(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】転がり軸受の洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B08B 3/04 20060101AFI20220803BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20220803BHJP
F16L 19/00 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
B08B3/04 Z
F16C19/36
F16L19/00
(21)【出願番号】P 2021160678
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2020539861の分割
【原出願日】2020-02-27
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000132013
【氏名又は名称】株式会社ジャムコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武藤 顕
【審査官】渡邉 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-129497(JP,A)
【文献】特開平7-108230(JP,A)
【文献】特開平8-290130(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104368559(CN,A)
【文献】米国特許第10029288(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/00- 3/14
F16C19/00-19/56
F16C33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の転動体と、前記転動体を保持するケージと、前記転動体が転動するレースとを有する転がり軸受の洗浄装置であって、
前記ケージに全周にわたって当接するテーパ内周面を備えた中空円筒状のケースと、
前記レースの内側を遮蔽する閉鎖体と、
前記ケースの一端を遮蔽する蓋と、
前記ケースの内部空間において前記蓋と前記転がり軸受との間に貯留された洗浄液を加圧する加圧装置と、を有する、
ことを特徴とする転がり軸受の洗浄装置。
【請求項2】
前記閉鎖体は、前記レースに全周にわたって当接するテーパ外周面を有し、回転駆動される、
ことを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受の洗浄装置。
【請求項3】
洗浄液を貯留する洗浄液パンと、
前記洗浄液パンの外部に配置されたアクチュエータと、
前記洗浄液パンの内部に配置され、前記閉鎖体を軸線方向に移動させる昇降機構と、
前記アクチュエータの駆動力を前記昇降機構に伝達する非接触式カップリングと、を有する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の転がり軸受の洗浄装置。
【請求項4】
前記昇降機構は、前記アクチュエータの駆動力により回転する回転ユニットと、前記回転ユニットの回転運動を直進運動に変換して直進する直進筒と、を有し、
前記回転ユニットは、駆動筒と、従動筒と、制限装置と、を有し、
前記制限装置は、前記従動筒の負荷が所定値以下であるときは、前記駆動筒から前記従動筒へと駆動力を伝達し、前記従動筒の負荷が所定値を超えたときは、前記駆動筒から前記従動筒への駆動力の伝達を遮断する、
ことを特徴とする請求項3に記載の転がり軸受の洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機において、車輪を回転可能に支持するために転がり軸受が設けられている。一般的な転がり軸受は、ローラーやボールなどの複数の転動体と、転動体を保持するケージと、転動体が転動するレースとを有する。また、転動体とレースの摩耗を抑制するために、転がり軸受にはグリースなどの潤滑油が付与されている。
【0003】
航空機では、定期的なメンテナンスが要求される。メンテナンスの際には車輪を支持する部品を分解し、各部品の検査が行われる。このとき、転がり軸受も検査されるが、グリースが付着していると検査の妨げとなる。そこで、分解した転がり軸受を検査前に洗浄することが行われる。
【0004】
しかしながら、例えば航空機の転がり軸受は、使用温度範囲が-50℃以下の低温域から+150℃以上の高温域までと広範囲にわたるため、増ちょう剤を調整した特殊なグリースを用いている。そして、このようなグリースは一般的な洗浄液をスプレーしただけでは容易に除去することができないという問題がある。
【0005】
これに対し特許文献1には、スパイラル溝を有する円筒型回転駒を洗浄液供給流路に介在させ、洗浄液の供給により円筒型回転駒を回転させ、円筒型回転駒から被洗浄軸受に高圧の洗浄液を供給することで、転がり軸受の洗浄を行う洗浄方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の洗浄方法を用いても、転動体とレースとの狭い隙間に侵入したグリースなどを落とすことができないおそれがある。また、特許文献1の洗浄方法によれば、洗浄液が主として両レース間に供給されるため、転がり軸受の外表面の汚れが残りやすいという問題もある。そのため、転がり軸受の洗浄の際には、作業者が手作業で転動体を転動させながら洗浄を行わなくてはならず、洗浄に手間がかかっている。
【0008】
そこで本発明は、短時間で容易に転がり軸受の洗浄が可能な転がり軸受の洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による転がり軸受の洗浄装置は、複数の転動体と、前記転動体を保持するケージと、前記転動体が転動するレースとを有する転がり軸受の洗浄装置であって、
前記ケージに全周にわたって当接するテーパ内周面を備えた中空円筒状のケースと、
前記レースの内側を遮蔽する閉鎖体と、
前記ケースの一端を遮蔽する蓋と、
前記ケースの内部空間において前記蓋と前記転がり軸受との間に貯留された洗浄液を加圧する加圧装置と、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、短時間で容易に転がり軸受の洗浄が可能な転がり軸受の洗浄装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置の主要部を分解して示す斜視図である。
【
図3】
図3は、テーパーローラー軸受のテーパーローラーの周辺断面を示す模式図である。
【
図4】
図4は、第1の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受の部分断面図である。
【
図5】
図5は、第2の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受の部分断面図である。
【
図6】
図6は、第3の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受の部分断面図である。
【
図7】
図7は、第4の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受の部分断面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の洗浄装置を、玉軸受の洗浄に用いた例を示す断面図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置の概略構成図である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態にかかる洗浄装置の駆動機構の断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置の概略構成図である。
図2は、本実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置の主要部を分解して示す斜視図である。本明細書においては、説明を簡略化するために、
図1の上方を「装置の上方」とし、
図1の下方を「装置の下方」とするが、洗浄装置10は重力方向にかかわらず使用することができる。
【0013】
転がり軸受の洗浄装置10は、中空円筒状のケース11と、ケース11の上端を遮蔽する円板状の蓋12と、ケース11の下端中央に配置される円錐状のプラグ(閉鎖体)13と、を有する。ケース11、蓋12は、アクリルなどの透明な樹脂素材から形成されると、洗浄の状態を外部から観察できるので好ましい。なお、プラグ13は転がり軸受のインナーレースの内側を遮蔽できれば、ケージより小径の円板により構成してもよい。
【0014】
図に示すように、ケース11は、上方に向かうに従って拡径するテーパ内周面11aを有し、上下端が開放している。蓋12は、ケース11の外径とほぼ同径であり、中央に開口12aを有する。開口12aは円管12bに接続されており、円管12bは、外部の洗浄液供給装置(加圧装置)14に接続されている。洗浄液供給装置14は、所定の圧力で洗浄液を圧送可能となっている。
【0015】
不図示のボルト等により、ケース11の上端に対して蓋12が密封的に組み付けられる。その際、ケース11と蓋12の間にシールなどを介在させてもよい。ケース11と蓋12の組み付けの手法は、ボルト締結に限らず、ねじ係合であってもよい。
【0016】
プラグ13は、下方に向かうに従って拡径するテーパ外周面13aを有し、その下端に駆動軸15の上端を連結してなる。駆動軸15の下端は、駆動軸15を回転駆動するアクチュエータ16に連結されている。プラグ13、駆動軸15、およびアクチュエータ16は、不図示の昇降機構により上下移動可能となっている。なお、昇降機構については、後述する第2の実施形態で用いるものを好適に使用できる。
【0017】
洗浄装置10の下方には、落下した洗浄液を受け止める洗浄液パン17が配置されている。洗浄液パン17で受け止められた洗浄液は、フィルター17aでグリース等の異物を濾過されたのち、別途貯留されて再利用することとしてもよい。
【0018】
洗浄液としては、石油系の液体に比べて低コストであるアルカリ性水溶液を好ましく用いることができるが、それに限られず、例えば水道水などを用いてもよい。
【0019】
洗浄装置10により洗浄可能な転がり軸受として、ここではテーパーローラー軸受20を説明する。テーパーローラー軸受20は、不図示のアウターレースと、インナーレース21と、レース間で転動する複数のテーパーローラー22と、各テーパーローラー22を保持する矩形状の開口23aを備えたケージ23とを有する。テーパーローラー軸受20のアウターレースは、容易に分解して洗浄できるものであるため、ここでは示さない。
【0020】
次に、転がり軸受の洗浄装置10を用いた洗浄方法について説明する。まず、蓋12を取り外した状態で、不図示の昇降機構を用いて、プラグ13、駆動軸15、およびアクチュエータ16を上方へと移動させる。次いで、ケース11の開放した上方よりテーパーローラー軸受20を挿入し、インナーレース21をプラグ13のテーパ外周面13aに載置する。これにより、インナーレース21の下端は、全周にわたってテーパ外周面13aに当接し、インナーレース21の内側が遮蔽される。
【0021】
その後、昇降機構を用いて、プラグ13、駆動軸15、およびアクチュエータ16を下方へと移動させると、プラグ13により支持されたテーパーローラー軸受20も下方へ移動し、ケージ23の下端全周がケース11のテーパ内周面11aに当接するので、その時点で昇降機構を停止させる。かかる時点では、インナーレース21の下端も、全周にわたってテーパ外周面13aに当接したままである。
なお、昇降機構を用いず、作業者の手でテーパーローラー軸受20を把持し、ケージ23がテーパ内周面11aに当接し、かつ、インナーレース21がテーパ外周面13aに当接するように載置してもよい。
【0022】
本実施形態によれば、洗浄するテーパーローラー軸受20をケース11に固定する必要がないため、作業性に優れている。また、テーパーローラー軸受20の外径に応じて、ケージ23がテーパ内周面11aのいずれかの位置で当接し、同様に、テーパーローラー軸受20の内径に応じて、インナーレース21がテーパ外周面13aのいずれかに当接するため、種々の外径を持つテーパーローラー軸受20の洗浄に対応でき、汎用性が高い。
【0023】
その後、ケース11の上端に蓋12を締結し、洗浄液供給装置14から円管12bを介して、ケース11の内部へ洗浄液を供給する。ケース11の上端側は蓋12に密封されており、ケース11の下端側はテーパーローラー軸受20により塞がれているため、ケース11の内部には洗浄液を貯留した密閉空間SPが生じる。一方、テーパーローラー軸受20の下端側は、ケース11の下方を介して大気(所定の雰囲気)に露出している。
【0024】
このとき、密閉空間SP内で加圧された洗浄液により、テーパーローラー軸受20はケース11の下方に向かって付勢される。これによりケージ23がテーパ内周面11aに確実に当接し、インナーレース21がテーパ外周面13aに確実に当接するため、密閉空間SPの密閉度を高めることができる。
【0025】
洗浄液供給装置14から圧力を伝達することで、密閉空間SP内の洗浄液の圧力は高圧となる。この時の洗浄液の圧力は0.1MPa~0.5MPaであると好ましいが、テーパーローラー軸受20の汚れ具合に応じて任意に変更できる。かかる圧力は、テーパーローラー軸受20の隙間も含めて密閉空間SP全体に印加されることとなる。
【0026】
図3は、テーパーローラー軸受20のテーパーローラー22の周辺断面を示す模式図である。加圧された洗浄液を貯留する密閉空間SPは、ケージ23の径方向外方と、テーパーローラー22より上方であって、ケージ23とインナーレース21との間、およびインナーレース21の内側に形成される。
【0027】
インナーレース21の外周に形成されたレース溝21dは、テーパーローラー22の転動面22aが転動するレース面21aと、テーパーローラー22の上端面22bに対向する上側壁21bと、テーパーローラー22の下端面22cに対向する下側壁21cとを有し、それぞれ対向する両者間には隙間が存在する。ここで、テーパーローラー22の上端面22bと上側壁21bとの隙間を、上流側隙間(軸線方向の一方側の隙間)UCとし、テーパーローラー22の下端面22cと下側壁21cとの隙間を、下流側隙間(軸線方向の他方側の隙間)LCとする。
【0028】
図3から明らかであるが、上流側隙間UCは密閉空間SP内に貯留された洗浄液に接しており、下流側隙間LCは、大気に接している。したがって、たとえ上流側隙間UCと下流側隙間LC内及びその周囲にグリースが付着していた場合でも、上流側隙間UCには洗浄液の液圧が印加され、下流側隙間LCには大気圧が印加されることとなる。
【0029】
換言すれば、密閉空間SP内に貯留された洗浄液を、大気圧よりも高い圧力で加圧すると、上流側隙間UCの近傍における洗浄液の液圧は、下流側隙間LCの近傍における気圧よりも高くなる。この場合の「近傍」とは、上流側隙間UCと洗浄液、または下流側隙間LCと大気とがグリース等を介在させつつ間接的に接している場合を想定している。
【0030】
以上により、テーパーローラー軸受20の全周にわたって、上流側隙間UCと下流側隙間LCの間に圧力差が生じることとなる。さらに、上流側隙間UCと下流側隙間LCは、テーパーローラー22の転動面22aとレース面21aとの間を介して連通しているため、この圧力差に応じて、
図3に矢印Aで示すように洗浄液が隙間を通って勢いよく流れだすこととなる。
【0031】
従来の洗浄方法では、上流側隙間UC、下流側隙間LC、テーパーローラー22の転動面22aとレース面21aとの間などに詰まったグリースを洗い流すことは困難であった。これに対し本実施形態によれば、上流側隙間UCに加圧した洗浄液を供給することにより、付着したグリースを下流側隙間LC側へと押し出すことができる。
【0032】
このとき、アクチュエータ16を介して、プラグ13を比較的低速で軸線回りに回転させると、それと共にインナーレース21が回転することで、テーパーローラー22が転動し、それにより隠れていたグリースが露出されて洗浄液に洗い流されるため、洗浄効果が高まる。
【0033】
また、上記作用により、テーパーローラー22の上端面22bの近傍でありケージ23とインナーレース21の間(ケージ内側の上流領域R1)における洗浄液が、上流側隙間UCへと勢いよく押し出されるため、それに連れてケージ23の外側にある洗浄液が、
図3に矢印Bで示すように、上端面22bとケージ23の開口23aとの間の隙間を通って勢いよく内側へと流れだす。これにより、上端面22bと開口23aとの隙間及びその周囲に付着したグリースも洗い流すことができる。
【0034】
さらに、テーパーローラー22の下端面22cの近傍におけるケージ23の外側は密閉空間SP内の洗浄液に接し、下端面22cの近傍におけるケージ23の内側(ケージ内側の下流領域R2)は大気に接しているため、ケージ23の外側と内側との圧力差に応じて、
図3に矢印Cで示すように洗浄液が、下端面22cとケージ23の開口23aとの間の隙間を通って勢いよく流れだす。これにより、下端面22cと開口23aとの隙間及びその周囲に付着したグリースを洗い流すことができる。なお、テーパーローラー22の転動面22aとケージ23の開口23aとの隙間においても、ケージ23の外側と内側との圧力差に応じて同様に洗浄液が通過することで、洗浄効果を高めている。
【0035】
テーパーローラー軸受20の各隙間を通過し、グリースを含んで外部へと押し出された洗浄液は、
図1に矢印で示すように、下方にある洗浄液パン17に落下して収集され、その後フィルター17aで濾過されて再利用されることとなる。
【0036】
洗浄が終了したときは、不図示のバルブ等を切り替えることにより、円管12bをエア供給源(図示せず)に接続できる。エア供給源から圧送されたエアは、円管12bからテーパーローラー軸受20に吹き付けられる。エアによりテーパーローラー軸受20が乾燥した後、エア供給を停止して蓋12を取り外すことにより、テーパーローラー軸受20をケース11から取り出すことができる。この乾燥工程により、テーパーローラー軸受20の内部まで完全に乾燥可能であるため、洗浄後の液だれがなく、周囲を汚染することが回避される。なお、洗浄後、乾燥前において、円管12bを介してテーパーローラー軸受20全体に防錆剤を吹き付けるようにしてもよい。
【0037】
(比較例との比較)
以下、本実施形態の洗浄方法による効果を、本発明者が実施した比較例の洗浄方法と比較して説明する。
図4は、第1の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受20の部分断面図である。第1の比較例においては、テーパーローラー軸受20の上方、下方および側方(斜め側方を含む)より洗浄液をスプレー噴射した。
【0038】
この洗浄方法では、テーパーローラー22の上端面22bの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、テーパーローラー22の下端面22cの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、および転動面22aとレース面21aとの間にグリースGRが残存した。
【0039】
図5は、第2の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受20の部分断面図である。第2の比較例においては、テーパーローラー軸受20の上方より洗浄液を高圧スプレー噴射した。
【0040】
この洗浄方法では、洗浄液噴射に対向するテーパーローラー22の上端面22bの近傍におけるケージ23とインナーレース21のグリースGRは、第1の比較例よりも除去できたが、それでも一部は残存した。また、スプレー噴射の影となるテーパーローラー22の下端面22cの近傍におけるケージ23の内側及び外側、および転動面22aとレース面21aとの間に付着したグリースGRを洗浄できず、グリースGRが比較的多量に残存した。このため、第2の比較例による洗浄方法は、内部に付着したグリースGRの洗浄に適さないことがわかった。
【0041】
図6は、第3の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受20の部分断面図である。第3の比較例においては、テーパーローラー軸受20を長時間洗浄液に浸漬した。
【0042】
この洗浄方法では、テーパーローラー22の上端面22bの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、テーパーローラー22の下端面22cの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、および転動面22aとレース面21aとの間にグリースGRが残存した。このため第3の比較例による洗浄方法では、堆積したグリースGRを除去できないことがわかった。
【0043】
図7は、第4の比較例による洗浄方法を実行した後のテーパーローラー軸受20の部分断面図である。第4の比較例においては、テーパーローラー軸受20の上方より高圧エアを吹き付けた。
【0044】
この洗浄方法では、テーパーローラー22の上端面22bの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、テーパーローラー22の下端面22cの近傍におけるケージ23とインナーレース21の間、および転動面22aとレース面21aとの間にグリースGRが残存した。したがって、高圧エアを用いるよりも洗浄液を用いた洗浄の方が、効果があることがわかった。
【0045】
その他、テーパーローラー軸受20を高速回転させて、遠心力によりグリースを分離する方法、グリースを加熱し滴下させて分離する方法、減圧空間にテーパーローラー軸受20を収容して、グリースを気化させて分離する方法などを試みたが、いずれの方法でもテーパーローラー軸受20の内部に付着したグリースを有効に排除することはできなかった。
【0046】
これに対し上述した本実施形態によれば、テーパーローラー軸受20の内部に付着したグリースを短時間(例えば10分程度)で容易に洗浄することができ、いずれの比較例よりも洗浄効果に優れており、しかもテーパーローラー軸受20の仕様(内外径や幅等)にかかわらず洗浄を行えることが判明した。
【0047】
(他の適用例)
図8は、本実施形態の洗浄装置10を、玉軸受30の洗浄に用いた例を示す断面図である。玉軸受30は、アウターレース31と、インナーレース32と、レース31,32間に配置された複数のボール33とを有する。
【0048】
本実施形態では、テーパーローラー軸受20のアウターレース31の下端外周を、ケース11のテーパ内周面11aに当接させる。それ以外の構成については、上述した実施の形態と同様であるため、各部に同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0049】
本実施形態によれば、レース31,32とボール33との上流側の隙間は密閉空間SP内に貯留された洗浄液に接しており、レース31,32とボール33との下流側の隙間は、大気に接している。このため、密閉空間SP内に貯留された洗浄液を大気圧よりも高い圧力で加圧すると、テーパーローラー軸受20の全周にわたって、ボール33の上下で圧力差が生じ、この圧力差に応じて、ボール33の上方にある洗浄液がレース31,32とボール33との隙間を通って勢いよく流れだし、グリースを洗浄できる。
【0050】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態にかかる転がり軸受の洗浄装置10’の概略構成図である。
図10は、第2の実施形態にかかる洗浄装置10’の駆動機構40の断面斜視図である。駆動機構40は、
図1、8の洗浄装置10に共通して用いることができる。なお、ケース11、蓋12、プラグ13は、上述した実施の形態と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
駆動機構40は、アクチュエータ(モータ)16に連結される第1の磁気カップリング41と、第2の磁気カップリング42と、回転運動を直進運動に変換する変換機構43とを有する。第2の磁気カップリング42と、変換機構43とで昇降機構を構成する。なお、第1の磁気カップリング41と、第2の磁気カップリング42は、非接触で駆動力を伝達する非接触式カップリングである。
【0052】
図10において、洗浄液パン17の底部には、下方に突出した有底円管部17bが形成されている。第1の磁気カップリング41は、有底円管部17bの外周に嵌合して配置される第1の駆動筒41aと、有底円管部17bの内周に嵌合して配置される第1の従動筒41bとを有する。第1の駆動筒41aの内周が着磁され、周方向に沿ってN極とS極とが交互に並んでいる。また、これに対応して、第1の従動筒41bの外周が着磁され、周方向に沿ってS極とN極とが交互に並んでいる。第1の駆動筒41aはアクチュエータ16に連結され、回転駆動されるようになっている。第1の従動筒41bの上面には、嵌合孔41cが形成されている。
【0053】
第2の磁気カップリング42は、シャフト42aと、シャフト42aの周囲に固着された第2の駆動筒42bと、第2の駆動筒42bの周囲に配置された第2の従動筒42cとを有する。シャフト42aの下端は、嵌合孔41cに嵌合して一体的に回転移動するようになっており、またシャフト42aの上端には、角柱部42dが形成されている(
図9参照)。角柱部42dは、プラグ13の下面中央に形成された方形断面の袋孔13b内に収容されており、袋孔13bに対して軸線方向には相対移動可能であるが、回転方向には一体的に回転移動するようになっている。袋孔13bの奥端と、角柱部42dとの間には、コイルスプリング44が配置されている。
【0054】
図10において、第2の駆動筒42bの外周が着磁され、周方向に沿ってN極とS極とが交互に並んでいる。また、これに対応して、第2の従動筒42cの内周が着磁され、周方向に沿ってS極とN極とが交互に並んでいる。図示していないが、第2の駆動筒42bと第2の従動筒42cとの間に、例えば樹脂製の薄肉円管を介在させることで、磁気吸引力による第2の駆動筒42bに対する第2の従動筒42cの偏心を阻止できる。第2の従動筒42cの外周には、複数のフォロワ42eが周方向に等間隔に形成されている。第2の駆動筒42bと第2の従動筒42cとで回転ユニットを構成し、第2の駆動筒42bに着磁された磁極と、第2の従動筒42cに着磁された磁極とで制限装置を構成する。
【0055】
変換機構43は、第2の従動筒42cの周囲に配置された直進筒43aと、洗浄液パン17の底面に植設されたキー部材43bとを有する。直進筒43aの内周には、フォロワ42eが相対移動可能に係合する螺旋溝43cが形成され、直進筒43aの外周には、軸線方向に延在する直進溝43dが形成されている。キー部材43bの鈎状に曲がった先端は、相対移動可能に直進溝43dに係合している。
【0056】
駆動機構40の動作について説明する。洗浄前において、ケース11から蓋12を取り外した状態で、
図9に点線で示すように、アクチュエータ16を動作させることにより直進筒43aと共にプラグ13を上方位置へ移動させているものとする。直進筒43aの移動態様については後述する。この状態で、作業者がテーパーローラー軸受20のインナーレース21の下端内周をプラグ13のテーパ外周面13aに載置すると、コイルスプリング44がテーパーローラー軸受20の自重を受けて縮長する。さらに、ケース11に蓋12を取り付けた後、不図示の電力供給源からアクチュエータ16に電力を供給すると、第1の駆動筒41aが正方向に回転する。すると、磁気吸引力により有底円管部17bの周壁を挟んで連れ回りが生じ、第1の従動筒41bも正方向に回転する。
【0057】
第1の磁気カップリング41によれば、非接触で第1の駆動筒41aから第1の従動筒41bへと駆動力の伝達を行えるため、洗浄液パン17内に洗浄液が貯留されている場合でも、排水口17c以外からの洗浄液漏れを回避することができる。
【0058】
さらに、第1の従動筒41bとともにシャフト42aが正方向に回転し、そして第2の駆動筒42bも同方向に回転する。このとき、第2の従動筒42cが受ける負荷(ここでは正方向回転に対する抵抗)が所定値以下である場合、磁気吸引力により第2の駆動筒42bに対して連れ回りが生じて第2の従動筒42cも正方向に回転する。一方、直進筒43aは、キー部材43bと直進溝43dとの係合によって、軸線方向にのみ移動可能であるため、第2の従動筒42cが正方向に回転しても、同方向に回転することはない。その代わりに、第2の従動筒42cのフォロワ42eが螺旋溝43cに沿って移動することとなる。
【0059】
また、第2の駆動筒42bと第2の従動筒42cとは、磁気吸引力により軸線方向の相対移動が阻止されている。そのため、移動するフォロワ42eから螺旋溝43cの側壁が軸線方向力を受け、直進筒43aは軸線方向に沿って下降する。このとき、直進溝43dの係合するキー部材43bは、直進筒43aの直進ガイドとなる。
【0060】
直進筒43aの下降と共に、プラグ13及びテーパーローラー軸受20も回転しつつ下降し、ケージ23の下端がケース11のテーパ内周面11aに当接し、テーパーローラー軸受20がケース11に保持される。仮にテーパーローラー軸受20の軸線がプラグ13の軸線に対して傾いて装着されていた場合でも、テーパーローラー軸受20を回転しつつ下降させることで、ケージ23とテーパ内周面11aとが当接した際に、両軸線が一致するようにプラグ13に対するテーパーローラー軸受20の姿勢を修正することができる。さらに直進筒43aが下降すると、その上端がプラグ13の下面から離間する。しかし、コイルスプリング44の付勢力により、プラグ13は上方に付勢されているため、インナーレース21に当接したままとなる。
【0061】
さらに直進筒43aが下降して移動端に到達すると、所定値を超える負荷が生じるので、第2の駆動筒42bに対して第2の従動筒42cの連れ回りが生じなくなる。したがって、シャフト42aが回転し続けているにもかかわらず、それ以上、直進筒43aは下降しない。すなわち、第2の磁気カップリング42は、第2の駆動筒42bから第2の従動筒42cへの駆動力の伝達を遮断するクラッチの機能を有する。その後、密閉空間SPに洗浄液を供給することで、テーパーローラー軸受20は、テーパ内周面11aおよびテーパ外周面13aに押し付けられたままとなり、洗浄が可能になる。
【0062】
一方、所定値を超える負荷により第2の従動筒42cの正方向への回転が制限されても、第2の駆動筒42bと第2の従動筒42cとの間に作用する磁気吸引力を超える駆動力を付与する限り、第2の従動筒42cとは独立して第2の駆動筒42bは回転可能である。また、上述したように、コイルスプリング44の付勢力により、プラグ13はインナーレース21の下端内周に当接した状態を維持している。
【0063】
したがって、テーパーローラー軸受20の洗浄時に、アクチュエータ16の回転によりシャフト42aを回転させ、角柱部42dと共にプラグ13を回転させて、レース21に沿ってローラー22を転動させることができる。
【0064】
洗浄や乾燥が完了した後、テーパーローラー軸受20を交換する場合、アクチュエータ16に逆特性の電力を供給することで、第1の駆動筒41aを負方向に回転させる。すると、上記とは逆に、第1の従動筒41b、第2の駆動筒42b、第2の従動筒42cが負方向に回転し、それにより直進筒43aとプラグ13と共に、テーパーローラー軸受20を上昇させることができる。作業者は、ケース11から蓋12を取り外した後に、露出したテーパーローラー軸受20を把持してケース11から取り出すことができる。本実施形態によれば、異なる径を有するテーパーローラー軸受20にも対応可能である。
【0065】
以上、本実施形態による転がり軸受の洗浄装置及び方法は、航空機に限らず、鉄道車両、重機、工作機械などに用いられる転がり軸受を洗浄することができる。
【符号の説明】
【0066】
10,10’ 洗浄装置、11 ケース、12 蓋、13 プラグ、14 洗浄液供給装置、15駆動軸、16 アクチュエータ、17 洗浄液パン、20 テーパーローラー軸受、21 インナーレース、22 テーパーローラー、23 ケージ、30 玉軸受、31 アウターレース、32 インナーレース、33 ボール、40 駆動機構