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特許7117080細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/12 20060101AFI20220804BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20220804BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B32B27/12
D03D1/00 Z
D03D11/00 Z
【請求項の数】 21
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017085668
(22)【出願日】2017-04-24
(65)【公開番号】P2017206008
(43)【公開日】2017-11-24
【審査請求日】2020-01-14
(31)【優先権主張番号】16167312.4
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16167320.7
(32)【優先日】2016-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【弁理士】
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【弁理士】
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】オナー ユッケレン
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/052585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/12
D03D 1/00
D03D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材織布(1)及び少なくとも1層のバイオポリマー層(20)を含む複合織布(10)であって、
前記基材織布(1)は、一緒に織られる縦糸ヤーン(2)及び横糸ヤーン(3)(4)を備え、
前記基材織布(1)は、前面(5)及び背面(6)を有し、
複数の第1の縦糸ヤーン(2)及び少なくとも1つの複数の第1の横糸ヤーン(3)は、前記基材織布(1)の基材層(1a)を形成し、
少なくとも1つの複数の第2の横糸ヤーン(4)は、前記縦糸ヤーン(2)と一緒に織られ、さらに他の前記縦糸ヤーン(2)を通過して、前記基材織布(1)の前記面(5)(6)の少なくとも1つに、ループ部分(7)の追加の層(1b)を形成し、
前記少なくとも1のバイオポリマー層(20)は、微生物から得られ、前記追加の層(1b)の少なくとも一部に設けられており、これにより、前記ループ部分が前記バイオポリマー層の中に延びていることを特徴とする複合織布(10)。
【請求項2】
前記バイオポリマー層(20)は、糖ベース又はアミノ酸ベースバイオポリマー、又はその混合物である請求項1に記載の複合織布(10)。
【請求項3】
前記バイオポリマーは、セルロース、コラーゲン、セルロース/キチンコポリマー、絹、又はその混合物である請求項1又は2に記載の複合織布(10)。
【請求項4】
前記縦糸ヤーン(2)及び/又は前記横糸ヤーン(3)(4)は、親水性ヤーンである請求項1~3のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項5】
前記横糸ヤーン(3)(4)は、前記複数の第1の横糸ヤーン(3)、及び前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)を含んでおり、前記縦糸ヤーン(2)及び前記複数の第1の横糸ヤーン(3)は、前記基材織布(1)の前記基材層(1a)を形成し、かつ前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)は、3~24本の前記縦糸ヤーン(2)を超えて通過して浮き糸となることにより、前記基材織布(1)の前記前面に沿って、前記ループ部分(7)の前記追加の層(1b)を形成している請求項1~4のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項6】
前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)は、5~24本の前記縦糸ヤーン(2)を超えて前記浮き糸となることより、前記基材織布(1)の前記前面に沿って、前記ループ部分(7)の前記追加の層(1b)を形成している請求項5に記載の複合織布(10)
【請求項7】
前記横糸ヤーン(3)(4)は、前記複数の第1の横糸ヤーン(3)及び前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)を含んでおり、前記縦糸ヤーン(2)及び前記複数の第1の横糸ヤーン(3)は、前記基材織布(1)の前記基材層(1a)を形成し、かつ前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)は、3~24本の前記縦糸ヤーン(2)の下を通過して浮き糸となることにより、前記基材織布(1)の前記背面に沿って、前記ループ部分(7)の前記追加の層(1b)を形成している請求項1~のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項8】
前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーン(4)は、5~24本の縦糸ヤーン(2)の下で前記浮き糸となることにより、前記基材織布(1)の前記背面に沿って、前記ループ部分(7)の前記追加の層(1b)を形成している請求項7項に記載の複合織布(10)。
【請求項9】
前記ループ部分(7)は、前記基材織布(1)の前記前面(5)及び前記背面(6)の両方に沿って形成されている請求項1~4のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項10】
前記少なくとも複数の横糸ヤーン(3)(4)は、前記縦糸ヤーン(2)とは異なる材料で製造されている請求項1~のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項11】
前記縦糸ヤーン(2)及び/又は前記横糸ヤーン(3)(4)は、天然ヤーン、合成ヤーン及びそれらの混合ヤーンから選択される請求項1~10のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項12】
前記基材織布(1)はデニム織布ある請求項1~11のいずれか1項に記載の複合織布(10)。
【請求項13】
前記デニム織布は弾性デニム織布である請求項12に記載の複合織布(10)。
【請求項14】
複合織布(10)を製造する方法であって、
a. 基材織布(1)を供給する工程であり、前記基材織布(1)は、一緒に織られる縦糸ヤーン(2)及び横糸ヤーン(3)(4)を含み、かつ前面(5)及び背面(6)を有していて、かつ複数の第1の縦糸ヤーン(2)及び少なくとも1つの複数の第1の横糸ヤーン(3)は、前記基材織布(1)の基材層(1a)を形成しており、かつ少なくとも1つの複数の第2の横糸ヤーン(4)は、前記縦糸ヤーン(2)と一緒に織られ、さらに他の前記縦糸ヤーン(2)を通過して、前記基材織布(1)の前記面(5)(6)の少なくとも1つに、ループ部分(7)の追加の層(1b)を形成しており、
b. 前記基材織布(1)の前記面(5)(6)の少なくとも1つの前記面で、前記ループ部分(7)の前記追加の層(1b)を備えている少なくとも1つの前記面の少なくとも一部と、バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触させる工程と、
c. 前記バイオポリマー生産性微生物を培養して、前記バイオポリマー生産性微生物によって生産された少なくとも1層のバイオポリマー層(20)を前記基材織布(1)に供給し、これにより、複数の前記ループ部分が前記バイオポリマー層の中に延びているようにする工程とを含む複合織布(10)を製造する方法。
【請求項15】
前記バイオポリマー生産性微生物は、細菌、藻類、酵母、カビ、及びそれらの混合物から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記バイオポリマー生産性微生物は、Gluconacetobacter、Aerobacter、Acetobacter、Achromobacter、Agrobacterium、Azotobacter、Salmonella、Alcaligenes、Pseudomonas、Rhizobium、Sarcina、Streptoccoccus及びBacillus genus、及びそれらの混合物から選択され、かつバイオポリマー生産性藻類は、Phaeophyta、Rhodophyta及びChrysophyta,及びそれらの混合物から選択される請求項14に記載の方法。
【請求項17】
更に、前記工程cで得た前記複合織布(10)を洗濯して、前記バイオポリマー生産性微生物を除去する工程dを含む請求項1416のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
更に、前記複合織布(10)を、染色する工程eを含む請求項1417のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記染色する工程eは、インディゴ染料により染色される請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1に記載の前記複合織布(10)を含む衣料品。
【請求項21】
前記少なくとも1層のバイオポリマー層(20)は、前記追加の層(1b)の少なくとも一部と結合されており、前記追加の層(1b)は、前記基材織布(1)の前記前面(5)及び/又は前記背面(6)にあり、前記前面(5)は、前記衣料品を着用した時、外側から目に見える面であり、かつ前記背面(6)は、前記衣料品を着用した時、内側にあって、目に見えない面である請求項20に記載の衣料品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料品を製造するのに適する複合織布に関する。また、本発明は、複合織布を製造する方法、及び複合織布を含む衣料品にも関する。
【0002】
特に本発明の織布は、織布、及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層、即ち、微生物から得られたバイオポリマーの層を含む複合織布に関する。
【背景技術】
【0003】
複合織布とは、異なる物理的又は化学的性質を有している2つ以上の構成成分を有し、組み合わせることにより、個々の成分とは異なる特徴をもった織布を得ることができるような織布のことである。個々の成分は、最終構造体の中で、実質的に、それぞれ分離されたままである。
【0004】
例えば、複合織布の一成分としては、材料に引張り強さを付与するガラス繊維、ケブラ-([Kevlar(登録商標)])、又は炭素繊維のような強い繊維がある。他の成分としては、繊維を一緒に結合するポリエステル、又はエポキシのような樹脂がある。
【0005】
基材織布がバイオポリマーと結合している複合織布は公知である。
【0006】
細菌由来セルロースは、最もよく知られており、かつ研究されている細菌由来のバイオポリマーの1つである。
【0007】
細菌由来セルロースは、式(C10)nを持つ有機化合物で、或る種の細菌から、細胞外ポリマーとして生産される植物セルロースである。
【0008】
細菌由来セルロースは、植物セルロースと同じ分子式で表されるが、植物セルロースとは、巨大分子の性質を有している点において異なっている。実際、細菌由来セルロースは、植物セルロースに比べて、通常、化学的に非常に純粋(即ち、ヘミセルロース又はリグニンを含んでいない)で、かつ高い保水能力、大きな引張り強さ、高い重合度、及び高い結晶化度を有している。
【0009】
これらの特有な性質により、細菌由来セルロースは、食品産業、医療分野(例えば、創傷保護材及び血管再生)及び絵画等修復材等、幾つかの技術分野において使用されてきた。
【0010】
細菌由来セルロースのテキスタイル業界における使用も知られている。
【0011】
例えば、衣服を、完全に、細菌由来セルロースで製造することが出来ることは知られている。実際、細菌由来セルロースの層は、細菌由来セルロース生産細菌の培養物の培養物から採取し、次いで成形し、乾燥させて、衣服、例えば、ドレスに仕立てることが知られている。
【0012】
更に、上述したように、バイオポリマー、例えば細菌由来セルロースを基材織布に結合させた複合織布も知られている。
【0013】
例えば、特許文献1は、細菌由来セルロースの非多孔質フィルムと結合させた補綴織布を含む複合インプラントを開示している。特許文献1の補綴織布は、2つの面を有する3次元構造をもっており、1つの面は、手術後の細胞形成のために開口し、第2の面は、細菌由来セルロースの多孔質フィルムと結合している。特許文献1は、細菌由来セルロースフィルムと補綴織布を、多様な方法で組立てられることを開示している。例えば、織布を、発酵ブロスの表面で生成された微生物起源セルロースの湿潤薄膜の表面に載置して、細菌を培養物に保持させ、織布の構造体の中で、微生物起源のセルロース湿潤薄膜を成長させることが出来ることを開示している。
【0014】
上述したように、特許文献1は、複合インプラントを開示しているが、これは、衣服の製造、特に、染色される衣服の製造には適しない。
【0015】
特許文献2は、ポリマー及び/又は繊維から選択された支持体に結合されたセルロ-スを含む材料を開示している。前記セルロ-スは、生物、好ましくは細菌から製造されたものである。特許文献2に記載されている複合材料は、ポリマー又は繊維から選択された支持体を含む培養物を、セルロース生産性微生物と接触させることを含む方法により製造される。
【0016】
特許文献3は、グリセロールと、少なくとも一つのバイオポリマーから成る混合物から製造された、少なくとも一つのポリマーフィルムを含むインプラント可能な医療装置を開示している。特許文献3は、ポリマーフィルム層が、他のインプラント可能な基材、例えば、棘が付いた毛羽を有するメッシュで、インプラントされた時、組織に結合することができることを記載している。
【0017】
特許文献4は、セルロース生産性微生物の培養物で処理されたフジエット織布を開示しており、セルロース生産性微生物は、織布を構成しているレーヨンフィラメントの表面で培養される。
【0018】
然しながら、バイオポリマー層を含む公知の複合織布、特に衣料品を製造するための複合織布には、幾つかの欠点がある。
【0019】
例えば、バイオポリマーの層、例えば、細菌由来セルロースは、織布から簡単に脱離される。この問題を解消するためには、固定ポリマー及び/又は化学架橋剤を使用して、バイオポリマー、例えば細菌由来セルロースを使用して、織布と結合させなければならない。然しながら、固定ポリマー及び/又は化学架橋剤を使用すると、製造コストが上がり、環境を汚染する廃棄物を生み出す原因になる。
【0020】
従来の複合織布の課題は、染色し難く、希望する色合いを出すには、大量の染料を必要とし、そのため、製造コストは上昇し、衣料の製造には適しなくなっていた。
【0021】
更に、従来の複合織布は染色し難くいので、衣料品及び衣料品を製造するのに必要なファショナブル効果を、十分に発揮させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【文献】国際公開第2010/052585号
【文献】国際公開第2008/020187号
【文献】米国特許出願公開第2012/081712A1号明細書
【文献】特開平09-279483号公報
【文献】米国特許出願公開第2015/0038042号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0048140号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明が解決しようとする課題は、前述した問題を解消して、容易に、かつ効果的に染色することが出来、衣料品の製造に適する細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を提供することである。
【0024】
本発明が解決しようとする別の課題は、簡単に、安価に、かつ環境に優しい方法で製造することができる複合織布を提供することである。
【0025】
本発明が解決しようとするさらに別の課題は、細菌由来バイオポリマーが基材層から脱離しないようにし、かつ基材層から細菌由来バイオポリマーが脱離するのを防止する複合織布を提供することである。
【0026】
これら及びそれ以外の課題は、請求項1による複合織布、請求項11による方法で製造することができる複合織布、及び請求項16による衣料品の製造に適した複合織布によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、基材織布、及び少なくとも1つの細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布であって、前記基材織布は、一緒に織られる縦糸ヤーン及び横糸ヤ-ンを含み、前面及び背面を有し、かつ第1の複数の縦糸ヤーン及び少なくとも複数の第1の横糸ヤーンは、前記基材織布の基材層を形成し、かつ少なくとも複数の第2の縦糸ヤーン及び/又は少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、前記基材織布の面の少なくとも一つの面に、ループの形状をした前記基材織布の追加の層を形成し、前記少なくとも一つの細菌由来バイオポリマー層は、前記追加の層の少なくとも一部に形成されている複合織布に関する。最終製品において、細菌由来バイオポリマーは、ループが存在する織布の面の少なくとも一部に形成されており、ループは、「固定手段」として作用し、基材織布の面に結合されているバイオポリマー層を維持している。
【0028】
実際、驚くべきことに、ループの形状をした追加の層とループに形成されている、即ちループに「結合」されている少なくとも1枚の細菌由来バイオポリマー層とを含む複合織布は、簡単に染色することができるので、衣料品(即ち、衣服)の製造に適していることが分かった。
【0029】
特に、本発明による複合織布は、高い染料吸収能力を示し、従来の複合織布に比べて、簡単、迅速かつ安価な方法で、かつ少ない染料消費量で、また廃棄物の排出量を低減して、染色された複合織布を製造できることが分かった。同時に、ループが、バイオポリマーを織布に固定するための信頼性がある固定手段になり、バイオポリマーを基材織布から脱離させずに、複合織布を染色及び仕上げ処理することができる。
【0030】
特定の科学的説明に拘束されるものではないが、基材織布に結合されているバイオポリマー層(例えば、細菌由来セルロースを含む層)を維持するのに通常使用されている固定ポリマー及び/又は化学架橋剤が、細菌由来バイオポリマー及び織布の-OH基の大部分と反応し、-OH基と他の製品、例えば染料のような製品との反応が阻止されるものと考えられる。
【0031】
更に、驚くべきことに、本発明の基材織布の追加の層を形成するループ部分は、基材織布に結合している細菌由来バイオポリマーと結合して維持する固定ポリマー及び/又は化学架橋剤を使用することなく、高染料吸収量を有する複合織布を提供することが分かった。従って、複合織布を効果的に染色することが出来、複合織布を、衣料品の製造に使用すること、特にファッショナブルな視覚効果と外観を備える衣料品の製造に使用するのに適したものとすることが出来る。
【0032】
特定の科学的説明に拘束されるものではないが、本発明の基材織布の追加の層を形成するループ部分は、細菌由来バイオポリマー層と基材織布との間の物理的結合材として作用し、化学的架橋剤を必要とすることなく、細菌由来バイオポリマー及び基材織布の化学-OH基(即ち、ヒドロキシル基)を、染料と反応させるものと考えられる。
【0033】
換言すれば、化学的架橋剤を使用しないので、細菌由来バイオポリマー及び基材織布の両方の-OH基(即ち、ヒドロキシル基)が、架橋剤によって「占領」されない。従って、複合織布を染色する間、前記-OH基(即ち、ヒドロキシル基)は、染料(例えば、インディゴ染料)と「自由に」反応する。
【0034】
この現象は、本発明によって、細菌由来バイオポリマー層が織布の上、即ち基材織布の上で直接成長(即ち、製造)されている時に、特に顕著である。実際、有利なことに、本発明による細菌由来バイオポリマー層を、織布の上、特に本発明による基材織布の上に直接製造することが出来るので、本発明の複合織布が提供される。
【0035】
例えば、本発明による複合織布は、少なくとも複数の縦糸ヤーン及び/又は少なくとも複数の横糸ヤーンがループ部分の追加の層を形成する基材織布の面(例えば、基材織布の前面、背面、又は両面)と、細菌由来バイオポリマー生産性微生物培養物と接触させ、かつ前記細菌由来バイオポリマー生産性微生物を培養することによって製造することができる。ループ部分は、細菌由来バイオポリマー生産性微生物を、(ループ部分によって形成された)追加の層に通過させ、基材織布の基材層に到達させ、接触させる。以下の記載では、ループを有する横糸ヤーンについて言及する。然しながら、ループは、横糸ヤーンの代りに、縦糸ヤーンに形成することも出来、或いは横糸ヤーン及び縦糸ヤーンの両方に形成することも出来る。
【0036】
好ましくは、細菌由来バイオポリマー生産性微生物(即ち、細菌由来バイオポリマーを生産する微生物)は、基材織布の基材層に深く浸透せず、実質的に基材層の表面に沈降し、次いで基材織布の基材層の表面で成長して、細菌由来バイオポリマー層を生産し、成長し、基材層の表面から延びて、基材織布の追加の層を通して拡張する。例えば、本発明の態様により、細菌由来バイオポリマー層は、基材層の表面から延びて、追加の層の表面、好ましくは追加の層の表面を覆う。より詳細に述べると、一旦、基材織布が、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触すると、前記細菌由来バイオポリマー生産性微生物は培養されて、基材織布に細菌由来バイオポリマーが生産され、基材織布に細菌由来バイオポリマー層を直接形成し、延びて基材織布の追加の層に通して拡張させ、本発明の複合織布が提供される。
【0037】
本発明の態様において、細菌由来バイオポリマー層は、追加の層よりも小さいか、等しいか、或いは大きな厚さを有している。
【0038】
本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において使用する用語「厚さ」は、いずれかの上面と底面、或いは前面と背面との間の距離、例えば、細菌由来バイオポリマー層の上面と底面との間の距離のことである。細菌由来バイオポリマー層の底面は、基材織布の基材層と接触している細菌由来バイオポリマー層の表面である。細菌由来バイオポリマー層の上面は、基材織布と接触していない、底面と対向している細菌由来バイオポリマー層の表面である。
【0039】
好ましい態様において、細菌由来バイオポリマー層は、基材織布に直接製造されて、細菌由来バイオポリマー層の中に延びて(基材織布の追加の層を形成する)ループ部分、即ち、換言すれば、細菌由来バイオポリマー層の中に「埋め込まれている」又は「織り込まれている」ループ部分を有する複合織布を提供する。従って、細菌由来バイオポリマー層は、「固定手段」として作用するループ部分を介して基材織布に「投錨」(即ち、「結合」又は「固定」)されている。
【0040】
ループ部分は、次のi及びiiの二重の機能を有していると有利である。
i:基材織布が、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触している時、(基材織布の追加の層を形成する)ループ部分が、微生物を基材織布の基材層(即ち、基材層の表面)に到達させ、そこで、前記微生物が沈降し、細菌由来バイオポリマー(例えば、細菌由来セルロース)が、ループの間及びループ(即ち、ループ部分)に製造され、即ち「成長」し、基材織布の追加の層を通して拡張する。ii:ループ部分が、細菌由来バイオポリマー層と基材織布の間の物理的結合材として作用し、化学結合剤及び/又は架橋剤を使用せずに、細菌由来バイオポリマー層が基材織布に形成される。即ち、「結合」、「付着」、「固定」される。従って、上述したように、化学結合剤及び/又は架橋剤を使用せずに、細菌由来バイオポリマー層を基材織布に結合するので、細菌由来バイオポリマー層の化学-OH基、及び基材織布の化学-OH基を「自由に」及び「利用して」染料と反応する。
【0041】
さらに、基材織布が、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触している時、ループ部分が物理的結合材として作用し、細菌由来バイオポリマーと基材織布の追加の層との「からみ合い」を可能にし、細菌由来バイオポリマー層と織布の強い結合を維持し、織布(即ち、複合織布)を仕上げるための更なる処理において、基材織布からバイオポリマー層が実質的に除去されないようにする。
【0042】
例示的態様において、基材織布の基材層の多孔度を選択して、細菌由来バイオポリマー生産性微生物が、基材織布の基材層の構造体の中に侵入しないように防止する。換言すれば、基材織布の基材層の多孔度は、使用する細菌由来バイオポリマー生産性微生物のサイズに応じて選択される。
【0043】
例えば、基材織布の基材層の多孔度が、0.5μm~1μmの範囲にある場合、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、基材層の本体には実質的に侵入しないで、その「表面」に保持され、沈降される。
【0044】
本発明によって、織布の基材層、即ち基材織布は、第1の複数の縦糸ヤーン及び少なくとも複数の第1の横糸ヤーンで製造され、それが、基材織布の機械的性質を実質的に決定する構造となる。
【0045】
本発明によって、基材織布の追加の層は、基材織布の面の少なくとも1つに形成される複数のループ部分によって形成される。少なくとも1つの細菌由来バイオポリマー層は、ループ部分の前記追加の層の少なくとも一部に形成される。
【0046】
本発明によって、ループ部分の追加の層は、「固定手段」として作用し、織布の基材層に結合している細菌由来バイオポリマー層を保持している。
【0047】
本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において使用する用語「細菌由来バイオポリマー層」及び「細菌由来ポリマー層」は、少なくとも1つの細菌由来バイオポリマーを含む層である。
【0048】
同じく本発明で使用する用語「細菌由来バイオポリマー」及び「細菌由来ポリマー」は、微生物によって製造される全てのポリマーである。同じく用語「微生物」は、遺伝子組み替えしていない(即ち、野生型)微生物及び遺伝子組み替えした微生物の両者を意味する。例えば、或る微生物は、遺伝子組み換えされて、細菌由来バイオポリマーを生産するが、この細菌由来バイオポリマーは、遺伝子組み換えしていない(即ち、野生型微生物)場合、同じ微生物では製造されない。
【0049】
同じく本発明で使用する用語「微生物」は、小さな単細胞微生物又は多細胞微生物である。それらは、非常に小さいので、裸眼では視ることが不可能で、顕微鏡下で視認され、細菌、酵母、カビ、濾過性病原菌(ウイルス)及び藻類が包含される。上述したように、用語「微生物」は、遺伝子組み替えしていない(即ち、野生型)微生物及び遺伝子組み替えした微生物の両者を包含する。
【0050】
本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、簡潔に、包括的に「細菌由来バイオポリマー」を使用している、然しながら、この記載によって、本発明の範囲を「細菌」のみによって製造されたポリマーに限定するものではなく、本発明は、上述した「微生物」で製造される全てのポリマーを包含する。
【0051】
同じく本発明で使用している用語「結合された」及び「結合すること」は、少なくともループが形成されている織布の面において、細菌由来バイオポリマー層の成長が終わった後の複合織布の状態を言う。この状態において、ループの少なくとも一部分が、基材織布の少なくとも一部に延びているバイオポリマー層と接触されており、細菌由来バイオポリマーは、少なくともループの一部を覆っており、ループは、細菌由来バイオポリマーを織布に固定するための機械的結合手段として作用している。
【0052】
本発明の好ましい態様において、縦糸ヤーン及び/又は横糸ヤーンは、親水性ヤーンである。
【0053】
縦糸ヤーン及び/又は横糸ヤーンが親水性ヤーンの場合、微生物の培養物は基材織布に吸収され、微生物への栄養及び細菌由来バイオポリマー層を合成するための成分を、直接基材織布へ提供することができるので有利である。
【0054】
本発明の好ましい態様において、親水性ヤーンは天然繊維、即ち天然繊維から作られるヤーンである。
【0055】
好ましくは、天然繊維は、コットン、ウール、亜麻繊維、ケナフ、ラミ、麻、及びそれらの混合物から選択される天然繊維である。
【0056】
一態様において、親水性ヤーンは合成繊維、即ち合成繊維から作られるヤーンである。
【0057】
好ましくは、合成ヤーンは、ポリエステル、レーヨン、ライクラ[Lycra(登録商標)]及びそれらの混合物から選択された合成繊維を含む。
【0058】
本発明の一態様において、合成ヤーンは、エラスタン(Elastane)[登録商標]である。
【0059】
本発明の一態様において、ヤーンは、再生繊維を含む。再生繊維は、例えば、リヨセル(Lyocel)[商品名]、モダール(Modal)[商品名]、ビスコース(Viscose)[商品名]、竹、及びそれらの混合物である。
【0060】
本発明の好ましい態様において、合成ヤーン及び/又は合成繊維は、処理(即ち、仕上げ処理)されて、親水性能を有する合成ヤーン及び/又は合成繊維になる。
【0061】
例えば、それ自体親水性ではない合成ヤーン及び/又は合成繊維は、親水化剤で処理して、親水性の特徴を付与することができる。
【0062】
本発明の一態様において、親水性ヤーンは、混合ヤーン、即ち、天然及び合成ヤーンの両方を含む混合ヤーンである。この場合、例えば、親水性の混合ヤーンは、親水性の天然繊維と親水性の合成繊維を混合することによって得ることができる。
【0063】
本発明の好ましい態様において、細菌由来バイオポリマー層は、糖ベースバイオポリマー又はアミノ酸ベースバイオポリマー、或いはそれらの混合物を含む。
【0064】
本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、用語「糖ベースバイオポリマー」は、線状及び有枝(枝分かれ)多糖類、それらの変形及び誘導体を包含する。糖ベースバイオポリマーの一例としては、細菌由来セルロースがある。
【0065】
本発明において、用語「アミノ酸ベースバイオポリマー」は、線状及び有枝(枝分かれ)ポリペプチド類、それらの変形及び誘導体を包含する。アミノ酸ベースバイオポリマーの一例としては、細菌由来コラーゲンがある。
【0066】
本発明の好ましい態様において、前記細菌由来バイオポリマーは、細菌由来セルロース、細菌由来コラーゲン、或いはそれらの混合物である。
【0067】
本発明の好ましい態様において、前記細菌由来バイオポリマー層は、細菌由来セルロース、細菌由来コラーゲン、細菌由来セルロース/キチンコポリマー、細菌由来絹、及びそれらの混合物から選択された細菌由来バイオポリマーを含んでいる。これらのバイオポリマー自体は、当業界に周知である。
【0068】
例えば、本発明による細菌由来バイオポリマー(例えば、細菌由来セルロース)は、好ましくは細菌、藻類、酵母、及びカビ及びそれらの混合物から選択された細菌由来バイオポリマー生産性微生物を培養することによって製造することができる。
【0069】
上述したように、本明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書において、簡潔に、包括的に、「細菌由来バイオポリマー」を使用している。然しながら、本発明は、「細菌」からだけ製造されるポリマーに限定されるものではなく、細菌、酵母、カビ、濾過性病原菌、及び藻類のように、上記で定義した「微生物」によって製造される全てのポリマーを包含するものである。
【0070】
本発明の態様において、細菌由来バイオポリマーは、細菌由来バイオポリマー生産細菌によって製造される。細菌由来バイオポリマー生産細菌は、Gluconacetobacter、Aerobacter、Acetobacter、Achromobacter、Agrobacterium、Azotobacter、Salmonella、Alcaligenes、Pseudomonas、Rhizobium、Sarcina及びStreptoccoccus、及びBacillus genus、及びそれらの混合物から選択される。
【0071】
本発明の態様において、細菌由来バイオポリマーは、細菌由来バイオポリマー生産藻類によって製造される。細菌由来バイオポリマー生産藻類は、Phaeophyta、Rhodophyta及びChrysophyta、及びそれらの混合物から選択される。
【0072】
例えば、細菌由来セルロースは、Acetobacter xylinumの菌株のようなAcetobacter bacteriaの菌株を培養すること、及び/又はGluconacetobacter hanseniiの菌株のようなGluconacetobacterの菌株を培養することによって製造することができる。
【0073】
細菌由来コラーゲンは、例えば、Bacillus、Pseudomonas、Streptococcus又はコラーゲンを生産する組み替え種を得るように、予め遺伝子組み替えされた菌株を培養することによって製造することができる。
【0074】
細菌由来コラーゲンは、人工皮革-様材料(「擬革」又は「人工皮膚」;此処に、「擬革」又は「人工皮膚」の主要構成成分は、強フィブリルの形状をしたタイプ-Iのコラーゲンである)を提供するために製造することができるので有利である。
【0075】
細菌由来セルロース/キチンコポリマーは、例えば、細菌由来セルロース/キチンコポリマーを生産する組み替え菌株を得るように予め遺伝子組み替えされたAcetobacter xylinumを培養することによって製造することができる。
【0076】
本発明の態様において、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、野生型及び遺伝子組み換えした微生物の混合物である。
【0077】
本発明の態様において、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、野生型及び遺伝子組み換えした細菌の混合物が好ましい。
【0078】
上述したように、本発明は、基材織布及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布に関し、前記基材織布は、一緒に織られる縦糸ヤーン及び横糸ヤーンを含む織布であって、かつ前面及び背面を有している。第1の複数の縦糸ヤーン及び少なくとも複数の横糸ヤーンは、基材織布の基材層を形成し、かつ少なくとも複数の第2の縦糸ヤーン及び/又は少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、前記基材織布の面の少なくとも1つの面に、ループ部分の形状をした、基材織布の追加の層を形成する。前記少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層は、前記追加の層の少なくとも一部に形成される。
【0079】
本発明において使用する、織布に関する用語「前面」は、織布を含む衣料品を着用した場合、外側から視認できる織布の面である。
【0080】
本発明において使用する、織布に関する用語「背面」は、織布を含む衣料品を着用した場合、内側にあって、視認できない織布の面である。
【0081】
本発明の好ましい態様において、本発明の複合織布は、基材織布及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布であって、前記基材織布は、一緒に織られる縦糸ヤーン及び横糸ヤーンを含む織布であって、かつ前面及び背面を有しており、前記横糸ヤーンは、少なくとも複数の第1の横糸ヤーン及び少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンを含んでおり、前記縦糸ヤーン及び前記複数の第1の横糸ヤーンは、前記基材織布の基材層を形成し、かつ前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、前記基材織布の面の少なくとも一つの面に、ループ形状の、前記基材織布の追加の層を形成し、前記少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層は、前記追加の層の少なくとも一部と結合している。
【0082】
本発明の態様において、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、少なくとも前記基材織布の前面に沿って、ループ部分の形状の、前記基材織布の追加の層を形成する。
【0083】
本発明の好ましい態様において、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、3~24本の縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすること、好ましくは5~24本の縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすること、より好ましくは7~24本の縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすることによって、前記基材織布の前面に沿って、前記基材織布のループ部分の追加の層を形成する。
【0084】
本発明の態様によると、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、少なくとも前記基材織布の背面に沿って、前記基材織布のループ部分の形状をした、前記基材織布の追加の層を形成する。
【0085】
本発明の好ましい態様によると、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、3~24本の縦糸ヤーンの下で浮き糸とすること、好ましくは5~24本の縦糸ヤーンの下で浮き糸とすること、より好ましくは7~24本の縦糸ヤーンの下で浮き糸とすることによって、前記基材織布の背面に沿って、ループ部分の形状をした前記基材織布の追加の層を形成する。
【0086】
本発明の好ましい態様によると、複数の縦糸ヤーン及び/又は複数の横糸ヤ-ンは、織布の前面及び背面の両面に沿って、ループ部分の形状の、基材織布の追加の層を形成する。
【0087】
この場合、基材織布は、例えば、少なくとも2つの複数の横糸ヤーン、従って、(ループ部分の形状の)2つの追加の層を有している。
【0088】
本発明の好ましい態様によると、少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、基材織布の前面及び背面の両面に沿って、ループ部分の形状の、前記基材織布の追加の層を形成している。
【0089】
例えば、第1の複数の第2の横糸ヤーンは、前面に第1の追加の層を形成し、かつ第2の複数の第2の横糸ヤーンは、背面に第2の追加の層を形成する。この場合、第1の追加の層のループ部分は、第2の追加の層のループ部分と比べて、同じ構造、又は異なった構造を有することができる。更に、第1の複数の第2の横糸ヤーンは、第2の複数の第2の横糸ヤーンに関して、同じ構造、又は異なった構造を有することができる。
【0090】
本発明の態様によると、少なくとも複数の横糸ヤーンは、縦糸ヤーンに対して異なった材料で製造される。
【0091】
本発明の一態様によると、横糸ヤーンが、第1の横糸ヤーンと第2の横糸ヤーンを含んでいる場合、少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、第1の横糸ヤーン及び/又は縦糸ヤーンに関して異なる材料で製造される。
【0092】
例えば、第1の複数の第2の横糸ヤーンは、第2の複数の第2の横糸ヤーンと同じ材料で製造することできるか、又は異なる材料で製造することができる。更に、第1の複数の第2の横糸ヤーンは、第2の複数の第2の横糸ヤーンと同じ線密度を持つか、又は異なる線密度を持つことができる。
【0093】
基材織布が、(ループ部分の形状の)2つの追加の層、前面の第1の追加の層、及び背面の第2の追加の層を有している場合、2層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を得ることができるので有利である。
【0094】
即ち、少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層が、(基材織布の前面の)第1の追加の層の少なくとも一部と結合され、かつ少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層が、(基材織布の背面の)第2の追加の層の少なくとも一部と結合される。
【0095】
この場合、基材織布は、本発明の複合織布の少なくとも2層の細菌由来バイオポリマー層の間にある。
【0096】
本発明の態様により、前記少なくとも2層の細菌由来バイオポリマー層は、同じ又は異なる細菌由来バイオポリマー層を含むことができる。例えば、1層の細菌由来コラーゲン層が、基材織布の前面の第1の追加の層と結合され、かつ1層の細菌由来セルロース層が、織布の背面の第2の追加の層と結合される。
【0097】
本発明の好ましい態様において、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、20本までの縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすること、好ましくは15本までの縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすること、より好ましくは12本までの縦糸ヤーンを超えて浮き糸とすることによって、前記基材織布の前面に沿って、ループ部分の形状の、前記基材織布の追加の層が形成される。
【0098】
本発明の好ましい態様によると、前記少なくとも複数の第2の横糸ヤ-ンは、20本までの縦糸ヤーンの下で浮き糸とすること、好ましくは15本までの縦糸ヤーンの下で浮き糸とすること、より好ましくは最大12本までの縦糸ヤーンの下で浮き糸とすることによって、前記基材織布の背面に沿って、ループ部分の形状をした前記基材織布の追加の層が形成される。
【0099】
本発明の好ましい態様によると、ループ部分は、基材織布の面の一方の面にだけに形成され、好ましくは前面に形成される。
【0100】
本発明の態様によると、第2の横糸ヤーンで形成されるループ部分の長さは、通過されるべき縦糸ヤーンの数に応じて、及び/又は基材層に多少緩く織り込まれる張出し部分を得るように選択される。
【0101】
換言すれば、ループ部分の長さは、ループ部分が基材層の上に緩く掛かって、垂れ下がり、基材層に堅く結合しない追加の層を形成することが出来るような長さとする。
【0102】
本発明の好ましい態様によれば、基材織布は、少なくとも2種の第2の横糸ヤーンを有している。
【0103】
本発明の態様によれば、基材織布は、1:1~2:1の範囲の平均比率「第2の横糸ヤーン:第1の横糸ヤーン」を有している。換言すれば、織布の各第1の横糸ヤーンは、1~2の範囲の第2横糸ヤーンの平均比率を有している。
【0104】
本発明の態様によれば、基材織布の縦糸ヤーン及び/又は横糸ヤーン(例えば、第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーン)は、118.2tex(5/1 Ne)~5.91tex(100/1 Ne)、好ましくは19.7tex(30/1 Ne)~8.44tex(70/1 Ne)の範囲の線密度を有している。より好ましく、縦糸ヤーンの線密度は、13.13tex(45/1 Ne)~10.754tex(55/1 Ne)を有している。此処で、「tex」は、テキスタイル業界で使用されている糸の番手単位で、テキスタイルヤーン及び糸の単位長当たりの質量(1 tex=10-6kg.m-1)を表し、「Ne」は、テキスタイル業界で使用されている糸の番手単位で、イギリス木綿番手である。
【0105】
本発明の態様によれば、第1の横糸ヤーン及び第2の横糸ヤーンは、異なっている。
【0106】
本発明の態様によれば、第1の横糸ヤーン及び第2の横糸ヤーンは、異なる線密度を有している。
【0107】
本発明の好ましい態様によれば、縦糸ヤーンは、コットンヤーンである。
【0108】
本発明の態様によれば、前記第2の横糸ヤーンは、前記第1の横糸ヤーン及び/又は前記縦糸ヤーンとは異なった材料で製造される。
【0109】
本発明の態様によれば、縦糸ヤーン及び/又は横糸ヤーンは、天然繊維、合成繊維及びそれらの混合物から選択される。
【0110】
本発明の好ましい態様によれば、少なくとも前記縦糸ヤーンは、天然ヤーンである。
【0111】
好ましくは、天然縦糸ヤーンは、コットン、ウール、亜麻繊維、ケナフ、ラミ、麻、リネン及びそれらの混合物から選択された天然繊維を含んでいる。
【0112】
本発明の態様において、基材織布の第1の横糸ヤーン及び第2の横糸ヤーンは、共に天然ヤーン(例えば、コットンヤーン)、即ち天然繊維(例えば、コットン繊維)から製造されたヤーンである。
【0113】
本発明の他の態様において、基材織布の第1の横糸ヤーンは、合成ヤーン、好ましくは熱可塑性ヤーン、より好ましくは熱可塑性エラストマーヤーンである。第2の横糸ヤーンは、天然ヤーンである。
【0114】
好ましくは、合成ヤーンは、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、lycra[ライクラ(E.I.du Pont de Nemours & Co.)の登録商標]、及びそれらの混合物から選択される合成繊維を含んでいる。
【0115】
更に、他の態様において、第1の横糸ヤーンは天然ヤーンであり、第2の横糸ヤーンは、合成ヤーン好ましくは熱可塑性ヤーンである。
【0116】
好ましくは、天然横糸ヤーンは、コットン、ウール、亜麻繊維、ケナフ、ラミ、麻、リネン及びそれらの混合物から選択された天然繊維を含んでいる。
【0117】
本発明の態様によれば、基材織布の縦糸ヤーン及び/又は横糸ヤーン(即ち、第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーン)は混合ヤーン、即ち、天然繊維及び合成繊維の両方を含んでいるヤーンである。
【0118】
本発明の態様によれば、合成繊維は、エラスタンの繊維を含んでいる。
【0119】
本発明の態様によれば、ヤーンは再生繊維を含んでいる。例えば、再生繊維は、リヨセル(商品名)、モダール(商品名)、ビスコース、竹、及びそれらの混合物から選択することができる。
【0120】
本発明の態様によれば、天然繊維及びヤーンは、硬質繊維及びヤーンである。
【0121】
本発明の態様によれば、合成繊維及びヤーンは、エラストマー繊維及びヤーンである
【0122】
本発明で使用に適するエラストマーヤーンは、エラストマー繊維を含むヤーンである。「エラストマー繊維」は、しわや襞のあるなしに拘わらず、破断伸びが100の連続フィラメント、又は複数本のフィラメントから製造された繊維である。破断伸びは、例えば、ASTMD2256/D2256M-10(2015)に従って測定される。「エラストマー繊維」は、その長さを2倍に伸ばし、伸ばした長さを1分間保持した後で、解放後1分以内に、その本来の長さの1.5倍未満に収縮する繊維である。
【0123】
本発明の特徴によると、ループ(即ち、ル-プ部分)を持つ如何なる繊維でも、本発明の「基材織布」として使用することが出来る。
【0124】
本発明において、製織工程の間に、ループが形成されるのであれば、基材織布は、非弾性繊維でもよい。
【0125】
本発明において、基材織布は、幾つかの繊維の熱収縮によってループ(即ち、ループ部分)が得られる織布である。
【0126】
幾つかの態様において、織布が濡れている場合、ループ部分の長さは長くなる。
【0127】
本発明の例示的態様において、「基材織布」としての使用に適する織布構成体は、特許文献5及び特許文献6に記載されている。特許文献5において、特に、段落[0013]、[0019]~[0027]、[0030]、[0031]、[0033]、[0049]~[0051]、[0054]、[0055]、[0060]、[0066]、[0068]~[0071]、[0075]、[0076]、[0078]~[0083]、[0086]、[0089]~[0117]を参照。特許文献6においては、特に、段落[0007]、[0010]、[0013]~[0018]、[0041]~[0046]、[0048]~[0050]、[0054]~[0059]、及び実施例1、3~8、および10を参照。なお、これらの記載は、本明細書の一部を構成するものとして、援用されている。
【0128】
本発明の好ましい態様において、前記織布は、デニム織布、好ましくは弾性デニム織布である。
【0129】
本発明の一態様において、基材織布は、ユニ・ストレッチ又はバイ・ストレッチ織布でよい。
【0130】
換言すれば、基材織布は、縦糸方向又は横糸方向、或いは縦糸及び横糸の両方向にストレッチをすることができる織布である。
【0131】
本発明の一態様においては、基材織布は、多重方向にストレッチが可能な織布、即ち、あらゆる方向にストレッチが可能な織布である。
【0132】
本発明の一態様によれば、基材織布は、5オンス/平方ヤード以下の質量を有しているデニム織布である。換言すれば、前記デニム織布は、「極軽量」デニム織布である。好ましくは、「極軽量」デニム織布は、32.833tex(18/1 Ne)~5.91tex(100/1 Ne)、好ましくは24.625tex(24/1 Ne)~5.91tex(100/1 Ne)、より好ましく、24.625tex(24/1 Ne)~11.82tex(50/1 Ne)の範囲の線密度を有している第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーンを含むデニム織布である。
【0133】
本発明の一態様によれば、基材織布は、5オンス/平方ヤード~8オンス/平方ヤードの範囲の質量を有しているデニム織布である。換言すれば、前記デニム織布は、「中軽量」デニム織布である。好ましくは、「中軽量」デニム織布」は、49.25tex(12/1 Ne)~14.775tex(40/1 Ne)の範囲の線密度を有している第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーンを含むデニム織布である。
【0134】
本発明の一態様によれば、基材織布は、8オンス/平方ヤード~12.5オンス/平方ヤードの範囲の質量を有しているデニム織布である。換言すれば、前記デニム織布は、「標準」デニム織布である。好ましくは、「標準」デニム織布」は、84.43tex(7/1 Ne)~5.91tex(100/1 Ne)、好ましくは73.875tex(8/1 Ne)~19.7tex(30/1 Ne)の範囲の線密度を有している第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーンを含むデニム織布である。
【0135】
本発明の一態様によれば、基材織布は、12.5オンス/平方ヤードを超える質量を有しているデニム織布である。換言すれば、前記デニム織布は、「重」デニム織布である。好ましくは、「重」デニム織布は、118.2tex(5/1 Ne)~24.625tex(24/1 Ne)の範囲の線密度を有している第1の横糸ヤーン及び/又は第2の横糸ヤーンを含むデニム織布である。
【0136】
本発明の他の課題は、基材織布、及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を製造する方法であって、
a. 基材織布を供給すること、前記基材織布は、一緒に織られる縦糸ヤーン及び横糸ヤーンを含み、かつ全面及び背面を有している織布であって、第1の複数の縦糸ヤーン及び少なくとも複数の第1の横糸ヤーンは、前記織布の基材層を形成し、かつ少なくとも複数の第2の縦糸ヤーン及び/又は少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、前記基材織布の両面の少なくとも一つの面に、ループ部分の形状の前記基材織布の追加の層を形成し、
b. 前記基材織布の面の少なくとも一つの面の少なくとも一部と、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物を接触させ、前記面の前記少なくとも一つの面は、ループ部分の前記追加の層を有しており;
c. 前記細菌由来バイオポリマー生産性微生物を培養し、前記細菌由バイオポリマー生産性微生物が生産した少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を有する基材織布を提供すること、を含む基材織布及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を製造する方法
【0137】
本発明の好ましい一態様において、前記aで提供された基材織布において、横糸ヤーンは、複数の第1の横糸ヤ-ン及び少なくとも複数の第2の横糸ヤーンを含んでおり、縦糸ヤーン及び前記複数の第1の横糸ヤーンは、基材織布の基材層を形成し、かつ前記少なくとも複数の第2の横糸ヤーンは、前記基材織布の両面の少なくとも一つの面に、前記基材織布のループ部分の追加の層を形成する。
【0138】
本発明の方法は、基材織布及び少なくとも1層の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を提供するが、前記細菌由来バイオポリマー層は、前記基材織布に直接、製造(即ち、「培養」、即ち「成長」)される。
【0139】
有利なことに、基材織布のループ部分は、追加の層に通過させることにより、細菌由来バイオポリマー生産性微生物を基材織布に到達させ、接触させる。好ましくは、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、基材織布の基材層の本体に深く浸透しないで、実質的に基材層(即ち基材層の表面)に沈着しており、基材織布の追加の層の全体で成長する。より詳細に述べると、一旦、基材織布が、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触すると、細菌由来バイオポリマー生産性微生物が培養され、これを基材織布の追加の層に通過させて、直接、基材織布に細菌由来バイオポリマーの層を製造する。
【0140】
本発明の方法によると、(基材織布の追加の層を形成する)ループ部分が、細菌由来バイオポリマー層の中に延びている複合織布が提供される。換言すれば、細菌由来バイオポリマー層が、追加の層を通して、即ち、ループ部分の間及びループ部分の周辺で成長し、その結果、一旦、細菌由来バイオポリマー層が成長すると、ループ部分が製造された複合織布の細菌由来バイオポリマーの層の内部に「浸透」する。従って、細菌由来バイオポリマーの層は、ループ部分を介して基材織布に、「投錨」(即ち「結合」又は「固定」)される。この場合、前記ループ部分は、「固定手段」として作用して、基材織布の面に結合されている細菌由来バイオポリマー層を維持する。
【0141】
有利なことに、上述したように、基材織布の追加の層を形成するループ部分は、以下の二重の機能を有している。第1の機能は、基材織布が細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物と接触したとき、微生物を、基材織布の基材層(即ち基材層の表面)に到達させることである。ループ部分の第2の機能は、細菌由来バイオポリマー層と基材織布の間で、物理的結合材(即ち、「固定材」)として機能して、化学結合剤及び/又は架橋剤を使用せずに、細菌由来バイオポリマー層を、基材織布に合体(即ち「結合」又は「固定」)させる。前述したように、特定の科学的説明に拘束されるのを好まないが、細菌由来バイオポリマー層を基材織布に結合させるのに、化学結合剤及び/又は架橋剤は、必ずしも必要ないので、細菌由来バイオポリマー層の化学-OH基及び織布の化学-OH基は「自由」に、染料との反応に「利用」されて、容易に、かつ効果的に染色される複合織布を提供する。この際、使用する染料の量を低減させ、従って製造コストは低減される。
【0142】
好ましい態様においては、細菌由来バイオポリマー層は、細菌、藻類、酵母、及びカビ、及びそれらの混合物から選択された細菌由来バイオポリマー生産性微生物、即ち、細菌由来バイオポリマー生産性細菌、細菌由来バイオポリマー生産性藻類、細菌由来バイオポリマー生産性カビ、及びそれらの混合物によって製造される。
【0143】
本発明の一態様において、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は野生型微生物である。
【0144】
本発明の一態様において、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は遺伝子組み換えされた微生物であり、すなわち、野生型微生物により製造されない細菌由来バイオポリマーを製造するために遺伝子組み換えされた微生物である。
【0145】
本発明の一態様においては、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、野生型及び遺伝子組み換えされた微生物の混合物である。
【0146】
好ましくは、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、細菌または藻類である。
【0147】
本発明の一態様においては、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、Gluconacetobacter、Aerobacter、Acetobacter、Achromobacter、Agrobacterium、Azotobacter、Salmonella、Alcaligenes、Pseudomonas、Rhizobium、Sarcina、Steptoccoccus、及びBacillus genu、及びそれらの混合物から選択された細菌由来バイオポリマー生産性微生物である。
【0148】
本発明の一態様においては、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、Phaeophyta、Rhodophyta、及びChrysophytar、及びそれらの混合物から選択される。
【0149】
本発明の好ましい態様においては、前記細菌由来バイオポリマーは、糖-ベース細菌由来バイオポリマーで、好ましくは細菌由来セルロースである。
【0150】
本発明の好ましい態様においては、前記細菌由来バイオポリマーは、アミノ酸-ベース細菌由来バイオポリマーで、好ましくは細菌由来コラーゲンである。
【0151】
本発明の好ましい態様においては、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養条件は、選択された微生物に応じて、即ち、最適の成長条件で、選択された微生物を供給するか否かで選択される。
【0152】
本発明の一態様においては、細菌由来バイオポリマー生産性微生物及びその培養条件は、細菌由来バイオポリマー層の望ましい厚さを得るか否かで選択される。
【0153】
例えば、本発明による基材織布は、細菌由来バイオポリマー生産性微生物、例えば、1×10細胞数/mL~1×10細胞数/mL、好ましくは5×10細胞数/mL~8×10細胞数/mL、より好ましくは1×10細胞数/mL~2×10細胞数/mLの範囲の濃度を有する細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培地と接触される。但し、培地の濃度は、微生物学界で周知の技術である平板塗抹法で決定される。
【0154】
例えば、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培地は、基材織布の少なくとも一方の面(例えば、追加の層が基材織布の前面にある場合は、前面)に展着するか、又は基材織布に分注してもよい。
【0155】
本発明の例示的な態様において、本発明による基材織布1mを、400mL、好ましくは450mL、より好ましくは500mLの細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培養物(濃度:2×10細胞数/mL)と接触させて、本発明による細菌由来バイオポリマー層を得ることができる。
【0156】
本発明の方法の好ましい態様においては、工程cで得た複合織布を洗濯して、細菌由来バイオポリマー生産性微生物を除去する工程dを含んでいる。
【0157】
本発明の方法の好ましい態様においては、更に、複合織布を染色する工程eを含んでいる。
【0158】
本発明の一態様において、複合織布を染色する工程eは、複合織布に染料を浸透させるか、又は染料を複合織布の一方の面又は両方の面に散布するか、又は捺染することによって実施される。
【0159】
好ましくは、染料はインディゴ染料である。
【0160】
本発明によって、細菌由来バイオポリマー層を、基材織布の追加の層の一方の面、好ましくは基材織布の前面と接触させる場合、染料は、複合織布の細菌由来バイオポリマーが置かれている面に適用すると有利である。
【0161】
本発明の別の課題は、本発明の方法によって得た複合織布を提供することである。
【0162】
本発明の他の課題は、本発明による複合織布、即ち基材織布及び本発明による少なくとも一層の細菌由来バイオポリマー層を含む衣料品を提供することである。
【0163】
本発明の衣料品の好ましい態様によると、前記少なくとも一層の細菌由来バイオポリマー層は、基材織布の前記追加の層の少なくとも一部と結合されており、前記追加の層は、基材織布の前面及び/又は背面にあり、かつ前記前面は、衣料品を着用した場合、視認される外側の面であり、前記背面は、衣料品を着用した場合、内側の視認できない面である。
【0164】
本発明の一態様によると、基材織布は衣料品、即ち衣服に仕立てられ、かつ衣服に仕立てられた後、細菌由来バイオポリマー層は、基材織布に供給される。換言すれば、細菌由来バイオポリマー層は、例えば、本発明による基材織布で製造された衣服の部分に対応して、本発明による基材織布を含む衣服に供給される。
【発明の効果】
【0165】
本発明によると、簡単に、安価に、かつ効果的に染色することが出来、しかも環境に優しい方法で、衣料品の製造に適した細菌由来バイオポリマー層を含み、基材層から細菌由来バイオポリマーが脱離しない複合織布を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0166】
図1】本発明による基材織布の一態様の斜視図。
図2】本発明による複合織布の一態様の斜視図。
図3】本発明による複合織布の一部の断面図。
図4】本発明による基材織布の別の態様の斜視図。
図5】本発明による複合織布の別の態様の斜視図。
図6】本発明による複合織布の別の態様の断面図。
図7】本発明による基材織布の例示的態様の製織組織図。
【発明を実施するための形態】
【0167】
図1は、本発明による基材織布の例示的態様の一部の斜視図である。
【0168】
図1は、基材織布の例示的態様の一部を示す斜視図で、複数の縦糸ヤーン2、複数の横糸ヤーン3、及び複数の第2の横糸ヤーン4を含んでいる。縦糸ヤーン2、第1の横糸ヤーン3、及び第2の横糸ヤーン4は、或るパターンで一緒に織られて、前記基材織布1の基材層1aを形成している。基材織布1は、前面5及び背面6を有している。
【0169】
本発明によって、基材織布1の第1の横糸ヤーン3は、縦糸ヤ-ン2と一緒に織られて、基材織布1の基材層1aを形成しており、第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0170】
特に、図1に示した態様では、第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の前面に、ループ部分7の形状をした、基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0171】
基材層1a及び追加の層1bは、図1には示していないが、例えば図3に示してある。
【0172】
図1に示した例示的態様では、第2の横糸ヤーン4は、縦糸ヤーン2を超して通過するとき、基材織布1にループ部分7を形成している。
【0173】
図1に示した例示的態様では、第2の横糸ヤーン4は、7本の縦糸ヤーン2を超して浮糸となることによって、ループ部分7を形成している。
【0174】
図1に示した基材織布1の態様では、縦糸ヤーン2及び横糸ヤーン3,4は染色されていない。
【0175】
図2は、本発明による複合織布10の一態様の斜視図である。図2は、細菌由来バイオポリマー層20と結合した基材織布を示している。
【0176】
例えば、図2の基材織布1は、図1に示したと同じ基材織布1でもよい。この場合、細菌由来バイオポリマー層20は、基材織布1の前面5に供給される。特に、細菌由来バイオポリマー層20は、ループ部分7の追加の層1bと結合している。換言すれば、基材織布1は、追加の層1bを介して、即ちループ部分7を介して、細菌由来バイオポリマー層20と結合している。ループ部分7は、「固定手段」として作用して、基材織布1の前面5に結合している細菌由来バイオポリマー層20を保持している。
【0177】
図3は、本発明による基材織布1及び細菌由来バイオポリマー層20を含んでいる複合織布10の一部を示す略断面図である。
【0178】
図3は、一緒に織られる縦糸ヤーン2及び横糸ヤーン3、4と、前面5及び背面6を有する基材織布1を示している。
【0179】
基材織布1の横糸ヤーン3は、縦糸ヤーン2と一緒に織られて、基材織布1の基材層1aを形成している。第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0180】
特に、第2の横糸ヤーン4は、ループ部分7の形状をした基材織布1の追加の層1bを基材織布1の前面5に形成している。
【0181】
図3は、本発明の複合織布10の1つの態様を示しており、細菌由来バイオポリマー層20が、基材織布1の追加の層1bに結合している状態を示している。図3に示すように、基材織布1の追加の層1bを形成しているループ部分7は、細菌由来バイオポリマー層20の中に「浸透」している。従って、細菌由来バイオポリマー層20は、ループ部分7を介して、基材織布1に「投錨」(即ち「結合」又は「固定」)されている。
【0182】
基材織布1のループ部分7が、細菌由来バイオポリマー層20の中に「浸透」している本発明の複合織布10の態様は、直接、細菌由来バイオポリマーを基材織布1に成長(即ち「製造」)させることによって得ることができる。
【0183】
例えば、図3に示した複合織布10は、基材織布1の前面5(即ち、第2の横糸ヤーン4が、ループ部分7の形状をしている追加の層1bを形成する基材織布1と同じ面)を、細菌由来バイオポリマー生産性微生物、例えば、細菌由来バイオポリマー生産性細菌と接触させること、及び前記細菌由来バイオポリマー生産性微生物を培養することで得ることができる。ループ部分7は、細菌由来バイオポリマー生産性微生物を、基材織布1の前面5の追加の層1bに通過させ、基材織布1の前面5の基材層1aの表面に到達させ、かつ基材織布1の前面5の基材層1aと接触させる。好ましくは、細菌由来バイオポリマー生産性微生物は、基材層1aに深くは浸透しないで、基材織布1の前面5の基材層1aの表面に、実質的に沈着している。次いで、細菌由来バイオポリマー生産性微生物を培養して、細菌由来バイオポリマー層20(即ち、細菌由来バイオポリマー層20)を形成する。この細菌由来バイオポリマー層20は、例えば、追加の層1bの厚さより小さいか、又はそれと同じか、或いはそれより大きな厚さを有している。例えば、本発明によって、細菌由来バイオポリマー層20、例えば細菌由来セルロースの層は約10~23時間、例えば14~18時間で、基材の上に成長する。
【0184】
図3の態様では、細菌由来バイオポリマー層20は、追加の層1bの厚さより厚い層を有している。
【0185】
例えば、図3に示した複合織布10を含む衣服は、基材織布1の前面5に形成されており、衣服を着用した時、視認できる細菌由来バイオポリマー層20を有している。即ち、細菌由来バイオポリマー層20は、衣服の外側の目に見える面にある。これに反して、基材織布1の背面6は、衣服の内側にあって、衣服を着用した時、視認できない。
【0186】
図4は、本発明による基材織布1の例示的態様の斜視図である。
【0187】
図4は、前面5及び背面6を有している基材織布1を示している。図4の基材層1aは、縦糸ヤーン2、第1の横糸ヤーン3及び第2の横糸ヤーン4を含んでいる。縦糸ヤーン2及び第1の横糸ヤーン3は、基材織布1の基材層1aを形成している。
【0188】
第2の横糸ヤーン4は、所定の本数の縦糸ヤーン2の下で浮き糸になって、ループ部分7を形成している。
【0189】
図4の例示的態様において、第2の横糸ヤーン4は、11本の縦糸ヤーン2の下で浮き糸になることで、ループ部分7を形成している。
【0190】
図4は、2つの複数の第2の横糸ヤーン4を含んでいる基材織布1が、ループ部分7の形状をした追加の層1bを、基材織布1の背面6に形成している状態を示している。
【0191】
図5は、本発明による複合織布の略斜視図である。図5は、細菌由来バイオポリマー層20と結合している基材織布1を示している。
【0192】
図5に示した本発明による複合織布10の例示的態様の基材織布1は、例えば、図4に示した基材織布1と同じでもよい。
【0193】
図5の基材織布1は、縦糸ヤーン2、第1の横糸ヤーン3及び第2の横糸ヤーン4、及び前面5及び背面6を有している。縦糸ヤーン2及び第1の横糸ヤーン3は、基材織布1の基材層1aを形成している。
【0194】
第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の背面6に、ループ部分の形状の追加の層1bを形成している。
【0195】
細菌由来バイオポリマー層20は、前記基材織布1の背面6に、基材織布1を供給している。換言すれば、細菌由来バイオポリマー層20は、基材織布1の追加の層1bと結合している。即ち、基材織布1の背面6のループ部分7と結合している。図5は、本発明の複合織布10の態様を示しており、基材織布1が、追加の層1bを介して、即ちループ部分7を介して、その背面6において、細菌由来バイオポリマー層20と結合している。ループ部分7は、「固定手段」として作用し、基材織布1の背面6に結合している細菌由来バイオポリマー層20を保持している。
【0196】
図5は、本発明の複合織布10の一態様を示しており、細菌由来バイオポリマー層20は、追加の層1bの厚さと等しい厚さを有している。
【0197】
図6は、本発明による例示的態様の複合織布10の略断面図である。
【0198】
図6は、一緒に織られる縦糸ヤーン2、及び横糸ヤーン3、4と、前面及び背面6を有している基材織布1を示している。
【0199】
基材織布1の第1の横糸ヤーン3は、縦糸ヤーン2と一緒に織られて、基材織布1の追加の層1aを形成し、第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0200】
より詳細に説明すると、第2の横糸ヤーン4は、基材織布1の背面6に、ループ部分の形状の基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0201】
図6は、本発明の複合織布10の態様を示しており、細菌由来バイオポリマー層20が基材織布1の追加の層1bと結合している。即ち、換言すれば、基材織布1は、そのループ部分7を介して、細菌由来バイオポリマー層20が、基材織布1の追加の層1bと結合しており、前記ループ部分7は、前記基材織布1の背面6に、基材織布1の追加の層1bを形成している。
【0202】
例えば、図6の複合織布10を含んでいる衣服は、細菌由来バイオポリマー層20を有している。細菌由来バイオポリマー層20は、基材織布1の背面6に形成されていて、衣服を着用した時、目に見えない。他方、基材織布1の前面5は、衣服の外側にあって、衣服を着用した時、目に見える。
【0203】
図3に示した本発明の複合織布の態様と同じように、図6に示した複合織布10は、(基材織布1の背面6に形成されている基材織布1の追加の層1bを形成する)ループ部分7を有している。このループ部分7は、細菌由来バイオポリマー層20の中に延びている。換言すれば、ループ部分7は、細菌由来バイオポリマー層20の中に「浸透」している。従って、細菌由来バイオポリマー層20は、ループ部分7を介して、その背面6において、基材織布1に、「投錨」(即ち「結合」又は「固定」)されている。
【0204】
図6に示した複合織布10の態様は、有利なことに、細菌由来バイオポリマー層20を、基材織布1に直接成長(即ち「製造」)させることによって得ることができる。例えば、細菌由来バイオポリマー層20は、背面6(即ち、第2の横糸ヤーン4が、ループ部分7の形状の追加の層1bを形成する基材織布1の同じ面)と、細菌由来バイオポリマー生産性微生物の培地を接触させ、前記細菌由来バイオポリマー生産性微生物を、直接、基材織布1の上で培養することにより、基材織布1に製造することができる。
【実施例
【0205】
以下の実施例は、本発明による複合織布の例示的な製造方法を、より具体的に説明している。但し、以下の実施例は、単に例として説明するもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0206】
本発明による基材織布のサンプルを製造した。
基材織布は、図7に示した製織組織図に従って、複数本の縦糸ヤーン、複数本の第1の横糸ヤーン、及び複数本の第2の横糸ヤーンを有している。
縦糸ヤーンは、73,875 tex (Ne 8/1)のリングスラブコットンである。
第1の横糸ヤーン(“1”)は、84,43tex(Ne 7/1)のリングコットンである。
第2の横糸ヤーン(“2”)は、11,82tex(Ne 50/1)のコーマコットンである。
織布の縦糸密度は、29.5スレッド/cmである。
織布の横糸密度は、42.0スレッド/cmである。
縦糸ヤーン及び第1の横糸ヤーンは、基材織布の基材層を形成した。
第2の横糸ヤーンは、7本の縦糸ヤーンを超えて浮き糸となり、基材織布の前面に基材織布の基材層を形成した。
第2の横糸ヤーンに対する第1の横糸ヤーンの比は1:1であった。
【実施例2】
【0207】
実施例1の基材織布0.06mを、第2の横糸ヤーンが追加の層を形成する箇所である基材織布の前面において、Gluconacetobacter hanseniiの培養物(濃度=2×10細胞数/mL)25mLと接触させた。
使用した培養物は、2%(w/v)グルコース、0.5%(w/v)ペプトン、0.5%(w/v)酵母抽出液、0.27%(w/v)NaHPO及び1.15g/Lクエン酸を含むHestrin-Schramm(HS)のGluconacetobacter hanseniiの培地であった。その培地を、基材織布の前面、即ちループ部分が形成される同じ面に適用した。例えば、細菌由来バイオポリマー生産微生物(この場合、細菌)の培養液を、基材織布に散布するか、又は基材織布にピペットで添加することによって適用することができる。
【実施例3】
【0208】
実施例2の細菌培養液を基材織布に適用した後、基材織布を28℃で16時間培養した。16時間後、28℃で織布の前面に細菌由来セルロースの層即ち複合織布を得た。
【実施例4】
【0209】
実施例3で得た複合織布を、0.1M NaOHで、80℃で20分間洗濯し、複合織布から残留細菌を除去した。
【実施例5】
【0210】
洗濯した複合織布を、インディゴ染料の溶液に浸漬して染色した。
【0211】
染色したバイオポリマー層、特に細菌由来セルロースインディゴ染色バイオポリマー層を含む織布は、本発明の出願人による発明の名称「細菌由来バイオポリマーを含み、特有の外観を有する染色された織布を製造する方法」に開示した仕上げ方法で処理することができる。この仕上げ方法は、染色織布に、「多重陰影」外観及び/又は「ビンテージ」或いは着古し外観の効果を発揮させる。
【産業上の利用可能性】
【0212】
本発明によると、簡単に、安価に、効果的に染色することが出来、かつ環境に優しい方法で、衣料品の製造に適した細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布を製造することができるようになった。従来、細菌由来セルロースは、食品産業、医療分野(例えば、創傷保護材及び血管再生)、絵画等修復材、テキスタイル業界等幾つかの技術分野において使用されてきた。従って、本発明の細菌由来バイオポリマー層を含む複合織布は、食品産業、医療分野(例えば、創傷保護材及び血管再生)、絵画等修復材、テキスタイル業界等幾つかの技術分野において、製造コストを下げ、しかも任意に効果的に染色することにより、利用可能な分野の拡大に資することができる。
【符号の説明】
【0213】
1:基材織布
2:縦糸ヤーン
3:横糸ヤーン
4:第2の横糸ヤーン
5:前面
6:背面
7:ループ部分
10:複合織布
20:細菌由来バイオポリマー層
1a:基材層
1b:追加の層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7