(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】高輝度蛍光体
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20220803BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220803BHJP
G01N 21/64 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C09K11/06 630
G01N33/48 P
C09K11/06 ZNM
C09K11/06 645
G01N21/64 F
G01N21/64 E
(21)【出願番号】P 2019556207
(86)(22)【出願日】2018-04-13
(86)【国際出願番号】 US2018027612
(87)【国際公開番号】W WO2018191690
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-03-17
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508275168
【氏名又は名称】ミシガン テクノロジカル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】ヤップ,ヨーク キン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,トンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヤピチ,ナズミエ ビフテール
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-032358(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0315190(US,A1)
【文献】Hong Guosong et al.,Near-Infrared-Fluorescence-Enhanced Molecular Imaging of Live Cells on Gold Substrates,Angew. Chem.,2011年,50,pp.4644-4648
【文献】CHEN Ying et al.,A low molecular weight PSMA-based fluorescent imaging agent for cancer,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2009年,390,pp.624-629
【文献】MIAO Wenjun et al.,Structure-dependent photothermal anticancer effects of caebon-based photoresponsive nanomaterials,Biomaterials,2014年,35,pp.4058-4065
【文献】NAKAYAMA-RATCHFORD Nozomi et al.,Noncovalent Functionalization of Carbon Nanotubes by Fluorescein-Polyethylene Glycol: Supramolecular Conjugates with pH-Dependent Absorbance and Fluorescence,J. Am. Chem. Soc. ,2007年,129,pp.2448-2449
【文献】LEE Chee Huei et al.,Functionalization, Dispersion, and Cutting of Boron Nitride Nanotubes in Water,J. Phys. Chem. C,116,2011年12月09日,pp. 1798-1804
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/06
G01N 21/64,33/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアと、
少なくとも一つの蛍光要素と、
前記少なくとも一つの蛍光要素の各々を前記キャリアに連結する両親媒性リンカーであって、その分子量に対応するリンカー長を有するとともに、前記分子量は1000Daより大きい、両親媒性リンカーと、
を備え
、
前記キャリアが、窒化ホウ素ナノチューブである、蛍光体。
【請求項2】
前記
窒化ホウ素ナノチューブの長さが50~1000nmである、請求項
1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記リンカーが、5nmを超える伸長リンカー長を有する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記リンカーが、3400Daより大きい分子量を有する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項5】
前記リンカーが、10000Da未満の分子量を有する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項6】
前記リンカーが、前記キャリアに非共有結合するとともに、前記蛍光要素に共有結合する、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記リンカーが、少なくとも一つの親水性部分および疎水性部分を備え、前記疎水性部分が前記キャリアに非共有結合し、かつ前記親水性部分が前記蛍光要素に共有結合する、請求項
6に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記親水性部分が水溶性高分子の鎖を含み、その第1の端部で前記疎水性部分に付着し、前記少なくとも一つの蛍光要素が、前記鎖に第2の端部で付着する、請求項
7に記載の蛍光体。
【請求項9】
前記リンカーが、DSPE(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)基と、ポリエチレングリコール(PEG)分子の鎖と、を備える、請求項
8に記載の蛍光体。
【請求項10】
前記リンカーが、反応性官能基を介して前記蛍光要素に共有結合する、請求項
6に記載の蛍光体。
【請求項11】
前記少なくとも一つの蛍光要素が、クマリン、ベンゾオキサジアゾール、アクリドン、アクリジン、ビスベンズイミド、インドール、ベンゾイソキノリン、ナフタレン、アントラセン、キサンテン、ピレン、ポルフィリン、フルオレセイン、ローダミン、ホウ素ジピロメテン(BODIPY)、およびシアニン誘導体のうち少なくとも一つを備える、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項12】
少なくとも100個の前記蛍光要素を備えた、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項13】
少なくとも1000個の前記蛍光要素を備えた、請求項
12に記載の蛍光体。
【請求項14】
前記少なくとも一つの蛍光要素が、第1の蛍光要素と、前記第1の蛍光要素とは異なる第2の蛍光要素と、を備えた、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項15】
クラウンエーテル、炭水化物、核酸、ペプチド、オリゴヌクレオチド、タンパク質および抗体の群から選択された部分をさらに備え、前記リンカーが、第1のリンカー、および前記部分を前記キャリアに連結する第2のリンカーである、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項16】
ナノチューブと、
疎水性部分および親水性部分を有する少なくとも一つの両親媒性リンカーであって、前記疎水性部分が前記ナノチューブに非共有結合するとともに、前記両親媒性リンカーは、その分子量に対応するリンカー長を有しており、前記分子量は1000Da以上である、少なくとも一つの両親媒性リンカーと、
前記少なくとも一つの両親媒性リンカーの前記親水性部分に共有結合した少なくとも一つの蛍光要素と、
を備え
、
前記ナノチューブが、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)である、蛍光体。
【請求項17】
前記親水性部分が、水溶性高分子の鎖を含む、請求項
16に記載の蛍光体。
【請求項18】
前記水溶性高分子が、ポリエチレングリコール(PEG)分子である、請求項
17に記載の蛍光体。
【請求項19】
前記リンカーが、DSPE(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)基を備えた、請求項
18に記載の蛍光体。
【請求項20】
前記ポリエチレングリコール分子の鎖が、1000Daより大きい分子量を有する、請求項
17に記載の蛍光体。
【請求項21】
前記ポリエチレングリコール分子の鎖が、5nmより長い、引き伸ばされた長さを有する、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項22】
前記リンカーが、3400Daより大きい分子量を有する、請求項
19に記載の蛍光体。
【請求項23】
前記リンカーが、10000Da未満の分子量を有する、請求項
22に記載の蛍光体。
【請求項24】
前記ナノチューブの長さが50~1000nmである、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項25】
少なくとも100個の蛍光要素を備えた、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項26】
前記少なくとも一つの蛍光要素が、第1の蛍光要素と、前記第1の蛍光要素とは異なる第2の蛍光要素と、を備えた、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項27】
クラウンエーテル、炭水化物、核酸、ペプチド、オリゴヌクレオチド、タンパク質および抗体の群から選択された部分をさらに備え、前記リンカーが、第1のリンカー、および前記部分を前記ナノチューブに連結する第2のリンカーである、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項28】
前記少なくとも一つのリンカーが、反応性官能基を介して前記少なくとも一つの蛍光要素に共有結合する、請求項
20に記載の蛍光体。
【請求項29】
キャリアと、
少なくとも一つの蛍光要素と、
前記少なくとも一つの蛍光要素の各々を前記キャリアに連結する両親媒性リンカーであって、その分子量に対応する伸長リンカー長を有するとともに、前記伸長リンカー長が5nmよりも大きい、両親媒性リンカーと、
を備え
、
前記キャリアが、窒化ホウ素ナノチューブである、蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
この出願は、2017年4月13日に出願された米国特許仮出願第62/485,379号の優先権を主張する。
(政府支援の声明)
本明細書に記載の発明は、国立科学財団によって授与された助成金#1261910、助成金#1445106、助成金#1521057、および助成金#1738466の下で政府の支援を受けて行われた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体(fluorophores)は、生物医学的用途がある蛍光特性を有する化合物である。例えば、特定の分子または構造を染色するためのトレーサーまたは色素として蛍光体を使用できる。より具体的には、蛍光色素分子を使用して、蛍光イメージングや分光法などの様々な分析方法において組織、細胞、または材料を染色することができる。
【0003】
蛍光体は、特定の組織、細胞、または材料への送達のために、他の分子に付着される。これらの他の送達分子に付着すると、蛍光体は消光を示す可能性があり、これは蛍光体の蛍光の輝度の低下である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本出願による例示的な蛍光体は、キャリアと、少なくとも一つの蛍光要素(fluorescent entity)と、少なくとも一つの蛍光要素のそれぞれをキャリアに連結する両親媒性リンカーと、を含む。リンカーは、分子量に対応するリンカー長を有し、その分子量は1000Daよりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1A】色素‐リンカー構造を概略的に示す図である。
【
図2A】蛍光体の色素‐リンカー構造の例を概略的に示す図である。
【
図2B】
図2Aの色素‐リンカー構造を有する一例の蛍光体を概略的に示す図である。
【
図3】
図2Aの赤色色素‐リンカー構造の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図4A】
図2Bの赤色蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図4B】
図2Bの赤色蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた標識効率を示す図である。
【
図5A】
図2Aの赤色色素‐リンカー構造の例の色素濃度に対してプロットされた蛍光強度を示す図である。
【
図5B】
図2Bの赤色蛍光体の例の色素濃度に対してプロットされた蛍光強度を示す図である。
【
図6A】
図2Bの蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた吸光係数を示す図である。
【
図6B】
図2Bの赤色蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた輝度を示す図である。
【
図7A】
図2Aの赤色色素‐リンカー構造の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた吸光係数を示す図である。
【
図7B】
図2Aの赤色色素‐リンカー構造の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた輝度を示す図である。
【
図8A】別の色素‐リンカー構造の例を示す図である。
【
図8B】
図8Aの色素‐リンカー構造を備えた別の例の蛍光体を示す図である。
【
図9】
図8Aの例の緑色色素‐リンカー構造について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図10】
図8Bの緑色蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図11】
図8Bの緑色蛍光体の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた標識効率を示す図である。
【
図12A】別の色素‐リンカー構造の例を示す図である。
【
図12B】
図12Aの色素‐リンカー構造を備えた別の例示的な蛍光体を示す図である。
【
図13】
図12Aの遠赤色色素‐リンカー構造の例について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図14】
図12Bの例示的な遠赤色蛍光体について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた量子収量を示す図である。
【
図15】
図12Bの例示的な遠赤色蛍光体について、様々な分子量の色素‐リンカー構造に対してプロットされた標識効率を示す図である。
【
図16】
図12Bの例の遠赤色蛍光体の色素濃度に対してプロットされた吸光係数を示す図である。
【
図17A】
図8Bの例の緑色蛍光体の様々な分子量のリンカーに対してプロットされた輝度を示す図である。
【
図17B】
図8Bの例の緑色蛍光体について、様々な分子量のリンカーに対してプロットされた吸光係数を示す図である。
【
図18A】
図12Bの遠赤色蛍光体の例について、様々な分子量のリンカーに対してプロットされた輝度を示す図である。
【
図18B】
図12Bの遠赤色蛍光体の例について、様々な分子量のリンカーに対してプロットされた吸光係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
極めて一般的に、高輝度蛍光体は、キャリア要素、蛍光要素、およびキャリア要素を蛍光要素に連結するリンカーを含む。生物医学用途では、キャリア要素、リンカー、および蛍光要素のそれぞれが生体適合性である必要がある(ただし、生体適合性の要件は特定の用途によって異なる)。
【0007】
キャリア要素の一例は、カーボンナノチューブ(CNT)や窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)などのナノ材料であり、いずれも細胞薬物送達や分光法などの生物医学用途向けの生体適合性ナノ材料として認識されている。一方、ナノチューブに連結された蛍光要素は、消光、すなわち蛍光の輝度の低下を示すことが示されている。
【0008】
ナノ材料キャリアを有する特定の蛍光体は、本明細書で議論されるように、消光効果を示さないだけでなく、他の既知の蛍光体よりも数桁高い輝度を示すことが発見された。
【0009】
ここで
図1A~Bを参照すると、蛍光体20が概略的に示されている。蛍光体20は一般に、無機ナノスケールキャリア22、リンカー24、および蛍光要素(fluorescent entity)26を含む。
【0010】
キャリア22は、一例では、BNNTまたはCNTキャリアである。特定の例において、キャリア22は、多層BNNTまたはCNTキャリアであり、各BNNTまたはCNTは、六方晶窒化ホウ素(BNNTではh-BN)または(CNTでは)グラフェンの複数の同軸シェルを有し、約5nmを超えるが約80nm未満の一般的な外径を有する。これらのBNNTとCNTの長さは約50~1000nmである。他の例では、キャリア22は、窒化ホウ素(h-BN)ナノシート/ナノ粒子およびグラフェン/グラファイトナノシート/ナノ粒子などの、別のナノスケールの無機材料である。キャリア22は、任意の公知の方法によって製造することができる。
【0011】
リンカー24は、両親媒性ポリマーリンカーである。すなわち、リンカー24は、疎水性領域28と親水性領域30とを含む。疎水性領域28は、ナノチューブキャリア22に非共有結合する一方、親水性領域は、蛍光要素26(または以下で説明する別の要素)に共有結合する。リンカー24の一例は、DSPE-PEGn(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[(ポリエチレングリコール)n])であり、ここで、nはポリエチレングリコール(PEG)鎖中のPEG分子の数である。他のリンカー24は、長さが異なるPEG鎖(または異なる鎖)を同様に含みうる。
【0012】
上述のDSPE-PEGリンカー24に加えて、他に多くの潜在的なリンカーが当技術分野で知られている。例えば、リンカー24は、-CH2-、-CH=、-C≡、-NH-、-N=、O-、-NH2-、-N3-、-S-、C(O)-、-C(O)2-、-C(S)-、-S(O)-、-S(O)2-、またはそれらの組み合せから選択される1つまたは複数の基を含んでもよい。上記の2つ以上の基を備えたリンカーは、リンカー24が安定するように選択されうる、例えば、リンカー24は、不安定な過酸化物結合を生成する2つの隣接する-O-基を含まないように選択されうることが理解されよう。リンカー24は、直鎖、枝分かれ鎖であってもよく、1つ以上の環系を含んでもよい。非限定的な例示的リンカーは、脂肪酸、リン脂質、スフィンゴ脂質、リンスフィンゴ脂質である疎水性領域を含む(DSPE、1-O-ヘキサデカニル-2-O-(9Z-オクタデセニル)-sn-グリセロ-3-ホスホ-(1’-rac-グリセロール)(アンモニウム塩)、N-オクタノイル-スフィンゴシン-1-スクシニル[メトキシ(ポリエチレングリコール)]5000、D-エリスロ-スフィンゴシル ホスホエタノールアミン、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン、3-sn-ホスファチジル-L-セリン(PS)、グリコシルホスファチジルイノシトール、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノアミンなど、これに限定しない)。疎水性ユニットは、PEG(またはPEOポリエチレンオキシド)、PMO(ポリメチルオキサゾリン)、PEI(ポリエチレンイミン)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリペプチド、炭水化物アンカーなどの水溶性高分子鎖と結合するために使用することができる。水溶性高分子鎖は、一方の端部でリンカーに結合され、第2の端部で蛍光要素(または以下で議論されるように別の部分)に結合される。これらの疎水性ユニットと親水性ユニットは、上記のように反応性基を有する必要があり、これらの基が互いに共役して両親媒性リンカーになるようにしなければならない。
【0013】
蛍光要素26は、これに限定しないが、クマリン、ベンゾオキサジアゾール、アクリドン、アクリジン、ビスベンズイミド、インドール、ベンゾイソキノリン、ナフタレン、アントラセン、キサンテン、ピレン、ポルフィリン、フルオレセイン、ローダミン、ホウ素-ジピロメテン(BODIPY)、およびシアニン誘導体を含む、既知の蛍光色素である。多くのこのような蛍光色素は市販されている。蛍光要素26は、任意の適切な方法によりリンカー24に結合される。
【0014】
一般に、蛍光体20の輝度は、蛍光体20上の蛍光要素26の数に直接関係している。すなわち、より少ない蛍光要素26を有する蛍光体20は、より多くの蛍光要素26を有する蛍光体20よりも低い輝度を示す。しかしながら、リンカー24の長さも蛍光体20の明るさに影響することも発見された。上記の特定の例のDSPE-PEGnリンカー24では、PEG鎖中のPEG分子の数(n)を変えるとリンカー24の長さが変化し、したがって蛍光体20の輝度が変化する。上記のその他の種類のリンカーのリンカー長を変えることも達成できることは理解されるであろう。より詳細には、約1000Daを超えるリンカー24分子量を有する蛍光体20(PEG鎖を有するリンカー24の場合、約5~10nmの伸長リンカー長に対応する)が、予想外の非線形消光効果を示すことが発見された。したがって、本明細書に記載の蛍光体20は、従来技術の蛍光体よりも数桁高い輝度を示す。さらに、異なる蛍光要素26を有する蛍光体20は、それらの蛍光特性とリンカー24の長さとの間に異なる関係を有しうることが発見された。
【0015】
一例では、リンカー24は官能基Rを含むことができる。官能基Rは、既知の化学により蛍光体26へのリンカー24の共有結合を促進する反応基である。例示的な官能基Rはアミン基である。その他の例示的な官能基は、カルボン酸、イソチオシアネート、マレイミド、アルキニル基、アジド基、チオール基、モノスルホン、または、スクシンイミジル、スルホジクロロフェノール、ペンタフルオロフェニルまたはテトラフルオロフェニルなどのエステル基である。官能化リンカー24(すなわち、官能基Rを有するリンカー24)は、市販されているか、あるいは本明細書に記載の方法または当業者に周知のその他の方法に従って合成することができる。
【0016】
図2A~Bは、例示的な赤色蛍光体120を示す。例示的な赤色蛍光体120は、BNNTキャリア122、アミド官能化DSPE-PEG
n-NH
2リンカー124(すなわち、アミド官能基、NH
2を有する上記で議論したリンカー)、およびスルホローダミンB(RhB、赤色)蛍光要素126を含む。
【0017】
RhB蛍光色素要素126は、
図2Aに示されるように、色素‐リンカー構造124,126を形成するための任意の方法により、DSPE-PEG
n-NH
2リンカー124に共有結合される。例えば、RhB蛍光要素126は、無水ジクロロメタン(DCM)中の窒素下の氷浴中でDSPE-PEG
n-NH
2リンカー124と結合し、次いでフラッシュクロマトグラフィーまたは別の精製方法によって精製される。
【0018】
様々な分子量(MW)のPEG鎖(つまり、様々なn値)を有するDSPE-PEGn-NH2リンカー124を使用することにより、色素‐リンカー構造124,126が異なる蛍光強度と蛍光量子収量(QY)で発光する。色素要素126は、BNNTキャリア122へのリンカー124接続とは反対側のリンカー124のPEG鎖の末端にあるため、PEG鎖のより高いMW(およびより高いn値)は、リンカー124がより長いことを意味し、したがって、色素要素126はBNNTキャリア122からさらに遠くにあることを意味する。以下の説明は特定の例の赤色蛍光体120に関して行われているが、上記のように、その他のリンカー、キャリア、または蛍光要素を含む蛍光体20にも適用可能であることを理解されたい。
【0019】
図3は、様々なPEG MW(それぞれ、n=22、45、77、114、227のPEG分子に対応する、1000、2000、3400、5000、および10,000Da)の色素‐リンカー構造124,126のQYを示す。1つのPEG部分の既知の長さは0.44nmであるため、完全に引き伸ばされたPEG
nチェーンの長さを推定できる。例えば、完全に引き伸ばされた5000MW PEGチェーンは、5,000/44×0.44nm=50nmとして計算される。MWが1000、2000、3400、5000、10,000のPEG鎖の、完全に引き伸ばされた伸長リンカー長は、それぞれ5~10nm、11~20nm、18~34nm、27~50nm、および54~100nmと推定される。実際には、PEGチェーンは互いにまたはそれ自体に巻き付いている可能性があり、完全に引き伸ばされた状態を保持できない場合がある。
【0020】
各色素‐リンカーサンプルの相対蛍光QYは、QY(サンプル)=QY(参照)×[勾配(サンプル)/勾配(参照)]×[r(サンプル)/r(参照)]によって計算され、rは屈折率である。方程式によって示されるように、相対QYは、
図3に示すように濃度に対して共に線形にスケーリングされたサンプルと参照の、蛍光/吸光度勾配比によって計算されたため、サンプルの色素濃度とは無関係であった。
【0021】
図3に示すように、様々なリンカー124分子量MW(例えば、様々なリンカー124の長さ)に対して量子収量QYが変化することは驚くべきことである。特に、例示の蛍光体120では、QYは、MWが2000から5000のリンカー長で非線形に増加するが、MWが10,000では減少し飽和している(つまり、MW 10000では、リンカーが長くても、QYは高くならない)。MWが1000のQYが、NWが2000および3400のQYよりも高かったことも予期しないことである。MW=5000の場合に検出される最大QYは、遊離したRhBの標準的なQY(蒸留水中で0.31)にも近く、蛍光消光が存在しないことを示している。
【0022】
例えば、蛍光体120、色素‐リンカー構造124,126(DSPE-PEG
n-NH
2-RhB)は、
図2Bに示されるように、任意の方法によりBNNTキャリア122上に非共有結合的に標識される。BNNTキャリア122は、任意の既知の方法によって製造され、所望の長さに切断される。例えば、BNNTキャリア122は、約50~1000nmの間、より具体的には約300~400nmの間である。BNNTキャリア122は、色素‐リンカー構造124,126に露出され、その結果、色素‐リンカー構造124,126は、任意の方法によりBNNTキャリア122に非共有結合する。任意選択的に、BNNTキャリア122/色素‐リンカー構造124,126溶液を蒸留またはろ過して、過剰な未結合の色素‐リンカー構造124,126を除去することができる。
【0023】
図2Bに示すように、リンカー124のアルキル鎖(-C(O)(CH
2)
34)はBNNTキャリア122の表面に非共有結合的に吸着される一方、色素‐リンカー構造124,126のPEG
n-NH
2-RhBは、BNNTキャリア122から離れるように延在する。その他の例では、上述のように、リンカー24の疎水性末端はキャリア22に非共有結合する一方、遊離親水性末端は蛍光要素26に共有結合する。
【0024】
BNNTに吸着する1つのDSPE-PEGn-NH2リンカー124分子の表面積は1.44nm2であることに留意されたい。これは、全ての色素‐リンカー構造124,126が一直線に並ぶ場合に、長さ500nm、直径50nmの単一のBNNTキャリア122上に、1.36×106個ものDSPE-PEGn-NH2-RhB色素‐リンカー構造124,126が存在できることを意味する。したがって、蛍光体120は、たった1~6個の蛍光要素からなる従来技術の蛍光体よりも6桁多い蛍光要素を有すると推定される。より一般的には、本明細書に記載の蛍光体20は少なくとも100個、より詳細には少なくとも1000個の色素‐リンカー構造24,26を含むと推定される。
【0025】
図4Aは、上述した様々な色素‐リンカー構造124,126を備えた蛍光体120のQYを示す。示されるように、QYの傾向は、
図3に示されているように、色素‐リンカー構造124,126のみのQYの傾向と非常に類似している。
【0026】
図4Bは、BNNTキャリア122上の、上述した様々な色素‐リンカー構造124,126の標識効率を示す。キャリアBNNT122に標識した後、色素‐リンカー構造124,126の濃度を決定することにより、標識効率を計算した。次に、この色素‐リンカー構造124,126の実際の濃度を、標識効率を決定するために、各標識プロセスに使用されている初期色素濃度と比較した。
【0027】
例示の蛍光体120について、小さい(MW=1000)リンカーおよび大きい(MW=10000)リンカーの標識効率が著しく低い(<20%)ことは驚くべきことである。中間分子量(2000、3400、5000)のリンカーの標識効率は、標識効率がよく似ている(55~75%)。
【0028】
蛍光体120の蛍光輝度は、BNNTキャリア122が曝される色素‐リンカー構造124,126の濃度にも関係している。これは次に、上述したように標識効率、および最終的に各BNNTキャリア122上の蛍光色素要素126の数に影響を与える。
図5Aは、蛍光強度に対する色素‐リンカー構造124,126自体の濃度のプロットを示し、一方、
図5Bは、蛍光強度に対する蛍光体120の色素‐リンカー構造124,126の濃度のプロットを示す。
【0029】
図5Bに示されるように、例えば高濃度の大量の色素‐リンカー構造124,126がBNNTキャリア120上に、蛍光強度の顕著な低下なしに標識され得ることは予想外である。これは、BNNTキャリア120と色素‐リンカー構造124,126との間の安定した非共有結合が、凝集と衝突消光を防ぐことができることを意味し、したがって、標識のためにより濃厚な色素‐リンカーを使用することにより、制御可能で強化された蛍光輝度をもたらすことができる。
【0030】
蛍光体の明るさは、量子収量(QY)と吸光係数(extinction coefficient)(ε)の積として定義される。上述のように、単一のBNNTキャリア120に1.5×10
6個もの蛍光要素を付加できるため、例示的な蛍光体120の各々の輝度は、各蛍光体がほんの僅か(例えば、前述のように1~6個)の蛍光色素要素を有する従来技術の蛍光体よりも数桁明るい。実際、様々な分子量のリンカー124を有する例示的な蛍光体120の吸光係数は、1×10
7~1×10
11 M
-1cm
-1の範囲にあり(
図6Aに示すように)、これは、約1×10
6 M
-1cm
-1の吸光係数を有する市販の最も明るい色素(フィコエリトリン(PE))の吸光係数よりも遥かに高い。
図6Bは、蛍光体120の輝度を示す。
図7A~Bは、色素‐リンカー構造124,126の吸光係数および輝度を示す。
【0031】
図6Bに示されるように、例示的な蛍光体120の輝度は、
図7Bに示される色素‐リンカー構造124,126の輝度よりも10
10ほど遥かに高い。これは、遊離した色素‐リンカー構造124,126の吸光係数と比較して、全てのリンカー124長さについての蛍光体120の高い吸光係数によるものである。吸光係数は、BNNTキャリア122への色素‐リンカー構造124,126の標識効率に依存する(
図4B)。したがって、MW=3400および5000Daのリンカーの輝度が最も高くなる。いずれにせよ、全てのリンカー124の長さについての例示的な蛍光体120の吸光係数は、既存の市販の蛍光体の吸光係数よりも数桁高い。
【0032】
図8A~Bに示す別の例の緑色蛍光体220は、前の例のようにナノチューブキャリア222およびDSPE-PEG-NH
2リンカー224を含むが、前の例のRhBの代わりにフルオレセインイソチオシアネート(FITC、緑色)蛍光要素226を含む。
図9は、前の例と同じ分子量のリンカー224の色素‐リンカー構造224,226のQYを示す。
図9に示すように、色素‐リンカー構造224,226は、リンカー224の分子量に関して非線形傾向を示す。
【0033】
図10は、2種類のナノチューブキャリア220である、CNTおよびBNNT上に標識された色素‐リンカー構造224,226のQYを示す。示されるように、CNTキャリアとBNNTキャリアのQYには僅かな違いがある。また、一般的に、CNTキャリアとBNNTキャリアの両方で、リンカー分子量とQYの間に直線的な傾向がある。蛍光体220は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で0.86のQYを有することが知られる参照として使用されるレーザーグレードフルオレセインよりも低いQYを示した。したがって、蛍光体220は消光を示した。これは、特に低分子量のリンカー224(それぞれ
図11および4Bに示される)について、第1の例の蛍光体120と比較して、ナノチューブキャリア222に対する色素‐リンカー構造224,226の標識効率が比較的低いことに起因する可能性がある。FITCはpH感受性色素であり、これらの短い色素‐リンカー構造224,226の低い標識効率は、色素‐リンカー構造224,226の分子構造によって影響を受けることに留意すべきである。
【0034】
図12A~Bに示される別の例の遠赤色蛍光体320は、前の例のようにナノチューブキャリア322およびDSPE-PEG-NH
2リンカー324を含むが、前の例のRhBまたはFITCの代わりにスルホ(sulfo)Cy5(遠赤色)蛍光要素326を含む。
図13は、前の例と同じ分子量リンカー224の色素‐リンカー構造324,326のQYを示す。
図13に示されるように、色素‐リンカー構造324,326は、リンカー324の分子量に関して非線形傾向を示す。
【0035】
図14は、2種類のナノチューブキャリア320である、CNTおよびBNNTに標識された色素‐リンカー構造324,326のQYを示す。示されるように、CNTキャリアとBNNTキャリアのQYには僅かな違いがある。また、一般的に、CNTキャリアとBNNTキャリアの両方で、リンカー分子量とQYの間に直線的な傾向がある。蛍光体320は、参照色素(EtOH(エタノール)中で0.31のQYを有することが知られている3,3'ジエチジアジカルボビニンヨウ素)よりも低いQYを示した。したがって、蛍光体320は、特に10000を下回る分子量のリンカー324について消光を示した。これは、特に低分子量のリンカー224(それぞれ
図15及び4Bに示されている)について、第1の例の蛍光体120と比較して、ナノチューブキャリア322に対する色素‐リンカー構造324,326の標識効率が比較的低いためである可能性がある。スルホCy5は小さい分子であり、Cy5色素は高濃度で消光および凝集することが知られていることに留意されたい。
【0036】
赤色蛍光体120、緑色蛍光体220、または遠赤色蛍光体320の吸収スペクトルに顕著なスペクトルピークシフトはなかった。これは、これらの色素‐リンカー構造のキャリアへの非共有結合が色素凝集と衝突消光を防ぐように安定していたため、標識プロセスでより高い色素‐リンカー濃度が使用された場合に蛍光強度が向上することを意味する。一方、遠赤色蛍光体320の色素‐リンカーの長さが3400未満の場合は異なっていた。著しい凝集があった。
【0037】
緑色蛍光体220および遠赤色蛍光体320は、色素濃度の関数としてFITC要素226の吸光度の勾配から推定されるように、分子量5000のリンカー内で高い吸光係数を示した(これは、各ナノチューブキャリア上の色素‐リンカー構造の数に関係する)。
図16は、蛍光体220の吸光係数に対するBNNTキャリア222あたりの色素‐リンカー構造224,226の数を示す。示されるように、これらの緑色蛍光体220の吸光係数は、1.65×10
12~5.63×10
13 M
-1cm
-1程度に高くなり得る。蛍光強度は、BNNTキャリア222に標識された色素‐リンカー構造224,226の数とともに直線的に増加し続ける(BNNTキャリア222あたり3.96×10
7~3.2×10
8個の範囲の色素‐リンカー構造224,226)。従来技術の蛍光体では、数個以上の色素分子が近接して共役している場合に消光が起きたため、これは予想外である。
【0038】
図17A~Bおよび
図18A~Bは、CNTおよびBNNTキャリアの両方について、それぞれ緑色および遠赤色蛍光体220,320の輝度および吸光係数を示す。示されるように、緑色蛍光体220の吸光係数は、リンカー分子量とともに約2×10
11 M
-1cm
-1まで増加し、輝度は約6×10
9~1×10
11の範囲である。遠赤色蛍光体320では、吸光係数はリンカー分子量とともに約1×10
12 M
-1cm
-1まで増加し、輝度範囲は約4×10
10~2×10
11の範囲である。
【0039】
上記のように、BNNTとCNTは構造的に類似している。しかしながら、CNTは導電性である一方、BNNTは電気絶縁性である。同様のサイズのBNNTとCNTが同じ赤色色素‐リンカー構造、例えば上記の例示の赤色色素‐リンカー構造124,126で標識付けされている場合、BNNT蛍光体は類似のCNTの蛍光強度よりも約4.5倍大きい蛍光強度を示す。この結果は、キャリアとしてBNNTを使用した赤色蛍光体の相対QYは、キャリアとしてCNTを使用した赤色蛍光体のQYよりも4.5倍高いことを示唆している。
【0040】
違いの一つの説明は次のとおりである。電気的絶縁物質と物理的に接触している蛍光要素は、蛍光粒子が導電性物質と接触している場合と比較して、より低い蛍光消光を受けることが理解される。しかしながら、本明細書で使用される蛍光要素26は、例えば上述のDSPE-PEGリンカーなどの電気絶縁性の、長いポリマーリンカー24を介してキャリア20に連結される。したがって、リンカー24は、CNTキャリア22の導電率の影響から蛍光体26を絶縁することが期待される。意外なことに、CNTキャリアとBNNTキャリアの蛍光体の間で発見された異なる蛍光強度は、キャリアの特性が蛍光体の蛍光に影響することを意味する。結果は、電気絶縁性ナノ材料が、従来技術の蛍光体よりも高いQYでより高輝度の蛍光体を形成することも示唆している。キャリア22として使用できる他の電気絶縁性ナノ材料には、BNナノシート、BNナノ粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、ナノワイヤ、またはSi、Ge、ZnOなどのナノロッドが含まれる。
【0041】
それにもかかわらず、CNTを使用して作成された蛍光体の相対的なQYはBNNTを使用して作成されたものよりも4.5倍低いが、CNTあたりおよびBNNTあたりの色素‐リンカーの数は上記のように同じである。したがって、CNTを使用して調製した蛍光体の吸光係数は、BNNTを使用して調製したものと同じ桁数になる。したがって、CNTキャリアを備えた高輝度蛍光体は、他の従来技術の蛍光体よりも遥かに明るい。
【0042】
上記の例の蛍光体220,320などの、緑色および遠赤色に標識された蛍光体の場合、
図10及び14に示すように、これらの色素‐リンカー構造がBNNTおよびCNTに標識されている場合、著しいQYの違いはなかった。どうやら、ナノ材料(ここではBNNTおよびCNT)の電気絶縁性または導電性の性質は、RhB蛍光要素の場合のように、FITC及びCy5蛍光要素のQYには影響しなかった。これは、リンカー(例えば、分子量1000以上のリンカー)の長さが、FITCおよびCy5がキャリアのナノ材料により大幅に消光されるのを防ぐのに十分であることを意味する。上記のように、これらすべての緑色および遠赤色蛍光体は、吸光係数が高いため、市販の色素よりもはるかに明るい。
【0043】
ここで説明する高輝度蛍光体は、共焦点蛍光顕微鏡分析下で厳密に焦点を合わせたレーザーの照射下でさえも光安定性がある。例えば、HeLa細胞の赤色蛍光体120を5日間監視し、同じ顕微鏡設定(同じ焦点比、同じ光源パワー、同じゲイン、および同じ励起波長)を使用して調べた場合、目に見える蛍光強度の減少を示さなかった。これは、本明細書に記載される例示的な蛍光体が、細胞顕微鏡イメージングに通常使用される従来技術の染色よりも光安定性であることを示している。さらに、娘細胞では増殖とシグナルの安定性が観察された。この結果は、本明細書に記載の蛍光体の構造が安定的で、生物学的に適合性があり、生体外および生体内で追跡用の光安定染色剤としても使用できることを示唆している。
【0044】
さらに、上記の赤色蛍光体120とともに培養した細胞は、色素‐リンカーの濃度と蛍光強度の関係を示した。これは、赤、緑、および遠赤色の蛍光体について上述した蛍光強度が細胞内で同じ傾向を有していることを意味し、したがって、生体外および生体内の細胞追跡用途に応用することができる。
【0045】
上述した例示的な蛍光体は、1種類の蛍光要素26のみを含むが、単一のキャリア22に連結された複数の種類の蛍光要素26を含む蛍光体20も考えられる。
【0046】
さらに、本明細書に記載の任意の蛍光体20は、同じまたは異なるリンカー24を使用する蛍光要素26に加えて、抗体などの生体分子と結合させることもできる。これにより、細胞膜、または細胞内のその他の構造に対する特定の生物学的標識のために、蛍光体20を生体分子と同時に官能化することが可能になる。抗体または他の生体分子は、既知の方法および化学によりリンカー24に付着させることができる。上述したように、リンカー24はR官能基を含み、他の分子への結合を促進する。R基は、リンカー24に付着される生体分子に従って選択され得る。例えば、モノスルホン-チオール反応を使用して、抗体をモノスルホンR-基に結合させることができる。マレイミドR基も使用できる。
【0047】
一例では、上述した5000MWのリンカー224を有する緑色蛍光体220は、BNNTキャリア222上の抗ヒトCD4と同時標識された。吸収スペクトルは、蛍光体220上の抗体濃度が、CD4を有する市販のFITC蛍光体のそれに匹敵することを示した。CD4を有する蛍光体220は、市販の抗ヒトCD4 FITC化合物よりも4倍低い濃度で5倍高い蛍光強度を有していた。
【0048】
抗体に加えて、またはその代わりに、蛍光体20は、上記と同じ方法で、リンカー24を介してペプチド、オリゴヌクレオチド、または、DNA、RNA、抗体などの他の高分子で標識することもできる。
【0049】
二重官能基を含む架橋剤を使用して、リンカー24を他の要素、例えば蛍光要素26、ペプチド、オリゴヌクレオチド、DNA、RNA、抗体などに接続することもできる。架橋剤の例は、SMCC(スクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)、スルホ-SMCC((スルホスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート)、AMAS(N-a-マレイミドアセト)-オキシスクシンイミドエステル)、BMPS(Ν-β-マレイミドプロピル-オキシスクシンイミドエステル)、GMBS(Ν-γ-マレイミドブチリル-オキシスクシンイミドエステル)、スルホ-GMBS、MBS(m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)、スルホ-MBS、EMCS(Ν-ε-マレミドカプロイル-オキシスクシンイミドエステル)、スルホ-EMCS、SMPB(スクシンイミジル 4-(p-マレイミドフェニル)ブチレート)、スルホ-SMPB、SMPH(スクシンイミジル 6-((ベータ-マレイミドプロピオンアミド)ヘキサノエート)、LC-SMCCスクシンイミジル 4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシ-(6-アミドカプロエート)、スルホ-KMUS(N-κ-マレイミドウンデカノイル-オキシスルホスクシンイミドエステル)、SM(PEG)n (n=2,4,6,8,12,24) (PEG化SMCC架橋剤)、SPDP(3-(2-ピリジルジチオ)プロピオン酸スクシンイミジル)、LC-SPDP、スルホ-LC-SPDP、SMPT(4-スクシンイミジルオキシカルボニル-α-メチル-a(2-ピリジルジチオ)トルエン)、PEGn-SPDP (n=2,4,12,24)、SIA(ヨード酢酸N-スクシンイミジル)、SBAP(3-(ブロモアセトアミド)プロピオン酸スクシンイミジル)、SIAP(スクシンイミジル(4-ヨードアセチル)アミノ安息香酸)、スルホ-SIAP、ANB-NOS(N-5-アジド-2-ニトロベンゾイルオキシスクシンイミド)、スルホ-SANPAH(スルホスクシンイミジル 6-(4’-アジド-2’-ニトロフェニルアミノ)ヘキサノエート)、SDA(4,4'-アジペンタン酸スクシンイミジル)、スルホ-SDA、LC-SDA、スルホ-LC-SDA、SDAD(スクシンイミジル2-((4,4'-アジペンタンアミド)エチル)-1,3'-ジチオプロピオネート)、スルホ-SDAD、DCC(Ν,Ν'-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、EMCH(Ν-ε-マレイミドカプロン酸ヒドラジド)、MPBH(4-(4-N-マレイミドフェニル)酪酸ヒドラジド)、KMUH(Ν-κ-マレイミドウンデカン酸ヒドラジド)、PDPH(3-(2-ピリジルジチオ)プロピオニルヒドラジド)、PMPI(p-マレイミドフェニルイソシアネート)、SPB(スクシンイミジル-[4-(ソラレン-8-イルオキシ)]-ブチレート)である。
【0050】
上記の説明は、本質的に限定的ではなく例示的なものである。本発明の本質から必ずしも逸脱しない、開示された例の変形および修正が当業者に明らかとなるであろう。本発明に付与の法的保護の範囲は、添付の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定することができる。