(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】金型部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/342 20140101AFI20220804BHJP
【FI】
B23K26/342
(21)【出願番号】P 2021574901
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010160
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 隆徳
(72)【発明者】
【氏名】本山 裕彬
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137880(JP,A)
【文献】特開2016-155155(JP,A)
【文献】特表2011-506763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、
前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、
前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、
前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる、
金型部品の製造方法。
【請求項2】
前記母材のマルテンサイト変態開始温度が、前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上である請求項1に記載の金型部品の製造方法。
【請求項3】
前記母材におけるCの含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下である請求項1又は請求項2に記載の金型部品の製造方法。
【請求項4】
前記粉末におけるCの含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【請求項5】
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記母材のマルテンサイト変態終了温度以上とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ光を照射する工程において、第n層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度を前記n-1層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度以下とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【請求項8】
前記粉末層を作製する工程において、第n層目の前記粉末層の高さを第n-1層目の前記粉末層の高さ以上とし、
前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【請求項9】
前記レーザ光の出力が、300W超である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の金型部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金型部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、金型部品の製造方法を開示している。この金型部品の製造方法は、金型部品の母材の第一面に肉盛り部を作製する工程を備えている。肉盛り部を作製する工程では、母材の第一面の上に粉末を層状に敷き詰める工程と、その粉末の層にレーザを照射することで溶融し凝固させた層を形成する工程と、を繰り返している。母材は、ダイス鋼で構成されている。粉末は、SUS420J2で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の金型部品の製造方法は、高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る金型部品の製造方法を説明する断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る金型部品の製造方法によって作製される肉盛り部を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、粉末層の高さ及び造形物の高さとレーザ光のエネルギー密度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
高速度鋼で構成されている金型部品の母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製することが望まれている。しかし、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製する最適な製造方法は、検討されていなかった。
【0007】
本開示は、高速度鋼で構成されている母材に、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される肉盛り部を作製できる金型部品の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の金型部品の製造方法は、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製できる。
【0009】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の一態様に係る金型部品の製造方法は、高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる。
【0011】
本開示の金型部品の製造方法は、第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で粉末層にレーザ光を照射することで、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される固化層、延いては肉盛り部を高速度鋼で構成されている母材に作製できる。
【0012】
(2)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記母材のマルテンサイト変態開始温度が、前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上であることが挙げられる。
【0013】
上記母材には、亀裂のない固化層、延いては肉盛り部を作製し易い。
【0014】
(3)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記母材におけるCの含有量は、0.5質量%以上0.9質量%以下であることが挙げられる。
【0015】
Cの含有量が上記範囲を満たす母材は、固化層との馴染み性を向上し易い。そのため、この母材には、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0016】
(4)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記粉末におけるCの含有量は、0.5質量%以上1.5質量%以下であることが挙げられる。
【0017】
Cの含有量が上記範囲を満たす粉末は、母材との馴染み性を向上し易い。そのため、この粉末を用いることで、亀裂のない固化層を母材に作製し易い。
【0018】
(5)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記粉末のマルテンサイト変態開始温度以上とすることが挙げられる。
【0019】
上記の構成は、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0020】
(6)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一面の温度を前記母材のマルテンサイト変態終了温度以上とすることが挙げられる。
【0021】
上記の構成は、亀裂のない固化層を作製し易い。
【0022】
(7)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記レーザ光を照射する工程において、第n層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度を前記n-1層目の前記粉末層に照射する前記レーザ光のエネルギー密度以下とし、前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層であることが挙げられる。
【0023】
上記の構成は、母材と第1層目の固化層との接合性を向上し易い。その上、上記の構成は、母材側の固化層同士の接合性を向上し易い。そのため、上記の構成は、母材と肉盛り部との接合性を向上し易い。
【0024】
(8)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記粉末層を作製する工程において、第n層目の前記粉末層の高さを第n-1層目の前記粉末層の高さ以上とし、前記第n層目の前記粉末層は、第2層目の前記粉末層から最終層目の粉末層であることが挙げられる。
【0025】
上記の構成は、母材と第1層目の固化層との接合性を向上し易い。そのため、上記の構成は、母材と肉盛り部との接合性を向上し易い。その上、上記の構成は、各固化層同士の接合性の低下を抑制しつつ、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数を少なくし易いため、金型部品の生産性を向上し易い。
【0026】
(9)上記金型部品の製造方法の一形態として、前記レーザ光の出力が、300W超であることが挙げられる。
【0027】
出力が300W超であるレーザ光は、粉末層を効率的に結合させ易い。
【0028】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。
【0029】
《実施形態》
〔金型部品の製造方法〕
図1及び
図2を参照して、実施形態に係る金型部品の製造方法を説明する。本形態の金型部品の製造方法は、母材2の上に肉盛り部3を作製する工程を備える。母材2は、高速度鋼で構成されている。肉盛り部3を作製する工程は、粉末層を作製する工程と粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、
図2の二点鎖線で示すように粉末層が結合した固化層30を積層する。粉末層を作製する工程は、第一面4に高速度鋼からなる粉末を敷き詰めることを含む。第一面4は、母材2の表面21又は固化層30の各々の表面31である。本形態の金型部品の製造方法の特徴の一つは、レーザ光を照射する工程が、第一面4の温度を特定の温度に加熱した状態で行われる点にある。以下、詳細に説明する。
【0030】
[肉盛り部を作製する工程]
肉盛り部3を作製する工程は、粉末層を作製する工程と粉末層にレーザ光を照射する工程とが繰り返されることで、
図2の二点鎖線で示すように、母材2に粉末層が結合した固化層30が積層される。この積層された複数の固化層30が肉盛り部3を構成する。即ち、肉盛り部3を作製する工程を経ることで、母材2と肉盛り部3とが接合された金型部品1が製造される。繰り返す回数は、適宜選択できる。肉盛り部3の作製には、金属粉末積層造形装置が利用できる。金属粉末積層造形装置は、金属3Dプリンタとも呼ばれる。
【0031】
(母材)
母材2は、第二の金型部品である。第二の金型部品とは、第一の金型部品の一部が摩耗した状態の使用済みの金型部品である。第一の金型部品は、原料粉末の圧縮成形に用いられる粉末冶金用の金型を構成する部品である。第一の金型部品とは、初期状態又は初期状態相当の金型部品である。初期状態の金型部品とは、未使用の金型部品である。初期状態相当の金型部品とは、本形態の金型部品の製造方法により製造された金型部品1である。
図1の実線で示す部分が第二の金型部品である。
図1の実線で示す部分と二点鎖線で示す部分とを合わせた部分が第一の金型部品である。第一の金型部品としては、
図1に示すようなパンチ、又は図示は省略しているもののダイが挙げられる。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、パンチの端面は、原料粉末を圧縮成形することで摩耗する。この摩耗した状態のものが母材2である。即ち、母材2の長さは、第一の金型部品の長さよりも短い。母材2の長さは、粉末冶金用の金型のサイズにもよるものの、例えば、50mm以上200mm以下が挙げられ、更に50mm以上150mm以下が挙げられ、特に50mm以上100mm以下が挙げられる。
【0032】
母材2の形状は、例えば、第一の金型部品がパンチの場合、
図1に示すような円筒状、又は図示は省略しているものの円柱状が挙げられる。
図1に示す母材2は、母材2の長手方向に沿った貫通孔20が設けられている。この貫通孔20は、図示を省略するコアロッドが挿通される。
図1に示す母材2は、
図1の紙面上側に位置する先端部が図示を省略するダイの孔に嵌合される。
図1の紙面上側に位置する母材2の第一面4の形状は、円環状である。図示は省略するものの、円柱状の母材の第一面の形状は、円形状である。
【0033】
母材2の材質は、高速度鋼である。母材2のMs点は、例えば、後述する粉末層を構成する粉末のMs点以上が挙げられる。Ms点とは、マルテンサイト変態開始温度のことである。即ち、母材2のMs点は、粉末層を構成する粉末のMs点と同じであってもよいし、粉末層を構成する粉末のMs点よりも高くてもよい。Ms点が粉末のMs点以上である母材2には、亀裂のない固化層30、延いては肉盛り部3を作製し易い。母材2のMs点は、例えば、100℃以上420℃以下が挙げられ、更に100℃以上390℃以下が挙げられ、特に100℃以上370℃以下が挙げられる。また、母材2のMf点は、例えば、0℃以上190℃以下が挙げられ、更に0℃以上170℃以下が挙げられ、特に0℃以上150℃以下が挙げられる。Mf点は、マルテンサイト変態終了温度である。粉末のMs点は後述する。
【0034】
母材2を構成する高速度鋼の組成は、例えば、以下の組成(1)から組成(3)のいずれか1つが挙げられる。
(1)C(炭素)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)を含有し、残部がFe(鉄)及び不可避的不純物からならなる。
(2)C、Mn(マンガン)、V、Cr、Mo、及びSi(ケイ素)を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
(3)C、Mn、V、Cr、Mo、W(タングステン)、及びSiを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0035】
母材2におけるCの含有量は、例えば、0.5質量%以上0.9質量%以下が挙げられる。Cの含有量が上記範囲を満たす母材2は、固化層30との馴染み性に優れる。そのため、Cの含有量が上記範囲を満たす母材2に、亀裂のない固化層30を作製し易い。母材2におけるCの含有量は、更に0.55質量%以上0.85質量%以下が挙げられ、特に0.6質量%以上0.8質量%以下が挙げられる。
【0036】
母材2におけるMn、V、Cr、Mo、W、及びSiの含有量は、例えば、次の通りである。
Mnの含有量は、例えば、0.2質量%以上1.0質量%以下が挙げられ、更に0.2質量%以上0.7質量%以下が挙げられ、特に0.2質量%以上0.5質量%以下が挙げられる。
Vの含有量は、例えば、0.2質量%以上4.0質量%以下が挙げられ、更に0.2質量%以上3.8質量%以下が挙げられ、特に0.2質量%以上3.5質量%以下が挙げられる。
Crの含有量は、例えば、3質量%以上15質量%以下が挙げられ、更に3質量%以上10質量%以下が挙げられ、特に3質量%以上6質量%以下が挙げられる。
Moの含有量は、例えば、0.5質量%以上4質量%以下が挙げられ、更に0.5質量%以上3.5質量%以下が挙げられ、特に1.0質量%以上3.5質量%以下が挙げられる。
Wの含有量は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下が挙げられ、更に1.0質量%以上4質量%以下が挙げられ、特に1.5質量%以上3質量%以下が挙げられる。
Siの含有量は、例えば、0質量%超2.5質量%以下が挙げられ、更に0.1質量%以上2.0質量%以下が挙げられ、特に0.2質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。
【0037】
(粉末層を作製する工程)
粉末層を作製する工程では、第一面4の上に粉末を敷き詰めることを含む。第一面4は、母材2の表面21又は固化層30の各々の表面31である。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、母材2の表面21とは、パンチの端面である。固化層30の表面31とは、
図2に示すように、母材2の表面21に作製された固化層30のうち、母材2の表面21側とは反対側の面である。粉末の敷き詰め方は、粉末の大きさ及び粉末層の高さに応じて適宜選択できる。例えば、粉末を構成する個々の粒子が積み重なることなく1層の粉末層を構成するように粉末が敷き詰められてもよいし、粒子が積み重なるように粉末が敷き詰められてもよい。
【0038】
粉末の材質は、高速度鋼である。粉末のMs点は、上述したように母材2のMs点以下が挙げられる。粉末のMs点は、例えば、100℃以上300℃以下が挙げられ、更に100℃以上250℃以下が挙げられ、特に100℃以上200℃以下が挙げられる。また、粉末のMf点は、例えば、-110℃以上180℃以下が挙げられ、更に-100℃以上165℃以下が挙げられ、特に-90℃以上150℃以下が挙げられる。
【0039】
粉末を構成する高速度鋼の組成と母材2を構成する高速度鋼の組成とは、同じであってもよいし異なっていてもよい。例えば、粉末を構成する高速度鋼の組成は、上述した組成(1)から組成(3)のいずれか1つであってもよいし、上述した組成(1)から組成(3)以外であってもよい。上述した組成(1)から組成(3)以外として、粉末を構成する高速度鋼の組成は、例えば、C、Mn、V、Cr、Mo、及びWを含有し、残部がFe及び不可避不純物であることが挙げられる。
【0040】
粉末におけるCの含有量は、母材2におけるCの含有量と同じであってもよいし異なっていてもよい。粉末におけるCの含有量は、例えば、0.5質量%以上1.5質量%以下が挙げられる。Cの含有量が上記範囲を満たす粉末は、亀裂のない固化層30を作製し易い。粉末におけるCの含有量は、更に0.5質量%以上1.2質量%以下が挙げられ、特に0.5質量%以上1.0質量%以下が挙げられる。
【0041】
粉末を構成する高速度鋼の組成が上述した組成(1)から組成(3)のいずれか1つである場合、粉末におけるMn、V、Cr、Mo、W、及びSiの含有量は、上述の通りである。粉末を構成する高速度鋼の組成がC、Mn、V、Cr、Mo、及びWを含有する場合、粉末におけるMn、V、Cr、Mo、及びWの含有量は、例えば、次の通りである。
【0042】
Mnの含有量は、例えば、0質量%超1.0質量%以下が挙げられ、更に0.1質量%以上0.8質量%以下が挙げられ、特に0.2質量%以上0.5質量%以下が挙げられる。
Vの含有量は、例えば、1質量%以上3質量%以下が挙げられ、更に1.2質量%以上2.8質量%以下が挙げられ、特に1.5質量%以上2.5質量%以下が挙げられる。
Crの含有量は、例えば、3質量%以上5.5質量%以下が挙げられ、更に3.5質量%以上5質量%以下が挙げられ、特に4.0質量%以上4.8質量%以下が挙げられる。
Moの含有量は、例えば、4質量%以上6質量%以下が挙げられ、更に4.2質量%以上5.7質量%以下が挙げられ、特に4.5質量%以上5.5質量%以下が挙げられる。
Wの含有量は、例えば、5質量%以上7.5質量%以下が挙げられ、更に5.2質量%以上7.2質量%以下が挙げられ、特に5.5質量%以上7.0質量%以下が挙げられる。
【0043】
粉末の平均粒径は、例えば、10μm以上100μm以下が挙げられる。平均粒径が上記範囲を満たす粉末は、取り扱い易く、粉末層及び固化層30を造形し易い。粉末の平均粒径は、更に20μm以上60μm以下が挙げられ、特に20μm以上50μm以下が挙げられる。平均粒子径とは、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定した体積粒度分布における累積体積が50%となる粒子径を意味する。
【0044】
粉末の形状は、真球状が好ましい。粉末は、例えば、ガスアトマイズ法により製造されたガスアトマイズ粉が好ましい。
【0045】
粉末層の高さは、適宜選択できる。個々の粉末層の高さが高いほど、個々の固化層30の高さが高くなる。個々の固化層30の高さは、個々の粉末層の高さよりも低くなる。固化層30は、粉末層が溶融してから固化することにより形成されるからである。各粉末層の高さは同一としてもよい。少なくとも1つの粉末層の高さが異なってもよい。
【0046】
粉末層の高さを異ならせる場合、例えば、次の要件を満たすことが挙げられる。その要件とは、第n層目の粉末層の高さを第n-1層目の粉末層の高さ以上とする。第n層目の粉末層とは、第2層目の粉末層から最終層目の粉末層の各々である。即ち、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層まで、粉末層の層数が増えるにつれて、粉末層の高さを1つ前の粉末層の高さ以上とすることが挙げられる。この要件を満たすことで、母材2と第1層目の固化層30との接合性を向上し易い。そのため、母材2と肉盛り部3との接合性を向上し易い。その上、各固化層30同士の接合性の低下を抑制しつつ、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数を少なくし易いため、金型部品1の生産性を向上し易い。この要件を満たす場合、
図2に示すように、ある層の固化層30の高さは、ある層の1つ前の固化層30の高さ以上となる。
【0047】
上記要件を満たす一例として、例えば、粉末層の層数が増えるにつれて粉末層の高さを高くする範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの全ての粉末層とすることが挙げられる。また、上記範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの中から選択される連続した複数の粉末層であってもよい。選択される連続した複数の粉末層は、以下の3つのパターンのいずれか1つが挙げられる。
【0048】
第1パターンは、第1層目から第m1層目の粉末層である。
第2パターンは、第m2層目から第m3層目の粉末層である。
第3パターンは、第m1層目から最終層目の粉末層である。
第m1層目の粉末層は、第1層目と最終層目との間の途中の粉末層である。
第m2層目の粉末層は、第1層目と第m3層目との間の途中の粉末層である。
第m3層目の粉末層は、第m2層目と最終層目との間の途中の粉末層である。
【0049】
連続する複数の粉末層が第1層目から第m1層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m1層目の粉末層の高さは、層数が増えるにつれて高くする。第m1+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m1層目の粉末層の高さと同じとする。
【0050】
連続する複数の粉末層が第m2層目から第m3層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m2層目の粉末層の高さは一様である。第m2+1層目から第m3層目の粉末層の高さは、第m2層目の粉末層の高さ超であり、かつ層数が増えるにつれて高くする。第m3+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m3層目の粉末層の高さと同じとする。
【0051】
連続する複数の粉末層が第m1層目から最終層目の粉末層である場合、粉末層の高さは次の通りである。第1層目から第m1層目の粉末層の高さは一様である。第m1+1層目から最終層目の粉末層の高さは、第m1層目の粉末層の高さ超であり、かつ層数が増えるにつれて高くする。
【0052】
ここでいう「粉末層の高さが一様」及び「粉末層の高さが同じ」とは、後述する粉末層の高さの上昇率が3.0%未満である場合をいう。即ち、上記上昇率が3.0%以上である場合、「粉末層の高さが高くなる」という。上記上昇率は、{(tA-tA-1)/tA-1}×100で示される。tAとは、ある層の粉末層の高さである。tA-1とは、ある層の1つ前の粉末層の高さである。粉末層の高さの上昇率は、層数が増えるにつれて徐々に小さくなることが好ましい。
【0053】
第m1層目の粉末層は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の1/5層目以上1/2層目以下の粉末層が挙げられる。例えば、総積層数が30である場合、第m1層目の粉末層は、6層目以上15層目以下の粉末層が挙げられる。また、第m2層目は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の1/5層目以上2/5層目以下が挙げられ、第m3層目は、粉末層の総積層数にもよるが、例えば、総積層数の3/5層目以上4/5層目以下が挙げられる。例えば、総積層数が30である場合、第m2層目の粉末層は、6層目以上12層目以下が挙げられ、第m3層目の粉末層は、18層目以上24層目以下が挙げられる。
【0054】
各粉末層の高さは、例えば、0.02mm以上0.08mm以下が挙げられ、更に0.03mm以上0.07mm以下が挙げられ、特に0.04mm以上0.05mm以下が挙げられる。
【0055】
(レーザ光を照射する工程)
レーザ光を照射する工程では、粉末層にレーザ光が照射されることで粉末層が固化した固化層30を作製する。レーザ光は粉末層上を走査する。レーザ光が走査されることで、粉末層全体にわたってレーザ光が照射される。レーザ光の照射により、粉末層を構成する粒子が溶融して粒子同士が互いに結合する。
【0056】
この工程では、粉末層が作製される第一面4の温度を130℃以上に加熱した状態とする。即ち、第1層目の固化層30を作製する際、母材2の表面21の温度を130℃以上に加熱した状態とする。第2層目以降の固化層30を作製する際、粉末層が作製される固化層30の表面31の温度を130℃以上に加熱した状態とする。第一面4の温度が130℃以上に加熱された状態でレーザ光が粉末層に照射されることで、亀裂のない固化層30を作製できる。第一面4の温度は、更に150℃以上が挙げられ、特に200℃以上が挙げられる。第一面4の温度の上限は、実用上、300℃が挙げられる。即ち、第一面4の温度は、130℃以上300℃以下が挙げられ、更に150℃以上300℃以下が挙げられ、更に200℃以上300℃以下が挙げられる。第一面4の温度は、温度センサで測定できる。温度センサは、例えば、赤外線温度センサが挙げられる。
【0057】
第一面4の加熱は、温度調整装置によって行える。温度調整装置は、発熱源110と発熱源110の発熱状態を制御する温度制御部とを有する。温度制御部の図示は省略する。発熱源110には、抵抗発熱体や高温流体の流路が挙げられる。高温流体には、スチームが挙げられる。発熱源110は、母材2が載置されるテーブル100に内蔵されている。固化層30の第一面4の位置によっては、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す過程で、発熱源110の出力を徐々に高くするとよい。固化層30が積層されるたびに、固化層30の第一面4の位置がテーブル100から離れる。そのため、発熱源110の出力を徐々に高くすることで、固化層30の第一面4の温度を130℃以上に高め易い。
【0058】
第一面4の温度は、例えば、粉末のMs点以上とすることが挙げられる。また、第一面4の温度は、例えば、母材2のMf点以上とすることが挙げられる。第一面4の温度は、粉末のMs点以上及び母材2のMf点以上の両方を満たすことが挙げられる。第一面4の温度が粉末のMs点以上及び母材2のMf点以上の少なくとも一方を満たすことで、亀裂のない固化層30を作製し易い。
【0059】
レーザ光のエネルギー密度は、粉末層を結合できれば特に限定されず適宜選択できる。レーザ光のエネルギー密度とは、レーザ光の照射領域での単位体積あたりに投入されるエネルギー量のことである。レーザ光のエネルギー密度は、E=P/(v×s×t)によって算出される値である。Eは、レーザ光のエネルギー密度(J/mm3)である。Pは、レーザ光の出力(W)である。vは、レーザ光の走査速度(mm/s)である。sは、レーザ光の走査ピッチ(mm)である。tは、粉末層の高さ(mm)である。
【0060】
各粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度は同一としてもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度が他の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度と異なってもよい。
【0061】
レーザ光のエネルギー密度を異ならせる場合、例えば、次の要件を満たすことが挙げられる。その要件とは第n層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度を第n-1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度以下とする。ここでいう第n層目の粉末層とは、粉末層の高さについて上述した第n層目の粉末層と同じである。即ち、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層まで、粉末層の層数が増えるにつれて、粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度を1つ前の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度以下とすることが挙げられる。この要件を満たすことで、母材2と第1層目の固化層30との接合性を向上し易い。その上、母材2の固化層30同士の接合性を向上し易い。そのため、母材2と肉盛り部3との接合性を向上し易い。
【0062】
上記要件を満たす一例として、例えば、粉末層の層数が増えるにつれてレーザ光のエネルギー密度を小さくする範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの全ての粉末層とすることが挙げられる。また、上記範囲は、第1層目の粉末層から最終層目の粉末層までの中から選択される連続した複数の粉末層であってもよい。選択される連続した複数の粉末層は、粉末層の高さの説明で述べた3つのパターンのいずれか1つが挙げられる。第m1層目から第m3層目の意義は、粉末層の高さの説明で述べたものと同じである。
【0063】
連続する複数の粉末層が第1層目から第m1層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、層数が増えるにつれて小さくする。第m1+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度と同じとする。
【0064】
連続する複数の粉末層が第m2層目から第m3層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m2層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は一様である。第m2+1層目から第m3層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m2層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度未満であり、かつ層数が増えるにつれて小さくする。第m3+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m3層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度と同じとする。
【0065】
連続する複数の粉末層が第m1層目から最終層目の粉末層である場合、レーザ光のエネルギー密度は次の通りである。第1層目から第m1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は一様である。第m1+1層目から最終層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度は、第m1層目の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度未満であり、かつ層数が増えるにつれて小さくする。
【0066】
ここでいう「レーザ光のエネルギー密度が一様」及び「レーザ光のエネルギー密度が同じ」とは、後述するレーザ光のエネルギー密度の下降率が7.5%未満である場合をいう。即ち、上記下降率が7.5%以上である場合、「レーザ光のエネルギー密度が小さくなる」という。上記下降率は、{(EA-EA-1)/EA-1}×100の絶対値で示される。EAとは、ある層の粉末層に照射するレーザ光のエネルギー密度である。EA-1とは、ある層の1つ前の粉末層に照射されるレーザ光のエネルギー密度である。レーザ光のエネルギー密度の下降率は、層数が増えるにつれて徐々に小さくなることが好ましい。
【0067】
レーザ光のエネルギー密度は、例えば、10J/mm3以上300J/mm3以下が挙げられる。エネルギー密度が10J/mm3以上であるレーザ光は、亀裂のない固化層30を作製し易い。エネルギー密度が300J/mm3以下であるレーザ光は、粉末層を過度に溶解させることを抑制できる。そのため、固化層30を作製し易く、固化層30の形状精度を維持し易い。レーザ光のエネルギー密度は、更に10J/mm3以上200J/mm3以下が挙げられ、特に10J/mm3以上180J/mm3以下が挙げられる。
【0068】
レーザ光の出力は、例えば、300W超が挙げられる。出力が300W超であるレーザ光は、粉末層を効率的に結合させ易い。レーザ光の出力は、更に350W以上が挙げられる、特に400W以上が挙げられる。レーザ光の出力の上限は、例えば、550W以下が挙げられる。出力が550W以下であるレーザ光は、粉末層を過度に溶解させることを抑制できる。即ち、レーザ光の出力は、300W超550W以下が挙げられ、更に350W以上520W以下が挙げられ、特に400W以上500W以下が挙げられる。各粉末層に照射されるレーザ光の出力は同一でもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光の出力が他の粉末層に照射されるレーザ光の出力と異なってもよい。
【0069】
レーザ光の走査速度は、例えば、300mm/s以上1000mm/s以下が挙げられる。レーザ光の走査速度が300mm/s以上であることで、粉末層を十分に溶融させられる。レーザ光の走査速度1000mm/s以下がであることで、粉末層が過度に溶解することを抑制できる。レーザ光の走査速度は、更に320mm/s以上800mm/s以下が挙げられ、特に350mm/s以上700mm/s以下が挙げられる。各粉末層に照射されるレーザ光の走査速度は同一でもよい。少なくとも1つの粉末層に照射されるレーザ光の走査速度が他の粉末層に照射されるレーザ光の走査速度と異なってもよい。
【0070】
レーザ光の走査ピッチは、例えば、0.05mm以上0.3mm以下が挙げられる。レーザ光の走査ピッチが0.05mm以上であることで、粉末層が過度に溶解することを抑制できる。レーザ光の走査ピッチが0.3mm以下であることで、粉末層全体を十分に溶融させられる。レーザ光の走査ピッチは、更に0.08mm以上0.25mm以下が挙げられ、特に0.1mm以上0.2mm以下が挙げられる。
【0071】
レーザ光の種類は、例えば、固体レーザ又は気体レーザが挙げられる。固体レーザとしては、例えば、ファイバレーザ、YAG(Yttrium Aluminum Garnet)レーザが挙げられる。ファイバレーザは、レーザスポット径を小さくしたり、高い出力が得られることから好適である。ファイバレーザとしては、例えば、Ybファイバレーザが挙げられる。気体レーザとしては、例えば、CO2レーザが挙げられる。
【0072】
[前処理する工程]
本形態の金型部品の製造方法は、肉盛り部3を作製する工程の前に、母材2を前処理する工程を備えていてもよい。前処理は、機械加工によって母材2の摩耗箇所を含む所定領域を除去することで第一面4を作製する。所定領域とは、例えば、上述した第一の金型部品がパンチであれば、摩耗した端面を含む所定長さの端部が挙げられる。所定領域の除去によって露出した端面が表面粗さの小さい第一面4となる。第一面4は、平坦面であることが好ましい。第一面4の表面粗さは、例えば、JIS B 0601:2013に準拠される最大高さ粗さRzで1μm以下が挙げられる。機械加工としては、例えば、フライス加工などの切削加工、ワイヤーカットなどの放電加工、平面研磨などの研削加工が挙げられる。
【0073】
[後処理する工程]
本形態の金型部品の製造方法は、肉盛り部3を作製する工程の後に、肉盛り部3を後処理する工程を備えていてもよい。後処理としては、熱処理及び仕上げ加工の少なくとも一方が挙げられる。
【0074】
(熱処理)
熱処理は、肉盛り部3の組織を変態させたり、応力を除去したりする。熱処理を行う回数は、複数回が挙げられる。具体的には、2回、又は3回が挙げられる。
【0075】
レーザの照射後、肉盛り部3は室温に冷却される。この冷却されるまでの間が、焼入れ処理に相当する。室温までの冷却は、徐冷である。そのため、室温まで冷却した時点では、肉盛り部3の組織はマルテンサイトと残留オーステナイトとが存在している。よって、本熱処理は焼戻し処理から行われる。1回目の熱処理及び2回目の熱処理は、焼戻し処理である。1回目の熱処理は、肉盛り部3の残留オーステナイトをマルテンサイト変態させる。2回目の熱処理は、1回目の熱処理で生じたマルテンサイト組織を焼戻して安定化させることができる。これらの焼戻し処理によって、肉盛り部3の組織と母材2の組織とを同様のマルテンサイト組織にすることができる。肉盛り部3の組織と母材2の組織とが同様のマルテンサイト組織であることで、金型部品1の全体の機械的特性を均質化することができる。
【0076】
これらの焼戻し処理の加熱温度は、例えば、530℃以上630℃以下が挙げられ、更に540℃以上620℃以下が挙げられ、特に550℃以上615℃以下が挙げられる。加熱温度での保持時間は、例えば、1時間以上4時間以下が挙げられ、更に1時間以上3時間以下が挙げられ、特に1時間以上2時間以下が挙げられる。保持した後、金型部品1を肉盛り部3のMs点以下の温度にまで冷却する。
【0077】
3回目の熱処理は、応力を除去する処理である。加熱温度は、例えば、焼き戻し処理の加熱温度よりも30℃~50℃程度低い温度とすることが挙げられる。加熱温度は、480℃以上600℃以下が挙げられる。加熱温度での保持時間は、焼き戻し処理の保持時間と同様とすることが挙げられる。金型部品1は、加熱温度に保持した後、室温にまで冷却する。
【0078】
(仕上げ加工)
仕上げ加工は、肉盛り部3の寸法誤差を補正する。例えば、第一の金型部品がパンチの場合、仕上げ加工は、肉盛り部3の端面、外周面、及び内周面に施すことが挙げられる。この場合、肉盛り部3の端面が原料粉末を圧縮成形する面を構成する。肉盛り部3の外周面がダイの貫通孔の内周面と摺接される。肉盛り部3の内周面がコアロッドの外周面と摺接される。仕上げ加工としては、例えば、前処理と同様の機械加工が挙げられる。上記熱処理を行う場合、仕上げ加工は、上記熱処理の後に行うことが挙げられる。
【0079】
〔作用効果〕
本形態の金型部品の製造方法は、第一面4の温度を130℃以上に加熱した状態で粉末層にレーザ光を照射することで、亀裂が生じることなく高速度鋼で構成される固化層30、延いては肉盛り部3を高速度鋼で構成されている母材2に作製できる。このように、肉盛り部3を作製する工程を経ることによって、母材2を初期状態相当の金型部品に復元できる。復元された初期状態相当の金型部品、即ち本形態の金型部品の製造方法によって製造された金型部品1は、摩耗状態が改善されているため、再利用できる。そのため、本形態の金型部品の製造方法は、初期状態の金型部品を一から作製する場合に比較して、金型部品1のコストを低減できる。
【0080】
《試験例》
金型部品の製造方法の違いによる肉盛り部の亀裂の有無を調べた。
【0081】
〔試料No.1から試料No.3〕
試料No.1から試料No.3は、実施形態に係る金型部品の製造方法と同様にして、金型部品を製造した。
【0082】
[準備する工程]
母材と粉末とを準備した。各試料の母材には、
図1の実線で示すような使用済みの円筒状のパンチを用意した。各試料の母材は、高速度鋼で構成されている。各試料の母材を構成する高速度鋼の組成は、表1に示しているように異なる。表1に示す「-」は、当該元素を含んでいないことを意味する。本例では、母材の先端部をワイヤーカットにより母材の軸に垂直に切断して除去することによって第一面を形成した。その後、母材の第一面を平面研削加工することによって、第一面の最大高さ粗さRzを1μm以下とした。母材の第一面の外径は23.96mmであり、内径は14.99mmである。各試料の粉末は、高速度鋼で構成されている。各試料の粉末を構成する高速度鋼の組成は、表2に示しているように、互いに同一とした。
【0083】
表2に示す組成のMs点は、作成したTTT(Time-Temperature-Transformation)線図に基づく実測値である。表2に示す組成のMf点は、Ms点-215℃で求めた値である。表1に示す組成のMs点は、算出値+166℃で求めた値である。算出値は、「金属工学シリーズ1改訂 構成金属材料とその熱処理 昭和56年6月10日第3刷発行(一部改定)」の第103頁に記載の組成からMs点を推定する式に基づいて求めた値である。上記式は、Ms点(℃)=550-350×(Cの質量%)-40×(Mnの質量%)-35×(Vの質量%)-20×(Crの質量%)-17×(Niの質量%)-10×(Moの質量%)-10×(Cuの質量%)-10×(Wの質量%)+15×(Coの質量%)-10×(Siの質量%)である。上記166℃は、次のようにして求めたものである。表2に示す組成のMs点の実測値は、135℃である。表2に示す組成のMs点の上記式に基づく算出値は、-31℃である。この実測値と算出値との差分が166℃である。よって、この差分を算出値に加算して表1に示す組成のMs点を求めた。表1に示すMf点は、Ms点-215℃で求めた値である。
【0084】
【0085】
【0086】
[肉盛り部を作製する工程]
粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返して粉末層が固化した固化層を積層することによって、母材に肉盛り部を作製した。肉盛り部の作製には、温度調整装置を備える金属3Dプリンタを用いた。金属3Dプリンタは、株式会社ソディック製のOPM350Lを使用した。母材の第一面の温度及び各固化層の第一面の温度を130℃以上に加熱できるように、母材が載置されるテーブルに内蔵される発熱源を調整した。
【0087】
本例では、粉末層を作製する工程とレーザ光を照射する工程とを繰り返す回数は30回とした。本例では、第1層目の粉末層へのレーザ光の照射は、発熱源によって母材の第一面の温度を150℃に加熱した状態で行った。第2層目以降の粉末層へのレーザ光の照射は、発熱源によって各粉末層が敷き詰められる各固化層の第一面の温度を150℃に加熱した状態で行った。
【0088】
各試料における第1層目から第30層目の各粉末層の高さ、粉末層の高さの上昇率、造形物の高さ、及びレーザ光の条件は、表3に示す通りである。造形物の高さとは、固化層の合計高さである。即ち、第30層目の造形物の高さが肉盛り部の高さである。レーザ光の条件とは、出力、走査ピッチ、走査速度、エネルギー密度、及びエネルギー密度の下降率である。表3に示すエネルギー密度は、小数点第一位を四捨五入している。表3に示す粉末層の高さの上昇率、及びエネルギー密度の下降率は、小数点第二位を四捨五入している。各試料における第1層目から第30層目の各粉末層の高さ、造形物の高さ、及びレーザ光のエネルギー密度は、
図3にグラフとして示す。
図3の横軸は、各固化層の積層順に対応した層番号である。
図3の左側の縦軸は、レーザ光のエネルギ密度(J/mm
3)である。
図3の側の縦軸は、粉末層の高さ(mm)及び造形物の高さ(mm)である。
図3の実線及び黒丸印は、エネルギー密度を示す。
図3の点線及びバツ印は、粉末層の高さを示す。
図3の破線及び黒菱形印は、造形物の高さを示す。
【0089】
【0090】
〔試料No.101から試料No.103〕
試料No.101から試料No.103は、各粉末層にレーザ光を照射する際、母材の第一面の温度及び各固化層の第一面の温度を120℃に加熱した点を除き、試料No.1から試料No.3と同様にして、金属部品を製造した。
【0091】
〔試料No.111から試料No.113〕
試料No.111から試料No.113は、各粉末層にレーザ光を照射する際、母材の第一面及び各固化層の第一面を加熱しなかった点を除き、試料No.1から試料No.3と同様にして、金属部品を製造した。母材の第一面及び各固化層の第一面の温度はいずれも室温、具体的には30℃とした。
【0092】
〔肉盛り部の亀裂の有無〕
各試料の金型部品における肉盛り部の亀裂の有無を目視にて調べた。
【0093】
試料No.1から試料No.3の金型部品における肉盛り部には、亀裂が見られなかった。試料No.101から試料No.103、及び試料No.111から試料No.113の金型部品における肉盛り部には、亀裂が見られた。
【0094】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
1 金型部品
2 母材、20 貫通孔、21 表面
3 肉盛り部、30 固化層、31 表面
4 第一面
100テーブル、110 発熱源
【要約】
高速度鋼で構成されている母材に高速度鋼で構成される肉盛り部を作製する工程を備え、前記肉盛り部を作製する工程は、粉末層を作製する工程と前記粉末層にレーザ光を照射する工程とを繰り返すことで、前記粉末層が固化した固化層を積層することを含み、前記粉末層を作製する工程は、第一面の上に高速度鋼で構成されている粉末を敷き詰めることを含み、前記第一面は、前記母材の表面又は前記固化層の各々の表面であり、前記レーザ光を照射する工程は、前記第一面の温度を130℃以上に加熱した状態で行われる、金型部品の製造方法。