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  • 特許-成形品及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/02 20060101AFI20220804BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20220804BHJP
   B60R 7/08 20060101ALI20220804BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20220804BHJP
   B60R 5/04 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B29C65/02
B32B27/12
B60R7/08
B60R13/08
B60R5/04 T
B60R5/04 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018162581
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020032661
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000104674
【氏名又は名称】キョーラク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126398
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】石井 健二
(72)【発明者】
【氏名】池田 智孝
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-254488(JP,A)
【文献】登録実用新案第3129135(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/02
B32B 27/12
B60R 7/08
B60R 13/08
B60R 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の成形品本体に対して繊維層を含む吸音材が溶着固定された成形品であって、
前記吸音材は、外周に沿ってコンプレッションされた圧縮部を有し、
前記吸音材の溶着位置近傍に溶着位置合わせ用のマーカーが圧縮部として形成されていることを特徴とする成形品。
【請求項2】
前記マーカーの形状は、溶着位置を中心とする円の円弧の少なくとも一部であることを特徴とする請求項1記載の成形品。
【請求項3】
前記マーカーは、前記外周に沿ってコンプレッションされた圧縮部を延長する形で形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の成形品。
【請求項4】
成形品本体は、樹脂製の中空成形体を主体とするものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の成形品。
【請求項5】
繊維層を含む吸音材の外周に沿ってコンプレッションにより圧縮部を形成すると同時に、吸音材の溶着位置近傍にマーカーを圧縮部として形成し、
成形品本体に対して吸音材を溶着固定するに際し、前記マーカーを利用して位置決めを行い、吸音材を成形品本体に対して溶着固定することを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品及びその製造方法に関するものであり、特に、吸音材を成形品本体に精度良く溶着し得る成形品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーゴフロアパネル(自動車荷室の蓋パネルまたはラゲージボード)、リアパーセルシェルフ等の自動車用内装品しては、樹脂製のボードが知られている。例えば、熱可塑性樹脂シートを成形することにより製造される中空成形体(成形品本体)の表面に繊維シートを貼着した成形品は、軽量で強度に優れるばかりでなく、外観や触感にも優れることから、前記ボードとして広く用いられている。
【0003】
この種の成形品の製造方法としては、中空成形品の成形時に不織布等の繊維シートを一体化する方法が採用されており、例えば特許文献1には、分割金型間に発泡状態のパリソンおよび繊維シートを配置して分割金型を型締めすることにより、繊維シート(例えば不織布)が貼着された中空成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-55806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の特許文献1に記載される製造方法を採用した場合、繊維シートは成形品本体の全面を覆う形で一体化されることになる。したがって、例えば成形品本体の一部領域に繊維シートを貼り付ける場合には、成形品本体を成形した後に、成形した成形品本体に対して繊維シートを超音波溶着等の手段で貼り付けることが行われている。
【0006】
この時、繊維シート全面を成形品本体に対して溶着することは難しく、通常は複数個所において繊維シートを成形品本体に対して溶着することで、繊維シートを成形品本体に対して位置決め固定するようにしている。したがって、繊維シートの成形品本体への溶着作業においては、予め決められた箇所に超音波ホーンを押し当てる等して繊維シートを成形品本体に対して溶着する必要があるが、繊維シート(不織布等)を用いた場合には、その下の成形品本体が見えないために、溶着すべき箇所が把握し難く、作業性が悪いという問題がある。
【0007】
特に、成形品に繊維層を含む吸音材を溶着固定する場合、吸音性能を確保するために、吸音材がある程度の厚さを有する繊維層を含むことから、溶着位置を把握し難く、溶着作業はより困難なものとなる。繊維層を含む厚さの厚い吸音材は、例えば布団等と同様、表面が平坦面ではなく不定形状であり、溶着位置がどこであるか把握するのは熟練の作業者であっても難しい。
【0008】
また、溶着箇所においては、例えば成形品本体側に補強部を設けて強度を高くしておき、溶着ホーン等を強く押し当てることで溶着強度を確保するようにしているが、溶着位置がずれてしまうと、特に中空の成形品本体では、十分に力が加わらず、溶着不良が発生する等、製品の品質を大きく損なうおそれもある。
【0009】
本発明は、前述の従来の実情に鑑みて提案されたものであり、作業者が確実且つ速やかに溶着箇所を認識することができ、作業性や品質に優れた成形品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の目的を達成するために、本発明の成形品は、樹脂製の成形品本体に対して繊維層を含む吸音材が溶着固定された成形品であって、前記吸音材は、外周に沿ってコンプレッションされた圧縮部を有し、前記吸音材の溶着位置近傍に溶着位置合わせ用のマーカーが圧縮部として形成されていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の成形品の製造方法は、繊維層を含む吸音材の外周に沿ってコンプレッションにより圧縮部を形成すると同時に、吸音材の溶着位置近傍にマーカーを圧縮部として形成し、成形品本体に対して吸音材を溶着固定するに際し、前記マーカーを利用して位置決めを行い、吸音材を成形品本体に対して溶着固定することを特徴とする。
【0012】
本発明の成形品及びその製造方法においては、吸音材に溶着位置を示すマーカーが付与されているので、厚さが厚く表面が不定形状で溶着位置を把握し難い吸音材においても、溶着位置が一目瞭然であり、作業性が良好なものとなるとともに、溶着不良の発生が確実に抑えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、製造に際して作業性に優れた成形品を提供することが可能であり、さらに、溶着位置の位置ずれ等による品質の低下のない信頼性の高い成形品を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】成形品の概略平面図である。
図2】成形品本体を成形するための成形装置の概略構成を示す図である。
図3】吸音材に形成したマーカーの一例を示す概略平面図である。
図4】吸音材に形成したマーカーの他の例を示す概略平面図である。
図5】吸音材に形成したマーカーのさらに他の例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した成形品及びその製造方法の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本実施形態の成形品1は、自動車の荷室に設置されるボードであり、図1に示すように、樹脂製の成形品本体2を主体とするものであり、その表面の一部に吸音材3を貼り付けたものである。吸音材3は、複数の溶着部Yにおいて成形品本体2に溶着固定されている。
【0017】
成形品本体2は、ここではいわゆる中空二重壁構造を有する樹脂製のパネル(中空成形体)であるが、これに限定されるものではない。また、成形品本体2の中空部内には、補強材が埋め込まれていてもよいし、表面壁や裏面壁に補強リブが形成されていてもよい。中空部内に裏面壁から表面壁に達するインナーリブを形成した補強構造とすることもできる。また、成形品本体2は、二重壁構造の内部に芯材を配置した、いわゆるサンドイッチパネルであってもよい。
【0018】
成形品本体2を構成する熱可塑性プラスチック材料は、任意であるが、例示するならば、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン樹脂)、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、さらにはポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル等のエンジニアリングプラスチックス等を挙げることができる。
【0019】
次に、このような成形品本体2の成形装置について説明する。図2に示すように、中空成形パネルである成形品本体2の成形装置10は、押出装置12と、押出装置12の下方に配置された型締装置14とを有し、押出装置12から押出された溶融状態の樹脂シートPを型締装置14に送り、型締装置14により溶融状態の樹脂シートPを成形するようにしている。
【0020】
押出装置12は、従来既知のタイプであり、その詳しい説明は省略するが、ホッパー16が付設されたシリンダー18と、シリンダー18内に設けられたスクリュー(図示せず)と、スクリューに連結された油圧モーター20と、シリンダー18と内部が連通したアキュムレータ22と、アキュムレータ22内に設けられたプランジャー24とを有し、ホッパー16から投入された樹脂ペレットが、シリンダー18内で油圧モーター20によるスクリューの回転により溶融、混練され、溶融状態の樹脂がアキュムレータ室22に移送されて一定量貯留され、プランジャー24の駆動によりTダイ28に向けて溶融樹脂を送り、押出スリット34を通じて所定の長さの連続的な樹脂シートPが押し出され、間隔を隔てて配置された一対のローラー30によって挟圧されながら下方へ向かって送り出されて分割金型32の間に垂下される。これにより、樹脂シートPが上下方向(押出方向)に一様な厚みを有する状態で、分割金型32の間に配置される。
【0021】
型締装置14も、押出装置12と同様に、従来既知のタイプであり、その詳しい説明は省略するが、2つの分割形式の金型32A,Bと、金型32A,Bを溶融状態の樹脂シートPの供給方向に対して略直交する方向に、開位置と閉位置との間で移動させる金型駆動装置とを有する。
【0022】
2つの分割形式の金型32A,Bには、樹脂シートP1,P2の成形形状に応じて凹部119A,119Bがキャビティとして設けられている。
【0023】
2つの分割形式の金型32A,Bそれぞれにおいて、キャビティのまわりには、ピンチオフ部118が形成され、このピンチオフ部118は、キャビティのまわりに環状に形成され、対向する金型32A,Bに向かって突出する。これにより、2つの分割形式の金型32A,Bを型締する際、それぞれのピンチオフ部118の先端部が当接し、2枚の溶融状態の樹脂シートP1,P2は、その周縁にパーティングラインPLが形成されるように溶着される。
【0024】
金型32Aの外周部には、型枠33Aが密封状態で摺動可能に外嵌し、図示しない型枠移動装置により、型枠33Aが、金型32Aに対して相対的に移動可能としている。型枠33Aは、金型32Aに対して金型32Bに向かって突出することにより、金型32A,B間に配置された樹脂シートP1の側面に当接可能である。図示は省略しているが、同様に、金型32Bの外周部にも、型枠を設け、当該型枠が金型32Aに向かって突出することにより、金型32A,B間に配置された樹脂シートP2の側面に当接可能としている。
【0025】
分割金型32A,32Bの内部には、真空吸引室が設けられ、真空吸引室は吸引穴を介してキャビティに連通し、真空吸引室から吸引穴を介して吸引することにより、キャビティに向かって樹脂シートP1,P2を吸着させて、分割金型32A,32Bのキャビティ形状に賦形するようにしている。
【0026】
成形に際しては、先ず、溶融混練した樹脂をアキュムレータ22内に所定量貯留し、Tダイ28に設けられた所定間隔の押出スリット34から、貯留された熱可塑性樹脂を単位時間当たり所定押出量で間欠的に押し出す。次いで、押出方向に一様な厚みを形成した樹脂シートP1,P2を一対のローラー30の下方に配置された分割金型32A,B間に配置する。
【0027】
次いで、金型32A,32Bに設けられた真空吸引室から吸引穴を介して吸引することにより、樹脂シートP1,P2を各金型32A,32Bのキャビティ押し付けて、キャビティ形状に樹脂シートP1,P2を賦形する。そして、各樹脂シートP1,P2を吸引保持しつつ、それぞれの環状のピンチオフ部118A,B同士が当接するまで両金型32A,Bを互いに近づく向きに移動させ、型締する。
【0028】
成形した成形品本体2を前記金型32A,32Bから取り出し、吸音材3を溶着により成形品本体2の所定の位置に貼り付け固定するが、溶着位置が作業者にわかり難い。そこで、本実施形態では、吸音材3にマーカーを付与し、おおよその溶着位置を作業者が視覚的に把握可能とする。
【0029】
以下、吸音材3へのマーカーの付与について説明する。
【0030】
吸音材3には、要求される機能等に応じて不織布や織布等、任意のものが用いられる。具体的に例示するならば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン等の再生繊維、アセテート、レーヨン等の半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ビニロン、ポリプロピレン、ポリウレタン等の合成繊維、及びこれらのブレンド繊維を加工して得られる編物、織物、不織布等の繊維シート等である。
【0031】
特に、吸音性能に優れた吸音材3としては、ある程度の厚さを有する繊維層を有し、これをガーゼ状の織布で覆ったものが好適である。係る吸音材3としては、市販のものを使用することができ、例えば3M社製の商品名シンサレート等が好適である。3M社製の商品名シンサレートは、吸音断熱素材として知られるものであり、メルトブローン法によって作られるマイクロファイバーや繊維径20~30μmの短繊維を含む不織布を含むものである。
【0032】
前述のような繊維層を含む吸音材3を用いる場合、周辺部分における繊維のほつれ等を防止する目的で、吸音材3の外周部分をコンプレッション(圧縮)する。すなわち、吸音材3の外周に沿ってコンプレッションによる圧縮部Cを形成する。これにより、吸音材3の外周部分における繊維のほつれ等を解消することができる。
【0033】
本実施形態においては、このコンプレッションを利用してマーカーを形成する。すなわち、図3に示すように、吸音材3の外周部分をコンプレッションする際に、外周の圧縮部Cを延長する形でマーカーM1を同時に圧縮部として形成する。
【0034】
吸音材3をコンプレッションして押し潰した圧縮部Cは、見た目において他の部分と区別することができ、圧縮部Cと同様にコンプレッションにより圧縮形成されるマーカーM1も、他の部分とは区別することができ、いわゆるマーカーとして視認することができる。
【0035】
マーカーM1の形状は、各溶着部Yを中心とする円の円弧の一部であり、図3の例では、円弧状のマーカーM1が吸音材3の外周の圧縮部Cと連なって、当該圧縮部Cを延長する形で圧縮形成されている。したがって、作業者は、円弧状のマーカーM1を見ることで、その中心付近が溶着ポイントであることがわかり、この部分に例えば超音波ホーンを押し当てることにより、速やかに溶着作業を行うことができる。また、溶着において、超音波ホーンの押し当て位置に位置ずれが生ずることもなく、確実に溶着を行うことができる。
【0036】
吸音材3に形成するマーカーの形状としては、図3の例に限られず、例えば図4に示すように、吸音材3の外周に形成される圧縮部Cと離間した円弧状のマーカーM2とすることも可能である。さらには、図5に示すように、圧縮部Cを延長する形で形成されるマーカーM1と、圧縮部Cから離間して形成される円弧状のマーカーM2の組み合わせであってもよい。
【0037】
ただし、吸音材3の圧縮部Cより内側領域にマーカーM2を形成する場合、圧縮部Cと同時にマーカーM2を形成するためのプレス機の構成が複雑なものとなるとともに、吸音材3の圧縮部Cより内側領域において、吸音のために厚さを厚くしている繊維層を押し潰してしまうことになり、吸音性能が低下することが懸念される。マーカーM2を圧縮部として形成すると、その周辺部分の厚さも減少することになり、吸音性能上、好ましいものではない。
【0038】
したがって、図3図5に示す例の中では、図3に示す例が好ましい。図3に示す例では、マーカーM1の形成は、吸音材3の外周の圧縮部Cを僅かに延長するのみであるので、吸音性能にほとんど影響を与えることがない。
【0039】
マーカーの形状としては、これらの例に限られず、作業者が溶着位置を把握し得るようなものであれば、如何なる形状であってもよい。
【0040】
前述のように、吸音材3に溶着位置に応じてマーカーを形成しておくことで、作業者が溶着位置を速やかに特定することができ、成形品1の生産性を大幅に向上することができる。また、溶着の際の位置ずれを回避することができるので、溶着に用いる超音波ホーン等に十分に力を加えることができ、成形品本体2が中空成形体である場合にも、確実に溶着を行うことが可能である。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明がこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることは言うまでもない。例えば、先の実施形態では、超音波ホーンを用いた超音波溶着を例に説明したが、熱溶着等、他の溶着方法であっても同様に適用可能である。また、先の実施形態では、吸音材が外周の全周に沿ってコンプレッションされた圧縮部を有していたが、吸音材の外周の一部にコンプレッションされていない領域を有していても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 成形品
2 成形品本体
3 吸音材
10 成形装置
C 圧縮部
M1,M2 マーカー
図1
図2
図3
図4
図5