窩部材(100、200)を固定するための肩甲骨アンカー(1)であって、前記肩甲骨アンカー(1)
は、前記関節窩部材(100、200)を、前記肩甲骨アンカー(1)に固定するためのピン(3)と、前記ピン(3)と一体であるフランジ(4)とによって画定され
る関節窩支持体(2)を備え、
前記フランジ(4)は、前記肩甲骨(50)の関節窩(51)に少なくとも部分的に接触するように構成された遠位表面(5)と、前記遠位表面(5)とは反対側の近位表面(6)とを有し、
前記肩甲骨アンカー(1)は、損傷した解剖学的構造を有する単一の患者の肩甲骨(50)の骨形態に対して特定の形状とされた、少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)を備え、
前記少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)は、
少なくとも1つのカスタマイズされた烏口突起支持突起(7)と、
少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)と、
前記関節窩支持体(2)の前記フランジ(4)の少なくとも前記遠位表面(5)とを備え、
前記
少なくとも1つのカスタマイズされた烏口突起支持突起(7)は、前記肩甲骨(50)の烏口突起(52)に当接するように配置され、前記関節窩支持体(2)に隣接する近位端(9)と、前記肩甲骨(50)の前記烏口突起(52)に当接するように構成された遠位端(10)とを有する略管状形状を有し、
前記少なくとも1つのカスタマイズされた烏口突起支持突起(7)の前記近位端(9)および前記遠位端(10)の間には、前記肩甲骨(50)の前記烏口突起(52)へと安定化骨ネジ(12)を挿入するための貫通孔(11)が延びており、
前記少なくとも1つのカスタマイズされた烏口突起支持突起(7)は、前記関節窩支持体(2)と一体に形成され、
前記少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)は、前記肩甲骨(50)の肩峰突起(53)に固定され、かつ前記肩峰突起(53)に当接するように配置され、前記少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)は、前記関節窩支持体(2)に隣接する近位端(9)と、前記肩甲骨(50)の前記肩峰突起(53)に当接するように構成された遠位端(10)とを有する略管状形状を有し、前記少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)の前記近位端(9)および前記遠位端(10)の間には、前記肩甲骨(50)の前記肩峰突起(53)へと安定化骨ネジ(12)を挿入するための貫通孔(11)が延びており、前記少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)は、前記関節窩支持体(2)と一体に形成され、
前記遠位表面(5)は、前記肩甲骨の前記関節窩に対して相補的な形状にされたカスタマイズされた遠位表面(5)である、肩甲骨アンカー(1)。
【請求項2】
前記関節窩支持体(2)の
カスタマイズされた前記遠位表面(5)および/または
少なくとも1つのカスタマイズされた前記烏口突起支持突起(7)の遠位端(10)および/または
少なくとも1つのカスタマイズされた前記肩峰支持突起(8)の遠位端(10)は、骨形成および骨一体化を促進するために、部分的に不規則な構造または小柱構造を有している、請求項
1に記載の肩甲骨アンカー(1)。
【請求項3】
前記関節窩支持体(2)は、前記関節窩(51)に前記関節窩支持体(2)を安定させるために安定化骨ネジ(12)を挿入するための少なくとも1つの孔(13)を備えている、請求項1に記載の肩甲骨アンカー(1)。
【請求項4】
損傷した解剖学的構造を有する患者の肩甲骨(50)に、人工肩関節の関節窩部材(100、200)を固定するための肩甲骨アンカー(1)であって、前記肩甲骨アンカー(1)が、
フランジ(4)および前記フランジ(4)と一体であるピン(3)を含む、前記肩甲骨アンカー(1)に前記関節窩部材(100、200)を固定するための関節窩支持体(2)を備え、
前記フランジ(4)は、前記肩甲骨(50)の関節窩(51)に少なくとも部分的に接触するように構成された遠位表面(5)と、反対側の近位表面(6)とを有し、
前記肩甲骨アンカー(1)は、損傷した解剖学的構造を有する単一の患者の肩甲骨(50)の骨形態に合うように特定の形状とされた、少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)を備え、
前記少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)は、少なくとも1つの烏口突起支持突起(7)を備え、前記烏口突起支持突起(7)は、前記関節窩支持体(2)と一体に形成された略管状形状を有し、前記肩甲骨(50)の烏口突起(52)に当接するように構成され、
前記少なくとも1つの烏口突起支持突起(7)の近位端(9)は、前記関節窩支持体(2)に隣接し、
前記少なくとも1つの烏口突起支持突起(7)の遠位端(10)は、前記肩甲骨(50)の前記烏口突起(52)に当接するように構成され、
前記少なくとも1つの烏口突起支持突起(7)の前記近位端(9)および前記遠位端(10)の間には、前記肩甲骨(50)の前記烏口突起(52)へと安定化骨ネジ(12)を挿入するための貫通孔(11)が延びて
おり、
前記少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)は、前記肩甲骨(50)の肩峰突起(53)に当接するように配置された少なくとも1つの肩峰支持突起(8)を備え、前記少なくとも1つの肩峰支持突起(8)は、前記関節窩支持体(2)に隣接する近位端(9)と、前記肩甲骨(50)の前記肩峰突起(53)に当接するように構成された遠位端(10)とを有する略管状形状を有し、前記少なくとも1つのカスタマイズされた肩峰支持突起(8)の前記近位端(9)および前記遠位端(10)の間には、前記肩甲骨(50)の前記肩峰突起(53)へと安定化骨ネジ(12)を挿入するための貫通孔(11)が延びており、前記肩峰支持突起(8)は、前記関節窩支持体(2)と一体に形成されており、
前記少なくとも1つのカスタマイズ部分(5、7、8)は、前記フランジ(4)の少なくとも前記遠位表面(5)を備え、前記遠位表面(5)は、前記肩甲骨(50)の前記関節窩(51)に対して相補的な形状にされている、肩甲骨アンカー(1)。
【請求項5】
前記関節窩支持体(2)の前記遠位表面(5)および/または前記烏口突起支持突起(7)の遠位端(10)および/または前記肩峰支持突起(8)の遠位端(10)は、骨形成および骨一体化を促進するために、部分的に不規則な構造または小柱構造を有している、請求項
4に記載の肩甲骨アンカー(1)。
【請求項6】
前記関節窩支持体(2)は、前記関節窩(51)に前記関節窩支持体(2)を安定させるために安定化骨ネジ(12)を挿入するための少なくとも1つの孔(13)を備えている、請求項
4に記載の肩甲骨アンカー(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の肩甲骨に、特に解剖学的構造が損なわれた肩甲骨に、人工肩関節の関節窩部材を固定するための肩甲骨アンカーに関する。
【0002】
また、本発明は、肩甲骨アンカーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
よく知られているように、人工肩関節全体は、関節窩部材と上腕骨部材とを提供し、これらは互いに関節運動をする。
【0004】
臨床診療では、人工肩関節全体として2種類のものが使用されている。
【0005】
解剖学的に定義され、肩甲上腕関節の自然な解剖学的構造を再現することを目的とした第1のタイプの人工装具は、関節窩部材の凹状端部で間接運動をする凸状端部を有する上腕骨部材を備える。それとは反対に、逆に定義された第2のタイプの人工装具は、凹状の上腕骨部材上で間接運動をする凸状の関節窩部材を備えている。この後者の人工装具は、回旋腱板が不安定になるという重篤な状況で使用される。
【0006】
関節窩部材は、解剖学的な人工装具または逆の構造を有する人工装具であっても、アンカー要素または肩甲骨インサートに固定され、肩甲骨関節窩に接触して固定される。その代わりに、上腕骨部材は、上腕骨自体に挿入される固定ステムによって上腕骨の上部に固定される。
【0007】
アンカー要素または肩甲骨インサートは、通常、関節窩に形成された孔に挿入される関節窩部材を固定するためのピンと、関節窩に事前に形成された受け座に挿入された凸面を備えた湾曲形状を有するフランジとを含む。
【0008】
さまざまな面で有利であり、その目的を実質的に満たしているが、骨の解剖学的構造が損なわれた場合、明らかである深刻な緩みおよび/または外れの問題を伴い、肩甲骨へのアンカー要素の正確で継続する固定を確保することができないので、アンカー要素は共通する欠点を有している。
【0009】
特に、公知のアンカー要素は、あらゆる患者に使用される標準化された形状構造を有している。移植の準備ステップの間、関節窩の骨表面は、アンカー要素を受け入れる受け座を形成するように、骨の一部が除去されることによって処理される。一旦アンカー要素が受け座に配置されると、安定化骨ネジを挿入することにより固定される。
【0010】
このようにして、実質的に生理学的な肩甲骨の解剖学的構造を有する患者の場合、アンカー要素の最適な固定が保証される。
【0011】
しかし、当業者がよく理解しているように、一部の患者の肩甲骨の解剖学的構造は、例えば、骨組織の吸収、変形、または質の低さにより損なわれる可能性がある。言い換えると、肩甲骨組織は、患者ごとに異なる形状および/または組成の病理学的変化を受ける。人工肩関節の修正手術の場合、外科医は、損なわれた肩甲骨の解剖学的構造に直面することもある。
【0012】
肩甲骨の解剖学的構造の重大な改造の場合、外科医は、アンカー要素を適用するための受け座を得ること、および、骨に対するアンカー要素の安定化に深刻な困難性を有する場合がある。結果として、アンカー要素は、下側の骨表面と適切に合わずに、結果として移植の安定性の障害を伴う。
【0013】
解剖学的構造が損なわれた状態で関節窩要素の安定化を確保するために採用された解決手段は、関節窩の深部の健康な骨に到達するのに十分な長さを有する安定化ネジを使用することである。
【0014】
さまざまな面で有利であり、その目的に実質的に対応しているが、この解決手段は、以上な肩甲骨の解剖学的構造の患者間の不均一性のために、常に実行可能ではない。実際に、アンカー要素の標準的な構造では、特に損傷した解剖学的構造の場合、ネジが健康な骨組織に到達することができない。
【0015】
別の解決手段は、特許文献1に記載されており、特許文献1は、2つの管状支持部材が関節窩支持体から上方に延び、烏口突起および肩峰突起に、それらを貫通する留め具によってそれぞれ固定されるモジュール式解剖学的人工肩関節を開示している。しかし、これら2つの支持部材は支柱構造であり、ファスナーやネジを簡単に挿入することができない。
【0016】
特定の患者の肩甲骨解剖学的構造における肩甲骨アンカーの適切な固定を達成するための試みが、特許文献2によって提供されている。特許文献2は、骨折した関節窩の輪郭に合う関節窩支持体の製造方法を記載している。
【0017】
骨折した関節窩を脅かすさまざまな面で有利ではあるが、この解決手段は、関節窩の形態および/または下側の骨の質が特に変化している肩甲骨の解剖学的構造の場合、適切な固定を行うことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2007/01799624号明細書
【文献】米国特許第8532806号明細書
【発明の概要】
【0019】
本発明の目的は、従来技術に関する上記の欠点を克服することが可能となるように、構造的および機能的特徴を有する損なわれた解剖学的構造を有する人工肩関節の関節窩部材を患者の肩甲骨に固定するための肩甲骨アンカーを提供すること、および、関節窩の形態および/または下側の骨の質が特に変化しても、異なる患者の損なわれた肩甲骨の解剖学的構造への適応性を許容し、骨へのアンカー要素の安定し持続的な固定を確保することである。
【0020】
本発明の根底にある解決手段は、単一の患者の病理学的な肩甲骨の解剖学的構造に応じて、肩甲骨アンカー、特に肩甲骨アンカーの烏口突起支持体をカスタマイズすることである。
【0021】
このカスタマイズは、患者の解剖学的構造の忠実な再構築に基づいてアンカーを製造している間、または場合によっては移植ステップ中に実施可能である。
【0022】
このような解決思想に基づいて、従前に識別された技術的問題は、請求項1に記載の肩甲骨アンカーによって解決される。
【0023】
移植体のカスタマイズ部分(customized portion)は、移植ステップにおいて骨の表面に合わせて直接形成され、受け座は必要ない。受け座を得ることは、病的な骨組織の変形、再吸収、または質の低下により、肩甲骨の解剖学的構造が著しく損なわれた場合に実行するのが難しい作業である。
【0024】
アンカーを骨表面に完全に合わせることにより、病理学的な肩甲骨の解剖学的構造に対するアンカーの安定性が促進される。
【0025】
カスタマイズ部分は、有利には、関節窩支持体のフランジ、すなわち、関節窩の骨形態へ形作られるように、実質的に凸状で波状の形状を有するフランジの遠位表面であり得る。
【0026】
さらなるカスタマイズ部分は、有利には、肩甲骨の烏口突起の骨形態へ形作られるように配置された、烏口突起支持突起によって、および/または肩甲骨の肩峰突起の骨形態へ形作られるように配置された少なくとも1つの肩峰支持突起によって代表され得る。
【0027】
関節窩の形態および/または下の骨の質が特に変化している肩甲骨の解剖学的構造の場合、肩甲骨アンカーの関節窩への単一での固定は、安定した持続的な固定を保証しない。少なくとも1つの烏口突起支持突起および/または少なくとも1つの肩峰支持突起の存在により、適切な固定を得るために肩甲骨アンカーを肩甲骨の他の骨構成要素に固定することが可能になる。
【0028】
烏口突起支持突起は、関節窩支持体と一体である近位端と、肩甲骨の烏口突起に当接するように構成された第2の遠位端とを有する略管状形状を有することができ、有利には、近位端と遠位端との間には、肩甲骨の烏口突起に安定化骨ネジを挿入するための貫通孔が延びていてもよい。
【0029】
同様に、肩峰支持突起は、関節窩支持体と一体である近位端と、肩甲骨の肩峰突起に当接するように構成された第2の遠位端とを有する略管状形状を有することができ、有利には、近位端と遠位端との間には、肩甲骨の肩峰突起に安定化骨ネジを挿入するための貫通孔が延びていてもよい。
【0030】
したがって、関節窩支持体の遠位表面、烏口突起支持突起および肩峰支持突起は、単一の患者の損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨の忠実な再構築に基づいて直接設計することができる。
【0031】
特に、少なくとも1つの烏口突起支持突起および/または肩峰支持突起は、有利には、骨形態に適合するために、および、肩甲骨の烏口突起および肩峰突起のそれぞれに固定することを可能にするために、(例えば関節窩支持体に対して所定の長さおよび/または特定の方向性を有し得る)複数の異なるモジュールから選択することができる。この場合、支持突起は、移植ステップにおいて関節窩支持体に組み付けられ、したがって、移植プロセスおよび可能性のある修正を容易にする。
【0032】
代替的には、烏口突起支持突起および/または肩峰支持突起は、例えば、EBM焼結またはSLM造形により、関節窩支持体と一体に形成することができる。
【0033】
有利には、関節支持体の遠位表面および/または烏口突起支持突起の遠位端および/または肩峰支持突起の遠位端は、骨形成および骨一体化を促進するために少なくとも部分的に不規則または小柱構造(trabecular structure)を有することができる。
【0034】
さらに、関節窩支持体は、関節窩に安定化骨ネジを挿入するための少なくとも1つの孔を備えてもよく、フランジと一体に形成されたピン要素を有していてもよい。
【0035】
とにかく、上記のことは、アンカーの移植ステップで組み立てられ得る、ピンおよびフランジによって形成された関節窩支持体を有する場合を排除するものではない。
【0036】
上記で特定された技術的課題は、請求項11に記載の肩甲骨アンカーの製造方法によっても解決される。
【0037】
上記方法は、有利には、例えばコンピュータ断層撮影により、患者の肩甲骨の骨形態を得る予備的ステップを含み得る。
【0038】
本発明による肩甲骨アンカーの特徴および利点は、添付図面を参照して非限定的な例として与えられる好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明に従って製造された、肩の人工装具用の肩甲骨アンカーの近位側の図を示す。
【
図2】
図1の肩甲骨アンカーの第1の側面図である。
【
図4】
図1の肩甲骨アンカーの第2の側面図を示す。
【
図5】損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された
図1の肩甲骨アンカーの近位側の図を示す。
【
図6】損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された
図1の肩甲骨アンカーの斜視図を示す。
【
図7】損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された
図1の肩甲骨アンカーの透視した近位側の図を示す。
【
図8】損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された
図1の肩甲骨アンカーの透視した第1の側面図を示す。
【
図9】損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された
図1の肩甲骨アンカーの透視した第2の側面図を示す。
【
図10】本発明による肩甲骨アンカーを備えた解剖学的人工肩関節全体の分解された部品を示す側面図である。
【
図11】本発明による肩甲骨アンカーを備えた反対の人工肩関節の分解された部品を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
上記図を参照すると、参照符号1は、損傷した骨の解剖学的構造を有する肩甲骨に肩関節用の人工装具を安定かつ安全に固定するための、本発明に従って製造されたアンカー要素の好ましい実施形態を全体的かつ概略的に示している。
【0041】
以下の説明では、このアンカー要素1を、より簡単な用語である「肩甲骨アンカー」と呼ぶ。
【0042】
有利には、アンカー1は、単一の患者の損傷した解剖学的構造に適合されるカスタマイズ可能な部品である。
【0043】
アンカーのカスタマイズは、装置の製造ステップにおいて行うことができ、または、人工肩関節の移植ステップにおいて外科医によって直接行われてもよい。
【0044】
第1のケースでは、現代のコンピュータ断層撮影技術によって実現された、損傷した肩甲骨の解剖学的構造の忠実な再構築に基づいて、各患者にアンカー形態が適合される。上記アプローチは、移植ステップにおいて、固定される必要のある関節の骨表面と完全に一致するように、アンカーを形作ることを可能にする。
【0045】
反対に、第2のケースでは、標準化されているが同時に調整可能な部分を有し、外科医が移植ステップにおいて患者の解剖学的構造に最適なアンカー構成を選択することを可能にする。
【0046】
以下に説明する好ましい実施形態は、上述した第1のカスタマイズケースに該当し、特にアンカー1は、
図5~
図9に示される損傷した肩甲骨の解剖学的構造のモデルに基づいて設計されている。これは、単一の患者の損傷した解剖学的構造による、アンカーの他のカスタマイズ方法を排除するものではない。
【0047】
添付図面に示されるアンカー1は、損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨50のさまざまな骨部位に固定するための3つの部分を備えている。3つの部分は、アンカー1を関節窩51、烏口突起52および肩峰突起53のそれぞれに固定するために配置された、関節窩支持体2、烏口突起支持突起7および肩峰支持突起8である。
【0048】
他の実施形態は、1または2以上の烏口突起支持突起7および/または1または2以上の肩峰支持突起8を有する関節窩支持体2を提供し得る。
【0049】
アンカー1は、例えばチタンまたはチタン合金などの生体適合性金属材料で形成されており、例えば米国特許出願公開第12/601510号明細書に記載されているものに従って、マクロ粗面仕上げ(macro-rough finish)を有している。
【0050】
アンカー1自体を示す
図1~
図4から分かるように、関節窩支持体2はピン要素3を備え、ピン要素3は、中空であり、長手軸X-Xに沿って延び、長手方向の寸法はその直径または径方向の寸法よりも大きい。
【0051】
ピン要素3の外側表面は、肩甲骨50の関節窩51において外科医によって得られた孔に挿入されたときに骨形成および骨一体化を促進する長手方向溝を有する。
【0052】
ピン3は、テーパ状の遠位端部3aと、反対側のフレア状の近位端部3cとを有し、固定孔3bによって貫通されている。孔3b内には、人工肩関節の関節窩部材100、200が固定される。
【0053】
フランジ4は近位端部3cの近傍に形成されている。上記フランジ4は、近位エッジ20で互いに接続する、遠位表面5および近位表面6によって画定される。
【0054】
近位エッジ20は、第2の側方エッジ20bの反対側の第1の側方エッジ20a、上方エッジ20c、および下方エッジ20dによって画定される。「下方」または「上方」という用語は、本明細書では、直立した患者に移植された人工装具に関して使用され、上方部分は頭部に面する。したがって、アンカー1の優先的な方向は、
図1に示されるものに対応する。
【0055】
近位表面6は、軸X-Xに直交する対称軸Y-Yに対して鏡像パターンを有する、均一な凹状の表面である。近位表面6の底部には、ピン3のフレア状の近位端部3cと、対応する安定化骨ネジ12を関節窩51に挿入するための2つの安定化貫通孔13が開いている。2つの安定化孔13は、遠位表面5に達する。
【0056】
記載された好ましい実施形態では、安定化孔13は、ピン3の近位端部3cの上および下に1つずつ配置される。
【0057】
患者の関節窩骨組織の解剖学的形状および質に応じて、他の実施形態では、安定化孔13の他の配置および数が提供され得る。
【0058】
反対に、遠位表面5は、肩甲骨50の関節窩51の病理学的形態を再現する、傾いた凸状の形状と不規則な波状パターンを有する。言い換えると、関節窩支持体2の遠位表面5は、関節窩51の表面に対して相補的な形状となるように設計されており、移植時に完全に一致する必要がある。
【0059】
特に、
図5~
図9の解剖学的モデルに一致するようにカスタマイズされた記載された実施形態では、関節窩支持体2の遠位表面5は、最も近位側から側方エッジ20aまでピン3の第1の部分を包み込み、ピン3から開始して下方エッジ20cおよび側方エッジ20aに向かって、側方エッジ20aと接続する側壁20eまで、テーパーパターンを有している。軸Y-Yに関してピンの反対側、すなわち側方エッジ20bに最も近い側では、遠位表面5はピン3の近位端部3cを包み、側方エッジ20bに向かって、側方エッジ20bと接続する側壁20fまでテーパーパターンを有する。側壁20e、20fは、軸X-Xおよび軸Y-Yによって形成される平面に平行な平面上に配置される。
【0060】
代替の実施形態では、遠位表面5は、単一の損傷した肩甲骨の解剖学的構造に適合するように(任意で)カスタマイズされなくてもよく、関節窩51で適切に得られる受け座と移植ステップで連結される標準形状、例えば平面形状または半球形状を有していてもよい。
【0061】
図2および
図4から明らかなように、ピン要素3は、遠位表面5を通って、そこから離れて延びている。ピン要素3は、フランジ4と一体に形成されていてもよいし、または、干渉することでフランジ4に拘束されてもよい。
【0062】
上方エッジ20cにおいて、烏口突起支持突起7および肩峰支持突起8は離れる。
【0063】
支持突起7、8は、近位端9から遠位端10まで貫通孔11が延びる略管状の形状を有する。支持突起7、8の近位端9は、軸Y-Yの近傍で収束するが、2つの支持突起7、8は、軸X-Xおよび軸Y-Yによって画定される面および遠位表面5によって画定される面から離れる分岐パターンに従う。
【0064】
烏口突起支持突起7および肩峰支持突起8の貫通孔11は、烏口突起52および肩峰53にそれぞれ固定するための安定化ネジ12の挿入を可能にする。
【0065】
代替実施形態では、支持突起7、8は、異なる形状を取ってもよく、貫通孔11を備えなくてもよく、当分野で知られている他の方法によって、例えば固定手段を使用せずに干渉によって、固定されてもよい。
【0066】
記載された好ましい実施形態では、烏口突起支持突起7および肩峰支持突起8は、関節窩支持体2と一体に形成される。例えば、突起はEBM焼結またはSLM製造プロセスで形成され得る。代替実施形態は、代わりに、外科手術および可能な将来の修正を容易にするために、アンカー1の移植ステップにおいて、関節窩支持体2と組み立てられた突起7、8が提供されてもよい。
【0067】
任意の方法で、支持突起7、8は、アンカー1が移植されたときに、安定化ネジ12によって突起7、8が固定される、骨の突起52、53の対応する表面に対して遠位端10が当接するように、損傷した肩甲骨の解剖学的構造50に従って設計された長さと向きを有している。
【0068】
図2および
図4から明らかなように、烏口突起支持突起7の遠位端10および下方の関節窩支持体2の遠位表面5の一部は、骨形成および骨一体化を促進するために不規則または小柱状の(trabecular)構造5aを有し、それは、それぞれが連結される烏口突起7および関節窩51の表面に対する遠位端10および関節窩支持体2の接触摩擦が増加するように選択される。これは、骨と接触する他の表面またはすべての表面が小柱状の構造で製造され得ることを排除するものではない。
【0069】
したがって、各突起7または8は、移植ステップにおいて任意の患者用に、例えば、その長さおよび/または向きを調整することによって、製造ステップの前に患者の烏口突起52および肩峰53の特定の解剖学的構造に適合させることにより、カスタマイズ可能な形状を有している。
【0070】
図5~
図9は、そのために特に設計された、損傷した解剖学的構造を有する肩甲骨モデルに固定された肩甲骨アンカー1の好ましい実施形態を示している。
【0071】
上記の図からわかるように、関節窩支持体2は、側壁20e、20fを除く遠位表面6を関節窩51と、完全に一致させて、合わせることにより移植される。同時に、ピン要素3は、関節窩51に適切に形成された孔に挿入され、安定化ネジ12は、安定化孔8に挿入され、下の骨にネジ込まれる。
【0072】
さらなるサポートは、烏口突起52および肩峰突起53のそれぞれに対して遠位端10が係合する2つの烏口突起支持突起7および肩峰支持突起8によって確保され、これらは近位端9を通って貫通孔11へと挿入された安定化ネジ12によって固定される。
【0073】
上述したように、肩甲骨アンカー1が患者の肩甲骨50に一旦固定されると、人工肩関節全体の関節窩部材100、200はそれに固定され、関節窩部材100、200は、上腕骨ステム102、202によって上腕骨の上部に事前に固定される上腕骨部材101、201と関節運動する。
【0074】
図10および
図11は、本発明による肩甲骨アンカー1を備えた、解剖学的な、および逆の、人工肩関節全体の分離された部分を示す側面図である。
【0075】
上記の説明から、本発明によるアンカーが、意図する目的およびいくつかの利点を達成することは明らかであり、その主たるものを以下に列挙する。
【0076】
本質的に、本発明の解決手段は、例えばコンピュータ断層撮影によって検出された、単一の患者の特定の損傷した肩甲骨の解剖学的構造に適合するために、設計ステップまたは移植ステップでカスタマイズされた肩甲骨アンカーを提供することである。
【0077】
有利には、肩甲骨アンカーは、移植されると完全に一致する、関節窩に対して相補的な形状をとることができる関節窩支持体を提供し、したがって移植安定性を促進する。
【0078】
有利には、肩甲骨アンカーは、肩甲骨へのアンカーの安定化および固定のためのさらなる支持を提供する、烏口突起支持突起および/または肩峰支持突起を提供する。上述の突起は、有利には、患者の烏口突起および肩峰の特定の解剖学的構造に適合するように、設計ステップまたは移植ステップでカスタマイズされ得る。
【0079】
有利には、関節窩支持体の遠位表面および/または烏口突起支持突起および/または肩峰支持突起の第2の遠位端は、骨形成および骨一体化を促進するために不規則または小柱状の構造を有し得る。