(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】内水氾濫解析装置、内水氾濫解析方法、内水氾濫解析プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記憶した機器
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20120101AFI20220804BHJP
E03F 1/00 20060101ALI20220804BHJP
G01W 1/10 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
G06Q50/26
E03F1/00 Z
G01W1/10 P
(21)【出願番号】P 2020102696
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2020-06-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】300076736
【氏名又は名称】ニタコンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】安藝 浩資
(72)【発明者】
【氏名】三好 学
【審査官】田上 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-201243(JP,A)
【文献】特開2002-298063(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
E03F 1/00
G01W 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析装置であって、
有効降雨量に関する情報を取得するための入力部と、
前記入力部で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する堤内地氾濫流解析部と、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する流入地域流下解析部と、
前記流入地域流下解析部で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する排水解析部と、
前記排水解析部で解析した排水解析結果を表示させる表示部と、
を備え、
前記流入地域流下解析部が、さらに、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を
、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する貯留施設流入流出解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項2】
特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析装置であって、
有効降雨量に関する情報を取得するための入力部と、
前記入力部で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する堤内地氾濫流解析部と、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する流入地域流下解析部と、
前記流入地域流下解析部で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する排水解析部と、
前記排水解析部で解析した排水解析結果を表示させる表示部と、
を備え、
前記流入地域流下解析部が、さらに、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を
、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する浸透施設浸透解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の内水氾濫解析装置であって、
前記流入地域流下解析部が、さらに、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設に対する、流入と溢水を解析する流下施設流入溢水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内水氾濫解析装置であって、
前記流下施設流入溢水解析部が、さらに、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、開水路に対する、流入と溢水を解析する開水路流入溢水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の内水氾濫解析装置であって、
前記流下施設流入溢水解析部が、さらに、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、下水管渠に対する、流入と溢水を解析する下水管渠流入溢水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の内水氾濫解析装置であって、
前記排水解析部が、さらに、
樋門又は水門での自然排水を解析する自然排水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の内水氾濫解析装置であって、
前記排水解析部が、さらに、
排水機場での強制排水を解析する強制排水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の内水氾濫解析装置であって、さらに、
前記排水解析部で解析した排水解析結果に基づいて、河川への排水の様子を解析する河川排水解析部を備える内水氾濫解析装置。
【請求項9】
特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析方法であって、
有効降雨量に関する情報を取得する工程と、
前記取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する工程と、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程と、
前記解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する工程と、
前記解析した排水解析結果を表示部に表示させる工程と、
を含み、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程が、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を
、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する工程、又は
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を
、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する工程の、少なくともいずれかを含む内水氾濫解析方法。
【請求項10】
請求項9に記載の内水氾濫解析方法であって、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程が、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設に対する、流入と溢水を解析する工程である内水氾濫解析方法。
【請求項11】
請求項10に記載の内水氾濫解析方法であって、
前記流下施設に対する、流入と溢水を解析する工程が、
前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、
開水路に対する、流入と溢水を解析する工程、又は
下水管渠に対する、流入と溢水を解析する工程の、少なくともいずれかを含む内水氾濫解析方法。
【請求項12】
請求項9~11のいずれか一項に記載の内水氾濫解析方法であって、
前記解析した流入地域流下解析結果に基づいて排水施設への排水を解析する工程が、
樋門又は水門での自然排水を解析する工程、又は
排水機場での強制排水を解析する工程の、少なくともいずれかを含む内水氾濫解析方法。
【請求項13】
特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析プログラムであって、
有効降雨量に関する情報を取得する機能と、
前記有効降雨情報取得機能で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する機能と、
前記堤内地氾濫流解析機能で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する機能と、
前記流入地域流下解析機能で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する機能と、
前記排水解析機能で解析した排水解析結果を表示部に表示させる機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する機能が、
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を
、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する機能、又は
前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を
、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する機能の、少なくともいずれかを含む内水氾濫解析プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載のプログラムを格納したコンピュータで読み取り可能な記録媒体又は記憶した機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内水氾濫解析装置、内水氾濫解析方法、内水氾濫解析プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記憶した機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の異常気象等に起因すると思われるゲリラ豪雨等の自然災害により、河川の氾濫や浸水などの被害が多発している。氾濫や浸水は、河川の氾濫によって堤防を越えて浸水が発生する、いわゆる堤外地氾濫の他、堤防で囲まれた領域で浸水が発生する、いわゆる堤内地氾濫(以下、「内水氾濫」とも呼ぶ。)が知られている。
【0003】
内水氾濫が発生した場合の氾濫解析を行う場合、従来は現行指針である「内水浸水想定区域図作成マニュアル(案)」国土交通省水管理・国土保全局,PP30-31,H28.4.(非特許文献1:以下「内水指針」という。)に定められた氾濫モデルに従い、
図3に示す手順で行われていた。
【0004】
しかしながら、この方法は下水管渠(かんきょ)が整備されていることを前提として構築されているところ、下水管渠が整備されていない地域では適用できないという問題があった。日本各地においても、都市部以外では下水管渠が整備されていないことが多く、このような地域では従来、内水氾濫を解析することが事実上困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「内水浸水想定区域図作成マニュアル(案)」国土交通省水管理・国土保全局,PP30-31,H28.4.
【文献】「流域貯留施設等技術指針(案)」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,P39,H19.3.
【文献】「雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,P46,H18.9.
【文献】「リアルタイム浸水予測シミュレーションの手引き(案)」国土交通省河川局,P参2-30,H17.6.
【文献】「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画「排水」」社団法人農業土木学会,P243,H18.3.
【文献】「氾濫シミュレーション・マニュアル(案)」土木研究資料第3400号:国立研究開発法人土木研究所,P16,H8.2.
【文献】「流域貯留施設等技術指針(案)」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,PP48-49,H19.3.
【文献】「雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,PP51-53,H18.9.
【文献】「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画「排水」」社団法人農業土木学会,P239,H18.3.
【文献】「リアルタイム浸水予測シミュレーションの手引き(案)」国土交通省河川局,P参2-42,H17.6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、内水氾濫を解析可能な内水氾濫解析装置、内水氾濫解析方法、内水氾濫解析プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記憶した機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
本発明の第1の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析装置であって、有効降雨量に関する情報を取得するための入力部と、前記入力部で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する堤内地氾濫流解析部と、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する流入地域流下解析部と、前記流入地域流下解析部で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する排水解析部と、前記排水解析部で解析した排水解析結果を表示させる表示部とを備え、前記流入地域流下解析部が、さらに、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する貯留施設流入流出解析部を備えることができる。上記構成により、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0009】
また、本発明の第2の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析装置であって、有効降雨量に関する情報を取得するための入力部と、前記入力部で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する堤内地氾濫流解析部と、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する流入地域流下解析部と、前記流入地域流下解析部で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する排水解析部と、前記排水解析部で解析した排水解析結果を表示させる表示部とを備え、前記流入地域流下解析部が、さらに、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する浸透施設浸透解析部を備えることができる。上記構成により、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
さらに、本発明の第3の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記構成に加えて、前記流入地域流下解析部が、さらに、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設に対する、流入と溢水を解析する流下施設流入溢水解析部を備えることができる。
【0010】
さらに、本発明の第4の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記流下施設流入溢水解析部が、さらに、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、開水路に対する、流入と溢水を解析する開水路流入溢水解析部を備えることができる。
【0011】
さらにまた、本発明の第5の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記流下施設流入溢水解析部が、さらに、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、下水管渠に対する、流入と溢水を解析する下水管渠流入溢水解析部を備えることができる。
【0014】
さらにまた、本発明の第6の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記排水解析部が、さらに、樋門又は水門での自然排水を解析する自然排水解析部を備えることができる。
【0015】
さらにまた、本発明の第7の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、前記排水解析部が、さらに、排水機場での強制排水を解析する強制排水解析部を備えることができる。
【0016】
さらにまた、本発明の第8の形態に係る内水氾濫解析装置によれば、上記いずれかの構成に加えて、さらに、前記排水解析部で解析した排水解析結果に基づいて、河川への排水の様子を解析する河川排水解析部を備えることができる。
【0017】
さらにまた、本発明の第9の形態に係る内水氾濫解析方法によれば、特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析方法であって、有効降雨量に関する情報を取得する工程と、前記取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する工程と、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程と、前記解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する工程と、前記解析した排水解析結果を表示部に表示させる工程とを含み、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程が、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する工程、又は前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する工程の、少なくともいずれかを含むことができる。これにより、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0018】
さらにまた、本発明の第10の形態に係る内水氾濫解析方法によれば、上記に加えて、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程を、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設に対する、流入と溢水を解析する工程とすることができる。
【0019】
さらにまた、本発明の第11の形態に係る内水氾濫解析方法によれば、上記いずれかに加えて、前記流下施設に対する、流入と溢水を解析する工程が、前記堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、開水路に対する、流入と溢水を解析する工程、又は下水管渠に対する、流入と溢水を解析する工程の、少なくともいずれかを含むことができる。
【0021】
さらにまた、本発明の第12の形態に係る内水氾濫解析方法によれば、上記いずれかに加えて、前記解析した流入地域流下解析結果に基づいて排水施設への排水を解析する工程が、樋門又は水門での自然排水を解析する工程、又は排水機場での強制排水を解析する工程の、少なくともいずれかを含むことができる。
【0022】
さらにまた、本発明の第13の形態に係る内水氾濫解析プログラムによれば、特定の地域の内水氾濫を解析するための内水氾濫解析プログラムであって、有効降雨量に関する情報を取得する機能と、前記有効降雨情報取得機能で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する機能と、前記堤内地氾濫流解析機能で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する機能と、前記流入地域流下解析機能で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する機能と、前記排水解析機能で解析した排水解析結果を表示部に表示させる機能とをコンピュータに実現させ、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する機能が、前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を、当該貯留施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該貯留施設の貯溜効果分の水量を差し引いて解析する機能、又は前記解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を、当該浸透施設の設置位置の堤内地氾濫から、当該浸透施設の浸透効果分の水量を差し引いて解析する機能の、少なくともいずれかを含むことができる。これにより、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0023】
さらにまた、本発明の第14の形態に係るコンピュータで読み取り可能な記録媒体又は記憶した機器は、上記プログラムを格納するものである。記録媒体には、CD-ROM、CD-R、CD-RWやフレキシブルディスク、磁気テープ、MO、DVD-ROM、DVD-RAM、DVD-R、DVD+R、DVD-RW、DVD+RW、Blu-ray(登録商標)、HD DVD(AOD)等の磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリその他のプログラムを格納可能な媒体が含まれる。またプログラムには、上記記録媒体に格納されて配布されるものの他、インターネット等のネットワーク回線を通じてダウンロードによって配布される形態のものも含まれる。さらに記憶した機器には、上記プログラムがソフトウェアやファームウェア等の形態で実行可能な状態に実装された汎用もしくは専用機器を含む。さらにまたプログラムに含まれる各処理や機能は、コンピュータで実行可能なプログラムソフトウェアにより実行してもよいし、各部の処理を所定のゲートアレイ(FPGA、ASIC)等のハードウェア、又はプログラムソフトウェアとハードウェアの一部の要素を実現する部分的ハードウェアモジュールとが混在する形式で実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態1に係る内水氾濫解析装置を示すブロック図である。
【
図2】内水氾濫解析プログラムのユーザインターフェース画面をイメージ図である。
【
図3】内水指針の氾濫解析手順を示すフロー図である。
【
図4】実現象の氾濫メカニズムを示すフロー図である。
【
図5】本発明の実施形態1に係る内水氾濫解析方法で用いる内水氾濫モデルを示すフロー図である。
【
図8】樋門・水門(排水口)の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに特定されない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0026】
本発明の実施例において使用される内水氾濫解析装置とこれに接続される操作、制御、表示、その他の処理等のためのコンピュータ、プリンタ、外部記憶装置その他の周辺機器との接続は、例えばIEEE1394、RS-232xやRS-422、RS-423、RS-485、USB等のシリアル接続、パラレル接続、あるいは10BASE-T、100BASE-TX、1000BASE-T等のネットワークを介して電気的、あるいは磁気的、光学的に接続して通信を行う。接続は有線を使った物理的な接続に限られず、IEEE802.1x等の無線LANやBluetooth(登録商標)、その他のNFC等の電波、赤外線、光通信等を利用した無線接続等でもよい。さらにデータの交換や設定の保存等を行うための記録媒体には、メモリカードや磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等が利用できる。なお本明細書において内水氾濫解析装置とは、内水氾濫解析装置本体のみならず、これにコンピュータ、外部記憶装置等の周辺機器を組み合わせた浸水度リアルタイム予測システムも含む意味で使用する。
(内水氾濫解析装置100)
【0027】
本発明の実施形態1に係る内水氾濫解析装置100を
図1に示す。この図に示す内水氾濫解析装置100は、入力部10と、操作部20と、演算部30と、表示部40と、データ記憶部50を備えている。この内水氾濫解析装置100は、専用のハードウェアで構成する他、内水氾濫解析プログラムを汎用あるいは専用のコンピュータにインストールして構成できる。
(入力部10)
【0028】
入力部10は、外部からのデータ入力を受け付けるための入力インターフェースであり、例えば外部機器との通信等により、外部のデータベースにアクセスするなどして、必要な情報を取得するデータ取得部として機能する。データ取得部は、インターネットなどの汎用ネットワーク回線、あるいは専用線等を介した特定のネットワークに接続するための通信機能を備えている。この入力部10は、有効降雨量に関する情報を取得する有効降雨量取得部11の機能を実現する。
【0029】
有効降雨量は、例えば入力部10が通信ネットワークを介して雨量データとして取得する。これによって、逐次最新の情報に更新することが容易となる。
【0030】
雨量データには、予測地域の解析雨量と短時間降水予報及び任意の設定雨量が含まれる。ここで解析雨量とは、現在時刻から過去、所定の時間内に実際に降雨した雨量である。また短時間降水予報とは、現在時刻から今後、所定の時間内に降雨すると予想される雨量である。本実施形態において、この所定時間は1時間毎としている。例えば気象業務支援センターが配信する雨量データは、解析雨量と短時間降水予報を、地形データを1kmメッシュで区切った範囲の6時間先までの予測雨量が30分毎に更新されて配信される。よって入力部10は、このようなデータを逐次取得して、演算部30に送出する。また、入力部10で取り込んだ気象データを、データ記憶部50に保持することもできる。
【0031】
さらに入力部10は、内水氾濫の解析を行う対象となる特定の地域の、地形に関する情報を取得する地形情報取得部12としても機能する。地形情報取得部12は、氾濫解析の対象となる地域の地形データを取得するための部材である。地形情報取得部12で入力する地形データとして、例えば、国土交通省国土地理院作成の地図や、ドローンで取得した3次元の点群データ等が利用できる。内水氾濫解析装置100は、このような地形データから、地盤標高モデルを作成する地盤標高モデル作成機能を備えている。例えば国土交通省国土地理院による基盤地図情報(標高のメッシュデータである数値標高モデル)を地形情報取得部12から入力して、氾濫解析対象地域の地盤標高モデルを作成し、表示部40に表示させることができる。
【0032】
雨量データの収集先は特に特定せず、例えば気象庁や気象業務支援センターが配信する雨量データを利用する他、独自の雨量観測装置等を設置して直接収集してもよい。また、所定時間は、1時間に限らず、これよりも短い時間(例えば30分)、あるいはこれよりも長い時間(例えば2時間)としてもよい。
(データ記憶部50)
【0033】
データ記憶部50は、各種データを保持するための部材であり、例えば半導体メモリやハードディスク、あるいは可搬メディア等を利用できる。例えば、地形データを保持する地形データ記憶部の機能を実現する。地形データは、地図上の各位置における高さ情報を保持している。例えば、予測地域内の各区画の標高や傾斜等の情報を含んでいる。地図上の位置は、メッシュ状に区画されたデータで管理できる。
【0034】
ここで区画とは、予測地域内を5m四方の枡目状に区切った単位を1区画としている。実施形態1では、5m四方の範囲をさらに縦横5×5個ずつ組み合わせて、25m四方を1区画とする。演算部30に利用する地形データは、この25m四方内における平均値を利用している。このデータ記憶部50は、5m四方の地形データを記憶させてもよいし、あるいは予め25m四方における地形データの平均値を記憶させてもよい。
【0035】
なお、1区画あたりの大きさは、以上に特定されない。精密な予測結果が要求されるなら1区画を25mより小さくしてもよい。例えば一辺を1m、2.5m、5mとするなど、任意の大きさに設定できる。あるいは、演算処理の高速化が優先される場合等には、1区画を大きくしてもよい。
【0036】
例えば5mメッシュ(一例として国土交通省国土地理院による基盤地図情報)や2mメッシュ(一例として一般財団法人日本地図センターによる2mメッシュ標高データ)の詳細な地盤高データが公表、販売されており、このような地盤高データには排水路を地表の起伏として反映されていることがある。
(操作部20)
【0037】
操作部20は、内水氾濫解析装置100に対する種々の操作や設定を行うための部材であり、マウスやキーボード、コンソール等の入力デバイスが利用できる。
(表示部40)
【0038】
表示部40は、特定の地域の地図を表示させたり、ハイエトグラフやハイドログラフを表示させたり、あるいは必要な設定等を確認するための部材である。この表示部40は、例えばLCDや有機ELディスプレイ、CRT等が利用できる。また表示部にタッチパネルを使用することで、操作部と表示部を一体的に構成することもできる。
【0039】
この表示部40は、堤内地氾濫流解析部で解析した堤内地氾濫流や、流入地域流下解析部で解析した流入地域流下解析結果、排水解析部で解析した排水解析結果等を表示させることができる。このような表示は、画面切替により行ってもよいし、あるいは複数のウィンドウで並べて同時に表示させてもよい。
【0040】
表示部40は、特定の地域における流出量の時間変化を示すハイドログラフを表示させるためのハイドログラフ表示領域を設けている。ハイドログラフとは、時間と洪水水位または洪水流量との関係を表す図である。
(演算部30)
【0041】
演算部30は、各種の演算や処理を行うための部材であり、例えばCPUで構成される。またCPUに限らず、SoCやグラフィックス・プロセッシング・ユニット(Graphics Processing Unit:GPU)を利用してもよい。また、GPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Units)を利用することにより、CPUの負荷を低減しつつ、演算速度を向上させ、予測結果をより高精度なものとしながらも、表示部40により利用者が解析結果を簡単に確認できるようにしている。GPGPUには、例えばCUDA(商品名)が利用できる。
【0042】
この演算部30は、堤内地氾濫流解析部31と、流入地域流下解析部32と、排水解析部36と、河川排水解析部37の機能を実現する。
【0043】
堤内地氾濫流解析部31は、入力部10で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析するための部材である。
【0044】
流入地域流下解析部32は、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析するための部材である。
【0045】
排水解析部36は、流入地域流下解析部32で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析するための部材である。
【0046】
河川排水解析部37は、排水解析部36で解析した排水解析結果に基づいて、河川への排水の様子を解析するための部材である。
【0047】
このような構成により、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0048】
流入地域流下解析部32は、流下施設流入溢水解析部33と、貯留施設流入流出解析部34と、浸透施設浸透解析部35を備える。
【0049】
流下施設流入溢水解析部33は、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設に対する、流入と溢水を解析するための部材である。
【0050】
この流下施設流入溢水解析部33は、開水路流入溢水解析部33aと、下水管渠流入溢水解析部33bを備える。
【0051】
開水路流入溢水解析部33aは、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、開水路に対する、流入と溢水を解析するための部材である。
【0052】
下水管渠流入溢水解析部33bは、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する流下施設として、下水管渠に対する、流入と溢水を解析するための部材である。
【0053】
貯留施設流入流出解析部34は、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する貯留施設に対する、流入と流出を解析するための部材である。
【0054】
浸透施設浸透解析部35は、堤内地氾濫流解析部31で解析した堤内地氾濫流が流入する地域に存在する浸透施設における、地中への浸透を解析するための部材である。
【0055】
排水解析部36は、自然排水解析部36aと、強制排水解析部36bを備える。
【0056】
自然排水解析部36aは、排水施設として、樋門又は水門での自然排水を解析するための部材である。
【0057】
強制排水解析部36bは、排水施設として、排水機場での強制排水を解析するための部材である。
【0058】
このような内水氾濫解析装置100を用いて、特定の地域の内水氾濫を解析することが可能となる。内水氾濫解析方法は、有効降雨量に関する情報を取得する工程と、取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する工程と、解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する工程と、解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する工程と、解析した排水解析結果を表示部40に表示させる工程とを含む。これにより、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0059】
また内水氾濫解析プログラムは、有効降雨量に関する情報を取得する機能と、有効降雨情報取得機能で取得した有効降雨量データに基づき、堤内地氾濫流を解析する機能と、堤内地氾濫流解析機能で解析した堤内地氾濫流が流入する地域への流下を解析する機能と、流入地域流下解析機能で解析した流入地域流下解析結果に基づいて、排水施設への排水を解析する機能と、排水解析機能で解析した排水解析結果を表示部40に表示させる機能とをコンピュータに実現させることができる。これにより、下水管渠の整備の有無によらず、適切な堤内地氾濫流の解析が可能となる。
【0060】
ここで、内水氾濫解析プログラムのユーザインターフェース画面の例を
図2に示す。この図に示す内水氾濫解析プログラムのユーザインターフェース画面200は、内水氾濫解析装置100における入力条件と、水深、流速、到達時間、浸水時間および水深・流速から判定される歩行困難度、家屋倒壊危険ゾーンなどの時系列の時間変化、対象時間内の最大値・最小値等の結果を表示する機能を有している。
(氾濫モデル)
【0061】
以下、内水氾濫解析の詳細について説明する。現行指針である内水指針には、氾濫モデルが示されている。ここで開示される、内水を氾濫解析するための手順を
図3に示す。
図3をみると、流出計算(堤内地への降雨流出量の算定)において算定された流出量が、全て下水管渠に流入し、下水管渠から溢水した水量を堤内地の氾濫水量として、氾濫解析していることが判る。
【0062】
しかしながら、この内水指針では、全流出量が下水管渠に流入し、下水管渠からの溢水が堤内地の氾濫であるとしているため、下水管渠が整備されていない地域では適用できないという問題があった。日本国内の郊外の市街地や農村部では、下水管渠が整備されていない地域が多くみられ、そのような地域では現行指針では対応できず、内水氾濫を解析できない。
【0063】
また、「流域貯留施設等技術指針(案)」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,P39,H19.3.(非特許文献2;以下「貯留指針」という。)、及び「雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,P46,H18.9.(非特許文献3:以下「浸透指針」という。)では、貯留施設・浸透施設の減災効果を損失降雨として扱い、その整備効果を評価している。詳述すると、整備効果分の雨量に相等する雨量を
図3の有効降雨から差し引き、それを外力とした氾濫解析を行うこととしている。
【0064】
しかしながら、この氾濫解析では、対象とする地区の全域として、貯留施設・浸透施設の減災効果を評価する手法であり、貯留施設・浸透施設の整備位置を考慮した減災効果を評価できないという問題があった。
【0065】
さらに内水指針では、全流出量が下水管渠に流入し、下水管渠からの溢水が堤内地の氾濫であるとしている。
【0066】
しかしながら、実現象では
図4に示すように、雨量は堤内地に降り、堤内地を介して、下水管渠に流入する。このため
図3の現行指針では、降水地点から下水管渠に流入する間に発生する内水氾濫を考慮できないという問題もあった。
[実施形態1]
【0067】
これに対して、本発明の実施形態1に係る内水氾濫解析方法は、
図5に示す内水氾濫モデルを採用している。
【0068】
この内水氾濫モデルは、雨量は地表面の浸水深に加算されるモデルとなっている。このため雨量は、地表面を介して開水路に流入する。そして、開水路内を流下し、排水施設を通じて河川に排水される。
図5をみると、下水管渠を介さずに、降雨が河川に排水されるルートが確保されていることが判る。そのため、本実施形態は下水管渠が整備されていない開水路で雨水排水している地域へも適用できる。これにより、従来のモデルでは下水管渠が整備されておらず開水路で雨水排水している地域には適用できないという問題が解消される。
【0069】
またこの内水氾濫モデルでは、堤内地氾濫流を計算する平面二次元不定流計算のメッシュ位置に貯留施設・浸透施設の位置を入力する。その施設設置位置の堤内地氾濫から、貯留施設・浸透施設効果分の水量が差し引かれるため、貯留施設・浸透施設の整備位置を考慮した減災効果を評価することができる。これにより、貯留施設・浸透施設の効果的な設置位置を検討することが可能となる。
【0070】
内水指針では、全流出量が下水管渠に流入し、下水管渠からの溢水が堤内地の氾濫であるとしていた。しかしながら、実現象では雨量は堤内地に降り、堤内地を介して、下水管渠に流入する。これに対して実施形態1に係る内水氾濫モデルは、実現象の氾濫メカニズムに即したものとなっている。そのため、内水指針での氾濫モデルで解析すると、下水管渠から溢れる方向に流速ベクトルが向かう。これに対して本実施形態に係る内水氾濫モデルは、下水管渠に流入する方向に流速ベクトルが向かい、実現象を忠実に反映した氾濫解析モデルとなっている。
【0071】
図5の内水氾濫モデルは、既往の指針を組み合わせることにより構成されている。既往の指針に記載されている概念に準拠することで、解析精度も確保されていると考えられる。
図5の1)から6)について、以下に詳述する。
【0072】
図5の内水氾濫モデルにおける、有効降雨から堤内地氾濫流(降雨)は、「リアルタイム浸水予測シミュレーションの手引き(案)」国土交通省 河川局,P参2-30,H17.6.(非特許文献4:以下「リアルタイム浸水予測指針」という。)に準拠し、堤内地氾濫流を計算する平面二次元不定流計算のメッシュに降雨量分に相等する水深を加算することにより、降雨量をモデル化している。以下、詳述を説明する。
a)降雨の与え方
【0073】
降雨の与え方としては、大きく以下の方法が考えられる。
(1)流域平均降雨を算出して、一定範囲の計算メッシュに等量の降雨を与える方法
(2)メッシュ単位の降雨量を、計算メッシュ毎に与える方法
【0074】
図5の内水氾濫モデルにおいては、別途計算から降雨データがメッシュ単位で与えられることを想定していることから、(2)の方法を採用する。
b)流出量の算定
【0075】
氾濫原内の地形は、主にメッシュ単位で扱われることとなるため、降雨による氾濫原湛水の取り扱いは、連続式により求まる水深hに該当時刻有効降雨Rtを加算する。
【0076】
ht=h+rΔt
【0077】
ここで、r=Rt×1000/3600×f
【0078】
f:流出率、Rt:該当メッシュの雨量強度(mm/hr)、h:該当時刻tの氾濫水深を示している。
【0079】
次に
図5において、堤内地氾濫流から開水路への流入・溢水(開水路流入・溢水)について検討する。「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画 「排水」」社団法人農業土木学会,P243,H18.3.(非特許文献5:以下「土地改良排水指針」という。)では、水田と河道間流量を以下に記す堰計算式(1)、(2)を用いて計算するよう記載されている。
図5の内水氾濫モデルでは、土地改良排水指針に準拠し、この土地改良排水指針に記載されている水田タンクを堤内地と、河道タンクを開水路とそれぞれ読み替えて、堤内地氾濫流から開水路への流入量を算定する。
【0080】
土地改良排水指針では、水田と河道間を
図6のようにモデル化して、流量qに次の堰計算式数(1)、数(2)を適用している。
【0081】
【0082】
【0083】
上式において、B:堰幅(
図5の内水氾濫モデルでは開水路延長)、H
j:接続する水路の水位は流量係数で、越流係数をμ、重力加速度をgとすると、次式の数3、数4で表される。
【0084】
【0085】
【0086】
また、堰高をz、HiとHjのうち高いほうの水位をHH、HiとHJのうち低いほうの水位をHLとすると、h1及びh2はそれぞれ次式数5、数6のとおりとなる。
【0087】
(数5)
【0088】
h1=HH-z
【0089】
(数6)
【0090】
h2=HL-z
【0091】
次に
図5における堤内地氾濫流から下水管渠への流入・溢水(下水管渠流入・溢水)について検討する。「氾濫シミュレーション・マニュアル(案)」土木研究資料第3400号:国立研究開発法人土木研究所,P16,H8.2.(非特許文献6:以下「氾濫シミュレーション指針」という。)では、堤内地氾濫流から下水管渠への流入量を以下のように算定している。
図5の内水氾濫モデルは、氾濫シミュレーション指針に準拠し、堤内地氾濫流から下水管渠への流入量・溢水量を決定する。
【0092】
氾濫シミュレーション指針における、氾濫水の下水管への流入、溢水について、下水管内の水位算定の仕方、又堤内地氾濫水の下水管渠への流入量Sjk
n+1の算定方法は以下のとおりである。
【0093】
Vj
n+1≦VMjの場合、Hj~Vj関係を用いてVj
n+1よりHj
n+1を求める。また吸収量Sjk
n+1は、モストコフの式(底部取水工の式)より、以下の数7のように求めることができる。
【0094】
【0095】
Vj
n+1>VMjの場合、(Vj
n+1-VMj)をメッシュへの湧出量Sjj
n+1 とし、数8により求める
【0096】
【0097】
ここで流量係数μ=0.8、αは雨水ますの孔面積、Hmkはメッシュ浸水位、Zkは地盤高である。
【0098】
図5の内水氾濫モデルでは、堤内地氾濫流を計算する平面二次元不定流計算のメッシュに貯留施設の設置位置を入力し、設置位置メッシュの湛水量から貯留施設の貯留水量分を差し引き、その水量を貯留施設への流入量としている。そして貯留施設が満水になると、流入を停止する。この内水氾濫モデルは、設置位置を考慮することから、貯留施設の効果的な設置位置を検討することができる。
【0099】
「流域貯留施設等技術指針(案)」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,PP48-49,H19.3.(非特許文献7:以下「貯留指針」という。)では、貯留施設から堤内地氾濫流への流出量の算定方法が記載されている。
図5の内水氾濫モデルでは貯留指針に準拠し、以下の方法で、貯留施設から堤内地氾濫流への流出量を算定する。貯留施設からの放流量Qは、
図7のような場合、放流孔の形状により、流量公式である数9によって、水深Hの関数として与えられる。
【0100】
【0101】
ここで、C:流量係数でベルマウスを有する時、C=0.85~0.95、ベルマウスのつかない場合は、C=0.6~0.8となる。
図5の内水氾濫モデルでは、後者の中央値を取り、C=0.7を採用している。
【0102】
g:重力の加速度(9.8[m/s2]);B:放流孔の幅;D:放流孔の高さ
【0103】
図5の内水氾濫モデルでは、堤内地氾濫流を計算する平面二次元不定流計算のメッシュに浸透施設の設置位置を入力し、設置位置メッシュの湛水量から貯留施設の浸透水量分を差し引く。この内水氾濫モデルでは、設置位置を考慮することから、浸透施設の効果的な設置位置を検討することができる。
【0104】
本実施形態では「雨水浸透施設技術指針(案)調査・計画編」公益社団法人雨水貯留浸透技術協会,PP51-53,H18.9.(非特許文献8:以下「浸透指針」という。)に準拠し、浸透施設の浸透水量を求める。浸透施設の浸透水量の算定手順を以下に記す。
【0105】
浸透面の地層から採取した撹乱試料の粒度試験結果から飽和透水係数を推定して、現地浸透試験で得られた飽和透水係数の検証を行う。なお、関東ロームのような不撹乱で団粒構造を有する土壌では、粒度試験結果だけで飽和透水係数を推定できない。
【0106】
ここで、土の粒度試験により求まる粒径や土壌の種類から飽和透水係数を推定する概略値を、以下の表1及び表2に示す。表1は粒径による飽和透水係数の概略値を、表2は飽和透水係数の概略値を、それぞれ示している。
【0107】
【0108】
【0109】
浸透施設の単位設計浸透量は、次に説明する基準浸透量Qfに各種影響係数Cを乗じて求める。
【0110】
(数10)
Q=C×Qf
【0111】
上式において、Q:浸透施設の単位設計浸透量;Qf:浸透施設の基準浸透量;C:各種影響係数を、それぞれ示している。
【0112】
図5の内水氾濫モデルでは、C=1.0としているため、Cを設定する場合、次の数11より、k
0の設定時にCを乗算した値を設定する。(一般的にはC=0.81)
【0113】
施設別の基準浸透量Qfは、数11で算定する。
【0114】
(数11)
Qf=k0×kf
【0115】
ここで、Qf:設置施設の基準浸透量[浸透施設1m、1個あるいは1m2当りのm3/hr];kf:設置施設の比浸透量[m2];k0:土壌の飽和透水係数[m/hr]である。
【0116】
なおkfは、設置施設の形状と設計水頭で自動的に決まる定数であり、表3、表4、表5、表6、表7のように算定される。これらの表において、表3は透水性舗装の比浸透量(kf値[m2])、表4は透水側溝の比浸透量(kf値[m2])、表5は浸透トレンチの比浸透量(kf値[m2])、表6は浸透枡(円筒ます)の比浸透量(kf値[m2])、表7は貯留施設(大型貯留槽)の比浸透量(kf値[m2])を、それぞれ示している。
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
図5における河川への排水は、自然排水と強制排水の2種類がある。自然排水は、堤内水位が堤外水位より高く、樋門を開門すると水位差により自然に堤外に排水される排水状況をいう。一方、強制排水は、堤外水位が堤内水位より高く、堤内に堤外水量が流入しないよう、樋門を閉門している状況であり、樋門閉門状況において堤内水量を排水するために、排水機場による強制排水を実施する排水状況をいう。
a)自然排水
【0123】
「土地改良事業計画設計基準及び運用・解説 計画「排水」」社団法人農業土木学会,P239,H18.3.(非特許文献9:以下「土地改良排水指針」という。)では、自然排水量を以下に記す堤内水位と堤外水位との関係式を用いて計算するよう記載されている。
図5の内水氾濫モデルでは、土地改良排水指針に記載されている自然排水量に準拠する。
【0124】
排水量Qは、内水位hと外水位Hの影響を受けた排水口の排水能力に支配される。自然排水方式の場合、樋門・水門(排水口)は
図8に示すように暗渠方式と開水路方式がある。ここで内水位h、外水位H、t時刻の内水位をh
t、外水位をH
tとすると、排水量Qは数12で表される(h
t>H
t)。
【0125】
【0126】
一方、htとHtの値の大小に関係なく計算する際の堤内地の計算では、数13のように分解して行う。
【0127】
【0128】
ここで、At、Rt:排水口の通水断面積(m2)及び径深(m);n:マニングの粗度係数;X:排水口の延長(m)である。
【0129】
数13において、At、Rtは、暗きょ方式の場合は、時間に関係なく一定となる。一方、開水路方式の場合は、内水位と外水位の変化に応じて変化する。
(強制排水)
【0130】
「リアルタイム浸水予測シミュレーションの手引き(案)」国土交通省河川局,P参2-42,H17.6.」(非特許文献10:以下「リアルタイム浸水予測指針」という。)では、強制排水量を以下に記す数14、数15、数16を用いて計算するとされている。
図5の内水氾濫モデルは、このリアルタイム浸水予測指針に記載されている強制排水量に準拠する。
【0131】
強制排水の概念(縦断図)を
図9に、強制排水の概念(ハイドログラフ)を
図10に、それぞれ示す。排水機場の排水機による排水が可能な領域と、内水氾濫モデルに入力した平面二次元不定流計算メッシュ(単数メッシュ、複数メッシュ)に、浸水が到達し排水機場運転開始水位より堤内側水位が上回った場合に、排水機場の排水量分を氾濫域外へ排水し、浸水が解消し排水機場運転停止水位より堤内側水位が下回った場合に停止する。
【0132】
排水機場の内外水位が推察できない場合には、この方法が有効となる。排水機の排水量と内水湛水量について、水収支は以下の数14、数15、数16となる。
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
ここで、V:排水機場の排水機による排水が可能な領域における堤内側水量;Qin:排水機場への流入流量、Qout:堤外排水量、Qpa:排水機の排水能力、Δt:計算上の時間刻みである。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の内水氾濫解析装置、内水氾濫解析方法、内水氾濫解析プログラム及びコンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記憶した機器を使用して、特定の地域の内水氾濫を正確に解析することが可能となる。例えば実際の降雨時に官公庁がウェブ上で提供するリアルタイムの内水氾濫モニタや、ハザードマップの作成等に資することができる。また将来の浸水領域の予測、被害予測や避難経路の策定といった防災などに役立てることができる。
【符号の説明】
【0138】
100…内水氾濫解析装置
200…内水氾濫解析プログラムのユーザインターフェース画面
10…入力部
11…有効降雨量取得部
12…地形情報取得部
20…操作部
30…演算部
31…堤内地氾濫流解析部
32…流入地域流下解析部
33…流下施設流入溢水解析部;33a…開水路流入溢水解析部;33b…下水管渠流入溢水解析部
34…貯留施設流入流出解析部
35…浸透施設浸透解析部
36…排水解析部;36a…自然排水解析部;36b…強制排水解析部
37…河川排水解析部
40…表示部
50…データ記憶部