(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ワニス含浸装置、ワニス含浸方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
H02K15/12 D
(21)【出願番号】P 2018097870
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】河上 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】院南 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 多文
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘幸
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-076984(JP,A)
【文献】特開2007-202354(JP,A)
【文献】特開2007-274803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機のステータに設けられているコイルにワニスを含浸させるワニス含浸装置であって、
回転軸部材と、
前記回転軸部材から径方向外側に伸縮可能に設けられており、前記ステータを内周面側から回転可能に支持するチャックと、
熱膨張性を有する樹脂材料により形成されており、前記ステータを支持する前記チャックの支持面に設けられ、
前記ステータを支持した状態でワニスを含侵させる際の加熱により熱膨張することによって当該支持面と前記ステータの内周面との間の隙間を埋めるように変形する封止部材と、
を備えることを特徴とするワニス含浸装置。
【請求項2】
回転電機のステータに設けられているコイルにワニスを含浸させるワニス含浸装置であって、
回転軸部材と、
前記回転軸部材から径方向外側に伸縮可能に設けられ、前記ステータを内周面側から回転可能に支持するとともに、前記ステータを支持する支持面に、当該支持面と前記ステータの内周面との間の隙間にガスを吹き出す吹き出し孔が形成されているチャックと、
を備えることを特徴とするワニス含浸装置。
【請求項3】
前記チャックの支持面において前記吹き出し孔よりも外側となる外縁部に設けられ、熱膨張性を有する樹脂材料により形成されており、熱膨張することによって当該支持面と前記ステータの内周面との間の隙間を埋めるように変形する封止部材を備えることを特徴とする請求項2記載のワニス含浸装置。
【請求項4】
回転電機のステータに設けられているコイルにワニスを含浸させるワニス含浸方法であって、
前記ステータを内周面側から回転可能に支持する支持面に熱膨張性を有する樹脂材料により形成された封止部材を設けたチャックを用いて前記ステータを支持する工程と、
前記ステータを前記チャックとともに加熱して
前記封止部材を熱膨張させつつ乾燥する工程と、
前記ステータの前記コイルにワニスを滴下する工程と、
を含むことを特徴とするワニス含浸方法。
【請求項5】
回転電機のステータに設けられているコイルにワニスを含浸させるワニス含浸方法であって、
前記ステータを内周面側から回転可能に支持する支持面にガスを吹き出す吹き出し孔を形成したチャックを用いて前記ステータを支持する工程と、
前記吹き出し孔からガスを吹き出した状態で前記ステータの前記コイルにワニスを滴下する工程と、
を含むことを特徴とするワニス含浸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機のステータに設けられているコイルにワニスを含浸させるワニス含浸装置、ワニス含浸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機のステータは、成形したコイルの形が崩れないようにするために、コイルにワニスを含浸させて全体的に固化させている。このワニスの含浸は、一般的に、ステータを内周面側から支持して回転させながらコイルエンドにワニスを滴下することにより行われている。このとき、ステータを支持する支持面にワニスが付着しないようにするために、幾つかの装置や方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、実際の製造現場では、例えばステータの内径が異なる等、複数種類のステータを製造することがある。その場合、ステータを支持するチャックをステータの形状毎に用意することは主にコスト的な面から難しいため、同じチャックを用いてステータを支持することがある。
【0005】
しかしながら、同じチャックを用いて異なる種類のステータを支持する場合、ステータの形状によっては、ステータの内周面とチャックの支持面との間に僅かに隙間ができてしまい、そこにワニスが滞留してしまうおそれがある。
そこで、ステータの内周面とチャックの支持面との間にワニスが滞留することを防止できるワニス含浸装置、ワニス含浸方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の鉄心のワニス含浸装置は、回転軸部材と、回転軸部材から径方向外側に伸縮可能に設けられており、ステータを内周面側から回転可能に支持するチャックと、熱膨張性を有する樹脂材料により形成されており、ステータを支持するチャックの支持面に設けられ、熱膨張することによって当該支持面とステータの内周面との間の隙間を埋めるように変形する封止部材と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態によるワニス含浸装置を模式的に示す図
【
図2】ワニス含浸装置を軸方向から見た状態を模式的に示す図
【
図3】支持面と内周面との間に形成される周方向の隙間を模式的に示す図
【
図4】支持面と内周面との間に形成される軸方向の隙間を模式的に示す図
【
図6】第2実施形態によるワニス含浸装置を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。また、各実施形態において実質的に共通する部位には同一符号を付して説明する。また、説明の簡略化のために、ワニス含浸装置については同一符号を付している。
(第1実施形態)
【0009】
図1に示すように、本実施形態のワニス含浸装置(以下、単に含浸装置1と称する)は、回転軸部材2と、回転軸部材2から径方向外側に伸縮可能に設けられた伸縮部材3の先端側に保持され、ステータ4を内周面4a側から回転可能に支持するチャック5とを備えている。ステータ4は、回転電機に用いられるものであり、薄い電磁鋼板を環状に打ち抜いた鉄心片6(
図3参照)を積層したり、分割鉄心を巻回したりすることによって形成されている。
【0010】
このステータ4には、ステータ4を軸方向に貫通するとともに内周面4aに開口したスロット7(
図3参照)が、周方向に複数形成されている。このスロット7には、予め環状に巻回されたコイル8が挿入され、そのコイル8は、ステータ4の軸方向の両側に突出する部位がまとめられ、いわゆるコイルエンド8aを形成する。なお、
図1では、説明の簡略化のためにコイル8にハッチングを付している。
【0011】
本実施形態の含浸装置1は、
図2に示すように、本実施形態では周方向に等間隔で3つのチャック5を備えている。この含浸装置1は、伸縮部材3を縮めた状態でステータ4の内周側に挿入された後、伸縮部材3を伸ばすことでチャック5を内周面4aに押し当てることで、ステータ4を内周面4a側から支持する構造となっている。なお、チャック5の本数は一例であり、異なる本数であっても勿論よい。
【0012】
また、チャック5の表面、つまりは、ステータ4の内周面4aに対向する面には、封止部材9が設けられている。以下、ステータ4の内周面4aに対向する面を、支持面5aと称する。支持面5aに設けられている封止部材9は、熱膨張性を有する樹脂材料により形成されており、後述するように、ワニス11を実際に含浸させる前の予備乾燥時における温度において熱膨張する特性のものが用いられている。
【0013】
そして、ワニス11を含浸させる際には、含浸装置1を用いてステータ4を内周面4a側から支持した状態で矢印Rにて示すようにステータ4を回転させつつ加熱して予備乾燥した後、供給ノズルからワニス11を軸方向の両側のコイルエンド8aに外周側と内周側とから滴下することにより、コイルエンド8aおよびステータ4内のコイル8に対してワニス11を含浸させている。なお、ステータ4は、予備乾燥時から硬化するまで回転状態が継続される。
【0014】
次に、上記した構成の作用について説明する。
前述のように、実際の製造現場では、例えば内径が異なる等、複数種類のステータ4を製造することがある。その場合、ステータ4の種類によっては、
図2のIII領域を拡大して示す
図3に示すように、ステータ4の内周面4aとチャック5の支持面5aとの間に隙間(S)が形成されることになる。このとき、隙間(S)は、周方向においては、チャック5の両端間に広がった形状になると考えられる。
【0015】
また、
図3の矢印IV方向から見た
図4に示すように、軸方向においては、積層されている各鉄心片6の位置が異なるおそれがある。これは、鉄心片6は高精度に打ち抜かれて形成されているものの、積層時の僅かなずれや溶接時の積層方向への加圧等により、内周側に位置が多少ずれる可能性があるためである。なお、
図4では、説明のために、鉄心片6のずれを意図的に拡大して示している。
【0016】
このように、チャック5の支持面5aは、ステータ4の周方向および軸方向の双方において、ステータ4の内周面4aとの間に隙間(S)を形成するおそれがある。そして、ワニス11の含浸時にこの隙間(S)にワニス11が滞留すると、そのワニス11が固化してステータ4の内周面4aに残存することから、後工程において残存したワニス11を除去する必要がある。
【0017】
そのため、支持面5aの範囲においてワニス11が滞留しないようにすれば、ステータ4の内周面4aに付着したワニス11を除去する後工程が不要になると考えられる。
【0018】
そこで、本実施形態では、
図5に示すように、チャック5の支持面5aの全域に封止部材9を設けている。この封止部材9は、常温ではチャック5の支持面5aに沿った概ね薄板状になっている一方、予備乾燥時に加熱されると、隙間(S)を埋めるように変形する。以下、加熱されたことによって封止部材9が隙間(S)を埋めるように変形する態様を便宜的に熱変形と称する。このとき、封止部材9は、図示は省略するが、軸方向においても各鉄心片6の段差を埋めるように熱変形することになる。なお、
図5では、説明の簡略化のために封止部材9にハッチングを付している。
【0019】
そのため、この含浸装置1を用いれば、チャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)をなくすことが可能となり、スロット7側から流出するワニス11がチャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間に滞留するおそれを抑制できる。このとき、封止部材9が熱変形により若干支持面の外側まで膨張した場合には、スロット7側からではなく内周面4aを伝ってくるワニス11の侵入も防止できる。
【0020】
つまり、封止部材9を設けたチャック5を用いてステータ4を支持し、ステータ4をチャック5とともに加熱することで乾燥する工程と、ステータ4のコイル8にワニス11を滴下する含浸方法を採用することにより、ワニス11を含浸させる前の段階で、ワニス11が滞留するおそれを抑制できる。
【0021】
以上説明した含浸装置1および含浸方法によれば、次のような効果を得ることができる。
含浸装置1は、回転軸部材2と、回転軸部材2から径方向外側に伸縮可能に設けられており、ステータ4を内周面4a側から回転可能に支持するチャック5と、熱膨張性を有する樹脂材料により形成されており、ステータ4を支持するチャック5の支持面5aに設けられ、熱変形することによって当該支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間を埋める封止部材9と、を備えている。
【0022】
これにより、ワニス11を含浸する際の加熱により封止部材9が膨張し、膨張した封止部材9が熱変形することによってチャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)が埋められる。したがって、ワニス11が支持面5aと内周面4aとの間に滞留することを防止できる。
【0023】
また、ワニス11含浸方法は、ステータ4を内周面4a側から回転可能に支持する支持面5aに熱膨張性を有する樹脂材料により形成された封止部材9を設けたチャック5を用いてステータ4を支持する工程と、ステータ4をチャック5とともに加熱することで予備乾燥する工程と、ステータ4のコイル8にワニス11を滴下する工程と、を含んでいる。
【0024】
このような含浸方法によっても、ワニス11を含浸する際の加熱により封止部材9が膨張し、膨張した封止部材9が熱変形することによってチャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)が埋められるため、実際にワニス11を滴下する前の段階で、チャック5の支持面5aと内周面4aとの間にワニス11が滞留するおそれを抑制できる。
【0025】
(第2実施形態)
第2実施形態では、チャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)にワニス11を滞留させないための構成が、第1実施形態と異なっている。
【0026】
第2実施形態の含浸装置1は、
図5に示すように、回転軸部材2の内部、伸縮部材3の内部、およびチャック5の内部を通り、チャック5の支持面5aに設けられている吹き出し孔(
図6参照)からガスを吹き出すためのガス経路20が形成されている。このガス経路20には、図示しない供給装置から例えば空気が供給される。なお、ガスとしては、空気以外を用いることもできる。
【0027】
チャック5の支持面5aには、
図6に示す吹き出し孔21が形成されている。例えば、
図6に長穴構造として示すように、支持面5aには、軸方向に長く延び両端が半円形となっている長穴形状の吹き出し孔21Aが形成されている。この吹き出し孔21Aは、長穴形状以外にも、例えば四角形状や角部を面取りした四角形状等にすることができる。
【0028】
この吹き出し孔21Aは、支持面5aの外縁から周方向においては所定の距離(D1)だけ離間し、軸方向においては所定の距離(D2)だけ離間した領域(H)の内側に形成されている。そして、吹き出し孔21Aからは、ワニス11を含浸するとき、ガスが吹き出される。
【0029】
つまり、本実施形態では、ステータ4を内周面4a側から回転可能に支持する支持面5aにガスを吹き出す吹き出し孔21を形成したチャック5を用いてステータ4を支持し、吹き出し孔21からガスを吹き出した状態でステータ4のコイル8にワニス11を滴下することで、ワニス11の含浸が行われる。
【0030】
この場合、吹き出し孔21Aからのガスによって隙間(S)が充填されることから、そのガスの圧力によって、単に滴下されているワニス11が隙間(S)に侵入することが防止される。また、領域(H)の内側に吹き出し孔21Aを設けているので、隙間(S)を充填することなく支持面5aの外側にガスが逃げてしまうことを抑制できる。
【0031】
また、長穴形状の吹き出し孔21Aの場合、周方向においては支持面5aの中央から外側に向かってガスが吹き出すとともに、軸方向においては概ね均等にガスが吹き出すことから、支持面5aと内周面4aとの間の隙間(S)にガスを効果的に充填させることができる。
【0032】
したがって、チャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)にワニス11が滞留することを防止できる。この場合、吹き出し孔21Aを周方向に複数本設ける構成とすることもできる。
【0033】
また、
図6に丸穴構造として示すように、複数の丸穴形状の吹き出し孔21Bを支持面5aに設ける構成とすることもできる。この場合、支持面5aのほぼ全域において均等にガスが吹き出すことになり、チャック5の支持面5aとステータ4の内周面4aとの間の隙間(S)にワニス11が滞留することを防止できる。
【0034】
また、
図6に中心偏向構造として示すように、支持面5aの中心側、つまりは、周方向および軸方向における中央側からのガスの吹き出し量を相対的に多くする吹き出し孔21Cを設ける構成とすることもできる。この場合、丸穴形状の吹き出し孔21Bの密度を中心側と外縁側とで異ならせることによっても、同様に吹き出し量を偏向させることができる。
【0035】
外縁側のガスの吹き出し量が相対的に多い場合、中心側での圧力が低下して中心側にワニス11が貯留する可能性があるものの、中心側の圧力を相対的に高くすることで、支持面5aの外側にワニス11を言わば追い出すことができ、隙間(S)にワニス11が滞留することを防止できる。
【0036】
また、これら長穴構造、丸穴構造、中心偏向構造の場合、支持面5aの軸方向の両端は外部に開放されているため(
図3参照)、隙間(S)から軸方向外側に向かうガスの流れが形成され、コイル8の内周面4aを伝って軸方向から隙間(S)に侵入するワニス11の流れを防止することもできる。
【0037】
逆に、
図6にパッキン構造として示すように、支持面5aにおいて吹き出し孔21よりも外側となる外縁部を、封止部材9により封止する構成とすることもできる。この場合、
図6のパッキン構造のように支持面5aの四辺を封止するのではなく、例えば周方向の外縁のみを封止する構成や、軸方向の外縁のみを封止する構成とすることもできる。
【0038】
このような封止部材9を設けることにより、吹き出したガスがそのまま支持面5aの範囲外に逃げて隙間(S)を十分な圧力で満たせなくなるような状況を回避でき、隙間(S)にワニス11が滞留することを一層確実に防止できる。この場合、軸方向の外縁においては敢えて一部を封止しない構成とし、コイル8の内周面4aを伝って軸方向から隙間(S)に侵入するワニス11の流れを防止することもできる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は含浸装置(ワニス含浸装置)、2は回転軸部材、3は伸縮部材、4はステータ、4aは内周面、5はチャック、5aは支持面、8はコイル、8aはコイルエンド(コイル)、9は封止部材、11はワニス、21、21A~21Cは吹き出し孔を示す。