IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 長春石油化學股▲分▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-表面処理銅箔及び銅箔基板 図1
  • 特許-表面処理銅箔及び銅箔基板 図2
  • 特許-表面処理銅箔及び銅箔基板 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及び銅箔基板
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/06 20060101AFI20220803BHJP
   C25D 5/16 20060101ALI20220803BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/16
C25D1/04 311
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021540364
(86)(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 CN2020072312
(87)【国際公開番号】W WO2020156186
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-03-24
(31)【優先権主張番号】62/800,263
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/715,284
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591057290
【氏名又は名称】長春石油化學股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ライ,シアン-ミーン
(72)【発明者】
【氏名】ライ,ヤオ-シュヨン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ,ルイ-チャーン
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-074153(JP,A)
【文献】特開2017-008411(JP,A)
【文献】特開2017-036496(JP,A)
【文献】特開2015-183294(JP,A)
【文献】特開2018-178261(JP,A)
【文献】特開2011-149067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理銅箔であって、
前記表面処理銅箔は処理面を含み、前記処理面の実体体積が1.90μm/μmより小さく、
前記処理面の算術平均高さが0.1~2μmであることを特徴とする、表面処理銅箔。
【請求項2】
前記処理面の実体体積が0.11~1.86μm/μmであることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記処理面の実体体積が0.25~0.85μm/μmであることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記表面処理銅箔がさらに電解銅箔及び表面処理層を含み、
前記表面処理層が前記電解銅箔の少なくとも一つの表面に設置され、かつ、前記表面処理層の外側が前記処理面であることを特徴とする、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記電解銅箔がドラム面、及び前記ドラム面の反対側に位置する堆積面を含み、
前記表面処理層が前記ドラム面に設置されることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記表面処理層がサブ層を含み、
前記サブ層が粗化層であることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記粗化層が複数個の粗化粒子を含むことを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
前記表面処理層がさらに、少なくとも一つのその他のサブ層を含み、
前記少なくとも一つのその他のサブ層が、不動態化層及びカップリング層からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅箔。
【請求項9】
前記不動態化層が少なくとも一種類の金属を含み、
前記金属がニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉄、錫及びバナジウムからなるグループから選択されることを特徴とする、請求項に記載の表面処理銅箔。
【請求項10】
銅箔基板であって、
搭載板と、
前記搭載板の少なくとも一つの表面に設置された表面処理銅箔とを含み、
前記表面処理銅箔が電解銅箔及び表面処理層を含み、前記表面処理層が前記電解銅箔と前記搭載板との間に設置され、
前記表面処理層が前記搭載板に面した処理面を含み、
前記処理面の実体体積が1.90μm/μmより小さく、
前記処理面の算術平均高さが0.10~2.00μmであることを特徴とする、銅箔基板。
【請求項11】
前記表面処理層の前記処理面が前記搭載板に直接接触することを特徴とする、請求項10に記載の銅箔基板。
【請求項12】
前記処理面の実体体積が0.25~0.85μm/μmであることを特徴とする、請求項10に記載の銅箔基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅箔に関し、特に表面処理銅箔及び銅箔基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子製品が次第に軽量薄型化及び高周波信号伝達の傾向へ発展するに従って、銅箔と銅箔基板に対する要求も日増しに高まりつつある。一般的に言うと、銅箔基板の銅導電回路が絶縁搭載板に搭載され、かつ、導電回路のレイアウト設計により、予定の経路に沿って電気信号を予定領域まで伝達することができる。また、高周波電気信号(例えば、10GHzより高い)を伝達する銅箔基板は、表皮効果(skin effect)によって発生する信号伝達ロス(signal transmission loss)を低減するために、銅箔基板の導電回路をさらに最適化する必要がある。所謂表皮効果とは、電気信号の周波数が増加するに従って、電流の伝達経路が導線の表面、例えば搭載板に隣接する導線表面に一層集中する現象を言う。表皮効果に起因する信号伝達ロスを低減するために、従来は銅箔基板中の搭載板に隣接する導線表面をなるべく平坦化させる方法がある。また、導線表面と搭載板間の付着性を同時に維持するために、リバース処理銅箔(reverse treated foil、RTF)を用いて導線を製作してもよい。なお、リバース処理銅箔とは、銅箔のドラム面(drum side)に粗化処理工程が行われる一種の銅箔である。
【0003】
しかし、前記方法は確かに銅箔基板に発生する信号伝達ロスを有効に低減できるが、依然として克服すべき技術欠点が存在する。例を挙げると、搭載板に面する導線表面が比較的に平坦であるため、通常導線と搭載板間の付着性が比較的に低い。このような場合、リバース処理銅箔を用いて導線を製作しても、銅箔基板中の導線が依然として搭載板の表面から剥がれやすく、予定の経路に沿って電気信号を予定の領域まで伝達することができなくなる。従って、従来技術に存在するこのような欠点を解決するための表面処理銅箔及び銅箔基板を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、従来技術に存在する問題に対処する表面処理銅箔及び銅箔基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施例によれば、表面処理銅箔を提供し、前記表面処理銅箔が処理面を含み、前記処理面の実体体積が1.90μm/μmより小さい。
【0006】
選択的に、本発明の別の実施例によれば、表面処理銅箔を提供し、表面処理銅箔が電解銅箔及び電解銅箔のドラム面に設置された表面処理層を含む。また、表面処理層が粗化層を含み、かつ、表面処理層の外側が表面処理銅箔の前記処理面である。処理面の実体体積が1.90μm/μmより小さい。
【0007】
本発明のさらに別の実施例によれば、銅箔基板を提供し、前記銅箔基板が搭載板及び搭載板の少なくとも一つの表面に設置された表面処理銅箔を含む。また、前記表面処理銅箔が電解銅箔及び表面処理層を含み、前記表面処理層が前記電解銅箔と前記搭載板の間に設置され、前記表面処理層が前記搭載板に面した処理面を含み、かつ前記処理面の実体体積が1.90μm/μmより小さい。
【0008】
前記実施例によれば、表面処理銅箔の処理面の実体体積(material volume、Vmと略し、表面粗さを示す国際基準であり、その単位であるμm/μmは単位面積が1μmの表面が有する体積を意味する)を1.90μm/μmより小さく制御することで、後に表面処理銅箔を搭載板に圧接させる時に、信号伝達ロスを比較的に低いレベルに維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施例に基づく表面処理銅箔を示す断面概略図。
図2】本発明の一実施例に基づく表面処理銅箔の表面高さと負荷率の関係図。
図3】本発明の一実施例に基づくストリップライン(strip-line)を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照し、かつ好ましい実施形態を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0011】
以下、当業者が本発明を実現できるよう、表面処理銅箔、銅箔基板及びプリント回路板の具体的な実施形態を説明する。これらの具体的な実施形態では対応する図面を参照することができる。本発明の実施例は以下に公開する通りであるが、本発明はこれに限定されず、本発明の精神と範疇内であれば、当業者がこれに対し若干の変更と修正を加えてもよい。なお、各実施例及び実験例で用いる方法は、特に説明がない限り、常用方法とする。
【0012】
本発明で言及される空間関係の説明用語について、「・・・の上」及び「・・・の上方」等の用語の本発明における意味を最も広い解釈にすべきであり、「・・・の上」及び「・・・の上方」等の用語はある物体の上に直接位置する状況のみならず、両者の間に中間特徴または中間層が設けられた場合、ある物体の上に位置する状況も含む。また、「・・・の上」または「・・・の上方」はある物体の上または上方に位置する状況のみならず、両者の間に中間特徴または中間層が設けられていない場合、ある物体の上または上方に位置する状況も含む(即ち、ある物体の上に直接位置する)。
【0013】
また、以下に異なる指定がない限り、本発明に記載の数値パラメータは概略値であり、必要に応じて変更可能とし、または、少なくとも公開された有意義な桁数数字に基づき、かつ常用の桁上げ方式で各数値パラメータを解読すべきである。本発明において、範囲とは一つの端点からもう一つの端点までを意味し、または二つの端点の間を意味する。特に説明がない限り、本発明におけるすべての範囲が端点を含むものとする。
【0014】
なお、本発明の精神から逸脱しない限り、以下に記載された異なる実施形態中の技術特徴間に置換、再組合せ、混合することでその他の実施例を構成することができる。
【0015】
図1は本発明の一実施例に基づく表面処理銅箔を示す断面概略図である。図1が示すように、表面処理銅箔100は少なくとも電解銅箔110を含む。電解銅箔110の厚さが通常6μm以上であり、例えば、7~250μmの間にあり、または9~210μmの間である。電解銅箔110は電着(または電解、電気溶着、電気めっき)の方法で形成することができる。電解銅箔110は対向して設置された両面である第一面110Aと第二面110Bを有する。本発明の一実施例では、電解銅箔のドラム面(drum side)が電解銅箔110の第一面110Aに対応し、電解銅箔の堆積面(deposited side)が電解銅箔110の第二面110Bに対応してもよいが、これに限定されない。
【0016】
本発明の一実施例によれば、電解銅箔110の第一面110Aと第二面110Bの上にそれぞれその他の層を設置することが可能であり、例えば、第一面110Aに表面処理層112を設置してもよい。本発明の別の実施例によれば、電解銅箔110の第一面110Aと第二面110Bにさらにその他の単層または多層構造を設置することが可能で、または第一面110Aの表面処理層112の代わりにその他の単層または多層構造を用いることも可能で、または第一面110Aと第二面110Bに如何なる層も設置しなくてもよいが、これに限定されない。従って、これらの実施例において、表面処理銅箔100の処理面100A及び処理面100Aの反対側に位置する表面がその他の単層または多層構造の外側面に対応する可能性があり、または電解銅箔110の第一面110Aと第二面110Bに対応する可能性があるが、これに限定されない。
【0017】
前記表面処理層112が単層であっても、または複数個のサブ層を含む積層であってもよい。表面処理層112が積層である場合、各サブ層を粗化層114、不動態化層(passivation layer)116、防錆層118及びカップリング層120によって構成されるグループから選択してもよい。表面処理層112が設けられている表面処理銅箔100において、表面処理層112の外側面を表面処理銅箔100の処理面100Aと見なすことができ、後の表面処理銅箔100を搭載板に圧接させる工程を経て、この処理面100Aが搭載板と接触する。本発明の一実施例によれば、表面処理層112が電解銅箔110のドラム面に設置され、かつ、粗化層114を含む。本発明の一実施例によれば、表面処理層112が電解銅箔110のドラム面に設置され、かつ、粗化層114と不動態化層116を含む。本発明の一実施例によれば、表面処理層112が電解銅箔110のドラム面に設置され、かつ粗化層114、不動態化層116及び防錆層118を含む。
【0018】
前記粗化層は粗化粒子(nodule)を含む。ここで、粗化粒子は電解銅箔の表面粗さを高めるものであり、粗化粒子が銅粗化粒子または銅合金粗化粒子であってもよい。本発明の一実施例によれば、粗化層の上にさらに、銅を含む被覆層を設置してもよい。被覆層は粗化粒子が電解銅箔から剥離することを防止する。
【0019】
不動態化層が同じまたは異なる組成であってもよく、例えば、金属層または金属合金層である。ここで、前記金属層はニッケル、亜鉛、クロム、コバルト、モリブデン、鉄、錫及びバナジウムから選択されてもよいが、これに限定されず、例えば、ニッケル層、ニッケル亜鉛合金層、亜鉛層、亜鉛錫合金層またはクロム層である。また、金属層及び金属合金層が単層または多層構造であってもよく、例えば、積層された亜鉛含有及びニッケル含有の単層である。多層構造である場合、必要に応じて各層間の積層順を調整することができ、所定の制限がなく、例えば亜鉛含有層がニッケル含有層の上に積層され、またはニッケル含有層が亜鉛含有層の上に積層される。
【0020】
防錆層は金属の外に施される被覆層であり、腐食等により金属が劣化することを防ぐものである。防錆層は金属または有機化合物を含む。防錆層が金属を含む場合、前記金属がクロムまたはクロム合金であってもよいが、クロム合金がさらにニッケル、亜鉛、コバルト、モリブデン、バナジウム及びその組み合わせから選択された一つを含んでもよい。防錆層が有機化合物を含む場合、前記有機化合物がトリアゾール、チアゾール、イミダゾール及びその誘導体からなるグループの中から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0021】
カップリング層はシランで製作することができ、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(3-aminopropyltriethoxysilane、APTES)、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(N-(2-aminoethyl)-3-aminopropyltrimethoxysilane)、3―(グリシジルオキシプロピル)トリエトキシシラン((3-glycidyloxypropyl)triethoxysilane)、(8-グリシジルオキシオクチル)トリメトキシシラン((8-glycidyloxyoctyl)trimethoxysilane)、メタクリロイルプロピルトリエトキシシラン(methacryloyl propyltriethoxysilane)、メタクリロイルオクチルトリメトキシシラン(methacryloyl octyltrimethoxysilane)、メタクリロイルプロピルトリメトキシシラン(methacryloyl propyltrimethoxysilane)、(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン((3-mercaptopropyl)trimethoxysilane)、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン((3-glycidyloxypropyl)trimethoxysilane)から選択することができるが、これらに限定されない。カップリング層は電解銅箔とその他の材料(例えば、搭載板)の間の付着性を促進するものである。
【0022】
本発明の実施例によれば、表面処理層中の不動態化層、防錆層とカップリング層の合計厚さが粗化層の厚さより遥かに小さいため、表面処理銅箔の処理面の表面状態が主に粗化層の影響を受ける。
【0023】
表面処理銅箔の処理面の表面特性を制御することにより、高周波において比較的に低い伝達ロスを達成できる。例えば、表面処理銅箔の処理面の実体体積(Vm)を制御することで、製造する銅箔基板に良好な伝達特性をもたらすことができる。
【0024】
前記実体体積(Vm)は図2が示すように、規格方法ISO25178-2:2012に基づいて得られる。図2は本発明の一実施例の表面処理銅箔の表面高さと負荷率との間の関係図である。ここで、実体体積(Vm)204は、曲線の下方及び水平切断線の上方に囲まれた実体の体積を積分して算出したものであり、この水平切断線はこの曲線が負荷率(material ratio、mr)P2時に対応する高さである。即ち、実体体積(Vm)204は、負荷率(mr)が0%から負荷率(mr)がP2(80%)までの区間内において、負荷率(mr)がP2(80%)の時に対応する高さでの水平線の上方及び曲線の下方に囲まれた範囲である。また、実体体積(Vm)204は山部(peak)実体体積(Vmp)204Aとコア部実体体積(Vmc)204Bの合算で得られる。さらに言うと、山部実体体積(Vmp)204Aは、曲線の下方及び別の水平切断線の上方に囲まれた実体の体積を積分して算出したものであり、この別の水平切断線の位置はこの曲線が負荷率(mr)P1時に対応する高さである。コア部実体体積(Vmc)204Bは、曲線及び二つの水平切断線に囲まれた実体の体積を積分して算出したものであり、二つの水平切断線の位置は曲線がそれぞれ負荷率(mr)P1とP2時に対応する高さである。なお、特に説明がない限り、本発明で言う実体体積(Vm)は負荷率(mr)が0%から80%の区間で算出された値である。
【0025】
本発明の一つの具体的な実施例において、表面処理銅箔の処理面の実体体積(Vm)が1.90μm/μmより小さく、即ち、0~1.90μm/μmであり、好ましくは0.11~1.86μm/μmであり、より好ましくは0.25~0.85μm/μmである。実体体積(Vm)が前記範囲にある時に、対応する銅箔基板とプリント回路板において、高周波での信号伝達ロスを低減することができる。
【0026】
本発明の別の具体的な実施例において、表面処理銅箔の処理面の算術平均高さ(Sa)が0.10~2.02μmであってもよく、好ましくは0.19~2.00μmであり、より好ましくは0.49~1.53μmである。算術平均高さ(Sa)が前記範囲にある時に、表面処理銅箔及びそれに接触する搭載板の剥離強度を高めることができる。
【0027】
本発明の別の具体的な実施例において、表面処理銅箔の化学組成を制御することで高い信頼性を実現することができ、信頼性試験はこの表面処理銅箔で作製された銅箔基板と回路板が高温、高圧及び高湿度条件に耐える能力を評価することを目的とする。この試験により、回路板の樹脂密封装置がリフローはんだ付け期間での耐熱性の評価に役に立ち、かつ、この試験を加速試験とし、回路板製造工程のリフローステップ期間において加熱による樹脂亀裂が発生するか否かを予測することができると同時に、製造した銅箔基板または回路板が保管及び運送中における予期表現を評価することができる。
【0028】
本発明の別の具体的な実施例において、表面処理銅箔の酸素含有量が469ppmより小さく、好ましくは349ppmより小さく、より好ましくは53~348ppmである。本発明の別の具体的な実施例において、表面処理銅箔の水素含有量が40ppmより小さく、好ましくは30ppmより小さく、より好ましくは5~29ppmである。酸素含有量または水素含有量が前記範囲にある時に、この表面処理銅箔を用いて製造した銅箔基板と回路板が高い信頼性を有する。
【0029】
銅箔基板は少なくとも表面処理銅箔と搭載板を含む。ここで、表面処理銅箔が電解銅箔及び表面処理層を含み、前記表面処理層が電解銅箔と搭載板との間に設置される。また、表面処理銅箔の処理面が搭載板に面し、かつ搭載板に直接接触する。
【0030】
なお、前記搭載板にベークライト板、高分子板またはガラス繊維板を用いることができるが、これに限定されない。前記高分子板の高分子成分は例えば、エポキシ樹脂(epoxy resin)、フェノール樹脂(phenolic resins)、ポリエステル樹脂(polyester resins)、ポリイミド樹脂(polyimide resins)、アクリル(acrylics)、ホルムアルデヒド樹脂(formaldehyde resins)、ビスマレイミドトリアジン樹脂(bismaleimide triazine resins、またはBT樹脂と呼ぶ)、シアン酸エステル樹脂(cyanate ester resin)、フルオロポリマ(fluoropolymers)、ポリエーテルサルホン(poly ether sulfone)、セルロース熱可塑性プラスチック(cellulosic thermoplastics)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリオレフィン(polyolefins)、ポリプロピレン(polypropylene)、ポリスルフィド(polysulfide)、ポリウレタン(polyurethane)、ポリイミド樹脂(polyimide)、液晶高分子(Liquid Crystal Polymer、LCP)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenylene oxide、PPO)であってもよい。前記ガラス繊維板は、ガラス繊維不織物材料を前記高分子(例えば、エポキシ樹脂)に浸した後に形成されたプリプレグ(prepreg)であってもよい。
【0031】
以下において、表面処理銅箔及び銅箔基板の製作方法についてさらに例示的に説明する。製作方法中の各ステップをそれぞれ以下に説明する。
【0032】
(1)ステップA、電解銅箔を提供する。製箔機を用いて、電気溶着(electrodeposition)の方式で電解銅箔を形成することができる。製箔機は少なくとも金属陰極ドラム、不溶性の金属陽極板、及び電解液供給管(feeding pipe)を含む。ここで、金属陰極ドラムは回転可能なドラムであり、金属陽極板は金属陰極ドラムの下半部を囲むように、金属陰極ドラムの下半分に分離して固設されてもよい。供給管は金属陰極ドラムの真下に固設され、かつ二つの金属陽極の間に位置してもよい。供給管の長さ方向が金属陰極ドラムの軸方向に平行であり、かつ、電解液が陰極ドラムの長さに沿って略均一に分散できるよう、供給管の長さ方向に複数個の開口が設置されている。金属陰極ドラムと金属陽極板との間の最短距離、及び供給管中心と金属陽極板との間の距離は制御可能である。
【0033】
電気溶着の過程において、電解液供給管が金属陰極ドラムと金属陽極板の間に電解液を提供し続ける。金属陰極ドラムと金属陽極板との間に電流を印加することにより、銅を金属陰極ドラム上に電気溶着させて、電解銅箔を形成することができる。また、金属陰極ドラムを継続して回転させ、かつ電解銅箔を金属陰極ドラムのある一側から剥離させることで、連続した電解銅箔を製作することができる。なお、電解銅箔において金属陰極ドラムに面した表面をドラム面と呼び、電解銅箔において金属陰極ドラムから離れている表面を堆積面と呼んでもよい。
【0034】
電解銅箔について、その製造パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0035】
<1.1硫酸銅電解液の組成及び電解条件>
硫酸銅(CuSO・5HO):320g/L
硫酸:100g/L
塩素イオン(塩酸由来、RCI Labscan Ltd.):20mg/L
ゼラチン(DV、Nippi,Inc.):0.35mg/L
液温:50℃
電流密度:70A/dm
銅箔厚さ:35μm
<1.2製箔機中の部材間の距離>
金属陰極ドラムと金属陽極板間の最短距離:6~12mm
供給管中心と金属陽極板間の距離:15~25mm
(2)ステップB、このステップBは銅箔表面に汚染物(例えば、油汚れ、酸化物)がないことを確保するために前記銅箔に対し表面洗浄を施す過程であり、その工程パラメータ範囲が以下の例示する通りである。
【0036】
<2.1洗浄液の組成及び洗浄条件>
硫酸銅:130g/L
硫酸:50g/L
液温:27℃
浸漬時間:30秒
(3)ステップC、このステップCでは前記銅箔のドラム面に粗化層を形成し、その固定パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0037】
〈3.1粗化層を製作するパラメータ〉
硫酸銅(CuSO・5HO):70g/L
硫酸:100g/L
モリブデン酸ナトリウム(NaMoO):50~400mg/L
硫酸第一錫(SnSO):1000~5000mg/L
サッカリン(1,1-ジオキソ-1,2-ベンゾチアゾール-3-オン、saccharin,Sigma-Aldrich Company):10mg/L
液温:25℃
電流密度:10A/dm
時間:10秒
(4)ステップD、このステップDでは前記粗化層の上に被覆層を形成し、その工程パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0038】
<4.1被覆層を製作するパラメータ>
硫酸銅(CuSO・5HO):320g/L
硫酸:100g/L
液温:40℃
電流密度:15A/dm
時間:10秒
(5)ステップE、このステップEでは前記被覆層の上にニッケル含有層を形成し、その工程パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0039】
<5.1ニッケル含有層の電解液組成及び電解条件>
硫酸ニッケル(NiSO):188g/L
ホウ酸(HBO):32g/L
亜リン酸(HPO):0~5g/L
液温:20°C
溶液pH:3.5
電流密度:0.5~0.9A/dm
時間:3秒
(6)ステップF、このステップFでは前記ニッケル含有層及び前記銅箔の堆積面の上に亜鉛含有層を形成し、その工程パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0040】
<6.1亜鉛含有層の電解液組成及び電解条件>
硫酸亜鉛(ZnSO):11g/L
メタバナジン酸アンモニウム(NHVO):0.25g/L
液温:15°C
溶液pH:13
電流密度:0.3~0.7A/dm
時間:2秒
(7)ステップG、このステップGでは前記二層の亜鉛含有層の上にクロム含有層を形成し、その工程パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0041】
<7.1クロム含有層の電解液組成及び電解条件>
クロム酸:5g/L
液温:35°C
溶液pH:12.5
電流密度:10A/dm
時間:5秒
(8)ステップH、このステップHでは前記銅箔のドラム面のクロム含有層の上にカップリング層を形成し、シランカップリング剤を含む水溶液を銅箔のドラム面のクロム含有層の上に吹き付けてカップリング層を形成する。その工程パラメータ範囲が以下に例示する通りである。
【0042】
<8.1カップリング層の製造条件>
シランカップリング剤:(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン
水溶液中のシランカップリング剤の濃度:0.25wt.%
吹き付け時間:10秒
(9)ステップI、このステップIでは前記ステップで形成された表面処理銅箔を搭載板に圧接させて銅箔基板を形成する。本発明の一実施例によれば、図1が示す表面処理銅箔100を搭載板に熱圧接させることで銅箔基板を形成することができる。
【0043】
当業者が本発明を実施できるよう、以下は本発明の各具体的な実施例をより詳しく解説することで、本発明の表面処理銅箔及び銅箔基板を具体的に説明する。なお、以下の実施例は例示に過ぎず、これに以って本発明を制限して解釈すべきではない。即ち、本発明の保護範囲を超えない前提で、各実施例中に用いる材料、材料の用量と割合及び処理の流れなどを適宜変更してもよい。
【0044】
実施例1
実施例1は表面処理銅箔であり、その製造工程が前記製作方法中のステップAからステップHに対応する。実施例1と前記製作方法の異なる製造パラメータが以下の表1が示す通りである。
【0045】
実施例2-17
実施例2-17の製造工程は実施例1の製造工程と略同じであるが、互いに異なる製造パラメータが表1に示す通りである。
【0046】
【表1】
以下は、前記各実施例1-17の各項の検出結果、例えば、<水素含有量>、<酸素含有量>、<算術平均高さ(Sa)>、<実体体積(Vm)>、<信頼性>、<剥離強度>及び<信号伝達ロス>についてさらに説明する。
【0047】
<水素含有量>及び<酸素含有量>
酸素/水素/窒素分析装置(EMGA-930、Horiba Ltd.)を利用し、かつ非分散赤外線吸収検出装置(non-dispersive infrared, NDIR)を合わせて、表面処理銅箔の酸素含有量及び水素含有量を検出する。
【0048】
<算術平均高さ(Sa)>
規格ISO25178-2:2012に基づき、レーザー顕微鏡(LEXT OLS5000-SAF、Olympus)の表面模様分析により、表面処理銅箔の処理面の算術平均高さ(Sa)を測定した。検出結果は以下の表2が示す通りである。具体的な測定条件は以下の通りである。
【0049】
光源波長:405nm
対物レンズ倍率:100倍対物レンズ(MPLAPON-100x LEXT,Olympus)
光学ズーム:1.0倍
観察面積:129μm×129μm
解像度:1024画素×1024画素
条件:レーザー顕微鏡の自動傾き補正機能(Auto tilt removal)を使用
フィルター:フィルター無し(unfiltered)
空気温度:24±3℃
相対湿度:63±3%
<実体体積(Vm)>
規格ISO25178-2:2012に基づき、レーザー顕微鏡(LEXT OLS5000-SAF、Olympus)の表面模様分析により、表面処理銅箔の処理面の実体体積(Vm)を測定した。なお、実体体積(Vm)は負荷率(mr)のP1値及びP2値をそれぞれ10%及び80%に設定して得られたもの。検出結果は以下の表2が示す通りである。具体的な測定条件は以下の通りである。
【0050】
光源波長:405nm
対物レンズ倍率:100倍対物レンズ(MPLAPON-100x LEXT、Olympus)
光学ズーム:1.0倍
観察面積:129μm×129μm
解像度:1024画素×1024画素
条件:レーザー顕微鏡の自動傾き補正機能(Auto tilt removal)を使用
フィルター:フィルター無し(unfiltered)
空気温度:24±3℃
相対湿度:63±3%
<信頼性>
厚さがそれぞれ0.076mmの市販の樹脂片(S7439G、SyTech Corp.)を6枚重ねて樹脂片積層を形成し、かつ、前記実施例の何れか一つの表面処理銅箔を樹脂片積層の上に設置する。続いて、表面処理銅箔を樹脂片積層に圧接させて積層板を形成する。圧接条件が以下の通りである。温度200°C、圧力400psi、及び圧接時間120分間。
【0051】
そして、プレッシャークッカー試験(pressure cooker test、PCT)を実施し、オーブン内の条件を温度121°C、圧力2atm及び湿度100%RHに設定して、前記積層板をオーブンに30分間放置する。続いて、はんだ槽試験(solder bath test)を行い、プレッシャークッカー試験処理後の積層板を温度288°Cの溶解はんだ槽に10秒間浸す。
【0052】
同じサンプルに対し繰り返しはんだ槽試験を実施し、かつ毎回はんだ槽試験が終わると、積層板に気泡(blister)、亀裂(crack)または層間剥離(delamination)等の異常現象がないか観察し、前記の何れの異常現象があった場合、この積層板が今回のはんだ槽試験をクリアできなかったと判断する。検出結果は以下の表2に示す通りである。なお、判断の以下の通りである。
【0053】
A:50回を超えるはんだ槽試験でも積層板に異常現象なし
B:10~50回のはんだ槽試験で積層板に異常現象発生
C:10回未満のはんだ槽試験で積層板に異常現象発生
<剥離強度>
厚さがそれぞれ0.076mmの市販の樹脂片(S7439G、SyTech Corp.)を6枚重ねて樹脂片積層を形成し、かつ、前記実施例の何れか一つの表面処理銅箔を樹脂片積層の上に設置する。続いて、表面処理銅箔を樹脂片積層に圧接させて積層板を形成する。圧接条件が以下の通りである。温度200°C、圧力400psi、及び圧接時間120分間。
【0054】
そして、規格JIS C 6471に基づき、万能試験機を用いて、表面処理銅箔を90°の角度で積層板から剥離させる。検出結果が表2に示す通りである。
【0055】
<信号伝達ロス>
前記実施例の何れか一つの表面処理銅箔を用いてストリップライン(stripline)を製作し、かつその対応する信号伝達ロスを測定する。なお、ストリップラインの構造は図3が例示する通りである。ストリップライン300は、152.4μmの樹脂(SyTech CorporationのS7439G)の上にまず前記実施例の何れか一つの表面処理銅箔を貼り合わせ、その後表面処理銅箔で導線302を製作し、さらに別の二枚の樹脂(S7439G、SyTech CorporationのS7439G)を用いて両側の表面をそれぞれ被覆し、導線302を樹脂搭載板(S7439G、SyTech Corporation.)304の中に設置する。ストリップライン300はさらに二つの接地電極306-1と接地電極306-2を含み、それぞれ樹脂搭載板304の対向する両側に設置される。接地電極306-1と接地電極306-2の間は導電貫通孔を通して電気的に接続することが可能であり、接地電極306-1と接地電極306-2を同電位にすることができる。
【0056】
ストリップライン300中の各部品の規格は以下の通りである。導線302の長さが100mm、幅wが120μm、厚さtが35μmであり、樹脂搭載板304のDkが3.74、Dfが0.006(IPC-TM650No.2.5.5.5に基づき、10Hz信号で測定)であり、特性インピーダンスが50Ωである。
【0057】
規格CiscoS3の方法に基づき、信号分析装置(PNA N5230C network analyzer、Agilent)を用いて、接地電極306-1、306-2が何れも接地電位である場合、電気信号を導線302のある一端から入力し、かつ導線302の異なる一端の出力値を測定することで、ストリップライン300で発生した信号伝達ロスを判断する。具体的な測定条件は以下の通りである。電気信号周波数が200MHz~15GHzであり、走査数が6401点であり、校正方式がTRLである。
【0058】
最後に、電気信号周波数が8GHzの場合、対応するストリップラインの信号伝達ロスの程度を判断し、検出結果が表2に示す通りである。ここで、信号伝達ロスの絶対値が小さいほど、信号が伝達される時に損失する程度が低いことを意味する。具体的に言うと、信号伝達ロスの絶対値が0.8dB/mより大きい場合、信号伝達が悪いこと(C級)を意味し、信号伝達ロスの絶対値が0.8dB/m以下、または0.75dB/in以上の場合、信号伝達が良好であること(B級)を意味し、信号伝達ロスの絶対値が0.75dB/mより小さい場合、信号伝達が最も良いこと(A級)を意味する。
【0059】
【表2】
前記実施例1-12、14、16によれば、処理面の実体体積(Vm)が1.90μm/μmより小さい場合、対応する銅箔基板とプリント回路板において、表面処理銅箔とそれに接触する搭載板が比較的に優れた剥離強度(例えば、3.52lb/in以上)を有すると同時に、高周波電気信号が導電パターン中に伝達される時に発生する信号伝達ロスを低減することができる(信号伝達ロスが少なくともB級に達する)。
【0060】
前記実施例1-12、16によれば、処理面の実体体積(Vm)が0.15~1.86μm/μm、または0.25~0.85μm/μmである場合、対応する銅箔基板とプリント回路板が、より簡単に信頼性試験をクリアできる。
【0061】
前記実施例1-11、14によれば、処理面の実体体積(Vm)が1.90μm/μmより小さく、かつ、算術平均高さ(Sa)が0.10~2.00μmである場合、対応する銅箔基板とプリント回路板において、表面処理銅箔とそれに接触する搭載板の剥離強度を一層高めることができる(例えば、4.25lb/in以上)。
【0062】
前記実施例1-10、14、16によれば、処理面の実体体積(Vm)が1.90μm/μmより小さく、かつ、表面処理銅箔内の酸素含有量が469ppmより小さく、または水素含有量が40ppmより小さい場合、対応する銅箔基板とプリント回路板が信頼性試験をより簡単にクリアできる。
【0063】
本発明の前記各実施例によれば、表面処理銅箔の処理面の表面粗さ参数を制御することにより、または表面処理銅箔の水素含有量と酸素含有量を制御することにより、対応する銅箔基板とプリント回路板において、表面処理銅箔と搭載板間の付着性及び信頼性を高めると同時に、高周波電気信号が導電パターン中に伝達される時に発生する信号伝達ロスを低減することができる。
【0064】
以上の内容は具体的な好ましい実施形態を通して本発明を詳しく説明したものであるが、本発明の具体的な実施方法はこの説明内容に限定されない。当業者にとって、本発明の構想を逸脱しないことを前提に、等価な代替または明らかな変更を多少行うことも可能であり、性能または用途が同じであれば、すべて于本発明の保護範囲に属する。
【符号の説明】
【0065】
100 表面処理銅箔
100A 処理面
110 電解銅箔
110A 第一面
110B 第二面
112 表面処理層
114 粗化層
116 不動態化層
118 防錆層
120 カップリング層
204 実体体積
204A 山部実体体積
204B コア部実体体積
300 ストリップライン
302 導線
304 樹脂搭載板
306-1 接地電極
306-2 接地電極
t 厚さ
w 幅
図1
図2
図3