(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】毛髪処理方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/65 20060101AFI20220804BHJP
A61K 8/22 20060101ALI20220804BHJP
A61Q 5/10 20060101ALI20220804BHJP
A61Q 5/08 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A61K8/65
A61K8/22
A61Q5/10
A61Q5/08
(21)【出願番号】P 2018004916
(22)【出願日】2018-01-16
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】P 2017236316
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303028376
【氏名又は名称】株式会社 リトル・サイエンティスト
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 恭稔
(72)【発明者】
【氏名】坪井 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】柴橋 知明
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124983(JP,A)
【文献】特開2017-014175(JP,A)
【文献】特開2002-029942(JP,A)
【文献】特開2000-256147(JP,A)
【文献】特開2017-119630(JP,A)
【文献】特開2015-137261(JP,A)
【文献】特開2015-137260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I)ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物で毛髪を処理する工程;
次いで
(II)少なくとも1種以上の酸化剤を含む組成物で毛髪を処理する工程;
を含み、
前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物は、ケラチンタンパク質中のジスルフィド結合(-S-S-)の一部又は全てが、アミノエチルジスルフィド基(-S-S-CH
2-CHR-NH
2;式中、RはH、COOH、OH、NH
2又はCH
3である。)に変換されたケラチン誘導体又はケラチン加水分解物である、ヘアカラー又はヘアブリーチ処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の(I)及び(II)の間に、少なくとも1種以上の還元剤を含む組成物で毛髪を処理する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応を伴う毛髪処理に関し、更に詳しくは、毛髪のパーマネントウェーブ処理又は縮毛矯正(ストレート)処理のウェーブ形成力又はストレート形成力に優れ、あるいは、毛髪のヘアカラー又はヘアブリーチ処理の染色性又は脱色性に優れ、毛髪損傷を抑制又は改善することが可能な毛髪処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪の主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質で構成されている。ケラチンはジスルフィド結合(-S-S-)を多く形成しており、これにより毛髪は強固な性質を持つ。
【0003】
毛髪内のジスルフィド結合は、内部で三次元的架橋しており、物理的な性質や構造安定性に大きく寄与しているだけでなく、毛髪のパーマネントウェーブ及び縮毛矯正(ストレート)、又はヘアカラー及びヘアブリーチにおいても重要な役割を担っている。
【0004】
日常生活の中で、毛髪は様々なダメージを受けている。例えば、ブラッシングの摩擦又はドライヤー等の熱による物理的ダメージ及び紫外線や海水等による環境的ダメージ等が挙げられる。近年ではお洒落を楽しむ為に、パーマネントウェーブ・縮毛矯正(ストレート)又はヘアカラー・ヘアブリーチ等の化学的処理の頻度が増加し、薬剤による化学的ダメージが深刻な毛髪ダメージの主な要因となっている。これらの化学的処理により毛髪内部のジスルフィド結合が開裂してしまい、毛髪内部のジスルフィド結合の数が減少する。この結果、パーマネントウェーブや縮毛矯正(ストレート)処理の効果が低下してしまったり、ヘアカラー・ヘアブリーチ処理を満足に施術できなかったりする問題点があった。
【0005】
この問題点を改善する手法として、卵白加水分解物を含有する処理剤でパーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)処理を実施する毛髪処理方法が提案されている。これにより、毛髪内部のジスルフィド結合を増やすことで毛髪を強化すると共に、ウェーブ形成力やストレート形成力を向上することができる(特許文献1)。
【0006】
毛髪の物理学的特性を分析する際、強度と伸張率を測定し、総合的に判断することが一般的である。伸張率を測定することで、毛髪の「しなやかさ」及び「弾力性」を判断することができる。健常な毛髪である場合、毛髪強度は約1N、伸張率は約50%である(非特許文献1)。
【0007】
また、この問題点を改善する別の手法として、ヘアカラー前処理剤の2剤式毛髪処理剤が提案されている。これにより、染色性・均染性を向上し、堅牢性及び質感の良いヘアカラー施術を提供することができる。(特許文献2)。
【0008】
毛髪に対するヘアカラーの酸化染色処理において、毛髪繊維中のジスルフィド結合は重要な役割を担っていることが明らかにされている(非特許文献2)。特許文献2で利用されているケラチン誘導体に関してもジスルフィド結合を含んでおり、非特許文献2のような作用で前記のような効果を発揮していることが推察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-98183号公報
【文献】特開2008-133227号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】古谷照雄、「毛髪の引張強度と伸張率に関する研究」、太成学院大学紀要Vol.9(2007)p.151-156
【文献】吉勝友美、「羊毛繊維の酸化染料染色におけるジスルフィド結合の役割」、SEN’I GAKKAISHI(報文) Vol.64,No.9(2008)p.60-67
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1の方法で毛髪を処理した場合、健常毛の強度を大きく超える強度になる場合がある。また、毛髪の伸張率に関する記載がない。ヒト本来の健常な毛髪とは、しなやかで弾力性があり、適度な強度を有するのが好ましい。
【0012】
特許文献2にはヘアカラー後の毛髪の強度や伸張率に関する記載がない。また、2剤式であることから、より簡便な方法で良好な染色性を達成できる方法の開発が求められている。
【0013】
したがって、本発明の目的は、毛髪のパーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)処理において、ウェーブ形成力又はストレート形成力を向上し、あるいは、毛髪のヘアカラー又はヘアブリーチ処理において、優れた染色性又は脱色性を提供し、化学処理による毛髪損傷を抑制又は改善し、健常な毛髪の物性にすることが可能な毛髪処理法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の毛髪処理方法は、(I)ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物で毛髪を処理する工程及び(II)少なくとも1種以上の酸化剤を含む組成物で毛髪を処理する工程を含むことを特徴とする。必要に応じて、前記2つの処理の間に、少なくとも1種の還元剤を含有する組成物で毛髪を処理してもよい。
【0015】
本発明の毛髪処理方法に使用するケラチン誘導体又はケラチン加水分解物は、ケラチンタンパク質中のジスルフィド結合の一部又はすべてが、アミノエチルジスルフィド基(-S-S-CH2-CHR-NH2;式中、RはH、COOH、OH、NH2又はCH3である。)に変換されたケラチン誘導体又はケラチン加水分解物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の毛髪処理方法は、ジスルフィド結合を有するケラチン誘導体又はケラチン加水分解物で処理をすることから、パーマネントウェーブ処理のウェーブ形成力、又は縮毛矯正(ストレート)のストレート形成力を向上することができる。また、ヘアカラー又はヘアブリーチの染色性又は脱色性を向上することができる。更に、前記いずれの化学処理による毛髪損傷を抑制又は改善し、健常な毛髪の物性にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のケラチン誘導体又はケラチン加水分解物は、ジスルフィド結合を有する限り、その由来及び構造に限定はない。例えば、ケラチンを含むヒト、及び鳥獣の毛(人毛、羊毛、羽毛など)、角、及び爪が挙げられる。
【0018】
前記ジスルフィド結合は、1つのタンパク質分子内で形成されていてもよく、あるいは2つ以上のタンパク質分子間で形成されていてもよい。
【0019】
本発明では、前記ジスルフィド結合の一部又は全てが、アミノエチルジスルフィド基(-S-S-CH2-CHR-NH2)に変換されている。前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物中のジスルフィド結合の一部がアミノエチルジスルフィド基に変換されていてもよい。よって、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物には、未変換のジスルフィド結合が残存していてもよく、あるいはジスルフィド結合が開裂して形成されたチオール基(-SH)を含んでいてもよい。
【0020】
前記変換の具体的方法には特に限定はない。該変換は通常、ジスルフィド結合とアミノエタンチオール類(H2N-CHR-CH2-SH)とを反応させることにより行われる。該変換は、ジスルフィド結合から実施してもよく、あるいは、ジスルフィド結合を還元剤によりチオール基に還元した後、該チオール基とアミノエタンチオール類とを反応させることにより実施してもよい。この場合、前記還元剤には特に限定はない。該還元剤としては、公知の還元剤、例えばチオグリコール酸又はその塩等のメルカプトアルキルカルボン酸及びその塩を用いることができる。
【0021】
アミノエタンチオール類の量その他反応条件によっては、ジスルフィド結合のうち、一方がアミノエタンチオール類により変換され、他方がチオール基に変換する場合(下記式(1))と、両方がアミノエタンチオール類により変換される場合(下記式(2))がある。本発明における「変換」には、このいずれも含まれる。尚、下記式(1)及び(2)中、「Cys」は、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物に含まれるシステイン残基を意味する。
【0022】
(式1)
Cys-S-S-Csy + H2N-CHR-CH2-SH
→ Cys-S-S-CH2-CHR-NH2 + Cys-SH (1)
(式2)
Cys-S-S-Csy + H2N-CHR-CH2-SH
→2 Csy-S-S-CH2-CHR-NH2 (2)
【0023】
前記アミノエチルジスルフィド基及び前記アミノエタンチオール類において、式中の「R」はH、COOH、OH、NH2又はCH3である。前記RがH又はCOOHであると、毛髪への接着性及び可溶性の点で好ましい。これにより、ダメージを受けた毛髪に対して、特に接着性に優れる。また、前記アミノエタンチオール類は、H2N-CHR-CH2-SHの塩でもよい。
【0024】
前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物は、必要に応じて他の処理を行ってもよい。例えば、分子量及び分子サイズを低下させるために、該ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物について、酵素、酸又はアルカリにより加水分解を行ってもよい。また、該ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を得た後、精製、ろ過、遠心分離等を行うことにより、他の成分又は不溶分を除去してもよい。
【0025】
本発明の毛髪処理方法における、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物の前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物の配合量は、有効量である限り特に限定はない。前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物の配合量は、通常、0.01~10質量%が好ましい。
【0026】
本発明の毛髪処理方法における、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物は、本発明の作用効果を阻害しない限り、必要に応じて、該ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物以外の他の成分を含んでいてもよい。該他の成分として、従来から化粧料に添加含有されている公知成分、あるいは他の機能性成分が挙げられる。該他の成分として具体的には、例えば、油脂、炭化水素油、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル油、シリコーン油、界面活性剤(ノニオン性、アニオン性、カチオン性、両性)、保湿剤、水溶性高分子、皮膜剤、紫外線吸収剤、金属イオン封鎖剤、低級アルコール、多価アルコール、糖類、アミノ酸、pH調整剤、ビタミン、酸化防止剤、色素、防腐剤、及び香料が挙げられる。
【0027】
本発明の毛髪処理方法における前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物の剤形及び使用形態に特に限定はない。前記組成物は、例えば、ローション状、クリーム状、ゲル状、フォーム状、霧状で使用することができる。
【0028】
本発明の毛髪処理方法における前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物として、具体的には、例えば、シャンプー、リンス、トリートメント、コンディショナー、スタイリング剤が挙げられる。
【0029】
本発明の毛髪処理方法における前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物を用いた処理方法は、パーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)のウェーブ形成力又はストレート形成力、あるいは、ヘアカラー又はヘアブリーチの染色性又は脱色性の観点から有効な方法である限り、特に限定はない。前記処理方法は、例えば、洗髪処理、トリートメント処理、スタイリング処理が挙げられる。単独で処理してもよく、併用して処理してもよい。また、本発明における各工程の順序は、上記の観点から有効である限り特に限定はない。例えば、前記(I)の工程の後、前記(II)の工程を行ってもよく、また、前記(I)及び(II)の工程を同時に行ってもよい。
【0030】
本発明の毛髪処理方法における前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物を用いた処理方法の回数は、パーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)のウェーブ形成力又はストレート形成力、あるいは、ヘアカラー又はヘアブリーチの染色性又は脱色性の観点から有効な方法である限り、特に限定はない。1回の処理でもよく、2回以上の処理でもよい。パーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)、あるいは、ヘアカラー又はヘアブリーチ処理の前処理としてヘアサロン等の施術メニューの中で使用しても良い。さらに、ホームケアとして前記組成物を使用している毛髪に対して、パーマネントウェーブ又は縮毛矯正(ストレート)、あるいは、ヘアカラー又はヘアブリーチ処理をしても良い。
【0031】
本発明の少なくとも1種以上の酸化剤を含有する組成物は、パーマネントウェーブ剤又はカーリング剤又は、縮毛矯正剤、ストレートパーマ剤、あるいは、ヘアカラー剤又はヘアブリーチ剤の第2剤のことである。
【0032】
前記パーマネントウェーブ剤又はカーリング剤、又は縮毛矯正剤又はストレートパーマ剤の第2剤に含まれる酸化剤は、チオール基間でジスルフィド結合を形成することができる。これにより、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物と毛髪に含まれるケラチンタンパク質を、ジスルフィド結合を介して結合することができる。毛髪内部のジスルフィド結合を増やすことで、ウェーブ形成力やストレート形成力を向上するとともに、毛髪損傷抑を抑制又は改善することができる。前記酸化剤は、チオール基間でジスルフィド結合を形成することができる限り、特に限定はない。該酸化剤として具体的には、例えば、過酸化水素、臭素酸及びその塩が挙げられる。前記酸化剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
前記ヘアカラー剤又はヘアブリーチの第2剤に含まれる酸化剤は、毛髪内部のメラニン色素を分解するとともに、酸化染料の酸化重合を促進することができる。しかし、それと同時に毛髪内部のジスルフィド結合を切断する。これにより、毛髪内の遷移金属イオンの触媒能を維持し、安定した染色性や脱色性を付与している(非特許文献2)。前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物が毛髪内部に存在すると、該ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物のジスルフィド結合が前記酸化剤によって切断されることで、染色性や脱色性を向上することができる。さらに、毛髪のジスルフィド結合に代わり、該ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物のジスルフィド結合が切断されることで、ヘアカラー又はヘアブリーチ施術による毛髪損傷を抑制することができる。前記酸化剤として具体的に、例えば、過酸化水素が挙げられる。
【0034】
本発明の少なくとも1種以上の還元剤を含有する組成物は、パーマネントウェーブ剤又はカーリング剤又は、縮毛矯正剤又はストレートパーマ剤の第1剤のことである。
【0035】
前記還元剤は、前記ケラチン誘導体又はケラチン加水分解物、及び毛髪に含まれるジスルフィド結合を還元し、チオール基に変換することができる。該還元剤は、前記変換を実現できる限り、その種類に特に限定はない。該還元剤として具体的に、例えば、チオグリコール酸、チオ乳酸、亜硫酸、システアミン、システイン、及びスピロノラクトン並びにこれらの還元剤の塩又はその誘導体(例えば、エステル)を用いることができる。該還元剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記少なくとも1種以上の還元剤を含む組成物の前記還元剤の含有量は、パーマネントウェーブ剤又はカーリング剤、又は縮毛矯正処理剤として有効量である限り特に限定はない。該還元剤の配合量は、通常、0.01%~12質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限定されない。本発明の実施形態は、目的及び用途に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。また、実施例における結果に対する考察は、全て発明者の見解に過ぎず、何ら本発明を定義付ける趣旨の説明ではないことを付言する。
【0038】
<カーリング剤処理に対する効果>
実施例1、2及び比較例1~5
【0039】
健常毛又はハイダメージ毛に対してケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物による処理を行った後、カーリング剤処理を行った毛髪を用いて、キルビー法によるウェーブ効率、及び毛髪引張試験を行った。
【0040】
(i)毛髪処理組成物の調整
常法に従い、表1及び2に示す組成物を調整した。表1及び2における各成分を示す欄中の数値は当該欄の成分の含有量を示し、その単位は質量%である。
【0041】
【0042】
【0043】
(ii)評価用毛束の作成
(ii-1)健常毛
キューティクルの向きの揃った毛髪(株式会社スタッフス社製「原毛30cm 人毛 黒(キューティクル毛)」)を20本に束ね20cmに調整した。その毛束を1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いで水洗した後、乾燥させた。この毛束を評価用毛束(1)(健常毛)とした。
(ii-2)ハイダメージ毛
キューティクルの向きの揃った毛髪(株式会社スタッフス社製「原毛30cm 人毛 黒(キューティクル毛)」)に対し、ブリーチ剤1剤(ホーユー株式会社製「レセ パウダーブリーチ EX」)及びブリーチ2剤(株式会社ミルボン社製「オルディーブ アディクシー オキシダン 6%」)を1対2.5(質量比)の比率で混合し、塗布後25℃で30分間放置後、しっかり水洗した。このブリーチ処理を2回行った。この毛髪を20本に束ね20cmに調整した。その毛束を1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いで水洗した後、乾燥させた。この毛束を評価用毛束(2)(ハイダメージ毛)とした。
【0044】
(iii)ケラチン誘導体又はケラチン加水分解を含有する組成物の使用
前記評価用毛束(1)及び(2)を、処方例1~6の組成物10質量%水溶液に5分間浸漬した。次いで水洗した後、水気をタオルで拭き取った。
【0045】
(iv)カーリング剤処理
前記(iii)の方法で処理した毛束をキルビー法用ロッドに常法の通り一定条件で巻き、カーリング剤1剤(株式会社リトル・サイエンティスト社製「ソニルCA-H」)に浸漬し、25℃で10分間放置した。その後水洗し、カーリング剤2剤(株式会社リトル・サイエンティスト社製「ソニルBIIローション」)に浸漬し、25℃で10分間放置した。その後、よく水洗した。
【0046】
(A)キルビー法によるウェーブ効率
(iv)の毛束をキルビー法用ロッドから外し、グラフ用紙の上に置き、テープで毛束上部を固定した。各毛束に対し、以下のa~cを測定した。それらの値をキルビー法の公式に当てはめ、ウェーブ効率(%)を評価した(n=10)。
a:止め棒の1番目から5番目の長さ(mm)
b:1番目から5番目までのカール頂点の長さ(mm)
c:bを直線にした時の長さ(mm)
ウェーブ効率(%)=100[1-{(b-a)/(c-a)}]
【0047】
(B)毛髪引張試験
キルビー法によるウェーブ効率試験を行った後、室温で乾燥させた毛髪に対して、万能引張試験機(株式会社島津製作所製「AG-20k NXDplus」)を用いて、毛髪1本当りの引張切断強度(N)及び伸張率(%)を50mm/minの速度で測定した(n=10)。この結果を毛髪損傷の指標として評価した。
【0048】
以上の評価試験を健常毛に対しても実施した。前記評価用毛束(1)に対し、前記(A)の試験を実施した。また、前記評価用毛束(1)に対し、前記(B)の試験を実施した。この結果を健常な毛髪の物性値として、比較例5とした。
【0049】
以上の評価試験結果の平均値を算出し、表3に示す。
【表3】
【0050】
<ヘアカラー処理に対する効果>
実施例3、4及び比較例6~14
【0051】
健常毛又はハイダメージ毛に対してケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を含有する組成物による処理を行った後、ヘアカラー処理を行った毛髪を用いて、染色性、均染性、堅牢性の評価、及び毛髪引張試験を行った。
【0052】
(v)評価に使用する毛束の作成
(v-1)健常毛
毛束(株式会社スタッフス社製「テスト用毛束1g10cm 人毛 黒」)を1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いで水洗した後、乾燥させた。この毛束を評価用毛束(3)(健常毛)とした。
(v-2)ハイダメージ毛
ブリーチ剤1剤(ホーユー株式会社製「レセ パウダーブリーチ EX」)及びブリーチ2剤(株式会社ミルボン社製「オルディーブ アディクシー オキシダン 6%」)を1対2.5(質量比)の比率で均一に混合し、毛束(株式会社スタッフス社製「テスト用毛束1g10cm 人毛 黒」)に対し、ブリーチ混合液を均等量塗布し、25℃で30分間放置後、しっかり水洗した。このブリーチ処理を2回行った。その毛束を1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で5分間浸漬した。次いで水洗した後、乾燥させた。この毛束を評価用毛束(4)(ハイダメージ毛)とした。
【0053】
(vi)ケラチン誘導体又はケラチン加水分解を含有する組成物の使用
評価用毛束(3)及び(4)を処方例1~6の組成物10質量%水溶液に5分間浸漬した。次いで水洗した後、水気をタオルで拭き取った。
【0054】
(vii)還元剤を含む組成物による処理
前記(vi)の方法で処理した毛束に対して、カーリング剤1剤(株式会社リトル・サイエンティスト社製「ソニルCA-H」)に浸漬し、25℃で10分間放置した。その後、よく水洗した。
【0055】
(viii)ヘアカラー処理
ヘアカラー1剤(株式会社ミルボン「オルディーブ アディクシー 7-SA」及びブリーチ2剤(株式会社ミルボン社製「オルディーブ アディクシー オキシダン 6%」)を1対1(質量比)で均一に混合し、前記(vi)又は(vii)の方法で処理した毛束1本に対してヘアカラー混合液を1g塗布し、25℃で20分間放置した。その後よく水洗し、乾燥した。この処理により、毛束を寒色系に染色することができる。
【0056】
(C)染色性及び均染性評価
前記(viii)の方法で処理したハイダメージ毛毛束の染色性及び均染性に関して、10人のパネラーにより評価した。染色性は毛束のヘアカラーによる色の濃さを5段階で評価した。均染性はヘアカラーによる色が、毛束に対して均一に染まっているかを5段階で評価した。
(C-1)染色性評価
5:良好に染まっている
4:やや良好に染まっている
3:染まっている
2:やや染まりが悪い
1:染まりが悪い
(C-2)均染性評価
5:良好に均一に染まっている
4:やや良好に均一に染まっている
3:均一に染まっている
2:やや不均一に染まっている
1:不均一に染まっている
【0057】
(D)堅牢性評価
前記(viii)の方法で処理したハイダメージ毛束を、1.0質量%ラウリル硫酸ナトリウム溶液中に25℃で30分間浸漬した。その後よく水洗し、乾燥した。その毛束に関して、10人のパネラーにより、毛束の色の退色具合を観察し、堅牢性を5段階で評価した。
(D-1)堅牢性評価
5:退色していない
4:やや退色している
3:退色しているが許容範囲内
2:退色している
1:非常に退色している
【0058】
(E)毛髪引張試験
前記(viii)の方法で処理した健常毛及びハイダメージ毛に対して、万能引張試験機(株式会社島津製作所製「AG-20k NXDplus」)を用いて、毛髪1本当りの引張切断強度(N)及び伸張率(%)を50mm/minの速度で測定した(n=10)この結果を毛髪損傷の指標として評価した。
【0059】
以上の評価試験結果の平均値を算出し、表4及び表5に示す。
【0060】
前記(vii)による還元剤を含む組成物による処理を省いた方法で処理した毛束の評価結果を表4に示す。また、前記評価用毛束(3)及び(4)に対して(E)の試験を実施した。この結果を健常な毛髪及びハイダメージ毛の物性値として、比較例10とした。
【0061】
【0062】
前記(iv)による還元剤を含む組成物による処理を含めた方法で処理した毛束の評価結果を表5に示す。
【0063】
【0064】
表3に示された結果から、組成物の種類に関係なく、アミノエチルジスルフィドケラチン(羊毛)を配合したもの(実施例1及び2)が、健常な毛髪(比較例5)に近い物性を示している。これは、健常毛に対してもハイダメージ毛に対しても同様な結果であり、どんな状態の毛髪に対しても、健常な毛髪の物性に維持又は改善している。毛髪に対してカーリング剤処理を実施した場合、酸化還元反応により毛髪内部のジスルフィド結合が開裂し、毛髪構造が伸びやすくなるが、強度が弱くなる。この結果、毛髪切断強度(N)が低下し、伸張率(%)が上昇してしまう。ジスルフィド結合が開裂し、末端がシステイン酸になった部分が親水基になっており、吸水する為、よく伸びるようになると推測される。また、卵白加水分解物を配合したもの(比較例1及び3)はウェーブ効率を改善する傾向はあるが、毛髪切断強度(N)が健常な毛髪より強くなってしまい、伸張率(%)が低下してしまう。これは、卵白加水分解物の特有な物性であり、健常な毛髪の物性とは違う方向性になる。健常な毛髪本来の物性へと導く場合、毛髪を構成するタンパク質であるケラチンタンパク質を毛髪内部に定着させることが最善の方法であると考えられる。
【0065】
以上の結果はパーマネントウェーブ剤でも同様の効果である。また、縮毛矯正剤又はストレートパーマ剤ではストレート形成力が向上し、毛髪物性も健常な毛髪に維持又は改善することが可能である。
【0066】
表4に示された結果から、組成物の種類に関係なく、アミノエチルジスルフィドケラチン(羊毛)を配合したもの(実施例3及び4)が、ヘアカラー処理による毛髪損傷を抑制できることを示している。更に、ヘアカラーの染色性、均染性、及び堅牢性を向上していることを示している。これは、ヘアカラー処理による毛髪のジスルフィド結合の開裂の代わりに、毛髪内部に存在する前記アミノエチルジスルフィドケラチン(羊毛)のジスルフィド結合が開裂したからと推測される。また、毛髪内部のジスルフィド結合が染毛性に影響を与えることが非特許文献2に記載があり、これにより染色性等が向上したと推測される。
【0067】
表5に示された結果から、組成物の種類に関係なく、アミノエチルジスルフィドケラチン(羊毛)を配合したもの(実施例5及び6)において、ヘアカラー処理による毛髪損傷が改善又は抑制されている。これは、前記(vi)の方法により、毛髪内部に存在するアミノエチルジスルフィドケラチン(羊毛)のジスルフィド結合が、前記(vii)の処理によりチオール基に変換され、ヘアカラー混合液中の過酸化水素によって毛髪内部にジスルフィド結合で定着したと推測される。これにより、毛髪物性、並びに染色性、均染性、及び堅牢性が向上したと推測される。
【0068】
以上の結果はヘアブリーチ剤でも同様である。ヘアブリーチ剤による脱色性を向上し、毛髪損傷を抑制又は改善することが可能である。
【0069】
ジスルフィド結合を有するケラチン誘導体又はケラチン加水分解物を配合する組成物で毛髪を処理することで、健常な状態の毛髪に近い所望するウェーブ形成力、ストレート形成力を付与することが可能である。また、ヘアカラーの染色性、均染性、及び堅牢性を向上するが可能である。さらに、前記化学的処理による毛髪損傷を抑制又は改善することが可能で用途が広く実用的であり、美容業界の分野において利用価値が高い。