(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-02
(45)【発行日】2022-08-10
(54)【発明の名称】革の製造方法
(51)【国際特許分類】
C14C 3/28 20060101AFI20220803BHJP
C14C 3/16 20060101ALI20220803BHJP
C14C 3/06 20060101ALI20220803BHJP
C08L 33/06 20060101ALI20220803BHJP
C08L 61/28 20060101ALI20220803BHJP
【FI】
C14C3/28
C14C3/16
C14C3/06
C08L33/06
C08L61/28
(21)【出願番号】P 2021544269
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048384
(87)【国際公開番号】W WO2021145188
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2021-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2020003890
(32)【優先日】2020-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516351991
【氏名又は名称】ミドリオートレザー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】氏家 立明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 保光
(72)【発明者】
【氏名】大浦 春樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 清次
(72)【発明者】
【氏名】山田 嘉夫
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-144061(JP,A)
【文献】特開2010-121012(JP,A)
【文献】特開平11-158500(JP,A)
【文献】国際公開第2009/139194(WO,A1)
【文献】米国特許第03888625(US,A)
【文献】英国特許出願公告第01465453(GB,A)
【文献】特開2017-144731(JP,A)
【文献】特開2009-007480(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084236(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106282436(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C14C 1/00- 99/00
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)前処理工程、(II)なめし工程、(III)再なめし工程、及び、(IV)乾燥・仕上げ工程を順次含む革の製造方法であって、(III)再なめし工程が、(II)なめし工程から得られたシェービング革を、
(III-0)クロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)から成る再なめし剤(d)14.4~21.6質量部と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)7.0~10.6質量部、とを使用して、再なめし処理する段階、
(III-1)
シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)から成る再なめし剤(a)12.8~19.2質量部と、上記樹脂(b)19.7~29.5質量部
と、合成油及び/又は天然油(c1)から成る加脂剤(c)3.4~5.2質量部
と、を
添加して
再なめし及び加脂処理する段階、及び、
(III-2)
シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、上記樹脂(b)5.3~7.9質量部
及び上記加脂剤(c)7.0~10.4質量部を
添加して樹脂なめし及び加脂処理する段階、
ここで、上記再なめし剤(a)、樹脂(b)、加脂剤(c)及び再なめし剤(d)の量は、いずれもシェービング革100質量部(乾燥基準)に対する量である、
を順次含み、かつ、
(IV)乾燥・仕上げ工程における乾燥が、(III)再なめし工程から得られた革を、
(IV-1)35~45℃において1~5分間減圧乾燥する段階、及び、
(IV-2)35~45℃において10~40分間大気圧乾燥する段階
を順次含
み、
加脂剤(c)を構成する合成油及び/又は天然油(c1)が、O/W型エマルジョンとして存在し、かつ、油(c1)の油滴の形状が略球又は略楕円球である、革の製造方法。
【請求項2】
上記段階(III-0)において、再なめし剤(d)の量が、16.0~20.0質量部であり、かつ、樹脂(b)の量が、8.0~9.5質量部であり、上記段階(III-1)において、再なめし剤(a)の量が、14.5~17.5質量部であり、樹脂(b)の量が、22.0~27.0質量部であり、かつ、加脂剤(c)の量が、4.0~4.7質量部であり、及び、上記段階(III-2)において、樹脂(b)の量が、6.0~7.2質量部であり、かつ、加脂剤(c)の量が、8.0~9.5質量部である、請求項
1に記載の革の製造方法。
【請求項3】
上記段階(III-0)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)であり、上記段階(III-1)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)であり、かつ、上記段階(III-2)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)である、請求項1
又は請求項2に記載の革の製造方法。
【請求項4】
自動車シート用の、請求項1~
請求項3のいずれか一つに記載の革の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、革の製造方法に関し、更に詳しくは、前処理工程、なめし工程、再なめし工程、及び、乾燥・仕上げ工程を順次含む革の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
革は、天然素材の表皮材として、靴、バッグ、衣料などのように直接身につけるものから、家具、装飾品、スポーツ用品、さらには工業用等広範囲に利用されており、シート、インストルメントパネル、ドアパネルなど自動車内装部品の表皮材としても多く使われている。革に要求される品質は、用途に応じて多岐にわたり、自動車用シートに用いる革については、広範な温度範囲、直射日光、乗降繰り返しなど厳しい使用環境に適応するため、高い水準の耐摩耗性、耐光性、耐もみ性などの耐久性が第一に求められてきた。近年では、これらに加えて、柔軟性及び良好な触感などの高級感を持つ革、汚れがつきにくい革、揮発物質を抑制した革など種々の改善がなされてきている。また、外観が優れていることも革に求められる重要な品質であるが、最近、シート形状の複雑化にともなって、特に革の表側がへこむように湾曲した部分(凹湾曲部)でシワの発生がみられ、その抑制が求められている。この要因として、革パーツの裏面にクッション材を、縫製に代えて接着により取り付けるようになったことが考えられた。
【0003】
革の自動車シートのシワは、搭乗者の乗降繰り返しによる摩擦によって、特に座面や背面の両側の盛り上がった部分(ボルスター部)で発生することがあり、このようなシワを低減した革として、例えば、再鞣し工程で使用する合成再鞣し剤、樹脂を最適化し、さらにアルミニウム化合物を使用して伸びの復元力を高めた革が提案されている(特許文献1)。しかし、凹湾曲部で発生するシワは自動車シートの製造直後からみられるもので、乗降繰り返しによるシワとは発生原因が異なるとみられ、十分に改善するには至らなかった。この発明においては、いわゆる再なめし工程は、合成なめし及び樹脂から構成され再なめし剤による再なめし処理と、それに続く染色の後に行われる、加脂剤による加脂処理との二段階から成るものである。
【0004】
また、自動車のインストルメントパネル用の革において、基材に湿気硬化性接着剤を用いて革を接着した後、接着剤を硬化させるため高湿度の環境にしたときに発生するシワを抑制した革が提案されている(特許文献2)。解決手段として、熱収縮率の低いクロムフリーなめしを採用し、革線維をほぐして革を柔らかくする空打ちをやめ、さらに真空乾燥することにより革線維を圧縮し、プレヒート工程を新たに設けてあらかじめ熱収縮をおこして極力線維を緻密化することによりシワの発生を抑えたものである。このような手段では、シワが抑制される一方で革が非常に硬いものになり、柔軟性が求められる自動車用シートに適するものではなかった。この発明においても、いわゆる再なめし工程は、合成なめし及び樹脂から構成され再なめし剤による再なめし処理と、それに続く染色の後に行われる、加脂剤による加脂処理との二段階から成るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-144061号公報
【文献】特開2010-121012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば、自動車シート用として使用されたとき、革の裏面にクッション材を接着してシートに被せる際に、シート本体の曲面、とりわけ、表面がへこむように湾曲した部分(「凹湾曲部」ともいう、
図11の四角で囲った部分参照)において曲げ力により発生するシワ(以下、「接着シワ」と言うことがある。)、及び、人が乗降を繰り返す際に発生するシワ(以下、「乗降シワ」と言うことがある。)の発生が著しく抑制されているばかりではなく、自動車シート用の革に求められる耐久性、及びほど良い柔軟性を兼ね備えた革の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、まず凹湾曲部のシワの発生原因について検討した。革を自動車シートのカバーとして用いる場合には、裁断した革パーツを、自動車シートの形状に合わせて縫製して結合して革トリムカバーをつくり、ウレタン製のシート本体に被せるようにする。このとき、革トリムカバーを作製する前に、革パーツの裏側に、厚み5~20mm程度の発泡ウレタンのシート状のクッション材を取り付けておくのが一般的である。従来は、革パーツの周囲を縫製してクッション材をとりつけていたが、革がクッション材とずれてたるみが起きることがあったため、縫製に代えて、不織布状のホットメルト接着剤で革とクッション材を接着することが多くなってきた。革は、比較的伸びやすい素材であるが、クッション材は革に比べるとかなり伸びにくいので、クッション材を革の裏面に接着すると革はクッション材により拘束されて伸びにくくなる。このような状態で、革の表面がへこむように湾曲することによってシワが発生するのではないかと考えた。実際に、革の断面を観察してみると、シワの部分では、革が網状層(革の裏面側の太い線維束がゆるやか交絡した線維構造の層)と乳頭層(革の表面側の細かい線維が緻密に交絡した線維構造の層)の間でずれ及び/又は剥離がおこり、乳頭層が盛り上がっている様子が見られた。ずれ及び/又は剥離がおきる原因は、裏面が拘束されて伸びなくなった状態で、表面が凹むように革を湾曲させると、表面を圧縮する応力が拘束のないときに比べて強く加わるためと考えた。
【0008】
そこで、革線維同士の結合をより強固にするとともに、線維間の空隙を減らして線維構造を安定させ、応力による歪を小さくし、線維構造の異なる網状層と乳頭層のずれ及び/又は剥離を抑えることによって接着シワを改善できると考え、種々の検討を重ねた。従来から、製造された革の特性を改善するためには、再なめし工程での処理を適切に変更することが有効であると考えられていたことから、本発明者らは、まず、再なめし工程で使用する再なめし剤及び樹脂の種類を種々変更することを試みた。その結果、下記所定の再なめし剤と樹脂との組み合わせにおいて、ある程度、シワ(ここで、単にシワと言うときは接着シワ及び乗降シワの両者を含む。)の抑制効果を高めることができたが、上記課題を解決し得るにはほど遠いものであった。そこで、本発明者らは、これら所定の再なめし剤と樹脂の添加量をいろいろ変えてみたところ、添加する樹脂の量を大幅に増加すると、シワの発生を大幅に抑制し得ることが分かった。しかし、その一方、出来上がった革は非常に硬く、例えば、自動車シート用としての使用に耐え得るものではなかった。ここで、再なめし工程の一環として実施されている加脂処理は、革に柔軟性を付与するために行われているものであることから、このように、硬い革が得られるに際しては、加脂剤の添加量を増やすことが有効であろうと考えた。そこで、加脂剤の添加量を増やしたところ、柔軟性の付与という点において一定の効果を有していたものの、依然として、得られた革は硬く、自動車用シートに使用した際に乗り心地が悪いという欠点を解消し得ず、加えて、シート製造が困難になることもあり、やはり、自動車シート用としての使用に耐え得るものではなかった。本発明者らは、この原因を追求したところ、樹脂が、革を構成する線維と線維との間に適量かつ均等に充填されていないためではないかとのことに思い至った。本発明者らは、更に検討を重ねたところ、樹脂を、革を構成する線維間に適量かつ均等に充填するためには、下記所定の再なめし剤、樹脂及び加脂剤の添加量を相互に適切に調節する必要があるのではないかと考えた。そこで、樹脂及び加脂剤の添加量を増やしつつ、再なめし工程における処理を、下記のように数段階に分け、かつ、下記所定の樹脂及び加脂剤を所定量に分割して添加すると共に、下記所定の再なめし剤と組み合わせることにより、樹脂の添加量をある程度多くしても、シワが発生し難く、かつ、ほど良い柔軟性を有する革を製造し得ることを見出したのである。そして、本発明者らは、例えば、自動車シート用として十分に満足のいくほど、シワ発生が更に抑制され、かつ、更に良好な柔軟性を有する革を得るためには如何にすればよいかを、更に検討し続けた。そして、上記のようにして再なめし処理をして得た革を、続く、乾燥工程において、下記所定の条件で減圧乾燥と大気圧乾燥とを組み合わせると、十分にシワの発生が抑制されるばかりではなく、非常に優れた柔軟性をも有する革を製造することができ、該革は、自動車シート用として十分に満足のいくものであることが分かった。このような減圧乾燥と大気圧乾燥との組み合わせが、革に対してどのような作用を与えているのかは定かではないが、再なめし工程から得られた革の持つ性質等を乱すことなく、線維を規則正しく配列して革全体をふっくらとさせる働きがあるものと推察される。
【0009】
即ち、本発明は、
(1)(I)前処理工程、(II)なめし工程、(III)再なめし工程、及び、(IV)乾燥・仕上げ工程を順次含む革の製造方法であって、(III)再なめし工程が、(II)なめし工程から得られたシェービング革を、
(III-0)クロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)から成る再なめし剤(d)14.4~21.6質量部と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)7.0~10.6質量部、とを使用して、再なめし処理する段階、
(III-1)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)から成る再なめし剤(a)12.8~19.2質量部と、上記樹脂(b)19.7~29.5質量部、とを使用して再なめし処理し、同時に、合成油及び/又は天然油(c1)から成る加脂剤(c)3.4~5.2質量部を使用して加脂処理する段階、及び、
(III-2)上記樹脂(b)5.3~7.9質量部を使用して樹脂なめし処理し、同時に、上記加脂剤(c)7.0~10.4質量部を使用して加脂処理する段階、
ここで、上記再なめし剤(a)、樹脂(b)、加脂剤(c)及び再なめし剤(d)の量は、いずれもシェービング革100質量部(乾燥基準)に対する量である、
を順次含み、かつ、
(IV)乾燥・仕上げ工程における乾燥が、(III)再なめし工程から得られた革を、
(IV-1)35~45℃において1~5分間減圧乾燥する段階、及び、
(IV-2)35~45℃において10~40分間大気圧乾燥する段階
を順次含む、革の製造方法である。
【0010】
好ましい態様として、
(2)加脂剤(c)を構成する合成油及び/又は天然油(c1)が、O/W型エマルジョンとして存在し、かつ、油(c1)の油滴の形状が略楕円球である、上記(1)記載の革の製造方法、
(3)上記油(c1)の略楕円球の形状を有する油滴の数が、油滴全体の数の60%以上である、上記(2)記載の革の製造方法、
(4)上記油(c1)の略楕円球の形状を有する油滴の数が、油滴全体の数の90%以上である、上記(2)記載の革の製造方法、
(5)上記段階(III-0)において、再なめし剤(d)の量が、16.0~20.0質量部であり、かつ、樹脂(b)の量が、8.0~9.5質量部であり、上記段階(III-1)において、再なめし剤(a)の量が、14.5~17.5質量部であり、樹脂(b)の量が、22.0~27.0質量部であり、かつ、加脂剤(c)の量が、4.0~4.7質量部であり、及び、上記段階(III-2)において、樹脂(b)の量が、6.0~7.2質量部であり、かつ、加脂剤(c)の量が、8.0~9.5質量部である、上記(1)~(4)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(6)上記段階(III-0)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)である、上記(1)~(5)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(7)上記段階(III-1)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)である、上記(1)~(6)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(8)上記段階(III-2)において使用する樹脂(b)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)である、上記(1)~(7)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(9)上記段階(III-1)において、再なめし剤(a)が、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)に加えて、更に、芳香族スルホン酸及び芳香族カルボン酸のナトリウム塩(a2)3.0~6.0質量部を含む、上記(1)~(8)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(10)上記段階(III-2)において、加脂剤(c)が、合成油及び/又は天然油(c1)に加えて、更に、シリコーン含有ポリマー分散物(c2)10.0~17.0質量部を含む、上記(1)~(9)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(11)上記段階(III-1)と段階(III-2)との間で、段階(III-1)から得られた革に染色を施す、上記(1)~(10)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(12)(IV)乾燥・仕上げ工程において、(IV-1)減圧乾燥する段階、及び、(IV-2)大気圧乾燥する段階を経た革に空打ちを施す、上記(1)~(11)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(13)自動車シート用の、上記(1)~(12)のいずれか一つに記載の革の製造方法、
(14)上記(1)~(13)のいずれか一つに記載の革の製造方法により得られた革
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の革の製造方法によれば、例えば、自動車シート用として使用されたとき、接着シワ及び乗降シワの発生が著しく抑制されているばかりではなく、ほど良い柔軟性を兼ね備えた革を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、接着シワ評価試験において使用した試験片の裁断部位を示した概略図である。
【
図2】
図2は、もみ試験において使用した試験片の裁断部位を示した概略図である。
【
図3】
図3は、押し荷重試験において使用した試験片の裁断部位を示した概略図である。
【
図4】
図4は、押し荷重試験において使用した測定装置を示した概略図である。
【
図5】
図5は、曲げ長さ試験において使用した試験片の裁断部位を示した概略図である。
【
図6】
図6は、曲げ長さ試験において使用した測定装置を示した概略図である。
【
図7】
図7は、曲げ長さ試験の方法を概略的に示した図である。
【
図8】
図8は、伸び均一性評価試験において使用した試験片の裁断部位を示した概略図である。
【
図9】
図9は、接着シワ評価における1~5級の各基準を示す写真の一例である。
【
図10】
図10は、乗降シワ評価における1~5級の各基準を示す写真の一例である。
【
図11】
図11は、自動車用シート本体の曲面、とりわけ、表側がへこむように湾曲した部分(四角で囲った部分)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の革の製造方法は、(I)前処理工程、(II)なめし工程、(III)再なめし工程、及び、(IV)乾燥・仕上げ工程を順次含むものである。そして、本発明においては、(III)再なめし工程が、(II)なめし工程から得られたシェービング革を、(III-0)クロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)から成る再なめし剤(d)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)、とを使用して、再なめし処理する段階、(III-1)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)から成る再なめし剤(a)と、上記樹脂(b)とを使用して再なめし処理し、同時に、合成油及び/又は天然油(c1)から成る加脂剤(c)を使用して加脂処理する段階、及び、(III-2)上記樹脂(b)を使用して樹脂なめし処理し、同時に、上記加脂剤(c)を使用して加脂処理する段階を順次含み、かつ、(IV)乾燥・仕上げ工程における乾燥が、上記の(III)再なめし工程から得られた革を、(IV-1)減圧乾燥する段階、及び、(IV-2)大気圧乾燥する段階を順次含む。ここで、シェービング革とは、(II)なめし工程で得られた湿潤革の裏側(肉面)を削り取って得られた牛革を言い、通常、その厚さは、例えば、自動車用シート及び自動車用ハンドル等の用途に依存してほぼ一定の厚さ、好ましくは1.0~1.2mmに調整されており、かつ、その水分量も好ましくは50~60質量%でほぼ一定している。
【0014】
(III)再なめし工程では、通常、常法に従って、まず、シェービング革が、湯戻し、次いで、水洗浄されて、未結合のなめし剤、過剰の酸、シェービング時に生成して付着している革屑(シェービング屑)等が取り除かれる。次いで、各段階における処理に先立って中和処理がなされる。予め中和処理する際には、上記の水洗浄と共にすることもできる。中和処理とは、なめし後のシェービング革のpH値は通常、3~4程度であって多量の酸を含んでいることから、このPH値を5程度、例えば、4.7~5.2程度になるように調整する操作を言う。中和処理に使用される剤は公知であり、例えば、炭酸水素ナトリウム(重曹)、ギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム等が使用される。該中和処理は、一般的に広く採用されている公知の条件でなされ、通常、温度35~45℃において2~3時間程度である。このようにして中和処理された革は、通常、常法に従って水洗された後、下記の工程に供される。
【0015】
上記段階(III-0)においては、(II)なめし工程から得られたシェービング革が、クロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)から成る再なめし剤(d)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)、とを使用して、再なめし処理される。該再なめし処理は、上記のように予め革を中和処理した後に実施することができる。あるいは、革の中和処理と一緒に実施することもできる。
【0016】
該再なめし処理に使用するクロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)は、公知であり、通常、なめし剤として使用されているものを使用することができる。クロム(d1)としては、好ましくは、3価のクロム錯体(塩基性硫酸クロムなめし剤)が使用される。ここで、再なめし剤(d)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、14.4~21.6質量部、好ましくは16.0~20.0質量部、より好ましくは17.0~19.0質量部で使用される。再なめし剤(d)の量が、上記上限を超えては、硬くなり風合いが損なわれることがあり、一方、上記下限未満では、シワ抑制効果が不十分となることがある。また、上記の各再なめし剤(d1)及び(d2)の量は、その合計量が上記再なめし剤(d)の量の範囲になれば特に制限はない。ここで、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、クロム(d1)は、好ましくは7.2~10.8質量部、より好ましくは8.0~10.0質量部、更に好ましくは8.5~9.5質量部であり、グルタルアルデヒド(d2)は、好ましくは7.2~10.8質量部、より好ましくは8.0~10.0質量部、更に好ましくは8.5~9.5質量部である。上記の再なめし処理においては、(II)なめし工程において、通常、なめし剤として使用されている架橋力の強いクロム(d1)及びグルタルアルデヒド(d2)を、再なめし剤として使用することにより、革線維同士を架橋して応力による線維構造のゆがみを抑えることにより、革の網状層と乳頭層との間で生ずるずれ及び/又は剥離を抑制することができるのみならず、好ましくは、上記の量で使用することにより、革線維間での伸縮性及び復元性を更に高めることができる。ここで、クロムは革線維を構成するコラーゲンのカルボキシ基と反応し、グルタルアルデヒドはアミノ基と反応するので、両者は架橋点が異なる。このため、併用することにより架橋効果が上がると考えられる。
【0017】
また、樹脂(b)としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上が使用される。上記の樹脂(b1)を構成するアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマーとは、これらモノマーを夫々単独で重合させたポリマー(単独重合体)であり、これらポリマーの混合物とは、これら単独で重合させたポリマーの2種以上の混合物である。また、上記の樹脂(b2)を構成するアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマーとは、これらモノマーを2種以上重合させたポリマー(共重合体)であり、好ましくは、これらのモノマーの2種を重合させたポリマーであり、これらポリマーの混合物とは、これら2種以上から成るポリマーの2種以上の混合物である。また、該2種以上重合させたポリマーには、これらポリマーのグラフト重合体も含まれる。上記のポリマー(b1)及びポリマー(b2)の重量平均分子量は、いずれも、好ましくは1,000~250,000、より好ましくは1,000~100,000である。これらは、いずれも公知のものを使用することができる。上記のメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)も公知のものを使用することができる。例えば、一部がグリコールエーテル及び/又はアルキルグリコールエーテルでエーテル化されたメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(特開昭63-89599号公報)、メラミン-ホルムアルデヒド樹脂及び陰イオンにより変性されたメラミン-ホルムアルデヒド樹脂より成る樹脂混合物(特開昭63-89600号公報)等を使用することもできる。上記のメラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)の重量平均分子量は、好ましくは1,000~100,000、より好ましくは1,000~50,000である。本発明の革の製造方法においては、上記の樹脂(b)は、段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)に分割して添加される。段階(III-0)において、樹脂(b)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、7.0~10.6質量部、好ましくは8.0~9.5質量部、より好ましくは8.5~9.0質量部で使用される。樹脂(b)の量が、上記上限を超えては、出来上がった革が硬くなって柔軟性に欠けることがあり、一方、上記下限未満では、出来上がった革におけるシワの発生を効果的に抑制することができないことがある。また、上記の各樹脂(b1)、(b2)及び(b3)の量は、その合計量が上記樹脂(b)の量の範囲になれば特に制限はない。段階(III-0)においては、樹脂(b)として、より好ましくは、樹脂(b1)、即ち、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物が使用される。
【0018】
上記の段階(III-0)では、本発明の効果を損なわない範囲で、通常使用されている再なめし剤、及び、その他の公知の物質、例えば、pH調整剤、分散剤、柔軟剤、脱脂剤等を含めることもできる。該段階(III-0)は、通常、35~45℃の温度で2~3時間実施される。このようにして処理された革は、通常、常法に従って水洗された後、続く工程に供される。
【0019】
上記の段階(III-1)では、上記のように段階(III-0)で再なめし処理されたシェービング革が、更に、再なめし剤(a)と樹脂(b)とを使用して再なめし処理すると同時に、加脂剤(c)を使用して加脂処理される。再なめし処理に使用される再なめし剤(a)としては、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)が挙げられる。上記の芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)は公知である。芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)としては、好ましくは、芳香族スルホン酸2分子とホルムアルデヒド1分子とを縮合させたものが使用される。該芳香族スルホン酸としては、例えば、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホン化ジトリルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、スルホン化ジフェニルメタン、スルホン化ビフェニル、スルホン化テルフェニル、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、フェノールジスルホン酸、ジスルホン化ジトリルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルジスルホン、ジスルホン化ジフェニルメタン、ジスルホン化ビフェニル、ジスルホン化テルフェニル又はベンゼンジスルホン酸等が挙げられる。好ましくは、ナフタレンスルホン酸及びフェノールスルホン酸が使用される。芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)の重量平均分子量は、好ましくは100~5,000である。ここで、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物は、下記のようにして製造することができる。例えば、ナフタレンを、H2SO41.4当量用いて145℃で2時間スルホン化する。このようにして得られたナフタレンスルホン酸の混合物1,000グラム、ビスヒドロキシフェニルスルホン800グラム及び37%ホルムアルデヒド溶液250ミリリットルを、100~120℃で3時間反応して縮合し、得られた生成物をpH3.5に調節し、水酸化ナトリウム溶液及びフタル酸で酸価を80とした後、噴霧乾燥する。あるいは、ナフタレンを、H2SO41.4モル用いて145℃で3時間スルホン化した後、ホルムアルデヒド0.66モルを用いて3時間反応して縮合する。得られた生成物を冷却し、pH3.5に調節して、次いで、水酸化ナトリウム溶液及びグルタル酸で酸価を50とした後、噴霧乾燥する。これらナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物の重量平均分子量は、好ましくは200~2,000であり、中心は1,300程度である。市販品としては、例えば、Basyntan FO、Tamol NA(いずれも商標、STAHL社製)、Ukatan GM(商標、シル+ザイラッハ社製)、Tanigan BN(商標、ランクセス株式会社製)、Irgatan LV(商標、TLF社製)、BELLCOTAN A、BELLCOTAN PT、BELLCOTAN PS(いずれも商標、日本精化株式会社製)等が挙げられる。また、フェノールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物は、下記のようにして製造することができる。例えば、フェノールスルホン酸1モルとビスヒドロキシフェニルスルホン3モルとを、pH6~9に調整した水溶液中で、ホルムアルデヒド2モルと100~120℃で反応して縮合する。次いで、硫酸でpHを3.5に調節し、更に、フタル酸で酸価を120とした後、噴霧乾燥する。あるいは、フェノールスルホン酸(65%溶液)ナトリウム塩と、ビスヒドロキシフェニルスルホン(55%懸濁液)とを、2.5:1のモル比で混合する。該混合物に、ホルムアルデヒド(30%溶液)2.5 当量を添加し、112~115℃で3時間反応して縮合する。得られた縮合物を、アジピン酸で酸価を100とした後、噴霧乾燥する。これらフェノールスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物の重量平均分子量は、好ましくは400~4,000であり、中心は3,000程度である。市販品としては、例えば、Basyntan DLX-N、Basyntan MLB、Basyntan SL、Basyntan SW Liquid、Tamol NNOL(いずれも商標、STAHL社製)、Tanigan WLF(商標、ランクセス株式会社製)等が挙げられる。ここで、再なめし剤(a)、即ち、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、12.8~19.2質量部、好ましくは14.5~17.5質量部、より好ましくは15.0~17.0質量部で使用される。芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)量が、上記下限未満では、シワ抑制効果が不十分となることがあり、一方、上記上限を超えては、硬くなり風合いが損なわれることがある。
【0020】
上記の段階(III-1)において、再なめし剤(a)として、芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)に加えて、更に、芳香族スルホン酸及び芳香族カルボン酸のナトリウム塩(a2)及び/又は植物タンニン(a3)を使用することもできる。芳香族スルホン酸及び芳香族カルボン酸のナトリウム塩(a2)において、芳香族スルホン酸としては、上記の芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物(a1)において挙げたものと同じものを挙げることができる。また、芳香族カルボン酸としては、例えば、サリチル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等を挙げることができる。また、植物タンニン(a3)としては、例えば、ミモザ(ワットル)、ケプラチョ、ガンビア等の縮合型タンニン及びチェスナット、ミロパラン、タラ等の加水分解型タンニンが挙げられる。好ましくは、ミモザ(ワットル)タンニンが使用される。ここで、芳香族スルホン酸及び芳香族カルボン酸のナトリウム塩(a2)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、好ましくは2.0~7.0質量部で使用され、より好ましくは3.0~6.0質量部で使用され、更に好ましくは4.0~5.0質量部で使用される。また、植物タンニン(a3)は、同じくシェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、好ましくは8.0~19.0質量部で使用され、より好ましくは10.0~17.0質量部で使用され、更に好ましくは10.0~12.0質量部で使用される。
【0021】
段階(III-1)において再なめし処理に使用される樹脂(b)としては、上記の段階(III-0)と同じく、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)が使用される。樹脂(b)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、19.7~29.5質量部、好ましくは22.0~27.0質量部、より好ましくは24.0~25.5質量部で使用される。樹脂(b)の量が、上記上限を超えては、出来上がった革が硬くなって柔軟性に欠けることがあり、一方、上記下限未満では、出来上がった革におけるシワの発生を効果的に抑制することができないことがある。また、上記の各樹脂(b1)、(b2)及び(b3)の量は、その合計量が上記樹脂(b)の量の範囲になれば特に制限はない。シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、樹脂(b1)は、好ましくは5.3~8.5質量部、より好ましくは6.0~7.4質量部、更に好ましくは6.4~6.9質量部であり、樹脂(b2)は、好ましくは7.2~10.5質量部、より好ましくは8.0~9.8質量部、更に好ましくは8.8~9.3質量部であり、樹脂(b3)は、好ましくは7.2~10.5質量部、より好ましくは8.0~9.8質量部、更に好ましくは8.8~9.3質量部である。段階(III-1)においては、樹脂(b)として、より好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)が併用される。
【0022】
段階(III-1)おいて加脂処理に使用される加脂剤(c)としては、合成油及び/又は天然油(c1)が使用される。好ましくは、合成油と天然油との混合物が使用される。これら両者の混合比に特に制限はないが、好ましくは、合成油:天然油の質量比が、0.4~0.6:0.6~0.4である。油(c1)は、好ましくはO/W型エマルジョンとして存在し、ここで、油(c1):水の質量比が、好ましくは1:4~1:6であり、より好ましは1:4.5~1:5.5であり、通常、1:5程度である。また、油(c1)の油滴の形状に特に制限はなく、好ましくは、略球又は略楕円球のものが使用され、より好ましくは、略楕円球のものが使用される。油滴の形状が略楕円球の油(c1)とは、一定の外力を加えると、例えば、革に加脂剤を施与する際に容器、例えば、円筒形ドラムを回転すると、油滴の形状が容易に変化して楕円球になるものである。通常、該エマルジョンを、凍結破断法により試料調製後、導電処理して、好ましくは10,000~15,000倍の倍率にて電子顕微鏡で観察して、油滴の形状が略円形又は略楕円形であるかを確認して、上記いずれかであるかを判断し得る。油(c1)において、略球の形状を有する油滴の数、即ち、上記と同様な電子顕微鏡視野における略円形の油滴の数は、油滴全体の数の好ましくは80%以上であり、より好ましくは90%以上であり、同様に、略楕円球の形状を有する油滴の数、即ち、上記と同様な電子顕微鏡視野における略楕円形の油滴の数は、油滴全体の数の好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上であり、より更に好ましくは90%以上である。また、油(c1)の油滴の寸法は、上記と同様に電子顕微鏡視野において、略球のものについては、略円形の直径が、好ましくは5.0μm以下であり、略楕円球のものについては、略楕円形の長径が、好ましくは10.0μm以下であり、かつ、短径が、好ましくは5.0μm以下であり、及び、長径/短径の比の平均値が、好ましくは1.20~2.50、より好ましくは1.50~2.30、更に好ましくは1.50~2.00である。ここで、合成油としては、スルホン化油が使用され、スルホン化油とは、無水硫酸のようなスルホン化剤を炭化水素などに反応させて直接スルホン基(-C-SO3H)を結合して得られる自己乳化性油の総称であり、例えば、ポリオレフィンから成るアルキルスルホン酸が使用される。また、天然油としては、動植物グリセリドのエステル硫酸等の硫酸化油、魚油グリセリドのアルキルスルホン酸等の亜硫酸化油、モノグリセリド油等が挙げられる。該加脂剤(c)、即ち、合成油及び/又は天然油(c1)としては、市販品を使用することができ、例えば、Lipsol LQ(油滴の形状、略球)、Lipsol MSG(油滴の形状、略楕円球)、Lipsol MPA(油滴の形状、略楕円球)(いずれも商標、シル+ザイラッハ社製)等を挙げることができる。また、合成油及び/又は天然油(c1)から成る加脂剤(c)は、段階(III-1)及び(III-2)に分割して添加される。段階(III-1)において、合成油及び/又は天然油(c1)から成る加脂剤(c)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、3.4~5.2質量部、好ましくは4.0~4.7質量部、より好ましくは4.1~4.5質量部で使用される。加脂剤(c1)の量が、上記下限未満では、出来上がった革にほど良い柔軟性を付与することができないことがあり、一方、上記上限を超えると、シワが発生し易くなることがある。
【0023】
上記の段階(III-1)では、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の物質、例えば、pH調整剤、分散剤、柔軟剤、浸透剤、加脂剤等を含めることもできる。該段階(III-1)は、通常、15~30℃の温度で2~3時間実施される。また、段階(III-1)と共に又は段階(III-1)の終了後、公知の方法に従って、染色することが好ましい。染料としては、公知のものを使用することができ、例えば、酸性染料、反応染料等が挙げられる。このようにして処理された革は、通常、常法に従って水洗された後、続く工程に供される。
【0024】
段階(III-2)では、上記のようにして処理されたシェービング革が、更に、樹脂(b)を使用して樹脂なめし処理すると同時に、加脂剤(c)を使用して加脂処理がなされる。樹脂(b)としては、上記の段階(III-0)及び(III-1)と同じく、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b1)、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物(b2)、並びに、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物(b3)より成る群から選ばれる一つ以上の樹脂(b)が使用される。樹脂(b)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、5.3~7.9質量部、好ましくは6.0~7.2質量部、より好ましくは6.0~7.0質量部で使用される。樹脂(b)の量が、上記上限を超えては、出来上がった革が硬くなって柔軟性に欠けることがあり、一方、上記下限未満では、出来上がった革におけるシワの発生を効果的に抑制することができないことがある。また、上記の各樹脂(b1)、(b2)及び(b3)の量は、その合計量が上記樹脂(b)の量の範囲になれば特に制限はない。段階(III-2)においては、樹脂(b)として、より好ましくは、樹脂(b1)、即ち、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物が使用される。
【0025】
段階(III-2)における加脂剤(c)としては、上記の段階(III-1)に記載した加脂剤と同じ加脂剤、即ち、合成油及び/又は天然油(c1)が使用される。ここで、合成油及び/又は天然油(c1)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、7.0~10.4質量部、好ましくは8.0~9.5質量部、より好ましくは8.5~9.0質量部で使用される。加脂剤(c1)の量が、上記下限未満では、出来上がった革にほど良い柔軟性を付与することができないことがあり、一方、上記上限を超えると、シワが発生し易くなることがある。
【0026】
上記の段階(III-2)において、加脂剤(c)として、上記の合成油及び/又は天然油(c1)に加えて、更に、シリコーン含有ポリマー分散物(c2)を使用することもできる。シリコーン含有ポリマー分散物(c2)は、出来上がった皮革に撥水性を付与するものであり、該シリコーン含有ポリマー分散物(c2)としては、市販品を使用することができ、例えば、Densordrin DP(商標、STAHL社製)等を挙げることができる。ここで、シリコーン含有ポリマー分散物(c2)は、シェービング革100質量部(乾燥基準)に対して、好ましくは10.0~17.0質量部で使用され、より好ましくは12.0~15.0質量部で使用される。また、段階(III-2)においては、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の物質、例えば、柔軟剤、消臭剤、防かび剤、固着剤等を含めることもできる。該段階(III-2)は、通常、40~60℃の温度で0.5~2時間実施される。このようにして処理された革は、通常、常法に従って水洗された後、続く工程に供される。
【0027】
本発明においては、(III)再なめし工程から得られた革は、続く、(IV)乾燥・仕上げ工程において、(IV-1)減圧乾燥する段階、及び、(IV-2)大気圧乾燥する段階に順次付される。上記の減圧乾燥の条件は、温度が35~45℃、好ましくは37~43℃であり、圧力は、大気圧(約101kPa)未満の圧力であればよく、好ましくは25~45kPa、より好ましくは30~40kPaであり、時間が1~5分間、好ましくは2~4分間である。また、上記の大気圧乾燥の条件は、温度が35~45℃、好ましくは37~43℃であり、時間が10~40分間、好ましくは20~30分間である。本発明においては、このような条件で、減圧乾燥と大気圧乾燥を組み合わせて順次実施することにより、(III)再なめし工程から得られた革が持っている、ほど良い柔軟性を維持しつつ、シワの発生を更に効果的に抑制することができる。ここで、減圧乾燥は、(III)再なめし工程から得られた革を、革表面がステンレス鋼製の平板上に接するようにして広げて伸ばし、反対側の面(革の裏面)を網状板で覆って、これら二つの板で革を挟み、全体を所定圧力に減圧すると共に、上記所定温度で上記所定時間保持することにより実施する。また、大気圧乾燥は、減圧乾燥後の革を、例えば、糸コンベア(直径約 2mmの糸をロール1段あたり約200本張ったコンベア)式の乾燥炉内(7段ある炉の最上段から革が入りつづら折りに下りながら炉内を移動する)において、革の両面から上記所定温度の温風を吹き付けつつ、上記所定時間、乾燥炉内を移動させることにより実施する。
【0028】
本発明の革の製造方法において、(III)再なめし工程、及び、(IV)乾燥・仕上げ工程のうち乾燥以外の工程、即ち、(I)前処理工程、(II)なめし工程、及び、(IV)仕上げ工程は、従来公知の方法により実施することができる。(I)前処理工程(準備工程とも称される)とは、なめし前の準備作業を行う工程であり、成牛の原皮から毛、表皮、不要タンパク質、脂肪等、革として不要な成分を除去し、真皮層のコラーゲン線維束をほぐして革としての性質を高めるために行う精錬作業の総称を言う。まず、水漬けして、成牛皮組織に水分を補給して生皮に近い状態に戻すとともに、原皮に付着している汚物、塩、皮中の可溶性タンパク質等を洗浄除去又は溶出させる。水洗い後、皮を取り出しフレッシングして、裏にべ(脂肪及び肉)を機械的に除去する。次いで、石灰漬けを行う。石灰漬けとは、酸化カルシウムを過飽和濃度に調製した石灰溶液に原皮を浸漬処理する作業であり、通常、その作用を強めて処理時間を短縮するために、硫化ナトリウム等の脱毛促進剤を添加した石灰溶液が使用される。これにより、毛、表皮の破壊、不必要なタンパク質の除去、脂肪酸エステルのケン化がなされると共に、皮は膨潤し、線維構造が緩められてほぐされる。この処理を効果的にするため、石灰漬けを分けて、脱毛を主とする脱毛石灰漬けとその後の純石灰溶液だけの再石灰漬けを行うことが多い。これによって皮の線維構造の均質化と革の柔軟化が促進される。該石灰漬けにより、皮表面の毛を溶解させ、皮表面の垢を取り、皮内部に石灰を浸透させて、線維がほぐされる。脱毛後、次いで、分割がなされる。裸皮の厚さは皮の部位間及び皮間で差異があるため、皮革の厚さを調整するために、皮を銀層(皮の表面)と床(皮の裏面)にバンドナイフを用いて分割する。この工程では、表皮のケラチン、下層のエラスチンを取り去ることを目的に処理が行われる。革はコラーゲン線維以外の部分が皮組織から除去された状態となっている。
【0029】
続く(II)なめし工程においては、(I)前処理工程で得られた銀層及び床について、まず、前工程で使用された石灰を中和して除去する脱灰が行われる。該脱灰は、次いで行われる酵解において使用されるたんぱく質分解酵素が、銀層及び床に作用し易くするための処理であり、塩化アンモニウム1~2%含有亜硫酸水素ナトリウム等を含有した水を30~35℃の温度で散布することにより実施される。次いで、たんぱく質分解酵素として、パンクレアチン等の酵素を配合したベーチング剤を利用して、酵素0.8~1.2質量%、塩化アンモニウム0.5質量%を含有する水を、銀層及び床に浸透させて酵解し、コラーゲン組織を柔らかくして、酵素を除去して、次に、クロムなめし剤を用いてなめしを行う。クロムなめし剤としては、3価のクロム錯体が使用され、3価のクロム原子を核として6個の配位子を持つものであり、クロムアンミン錯体[Cr(NH3)6]Cl3、クロムアクア錯体[Cr(H2O)6]Cl3等が挙げられる。該操作は、なめし剤を含む水を浸透させることにより行う。上記の脱灰、酵解及びなめし等の一連の処理は一つのドラム中で時間の経過をかけて行う。なめし処理が終了した後、脱水し、目的とする皮の厚さに漉いた後、裏側を削ることにより厚さを調整し(この操作をシェービングと言う)、更に、皮周縁の不要部分を切り取る(この操作をトリミングと言う)。該一連の操作により、シェービング革が得られる。該シェービング革が、続く(III)再なめし工程において使用される。本発明においては、(III)再なめし工程における上記の各段階の処理が実行される。
【0030】
次いで、(IV)乾燥・仕上げ工程における(IV-1)減圧乾燥する段階、及び、(IV-2)大気圧乾燥する段階を順次経て得られた革は、続く、仕上げ工程に供される。該仕上げ工程では、上記の乾燥段階を経て、乾燥した状態にある革に対して、味いれをして水分を調節する。次いで、バイブレーションステーキングにより革の柔らかさを調整し、その後、空うちして革の線維をほぐして革を柔らかくする。ここで、空打ちとは、上記の乾燥段階を経た革をドラムに入れて回転させることにより、落下の衝撃で革線維をほぐし、柔らかくする工程である。自動車シート用の革では、柔らかさが求められるので、一般に工程に取り入れることが多く、通常3~4時間行っている。革線維の緻密な交絡がゆるむため、シワの発生を抑える目的には沿わないこともある。本発明では、特に硬めに仕上げる場合を除き、通常より短縮して1~2時間程度実施する。本発明では、所定の加脂剤(c)を使用していることから、処理時間を短縮しても柔らかい革が得られる。次いで、トグルにより革をネットに固定して引っ張るネット張り乾燥を行う。所望により、上記の味入れ、バイブレーションステーキング、空うち、ネット張り乾燥の操作を繰り返して行うこともできる。次いで、乾燥したことにより硬くなった縁部、トグルのはさみ跡、極端に薄い部分の切り取りを行い革の形を整えるトリミングを行う。革の表面に塗装及び着色を行い、革の表面を保護すると共に、美観を高める仕上げを行う。仕上げには、好ましくはセミアニリン仕上げを採用する。着色剤として染料と顔料を併用する。バインダーには、カゼインを主成分とするタンパク質系、及び/又は、エマルジョン又は水溶性タイプの合成樹脂を配合して用いることができ、銀面の傷及び不均一さをカバーして、皮表面の銀面模様を残す。従って、小さな傷が目立たないようにすることができ、無色又は着色剤による着色皮膜を形成する。塗装方法にはロータリースプレーマシンを用いる。このような一連の工程を経ることにより、最終的に本発明の革を製造することができる。
【0031】
以下、実施例において本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
物質
実施例及び比較例において使用した各物質は下記の通りである。
【0033】
(a)再なめし剤
(a1)芳香族スルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物:
Ukatan GM(商標、シル+ザイラッハ社製、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、重量平均分子量:1,400)
Basyntan FO(商標、STAHL社製、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物、重量平均分子量:1,300)
【0034】
(b)樹脂
(b1)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる1種から成るポリマー又はこれらポリマーの混合物:
Relugan RV(商標、STAHL社製、上記各物質のホモポリマーの混合物、重量平均分子量:70,000)
(b2)アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルより成る群から選ばれる2種以上から成るポリマー又は該ポリマーの混合物:
Relugan RE(商標、STAHL社製、上記各物質のコポリマーの混合物、重量平均分子量:100,000)
(b3)メラミンとホルムアルデヒドの重縮合物:
Relugan DLF(商標、STAHL社製、重量平均分子量:50,000)
【0035】
(c)加脂剤
(c1)合成油及び/又は天然油:
Lipsol MSG(商標、シル+ザイラッハ社製、合成油及び天然油の混合物、合成油:天然油(質量比)=約1:1、O/W型エマルジョン、油:水(質量比)=約1:5、油滴形状:略楕円球、油滴全体中の略楕円球の数:90%以上、略楕円球の寸法:長径6.5μm以下、短径4.0μm以下、長径/短径の比の平均値約1.80)
Lipsol LQ(商標、シル+ザイラッハ社製、合成油及び天然油の混合物、合成油:天然油(質量比)=約1:1、O/W型エマルジョン、油:水(質量比)=約1:5、油滴形状:略球、油滴全体中の略球の数:95%以上、略球の寸法:直径3.0μm以下
【0036】
(d)再なめし剤
(d1)クロム:
3価のクロム錯体(BASOCHROM33、VOELPKER社製)
(d2)グルタルアルデヒド
【0037】
(実施例1)
使用した革は、上記公知の(I)前処理工程において処理し、次いで、同じく上記公知の(II)なめし工程において、革(ウェットブルー)を、40℃の水により約8時間処理して湯戻しを行った後、該水を除去し、更に、40℃の水により約10分間水洗した後、該水を除去し、次いで、脱水(水絞り)し、得られた革の床面を削って(シェービング)厚度調整をして得たシェービング革である。該シェービング革の寸法は、縦(頭尻方向)200~300cm、幅(背腹方向)160~300cmであった。該シェービング革を、幅がほぼ半分になるように縦方向に裁断して半裁革を得た。該半裁革を該実施例において使用した。使用した装置は、直径約120cm、高さ約50cmの円筒形ドラムであり、該ドラムを横置きにして、各処理中においてドラムの回転数が18rpmになるように設定した。該装置に上記シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、40℃の水により約10分間水洗した後、該水を除去した。次いで、40℃の水100質量部(約15リットル)にギ酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを夫々1.5質量部添加し、かつ、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを、夫々9.0質量部(合計18.0質量部)、並びに、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.8質量部添加して、約2時間半処理して中和処理と同時に、段階(III-0)の再なめし処理を実施した後、該水を除去した。次いで、25℃の水により約5分間水洗した後、該水を除去した。次いで、25℃の水を装入し、更に、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを5.0質量部及びBasyntan FOを11.0質量部(合計16.0質量部)添加し、加えて、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、樹脂(b1)としてRelugan RVを6.6質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを9.0質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを9.0質量部(合計24.6質量部)添加し、更に、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、加脂剤(c1)として、Lipsol MSG(油滴形状:略楕円球)を4.3質量部添加して50分間処理して、(III-1)の再なめし及び加脂処理する段階を実施し、次いで、染料(TLF社製セラセット)を投入して60分間処理し、ギ酸を用いてpHを4に調整して染料を固着させた(染色)後、該水を除去した。(III-1)の再なめし及び加脂処理する段階、及び、その後染料を固着させて水を除去するまでの時間は、合計約2時間であった。次いで、50℃の水により約5分間水洗した後、該水を除去した。次いで、60℃の水を装入し、更に、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを8.7質量部添加し、かつ、樹脂(b1)としてRelugan RVを6.6質量部添加して、約1時間処理して、(III-2)の樹脂なめし及び加脂処理する段階を実施した後、該水を除去した。次いで、50℃の水で約5分間、更に、25℃の水で約5分間水洗した後、該水を除去して、(III)再なめし工程を終了した。
【0038】
(III)再なめし工程を終了後、セッターを使用して、得られた湿潤革を伸ばし、表面を平滑にすると共に形を整えて、革の水分量を約50質量%とした。次いで、該革を、その表面がステンレス鋼製の平板上に接するようにして広げて伸ばし、反対側の面(革の裏面)を約50メッシュの網状板で覆って、これら二つの板で革を挟み、蓋をして減圧乾燥を実施した。減圧乾燥の条件は、温度が40℃であり、圧力が約40kPaであり、時間は2分間であった。減圧乾燥後の革を、次いで、40℃の温風を30分間革の両面に吹き付けて大気圧乾燥を実施して、最終的に水分約15質量%に乾燥された革を得た。該革を、続く、仕上げ工程に供して、バイブレーションステーキングにより革の柔らかさを調整し、その後、空うちを1時間実施して革の線維をほぐして革を柔らかくした。次いで、ベースコート、カラーコート及びトップコートを施した後、下記の特性評価に供した。各特性評価には得た革各1枚を使用した。
【0039】
(実施例2)
シェービング革(水分:約56質量%)5枚を仕込み、加脂剤(c1)Lipsol MSG(油滴形状:略楕円球)を、Lipsol LQ(油滴形状:略球)に代えた以外は、実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0040】
(実施例3)
該実施例は(III)再なめし工程の各段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する各物質の添加量を本発明の範囲内で減らしたものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを、夫々7.65質量部(合計15.3質量部)、並びに、樹脂(b1)としてRelugan RVを7.5質量部添加し、段階(III-1)の再なめし及び加脂処理において、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを4.3質量部及びBasyntan FOを9.4質量部(合計13.6質量部)添加し、加えて、樹脂(b1)としてRelugan RVを5.6質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを7.7質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを7.7質量部(合計20.9質量部)添加し、更に、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを3.7質量部添加し、段階(III-2)の樹脂なめし及び加脂処理において、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを7.4質量部添加し、かつ、樹脂(b1)としてRelugan RVを5.6質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0041】
(実施例4)
該実施例は(III)再なめし工程の各段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する各物質の添加量を本発明の範囲内で増やしたものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを、夫々10.35質量部(合計20.7質量部)、並びに、樹脂(b1)としてRelugan RVを10.1質量部添加し、段階(III-1)の再なめし及び加脂処理において、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを5.75質量部及びBasyntan FOを12.75質量部(合計18.5質量部)添加し、加えて、樹脂(b1)としてRelugan RVを7.7質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを10.35質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを10.35質量部(合計28.4質量部)添加し、更に、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを5.0質量部添加し、段階(III-2)の樹脂なめし及び加脂処理において、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを10.0質量部添加し、かつ、樹脂(b1)としてRelugan RVを7.7質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0042】
(比較例1)
シェービング革(水分:約56質量%)5枚を仕込み、減圧乾燥を実施せず、40℃の温風を50分間革の両面に吹き付けて、革の水分量が約50質量%から約15質量%になるように大気圧乾燥を実施した以外は、実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0043】
(比較例2)
該比較例は、樹脂(b)の合計添加量を減らし、かつ、各段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する樹脂の添加量を本発明の範囲未満としたものである。シェービング革(水分:約56質量%)5枚を仕込み、樹脂(b)の添加量の合計を25.0質量部とした。それに伴って、段階(III-0)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを5.5質量部とし、段階(III-1)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを4.2質量部、樹脂(b2)としてのRelugan REを5.6質量部、及び、樹脂(b3)としてのRelugan DLFを5.6質量部(合計15.4質量部)とし、かつ、段階(III-2)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを4.1質量部とした。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0044】
(比較例3)
シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、加脂剤(c1)Lipsol MSGの添加量の合計を5.0質量部とした。それに伴って、段階(III-1)における加脂剤(c1)の添加量を1.7質量部として、かつ、段階(III-2)における加脂剤(c1)の添加量を3.3質量部とした。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0045】
(比較例4)
該比較例は、段階(III-0)を実施せず、樹脂なめしを段階(III-1)のみで実施し、かつ、加脂処理を段階(III-2)のみで実施したものである。実施例1と同じ装置にシェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、40℃の水100質量部(約15リットル)にギ酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを夫々1.5質量部添加して約2時間半処理して中和処理を行った後、該水を除去した。次いで、25℃の水により約5分間水洗した後、該水を除去した。段階(III-0)を実施せず、次いで、25℃の水(約15リットル)を装入し、更に、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを5.0質量部及びBasyntan FOを11.0質量部(合計16.0質量部)添加し、加えて、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、樹脂(b1)としてRelugan RVを22.0質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを9.0質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを9.0質量部(合計40.0質量部)添加して50分間処理して、(III-1)の再なめし処理する段階を実施した後、実施例1と同一にして、染料を固着させた(染色)。次いで、60℃の水を装入し、更に、シェービング革(乾燥基準)100質量部に対して、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを13.0質量部添加して、約1時間処理して、(III-2)の加脂処理する段階を実施した後、該水を除去した。次いで、50℃の水で約5分間水洗した後、該水を除去し、更に、25℃の水で約5分間水洗した後、該水を除去して、(III)再なめし工程を終了した。
【0046】
(III)再なめし工程を終了後、実施例1と同一にして減圧乾燥及び大気圧乾燥を実施して、最終的に水分約15質量%に乾燥された革を得た。次いで、実施例1と同一にして、仕上げ工程を経ることにより得た革を、下記の特性評価に供した。
【0047】
(比較例5)
該比較例は、樹脂なめしを段階(III-1)のみで実施し、かつ、加脂処理を段階(III-2)のみで実施したものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)及び段階(III-2)において樹脂(b1)Relugan RVを添加せず、段階(III-0)及び段階(III-2)における樹脂(b1)の合計添加量15.4質量部を、段階(III-1)における樹脂(b1)に加えて22.0質量部とした。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0048】
(比較例6)
該比較例は、段階(III-0)、段階(III-1)及び段階(III-2)おける樹脂の添加量のみを本発明の範囲未満にしたものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、樹脂(b)の添加量の合計を24.4質量部とした。それに伴って、段階(III-0)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを5.5質量部とし、段階(III-1)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを4.2質量部、樹脂(b2)としてのRelugan REを5.6質量部、及び、樹脂(b3)としてのRelugan DLFを5.6質量部(合計15.4質量部)とし、かつ、段階(III-2)において、樹脂(b1)としてのRelugan RVを3.5質量部とした。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0049】
(比較例7)
該比較例は、段階(III-0)、段階(III-1)及び段階(III-2)おける各物質の添加量を本発明の範囲未満にしたものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを、夫々6.3質量部(合計12.6質量部)、並びに、樹脂(b1)としてRelugan RVを6.2質量部添加し、段階(III-1)の再なめし及び加脂処理において、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを3.5質量部及びBasyntan FOを7.7質量部(合計10.2質量部)添加し、加えて、樹脂(b1)としてRelugan RVを4.6質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを6.3質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを6.3質量部(合計17.2質量部)添加し、更に、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを3.0質量部添加し、段階(III-2)の樹脂なめし及び加脂処理において、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを6.1質量部添加し、かつ、樹脂(b1)としてRelugan RVを4.6質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0050】
(比較例8)
該比較例は、段階(III-0)、段階(III-1)及び段階(III-2)おける各物質の添加量を本発明の範囲を超えるものとしたものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを、夫々11.7質量部(合計23.4質量部)、並びに、樹脂(b1)としてRelugan RVを11.4質量部添加し、段階(III-1)の再なめし及び加脂処理において、再なめし剤(a1)として、Ukatan GMを6.5質量部及びBasyntan FOを14.3質量部(合計20.8質量部)添加し、加えて、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.6質量部、樹脂(b2)としてRelugan REを11.7質量部、及び、樹脂(b3)としてRelugan DLFを11.7質量部(合計32.0質量部)添加し、更に、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを5.6質量部添加し、段階(III-2)の樹脂なめし及び加脂処理において、加脂剤(c1)として、Lipsol MSGを11.3質量部添加し、かつ、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.6質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0051】
(比較例9)
該比較例は、段階(III-0)において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドのいずれも添加しなかったものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドをいずれも添加せず、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.8質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0052】
(比較例10)
該比較例は、段階(III-0)において、再なめし剤(d1)クロムのみを添加し、(d2)グルタルアルデヒドを添加しなかったものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤として(d1)クロムのみを9.0質量部添加し、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.8質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0053】
(比較例11)
該比較例は、段階(III-0)において、再なめし剤(d2)グルタルアルデヒドのみを添加し、(d1)クロムを添加しなかったものである。シェービング革(水分:約55質量%)5枚を仕込み、段階(III-0)の再なめし処理において、再なめし剤として(d2)グルタルアルデヒドのみを9.0質量部添加し、樹脂(b1)としてRelugan RVを8.8質量部添加した。上記以外は実施例1と同一に実施して、下記の特性評価に供した。
【0054】
下記の表1には、上記の実施例1~4及び比較例1~11において使用した各物質の各段階における添加量(質量部)を示した。
【0055】
【表1】
表1中、各物質の添加量は、少数点第2位まであるものは第2位を四捨五入して表示している。
【0056】
評価方法
実施例及び比較例において製造した各革の評価に使用した試験法は、下記の通りである。
【0057】
<接着シワ評価>
実施例及び比較例において製造した各革(半裁革)について、
図1に示したように20分割して各部分の試験片を得た。ここで、
図1は概略図であり、必ずしも下記寸法と相似ではない。各試験片の寸法を、いずれも、縦(頭尻方向、X方向)170mm及び横(背腹方向、Y方向)170mmとした。革の裁断に当たっては、試験片と試験片の間隔を、X方向が全て約150mmとなるようにし、Y方向が全て約50mmとなるようにした。別途、内径100mmの円筒形のポリ塩化ビニル製パイプを、円の中心を通る面で2分割したもの(ハーフパイプ、長さ170mm以上)を用意した。次いで、各試験片の裏面に粘着テープ(株式会社大創産業製粘着シートスペアテープ)を貼りつけて裏面が拘束された状態にし、試験片の粘着テープ側を上記のハーフパイプの内面にぴたりと押し当てた。その状態で試験片を目視観察し、該シワの発生(抑制)程度を評価した。評価基準は下記の通りである。1級及び2級を合格とし、3級以下を不合格とした。20個の試験片のうち、10個以上(高確率50%以上)の試験片が合格(1級及び2級)であるものを最終的に合格とした。
1級:革表面に全くシワが観察されなかった。
2級:僅かにシワらしきものが観察されたが明らかなものではなかった。
3級:細い線状のシワが観察された。
4級:太い線状のシワが観察された。
5級:太く長い線状のシワが観察された。
また、
図9には、参考までに、上記の1~5級の各基準を示す写真の一例を示した。
図9において、左側の上から順次1、2、3級、右側の上から順次4、5級である。1級の写真では、シワ状のものは殆んど見られない。2級の写真では、中央付近にシワらしきものが僅かに見られる程度である。3級の写真では、中央付近に横方向に細い線状のシワが見られる。4級の写真では、3級の写真で見られたシワより大きい横方向のシワが見られる。5級の写真では、中央付近に太く長い線状のシワがはっきりとみられる。
【0058】
<乗降シワ評価>
実施例及び比較例において製造した各革(半裁革)について、
図2に示した部位から裁断して試験片を得た。各試験片の寸法を、いずれも短辺25mm及び長辺120mmとした。各試験片は、
図2に示したように、縦方向(頭尻方向、X方向)及び横方向(背腹方向、Y方向)から3片ずつ裁断して得た。装置としては、スコット型もみ試験機(テスター産業株式会社製)を使用した。掴み幅15mmに合せて試験片1片をセットし、9.8Nの荷重がかかるようにして、もみサイクル往復120回/分、ストローク40mmで往復100回(50秒間)もみ試験を実施した。縦方向の試験片3片及び横方向の試験片3片の合計6片について上記のようにもみ試験を実施して、各試験片のシワの発生(抑制)程度を目視観察して評価した。評価基準は下記の通りである。次いで、縦方向(X方向)及び横方向(Y方向)の各3片の試験片から、縦方向及び横方向の夫々の平均値を算出し、少数以下第一位を四捨五入して評価値とした。縦方向及び横方向ともに、1~3級を合格とした。
1級:革表面に全くシワが観察されなかった。
2級:革表面に細い線状のシワがうっすらと観察された。
3級:革表面に細い線状のシワが明らかに観察された。
4級:革表面にやや太い線状のシワが観察され、かつ、シワの盛り上がりも観察された。
5級:革表面に太いシワが盛り上がって観察された。
また、
図10には、参考までに、上記の1~5級の各基準を示す写真の一例を示した。
図10において、左側の上から順次1、2、3級、右側の上から順次4、5級である。1級の写真では、シワ状のものは殆んど見られない。2級の写真では、中央付近にシワらしきものがうっすらと見られる程度である。3級の写真では、中央付近に横方向に細い線状のシワが見られる。4級の写真では、3級の写真で見られたシワよりやや太く多少盛り上がった横方向のシワが見られる。5級の写真では、太く盛り上がった線状のシワがはっきりとみられる。
【0059】
<柔軟性評価>
柔軟性(剛軟度)に関しては、下記の二つの試験により評価した。
(1)押し荷重
実施例及び比較例において製造した各革(半裁革)について、
図3に示した部位から裁断して試験片4片を得た。各試験片の寸法を、いずれも一辺250mmの正方形とした。試験に使用した装置は、
図4に示すように、一辺250mmかつ厚さ35mmであって、そのほぼ中央に直径50mmの円柱形の貫通孔(2)を備える金属製平板(1)、及び、直径20mmの円柱であって、その先端に、革に損傷を生じない程度の所定の丸味を有した金属製プッシュプルゲージ(3)から構成されている。上記平板上面に試験片(4)を丁度重なるようにして固定し、プッシュプルゲージ(3)を試験片の上部から金属製平板(1)中央の円柱形の貫通孔(2)に27mm深さまで押し込み、その際の応力(N)を測定した。試験片4片について応力(N)を測定し、その平均値が12.0N~22.0Nである場合を合格とした。
(2)曲げ長さ
実施例及び比較例において製造した各革(半裁革)について、
図5に示した部位から裁断して試験片を得た。各試験片の寸法を、いずれも短辺25mm及び長辺200mmとした。各試験片は、
図5に示したように、縦方向(頭尻方向、X方向)及び横方向(背腹方向、Y方向)から3片ずつ裁断して得た。試験に使用した装置は、
図6に示すように、底面が一辺50mmの正方形であり、かつ、高さが200mmの直方体を横置きにし、一辺50mmの立方体を対角線で切断した三角柱を
図6に示すように45度の角度で該直方体の一端に配した形状から構成されるものである。該直方体の上面(5)には、上面(5)の長辺に平行に200mmの定規(6)が設けられている。
図7(I)に示すように、上記直方体の上面(5)の長さ200mmの部分に試験片(7)の長辺200mmがぴたりと一致するように、直方体の上面(5)に試験片(7)を設置する。次いで、
図7(II)に示すように、直方体の直角の端部側に存在する試験片(7)の端部(8)を指先で反対の端部側にゆっくりと押し出す。試験片(7)は直方体の45度に切られた端部側に押し出されて、下方に折れ曲がり始め、更に押し出すと、
図7(III)に示すように、押し出された部分の一端が45度に切られた傾斜面と接する。この時点で押出しを停止し、試験片(7)が押し出された長さ(mm)を測定する。測定は、1片の試験片について、一方の面を上向きにした場合に、試験片の二つの短辺の夫々を前後入れ替えて2点について押し出された長さを測定し、他方の面を上向きにした場合に、同様に試験片の二つの短辺の夫々を前後入れ替えて2点について押し出された長さを測定し、合計4点の平均を該試験片の曲げ長さとした。該測定を、縦方向及び横方向の各3片の試験片について実施し、縦方向及び横方向の夫々の平均値を算出した。そして、縦方向及び横方向共に、押出し長さ(mm)が90mm以下である場合を合格とした。
上記二つの評価試験のいずれをも合格した革は、革全体(表面及び裏面)が適度な剛性と適度な柔軟性を併せ持ち、例えば、自動車用シートして使用するとほど良い柔軟性を発揮するものである。
【0060】
<伸び均一性評価>
革の伸びの均一性の評価は、X方向及びY方向の夫々の伸び率及びセット率を測定することにより評価した。伸び率及びセット率は下記の通りに測定した。まず、
図8に示したように、実施例及び比較例において製造した各革(半裁革)の中央部付近から、縦方向(頭尻方向、X方向)及び横方向(背腹方向、Y方向)に裁断して試験片を得た。各試験片の寸法を、いずれも長辺250mm及び短辺80mmとした。次いで、試験片の中心点を通り、かつ、試験片の長辺に平行に長さ約100mmの直線を描いた。該直線は、試験片の中心点により2分割されるように描いた。次いで、該直線の長さをノギスで正確に測定した(該長さをLとする。)。該試験片の長手方向の両端部をクリップ状の留め具で固定し、一方を固定して他方に10kgの荷重をかけた。荷重をかけた状態で10分間保持し、その状態で上記直線の長さをノギスで測定した(該長さをL
1とする。)。測定後、荷重を開放し、留め具を外して該試験片を10分間静置し、その後、上記直線の長さをノギスで測定した(該長さをL
2とする。)。伸び率及びセット率は、縦方向(X方向)及び横方向(Y方向)の各1片の試験片について、夫々下記式により算出した。次いで、縦方向(X方向)の値から横方向(Y方向)の値を差し引いて評価値とした。
【0061】
【0062】
上記評価の結果を、下記の表2に示した。
【0063】
【0064】
実施例1は、本発明の方法で製造した革である。全ての評価結果が合格であり、得られた革は、接着シワ及び乗降シワの発生がいずれも著しく抑制されているばかりではなく、ほど良い柔軟性を兼ね備えた革であった。実施例2は、実施例1において使用した、油滴の形状が略楕円球である加脂剤を、油滴の形状が略球である加脂剤に代えたものである。押し荷重及び曲げ長さが増加して得られた革は硬くなったが、本発明の効果を損なうものではなかった。ここで、油滴の形状が略楕円球である加脂剤を使用した実施例1が、油滴の形状が略球である加脂剤を使用した実施例2に比べて、押し荷重及び曲げ長さ、即ち、革の柔軟性が良好なのは、加脂時に、油滴の形状が略楕円球であることから、より効果的に加脂剤が革線維中に浸透し得たためであると考えられる。実施例3は、実施例1に対して、(III)再なめし工程の各段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する各物質の添加量を本発明の範囲内で減らしたものである。接着シワの発生が幾分多くなったが本発明の効果を損なうものではなかった。実施例4は、実施例1に対して、(III)再なめし工程の各段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する各物質の添加量を本発明の範囲内で増やしたものである。接着シワの発生が多くなったが本発明の効果を損なうものではなかった。また、実施例3及び4はいずれも押し荷重及び曲げ長さは、実施例2と比較して低いものであったことから、略楕円球である加脂剤を使用すると、ほど良い柔軟性を兼ね備えた革を得ることができることが分かった。
【0065】
一方、比較例1は、実施例1において実施した、減圧乾燥を実施せず、大気圧乾燥のみにより所定の水分含有量まで革を乾燥したものである。得られた革の接着シワ及び乗降シワが共に著しく増加し、例えば、自動車シート用としての使用に耐え得るものではなかった。このように、減圧乾燥を実施ないと本発明の効果が得られないことが分かった。比較例2は、実施例1に対して、段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する樹脂の添加量を本発明の範囲未満としたものである。比較例1と同様に、得られた革の接着シワ及び乗降シワが共に著しく増加した。比較例3は、実施例1に対して、段階(III-1)及び段階(III-2)において使用する加脂剤の量を本発明の範囲未満にしたものである。シワの発生を著しく低減することができたものの、柔軟性が著しく低下した。比較例4は、実施例1に対して、段階(III-0)を実施せず、樹脂の全量を段階(III-1)において使用し、かつ、加脂剤の全量を段階(III-2)において使用したものである。例えば、特許文献1及び2記載の発明と同様に、再なめし工程では、まず、合成なめし及び樹脂から構成される再なめし剤を使用して再なめし処理し、染色後、加脂処理を施したものである。得られた革のシワの発生をある程度低減することができたものの、柔軟性が著しく低下した。比較例5は、実施例1に対して、樹脂なめしを段階(III-1)のみで実施し、かつ、加脂処理を段階(III-2)のみで実施したものである。得られた革のシワの発生をある程度低減することができたものの、柔軟性が著しく低下した。このように、比較例4及び5から、樹脂及び加脂剤を実施例1のように適切に分けて再なめし処理及び加脂処理を施さない場合には、得られた革に適切なシワ抑制効果と柔軟性を付与することができないことが分かった。比較例6は、実施例1に対して、段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)で使用する樹脂の添加量を本発明の範囲未満としたものである。比較例2と同様な結果となり、得られた革の柔軟性は良かったものの、接着シワ及び乗降シワが共に著しく増加した。比較例7は、実施例1に対して、段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)おける各物質の添加量を本発明の範囲未満にしたものである。また、比較例8は、実施例1に対して、段階(III-0)、(III-1)及び(III-2)おける各物質の添加量を本発明の範囲を超えるものとしたものである。いずれの比較例も、接着シワが著しく増加した。比較例9は、実施例1に対して、段階(III-0)において、再なめし剤である(d1)クロム及び(d2)グルタルアルデヒドを添加しなかったものであり、比較例10は、実施例1に対して、(d1)クロムのみを添加したものであり、比較例11は、実施例1に対して、(d2)グルタルアルデヒドのみを添加したものである。いずれも、接着シワ及び乗降シワ評価は著しく悪いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の革の製造方法によれば、例えば、自動車シート用として使用されたとき、接着シワ及び乗降シワが著しく抑制されているばかりではなく、ほど良い柔軟性を兼ね備えた革を製造することができることから、本発明の革の製造方法は、今後、大いに、例えば、自動車シート用の革の製造に使用されることが期待される。
【符号の説明】
【0067】
1 押し荷重測定装置の金属製平板
2 押し荷重測定装置の円柱形の貫通孔
3 押し荷重測定装置のプッシュプルゲージ
4 押し荷重測定用の試験片
5 曲げ長さ装置の直方体の上面
6 曲げ長さ装置の直方体の上面に設けられた定規
7 曲げ長さ測定用の試験片
8 直方体の直角の端部側に存在する試験片の端部