(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20220804BHJP
C08K 5/3435 20060101ALI20220804BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20220804BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20220804BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20220804BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/3435
C08K5/29
C08L27/12
C08K5/3492
B32B27/18 A
B32B27/18 Z
(21)【出願番号】P 2018061963
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 太地
(72)【発明者】
【氏名】中尾 聡一
(72)【発明者】
【氏名】塩見 恭子
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-231777(JP,A)
【文献】特開2009-299034(JP,A)
【文献】特開2011-127103(JP,A)
【文献】特開2001-232997(JP,A)
【文献】特開2014-141542(JP,A)
【文献】特開2017-074796(JP,A)
【文献】特開2019-155687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂(A)と、
トリアジン系紫外線吸収剤(B)と、
2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)と、
を含み、
前記2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)が、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)と、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)と、を含み、
前記アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)が、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物を含む
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物の含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して3質量部以上30質量部以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記アミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)が、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルを含む
ことを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルの含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上6質量部以下である
ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)が、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を含む
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤が、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-アルキルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリジアンを含む
ことを特徴とする請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、アルキル基の炭素数が12または13のトリアジン系紫外線吸収剤を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)の含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して10質量部以上20質量部以下である
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
フッ素樹脂を更に含む
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
架橋剤を更に含む
ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記架橋剤がイソシアネート系架橋剤である
ことを特徴とする請求項10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
基材と、前記基材に積層される請求項1から11のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる樹脂層と、を備える
ことを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の塗装には、塗料や塗装代替フィルムが使われている。特に車両の外装に用いられる塗料や塗装代替フィルムは、耐候性、耐熱性、耐水性などの耐久性や、ガソリン、ブレーキオイルなどの油に対する耐性などが求められる。そのため、上記のような塗料や塗装代替フィルムの表面は、保護層で覆われることが好ましい。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とトリアジン系紫外線吸収剤とを必須成分として含み、長期にわたって下層保護機能を維持できる塗膜を形成できる塗料用組成物が開示されている。このような塗料用組成物からなる塗膜は、上記塗料や塗装代替フィルムの表面の保護層として用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されている塗料用組成物は、トリアジン系紫外線吸収剤にベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を組み合わせることで長期耐候性の発現を図っている。しかし、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、金属化合物との相互作用により、吸収波長が長波長側にシフトする傾向がある。そのため、上記特許文献1に開示されている塗料用組成物は、金属化合物が接すると黄変する場合がある。例えば、水はカルシウムやマグネシウムなどの金属成分を含む場合があるため、上記特許文献1に開示されている塗料用組成物は水に触れると黄変する場合がある。よって、上記特許文献1に開示されている塗料用組成物のようにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含む組成物からなる塗膜は、耐水性が求められる分野においては不向きである。なお、金属化合物やアミンなどとの相互作用が抑制される紫外線吸収剤として、シアノアクリレート系紫外線吸収剤も挙げられる。しかし、シアノアクリレート系紫外線吸収剤は波長が340nm以上の光を吸収し難く、波長370nm以上の光を吸収するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤等と組み合わせて用いることがある。
【0006】
また、紫外線吸収剤を含む樹脂組成物は、当該紫外線吸収剤の分解を抑制する観点から、光安定剤を含む場合がある。光安定剤によって、樹脂の劣化に関わるラジカルである酸素ラジカル、ペルオキシラジカルまたはアルキルラジカルなどがクエンチされる。例えば、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤は、ペルオキシラジカルをすばやく捕捉する。また、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤は、まず酸素ラジカルにより酸化されてニトロキシラジカルとなり、その後、炭素ラジカルと反応し、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤となる。そのため、アミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤は、ペルオキシラジカルを素早くクエンチすることができる。一方、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤は、酸素ラジカルを素早くクエンチすることができる。光安定剤の構造によって素早くクエンチできるラジカル種が異なるため、紫外線吸収剤と光安定剤の組み合わせには改善の余地があった。
【0007】
上記のように、特許文献1に開示されているような従来の塗料用組成物は、耐水性が求められる分野においては不向きである。そこで本発明は、耐水性を有して下地を保護し得る樹脂組成物及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の樹脂組成物は、トリアジン系紫外線吸収剤(B)と、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)と、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)が、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)と、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)と、を含むことが好ましい。
【0010】
また、前記アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)が、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3、5、5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物を含むことが好ましい。
【0011】
また、樹脂(A)を更に含み、前記4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3、5、5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物の含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0012】
また、前記アミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)が、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6‐テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルを含むことが好ましい。
【0013】
また、樹脂(A)を更に含み、前記ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6‐テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルの含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して、0.5質量部以上6質量部以下であることが好ましい。
【0014】
また、前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)が、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0015】
また、前記ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤が、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-アルキルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリジアンを含むことが好ましい。
【0016】
また、前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、アルキル基の炭素数が12または13のトリアジン系紫外線吸収剤を含むことが好ましい。
【0017】
また、樹脂(A)を更に含み、前記トリアジン系紫外線吸収剤(B)の含有量が、前記樹脂(A)100質量部に対して10質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0018】
また、フッ素樹脂を更に含むことが好ましい。
【0019】
また、架橋剤を更に含むことが好ましい。
【0020】
また、前記架橋剤がイソシアネート系架橋剤であることが好ましい。
【0021】
また、上記課題を解決するため、本発明の積層体は、基材と、前記基材に積層される上記樹脂組成物からなる樹脂層と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐水性を有して下地を保護し得る樹脂組成物及び積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層体の断面を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0025】
[積層体]
図1は、本発明の実施形態に係る積層体の断面を概略的に示す図である。本実施形態の積層体1は、基材3と基材3に積層される樹脂層2とを備える。
【0026】
基材3の材質は特に制限されない。基材3は、例えば、樹脂、金属、セラミックス、紙、木材、又は、これらの組み合わせから成る。また、基材3の厚さは特に制限されず、積層体1の用途に応じて選択される。基材3の厚さは、例えば20μm以上500μm以下とされ、30μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0027】
基材3として使用可能な樹脂として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ(エチレン-テトラフルオロエチレン)、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリウレタン等が挙げられる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方を意味する。これらの樹脂は、1種が単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。2種類以上の樹脂を併用する場合、これらの樹脂を混合して一層の基材3とされてもよく、互いに異なる樹脂からなる複数の層からなる基材3とされてもよい。また、上記樹脂の中でポリ塩化ビニルを用いることが好ましい。ポリ塩化ビニルは可塑剤等が添加されることで引張破断伸度が容易に調整され得る。そのため、基材3にポリ塩化ビニルが用いられることによって、積層体1を貼り付ける被着面の形状が複雑であっても積層体1が被着面に追従し得る。
【0028】
樹脂層2は、後述する樹脂組成物からなる層である。
【0029】
樹脂層2の厚さは特に制限されない。例えば1μm以上100μm以下とされ、3μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0030】
樹脂層2は、後述する樹脂組成物を基材3上に塗工し、硬化させることで形成される。樹脂組成物の塗工方法として、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スプレー塗装、浸漬塗装等を挙げることができる。これらの中で、スクリーン印刷が特に好ましい。樹脂組成物を硬化させる方法として、例えば、熱風乾燥やオーブンまたはホットプレート等を使用して行う方法を挙げることができる。また、コンマコーター(登録商標)で樹脂組成物を基材3上に塗工してから熱風乾燥し、樹脂組成物からなる樹脂層2を基材3から剥離して単層のフィルムとして使用することもできる。
【0031】
なお、積層体1は、必要に応じて被着面に貼着するための粘着剤層や接着剤層等の他の部材を含んでもよい。また、樹脂層2と基材3との間には、単層または複層の印刷層や粘着剤層等が設けられてもよい。積層体1が樹脂層2と基材3との間に印刷層を含む場合、印刷層の形成方法は特に制限されない。印刷層は、例えば、樹脂、着色剤、溶剤等を含む組成物を基材3上にスクリーン印刷等の方法で付与し、必要に応じて乾燥、硬化等の工程を経ることによって形成される。また、積層体1が樹脂層2と基材3との間に印刷層を含む場合、基材3上に上記のように印刷層を形成した後、この印刷層の上に上記のようにして樹脂層2が形成される。
【0032】
[樹脂組成物]
樹脂層2を構成する樹脂組成物は、樹脂(A)と、トリアジン系紫外線吸収剤(B)と、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)とを含む。
【0033】
<樹脂(A)>
上記樹脂(A)として、例えば、フッ素樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂などの樹脂が挙げられる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリルおよびメタクリルの一方または両方を意味する。これらの樹脂は、1種が単独で用いられても良く、2種類以上が併用されても良い。ただし、樹脂(A)はフッ素樹脂を含むことが好ましい。フッ素樹脂におけるC-F結合の結合エネルギー(441kJ/mol)は、太陽光による最大紫外線エネルギー量(411kJ/mol)より大きい。そのため、フッ素樹脂は太陽光によって分解され難い。また、C-F結合は分極が小さいため、フッ素樹脂は反応性に乏しく加水分解などによって分解され難い。そのため、樹脂(A)がフッ素樹脂を含むことにより、樹脂(A)の耐熱性、耐候性が非常に良好となり得る。
【0034】
樹脂(A)にフッ素樹脂が含まれる場合、当該フッ素樹脂は、特に限定されないが、主にトリフルオロエチレンとビニルエーテルとから成る共重合体であることが好ましい。トリフルオロエチレンとビニルエーテルとはほぼ交互共重合となるため、フッ素樹脂の中でも特に耐候性が良いと考えられる。また、トリフルオロエチレンとビニルエーテルとから成る共重合体は、フッ素樹脂の中では他の樹脂や添加剤との相溶性が良いと考えられる。
【0035】
また、樹脂(A)は、樹脂層2と基材3との密着性や添加剤との相溶性等の観点から(メタ)アクリル樹脂を含有することが好ましい。樹脂(A)に含まれる樹脂と添加剤との相溶性が良好であることによって、紫外線吸収剤(UVA)や光安定剤(HALS)などの安定剤が経時で樹脂層2からブリードすることが抑制され、結果的に樹脂(A)が(メタ)アクリル樹脂を含まない場合よりも樹脂層2の耐候性が向上し得る。
【0036】
また、樹脂(A)は、架橋剤を含むことが好ましい。当該架橋剤として、例えばイソシアネート系架橋剤が挙げられる。また、イソシアネート系架橋剤は、無黄変型のイソシアネート系架橋剤であることが好ましい。当該イソシアネート系架橋剤として、例えば、脂肪族イソシアネート由来のイソシアネート架橋剤や脂環式イソシアネート由来のイソシアネート架橋剤がある。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)由来のイソシアネート架橋剤や水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)由来のイソシアネート架橋剤、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)由来のイソシアネート架橋剤、イソホロンジイソシアネート(IPDI)由来のイソシアネート架橋剤が挙げられる。
【0037】
<トリアジン系紫外線吸収剤(B)>
本実施形態の樹脂組成物は、後述するように、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)を用いることによってトリアジン系紫外線吸収剤(B)の紫外線の吸収強度の低下が抑制され得る。そのため、本実施形態の樹脂組成物は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を用いることなく、またはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の含有量を少なくしたとしても、紫外線の吸収強度が長期間保たれ得る。また、トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤に比べて黄変し難い。そのため、本実施形態の樹脂組成物は、水との接触によって黄変することが抑制され得る。したがって、樹脂層2は耐水性を有する。
【0038】
また、トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、有機化合物の劣化に関与する290nm~380nmの波長帯域の紫外線を吸収し易い。トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、340nmの波長帯域を超える紫外線も吸収するため、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が併用されなくとも有機化合物を紫外線から保護し得る。
【0039】
トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤を含むことが好ましい。また、トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-アルキルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリジアンを含むことがより好ましい。2-[4-{(2-ヒドロキシ-3-アルキルオキシプロピル)オキシ}-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリジアンは、水酸基を有しているため、架橋剤と水酸基とが反応し、ブリードが抑制され得る。
【0040】
また、トリアジン系紫外線吸収剤(B)は、アルキル基の炭素数が12または13であるトリアジン系紫外線吸収剤を含むことが好ましく、若しくはアルキル基の炭素数が12のトリアジン系紫外線吸収剤およびアルキル基の炭素数が13のトリアジン系紫外線吸収剤との混合物を含むことも好ましい。
【0041】
樹脂層2を構成する樹脂組成物に含まれるトリアジン系紫外線吸収剤(B)の含有量は、樹脂(A)100質量部に対して10質量部以上20質量部以下であることが好ましい。トリアジン系紫外線吸収剤(B)の含有量が10質量部以上であれば、樹脂層2の下地保護性が高められ得る。また、トリアジン系紫外線吸収剤(B)の含有量が20質量部以下であれば、トリアジン系紫外線吸収剤(B)のブリードが抑制され得る。
【0042】
<ヒンダードアミン系光安定剤(C)>
ヒンダードアミン系光安定剤(C)は、2種以上用いられる。ヒンダードアミン系光安定剤(C)は、2種用いられてもよく、3種以上用いられてもよい。また、ヒンダードアミン系光安定剤(C)は、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)と、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)と、を含むことが好ましい。
【0043】
N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)と、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)と、が樹脂層2を構成する樹脂組成物に含まれることによって、樹脂や紫外線吸収剤の劣化に関わるラジカル源をこれらの光安定剤によって素早くクエンチすることができると考えられる。よって、トリアジン系紫外線吸収剤(B)の分解が抑制されるため、トリアジン系紫外線吸収剤(B)の紫外線の吸収強度が保たれ、紫外線による下地の劣化が抑制されると考えられる。このように、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)が用いられることで下地の光安定性が高められ得る。
【0044】
N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)は、少なくともビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルを含むことが好ましい。ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステルは、アミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤の中でも比較的中性に近いため、樹脂(A)の架橋阻害や黄変が抑制され得る。
【0045】
N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)の含有量は、樹脂(A)100質量部に対して0.5質量部以上6質量部以下であることが好ましい。N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)の含有量が0.5質量部以上とされることによって、樹脂層2およびトリアジン系紫外線吸収剤(B)の劣化が抑制される。また、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)の含有量が6質量部以下とされることによって、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)のブリードが抑制され得る。
【0046】
また、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)として、例えば二級アミン、三級アミンからなるヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)は、少なくとも4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物を含むことが好ましい。当該エステル化合物は、ほぼ中性であり、樹脂(A)に含まれる架橋剤やトリアジン系紫外線吸収剤(B)中のプロトン解離性酸性基と反応しにくい。そのため、樹脂(A)の架橋阻害、黄変が抑制され得る。
【0047】
樹脂層2を構成する樹脂組成物に含まれるアミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)の含有量は、樹脂(A)100質量部に対して3質量部以上30質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以上30質量部以下である。アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)の含有量が3質量部以上とされることによって、樹脂層2自体の耐候性がより向上され得る。また、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)の含有量が30質量部以下とされることによって、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)およびアミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)のブリードがより抑制され得る。
【0048】
N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)の含有量と、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)の含有量との合計は、樹脂(A)100質量部に対して、3.5質量部以上36質量部以下であることが好ましく、より好ましくは8質量部以上30質量部以下である。これらの含有量が3.5質量部以上とされることによって、樹脂層2の耐候性に加えて下地保護性が向上され得る。また、これらの含有量が36質量部以下とされることによって、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(C1)およびアミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(C2)のブリードが抑制され得る。
【0049】
また、本実施形態の樹脂組成物は、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、触媒、溶剤、レベリング剤、他の光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、界面活性剤、着色剤、光輝剤、フィラー等が挙げられる。
【0050】
以上の説明のように、本実施形態の樹脂組成物は、トリアジン系紫外線吸収剤(B)と、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)と、を含む。このように2種以上のヒンダードアミン系光安定剤(C)を含むことによって、上記のように、樹脂組成物の耐候性が高められ得る。また、本実施形態の樹脂組成物は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含まなくてもよい。よって、水との接触による黄変が抑制され得る。したがって、本実施形態の樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなる樹脂層2は、耐水性を有して下地を保護し得る。
【0051】
なお、樹脂層2は、透明であってもよく、着色されていてもよい。このような本実施形態の樹脂層2を備える積層体1は、例えば、車両の内装品や外装品または屋外に設置される物体の表面に貼り付けるためのフィルム、ステッカー等として好適である。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
フッ素樹脂(商品名:ルミフロン(登録商標)LF-552、旭硝子株式会社製)90.0質量部、アクリル樹脂(商品名:ニカライト(登録商標)H4007、日本カーバイド工業株式会社製)10.0質量部、架橋剤(商品名:コロネートHK、東ソー株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のイソシアヌレート体を含むポリイソシアネート)20.7質量部、トリアジン系紫外線吸収剤(商品名:チヌビン400、BASFジャパン株式会社製)14.9質量部、N-O-R構造を有するアミノエーテル型のヒンダードアミン系光安定剤(商品名:チヌビン123、BASFジャパン株式会社製、ビス(1-オクチルオキシ-2,2,6,6‐テトラメチル-4-ピペリジニル)セバシン酸エステル)4.4質量部、及び、アミノエーテル型以外のヒンダードアミン系光安定剤(商品名:チヌビン249、BASFジャパン株式会社製、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールと3,5,5-トリメチルヘキサン酸とから成るエステル化合物)8.8質量部を混合し、樹脂組成物を調製した。
【0054】
表1には、樹脂組成物の配合割合を質量部で示している。
【0055】
次に、基材としてアクリルフィルム(商品名:Hi-S CalA0800、日本カーバイド工業株式会社製、引張破断伸度:150%)を用意した。この基材上に、180メッシュのスクリーンを用いてスクリーンインキKIインキ(シルバー)(帝国インキ株式会社製)を印刷して印刷層を形成した。次に、印刷層が形成された基材を熱風乾燥器によって60℃の環境で60分間加熱乾燥し、25℃の環境で24時間静置し、該印刷層上に、180メッシュのスクリーンを用いてスクリーンインキKIインキ(イエロー)(帝国インキ株式会社製)を印刷してさらに印刷層を形成した。次に、これらの印刷層が形成された基材を熱風乾燥器によって60℃の環境で60分間加熱乾燥し、25℃の環境で24時間静置した。その後、180メッシュのスクリーンを用いて上記樹脂組成物を乾燥後の厚さが20μmとなるように印刷層上に塗工し、熱風乾燥器を用いて80℃の環境で60分間の加熱乾燥を行った。その後、樹脂組成物を25℃の環境で5時間静置し、印刷層上に樹脂組成物からなる樹脂層を形成した。このようにして、基材層、印刷層及び樹脂層を有する積層体を得た。
【0056】
(実施例2~8、及び比較例1~6)
樹脂組成物の配合を表1及び表2に示すように変更した以外は実施例1と同様にして積層体を得た。表2には、表1と同様に、樹脂組成物の配合割合を質量部で示している。なお、実施例3、比較例4、及び比較例5では、トリアジン系紫外線吸収剤(商品名:チヌビン479、BASFジャパン株式会社製)を用いた。また、比較例5では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:チヌビン109、BASFジャパン株式会社製)を用い、比較例6では、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:チヌビン928、BASFジャパン株式会社製)を用いた。
【0057】
<評価方法>
以下に説明する方法で、上記実施例及び比較例に係る積層体を評価した。評価結果は表1及び表2に示す通りである。
【0058】
(樹脂層の耐候性)
KF-1フィルター(295nm~780nm)をつけたメタルウェザー試験機(ダイプラ・ウィンテス社製)に積層体を入れ、ブラックパネル温度63℃、50%RHの環境下で、75mW/cm2で光を照射した。また、光の照射中、2時間ごとに120秒間シャワーで積層体に水をかけた。このようにして積層体に水をかけながら光を200時間照射した後、積層体を試験機から取り出した。そして、試験機に投入する前後のグロス値をスガ試験機株式会社製光沢度計UGV-5で樹脂層側から測色し、試験機に投入する前後の視野角60°でのグロス値の差を以下の基準で評価した。
S:1未満
A:1以上3未満
B:3以上5未満
C:5以上7未満
D:7以上10未満
E:10以上
【0059】
(積層体の耐候性)
上記樹脂層の耐候性の評価と同様にメタルウェザー試験機によって積層体に水をかけながら光を照射し、試験機に投入する前後の色差をコニカミノルタ製測色機CM-3600dで樹脂層側から測色し、試験機に投入する前後の色差の差を上記樹脂層の耐候性の評価と同じ基準で評価した。
【0060】
(耐水性)
積層体を40℃の温水に168時間浸漬させた後、樹脂層の外観を目視で確認して以下の基準で評価した。
A:外観変化なし。
B:黄変した。
【0061】
(ブリード)
積層体を23℃、50%RHにて168時間静置した後、樹脂層の外観を目視で確認して以下の基準で評価した。
A:外観変化なし。
B:ブリードまたはブルームが生じた。
【0062】
【0063】
【0064】
表1及び表2に示す通り、実施例1~8に係る樹脂組成物は、トリアジン系紫外線吸収剤と2種以上のヒンダードアミン系光安定剤とを含む。実施例1~8に係る樹脂組成物は、2種以上のヒンダードアミン系光安定剤を含むことによって、光安定性が高められ、優れた耐候性を有している。また、実施例1~8に係る樹脂組成物は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含んでおらず、水との接触による黄変が抑制される。したがって、実施例1~8に係る樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなる樹脂層を含む積層体は、耐水性を有して積層体を保護し得る。一方、比較例1~6の積層体は、表面の樹脂層が光安定剤(HALS)を1種類しか含んでおらず、樹脂層の耐候性、積層体の耐候性、耐水性、ブリードのいずれかが不十分である。
【0065】
以上のように、本発明の樹脂組成物及び当該樹脂組成物からなる樹脂層を備える積層体は、下地の耐候性と耐水性とを両立できている。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上説明したように、本発明によれば、耐水性を有して下地を保護し得る樹脂組成物及び積層体が提供され、自動車等の車両の装飾等の分野で利用することが期待される。
【符号の説明】
【0067】
1・・・積層体
2・・・樹脂層
3・・・基材