(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20220804BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20220804BHJP
H01J 49/02 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H01J49/42 700
H01J49/42 150
H01J49/00 130
H01J49/00 310
H01J49/42 350
H01J49/02 200
H01J49/02 500
(21)【出願番号】P 2021153526
(22)【出願日】2021-09-21
(62)【分割の表示】P 2019553577の分割
【原出願日】2018-04-04
【審査請求日】2021-10-01
(32)【優先日】2017-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509339821
【氏名又は名称】アトナープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【氏名又は名称】今井 彰
(72)【発明者】
【氏名】ブームセレク サイード
(72)【発明者】
【氏名】ムルティ プラカッシ スリダラ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン デイブ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特表平5-509437(JP,A)
【文献】特表平8-510084(JP,A)
【文献】特表2008-535168(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、
アキュムレータセクションが付随した質量フィルタであって、前記アキュムレータセクションは当該質量フィルタに統合され、分離されたイオンを当該質量フィルタから放出する前に前記アキュムレータセクションが蓄積する、質量フィルタと、
前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するよう構成されたイオン検出器と、
2つのモードで当該質量分析装置を制御するよう構成されたモジュールとを有し、
前記2つのモードの内の第1のモードは、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションを通し、蓄積せずに放出し、前記2つのモードの内の第2のモードは、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションで蓄積する、質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記質量フィルタは四重極アレイを含み、前記アキュムレータセクションはイオントラップアレイを含む、質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記質量フィルタに供給される電場または磁場と同じ電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給するよう構成されたモジュールをさらに有する、質量分析装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記マスフィルタに供給される電場または磁場とは異なる電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給するよう構成されたモジュールをさらに含む、質量分析装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記イオン化装置と、前記質量フィルタと、前記イオン検出器とを一体にするよう構成された筐体をさらに有する、質量分析装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記イオン化装置、前記質量フィルタ、および前記イオン検出器のいずれかを組み合わせるよう構成されたモジュール化部品をさらに有する、質量分析装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の質量分析装置と、
前記質量分析装置の出力を用いるよう構成されたモジュールとを含む、システム。
【請求項8】
請求項7において、
前記モジュールが、前記質量分析装置により検出された前記サンプルに関連する情報を出力するよう構成された出力ユニットを含む、システム。
【請求項9】
質量分析装置を制御することを含む方法であって、
前記質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し統合された質量フィルタと、前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器と、前記質量フィルタおよび前記アキュムレータセクションに供給される電場または磁場を制御するよう構成されたコントローラとを含み、
前記質量分析装置を制御することは、
前記コントローラを用いて、分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションに蓄積することを含む、方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記質量分析装置を制御することは、
前記コントローラを用いて、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションを通して、蓄積せずに放出することをさらに含む、方法。
【請求項11】
請求項9または10において、
前記質量分析装置を制御することは、
前記コントローラを用いて、前記質量分析装置に供給される電場または磁場と同じ電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給することをさらに含む、方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれかにおいて、
前記質量分析装置を制御することは、
前記コントローラを用いて、前記質量分析装置に供給される電場または磁場と異なる電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給することをさらに含む、方法。
【請求項13】
請求項10において、
前記質量分析装置を用いて、前記放出することを含む第1のモードにより、所定の質量電荷比のセットで、第1のスキャンを行うことと、
前記質量分析装置を用いて、前記蓄積することを含む第2のモードにより、前記質量電荷比のセットで、第2のスキャンを行うこととをさらに含む、方法。
【請求項14】
コンピュータにより質量分析装置を含むシステムを操作するためのコンピュータプログラムであって、前記質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し統合された質量フィルタと、前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器とを含み、
前記コンピュータプログラムは、
前記質量分析装置を用いて、分離されたイオンを前記質量分析装置から放出する前に、前記アキュムレータセクションを通して、蓄積せずに放出することを含む第1のモードによる、所定の質量電荷比のセットの第1のスキャンと、
前記質量分析装置を用いて、前記分離されたイオンを前記質量分析装置から放出する前に前記アキュムレータセクションに蓄積することを含む第2のモードによる、前記質量電荷比のセットの第2のスキャンとを実行するための実行可能なコードを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で、高度に集約された質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ハイブリッド質量分析計の設計と構造、および質量分析計の操作方法が開示されている。ハイブリッド質量分析計は、イオン源と、質量選択部と、第1の端を通じて質量選択部からイオンを受けとる長尺化された衝突室(コリジョンセル)とを有する。衝突室に接続された制御装置は、蓄積されたイオンを衝突室の第1の端から第1の質量分析装置(例えば、静電イオントラップ)へと、または衝突室の第2の端から第2の質量分析装置(例えば、二次元四重極イオントラップ)へと選択的に開放するためのロジックでプログラムされている。第1および第2の質量分析装置はともに、イオン源から衝突室に伸びるイオンの通り道の外側に配置され、一方または両方の質量分析装置により質量スペクトルが獲得されるのと同時にイオンが衝突室に運ばれ蓄積される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本技術分野に関する従来の方法では、選択性を高める目的のために、分析ステージを並列化または連続化(ハイフネーション)することが一般的である。これは、しばしば感度を犠牲にしてしまう。それぞれの分析ステージは通常独立型の装置であり、その他の分析ステージと直列にアセンブルされ、網羅的分解能を増強するための2Dおよび3Dの分離を提供する。さらに、多重の分析ステージが連続して組み合わされたシステムは、サイズが大きく現場では利用しにくい。
【0005】
こうしたことから、現場での利用やその他の利用のために、高い感度と選択性を有する小型の質量分析装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、試料(サンプル)からイオンを生成するイオン化装置(イオナイザー)と、アキュムレータセクションが付随した質量フィルタ(マスフィルタ)であって、アキュムレータセクションは当該質量フィルタに統合され、分離されたイオンを当該質量フィルタから放出する前にアキュムレータセクションが蓄積する質量フィルタと、質量フィルタから放出されたイオンを検出するよう構成されたイオン検出器とを備える質量分析装置(マスアナライザー)である。この質量分析装置において、空間的および時間的イオンアキュムレータが質量フィルタにビルトインされている(組み込まれている)ことにより、優れた感度と選択性に加えて、柔軟な操作性が得られる。
【0007】
質量フィルタは、四重極アレイを含んでもよい。アキュムレータセクションはイオントラップアレイを含んでもよい。イオントラップアレイは、円筒型のイオントラップアレイを含んでもよい。円筒型のイオントラップアレイは、上部エンドキャッププレートと、リング電極プレートと、下部エンドキャッププレートとを含んでもよい。四重極アレイの電極は、イオントラップアレイの複数のリング電極として機能してもよい。
【0008】
質量分析装置は、2つのモードで質量分析装置を制御するよう構成されたモジュールをさらに備えてもよい。2つのモードの内の第1のモードは、分離された(フィルタを通過した)イオンを、質量フィルタから放出される前に、アキュムレータセクションを経由して蓄積せずに放出し、2つのモードの内の第2のモードは、分離されたイオンを、質量フィルタから放出される前に、アキュムレータセクションにおいて蓄積する。
【0009】
さらに、質量分析装置は、質量フィルタに供給される電場または磁場と同じ電場または磁場をアキュムレータセクションに供給するよう構成されたモジュールを備えてもよい。さらに、質量分析装置は、質量フィルタに供給される電場または磁場と異なる電場または磁場をアキュムレータセクションに供給するように構成されたモジュールを含んでいてもよい。質量フィルタの四重極アレイと、アキュムレータセクションのイオントラップアレイは、同じまたは異なる高周波(RF)数と電圧とにより動作してもよい。
【0010】
さらに質量分析装置は、イオン化装置、質量フィルタおよびイオン検出器を一体化するよう構成された筐体(シャーシ)を含んでもよい。質量分析装置は、イオン化装置、質量フィルタ、およびイオン検出器のいずれかを組み合わせるように構成されたモジュール化部品をさらに含んでもよい。モジュール化部品は、組み立てる際に交換してもよい。モジュール化部品は、ファラデー検出器、電子増倍管(EM管)、マイクロチャネルプレート(MCP)、CCD、および光電子増倍管(PMT)などの検出器の収容部であってもよい。典型的なイオン検出器は、ファラデー検出器であってもよい。
【0011】
本発明の異なる態様は、上記の質量分析装置と、質量分析装置からの出力を用いるように構成されたモジュールとを有するシステムである。モジュールは、質量分析装置により検出されたサンプルに関連する情報を出力するよう構成された出力ユニットを含んでもよい。システムおよび/または質量分析装置は、リアルタイムのモニタリングが必要な産業(半導体チップ製造、真空コーティング、創薬、石油化学など)用のツールに組み込まれてもよく、インラインのアプリケーションの幾つかにより制御されてもよい。
【0012】
本発明のさらに異なる他の態様は、質量分析装置を制御することを含む方法である。質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し、統合された(一体になった)質量フィルタと、質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器と、質量フィルタとアキュムレータセクションに供給される電場および/または磁場を制御するよう構成された制御装置(コントローラ)とを含む。質量分析装置を制御することは、コントローラを用いて、分離されたイオンを、質量フィルタから排出する前に、アキュムレータセクションに蓄積するステップを含む。
【0013】
質量分析装置を制御することは、コントローラを用いて、分離されたイオンを、質量フィルタから排出する前に、アキュムレータセクションを経由して、蓄積せずに、放出するステップをさらに含んでもよい。
【0014】
質量分析装置を制御することは、コントローラを用いて、質量フィルタに供給(印加)される電場または磁場と同じ電場または磁場をアキュムレータセクションに供給するステップをさらに含んでもよい。質量分析装置を制御することは、コントローラを用いて、質量フィルタに供給される電場または磁場とは異なる電場または磁場をアキュムレータに供給するステップをさらに含んでもよい。
【0015】
この方法は、以下の2ステップをさらに含んでもよい。(i)放出することを含む第1のモードにより、質量分析装置を用いて、所定の質量電荷比(m/z)のセットの第1のスキャンを実行することと、(ii)蓄積することを含む第2のモードにより、質量分析装置を用いて、上記の質量電荷比のセットの第2のスキャンを実行すること。
【0016】
本発明のさらに異なる他の態様は、質量分析装置を含むシステムを操作するコンピュータのためのコンピュータプログラム(プログラム製品)である。質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し、統合(一体化)された質量フィルタと、質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器とを含む。コンピュータプログラムは、以下のステップを実行可能なコードを含む。(i)質量分析装置を用いて、分離されたイオンを質量分析装置から放出する前に、アキュムレータセクションを通して、蓄積せずに放出することを含む第1のモードによる、所定の質量電荷比のセットの第1のスキャン、(ii)質量分析装置を用いて、分離されたイオンを質量分析装置から放出する前にアキュムレータセクションに蓄積することを含む第2のモードによる、上記の質量電荷比のセットの第2のスキャン。上記のシステムの操作、検出、および分析プロセスを制御するためのプログラム(プログラム製品、ソフトウェア)を記録した非一過性のコンピュータ可読記憶媒体も本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
本願での実施例は、図を参照するとともに、以下の詳細説明からより理解されるであろう。
【
図1】
図1は、先行技術としての従来型の質量分析装置の1例を示す。
【
図2】
図2は、本発明による質量分析装置(マスアナライザー)の一実施形態を示す。
【
図3】
図3は、
図2に示した質量分析装置のイオントラップアレイの構成を示す。
【
図4】
図4(a)は、
図3に示したイオントラップアレイの上面図であり、
図4(b)は、イオントラップアレイの概略構成を示し、
図4(c)は、イオントラップアレイからイオントラップを抜き出し、その概略構成を示す図。
【
図5】
図5は、
図2に示した質量分析装置を使用した測定プロセスを示すフローチャート。
【
図6】
図6は、本発明による質量分析装置の異なる実施形態を示す。
【
図7】
図7は、本発明による質量分析装置のさらに異なる実施形態を示す。
【
図8】
図8は、
図7に示した質量分析装置のイオントラップの構成を示す。
【
図9】
図9(a)は、
図8に示されたイオントラップアレイの上面図であり、
図9(b)は、イオントラップアレイの概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、従来例の装置を示す。
図1に示した装置は、小型の質量分析装置(質量分析計)90であり、小型の四重極形タイプの質量フィルタ(質量分離装置、マスフィルタ)95を含み、ガラス製シャーシ12に保持された状態で複数のロッド33が配置されている。マスフィルタ95は多重化された四重極アレイを備え、これらが並列に動作し、小型化により生ずるシグナルの損失をそれぞれ回復させる。典型的な質量分析装置90は、恒久的にアセンブルされた従来型の二重フィラメント21をベースとした電子衝撃イオナイザー(イオン化装置)20と、静電レンズ(ソーススリット)25と、マスフィルタ95と、イオン収集装置50と、電気的接続のためのピン25と、これらを1つの装置または一体に収容するためのセンサーハウジング18とを装備している。ハウジング18の典型的なサイズは、直径約1-2cm、長さ約2-5cmである。質量分析装置90は、サンプルガス29を供給するための吸気口19aと、真空ポンプ(図示されていない)によりチャンバ19を真空にするための排気口19bとを有する小型チャンバ19、パイプまたは容器に挿入または取り付け可能である。質量分析装置90では、サンプルガス(試料ガス)の分子が、イオン化装置20のフィラメント21から放射される電子22によりイオン化される。イオン27は、静電レンズを介して四重極マスフィルタ95に導入され、マスフィルタ95は、マトリックス状のパターンで配置された、例えば、ロッド33の4×4アレイを含む。マスフィルタ95で分離されたイオンは、例えばファラデーイオン収集装置50といったイオン収集装置に到達し、イオン電流として検出される。
【0019】
ファラデーイオン収集装置の代わりに、イオン収集装置50として、電子増倍管(EM)および/またはマイクロチャネルプレート(MCP)の使用が、感度を増強するために検討される。表面の層(フィラメントの場合では活性要素、電子倍増管の場合では抵抗性のコーティング)の劣化により、フィラメントおよび電子倍増管は耐用期間に制限があり、このため低コストで長期の信頼性の確立が課題となっている。
【0020】
実際に、寸法を縮小すると、(i)イオン化装置において空間電荷が制限されること、(ii)イオン受領エリアが小さくなること、および(iii)複数の電極のアラインメントの正確性を個別に維持することが難しいことにより、感度と選択性とが犠牲にされる。電極のアラインメントは、最大の分解能を得るための元来の四重極電場を生成するために非常に重要である。
【0021】
以下において、本発明に係る、現場での使用に適した小型で高度に集約(集積)化されたハイブリッド質量分析装置(混在型質量分析装置)の例が実施形態として開示される。本発明は、パフォーマンスを強化するとともに、長時間にわたる現場でのオペレーションのための堅牢制(ロバスト性)および信頼性を提供する今までにないアプローチを示す。本発明の装置と方法は、空間的および時間的なイオンの蓄積(トラッピング)を質量分析装置のマスフィルタに組み込んで(ビルトインするとともに)結合し、優れた感度と選択性とともに、柔軟性のある操作モードを提供する。
【0022】
以下における実施形態と様々な特徴、およびそれについての有益な詳細は、添付の図、および記述を参照して示される、限定することを意図するものではない実施形態を参照することにより、より詳しく説明される。以下における実施形態を不必要に分かりにくくしないために、周知の構成要素と処理技術に関する記述は割愛される。以下において用いられる例は、以下における実施形態が用いられる状態の理解を容易にするとともに、当業者が実施形態を実施可能にさせることを意図している。したがって、それらの例は、以下の実施形態の範囲を制限するように解釈されるべきではない。
【0023】
図2は、質量分析装置10と、質量分析装置10およびコントローラ60を含むシステム1の好ましい実施形態を示し、コントローラ60はアプリケーションに要求される様々な測定を実行するために質量分析装置10を制御する。システム1は、特定のまたは様々な目的を達成するための機器または装置であってもよい。質量分析装置10は、小型化された四重極タイプの質量分析計(マスセンサ)であり、サンプルガス29からイオン27を生成するためのイオン化装置20と、アキュムレータセクション(アキュムレータ区画、アキュムレータ部)32が付随した質量フィルタ(質量分離装置、マスフィルタ)30と、マスフィルタ30から放出(排出)されたイオンを検出するよう構成されたイオン検出器50とを含む。アキュムレータセクション32はマスフィルタ30に統合(集積化、集約化)されており、分離された(フィルタリングされた)イオン27を、マスフィルタ30から検出器(イオン収集器)50に放出する前に、蓄積する。イオン化装置20は、長寿命の熱電子放出型のイオナイザーであり、酸化イットリウム、酸化トリウムなどの仕事関数の低い物質による厚い層でコートされた1つまたは複数のエミッタ23を含む。
【0024】
質量分析装置10は、さらに、マスフィルタ30の複数のロッド33を整列した状態で保持するガラス製シャーシ(筐体)12と、電気的接続のための複数のピン14と、サンプルガス29が通過できるような状態でイオン化装置20、マスフィルタ30、および検出器50を収容してカバーするハウジング18とを含む。マスフィルタ30は、例えば4×4、または3×3の複数のロッド33が、四重極マスフィルタとして機能し、電場によりイオンを選別する四重極アレイ33aを構成するように配置されたフィルタリングセクション(フィルタリング区画、フィルタリング部)31と、プレート35、36、および37がイオントラップアレイ38を構成するよう配置されたアキュムレータセクション(アキュムレータ区画、アキュムレータ部)32とを含む。イオントラップアレイ38は、フィルタリングセクション31の側から順番に、上部エンドキャッププレート(上端口プレート)35と、リング電極プレート36と、下部エンドキャッププレート(下端口プレート)37とを含み、出口スリット34を介して線形(リニア)の四重極アレイに繋がる円筒型のイオントラップアレイを構成する。上部エンドキャッププレート35と、リング電極プレート36と、下部エンドキャッププレート37のそれぞれには、複数のロッド33が挿入される複数の貫通孔を含み、イオントラップアレイ38がシャーシ12にロッド33により固定される。したがって、アキュムレータセクション32は、マスフィルタ30の出力側(出口側)で、マスフィルタ30のフィルタリングセクション31と統合(一体化)されている。フィルタリングセクション31でフィルタを通ったイオン(分離されたイオン)27は、マスフィルタ30からイオン検出器50に放出される前に、アキュムレータセクションで蓄積される。
【0025】
この質量分析装置10において、線形(リニア)四重極アレイ33aは、同じまたは異なる高周波数で稼働されることを意図した円筒形のイオントラップアレイ38と接合される。線形四重極ステージ33a(フィルタリングセクション31)がマスフィルタとして作動する一方、イオントラップ38(アキュムレータセクション32)は、感度増強のためにイオンを蓄積するイオン蓄積ステージとして作動する。最大蓄積容量に到達すると、イオンは検出器50に向けて放出される。1つ、またはいくつかの蓄積/放出サイクルが実行可能であり、これにより電子増力装置により得られる増幅に相当するイオンシグナルの増幅が達成される。このような方法により、耐久性と、無限の寿命と、メンテナンスフリーと、キャリブレーション不要といった、現場での類するもののない特性を有するファラデー検出器50の使用が可能となる。
【0026】
図3および
図4は、マスフィルタ30のアキュムレータセクション32を構成するイオントラップアレイ38を示す。イオントラップアレイ38は、上部エンドキャッププレート(エンドキャップ電極)35と、リング電極プレート(リング電極)36と、下部エンドキャッププレート(エンドキャップ電極)37とを含む。ハイブリッド質量分析装置の量産に適した製造方法の1つは、正確にフォトエッチングされた電極部品を使用することである。プレート35から37は、フォトエッチング技術を用いて製造可能である。上部エンドキャッププレート35は、イオントラップの複数のイオンゲートを構成するための複数の貫通孔35aと、複数のロッド33を挿入するための複数の貫通孔35bとを含む。リング電極プレート36は、イオンをトラップするための複数のリング電極を構成するための複数の貫通孔36aと、複数のロッド33を挿入するための複数の貫通孔36bとを含む。下部エンドキャッププレート37は、イオントラップの複数のイオンゲート(出口)を構成するための複数の貫通孔37aと、複数のロッド33を挿入するための複数の貫通孔37bとを含む。
図4(c)に示されている様に、キャップフィールド(キャップ電位、閉じ込め場)Vcapが、イオントラップ38の蓄積サイクルを制御するためにエンドキャッププレート35と37に印加され、RFフィールド(RF電位)Vrfが、その中のイオンをトラップするための電場を生成するためにリング電極プレート36に印加される。この実施形態に示されるイオントラップ38は、四重極イオントラップ(RFトラップ、高周波トラップ、ポールトラップ)であり、四重極マスフィルタ30に統合されるのに適しているが、キングトントラップ、ペニングイオントラップなどのその他のタイプのトラップをイオンを蓄積するために使用してもよい。
【0027】
コントローラ(制御ユニット、制御ボード)60は、質量分析装置10のイオン化装置20、マスフィルタ30、およびイオン収集器50と、電気接続用のピン14を介して、質量分析装置10を制御し、また、質量分析装置10からのデータまたは情報を取得するために通信し、様々な測定を行う。コントローラ60は、イオン化ユニット20を電気的に駆動するイオンドライブ回路61と、フィルタユニット(マスフィルタ)30を電気的に駆動するフィールド駆動回路と、検出ユニット50の感度を制御するディテクタ回路と、コントローラ60および質量分析装置10を含むシステム1を操作するためのプロセッサ70と、メモリ73と、通信モジュール76と、ユーザーインターフェイス77とを含む。コントローラ60は、質量分析装置10からの出力を使用する、質量分析装置10のユーザーであってもよい。
【0028】
イオン駆動回路(イオンドライブ回路)61は、フィラメント電圧とフィラメント電流を計測するための回路と、フィラメント電圧を制御するための回路とを含んでもよい。フィールド駆動回路(フィールドドライブ回路)62は、フィルタリングセクション31の四重極アレイ33aの四重極電場を電気的に駆動する第1のフィールド駆動ユニット63と、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38を電気的に駆動する第2のフィールド駆動ユニット64とを含む。第1のフィールド駆動ユニット(第1のフィールドドライブユニット)63は、RF(高周波)とDC(直流)とを使用してフィルタリングセクション31の電場を個別に制御し、第2のフィールド駆動ユニット(第2のフィールドドライブユニット)64は、RFを使用してアキュムレータセクション32の電場を個別に制御する。
【0029】
第2のフィールド駆動ユニット64は、RF(高周波)制御ユニット64aと、アキュムレータセクション32のトラップ38のアキュムレーション周期(蓄積周期、トラップ周期)を制御するゲート制御ユニット(SWユニット)64bとを含む。第2のフィールド駆動ユニット64は、RF制御ユニット64aとSWユニットとを用いて、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38を2つのモードで制御可能であり、2つのモードの内の第1のモードは、分離されたイオンを、マスフィルタ30から放出する前に、アキュムレータセクション32を経由して、蓄積しないで放出し、2つのモードの内の第2のモードは、分離されたイオンを、マスフィルタ30から放出する前に、アキュムレータセクション32において蓄積する。
【0030】
プロセッサ70は、CPU、マイクロコントローラ、シグナルプロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのシステムである。プロセッサ70においては、持続性(非一過性)のコンピュータ記憶媒体の1つであるROMなどのメモリ73に蓄積されたプログラム(コンピュータプログラム、プログラム製品、ソフトウェア)74により供給されるアプリケーション79および機能モジュール71および72が実装される。プログラム74は、プロセッサ70において、アプリケーション79および、モジュール71および72の機能とアルゴリズムを実行するための実行可能なコードを含む。プロセッサ70は、フィールド制御モジュール71と、モード制御モジュール72とを含む。フィールド制御モジュール71は、フィールド駆動回路62を介してマスフィルタセクションに供給される電場と同じ電場をアキュムレータセクション32に供給するよう構成されたモジュール71aと、マスフィルタセクション31に供給される電場とは異なる電場をアキュムレータセクション32に供給するよう構成されたモジュール71bとを含む。即ち、モジュール71aは、第1のフィールド駆動ユニット63および第2のフィールド駆動ユニット64を制御して、フィルタリングセクション31の四重極アレイ33aの四重極電場と、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38とを同じRF(周波数)を用いて駆動して、同じ分離されたイオンを蓄積し、マスフィルタ30の感度を上昇させることができる。モジュール71bは、第1のフィールド駆動ユニット63および第2のフィールド駆動ユニット64を制御して、フィルタリングセクション31の四重極アレイ33aの四重極電場と、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38とを、異なる、あるいは僅かに異なるRF(周波数)により駆動し、分離されたイオンを蓄積するとともに再選択し、マスフィルタ30の選択性を向上する。
【0031】
モード制御モジュール72は、アキュムレータセクションが不稼働な第1のモードで質量分析装置10を制御するよう構成されたモジュール72aと、アキュムレータセクション32が稼働する第2のモードで質量分析装置10を制御するよう構成されたモジュール72bとを含む。即ち、モジュール72aは、第2のフィールド駆動ユニット64を制御し、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38のトラッピング活動を停止させ、アキュムレータセクション32を経由して、フィルタリングセクション31で選択された、分離された(フィルタリングされた)イオンを、アキュムレータセクション32を通って蓄積せずに放出する。この操作(処理)は、蓄積する時間が不要なので、所定のm/z(質量電荷比)のセット(一連の質量電荷比)テストスキャン、予備的または暫定的な探査(より速い探査)に有効であり、さらに、より幅広い範囲の探査を短時間で行うことができる。
【0032】
モジュール72bは第2のフィールド駆動ユニット64を制御し、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38のトラッピング動作を起動し、分離されたイオンを、それらをマスフィルタ30から放出する前に、アキュムレータセクション32に蓄積する。このオペレーションは、質量分析装置10の感度を上昇させることにより、予備的な探査の後に行われる精密な探査に適している。モード制御モジュール72は、メモリ73に蓄積された予備的探査の結果75に応じて、m/z毎に(m/z単位で)、モードを切り替えてもよい。サンプルガス29の成分X(m/zはx)の濃度(信号強度、イオン電流)が低い場合、モード制御モジュール72は、モジュール72bを用いて第2のモードを選択し、成分Xを蓄積することにより、感度を上昇させてもよい。サンプルガス29の成分Y(m/zはy)の濃度が高い場合、モード制御モジュール72はモジュール72aを用いて第1のモードを選択し、蓄積せずに成分Yを放出して測定時間を節約してもよい。モード制御モジュール72は、それぞれのm/zでアキュムレータセクション32の蓄積時間(蓄積期間、蓄積継続時間、トラップ周期)を変えて精度と測定時間の両方で利点が得られるようにしてもよい。
【0033】
アプリケーション79は、フィールド制御モジュール71、モード制御モジュール72、イオン駆動回路61、および/またはフィールド駆動回路62を介して、質量分析装置10を以下の様に制御してもよい。
(i) 質量分析装置10に入る試料(サンプル)29のイオン化を制御する。
(ii) ハイブリッド質量分析装置10の四重極フィルタリングセクション31とイオントラップステージ32とを少なくとも1組のRF電圧で操作してスキャンする。
(iii) イオントラップ38(32)の下部エンドキャップ電極37を少なくとも1つの電圧パルスで制御し、ハイブリッド質量分析装置10のイオントラップステージ32の下流に接続されたイオン検出器50に捉えられる前に蓄積するために、イオンを選択的に開閉する制御を行う。
【0034】
アプリケーション79は、m/zの同じセットについて周期的に予備的サーチ(予備探査、予備的検査、予備的調査、テストスキャン、第1のスキャン)と精密サーチ(精密探査、精度の高い検査、精密調査、第2のスキャン)を行い、通信ユニット76およびユーザーインターフェイス(U/I)77を使用して、サーチ結果を出力してもよい。ユーザーインターフェイス77は出力ユニットの1つであり、サンプルガス29に関連する測定結果を出力するディスプレイと、質量分析装置により行われる測定条件を設定するためのタッチパネルと、アラームを鳴らすための聴覚装置とを含んでいてもよい。通信ユニット76も出力ユニットの1つであり、有線または適切な無線技術、例えば、Wi-Fi接続、無線LAN、携帯データ接続、ブルートゥース(登録商標)などにより、インターネットまたはその他のコンピュータネットワーク経由で外部システムに接続され、システム1を監視または遠隔制御してもよい。
【0035】
図5は、サンプルガス(試料ガス)29の成分を測定または監視するために、m/zの所定のセットでスキャン(調査、解析)するプロセスを示したフローチャートである。ステップ81において、アプリケーション79はシステム1を初期化し、サンプルガス29の測定条件を設定する。初期条件には、スキャンするための質量電荷比(m/z)の所定のセットと、スキャンを継続する期間と、スキャンを繰り返す回数と、テストサーチを繰り返す条件等が含まれてもよい。ステップ82において、モード制御モジュール72を用い、第1のモードによる予備的なテストスキャン(第1のスキャン)が実行される。ステップ82において、質量分析装置10を第1のモードで用いて、質量電荷比の所定のセットでテストスキャン(第1のスキャン)が行われる。第1のモードでは、フィルタで分離されたイオンは、マスフィルタ30から放出される前に、アキュムレータセクション32を経由するが蓄積されずに放出される。
【0036】
ステップ83において、テストスキャンが終了する時、精密なスキャン(精密な測定、メインスキャン)のための準備が行われる。ステップ84にて、選択性より感度がメインスキャンにおいて要求される場合は、ステップ85aにて、フィールド制御モジュール71の第1のモジュール71aが、第1のフィールド駆動ユニット63および第2のフィールド駆動ユニット64を、フィルタセクション31およびアキュムレータセクション32に対し、同じRFの同じ電場を供給するようにセットする。メインスキャンにおいて、感度より選択性が要求される場合は、ステップ85bにおいて、フィールド制御モジュール71の第2のモジュール71bが、第1のフィールド駆動ユニット63および第2のフィールド駆動ユニット64を、フィルタセクション31とアキュムレータセクション32に対し、異なるRFの異なる電場を供給するようにセットする。
【0037】
ステップ86において、モード制御モジュール72を用い、第2のモードで、正確な(精密な)スキャン(メインスキャン、第2のスキャン)が実行される。ステップ86において、第2のモードで質量分析装置10を用いて、質量電荷比の所定のセットのメインスキャン(第2のスキャン)が行われる。第2のモードでは、フィルタリングセクション31から出力された分離されたイオンは、マスフィルタ30から放出(排出)される前に、アキュムレータセクション32に蓄積(アキュムレート)される。メインスキャンがステップ87で終了すると、アプリケーション79は、通信ユニット76および/またはユーザーインターフェイス77を介して、ステップ88において、測定結果を出力する。メインスキャンが実行された後、ステップ89において、次のメインスキャンが始まる前に、テストスキャンが必要であると判断されると、ステップ82において次のテストスキャンが行われる。テストスキャンは、サンプルガス29の状態を確認するために、定期的に行われてもよい。テストスキャンは、成分と濃度とが事前に判明しているテストガスを用いて、定期的に行われてもよい。
【0038】
図6は、本発明に係る質量分析装置の異なる実施形態を示す。質量分析装置10aも、小型の四重極タイプの質量分析計(マスセンサ、質量センサ)である。質量分析装置10aは、イオン化装置(イオナイザー)20と、アキュムレータセクション32が付随したマスフィルタ(質量フィルタ)30と、イオン検出器50とを含み、これらはガラス製シャーシ12の上に集約され、カバー18で囲われている。アキュムレータセクション32は、マスフィルタ30に統合されており、フィルタにより分離されたイオン27を、マスフィルタ30から検出器50に放出(排出)する前に、蓄積する。マイクロトラップ39は、上部エンドキャッププレート35と、四重極マスフィルタセクション31と共通のロッド33と、下部エンドキャッププレート35とにより、アキュムレータセクション32に構成されている。このマスフィルタ30においては、複数の四重極ロッド33が3×3や4×4などの配列を成すように配置されており、フィルタセクション31においては四重極アレイ33aを構成し、アキュムレータセクション32においては四重極イオントラップアレイ39を構成している。複数のマイクロトラップ39は、直線のトラップであり、大きな収容容量を備えている。このことは、複数の四重極ロッド33をリング電極として用い、可変長の直線状のトラップ39でイオンをトラップすることにより得られる。このような実施形態は、アキュムレータセクション32において、より大きな蓄積容量を可能にし、これにより、蓄積/排出サイクルが同じでも、より高い感度が得られる。
【0039】
図7は、本発明に係る質量分析装置のさらに異なる実施形態を示す。質量分析装置10bも、小型の四重極タイプの質量分析計であり、イオン化装置20と、アキュムレータセクション32付きのマスフィルタ30と、イオン検出器52とを含む。この質量分析装置10bにおいては、ガラス製シャーシ12に一体化されたイオン化装置20と、マスフィルタ30のフィルタセクション31と、四重極ロッド33の末端に、アキュムレータセクション32を構成するように、ロッド33とは離れて配置された円筒型のイオントラップアレイ38とが第1のモジュラーコンポーネント101を構成し、イオン収集アレイ52が第2のモジュラーコンポーネント102を構成する。コンポーネント101および102は、アセンブルされカバー18により囲われて質量分析装置52を構成する。本発明において開示される構築方法は、モジュラーコンポーネントの組み立て方に依存し、その結果、様々な実施形態があり得る。実際、この実施形態によれば、電子倍増管(EM)、マイクロチャネルプレート(MCP)、CCD、および光電子倍増管(PMT)などの検出器を収容できる。イオン源20は、連結される検出器への経路を確保するために、質量分析装置のシャーシ12の他の端に組み合わされる(アセンブルされる)。
【0040】
図8および
図9は、質量分析装置10bのイオントラップアレイ38を示し、これは、マスフィルタ30のアキュムレータセクション32を構成する。イオントラップアレイ38を構成するプレート35、36、および37は、フォトエッチングされた電極部品である。イオントラップアレイ38は、マスフィルタ30の内部に、複数の四重極ロッド33とは別に配置されるので、プレート35-37に、複数のロッド33を挿入するための孔を設ける必要はない。したがって、エンドキャッププレート35および37のゲートホール35aおよび37aと、電極プレート36のリング電極ホール36aとは、イオントラップアレイ38に構成される複数のイオントラップの容量を最大化するようアレンジされてもよい。さらに、保持用の電場を生成するための電極プレート36は、四重極電極33から分離されているので、アキュムレータセクション32のイオントラップアレイ38に対し、フィルタリングセクション31と同じ、または異なる電場を容易に印加できる。このような実施形態では、より大きな蓄積容量とともに、電場(フィールド)の制御しやすさも得られる。このため、同じ蓄積/排出のサイクルであっても、より高い感度および選択性を得ることができる。
【0041】
小型化された四重極タイプの質量分析計10、10a、および10bは、MEMS技術および/または半導体技術を用いることにより、モノリシックのデバイス、またはチップとして提供されてもよい。小型化された四重極タイプの質量分析計10と、10aと、10bとは、他の電子回路、センサ、機器、マイクロマシンなどとともに集積化され、および/または組み込まれてもよく、特定の目的または様々な対象物のためのシステム1(機器、装置)を形成してもよい。
【0042】
上記において、アキュムレータセクション32として四重極イオントラップアレイが付随した四重極マスフィルタ30を有する質量分析装置を参照して、実施形態が記述されているが、質量分析装置は、ウィーンフィルタなどの他のタイプの電場および/または磁場を用いたマスフィルタであって、ペニングトラップなどの電場および/または磁場を用いたイオントラップが付随したマスフィルタが装備されてもよい。本開示の範囲から逸脱することがなければ、構造的な変更がなされてもよく、他の実装形態が用いられてもよい。
【0043】
小型化された質量分析計の出現は、これらの化学的分析を現場で展開するための大きな一歩である。これらの装置は、リアルタイムモニタリングやいくつかのインラインアプリケーションにおける制御が必要とされる産業用(半導体チップ製造、真空コーティング、創薬、石油化学など)ツールに、より一層組み込まれていく。自律性(オートノミー)、信頼性、およびメンテナンスの最小限化が、これらの装置を、さらに広範囲で展開するための鍵となる要素である。しかしながら、小型の質量分析計であっても、研究所にあるフルサイズの質量分析計と同じレベルのメンテナンスが要求される、というのは、イオン化および検出のための共通の方法が使用されているからである。イオン化装置により寿命は限定され、電子倍増管、マイクロチャネルプレート(MCP)、光電子倍増管(PMT)などの検出器は壊れやすく、また、過度なキャリブレーションが必要であり、これらの装置を高圧環境下で使用しようとするとさらに状態は深刻化する。様々な用途を意図した完全な質量分析システムを開発しようとすると、高周波駆動質量分析装置を小型化することが最も適しているとされている。それらは、小型、低エネルギー消費、および適度な真空条件を含むいくつかの特徴を有している一方、フルサイズの機器と比較すると性能は十分ではない。
【0044】
本発明では、パフォーマンスを向上し、コストを低減し、さらに、メンテナンスおよび過剰なキャリブレーションによる作動不能な時間を最小化するための新しいアプローチが取り入れられる。本発明の1つの態様は、ここで開示されるハイブリッドな配置を含むものであり、リニア四重極とイオントラップとを結合して1つの分析装置とすることである。四重極およびトラップアレイを連続して、単一のシャーシ上に組み立てる新しい製造方法が開示される。イオントラップステージは、ファラデープレートに放出される前に、イオンを蓄積することによりイオン増幅器の役目を果たし高速で電荷の検出を可能とするが、機能はこれに限定されることはない。
【0045】
本開示にて記述されるハイブリッド質量分析装置の方法は、電子倍増管(EM)、マイクロチャネルプレート(MCP)、CCD、光電子倍増管(PMT)などの消耗品に依存せずに、これらの小型装置の感度を増強する。イオン増幅はイオントラップアレイで行われることから、簡単なファラデー検出器で十分である。ファラデー検出器などの非消耗品を利用することにより、ハイブリッド質量分析装置に、(i)必要な堅牢制(ロバスト性)、(ii)永久的な寿命、(iii)メンテナンスとキャリブレーションの必要が無いことがもたらされる。こうした特徴は、現場における信頼性のある自律的なオペレーションに重要な意味を持つ。
【0046】
本明細書において、現場での使用に適した、小型化され高度に統合されたハイブリッド質量分析装置が開示される。本発明は、パフォーマンスを高め、長時間の現場作業に要求される堅牢制と信頼性を提供する新たなアプローチを意味する。この装置と方法とは、空間的および時間的なイオントラップを単一のプラットフォームに結合し、オペレーションの柔軟性とともに優れた感度と選択性とを提供する。望ましい実施形態において、リニア四重極アレイが、円筒型のイオントラップアレイと接続され、同じまたは異なる高周波数で稼働可能とされる。リニア四重極ステージがマスフィルタとして機能し、イオントラップは、追加的な質量分析ステージまたはイオン蓄積ステージとして機能し、感度を高めることができる。このような柔軟性は、丈夫さ、永久的な寿命、キャリブレーション不要といった現場での比類なき特徴を有するファラデー検出器の使用を可能にする。ガラス-金属シール(封止)と、正確なフォトエッジングによるイオナイザーおよび電極部品とを使用するハイブリッド質量分析装置の量産に適した製造方法が開示される。構築方法は、モジュラーコンポーネントの組み合わせに依存し、幾つかの実施形態では、電子倍増管、マイクロチャネルプレート、光電子倍増管などの検出器の使用が可能である。
【0047】
上記の態様の1つは、イオン化装置と、四重極マスフィルタまたは四重極アレイと、イオントラップまたはイオントラップアレイと、少なくとも1つのイオン検出器とを含むハイブリッド質量分析装置であり、前記イオントラップアレイは円筒型のイオントラップアレイからなる。1つの実施形態では、円筒状のトラップアレイは、3つのプレート、すなわち、1つの上部エンドキャップと、1つのリング電極と、1つの下部エンドキャップとからなる。異なる実施形態では、四重極アレイの複数のロッドがリング電極として機能し、より高い蓄積容量の直線トラップを形成する。質量分析装置を含む機器は、モジュラーコンポーネントを含んでもよく、少なくとも1つの実施形態となる。その機器では、同じまたは異なる高周波数(RF周波数)で、四重極およびイオントラップステージを動作させてもよい。その機器は、ファラデー、電子倍増管、および光電子倍増管を含む、イオン検出用のモジュラーコンポーネントを使用してもよい。
【0048】
上記の異なる態様は、イオナイザー(イオン化装置)と、四重極マスフィルタまたは四重極アレイと、イオントラップまたはイオントラップアレイと、少なくとも1つのイオン検出器とを含むハイブリッド質量分析装置の方法である。当該方法は、選択性を高めるために、2段階の質量分離(マスフィルタリング)を使用してもよい。当該方法は、感度を高めるために、イオントラップステージをイオンの蓄積に使用してもよい。当該方法では四重極およびイオントラップステージを、同じまたは異なるRF周波数(高周波数)と電圧で作動してもよい。当該方法は、検出器に対し、少なくとも1つのサイクルでイオンを蓄積して放出し、検出器で受けてもよい。当該方法は、四重極ステージからイオントラップステージへ効率的にイオンを運ぶためのイオン光学的手段を含んでもよい。
【0049】
上記のさらに異なる態様は、操作と、検出と、分析プロセスとを制御するためのソフトウェアを格納した非一過性(持続性)のコンピュータ可読媒体である。当該ソフトウェアは、(i)ハイブリッド質量分析装置に入る試料(サンプル)のイオン化を制御する実行可能なコードと、(ii)ハイブリッド質量分析装置の四重極およびイオントラップステージの動作のための高周波電圧のセットの少なくとも1つでスキャンする実行可能なコードと、(iii)イオントラップの下部エンドキャップ電極の電圧パルスの少なくとも1つを制御する実行可能なコードとを含み、ハイブリッド質量分析装置のイオントラップステージの下流に接続されたイオン検出器により収集される前に、イオンを蓄積するように、イオンの出入りを選択的に制御する。当該ソフトウェアは、ハイブリッド質量分析装置の四重極およびイオントラップステージの動作に対応した少なくとも2つの作動モードに関連するオペレーションを制御する実行可能なコードを、さらに含んでもよい。当該ソフトウェアは、イオントラップの下部エンドキャップ電極への少なくとも1つの電圧パルスを制御する実行可能なコードをさらに含んでもよく、ハイブリッド質量分析装置のイオントラップステージの下流に接続されたイオン検出器による収集の前にイオンを蓄積するために、イオンの出入りを選択的に制御する。
【0050】
上記には、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随した質量フィルタであって、前記アキュムレータセクションは当該質量フィルタに統合され、分離されたイオンを当該質量フィルタから放出する前に前記アキュムレータセクションが蓄積する、質量フィルタと、前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するよう構成されたイオン検出器とを有する質量分析装置が開示されている。前記質量フィルタは四重極アレイを含み、前記アキュムレータセクションはイオントラップアレイを含んでもよい。前記イオントラップアレイは、円筒型イオントラップアレイを含んでもよい。前記円筒型イオントラップアレイは、上部エンドキャッププレートと、リング電極プレートと、下部エンドキャッププレートとを含んでもよい。前記四重極アレイの複数のロッドが、前記イオントラップアレイの複数のリング電極として機能してもよい。質量分析装置は、2つのモードで当該質量分析装置を制御するよう構成されたモジュールをさらに有し、前記2つのモードの内の第1のモードは、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションを通し、蓄積せずに放出し、前記2つのモードの内の第2のモードは、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションで蓄積してもよい。質量分析装置は、前記質量フィルタに供給される電場または磁場と同じ電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給するよう構成されたモジュールをさらに有してもよい。質量分析装置は、前記マスフィルタに供給される電場または磁場とは異なる電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給するよう構成されたモジュールをさらに含んでもよい。質量分析装置は、前記イオン化装置と、前記質量フィルタと、前記イオン検出器とを一体にするよう構成された筐体をさらに有してもよい。質量分析装置は、前記イオン化装置、前記質量フィルタ、および前記イオン検出器のいずれかを組み合わせるよう構成されたモジュール化部品をさらに有してもよい。前記イオン検出器は、ファラデー検出器を含んでもよい。
【0051】
上記には、上記に記載の質量分析装置と、前記質量分析装置の出力を用いるよう構成されたモジュールとを含む、システムが開示されている。前記モジュールは、前記質量分析装置により検出された前記サンプルに関連する情報を出力するよう構成された出力ユニットを含んでもよい。
【0052】
上記には、質量分析装置を制御することを含む方法が開示されている。前記質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し統合された質量フィルタと、前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器と、前記質量フィルタおよび前記アキュムレータセクションに供給される電場または磁場を制御するよう構成されたコントローラとを含み、前記質量分析装置を制御することは、前記コントローラを用いて、分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションに蓄積することを含む。前記質量分析装置を制御することは、前記コントローラを用いて、前記分離されたイオンを前記質量フィルタから放出する前に、前記アキュムレータセクションを通して、蓄積せずに放出することをさらに含んでもよい。前記質量分析装置を制御することは、前記コントローラを用いて、前記質量分析装置に供給される電場または磁場と同じ電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給することをさらに含んでもよい。前記質量分析装置を制御することは、前記コントローラを用いて、前記質量分析装置に供給される電場または磁場と異なる電場または磁場を前記アキュムレータセクションに供給することをさらに含んでもよい。この方法は、前記質量分析装置を用いて、前記放出することを含む第1のモードにより、所定の質量電荷比のセットで、第1のスキャンを行うことと、前記質量分析装置を用いて、前記蓄積することを含む第2のモードにより、前記質量電荷比のセットで、第2のスキャンを行うこととをさらに含んでもよい。
【0053】
上記には、コンピュータにより質量分析装置を含むシステムを操作するためのコンピュータプログラムが開示されている。前記質量分析装置は、サンプルからイオンを生成するためのイオン化装置と、アキュムレータセクションが付随し統合された質量フィルタと、前記質量フィルタから放出されたイオンを検出するためのイオン検出器とを含み、前記コンピュータプログラムは、前記質量分析装置を用いて、分離されたイオンを前記質量分析装置から放出する前に、前記アキュムレータセクションを通して、蓄積せずに放出することを含む第1のモードによる、所定の質量電荷比のセットの第1のスキャンと、前記質量分析装置を用いて、前記分離されたイオンを前記質量分析装置から放出する前に前記アキュムレータセクションに蓄積することを含む第2のモードによる、前記質量電荷比のセットの第2のスキャンとを実行するための実行可能なコードを含む。
【0054】
特定の実施形態に関するこれまでの記述により、本願における実施形態の一般的な性質が完全に明らかになるだろう。したがって、他の者は、現在の知識を使って、上位概念から離れることなく、これらの特定の実施形態を容易に修正し、および/または様々な用途に改造することが可能である。そして、それ故、そのような応用と改造は、開示された実施形態の同等物の意味と範囲の中に含まれるべきであり、含まれるよう意図されるべきである。本願で用いられる表現方法または専門用語は、説明を目的としたものであり、限定する目的ではないことが理解されるべきである。したがって、本願での実施形態は、望ましい実施形態に関して記述される一方、当業者においては、以下の請求項の精神と範囲における変更を含め、本願の実施形態が実施可能であることが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0055】
10 質量分析装置、 20 イオン化装置
30 質量フィルタ、 32 アキュムレータセクション
33a 四重極アレイ、 38 イオントラップ