(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】冷却散茶機
(51)【国際特許分類】
A23F 3/06 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
A23F3/06 301F
(21)【出願番号】P 2021032358
(22)【出願日】2021-03-02
【審査請求日】2021-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち先導プロジェクト)」、「海外市場の飛躍的拡大を目指す高品質抹茶の低コスト製造技術及びカフェインレス抹茶系統の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591097702
【氏名又は名称】京都府
(73)【特許権者】
【識別番号】502437492
【氏名又は名称】株式会社ヨシダ
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 保三
(72)【発明者】
【氏名】川上 知子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 奈央登
(72)【発明者】
【氏名】村上 宏亮
(72)【発明者】
【氏名】吉田 芳隆
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-174776(JP,A)
【文献】中国実用新案第206897846(CN,U)
【文献】実開昭57-076484(JP,U)
【文献】実開昭56-108486(JP,U)
【文献】特開平07-241165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
碾茶の製造に用いられる冷却散茶機であって、
通気性を有する周壁を備えた、上下方向に延在する筒状の散茶室を複数個、それぞれの下部において連通路を介して直列状に連結して成る散茶室群と、
前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の下部から、該散茶室内に茶葉を吹き上げるための吹き上げ風を前記連通路に供給する下部ブロアーと、
前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の上部
に設けられた上部ブロアーと、
を有
し、
前記上部ブロアーが、前記散茶室内に吹き上げられて該散茶室の上端付近に存在している前記茶葉を該散茶室の下部へと押し戻すための吹き下げ風を、該散茶室の上端部から供給するものである
ことを特徴とする冷却散茶機。
【請求項2】
前記散茶室群を構成する各散茶室の高さが4m以下であることを特徴とする請求項1に記載の冷却散茶機。
【請求項3】
更に、前記吹き下げ風の風向きを調整するダンパー
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却散茶機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、碾茶の製造に用いられる冷却散茶機に関する。
【背景技術】
【0002】
碾茶は、抹茶の原料となるものであり、覆い下栽培を行った生葉に、蒸機で短時間(10~15秒程度)の蒸熱処理を行い、その後、冷却散茶機において茶葉を冷却及び展開した後、乾燥装置(碾茶機)で乾燥させることによって製造される。この碾茶に仕上げ加工を施した上で、挽き臼で粉砕することにより、最終製品の抹茶が得られる。
【0003】
上記碾茶の製造工程で用いられる冷却散茶機には、通気性を有する周壁及び天井によって囲まれた角筒状の散茶室(「かや」ともよばれる)が多段に配列されている(例えば、特許文献1を参照)。上述の蒸機で蒸熱処理された茶葉は、蒸機の出口付近に設けられたブロアー(電動送風機)によって吹き上げられ、一段目の散茶室に導入される。一段目の散茶室に進入した茶葉は、前記ブロアーが送り出す強い風によって該散茶室の天井付近まで上昇した後、自然に下降し、該散茶室の下部に設けられたブロアーによって再び吹き上げられて二段目の散茶室に送られる。このように、冷却散茶機では多段に配列された散茶室内で茶葉を繰り返し吹き上げることによって、該茶葉に付着した蒸し露を除去すると共に、重なり合った茶葉や折れ曲がった茶葉の展開を促進する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-174776号公報
【文献】特開2016-10376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の通り、冷却散茶機には、茶葉の吹き上げを行うための複数の散茶室が設けられている。こうした冷却散茶機において、蒸熱処理後の茶葉の冷却と水分除去を迅速に行い、且つ茶葉を十分に展開させるためには、各散茶室内で茶葉に強い風をあてる必要があり、その結果、ある程度の高さまで茶葉を吹き上げることになる。そのため、従来の冷却散茶機は、各散茶室の高さが5m~6m程度と大型であり、該冷却散茶機を設置する工場は、天井の高さをそれよりも高くする必要があるため、建築コストが高くなるという問題があった。
【0006】
なお、本発明者らの一部は、冷却散茶機の後段に設けられる碾茶機において、複数の遠赤外線ヒータを加熱手段として用いることによって、碾茶の品質向上を図ると共に、碾茶機全体の寸法(高さを含む)を小さくすることを提案している(特許文献2を参照)。しかしながら、碾茶機を小型化しても、その前段に上記のような大型の冷却散茶機を設置すると、結局、設置場所(工場)の天井高さを抑えることができないため、碾茶機の小型化によるメリットを十分に活かすことができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、十分な性能を確保しつつ、散茶室の高さを抑えることのできる冷却散茶機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために成された本発明に係る冷却散茶機は、
通気性を有する周壁を備えた、上下方向に延在する筒状の散茶室を複数個、それぞれの下部において連通路を介して直列状に連結して成る散茶室群と、
前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の下部から、該散茶室内に茶葉を吹き上げるための吹き上げ風を前記連通路に供給する下部ブロアーと、
前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の上部から、該散茶室内に吹き上げられた前記茶葉を吹き下げるための吹き下げ風を供給する上部ブロアーと、
を有することを特徴としている。
【0009】
上記構成を有する本発明に係る冷却散茶機において、前記吹き上げ風によって各散茶室内に吹き上げられた茶葉は、前記吹き下げ風によって吹き下げられて前記連通路に進入し、再び前記吹き上げ風によって吹き上げられて次段の散茶室に送られる。最終段の散茶室内に吹き上げられた茶葉は、該散茶室内で吹き下げられた後、冷却散茶機の後段に設けられた碾茶機へと送られる。このように、本発明に係る冷却散茶機では、各散茶室内で茶葉に風が二度吹き付けられることとなり、茶葉の冷却及び茶葉からの蒸し露の除去、並びに茶葉の展開を効率よく行うことができる。そのため、散茶室の高さを従来よりも低くしても、従来の冷却散茶機と同等又はそれ以上の性能を得ることが可能となる。また、本発明に係る冷却散茶機では、散茶室の上端付近に吹き上げられた茶葉が上部ブロアーによって吹き下げられるため、散茶室の高さを低くしても、下部ブロアーからの風を弱めることなしに、茶葉が散茶室の天井に張り付くのを防ぐことができる。
【0010】
上記本発明に係る冷却散茶機は、前記散茶室群を構成する各散茶室の高さが4m以下であるものとすることができる。
【0011】
このように、各散茶室の高さを従来のものよりも低くすることにより、設置場所(工場)の天井高さを抑えて建築コストを低減することができる。また、このような冷却散茶機を特許文献2に記載のような小型の碾茶機と組み合わせることにより、該冷却散茶機と前記碾茶機を含む碾茶製造ライン全体を小型化することができ、前記小型の碾茶機によるメリットを十分に活かすことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上の通り、本発明によれば、十分な性能を確保しつつ、散茶室の高さを抑えることのできる冷却散茶機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷却散茶機を備えた碾茶製造ラインの一部を示す模式図。
【
図2】上記実施形態におけるダンパー付き吹き出し部の構成を模式的に示した断面図。
【
図3】実施例1における散茶性能の評価結果及び官能評価の結果を示す表であって、(a)は実施例の冷却散茶機における上部ブロアーの送風量を「高さ5m相当」としたときの結果を示し、(b)は該上部ブロアーの送風量を高さ「高さ7m相当」としたときの結果を示している。
【
図4】実施例2における茶葉の展開度合いの評価結果を示す表。
【
図6】実施例3におけるダンパーの羽根板の向きを説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態に係る冷却散茶機20を備えた碾茶製造ラインの一部を模式的に示した図である。なお、図中の太線の矢印は、該碾茶製造ラインにおける茶葉の流れを示している。以下では、この碾茶製造ラインの上流側(すなわち
図1の左側)を「前」、下流側(すなわち
図1の右側)を「後ろ」として前後方向を定義する。
【0015】
この碾茶製造ラインにおいて、冷却散茶機20の前段には生葉を蒸熱処理するための蒸機10が配設され、冷却散茶機20の後段には、茶葉を加熱して乾燥させるための碾茶機50が配設されている。なお、碾茶機50としては、例えば、上述の特許文献2に記載された碾茶機を用いることができる。
【0016】
冷却散茶機20は、前後方向に並べられた4つの散茶室21A、21B、21C、21Dを備えている。これらの散茶室21A、21B、21C、21D、及びそれに付随する構成要素の構成は共通であるため、以下では各散茶室21A、21B、21C、21Dの各々に付随する各構成要素(すなわち、後述する吹き上げ部40、吹き下げ部30、及びそれらの構成要素)に、散茶室間で共通の符号を付して説明を行う。また、
図1では、簡略化のため、散茶室21A、21B、21C、21Dの各々に付随する構成要素のうち、一段目の散茶室21Aに関するものにのみ符号を付している。更に、以下では、これらの散茶室21A、21B、21C、21Dを互いに区別する必要がない場合には、符号の末尾への「A」、「B」、「C」、「D」の付与を省略する。
【0017】
各散茶室21は、高さ3.5m、幅1m、奥行き1m程度の角筒状の構造体であり、その周壁22は天然繊維製又は合成繊維製のネットで構成されている。前記ネットは、網目が2mm程度であり、風は通すが茶葉の茎が刺さらないものとなっている。各散茶室21は、茶葉を該散茶室21の内部に吹き上げるための吹き上げ部40と、散茶室21内に吹き上げられた茶葉を吹き下げるための吹き下げ部30とを備えている。
【0018】
吹き上げ部40は、ホッパー41と、下部ブロアー42と、送風管43とを備えており、ホッパー41に収容された茶葉は、下部ブロアー42から供給される風に乗って送風管43内を通過し、該送風管43の先端に接続された散茶室21の内部に吹き上げられる。なお、各散茶室21に設けられたホッパー41及び送風管43が、本発明における「連通路」に相当する。
【0019】
吹き下げ部30は、上部ブロアー31と、該上部ブロアー31から吹き出される風を散茶室21の上部に供給するための吹き出し部32を備えている。なお、下部ブロアー42によって散茶室21内に吹き上げられた茶葉が、散茶室21の上端前側の領域に滞留するのを防ぐため、上部ブロアー31は、その吹き出し口が上面視で散茶室21の中央よりも前方に位置するよう配設することが望ましい(
図2参照)。吹き出し部32は、
図2に示すように、紙面方向に延在する互いに平行な複数枚の羽根板35を有するダンパー33を備えている。これらの羽根板35は、それぞれ軸36周りに回動可能に構成されており、羽根板35の角度を変更することで上部ブロアー31から散茶室21に吹き込む風の向きを調節することができる。吹き出し部32の下端面(すなわち散茶室21と吹き出し部32との境界部)には、散茶室21からの茶葉の進入を防ぐための金網34が取り付けられている。なお、上部ブロアー31及び下部ブロアー42の出力は、図示しないインバータによって調節される。
【0020】
上述の碾茶製造ラインを用いて碾茶を製造する際には、まず、原料となる茶葉(生葉)が、蒸機10の入口側に設けられたホッパー(入口側ホッパー11)に投入される。投入された茶葉は、蒸機本体12の内部で蒸熱処理された後、蒸機10の出口側から排出され、冷却散茶機20の一段目の散茶室21Aに付設されたホッパー41内に落下する。該ホッパー41に落下した蒸熱処理後の茶葉(蒸葉)は、該ホッパー41の下部に設けられた下部ブロアー42からの風によって吹き流され、送風管43を介して一段目の散茶室21Aに導入される。
【0021】
一段目の散茶室21Aに導入された茶葉は、前記下部ブロアー41からの風に乗って散茶室21A内を上昇して散茶室21Aの上端付近に到達し、そこで、散茶室21Aに付設された上部ブロアー31からの風によって吹き下げられて散茶室21Aの下方に配置されたホッパー41に落下する。
【0022】
なお、各散茶室21の吹き下げ部30のダンパー33に設けられた複数枚の羽根板35の少なくとも一部は、予め、後方に向けて傾斜させておくことが望ましい。これにより、茶葉を斜め後方に吹き下ろして効率よく前記ホッパー41に落下させることができる。但し、吹き下ろされた茶葉が散茶室21の後ろ側の周壁22に衝突しないよう、前記複数枚の羽根板35のうち、後ろ側に位置する1枚以上の羽根板は傾斜させず、その下端を真下に向けた状態としておくことが望ましい(
図6参照)。
【0023】
以上によって一段目の散茶室21Aの下方に位置するホッパー41に落下した茶葉は、該ホッパー41に接続された下部ブロアー42からの風によって二段目の散茶室21Bへと送られ、該散茶室21Bの上端付近まで吹き上げられた後に、該散茶室21Bに設けられた上部ブロアー31からの風によって吹き下げられて、散茶室21Bの下方に配置されたホッパー41に落下する。同様にして、三段目の散茶室21C及び四段目の散茶室21Dでも茶葉の吹き上げと吹き下げが行われ、四段目の散茶室21Dの下部に配置されたホッパー41に落下した茶葉は、該ホッパー41の下部に設けられた下部ブロアー42から吹き出す風に乗って、冷却散茶機20と碾茶機50を繋ぐ送風管51を通過し、碾茶機50に設けられた散茶投入室52へと進入する。
【0024】
散茶投入室52は、上述の散茶室21と同様のネットで構成された周壁と、該ネットで構成された天井とを有しており、散茶投入室52内に吹き上げられた茶葉は、自然に降下して散茶投入室52の下方に設けられたコンベア53の上に落下する。散茶投入室52の後段には茶葉を加熱して乾燥させるための乾燥室54が設けられており、コンベア53上に落下した茶葉は、コンベア53に乗って乾燥室54に運ばれて乾燥される。
【0025】
以上の通り、上記本実施形態に係る冷却散茶機20では、茶葉が各散茶室21内で風に2回さらされるため、茶葉の冷却及び茶葉からの蒸し露の除去、並びに茶葉の展開を効率よく行うことができる。そのため、散茶室21の高さを従来よりも低くしても、従来の冷却散茶機と同等又はそれ以上の性能を実現することが可能である。また、本実施形態に係る冷却散茶機20では、散茶室21の上端付近に吹き上げられた茶葉が上部ブロアー31からの風によって吹き下げられるため、散茶室21の高さを低くしても、下部ブロアー42から吹き上げる風を弱くすることなく、茶葉が散茶室21の天井(すなわち金網34)に張り付くのを防ぐことができる。なお、従来の冷却散茶機では散茶室の高さが5~6mであったところ、上記実施形態に係る冷却散茶機では各散茶室21の高さを3.5m程度としたが、本発明における各散茶室の高さはこれに限定されるものではなく、例えば、3m~4m程度としてもよい。
【0026】
このように、本実施形態に係る冷却散茶機20によれば、散茶性能を低下させることなしに、従来よりも散茶室22の高さを抑えることができ、これにより設置場所(工場)の天井高さを抑えて建築コストを低減することができる。更に、冷却散茶機20の後段に設けられる碾茶機50として、特許文献2に記載のような小型の碾茶機を用いることにより、冷却散茶機20と碾茶機50を含む碾茶製造ライン全体を小型化することができ、前記小型の碾茶機によるメリットを十分に活かすことができる。
【0027】
以上、本発明を実施するための形態について具体例を挙げて説明を行ったが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。例えば、上記実施形態では上部ブロアー31と各散茶室21の間にダンパー33を設け、上部ブロアー31からの風の向きを変更できる構成としたが、このようなダンパー33は必ずしも設けなくてもよい。また、散茶室21の数は4個に限定されるものではなく、2~3個又は5個以上としてもよく、複数個が一体型となったものでもよい。更に、散茶室21の周壁22を、繊維製のネットに代えて金網で構成するようにしてもよい。あるいは、散茶室21の天井部分に、上述の金網34に代えて、繊維製のネットを設けるようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施形態では、各散茶室の高さを従来よりも低くする例を示したが、本発明における各散茶室の高さは、従来と同程度(例えば、5m~6m程度)としてもよい。その場合でも、上部ブロアーから吹き下げられる風によって、散茶室の天井への茶葉の張り付きを防ぐことができるため、下部ブロアーから吹き上げる風を従来よりも強くして、茶葉の冷却及び茶葉からの蒸し露の除去、並びに茶葉の展開をより効率よく行うことが可能となる。
【実施例1】
【0029】
実施例として、高さ3.5mの散茶室(かや)を有し、下部ブロアーと上部ブロアーによる送風を行う冷却散茶機による散茶処理を行った。なお、上部ブロアーによる送風は、上述のようなダンパー付きの吹き出し部を介さず、該ブロアーの送風口に筒状のダクトを繋ぎ、該ダクトを散茶室の天井を構成するネットの上部に接近させることによって行った。また、比較例として、高さ3.5mの散茶室を有し、下部ブロアーのみによる送風を行う冷却散茶機による散茶処理を行った。また更に、従来例として、高さ5mの散茶室を有し、下部ブロアーのみによる送風を行う冷却散茶機による散茶処理を行った。各冷却散茶機における散茶室の段数はいずれも4段とした(以下、実施例2及び実施例3において同じ)。なお、いずれの冷却散茶機においても、下部ブロアーによる送風量は、高さ5mの散茶室を用いた従来の散茶処理において最も良好な散茶性能が得られる風量(以下、この風量を「高さ5m相当の風量」とよぶ)とした。また、実施例の冷却散茶機における上部ブロアーの送風量は、前記下部ブロアーによる送風量と同等(すなわち高さ5m相当の風量)とした。
【0030】
上記の各冷却散茶機による散茶処理後の茶葉について、その展開度合い及び含水率の評価を行った。また、該散茶処理後の茶葉を碾茶機で乾燥させて得られた茶葉(すなわち碾茶)についての官能評価を行った。上記展開度合い及び含水率の評価、並びに官能評価の結果を
図3(a)に示す。なお、
図3(a)の「展開葉(%)」の列に記載の符号a及びbは、符号aが付された数値と符号bが付された数値との間で有意差があったこと(T検定においてp<0.01)を意味している。含水率は、散茶処理後の茶葉を碾茶機で乾燥させ、乾燥前後の茶葉の重量差を「水分重量」とし、乾燥後の茶葉の重量を「乾物重量」として、「(水分重量÷乾物重量)×100」で算出した。また、実験に用いた碾茶機は三段のコンベアを備えており、該碾茶機に導入された茶葉は、下段のコンベア→上段のコンベア→中段のコンベアの順に搬送されつつ乾燥されるようになっている。
図3(a)の「下段入口」、「下段出口」、「上段出口」、及び「中段出口」は、含水率の算出に用いた乾燥後の茶葉の採取位置を示している(
図3(b)において同じ)。官能評価については、6人のパネリスト(いずれも茶葉評価の熟練者)が各項目を20点満点で評価し、その平均値を最終的なスコアとした(実施例2において同じ)。なお、
図3(a)の表に示されている「水色」とは、茶葉に湯を注いで一定時間静置した後、茶殻を除いた状態における湯の色調を意味し、「から色」とは、湯を注いだ直後の茶葉の色調や色の均一性を意味している。
図3(a)に示すように、比較例の冷却散茶機では、散茶性能(すなわち茶葉の展開能力と蒸し露の除去能力)、及び官能評価結果の双方が、従来例の冷却散茶機よりも低下していたが、実施例の冷却散茶機では、散茶性能は従来例と同等であり、官能評価結果については従来例よりも優れていた。
【0031】
更に、上記実施例の冷却散茶機における上部ブロアーの送風量を、高さ7m相当の風量に変更して散茶処理を行い、上記従来例の冷却散茶機による散茶処理結果との比較を行った。ここで、「高さ7m相当の風量」とは、高さ7mの散茶室を用いた従来の散茶処理において最も良好な散茶性能が得られる下部ブロアーの送風量と同等の送風量を意味する(以下同じ)。なお、下部ブロアーの送風量は、実施例の冷却散茶機及び従来例の冷却散茶機の双方において高さ5m相当の風量とした。
【0032】
図3(b)に示すように、上部ブロアーを高さ7m相当の送風量とした実施例の冷却散茶機では、散茶性能及び官能評価結果の双方が、従来例の冷却散茶機よりも優れていた。なお、
図3(b)では、実施例と従来例の双方における茶葉の展開度合いが、
図3(a)で示した結果よりも低下しているが、これは、原料として使用した茶葉が異なっていたためと考えられる。
【実施例2】
【0033】
次に、実施例として、高さ3.5mの散茶室を有し、下部ブロアーと上部ブロアーによる送風を行う冷却散茶機を使用して散茶処理を行った。なお、本実施例における冷却散茶機としては、散茶室の上部に、ダクトを介して上部ブロアーを取り付けたものを使用した。また、従来例として、高さ5mの散茶室を有し、下部ブロアーのみによる送風(送風量:高さ5m相当)を行う冷却散茶機を使用して散茶処理を行った。なお、実施例及び従来例のいずれにおいても、散茶処理の対象とする蒸葉としては、手摘みの生葉(新芽が付いている若い枝条)を蒸機で蒸熱処理したものを使用した(実施例3において同じ)。
【0034】
上記各冷却散茶機による散茶処理後の茶葉の展開度合いを評価した結果を
図4に、当該茶葉を碾茶機で乾燥させて得られた碾茶を官能評価した結果を
図5に示す。
図4中における、「上げ」及び「下げ」は、それぞれ「下部ブロアーによる送風」及び「上部ブロアーによる送風」を意味し、「対照区」は「従来例」を意味している(後述の
図5及び
図7において同じ)。なお、展開度合いの評価においては、散茶処理後の各枝条の上から第1位~第6位の葉を評価担当者が目視して、他の葉と重なっていたものを「重なり葉」、折り畳まれた状態のものを「折れ葉」、折れも重なりもしていない葉を「展開良し」と分類して葉位別に集計した(実施例3において同じ)。
【0035】
図4に示すように、実施例の冷却散茶機を使用し、上部ブロアー及び下部ブロアーの双方を高さ5m相当の風量とした区と、同じ冷却散茶機を使用し、上部ブロアー及び下部ブロアーをいずれも高さ7m相当の風量とした区において、茶葉の展開度合いが従来例の冷却散茶機よりも有意に上昇していた。更に、実施例の冷却散茶機を使用し、上部ブロアーを7m相当の風量とし、下部ブロアーを5m相当の風量とした区においては、従来例と同程度の展開度合いが達成された。また、官能評価においては、
図5に示すように、実施例の冷却散茶機を使用し、上部ブロアー及び下部ブロアーの双方を高さ5m相当の風量とした区において、従来例と同等の結果が得られた。以上のことから、散茶室を従来よりも低くした場合でも、散茶室の上部からの茶葉の吹き下げを行うことによって展開がよくなり、従来の冷却散茶機を用いた場合と同等の品質の茶葉が得られることが確認された。
【実施例3】
【0036】
続いて、実施例として、高さ3.5mの散茶室を有し、下部ブロアーによる送風(送風量:高さ5m相当)と上部ブロアーによる送風を行う冷却散茶機であって、上部ブロアーによる風向きを変更可能であるものを使用して散茶処理を行った。なお、本実施例における上部ブロアーによる送風は、該ブロアーの最大出力(具体的には、インバータ制御による運転周波数が60Hz)と、最大出力の2/3(前記周波数が40Hz)とで行った。なお、本実施例の冷却散茶機では、
図1に示したものと同様に、散茶室21の上部にダンパー33付き吹き出し部32を介して上部ブロアー31が接続されており、ダンパー33に設けられた7枚の羽根板35の角度を変えることによって上部ブロアー31から散茶室21へと吹き込む風の方向を変更できるよう構成されているものとした。また、上記散茶処理においては、
図1に示すように全ての羽根板35の下端を真下に向けた状態と、
図6に示すように7枚の羽根板35のうちの前から1枚目~4枚目までの羽根板35(以下、「前側の羽根板」とよぶ)の下端を斜め後方に向けた状態とで行った。なお、後者については、前側の羽根板の傾斜角度θを約10°にした場合と、前側の羽根板の角度θを約20°とした場合との2つのパターンで散茶処理を行った。なお、前記2つのパターンのいずれにおいても、残りの羽根板(すなわち前から5枚目~7枚目の羽根板35)の下端は真下に向けた状態とした。更に、従来例として、高さ5mの散茶室を有し、下部ブロアーのみによる送風(送風量:高さ5m相当)を行う冷却散茶機による散茶処理を行った。
【0037】
上記各散茶処理後の茶葉の展開度合いを評価した結果を
図7に示す。なお、同図において「ダンパー0」は、全ての羽根板35の下端を真下に向けた状態を意味し、「ダンパー半分」及び「ダンパー全部」は、それぞれ前記前側の羽根板の傾斜角度θを約10°にした状態と、約20°にした状態を意味している。同図に示すように、実施例の冷却散茶機を使用したものでは、いずれの区においても、従来例の冷却散茶機を用いた区よりも茶葉の展開度合いが優れており、特に、上部ブロアーの運転周波数を60Hzとし、前側の羽根板の角度を約10°とした区では、茶葉の展開度合いが従来例の冷却散茶機よりも有意に上昇していた。
【符号の説明】
【0038】
10…蒸機
11…入口側ホッパー
12…蒸機本体
13…出口側ホッパー
14…蒸葉供給用ブロアー
20…冷却散茶機
21A、21B、21C、21D…散茶室
22…周壁
30…吹き下げ部
31…上部ブロアー
32…吹き出し部
33…ダンパー
34…金網
35…羽根板
40…吹き上げ部
41…ホッパー
42…下部ブロアー
50…碾茶機
51…送風管
52…散茶投入室
53…コンベア
54…乾燥室
【要約】
【課題】冷却散茶機において、十分な性能を確保しつつ、散茶室の高さを低減する。
【解決手段】通気性を有する周壁22を備えた、上下方向に延在する筒状の散茶室21を複数個、それぞれの下部において連通路41、43を介して直列状に連結して成る散茶室群を有する冷却散茶機において、前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の下部から、該散茶室内に茶葉を吹き上げるための吹き上げ風を前記連通路に供給する下部ブロアー42と、前記散茶室群を構成する前記散茶室の各々の上部から、該散茶室内に吹き上げられた前記茶葉を吹き下げるための吹き下げ風を供給する上部ブロアー31とを設ける。
【選択図】
図1