(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】防汚性高親水性焼付塗膜とその製造方法および熱交換器用アルミニウムフィン材と熱交換器および冷熱機器
(51)【国際特許分類】
F28F 19/04 20060101AFI20220804BHJP
F28F 1/32 20060101ALI20220804BHJP
F28F 21/08 20060101ALI20220804BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20220804BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20220804BHJP
C09D 201/04 20060101ALI20220804BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20220804BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20220804BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
F28F19/04 Z
F28F1/32 G
F28F21/08 A
C09D5/16
C09D7/61
C09D201/04
C09D171/02
C09D7/65
C09D133/00
(21)【出願番号】P 2017223185
(22)【出願日】2017-11-20
(62)【分割の表示】P 2017220447の分割
【原出願日】2017-11-15
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】P 2016243686
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】碓井 直人
(72)【発明者】
【氏名】川上 慎也
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-090105(JP,A)
【文献】特開2012-117702(JP,A)
【文献】特開2007-240083(JP,A)
【文献】特開2005-097703(JP,A)
【文献】特開2010-096416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/04
F28F 1/32
F28F 21/08
C09D 5/16
C09D 7/40
C09D 133/00
C09D 201/04
C09D 171/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の外面に形成される焼付塗膜であって、アルミナゾルに含まれるアルミナ粒子とスルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂とポリエチレングリコールを含み、水に可溶な硫黄成分が
0.05mg/m
2
以上0.5mg/m
2以下であり、塗膜量が0.3~0.8g/m
2である防汚性高親水性焼付塗膜。
【請求項2】
前記アルミナ粒子の平均粒子径が0.02~20μmであり、前記焼付塗膜固形分100質量%中にアルミナ粒子が5~45質量%含まれた請求項1に記載の防汚性高親水性焼付塗膜。
【請求項3】
表面の動摩擦係数が0.2以下である請求項1または請求項2に記載の防汚性高親水性焼付塗膜。
【請求項4】
前記焼付塗膜表面において前記アルミナ粒子の面積率が90%以上である請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の防汚性高親水性焼付塗膜。
【請求項5】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板材の外面に、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の焼付塗膜が形成されたアルミニウムフィン材。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウムフィン材が複数並列配置され、前記各アルミニウムフィン材に透孔が形成され、該透孔を挿通して前記アルミニウムフィン材と一体化される銅または銅合金からなる伝熱管が設けられた熱交換器。
【請求項7】
請求項6に記載の熱交換器を用いた冷熱機器。
【請求項8】
フィン材または伝熱管の外面に塗布される防汚性高親水性焼付塗膜の製造方法であって、アルミナゾルと
、スルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂と
、ポリエチレングリコールを混合して得た水系塗料をフィン材または伝熱管の外面に塗膜量0.3~0.8g/m
2の範囲で塗布した後、加熱乾燥して防汚性高親水性焼付塗膜を得た後、水洗または湯洗することにより防汚性高親水性焼付塗膜中の水に可溶な硫黄成分を0.5mg/m
2以下とすることを特徴とする防汚性高親水性焼付塗膜の製造方法。
【請求項9】
平均粒子径が0.02~20μmのアルミナ粒子を用い、前記焼付塗膜固形分100質量%中にアルミナ粒子を5~45質量%含ませることを特徴とする請求項8に記載の防汚性高親水性焼付塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性高親水性焼付塗膜とその製造方法および前記塗膜を備えた熱交換器用アルミニウムフィン材と熱交換器および冷熱機器に関する。
【背景技術】
【0002】
エアーコンディショナー用の熱交換器には、埃などの親水性の汚れや油分等の疎水性の汚れがフィン表面に付着することによって、フィン表面が撥水化し、結露水が送風によって飛散すること、いわゆる露飛びが発生する問題がある。
この露飛びを解決するためには、親水性汚れ、疎水性汚れ共にフィンに付着し難くする必要がある。
【0003】
熱交換器用フィンの表面に親水性を付与する技術として、フィン材表面にシリカ粒子を含有する有機高分子樹脂溶液で表面処理する技術や、アクリル系樹脂などからなる有機高分子物質とSiO2又はTiO2を含む水性組成物を混合して塗布し、乾燥することによって形成される皮膜によりアルミニウムフィン材を被覆する技術が知られている。
【0004】
以下の特許文献1には、Zr化合物を用いて金属架橋させたポリアクリル酸等の有機樹脂に、シリカ粒子、ポリエチレングリコールを含有した親水性塗膜をアルミニウム合金基材の表面に形成することが開示されている。
以下の特許文献2には、アルミニウム板に、樹脂とジルコニウムを含有する下地皮膜層を形成し、その上に、樹脂、コロイダルシリカ、ジルコニウム化合物を含有する親水性被膜層を形成することが開示されている。
【0005】
上述の露飛びを解決するための手法の一例として、親水性粒子と疎水性粒子の混合膜をアルミニウムフィンの表面に塗布することが有効であるが、親水性粒子として知られているコロイダルシリカを用いると、粒子硬度が高いため、アルミニウム板材からフィン材をプレス加工で作製する場合、金型摩耗を生じ易い問題がある。
そこで本願発明者らは先に親水性粒子としてモース硬度がコロイダルシリカより低いアルミナゾルを用い、疎水性粒子としてフッ素樹脂を混合することによって、親水性汚れと疎水性汚れの双方を付着し難くした塗膜構造について以下の特許文献3により提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-96416号公報
【文献】特許第4667978号公報
【文献】特開2016-90105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の塗膜をアルミニウムフィン材に形成することにより、親水性汚れと疎水性汚れの双方に有効であるとともに、金型摩耗の少ないフィン材を提供することができる。
そこで、上述の塗膜を備えたアルミニウムフィン材を用いて熱交換器を製造するため、複数のアルミニウムフィン材を用意し、これらフィン材を並列配置し、これらを貫通するように銅合金からなる伝熱管を設けて熱交換器コアを組み立て、環境試験を行った。
ところが、この環境試験を行うために作成した複数の熱交換器コアを数ヶ月保管したところ、保管環境によっては熱交換器コアの伝熱管の外周に緑色の変色部分を生じることが判明した。伝熱管の緑色の変色部分について本発明者らがEPMA(電子線マイクロアナライザー)およびESCA(X線光電子分光分析)により分析を行った結果、変色部分に正常部では存在しないClが存在し、正常部よりNa、Sが増加していることが判明した。また、この変色部分をFT-IR分析(フーリエ変換赤外分光分析)した結果、緑青とほぼ同等のピークが得られた。このことは変色部分に緑青を生じていると判断でき、伝熱管表層部に腐食を生じていることがわかった。
【0008】
本願発明は、これらの事情に鑑み、親水性汚れと疎水性汚れの両方に有効であり、金型摩耗の面でも問題を生じない防汚性高親水性焼付塗膜であり、長期保存しても銅からなる伝熱管に腐食などの問題を生じない防汚性高親水性焼付塗膜とその製造方法と前記塗膜を備えたアルミニウムフィン材および熱交換器と冷熱機器の提供を目的とする。本願発明は、これらの背景に鑑み、上述の優れた特徴を備えた防汚性高親水性焼付塗膜を備えた熱交換器を有する冷熱機器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防汚性高親水性焼付塗膜は、熱交換器の外面に形成される焼付塗膜であって、アルミナゾルに含まれるアルミナ粒子とスルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂とポリエチレングリコールを含み、水に可溶な硫黄成分が0.05mg/m
2
以上0.5mg/m2以下であり、塗膜量が0.3~0.8g/m2である。
本発明において、前記アルミナ粒子の平均粒子径が0.02~20μmであり、前記焼付塗膜固形分100質量%中にアルミナ粒子が5~45質量%含まれたことが好ましい。
【0010】
本発明において、表面の動摩擦係数が0.2以下であることが好ましい。
本発明の前記焼付塗膜表面において前記アルミナ粒子の面積率が90%以上であること
が好ましい。
【0011】
本発明のアルミニウムフィン材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板材の外面に、前記いずれかに記載の焼付塗膜が形成されたことが好ましい。
本発明の熱交換器は、先に記載のアルミニウムフィン材が複数並列配置され、前記各アルミニウムフィン材に透孔が形成され、該透孔を挿通して前記アルミニウムフィン材と一体化される銅又は銅合金からなる伝熱管が設けられたことが好ましい。
本発明の冷熱機器は、先に記載の熱交換器を用いたものである。
【0012】
本発明の製造方法は、フィン材または伝熱管の外面に塗布される防汚性高親水性焼付塗膜の製造方法であって、アルミナゾルと、スルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂と、ポリエチレングリコールを混合して得た水系塗料をフィン材または伝熱管の外面に塗膜量0.3~0.8g/m2の範囲で塗布した後、加熱乾燥して防汚性高親水性焼付塗膜を得た後、水洗または湯洗することにより防汚性高親水性焼付塗膜中の水に可溶な硫黄成分を0.5mg/m2以下とすることを特徴とする。
本発明の製造方法において、平均粒子径が0.02~20μmのアルミナ粒子を用い、前記焼付塗膜固形分100質量%中にアルミナ粒子を5~45質量%含ませることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の防汚性高親水性焼付塗膜であるならば、親水性汚れと疎水性汚れの両方に有効であり、露飛びの発生を防止できるとともに、フィン材として加工する場合に金型摩耗の面でも問題を生じない防汚性高親水性焼付塗膜を提供できる。
また、本発明の焼付塗膜であれば、フィン材表面に設け、熱交換器を組み立てるために銅または銅合金からなる伝熱管と組み合わせて長期保存した場合であっても、伝熱管に腐食発生などの問題を生じることがない。
本発明の製造方法によれば、水に可溶な硫黄成分を0.5mg/m2以下に抑制した上述の優れた防汚性高親水性焼付塗膜を得ることができる。
更に、上述の特徴を備えた熱交換器を備えた冷熱機器であるならば、露飛びの発生を抑えることができるとともに、製造段階でフィン材を伝熱管と組み合わせて長期保管した場合であっても伝熱管に腐食を生じていない冷熱機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る防汚性高親水性焼付塗膜を備えたアルミニウムフィン材の部分断面図。
【
図2】本発明に係る防汚性高親水性焼付塗膜を備えたアルミニウムフィンと伝熱管を組み立てた熱交換器コアの一例を示す斜視図。
【
図3】
実施例において得られたフッ素樹脂粒子を含まない焼付塗膜の湯洗前の表面状態
を示す顕微鏡写真。
【
図4】
実施例において得られたフッ素樹脂粒子を含まない焼付塗膜の湯洗後の表面状態
を示す顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明する。
本実施形態の熱交換器用フィン材1は、
図1に断面構造を示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材2と、該基材2の表面に被覆された化成皮膜3と、化成皮膜3を覆うように被覆形成された防汚性高親水性焼付塗膜5から構成されている。
【0016】
基材2を構成するアルミニウム又はアルミニウム合金としては、特に限定されず、一般的に熱交換器用の基材に適用されている組成のアルミニウム材を適宜用いることができる。なお、例示するならばJIS規定A1050、A1100、A1200、A3003等のアルミニウム合金を例示できる。
化成皮膜3として、クロメート処理された薄いクロメート皮膜などを用いることができる。
【0017】
防汚性高親水性焼付塗膜5は、アルミナゾルと、スルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂と、ポリエチレングリコールもしくはポリエチレングリコールの変性物を含む水系塗料を塗膜として化成皮膜3上に塗布後に150~300℃で所定時間、例えば、数秒~数分程度焼成してなる焼付塗膜である。
アルミナゾルは、アルミナ粒子を液体の分散媒に分散させた状態のものを意味する。
従って、水系塗料を焼成した後の防汚性高親水性焼付塗膜5は、水溶性アクリル樹脂とポリエチレングリコールもしくはポリエチレングリコールの変性物の混合物の焼成体からなる樹脂層6中にアルミナ粒子7が分散された構造となっている。
また、防汚性高親水性焼付塗膜5に対し、フッ素樹脂粒子8を添加した構造を採用してもよい。防汚性高親水性焼付塗膜5にフッ素樹脂粒子8を添加するには、フッ素樹脂粒子8を水に分散させたPTFEディスパージョン、FEPディスパージョンなどを水系塗料に必要量混合しておけばよい。
水系塗料にPTFEディスパージョン、FEPディスパージョンなどの状態でフッ素樹脂粒子8を混合しておき、水系塗料を焼成することで、必要量のフッ素樹脂粒子8を添加した防汚性高親水性焼付塗膜5を得ることができる。水系塗料を焼成することによって塗料中の水分は蒸発して消失し、塗料中に含まれていた固形分が残留して防汚性高親水性焼付塗膜5となる。
なお、この例では焼成後の焼付塗膜に対し水洗または湯洗(60℃~80℃の湯、例えば60℃の湯を使用)を行うことにより防汚性高親水性焼付塗膜5の樹脂層6に含まれている硫黄成分の溶出を行い、樹脂層6に含まれている硫黄成分の大部分を除去する必要がある。
【0018】
アルミナゾルは、その分散粒子(アルミナ粒子)が不定型ゲルからベーマイト(水和物)に移行する途中の段階にあり、この状態は凝集過程や通常の塗膜の焼付け条件程度では変化しない。この不定型ゲルからベーマイトに移行する途中の段階のアルミナゾルのアルミナ粒子は、コロイダルシリカと比較して軟らかい。例えば、モース硬度が低い。
従って、このアルミナゾルに由来するアルミナ粒子を含有する防汚性高親水性焼付塗膜5を備えたフィン材1をプレス加工する時の加工性は良好であり、かつ、金型の耐久性も高くすることができる。
【0019】
水溶性アクリル樹脂としては、スルホン酸基、又はその塩を有するα,β不飽和単量体Aと、カルボン酸基を有するα,β不飽和単量体Bと、アルコール性水酸基を有するα,β不飽和単量体Cとを(割合:A;1~80wt%(好ましくは30~50wt%),B;1~50wt%(好ましくは20~50wt%),C;1~50wt%(好ましくは20~40wt%)が望ましい。A+B+C=100wt%)共重合したものが好ましい。
【0020】
スルホン酸基、又はその塩を有するα,β不飽和単量体Aとしては、例えばビニルスルホン酸、アリールスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルスルホン酸、スチレンスルホン酸、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、又は前記のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などの塩が好ましい。この単量体Aは、アニオン性の親水性を示し、塗膜の水濡れ性を向上させる。
カルボン酸基を有するα,β不飽和単量体Bとしては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸などが好ましい。この単量体Bは、塗膜の水濡れ性と密着性を向上させる。アルコール性水酸基を有するα,β不飽和単量体Cとしては、例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド等が好ましい。この単量体Cは、塗膜の水濡れ性を向上させると共に、アルミナゾルに由来の粒子を固定する役割を奏する。
【0021】
水系塗料の塗膜量は、水系塗料から焼成時に消失する水分を除いた塗膜量(固形分の塗膜量に相当)として0.3~0.8g/m2の範囲であることが好ましい。なお、以下の説明において、「~」を用いて範囲の上限と下限を表記した場合、特に説明のない限り、下限と上限を含むものとする。よって、0.3~0.8g/m2の範囲は0.3g/m2以上0.8g/m2以下を意味する。
水系塗料の塗膜量を上述の0.3~0.8g/m2の範囲とすることで、塗膜密着性、親水性、耐汚染性、防汚性に優れる防汚性高親水性焼付塗膜5となる。0.3g/m2未満の塗膜量では防汚性焼付塗膜5の親水性不良、耐汚染性不良、防汚性不良となるおそれがある。また、0.8g/m2を超える塗膜量では、防汚性高親水性焼付塗膜5の密着性不良、コストの上昇になるおそれがある。
【0022】
アルミナゾルに含まれているアルミナ粒子の平均粒子径は0.02~20μmの範囲が好ましい。アルミナ粒子の平均粒子径が0.02μm未満では、比表面積が増大することによって吸着臭が発生する問題があり、アルミナ粒子の平均粒子径が20μmを超えるようであると、プレス加工時の金型摩耗性が悪化する問題がある。
アルミナ粒子の添加量は塗料中の固形分100質量%中、5~45質量%の範囲であることが望ましい。アルミナ粒子をこの範囲添加することで、塗膜密着性、親水性、耐汚染性、防汚性に優れる防汚性高親水性焼付塗膜5となる。アルミナ粒子の添加量を5質量%未満とすると、親水性不良、耐汚染性不良、防汚性不良となるおそれがある。アルミナ粒子の添加量について45質量%を超える量とすると、防汚性高親水性焼付塗膜5の密着性不良、コストの上昇になり易い。
なお、前記水系塗料中には、アルミナ粒子、フッ素樹脂などの固形分の他に、固形分としてスルホン酸を含む水溶性アクリル樹脂40~60%とポリエチレングリコール20~40%程度が含まれる。
【0023】
フッ素樹脂粒子8の平均粒子径は、0.1~0.5μmの範囲であることが好ましく、添加量は塗料中の固形分の100質量%に対し0.05~3質量%の範囲であることが望ましい。フッ素樹脂粒子8として、PTFEディスパージョン、FEPディスパージョンなどに含まれている粒子を用いることができる。
フッ素樹脂粒子8の添加量が0.05~3質量%の範囲であるならば、良好な防汚性を発揮する。添加量が0.05質量%未満では防汚性焼付塗膜5の防汚性に劣るようになり、添加量が3質量%を超えるようでは防汚性焼付塗膜5が親水性不良となり易い。
フッ素樹脂粒子8の平均粒子径が0.1μm未満では、所定の防汚性を発揮出来ない問題があり、フッ素樹脂粒子8の平均粒子径が0.5μmを超えると塗料中に均一に分散され難い問題がある。
なお、本実施形態の防汚高親水性焼付塗膜5において、フッ素樹脂粒子8は必須成分ではなく、添加を略しても良い。
【0024】
防汚性高親水性焼付塗膜5の表面の動摩擦係数は0.20以下であることが望ましい。防汚性高親水性焼付塗膜5の動摩擦係数が0.20を超える値では金型摩耗不良となり易い。防汚性高親水性焼付塗膜5の動摩擦係数が0.20以下であるならば、プレス加工性に優れ、金型摩耗不良を生じ難い。
防汚性高親水性焼付塗膜5の表面に占めるアルミナ粒子の面積率は、90%以上であることが望ましい。アルミナ粒子は、防汚性焼付塗膜5に分散した状態にする必要があり、分散させるためには、アルミナ粒子添加量を塗料固形分100質量中40質量%以下にする必要がある。40質量%以下にすることによって、塗料表面アルミナ粒子の面積率を90%以上にすることが可能で、これにより動摩擦係数を低減でき、かつ、金型摩耗を低減することが可能となる。防汚性焼付塗膜5の表面に存在するアルミナ粒子の面積率が90%未満では防汚性高親水性焼付塗膜5の表面においてアルミナ粒子が凝集状態となり易く、凝集により動摩擦係数が増大し、0.2を超えるようになり、金型摩耗性が悪化する。
【0025】
防汚性高親水性焼付塗膜5の樹脂層6に含まれている硫黄成分は0.5mg/m2以下であることが望ましい。上述の如く水洗浄あるいは湯洗浄を1秒~10分程度行うことにより樹脂層6に含まれている硫黄成分を水中又は湯中に溶出させることによって樹脂層6中の硫黄成分を0.5mg/m2以下に減少させることができる。
樹脂層6中に含まれる硫黄成分が0.5mg/m2を超えるようであると、後述するように熱交換器を構成するために銅または銅合金からなる伝熱管と組み合わせた場合、結露水や湿気などにより樹脂層6中に含まれている硫黄成分が伝熱管の表面に到達し、銅と反応して緑青を生じる。一例として、後述する実施例に示す如く0.05~0.48mg/m2の範囲の硫黄成分を有する程度であれば、伝熱管の腐食を防止できる。
湯洗浄の場合60~80℃程度の湯を用いて1秒~60秒程度洗浄することが好ましい。水洗浄の場合、10秒~60分程度洗浄することが好ましい。
【0026】
以上説明の防汚性高親水性焼付塗膜5を表面に備えたフィン材1であるならば、塗膜の密着性に優れ、親水性に優れ、耐汚染性に優れ、動摩擦係数が小さく、フィンを形成するためのプレス加工において金型摩耗を少なくし、金型寿命を長くできる特徴を有する。
これは、親水性に優れた焼付塗膜5について、モース硬度が従来材のコロイダルシリカよりも低いアルミナ粒子を含むアルミナゾルを用い、更に疎水性粒子としてのフッ素樹脂粒子8を混合することによって、親水性汚れ、疎水性汚れの両方を付着し難くして防汚性を向上させ、かつ、防汚性高親水性焼付塗膜5の表面に面積率で90%以上のアルミナゾルに由来するアルミナ粒子を存在させることでプレス加工時の金型摩耗を低減できることによる。
【0027】
前記構造のフィン材1は、ルームエアコンの熱交換器、パッケージエアコンの熱交換器、自動販売機用熱交換器、冷凍ショーケース用熱交換器、冷蔵庫用熱交換器などに広く適用することができる。
また、フィン材1の表面と裏面の両方に化成皮膜3を介し防汚性高親水性焼付塗膜5を形成しても良い。また、熱交換器のフィン材1の表面と裏面に限らず、伝熱管を含めて熱交換器全体に塗布しても良い。例えば、フィン材1と伝熱管11を組み合わせて熱交換器コアを組み立てた後、熱交換器コアの全体に前述の水系塗料を塗布し焼成することで熱交換器コアの全体表面に防汚性高親水性焼付塗膜5を形成しても良い。
この場合は防汚性高親水性焼付塗膜5を熱交換器に対するポストコートとして形成することができる。
【0028】
図2はフィン材1からなる矩形板状のフィン(放熱板)15を所定の間隔で複数並列配置し、各フィン15に形成されている挿通孔15aにU字状の伝熱管11を挿通して熱交換器コア16を途中まで組み立てた状態を示す。U字状の伝熱管11は湾曲部11aをフィン1の並列体の一側に揃え、開口端11b側をフィン1の並列体の他側に揃えるように複数のフィン15の挿通孔15aに挿通されている。
これらの伝熱管11には図示略の拡管プラグを開口端11b側から挿入して拡管し、伝熱管11とフィン15の接合強度を向上させ、その後に伝熱管11の開口端側を結ぶように図示略のU字型のエルボ管を接続することで熱交換器コア16が完成される。
この熱交換器コア16において、伝熱管11とエルボ管は銅あるいは銅合金からなる。
【0029】
熱交換器コア16において、フィン15の表裏面には防汚性高親水性焼付塗膜5が形成されている。このため、挿通孔15aの周縁部分において防汚性高親水性焼付塗膜5と伝熱管11が接触されることとなる。この熱交換器コア16を倉庫などに保管した場合、結露水などが付着した状態が続くと従来の塗膜では塗膜から結露水に硫黄分が染み出して伝熱管16を腐食させるおそれがあった。これに対し先に説明したようにフィン材1に形成されている防汚性高親水性焼付塗膜5には0.5mg/m2以下の硫黄分しか含まれていないので、防汚性高親水性焼付塗膜15と伝熱管11との接触部分周りに結露水が存在していても結露水側に硫黄分の溶出は殆ど生じることがなく、伝熱管11に緑青などの腐食を生じることがない。
前述の熱交換器コア16を備える熱交換器は、例えば、冷熱機器として広く適用することができる。
【実施例】
【0030】
触媒化成工業株式会社製商品名(カタロイドAS-3)のアルミナゾル(アルミナ粒子の平均粒子径0.8μm)と、水溶性アクリル樹脂(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)と、ポリエチレングリコール(PEG#6000)と、旭硝子株式会社製商品名(PTFE AD911E)のフッ素樹脂(PTFEフッ素ディスパージョン)を以下の表1に示す割合で混合し水系塗料を作製した。表1ではPTFEフッ素ディスパージョンに含まれるフッ素樹脂粒子の量で添加量を表示している。
JIS規定A1050合金からなる厚さ100μmのアルミニウム合金板をリン酸クロメート処理して厚さ0.3μmの化成皮膜を形成後、この化成皮膜上に以下の表1に示す種々の組成の水系塗料を表1に示す塗布量(焼付前の塗料中の水分と固形分が残留しているものの総量)にてバーコーターにて塗布し、オーブンを用いて220℃(設定温度)にて30秒間焼き付けて防汚性高親水性焼付塗膜を形成した。この焼付処理によって水系塗料の水分は蒸発し、アルミニウム合金板の上に水系塗料中の固形分のみが残留する。
焼き付け後、防汚性高親水性焼付塗膜を60℃の温水にて10秒間流水洗浄する湯洗浄処理を行った。
得られた複数のフィン材について、塗膜の密着性、流水後親水性、乾湿サイクル後接触角、耐汚染性、動摩擦係数、粉体付着率、金型摩耗、アルミナ粒子面積率、銅管返書の有無を測定し、以下の表1に示す。
【0031】
【0032】
表1に示す密着性とは、1ポンドのハンマーに貼り付けたキムタオル(登録商標)を試料の防汚性皮膜の表面に載置し、往復10回擦った後の防汚性皮膜の密着状態を観察した結果である。防汚性皮膜が剥離しない試料を◎、表層は剥離するが一層残る試料を○で示し、50%程度剥離する試料を△で示し、100%剥離が認められた試料を×で示した。
流水後親水性とは、試料に対し流量3L/minの常温流水に24時間浸漬した後の防汚性皮膜表面の接触角を測定した結果である。接触角が20゜以下の試料を○で示し、接触角が20゜を超えた試料を×で示した。
乾湿サイクル後接触角とは、試料に対し流量3L/mの常温流水に24時間浸漬した後、80℃×16時間乾燥を交互に14サイクル行った後の防汚性皮膜表面の接触角を測定した結果である。接触角40゜以下の試料を○で示し、接触角40゜を超える試料を×で示した。
【0033】
耐汚染性を評価する耐汚染試験は、汚染物質としてバルミチン酸6gと試料とをビーカーの中に入れ、100℃で6日間加熱暴露後の防汚性皮膜表面の接触角を測定した。接触角60゜以下の試料を○で示し、接触角60゜を超える試料を×で示した。
動摩擦係数は、バウデン式摩擦試験機を用い、プレス油を塗布しないで試料の防汚性皮膜表面に鋼球サイズφ9/32の接触子を200gの荷重で押し付け、試料を摺動(1サイクル)させたときの摩擦力を測定して。動摩擦係数を求めた。動摩擦係数が0.2以下の試料を○で示し、動摩擦係数が0.2を超えた試料を×で示した。
粉体付着率は、100mm×100mmの試料(アルミニウムフィン材)を流量3L/minの常温流水に1時間浸漬後、JISZ8901で定められる試験用粉体11種、12種のそれぞれを試料の防汚性皮膜の表面に付着させて、画像解析により付着面積率を測定した。付着面積率が3%以下の試料を◎で示し、付着面積率が3%以上~10%以下の試料を○、付着面積率が10%を超える試料を×で示した。
【0034】
金型摩耗は、プレス加工で100万回試料(アルミニウムフィン材)を切断し、金型(スリット刃)の摩耗状態を観察した。スリット刃の硬度はHRC37~41のものを使用し、定量評価としてレーザー顕微鏡にて金型(スリット刃)の刃先の摩耗面積を測定し、2次元断面での摩耗面積が100μm2以下の試料を○で示し、摩耗面積が100μm2を超えた試料を×で示した。
アルミナ粒子の面積率は、定量評価としてレーザー顕微鏡にて防汚性皮膜の表面を対物レンズ100倍で観察し、50μm×50μmの視野での2値化した画像にて粒子解析によりアルミナ粒子の面積率を測定し、アルミナ粒子の面積率が90%以上の試料を○で示し、面積率が90%未満の試料を×で示した。
【0035】
塗膜中の水に可溶な硫黄成分量の測定は、フィンをA4サイズ4枚(8面)に切断して容器に収容し、そこに100mlの純水を入れて40℃に加熱し、10分間撹拌する。この水をICP発光分光分析で分析し、そこで測定された硫黄量を元の塗膜あたりの量に換算し直した値を採用した。
銅管変色試験は上述のフィンを高さ10cm、幅5cmに切り出し、同等長さの銅管とクリップで密着させた状態でビーカーの底部に収容し、ビーカーの底部に水を入れ、ビーカーの口部をラップで閉じてビーカーを密閉した。試験環境条件は35℃×16hr→20℃×4hr→35℃×1hr→20℃×3hrを1サイクルとして7サイクル実施し、その後銅管の変色有無を観察した。銅管に変色が見られた場合に×で示し、変色が見られなかった場合は○で示した。
【0036】
表1に示す結果から水系塗料の塗膜量が0.3~0.8g/m2の範囲となっているNo.1~No.20の実施例試料は、塗膜の密着性に優れるとともに、流水後親水性と乾湿サイクル後接触角と耐汚染性と動摩擦係数と粉体付着率と金型摩耗と粒子面積率の試験のうち、多くの試験結果において優れ、バランスの良い特性を発揮した。また、これらのNo.1~No.20の試料はいずれにおいても塗膜中の水に可溶な硫黄成分量が0.5mg/m2以下であり、銅の伝熱管に変色(腐食)を生じなかった。
試料No.1~20において、塗膜量が0.3~0.8g/m2の範囲であり、アルミナ添加量が塗料固形分中5~45質量%であり、フッ素樹脂添加量が塗料固形分中0.05~3.0質量%であるNo.1~14の試料は全ての試験項目において優れた結果を示した。
【0037】
これらの試料に対し、アルミナ粒子添加量の多すぎるNo.28の試料は、動摩擦係数が大きく、金型摩耗、粒子面積率で結果が悪く、水系塗料塗布量が少ない比較例試料No.21は、流水後親水性と乾湿サイクル後接触角と耐汚染性が悪化した。また、水系塗料中の塗膜量が多すぎる比較例試料No.23、24は密着性に問題を生じた。
【0038】
また、No.25、26、27の試料は塗料の塗布量が適正であり、アルミナ添加量、フッ素樹脂添加量も適切であるが、塗膜中の水に可溶な硫黄成分量が多い試料であり、銅の伝熱管に変色を生じた。
No.29~31の試料は塗料の塗膜量が適正であり、アルミナ添加量、フッ素樹脂添加量も適切であるが、塗膜中の水に可溶な硫黄成分量が多い試料であり、銅管に変色を生じた。
No.32の試料はフッ素樹脂添加量が少なすぎる試料であり、塗膜中の水に可溶な硫黄成分量が多い試料であるが、粉体付着率が悪化し、銅の伝熱管の腐食も生じた。
No.33の試料はフッ素樹脂添加量が多すぎる試料であり、塗膜中の水に可溶な硫黄成分量も多い試料であるが、流水後親水性、乾湿サイクル、耐汚染性が悪化し、銅の伝熱管の腐食も生じた。
【0039】
表1に示す結果から、フィン材に防汚性高親水性焼付塗膜を形成する場合、上述の水系塗料中の塗膜量を0.3~0.8g/m2の範囲の塗布量で塗布し、焼付け後に湯洗して水に可溶な硫黄成分量を0.5mg/m2以下とすることが重要であることがわかる。
これにより、塗膜密着性に優れ、親水性と耐汚染性と動摩擦係数と粉体付着率と金型摩耗と粒子面積率の試験のうち、多くの試験結果において優れ、バランスの良い特性を発揮するフィン材を提供できる。また、このフィン材であるならば、銅管と密着させた場合であっても腐食を生じない特徴を得ることができる。
更に、前記塗膜中のアルミナ粒子の平均粒子径が0.02~20μmであり、焼付塗膜固形分100質量%中にアルミナ粒子が5~45質量%含まれた塗膜であるならば、塗膜密着性と親水性と接触角と耐汚染性と粒子面積率に優れ、金型摩耗が少なく、銅管に腐食も生じ難いフィンを提供できる。
【0040】
【0041】
表2に示すようにフッ素樹脂粒子を添加していない試料であっても、水系塗料塗膜量が0.3~0.8g/m2の範囲であることが重要であり、水に可溶な硫黄成分が0.5mg/m2以下であることが重要であると分かる。
【0043】
図3は表2の実施例No.36の試料表面に形成した湯洗前の防汚性焼付塗膜に含まれているアルミナ粒子を示す顕微鏡写真、図4は表2の実施例No.36の試料表面に形成した湯洗後の防汚性焼付塗膜に含まれているアルミナ粒子を示す顕微鏡写真である。
先の尖った凸部を複数有する不定形の多数のアルミナ粒子が分散された状態を呈している。これらの粒子が樹脂層の内部に埋設された構造が防汚性焼付塗膜の概略構造となっていることがわかる。
【符号の説明】
【0044】
1…フィン材、2…基材、3…化成皮膜、5…防汚性高親水性焼付塗膜、6…樹脂層、7…アルミナ粒子、8…フッ素樹脂粒子、11…伝熱管、11a…開口部、15…フィン、15a…挿通孔、16…熱交換器コア。