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特許7116870銅合金板、めっき皮膜付銅合金板及びこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】銅合金板、めっき皮膜付銅合金板及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/34 20060101AFI20220804BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20220804BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20220804BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20220804BHJP
   C23C 8/12 20060101ALI20220804BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C25D5/34
C22C9/00
C22F1/08 B
C22F1/08 S
C25D5/50
C23C8/12
C22F1/00 613
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630F
C22F1/00 630G
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 661B
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686Z
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019065467
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020164914
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬成
(72)【発明者】
【氏名】牧 一誠
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
(72)【発明者】
【氏名】森 広行
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優樹
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-45083(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043558(WO,A1)
【文献】特開2014-47378(JP,A)
【文献】特開2010-248593(JP,A)
【文献】特開平2-173248(JP,A)
【文献】特開平6-256881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00 -9/10
C25D 5/34
C25D 5/50
C22F 1/00
C22F 1/08
C23C 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚方向の中心部において、1.2質量%を超え、2質量%以下のMgを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金板であって、表面におけるMg濃度が板厚中心部におけるMg濃度の30%以下であり、該表面から前記板厚中心部におけるMg濃度の90%となるまでの深さの表層部は、前記表面から板厚方向の中心に向かって0.2質量%/μm以上50質量%/μm以下の濃度勾配でMg濃度が増加していることを特徴とする銅合金板。
【請求項2】
前記表層部の厚さは、9μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金板。
【請求項3】
0.001質量%以上0.2質量%以下のPを含有することを特徴とする、請求項1に記載の銅合金板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載した銅合金板の前記銅合金板の前記表層部の上にめっき皮膜が形成されていることを特徴とするめっき皮膜付銅合金板。
【請求項5】
前記めっき皮膜中のMgの平均濃度は前記銅合金板の板厚方向の中心部におけるMg濃度の10%以下であることを特徴とする請求項4記載のめっき皮膜付銅合金板。
【請求項6】
前記めっき皮膜が、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの合金のうちから選ばれる1つ以上の層からなることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のめっき皮膜付銅合金板。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載の銅合金板を製造する方法であって、Mgを表面に拡散させて濃化させるMg濃化処理と、Mgが濃化した表面部を除去して前記表層部を形成する表面部除去処理とを有することを特徴とする銅合金板の製造方法。
【請求項8】
請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のめっき皮膜付銅合金板を製造する方法であって、前記めっき皮膜を電流密度0.1A/dm以上60A/dm以下の電解めっきで形成することを特徴とするめっき皮膜付銅合金板の製造方法。
【請求項9】
前記めっき皮膜に錫を含んでおり、前記電解めっき後、加熱ピーク温度が230℃以上330℃以下、前記加熱ピーク温度での加熱時間が0.5秒以上30秒以下でリフロー処理することを特徴とする請求項8記載のめっき皮膜付銅合金板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mgを含有した銅合金板、その銅合金板にめっきを施してなるめっき皮膜付銅合金板及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯端末などの電子機器の小型、薄型化、軽量化の進展により、これらに用いられる端子やコネクタ部品も、より小型で電極間ピッチの狭いものが使用されるようになっている。また、自動車のエンジン回りの使用等では、高温で厳しい条件下での信頼性も要求されている。これらに伴い、その電気的接続の信頼性を保つ必要性から、強度、導電率、ばね限界値、応力緩和特性、曲げ加工性、耐疲労性等の更なる向上が要求され、特許文献1~4に示すMgを含有した銅合金板が用いられている。
【0003】
特許文献1には、Mg:0.3~2重量%、P:0.001~0.02重量%、C:0.0002~0.0013重量%、酸素:0.0002~0.001重量%を含有し、残りがCuおよび不可避不純物からなる組成、並びに、素地中に粒径:3μm以下の微細なMgを含む酸化物粒子が均一分散している組織を有する銅合金で構成されているコネクタ製造用銅合金薄板が開示されている。
【0004】
特許文献2には、Mgを、3.3原子%以上6.9原子%以下の範囲で含み、残部が実質的にCu及び不可避不純物とされ、導電率σ(%IACS)が、Mgの濃度をX原子%としたときに、σ≦1.7241/(?0.0347×X2+0.6569×X+1.7)×100の範囲内とされ、応力緩和率が150℃、1000時間で50%以下であること、また、走査型電子顕微鏡観察において、粒径0.1μm以上のCuとMgを主成分とする金属間化合物の平均個数が、1個/μm以下とされていることにより、低ヤング率、高耐力、高導電性、優れた耐応力緩和特性、優れた曲げ加工性を有し、端子、コネクタやリレー等の電子機器用部品に適した銅合金及びその製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、質量%で、Mg:0.3~2%、P:0.001~0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界としたみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45~55%であり、引張強さが641~708N/mmであり、ばね限界値が472~503N/mmである引張り強さとばね限界値が高レベルでバランスの取れたCu-Mg-P系銅合金及びその製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献4には、質量%で、Mg:0.3~2%、P:0.001~0.1%、残部がCuおよび不可避的不純物である組成を有する銅合金条材であり、後方散乱電子回折像システム付の走査型電子顕微鏡によるEBSD法にて、ステップサイズ0.5μmにて前記銅合金条材の表面の測定面積内の全ピクセルの方位を測定し、隣接するピクセル間の方位差が5°以上である境界を結晶粒界とみなした場合の、結晶粒内の全ピクセル間の平均方位差が4°未満である結晶粒の面積割合が、前記測定面積の45~55%であり、前記測定面積内に存在する結晶粒の面積平均GAMが2.2~3.0°であり、引張強さが641~708N/mmであり、ばね限界値が472~503N/mmであり、1×10回の繰り返し回数における両振り平面曲げ疲れ限度が300~350N/mmである銅合金条材およびその製造方法が開示されている。
【0007】
また、出願人は、強度、導電率、耐応力緩和特性等に優れるMg-P系銅合金として、「MSP1」を開発しており、自動車用端子、リレー可動片、接点用ばね材、バスバーモジュール、リチウムイオン電池、ヒューズ端子、小型スイッチ、ジャンクションボックス、リレーボックス、ブレーカー、バッテリー端子等として、幅広く使用されている。
そして、この銅合金板の更なる低摩擦係数化(低挿入力化)を狙って、特許文献5に開示のものも提案している。特許文献5では、0.2~1.2質量%のMgと0.001~0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金板を母材2とし、表面から前記母材2にかけて、厚みが0.3~0.8μmのSn相6、厚みが0.3~0.8μmのSn-Cu合金相7、厚みが0~0.3μmのCu相8の順で構成されたリフロー処理後のめっき皮膜層5を有し、前記Sn相6のMg濃度(A)と前記母材2のMg濃度(B)との比(A/B)が0.005~0.05であり、前記めっき皮膜層5と前記母材2との間の厚みが0.2~0.6μmの境界面層4におけるMg濃度(C)と前記母材2のMg濃度(B)との比(C/B)が0.1~0.3であるCu-Mg-P系銅合金Snめっき板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平9-157774号公報
【文献】特開2013-095943号公報
【文献】特許第4516154号公報
【文献】特開2012-007231号公報
【文献】特開2014-047378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、Mgを含有する銅合金は、添加されたMgにより優れた機械的強度と良好な導電性とのバランスを有している。一方で更なる高強度化と軽量化が求められており、出願人はMg量の増加によりこれを実現した「MSP5」を開発しているが、Mg量が増加するにつれ、材料表面の接触電気抵抗が上昇し、電気的接続信頼性が劣化する恐れがあった。特に、電気的接続信頼性をさらに向上させるために、母材にSnめっきを施したのちに加熱溶融処理を行った場合も、結局めっき皮膜の接触電気抵抗の上昇が著しくなり、また、めっき皮膜と母材の密着性も低下する恐れがあった。特許文献5では、銅合金Snめっき板において、めっき皮膜の表面におけるSn相のMg濃度、めっき皮膜と母材との界面層のMg濃度を所定範囲に制限することで、良好な特性をもった銅合金Snめっき板を実現しているが、これは銅合金板のMg含有量が0.2~1.2質量%の範囲のものであり、Mg含有量が1.2質量%を超えた場合の前記の諸問題に対しては、更なる改良が望まれている。
【0010】
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであり、1.2質量%を超えるMgを含有する銅合金板において、接触電気抵抗及びめっき皮膜の密着性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの事情に鑑み、発明者らは鋭意研究の結果、接触電気抵抗の上昇は母材表面に存在するMgが酸化することが原因であり、特に、母材にSnめっきを施した後に加熱溶融処理を行った場合、加熱によりMgが拡散してめっき皮膜表面に到達することにより、接触電気抵抗上昇が著しくなることを見出した。この場合、銅合金の母材がSnと合金化することにより、Sn-Cu合金層やSn層にMgが取り込まれ、よりいっそうMgがめっき皮膜表面へ拡散しやすくなる。また、Mgは活性元素であるため、めっきする前の銅合金板表面のMgは即座に酸化Mgとなる。表面にMgが多い銅合金板にめっきした場合、母材表面にある酸化Mgとめっき皮膜中の金属とは金属結合を形成できないため、めっき皮膜の密着性が劣り、加熱等による剥離が生じ易くなる。
このような知見の下、本発明は、銅合金板の表層部のMg濃度を適切に制御することにより、表面の酸化を抑制するとともに、めっき皮膜を形成した場合でもめっき皮膜中のMg濃度を低減させ、接触電気抵抗の低減及び密着性の向上を図ったものである。
【0012】
本発明の銅合金板は、板厚方向の中心部において、1.2質量%を超え、2質量%以下のMgを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金板であって、表面におけるMg濃度が板厚中心部におけるMg濃度の30%以下であり、該表面から前記板厚中心部におけるMg濃度の90%となるまでの深さの表層部は、前記表面から板厚方向の中心に向かって0.2質量%/μm以上50質量%/μm以下の濃度勾配でMg濃度が増加している。
【0013】
この銅合金板は、表面におけるMg濃度が板厚方向の中心部におけるMg濃度の30%以下であるので、表面に酸化Mgが生じにくく、電気的接続信頼性に優れるため、このまま接点として利用できる。また、後にめっき皮膜を形成して加熱処理した場合でも、めっき皮膜中にMgが拡散することを抑制できる。したがって、接触電気抵抗に優れるとともに、めっき皮膜の剥離を防止することができる。
表面の酸化防止及びめっき皮膜へのMg拡散抑制の点からは、表面のMg濃度は、板厚方向の中心部の30%以下が好ましい。また、表層部と内部とでMg濃度が急激に変化しているため、表層部が薄く、銅合金の優れた機械的特性は維持される。
表層部において、表面からのMgの濃度勾配が0.2質量%/μm未満であると、上記のMg拡散を抑制する特性は飽和する一方で、相当の深さとなるまで所望のMg濃度にならず、Mg含有銅合金板としての特性が損なわれる。一方、Mgの濃度勾配が50質量%/μmを超えていると、板厚方向の中心部よりMg濃度の低い表層部が薄くなり過ぎて、Mgの拡散を抑制する効果が乏しくなる。
【0014】
銅合金板の一つの実施態様は、前記表層部の厚さは、9μm以下である。表層部の厚さが9μmを超えていると、板厚の全体の中でMg濃度の低い範囲が占める割合が多くなり、Mg含有銅合金としての機械的特性を損なうおそれがある。この特性劣化は特に板厚が薄い場合に顕著になる。
【0015】
本発明のめっき皮膜付銅合金板は、前記銅合金板の前記表層部の上にめっき皮膜が形成されている。
このめっき皮膜付銅合金板は、銅合金板の表面のMg濃度が低いことから、酸化Mgが少ないので、めっき皮膜の密着性に優れており、また、めっき皮膜中に拡散するMgも低減することができ、接触電気抵抗に優れている。
【0016】
めっき皮膜付銅合金板の一つの実施態様は、前記めっき皮膜中のMgの平均濃度は前記銅合金板の板厚方向の中心部におけるMg濃度の10%以下である。
めっき皮膜中のMgの平均濃度が銅合金板の板厚方向の中心部におけるMg濃度の10%を超えると、Mgの表面拡散による接触電気抵抗に及ぼす影響が大きくなる。
【0017】
めっき皮膜付銅合金板の他の一つの実施態様は、前記めっき皮膜が、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの合金のうちから選ばれる1つ以上の層からなる。めっき皮膜をこれらの金属又は合金とすることにより、コネクタ端子として好適に使用できる。
【0018】
本発明の銅合金板の製造方法は、Mgを表面に拡散させて濃化させるMg濃化処理と、Mgが濃化した表面部を除去して前記表層部を形成する表面部除去処理とを有する。
この製造方法では、Mg含有銅合金中のMgをまず表面部に拡散させて濃化させた後、その濃化した表面部を除去しているので、除去した後に形成される表層部は、Mg濃度が低く、酸化膜の発生も少ないので、接触電気抵抗に優れる。
【0019】
本発明のめっき皮膜付銅合金板の製造方法は、前記めっき皮膜を電流密度0.1A/dm以上60A/dm以下の電解めっきで形成する。電解めっき時の電流密度が0.1A/dm未満であると成膜速度が遅く経済的でない。電流密度が60A/dmを超えていると拡散限界電流密度を超え、欠陥の無い皮膜を形成できない。
【0020】
たとえば電解錫めっきを行った場合、対ウイスカ性を高めるためにリフロー処理を実施してもよい。すなわち、めっき皮膜付銅合金板の製造方法の一つの実施態様は、前記めっき皮膜に錫を含んでおり、前記電解めっき後、加熱ピーク温度が200℃以上330℃以下、望ましくは300℃以下、前記加熱ピーク温度での加熱時間が0.5秒以上30秒以下、望ましくは1秒以上20秒以下でリフロー処理する。
リフロー処理時のピーク加熱温度が230℃未満若しくは加熱時間が0.5秒未満ではリフロー処理そのものが行われない。加熱温度が330℃若しくは加熱時間が30秒を超えていると過剰加熱によりMgのめっき皮膜表面への拡散が進行し、接触電気抵抗が上昇する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面の酸化を抑制するとともに、電気的接続信頼性を向上させ、まためっき皮膜を形成した場合でもめっき皮膜中のMg濃度を低減させ、めっき皮膜表面の接触電気抵抗の低減及びめっき皮膜と銅合金板の密着性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のめっき皮膜付銅合金板の一実施形態を模式的に示した断面図である。
図2】XPSで測定した銅合金板の深さ方向のMg成分分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態について説明する。
この実施形態のめっき皮膜付銅合金板1は、Mgを含有する銅合金板10の表面に、Cu層21、Sn-Cu合金層22及びSn層23が順に積層されてなるめっき皮膜20が形成されている。
[銅合金板]
銅合金板10は、板厚方向の中心部において、1.2質量%を超え、2質量%以下のMgを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる。
【0024】
(Mg)
ここで、Mgは、Cuの素地に固溶して軽量化しつつ強度を向上させる。
この場合、Mgの含有量は、板厚の中心部では前述した1.2質量%を超え、2質量%以下であるが、表面のMg濃度は板厚の中心部のMg濃度の30%以下(0%以上)とされる。また、Mgの濃度は、表面から板厚の中心に向かって0.2質量%/μm以上50質量%/μm以下の濃度勾配が生じている。
【0025】
この銅合金板10は、表面のMg濃度が板厚方向の中心部におけるMg濃度の30%以下であるので、表面に酸化Mgが生じにくく、また、後にめっきを施して加熱処理した場合でも、めっき皮膜20中にMgが拡散することを抑制できる。したがって、接触電気抵抗に優れるとともに、めっき皮膜20の剥離を防止することができる。
表面の酸化防止及びめっき皮膜20へのMg拡散抑制の点からは、表面にMgが含有していなければよい(板厚の中心部のMg濃度の0%)が、板厚方向の中心部の30%以下であれば、Mg含有銅合金としての特性が表面でもある程度付与されるので好ましい。この表面におけるより好ましいMg濃度は、板厚方向の中心部に対して20%以下、さらに好ましくは15%以下である。
【0026】
また、この表面から厚さ方向に生じているMgの濃度勾配は、0.2質量%/μm未満であると、相当の深さとなるまで所望のMg濃度にならず、Mg含有銅合金板としての特性が損なわれる。このMgの濃度勾配は好ましくは0.5質量%/μm以上、より好ましくは1.0質量%/μm以上、特に好ましくは1.8質量%/μm以上である。一方、Mgの濃度勾配が50質量%/μmを超えていると、Mgの拡散を抑制する効果が乏しくなる。このMgの濃度勾配は好ましくは30質量%/μm以下、より好ましくは17.5質量%/μm以下である。
なお、この濃度勾配が生じている部分において、表面から板厚方向の中心部におけるMg濃度の90%となる厚さまでの範囲を表層部11とする。この表層部11は、厚さが9μm以下であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは1μm以下である。この表層部11に対して、表層部11より内側の部分を母材内部12とする。
【0027】
図2は銅合金板10を厚さ方向に薄膜化して得た試料をX線光分子分光測定装置(XPS)にて深さ方向にMg成分を分析した結果を示すグラフであり、横軸が表面からの距離、縦軸がXPSのスペクトル強度である。母材のMg濃度が安定した母材厚さ方向中心部での最大値と最小値の算術平均を母材厚さ方向中心部の濃度とし、母材中心部濃度の90%に最初に達した位置までの深さを表層部厚さとした。
【0028】
(Mg以外の成分)
銅合金板10には、更に、0.001質量%以上0.2質量%以下のPと0.0002~0.0013質量%のCと0.0002~0.001質量%の酸素を含有していてもよい。
Pは、溶解鋳造時に脱酸作用があり、Mg成分と共存した状態で強度を向上させる。
Cは、純銅に対して非常に入りにくい元素であるが、微量に含まれることにより、Mgを含む酸化物が大きく成長するのを抑制する作用がある。しかし、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.0013質量%を越えて含有すると、固溶限度を越えて結晶粒界に析出し、粒界割れを発生させて脆化し、曲げ加工中に割れが発生することがあるので好ましくない。より好ましい範囲は、0.0003~0.0010質量%である。
【0029】
酸素は、Mgとともに酸化物を作り、この酸化物が微細で微量存在すると、打抜き金型の摩耗低減に有効であるが、その含有量が0.0002質量%未満ではその効果が十分でなく、一方、0.001質量%を越えて含有するとMgを含む酸化物が大きく成長するので好ましくない。より好ましい範囲は0.0003~0.0008質量%である。
更に、銅合金板に、0.001~0.03質量%のZrを含有していてもよい。
Zrは、0.001~0.03質量%の添加により、引張強さ及びばね限界値の向上に寄与し、その添加範囲外では、効果は望めない。
【0030】
[めっき皮膜]
めっき皮膜20は、銅合金板10から表面にかけて、厚さが0μm~1μmのCu層21、厚さが0.1μm~1.5μmのSn-Cu合金層22、厚さが0.1μm~3.0μmのSn層23の順で構成されている。
Cu層21の厚さが1μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜層内部に発生する熱応力が高くなり、めっき皮膜20の剥離が生じるおそれがある。このCu層21は存在しない場合もある。
Sn-Cu合金層22は、硬質であり、その厚さが0.1μm未満では、コネクタとしての使用時の挿入力の低減効果が薄れて強度が低下し、厚さが1.5μmを超えると、加熱時に、めっき皮膜20に発生する熱応力が高くなり、めっき皮膜20の剥離が生じるおそれがある。
Sn層23の厚さが0.1μm未満では、接触電気抵抗が上昇し、厚さが3.0μmを超えると、加熱した際にめっき皮膜20内部に発生する熱応力が高くなるおそれがある。
【0031】
以上の層構成からなるめっき皮膜20中のMg濃度は銅合金板10の板厚方向の中心部におけるMg濃度の10%以下(0%以上)である。
めっき皮膜20中のMgの平均濃度は、銅合金板10の板厚方向の中心部におけるMg濃度の10%を超えると、めっき皮膜中のMgが表面に拡散して接触電気抵抗を上昇させるおそれがある。めっき皮膜20中のMgの平均濃度は、銅合金板10の板厚方向の中心部におけるMg濃度の5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0032】
[製造方法]
以上のように構成されるめっき皮膜付銅合金板1を製造する方法について説明する。
このめっき皮膜付銅合金板1は、成分組成が1.2質量%を超え、2質量%以下のMgを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有する銅合金母材を製造し(銅合金用母材製造工程)、得られた銅合金母材に表面処理を施した(表面処理工程)後、めっき処理し(めっき処理工程)、リフロー処理する(リフロー処理工程)ことにより、製造される。
(銅合金母材製造工程)
銅合金母材は、上記の成分範囲に調合した材料を溶解鋳造により銅合金鋳塊を作製し、この銅合金鋳塊を熱間圧延、冷間圧延、連続焼鈍、仕上げ冷間圧延をこの順序で含む工程を経て製造される。本実施例では、板厚を0.2mmとした。
【0033】
(表面処理工程)
得られた銅合金母材に表面処理を施す。この表面処理は、銅合金母材中のMgを表面部に拡散させて濃化するMg濃化処理と、Mgが濃化した表面部を除去する表面部除去処理とを有する。
Mg濃化処理としては、銅合金母材を酸素やオゾン等の酸化性雰囲気下で所定温度に所定時間加熱する。この場合の加熱温度、加熱時間は、100℃以上で再結晶が生じない時間内で実施すればよく、その中から、設備制約や経済性等を勘案した任意の温度で実施すればよい。例えば、300℃で1分、250℃で2時間、あるいは200℃で5時間など、低温であれば長時間、高温であれば短時間であればよい。酸化性雰囲気の酸化性物質濃度はたとえばオゾンであれば5~4000ppmであればよく、望ましくは10~2000ppm、さらに望ましくは20~1000ppmであればよい。オゾンを使用せず酸素を使用する場合は、オゾンのみを使用した場合に対し2倍以上の雰囲気濃度が望ましい。オゾン等酸化性物質と酸素を混合して使用してもよい。なお、Mg濃化処理の前に、機械研磨などによるひずみや空孔の導入など、Mgの拡散を促進させるための処理を実施してもよい。
【0034】
一方、表面部除去処理としては、Mg濃化処理を施した銅合金母材に対して、化学研磨、電解研磨、機械研磨などを単独もしくは複数組み合わせて適用することにより、行うことができる。化学研磨は選択的エッチングなどが使用できる。選択的エッチングは、たとえばノニオン性界面活性剤、 カルボニル基またはカルボキシル基を有する複素環式化合物、イミダゾール化合物、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物などの銅腐食を抑制できる成分を含んだ酸性もしくはアルカリ性の液を用いたエッチングなどが使用できる。電解研磨は、たとえば、酸やアルカリ性の液を電解液として使用し、銅の結晶粒界に偏析しやすい成分に対しての電解による、結晶粒界の優先的なエッチングなどが使用できる。機械研磨は、ブラスト処理、ラッピング処理、ポリッシング処理、バフ研磨、グラインダー研磨、サンドペーパー研磨などの一般的に使用される種々の方法が使用できる。
【0035】
このようにして、銅合金母材にMg濃化処理及び表面部除去処理がなされることにより、銅合金板10が形成され、前述したように、表層部11のMg濃度が板厚中心部におけるMg濃度に比べて低く、また、表面から板厚方向の中心に向かって所定の濃度勾配でMg濃度が増加した状態となっている。
【0036】
(めっき処理工程)
次に、この銅合金板10の表面にめっき皮膜20を形成する。
銅合金板10の表面に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にした後、その上に、Cu又はCu合金めっきを施してCuめっき層を形成し、次に、Cuめっき層の表面にSn又はSn合金めっきを施した後に、リフロー処理することにより、銅合金板10の表面から順に、Cu層21、Sn-Cu合金層22、Sn層23が形成される。
各めっき層は、めっき皮膜を電流密度0.1A/dm以上60A/dm以下の電解めっきで形成する。電解めっき時の電流密度が0.1A/dm未満であると成膜速度が遅く経済的でない。電流密度が60A/dmを超えていると拡散限界電流密度を超え、欠陥の無い皮膜を形成できない
Cu又はCu合金めっき条件の一例を表1に、Sn又はSn合金めっき条件の一例を表2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
(リフロー処理工程)
次に、これらのめっき層を形成した銅合金板10に対し、加熱ピーク温度230℃以上330℃以下で、その加熱ピーク温度に0.5秒以上30秒以下保持した後、60℃以下の温度となるまで冷却するリフロー処理を施す。
このリフロー処理を施すことにより、銅合金板の表面から、厚さが0μm~1μmのCu層21、厚さが0.1μm~1.5μmのSn-Cu合金層22、厚さが0.1μm~3.0μmのSn層23の順で構成されためっき皮膜20が形成される。なお、このリフロー処理において、Cuめっき層のCuの全部がSnめっき層のSnと合金化して、Cu層21としては形成されない場合もある。
【0040】
このリフロー処理により、銅合金板10の表面の一部のCuがめっき皮膜20を構成するSnと合金化する可能性もあるが、銅合金板10の表面のMg濃度を低く形成しておいたので、めっき皮膜20中に取り込まれるMgも微小で済み、Mgの表面拡散を効果的に抑制することができる。また、銅合金板10の表面はMgが極めて少ないため、表面酸化物も少なく、わずかに酸化物が存在していたとしてもめっき処理前の通常の洗浄等により容易に除去できる。したがって、このめっき皮膜付銅合金板1は、めっき皮膜20と銅合金板10との密着性も優れている。
そして、表面に酸化Mgが生じにくいので、接触電気抵抗にも優れたものとなる。
【0041】
なお、上記実施形態では、銅合金板10に、Cu層21、Sn-Cu合金層22、Sn層23の順で構成されためっき皮膜20を形成したが、めっき皮膜は、これに限ることはなく、錫、銅、亜鉛、ニッケル、金、銀、パラジウムおよびそれらの合金のうちから選ばれる1つ以上の層から構成されるものであればよい。
【実施例
【0042】
[実施例1]
1.2質量%を超え、2質量%以下のMgを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる鋳塊を用意し、常法により熱間圧延、中間焼鈍、冷間圧延等を経て、板状の銅合金母材を作製した。
次に、この銅合金母材に対して、酸化性雰囲気下で加熱温度200~300℃、加熱時間1分~5時間の間で加熱することによりMg濃化処理を施した後、表面部除去処理を行うことにより、種々のMg濃度勾配を有する銅合金板を作製した。
表面部除去処理は、物理研磨であればバフ研磨、化学研磨であれば硫酸と過酸化水素混合水溶液にポリオキシエチレンドデシルエーテルを添加した研磨液に浸漬、電解研磨であればリン酸水溶液に対極としてSUS304を使用して通電することで研磨することを実施した。
比較例として、Mg含有量が1.3質量%のものであり、銅合金母材に対するMg濃化処理及び表面部除去処理を施さなかったものも作製した。
【0043】
そして、これらの銅合金板の表面及び厚さ方向の各部におけるMg濃度を測定した。
この銅合金板に対するMg濃度の測定は、厚さ方向のMg濃度についてはX線光電子分光法(XPS)における深さ方向の濃度プロファイルより測定した。XPSの測定条件は下記の通りである。
(測定条件)
前処理:アセトン溶剤中に浸漬し、超音波洗浄機を用いて38kHz 5分間 前処理を行う。
装置:ULVAC PHI X線光電子分光分析装置
PHI5000 VersaProbe
スパッタリングレート:100Å/min
スパッタリング時間:100分
なお、上記のXPSにおける深さはSiO換算深さであるため、別途断面方向からのTEM-EDXにより測定したデータと比較することで、XPS深さ方向濃度プロファイルにおけるSiO換算深さを実深さに換算した。母材厚さ方向中心部のMg濃度は、表面からMg濃度が増加している表層部領域までを十分に除去したMg濃度の安定している領域より、中心を含む部分を採取し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)にて測定した。
【0044】
次に、この銅合金板に脱脂、酸洗等の処理を行った後、表1の条件でCuめっき、次に、表2に示すSnめっき条件でSnめっきを施し、これらのめっき層が形成された銅合金板をリフロー処理して、めっき皮膜付銅合金板を作製した。
リフロー処理は、めっき層を230℃以上330℃以下の温度に加熱後、60℃以下の温度となるまで冷却した。
【0045】
そして、このめっき皮膜付銅合金板から試料を切り出し、めっき皮膜中のMg濃度を測定した。
このめっき皮膜に対するMg濃度の測定は、上記の銅合金板の場合と同様、XPSによる表面からの深さ方向の濃度プロファイルから求めた。
【0046】
また、銅合金板の裸材(めっき皮膜を有しない銅合金板)及びめっき皮膜付銅合金板の各試料につき、表面の接触電気抵抗、及び裸材では表面硬度を、めっき皮膜付銅合金板についてはめっき皮膜の密着性を測定した。
【0047】
接触電気抵抗測定は120℃、1000時間加熱した試料に対し、JIS-C-5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS-113-AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化-接触電気抵抗を測定し、荷重を50gとしたときの接触電気抵抗値で評価した。接触電気抵抗値が2mΩ未満であったものをA、2mΩ以上であったものをCとした。
【0048】
密着性は、120℃、1000時間加熱した試料に対し、クロスカット試験にて評価した。カッターナイフで試料に切込みを入れ、1mm四方の碁盤目を100個作製したのち、セロハンテープ(ニチバン株式会社製#405)を指圧にて碁盤目に押し付け、当該セロハンテープを引き剥がした後にめっきの剥がれが発生しなかった場合はA、碁盤目の剥離が6個以下の場合をB、碁盤目が7個以上剥離した場合はCとした。
表面硬度はめっき皮膜を形成していない裸材(銅合金板)をビッカース硬度計を用いて、荷重0.5gfと10gfにおける硬度を測定し、荷重0.5gfで計測した硬度(表面近傍の硬度)が、荷重10gfで計測した硬度(板厚中心部側の硬度)の80%以上であったものをA、80%未満であったものをCとした。
【0049】
表3及び表4に、裸材(銅合金板)における評価結果を、表5及び表6に、Cuめっき及びSnめっきした後リフロー処理したリフローSnめっき材における評価結果を示す。いずれの表においても、バルクMg濃度は板厚中心部におけるMg濃度、表面Mg濃度は表面部除去処理を行った段階での銅合金板表面のMg濃度で単位は質量%、対バルク濃度比は表面Mg濃度のバルクMg濃度に対する比率で単位は%、表層部厚さは銅合金板の表面からMg濃度が板厚中心部濃度の90%に初めて達するまでの厚さで単位はμm、濃度勾配は表層部におけるMg濃度の勾配で単位は質量%/μmであり、この表層部厚さ及び濃度勾配はXPSによるMg成分の深さ方向濃度プロファイルから算出される。図2はそのプロファイルの一例であり、表3のバルクMg濃度が1.6質量%、濃度勾配が3.2質量%/μmのサンプルに関するものである。この例を含め、表3及び表4の各試料では、表面Mg濃度がいずれも実質0%となるように調整した。一方、表5及び表6の各試料では、種々の表面Mg濃度の銅合金板にめっき皮膜を形成した。濃度勾配は、プロファイルにおける表面の濃度と、板厚中心部濃度の90%に初めて達する点を結んだ直線の勾配を意味する。すなわち、深さ方向濃度プロファイルにおいて、表面から板厚中心部濃度の90%に初めて達する点までのMg濃度変化が、局所的な変動はあっても概ね一定勾配の直線とみなせる場合、そのプロファイルの勾配を濃度勾配とする。なお、表5においてCuめっき厚さの単位はμmであり、Cuめっき厚さが「0」とあるのは、Cuめっきは施さないで、Snめっき処理のみ行った例である。Snめっき層の厚さは1.0μmとした。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
この表3及び表4に示すように、銅合金板についてMg濃化処理及び表面部除去処理を施していないもの、及びMg濃度勾配が50質量%/μmを超えるものは、接触電気抵抗が高かった。表面硬度についても、母材中心部Mg濃度が1.3質量%の材料において、Mg濃度勾配が0.2質量%/μm未満のものでは表面の硬度低下が著しかった。また、表5及び表6に示すように、銅合金板についてMg濃化処理及び表面部除去処理を施していないもの、及びMg濃度勾配が50質量%/μmを超えるものは、めっき皮膜を形成しても密着性が悪くなっており、接触電気抵抗も悪化(上昇)しているものが多かった。
【0055】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、バルクMg濃度1.3質量%、濃度勾配0.2質量%/μmの試料を作製した。作製の際には、前記表面部除去処理における表面部除去量を変量させることで、濃度勾配は同じであるが、表面Mg濃度の異なる試料とした。作製した試料に実施例1と同様の方法でめっきを行いめっき材を作製し、めっき材のめっき密着性および接触電気抵抗を測定した。結果を表7に示す。
【0056】
【表7】
【0057】
表7に示すように、表面Mg濃度がバルクの30%を超えた試料では、めっき密着性や接触電気抵抗が悪化した。
【0058】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でバルクMg濃度2.0質量%の材料に対して種々の濃度勾配を有する材料を作製したのち、実施例1と同様の方法でめっきし、めっき材を作製した。作製しためっき材のSnめっき中のMg濃度および接触電気抵抗を確認した。Snめっき中のMg濃度は実施例1と同様の条件でXPSにて測定した。結果を表8に示す。
【0059】
【表8】
【0060】
表8に示すように、濃度勾配が50質量%/μmを超えた試料では、めっき内Mg濃度がバルクMg濃度の10%を超えるとともに、接触電気抵抗が悪化した。
【0061】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、銅合金板の板厚中心部のMg濃度(バルクMg濃度)1.8質量%で表層部に各種Mg濃度勾配をもち、表面Mg濃度が0質量%に調整された銅合金板(裸材)を作製したのち、各種金属めっきを1層のみ行った。本実施例はめっきのみを実施し、リフローは行わなかった。めっきの金属種はSn、Cu、Zn、Ni、Au、Ag、Pdとした。めっき電流密度はすべて3A/dmでめっき皮膜の厚さは1μmとした。なお、各種めっき浴は一般的に使用される酸性、中性、アルカリ性浴のいずれを使用してもよい。本実施例ではSn、Cu、Zn、Ni、Pdは酸性浴を、Au、Agはアルカリ性浴を使用した。
上記手順で作製した試料の接触電気抵抗、めっき被膜の密着性を評価した。接触電気抵抗はめっき直後の材料を使用して評価した。評価方法および判定方法は実施例1と同様である。
その評価結果を表9に示す。
【0062】
【表9】
【0063】
この表9に示すように、接触電気抵抗はいずれも良好であったが、Mg濃度勾配が50質量%/μmを超える試料では加熱後にめっきの剥離が発生した。
なお、実施例では1層のみのめっきであるが、実施形態を制限するものではなく、コスト低減や特性のさらなる向上等を目的として加熱等の処理により各種金属を合金化することや、多層のめっき構造とする等を実施してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 めっき皮膜付銅合金板
10 銅合金板
11 表層部
12 母材内部
20 めっき皮膜
21 Cu層
22 Sn-Cu合金層
23 Sn層
図1
図2