(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】分散媒中の不活性粒子および研磨粒子を分離および懸濁させることを目的とした粘性粒子の水性、半水性、非水性スラリーサスペンションのin-situ生成
(51)【国際特許分類】
B01J 13/00 20060101AFI20220804BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20220804BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220804BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B01J13/00 D
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
C09K3/14 550C
(21)【出願番号】P 2018567164
(86)(22)【出願日】2017-06-22
(86)【国際出願番号】 US2017038737
(87)【国際公開番号】W WO2017223308
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-18
(32)【優先日】2016-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500483873
【氏名又は名称】ピーピーティー リサーチ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【氏名又は名称】村上 博司
(72)【発明者】
【氏名】ワード,イール,イー.
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518915(JP,A)
【文献】米国特許第03663284(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0096469(US,A1)
【文献】特開2019-143119(JP,A)
【文献】特開2008-201984(JP,A)
【文献】特許第5539321(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2011/0086786(US,A1)
【文献】米国特許第3663284(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性コロイド
もしくは非コロイド
の研磨剤
、または非研磨不活性粒子を
、安定な水性、半水性または有機
性のキャリア媒体中
に懸濁
させる方法
であって、
前記方法は、
in-situ形成された懸濁粒子を
生成することを含み、不活性粒子に対
する懸濁粒子
の適切な濃度を確立
して、前記キャリア媒体中の
前記不活性粒子の沈降に
干渉を生じさせ
、
前記
キャリア媒体は
、0.1~60重量%
の前記懸濁粒子を含
み、
前記懸濁粒子は、前記
不活性粒子とは異なり、アルカリ土類金属
又は遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物
又は酸化物水和物
、珪酸塩、オルト珪酸塩又はポリ珪酸塩、加工デンプン又はセルロース誘導体、前記キャリア媒体の外で形成された多糖類、非イオン性キャリア媒体又は極性キャリア媒体中で形成された高分子電解質からなる群から選択され
、ここで、前記懸濁粒子は、pH4~12の前記キャリア媒体内中に包含された状態でin-situ形成される、
前記
キャリア媒体中
での
前記懸濁粒子のin-situ形成
は、前記キャリア媒体と
は異なる分子的、立体
配置的、レオロジー的および物理的構造
と、前記キャリア媒体の密度より
も大きい密度
と、
前記キャリア媒体とは視覚的に識別可能な別
個の物理的構造
と、2μm~500μm
の測定可能なサイズ
差とを
有する均一な特性を示す懸濁粒子
であって、前記キャリア媒体中で懸濁粒子が形成されたキャリアの分子を含
み、前記キャリア媒体と
はさらなる反応を起こす能力はなく、形成メカニズムまたは成分の起源とは無関係である
ところの前記懸濁粒子をもたらし
、
前記
懸濁粒子のin-situ形成
によって、前記不活性粒子は、前記懸濁粒子と
前記不活性粒子との間の物理的干渉
、前記懸濁粒子と
前記不活性粒子との間の引力
のうちの少なくとも一方により、前記キャリア媒体中に懸濁されて、化学的、物理的または物理化学的
な干渉
、及び前記懸濁粒子の不活性粒子またはそれ自体に対する静電荷反発
力をもたらす
近接性が生じ、それによって前記キャリア媒体中の前記不活性粒子の凝集または凝固
を防止する
、
前記方法
。
【請求項2】
前記懸濁粒子が最終キャリア媒体とは別の媒体中で形成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水性
のキャリア媒体が少なくとも1つの不活性極性溶媒を含有する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記不活性極性溶媒が、ジアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリコールエーテル、ポリアルキレングリコール、アルキルラクトン、N-メチルピロリドン、アルキレンカーボネート、アセトニトリル、およびジメチルアセトアミドからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記懸濁粒子が、ゲル粒子、ゾルゲル粒子
、又はゼラチン状沈殿物
であり、およびアルカリ土類金属もしくは遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物
もしくは酸化物水和物から形成された
ものである、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記懸濁粒子が、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化銅、水酸化マグネシウムおよび水酸化錫からなる群から選択される1種類から形成され
たものである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記懸濁粒子が、ゲル粒子、ゾルゲル粒子
、又はゼラチン状沈殿物
であり、および遷移金属
又はアルカリ土類金属のアルカリ中和塩から形成されたものであり、Fe、Cr、Al、Zn、Cu、Ni
及びMgのin-situ中和をする為にブロンステッドまたは非ブロンステッド塩基を使用して水性または苛性
アルカリ媒体中で形成され
たものであり、前記懸濁粒子が金属の水和酸化物である、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記懸濁粒子が
、ゲル粒子、ゾルゲル粒子、又はゼラチン状沈殿物であり、および加工デンプン
又はセルロース誘導体から形成されたものであり、前記セルロース誘導体は、ヒドロキシルセルロース、ヒドロキシルプロピルセルロース、メチルカルボキシメチルセルロース又はアセチルセルロースを包含する、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記懸濁粒子が
、ゲル粒子、ゾルゲル粒子、又はゼラチン状沈殿物であり、および、前記キャリア媒体の外で形成された多糖類か
ら形成されたものであり、前記多糖類は、グアー、グアーガム、寒天、寒天-グアー混合物、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、アルギン酸塩、金属アルギン酸塩、植物由来多糖類又はそれらの混合物を包含する、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記懸濁粒子が
、ゲル粒子、ゾルゲル粒子、又はゼラチン状沈殿物であり、および非イオン性キャリア媒体又は極性キャリア媒体中で形成された高分子電解質から形成されたものであり、前記高分子電解質は、スルホン化ポリスチレン、ポリアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸またはそれらのコポリマー、アンモニウムポリ(メタクリレート)、ポリエステルアミドおよびポリアミンのコポリマー、ならびにポリ-(アミノ酸)高分子電解質を包含する、請求項1
に記載の方法。
【請求項11】
懸濁されている前記不活性粒子が、二酸化チタン、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、シリカ、酸化セリウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、ダイヤモンド、二酸化ケイ素および乾燥顔料粒子からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
腐食防止剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記懸濁粒子と
前記不活性粒子との間にさらなる密度差または静電反発力を与えるために不活性塩を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記
懸濁粒子の形成によって生成された不活性塩の除去を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
安定なキャリア媒体中
へ、不活性コロイド
もしくは非コロイド研磨剤、または非研磨不活性粒子を懸濁するため
の、安定な水性、半水性または有機
性のキャリア媒体中にin-situ形成され
た懸濁ゲル粒子であって、
前記懸濁ゲル粒子は、前記キャリア媒体中で
0.1~60重量%
であり、
前記懸濁ゲル粒子は、
前記不活性粒子とは異な
り、アルカリ土類金属
又は遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物
又は酸化物水和物
、珪酸塩、オルト珪酸塩又はポリ珪酸塩、加工デンプン又はセルロース誘導体、前記キャリア媒体の外で形成された多糖類、非イオン性キャリア媒体又は極性キャリア媒体中で形成された高分子電解質からなる群から選択され
、ここで、前記懸濁ゲル粒子は、pH4~12の前記キャリア媒体内中に包含された状態でin-situ形成されたものである、
前記
キャリア媒体中
での
前記懸濁
ゲル粒子のin-situ形成
は、前記キャリア媒体と
は異なる分子的、立体
配置的、レオロジー的および物理的構造
と、前記キャリア媒体の密度より
も大きい密度
と、
前記キャリア媒体とは視覚的に識別可能な別
個の物理的構造
と、2μm~500μm
の測定可能なサイズ
差とを
有する均一な特性を示す懸濁粒子
であって、前記キャリア媒体中で懸濁粒子が形成されたキャリアの分子を含
み、前記キャリア媒体と
はさらなる反応を起こす能力はなく、形成メカニズムまたは成分の起源とは無関係である
ところの前記懸濁粒子をもたらし
、
前記
懸濁
ゲル粒子のin-situ形成
によって、前記不活性粒子は、前記懸濁
ゲル粒子と
前記不活性粒子との間の物理的干渉
、前記懸濁粒子と
前記不活性粒子との間の引力
のうちの少なくとも一方により、前記キャリア媒体中に懸濁されて、化学的、物理的または物理化学的
な干渉
、及び前記懸濁
ゲル粒子の不活性粒子またはそれ自体に対する静電荷反発
力をもたらす
近接性が生じ、それによって前記キャリア媒体中の前記不活性粒子の凝集または凝固
を防止する
、
前記懸濁ゲル粒子
。
【請求項16】
前記キャリア媒体とは独立の、展性のある柔軟な物理的実体として、
該キャリア媒体内の前記不活性粒子のいずれにも機械的に接着して前記不活性粒子の周囲にクッションを形成し、前記不活性粒子の懸濁性を高めるのに役立たせることができる、請求項15に記載の懸濁ゲル粒子。
【請求項17】
前記ゲル粒子が
半流動体のままであり、該ゲル粒子内のキャリア分子が無傷のまま維持され
る条件下でのみ存在し続ける、請求項15に記載の懸濁ゲル粒子。
【請求項18】
アルカリ土類金属
の水酸化物
又は酸化物水和物、遷移金属のアルカリ中和塩、珪酸塩、オルト珪酸塩
又はポリ珪酸塩、
加工デンプン
又はセルロース誘導体、多糖類、非イオン性
キャリア媒体又は極性有機キャリア
媒体中
で形成された高分子電解質からなる群から選択される成分化学化合物を有する、請求項15
に記載の懸濁ゲル粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単体または液体の媒質内で懸濁培地として存在するゾルまたはゲル粒子に関する。より詳細には、本明細書内で軟質沈降特性と呼ぶ粒子懸濁液の長期分散安定性特性を有するキャリアシステムを提供する。このキャリアシステムは研磨性、非研磨性、不活性の有機粒子およびセラミック粒子を含む広範囲の懸濁可能な不活性粒子を用い、ラップ仕上げ、ワイヤーソー切断、化学機械研磨および/または金属の形成および仕上げにおける平坦化、遊離砥粒研削などに利用される。
【背景技術】
【0002】
非コロイド状高密度研磨剤粒子の非水性、半水性および水性懸濁液は、これまでウェーハのワイヤーソー切断およびラッピングに使用されてきたが、懸濁液中の不活性粒子の分離を長時間維持できる安定した粒子懸濁液を得ることはできなかった。Stricotが取得した米国特許第5,099,820号は、水または油中の炭化ケイ素粒子の懸濁液の研磨性スラリーを開示している。しかし、この懸濁液は安定ではなく、ワイヤによる均一な潤滑および切断を提供できない。この組成物は粒子の均一な懸濁を維持するために激しい撹拌を必要とし、懸濁液は撹拌中であっても停滞条件下になれば加工対象物のスライス途中にも急速に沈降する。
【0003】
ここに本明細書の一部を構成するものとして援用するWardらの米国特許第6,602,834号は、研磨粒子の安定した懸濁液を維持するための静電反発力および粒子干渉の提供を界面活性剤、有機高分子電解質およびpHに依存する非水性または半水性のワイヤーソー用切削および潤滑組成物を開示する。同じく本明細書の一部を構成するものとして援用するWardらの米国特許第6,054,422号は、懸濁剤として高分子量および低分子量ポリアルキレングリコールの混合物を利用して懸濁液中に最大70重量%の研磨グリット材料を含ませた潤滑組成物を開示する。
【0004】
シリコン、SiC、サファイア、GaAs、光学ガラス、および、マイクロエレクトロニクス、太陽電池、LED、広帯域デバイス、光学/レーザー、ウェーハ研磨、CMP利用ならびにその他多岐にわたる業界で使用されるその他のウェーハの製造において、ウェーハはより大きなインゴット、ブリック、ブールなどから切り出される。最初にウェーハ、ディスク、小片などを切断した後に続く工程には、表面を滑らかにするために切断されたウェーハをラッピングする処理が含まれる。これにはTTV(全厚変動)を低減(ソーラーウェーハには適用しない)、表面欠陥の探傷を排除し、ウェーハの状態を最終的な研磨が可能な状態、すなわち半導体および光学ウェーハ製造に適した基本的な状態に整える目的がある。一般に、この工程でのラッピング研磨剤用の懸濁媒体として水性キャリアが使用される。ラッピング研磨剤には以下が含まれるがこれらに限定されない:SiC、酸化アルミニウム、ZrO2、シリカ、CeO2、ダイヤモンドなど。ラッピング用スラリーには、約0.1~10μmのサイズ範囲の研磨剤粒子が利用される。これは、懸濁された研磨粒子がサイズおよび性質において非コロイドであることを意味する。このことはラッピング研磨剤にコロイド粒子、すなわち約0.001~0.5μmの範囲のサイズの研磨剤粒子が使用される可能性を排除するものではないが、そのような粒子はラッピングスラリーには通常使用されない。
【0005】
ウェーハ、自動車産業用のメカニカルギアセット、セラミックなどに使用されるラッピングスラリーは、ウェーハラッピング工程中に多くの剪断力、研削力、および研磨力を受ける。”プラネタリーラッピング”と呼ばれる工程では、2つの大きな金属(鉄または鋼またはその両方が使用される例が典型的)製プレートの間にウェーハを保持し、その表面上にスラリーを注入する。ウェーハを保持する上部プレートおよび下部プレートが互いに逆方向に回転し、上部プレートとウェーハ表面との間のスラリーを圧縮する。圧縮されたスラリー内の固形物はウェーハと接触し、角運動量が研磨作用を生じさせてウェーハ表面の欠陥を除去し、任意の量のウェーハ表面材料を”エッチング除去”する。今日ラッピングに使用されているすべての水性スラリーでは、スラリーおよびラッピング装置の機構に対するこのような作用が、ウェーハ上、リザーバ内、供給配管内、ラッパー内、金属板上などに粒子凝集を伝播させる。こうした粒子凝集は、ラッピングされたウェーハに損傷を与えるいわゆる”ダークスクラッチ”を発生させるという有害な副作用を有する。ダークスクラッチが生じたウェーハは多大なコストをかけて廃棄する必要がある。
【0006】
非コロイド、すなわち、NCOL、高密度研磨剤粒子の水性懸濁液の問題は、過去数十年にわたってウェーハ製造者を悩ませ消耗させてきた。現在までに、2、3分から数分程度の極めて短い期間を超えてNCOL研磨粒子懸濁液を維持できる低粘度の水性キャリアは存在していない。その時間が経過した後、研磨剤粒子は凝集を始め、非常に硬い”コンクリート様”の固形物として懸濁液から分離して容器の底部に急速に沈降する。現在利用されている”水性”スラリーにおけるこうした研磨粒子の沈降は急速に起こり、持続的な混合または再循環の条件下でも同様である。
【0007】
粒子が沈降して容器の底に硬く沈着した固形物となった後は、あらゆる手法による再懸濁の試みに対して非常に強い抵抗を示す。単純な混合、撹拌、振盪、およびこれらに類する単純な方法では、沈降前の研磨剤の元の粒径分布を維持するスラリーの再生は達成できない。結果として、そのようなスラリーは使用不可能になり直ちに廃棄しなければならず、高価な研磨剤、時間、人的資源および労力を浪費する。
【0008】
従来技術による懸濁液では、懸濁液が長時間の停滞貯蔵において均質(homogenous)かつ均一(uniform)に保たれる時間の長さは温度およびpHによって決まっていた。無機粒子は、粒子の大きさ、格子構造および密度によっては水性および非水性溶媒中に懸濁状態で残ることがあるが、停滞貯蔵状態では凝集して懸濁液から沈殿する傾向がある。また、用途に応じて作成できる懸濁剤も存在しない。懸濁剤は形成された時と同じ媒体中に残り続ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の総合的な目的は、幅広い条件下において多種多様な化合物、ポリマー、および材料から多種多様なゲル粒子を提供することにある。そこでは多様な形成条件および原料材質の組成、ならびに有機、無機、半有機を含む多様なイン・シチュー(in-situ)形成媒質の種類の様々な組み合わせからゲル粒子がin-situ形成され、しかもその全てが安定なスラリー懸濁液中に長期間の不活性粒子分離および懸濁をもたらす性質を有する。これらの安定したスラリー懸濁液は、インゴットまたは他の大きな材料をウェーハ、ディスク、または他の機械加工、スライス、研削、もしくは成形された小片に切断するためのワイヤーソー用途、ラッピング用途、CMP用途、機械加工、研削およびミリング用途、自動車用金属ギア形成用途、光学および光電子スライス加工、研削およびラッピング用途、ならびに粒子の分離に利用できる。
【0010】
また、非水性媒体内でin-situ形成されたゲル粒子を提供することも本発明の目的であり、これらの例でも水性媒体内でin-situ生成されたゲル粒子と同じ性能および懸濁特性ならびにゲル粒子特性を提供することが示される。これらの非水性ゲル粒子は、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリアルキルアクリル酸、またはそれらのコポリマーからなり、有機媒体、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジエチレングリコールもしくはその他のグリコール中においてin-situ中和もしくは部分中和されることが他のゲル粒子と同じ性能の懸濁特性を満たす典型的なゲル粒子種を形成媒体内に作り出す上で好ましい。非水性媒体中で形成されたゲル粒子はまた、in-situ生成されるゲル粒子の典型的な特徴を有し、これらは使用する懸濁媒体そのものの中でin-situ生成するか、もしくはゲル粒子生成媒体内で生成し、得られた粒子を次の適切な媒体に移して不活性または研磨性の粒子懸濁液として利用される。ただし、後者の場合、第二の媒体が選択された最終的な媒体内におけるゲル粒子の懸濁性能に対する反応、相互作用、影響および性能低下を生じさせないことが条件となる。
【0011】
本発明のもう1つの目的は、懸濁液中の粒子の凝集または凝固がないか、実用的に問題にならず、また懸濁スラリー容器の底部に凝固した固体として集まることもなく、低毒性および/または低ないし中粘度でかつ懸濁キャリアの密度が懸濁したゲル粒子のそれより幾分少ないキャリアに含まることを条件として、安定した長期安定懸濁液中の不活性研磨剤または非研磨剤粒子の持続的な分離を可能にする特性を有するゲル粒子を提供することである。本発明のさらに別の目的は、中性または中性に近いpH媒体中でコロイド状またはNCOL研磨剤または非研磨剤粒子として存在し、安定な懸濁液を形成する不活性ゲル粒子を提供することである。
【0012】
本発明のさらなる目的は、最終スラリー粘度に依存しないでコロイド状またはNCOL研磨剤もしくは他の粒子を液体中に懸濁するための手段を提供することである。本発明はさらに、不活性粒子を分離および懸濁するための種々のベースキャリアに添加することができ、しかも潤滑剤として作用することができるゲル粒子を提供することも目的とする。本発明のなおさらなる目的は、鉄、炭素鋼などのような金属の腐食を引き起こさない水性または半水性のキャリア/スラリー系を提供することである。
【0013】
この他の目的は以下の内容に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はキャリア中の粒子の懸濁および固体の不活性粒子を懸濁するために単独でまたは有機もしくは水性媒体中で使用できるゾル-ゲルまたはゲル粒子に関する。ゾル-ゲル、ゲル粒子、ゼラチン状凝固物などを含むゲル粒子(以後「ゲル粒子」)は、不活性粒子を懸濁し、粒子単独または液体媒体中で様々な用途における潤滑剤として作用するために使用される。形成された懸濁スラリー組成物は、キャリアの約0.1重量%から約60重量%までの範囲の量でゲル粒子を含有することができる。ゲル粒子およびベースキャリアは、潤滑剤として他の懸濁粒子を添加せずに使用され得る。キャリアには約1~100重量%の水を含有することができ、水が100パーセント未満であればどのキャリアに対しても有機溶媒を添加できる。有機媒体には様々な溶媒を包含できるが、水性媒体中で不活性かつ非反応性を持ち、ゲル粒子(ゲル粒子によって懸濁される研磨剤を含む)を懸濁できる溶媒として用途に応じてアルキレンおよびポリアルキレングリコールが望ましい。懸濁ゲル粒子は、キャリア-溶媒組成物と同等またはそれより幾分大きい密度を有する。
【0015】
in-situ水性形成による懸濁液用のゲル粒子は水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化マグネシウムMg(OH)2、水酸化亜鉛Zn(OH)2、水酸化銅Cu(OH)2および類似のものが好ましく、水性または水性ベースの媒体中で生成され、分離されて水性または非水性の第2の媒体に移すか、または単独で多様なケースで使用され得る。ゲル粒子は、潤滑剤として、またはスラリーと総称される安定な懸濁研磨剤または非研磨剤粒子の懸濁液またはスラリーを用途に特化して製造するために必要とされ得る。しかしながら、ゲル粒子は、3~12のpH範囲内の水中で懸濁沈殿物を形成し得るものであれば他の金属硫化物、水酸化物、および酸化物水和物でも形成され得る。
【0016】
本発明は、不活性のコロイドもしくは非コロイド研磨剤、または非研磨不活性粒子を、安定な水性、半水性または有機性のキャリア媒体中に懸濁させる方法を含む。キャリア媒体は、その中で懸濁粒子がin-situ形成される液体となり、不活性粒子に対する懸濁粒子の適切な濃度を確立して、前記キャリア媒体中の前記不活性粒子の沈降に対する十分な干渉を生じさせる。前記キャリア媒体は、0.1~60重量%の範囲の前記懸濁粒子を含む。前記懸濁粒子は前述の不活性粒子とは異なり、アルカリ土類金属又は遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物又は酸化物水和物、珪酸塩、オルト珪酸塩又はポリ珪酸塩、加工デンプン又はセルロース誘導体、前記キャリア媒体の外で形成された多糖類、非イオン性キャリア媒体又は極性キャリア媒体中で形成された高分子電解質からなる群から選択され、pH4~12の範囲の前述のキャリア媒体中に包含された状態で前述の懸濁粒子をin-situ形成する。キャリア媒体中での懸濁粒子のin-situ形成は、キャリア媒体とは明らかに異なる分子的、立体配置的、流動学的(レオロジー的)および物理的構造と、前記キャリア媒体の密度よりも大きい密度と、前記キャリア媒体と視覚的に識別可能な別個の物理的構造と、約2μm~500μm又は約3μm~500μmの範囲の測定可能なサイズ差と、および前記懸濁粒子が形成されたキャリア媒体の分子を包含するがそれ以上の化学反応はしない(ただし、ゲル粒子構造と内部に含まれるキャリア分子との間の相互作用は可能であり相当の可能性で生じる)という一連の相当に均一な特性を示す懸濁粒子をもたらす。最後に、前記懸濁粒子はそれらの形成メカニズムまたは成分の起源とは無関係にこれらの性質を示す。
【0017】
前記懸濁粒子のin-situ形成の直接の結果として、前記不活性粒子は、前記懸濁粒子と前記不活性粒子との間の物理的干渉、前記懸濁粒子と前記不活性粒子との間の引力のうちの少なくとも一方により、前記キャリア媒体中に懸濁される。これによって化学的、物理的または物理化学的な干渉、および懸濁粒子の不活性粒子およびそれ自体に対する静電的反発力をもたらす近接性が生じ、これら全ての結果として長期間にわたる前記キャリア媒体中の前記不活性粒子の凝集および凝固を防止する。in-situ形成される懸濁粒子を構成する成分は、ゲル粒子、ゾル-ゲル粒子、または多くの化合物のゼラチン状沈殿物であり得るが、これは以下に詳述する。加えて、懸濁粒子の成分の組成に応じて、前記懸濁粒子は最終キャリア媒体とは別の媒体中で形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、多種多様な化合物、ポリマー、および材料から非常に多様な条件下で多種多様なゲル粒子を形成または発生させるための手段を提供する。ここでのゲル粒子のin-situ形成は広範で異なる形成条件、構成材料組成、および有機、無機および半有機マトリックスにまたがる多様なin-situ形成媒体の組み合わせで行われ、ゾル-ゲルまたはゲル粒子を利用して水性、半水性、または有機媒体中に不活性または研磨粒子の凝固および硬質沈降のない安定な懸濁液を提供する。この懸濁液は、ゲル粒子の利点である”安定特性”によって安定させた切断用、スライス用、研削用などのスラリーに利用され、切断、スライス、機械加工、研削、フライス加工、ラッピング、再成形、硬質材料をウェーハ、ディスク、特殊硬質金属、半金属、またはセラミック部品などを含むがこれらに限定されない完成片に加工する目的に使用される。
【0019】
本発明の特徴の1つは、切断またはスライスに用いるスラリー、潤滑剤、ラッピングまたはポリッシングスラリー、非研磨スラリー、および類似のワイヤーソー用途の粒子の懸濁が周囲温度および昇温によって変化しない懸濁液および/または潤滑性キャリアおよびスラリー組成物の提供である。ゲル粒子は、キャリア媒体中で約0.1~80重量%の水性、半水性または非水性懸濁液として維持され、これによって研磨剤または不活性粒子の凝集または硬質沈降に対して十分な粒子間干渉を提供する。ゲル粒子密度は、キャリア媒体の密度よりいくらか大きい。ゲル粒子は単独で調製し、潤滑剤および/または懸濁剤として単独またはキャリア中で使用するか、またはゲル粒子とキャリア媒体との懸濁相溶性に応じて適切な極性もしくは非極性溶媒と組み合わせることができる。一例として、ゲル粒子は異なる種類のグリコール中で使用でき、これによって特定の用途に特化した特製の潤滑組成物が得られる利点を持つ。
【0020】
多くの場合において、可能な限り長期間にわたって均一な分散を得るためには、2種以上の懸濁剤を使用することが望ましい。その理由は、懸濁させようとする粒子が、懸濁ゲル粒子とは異なる密度および/または静電荷を有する可能性があるからである。例えば、ワイヤーソー切断作業では、切断用の粒子および切断されているインゴットの切断部から発生する粒子が存在する。他の作業では、懸濁媒体よりも高いか、または類似の密度を有する不純物が存在する可能性がある。
【0021】
水性のケースを例にとると、これらの懸濁粒子は、in-situ形成されたアルカリ土類金属または遷移金属の水酸化物、オキシ水酸化物、および酸化物水和物(水和酸化物とも呼ばれる)で、約3~12の範囲のpHの水性または半水性媒体中において懸濁粒子状沈殿物、すなわちゾル-ゲル、ゲル粒子、ゼラチン状沈殿物などを形成するものである。懸濁させる粒子は従来の研磨剤または非研磨剤粒子、不活性粒子で、顔料製造、ワイヤーソー切断、金属仕上げ用途およびウェーハラッピング用途では粒径が約1~100μmのもの、ウェーハのラッピング用途では一般的により粒径の小さい約0.1~10μmのもの、そしてCMP用途ではさらに小さい、約10~500nmのものが用いられる。懸濁粒子は、好ましいものをin-situ形成するか、または金属塩から金属水酸化物を形成する場合のように別に形成する。そのような場合では、in-situ調製された沈殿ゼラチン状のゲル粒子の密度はより大きく、in-situ形成されるゲル粒子は、同じゲル粒子が市販されている場合に入手できる”乾燥”形態よりも表面積が小さい。in-situ形成されたゲル粒子は通常、in-situキャリア媒体、または形成された「ゲル粒子」が配置される任意の第2の媒体よりも高い密度を保持する。加えて、一般に、本発明によりin-situ形成されたゲル粒子はより広い粒度分布を示す。ゲル粒子をキャリア媒体から分離させることの利点として、特定の用途、特にコーティングに使用するために異なる粒径の粒子の混合が可能になることが挙げられる。
【0022】
上記の組成物の研磨材料としては、ダイヤモンド、シリカ、炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムの粉末、または他の硬質の粒を持つ”粉末”素材が使用できる。一般に、平均または標準の粒径は、約0.5~100ミクロン、好ましくは約2~50ミクロン、またはそれら範囲内の混合物である。ほとんどの用途で懸濁媒体またはキャリアに懸濁されている不活性粒子の濃度は、典型的には全懸濁液の約0.1~60重量%の範囲に入る。
【0023】
水性媒体と共に使用できる溶媒は、アルコール、アミド、エステル、エーテル、ケトン、グリコール、グリコールエーテル、アルキルラクトン、またはスルホキシドを含む極性溶媒である。具体的な極性溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチルピロリドン(NMP)、(ガンマ)γ-ブチロラクトン、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、各種グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。
また、前記水性のキャリア媒体が少なくとも1つの不活性極性溶媒を含有する。前記不活性極性溶媒が、ジアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリコールエーテル、ポリアルキレングリコール、アルキルラクトン、N-メチルピロリドン、アルキレンカーボネート、アセトニトリル、およびジメチルアセトアミドからなる群から選択される。
【0024】
有機溶媒は、調製で得られるスラリーに必要な粘度レベルを与えるために使用される場合がある。有機溶媒の他の用途としては、スラリー/キャリアの凝固点の低下が挙げられる。溶媒の選択は、溶媒が不活性であるか、水に対して完全に混和性または可溶性があり、水性形成ゲル粒子の場合には水または懸濁される粒子もしくは懸濁ゲル粒子と非反応性であり、かつ低毒性で低臭気である限り、比較的重要ではない。
【0025】
水性形成ゲル粒子のケースで使用可能な懸濁粒子として、金属水酸化物、酸化物水和物(または水和酸化物)、および水性または半水性懸濁液を形成する研磨剤粒子以外の酸化物(例としてゲル粒子、ゼラチン状沈殿物、ゾル-ゲル、コロイドまたは非コロイド懸濁液など)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の重要な成分であるこれらの懸濁粒子は、時間の経過とともに容器の底部に向かって沈降することがあるが、時間の経過とともに硬い凝集物または粒子の「ケーキ」を容器の底に形成することはない。これには、次式の例に示すように、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、炭化テトラエチルアンモニウムなど金属または非金属ブレンステッド塩基を使用して水酸化物形態(金属硫酸塩など)に変換された媒体中または媒体なしでin-situで存在する化合物が含まれるが、これらに限定されない。
【0026】
【0027】
不溶性の完全に懸濁したゼラチン状の沈殿物またはアルミニウムの沈殿物が、約4~12の範囲のpHで形成される。
【0028】
本発明の水性形成ゲル粒子の例に使用するのに適した金属水酸化物としては、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化第一鉄または水酸化第二鉄およびZn(OH)2.が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の水性例において懸濁粒子を形成またはin-situ形成するために使用され得る金属硫化物、塩又は酸化水和物には、Zn-塩、ZnS、SnO2xH2O、錫塩、SnS、Al2O3xH2O、Al-塩などの遷移金属酸化物がある。これらの塩、硫化物、オキシ水酸化物、酸化水和物(または水和酸化物)などを使用して対応する水酸化物を形成し、本発明の水性キャリアシステム例のためのゾル-ゲル、ゲル粒子、およびゼラチン状粒子懸濁液を含む安定な懸濁媒体を得ることもできる。Al(OH)3または他の酸化アルミニウム、もしくは水酸化物種の場合には、キャリア中で使用するためのpH範囲は約3~12である。好ましいpH範囲は5~10であり、最も好ましいpH範囲は6~9である。
【0029】
懸濁沈殿物またはゲル粒子として含まれるのは、キャリア溶媒の密度よりも大きい密度を有する粒子、および天然に沈殿性または懸濁性を示す粒子である。水性または半水性媒体中でin-situ形成または沈殿させ、その後で本発明のキャリアシステムに添加する場合を除いて、より高い密度を有する金属オキシ水酸化物、水酸化物または水和酸化物が存在することが分かっている。
【0030】
研磨剤スラリー(SiCスラリー)の”ソフト沈降”特性のレベルを定量的に測定するために、精密測定装置を使用した。特定の懸濁キャリアのスラリー安定性は、そのソフト沈降保持特性(SSR)、言い換えれば、容器の底部に硬いケーキを形成することに対する固体懸濁物の抵抗の大きさによって評価される。また、懸濁液中で固体粒子が互いに分離された状態を維持する効率を測定する懸濁液体積保持率(SVR)によっても評価される。キャリアが安定なスラリーを作り出すことができるかどうかを測定するために、15~25%の炭化ケイ素(SiC)JIS1000等級(平均粒径約13~16μm)を含むスラリーを調製し、50mlの目盛り付きの円錐底部を有する試験管に入れ、室温および50℃の環境下で長期間にわたってSSRとSVRの両方を測定した。
【0031】
ソフト沈降保持特性の測定にはIMADA垂直手動レバー力試験台、モデルLV-100を使用した。IMADAは、シャフトの底部に基準直径の円形パッドを有するプローブをスラリーに対して押し下げ、スラリーを通過して容器の底部に到達するのに必要な力を測定する。必要とされる力を測定するために、プローブが目盛り付き試験管の円錐形底部から1mm以内の点まで伸びて到達することができるようにプローブのシャフトを長く、底部の直径とプローブの直径の差が1mm未満になるようにIMADAの構成を修正した。プローブは、細長いねじ付きロッドをプローブに取り付けることによって長くした。IMADAによって測定された力は、百ポンド単位で報告される。低いSSRは、研磨剤を容易に再懸濁することができることを示し、1.0を超えるような高い値は、研磨剤が硬く沈降し、容易に再懸濁することができないことを示す。
【0032】
懸濁液体積保持率[SVR]は、試験管内に占められている固体の体積(ml)を測定し、その体積を目盛り付き試験管中のスラリーの全体積(ml)で除し、その結果に百分率読み取り値の100を掛けることによって計算される。常にではないが一般に、SVR値が高いほど、すなわち100%に近いほど、キャリアが研磨剤を懸濁状態に保持する能力が優れている。スラリーのSVRは一般に時間経過と共に減少するが、必ずしもスラリーのソフト沈降特性を示すものではない。不規則に、SVRの測定値は、調査対象のスラリーの”ソフト沈降”実験の条件下では期待値と一致しない。つまり、SVRは定性的な指標にはなるが、はるかに正確で一貫性のある定量的なソフト沈降特性[SSR]値とは対照的に、”ソフト沈降”スラリーに期待される一貫した値は得られない。ゆえに、SVRは、常にではないがしばしば示唆的ではあるが、SSRのようなスラリーの全体的な安定性の定量的基準にはなり得ない。
【0033】
本発明の一部として記載された典型的に形成されたゲル粒子によって懸濁された研磨スラリーの安定化の程度、および保存スラリーの長期間にわたるSSR値と同じスラリーのSVRとの間の不規則な直観的関係の例としては、以下のケースが典型的である。
【0034】
見かけ上非水性のゲル粒子懸濁キャリアをPEG-200で次の方法でin-situ形成した。懸濁ゲル粒子は、>3000Dの最終分子量を有するアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーの部分中和によって形成された。前述のポリマーは、最初に50/50(wt/wt)水溶液として購入され、懸濁キャリアPEG-200に添加することでコポリマー酸の透明からわずかに濁った溶液が得られた。このポリマー酸は、適切なゲル粒子がwt/wtベースで約48%のSiC研磨剤を懸濁するのに十分な濃度でPEG懸濁媒体中に形成されるまで、アミノ水酸化物塩基を使用して部分的に中和された。
ここで、前記ゲル粒子が半流動体(semi-liquid)のままであり、該ゲル粒子内のキャリア分子が無傷のまま維持される条件下でのみ存在し続ける。
【0035】
このスラリーを使用して多数のSiiインゴットをウェーハに切断した後、スラリーは”消耗済み”の状態になり、3コンテナあたり総重量が3000ポンドを超える4×4×4インチの300ガロン容器で保存された。使用済みスラリーは、温度および/または湿度を制御しない環境で、4年間停滞状態で”低温貯蔵”した。シャフト端に直径8インチ以下の円形ディスクを備えた5インチ長スチールシャフト(延長サイズのIMADAロッド)を使用して、長期保存された使用済みスラリーの”ソフト沈降”特性を定性的に測定した。”IMADAロッド”は外力を加えずに静かに各容器内のスラリーの中に降下させ、沈降した固形物の硬さを定性的に測定した。これらの固体のSVR測定値は<30%であった。IMADAロッドは、外力なしで容器内のスラリーの最下部まで落下することができ、4年間の停滞貯蔵後でさえも~0のSSRを示した。
【0036】
この実験を少なくとも12個の他のグリコール系非水性使用済みスラリー貯蔵容器で繰り返したが、全てのケースにおいて同様の結果が得られた。4年経過後の固形分高含有スラリーにおけるそのような”ソフト沈降”は、本発明のゲル粒子の分離および懸濁特性の概念の有効性および持続性を明らかに実証している。
【0037】
ソフト沈降抵抗(SSR)を測定するために利用される測定ツールが反復可能かつ正確な方法で”ケーキ貫入抵抗”を正確に測定するように、標準ロッドの貫通深さおよびツールの較正の両方を毎日チェックした。優れた懸濁キャリア内に形成されたスラリーについては、貫入のSSRは低く、管理された試験条件下における4~6週間までの長期保存では<0.1ポンド程度であると予想された。例えば標準PEG-200、-300、または-400などのゲル粒子、または水の存在しない劣質な懸濁キャリア中に形成されたスラリーについては、数日という相当に短い保管期間でソフト沈降抵抗の測定値は典型的には1.5-2.0ポンドの高い範囲を示した。言い換えれば、所与のスラリーの時間経過後のSSRが低いほど、性能、安定な貯蔵可能性、時間経過による個体の凝固または凝集の防止、スラリー懸濁液の維持、リサイクル性、および長時間保管後における元のスラリー懸濁液特性保持の容易さに関して、より安定、均一であり、すなわちより良質なスラリーである。
【0038】
本発明は、水性、非水性および半水性媒体に関するものであるため、本発明の配合物がワイヤーソー、金属仕上げラッパー、ウエーハラッパーなどの典型的な構成要素である炭素鋼、鉄、ばね鋼などの金属と長時間接触することによって金属の腐食や錆を引き起こす可能性がある。必要に応じて腐食防止剤を本発明のキャリア配合物に添加して金属腐食を抑制または排除することができる。適切な防止剤として、発泡を引き起こしたり、長期間安定した研磨剤または固体懸濁液を提供する性能を妨げたり、またはキャリア配合物およびそれらに関連した研磨剤または固体懸濁液の粘度、レオロジー、または均一性を損なわないものを使用する必要がある。
【0039】
本発明の水性および半水性キャリアに添加することができる適切な腐食防止剤には、脂肪族および芳香族カルボン酸、アルカノールアミン(ジエタノールアミン、モノエタノールアミンなど)を使用した中和カルボン酸、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、他の類似の非金属水酸化物塩基、アルキルまたは芳香族アミン、または他のブレンステッド塩基などが含まれるが、これらに限定されない。その他にも、当技術分野で知られているものとしてDeForest DeCore-APCI-95、DeTrope CA-100などの商品名で市販されている長鎖修飾カルボキシレートなどの金属腐食防止剤も含まれ得る。CMPプロセスで使用される金属(すなわち、Al/Cu、Cu、Al/Si、Al/Si/Cu、GaAs、LnPなど)の腐食防止または抑制に常軌と同等に適した既知の腐食防止剤のさらなる例としては安息香酸、ピロガロール、没食子酸、チオ硫酸アンモニウム、8-ヒドロキシキノリン、カテコール、ベンゾトリゾール、トリエタノールアミン、イマダゾール(ベンゾイミダゾールおよびアルキル置換ベンズイミダゾールなど)、スルホランなどのチオフェン化合物、変性ポリアクリル酸もしくはポリアクリレート、多糖類、ポリビニルアルコールなどのポリアルコール、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、他にも酸素吸収剤または捕捉剤として機能する適切な腐食防止剤がある。これにはp-ヒドロキノン(p-キノールなど)、カテコールまたは没食子酸などのポリヒドロキシ芳香族、8-ヒドロキシキノリン、亜硝酸塩、亜硫酸塩を含むがこれらに限定されない。
【0040】
本発明の用途のための腐食防止剤は、その防止剤が前述の性能基準(以下に列挙するものを含む)を満たす限り、いずれを選択するかは重要ではない。
・金属の腐食を抑制または排除する。
・キャリアまたは得られるスラリーの顕著な発泡を引き起こさない。
・懸濁液の長期安定性を提供するための懸濁キャリアの能力を損なわず、または干渉しない。
・キャリアまたは得られるゲル粒子または不活性固体懸濁液の粘度、性能またはレオロジーに悪影響を及ぼさない。
・キャリア懸濁液またはキャリア中のゲル粒子または不活性固体懸濁液の均一性または均質性に有害な影響を与えない。
・スラリーがゲル粒子によって懸濁される際に、ベース媒体またはキャリアのゲル粒子または不活性粒子と化学的に反応しない。
【0041】
ゲル粒子を形成するための反応の副生成物として生成されるある種の塩は、適切な濃度および構造を与えられることでイオン強度を適切に増加させ、反発を助け、懸濁不活性粒子の沈降にかかる時間を増加させる。しかしながら、スラリー懸濁液全体の適用に応じて、ゲル粒子形成中に形成された生成溶解塩をすすぎ落とし、in-situ形成されたゲル粒子のみを中和または部分中和されたベース媒体(この場合は水が好ましい)中に残すことも有利であり得る。
【0042】
以下の実施例は本発明の方法の実施を説明するものである。ただし、列挙された実施例は、本発明の全範囲を限定するものとして解釈されるべきものではなく、上述した指針原理に照らして、本明細書は様々な変更点を含意すると理解されるべきである。本明細書に記載されている全ての百分率は、別に注釈がない限り、重量に基づく。
【0043】
実施例1
A.ゲル粒子の調製: 固体硫酸アルミニウム十六水和物を水道水に添加して、水中の硫酸アルミニウムパーセントが10.76%になるようにした。この溶液をテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)の25%溶液で30分間かけて絶えず混合しながらpH7.7に中和した。得られたAl(OH)3ゲル粒子の見た目は白濁した懸濁液である。この懸濁液を次に水で3回すすいで懸濁液中に溶解した副生生産物の塩を除去する。得られたキャリア懸濁液のイオン性質/特性は、非常に低いかまたは全くない。
【0044】
B.研磨剤粒子の懸濁スラリーの調製-A部のゲル粒子を濾過し、このゲル粒子の濃縮物を水性キャリアに添加して、特定のゲル粒子濃度にする。この水性懸濁液に、乾燥酸化チタン固形分を添加し、固形分の全量を25%とし、コーティング用途の組成物としてゲル粒子の含有量を約10%以下にする。この配合物のソフト沈降抵抗(SSR)および懸濁液体積保持率(SVR)のデータを以下の表1aおよび1bに示す。
【0045】
【0046】
【0047】
固体TiO2懸濁スラリーについて、SSR測定値ゼロは、優れた懸濁性能を明らかに示すものである。4週間後の室温SVRが42%であり、すべての測定点でのSSRがゼロという測定値は、懸濁液が優れた”ソフト沈降”性質を持つことを示す結果である。
【0048】
実施例2
A.ゲル粒子の調製-固体硫酸アルミニウム十八水和物を水道水に添加し、水中の活性硫酸アルミニウムの濃度が15.5%になるようにした。この溶液をKOH(25%水溶液)と絶えず混合しながらpH7.7までゆっくりかつ均一になるまで中和した。in-situ形成されたゲル粒子の見た目は、水ベース中で白く濁った懸濁液である。
【0049】
B.研磨剤粒子の懸濁スラリーの調製-研磨剤として平均粒子サイズが9~10μm以下SiC粒子を~48%含有するスラリーを、上記(A)で調製したゲル粒子キャリア内に懸濁させる。懸濁液を十分に混合し、室温と高温の両方の条件下に放置して、ソフト沈降および懸濁の均一性の特性を測定する。配合物、粘度、ソフト沈降保持(SSR)および懸濁液体積保持(SVR)のデータを以下の表に示す。ここでも、SSRおよびSVRの測定値は、4週間後でさえも優れて安定な粒子懸濁を示している。しかしながら、SVRは、典型的には、同じスラリーを室温に置いた場合に比べ高温ではより低くなると予想されることに留意する必要がある。この場合、先に述べたように、SVRはスラリーが安定した”ソフト沈降”スラリーであることを示し得る一方、期待される定量的または定性的測定値を生成しない。つまり、”SVRは定性的な指標になり得るが、必ずしも”ソフト沈降”スラリーに期待される一貫した値が得られるわけではない…”。
【0050】
【0051】
実施例3
固体硫酸アルミニウム十八水和物を水道水に添加し、水中の硫酸アルミニウムの濃度が15.54%になるようにした。この溶液をKOH(25%水溶液)でpH7.7まで中和する。この白濁したキャリアシステムに、平均サイズが約8~9.5μmのSiC粒子を添加する。懸濁したスラリー全体を~5分間十分に混合する。配合、粘度、SSR、およびSVRのデータを以下の表に示す。
【0052】
【0053】
硫酸アルミニウムの代わりに、硫酸亜鉛または硫酸第一錫を使用できる。形成されたゲルは濾過した後液体媒体中に混合して使用できる。スラリー安定性に関しては、先の実施例と同様の結果が観察された。しかしながら、この実施例では、50℃、4週間後のSVRが71となり、非常に安定したスラリーであることを示している。
【0054】
【0055】
不活性塩を添加して、粒子にさらなる静電反発力を与えることができる。また、ゲル粒子形成によって生成された溶解塩は、水または適切なキャリア媒体溶媒で洗い流すことで、比較的イオン性が低いか、または全くないゲル粒子懸濁液を生成できる。
【0056】
実施例4b
A.ゲル粒子の調製-
この実施例では、溶媒として水道水を使用する代わりに、ジエチレングリコール(DEG)を使用する半水性溶媒を使用した。硫酸アルミニウムはDEGに溶解しないので、まず硫酸アルミニウムの水溶液を調製し、それをDEGに加える必要がある。Al(OH)3ゲル粒子は、水中で調製し、形成されたゲル粒子をDEGのような他の溶媒に添加する手法が一般的である。この場合、0.4M硫酸アルミニウム溶液を調製し、25%TMAH水溶液でpH約7.8~8.8以下に中和した。ゲル粒子をin-situ形成した水媒体から分離し、次いでDEGに添加してラッピング研磨剤の懸濁に適したゲル粒子懸濁液を得た。そのSSR、SVR、および粘度を測定した。ソフト沈降測定管は、SiCの代わりに18%酸化ジルコニウム(ZrO2)を用いて調製した。測定結果を下記の表4a-1および4a-2に示す。
【0057】
【0058】
表4a-2のSSRの結果は、初期量が2.0%を超える場合に室温で1週間経過後にも安定な懸濁液が存在していることを示している。このケースではSVR=0.16であり、これは非常に”ソフト沈降”性の高い懸濁液を示している。50℃では、0.49%のAISレベルでも1週間後に安定な懸濁液が得られている。
【0059】
【0060】
実施例4b
A.ゲル粒子の調製 -
この実施例では、直前に記述した実施例4aと同様に、溶媒として水道水を使用する代わりに、ジエチレングリコール(DEG)を使用する半水性溶媒を使用した。硫酸第一錫はPGMEに十分に溶解しないので、硫酸第一錫の水溶液を調製し、その中でSn(OH)2ゲル粒子を調製した後、PGMEに添加する。この場合、0.5M硫硫酸第一錫溶液を調製し、十分な量の25%TMAH水溶液でpH約7.9に中和した。ゲル粒子を濾過し、湿潤ゲル固形物を密閉条件下で4週間貯蔵して、湿潤ゲル固形物内の含水量を維持した。
【0061】
B.コーティング粒子の懸濁スラリーの調製-この湿潤ゲル粒子を水とPGMEとの2:1混合物に加え、全混合物の33%になるようにした。その混合物に、二酸化チタンをゲル粒子と同量の重量で添加してコーティング組成物を形成した。懸濁粒子間に追加の静電反発力を与えるために、ここに適量の硫酸テトラメチルアンモニウムを添加することも可能である。
【0062】
実施例4c.
以下の配合物は、キャリアを水道水で希釈することにより実施例4aに記載の配合物の粘度を下げることを目的としたものである。キャリアを水で25%および50%に希釈し、硫酸アルミニウムの濃度はいずれの希釈率でも一定に保った。この実施例では、50%希釈の場合を以下の表に示す。ソフト沈降の試験管は、SiCの代わりに18%酸化ジルコニウム(ZrO2)を用いて調製した。測定結果を表4c-1および4c-2に示す。
【0063】
【0064】
表4c-2に示すSSRの結果では、水性媒体中で“Al(OH)3”ゲル粒子をin-situ形成するために使用する硫酸アルミニウム含有量が約0.75%よりも多い場合に、室温スラリーのソフト沈降特性として最小限許容可能な値を示している。50℃において、硫酸アルミニウム含有量が0.50%を超える場合、1週間後のSSRは安定したソフト沈降スラリーの値を示す。
【0065】
【0066】
この実施例は、対象スラリー中に含まれる研磨剤粒子または不活性粒子のレベルの安定を物理的および/または物理化学的に妨げるためには十分な懸濁ゲル粒子の含有量が必要であることを実証する。ゲル粒子含有量が、研磨粒子の凝集、凝固および硬質沈降を適切に防止するのに必要とされる量よりも少ない場合、貫入に対して著しい抵抗を示す硬質沈降ケーキが生成され、そのようなスラリーは均一なスライス(uniform slicing)、切断、研削、ラッピング加工用途に適さず、硬質材料のより大きなインゴットまたはブリックから望ましい形状、表面品質、ウェーハまたはスライスされたディスクを一貫して均一な品質で得ることができない。
【0067】
実施例5
実施例2、工程Aに従って調製され、分離されたゲル粒子を、十分な量のPEG200と混合して、~30%wt/wtの湿潤ゲル粒子濃度を得た。これに水を加え、キャリア懸濁液をそれぞれ25%、50%、75%に希釈して、3つの異なる希釈物にそれぞれ異なる3つのゲル粒子濃度を持たせた。この実施例について、全体のpH、SSRおよびSVRの変動を以下の表5に示す。本明細書の他の実施例に従い、18%酸化ジルコニウム(ZrO2)を混合物に添加し、スラリー特性を測定した。各種の希釈液の測定結果を以下の表に列挙する。
【0068】
【0069】
ここに記載するゲル粒子は原則的に、展性またはゼラチン状の粒子である。これらの粒子は懸濁媒体内でin-situ形成されるか、または最終懸濁媒体の外で形成されたもので、ただし後者の場合は混合、接触、または他の方法で懸濁媒体と直接相互作用させ、物理化学的反応、吸収相互作用、静電相互作用または他の「結合」メカニズムをゲル粒子と懸濁媒体との間に生じさせることによって最終的に上記媒体に懸濁させるゼラチン状の展性粒子を形成させる必要がある。
【0070】
実施例6
A.ゲル粒子の調製-
この実施例では、水性溶媒を使用する代わりに、ポリエチレングリコール(PEG-200)を使用する非水性溶媒を使用した。さらに、懸濁ゲル粒子として、in-situ調製された金属水酸化物の代わりに、部分中和有機ポリマーを使用して、非水性PEG-200溶媒中に懸濁ゲル粒子を生成する。
【0071】
B.研磨剤粒子懸濁スラリーの調製-懸濁ゲル粒子は、>3000Dの最終分子量を有するアクリル酸とマレイン酸とのコポリマーの部分中和によって形成された。このポリマーは、最初に50/50(wt/wt)水溶液として購入され、懸濁キャリアPEG-200に添加することでコポリマー酸の透明からわずかに濁った溶液が得られた。このポリマー酸は、適切なゲル粒子がwt/wtベースで約~47%のSiC研磨剤を懸濁するのに十分な濃度でPEG懸濁媒体中に形成されるまで、アミノ水酸化物塩基を使用して部分的に中和された。前述の通り調製された非水性スラリーについて、この配合物の主要変数、ソフト沈降抵抗(SSR)および懸濁液体積保持率(SVR)のデータを以下の表6aおよび1bに示す。
【0072】
【0073】
【0074】
ゲル粒子はエマルジョン、ゾル、またはゲルとは見なされないことを理解する必要がある。ゲル粒子は、他とは区別される”ゼラチン状”粒子である。上記のいずれか、または他のメカニズムを使用して媒体中でゼラチン状粒子として形成され、内部にその液体媒体の分子を包含する。ゲル粒子は部分的に固体であるが、エマルジョンの場合のような懸濁液体ではない。本発明の目的のために利用されるゲル粒子は、ゲル粒子そのものの化学的違いまたはそれが形成されたメカニズムの違いにかかわらず、共通の性質を有する。
【0075】
ゲル粒子は、媒体の中でいずれかの手段を適用、実施、または使用して形成されるが、得られたゲル粒子は媒体全体とは別個で独立した、異なる特性を有する別個の異なる分子および物理構造を有する。ゲル粒子は、ゲル粒子の形成に利用される典型的な特性を除いて互いに他の類似の特性を有さない化合物、ポリマー、オリゴマー、有機または無機材料を用いた、互いに大きく異なる各種の懸濁液またはキャリア媒体中で形成され得る。
【0076】
言い換えれば、作成された粒子は、それが形成された媒体が異なっていても同様の特性を示す。以下にその例を挙げる:
1)物理的にも、構造的にも、分子的にも、そして電荷に関しても、それが元々形成されたPEGのグリコール媒体とは大きく異なる高イオン性有機懸濁ポリマー粒子。
2)物理的にも、構造的にも、分子的にも、そして電荷に関しても、それが元々形成された水ベース媒体とは大きく異なる、非常に低イオン性の無機懸濁非ポリマー粒子。
直前の2つの例については、両者は大きく異なる2つの異なる「分子種」に属するゲル粒子であるが、以下に列挙する類似の形成ステップを持つ:
a)ゲル粒子は同様の方法を用いて調製される
b)ゲル粒子はそれらが懸濁される媒体内でin-situ調製される
c)ゲル粒子は、それらが生成された媒体の非常に異なる分子環境内に存在する別個の異なる分子環境として生成される
d)ゲル粒子は、それらが形成された媒体の密度よりも幾分大きい密度を有する
e)ゲル粒子は、物理的干渉、密度差、(反発における)静電荷の寄与、ならびに機械的、二次的(すなわち分子間および分子内電荷分布効果(双極子力)や水素結合力またはファンデルワールス力など)のようなゲル粒子と不活性間の粒子相互作用によって付着および/または物理化学的粒子干渉をもたらし、不活性粒子を効率的かつ効果的に懸濁する
f)ゲル粒子は、それらが形成される個々に異なるin-situ媒体内の別の分子との化学的相互作用または化学反応によって調製される。
【0077】
これらのゲル粒子は、どのような媒体中で形成されるか、またはどの成分が最終的なゲル粒子を形成するかにかかわらず、互いに極めて類似し、かつ他の形態の物質とは大きく異なる以下のような特徴または性質を有する。ゲル粒子は常に、ゲル粒子自体とは明らかに異なる分子的、立体配置的、レオロジー的および物理的特性を有するキャリア媒体内でin-situ形成される。最初は最終的なキャリア媒体の外で形成されるゲル粒子(例えばいくつかの多糖類)であっても、適切な時にキャリアに暴露、相互作用、混合または反応させて最終ゲル粒子を形成させる。このため、最終的なゲル粒子はキャリア媒体でin-situ形成されたと表現し得る。ゲル粒子は、それらの構造内にそれらが形成された媒体の一部を含むため、媒体より常にいくらか大きい密度を有し、時間の経過と共に容器の底部に向かって沈降する傾向がある。形成されたゲル粒子は、それらが形成された媒体とは物理的、立体的、構造的および視覚的に明確に区別できる環境である。ゲル粒子は、測定可能な大きさを有し、それらが形成され懸濁されているキャリア媒体とは別の物理的実体である。ゲル粒子は展性のある”柔らかい”、そして可撓性のある実体であり、懸濁媒体内の他の不活性粒子に機械的に付着して不活性粒子の周囲にある種のクッションを形成することによって媒体内の不活性粒子の懸濁能力を高めることができる。ゲル粒子は、それが形成されたキャリア媒体の分子を内部に包含する。ゲル粒子のサイズは”ミクロ”であるが、ゲル粒子の物理的構造とサイズは2μm~500μm又は3μm~500μmの範囲で大きく異なる。また、ゲル粒子のサイズは、形成される元になる分子またはポリマー成分のサイズによってはさらに大きくなることもある。形成されたゲル粒子は、エマルジョン、ゾル、ゲル、または可溶性粒子ではない。ゲル粒子の内部にはそれらが形成されたキャリア媒体の分子を含むが、キャリア媒体とは区別される半ゼラチン状粒子であり、キャリア媒体とは異なる実体および環境である。一旦形成されると、ゲル粒子はそれが形成された媒体とはそれ以上反応しない。内部にキャリアの分子を含んでいるが、キャリア媒体とのさらなる化学反応は起こさない。本発明のゲル粒子はエマルジョンではなく、また定義上のエマルジョンの性質も有さないが、固体粒子、ゲルおよびエマルジョンの性質を併せて共有する”半固体”粒子と見なすことができる。ただし、ゲル粒子はこれら分類のいずれの物質にも属さない。
【0078】
懸濁粒子としてのゲル粒子は、粒子内のキャリア分子を完全な状態で内部に保持した状態でそれらが”湿潤”に保たれる条件下でのみ主に存在する。乾燥させるか、または”蒸発”させるか、またはキャリア粒子をゲル粒子から除去すると、粒子の懸濁特性が損なわれ、”乾燥”粒子は研磨性または不活性粒子懸濁特性を示さなくなる。
【0079】
本発明の特徴および特性を満足させるであろうゲル粒子には多数の例がある。ゲル粒子材料として利用可能なこれらの物質は、以下のような特徴を持ついくつかのグループに分類される。
【0080】
a)アルカリ土類金属の水酸化物および酸化物-水和物、すなわちMg(OH)2、Mg0-xH2O)
b)遷移金属のアルカリ中和塩で、水性または他の苛性アルカリ媒体中で、ブロンステッドまたは非ブロンステッド塩基を使用しFe、Cr、Al、Zn、Cu、Ni、その他の形成されるin-situ最終生成物が金属の「水和」またはキャリア含浸水酸化物(水和酸化物とも呼ばれる)である物質のin-situ塩を中和したもの
c)珪酸塩、オルト珪酸塩およびある種のポリ珪酸塩
d)合成および天然の加工デンプン(コーンスターチなど)
e)セルロース誘導体。以下に例示するがこれらに限定されない:ヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルカルボキシメチルセルロース、アセチルセルロース
f)懸濁媒体の外で形成されるが、懸濁媒体との長時間の混合によって独立したゼラチン状粒子に”粉砕”され、さらに懸濁粒子として作用可能なゲル粒子に粉砕された上でキャリア媒体内に再懸濁された多糖類。以下に例示するがこれらに限定されない:グアー、グアーガム、寒天、寒天-グアー混合物、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、アルギン酸塩および金属アルギン酸塩(アルギン酸カルシウム)、植物由来多糖類およびこれらの材料の混合物
g)非イオン性キャリア媒体または極性有機キャリア中の高分子電解質。これには以下が含まれ得る:スルホン化ポリスチレン(PSS)、ポリアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、またはそれらのコポリマー(中和もしくは部分中和)(PAA)、アンモニウムポリ(メタクリレート)(APMA)、ポリエステルアミドおよび上記ポリアミンのコポリマー、ポリ-(アミノ酸)高分子電解質(例えば、ポリ(L-アスパラギン酸)(PAA)、ポリ(L-グルタミン酸)、(PGA)およびポリ(L-リジン)(PLL)。
本発明に関連する用途のためのゲル粒子はすべて、形成メカニズムまたは起源とは無関係に共通の性質および特徴を有すると共に、多くの共通の性質、挙動および、多種多様な構造、化合物、ポリマーおよび材料を結び付ける特徴的な糸を有する。形成メカニズムまたは起源にかかわらず、上記の実施例に定義および記載されているすべての「ゲル粒子」は同じ共通の性能および挙動特性を有し、これらは上記の有用な用途に必要とされるものである。
【0081】
多糖類は水性キャリア中のコーティング組成物として使用されてきた。そのようなコーティング組成物の形成の一例では、最初に100mlの蒸留水中に5gの選択された純粋な多糖類(寒天およびグアーガム)を懸濁することにより、加工された多糖類(modified polysaccharides)を調製する。懸濁液を、マグネティックスティアラーを用いて500rpmで24時間撹拌した。得られた膨潤塊をエナメルトレイ上に広げ、40℃で72時間乾燥した。乾燥生成物をトレイから掻き出し、ガラス乳棒乳鉢で粉砕して、処理した多糖類(処理した寒天および処理したグアーガム)の粗い非自由流動性の不均質粒子(heterogeneous particles)を得た。次に、処理した多糖類をガラス乳棒乳鉢でマンニトールと1:1の比で20分間共粉砕し、さらに#22の篩を通過させて、加工された多糖類(共粉砕処理寒天および共粉砕処理グアーガム)を得た。次いで、得られた生成物をヒトによる摂取のための医薬品用のゼラチン状コーティングとして使用した。この実施例は、液体キャリア中に適切な組成物を単に混合する以外の他の手段によってゲル粒子を製造することができるが、その場合にも本発明に関して説明された性質および特徴を保持することを示唆する。
【0082】
多糖類はまた、ゼラチン状粒子を形成するために使用され、代替物としての構造壁(foundation walls)の構築を補助し、開放溝(open trenches)を維持する為に利用される水を増粘させ、一方で、溝(trenches)を内側に崩壊させている水が土壌(soil)中に移動することを防ぐ。適切な粘度および溶媒和特性を有する多糖類、例えばデンプン、グアー、カルボキシメチルセルロース、テンサイパルプ誘導体およびヒドロエチルセルロース、を水に添加すると、溶液への変換が緩やかな増粘ゼラチン状スラリーを生成した。多糖類ポリマーは、粉末として、または油性スラリーの形態で水に添加されると、両方の場合で長い溶媒和時間を要することがわかった。これは、主キャリアシステムで使用するためのゲル粒子を形成するために、粉末または有機スラリーとしてのいずれの形態でも、異なるポリマーが利用され得ることの例である。
【0083】
高分子電解質は、静電相互作用を介してコロイドエマルジョンを安定化(または不安定化)することができる”双極子”荷電ポリマーである。高分子電解質の有効性は、分子量、pH、溶媒極性、イオン強度、および親水性-親油性バランスに依存する。高分子電解質は、正または負に帯電した繰り返し単位からなる。高分子電解質は、モノマー側基の解離によって帯電する。より多くのモノマー側基が解離すると、得られる電荷はより大きくなる。高分子電解質はポリマーの電荷によって正(カチオン)または負(アニオン)に分類される。高分子電解質層の厚さは、高分子電解質の電荷のレベルとイオン強度によって決定される。有用な高分子電解質のいくつかの例は上記に列挙した。
【0084】
例7
ゲル粒子と添加された研磨剤または不活性粒子との間の分離を維持するためには、キャリアシステムにおけるゲル-粒子分布もまた問題する必要がある。ゲル粒子希釈によってスラリー中の添加研磨剤または不活性粒子の凝集を防止するのにゲル粒子の有効性が変化するのかを明らかにするための試験を構築した。水ベースの水溶液中でゲル粒子を形成したものを調製した。すべての試験は、希釈率に関係なく40mlの一定量で、22℃の室温で行われた。以下の表7は、較正済み容器中の40mlの元の懸濁液体積の%として表される希釈係数と懸濁液体積保持率[SVR]を示す。
【0085】
【0086】
時間経過によるSVRの減少は、ゲル粒子密度がそれが懸濁されている媒体の密度よりも大きい場合にのみ可能である。ゲル粒子スラリーの希釈レベルにかかわらず、すべてのサンプルのSVR値は時間経過と共に減少し、ゲル粒子および懸濁粒子の密度が水性懸濁媒体の密度より大きいことを示している。事実、すべてのゲル粒子希釈レベルについて、ゲル粒子および懸濁粒子の最大の”ソフト沈降”は、最初の24時間に起こっている。
【0087】
前述の例は、決して包括的または完全であることを意味するものではないが、固有の”不活性粒子安定化/懸濁”指標の共通の性能および挙動特性、および上記の性質を満たすあらゆる材料、素材、化合物、ポリマー(有機、有機金属または無機物性)に適合する。これらの多様な材料はすべて、これらが存在しなければ硬質または固形化した凝集ケーキとなって容器の底に沈殿するであろう他の不活性粒子の長期安定化に必要な、共通の、しかし独特の特性を有し、総じて単純に同じ独特の”ゲル粒子”という概念の実例とできる。
【0088】
したがって、ゲル粒子の起源、形成に使用される化合物、材料またはポリマーの特定の成分の性質、構造が有機、金属-有機または無機構造のいずれであるか、そのゲル粒子が存在するキャリアシステムが有機、無機、あるいはその複合であるかに関係なく、記載された一連の成分の全ては、キャリア媒体またはシステム中の懸濁粒子として働くために必要な特性および特徴を有する同じタイプの独特の形態のゼラチン状物質の多様な例となる。
【0089】
本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく他の特定の形で実施することができ、したがって、記載した実施形態はあらゆる点で例示的であり限定的ではなく、本発明の範囲は、前述の詳細な説明よりも、添付の特許請求の範囲であり、等価の範囲内に入る全ての変更を含むと解釈されるべきである。