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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】エフソール含有組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20220804BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220804BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220804BHJP
   A61K 36/88 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
A61K31/05
A61P43/00 111
A61P25/28
A23L33/105
A61K36/88
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018169046
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020040904
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】300067479
【氏名又は名称】株式会社佐藤園
(73)【特許権者】
【識別番号】397010789
【氏名又は名称】萩原株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 寿之
(72)【発明者】
【氏名】武田 厚司
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-093834(JP,A)
【文献】特開2016-204303(JP,A)
【文献】Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters,2006年,Vol.16,pp.1468-1472
【文献】生化学,2016年,Vol.88, No.3,pp.342-353
【文献】Journal of Biological Chemistry,2004年,Vol.279, No.10,pp.8602-8607
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 36/00-36/9068
A61P 43/00
A61P 25/00
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物であって、
記憶障害が、ストレス誘発性記憶障害であり、
ストレス誘発性記憶障害を有する人のために用いられる、
組成物
【請求項2】
記憶障害が、ストレス誘発性の記憶獲得の障害であ
ストレス誘発性の記憶獲得の障害を有する人のために用いられる、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口組成物又は注射組成物である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
医薬組成物又は食品組成物である請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
エフソールを配合する工程を含む、請求項1~4のいずれかに記載の組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エフソール含有組成物等に関し、より詳細にはエフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
脳機能の維持、向上、改善は、若年層から老年層まで幅広い世代で求められている。また、ストレス負荷によって記憶獲得が傷害されることが知られており、現代社会においては、様々な局面でストレスにさらされることが多いため、記憶障害の予防または改善については、特に需要が高い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Singhuber J, Baburin L, Khom S et al. : GABAA receptor modulators from the Chinese herbal drug junci medulla-the pith of juncus effuses. Planta med 78: 455-458 (2012)
【文献】Wang YG, Wang YL, Zhai HF et al. : Phenanthrens from juncus effusus with anxiolytic and sedative activities. Nat Prod Res. 26: 1234-1239 (2012)
【文献】Liao YJ, Zhai HF, Zhang B et al. : Anxiolytic and sedative effects of dehydroeffusol from juncus effusus in mice. Planta med. 77: 416-420 (2011)
【文献】Suzuki, M., Sato, Y., Tamura, K. et al. Mol Neurobiol (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の通り、生体へのストレス負荷は記憶獲得を障害することが知られている。これは、ストレス負荷によりグルココルチコイド分泌が増加し、海馬に作用することによると考えられている。一方、亜鉛イオン(Zn2+)は、グルタミン酸作動性神経回路を構築する海馬の神経終末に存在し、神経伝達を制御するが、過剰に神経細胞内に流入すると記憶を障害することが明らかになりつつある。また、本発明者らは、これまでに、細胞外グルココルチコイド濃度が増加すると、細胞外Zn2+濃度が増加し、細胞外Zn2+が神経細胞内に過剰に流入し、記憶の分子基盤とされる長期増強(LTP)の誘導を抑制すること明らかにした。したがって、ストレス負荷に伴う細胞外Zn2+の神経細胞内への流入量の増加を抑制することができれば、その後の記憶獲得の障害を予防又は改善することができると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、エフソールを用いることで、ストレス負荷に伴う細胞外Zn2+の神経細胞内への流入量の増加を抑制できる可能性を見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
エフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物。
項2.
記憶障害が、ストレス誘発性記憶障害である、項1に記載の組成物。
項3.
記憶障害が、記憶獲得の障害である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
経口組成物又は注射組成物である項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
医薬組成物又は食品組成物である項1~4のいずれかに記載の組成物。
項6.
エフソールを配合する工程を含む、記憶障害予防又は改善用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
エフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物及びその製造方法等が提供される。これにより、効率的に記憶障害(特にストレス誘発性記憶障害)を予防又は改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】コルチコステロンを投与したラット脳(海馬)において、亜鉛イオンレベルが増加することを示す図である。上側に細胞内ZnAF-2蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で観察した像を示す。下側に、当該観察により得られた蛍光強度を定量化(コントロールを100%とした時の相対値)して示す。PCLは錐体細胞層を、RSは放線層を示す。
図2】麻酔したラットの海馬CA1領域にマイクロダイアリシスプローブを挿入し、人工脳脊髄液(ACSF)のみ、コルチコステロン(CS)1000ナノグラム/ミリリットルを含むACSF、およびCS1000ナノグラム/ミリリットルとエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを含むACSFで灌流し、各灌流液中のグルタミン酸濃度(細胞外グルタミン酸濃度)を測定した結果を示す。
図3】麻酔したラットの海馬CA1領域にマイクロダイアリシスプローブを挿入し、人工脳脊髄液(ACSF)のみ、150ミリモル/リットルKClを含むACSF、および150ミリモル/リットルKClとエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを含むACSFで灌流し、灌流液中のグルタミン酸濃度(細胞外グルタミン酸濃度)を測定した結果を示す。
図4】海馬CA1領域の細胞外Zn2+レベルの増加を蛍光強度により測定した結果を示す。
図5】海馬CA1領域の細胞内Zn2+レベルの増加を蛍光強度により測定した結果を示す。
図6】麻酔したラット海馬CA1に刺激電極とマイクロダイアリシスプローブ付き記憶電極を挿入し、CA1のLTP(シナプスの高頻度刺激の後に起きるシナプス伝達効率の持続的増加)を記録した結果を示す。
図7】イグサ酢酸エチルエキスのHPLC分析チャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本発明は、エフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物及びその製造方法等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本発明は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0010】
本発明に包含される記憶障害予防又は改善用組成物はエフソール(effusol)を含有する(以下、当該組成物を「本発明の組成物」ということがある。)。エフソールは、以下の構造式で表される化合物である。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明に用いるエフソールは、合成品であっても、自然界に存在するものを抽出及び精製したものであってもよい。公知の方法又は公知の方法より容易に想到できる方法により合成して得ることができる。また、市販品を購入して用いることもできる。自然界から得る場合には、例えばエフソールはイ草(灯心草)に存在していることが知られており、イ草から抽出及び必要に応じて精製して得ることができる。例えば、水、メタノール、エタノール、又はこれらの少なくとも2種の混合液等により抽出し、必要に応じて精製して、得ることができる。当該抽出液としては、特に制限はされないが、メタノール、又は40~60%エタノール水溶液が好ましい。また、必要に応じてさらに得られた抽出液をさらに分画及び/又は精製してもよい。分画は、例えば液液分配抽出により行うことが出来る。当該分配は、例えば水、n-ヘキサン、及び酢酸エチル等を用いて行うことができる。また、精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィー及び/又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により行うことができる。より詳細には、例えば、イ草のメタノール抽出液を減圧濃縮し、水とn-ヘキサンとで液液分配抽出を行い、得られた水層にさらに酢酸エチルを加えて液液分配抽出を行い、酢酸エチル層をクロマトグラフィー(シリカゲルカラムクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィー)で精製する、という方法が挙げられる。なお、抽出に供するイ草の部分も特に制限はされず、例えばイ草の全草を抽出に供してもよいし、イ草の芯を抽出に供してもよい。
【0013】
本発明の組成物は、記憶障害の中でも、特にストレスに起因する記憶障害(ストレス誘発性記憶障害)に対して好ましく効果を発揮する。また、本発明の組成物は、記憶形成の分子基盤である長期増強(LTP:Long-term potentiation)の障害の改善に特に効果的であり、従って、記憶形成(獲得)の障害に対して好ましく効果を発揮し得る。このため、種々のストレスにさらされる機会が多い現代社会においては、健常人が記憶障害の予防のため、あるいはストレスにより記憶障害が生じている人が記憶障害を改善させるため、などの用途に、本発明の組成物を好ましく用いることができる。
【0014】
限定的な解釈を望むものではないが、下に詳述するように、本発明の組成物は、海馬において、細胞内亜鉛イオン(Zn2+)レベルの増加をトリガーとするグルタミン酸興奮毒性によって引き起こされる記憶障害指標であるLTP障害を改善させる効果を奏する可能性が考えられる。このため、例えば、海馬における細胞内亜鉛イオン濃度が上昇している対象や、細胞外グルタミン酸濃度が上昇している対象(特にストレスによりこれらの現象が生じている対象)に対して、本発明の組成物は好適であると考えられる。また、本発明の組成物は、エフソールを含有する組成物であって、脳神経細胞(特に海馬神経細胞)内亜鉛イオン濃度低下用若しくは上昇抑制用である組成物であると換言することもできる。
【0015】
なお、本発明の組成物の使用対象は、例えば、健常人及び記憶障害が生じている人(特にストレスにより記憶障害が生じている人)等が好ましく挙げられる。また、使用対象は、ヒトに限定されない。例えば、非ヒト哺乳動物にも用いることができる。特にペット及び家畜として飼育される哺乳動物が好ましい。具体的には、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、リャマ等が例示できる。
【0016】
生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)そのものも本発明の組成物に含まれる。つまり、エフソール含有生体抽出物(及び必要に応じて精製されたもの、若しくは必要に応じてさらに他の成分が配合されたもの)も、本発明の効果が奏される限り、本発明のエフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物に含まれる。
【0017】
また、本発明の組成物は、特に制限されるわけではないが、経口組成物または注射組成物であることが好ましい。注射組成物である場合、その投与方法としては、経血管投与(例えば経静脈投与若しくは経動脈投与)又は直接脳若しくは脊髄に投与する方法が例示できる。また、経口組成物である場合、例えば下述するように経口医薬組成物または食品組成物として用いることができる。
【0018】
なお、エフソールは、フェナントレン骨格を有する化合物であるところ、フェナントレン骨格を有する化合物であるモルヒネは血液脳関門を通過し、また構造がエフソールによく似ているデヒドロエフソールも血液脳関門を追加する可能性が報告されている(上記非特許文献3)。さらに、エフソールは水には溶けない脂溶性成分であるところ、その脂溶性は脂肪酸ほど高くはなく、血液脳関門を通過するために好適な脂溶性ということができる。よって、エフソールは例えば経口投与又は経血管投与によっても、脳に到達して効果を発揮し得ると考えられる。
【0019】
本発明の組成物は医薬組成物又は食品組成物として好ましく用いることができる。医薬組成物として用いる場合、当該組成物(「本発明に係る医薬品組成物」と表記することがある)には、エフソール(あるいはエフソール含有生体抽出物)に、必要に応じて薬学的に許容される基剤、担体、添加剤(例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、甘味剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、界面活性剤、保湿剤、保存剤、pH調整剤、粘稠化剤等)等が配合され得る。このような基材、担体、添加剤等は、例えば医薬品添加物辞典2016(株式会社薬事日報社)等に具体的に記載されており、例えばこれに記載されるものを用いることができる。また製剤形態も特に制限されず、常法により有効成分及びその他の成分を混合し、例えば錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、チュアブル剤、ソフト錠剤等の製剤に調製することができる。例えば、錠剤の製造は打錠法により行い得る。混合した原料をそのまま打錠する直接打錠法、混合した原料を顆粒にしてから打錠する顆粒打錠法、のいずれも用い得る。また例えば、カプセル剤の場合はソフトカプセル及びハードカプセルのいずれであってもよい。
【0020】
本発明に係る医薬組成物におけるエフソールの配合量は、記憶障害予防又は改善効果が発揮される限り特に制限されず、対象に応じて適宜設定できる。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0021】
本発明に係る医薬組成物の投与時期は特に限定されず、例えば製剤形態、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度等を考慮して適宜投与時期を選択することが可能である。なお、投与形態は特に制限されないが、経口投与及び経血管投与(経静脈投与、経動脈投与)が好ましい。
【0022】
本発明に係る医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与対象の症状の程度、その他の条件等に応じて適宜選択され得る。特に含まれるエフソール量を基準として、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜設定することができる。特に制限はされないが、例えば、成人一日あたりに投与されるエフソール量は、0.5~100mg程度が好ましく、1~50mg程度がより好ましく、5~30mg程度、6~24mg程度、10~24mg程度、又は12~24mg程度がさらに好ましい。なお、1日1回又は複数回(好ましくは2~3回)に分けて投与することができる。非ヒト哺乳動物の場合も、当該人の場合を参考として適宜投与量を設定できる。
【0023】
本発明の組成物を食品組成物(例えば飲食品や食品添加物)として用いる場合、当該組成物(以下「本発明に係る食品組成物」と記載することがある)には、エフソール(あるいはエフソール含有生体抽出物)、及び食品衛生学上許容される基剤、担体、添加剤、その他飲食品として利用され得る成分・材料等が配合され得る。例えば、エフソールを含む、記憶障害予防又は改善用の加工食品、飲料、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品(病院食、病人食又は介護食等)等の食品組成物が例示できる。特に制限はされないが、当該食品組成物に配合されるエフソールが生体抽出物(好ましくはイ草抽出物)である場合は、例えば当該抽出物が配合された加工食品、健康食品、栄養機能食品、特定保健用食品、サプリメント、病者用食品等であってもよい。また、エフソールを例えば粉末状にする等して、飲料類(ジュース等)、菓子類、パン類、スープ類(粉末スープ等を含む)、加工食品等の各種飲食品に含有させたものであってもよい。なお、病院食とは病院に入院した際に供される食事であり、病人食は病人用の食事であり、介護食とは被介護者用の食事である。本発明に係る食品組成物は、特に入院、自宅療養等されている患者、あるいは介護を受けられている患者であって記憶障害を感じている対象者用の病院食、病人食又は介護食として好ましく用いることができる。
【0024】
健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品等)、サプリメントとして、本発明に係る食品組成物を調製する場合は、継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒、カプセル、錠剤(チュアブル剤等を含む)、飲料(ドリンク剤)等の形態に調製することが好ましく、なかでもカプセル、タブレット、錠剤の形態が摂取の簡便さの点からは好ましい。ただし、特にこれらに限定されるものではない。顆粒、カプセル、錠剤等の形態の、本発明に係る食品組成物は、薬学的及び/又は食品衛生学的に許容される担体等を用いて、常法に従って適宜調製することができる。また、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0025】
本発明に係る食品組成物におけるエフソールの配合量は、本発明の効果が発揮され得る限り特に制限されない。好ましくは0.0005~100質量%、より好ましくは0.005~90質量%、さらに好ましくは0.05~80質量%である。なお、下限は10質量%、20質量%、30質量%、40質量%、50質量%、60質量%、70質量%、又は80質量%程度であってもよい。
【0026】
本発明に係る食品組成物は、記憶障害予防又は改善のために好ましく用いることができる。また、摂取量、摂取対象等は、例えば上述した本発明に係る医薬組成物と同様であることが好ましい。
【0027】
本発明は、エフソールを配合する工程を含む、記憶障害予防又は改善用組成物の製造方法、並びに、エフソール(好ましくは上述のエフソールを含有する記憶障害予防又は改善用組成物)を投与することにより、記憶障害を予防又は改善する方法、も包含する。これらの方法における各種条件は、上述したとおりである。
【0028】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例
【0029】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、実験で用いたZnAF-2DAは下記式で示される公知の化合物であり、亜鉛イオン(Zn2+)蛍光プローブとして用いられる。
【0030】
【化2】
【0031】
また、実験で用いたコルチコステロンは、副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドであり、ストレスの主要な指標としても知られている。
【0032】
なお、エフソールとしては、以下に詳述するように、イ草から単離同定したものを用いた。また、ZnAF-2DAは積水メディカル株式会社から、コルチコステロンは和光純薬工業株式会社から、実験動物は日本エスエルシー株式会社から、それぞれ入手した。
【0033】
<実験1>
麻酔したラットの脳内の海馬CA1領域にインジェクションカニューラを挿入し、カニューラを介して、ZnAF-2DAを含む人工脳脊髄液(コントロール群)、あるいはコルチコステロン(CS)500ナノグラム/ミリリットルとZnAF-2DAとを含む人工脳脊髄液(CS群)を各4マイクロリットル投与した。投与5分後に、ラットを麻酔下断頭し、脳を摘出して、ビブラトームを用いて脳スライス(水平面切片:厚さ400μm)を作製し、海馬CA1領域において細胞内ZnAF-2蛍光を共焦点レーザー顕微鏡で測定した。その結果を図1に示す。海馬CA1領域の細胞内亜鉛イオン(Zn2+)レベルは、CS投与群はコントロール群と比較して有意に増加した(p<0.01:図1では**で示す。)。したがって、コルチコステロンの脳内投与は海馬CA1領域の亜鉛イオンを増加させることが明らかとなった。
【0034】
<実験2>
麻酔したラットの海馬CA1領域にマイクロダイアリシスプローブを挿入し、人工脳脊髄液(ACSF:Artificial cerebrospinal fluid)のみ、コルチコステロン(CS)1000ナノグラム/ミリリットルを含むACSF、およびCS1000ナノグラム/ミリリットルとエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを含むACSFで灌流し、各灌流液中のグルタミン酸濃度(細胞外グルタミン酸濃度)を、キャピラリーカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定(蛍光検出器)した。測定結果を図2に示す。CSを含むACSFで灌流すると、ACSFのみで灌流した場合に比べて有意に細胞外グルタミン酸濃度は増加した(p<0.01:図2では**で示す。)。したがって実験1でコルチコステロンの脳内投与で海馬CA1領域の亜鉛イオンが増加したのは、神経終末からグルタミン酸放出が増加したことに起因すると考えられた。さらに、エフソールを灌流液に加えるとCSにより増加した細胞外グルタミン酸濃度は有意に抑制された(p<0.05:図2では#で示す。)。したがってエフソールはコルチコステロンによる細胞外グルタミン酸濃度の上昇を抑制する効果があることがわかった。
【0035】
なお、図2の左側のグラフは、(○)Controlは0minまではACSFのみで灌流、0minからACSF+CSで灌流した結果を示し、(◆)Effusolは-25minまではACSFのみで灌流、-25minからEffusolを含むACSFで灌流、0minからACSF+effusol+CSで灌流した結果を示す。また、図2の右側のグラフは、図2の左側のグラフにおけるデータの平均値を示しており、より具体的には、図2の右側のグラフにおいて、ACSFは-45~-30minの平均値を、CS及びCS/Effusolは5minの値を、それぞれ示す。
【0036】
<実験3>
麻酔したラットの海馬CA1領域にマイクロダイアリシスプローブを挿入し、人工脳脊髄液(ACSF)のみ、150ミリモル/リットルKClを含むACSF、および150ミリモル/リットルKClとエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを含むACSFで灌流し、灌流液中のグルタミン酸濃度(細胞外グルタミン酸濃度)を実験2と同様にして測定した。測定結果を図3に示す。150ミリモル/リットルKClを含むACSFで灌流すると、ACSFのみで灌流した場合に比べて有意に細胞外グルタミン酸濃度は増加したが(p<0.001:図3では***で示す。)、この増加はエフソール(Effusol)を灌流液に加えることによって有意に抑制された(p<0.05:図3では#で示す。)。海馬CA1領域の細胞内亜鉛イオン(Zn2+)レベルの増加は、コルチコステロン(CS)の代わりに高カリウムイオン(K)150ミリモル/リットルKClを用いても神経終末からのグルタミン酸放出増加により惹起され、以上のことからエフソールはグルタミン酸放出増加を抑制することが明らかとなった。
【0037】
なお、図3の左側のグラフは、(○)Controlは0minまではACSFのみで灌流、0minからACSF+KClを灌流した結果を示し、(◆)Effusolは-25minまではACSFのみで灌流、-25minからACSF+effusolで灌流、0minからACSF+effusol+KClで灌流した結果を示す。また、図3の右側のグラフは、図3の左側のグラフにおけるデータの平均値を示しており、より具体的には、図3の右側のグラフにおいて、ACSFは-45~-30minの平均値を、KCl及びKCl/Effusolは5minの値を、それぞれ示す。
【0038】
<実験4>
ラットを麻酔下断頭し、脳を摘出して、ビブラトームを用いて脳スライス(水平面切片:厚さ400μm)を作製し、亜鉛イオン(Zn2+)蛍光プローブであるZnAF-2を10μM含む人工脳脊髄液(ACSF)に脳スライスを浸して、海馬CA1領域の細胞外Zn2+レベルの増加を蛍光強度により測定した。つまり、ZnAF-2は細胞外液(スライス外)に存在しており、これにより細胞外の亜鉛イオン量を測定した。結果を図4に示す。コルチコステロン(CS)1000ナノグラム/ミリリットルの添加により(図4では下矢印↓で示す)、細胞外Zn2+は増加した(コントロール)。エフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを添加しても細胞外Zn2+は同様に増加し、コントロールと差は無かった。なお、図4下右側のグラフは、図4下左側のCS添加300sec後のデータを棒グラフで表したものである。
【0039】
<実験5>
実験4と同様にしてラット脳スライスを作製し、当該脳スライスを10μM ZnAF-2DAを含むACSFに30分浸して、亜鉛イオン(Zn2+)蛍光プローブZnAF-2DAを予め脳スライスに取り込ませ、海馬CA1領域の細胞内亜鉛イオン(Zn2+)レベルの増加を蛍光強度により測定した。つまり、ZnAF-2は予め細胞内(スライス内)に取り込まれており、これにより細胞内の亜鉛イオン量を測定した。結果を図5に示す。コルチコステロン(CS)1000ナノグラム/ミリリットルの添加により(図5では下矢印↓で示す。)、細胞内Zn2+は増加した(コントロール)。この増加はエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルを添加することにより有意に抑制された(p<0.05:図5では*で示す。)。なお、図5下右側のグラフは、図5下左側のCS添加300sec後のデータを棒グラフで表したものである。
【0040】
<実験6>
コルチコステロン(CS)による細胞内亜鉛イオン(Zn2+)増加は記憶の分子メカニズムと考えられている長期増強(LTP:Long-term potentiation)を障害する。この障害がエフソール(Effusol)により改善されるかどうか検討した。
【0041】
麻酔したラット海馬CA1に刺激電極とマイクロダイアリシスプローブ付き記憶電極を挿入し、CA1のLTP(シナプスの高頻度刺激の後に起きるシナプス伝達効率の持続的増加)を記録した。結果を図6に示す。図6上側には、シナプス応答(興奮性シナプス後電位:fEPSP)を示す。明るいグレーは-80minのfEPSP、暗いグレーは-50minのfEPSP、ブラックは50minのfEPSPをそれぞれ示す。図6左下には経時的なシナプス伝達(興奮性シナプス後電位:fEPSP slope)を、それぞれ示す。図6右下には、図6左下のグラフにおける50~60minのfEPSP slopeの平均値を示す。
【0042】
CSで記録部位を前灌流することにより、その後のLTPは有意に減弱したが(p<0.01:図6では**で示す。)、この減弱はエフソール(Effusol)100マイクロモル/リットルの前灌流で有意に改善した(p<0.05:図6では#で示す)。
【0043】
以上の結果から、エフソールは、細胞内亜鉛イオン(Zn2+)をトリガーとするグルタミン酸興奮毒性によって引き起こされる記憶障害指標であるLTP障害を改善させることが明らかとなった。このことから、イグサ由来のエフソールはストレス誘発性の記憶障害を防止することが期待される。
【0044】
<イ草からのエフソールの単離同定>
乾燥したイグサ全草400gを2~3センチメートルの長さにカットしたものにメタノール8リットルを加えて70℃加熱下、2時間還流抽出を2回行いろ過した。ろ液を減圧下濃縮し、濃縮液に1リットルの蒸留水を加えて懸濁させ、1リットルのn-ヘキサンを加えて分液ロートで液液分配抽出を3回繰り返し行い、ヘキサン層と水層を得た。この水層に酢酸エチル1リットルを加えて分液ロートで液液分配抽出を3回繰り返し、水層と酢酸エチル層に分けた。酢酸エチル層は減圧下溶媒留去し乾燥して酢酸エチルエキス6.64gを得た。
【0045】
当該酢酸エチルエキスをHPLC分析して得たチャートを図7に示す。なお、当該HPLC分析の条件は次の通りである。
カラム:Inertsil ODS-3 HP (3μm) φ3.0 x 150 mm
流速:0.75mL/min
カラム温度:40℃
移動相:グラジエント0-5 min 5%,5-25 min 5-45%,25-35 min 45%アセトニトリルin 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液
検出:UV 210-400 nm
【0046】
上記のようにして得られた酢酸エチルエキスをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(240ミリリットル)でAからQの17個のフラクションに分画した(溶出液:5%メタノール含有クロロホルム~40%メタノール含有クロロホルム)。フラクションCおよびDを分取液体クロマトグラフィー(カラム:COSMOSIL Cholester、ナカライテスク社、溶出溶媒40%アセトニトリル)で繰り返し精製し、化合物1を77ミリグラム得た。化合物1(図7)についてNMRスペクトルおよびマススペクトルを測定し、エフソールと同定した。化合物1の物性データを以下に示す。
【0047】
H-NMR(CDCL)δ:2.16(3H,s)、2.57(2H,m)、2.62(2H,m)、5.15(1H,dd,J=11,1.5Hz)、5.598(1H,dd,J=17.5,1.5Hz)、6.606(1H,br s)、6.614(1H,d,J=8Hz)、6.81(1H,d,J=3Hz)、6.89(1H,dd,J=17,11Hz)、7.15(1H,d,J=8.5Hz)。
13C-NMR(CDCL)δ:11.7、26.5、31.4、112.3、113.47、113.49、114.9、121.9、127.0、127.7、128.2、137.2、140.1、140.3、141.6、154.9、156.2。
ESI-MS:251.05[M-H],253.12[M+H]
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7