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特許7116809バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子を用いた表面発現ベクター、及びそれを用いたタンパク質の微生物表面発現方法
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  • 特許-バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子を用いた表面発現ベクター、及びそれを用いたタンパク質の微生物表面発現方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子を用いた表面発現ベクター、及びそれを用いたタンパク質の微生物表面発現方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/74 20060101AFI20220803BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220803BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220803BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220803BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220803BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220803BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220803BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220803BHJP
【FI】
C12N15/74 110Z
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02 C
A61K35/12
A61P37/04
C12N15/52 Z ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/31
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020570004
(86)(22)【出願日】2019-06-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 KR2019007592
(87)【国際公開番号】W WO2020004877
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2020-12-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0073345
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519220124
【氏名又は名称】バイオリーダース コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨン チュル
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ジェ ウォン
(72)【発明者】
【氏名】パク ホン ギュ
(72)【発明者】
【氏名】カン ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ビョン セ ウン
(72)【発明者】
【氏名】パク クワン セオ
(72)【発明者】
【氏名】キ ダエ ウン
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-514469(JP,A)
【文献】国際公開第2006/126682(WO,A1)
【文献】特表2010-521984(JP,A)
【文献】特表2012-514468(JP,A)
【文献】特表2011-501668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
C12P
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAと目的タンパク質をコードする遺伝子とを含む目的タンパク質の表面発現ベクターであって、
前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号13~15および配列番号24~26のうちのいずれか一つの塩基配列からなることを特徴とする目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項2】
前記遺伝子pgsAは、ポリ-γ-グルタミン酸を生産するバチルス属菌株に由来することを特徴とする請求項1に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項3】
前記遺伝子pgsAの末端部位にリンカーが挿入されており、前記挿入されたリンカーに目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていることを特徴とする請求項1に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項4】
乳酸菌由来のアルドラーゼプロモーターを含むことを特徴とする請求項1に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項5】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の表面発現ベクターで形質転換された微生物。
【請求項6】
微生物は、乳酸菌であることを特徴とする請求項に記載の形質転換された微生物。
【請求項7】
請求項に記載の形質転換された微生物を培養して目的タンパク質を細胞表面に発現させるステップと、目的タンパク質が表面に発現された細胞を回収するステップとを含むことを特徴とする目的タンパク質の細胞表面発現方法。
【請求項8】
目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質またはその一部、抗体またはその一部、単鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子、および植物生体防御誘導タンパク質からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項9】
請求項に記載の方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与することにより、体液性免疫または細胞性免疫を誘導することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記ベクターは、グラム陰性菌またはグラム陽性菌に適用されることを特徴とする請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
【請求項11】
下記ステップを含むことを特徴とするグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞の表面に目的タンパク質を発現させる方法:
(a)請求項10に記載の目的タンパク質の表面発現ベクターに、目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入して組換えベクターを製造するステップ;
(b)前記組換えベクターでグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞を形質転換するステップ;および
(c)前記形質転換された宿主細胞を培養して目的タンパク質を宿主細胞表面に発現させるステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質(pgsA)を用いて、外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現させる新しいベクターに関する。また、本発明は、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を用いて、外来タンパク質を微生物の表面に発現させるタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞表面発現技術は、タンパク質やペプチドなどを適切な表面発現母体(surface anchoring motif)と融合させてグラム陰性菌、陽性菌、カビ、酵母、または動物細胞の表面に発現させる技術を指す(Lee SY,et al.,Trends Biotechnol.,21:4552,2003)。1980年代に開発された最初の細胞表面発現技術によれば、比較的単純な表面を有するファージを用いて、ペプチドや小さなタンパク質を繊維状ファージ(filamentous phage)のpIIIと融合させて発現させ、これは表面発現システム(surface-expression system)と呼ばれていた。ファージを用いた細胞表面発現は、抗体のスクリーニングやエピトープ(epitope)、高親和性リガンド(high-affinity ligand)などのスクリーニングに使用されたが、ファージ表面に発現し得るタンパク質のサイズが比較的限られているという限界があった。このため、その代替として、バクテリアを用いた細胞表面発現が開発されてきた。バクテリアや酵母などの微生物の表面タンパク質を表面発現母体(surface anchoring motif)として使用して、外来タンパク質を微生物の表面に安定して発現させる分野である。
【0003】
特定の有機体の外膜タンパク質を用いて細胞表面に外来タンパク質を発現させるためには、適切な表面タンパク質と外来タンパク質を遺伝子レベルでつなぎ合わせて融合タンパク質を生合成し、それを安定して細胞内膜を通過させて細胞表面に付着させて維持する必要がある。そのためには、表面発現母体として、次のような特定を有するタンパク質を使用することが好ましい。第一に、タンパク質は、そのN末端において、細胞内膜を通過することのできる分泌シグナル(secretion signal)を有するべきである。第二に、タンパク質は、細胞外膜表面に安定して付着できる標的シグナル(targeting signal)を持っている必要がある。第三に、タンパク質が高い活性を示すことができるように、タンパク質は細胞の成長に悪影響を及ぼさない範囲内で細胞表面に大量に発現される必要がある。そして最後に、タンパク質はそのサイズに関係なく安定して発現され、様々な反応に使用できる必要がある(Georgiou et al.,TIBTECH,11:6,1993)。このような表面発現母体は、宿主細胞の表面の外膜タンパク質のN末端またはC末端、またはタンパク質の中央に挿入されるように遺伝的に操作する必要もある(Lee et al.,TIBTECH、21:45、2003)
【0004】
タンパク質が細菌の表面に発現するためには、細胞内で生合成されたタンパク質が細胞膜を通過することを可能にする分泌シグナル(secretion signal)が、そのタンパク質の一次配列に位置している必要がある。さらに、グラム陰性菌の場合、タンパク質は細胞内膜と細胞膜空間を通過し、細胞外膜に挿入されて付着し、このとき、膜外に突出するように定着しなければならない。
【0005】
細菌の場合、このような分泌シグナル及び細胞表面に定着させる標的シグナル(targeting signal)を有するタンパク質の例には、表面タンパク質、特殊酵素、毒素タンパク質などが含まれる。実際、これらのタンパク質の分泌シグナルと標的シグナルなどを適当なプロモーターと一緒に使用すれば、タンパク質を細菌表面でうまく発現させることができる。
【0006】
外来タンパク質の表面発現に使用される細菌の表面タンパク質は、細胞外膜タンパク質、リポタンパク質(lipoprotein)、分泌タンパク質、細胞表面タンパク質などの4つのタイプに大きく分けることができる。現在までに、主にグラム陰性菌に存在する表面タンパク質、例えば、LamB、PhoE、OmpAなどを使用して、必要な外来タンパク質を細菌表面に発現させる試みがなされてきた。これらのタンパク質を使用すると、外来タンパク質が細胞表面の突出したループ(loop)に挿入されるため、構造的に挿入できるタンパク質のサイズが制限される。また、挿入する外来タンパク質のC末端とN末端は立体的に近接している必要があるため、C末端とN末端との距離が長いと、連結ペプチドによって二つの末端を互いに近づけるべきであるという問題がある。
【0007】
実際、LamBまたはPhoEを使用して50~60個以上のアミノ酸からなる外来ポリペプチドを挿入した場合、構造上の制限により安定した膜タンパク質が形成されなかった[Charbit et al.,J.Immunol.,139:1658-1664(1987);Agterberg et al.,Vaccine,8:85-91(1990)]。OmpAを使用して外来タンパク質を突出ループに挿入する場合もあっったが、構造上の制限を克服するために、細胞外膜に定着させることのできる最小限の標的シグナルを含む、一部OmpA断片のみを使用した。この方法として、β-ラクタマーゼ(β-lactamase)をOmpA標的シグナルのC末端に連結して細胞表面に発現させた例がある。
【0008】
また、近年、グラム陰性菌の外膜タンパク質として、シュードモナス(Pseudomonas)属に由来する氷核形成タンパク質(Ice nucleation protein,INP)を用いた表面発現が試みられた[Jung et al.,Nat, Biotechnol,16:576-560(1998),Jung et al.,Enzyme Microb.Technol,22(5):348-354(1998),Lee et al.,Nat.Biotechnol,18:645-648(2000)]。Jung et al.等は、N末端、中央の繰り返し区間、およびC末端からなる氷核形成タンパク質のC末端にレバンスクラーゼ(levansucrase)を融合させ、また、中央の繰り返し区間が削除されたN末端およびC末端からなる氷核形成タンパク質のC末端にカルボキシメチルセルラーゼ(carboxymethylcellulase)を融合させ、それぞれを表面発現させて酵素活性を測定し確認した。また、Lee et al.などは、N末端、あるいは、N末端とC末端からなる氷核形成タンパク質のそれぞれの末端にB型肝炎ウイルスの表面抗原とC型肝炎ウイルスのコア(core)抗原を融合させ、大腸菌またはサルモネラチフィTy21a(Salmonella typhi Ty21a)菌株の表面に発現させた後、これらを複合生ワクチンとして使用できることを確認した。
【0009】
リポタンパク質もまた表面タンパク質として表面発現に用いられている。特に、大腸菌リポタンパク質は、N末端に分泌シグナルを持ち、細胞内膜を通過することができ、その末端のシステイン(L-cysteine)が、共有結合により細胞外膜脂質または細胞内膜脂質と直接結合されている。主なリポタンパク質であるLppは、N末端で細胞外膜に結合し、C末端で細胞壁(peptidoglycan、PG)に結合しているため、細胞外膜タンパク質OmpA断片と連結されると、安定的に外来タンパク質を細胞外膜まで分泌して表面発現できる[Francisco et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,489:2713-2717(1992)]。また、他のリポタンパク質であるTraTは、リポタンパク質のこのような特性を用いて、ポリオウイルスのC3エピトープなどのペプチドを表面発現させるために使用された[Felici et al.,J. Mol.Biol.,222:301-310(1991)]。さらに、正確な機能がまだ知られていないペプチドグリカン関連リポタンパク質(Peptidoglycan-associated lipoprotein、PAL)も、組換え抗体の表面発現に使用された[Fuchs et al.,Bio / Technology,9:1369-1372(1991)]。この場合、PALのC末端は細胞壁に連結され、N末端は組換え抗体に連結されて融合タンパク質が表面発現された。
【0010】
細胞外膜を通過する分泌タンパク質をも表面タンパク質として使用できるが、グラム陰性菌の場合、分泌タンパク質が発達せず、一部の分泌タンパク質についてのみ、分泌タンパク質の特有の分泌メカニズムに関与するタンパク質が存在し、分泌タンパク質が細胞外膜を通過するのを助けている。例えば、クレブシエラ(Klebsiella)属のプルラナーゼ(pullulanase)は、リポタンパク質であり、N末端が脂質に置き換わって細胞外膜に付着しており、細胞培養液中に完全に分泌される。Kornacker et al.等がプルラナーゼのN末端断片を用いて細胞表面にβ-ラクタマーゼを発現させたが、発現されたプルラナーゼ/β-ラクタマーゼ融合タンパク質が一時的に細胞表面に付着しており、すぐに細胞培養液中に遊離されるという欠点があった。また、これを用いて、ペリプラズム(periplasmic space)タンパク質であるアルカリホスファターゼ(alkaline phosphatase)を発現させた場合、少なくとも14個以上のタンパク質がアルカリホスファターゼの分泌に関与しているため、安定して表面発現されなかった[Kornacker et al.,Mol。Microl.,4:1101-1109(1990)]。
【0011】
独特の分泌システムを持つ病原微生物ナイセリア(Neisseria)由来のIgAプロテアーゼは、C末端の断片とN末端のプロテアーゼとを細胞外膜に定着させるシグナルを持っている。一旦細胞外膜に到達して細胞表面に突出したプロテアーゼは、自体の加水分解能力によって細胞培養液に分泌される。Klauser et al.等は、このIgAプロテアーゼ断片を用いて、約12kDaのコレラ毒素Bサブユニットを細胞表面に安定して発現させた[Klauser et al.,EMBO J.,9:1991-1999(1990)]。しかし、融合タンパク質の分泌は、分泌過程中にペリプラズム空間で発生したタンパク質の折り畳み(protein folding)によって阻害された。
【0012】
さらに、グラム陰性菌の場合、細胞表面に存在し、表面発現に適用できる細胞小器官としては、鞭毛(Flagella)、ピリ(Pili)及びフィムブリエ(Fimbriae)などがある。コレラ毒素BサブユニットとB型肝炎ウイルス由来のペプチドは、鞭毛の構成サブユニットである鞭毛タンパク質(Flagellin)を用いて、安定して発現され、それらに対する抗体と強く反応した[Newton et al.,Science、244: 70-72(1989)]。糸のように見えるフィムブリエの構成タンパク質であるフィンブリリン(fimbrilin)を用いて、細胞表面に外来ペプチドを発現させようと試みた結果、小さなペプチドしか発現されなかった[Hedegaard et al.,Gene、85:115-124(1989)]。
【0013】
上記のようにグラム陰性菌の表面タンパク質を使用して試みられた表面発現に加えて、グラム陽性菌の表面タンパク質を使用して試みられた表面発現が最近行われた[Samuelson et al.,J.Bacteriol.,177:1470-1476(1995)]。この場合でも、細胞内膜を通過できる分泌シグナルと、細胞膜に付着する表面発現母体とを必要とする。実際、ブトウ球菌(Staphylococcus hyicus)由来のリパーゼを分泌シグナルとして用い、黄色ブトウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAを膜付着母体として用いて、80個のアミノ酸からなるマラリア血液段階抗原(malaria blood stage antigen)とストレプトコッカスタンパク質G由来のアルブミン付着タンパク質とを、グラム陽性菌の表面に効果的に発現させた例がある。
【0014】
前記したグラム陰性菌および陽性菌の表面での発現に関する上記の研究を通じて多くの有用なタンパク質発現システムが開発されており、米国、ヨーロッパ、日本などで出願されてきた。その中で、特にグラム陰性菌の細胞外膜タンパク質の使用に関して5例(WO9504069、WO9324636、WO9310214、EP603672,US5356797)があり、細胞表面器官であるピり(pili)の使用に関して1例(WO9410330)があり、また、細胞表面リポタンパク質(lipoprotein)の使用に関して1例(WO9504079)がある。
【0015】
上記のように細菌の細胞外膜タンパク質を用いて細胞表面に外来タンパク質を発現させるためには、適切な細胞外膜タンパク質と外来タンパク質とを遺伝子レベルで連結して融合タンパク質の生合成を誘導する必要があり、これらが安定して細胞内膜を通過し、細胞外膜に付着して維持されるようにする必要がある。しかしながら、上記のすべての条件を満たす表面発現母体はまだ開発されておらず、これまでのところ、上記の場合の欠点を補完するレベルである。
【0016】
このような背景の下で、本発明者らは、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子(pgsA)を新たな表面発現母体として使用することについて鋭意検討および研究を重ねた。その結果、pgsA遺伝子を用いて微生物表面に外来タンパク質を効果的に発現させる新しいベクター、および、微生物表面に外来タンパク質を大量に発現させる方法を開発し、本発明を完成させるに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、微生物の表面に外来タンパク質を大量に発現させることのできる表面発現母体として、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を選択し、これを用いて、外来タンパク質またはペプチドを微生物の表面に発現させることのできる目的タンパク質の表面発現ベクターを製造し、これにより形質転換された様々な形質転換体において、外来タンパク質を形質転換体の表面に効率よく発現させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記目的を達成するために、本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAと目的タンパク質をコードする遺伝子とを含む目的タンパク質の表面発現ベクターであって、前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号13~16および配列番号24~26のうちのいずれか一つの塩基配列を有することを特徴とする目的タンパク質の表面発現ベクターを提供する。
【0019】
本発明において、前記遺伝子pgsAは、ポリ-γ-グルタミン酸を生産するバチルス属菌株に由来することを特徴としてもよい。
【0020】
本発明において、前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号17の塩基配列を有することを特徴としてもよい。
【0021】
本発明において、前記遺伝子pgsAの末端部位にリンカーが挿入されており、前記挿入されたリンカーに目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていることを特徴としてもよい。
【0022】
本発明において、前記目的タンパク質は、表面発現に有利になるように、目的タンパク質のアミノ酸配列の一部が除去されるか、または位置特異的に突然変異されたことを特徴としてもよい。
【0023】
本発明において、前記塩基配列は、乳酸菌由来のアルドラーゼプロモーターを含むことを特徴としてもよい。
【0024】
本発明はまた、前記表面発現ベクターで形質転換された微生物を提供する。本発明において、形質転換に使用された微生物は、目的タンパク質の細胞表面発現に有利になるように、発現された目的タンパク質の分解に関与する細胞内または細胞外のタンパク質分解酵素を生産できないように変形されたことを特徴としてもよい。
【0025】
本発明において、前記微生物は、乳酸菌であることを特徴としてもよい。本発明において、前記乳酸菌は、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属、およびビフィドバクテリウム属を含んでもよい。代表的に、ラクトバチルス属は、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)、ラクトバチルス・プランタラム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ファーメンタム(L.ferementum)、ラクトバチルス・デルブリュッキィ(L.delbrueckii)、ラクトバチルス・ジョンソニ(L.johnsonii LJI)、ラクトバチルス・ロイテリ(L.reuteri)及びラクトバチルス・ブルガリクス(L.bulgaricus)などを宿主として使用してもよく、ストレプトコッカス属は、ストレプトコッカス・サーモフィラス(S.thermophilus)などを宿主として使用してもよく、ビフィドバクテリウム属は、ビフィドバクテリウム・インファンティス(B.infantis)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(B.bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(B.longum)、ビフィドバクテリウム・シュードロンガム(B.psuedolongum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(B.breve)、ビフィドバクテリウム・ラクティスBb-12(B.lactis Bb-12)及びビフィドバクテリウム・アドレッセンティス(B.adolescentis)などを宿主として使用してもよい。好ましくは、ラクトバチルス属である。
【0026】
本発明はまた、前記形質転換された微生物を培養して目的タンパク質を細胞表面に発現させるステップと、目的タンパク質が表面に発現された細胞を回収するステップとを含む目的タンパク質の細胞表面発現方法を提供する。
【0027】
本発明において、目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質またはその一部、抗体またはその一部、単鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子、および植物生体防御誘導タンパク質からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴としてもよい。
【0028】
本発明はまた、前記方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与することにより、体液性免疫または細胞性免疫を誘導することを特徴とする方法を提供する。
【0029】
本発明はまた、前記ベクターは、グラム陰性菌またはグラム陽性菌に適用されることを特徴とする目的タンパク質の表面発現ベクターを提供する。
【0030】
本発明はまた、(a)請求項14に記載の目的タンパク質の発現用ベクターに、目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入して組換えベクターを製造するステップと、(b)前記組換えベクターでグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞を形質転換するステップと、(c)前記形質転換された宿主細胞を培養して目的タンパク質を宿主細胞表面に発現させるステップと、を含むことを特徴とするグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞の表面に目的タンパク質を発現させる方法を提供する。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAと目的タンパク質をコードする遺伝子とを含む目的タンパク質の表面発現ベクターであって、
前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号13~16および配列番号24~26のうちのいずれか一つの塩基配列を有することを特徴とする目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔2〕前記遺伝子pgsAは、ポリ-γ-グルタミン酸を生産するバチルス属菌株に由来することを特徴とする前記〔1〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔3〕前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAは、配列番号17の塩基配列を有することを特徴とする前記〔1〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔4〕前記遺伝子pgsAの末端部位にリンカーが挿入されており、前記挿入されたリンカーに目的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていることを特徴とする前記〔1〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔5〕前記目的タンパク質は、表面発現に有利になるように、目的タンパク質のアミノ酸配列の一部が除去されるか、または位置特異的に突然変異されたことを特徴とする前記〔1〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔6〕前記塩基配列は、乳酸菌由来のアルドラーゼプロモーターを含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔7〕前記塩基配列は、乳酸菌由来のアルドラーゼプロモーターを含むことを特徴とする前記〔3〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔8〕前記〔1〕乃至前記〔7〕のいずれか一項に記載の表面発現ベクターで形質転換された微生物。
〔9〕形質転換に使用された微生物は、目的タンパク質の細胞表面発現に有利になるように、発現された目的タンパク質の分解に関与する細胞内または細胞外のタンパク質分解酵素を生産できないように変形されたことを特徴とする前記〔8〕に記載の形質転換された微生物。
〔10〕微生物は、乳酸菌であることを特徴とする前記〔8〕に記載の形質転換された微生物。
〔11〕前記〔8〕に記載の形質転換された微生物を培養して目的タンパク質を細胞表面に発現させるステップと、目的タンパク質が表面に発現された細胞を回収するステップとを含むことを特徴とする目的タンパク質の細胞表面発現方法。
〔12〕目的タンパク質は、ホルモン、ホルモン類似体、酵素、酵素阻害剤、シグナル伝達タンパク質またはその一部、抗体またはその一部、単鎖抗体、結合タンパク質、結合ドメイン、ペプチド、抗原、付着タンパク質、構造タンパク質、調節タンパク質、毒素タンパク質、サイトカイン、転写調節因子、血液凝固因子、および植物生体防御誘導タンパク質からなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする前記〔11〕に記載の方法。
〔13〕前記〔12〕に記載の方法により製造され、抗原が表面に発現された細胞をヒト以外の脊椎動物に投与することにより、体液性免疫または細胞性免疫を誘導することを特徴とする方法。
〔14〕前記ベクターは、グラム陰性菌またはグラム陽性菌に適用されることを特徴とする前記〔1〕乃至前記〔7〕のいずれか一項に記載の目的タンパク質の表面発現ベクター。
〔15〕下記ステップを含むことを特徴とするグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞の表面に目的タンパク質を発現させる方法:
(a)前記〔14〕に記載の目的タンパク質の表面発現ベクターに、目的タンパク質をコードする遺伝子を挿入して組換えベクターを製造するステップ;
(b)前記組換えベクターでグラム陰性またはグラム陽性宿主細胞を形質転換するステップ;および
(c)前記形質転換された宿主細胞を培養して目的タンパク質を宿主細胞表面に発現させるステップ。
【発明の効果】
【0031】
本発明による目的タンパク質の表面発現ベクターは、目的タンパク質を安定して発現させることができ、本発明による表面発現ベクターは、目的タンパク質を恒常的に発現させながら、同時に組換え微生物に表面発現させて必要なワクチン製造用抗原の作製などに有用に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-PgsA-EGFPの遺伝子地図を示すものである。
図2】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1(PgsAモチーフ1-60a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図3】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA2(PgsAモチーフ1-70a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図4】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA3(PgsAモチーフ1-80a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図5】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA5(PgsAモチーフ1-100a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図6】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA5(pKV-PgsA 1-188a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図7】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA6(PgsAモチーフ25-60a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図8】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA7(PgsAモチーフ25-70a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図9】本発明による、ラクトバチルス・カゼイを宿主として用いる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA8(PgsAモチーフ25-100a.a-EGFP)の遺伝子地図を示すものである。
図10】本発明の表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8のそれぞれで形質転換されたラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPタンパク質の表面発現を示すウエスタンブロット写真を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例1で製造された表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を使用して、乳酸菌宿主においてより安定して高い発現率を示すことができるように、PgsAの遺伝子を断片化する改良を行った。
【0034】
まず、PgsA断片のうちの1-60a.a、1-70a.a、1-80a.a、1-100a.a、1-188a.aを含むPgsA断片を得るために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型とし、配列番号3~12のプライマーを用いてPCRを行った。
【0035】
その結果、アルドラーゼプロモーターを含み、それぞれのPgsAモチーフ断片を含むDNA切片が得られた。前記切片の5’末端には、SphI制限酵素部位が含まれ、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。得られたDNA切片をSphIおよびBamHIで処理して切片を得た。また、それぞれのPgsA1~A5モチーフ断片は配列番号13~17の塩基配列を有することが確認された。
【0036】
一方、PgsA断片のうちの25-60a.a、25-70a.a、25-100a.aを含むPgsA断片を得るために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型とし、配列番号18~23のプライマーを用いてPCRを行った。
【0037】
その結果、それぞれのPgsAモチーフ断片を含むDNA切片が得られた。前記切片の5’末端には、EcoRV制限酵素部位が含まれ、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。得られたDNA切片をEcoRVおよびBamHIで処理して切片を得た。また、それぞれのPgsAモチーフ断片は配列番号24~26の塩基配列を有することが確認された。
【0038】
本発明は、微生物の表面に外来タンパク質を大量に発現させることのできる新しい表面発現母体として、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を選択し、これを用いて、外来タンパク質またはペプチドを微生物の表面に発現させることのできる表面発現ベクターを製造し、これにより形質転換された様々な形質転換体において、外来タンパク質を形質転換体の表面に効率的に発現させる方法を提供することを目的とする。
【0039】
上記目的を達成するために、本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードする遺伝子pgsAを含む微生物表面発現ベクター、及び前記ベクターで形質転換された菌株を提供する。
【0040】
また、本発明は、上記目的を達成するために、前記微生物表面発現ベクターを用いて、外来タンパク質を形質転換菌株の表面に発現させる方法を提供する。
【0041】
遺伝子pgsAがコードするタンパク質は、バチルス属に存在する細胞外膜タンパク質であり、バチルス・サブティリス(Bacillus subtilis IFO3336;納豆菌;Biochem.Biophy.Research Comm.,263,6-12,1999)、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis ATCC9945;Biotech.Bioeng。57(4)、430-437,1998)、バチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis;J.Bacteriology,171、722-730、1989)などから生産される食用、水溶性、陰イオン性、生分解性高分子物質であるポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与するタンパク質である。
【0042】
納豆菌(Bacillus subtilis IFO3336)の場合、細菌から分離された細胞外膜タンパク質は、全922個のアミノ酸からなるタンパク質であり、pgsB、pgsC及びpgsAから構成されており、pgsBは393アミノ酸、pgsCは149アミノ酸、そしてpgsAは380アミノ酸から構成されている。芦内(Ashiuchi)らは、バチルス納豆菌由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子をクローニングし、大腸菌に形質転換し、大腸菌でのポリ-γ-グルタミン酸の合成を観察した[Ashiuchi et al.,Biochem.Biophy.Res.Communications、263:6-12(1999)]。
【0043】
しかし、前記ポリ-γ-グルタミン酸合成酵素複合体をコードするタンパク質pgsAの具体的な役割及び機能は、まだ明らかにされていない。但し、複合体の構成タンパク質のうち、pgsBはアミドリガーゼ系であり、pgsBのN末端の特定のアミノ酸が細胞膜又は細胞壁と相互作用し、pgsAは、N末端およびC末端に親水性の特定のアミノ酸配列を有しており、pgsAは、N末端およびC末端に親水性の特定のアミノ酸配列を有しており、pgsBの助けとともに、これらアミノ酸配列が、細胞内膜の通過に際して、分泌シグナル、ターゲティングシグナル、および付着シグナルとして作用すると考えられている。
【0044】
本発明者らの研究の結果、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、そのミノ酸一次配列の構造と特性上、外来タンパク質を細胞表面に発現させる表面発現母体として多くの利点があることが明らかになった。第一に、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、ポリ-γ-グルタミン酸の合成および細胞外への分泌のために細胞表面に大量に発現され得る。第二に、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する、発現された細胞外膜タンパク質は、細胞周期の休止期においてさえ安定的に維持される。第三に、構造的に、特にpgsAは、細胞表面に突出しており、第四に、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質は、グラム陽性菌の表面に由来し、様々なグラム陽性菌またはグラム陰性菌のいずれの表面においても安定して発現され得る。
【0045】
本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の特性を用いて、外来タンパク質を細菌の表面に発現し得る有用なベクターを提供することを目的とする。特に、本発明の目的タンパク質の表面発現ベクターは、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の一次配列上に存在する分泌シグナル及び標的シグナルを含む。
【0046】
また、本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の特性を利用した表面発現ベクターを使用して、外来タンパク質を微生物の表面に発現させる方法を提供することを他の目的とする。特に、本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を使用して、外来タンパク質を微生物の表面に発現させることにより、細胞の破砕またはタンパク質の分離精製過程を経ずに外来タンパク質を効率的に使用することのできる外来タンパク質の製造方法を提供する。
【0047】
また、本発明において、前記「目的タンパク質」または「外来タンパク質」とは、前記タンパク質を発現する形質転換された宿主細胞では正常には存在できないタンパク質を意味する。例えば、乳酸菌からウイルス由来または腫瘍由来のタンパク質を人工的に発現するように操作した場合、前記のタンパク質を外来タンパク質または目的タンパク質という。
【0048】
より具体的には、前記目的タンパク質は、好ましくは、感染性微生物、免疫疾患由来の抗原または腫瘍由来の抗原、例えば、真菌性病原体、バクテリア、寄生虫、腸内寄生虫(helminth)、ウイルスまたはアレルギー誘発物質などを含んでもよいが、これらに限定されるものではない。より詳細には、前記抗原は、破傷風トキソイド(tetanus toxoid)、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン(hemagglutinin)または核タンパク質、ジフテリアトキソイド(diphtheria toxoid)、HIVのgp120またはその断片、HIVのgagタンパク質、IgAプロテアーゼ(protease)、インシュリンペプチドB、ジャガイモ粉状そうか病(Spongospora subterranea)抗原、ビブリオ症(Vibriose)抗原、サルモネラ(Salmonella)抗原、肺炎球菌(Pneumococcus)抗原、RSウイルス(RSV:Respiratory syncytial virus)抗原、インフルエンザ菌(Hemophilus influenzae)外膜タンパク質、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)抗原、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)のウレアーゼ(urease)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)のピリン(pilin)、淋菌(N.gonorrhoeae)のピリン(pilin)、メラノーマ関連タンパク質(melanoma associated antigens:TRP2、MAGE-1、MAGE-3,gp100、チロシナーゼ、MART-1、HSP-70、β‐HCG)、HPV-16、-18、-31、-35、または-45に由来するE1、E2、E6及びE7を含むヒトパピローマウイルス(Human papilloma virus)の抗原、CEA腫瘍抗原、正常または変異型rasタンパク質、正常または変異型p53、Muc1、pSAなどを含み、また、コレラ、ジフテリア、ヘモフィルス(Haemophilus)、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザ、麻疹、脳炎、耳下腺炎、百日咳、水痘、肺炎(pneumococcal pneumonia)、小児麻痺、恐水病、風疹(rubella)、破傷風、結核、アジソン病(Addison’s disease)、免疫反応誘発物質(immunogen)、アレルギー誘発物質(allergen)、固形腫瘍及び血液腫瘍を含む癌、後天性免疫不全症、腎臓、心臓、膵臓、肺、骨、肝などの移植拒否時に関与する因子などに由来する当業界に周知の抗原及び自己免疫を誘発する抗原などを含んでもよい。
【0049】
したがって、本発明の表面発現方法により生産された外来タンパク質を、様々な用途に提供することができる。このような用途には、抗体および酵素の効果的な生産、ならびに抗原、付着または吸着タンパク質、および新しい生理活性物質をスクリーニングするためのペプチドライブラリーの生産などが含まれる。
【0050】
バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質を含む、すべての種類のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する遺伝子を用いた表面発現ベクターは、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0051】
また、本発明のポリ-γ-グルタミン酸の合成遺伝子を用いた表面発現ベクターは、外来タンパク質を微生物の表面に発現させるために、すべての菌株に適用可能であり、好ましくはグラム陰性菌、より好ましくは大腸菌、サルモネラチフィ、サルモネラチフィリウム、ビブリオコレラ、マイコバクテリウムボビス、シゲラ、およびグラム陽性菌、好ましくはバチルス、ラクトバチルス、ラクトコッカス、ブドウ球菌(Staphylococcus)、リステリア・モノサイトゲネス、レンサ球菌(Streptococcus)菌株などに適用可能である。前記菌株を用いて外来タンパク質を製造するすべての方法は、本発明の範囲に含まれる。
【0052】
必要に応じて、ポリ-γ-グルタミン酸の合成遺伝子のN末端またはC末端にすべてまたは一部の制限酵素の様々な認識部位を挿入可能であり、これらの制限酵素部位が挿入された表面発現ベクターは、すべて本発明の範囲に含まれる。
【0053】
具体的には、本発明は、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸合成遺伝子であるpgsAを含み、pgsAのC末端に制限酵素認識部位を挿入することにより、様々な外来タンパク質遺伝子を簡単にクローニングすることのできる表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8を提供する。
【0054】
本発明は、ポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質の複合体の中で細胞外膜タンパク質の複合体であるpgsAからなり、pgsAのC末端にEGFPタンパク質のN末端を連結することにより、EGFPタンパク質を融合タンパク質の形でグラム陽性菌の表面に発現し得る表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8を提供する。
【0055】
特に、一実施例によれば、バチルス・サブティリス清麹醤(チョングッチャン)(Bacillus subtilis var.Chungkookjang、KCTC 0697BP)からポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質遺伝子pgsAが得られたが、ポリ-γ-グルタミン酸を生産するすべてのバチルス属菌株からpgsAを得てベクターを製造したり、外来タンパク質を表面発現させたりすることもまた、本発明の範囲に含まれる。例えば、バチルス・サブティリス清麹醤に存在するpgsA遺伝子の塩基配列と80%以上の相同性を有する他の菌株由来のpgsA遺伝子を用いてベクターを製造したり、外来タンパク質を表面発現させたりすることもまた、本発明の範囲に含まれる。
【0056】
本発明の他の一実施例によれば、タンパク質が大腸菌細胞の表面で効率的に発現されるかどうかを調べるために、強化緑色蛍光タンパク質(enhanced Green fluorescent protein、EGFP)をモデルタンパク質として選択して確認した。「EGFP(enhanced green fluorescent protein)遺伝子」は、生体内で緑色光を発することにより、当該タンパク質を発現している細胞を観察しやすくする遺伝子であり、蛍光顕微鏡で観察できるという利点がある。GFPは、クラゲ(jellyfish)(Aequorea Victoria:オワンクラゲ)に由来する緑蛍光タンパク質であり、さまざまな研究分野で遺伝子発現の重要なマーカーとして使用されている。EGFPは、GFPの突然変異体であり、元のGFPの64位のフェニルアラニン(Phenylalanine)のアミノ酸配列がロイシン(Leucine)で置換され、65位のセリン(Serine)のアミノ酸配列がスレオニン(Threonine)で置換されることにより、元のGFPよりも強い蛍光シグナルを発するという利点がある。
【0057】
本発明者らは、前記作製された組換えベクターpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8にEGFP遺伝子を挿入して表面発現ベクターを作製し、これを用いてラクトバチルス・カゼイを形質転換した後、培養して発現を誘導し、一定量の培養液を採取してタンパク質を得た。得られた前記タンパク質をSDS-PAGEで分析し、抗EGFP抗体を用いてウエスタンブログティング(western blotting)を行った。その結果、前記作製された組換えベクターpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8にタンパク質EGFPが正常に挿入され、細胞表面に発現していることが確認された。
【0058】
また、前記実施例では、EGFPタンパク質を外来タンパク質として使用したが、他の酵素、抗原、抗体、付着タンパク質または吸着タンパク質などのいかなるタンパク質も外来タンパク質として使用することができる。
【0059】
また、下記実施例では、グラム陽性菌に適用される表面発現ベクターを製造し、宿主細胞としてラクトバチルス・カゼイを使用したが、ラクトバチルス・カゼイ以外のいかなるグラム陽性菌を宿主細胞として使用することができ、グラム陽性菌以外のいかなるグラム陰性菌およびその他の細菌に形質転換することも、当業者には自明であろう。
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、ひたすら本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の要旨により本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないということは、当業界で通常の知識を有する者にとって自明であるであろう。
【0061】
実施例1:表面発現ベクターpKV-Pald-pgsA-EGFPの製造
前記EGFP発現ベクターを製造するために、pKV-Pald-PgsA-E7(韓国登録特許第10-1471043号参照)から製造された表面発現ベクターを使用してPgsAのC末端にEGFPタンパク質をコードする遺伝子を挿入することにより、乳酸菌で表面発現できるベクターpKV-Pald-PgsA-EGFPを得た。
【0062】
まず、pgsAと融合したHPV16E7遺伝子をpKV-Pald-PgsA-E7ベクターから除去し、EGFPをコードする遺伝子を挿入した。合成EGFP遺伝子断片を鋳型とし、配列番号1および配列番号2のプライマーを用いてPCRにより取得した。
【0063】
配列番号1:
5’-TGGTGGATCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’
5’-TGACTCTAGAACTAGTGTCGACGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCC-3’
【0064】
その結果、EGFP遺伝子を含む755bpの切片が得られた。前記切片の5’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれ、前記切片の3’末端にはXbaI制限酵素部位が含まれている。得られたDNA切片をBamHIおよびXbaI制限酵素で処理して切断して741bp切片を得た。
【0065】
pKV-Pald-PgsA-E7をBamHIおよびXbaIで切断し、HPV16 E7遺伝子部分を除去してベクター部分を得た。
【0066】
BamHIおよびXbaIで切断したE7遺伝子を含有しているDNA断片を、同じ制限酵素で切断したベクターと連結してpKV-Pald-PgsA-EGFPを完成させた(図1)。
【0067】
実施例2:表面発現ベクターPgsAモチーフの改良
本実施例では、実施例1で製造された表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を使用して、乳酸菌宿主においてより安定して高い発現率を示すことができるように、PgsAの遺伝子を断片化する改良を行った。
【0068】
まず、PgsA断片のうちの1-60a.a、1-70a.a、1-80a.a、1-100a.a、1-188a.aを含むPgsA断片を得るために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型とし、以下のプライマーを用いてPCRを行った。
【0069】
PgsAモチーフ1-60a.a
配列番号3:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号4:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
【0070】
PgsAモチーフ1-70a.a
配列番号5:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号6:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
【0071】
PgsAモチーフ1-80a.a
配列番号7:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号8:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTTTTTGCTCCGTTACTTTTTCAACA-3’
【0072】
PgsAモチーフ1-100a.a
配列番号9:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号10:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
【0073】
PgsAモチーフ1-188a.a
配列番号11:
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号12:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCGACTTTCTGGTACGAAATTTTCTTT-3’
【0074】
その結果、アルドラーゼプロモーターを含み、それぞれのPgsAモチーフ断片を含むDNA切片が得られた。前記切片の5’末端にはSphI制限酵素部位が含まれ、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。得られたDNA切片をSphIおよびBamHIで処理して切片を得た。また、それぞれのPgsA1~PgsA5モチーフ断片は以下のような塩基配列を有することが確認された。
【0075】
PgsA 1-60a.a断片配列(PgsA1)
配列番号13:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
【0076】
PgsA 1-70a.a断片配列(PgsA2)
配列番号14:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
【0077】
PgsA 1-80a.a断片配列(PgsA3)
配列番号15:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAA-3’
【0078】
PgsA 1-100a.a断片配列(PgsA4)
配列番号16:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCA-3’
【0079】
PgsA 1-188a.a断片配列(PgsA5)
配列番号17:
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCAGGAAACTTTGAAAACCCGGTAACCTATCAAAAGAATTATAAACAAGCAGATAAAGAGATTCATCTGCAGACGAATAAGGAATCAGTGAAAGTCTTGAAGGATATGAATTTCACGGTTCTCAACAGCGCCAACAACCACGCAATGGATTACGGCGTTCAGGGCATGAAAGATACGCTTGGAGAATTTGCGAAGCAAAACCTTGATATCGTTGGAGCGGGATACAGCTTAAGTGATGCGAAAAAGAAAATTTCGTACCAGAAAGTC-3’
【0080】
前記pKV-Pald-PgsA-EGFPをSphIおよびBamHIで切断し、アルドラーゼプロモーターとPgsA遺伝子部分を除去したベクター部分を取得した。
【0081】
SphIおよびBamHIで切断したアルドラーゼプロモーターを含み、それぞれのPgsAモチーフ遺伝子断片を含有しているDNA断片を、同じ制限酵素で切断したベクターと連結することにより、改良されたベクターを完成させた(図2図6)。
【0082】
一方、PgsA断片のうちの25-60a.a、25-70a.a、25-100a.aを含むPgsA断片を得るために、表面発現ベクター(pKV-Pald-PgsA-EGFP)を鋳型とし、以下のプライマーを用いてPCRを行った。
【0083】
PgsAモチーフ25-60a.a
配列番号18:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号19:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
【0084】
PgsAモチーフ25-70a.a
配列番号20:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号21:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
【0085】
PgsAモチーフ25-100a.a
配列番号22:
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号23:
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
【0086】
その結果、それぞれのPgsAモチーフ断片を含むDNA切片が得られた。前記切片の5’末端にはEcoRV制限酵素部位が含まれ、前記切片の3’末端にはBamHI制限酵素部位が含まれている。得られたDNA切片をEcoRVおよびBamHIで処理して切片を得た。また、それぞれのPgsAモチーフ断片は以下のような塩基配列を有することが確認された。
【0087】
PgsA 25-60a.a断片配列(PgsA6)
配列番号24:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
【0088】
PgsA 25-70a.a断片配列(PgsA7)
配列番号25:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
【0089】
PgsA 25-100a.a断片配列(PgsA8)
配列番号26:
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATG-3’
【0090】
pKV-Pald-PgsA-EGFPをEcoRVおよびBamHIで切断し、PgsA遺伝子部分を除去したベクター部分を得た。
【0091】
EcoRVおよびBamHIで切断したそれぞれのPgsAモチーフ遺伝子断片を含有しているDNA断片を、同じ制限酵素で切断したベクターと連結することにより、改良されたベクターを完成させた(図7図9)。
【0092】
実施例3:PgsAモチーフ改良表面発現ベクター形質転換体の発現の確認
本実施例では、実施例2で製作されたPgsAモチーフ改良表面発現ベクターでラクトバチルス・カゼイを形質転換し、前記形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイを培養して、EGFPタンパク質の発現を確認した。形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおいて、改良された断片pgsA1~pgsA8のうちのいずれか一つと融合したEGFPタンパク質が発現したかどうかを調べた。
【0093】
PgsAモチーフ断片表面発現ベクターで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイを、MRS培地(ラクトバチルスMRS、ベクトンディッキンソン・アンド・カンパニー、スパークス、米国)で30℃にて静置培養して、ポリ-γ-グルタミン酸を合成する遺伝子断片pgsA1~pgsA8のうちのいずれか一つのC末端と融合したEGFPタンパク質の表面発現を誘導した。
【0094】
前記培養されたラクトバチルス・カゼイの全細胞に対して、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動およびEGFPに対する特異抗体を使用したウエスタンブロットを行い、前記融合タンパク質の発現を確認した。
【0095】
具体的には、発現が誘導された、形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイの全細胞を、同じ細胞濃度で得られたタンパク質で変性(denature、ディネイチャー)させて試料を準備し、これをSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した後、分画されたタンパク質をPVDFメンブレン(polyvinylidene difluoride membranes、ポリフッ化ビニリデンメンブレン、バイオラッド社製)に転写した。タンパク質が転写されたPVDFメンブレンを、ブロッキング緩衝液(50mMトリス塩酸、5%スキムミルク(skim milk)、pH8.0)で1時間振とうすることでブロッキングした後、EGFPに対するウサギ由来のポリクローン1次抗体をブロッキング緩衝液に1000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝液で洗浄し、ウサギに対するHRP結合2次抗体をブロッキング緩衝液に10000倍希釈して1時間反応させた。反応が終わったメンブレンは緩衝溶液で洗浄し、洗浄されたメンブレンに基質(lumigen PS-3 acridan、H22)を加えて約2分間発色させ、CCDカメラでEGFPに対する特異抗体と前記融合タンパク質との間の特異的な結合を確認した(図10)。
【0096】
図10は、本発明との比較のための対照群として設定された、改良されていないpgsAが挿入されたpKV-Pald-pgsA組換え発現ベクターで形質転換されたラクトバチルス・カゼイにおける発現パターン(レーン6及びレーン11)、および、本発明による、改良されたpgsA1乃至pgsA8が挿入されたpKV-Pald-pgsA1乃至pKV-Pald-pgsA8組換え発現ベクターで形質転換されたラクトバチルス・カゼイにおける発現パターン(レーン1乃至レーン5およびレーン7乃至レーン10)を示す。
【0097】
具体的には、図10において、レーン(lane)1は、PgsAモチーフ1-60a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン2は、PgsAモチーフ1-70a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン3は、PgsAモチーフ1-80a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン4は、PgsAモチーフ1-100a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン5は、PgsAモチーフ1-188a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示す。また、レーン6は、pKV-Pald-PgsA-EGFPで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるタンパク質の発現を示す。
【0098】
また、図10において、レーン7は、PgsAモチーフ25-60a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン8は、PgsAモチーフ25-70a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン9は、PgsAモチーフ25-100a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示し、レーン10は、PgsAモチーフ1-188a.aで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるEGFPの発現を示す。また、レーン11は、pKV-Pald-PgsA-EGFPで形質転換された組換えラクトバチルス・カゼイにおけるタンパク質の発現を示す。
【0099】
改良されたPgsAモチーフ断片を含む表面発現ベクターによるEGFP融合タンパク質の発現は、改良されていないpKV-Pald-pgsA-EGFP表面発現ベクターによるEGFP融合タンパク質の発現よりも強いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、バチルス属菌株由来のポリ-γ-グルタミン酸の合成に関与する細胞外膜タンパク質(pgsA)を用いて、外来タンパク質を微生物の表面に効果的に発現させる新しいベクターに関するもので、本発明に従った、目的タンパク質の表面発現ベクターは、目的タンパク質を安定に発現させることができ、本発明に係る表面発現ベクターは、目的タンパク質を恒常的に発現させながら、同時に、組換え微生物に表面発現させ必要とするワクチンの製造のための抗原制作などに有用であることがありますので、 、産業上の利用可能性が認められることがある。
【0101】
配列番号1
5’-TGGTGGATCCGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTG-3’
配列番号2
5’-TGACTCTAGAACTAGTGTCGACGGTACCTTACTTGTACAGCTCGTCC-3’
配列番号3
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT -3’
配列番号4
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
配列番号5
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号6
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
配列番号7
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号8
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTTTTTGCTCCGTTACTTTTTCAACA-3’
配列番号9
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号10
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
配列番号11
5’-TCGAGCATGCAATACCCACTTATTGCGATTTGCT-3’
配列番号12
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCGACTTTCTGGTACGAAATTTTCTTT-3’
配列番号13
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
配列番号14
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
配列番号15
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAA-3’
配列番号16
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCA-3’
配列番号17
5’-ATGAAAAAAGAACTGAGCTTTCATGAAAAGCTGCTAAAGCTGACAAAACAGCAAAAAAAGAAAACCAATAAGCACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCAGGAAACTTTGAAAACCCGGTAACCTATCAAAAGAATTATAAACAAGCAGATAAAGAGATTCATCTGCAGACGAATAAGGAATCAGTGAAAGTCTTGAAGGATATGAATTTCACGGTTCTCAACAGCGCCAACAACCACGCAATGGATTACGGCGTTCAGGGCATGAAAGATACGCTTGGAGAATTTGCGAAGCAAAACCTTGATATCGTTGGAGCGGGATACAGCTTAAGTGATGCGAAAAAGAAAATTTCGTACCAGAAAGTC-3’
配列番号18
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号19
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGAGAGTACGTCGTCAGAATACGTT-3’
配列番号20
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号21
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTCCCATCATAATATCGCCTACAAAT-3’
配列番号22
5’-CGCTGGATATCTACATGCACGTATTTATTGCCATTCCG-3’
配列番号23
5’-TACGGGATCCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCAGAACCACCTGCTACATAATCCGAGGCTCTAAAG-3’
配列番号24
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCA-3’
配列番号25
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGA-3’
配列番号26
5’-CACGTATTTATTGCCATTCCGATCGTTTTTGTCCTTATGTTCGCTTTCATGTGGGCGGGAAAAGCGGAAACGCCGAAGGTCAAAACGTATTCTGACGACGTACTCTCAGCCTCATTTGTAGGCGATATTATGATGGGACGCTATGTTGAAAAAGTAACGGAGCAAAAAGGGGCAGACAGTATTTTTCAATATGTTGAACCGATCTTTAGAGCCTCGGATTATGTAGCA-3’
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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