(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】自動車衝突試験用台車及び自動車衝突模擬試験装置
(51)【国際特許分類】
G01M 7/08 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
G01M7/08 B
(21)【出願番号】P 2018074829
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】309036221
【氏名又は名称】三菱重工機械システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 隼人
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-198830(JP,A)
【文献】特開2011-232118(JP,A)
【文献】特開2003-329538(JP,A)
【文献】特開2015-010864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/08
G01M 17/00-17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体を搭載可能であり、水平な前後方向に沿って配置されたレール上を移動可能な台車本体と、
前記台車本体に設けられ、前記台車本体を持ち上げた状態で前記レール上に転動可能に配置される転動可能状態と、前記レールに対して非接触の状態で配置される非接触状態とを切り替え可能な転動部材と、
前記台車本体が発射装置により打ち出されて前記レール上を滑りながら移動する自動車衝突模擬試験の試験期間においては前記転動部材を前記非接触状態とし、前記試験期間とは異なる非試験期間の移動時においては前記転動部材を前記転動可能状態とする制御装置と
を備える自動車衝突模擬試験用台車。
【請求項2】
前記台車本体に設けられ、前記台車本体に前後方向の駆動力を加える駆動装置を備え、
前記制御装置は、前記非試験期間において前記転動部材が前記転動可能状態である場合に前記駆動
装置により前記台車本体に前記駆動力を加えさせる
請求項1に記載の自動車衝突模擬試験用台車。
【請求項3】
前記駆動装置は、モータ装置と、前記モータ装置の出力軸に連結され前記出力軸の回転を伝達する伝達部材とを有し、
前記伝達部材は、前記レールの側面に接触した伝達状態と
、前記レールの側面から離れた非伝達状態とが切り替え可能に配置され、
前記制御装置は、前記試験期間においては前記伝達部材を前記非伝達状態とし、前記非試験期間において前記転動部材が前記転動可能状態である場合には前記伝達部材を前記伝達状態とする
請求項2に記載の自動車衝突模擬試験用台車。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の自動車衝突模擬試験用台車と、
前記自動車衝突模擬試験用台車の前記台車本体を打ち出して自動車衝突模擬試験を行う発射装置と
を備える自動車衝突模擬試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を破壊することなく衝突時に客室に発生する加速度を再現し、二次衝突による乗員の傷害度合いを再現する自動車衝突試験用台車及び自動車衝突模擬試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車の衝突試験は、クラッシュ量や客室の残存空間量などの物理量と乗員傷害値とを評価するための実車衝突試験があるが、実車にダミーを乗せて所定速度でバリヤに衝突させる方法は破壊試験であり、非常にコストを要する。このため、ダミーやエアバッグ等を搭載したホワイトボディ、模擬車体等を台車(スレッド)上に取り付け、このスレッドに対して実車衝突時とほぼ同様の加速度を与えることで、供試体に作用する衝撃度を非破壊的に再現して乗員傷害値を評価し、エアバッグなどの安全装置を開発するための自動車衝突模擬試験が行われる。
【0003】
このような自動車衝突模擬試験装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載の自動車衝突模擬試験装置は、供試体を搭載可能であり、水平な前後方向に沿ったレール上を移動するスレッドと、該スレッドに向けてピストンを打ち出し可能な発射装置と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のような自動車衝突模擬試験装置においては、スレッドがレール上を滑りながら移動する構成である。例えば、スレッドを打ち出した後、当該スレッドを発射開始位置まで戻す場合、レール上でスレッドを滑らせながら反対方向に牽引することが行われる。この場合、スレッドとレールとの間に滑り摩擦が生じるため、例えばスレッドにローラーチェーン又はウインチ等を連結し、大きな牽引力でスレッドを牽引する必要がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、レール上における移動を容易かつ円滑に行うことが可能な自動車衝突試験用台車及び自動車衝突模擬試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る自動車衝突試験用台車は、供試体を搭載可能であり、水平な前後方向に沿って配置されたレール上を移動可能な台車本体と、前記台車本体に設けられ、前記台車本体を持ち上げた状態で前記レール上に転動可能に配置される転動可能状態と、前記レールに対して非接触の状態で配置される非接触状態とを切り替え可能な転動部材と、前記台車本体が発射装置により打ち出されて前記レール上を滑りながら移動する自動車衝突模擬試験の試験期間においては前記転動部材を前記非接触状態とし、前記試験期間とは異なる非試験期間の移動時においては前記転動部材を前記転動可能状態とする制御装置とを備える。
【0008】
従って、転動部材がレール上を転動することで台車本体が移動可能となるため、レール上で台車本体を移動させる場合、台車本体に作用する摩擦力は滑り摩擦よりも小さい転がり摩擦で済むことになる。そのため、台車本体に作用させる駆動力を低減することができる。これにより、レール上における移動を容易かつ円滑に行うことができる。
【0009】
また、前記台車本体に設けられ、前記台車本体に駆動力を加える駆動装置を備え、前記制御装置は、前記非試験期間において前記転動部材が前記転動可能状態である場合に前記駆動装置により前記台車本体に前記駆動力を加えさせてもよい。
【0010】
従って、スレッド自体に駆動装置が設けられるため、非試験期間におけるスレッド移動時に、当該スレッドにローラーチェーン又はウインチ等を連結させる必要が無い。これにより、作業者の負担を低減することができる。
【0011】
また、前記駆動装置は、モータ装置と、前記モータ装置の出力軸に連結され前記出力軸の回転を伝達する伝達部材とを有し、前記伝達部材は、前記レールの側面に接触した伝達状態と、前記レールの側面から離れた非伝達状態とが切り替え可能に配置され、前記制御装置は、前記試験期間においては前記伝達部材を前記非伝達状態とし、前記非試験期間において前記転動部材が前記転動可能状態である場合には前記伝達部材を前記伝達状態としてもよい。
【0012】
従って、試験期間においては伝達部材が非伝達状態となるため、試験期間中のスレッドの移動を妨げない構成とすることができる。
【0013】
本発明に係る自動車衝突模擬試験装置は、上記の自動車衝突模擬試験用台車と、前記自動車衝突模擬試験用台車の前記台車本体を打ち出して自動車衝突模擬試験を行う発射装置とを備える。
【0014】
従って、非試験期間におけるスレッドの移動を容易かつ円滑に行うことが可能な自動車衝突模擬試験用台車を用いて試験を行うため、作業者の負担が低減され、自動車衝突模擬試験を容易かつ円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、レール上における移動を容易かつ円滑に行うことが可能な自動車衝突試験用台車及び自動車衝突模擬試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る自動車衝突模擬試験装置の一例を示す概略構成図である。
【
図3】
図3は、台車を発射装置とは反対側(後方)から見た場合の一例を示す側面図である。
【
図4】
図4は、スライダ及び転動装置の一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、転動部材が下方に移動した場合の一例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、自動車衝突模擬試験装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、自動車衝突模擬試験装置の動作の過程を示す図である。
【
図8】
図8は、自動車衝突模擬試験装置の動作の過程を示す図である。
【
図9】
図9は、自動車衝突模擬試験装置の動作の過程を示す図である。
【
図10】
図10は、自動車衝突模擬試験装置の動作の過程を示す図である。
【
図11】
図11は、変形例に係るスライダ及び転動装置を示す断面図である。
【
図12】
図12は、変形例に係る自動車衝突模擬試験装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る自動車衝突試験用台車及び自動車衝突模擬試験装置の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0018】
図1は、本実施形態に係る自動車衝突模擬試験装置100の一例を示す概略構成図である。
図1に示すように、自動車衝突模擬試験装置100は、スレッド(自動車衝突模擬試験用台車)10と、発射装置20と、レール部30と、制御装置40とを備えている。
【0019】
スレッド10は、スレッド本体(台車本体)11と、スライダ12と、転動装置13と、駆動装置14とを備えている。
図2は、スレッド10の一例を示す平面図である。
図3は、スレッド10を発射装置20とは反対側(後方)から見た場合の一例を示す側面図である。
図2及び
図3に示すように、スレッド本体11は、所定厚さを有する板材を有する骨組材である。スレッド本体11は、上面に供試体15を搭載可能となっている。この供試体15は、例えば骨格のみを有する自動車、所謂、ホワイトボディであって、シート、ステアリング、エアバッグ、シートベルトなどの装備品が装着されると共に、ダミーが装着される。この供試体15は、スレッド本体11における所定の位置に載置され、図示しない固定具により固定される。
【0020】
本実施形態では、供試体15である自動車の前方(
図1の左方向)をスレッド本体11の前方とし、供試体15である自動車の後方(
図1の右方向)をスレッド本体11の後方として説明する。スレッド本体11は、平面視が水平な前後方向に長い矩形状を有している。また、本実施形態では、水平面に直交する方向を上下方向として説明する。
【0021】
スライダ12は、スレッド本体11の底面11aに配置される。スライダ12は、レール部30の2本のレール31、32上を滑りながら移動する。スライダ12は、例えばスレッド本体11の底面11aにおいて4つの角部に対応する位置に1つずつ配置されるが、これに限定されない。
【0022】
図4は、スライダ12及び転動装置13の一例を示す断面図である。
図4に示すように、スライダ12の底面12aには、凹部12bが設けられる。転動装置13は、当該凹部12bに収容される。転動装置13としては、例えばボールエアリフタ等が用いられる。転動装置13は、転動部材13aと、受部材13bと、リフタ13cとを有する。転動部材13aは、レール31、32上で転動可能である。転動部材13aは、例えば球状であるが、これに限定されず、レール31、32上で転動可能な形状であれば、例えば円柱状、円筒状、円板状、円環状等、他の形状であってもよい。受部材13bは、転動部材13aを転動可能に支持する。受部材13bは、リフタ13cに支持される。リフタ13cは、例えば空気の圧力を駆動源として転動部材13a及び受部材13bを昇降させる。転動部材13aが
図4に示すように上昇位置に配置される場合、当該転動部材13aは、スライダ12の凹部12b内に収容された状態となり、レール31、32とは非接触の状態(非接触状態)となる。
【0023】
図5は、転動部材13aが下方に移動した状態の一例を示す断面図である。リフタ13cは、
図5に示すように、転動部材13aの一部がスライダ12の底面12aから下方に突出する下降位置まで、当該転動部材13a及び受部材13bを一体で移動させることが可能である。転動部材13aは、スライダ12の下方に突出することにより、スレッド本体11を持ち上げた状態でレール31、32上に転動可能な状態(転動可能状態)に配置される。
【0024】
このように、転動部材13aは、リフタ13cにより、スライダ12の凹部12b内に収容されてレール31、32とは非接触の非接触状態(
図4参照)と、スライダ12の下方に突出してスレッド本体11を持ち上げた状態でレール31、32上に転動可能な転動可能状態(
図5参照)とを切り替え可能である。
【0025】
駆動装置14は、スレッド本体11に設けられ、当該スレッド本体11に前後方向の駆動力を加える。駆動装置14は、例えばスレッド本体11の後方の端辺に沿った2箇所に配置される。各駆動装置14は、モータ装置14aと、出力軸14bと、伝達部材14cと、スライド機構14dとを有する。モータ装置14aは、駆動源として設けられ、出力軸14bを回転させる。伝達部材14cは、出力軸14bに固定され、出力軸14bと一体で回転することでモータ装置14aの駆動力を伝達する。スライド機構14dは、モータ装置14aを左右方向に移動させる。スライド機構14dは、モータ装置14aを移動させることで、伝達部材14cを、レール31、32の内側面31b、32bに接触又は内側面31b、32bを押圧する位置と、レール31、32の内側面31b、32bから離れる位置とに切り替えて配置することができる。伝達部材14cが内側面31b、32bに接触又は内側面31b、32bを押圧する場合、伝達部材14cが当該内側面31b、32bに対してモータ装置14aの駆動力を伝達可能な状態(伝達可能状態)となる。また、伝達部材14cが内側面31b、32bから離れる場合、伝達部材14cが当該内側面31b、32bに対してモータ装置14aの駆動力を伝達しない状態(非伝達状態)となる。伝達部材14cは、スライド機構14dにより、伝達可能状態と非伝達状態とが切り替え可能に設けられる。
【0026】
スレッド本体11は、底部に反力板16を有している。反力板16は、一端がスレッド本体11の底部に固定され、他端が屈曲してレール31、32の下方に配置される。反力板16は、スレッド本体11がレール31、32から脱落することを抑制している。反力板16のうちレール31、32の下方に配置される部分は、レール31、32との間に上下方向の隙間が設けられる。この隙間は、転動部材13aによりスレッド本体11が持ち上げられる場合に反力板16がレール31、32に接触しない寸法に設定される。つまり、転動部材13aによるスレッド本体11の持ち上げ量は、反力板16とレール31、32との隙間よりも小さい。なお、スレッド本体11は、不図示のブレーキ装置を有している。ブレーキ装置は、ブレーキピストン及びブレーキパッドを有する。ブレーキピストンは、スレッド本体11を浮上させてスライダ12をレール31、32に対して非接触の状態とする。ブレーキパッドは、スレッド本体11を浮上させる際に、レール31、32に対して上下からクランプする。
【0027】
発射装置20は、装置本体21と、ピストンロッド22とを有する。装置本体21は、例えば油圧によりピストンロッド22を駆動する油圧機構を有する。ピストンロッド22は、装置本体21の駆動によって前後方向に移動し、スレッド本体11に対して後方に加速度を付与する。
【0028】
レール部30は、上述の2本のレール31、32を有する。レール31、32は、スレッド本体11を案内する。レール31、32は、エアパレット33に接続される。エアパレット33は、レール31、32にそれぞれ接続される接続レール34、35を有する。エアパレット33は、接続レール34、35上にスレッド本体11を載置した状態で外部との間で搬送可能である。また、エアパレット33の後方には、ストッパ36が配置される。ストッパ36は、スレッド本体11の後方への移動を規制する。
【0029】
制御装置40は、上記のスレッド10及び発射装置20の動作を制御する。制御装置40は、発射装置制御部41と、リフタ制御部42と、モータ制御部43とを有する。発射装置制御部41は、発射装置20の装置本体21の動作を制御する。リフタ制御部42は、転動装置13のリフタ13cの動作を制御する。モータ制御部43は、駆動装置14のモータ装置14aの動作を制御する。制御装置40には、例えば作業者が自動車衝突模擬試験装置100を操作したり、情報の入力を行ったりするための入力装置44が接続される。
【0030】
次に、上記のように構成された自動車衝突模擬試験装置100の動作を説明する。
図6は、自動車衝突模擬試験装置100の動作の流れを示すフローチャートである。
図7から
図10は、自動車衝突模擬試験装置100の動作の過程を示す図である。自動車衝突模擬試験装置100の動作に先立ち、スレッド本体11を試験開始位置P1(
図1、
図7参照)に移動させておく。
【0031】
図6に示すように、まず、発射装置制御部41は、発射装置20の装置本体21を制御し、試験開始位置P1に配置されるスレッド本体11に対して後方に加速度を付与することで、スレッド本体11を打ち出す(ステップS10)。ステップS10において、スレッド本体11は、ブレーキ装置のブレーキピストンによりスライダ12がレール31、32から浮上し、ブレーキパッドによりレール31、32が上下からクランプされた状態で後方に移動する。このスレッド本体11は、ブレーキパッドとレール31、32との間の摩擦により、
図7に示すように、徐々に速度が低下して停止する。
【0032】
スレッド本体11が停止した後、ブレーキ装置のブレーキピストン及びブレーキパッドを解除し、リフタ制御部42は、転動部材13aによりスレッド本体11を持ち上げさせる(ステップS20)。ステップS20において、
図8に示すように、リフタ13cが転動部材13a及び受部材13bを下方に移動させることにより、転動部材13aの一部がスライダ12の底面12aから下方に突出する。このため、転動部材13aによってスレッド本体11が持ち上げられ、レール31、32の上面31a、32a上において転動部材13aに支持された状態となる。転動部材13aは、受部材13bに支持されることにより、スレッド本体11を持ち上げた状態で転動可能な転動可能状態となる。なお、リフタ13cによって下方に移動させる転動部材13a及び受部材13bの移動量については、例えば予め設定しておくことができる。
【0033】
転動部材13aが転動可能状態となった後、モータ制御部43は、駆動装置14の伝達部材14cをレール31、32の内側面31b、32bに押圧する(ステップS30)。ステップS30において、モータ装置14aは、
図9に示すように、スライド機構14dにより左右方向の外側にそれぞれ移動する。この移動により、出力軸14b及び伝達部材14cがモータ装置14aと一体でレール31、32側にそれぞれ移動し、伝達部材14cが内側面31b、32bに押圧される。
【0034】
伝達部材14cが内側面31b、32bに押圧された後、モータ制御部43は、モータ装置14aを回転させる(ステップS40)。ステップS40において、モータ装置14aの回転により、出力軸14b及び伝達部材14cが一体で回転する。伝達部材14cが回転することにより、レール31、32の内側面31b、32bとの間で前後方向に摩擦力が生じる。この摩擦力により、
図10に示すように、転動部材13aが転動しながらスレッド本体11が前方に移動する。この場合、転動部材13aとレール31、32の上面31a、32aとの間には、転がり摩擦が生じる。
【0035】
スレッド本体11が移動した後、モータ制御部43は、モータ装置14aの回転を停止させる指示があるか否かを判定する(ステップS50)。例えば、作業者は、スレッド本体11の位置を目視で確認し、試験開始位置P1に近づいた場合に入力装置44を介して停止指示を入力することができる。この場合、ステップS50において、モータ制御部43は、入力装置44からの停止指示の有無を判定する。モータ制御部43は、モータ装置14aの回転停止指示が無いと判定した場合(ステップS60のNo)、引き続きステップS50の判定を行う。また、モータ制御部43は、モータ装置14aの回転停止指示があったと判定した場合(ステップS50のYes)、モータ装置14aの回転を停止させる(ステップS60)。ステップS60により、モータ装置14aの回転停止に伴い、スレッド本体11の移動が停止する。
【0036】
スレッド本体11が停止した後、モータ制御部43は、伝達部材14cを非接触状態とする(ステップS70)。ステップS70において、モータ制御部43は、モータ装置14aを左右方向の内側に移動させることで、伝達部材14cがレール31、32の内側面31b、32bから離れる。
【0037】
伝達部材14cを非接触状態とした後、リフタ制御部42は、転動部材13aを収容位置に戻す(ステップS80)。ステップS80において、スレッド本体11は、転動部材13aを上昇させることにより、転動部材13aの下部がスライダ12内に収容される。これにより、スライダ12の底面12aがレール31、32に着地し、スライダ12を介してスレッド本体11がレール31、32に支持された状態となる。
【0038】
以上のように、本実施形態に係るスレッド10は、供試体15を搭載可能であり、水平な前後方向に沿って配置されたレール31、32上を移動可能なスレッド本体11と、スレッド本体11に設けられ、スレッド本体11を持ち上げた状態でレール31、32上に転動可能に配置される転動可能状態と、レール31、32に対して非接触の状態で配置される非接触状態とを切り替え可能な転動部材13aと、スレッド本体11が発射装置20により打ち出されてレール31、32上を滑りながら移動する自動車衝突模擬試験の試験期間においては転動部材13aを非接触状態とし、試験期間とは異なる非試験期間の移動時においては転動部材13aを転動可能状態とする制御装置40とを備える。
【0039】
従って、転動部材13aがレール31、32上を転動することでスレッド本体11が移動可能となるため、レール31、32上でスレッド本体11を移動させる場合、スレッド本体11に作用する摩擦力は、滑り摩擦よりも小さい転がり摩擦で済むことになる。そのため、スレッド本体11に作用させる駆動力を低減することができる。これにより、レール31、32上におけるスレッド本体11の移動を容易かつ円滑に行うことができる。
【0040】
また、本実施形態に係るスレッド10は、スレッド本体11に設けられ、スレッド本体11に駆動力を加える駆動装置14を備え、制御装置40は、非試験期間において転動部材13aが転動可能状態である場合に駆動装置14によりスレッド本体11に駆動力を加えさせる。従って、スレッド本体11自体に駆動装置14が設けられるため、非試験期間におけるスレッド本体11の移動時に、当該スレッド本体11にローラーチェーン又はウインチ等を連結させる必要が無い。これにより、作業者の負担を低減することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るスレッド10において、駆動装置14は、モータ装置14aと、モータ装置14aの出力軸14bに連結され出力軸14bの回転を伝達する伝達部材14cとを有し、伝達部材14cは、レール31、32の内側面31b、32bに接触した伝達状態と、伝達部材14cがレール31、32の内側面31b、32bから離れた非伝達状態とが切り替え可能に配置され、制御装置40は、試験期間においては伝達部材14cを非伝達状態とし、非試験期間において転動部材13aが転動可能状態である場合には伝達部材14cを伝達状態とする。従って、試験期間においては伝達部材14cが非伝達状態となるため、試験期間中のスレッド本体11の移動を妨げない構成とすることができる。
【0042】
本発明に係る自動車衝突模擬試験装置100は、上記のスレッド10と、スレッド10のスレッド本体11を打ち出して自動車衝突模擬試験を行う発射装置20とを備える。従って、非試験期間におけるスレッド本体11の移動を容易かつ円滑に行うことが可能なスレッド10を用いて試験を行うため、作業者の負担が低減され、自動車衝突模擬試験を容易かつ円滑に行うことができる。
【0043】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。例えば、上記実施形態では、転動装置13がスライダ12の底部に設けられた凹部12bに収容された構成を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
【0044】
図11は、変形例に係るスライダ及び転動装置を示す断面図である。
図11に示すスレッド110においては、スライダ112の底部には凹部が形成されておらず、転動装置113がスライダ112の側部に取り付けられている。転動装置113は、転動部材113a、受部材113b、リフタ113c、及び取付部材113dを有しており、取付部材113dによりスライダ112に取り付けられる。転動装置113は、リフタ113cにより、転動部材113aがスライダ112の底部よりも上方に配置されることで非接触状態となる。また、転動装置113は、リフタ113cにより、転動部材113aがスライダ112の底部よりも開放に配置されることで転動可能状態となる。転動装置113は、スライダ112に対して着脱可能であってもよい。これにより、スライダ112について特段の設計変更を行うことなく、転動装置113を備えた構成とすることができる。
【0045】
また、
図12は、変形例に係る自動車衝突模擬試験装置を示す概略構成図である。上記実施形態では、転動可能状態とするためリフタ13c(113c)により転動部材13a(113a)及び受部材13b(113b)を下方に移動させる場合、移動距離が予め設定される場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
図12に示す自動車衝突模擬試験装置200のように、スレッド210のスレッド本体11に移動距離センサS1が設けられてもよい。移動距離センサS1は、リフタ13cによって移動する転動部材13a及び受部材13bの移動距離を検出し、検出結果を制御装置40に送信する。リフタ制御部42は、移動距離センサS1の検出結果を受信した場合、当該検出結果に基づいてリフタ13cをフィードバック制御することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、モータ装置14aの駆動を停止する際、作業者が入力装置44により停止のタイミングを入力する場合を例に挙げて説明したが、これに限定されない。
図12に示す自動車衝突模擬試験装置200のように、スレッド210のスレッド本体11に位置検出センサS2が設けられてもよい。位置検出センサS2は、モータ装置14aの駆動力によって移動するスレッド本体11の前後方向の位置を検出し、検出結果を制御装置40に送信する。モータ制御部43は、位置検出センサS2の検出結果を受信した場合、当該検出結果に基づいてモータ装置14aの停止位置を制御することができる。これにより、スレッド本体11の移動を自動的に行うことができる。
【0047】
また、上記実施形態では、駆動装置14の駆動源としてモータ装置14aが設けられる構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、他の駆動源が用いられてもよい。また、上記実施形態では、伝達部材14cがレール31、32の内側面31b、32bに対して伝達状態及び非伝達状態を切り換え可能である構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、伝達部材14cがレール31、32のうち内側面31b、32bとは異なる位置に対して伝達状態及び非伝達状態を切り換え可能であってもよい。また、上記実施形態では、駆動装置14がスレッド本体11に設けられる構成を例に挙げて説明したが、これに限定されず、駆動装置がスレッド本体11とは異なる位置に配置されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
10,110,210 スレッド
11 スレッド本体
11a 底面
12,112 スライダ
12a 底面
12b 凹部
13,113 転動装置
13a,113a 転動部材
13b,113b 受部材
13c,113c リフタ
14 駆動装置
14a モータ装置
14b 出力軸
14c 伝達部材
14d スライド機構
15 供試体
16 反力板
20 発射装置
21 装置本体
22 ピストンロッド
30 レール部
31,32 レール
31a,32a 上面
31b,32b 内側面
33 エアパレット
34,35 接続レール
36 ストッパ
40 制御装置
41 発射装置制御部
42 リフタ制御部
43 モータ制御部
44 入力装置
100,200 自動車衝突模擬試験装置
113d 取付部材
P1 試験開始位置
S1 移動距離センサ
S2 位置検出センサ