(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】上吊り式引戸用下部戸当たり
(51)【国際特許分類】
E05F 5/00 20170101AFI20220804BHJP
E05F 5/02 20060101ALI20220804BHJP
E05F 7/04 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
E05F5/00 D
E05F5/02 H
E05F7/04
(21)【出願番号】P 2019032347
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592166126
【氏名又は名称】株式会社中尾製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】若山 豊
【審査官】野尻 悠平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-099308(JP,A)
【文献】実開平01-049568(JP,U)
【文献】特開平10-339063(JP,A)
【文献】実開昭62-190075(JP,U)
【文献】特開2000-199377(JP,A)
【文献】特開平09-268834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 5/00
E05F 5/02
E05F 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面上に木ねじ(4)で取り付ける固定金具(2)と、その固定金具(2)に上から被せて固定金具(2)で支持するキャップ(3)とからなり、
前記キャップ(3)は、上吊り式引戸(10)の戸先(11)又は戸尻(12)の端面を当接させる第1当たり面(3a)と、その第1当たり面(3a)の片端に90°屈曲して連なる第2当たり面(3b)と、底面(3c)に開口した固定金具受け入れ溝(3d)とを有し、
前記固定金具(2)は、前記キャップ(3)の第1当たり面(3a)と平行な第1当たり面補強部(2a)と、その第1当たり面補強部(2a)に連なった前記キャップ(3)の第2当たり面(3b)と平行な第2当たり面補強部(2b)とを有し、
前記上吊り式引戸(10)の戸先(11)又は戸尻(12)の端面が前記第1当たり面(2a)に当接した位置で前記第2当たり面(2b)が前記上吊り式引戸(10)の室外側の側面に対面して引戸の室外側への変位を阻止するように構成された上吊り式引戸用下部戸当たり。
【請求項2】
前記キャップ(3)が、緩衝性のあるゴム又は軟質樹脂で構成された請求項1に記載の上吊り式引戸用下部戸当たり。
【請求項3】
前記固定金具(2)が、床面上に木ねじ(4)で固定するベース板(2c)と、そのベース板(2c)の両側部に起立して連ならせた左右のブラケット(2d)を含み、前記ブラケット(2d)と前記第1当たり面補強部(2a)が一体成形又は接合して一体化されている請求項1又は2に記載の上吊り式引戸用下部戸当たり。
【請求項4】
前記第2当たり面(3b)の先端に、引戸の進入口を広げるテーパ面(3e)を設けた請求項1~3のいずれかに記載の上吊り式引戸用下部戸当たり。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、床面上に固定されて上吊り式引戸の動きを、引戸の全閉位置や全開位置において止める下部戸当たりに関する。
【背景技術】
【0002】
引戸の戸当たりは、引戸を、閉側、又は開側の移動終点に停止させるストッパであり、上吊り式引戸用の戸当たりは、「下部戸当たり」と称されるものが床面上又は床面近くの壁面に固定されて用いられている。
【0003】
その下部戸当たりは、
図8及び
図9に示すように、単純な平面の当り面21を有していてその当り面21で上吊り式引戸10の戸先11や戸尻を受け止めるものが多用されていたが、このような戸当たり20は、移動終点に停止した上吊り式引戸の戸厚方向への振れ(室外方向への横揺れ)を止めることができない。
【0004】
そこで、下記特許文献1に示されるような技術や下記特許文献2に示されるような戸当たりが提案されている。
【0005】
特許文献1の技術は、上吊り式引戸(以下では略して単に引戸と言う)と戸枠に、磁石と磁性体の吸着板を対応させて設け、引戸を閉めた位置で磁石に吸着板を吸着させて引戸の振れを防止する振れ止め・固定機構である。
【0006】
また、特許文献2の戸当たりは、床面に固定されるベース部材と、そのベース部材に被せるカバー部材とで構成されている。
【0007】
カバー部材は、引戸の木口面(戸先面や戸尻面)が当接する平面状の当接面と、その当接面の中央部に形成される縦長の凸条部を備えている。
【0008】
凸条部は、カバー部材と一体であり、引戸が移動終点に到達したときに引戸の下端に設けられている振止用案内溝に前記凸条部が進入し、その凸条部の側面が前記振止用案内溝の内壁に当接して引戸の振れが阻止されるものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-278438号公報
【文献】特開2011-99308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術は、磁石と吸着板を、引戸と戸枠に対応させて設ける必要がある。その磁石と吸着板は、引戸と戸枠に溝を掘ってその溝に埋め込む必要があり、設置に手間取る。また、磁石を含んでいる上に構成部品が多く、コストも高くつく。
【0011】
これに対し、特許文献2の戸当たりは、ベース部材と、カバー部材と、カバー部材を床面に固定する木ねじとからなるため、設置が容易で、特許文献1の振れ止め・固定機構に比べてコストも低減できる。
【0012】
しかしながら、特許文献2の戸当たりは、引戸の下端にカバー部材の凸条部が嵌り込む振止用案内溝が必要である。
【0013】
特許文献2は、引戸の下端に設けられている引戸移動時の振止用案内溝を木口の端面に開放する位置まで延長し、その振止用案内溝が木口の端面に開放した箇所にカバー部材の凸条部を嵌合させるようにしているが、この構造は、木口の下部の強度低下を招く。これに加え、凸条部を嵌合させる振止用案内溝が木口の端面に開放することで引戸の外観も悪化する。
【0014】
また、特許文献2は、戸当たりのカバー部材を軟質プラスチックやゴムなどの衝撃吸収材料で形成することを述べているが、カバー部材による引戸の振れ止めは、凸条部のみで引戸を受け止めてなされるため、カバー部材を衝撃吸収材料で形成した場合、振れ止め防止の信頼性やカバー部材の耐久性の確保が難しくなる。
【0015】
この発明は、特許文献2の戸当たりの利点を生かしながらその戸当たりの欠点をなくした下部戸当たり、即ち、設置が容易で、低コスト、かつ、引戸の振れ止め防止の信頼性と、耐久性に優れた上吊り式引戸用の下部戸当たりを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
床面上に木ねじで取り付ける固定金具と、その固定金具に上から被せて固定金具で支持するキャップとからなり、
前記キャップは、上吊り式引戸の戸先又は戸尻の端面を当接させる第1当たり面と、その第1当たり面の片端に90°屈曲して連なる第2当たり面と、底面に開口した固定金具受け入れ溝を有し、
前記固定金具は、前記キャップの第1当たり面と平行な第1当たり面補強部と、その第1当たり面補強部に連なった前記キャップの第2当たり面と平行な第2当たり面補強部を有し、
前記上吊り式引戸の戸先又は戸尻の端面が前記第1当たり面に当接した位置で前記第2当たり面が前記上吊り式引戸の室外側の側面に対面して引戸の室外側への変位を阻止するように構成された上吊り式引戸用下部戸当たりを提供する。
【0017】
前記キャップは、緩衝性のあるゴム又は軟質樹脂で構成されたものが好ましい。
【0018】
また、前記固定金具は、床面上に木ねじで固定するベース板と、そのベース板の両側部に起立して連ならせた左右のブラケットを含み、前記ブラケットと前記第1当たり面補強部を一体にプレス成形したもの、或いは、前記ブラケットと前記第1当たり面補強部を別部品にしてその2者を接合して一体化したものが好ましい。
【0019】
さらに、前記第2当たり面の先端(第1当たり面に連なる側とは反対側の端部)には、引戸の進入口を広げるテーパ面を連ならせておくのが望ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明の上吊り式引戸用下部戸当たりは、前記キャップが、引戸の戸先又は戸尻の端面を受け止める第1当たり面のほかに、その第1当たり面の片端に90°屈曲して連なる第2当たり面を有しており、第2当たり面によって移動終点にある引戸の室外側への変位(振れ)を止めることができる。
【0021】
このため、戸先や戸尻の端面に開放する戸当たり係止用の溝を追設する必要がなく、前記係止用溝の追設による引戸の強度低下や外観の悪化を招かない。
【0022】
また、木ねじで床面に取り付ける固定金具とキャップとで構成されるため、部品数が少なく、設置が簡単でコストの低減も図れる。
【0023】
さらに、固定金具が、キャップの第1当たり面と第2当たり面をそれぞれ補強する2箇所の補強部を有しているので、キャップが、緩衝性があって引戸の衝突音の低減や引戸の保護に有効なゴムや軟質樹脂で形成されていても、キャップの第2当たり面設置部の変形(引戸に押されることによる変形)が起こらず、引戸の振れを信頼性よく防止することができる。
【0024】
前記第2当たり面設置部の変形が阻止されることで当該部の疲労、劣化も抑制され、特許文献2のカバー部材に比べてキャップの耐久性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】この発明の上吊り式引戸用下部戸当たりの一例を固定金具からキャップを外した状態にして示す斜視図である。
【
図4】
図1の戸当たりの上吊り式引戸に対する設置の一例を示す斜視図である。
【
図5】
図1の戸当たりの固定金具を床面に取り付ける際の取り付け方法の一例を示す斜視図である。
【
図6】
図1の戸当たりの使用状態を示す平面図である。
【
図7】
図1の戸当たりの使用状態を示す側面図である。
【
図8】従来の一般的な戸当たりの使用状態を示す平面図である。
【
図9】
図8の戸当たりの使用状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の上吊り式引戸用下部戸当たりの実施の形態を、添付図面の
図1~
図7に基づいて説明する。
【0027】
図1に示すように、この発明の上吊り式引戸用下部戸当たり(以下では単に戸当たりと言う)1は、固定金具2と、キャップ3とからなる。
【0028】
固定金具2は、メッキ鋼板やステンレス板などで形成された金具であって、床面上の指定位置に木ねじ4を用いて固定される。ここで言う指定位置とは、
図4に示すように、完全に閉じた上吊り式引戸(扉。以下では単に引戸と言う)10の戸先11が当接する位置と、完全に開いた引戸10の戸尻12が当接する位置の2箇所である。
【0029】
図4の引戸10は、戸先11側と戸尻12側の上部に設けた戸車ユニット13を、壁面に固定されたガイドレール14で支えて引戸10を吊下げ、ガイドレール14の軌道面上で戸車ユニット13を走行させて部屋の出入口を開閉するものになっている。
【0030】
図4の符号15は、引戸10が閉終点(閉じる側の移動終点)や開終点(開く側の移動終点)で戸当たりや戸枠などに当たって生じる衝撃や衝突音を緩和する目的で設けられている既知のクローザ装置である。図示したクローザ装置15は、引戸10の上端に取り付けられている。
【0031】
固定金具2は、第1当たり面補強部2aと、その第1当たり面補強部2aの一端に90°屈曲させて連ならせた第2当たり面補強部2bを有する。
【0032】
この固定金具2には、木ねじ4で床面上に固定するベース板2cと、そのベース板2cの両側部に起立して連ならせた左右のブラケット2d、2dが含まれており、固定金具2の全体、即ち、ベース板2cと、左右のブラケット2d、2dと、第1、第2当たり面補強部2a、2bは、一体になっている。ベース板2cと、左右のブラケット2d、2dと、第1、第2当たり面補強部2a、2bは、一体にプレス成形したもの、ベース板2cと一体の左右のブラケット2d、2dに、一体に加工された第1、第2当たり面補強部2a、2bを溶接するなどして接合一体化したもののどちらであってもよい。
【0033】
固定金具2の床面の指定位置に対する固定は、例えば、
図5に示すような方法で行われる。
図5の固定方法は、紙製の位置決め治具5を用いる。その位置決め治具5は、指定された線Lに沿って折り曲げて起立させる照合部5aを有している。
【0034】
その照合部5aを、閉側の移動終点にある引戸10の戸先11の端面、又は、開側の移動終点にある引戸10の戸尻12の端面に密着させる。このとき、引戸10の右側の側面が室外に面している場合には、位置決め治具5に記されている扉右側面照合線5bの位置を引戸10の右側の側面に合わせる。
【0035】
また、引戸10の左側の側面が室外に面している場合には、位置決め治具5に記されている扉左側面照合線5cの位置を引戸10の左側の側面に合わせる。
【0036】
そのときに位置決め治具5に表示されているビス孔位置指示部5dの位置が木ねじの設置点を示している。そこで、その位置に目印をつけ、位置決め治具5を取り除いて目印箇所に木ねじ4をねじ込み、固定金具2を床面上に固定する。
【0037】
そして、その固定金具2にキャップ3を上から被せる。キャップ3を被せると固定金具2の全体が覆い隠され、戸当たり1の見栄えの悪化が起こらない。
【0038】
キャップ3は、
図4に示した上吊り式引戸10の戸先11又は戸尻12の端面を当接させる第1当たり面3aと、その第1当たり面3aの片端に90°屈曲して連なる第2当たり面3bと、底面3cに開口した固定金具受け入れ溝3dと、第2当たり面3bの先端(第1当たり面3aに連なる側とは反対側の端部)に連なったテーパ面3eを有する。
【0039】
キャップ3の第1当たり面3aと固定金具2の第1当たり面補強部2aは平行である。また、キャップ3の第2当たり面3bと固定金具2の第2当たり面補強部2bは平行である。
【0040】
図示のキャップ3は、ゴムで形成されている。材料ゴムは、硬度が15~90程度のものが用いられるが、硬度の低い軟らかいゴムで形成されているものは、緩衝機能には優れる反面、強度の確保が難しい。キャップ3の材料として軟質樹脂を用いる場合も同様である。
【0041】
そこで、固定金具2の第1当たり面補強部2aを固定金具受け入れ溝3dに挿入してキャップ3の第1当たり面3aの裏側に添わせ、その第1当たり面補強部2aで前記第1当たり面3aを補強している。
【0042】
また、固定金具2の第2当たり面補強部2bを固定金具受け入れ溝3dに挿入してキャップ3の第2当たり面3bの裏側に添わせ、その第2当たり面補強部2bで前記第2当たり面3bを補強している。
【0043】
固定金具受け入れ溝3dは、固定金具2の第1当たり面補強部2a、第2当たり面補強部2b、及びブラケット2d、2dを受け入れる部分の溝深さがベース板2cを受け入れる部分の溝深さよりも深く、固定金具2をほぼ適合して受け入れる溝になっている。
【0044】
その補強により、第2当たり面3bの根元部(第1当たり面3aとのつながり部)を支点にした屈曲が起こらず、第2当たり面3bに引戸10が押し付けられたときにも、引戸10の動き(振れ)が安定して阻止され、根元部の疲労、劣化も防止される。
【0045】
テーパ面3eは、引戸10の進入口を広げるための面であり、このテーパ面3eがあると、戸当たり1の引戸受け入れ部に対する引戸10の進入がスムーズになされる。
【0046】
図4に示した引戸10は、下端に、自身の移動方向に延びるガイド溝16を有しており、そのガイド溝16に、床面上に立設された振れ止めピン17が挿入されて引戸10が閉又は開方向へ移動するときの振れ(横揺れ)が防止されるようになっている。
【0047】
振れ止めピン17とガイド溝16の溝側面との間には微小な隙間がある。その隙間によって許容される範囲で引戸10の厚み方向変位が仮に生じても、前記テーパ面3eがあれば、引戸10は、第1当たり面3aに当接する位置までスムーズに移動し、その位置で第2当たり面3bにより室内から室外に向かう方向への変位が阻止される。
【0048】
図6及び
図7は、例示の戸当たり1のキャップ3に引戸10の戸先11側が受け止められた状態を表している。
図6はその受け止め状態を上から見た平面図、
図7は、室外側から見た側面図である。
【0049】
この
図6、
図7からわかるように、キャップ3の第1当たり面3aに引戸10の戸先11が当接している状況下では、引戸10の室外側の側面がキャップ3の第2当たり面3bに微小隙間を介して対面している。
【0050】
この状況で引戸10が
図6の矢印方向、即ち、室内側から室外側に仮に押された場合、引戸10の室外側の側面がキャップ3の第2当たり面3bに当たるため、閉終点での引戸の振れが確実に防止される。
【0051】
引戸10が開終点にある場合も、開終点側にこの発明の戸当たりがあれば、同様に引戸の振れは起こらない。
【0052】
なお、キャップ3を構成する材料は、弾性変形するゴムや軟質樹脂が好ましいが、クローザ装置を有する引戸は、その装置の働きによって戸枠などに対する引戸10の衝撃的な当たりが防止されるので、そのようなときには、硬質樹脂を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 下部戸当たり
2 固定金具
2a 第1当たり面補強部
2b 第2当たり面補強部
2c ベース板
2d ブラケット
3 キャップ
3a 第1当たり面
3b 第2当たり面
3c 底面
3d 固定金具受け入れ溝
3e テーパ面
4 木ねじ
5 位置決め治具
5a 照合部
5b 扉右側面照合線
5c 扉左側面照合線
5d ビス孔位置指示部
10 上吊り式引戸
11 戸先
12 戸尻
13 戸車ユニット
14 ガイドレール
15 クローザ装置
16 ガイド溝
17 振れ止めピン
20 一般的な戸当たり
21 当り面