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特許7116813特に計時器のための、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスを製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】特に計時器のための、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20220803BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20220803BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
B81C1/00
B81B3/00
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021008411
(22)【出願日】2021-01-22
(65)【公開番号】P2021128150
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】20156902.7
(32)【優先日】2020-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス-ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ピエール・キュザン
(72)【発明者】
【氏名】アレクス・ガンデルマン
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-84577(JP,A)
【文献】国際公開第2019/166922(WO,A1)
【文献】特開2020-16646(JP,A)
【文献】国際公開第2014/023584(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 17/06
B81C 1/00
B81B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器のための、フレキシブルなブレード(2、3)を備える一体化されたケイ素デバイス(1)を製造する方法(20)であって、
前記ケイ素デバイス(1)は、例えば、交差ブレードを備えるピボットであり、
当該方法は、SOIタイプのウェハーから一体化されたケイ素デバイス(1)のブランクを形成するステップ(21)を備え、
前記ケイ素デバイス(1)は、2つのフレキシブルなブレード(2、3)を備え、
前記ブレード(2、3)はそれぞれ、前記SOIウェハーの異なる層にて形成され、
前記ブレード(2、3)は、2つの異なる実質的に平行な平面内に配置され、
前記ブレード(2、3)の間に間隙(7)があり、
当該方法は、さらに、前記間隙(7)の境界を形成する少なくとも1つの前記ブレード(2、3)の面上に、一又は複数の前記ブレード(2、3)の第1のケイ素サブ層によって形成される第1の酸化ケイ素層(15)を成長させるステップ(23)と、及び
2つの前記ブレード(2、3)の間の前記間隙(7)を大きくするように前記第1の酸化ケイ素層(15)を除去するステップ(24)と
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
当該方法は、さらに、前記間隙(7)の境界を形成するブレード(2、3)の少なくとも1つの面上に、一又は複数の前記ブレード(2、3)のケイ素の第2のサブ層によって形成される第2の酸化ケイ素層(17)を成長させるステップ(25)と、及び
2つの前記ブレード(2、3)の間の間隙をさらに大きくするように前記第2の酸化ケイ素層(17)を除去ステップと
を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一連の酸化ケイ素層(15、17)を成長させるステップ(23、25)と、酸化ケイ素層(15、17)を除去するステップ(24、26)を複数回繰り返して、所望の厚み(D)に到達するように2つの前記ブレード(2、3)の間の前記間隙(7)を大きくする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ケイ素デバイス(1)のブランクは、交差箇所(4)において結合(8)によって結合する交差ブレード(2、3)を備え、
前記結合(8)は、少なくとも部分的に酸化ケイ素によって作られており、
当該方法は、さらに、前記ブレード(2、3)の間の前記間隙(7)を形成することによって前記ブレード(2、3)どうしを分離するように、前記ブレード(2、3)の間の結合(8)から酸化ケイ素を除去するステップ(22)を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各酸化ケイ素層(13、14、15、17)は、気相においてフッ化水素を用いるエッチングによって除去される
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
酸化ケイ素は、ケイ素の湿式又は乾式の熱酸化によって成長させる(23、25)
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ケイ素デバイス(1)のブランクは、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)によって作る
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸化ケイ素層(15、17)の成長(23、25)及び除去(22、24)はそれぞれ、厚みが少なくとも0.10μmである、ケイ素のサブ層をブレード(2、3)から除去することを可能にする
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
当該方法は、さらに、前記ケイ素デバイス(1)上に追加の酸化物層を成長させる追加のステップ(27)を備え、これによって、温度に応じて前記ケイ素デバイスの剛性を熱的に調整する
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
当該方法は、前記ピボット(1)の初期剛性を判断し、前記ピボット(1)の寸法構成を計算するステップ(28)を備え、これによって、所望の最終剛性のケイ素デバイス(1)を得る
ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
当該方法は、さらに、導電層を堆積させる追加のステップを備える
ことを特徴とする請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ケイ素デバイス(1)のブランクを形成するステップ(21)は、
第1のケイ素層(11)、酸化ケイ素製のボンディング層(13)、及び第2のケイ素層(12)を順次的に含むSOIウェハー(10)を用意するサブステップと、
前記ウェハー(10)の面上に酸化ケイ素層(14)を成長させるサブステップと、
前記ウェハー(10)の第1の側にて前記酸化ケイ素層(14)をマスクを通してエッチングするサブステップと、
フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイス(1)の少なくとも第1のブレード(2)を形成するように深掘り反応性イオンエッチングプロセスを行うサブステップと、
あらかじめ形成された第2のマスクを通して前記ウェハー(10)の第2の側にて前記酸化ケイ素層(14)をエッチングするサブステップと、及び
フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイス(1)の少なくとも第2のブレード(3)を形成するように深掘り反応性イオンエッチングプロセスを行うサブステップと
を備えることを特徴とする請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
当該方法を使用した後に前記ブレード(2、3)の間にて得られる最小間隙(7)の厚み(D)は、10μmよりも大きい
ことを特徴とする請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
計時器のための、フレキシブルなブレードを備えるケイ素デバイス(1)であって、
前記ケイ素デバイスは、例えば、2つの交差ブレード(2、3)を備えるピボット、であり、
前記ケイ素デバイスは、一体化されており、請求項13に記載の方法を用いることによって得られ、
2つの前記ブレードの間には、安全間隙(7)があり、この安全間隙(7)の厚みは、10μmよりも大きい
ことを特徴とするケイ素デバイス(1)。
【請求項15】
請求項14に記載のケイ素デバイスを備える
ことを特徴とする計時器用ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に計時器のための、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスを製造する方法に関する。このケイ素デバイスは、例えば、既知の慣性バランスと連係して所定の周波数を有する共振器を形成する補償器として用いられる交差ブレードを備えるピボットである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルなブレードに基づく発振器は、ケイ素によって作られていることが非常に多く、したがって、微細加工(DRIE)に関するこのケイ素の材料の優れた性能レベルの恩恵を享受している。これらの発振器の特定のカテゴリーとして、いわゆる「交差ブレード」を備えるピボットがあり、これにおいては、実質的に平行な2つの平面の2つの別々の層内に2つのブレードが形成されており、これらのブレードは互いに交差する。これらのピボットは、発振機構のバランスやエスケープ機構のパレットレバーのような要素を回転可能に振動させることを可能にする。
【0003】
このようなピボットをいくつかの異なる方法で製造することができる。第1の方法は、2つのブレードを別々に作り、ブレードの間に間隙を残しつつ2つのブレードを一緒に組み付けることを伴う。このような方法は、ブレードの間の間隙を十分に大きくしてブレードどうしのノックを防ぐことを可能にする。しかし、ブレードどうしの構成は必ずしも精密ではなく、このことによって、クロノメトリーに関わるピボットの性能レベルが低下してしまう。
【0004】
第2の方法は、SOIタイプのケイ素ウェハーの2つの層を機械加工することによって、一体化されたピボットを作ることを伴う。この方法は、ブレードを互いに対して構成することには非常に効果的であるが、ブレードの間に十分に大きい安全間隙を設けて、ピボットの動作中にブレードどうしのノックを防ぐことはできない。特に、間隙は、SOIウェハーの2つの層を結合する酸化物の厚みに依存し、この酸化物の厚みは、必要な安全間隙よりもはるかに小さい厚みしかない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ブレードの平面の間の安全間隙が、特にその厚みについて、十分に大きいような、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスを製造する方法を提案することによって、上述の課題の全部又は一部を克服することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このために、本発明は、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイス、特に、交差ブレードを備えるピボット、を製造する方法に関する。この方法は、SOIタイプのウェハーから一体化されたケイ素デバイスのブランクを形成するステップを備え、前記ケイ素デバイスは、2つのフレキシブルなブレードを備え、前記ブレードはそれぞれ、前記SOIウェハーの異なる層にて形成され、前記ブレードは、2つの異なる実質的に平行な平面内に配置され、前記ブレードの間に間隙がある。当該方法は、さらに、前記間隙の境界を形成する少なくとも1つの前記ブレードの面上に、一又は複数の前記ブレードの第1のケイ素サブ層によって形成される第1の酸化ケイ素層を成長させるステップと、及び2つの前記ブレードの間の前記間隙を大きくするように前記第1の酸化ケイ素層を除去するステップとを備える。
【0007】
このようにして、フレキシブルなブレードを備えるデバイスが得られ、これは、例えば、交差ブレードを備えるピボットであり、このデバイスの動作中にブレードが衝突することを防ぐようにブレードの間に十分な安全間隙があるものである。特に、ケイ素上に酸化ケイ素層を成長させる場合、ケイ素のサブ層自体が酸化されて、エッチングによって酸化ケイ素層が除去されると、ケイ素のサブ層が初期のケイ素の質量体から除去されたときに、初期のケイ素の質量体からケイ素のサブ層が除去される。したがって、最終的なケイ素の体積は、初期のケイ素の体積と比べて減少する。
【0008】
したがって、この効果によって、酸化ケイ素を成長させ、そして、酸化ケイ素層を除去する操作を繰り返すことによって、ブレードの間の間隙を大きくすることができる。酸化ケイ素層を除去するたびに、間隙が大きくなる。
【0009】
本発明の1つの特定の実施形態において、本方法は、さらに、前記間隙の境界を形成するブレードの少なくとも1つの面上に、一又は複数の前記ブレードのケイ素の第2のサブ層によって形成される第2の酸化ケイ素層を成長させるステップと、及び2つの前記ブレードの間の間隙をさらに大きくするように前記第2の酸化ケイ素層を除去ステップとを備える。
【0010】
本発明の1つの特定の実施形態において、一連の酸化ケイ素層を成長させるステップと、酸化ケイ素層を除去するステップを複数回繰り返して、所望の厚みに到達するように2つの前記ブレードの間の前記間隙を大きくする。
【0011】
本発明の1つの特定の実施形態において、前記ケイ素デバイスのブランクは、交差箇所において結合によって結合する交差ブレードを備え、前記結合は、少なくとも部分的に酸化ケイ素によって作られており、当該方法は、さらに、前記ブレードの間の前記間隙を形成することによって前記ブレードどうしを分離するように、前記ブレードの間の結合から酸化ケイ素を除去するステップを備える。
【0012】
本発明の1つの特定の実施形態において、各酸化ケイ素層は、気相においてフッ化水素を用いるエッチングによって除去される。
【0013】
本発明の1つの特定の実施形態において、酸化ケイ素は、ケイ素の湿式又は乾式の熱酸化によって成長させる。
【0014】
本発明の1つの特定の実施形態において、前記ケイ素デバイスのブランクは、深掘り反応性イオンエッチングによって作る。
【0015】
本発明の1つの特定の実施形態において、酸化ケイ素層の成長及び除去はそれぞれ、厚みが少なくとも0.10μmであり、好ましくは、厚みが少なくとも0.40μmである、ケイ素のサブ層をブレードから除去することを可能にする。
【0016】
本発明の1つの特定の実施形態において、当該方法は、さらに、前記ケイ素デバイス上に追加の酸化物層を成長させる追加のステップを備え、これによって、温度に応じて前記ケイ素デバイスの剛性を熱的に調整し、特に、バランスのピボットアセンブリーによって形成される発振器に対して温度補償し、かつ/又は前記ケイ素デバイスを補強する。
【0017】
本発明の1つの特定の実施形態において、本方法は、導電層を堆積させる追加のステップを備え、これによって、静電荷の蓄積又は水分吸収に関する問題を避ける。
【0018】
本発明の1つの特定の実施形態において、当該方法は、前記デバイスの初期剛性を判断し、前記デバイスの寸法構成を計算するステップを備え、これによって、所望の最終剛性のピボットを得る。
【0019】
本発明の1つの特定の実施形態において、前記ケイ素デバイスのブランクを形成するステップは、
第1のケイ素層、酸化ケイ素製のボンディング層、及び第2のケイ素層を順次的に含むSOIウェハーを用意するサブステップと、
前記ウェハーの面上に酸化ケイ素層を成長させるサブステップと、
前記ウェハーの第1の側にて前記酸化ケイ素層を、あらかじめ形成したマスクを通してエッチングするサブステップと、
フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスの少なくとも第1のブレードを形成するように深掘り反応性イオンエッチングプロセスを行うサブステップと、
好ましくは前記ウェハーの第1の側に形成されたパターンと整列させて、あらかじめ形成された第2のマスクを通して前記ウェハーの第2の側にて前記酸化ケイ素層をエッチングするサブステップと、及び
フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイスの少なくとも第2のブレードを形成するように深掘り反応性イオンエッチングプロセスを行うサブステップと
を備える。
【0020】
本発明の1つの特定の実施形態において、当該方法を使用した後に前記ブレードの間にて得られる最小間隙の厚みは、10μmよりも大きく、好ましくは、15μmよりも大きい。
【0021】
本発明は、さらに、特に計時器のための、ケイ素によって作られたフレキシブルなブレードを備えるケイ素デバイスに関し、前記ケイ素デバイスは、例えば、2つの交差ブレードを備えるピボットであり、前記ケイ素デバイスは、一体化されており、本発明に係る方法を用いることによって得られ、2つの前記ブレードの間には、安全間隙があり、この安全間隙の厚みは、10μmよりも大きく、好ましくは、15μmよりも大きい。
【0022】
本発明は、さらに、フレキシブルなブレードを備えるこのようなデバイスを備える計時器用ムーブメントに関する。
【0023】
添付の図面を参照しながら以下の説明を読むことによって、他の具体的な特徴及び利点を明確に理解することができるであろう。この説明は、大まかなガイドとして与えられるものであって、制限するためのガイドとして与えられるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る交差ブレードを備えるピボットについての上から見た図である。
図2】本発明に係る交差ブレードを備えるピボットの斜視図である。
図3】本発明に係る方法によって得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図4】本発明の交差ブレードを備える一体化されたフレキシブルなケイ素ピボットを製造する方法のいくつかの異なるステップを示しているブロック図である。
図5】ピボットを製造するために用いることができるウェハーの断面図である。
図6】本発明に係る方法の第1のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図7】本発明に係る方法の第2のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図8】本発明に係る方法の第3のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図9】本発明に係る方法の第4のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図10】本発明に係る方法の第5のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
図11】本発明に係る方法の第6のステップの後に得られた交差ブレードを備えるピボットの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、特に計時器のための、フレキシブルなブレードを備える一体化されたケイ素デバイス及びその製造方法に関し、このケイ素デバイスは、特に、図1~3に示しているような交差ブレード1を備えるピボットである。これによって、使用中にブレードどうしがノックすることを防ぐようにブレードの間の間隙が十分に大きい一体化されたピボットを得ることができる。
【0026】
このようなピボット1は、第1の要素5と第2の要素6、そして、2つの交差するブレード2、3を備え、これらの2つの交差するブレード2、3は、2つの要素5、6どうしを接続する。2つのブレード2、3は、各要素5、6に接続され、ピボット1は、一体化されるように作られる。第1の要素5は、例えば、ピボットを計時器用ムーブメントに固定するための支持体であり、第2の要素6は、回転する必要があるコンポーネントである。このようなコンポーネントは、例えば、計時器用ムーブメントのエスケープのパレットレバー、バランス、又はバランス支持体である。2つのブレード2、3は、2つの要素5、6の間における交差箇所4において交差する。フレキシブルなブレード2、3のおかげで、第2の要素6は、第1の要素5に対して仮想軸のまわりに動くことができる。したがって、第1の要素5は、計時器用ムーブメントに対して固定されており、第2の要素6は、周期的な往復運動を行う。ブレード2、3は、第2の要素6が一方向に動き、そして、他の方向に動くことを可能にするように横方向に曲がる。
【0027】
ブレード2、3は、フレキシブルなピボットの動作中、特に、スプリアスな変形があったときにも、ブレード2、3どうしがノックしないような最小の間隙7が間にある2つの平行な平面内に配置されている。
【0028】
このようなピボット1を製造するための材料、例えば、ケイ素ベースの材料、を使用することには、既存のエッチング法を用いて精密であることと、良好な機械的及び化学的性質を有すること、特に、磁場の影響がほとんどない又はまったくない性質を有すること、という利点がある。
【0029】
好ましくは、用いられるケイ素ベースの材料は、結晶配向にかかわらず単結晶ケイ素、結晶配向にかかわらずドープされた単結晶ケイ素、そして、アモルファスケイ素、多孔質ケイ素、多結晶ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、結晶配向にかかわらず水晶、又は酸化ケイ素であることができる。
【0030】
したがって、本発明は、図4に示しているように、特に計時器のための、ケイ素によって作られたフレキシブルな交差ブレード2、3を備えるピボット1を製造する方法20に関する。
【0031】
本方法20は、ケイ素製のピボットブランクを製造する第1のステップ21を備える。このステップ21は、図5に示しているように、第1の酸化ケイ素層13によって互いに結合する2つのケイ素層11及び12によって作られているSOIウェハー10を用意することを伴う。ケイ素層11、12は、単結晶ケイ素のプレートに形成される(その主配向は変わっていることができる)。各ケイ素層11、12は、交差ブレード2、3を備えるピボット1の異なるブレードを製造することを可能にする。したがって、ブレード2、3は、2つの異なるレベルに配置される。第1の酸化物層13は、2つのケイ素層11及び12を密に結合するように用いられる。また、第1の酸化物層13は、後の操作においてバリア層としても用いられる。
【0032】
複数のピボットブランクを同じウェハーにて形成することができる。
【0033】
その後に、一又は複数のウェハーを高温酸化雰囲気に曝すことによって、ケイ素層11、12の面上に第2の酸化ケイ素層14を成長させる。酸化ケイ素層14は、パターニングされるケイ素層11、12の厚みに応じて変わる。この厚みは、典型的には、1~4μmである。
【0034】
その後に、マスクを用いて後でケイ素ウェハー10にポジタイプのフォトレジストなどにて作られるパターンが定められる。このパターンには、ピボットの少なくとも1つのブレードがある。同じピボットの2つのブレードはそれぞれ、2つの別々のケイ素層11、12のうちの1つ上にて作られる。ブレードは1つずつ順に作られる。
【0035】
このステップ21においては、以下の操作を行う。
- スピン被覆などによって、フォトレジストを1~2μmの厚みを有する非常に薄い層にて堆積させる。
- 乾燥させた後に、フォトリソグラフィー的な性質を有するこのフォトレジストを、光源を用いて、フォトリソグラフィーマスク(クロム層で被覆され所望のパターンが表現されている光透過性のプレート)を通して露光する。
- 特定のポジタイプのフォトレジストを用いる場合、溶媒を用いてフォトレジストの露光領域を除去して、これによって、第1の酸化物層13を露出させる。この場合、依然としてフォトレジストによって被覆されている領域は、その後のケイ素深堀り反応性イオンエッチングプロセス(「DRIE」としても知られる)においてエッチングすべきでない領域を定める。
【0036】
このようにして、露出された領域、又は逆にフォトレジストで被覆された領域が、利用される。第1のエッチングプロセスは、前のステップにおいてフォトレジストにて定められたパターンをあらかじめ成長させた酸化ケイ素14に転写することを可能にする。また、製造プロセスの再現性の観点から、酸化ケイ素は、方向性があり、この操作のためのマスクとして用いられるフォトレジストの側壁の品質を再現するドライプラズマエッチングによってパターン化される。
【0037】
また、マスクは、ウェハー上で直接用いることができ、このマスクは、酸化ケイ素、窒化ケイ素又は金属マスクのようなハードマスクと呼ばれる。このようなマスクは、その使用中に、適切なパターンであらかじめパターン化されており、フォトレジストを含んでも含まなくてもよい。
【0038】
フォトレジストの開いた領域において酸化ケイ素がエッチングされると、第1の上層11のケイ素面が露出し、DRIEの準備が整う。フォトレジストをDRIE中にマスクとして用いるか否かに応じて、フォトレジストを保存することができ、保存しないことができる。
【0039】
酸化ケイ素によって保護されていない露光されたケイ素は、ウェハーの面に垂直な方向にエッチングされる(Bosch(登録商標)異方性DRIE)。初期にフォトレジスト中に形成され、そして、酸化ケイ素中に形成されるブレードパターンは、層11の厚みに「投影」される。
【0040】
エッチングによって、2つのケイ素層11及び12を結合する第1の酸化ケイ素層13が露出すると、エッチングを止める。特に、Bosch(登録商標)プロセスにおいてマスクとして作用し、かつ、エッチングプロセス自体に耐性がある酸化ケイ素の例に従うと、同じ性質の埋め込まれた酸化物層13も耐性がある。
【0041】
このようにして、第1のケイ素層11は、その厚み全体にわたって、製造されるピボットブランクの少なくとも第1のブレードを表す所定のパターンによってパターン化され、これはここでこのDRIEによって露出される。また、同じケイ素ベースの材料において化学的エッチングを用いることもできる。
【0042】
ブレードは、第2のケイ素層12に堅固に接続され続け、この第2のケイ素層12にブレードが第1の埋め込まれた酸化ケイ素層13によって結合する。
【0043】
第2のケイ素層12に対して同じフォトリソグラフィー操作を行って、交差ブレードを備えるピボットの他方のブレードを形成する。このために、ウェハー10を裏返し、フォトレジストをその上に堆積させ、そして、マスクを通して露光して、これによって、第1の層11と同様の形態で第2のケイ素層12をパターン化する。
【0044】
ウェハーをエッチングするために他の代替的実施形態も存在する。これは、当然、この方法に用いることができ、フォトレジストマスクを用いることができ、また、いわゆるハードマスクを用いることもできる。
【0045】
ピボット1の第1及び第2の要素5、6は、好ましくは、ウェハー10の各ケイ素層11、12上におけるブレード2、3の製造中にも形成される。
【0046】
この時点において、2つのブレード2、3は、ブレード2、3の交差箇所4において一緒に結合されて、結合8を形成する。この結合8は、第1及び第2のケイ素層11、12どうしを接続する酸化ケイ素層13からの酸化ケイ素を少なくとも部分的に含む。好ましくは、結合8全体が酸化ケイ素によって作られる。図6に、ピボット1のブランクを示している。ブレード2、3は、2つの異なる実質的に平行な平面内にて配置され、これらのブレード2、3は、結合8によって2つの平面の間にて結合される。
【0047】
この方法20の第2のステップ22は、ブレード2、3の結合8にて酸化ケイ素を除去して、ブレード2、3の間に間隙7を形成することによってブレード2、3を分離させることを伴う。したがって、酸化ケイ素層13は、気相においてフッ化水素を用いてエッチングされる。
【0048】
この結果、間隙7によって分離された2つのブレード2、3が得られ、これによって、ブレードどうしが互いに対して動くことが可能になる。得られた間隙7は、結合の酸化物層の厚み、したがって、ウェハーの酸化物層の厚み、に対応する厚みDを有する。
【0049】
しかし、この厚みは、ピボット1の動作中にブレード2、3どうしがノックするリスクを避けるためには十分に大きくない。特に、第1の酸化ケイ素層13は、ブレード2、3が十分離れて配置されるには薄すぎる。
【0050】
この方法20は、十分な厚みDの間隙7及び適切なブレード剛性を得るために必要な寸法構成に達するまでブレードから材料を除去するように設計されているシーケンスに続く。このために、ブレード2、3の厚みは、以下のいくつかのステップにおいて薄くされる。
【0051】
ブレード2、3の間の間隙7の厚みDを大きくするために、第3のステップ23は、間隙7の境界を形成するブレード2、3の面上に第1の酸化ケイ素層15を成長させることを伴う。第1の酸化ケイ素層15は、ピボット1を形成するケイ素のサブ層によって部分的に形成される。具体的には、ケイ素上に酸化ケイ素が成長するときには、酸化ケイ素が成長しているケイ素のサブ層自体が酸化される。したがって、酸化ケイ素は、成長の土台となるケイ素を犠牲にして成長する。すなわち、酸化ケイ素は、ケイ素上に成長するだけではなく、ケイ素内にても成長する。
【0052】
このような相は、例えば、熱酸化によって得ることができる。このような熱酸化プロセスは、例えば、水蒸気又は二酸素ガスを用いて酸化雰囲気中で800~1200℃の範囲で行うことができ、これによって、ブレード上に酸化ケイ素を形成する。このステップ23では、酸化ケイ素が均一に成長することを利用し、当業者であれば、得られる厚み及び酸化の速度を完全に制御することができ、したがって、酸化物層の均一性を確実にすることができる。
【0053】
第4のステップ24では、図9に示しているように、第1の酸化ケイ素層15を各ブレード2、3から除去してピボット1を得る。ケイ素のサブ層は酸化されているので、これも除去される。したがって、2つのブレード2、3の間の間隙7が大きくなる。このような除去プロセスは、化学的エッチングによって達成される。このような化学的エッチングは、例えば、酸化ケイ素を除去することを可能にする気相におけるフッ化水素酸ベースの溶液を用いて行うことができる。
【0054】
好ましくは、連続する酸化ケイ素層の成長ステップ及び酸化物層除去ステップの対を複数回繰り返す。したがって、2つのブレード2、3の間の間隙7の厚みDを所望の間隙の厚みに到達するように大きくすることができる。
【0055】
例えば、図10に示しているように、第5のステップ25は、間隙の両側におけるブレード2、3の面上に第2の酸化ケイ素層17を成長させることを伴い、この第2の酸化ケイ素層17は、ブレード2、3の第2のケイ素サブ層によって部分的に形成される。そして、第6のステップ26において、各ブレード2、3から第2の酸化ケイ素層17が除去され、2つのブレード2、3の間の間隙7をさらに大きくする。
【0056】
酸化ケイ素層の成長及び除去はそれぞれ、例えば、厚みが少なくとも0.10μmであり、好ましくは、厚みが0.40μmよりも大きい、ケイ素のサブ層を各ブレード2、3から除去することを可能にする。本方法の一連のステップの後のブレード2、3の間の間隙7の所望の最小厚みDは、例えば、10μmよりも大きく、好ましくは、15μmよりも大きい。それにもかかわらず、この厚みは、2つのケイ素層を結合させる初期の酸化物層の厚みに対応する値と、15μmよりも大きいことができるより高い値の間で自由に調整することができ、この高い値は、行われるべき操作の数によって制限される。
【0057】
開始時のウェハー10の酸化ケイ素層13は、例えば、厚みが2μmであり、これは、結合8を除去した後のウェハー2、3の間の初期間隙を定める。したがって、少なくとも10μmの間隙を得るために、一連の酸化ケイ素の成長ステップ及び除去ステップの複数の対が行われる。操作数を減らすために、厚いケイ素のサブ層が除去されるようにブレードの酸化時間を長くすることができる。好ましくは、開始時にて短い時間の成長ステップが行われ、その後に長くなる。
【0058】
この方法は、さらに、フレキシブルなブレードの初期剛性を判断するように設計されている追加のステップ27を備えることができ、これによって、特に、寸法構成を変え、特定の所望の物理的性質を得ることができるようにする。
【0059】
最後に、ピボット1が正しい寸法構成になると、ピボット1を再び酸化することを伴う随意的な別の追加のステップ28を行うことができ、これによって、ピボット1を二酸化ケイ素の層で被覆して、熱補償されたピボット1を形成し、かつ/又はピボットを補強することができる。発振器の場合、この最終の酸化によって、調整される将来のピボット1の機械的性能(剛性)と熱的性能(温度補償)の両方を調整することが可能になる。
【0060】
図示していない随意的な別の追加のステップでは、導電層がピボット上に堆積されて、静電荷の蓄積や水分吸収に関わる問題を避ける。このために、まず酸化物層をピボット1上に堆積させ、そして、PVDタイプのプロセスによって導電層を堆積させる。導電層は、例えば、クロム、ニッケル、銅、チタン、ジルコニウム、ニッケル-リン、又はチタン-タングステンを含有する。
【0061】
当然、本発明は、図示している例に限定されず、それに対して当業者であれば明らかであろう様々な代替形態及び変更が可能である。したがって、フレキシブルなブレードを備える他のタイプの一体化されたケイ素デバイスを製造することができ、このデバイスは、例えば、交差していないブレードを有し、かつ/又は回転運動ではなく並進運動を行うように意図されたブレードを備えることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ケイ素デバイス
2、3 フレキシブルなブレード
4 交差箇所
5 第1の要素
6 第2の要素
7 間隙
8 結合
10 ウェハー
11、12 ケイ素層
13、14、15、17 酸化ケイ素層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11