(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】発振装置
(51)【国際特許分類】
H03L 7/14 20060101AFI20220804BHJP
H03L 1/02 20060101ALI20220804BHJP
H03B 5/32 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
H03L7/14
H03L1/02
H03B5/32 A
(21)【出願番号】P 2018058544
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2020-12-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古幡 司
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123629(JP,A)
【文献】特開2012-195932(JP,A)
【文献】特開2017-153024(JP,A)
【文献】米国特許第05881374(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30-H03B5/42
H03L1/00-H03L9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶振動子を用い、周波数設定値に基づいて周波数信号を出力する発振部を備えた発振装置において、
外部から取得した外部クロック信号と、前記発振部から出力された周波数信号との周波数差に対応する差分値を求める周波数差検出部と、
前記水晶振動子が配置された雰囲気の温度を検出する温度検出部と、
前記周波数設定値に対応する周波数と、周波数信号の周波数とを揃えるために、前記周波数設定値に加算される周波数補正値を算出する補正値算出部と、
前記発振部に入力される周波数設定値に、前記補正値算出部から取得した周波数補正値を加算する加算部と、
前記周波数差検出部にて求められた差分値の経時変化と、前記温度検出部にて検出した検出温度の経時変化とに基づき、単位時間当たりの前記周波数補正値の変化率を示すエージング係数と、単位温度当たりの前記周波数補正値の変化率を示す温度特性係数と、を算出する補正係数算出部と、を備え、
前記補正値算出部は、前記外部クロック信号を取得している期間中は、前記周波数差検出部にて検出された差分値に基づいて周波数補正値を算出し、前記外部クロック信号が途切れている期間中は、前記エージング係数及び温度特性係数を用いて周波数補正値を算出することを特徴とする発振装置。
【請求項2】
前記発振部は、電圧制御発振器を含むPLL回路部と、前記周波数設定値及び基準クロックが入力されることにより当該周波数設定値に応じた、前記PLL回路部の参照用の周波数信号を出力するDDSと、を備え、
前記水晶振動子は、前記DDSの基準クロックを出力する発振回路に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項3】
前記発振部は、前記水晶振動子が設けられた発振回路を備えることを特徴とする請求項1に記載の発振装置。
【請求項4】
前記水晶振動子が設けられている雰囲気を加熱するヒータ部と、前記温度検出部にて検出された温度が予め設定された目標温度となるように、前記ヒータ部の出力を調節するヒータ制御部と、を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項5】
前記周波数設定値に対応する周波数に対する前記周波数信号の周波数の変化率が1ppt/秒以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項6】
前記補正係数算出部は、予め設定された時間内における前記検出温度の変化率が、予め設定した最小温度変化率以下の期間であるエージング測定期間中の前記周波数補正値の変化量に基づいて、前記エージング係数を算出することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項7】
前記補正係数算出部は、前記検出温度の変化率が、前記最小温度変化率よりも大きい期間である温度特性測定期間中の前記周波数補正値の変化量から、当該温度特性測定期間開始前のエージング測定期間にて算出したエージング係数と前記温度特性測定期間の経過時間とに基づいて求めたエージング要因周波数補正量を差し引いた値である温度変化要因周波数補正量に基づいて、前記温度特性係数を算出することを特徴とする請求項6に記載の発振装置。
【請求項8】
前記補正係数算出部は、時間の経過に沿って前記エージング係数及び
前記温度
特性係数の算出を繰り返し行って、複数のエージング係数、及び複数の温度
特性係数を取得し、前記補正値算出部は、前記複数
のエージング係数の平均値と、前記複数
の温度特性係数の平均値と、に基づいて前記周波数補正値を算出することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載の発振装置。
【請求項9】
前記水晶振動子が配置された雰囲気の温度を変化させるための温調機構を備え、
前記温調機構は、前記補正係数算出部にて前記温度
特性係数を算出するために前記差分値の経時変化及び前記検出温度の経時変化を取得する期間中に、前記水晶振動子が配置された雰囲気の温度を変化させることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載の発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子を用いた発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話の移動体通信や地上放送システムなどの基地局などにおいては、高い周波数安定性が求められる。この点、より安定性の高い周波数信号を生成する技術として、例えば特許文献1にはGPS(Global Positioning System)から周波数安定性の高い外部クロック信号(同期信号)を取得し、水晶発振器を用いて生成した周波数信号(逓倍後の修正周波数信号)の較正に用いる発振装置(振動クロック回路)が記載されている(括弧内には、特許文献1に記載の用語を併記してある)。
【0003】
ところでこのような外部クロック信号を利用して周波数安定性を図る発振装置においては、機器あるいは伝送路に不具合が生じた場合などに外部クロック信号が受信できなくなること(ホールドオーバー)がある。このようにホールドオーバーが発生してしまうと、外部クロック信号を利用できなくなるため、安定性の高い周波数信号を生成するうえで支障が生じる。
【0004】
そこで特許文献1に記載の発振装置では、周波数信号の安定性に影響を与える要因となる温度変化や経時変化に着目し、ホールドオーバー期間中は、外部クロック信号に替えて、水晶発振器の経年数や周囲の温度をパラメータとして算出した較正信号を用いて温度変化や経時変化の影響を補償することにより安定した周波数信号を得ている。
【0005】
また特許文献2には、温度調整された雰囲気下にて水晶振動子を発振させて、周波数設定値に対応する発振周波数を得るOCXO(Oven Controlled Crystal Oscillator)が記載されている。このOCXOは、前記水晶振動子の発振開始後の発振の累積経過時間と、発振周波数との対応関係に基づいて、発振周波数の経時変化をキャンセルするための周波数補正値を算出し、周波数設定値を補正することにより安定した発振周波数を得ている。
さらに特許文献3には、GPSから取得した外部クロック信号に基づいて第1の発振回路を発振させ、周波数設定値に対応する周波数を得る発振装置が記載されている。また第1の発振回路とは別に、周波数設定値に対応する周波数を得るための第2の発振回路を設け、外部クロック信号を受信しているときには当該外部クロック信号の周波数と、第2の発振回路より得た周波数との周波数差に対応する差分値の時系列データに基づき周波数の経時変化の影響を予測する近似式を求めておき、外部クロック信号が途切れたときに、前記近似式と経過時間とにより算出される補正値により前記周波数設定値を補正して得られた第2の発振回路の周波数を内部クロック信号として利用し、第1の発振回路を発振させる技術が記載されている。
【0006】
このように、ホールドオーバー期間中においても安定性の高い周波数信号を得る技術が種々提案されている一方で、当該期間中における周波数安定性に対する要求はますます高くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2004-516740号公報
【文献】特開2016-46582号公報
【文献】特開2017-5594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような事情の下になされたものであり、水晶振動子を用い、外部クロック信号に基づいて周波数を安定させる発振装置において、外部クロック信号が途切れたときであっても、より安定性の高い周波数を得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発振装置は、水晶振動子を用い、周波数設定値に基づいて周波数信号を出力する発振部を備えた発振装置において、
外部から取得した外部クロック信号と、前記発振部から出力された周波数信号との周波数差に対応する差分値を求める周波数差検出部と、
前記水晶振動子が配置された雰囲気の温度を検出する温度検出部と、
前記周波数設定値に対応する周波数と、周波数信号の周波数とを揃えるために、前記周波数設定値に加算される周波数補正値を算出する補正値算出部と、
前記発振部に入力される周波数設定値に、前記補正値算出部から取得した周波数補正値を加算する加算部と、
前記周波数差検出部にて求められた差分値の経時変化と、前記温度検出部にて検出した検出温度の経時変化とに基づき、単位時間当たりの前記周波数補正値の変化率を示すエージング係数と、単位温度当たりの前記周波数補正値の変化率を示す温度特性係数と、を算出する補正係数算出部と、を備え、
前記補正値算出部は、前記外部クロック信号を取得している期間中は、前記周波数差検出部にて検出された差分値に基づいて周波数補正値を算出し、前記外部クロック信号が途切れている期間中は、前記エージング係数及び温度特性係数を用いて周波数補正値を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、水晶振動子を用い、周波数設定値に基づいて周波数信号を出力する発振部を備えた発振装置に、外部から入力される外部クロック信号と、発振部から出力される周波数信号との周波数差に対応する差分値を求める周波数差検出部と、水晶振動子が配置された雰囲気の温度を検出する温度検出部とを設けている。そして外部クロック信号を取得している期間に、周波数差検出部にて求められた差分値の経時変化と、検出温度の経時変化と、に基づいて、単位時間当たりの周波数補正値の変化率を示すエージング係数と、単位温度当たりの周波数補正値の変化率を示す温度特性係数と、を求めている。さらに外部クロック信号が取得できない期間は、エージング係数と、温度特性係数と、に基づいて、周波数補正値を求めて、周波数設定値に加算するようにしている。そのため外部クロック信号が受信できないときにも発振部の出力する周波数信号を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る発振装置を示すブロック図である。
【
図2】補正係数を算出するための学習動作を示すフローチャートである。
【
図3】前記補正係数の算出時の動作に係るタイムチャートである。
【
図4】周波数設定値を補正する動作の流れを示すフローチャートである。
【
図5】GPS信号が途切れた期間中に周波数設定値を補正する動作に係るタイムチャートである。
【
図6】他の実施の形態に係る発振装置の例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施形態の概要]
本発明の実施形態の詳細を説明する前に、この実施形態の概略を簡単に述べておく。
図1は、実施の形態に係る発振装置の全体構成を示すブロック図である。
図1にて符号200にて示す部分は、PLL(Phase Locked Loop)を利用した発振機能を有するPLL回路部である。符号201はPLLに用いられる参照用の周波数信号(参照信号)を出力するDDS(Direct Digital Synthesizer)である。
このDDS201を動作させるための基準クロックは、
図1にて符号1で示す第1の発振回路1の発振出力が用いられる。従って結果として発振部である電圧制御発振器(VCXO:Voltage-Controlled crystal Oscillator)100から出力される周波数信号の周波数安定性を向上させるためには、前記基準クロックを安定させることが必要である。
【0013】
そこで実施の形態に係る、発振装置においては、第1の発振回路1に設けられた第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度を検出し、検出温度を用いて補正値を算出し、周波数設定値を、DDS201に入力される基準クロックの周波数設定値に加算することにより、DDS201から出力される参照信号を安定させるように構成している。
【0014】
またこの実施の形態では、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度を一定化するためにヒータ回路(ヒータ部)5を設け、検出温度に相当する後述の発振周波数差検出部3の出力ΔFを、ヒータ回路5の制御に用いている。
【0015】
さらに本実施の形態に係る発振装置においては、外部クロック信号としてGPSから1pps(pulse per second)の信号(以下、GPS信号ともいう)を取得する機能を備える。そして、GPS信号を取得している期間中は、GPS信号とPLL回路部200から出力される周波数信号との周波数比較を行い、その周波数差に対応する差分値をもとに周波数補正値を算出し、DDS201に入力される周波数設定値の補正に用いている。このように、周波数安定性の高いGPS信号を用いることにより、PLL回路部200から出力される周波数信号の周波数(以下、出力周波数ともいう)をさらに安定させることができる。
【0016】
また本例の発振装置は、GPS信号を取得している期間中に、第1の水晶振動子10の使用開始からの時間の経過に起因する周波数変化(エージング)、及び第1の水晶振動子10が配置された雰囲気の温度変化に起因する周波数変化を学習して、各々これらの周波数変化を補償するための補正係数を取得する。そしてGPS信号を取得できないホールドオーバー期間中においても、学習しておいた補正係数に基づいて、周波数補正値を算出し、周波数設定値に加算することによりDDS201の出力する参照信号を安定させるように構成している。
【0017】
[実施形態の全体説明]
以下、本実施形態に係る発振装置の詳細構成について説明する。
図1に示すように発振装置は、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20を備えている。これら第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は、例えば共通の短冊状の水晶片Xbに2つの分割領域を設け、各分割領域(振動領域)の表裏両面に励振用の電極11、12(21、22)を設けた構成となっている。
【0018】
第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20には夫々第1の発振回路1及び第2の発振回路2が接続されている。これら第1及び第2の発振回路1、2の発振出力は、例えば第1、第2の水晶振動子10、20のオーバートーン(高調波)である。この例では、両発振出力の周波数の差分に相当する信号を温度検出信号として利用しようとするものであり、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20は温度検出部の一部であるということができる。この温度検出部は、後述のように発振装置が備えるヒータ回路5の供給電力の制御や、ホールドオーバー期間中の周波数補正値の算出のために用いられている。また既述のように、第1の発振回路1からの発振出力は、DDS201の基準クロックとして使用されている。
【0019】
第1の発振回路1、及び第2の発振回路2の後段側には、発振周波数差検出部3が設けられている。この発振周波数差検出部3は概略的な言い方をすれば、第1の発振回路1の発振周波数f1と第2の発振回路2の発振周波数f2との差分と、Δfrとの差分である、周波数差検出値f2-f1-Δfr(=ΔF)を取り出すための回路部である。Δfrは、基準温度例えば25℃におけるf1(f1r)とf2(f2r)との差分である。
【0020】
ここでf1とf2との差分の一例を挙げれば、例えば数MHzである。本例では、発振周波数差検出部3によりf1とf2との差分に対応する値と、基準温度例えば25℃におけるf1とf2との差分に対応する値との差分であるΔFを計算することにより成り立つ。この実施形態の場合、より詳しく言えば、発振周波数差検出部3で得られる値は、{(f2-f1)/f1}-{(f2r-f1r)/f1r}である。ただし、図面では発振周波数差検出部3の出力の表示は略記している。
【0021】
発振周波数差検出部3の後段には、加算部6が設けられている。加算部6は後述のマイクロコンピュータ90から温度設定値(目標温度)を取得し、温度設定値と周波数差検出値ΔFとの差分を演算する。
図1に示すように加算部6の後段には積分回路部に相当するループフィルタ61が設けられている。更にループフィルタ61の後段には、ディジタル信号を一定時間のパルス信号に変換するPWM内挿部62が設けられている。またPWM内挿部62の後段には、ローパスフィルタ(LPF)63が設けられ、PWM内挿部62からの出力を平均化して当該出力であるパルス数に応じた直流電圧をヒータ回路5に入力する。またループフィルタ61から出力される検出温度に相当するディジタル信号は、後述のマイクロコンピュータ90に入力されるように構成されている。発振周波数差検出部3からLPF63に至るループは、本例のヒータ制御部を構成している。
【0022】
PLL回路部200は、DDS201から出力される参照信号の位相と、VCXO100の出力を分周器204で分周したクロックの位相とを位相比較部205にて比較し、その比較結果である位相差がチャージポンプ202によりアナログ化される。アナログ化された信号はループフィルタ206に入力され、PLLが安定するように制御される。DDS201は、基準クロックとして第1の発振回路1からの発振出力が入力される。またDDS201は、後述するように加算部42にて周波数補正値が加算された補正後の周波数設定値が入力されるように構成されている。
【0023】
本実施の形態に係る発振装置は、例えば外部クロック信号である1ppsのGPS信号とVCXO100から出力される出力周波数との周波数差を検出する周波数差検出部207を備えている。周波数差検出部207は、例えばVCXO100から出力される周波数信号を分周し、分周後の周波数信号と、GPS信号との周波数差を差分値としてマイクロコンピュータ90に出力するように構成されている。例えば周波数設定値が10MHzである場合、VCXO100からの周波数信号を10万分の1に分周し、GPS信号(1pps)との周波数差検出が行われる。なお、十分な解像度が得られれば、周波数差検出部207は、周波数信号の分周に替えて、GPS信号を例えば10MHzに逓倍して周波数差の検出を行ってもよい。
【0024】
マイクロコンピュータ90は、
図1に示すように補正値算出部92と、補正係数算出部93と、メモリ94と、タイマ95と、を備えている。
図1中の符号91はバスである。本例の発振装置は、GPSから取得したGPS信号に基づいて周波数補正値を算出し、周波数設定値の補正を行うが、既述のようにGPS信号が途切れてしまうホールドオーバーが発生することがある。
【0025】
一方、ホールドオーバー期間中においても、出力周波数を安定させることに対する要請はますます高まっている。例えば既述のように出力周波数が10MHzであるとき、ホールドオーバーが24時間継続した場合であっても、位相ずれ量が1.5μs以下程度の安定性を実現できることが要請されている。これは、周波数設定値(より詳細には「周波数設定値に対応する周波数」)に対する出力周波数の変化率が17.35ppt/秒以下であることに相当する。
【0026】
そのため既述のように、本例の発振装置においては、GPS信号を取得している期間に補正係数算出部93において、GPS信号を取得していないホールドオーバー期間中に用いる周波数補正値を算出するための補正係数を算出する。このとき、1ppt/秒以下の極めて高精度な周波数補正を行うためには、従来、実施されていたエージングに伴う周波数変化を補償するのみならず、ヒータ回路5による温度制御が行われている雰囲気下であっても、制御の遅れやゆらぎなどに起因する僅かな温度変化に伴う周波数変化を補償することが可能な周波数補正値を算出しなければならないことが分かった。
【0027】
この観点において、本例の補正係数算出部93は、第1水晶振動子10のエージングによる周波数補正値の変化を補償するためのエージング係数(a1)と、第1の水晶振動子10の温度変化による周波数補正値の変化を補償するための温度特性係数(a2)と、を求める機能を備えている。補正係数算出部93によって算出されたこれらのエージング係数(a1)、及び温度特性係数(a2)はメモリ94に記憶される。
【0028】
補正値算出部92は、GPS信号を取得している期間中は、周波数差検出部207から出力される差分値に基づいて周波数補正値を算出する。また補正値算出部92は、GPS信号を取得していないホールドオーバー期間中においては、メモリ94内に記憶されているエージング係数、温度特性係数、ループフィルタ61から取得した検出温度T及びタイマ95で計測される経過時間τにより、周波数補正値を算出する。
またマイクロコンピュータ90は、加算部6に対して温度設定値を出力する。
【0029】
続いて、以上に説明した構成を備える発振装置の作用について説明する。先ずGPS信号を取得している期間中の動作について説明する。発振装置の電源を投入して発振装置を起動すると、第1の水晶振動子10及び第2の水晶振動子20が発振して各々発振出力が得られる。マイクロコンピュータ90からは、周波数設定値が出力され、第1の発振回路1からの発振出力(基準クロック)と、周波数設定値とに基づきDDS201が作動し、DDS201から参照信号が出力される。そして、DDS201からの参照信号とVCXO100からの周波数信号とを位相比較した結果に基づいて、VCXO100の周波数制御が行われる。
【0030】
ここで本例の発振装置は、周波数差検出部207にて、PLL回路部200から出力された周波数信号(実際には当該周波数信号を分周した分周信号)と、1ppsのGPS信号との周波数比較を行う。このとき、PLL回路部200による周波数制御が実施されているにもかかわらず、周波数差が検出された場合には、当該周波数信号と比較される参照信号が周波数設定値に対応する周波数からずれてしまっているおそれがある。このような事象が発生する理由としては、基準クロックの出力に用いられる第1の水晶振動子10におけるエージングの進行や、ヒータ回路5による温度制御の遅れなどに起因する発振周波数の変化の影響が挙げられる。
【0031】
一方で、GPS信号を取得している期間中は、極めて安定な1ppsのGPS信号を利用して、PLL回路部200からの周波数信号(の分周信号)との周波数差を特定することができる。そこで、この周波数差(差分値)に基づいて、PLL回路部200から出力されている周波数信号の実際の周波数を求め、当該実際の周波数と周波数設定値に対応する周波数とのずれ量から、ずれ量がキャンセルされるように周波数設定値を補正すれば、第1の水晶振動子10側におけるエージングや温度変化の影響に係らず安定した周波数信号を得ることができる。
【0032】
補正値算出部92は、上述の考え方に基づき、周波数補正値を算出し、加算部42へ出力する。加算部42では、周波数設定値に対して周波数補正値が加算され、DDS201に入力される。この結果、基準クロック側の周波数ずれの影響がキャンセルされ、周波数設定値に対応した正しい周波数の周波数信号を出力することができる。
【0033】
上述の動作と比較して、GPS信号を取得できないホールドオーバー期間中は、基準クロック側で周波数ずれが発生している要因と、各要因の影響度合いを正確に把握しなければ、精度の高い周波数補正値を算出することはできない。そこで本例の発振装置は、GPS信号を取得している期間中に、ホールドオーバー期間中における周波数補正値を算出するための補正係数(エージング係数(a1)及び温度特性係数(a2))を取得しておく学習動作を実行する。
【0034】
本例の補正値算出部は、例えば下記の式(1)に示す一次式(線形和)を用いて周波数補正値を算出する。
Δh=(a1)×(Δτ)+(a2)×(ΔT) …(1)
但し、Δhは周波数補正値の変化量、a1はエージング係数(単位時間当たりの周波数補正値の変化率)、Δτは経過時間、a2は温度特性係数(単位温度当たりの周波数補正値の変化率)、ΔTは検出温度の変化量(温度変化量)である。
本例の補正係数算出部93は、温度変化の影響が少ないエージング測定期間中にエージング係数(a1)の学習を行い、温度変化が発生した期間を温度特性測定期間として、エージング測定期間中に学習したエージング係数を利用して温度特性係数の学習を行う。
【0035】
以下、
図2の流れ図に従って学習動作について説明する。先ず発振装置を起動すると、初期エージングのため例えば6時間、補正係数の学習を行わずに待機する(ステップS11)。式(1)に示したように補正値算出部92は、周波数補正値の算出にあたって、補正係数(エージング係数、温度特性係数)と各変数(経過時間、温度変化量)との一次式を用いている。一方で、発振装置の電源の投入直後は、第1の水晶振動子10のエージングによる経過時間と周波数補正値との関係が、一次式で示されるような関係にならない場合がある。そのため、電源の投入後、6時間ほど待機する(初期エージング待機期間)。
【0036】
所定時間待機すると、経過時間に対応した周波数補正値の変化分が凡そ一次式で近似される相関を示すようになる。
次いでGPS信号を取得しているか否かの判断を行う(ステップS12)。このときGPS信号を取得していない場合には、GPS信号を取得できるまで待機する(ステップS12;NO)。
【0037】
次いでGPS信号を取得できるようになると(ステップS12;YES)、所定のエージング測定期間Δtが経過したか否かを判断する(ステップS13)。エージング測定期間Δtが経過していない場合には(ステップS13;NO)、GPS信号を取得している状態であることを確認しながら待機する(ステップS12;YES→S13;NO)。
【0038】
ここでステップS13以降については、
図3も参照して説明する。
図3は、GPS信号を取得してからの周波数補正値及び検出温度の時間変化を示すタイムチャートである。
図3中の時刻t0がステップS13の開始時刻を示している。
図2に示すようにエージング測定期間Δt(
図3中、Δt1と記してある)が経過したら(ステップS13;YES)、当該期間(エージング測定期間Δt中における単位時間当たりの検出温度の変化率(|ΔT/Δt|)を求め、閾値となる最小温度変化率Tminを越えているか否かが判断される(ステップS14)。
【0039】
最小温度変化率Tminは、検出温度の変化がほぼ無視できると判断可能な単位時間当たりの温度変化率であり、例えばメモリ94に記憶されている。最小温度変化率Tminは、例えば0.1℃/時以下の値に設定する場合を例示できる。そして単位時間当たりの検出温度の変化率が最小温度変化率Tminを越えていない場合(|ΔT/Δt|<Tmin)には(ステップS14;NO)、エージング係数を算出する(ステップS15)。
【0040】
エージング係数(a1)は、例えば
図3に示すように時刻t0から時刻taまでの時間Δt1の期間中の周波数補正値Δh1を用い算出する。時刻t0から時刻taまで間の区間1においては、検出温度の変化がほぼ無視できると判断されている(エージング測定期間)。このため、第1の水晶振動子10の発振周波数が変化した場合であっても、当該発振周波数の変化は、エージングによるものと判断できる。従って区間1の期間中における周波数補正値の変化Δh1についても、第1の水晶振動子10のエージングに起因するということができる。
【0041】
式(1)に示したように、本例ではエージングによる第1の水晶振動子10の周波数補正値を、経過時間及び検出温度の変化量を変数とする一次式で近似している。既述のようにエージング測定期間においては、検出温度の変化が無視できるので、式(1)に周波数補正値の変化量Δh1、経過時間Δt1を代入し、右辺第2項をゼロとして変形すると、単位時間当たりの周波数補正値の変化率を示すエージング係数(a1)は、下記の式(2)より算出できる。
a1=Δh1/Δt1 …(2)
【0042】
補正係数算出部93は、上述の計算を実行し、例えばメモリ94に記憶されているエージング係数(a1)を更新する(ステップS15)。そして、GPS信号を取得し、検出温度の変化率が最小温度変化率を越えない限り(|ΔT/Δt|<Tmin)は、上述の動作を繰り返す(ステップS12;YES→S13;YES→S14;NO→S15)。
【0043】
そして検出温度の変化率が最小温度変化率以上であると判断された場合(|ΔT/Δt|≧Tmin)は、温度特性測定期間の開始とみなし、温度特性係数の学習を実行する(ステップS14;YES)。例えば
図3中の時刻taから時刻tbまでの区間2においては、検出温度の変化が生じているため、|ΔT1/Δt1|≧Tminとなっているので、温度特性測定期間に相当する。
【0044】
一方で、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度変化は、外部環境の温度変化に依存する場合もあるので、いつ温度特性測定期間が終了するのか予測することができないこともある。この場合は、例えば所定の計測待機時間Δt’待機した後(ステップS16)、当該計測待機時間Δt´中における単位時間当たりの検出温度の変化率(|ΔT/Δt’|)を求め、最小温度変化率Tminを越えているか否か判断する(ステップS17)。
【0045】
そして最小温度変化率Tmin以上である場合(|ΔT/Δt’|≧Tmin)には(ステップS17;YES)、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度変化が継続しており、温度特性測定期間が続いているので、そのまま待機する(ステップS17;YES→S16)。
【0046】
やがて
図3に示すように、例えば時刻taから時間Δt2が経過し、時刻tbにて検出温度が一定になったとする。この場合には、最小温度変化率がTminを下回り、温度特性測定期間が終了したことになる(ステップS17;NO)。しかる後、区間2の温度特性測定期間中に取得した周波数補正値の変化量Δh2を用いて、温度特性係数(a2)を算出する(ステップS18)。
なお、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度の上昇と低下とが連続して発生する環境下では、上述の検出温度の変化率に係る判断に加え、温度変化量(ΔT)の正負を判別し温度上昇過程、温度低下過程のそれぞれのタイミングにて温度特性係数を算出するとよい。
【0047】
既述のように、本例の発振装置は、第1の水晶振動子10が置かれている雰囲気をヒータ回路5により加熱し温度制御することにより第1の発振回路の発振周波数を安定させている。それでも周囲の温度の急激な温度変化が発生した場合などにおける温度制御の遅れなどにより、第1の水晶振動子10が置かれている雰囲気の温度が変化する場合もある。この結果、第1の発振回路1の発振周波数(DDS201の基準クロック)が変化したときに、出力周波数の分周周波数信号と、1ppsのGPS信号と、の間に周波数差が生じ、周波数補正値の変化が生じる場合もある。
図3に示す区間2(温度特性測定期間)における周波数補正値の変化量には、第1の水晶振動子10のエージングに起因する周波数補正値の変化量(エージング要因周波数補正量)と、前記温度変化に起因する周波数補正値の変化量(温度変化要因周波数補正量)とが含まれていると理解することができる。
【0048】
ここで、例えば数時間や数日程度の比較的短い期間では、エージング係数(a1)の値は大きく変化せず、時間的に安定である場合がある。
図3に示す区間1~2の期間についても、このようなエージング係数が時間的に安定している期間に相当する場合、区間1にて算出したエージング係数を用いて区間2の期間中のエージング要因周波数補正量を推定することができる。そこで区間2における周波数補正値の変化量Δh2から、当該期間中のエージング要因周波数補正量を差し引くことにより、時刻taと時刻tbとの間の温度変化要因周波数補正量が求まる。
【0049】
具体的には、区間2のエージング要因周波数補正量は、メモリ94に記憶されている区間1にて更新されたエージング係数(a1)と、区間2の時間Δt2とを乗算すれば求まる。さらに、式(1)の関係を利用すれば区間2の温度変化要因周波数補正量は、当該期間中の周波数補正量Δh2から、エージング要因周波数補正量(Δt2)×(a1)を差し引いた値となる。これらの値を式(1)に代入して変形すると、温度特性係数(a2)は、下記の式(3)により求められる。
a2={Δh2-(Δt2)×(a1)}/ΔT …(3)
【0050】
補正係数算出部93は、上述の計算を実行し、メモリ94に記憶されている温度特性係数(a2)を更新する。
その後、
図3に示す時刻tbから時刻tcの区間3においては、検出温度がほぼ一定であることからエージング測定期間と判断して、既述のエージング係数を算出がする動作が実行される(ステップS12~S15)。
【0051】
以上に説明した動作に基づき、GPS信号と比較した結果に基づいて得られた周波数補正値を利用して、ホールドオーバー期間中に使用するエージング係数、及び温度特性係数を算出する。
次いで、これらのエージング係数、温度特性係数の利用を含む、発振装置からの周波数信号の出力動作について
図4のフローチャート及び
図5のタイムチャートを参照しながら説明する。
発振装置の起動後(スタート)、GPS信号を取得できている期間中(ステップS21;YES)は、PLL回路部200から出力される周波数信号と、1ppsのGPS信号とから得られた周波数差(差分値)に基づき周波数補正値を算出し、周波数設定値に加算する(ステップS27)。
【0052】
一方、GPS信号が取得できないホールドオーバー期間になると(ステップS21;NO)、GPS信号を取得している期間中に算出した各補正係数(エージング係数、温度特性係数)が使用可能となっているか否かを確認する(ステップS22)。使用可能か否かの判断基準は、例えばメモリ94内に補正係数が記憶されているか否かの判断や、後述するように複数回、算出した補正係数の平均値を利用する場合には、平均値の算出に用いる補正係数の個数が予め設定された個数に達しているか否かの判断などを行う。
【0053】
そしてエージング係数、温度特性係数が使用可能となっていないと判断した場合には(ステップS22;NO)、例えばGPS信号の取得できない期間となる直前に取得した周波数補正値を用いた周波数設定値の補正を行い(ステップS28)、GPS信号の取得確認(ステップS21)に戻る。
【0054】
一方、エージング係数、温度特性係数が使用可能となっている場合(ステップS22;YES)においては、所定の補正値調整時間Δτの経過まではGPS信号の取得確認、補正係数の使用可否確認を行う(ステップS23;NO→S21;NO→S22;YES)。そして、補正値調整時間Δτが経過すると、当該補正値調整時間Δτ中の検出温度の変化量ΔTに基づき、単位時間当たりの検出温度の変化率(|ΔT/Δτ|)が最小温度変化率Tminを越えているか否かを判断する(ステップS24)。
【0055】
例えば
図5に示す時刻tdから時刻teまで区間4は、「|ΔT/Δτ|<Tmin」であり、検出温度の変化が小さくΔTはゼロとみなせる。なお、補正値調整時間Δτは、既述のエージング測定期間、温度係数測定期間Δtよりも短い期間に設定して、小刻みに周波数補正値の算出、設定動作を繰り返してよい。但し、周波数補正値算出の考え方を把握しやすくするため、
図5に示す補正値調整時間Δτ4~Δτ6は、
図3を用いて説明したエージング測定期間、温度係数測定期間Δt1~Δt3と同程度の間隔で示してある。
【0056】
このように温度の変化が小さい場合(ステップS24;NO)には、メモリ94から読み出したエージング係数(a1)、温度特性係数(a2)を用いて得られる既述の式(1)の第1項のみに補正値調整時間(経過時間)Δτ4を代入し、周波数補正値を算出する これによりエージング係数のみを用いた周波数補正値(
図5中のΔh4)が算出され、周波数設定値の補正に用いられる(ステップS25)。
【0057】
一方、
図5に示す時刻teから時刻tfまでの区間5のように第1の水晶振動子10の雰囲気温度が変化する場合には、単位時間当たりの検出温度の変化率が最小温度変化率以上である(|ΔT2/Δτ5|≧Tmin)と判断される(ステップS24;YES)。この場合は、メモリ94から読み出したエージング係数(a1)、温度特性係数(a2)を用いて得られる式(1)に補正値調整時間(経過時間)Δτ5、温度変化量ΔT2の双方を代入し、周波数補正値を算出する。
これによりエージング係数、温度特性係数の双方を用いた周波数補正値(
図5中のΔh5)が算出され、周波数設定値の補正に用いられる。
【0058】
さらに
図5に示す時刻tfから時刻tgまでの区間6においては、温度が一定であるため温度変化量ΔTはゼロとみなされ、区間6の経過時間Δτ6、エージング係数(a1)から周波数補正値Δh6が算出される。
【0059】
上述の実施の形態によれば、第1の水晶振動子10の発振周波数を基準クロックとして用い、周波数設定値に基づいて周波数信号を出力する発振装置において、発振装置の出力周波数(の分周信号)と、1ppsのGPS信号との周波数差に対応する差分値を求める周波数差検出部207を設けると共に、第1の水晶振動子10が置かれる雰囲気の温度を検出するように構成している。そしてGPS信号を取得している期間中に、第1の水晶振動子10のエージングによる周波数変動を補正する補正値を算出するためのエージング係数(a1)と、第1の水晶振動子10の温度変化による周波数変動を補正する補正値を算出するための温度特性係数(a2)と、を求めている。そしてホールドオーバー期間中には、エージング係数と、温度特性係数とを用いて周波数補正値を算出し、周波数設定値に加算するようにしている。そのためGPS信号が取得できないホールドオーバーの期間中にも出力周波数を安定させることができる。
【0060】
ここで
図2を用いて説明したエージング係数や温度特性係数の学習にあたっては、補正係数(エージング係数、温度特性係数)の算出ステップ(ステップS15、18)において、過去に繰り返し算出した補正係数(a2)を各々直近の複数回分ずつ記憶しておき、新たに算出した補正係数と過去に算出した補正係数とを含む複数の補正係数の平均値を用いて周波数補正値を算出してもよい。複数回算出したエージング係数及び温度特性係数の平均値を用いて周波数補正値を算出することができるため、出力周波数の補正精度を向上させることができる。
【0061】
また本発明は、
図1~5を用いて説明した実施の形態には限らず、水晶振動子を用い、周波数設定値に基づいて発振出力が得られる発振装置であれば適用することができる。
図6に他の実施形態に係る発振装置500の一例を示す。本例の発振装置500は、不図示の水晶振動子が設けられた発振器(発振部)501を用い、入力された周波数設定値に応じた周波数信号を出力する。発振器501にはヒータ回路(ヒータ部)502により水晶振動子が置かれている雰囲気を一定の温度に加熱している。従ってこの発振器501を含む発振装置500は、OCXOである。
【0062】
発振器501の一例としては、例えばコルピッツ回路からなる発振回路を備え、可変容量ダイオードを介して当該コルピッツ回路の制御電圧が入力されるものを挙げることができる。この場合には、制御電圧は周波数設定値に相当し、制御電圧に応じて発振器501の出力周波数が調整される。また発振装置500は、既述の補正値算出部、補正係数算出部の機能を備えたマイクロコンピュータ90と周波数差検出部207とを備える。
【0063】
例えば周波数差検出部207は、発振器501から出力された周波数信号(分周信号)と、1ppsのGPS信号との周波数差(差分値)を取得し、マイクロコンピュータ90に入力される。また発振器501は、温度検出部503を備え、温度検出部503にて取得された検出温度は、マイクロコンピュータ90に入力される。マイクロコンピュータ90は、検出温度に基づいてヒータ回路502の出力を調整して、発振器の温度を一定にする。このような構成の発振装置500においても、
図2を用いて説明した補正係数(エージング係数、温度特性係数)の学習動作、
図4を用いて説明した周波数補正値の算出、設定動作を実行することにより、安定した周波数信号を出力することができる。
【0064】
また本発明は、温度特性係数(a2)を求めるにあたって、例えば既述のヒータ部(
図1、6のヒータ回路502)などの温調機構により、水晶振動子(図)が置かれている雰囲気の温度を変動させることができるよう構成してもよい。温度特性係数(a2)を求めるにあたって、水晶振動子の温度変化が小さい場合には、求められた温度特性係数の精度が悪くなるおそれもある。さらに温度変化に対する周波数変化の分解能が高い発振装置においては、わずかな温度変化に対しては周波数信号が揺らいでいるように見えてしまい、算出した温度特性係数の精度が悪くなるおそれもある。そこで水晶振動子に、一定の温度差以上、例えば既述の温調機構などを利用して1℃以上の温度変化を与えて温度特性係数を求めることで、温度特性係数の精度の高めてもよい。
【0065】
強制的な温度変化を与えて温度特性係数(a2)を求めるときは、例えば
図1に示す発振装置において、マイクロコンピュータ90から第1の水晶振動子10が配置された雰囲気の温度を1℃以上変化させるための温度特性係数(a2)の算出用の温度設定値を出力し、温度が変化している期間中に
図2のステップS14、S16~18の動作を実行する場合を例示することができる。
また上述の例では、ホールドオーバー期間に、周波数補正値を算出するにあたってエージング係数(a1)及び温度特性係数(a2)を用いた一次式を採用しているが、周波数補正値を算出する際に用いる式は一次式に限定されない。より適切である場合には、経過時間(Δτ)や温度変化量(ΔT)の対数関数や指数関数と各補正係数との線形和に基づき、周波数補正値を算出することもできる。
【符号の説明】
【0066】
1 第1の発振回路
2 第2の発振回路
5 ヒータ回路
10 第1の水晶振動子
20 第2の水晶振動子
42 加算部
90 マイクロコンピュータ
92 補正値算出部
93 補正係数算出部
94 メモリ
100 VCXO
200 PLL回路部
201 DDS
207 周波数差検出部