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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ゲノム安定性増強剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/644 20150101AFI20220804BHJP
   A61K 36/13 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 39/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20220804BHJP
   A61K 8/9755 20170101ALI20220804BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20220804BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220804BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20220804BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220804BHJP
【FI】
A61K35/644
A61K36/13
A61K31/343
A61P39/00
A61P43/00 105
A61K8/98
A61K8/9755
A61K8/49
A61Q19/00
A23L33/10
A23L33/105
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019505908
(86)(22)【出願日】2018-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2018008606
(87)【国際公開番号】W WO2018168579
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2017051280
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598162665
【氏名又は名称】株式会社山田養蜂場本社
(73)【特許権者】
【識別番号】510097747
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立がん研究センター
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 智樹
(72)【発明者】
【氏名】福島 忍
(72)【発明者】
【氏名】立藤 智基
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 研一
(72)【発明者】
【氏名】白川 仁
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-079797(JP,A)
【文献】特開2007-295919(JP,A)
【文献】吉岡研一 ほか,栄養成分によるがん化・老化予防効果とゲノム安定性制御機構の研究,公益財団法人 三島海雲記念財団 研究報告書,2016年11月01日,平成28年度, 第53号,pp.18-21
【文献】CHEN, W. et al.,10-Hydroxy-2-decenoic acid (10-HDA) inhibits peroxynitrite-mediated DNA damage and hydroxyl radical,Free Radical Biology and Medicine,2009年,Vol.47, Suppl.1,p.S160, Abstract Number: 436
【文献】NARAYANAN, N.K. et al.,Antitumor activity of melinjo (Gnetum gnemon L.) seed extract in human and murine tumor models in vi,Cancer Medicine,2015年,Vol.4, No.11,pp.1767-1780
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61K 8/00
A61K 36/00
A61K 31/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有し、前記酵素がエンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ、又はエンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼとエキソペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼの組合せである、ゲノム安定性増強剤。
【請求項2】
化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、請求項1に記載のゲノム安定性増強剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム安定性増強剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの正常細胞は、一定回数の分裂の後に増殖を停止する。静止した状態の細胞は、ゲノム安定性が保持される限り、形質転換から防御される。この静止状態は、ARF/p53経路の制御下で、ヒストンH2AXレベルの低下に伴って形成されている。同様の増殖停止した細胞状態は、正常に恒常性の保持された臓器を構成している細胞でも広く認められている。H2AXレベルが低下した状態では、細胞は増殖停止すると同時に、DNA損傷の修復能が低下した状態になる。そのため、増殖停止した細胞では、過剰な増殖刺激に起因したDNA複製ストレスに伴いゲノム不安定性が誘導される。一方で、そのような細胞は、一過的なH2AX誘導に伴う修復能の活性化機構を有している。
【0003】
ヒストンH2AXはDNA損傷修復因子の損傷部位への局在化に重要である。DNAの二本鎖切断が起こると、その周辺のH2AXはリン酸化される。多くのDNA損傷修復因子は、このリン酸化されたH2AX (γ-H2AXと呼ばれる)と相互作用することで損傷部位に局在化する。そのため、γ-H2AXを免疫染色などにより検出することでDNA損傷のマーカーとして使用することができる。
【0004】
例えば、非特許文献1及び2では、レスベラトロール類のがん細胞に対する有効性を調べるために、γ-H2AXを検出することでレスベラトロール類がDNA損傷を誘導することの確認を行っている。がん細胞のDNA損傷が生じる結果として、アポトーシスの誘導効果が得られることになる。
【0005】
このように、非特許文献1及び2に記載されているのはリン酸化されたH2AXの検出であり、H2AX自体の発現量は検討されていない。前述するように、H2AXを一過的に誘導させることでDNAの修復能を活性化させてゲノム安定性を増加させることができる。
【0006】
非特許文献3では、“増殖停止した正常細胞”における「一過的なH2AX発現に伴うDNA修復」を、レスベラトロール及びローヤルゼリーの処理で見出したことが報告されている。
【0007】
非特許文献4では、レスベラトロールによってDNA修復に関わるFactor Xが一過的に誘導されることが報告されている。
【0008】
ローヤルゼリー及びレスベラトロール誘導体を豊富に含むメリンジョについては、抗がん作用、抗老化作用、寿命延長作用などを奏することの報告もある(特許文献1、2、及び非特許文献5-8)。
【0009】
また、遺伝子修復機構の変異を原因とする疾患である色素性乾皮症、ハンチントン病、ウェルナー症候群、ブルーム症候群、リンチ症候群などは、有効な治療方法が見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特許第5923699号公報
【文献】日本国特許第5979810号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Carsinogenesis (2011) 32(1):93-101
【文献】Ann Hematol (2011) 90:173-183
【文献】吉岡 研一、23-C-10 発癌誘導ストレスに起因し、連動して誘発する「ゲノム不安定性・変異・細胞形質転換」の分子機構研究、インターネット<http://crdb.ncc.go.jp/search/DRTV050.action?rpno=012013007100000>
【文献】吉岡 研一、白川 仁、栄養成分によるがん化・老化予防効果とゲノム安定性制御機構の研究、インターネット<http://www.mishima-kaiun.or.jp/assist/docs/SJNo2-yoshioka,.pdf>
【文献】日薬理誌(Folia pharmacol. Japon.)(1987) 89:73-80
【文献】Cancer Medicine (2015) 4(11):1767-1780
【文献】PLoS One (2011) 6(8):e23527
【文献】Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry (2015) 79(12):2044-2049
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、優れたゲノム安定性の増強作用を有するゲノム安定性増強剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、酵素分解ローヤルゼリーが未酵素分解ローヤルゼリーと比べてH2AXを誘導する作用がより高いこと、並びにメリンジョ種子抽出物及びグネチンCがトランスレスベラトロールと比べてH2AXを誘導する作用がより高いという知見を得た。
【0014】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、以下のゲノム安定性増強剤を提供するものである。
【0015】
項1.酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有するゲノム安定性増強剤。
項2.化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、項1に記載のゲノム安定性増強剤。
項3.酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種の有効量を哺乳動物に投与する工程を含む、ゲノム安定性を増強させる方法。
項4.ゲノム安定性増強剤の製造における、酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種の使用。
項5.前記ゲノム安定性増強剤が、化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、項4に記載の使用。
項6.酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有するゲノム安定性増強用組成物。
項7.化粧品、飲食品、医薬品、又は医薬部外品である、項6に記載のゲノム安定性増強用組成物。
【発明の効果】
【0016】
酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCは優れたH2AX発現誘導作用を有しているので、ゲノム安定性増強剤の有効成分として有用である。
【0017】
本発明のゲノム安定性増強剤は、優れたゲノム安定性の増強作用を有していることから、ゲノム不安定(遺伝子修復機構の異常)に関連する疾患である色素性乾皮症、ハンチントン病、ウェルナー症候群、ブルーム症候群、リンチ症候群などの発症予防及び症状軽減に効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】試験例1における、H2AX発現についてのウエスタン解析の結果を示す写真(上)、及びH2AX発現量(相対値)を示すグラフ(下)である。左:未処理ローヤルゼリー、右:酵素分解ローヤルゼリー
図2】試験例2における、H2AX発現についてのウエスタン解析の結果を示す写真(上)、及びH2AX発現量(相対値)を示すグラフ(下)である。左:トランスレスベラトロール、右:メリンジョ
図3】試験例3における、H2AX発現についてのウエスタン解析の結果を示す写真(上)、及びH2AX発現量(相対値)を示すグラフ(下)である。左:トランスレスベラトロール、中:メリンジョ、右:グネチンC
図4】試験例4における、Msh2のホモ及びヘテロノックアウトマウスの生存率を示すグラフである。◆:Msh2 (-/-) 通常の餌 n=11, ■:Msh2 (-/-) 0.3%メリンジョ種子抽出物を添加した餌 n=8, ▲:Msh2 (+/-) 通常の餌 n=10, ×:Msh2 (+/-) 0.3%メリンジョ種子抽出物を添加した餌 n=10
図5】試験例5における、Msh2のノックアウトマウスの腸管に形成された腫瘍の数を示すグラフである。+ : メリンジョ種子抽出物投与群, - : 対照群
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
なお、本明細書において「含む、含有する(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0021】
本発明のゲノム安定性増強剤は、酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0022】
ローヤルゼリーは、蜜蜂のうち日齢3~12日の働き蜂が下咽頭腺及び大腮腺から分泌する分泌物を混合して作る乳白色のゼリー状物質である。ローヤルゼリー中の主な生理活性成分としては、例えば、ローヤルゼリーに特有な10-ハイドロキシデセン酸(以下、「デセン酸」と記載する)等の有機酸類をはじめ、タンパク質、脂質、糖類、ビタミンB類、葉酸、ニコチン酸、パントテン酸等のビタミン類、各種ミネラル類等が挙げられる。このローヤルゼリーの生理活性及び薬理作用としては、抗菌作用、免疫増強作用、抗うつ作用、抗腫瘍作用、抗炎症作用、血流量増加作用等が知られている。また、制癌剤の副作用低減及び放射線傷害時の延命効果も報告されている。
【0023】
酵素分解ローヤルゼリーの製造に用いられるローヤルゼリーとしては、特に制限されず、生ローヤルゼリー、生ローヤルゼリーを乾燥させて粉末化したローヤルゼリー粉末、又は生ローヤルゼリーを水若しくは含水エタノール等により抽出した物を使用することができる。
【0024】
ローヤルゼリーの産地は、制限されず、日本、中国、ブラジル、ヨーロッパ諸国、オセアニア諸国、アメリカ等のいずれであってもよい。
【0025】
本発明が対象とする酵素分解ローヤルゼリーは、ローヤルゼリーをタンパク質分解酵素で処理した物である。好ましくは、ペプチダーゼ処理によってローヤルゼリーに含まれるタンパク質に起因するアレルギー反応が抑制されてなる、低アレルゲン化酵素分解ローヤルゼリーである。したがって、本発明の酵素分解ローヤルゼリーには、ローヤルゼリー中に含まれるタンパク質のペプチダーゼ分解物の他に、前述するデセン酸等の有機酸類、脂質、糖類、ビタミン類、及び各種ミネラル類が含まれ得る。
【0026】
ローヤルゼリーを酵素分解するのに使用される酵素としては、ペプチダーゼを好適に挙げることができる。使用されるペプチダーゼは、エンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の少なくとも一方を有していればよいが、好ましくは少なくともエンドペプチダーゼ作用を有する物、より好ましくはこれら両方の作用を有する物である。
【0027】
本発明の酵素分解ローヤルゼリーは、好ましくはローヤルゼリーに含まれるタンパク質を加水分解して低アレルゲン化された物である。このためには、ローヤルゼリーを、少なくともエンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ)を用いて、好ましくはエンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼを用いて、加水分解することが好ましい。ここで、エンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼとして、これら両方の作用を同時に有するペプチダーゼを単独で使用してもよいし、また、エンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ)とエキソペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼ(エキソペプチダーゼ)とを組み合わせて使用してもよい。
【0028】
本発明で使用することができるエンドペプチダーゼとしては、少なくともエンドペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素であれば如何なる物であってもよい。例えば、動物由来(例えば、トリプシン、キモトリプシン等)、植物由来(例えば、パパイン等)、又は微生物由来(例えば、乳酸菌、酵母、カビ、枯草菌、放線菌等)のエンドペプチダーゼを広く例示することができる。
【0029】
エキソペプチダーゼとしては、少なくともエキソペプチダーゼ活性を有するタンパク質分解酵素であれば如何なる物であってもよい。例えば、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、若しくは微生物由来(例えば、乳酸菌、アスペルギルス属菌、リゾープス属菌等)のエキソペプチダーゼ、又はエンドペプチダーゼ活性も併せて有するパンクレアチン、ペプシン等を例示することができる。
【0030】
ところでペプチダーゼには、実質的にエキソペプチダーゼ作用のみを有するエキソペプチダーゼ、実質的にエンドペプチダーゼ作用のみを有するエンドペプチダーゼ、並びにエキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼが存在する。これらのうち、エキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有する酵素は、エンドペプチダーゼ作用が強力な場合には「エンドペプチダーゼ」として使用可能であり、エキソペプチダーゼ作用が強力な場合には「エキソペプチダーゼ」として使用可能であり、エキソペプチダーゼ作用とエンドペプチダーゼ作用とが同等又はほぼ同等の場合には、エンドペプチダーゼ作用とエキソペプチダーゼ作用とを同時に有するペプチダーゼとして使用可能である。
【0031】
このようなペプチダーゼのうち、エキソペプチダーゼ作用を有する酵素の好ましい例としては、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ(商品名:ウマミザイムG、Promod 192P、Promod 194P、スミチームFLAP)、アスペルギルス・ソーエ(Aspergillus sojae)産生ペプチダーゼ(商品名:Sternzyme B15024)、アスペルギルス属産生ペプチダーゼ(商品名:コクラーゼP)、リゾプス・オリゼー(Rhizopus oryzae)産生ペプチダーゼ(商品名:ペプチダーゼR)等を挙げることができる。
【0032】
また、エンドペプチダーゼ作用を有するペプチダーゼの好ましい例としては、例えば、バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)産生ペプチダーゼ(商品名:オリエンターゼ22BF、ヌクレイシン)、バチルス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)産生ペプチダーゼ(商品名:アルカラーゼ)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼS)、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)産生ペプチダーゼ(商品名:ニュートラーゼ)、バチルス属産生ペプチダーゼ(商品名:プロタメックス)等を挙げることができる。
【0033】
さらに、エキソペプチダーゼ作用及びエンドペプチダーゼ作用の両方を有するペプチダーゼ、特にアルカリ性ペプチダーゼの好ましい例としては、例えば、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)産生ペプチダーゼ(商品名:アクチナーゼAS)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus orizae)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼA、フレーバーザイム)、アスペルギルス・メレウス(Aspergillus melleus)産生ペプチダーゼ(商品名:プロテアーゼP)等を挙げることができる。かかるペプチダーゼを使用した酵素処理によれば、一段階酵素処理でタンパク質を低分子化することができるので、操作が簡便であるとともに、ローヤルゼリーに含まれる有用成分の生理活性の消失及び大幅な低減を防止することができるという利点がある。
【0034】
ローヤルゼリーに対するペプチダーゼの使用量は、使用するローヤルゼリー濃度、酵素力価、反応温度及び反応時間により異なるが、一般的には、ローヤルゼリーに含まれるタンパク質1 g当り50~10000作用単位の割合でペプチダーゼを用いることが好ましい。なお、このとき、ペプチダーゼのローヤルゼリーへの添加は、一度に添加してもよく、少量ずつ分割して添加してもよい。
【0035】
ペプチダーゼ処理に際してローヤルゼリーのpHは、使用酵素の至適pHに対応して、pH2~12、好ましくはpH7.5~10、より好ましくはpH7.8~9の範囲から選択される。具体的には、前記ローヤルゼリーにペプチダーゼを添加する前に、使用酵素の種類によりpH2~12、好ましくはpH7.5~10、より好ましくはpH7.8~9の範囲内になるように、酸、アルカリ剤、あるいは緩衝剤の添加により所望のpHに調整される。この場合、酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸等を;アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム等を;また、緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤等をそれぞれ例示することができる。
【0036】
ペプチダーゼ処理の温度は、特に制限はなく、ペプチダーゼ作用、好ましくはエンドペプチダーゼ作用、より好ましくはエンドペプチダーゼ作用及びエキソペプチダーゼ作用の両作用が発現する最適温度範囲を含む、実用に供せられ得る範囲、すなわち、通常30~70℃の範囲から選択される。温度をペプチダーゼの至適温度(好ましくは約40~50℃)より低温又は高温、例えば、50~60℃の範囲に維持することによりペプチダーゼ処理工程での腐敗を防止することもできる。ペプチダーゼ処理の時間は、使用酵素の種類、及び反応温度、pH等の反応条件に依存し、特に限定されない。
【0037】
なお、ローヤルゼリーは、そのまま、又は水に溶解若しくは分散させた状態でタンパク質分解酵素処理に供することができる。これらが乾燥形態である場合は、水に溶解させた状態でタンパク質分解酵素処理に供することが好ましい。
【0038】
ペプチダーゼ処理の停止は、ペプチダーゼを失活又は除去することにより行う。失活操作は加熱処理(例えば、85℃で15分間等)により行うことができる。
【0039】
本発明における酵素分解ローヤルゼリーは、少なくとも前述するようにペプチダーゼで処理したローヤルゼリーであればよく、ペプチダーゼ処理だけでなく、その他の酵素との組み合わせ処理、例えば、ペプチダーゼ処理と合わせて糖分解酵素処理したローヤルゼリーも含まれる。
【0040】
本発明における酵素分解ローヤルゼリーとしては、酵素分解後のローヤルゼリーを乾燥及び粉末化した物も使用することができる。乾燥方法としては、通風乾燥、天日乾燥などの自然乾燥、電気などで加熱して乾燥させる強制乾燥、流動層乾燥、噴霧乾燥、高周波乾燥、凍結乾燥など、一般食品加工で採用される公知の方法を使用することができ、好ましくは凍結乾燥である。粉末化のための粉砕方法としては、粉砕機(ミル)(例えば、ピンミル、ハンマーミル、ボールミル、ジェットミル、ローラーミル、コロイドミル等)を用いて粉砕する方法等、公知の方法を使用できる。
【0041】
グネツム(別名メリンジョ、学名Gnetum gnemon L.、英名Gnemon tree、インドネシア名Melinjo、Belinjo)は、グネツム科の植物であり、東南アジアで栽培されている。
【0042】
本発明においてグネツムの使用する部位としては特に制限されず、実(又は種子)、花、葉などが挙げられ、好ましくは種子である。また、グネツムとしては加工された物も使用でき、そのような加工としては、乾燥、加熱乾燥、切断、粉砕などが挙げられる。
【0043】
本明細書において、グネツム種子とは種皮、薄皮、及び胚/胚乳(内乳)からなる物をいう。グネツム種子の形状及び形態としては、本発明の効果が得られる物であればどのような形状及び形態の物も使用でき、長径:約1.3~2.3 cm、短径:約0.6~1.3 cmであり、ピーナッツ状の形状である物が好ましい。グネツム種子としては、グネツム種子が含まれている形態の物であれば本発明で使用することができ、例えば、グネツム種子に果皮を有する形態であるグネツム果実が挙げられる。
【0044】
本発明におけるグネツム種子には、加工された物も包含され、このようなグネツム種子の加工物としては、(天日干し等により)乾燥された状態の物、加熱乾燥された状態の物などが挙げられる。また、グネツム種子としては、切断及び粉砕されていない原形のままの状態の物、並びにスライス及び粉砕されたグネツム種子の加工物を使用できる。本発明では、グネツム種子の胚/胚乳(内乳)、又は種皮のみのグネツム種子の加工物を使用することもできる。
【0045】
本発明においてグネツム種子の抽出物が使用されることが望ましく、当該抽出物の製造方法としては、特に制限されず、例えば、グネツム種子を浸漬液に浸漬することにより抽出する方法(例えば、日本国特開2013-82701号公報に記載の方法)などを用いて行うことができる。
【0046】
上記浸漬液としては水、有機溶剤又は含水有機溶剤を使用することができる。有機溶媒としては、水と自由に混和可能なものが好ましく、そのようなものとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール等の炭素数1~5の低級アルコール、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン等のケトン類、酢酸、氷酢酸、プロピオン酸等の有機酸等が挙げられる。有機溶媒は、好ましくは低級アルコールである。
【0047】
浸漬を行う際の浸漬液の温度は、グネツム種子及び浸漬液の量などにより適宜設定され得、例えば10~50℃、好ましくは20~40℃である。浸漬を行う時間は、グネツム種子及び浸漬液の量などにより適宜設定され得るが、好ましくは3日以上、より好ましくは3日~7日である。
【0048】
回収した浸漬液は、そのままでも使用できるが、必要に応じて、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、透析法、これらの組合せなどにより精製を行い得る。
【0049】
グネツム種子の抽出物は、回収された浸漬液(必要に応じて更に精製されたものも含む)、当該浸漬液を濃縮した濃縮液、及び凍結乾燥、スプレードライ等により当該浸漬液の溶媒が除去された固形物の何れの状態も取り得る。ここで、浸漬液の濃縮、凍結乾燥及びスプレードライは、常法に従って行うことができる。本発明のグネツム種子の抽出物の形態は、好ましくは粉末状である。
【0050】
グネチンCは、下記式で示されるポリフェノールの一種である。
【0051】
【化1】
【0052】
グネチンCは、自家調製品又は市販品を問わず用いることができる。ここでグネチンCを自家調製する方法としては、特に制限されず、グネチンCを含む植物から抽出する方法、微生物に産生させる方法(例えば、Adil E Bala et al., “Antifungal activity of resveratrol oligomers from Cyphostemma crotalarioides”, Pesticide Science, Vol.55, Issue 2, Pages 206-208など参照)、及び化学的に合成する方法を挙げることができる。
【0053】
グネチンCを含む植物としては、特に制限されず、好ましくはグネツム科に属する植物を挙げることができる(Ibrahim Iliya et al., “Stilbenoids from the stem of Gnetum latifolium(Gnetaceae)”, Phytochemistry, 2002 Dec;61(8):959-61;Ibrahim Iliya et al., “Dimeric Stilbenes from Stem Lianas of Gnetum Africanum”, HeteroCycles, VOL.57;NO.6;PAGE.1057-1062(2002))。
【0054】
具体的には、グネツム科に属するGnetum latifolium、Gnetum Africanum及びGnetum gnemon (グネツム)を例示することができ、好ましくはグネツムである。使用する植物の部位についてもグネチンCを多く含む部位であれば、実(又は種子)、花、葉など部位は制限されず、好ましくは実(又は種子)、より好ましくは実の胚乳である。
【0055】
ここでグネチンCを植物から抽出する場合、その方法は特に制限されず、例えば、前述する抽出方法、日本国特開2013-82701号公報に記載の抽出方法などを使用することができる。グネチンCは、単離又は精製された状態でない物(粗抽出物)、及び単離又は精製された物のいずれも使用することができる。精製方法としては、前述する方法などを使用することができる。
【0056】
なお、精製は純度100%まで行う必要はない。本発明で使用するグネチンCは、純度が通常50質量%以上のものであればよく、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。
【0057】
また、グネチンCを、微生物を用いて産生する場合、又は化学合成によって取得する場合も、上記と同様に精製処理を施すことが好ましい。
【0058】
本発明におけるグネチンCは、フリーの状態又は塩の状態の両方を包含する。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等の無機塩基との塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩及びアンモニウム塩が挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。また、本発明におけるグネチンCにはその水和物、溶媒和物、結晶多形なども含まれる。
【0059】
本発明のゲノム安定性増強剤中の酵素処理ローヤルゼリーの含量は、特に限定されず、好ましくは0.01質量%又はw/v%以上、より好ましくは1.4~100質量%又はw/v%、更に好ましくは30~65質量%又はw/v%である。
【0060】
本発明のゲノム安定性増強剤中のグネツム又はその抽出物の含量は、特に制限されず、好ましくは0.01質量%又はw/v%以上、より好ましくは0.03~100質量%又はw/v%、更に好ましくは30~65質量%又はw/v%である。
【0061】
本発明のゲノム安定性増強剤中のグネチンCの含量は、特に制限されず、好ましくは0.001質量%又はw/v%以上、より好ましくは0.01~100質量%又はw/v%、更に好ましくは1~40質量%又はw/v%である。
【0062】
本発明のゲノム安定性増強剤は、化粧品、飲食品(特に、保健、健康維持、増進等を目的とする飲食品(例えば、健康食品、機能性食品、栄養組成物(nutritional composition)、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品))、医薬部外品及び医薬品(特に、経口医薬)の意味も包含するものである。また、本発明のゲノム安定性増強剤は、ゲノム安定性増強作用を付与する添加剤についての意味も包含するものである。
【0063】
上記の化粧品には、上記有効成分以外にも、通常化粧品に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色材、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0064】
化粧品には、動物(ヒトを含む)の皮膚、粘膜、体毛、頭髪、頭皮、爪、歯、顔皮、口唇等に適用されるあらゆる化粧品が含まれる。
【0065】
化粧品の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油2層系、水-油-粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。
【0066】
化粧品の用途も任意であり、例えば、基礎化粧品であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス、美容液、パック、マスク等が挙げられ、メークアップ化粧品であれば、ファンデーション、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、マスカラ等が挙げられ、ネイル化粧料であれば、マニキュア、ベースコート、トップコート、除光液等が挙げられ、その他、洗顔料、(練又は液体)歯磨剤、マウスウォッシュ、マッサージ用剤、クレンジング用剤、アフターシェーブローション、プレシェーブローション、シェービングクリーム、ボディソープ、石けん、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、整髪料、ヘアートニック剤、育毛剤、制汗剤、入浴剤等が挙げられる。
【0067】
上記の飲食品には、上記有効成分以外にも、必要に応じて、賦形剤、光沢剤、ミネラル類、ビタミン類、フラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0068】
飲食品には、動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれる。飲食品の種類は、特に限定されず、例えば、飲料類(コーヒー、ジュース、茶飲料のような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン等);和菓子類(大福、餅、饅頭、カステラ、あんみつ、羊羹等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素等)などが挙げられる。
【0069】
サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択でき、例えば、錠剤(例えば、素錠、糖衣錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ錠など)、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤、シロップ、ペースト、ドリンク剤等が挙げられる。
【0070】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0071】
上記の医薬品には、上記有効成分のみを使用することもでき、ビタミン、生薬など日本薬局方に記載の他の医薬成分と混合して使用することもできる。
【0072】
本発明のゲノム安定性増強剤を、医薬品として調製する場合、上記有効成分を、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤若しくは賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、シロップ、ペーストなどの形態に調製して、経口用の製剤にすることが可能である。
【0073】
医薬品の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0074】
なお、本発明の医薬品及び化粧品には、医薬部外品も包含される。
【0075】
以上説明した本発明のゲノム安定性増強剤は、ヒトを含む哺乳動物に対して適用されるものである。
【0076】
本発明のゲノム安定性増強剤が有効成分として含有する、酵素分解ローヤルゼリー、グネツム又はその抽出物、及びグネチンCは、後述する実施例で示されているように、未酵素分解ローヤルゼリー及びトランスレスベラトロールと比較してH2AXを誘導する作用がより高い。そのため、本発明のゲノム安定性増強剤は、優れたH2AX発現誘導作用を有していることから、優れたゲノム安定性増強作用を奏することが予想される。
【0077】
本発明のゲノム安定性増強剤は、優れたゲノム安定性の増強作用を有していることから、ゲノム不安定(遺伝子修復機構の異常)に関連する疾患である色素性乾皮症、ハンチントン病、ウェルナー症候群、ブルーム症候群、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)などの発症予防、症状軽減及び治療のために好適に使用することができる。
【実施例
【0078】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0079】
材料
ローヤルゼリーの酵素分解物は、日本国特許第3994120号公報の実施例1に従い調製した。酵素分解ローヤルゼリー及びローヤルゼリーの凍結乾燥粉末の終濃度が100μg/mLとなるように10% FBS添加α-MEM培地に溶解し、フィルター滅菌した。
【0080】
メリンジョ種子抽出物は、日本国特開2009-013123号公報の段落[0024]の記載に従ってメリンジョの乾燥果実の破砕物を室温下で含水エタノールに浸漬し、得られた抽出液を減圧濃縮して、固形分を63.2質量%含むメリンジョ種子抽出物を得た。
【0081】
グネチンCは、上記で得られたメリンジョ種子抽出物2.5 gをカラムクロマトグラフィー(ゲルの種類:Cosmosil 75C18-PREP (ナカライテスク社製)、カラムサイズ:φ3×26.5 cm)に付し、溶離液としてメタノール含量が10容量%、25容量%、40容量%、80容量%及び100容量%の含水メタノールを用いて順次ステップワイズ溶出した(各溶離液600 mLを流し、100 mLずつ分取)。得られた各成分を下記条件のHPLCで確認したところ、グネチンCは、保持時間33.5分(1容量%酢酸及び80容量%メタノールを含有する含水メタノール溶出フラクション)に溶出することが確認された。
【0082】
<HPLC条件>
カラム:東ソー製 TSKgel ODS-100V、5μm、4.6×150 mm
移動層:A液:1.0容量%酢酸含有水、B液:1.0容量%酢酸含有メタノール
グラジェント条件:0分→10分:A:B=65:35(v/v)→63:37(v/v)、10分→20分:A:B=63:37(v/v)→56:44(v/v)、20分→40分:A:B=48:52(v/v)
検出波長:320 nm
流速:0.8 mL/min
【0083】
上記フラクションを濃縮後、下記条件の中圧カラムクロマトグラフィーで順次溶出した。
【0084】
<中圧カラムクロマトグラフィー条件>
ゲルの種類:シリカゲル、Daisogel IR-60-40/63-W
カラムサイズ:φ2×7.48 cm
検出波長:320 nm
移動層:A液:メタノール、B液:クロロホルム
グラジェント条件:0分→2分:A:B=11:89(v/v)、2分→8分:A:B=11:89(v/v)→18:82(v/v)、8分→12分:A:B=18:82(v/v)、12分→14分:A:B=21:79(v/v)、14分→20分:A:B=21:79(v/v)→29:71(v/v)、20分→24分:A:B=29:71(v/v)、24分→30分:A:B=29:71(v/v)→36:64(v/v)、30分→34分:36:64(v/v)
流速: 60 ml/min
【0085】
溶出液を60 mLずつ分取し、検出波長:320 nmで吸収ピークを示した29番目から30番目のフラクションをエバポレーターで濃縮し、グネチンC(35.2 mg、純度97%)を得た。
【0086】
トランスレスベラトロールは、Sigma-Aldrich社より入手した。
【0087】
試験例1
正常細胞の増殖停止は、H2AX (DNA損傷修復因子群のDNA損傷部位への集積誘導に必須)レベルの低下に伴って誘導されるため、同時にDNA修復能も低下している。ゲノム不安定性は、この背景で増殖刺激に起因して誘導されることが明確になっている。そこで、酵素分解ローヤルゼリー(酵素処理RJ)及びローヤルゼリー(未処理RJ)のH2AX発現への影響を解析した。
【0088】
MEF (mouse embryo fibroblast)細胞を、25μg/mlの酵素処理RJ又は未処理RJを添加した10% FCS (fetal calf serum)を含むDMEM培地において、37℃, 5% CO2条件下で、3T3法で培養した。0, 3, 6, 12, 24時間培養した細胞を回収し、H2AX抗体(Bethyl Laboratories, Inc.)とβ-actin抗体(AC-74, Sigma-Aldrich)とを用いてウエスタン解析を行った。
【0089】
ウエスタン解析の結果、及びウエスタン解析の結果をImageJ (Rasband, W.S., ImageJ, U. S. National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA, http://imagej.nih.gov/ij/, 1997-2016.)を用いて数値化したグラフを図1に示す。酵素分解RJ及び未処理RJ処理共に、一過的なH2AX発現の誘導を見出した。レーン8をレーン2と比較して、H2AX発現量は2.1倍量であった。この結果は、酵素分解RJは未処理RJと比較しH2AXの一過的な発現誘導能が2.1倍量あることを示している。
【0090】
試験例2
試験例1と同様の方法を用いて、メリンジョ及びトランスレスベラトロールのH2AX発現への影響を解析した。なお、今回は0.26, 0.52, 1.0, 2.1w/v%のメリンジョ種子抽出物又はトランスレスベラトロールを培地に添加し、1時間培養した細胞を回収した。
【0091】
ウエスタン解析の結果、及びウエスタン解析の結果を数値化したグラフを図2に示す。その結果、メリンジョ及びトランスレスベラトロール共に、一過的なH2AX発現の誘導を見出した。レーン9をレーン4と比較して、H2AX発現量は2.7倍量であった。この結果は、メリンジョはトランスレスベラトロールと比較しH2AXの一過的な発現誘導能が2.7倍あることを示している。
【0092】
試験例3
試験例1と同様の方法を用いて、トランスレスベラトロール、メリンジョ及びグネチンCのH2AX発現への影響を解析した。なお、今回は2.5μM (0.52μg/ml)のトランスレスベラトロール、0.52μg/mlのメリンジョ種子抽出物、又は2.5μMのグネチンCを培地に添加し、0, 1.5, 3, 6, 12, 24時間培養した細胞を回収した。
【0093】
ウエスタン解析の結果、及びウエスタン解析の結果をImageJ (Rasband, W.S., ImageJ, U. S. National Institutes of Health, Bethesda, Maryland, USA, http://imagej.nih.gov/ij/, 1997-2016.)を用いて数値化したグラフを図3に示す。その結果、レスベラトロール、メリンジョ及びグネチンC共に、一過的なH2AX発現の誘導を見出した。メリンジョ(レーン4)及びグネチンC(レーン4)はトランスレスベラトロール(レーン3)と比較し、H2AXの発現量がそれぞれ1.9倍、1.8倍高かった。この結果は、メリンジョ及びグネチンCはトランスレスベラトロールと比較し、H2AXの一過的な発現誘導能が1.9倍、1.8倍あることを示している。
【0094】
試験例4
メリンジョによる生体でのゲノム安定性増強効果を検証するため、ミスマッチ修復因子を欠損したMsh2-KOマウス{ゲノム不安定性の一つのタイプであるマイクロサテライト不安定性(MSI)を生じるリンチ症候群モデル}を用いて実験を行った。このマウスでは、10ヶ月齢頃から、おおよそ半年程度の間に死に至ることが知られている。
【0095】
結果を図4に示す。H2AXの一過的な発現誘導能があるメリンジョ種子抽出物を0.3質量% (360 mg/kg体重/日)投与した群(■)と通常の餌を与えた群(◆)を比較した結果、通常の餌を食べている群では、20週までに半数以上が死に至るのに対し、メリンジョ種子抽出物を含む餌を食べている群は、この間に死に至るマウスを認めなかった。
【0096】
これは、遺伝子修復機能の低下時に、一過的なH2AX発現の誘導活性をもつ“ゲノム安定性増強剤”により“寿命延伸の効果”が現れることを明確に示している。
【0097】
試験例5
メリンジョの摂取が予防的な効果を発揮するのか検証した。8-12週齢のMsh2-KOマウスに0.03w/v%のメリンジョ種子抽出物を投与した群(36 mg/kg体重/日)、又は対照群として滅菌水を投与したマウスに、発癌剤である臭素酸カリウム(0.02%)を含む水を飲料水として与えた。24週後に、腸管に形成された腫瘍の数をカウントし、メリンジョ群と対照群を比較した。ミスマッチ修復因子を欠損したMsh2-KOマウスはゲノム不安定が生じやすく、化学発がん物質であるBrKO3により容易に消化管に腫瘍が形成される。
【0098】
結果を図5に示す。メリンジョ種子抽出物を投与した群では、明確な発がんレベルを抑制する効果を認めた。このことは、ゲノム不安定性を生じやすい体質でも、メリンジョ種子抽出物を予防的に摂取することで、がんの発症を防ぐことができることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5