(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】コバルトゾル
(51)【国際特許分類】
C01G 51/04 20060101AFI20220804BHJP
C09K 23/38 20220101ALI20220804BHJP
【FI】
C01G51/04
C09K23/38
(21)【出願番号】P 2017247455
(22)【出願日】2017-12-25
【審査請求日】2020-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2016256689
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000203656
【氏名又は名称】多木化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高井 京子
(72)【発明者】
【氏名】角谷 定宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 雅樹
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-080639(JP,A)
【文献】特開平09-077503(JP,A)
【文献】国際公開第2006/019004(WO,A1)
【文献】特開平09-080203(JP,A)
【文献】特開2009-107906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 51/04
C09K 23/38
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属とヒドロキシカルボン酸とを含有し、pH領域が中性からアルカリ性の領域であることを特徴とするコバルトゾル。
但し、上記コバルトゾル中のコバルトの結晶形は、四酸化三コバルトCo
3O
4
である。
【請求項2】
ヒドロキシカルボン酸がクエン酸である請求項1記載のコバルトゾル。
【請求項3】
さらに、アンモニア及び/又は水溶性アミン化合物を含有する請求項1又は2記載のコバルトゾル。
【請求項4】
以下の工程を含むコバルトゾルの製造方法。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物と、過酸化水素とを混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゾルを得る第2工程。
(3)任意の工程として、次の(a)~(c)の工程のうちいずれか1つの工程を実施する第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゾルを加熱処理した後、これと分散剤とを混合する工程。
但し、上記分散剤は、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤、又はそれらの塩である。
なお、上記コバルトゾルは、pH領域が中性からアルカリ性の領域のものであり、上記コバルトゾル中のコバルトの結晶形は、四酸化三コバルトCo
3O
4
である。
【請求項5】
以下の工程を含むコバルトゾルの製造方法。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゲルを得る第2工程。
(3)次の(a)~(d)の工程のうちいずれか1つの工程を実施して、コバルトゾルを得る第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合する工程;
(d)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合した後、加熱処理する工程。
但し、上記分散剤は、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤、又はそれらの塩である。
なお、上記コバルトゾルは、pH領域が中性からアルカリ性の領域のものであり、上記コバルトゾル中のコバルトの結晶形は、四酸化三コバルトCo
3O
4
である。
【請求項6】
ヒドロキシカルボン酸がクエン酸である請求項4又は5記載のコバルトゾルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルトゾルに関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属ゾルのうち、チタンゾル、ジルコニウムゾル等については数多くの技術が開示されてきたが、コバルトゾルに関する技術は比較的少ない。
【0003】
例えば、特許文献1には、硝酸コバルト水溶液に強塩基性アニオン交換樹脂を添加してアニオン交換することによりコバルトゾルを得る方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、コアシェル型酸化コバルト微粒子分散液が開示されている。コア部分は酸化コバルトの一次粒子が球状に集合した二次粒子であり、その二次粒子表面のシェル部分はポリビニルピロリドン等の有機高分子によって構成されたものである。
【0005】
特許文献3には、水酸化コバルト粒子がアクリル系重合体からなる高分子分散剤によりその表面が覆われることによって分散性が維持されたコロイド溶液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-153524号公報
【文献】特開2009-184884号公報
【文献】特開2011-219328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規なコバルトゾルの開発を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルカリ金属、ヒドロキシカルボン酸及び過酸化水素を巧みに用いることによってコバルトゾルが得られることを見出し、係る知見を基に本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]アルカリ金属とヒドロキシカルボン酸とを含有することを特徴とするコバルトゾル。
[2]ヒドロキシカルボン酸がクエン酸である上記[1]記載のコバルトゾル。
[3]さらに、アンモニア及び/又は水溶性アミン化合物を含有する上記[1]又は[2]記載のコバルトゾル。
[4]以下の工程を含むコバルトゾルの製造方法。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物と、過酸化水素とを混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゾルを得る第2工程。
(3)任意の工程として、次の(a)~(c)の工程のうちいずれか1つの工程を実施する第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゾルを加熱処理した後、これと分散剤とを混合する工程。
但し、上記分散剤は、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤、又はそれらの塩である。
[5]以下の工程を含むコバルトゾルの製造方法。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゲルを得る第2工程。
(3)次の(a)~(d)の工程のうちいずれか1つの工程を実施して、コバルトゾルを得る第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合する工程;
(d)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合した後、加熱処理する工程。
但し、上記分散剤は、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤、又はそれらの塩である。
[6]ヒドロキシカルボン酸がクエン酸である上記[4]又は[5]記載のコバルトゾルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[コバルトゾル]
本発明のコバルトゾルは、アルカリ金属とヒドロキシカルボン酸とを含有することを特徴とするものである。
【0011】
コバルトゾルにおいて、分散粒子を構成するコバルトの形態については特に限定されることはなく、例えば、酸化物、水酸化物等が挙げられるが、その他化合物の形態であっても構わない。
【0012】
アルカリ金属は、リチウム、ナトリウム、カリウム等が好ましい。コバルトゾル中のアルカリ金属の含有量は、アルカリ金属をMとしたときに(以下においても「M」はアルカリ金属を指すものとする)、M/CoO(モル比)=0.001~3の範囲であることが好ましく、0.001~1の範囲がより好ましい。上記範囲において、ゾルとしての安定性が得られ易い。当該モル比について、下限は0.002であることがより好ましく、上限は0.6であることがより好ましい。
【0013】
コバルトゾル中のヒドロキシカルボン酸の含有量は、ヒドロキシカルボン酸/CoO(モル比)=0.001~1の範囲であることが好ましい。上記範囲において、ゾルとしての安定性が得られ易い。当該モル比について、下限は0.002であることがより好ましく、上限は0.5であることがより好ましい。ヒドロキシカルボン酸の種類としては、クエン酸が好ましい。
【0014】
コバルトゾルのpH領域については、ゾルとして安定であれば特に限定されることはないが、好ましくは中性からアルカリ性の領域である。数値範囲で示したときの好例は、6~12である。
【0015】
コバルトゾルの平均分散粒子径については、分散性が維持されているならば使用用途、目的に適した粒子径を適宜設計すればよく、限定されるものではない。例えば、薄膜用途に使用するのであれば100nm以下であることが好ましい。ここで、平均分散粒子径とは、(株)堀場製作所製「動的光散乱式粒径分布測定装置 LB-500」で測定した際のメジアン径のことである。平均分散粒子径が検出限界以下のときは、チンダル現象が確認されればゾルであると判断することができる。なお、粒子の微小さや液の色調により上記いずれの方法によっても分散粒子の存在を確認できないときは、例えば、コバルトゾルを分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過し、ろ液中のCoOが、ろ過前のコバルトゾル中のCoOに対して、50質量%以下であれば、主として分散粒子で構成されたゾルであると判断することができる。
【0016】
コバルトゾル中のCoO濃度については、下限は経済的な観点から1質量%であることが好ましく、上限はゾルとしての安定性の観点から20質量%であることが好ましい。より好ましくは、1~15質量%の範囲である。
【0017】
コバルトゾル中のコバルトの結晶形については、例えば、四酸化三コバルトCo3O4、酸化コバルトCoO、水酸化コバルトCo(OH)2、アモルファス等が挙げられる。なお、上記結晶形は、コバルトゾルを100℃で乾燥させた乾燥物の粉末X線回折分析によって同定されたものである。
【0018】
コバルトゾルの好適な一形態は、アルカリ金属とヒドロキシカルボン酸の他に、さらに、アンモニア及び/又は水溶性アミン化合物を含有したものである。本形態は、特にアルカリ金属含有量が少ないときに、ゾルとしての安定性を確保するのに好適なものといえる。アンモニア及び/又は水溶性アミン化合物の含有量については、ゾルとしての性状を維持する範囲内で用途等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、(アンモニア+水溶性アミン化合物)/CoO(モル比)=0.001~3の範囲が好ましい。当該モル比について、上限は1.5であることがより好ましい。水溶性アミン化合物としては、例えば、第一級アミン、第二級アミン、第三級アミン、水酸化第四級アンモニウム等が挙げられる。第一級アミンは、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、モノエタノールアミン、イソプロパノールアミン等が挙げられる。第二級アミンは、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン等が挙げられる。第三級アミンは、例えば、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。水酸化第四級アンモニウムは、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルプロピルアンモニウム、水酸化ジメチルジエチルアンモニウム、コリン等が挙げられる。
【0019】
ここで、コバルトゾル中のアルカリ成分とヒドロキシカルボン酸の量比について説明する。アルカリ成分としては、アルカリ金属、アンモニア、水溶性アミン化合物等が挙げられる。量比については、アルカリ成分/ヒドロキシカルボン酸(モル比)=0.1~5の範囲であることが好ましい。上限は3であることがより好ましい。
【0020】
[製造方法]
コバルトゾルの製造方法に関し、第一製法は、以下の工程を含むものである。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物と、過酸化水素と、を混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゾルを得る第2工程。
(3)任意の工程として、次の(a)~(c)の工程のうちいずれか1つの工程を実施する第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゾルと分散剤とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゾルを加熱処理した後、これと分散剤とを混合する工程。
【0021】
コバルトゾルの製造方法に関する第二製法は、過酸化水素を第1工程ではなく第3工程で用いることが第一製法との主な相違点である。この相違により、第二製法の第2工程ではコバルトゾルではなくコバルトゲルが得られ、第3工程によってコバルトゾルが得られるものである。
【0022】
第二製法は、以下の工程を含むものである。
(1)水存在下で、水溶性コバルト化合物と、ヒドロキシカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩と、アルカリ金属の水酸化物とを混合し、反応させる第1工程。
(1′)任意の工程として、第1工程で得られた反応物を加熱処理する第1′工程。
(2)第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を、洗浄して、コバルトゲルを得る第2工程。
(3)次の(a)~(d)の工程のうちいずれか1つの工程を実施して、コバルトゾルを得る第3工程:
(a)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合する工程;
(b)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素とを混合した後、加熱処理する工程;
(c)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合する工程;
(d)第2工程で得られたコバルトゲルと過酸化水素と分散剤とを混合した後、加熱処理する工程。
【0023】
第一製法と第二製法に共通して、分散剤は、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤、又はそれらの塩である。即ち、ヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤の組合せ、又はヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤の塩である。
【0024】
両製法における任意の工程は、必須の工程ではなく、必要に応じて実施すればよい工程である。
【0025】
両製法の第1工程において、水存在下とは、少なくとも第1工程に使用する原料が水を媒質として反応できる条件であればよく、使用する原料の種類、配合比、混合方法等のさまざま条件に応じて水の量を適宜設定することが好ましい。好例は、水溶性コバルト化合物の水溶液を用いることである。当該水溶液は、CoO=0.01~5質量%の範囲のものが好ましい。
【0026】
(原料)
水溶性コバルト化合物は、水存在下で、アルカリ金属の水酸化物と混合させたときに反応するものであれば特に限定なく使用することができる。好適な水溶性コバルト化合物として、硝酸コバルト、塩化コバルト等を例示できる。また、水酸化コバルト、炭酸コバルト等を鉱酸で溶解させたものを利用することも可能である。
【0027】
第1工程に用いるヒドロキシカルボン酸と分散剤の一部として用いるヒドロキシカルボン酸に共通して、ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸が好例である。
【0028】
ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩としては、アルカリ金属がリチウム、ナトリウム、カリウム等が好ましい。好例として、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられる。
【0029】
アルカリ金属の水酸化物の好例は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等である。
【0030】
アルカリ剤は、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、水溶性アミン化合物等が好ましく、種類数としては1種類だけでもあるいは2種類以上であってもよい。アルカリ金属の水酸化物と水溶性アミン化合物は、それぞれ前述と同様のものが好例である。
【0031】
分散剤がヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤の塩であるときは、ヒドロキシカルボン酸のアルカリ金属塩、ヒドロキシカルボン酸のアンモニウム塩等が好例である。好適な具体例として、クエン酸リチウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0032】
(第一製法/第1工程)
第一製法の第1工程は、原料の混合により反応現象を生じさせることができれば特に限定はなく、原料の種類、配合比、混合方法等を適宜選択・設計することが好ましい。反応現象としてはゲル化が好ましく、よって、得られる反応物としてはゲル状を呈するものであることが好ましい。原料の混合割合については、反応性や経済的な観点から、ヒドロキシカルボン酸/CoO(モル比)=0.01~0.5の範囲、[Mのモル数]/([水溶性コバルト塩由来の酸のモル数]×[水溶性コバルト塩由来の酸の価数]+[ヒドロキシカルボン酸のモル数]×[ヒドロキシカルボン酸のカルボキシル基数])=0.8~2の範囲となるように設計することが好ましい。また、過酸化水素の適用量については、他の原料の混合割合に応じて適宜設定すればよいが、一例としては、反応性や経済的な観点から、過酸化水素/CoO(モル比)=0.1~4の範囲が適当である。
【0033】
第1工程の具体的な工程例として、(i) ヒドロキシカルボン酸を添加した水溶性コバルト化合物水溶液に、アルカリ金属の水酸化物を混合し反応後、さらに過酸化水素を混合し反応させる方法、(ii) ヒドロキシカルボン酸を添加した水溶性コバルト化合物水溶液に過酸化水素を混合後、さらにアルカリ金属の水酸化物を混合し反応させる方法、が挙げられる。
【0034】
(第一製法/第1′工程)
第1′工程は、第1工程で得られた反応物を加熱処理する任意の工程である。加熱処理によって、分散粒子の結晶性の向上や粒子径の増大等の効果を得ることも可能である。加熱条件として、加熱温度は50~200℃、加熱時間は0.5~72時間を例示できるが、これに限定されるものではない。好適には、50~150℃で0.5~6時間である。
【0035】
(第一製法/第2工程)
第2工程は、第1工程で得られた反応物又は第1′工程で得られた加熱処理物を洗浄して、コバルトゾルを得る工程である。洗浄は、余分な水溶性成分の除去を目的とするものであり、当該目的が達成できれば洗浄方法に特に限定はない。洗浄方法の好例として、限外ろ過、ヌッチェろ過、フィルタープレス等が挙げられる。限外ろ過における洗浄強度としては、例えば、ろ液のECが1.0mS/cm以下になるまで洗浄することが好ましい。
【0036】
(第一製法/第3工程)
第2工程によってコバルトゾルを得ることができるが、さらに追加の工程として第3工程を実施してもよい。第3工程の実施により、分散安定性、保存安定性等の点でより優れたコバルトゾルを得ることも可能である。第3工程は、上記(a)~(c)の工程のうちいずれか1つの工程を実施するものである。上記(a)~(c)の工程における混合の好適方法は、上記(a)と(b)の工程ではコバルトゾルに分散剤を添加する方法、上記(c)の工程ではコバルトゾルの加熱処理物に分散剤を添加する方法、である。
【0037】
分散剤の添加量の目安は、分散剤としてヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤を用いるときは、ヒドロキシカルボン酸がヒドロキシカルボン酸/CoO(モル比)=0.01~1の範囲、アルカリ剤がアルカリ剤/CoO(モル比)=0.01~3の範囲である。また、分散剤としてヒドロキシカルボン酸とアルカリ剤の塩を用いるときの添加量の目安は、当該塩/CoO(モル比)=0.01~1の範囲である。
【0038】
加熱処理を行う(b)工程及び(c)工程では、加熱処理により分散安定性をさらに向上させることも可能である。加熱処理条件(加熱温度、加熱時間等)は、目的とするゾルの性状に応じて適宜設定することが望ましい。例えば、加熱温度として50~200℃、加熱時間として0.5~72時間を例示できるが、これに限定されるものではない。好適には、70~150℃で1~6時間の加熱条件である。また、さらに任意の工程として、(c)の工程の後にさらに、加熱処理を行うことも可能である。このときの加熱処理条件は、上記と同様である。
【0039】
(第二製法/第1~2工程)
前述のように、第二製法は、過酸化水素を第1工程ではなく第3工程で用いることが第一製法との主な相違点であり、これにより、第二製法の第2工程ではコバルトゾルではなくコバルトゲルが得られ、第3工程によってコバルトゾルが得られるものである。第二製法の第1工程と第2工程は、過酸化水素の使用以外は前記第一製法の第1工程と第2工程と同様に実施すればよい。第二製法の第1′工程の加熱処理においては、加熱温度は30~95℃であることが好ましい。加熱時間は、加熱温度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.5~72時間である。また、任意の処理として、第二製法/第2工程で得られたコバルトゲルに対して加熱処理を行うことも可能であり、この場合の加熱条件は、第一製法の第1′工程と同様に実施すればよい。
【0040】
(第二製法/第3工程)
第3工程では、第2工程によって得られたコバルトゲルを用いて、(a)~(d)工程のうちいずれか1つの工程を実施して、コバルトゾルを得る。
【0041】
(a)~(d)工程は、コバルトゲルと過酸化水素とを混合することで共通している。過酸化水素の添加量の目安は、目的とするゾルの性状に応じて適宜設定することが望ましいが、一例としては、過酸化水素/CoO(モル比)=1~20の範囲となる量である。
【0042】
(a)工程の操作に加えて、加熱処理及び/又は分散剤との混合を実施する(b)~(d)工程では、分散安定性、保存安定性等の点でより優れたコバルトゾルを得ることも可能である。なお、(a)~(d)工程における混合の好適方法は、(a)及び(b)工程ではコバルトゲルに過酸化水素を添加する方法、(c)及び(d)工程ではコバルトゲルに過酸化水素及び分散剤を添加する方法、である。また、加熱処理条件と分散剤の添加量の目安は、前記第一製法の第3工程と同様である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。尚、実施例において%は、特に断らない限り全て質量%を示す。
【0044】
〔実施例1〕
イオン交換水に溶解させたCoO=1%の塩化コバルト水溶液5000gと20%クエン酸水溶液128.2g、35%過酸化水素水129.7gを混合した後、20%水酸化ナトリウム水溶液453.8gを徐々に添加し、反応物を得た。この反応物を分画分子量10000の限外ろ過膜を用いて、ろ液のECが300μS/cmになるまで限外ろ過洗浄し、黒色の外観を呈するコバルトゾルを得た。なお、上記限外ろ過洗浄において、ろ液中のCoOは、ろ過前の反応物中のCoOに対して、0.3%であった。
得られたコバルトゾルを分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過した結果、ろ液中のCoOが、ろ過前のコバルトゾル中のCoOに対して、0.1%以下であった。これにより、コバルトを含有した分散粒子を主として構成されたゾルであることが確認された。
【0045】
〔実施例1-a〕
実施例1で得られたコバルトゾル400gに、クエン酸水素二アンモウム40.2gを添加し、コバルトゾルを得た。
【0046】
〔実施例1-b〕
実施例1で得られたコバルトゾル400gに、クエン酸一水和物37.4g、NH3として20%のアンモニア水45.3gを添加後、120℃・3hの水熱処理を行い、コバルトゾルを得た。
当該コバルトゾルを分画分子量10000の限外ろ過膜でろ過した結果、ろ液中のCoOが、ろ過前のコバルトゾル中のCoOに対して、9.6%であった。これにより、コバルトを含有した分散粒子を主として構成されたゾルであることが確認された。
【0047】
〔実施例1-b-2〕
実施例1で得られたコバルトゾル400gに、クエン酸水素二アンモウム40.2g、NH3として20%のアンモニア水15.1gを添加後、90℃・3hの水熱処理を行い、コバルトゾルを得た。
【0048】
〔実施例1-c〕
実施例1で得られたコバルトゾル200gを、120℃・3hの水熱処理を行った後、クエン酸水素二アンモニウム20.1gを添加し、コバルトゾルを得た。
【0049】
〔実施例2-a〕
イオン交換水に溶解させたCoO=1%の塩化コバルト水溶液5000gと20%クエン酸水溶液128.2gを混合した後、20%水酸化ナトリウム水溶液453.8gを添加し、反応物を得た。この反応物を分画分子量10000の限外ろ過膜を用いて、ろ液のECが300μS/cmになるまで限外ろ過洗浄し、コバルトゲルを得た。このコバルトゲル400gに、35%過酸化水素103.8gを添加し、コバルトゾルを得た。
【0050】
〔実施例2-b〕
実施例2-aと同様にして得られたコバルトゲル400gに、35%過酸化水素103.8gを添加した後、120℃・3hの水熱処理を行い、コバルトゾルを得た。
【0051】
〔実施例2-c〕
実施例2-aと同様にして得られたコバルトゲル400gに、過酸化水素103.8gを添加した後、クエン酸水素二アンモニウム7.2gを添加し、コバルトゾルを得た。
【0052】
〔実施例2-d〕
実施例2-aと同様にして得られたコバルトゲル400gに、過酸化水素103.8gを添加した後、クエン酸水素二アンモニウム7.2gを添加後、120℃・3hの水熱処理を行い、コバルトゾルを得た。
【0053】
上記各実施例で得られたコバルトゾルの分析結果を表1に示した。
【0054】
【0055】
表1で示した項目の分析方法は以下のとおりである。
[CoO濃度]
コバルトゾルを乾燥後、1000℃焼成し、得られた残渣を元に下記式によりCoO濃度を算出した。
CoO濃度(%)=残渣÷サンプリング量×100-M2O(%)
[クエン酸及びナトリウム濃度]
コバルトゾルを塩酸で溶解後、クエン酸は(株)島津製作所製 高速液体クロマトグラフ LC-2010Cを用いて、ナトリウムは(株)島津製作所製 原子吸光分光光度計 AA-6800を用いて測定した。
[アンモニア濃度]
アンモニア濃度はケルダール法で測定した。
[pH]
(株)堀場製作所製 pHメーター D-53Sを用いてpHを測定した。
[結晶構造]
コバルトゾルを100℃乾燥させたものを島津製作所(株)製 X線回折装置 XRD-7000で測定し結晶構造を解析した。
【0056】
〔実施例3〕
実施例1で得られたコバルトゾル400gに、クエン酸一水和物37.4g、35%水酸化テトラエチルアンモニウム149.6gを添加後、120℃・3hの水熱処理を行い、CoO濃度7.5%、pH8.8のコバルトゾルを得た。
【0057】
〔実施例4〕
実施例1で得られたコバルトゾル400gに、クエン酸一水和物37.4g、48%コリン水溶液119.7gを添加後、120℃・3hの水熱処理を行い、CoO濃度7.9%、pH8.5のコバルトゾルを得た。