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特許7117040生鮮物の電界処理装置および生鮮物の電界処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】生鮮物の電界処理装置および生鮮物の電界処理方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/30 20160101AFI20220804BHJP
   F25D 23/00 20060101ALI20220804BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20220804BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20220804BHJP
   A23B 4/015 20060101ALI20220804BHJP
   A23B 9/06 20060101ALI20220804BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20220804BHJP
   A23L 3/32 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A23L5/30
F25D23/00 302Z
A23L13/00 A
A23L17/00 A
A23B4/015
A23B9/06
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
A23L3/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021129879
(22)【出願日】2021-08-06
(65)【公開番号】P2022077956
(43)【公開日】2022-05-24
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2020188561
(32)【優先日】2020-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520287356
【氏名又は名称】株式会社GIANT
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】リー ジュンソク
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】磯部 孝
【審査官】飯室 里美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/132046(WO,A1)
【文献】国際公開第98/041115(WO,A1)
【文献】特開2019-041756(JP,A)
【文献】特開2004-089905(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00
A23L 13/00
A23L 17/00
A23L 19/00
A23B
B01J 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生鮮物の電界処理方法であって、
少なくとも2つの電極が0.5mm~3.0mmの範囲で近接されることで局所的に600V/m以上、7400V/m以下の電界強度の範囲となるように、前記少なくとも2つの電極がパネル状に形成される通電部を介して生鮮物に対して交流電界を印加させる工程と、
導体となる生鮮物、または、導体となる生鮮物が収容され、導体または不導体により形成される容器を、垂直方向および/または水平方向に所定距離内で複数配列させる工程と、
前記通電部を介して前記電極の近傍に配置される導体に前記電界強度の範囲の交流電界を印加し、当該導体の近傍において前記電界強度の範囲の交流電界を連続的に形成し、前記導体の配列される方向に前記交流電界を印加する範囲を延伸することで、前記生鮮物を構成する細胞膜の生体機能を維持する工程と、を含む、生鮮物の電界処理方法。
【請求項2】
前記通電部は、パネル状の面の法線方向を垂直として配置され、
複数の導体である前記生鮮物および/または前記容器は、前記通電部に積み重ねられるよう載置される、請求項1に記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項3】
前記通電部は、パネル状の面の法線方向を水平として配置され、
複数の導体である前記生鮮物および/または前記容器は、前記通電部に近接する位置から順に前記導体が互いに所定距離内となるよう載置される、請求項1に記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項4】
前記通電部は、前記電極を備え前記生鮮物を収容する容器を載置可能な棚板と、前記棚板を支持する支柱と、を備え、
前記電極を、容器に収容されている前記生鮮物を冷凍または冷蔵する冷凍庫または冷蔵庫の内壁面、床面、天井面から所定距離により離間し、設置する工程と、
前記支柱および前記電極を導通し、前記容器に収納されている前記生鮮物に前記交流電界を印加させる工程と、を含む、請求項1~請求項3の何れかに記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項5】
前記通電部は、垂直方向に複数の前記棚板を有し、
上段および下段における前記棚板は、前記上段および前記下段の間に垂直方向に配列される前記容器に収納されている前記生鮮物に前記交流電界を印加させる工程を含む、請求項4に記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項6】
前記通電部は、局所的に強い電界を形成する空隙または空孔を有する少なくとも1つの電極を備える、請求項1~請求項5の何れかに記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項7】
少なくとも1つの前記電極は、生鮮物および/または容器を載置可能な平面部を有する、請求項6に記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項8】
少なくとも1つの前記電極は、くし状である請求項6または請求項7に記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項9】
少なくとも一方の前記電極は、長手方向に複数のスリットを有し、長手方向に折り畳み可能または巻き取り可能にシート状に形成される、請求項6~請求項8の何れかに記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項10】
前記交流電界の周波数は、25~150kHZである、請求項1~請求項9の何れかに記載の生鮮物の電界処理方法。
【請求項11】
生鮮物の電界処理装置であって、
少なくとも2つの電極が0.5mm~3.0mmの範囲で近接されることで局所的に600V/m以上、7400V/m以下の電界強度の範囲となるように、前記少なくとも2つの電極がパネル状に形成される通電部を備え、
前記通電部は、
垂直方向および/または水平方向に所定距離内で複数配列される、導体となる生鮮物、または、導体となる生鮮物が収容され、導体または不導体により形成される容器に対して、
前記電極の近傍に配置される導体に前記電界強度の範囲の交流電界を印加し、当該導体の近傍において前記電界強度の範囲の交流電界を連続的に形成し、前記導体の配列される方向に前記交流電界を印加する範囲を延伸することで、前記生鮮物を構成する細胞膜の生体機能を維持する、生鮮物の電界処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生鮮物の電界処理装置およびその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮物に対して静電波に相当する交流電界を印加することで、電界処理を行い、生鮮物の鮮度保持または熟成促進を行う試みがされている。
【0003】
特許文献1によれば、畜肉、魚肉、鶏肉、野菜、果物等の食品を電場雰囲気中に設置して鮮度保持処理又は熟成処理をする場合において、食品に電場を形成する電源の正弦波を整流して正(+)の波成分からなる正(+)波整流と負(-)の波成分からなる負(-)波整流を行い、鮮度保持の場合は負波整流を食品に印加し、熟成処理の場合は正波整流を食品に印加するようにした電場印加方法についての発明が開示されている。
【0004】
特許文献1記載発明は、正弦波を整流して正(+)の波成分を整流した半波整流又は全波整流を食品に印加すると肉、魚、野菜(キムチ等)の熟成を促進させることができ、逆に負(-)の波成分を整流した半波整流又は全波整流を食品に印加すると、肉、魚、野菜等の鮮度保持を促進させることができ、目的に応じて電源の選択的制御が行える。
【0005】
特許文献2によれば、電場、磁場、電磁場、電磁波、音波及び超音波の中の少なくとも1つを発生する少なくとも1つの電極に対して、直流成分及び/又は交流成分を有する所定の電圧ないし電流を印加することにより、前記電極に対向して配置された物質の内部に存在する水分同士を結合状態とし、前記物質の有する性質を向上することが可能なことを特徴とする水分制御装置が開示されている。
【0006】
生鮮物に交流電界を印加することにより、生鮮物の鮮度維持または熟成促進の効果を得られることはすでに知られているが、その効果の最大化のために発展の余地があるもの、と把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5964989号公報
【文献】国際公開第2019/132046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、生鮮物の電界処理にかかる新規な技術を提供することを、解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、生鮮物の電界処理装置であって、生鮮物を収納する容器に設置可能な携行可能なパネル状の通電部を備え、前記通電部は、前記生鮮物に交流電界を印加可能であり、前記生鮮物に前記交流電界を印加することで前記生鮮物を構成する細胞膜の生体機能を維持する。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、空隙または空孔を有する電極を備える。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記電極は、くし状である。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、前記電極を備え前記容器を載置可能な棚板と、前記棚板を支持する支柱と、を備え、前記支柱および前記電極は導通する。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記交流電界の周波数は、25~150kHZである。
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、生鮮物の電界処理方法であって、生鮮物を収納する容器に設置可能な携行可能なパネル状の通電部に、前記生鮮物に交流電界を印加させる工程と、前記通電部に、前記生鮮物に前記交流電界を印加することで前記生鮮物を構成する細胞膜の生体機能を維持する工程と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、冷凍庫または冷蔵庫に収納され冷凍または冷蔵されている前記容器に収納されている前記生鮮物に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、前記生鮮物である肉類に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、前記生鮮物である野菜類に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、前記生鮮物である花き類に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、前記生鮮物である魚介類に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、死後硬直後の前記生鮮物である活魚に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、死後硬直前の前記生鮮物である活魚に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、締められた直後の前記生鮮物である活魚に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記通電部に、神経締め直後の前記活魚に前記交流電界を印加させる工程を含む。
【0024】
また、本発明は、生鮮物の電界処理方法であって、2つの電極が接近されることで局所的に強い電界を形成するパネル状の通電部を介して前記生鮮物に対して交流電界を印加させる工程と、前記生鮮物に前記交流電界を印加することで前記生鮮物を構成する細胞膜の生体機能を維持する工程と、を含む。
このような方法とすることで、パネル状の通電部の近傍において局所的に強い電界が安定的に形成され、当該電界領域において均一かつ強い電界でもって生鮮物を電界処理することができる。
【0025】
本発明の好ましい態様では、生鮮物が収容された容器を、垂直方向および/または水平方向に所定距離内で複数配列させる工程と、前記通電部を介して前記生鮮物が配列される方向に対して交流電界を印加させる工程と、を含む。
このような方法とすることで、導体となる生鮮物または容器が連続的に導体として電界を形成し、電界強度が維持された範囲を延伸することができる。
【0026】
本発明の好ましい態様では、導体である前記生鮮物および/または前記生鮮物が収容された容器は、前記通電部に対して近接して配置される。
このような方法とすることで、通電部の近傍において形成される局所的に強い電界を、導体である生鮮物および/または容器に作用させることができる。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、パネル状の面の法線方向を垂直として配置され、複数の導体である前記生鮮物および/または前記容器は、前記通電部に積み重ねられるよう載置される。
このような方法とすることで、パネル状の通電部に載置された複数の生鮮物および/または容器がそれぞれ導体となり、強い電界強度を維持し、その範囲を垂直方向に延伸させることができる。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、パネル状の面の法線方向を水平として配置され、複数の導体である前記生鮮物および/または前記容器は、前記通電部に近接する位置から順に前記導体が互いに所定距離内となるよう載置される。
このような方法とすることで、パネル状の通電部に近接して配置された複数の生鮮物および/または容器がそれぞれ導体となり、強い電界強度を維持し、その範囲を水平方向に延伸させることができる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記容器は、表面を絶縁被覆された導体により形成される。
このような方法とすることで、容器を導体とする場合、独立した導体による連続的な配列を実現することができる。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、前記電極を備え前記容器を載置可能な棚板と、前記棚板を支持する支柱と、を備え、前記電極を、前記容器に収容されている前記生鮮物を冷凍または冷蔵する冷凍庫または冷蔵庫の内壁面、床面、天井面から所定距離により離間し、設置する工程と、前記支柱および前記電極を導通し、前記容器に収納されている前記生鮮物に前記交流電界を印加させる工程と、を含む。
このような方法とすることで、冷蔵庫または冷蔵庫が導体となり電界強度が低下することを抑制することができる。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記通電部は、垂直方向に複数の前記棚板を有し、上段および下段における前記棚板の電極は、前記上段および前記下段の間に垂直方向に配列される前記容器に収納されている前記生鮮物に前記交流電界を印加させる工程を含む。
このような方法とすることで、上段下段における電極の間に位置する生鮮物に対して双方から電界処理することができる。
【0032】
本発明の好ましい形態では、少なくとも1つの前記電極は、生鮮物および/または容器を載置可能な平面部を有する。
このような構成とすることで、電極における機械的強度が高まり、生鮮物などを好適に載置可能となる。
【0033】
本発明の好ましい形態では、少なくとも一方の前記電極は、長手方向に複数のスリットを有し、長手方向に折り畳み可能または巻き取り可能にシート状に形成される。
このような構成とすることで、スリットによる通気性向上や冷凍性・冷蔵性を向上させることができ、好適な鮮度維持、熟成促進に貢献する。また、スリットが形成された方向に対して折り畳みまたは巻き取りが容易となり携帯性が向上する。
【0034】
本発明の好ましい形態では、前記交流電界の電界強度は、600V/m以上であり、7400V/m以下である。
このような条件とすることで、生鮮物の鮮度維持について高い効果が得られる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、生鮮物に交流電界を印加することで、生鮮物の鮮度維持または熟成促進の効果の最大化に寄与できる、と把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】実施形態1にかかる生鮮物の電界処理装置の概要図である。
図2】実施形態1にかかる通電部の概要図である。
図3】実施形態1にかかる通電部の概要図である。
図4】実施形態2にかかる通電部の概要図である。
図5】実施形態2にかかる通電部の概要図である。
図6】実施形態2にかかる通電部の概要図である。
図7】経過時間とその硬直指数の測定結果を示す。
図8】帯電体と導体により形成される電界の概要図である。
図9】通電部と容器の配置例の概要図である。
図10】通電部からの距離とその電界の測定結果を示す。
図11】実施形態にかかる通電部の斜視図および上面図を例示する。
図12】実施形態にかかる通電部の斜視図および上面図を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0037】
《実施形態1》
本発明の一実施形態を以下に説明する。一実施形態は、公知技術の構成などに基づき適宜、変形可能である。なお、一部の符号は図示されない。
【0038】
図1に例示するように、生鮮物3の電界処理装置は、生鮮物3を収納する容器2に設置可能な携行可能なパネル状の通電部1を備える。
【0039】
容器2は、冷凍庫または冷蔵庫に収納されてよく、冷凍庫または冷蔵庫であってよい。このとき、生鮮物3は冷凍または冷蔵されている。
【0040】
容器2は、発泡スチロールを含んでよく、ブラスチックを含んでよく、海水などの液体を内包してよく、氷またはドライアイスを内包してよい。なお、容器2の形状および寸法に制限はなく、開口していてもよい。
【0041】
通電部1は、生鮮物3に交流電界を印加可能であり、生鮮物3に交流電界を印加することで生鮮物3を構成する細胞膜の生体機能を維持することができる。また、通電部1は冷蔵又は冷凍の容器内に設置された場合、容器内の均一な低温環境を維持させるため冷気の循環を妨げないよう空隙を有する構造が望ましい。また、通電部1の上または近傍に生鮮物3が設置された際に生鮮物3に有効にかつ均一な電界環境に曝露されるよう、局所的に強い電界を形成できる構造が望ましい。
【0042】
ここで、通電部1は、死後硬直前の生鮮物3に交流電界を所定時間、継続して印加することで、生鮮物3を構成する筋小胞体の細胞膜における電波吸収による膜充電および膜ストレス印加を行い、筋小胞体の細胞膜をジュール熱により熱化しポア形成を行い、筋小胞体の細胞膜におけるCa2+のイオンチャネル機能を維持し、生鮮物3におけるATP(アデノシン三リン酸)消費を遅滞させ(抑制し)、結果として、生鮮物3の鮮度維持を図ることができる。
【0043】
ここで、筋小胞体におけるCa2+の取込低下にともないATPアーゼが活性化した結果として、死後硬直前の生鮮物3の鮮度が低下し、死後硬直前の生鮮物3の鮮度維持が好適に実現されなくなるもの、と把握することができる。
【0044】
このような構成とすることで、本発明は、死後硬直前の生鮮物3の電界処理を行うことで、生鮮物3にかかる死後硬直前の時間を長くすることができる。
【0045】
また、ここで、通電部1は、死後硬直後のATPが枯渇した生鮮物3に交流電界を所定時間、継続して印加することで、生鮮物3を構成する筋小胞体の細胞膜における電波吸収による膜充電および膜ストレスを発生させ、筋小胞体の細胞膜をジュール熱により熱化しポア形成を行い、筋小胞体の細胞膜におけるCa2+のイオンチャネル機能を維持し酵素反応を維持し、ATPからうま味の主成分に相当するIMP(イノシン酸)への代謝を優先的に促進し、結果として、生鮮物3の熟成促進を図ることができる。
【0046】
ここで、時間経過などによる解硬期への移行にともないIMPからHx(ヒポキサンチン)を生成する反応が生じ、さらに、生鮮物3におけるTMAO(トリメチルアミンオキサイド)をTMAに還元する細菌の活発化などにより、結果として、死後硬直後の生鮮物3の腐敗が進み、死後硬直後の生鮮物3の熟成促進が好適に実現されなくなるもの、と把握することができる。
【0047】
このような構成とすることで、本発明は、死後硬直後の生鮮物3の電界処理を行うことで、生鮮物3の腐敗を抑制しながら生鮮物3にうま味成分を凝縮させるような熟成を実現することができる。
【0048】
通電部1は、1または複数の電極11を備え、コントローラと接続する。また、通電部1は、その表面および裏面において複数の孔を有し電極11を内包する筐体12を備える。筐体12は、好ましくは、パネル状である。
【0049】
通電部1は、好ましくは、携行可能である。本明細書中の説明における「携行可能なもの」とは、ヒトが手に持てる程度に小型化されたものであり、車両に複数、搬入または積載できる程度に小型化されたものである。
【0050】
コントローラは、電源から電圧および周波数などを通電部1に印加する。また、コントローラは、プロセッサなどの演算装置を備えるコンピュータ装置であってよく、ネットワークを介し他のコンピュータ装置を通信可能であってよい。
【0051】
生鮮物3に印加される交流電界にかかる電圧に制限はなく、例として、100~600Vの範囲で有利な効果を有する。なお、生鮮物3に印加される電界強度は、100~10000V/mの範囲で有利な効果を有し、600V/m~7400V/mの範囲でより有利な効果を有し、2000V/m~6000V/mの範囲で更に有利な効果を有する。また、生鮮物3に印加される電界強度は、4000V/mにおいて特に顕著な効果を有する。
【0052】
生鮮物3に印加される交流電界にかかる電流に制限はなく、例として、0.5mA~10mAの範囲で有利な効果を有する。
【0053】
生鮮物3に印加される交流電界の周波数に制限はなく、例として、25kHz~150kHzの範囲で有利な効果を有し、50kHzで有利な効果を有し、80kHzで更に有利な効果を有する。
【0054】
生鮮物3に印加される交流電界の電界強度に制限はなく、例として、10~20,000V/mの範囲で有利な効果を有する。
【0055】
通電部1が備える1または複数の電極11は、空隙または空孔を有する。ここで、空隙または空孔の形状および寸法に制限はない。なお、電極11は、一極であってよく、二極であってよい。
【0056】
通電部1が備える筐体12は、その側面の少なくとも一面が保護カバーにより被覆されていてよい。
【0057】
図2に例示されるように、電極11は、くし状である。また、通電部1は、図2に例示されるように、2のくし状の電極11(電極11aおよび電極11b)が所定距離、離間し、空隙を形成するよう接近されてなってよい。このとき、2の電極11は、それぞれ、異なる極性の電極11として作用し、二極の電極11として作用することは勿論である。
【0058】
図3に例示されるように、くし状の電極11における空隙は斜め方向を呈してよい。ここで、通電部1は、図3に例示されるように、2のくし状の電極11(電極11cおよび電極11d)が所定距離、離間し、空隙を形成するよう接近されてなってよい。電極11における空隙または空孔が呈する方向に制限はない。
【0059】
なお、電極11の電極材料およびコーティング材料に制限はない。
【0060】
《実施形態2》
本明細書は、本発明にかかる実施形態2について説明する。なお、実施形態1にかかる各構成は、実施形態2においても適宜、採用することができる。
【0061】
図4および図5に例示されるように、通電部1は、電極11を備え容器2を載置可能な棚板4と、棚板4を支持する支柱5と、を備える構成であってよい。このとき、通電部1は、容器2の外部に設置されるものであり、容器2を載置可能なものである。
【0062】
ここで、支柱5、および、棚板4に備えられる電極11は、電気的に接続され導通してよい。ここで、棚板4の支持機構の種別に制限はない。なお、支柱5の何れかは、何れかの電極11と導通しない構成であってよい。
【0063】
また、図6に例示されるように、通電部1は、通電部1aおよび通電部1bを備える構成であってよい。ここで、通電部1aおよび通電部1bは、電気的に絶縁される。また、ここで、何れかの支柱5は、通電部1aに備えられ、他の支柱5は、通電部1bに備えられる構成であってよい。このような構成とすることで、棚板4に載置された生鮮物3に対して上下方向(z方向に相当)から交流電界を印加することができる。
【0064】
なお、棚板4に載置される容器2の数量に制限はない。そして、容器2は互いに積み重ねられるような機構・形状の構成をとってよい。なお、容器2の材料は、導電性や通電性を有する材料であることが好ましい。
【0065】
生鮮物3は、例として、肉類、野菜類、花き類および魚介類を含む群から適宜、選択され得る。また、生鮮物3は、例として、死後硬直後の活魚であり、死後硬直前の活魚であり、締められた直後の活魚であり、野締め直後の活魚であり、活締め直後の活魚であり、神経締め直後の活魚である。
【0066】
《実施例1》
実施例1では、生鮮物3の電界処理(鮮度維持)を行った。なお、実施例1における生鮮物3は死後硬直前の活魚(例として、生本マグロ、真鯛、カンパチ、サバ、アジなど)である。
【0067】
実施例1にかかる条件は、以下のとおりである。
〈条件A〉:野締め
〈条件B〉:活締め
〈条件C〉:神経締め
〈条件D〉:神経締め+交流電界印加
条件Dの交流電界への暴露における電圧、電流、周波数および印加時間は、それぞれ、100V、0.6mA、50kHzおよび1時間である。また、条件Dにおける交流電界は、神経締めの直後に行われる。なお、条件A~Dにおいて生鮮物3は、真鯛、カンパチを用いて冷蔵温度下による評価実験を行った。
【0068】
上記条件A~Dにおける生鮮物3にかかる死後硬直を経た完全硬直までの時間は、それぞれ、6時間(条件A)、8時間(条件B)、24時間(条件C)および72時間(条件D)であった。つまり、実施例1において、条件Dの死後硬直完了までの時間が最も長かった。また、条件A~Dについて、生鮮物3として真鯛、カンパチ以外の上記例示した活魚に対して交流電界を印加することで、同様に死後硬直完了までの時間が延伸することが確認された。よって、生鮮物3に対する交流電界の印加により、生鮮物3の鮮度維持が実現されたもの、と把握することができる。
【0069】
《実施例2》
実施例2において電界の印加の有無によるマダイの活〆後から完全硬直までの経過時間と、経過時間における硬直指数の評価実験を行った。なお、評価実験の条件は以下の通りである。
【0070】
《電界印加なし》
生鮮物:マダイ
質量:1848g
保管温度:0~4時間まで8.5℃、4~30時間まで4℃
《電界印加あり》
生鮮物:マダイ
質量:1759g
保管温度:0~4時間まで8.5℃、4~30時間まで4℃
電界強度:2000V/m
周波数:80kHz
【0071】
硬直指数は、活〆時のマダイの背筋中心部から尾びれの付根までの長さLと、経過時間における長さLと、として以下の式(1)で表される。硬直指数は、高くなるほど死後硬直が進行し、鮮度が低下していることを示す。
【0072】
【数1】
【0073】
図7は、経過時間と硬直指数の評価実験結果を示す。図7において、点線のグラフは、電界印加なしの測定結果を示し、実線のグラフは電界印加ありの測定結果をそれぞれ示す。
【0074】
電界印加ありの評価結果は、電界印加なしの評価結果と比較して硬直指数が低い。この結果は、電界による細胞膜への電波吸収によってCaイオンチャネルなど細胞膜機能が維持されたことでATP減少が抑制されたことを示唆する。また、硬直指数変化を線形近似した推定によると、電界印加ありの評価結果は、完全硬直(硬直指数100)に到達する時間比で約184%の鮮度維持時間が延伸されることが示された。
【0075】
《実施例3》
実施例3では、冷蔵庫内で-1℃の温度条件下で管理されている生鮮物3の電界処理(熟成促進)を行った。なお、実施例3における生鮮物3は魚の切り身である。ここで、生鮮物3はバットである容器2に載置され、容器2直下の通電部1により交流電界が印加される。
【0076】
実施例3にかかる生鮮物3は、生本マグロの切り身(中トロ)および冷凍本マグロの切り身(大トロ)である。以下、各条件を記す。
〈条件E〉:生本マグロの切り身
〈条件F〉:生本マグロの切り身+交流電界印加
〈条件G〉:冷凍本マグロの切り身
〈条件H〉:冷凍本マグロの切り身+交流電界印加
ここで、生本マグロとは、冷凍されていない本マグロに相当し、死後硬直が進行したもの、死後硬直後に更に解硬されたものなどを含む。また、実施例3にかかる交流電界の諸条件は、印加時間を除き、実施例1にかかる交流電界の諸条件と同一である。当該印加時間は、2日間である。
【0077】
実施例3にかかる生鮮物3である生本マグロの切り身の熟成について、上記条件Eおよび条件Fの結果を比較しその効果を説明する。
【0078】
条件Eにかかる生本マグロの切り身は、2日間を経て、全く変色はなかった。条件Fにかかる生本マグロの切り身も同様に、交流電界の継続的な印加(2日間)を経て、全く変色がなかった。
【0079】
実施例3にかかる生鮮物3である冷凍本マグロの切り身の熟成について、上記条件Gおよび条件Hの結果を比較しその効果を説明する。
【0080】
条件Gにかかる冷凍本マグロの切り身は、10時間経過後には、変色していた。一方、条件Hにかかる冷凍本マグロの切り身は、交流電界の継続的な印加(2日間)を経て、全く変色がなかった。このことから、生鮮物3に対する交流電界の印加により、生鮮物3の腐敗を抑制しながら熟成促進を実現することができた、と把握することができる。
【0081】
なお、条件Eであれば表面を削ぎ落として提供されるような切り身について、条件F表面を削ぎ落とす必要をなくすような改善を実現することができるもの、と把握することができる。
【0082】
《実施例4》
実施例4では、生鮮物3の電界処理(鮮度維持、熟成促進)を行った。実施例4にかかる生鮮物3は、本マグロの切り身である。以下、各条件を記す。
〈条件I〉:周波数50Hz
〈条件J〉:周波数20kHz
〈条件K〉:周波数50kHz
〈条件L〉:周波数80kHz
〈条件M〉:周波数200kHz
〈条件N〉:周波数1MHz
条件I~Nにおける交流電界にかかる電圧、電流および印加時間は、それぞれ、100V、0.6mAおよび1週間である。
【0083】
実施例4にかかる生鮮物3である本マグロの切り身の熟成について、上記条件I~Mの結果を以下の表で比較しその効果を説明する。なお、結果は、評価者3名が、匂い、色味、身張りおよびドリップ量の評価項目を総合的に判断し段階評価している。
【0084】
【表1】
【0085】
条件Iおよび条件Nでは、「×」(3名とも何れかの評価項目で問題有り、と判断)の結果となっている。条件Jおよび条件Mでは「△」(1名以上何れかの評価項目で問題有り、と判断)の結果となっている。条件Kでは、「○」(3名とも何れかの評価項目で問題無し、と判断)の結果となっている。条件Lでは、「◎」(3名とも何れかの評価項目で良好である、と判断)の結果になっている。よって、50kHzの条件において好適に生鮮物3の鮮度維持するとともに熟成促進を行うことができ、80kHzの条件において更に好適に生鮮物3の鮮度維持するとともに熟成促進を行うことができる、と把握することができる。
【0086】
《実施例5》
実施例5では、生鮮物3の電界処理(鮮度維持、熟成促進)を行った。実施例5にかかる生鮮物3は、マダイの切り身である。以下、各条件を記す。
〈条件O〉:電界強度100V/m
〈条件P〉:電界強度500V/m
〈条件Q〉:電界強度2000V/m
〈条件R〉:電界強度4000V/m
〈条件S〉:電界強度10000V/m
条件O~条件Sにおける周波数は、80kHzとした。
【0087】
実施例5にかかる生鮮物3であるマダイの切り身の鮮度について、上記条件O~条件Sの結果を以下の表に示す。なお、結果は、評価者3名が、匂い、色味、身張りおよびドリップ量の評価項目を総合的に判断し段階評価している。
【0088】
【表2】
【0089】
条件Oおよび条件Sでは「×」(3名とも何れかの評価項目で問題ありと判断)の結果となった。条件Pでは「△」(2名以上何れかの評価項目で問題ありと判断)の結果となった。条件Qでは「〇」(1名以上何れかの評価項目で問題ありと判断)の結果となった。条件Rでは「◎」(3名とも何れかの評価項目で問題なしと判断)の結果となった。したがって、電界強度2000V/mの条件Qにおいて好適に生鮮物3の鮮度維持するとともに熟成促進を行うことができ、電界強度4000V/mの条件Rにおいてより好適に生鮮物3の鮮度維持するとともに熟成促進を行うことができる、と把握することができる。また、電界強度が600V/m以上、7400V/m以下の範囲において、生鮮物3の鮮度維持について高い効果が得られるものと、把握される。
【0090】
本発明によれば、生鮮物3に交流電界を印加することで、生鮮物3の鮮度維持または熟成促進の効果の最大化に寄与できる、と把握することができる。
【0091】
《空間における電界強度》
生鮮物3に印加される交流電界の電界強度は、通電部1から距離が離れるにつれて空気中で減衰する。生鮮物3と通電部1との距離によって、生鮮物3に印加される電界強度が不均一となり、鮮度維持の程度に差が生じる問題があった。
【0092】
また、複数の生鮮物3を対象とする場合、電界処理範囲が広領域となり、全体の鮮度維持を一定程度以上とするためには通電部1における交流電界の出力を上げる必要などが生じ、消費電力の高コスト化や安全面において問題があった。
【0093】
本発明にかかる一実施形態では、生鮮物3が収容された容器2を、垂直方向および/または水平方向に所定間隔で配列させることで、通電部1から離れて位置する生鮮物3に印加される交流電界の電界強度を、通電部1の近傍に位置する生鮮物3に印加される交流電界の電界強度と同程度に維持することができる。
【0094】
図8(a)は、正の電荷により帯電した帯電体Eにより形成される電界の概要図を示す。図8(a)において矢印は、電界の向きを示す。電界強度は、帯電体Eより離れるにつれて指数関数的に減衰する。ここで、帯電体Eは、通電部1であってよい。
【0095】
図8(b)は、図8(a)における帯電体Eの近傍に導電性を有する導体Cを配置した場合、形成される電界の概要図を示す。図8(b)のように、電界の形成される範囲は、導体Cを配置することで任意の方向に延伸される。なお、図示例において、導体Cは1つのみ示したが、電界方向に連続的に導体Cを配置することで電界の形成される範囲は更に延伸される。
【0096】
導体Cは、生鮮物3であってよい。容器2は、導電性を有さない不導体であってもよく、生鮮物3は導体Cとして、電界の形成に寄与する。
【0097】
導体Cは、容器2であってよい。容器2は、導体Cとして、電界の形成に寄与する。また、容器2および生鮮物3の双方を導体Cとすることで、導体C間の距離をより短くし、電界強度の減衰を低減することができる。
【0098】
延伸された電界の範囲における電界強度は、帯電体Eにおける電荷に依存するため、通電部1は、局所的に強い電界を形成できる構造が望ましい。通電部1は、2の電極11が所定距離、離間し、空隙を形成するよう接近されてなってよい。2の電極11の近傍における局所的に強い電界強度は、連続的に配置される導体Cにより延伸方向に減衰が抑制されるため、延伸方向の先端においても一定の電界強度が維持される。
【0099】
帯電体E(通電部1)と導体C(容器2および/または生鮮物3)は、所定距離内で近接して配置される。通電部1の表面は、絶縁被膜によりコーティングされ、絶縁被膜と導体Cは接触するよう配置されてもよい。なお、容器2を導体Cとする場合、容器2の表面も、絶縁被膜によりコーティングされ、通電部1の絶縁被膜と容器2の絶縁被膜が接触するよう配置されてもよい。ここで、帯電体Eと導体Cの距離は、好ましくは10cm以下、より好ましくは1cm以下、より好ましくは1mm以下である。また、帯電体Eと導体Cの距離は、0.1μm以上とする。なお、絶縁被膜の厚みは、0.1μm以上、1mm以下である。
【0100】
導体Cと、隣接する導体Cとは、所定距離内で近接させて配置される。容器2は、発泡スチロールやブラスチック、陶器など不導体により形成される場合、容器2に収容される生鮮物3と、隣接する容器2に収容される生鮮物3と、が所定距離内で近接するよう垂直方向および/または水平方向の容器2の寸法を制限するのが好ましい。
【0101】
容器2は、アルミニウムなど金属材料の導体により形成される場合、容器2の表面は、絶縁被膜によりコーティングされる。容器2は、互いに積み重ねられるか、水平方向に隙間なく並べて配列されるような機構・形状とし、好ましくは絶縁被膜を介して接触して配列される。なお、容器2の絶縁被膜の厚みは、0.1μm以上、1mm以下である。
【0102】
図9は、生鮮物3が収容された容器2の配列と、通電部1の配置例を示す。図9における矢印は、導体である生鮮物3および/または容器2を配置することによる電界の延伸方向を示す。図9(a)に例示するように、容器2は、パネル状の通電部1に載置され、互いに積み重ねられるように垂直方向に配列される。なお、通電部1は、容器2の上部に配置されてもよい。図9(b)に例示するように、容器2は、水平方向に並べて配列され、通電部1は、容器2の左右の少なくとも何れか一方に近接させて配置される。なお、容器2は互いに所定距離内となるよう近接させて配列される。通電部1は、2の電極により形成され、容器2に対して上下左右および前後の少なくとも何れか一面に設置されればよく、複数の面に設置されてもよい。
【0103】
容器2の配列や形状は、図9の例に制限されず、容器2および/または生鮮物3を導体として、通電部1からの導体の連続性が維持される配置であればよい。例えば、生鮮物3は、袋や真空パックに収容され、垂直方向に積み重ねられるように、または、水平方向に並べて配列されてもよい。
【0104】
実施形態2において、通電部1は、垂直方向に複数の棚板4を有し、上段および下段の間に垂直方向に配列される容器2に収容される生鮮物3に対して双方の通電部1より交流電界を印加させてもよい。
【0105】
また、通電部1を冷凍庫または冷蔵庫に設置する場合、電極11は、冷凍庫または冷蔵庫の内壁面、床面、天井面から所定距離により離間し、設置する。所定距離は、1cm以上であることが好ましい。これにより、電極11と内壁面などとが近接し、内壁面などが導体となり電界強度が低下することを抑制することができる。
【0106】
上述した説明の通り、垂直方向および/または水平方向に配列された導体により通電部1より離れた位置であっても均一に電界強度が維持される。導体の設置前後において電界強度が通電部1から離れた位置においてどの程度維持されるか測定し、評価を行った。
【0107】
測定条件は、以下の通りである。電極11の構造は、図3に示すようなくし状とした。電極11の近傍(0cm)における電界強度は、3000V/mとした。容器2は、導体としてアルミニウム材料とした。1つの容器2の高さは3cmとし、5つの容器2を通電部1上に載置し、容器2による最大高さを15cmとした。
【0108】
図10は、導体なし/導体ありの場合における通電部1からの距離(cm)と、その距離における電界(V/m)の測定結果を示す。図10において、一点鎖線のグラフは導体なしの測定結果を示し、実線のグラフは導体ありの測定結果をそれぞれ示す。
【0109】
導体なしの電界強度は、通電部1から1cmの距離で2026V/mまで減衰し、15cmの距離で224V/mまで減衰した。導体ありの電界強度は、通電部1から15cmの距離まで2936V/mで維持され、導体がなくなる16cm以上の距離で減衰した。
【0110】
測定結果が示すように、導体Cである容器2を配列させることで、容器2が配列されている範囲において電界強度は一定に維持されている、と把握することができる。したがって、垂直方向に積み重ねられた容器2内に収容される全ての生鮮物3は、通電部1の近傍における電界強度と同程度の電界強度の交流電界が印加され、通電部1からの距離による鮮度維持の程度に差がなく、効果的な生鮮物の鮮度維持を実現することができる、と把握することができる。また、通電部1の近傍で所望の電界強度となるよう出力を設定することで、全体の生鮮物3に対する電界強度を容易に制御でき、また、電力コストを抑えることができる。
【0111】
以下、本発明における好適な通電部1の構成例を説明する。
【0112】
図11(a)は通電部1の斜視図を例示し、図11(b)は通電部1の上面図を例示する。図4によると、通電部1は、2のくし状の電極11eと電極11fが所定距離、離間し、空隙を形成するよう近接して配置される。2の電極11は、それぞれ形状、大きさが異なってよい。また、2の電極11は、同様の形状、大きさであってもよい。2の電極11の少なくとも一方は、くし部111と、平面部112と、を備える。平面部112は、容器2が載置され、十分な機械的強度を有すれば図示例の形状、大きさに限定されない。電極11の表面は、筐体12(図示せず)により覆われてよい。2の電極11のそれぞれの一端は、コントローラ13に電気的に接続される。
【0113】
図12(a)は通電部1の斜視図を例示し、図12(b)は通電部1の上面図を例示する。図12によると、通電部1は、2のくし状の電極11gと電極11hが所定距離、離間し、空隙を形成するよう近接して配置される。2の電極11の少なくとも一方(図12において電極11h)は、くし部111と、平面部112と、を備え、平面部112は、スリットSを有する。スリットSは、電極11hの短手方向に矩形または楕円形に形成され、当該スリットSが長手方向に複数配列されてよい。スリットSは、その数量や形状に制限はなく、例えば、形状を空孔とし、長手方向および短手方向にそれぞれ複数配列されてもよい。また、スリットSは、長手方向に矩形または楕円形に形成され、短手方向に複数配列されてよい。電極11の表面は、筐体12(図示せず)により覆われてよい。2の電極11のそれぞれの一端は、コントローラ13に電気的に接続される。
【0114】
電極11は、折り畳み可能またはロール状に巻き取り可能にシート状に形成されてよい。電極11は、銅やアルミニウムなど金属を含む導電性を有する材料により形成され、厚みは、0.05mm-0.5mmが好ましい。電極11は、形状記憶効果を有する導電性を有する材料により形成されてもよい。電極11は、図12のようなスリットSが長手方向に複数形成されることで、折り畳みまたは巻き取りによる変形を容易とし、また、軽量化により携帯性を向上させることができる。
【0115】
2の電極11による空孔または空隙は、局所的に強い電界強度とするため、近接して配置され、その電極間距離は、0.5mm―3.0mmの範囲が好ましい。
【0116】
筐体12は、絶縁性を有し、耐水性を有し、折り畳みまたは巻き取り可能な弾塑性を有する材料により形成される。なお、筐体12は、電磁界に対して透明性を有する。
【0117】
コントローラ13は、バッテリーを搭載してよく、通電部1は、携行可能であることが好ましい。また、コントローラ13は、温度センサ、湿度センサ、臭気センサなど生鮮物3の鮮度や管理状態の把握に有利な各種センサを搭載してもよい。また、コントローラ13は、GPS(Global Positioning System)を含むGNSS(Global Navigation Satellite System)デバイスを搭載してもよい。コントローラ13は、無線通信機能を有する通信デバイスを更に搭載し、上述した各種センサにより検出されるセンサ値および位置情報を所定のコンピュータ装置に送信可能に構成されることで、当該コンピュータ装置を介して生鮮物3の鮮度管理や、電界処理のための出力制御などを実行可能である。
【0118】
以上に示した通り、本発明に依れば、生鮮物3に対して電界を印加することで、生鮮物3の鮮度を維持する効果を実現することができる。また、通電部1により形成される局所的な強い電界強度を均一に延伸し、省電力かつ効率的に生鮮物3の鮮度を維持することができる。
【符号の説明】
【0119】
1 :通電部
2 :容器
3 :生鮮物
11 :電極

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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