(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】モータのステータおよびモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 3/34 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
H02K3/34 B
(21)【出願番号】P 2018104333
(22)【出願日】2018-05-31
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】和田 昭人
【審査官】柏崎 翔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-103859(JP,A)
【文献】実開昭58-145057(JP,U)
【文献】特開2008-289284(JP,A)
【文献】特開平4-210744(JP,A)
【文献】実開昭58-100443(JP,U)
【文献】特開2017-038485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部および当該環状部から内周側に突出する複数の突極部を備えるステータコアと、
前記ステータコアに分布巻きされたコイルと、
前記ステータコアと前記コイルとを絶縁する絶縁紙と、を有し、
前記環状部の内周側には、前記ステータコアの周方向で隣り合う2つの前記突極部と前記環状部とによって複数のスロットが区画されており、
前記コイルは、異なる2つの前記スロットにそれぞれ挿入されて前記ステータコアの軸線方向に延びる第1コイル部分および第2コイル部分と、前記ステータコアの前記軸線方向の第1方向の側を前記周方向に引き回されて前記第1コイル部分と前記第2コイル部分とを接続する第1引き回しコイル部分と、前記ステータコアの前記第1方向とは反対の第2方向の側を前記周方向に引き回されて前記第1コイル部分と前記第2コイル部分とを接続する第2引き回しコイル部分と、を備え、
前記絶縁紙は、前記スロットの内側に位置するスロット挿入部と、前記スロット挿入部の前記第1方向の側で3重に折り重ねられている第1折り重ね部と、を備え、
前記第1折り重ね部は、前記絶縁紙の端縁から前記ステータコアの側に向かって延びる内側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分に前記ステータコアが位置する側から重なる外周側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分に前記ステータコアとは反対側から重なる内周側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分と前記外周側折り重ね部分との間に位置する第1屈曲部と、前記外周側折り重ね部分と前記内周側折り重ね部分との間に位置する第2屈曲部と、を備え、
前記内周側折り重ね部分は、前記スロット挿入部に連続し、
前記第1折り重ね部は、前記ステータコアから前記第1方向に突出しているとともに、前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れて
おり、
前記第1折り重ね部が前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰された状態において、前記外周側折り重ね部分は前記ステータコアの前記第1方向の第1端面に当接しているとともに、前記内側折り重ね部分は前記外周側折り重ね部分と前記内周側折り重ね部分との間に挟まれていることを特徴とするモータのステータ。
【請求項2】
前記第1屈曲部は、前記ステータコアの前記第1方向の第1端面に当接していることを特徴とする請求項1に記載のモータのステータ。
【請求項3】
前記絶縁紙は、前記周方向に延びる中央部分と、前記中央部分の前記周方向の一方側の端から内周側に延びる一方側部分と、前記中央部分の前記周方向の他方側の端から内周側に延びる他方側部分と、前記中央部分と前記一方側部分との間の一方側折れ線と、前記中央部分と前記他方側部分との間の他方側折れ線と、を備え、
前記第1折り重ね部は、前記中央部分、前記一方側部分、および前記他方側部分の前記第1方向の端部に連続して設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータのステータ。
【請求項4】
前記ステータコアと前記コイルとを絶縁する第2の絶縁紙を有し、
前記第2の絶縁紙は、前記スロットの内周側の開口を封鎖する封鎖部分と、前記封鎖部分の前記周方向の一方側の端から外周側に延びて前記絶縁紙の前記一方側部分に前記ステータコアとは反対側から接触する一方側接触部分と、前記封鎖部分の前記周方向の他方側の端から外周側に延びて前記絶縁紙の前記他方側部分に前記ステータコアとは反対側から接触する他方側接触部分とを備えるとともに、前記ステータコアから前記第1方向に突出す突出部を備えており、
前記突出部は、前記封鎖部分、前記一方側接触部分、および前記他方側接触部分の前記第1方向の端部に連続して設けられており、前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れていることを特徴とする請求項3に記載のモータのステータ。
【請求項5】
前記一方側接触部分は、前記一方側折れ線に接し、
前記他方側接触部分は、前記他方側折れ線に接していることを特徴とする請求項4に記載の
モータのステータ。
【請求項6】
前記絶縁紙は、前記スロット挿入部の前記第2方向の側で3重に折り重ねられている第2折り重ね部、を備え、
前記第2折り重ね部は、前記ステータコアから前記第2方向に突出しているとともに、前記第2引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れていることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか一項に記載のモータのステータ。
【請求項7】
請求項1から6のうちのいずれか一項に記載されたステータと、
前記周方向にS極とN極とが交互に配列された磁石部を備え、複数の前記突極部の内周側に回転可能に配置されたロータと、
を備えることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアとステータコアに分布巻きされたコイルとを備えるモータのステータに関する。また、このようなステータとロータとを有するモータに関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアとステータコアに分布巻きされたコイルとを備えるモータのステータは特許文献1に記載されている。ステータコアは、環状部と、環状部から内周側に突出する複数の突極部とを備える。環状部の内周側には、周方向で隣り合う2つの突極部と環状部とによって複数のスロットが区画されている。複数のスロットは周方向に配列されている。コイルは、異なる2つのスロットにそれぞれ挿入されてステータコアの軸線方向に延びる第1コイル部分および第2コイル部分と、ステータコアの軸線方向の一方側で周方向に引き回されて第1コイル部分と第2コイル部分とを接続する第1引き回しコイル部分と、ステータコアの軸線方向の他方側で周方向に引き回されて第1コイル部分と第2コイル部分とを接続する他方側の第2引き回しコイル部分と、を備える。
【0003】
特許文献2には、スロットに挿入されてステータコアとコイルとを絶縁する絶縁紙が記載されている。引用文献2に記載された第1の形態の絶縁紙は、ステータコアの軸線方向における両端に2重に折り重ねられた折り重ね部を備える。また、引用文献2に記載された第2の形態の絶縁紙は、ステータコアの軸線方向における両端に4重に折り重ねられた折り重ね部を備える。絶縁紙がスロットに挿入されたときに、軸線方向の一方側に位置する折り重ね部はスロットから軸線方向の一方側に突出する。また、絶縁紙がスロットに挿入されたときに、軸線方向の他方粟に位置する折り重ね部はスロットから軸線方向の他方側に突出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-229248号公報
【文献】特開昭60-162951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステータコアとステータコアに分布巻きされたコイルとの絶縁に引用文献2に記載の絶縁紙を用いる場合には、絶縁紙の一方側の折り重ね部は、コイルの第1引き回し部分とステータコアの軸線方向の一方側の端面との間において潰された状態となる。また、絶縁紙の他方側の折り重ね部は、コイルの第2引き回し部分とステータコアの他方側の端面との間において潰された状態となる。
【0006】
ここで、絶縁紙の折り重ね部が2重の場合には、折り重ね部が潰れやすい。従って、コイルの引き回しコイル部分がステータコアの端面に接触しやすく、コイルとステータコアとの絶縁が不確実になる可能性がある。
【0007】
一方、絶縁紙の折り重ね部が4重の場合には、折り重ね部が潰れ難い。従って、コイルとステータコアとの接触を回避でき、これらの絶縁を確保することは容易である。しかし、折り重ね部がコイルの引き回しコイル部分とステータコアの端面との間で潰れないので、その分、引き回しコイル部分がステータコアから軸線方向に離間してしまう。従って、絶縁紙の折り重ね部が4重の場合には、ステータのサイズが軸線方向で大きくなるという問題が発生する。
【0008】
ここで、コイルの引き回しコイル部分をステータコアの側に強い力で押し付けて折り重ね部を潰せば、ステータのサイズが軸線方向で大きくなることを抑制できる。しかし、折り重ね部は潰れ難いので、引き回しコイル部分をステータコアの側に押し付ける際に、コイルに断線が発生する可能性がある。
【0009】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、分布巻きされたコイルとステータコアとの絶縁を確保しやすく、軸線方向に大型化することを防止或いは抑制できるモータのステータを提供することにある。また、このようなステータを備えるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のモータのステータは、環状部および当該環状部から内周側に突出する複数の突極部を備えるステータコアと、前記ステータコアに分布巻きされたコイルと、前記ステータコアと前記コイルとを絶縁する絶縁紙と、を有し、前記環状部の内周側には、前記ステータコアの周方向で隣り合う2つの前記突極部と前記環状部とによって複数のスロットが区画されており、前記コイルは、異なる2つの前記スロットにそれぞれ挿入されて前記ステータコアの軸線方向に延びる第1コイル部分および第2コイル部分と、前記ステータコアの前記軸線方向の第1方向の側を前記周方向に引き回されて前記第1コイル部分と前記第2コイル部分とを接続する第1引き回しコイル部分と、前記ステータコアの前記第1方向とは反対の第2方向の側を前記周方向に引き回されて前記第1コイル部分と前記第2コイル部分とを接続する第2引き回しコイル部分と、を備え、
前記絶縁紙は、前記スロットの内側に位置するスロット挿入部と、前記スロット挿入部の前記第1方向の側で3重に折り重ねられている第1折り重ね部と、を備え、前記第1折り重ね部は、前記絶縁紙の端縁から前記ステータコアの側に向かって延びる内側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分に前記ステータコアが位置する側から重なる外周側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分に前記ステータコアとは反対側から重なる内周側折り重ね部分と、前記内側折り重ね部分と前記外周側折り重ね部分との間に位置する第1屈曲部と、前記外周側折り重ね部分と前記内周側折り重ね部分との間に位置する第2屈曲部と、を備え、前記内周側折り重ね部分は、前記スロット挿入部に連続し、前記第1折り重ね部は、前記ステータコアから前記第1方向に突出しているとともに、前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れており、前記第1折り重ね部が前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰された状態において、前記外周側折り重ね部分は前記ステータコアの前記第1方向の第1端面に当接しているとともに、前記内側折り重ね部分は前記外周側折り重ね部分と前記内周側折り重ね部分との間に挟まれていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、絶縁紙の第1折り重ね部は、スロットから第1方向に引き出されて周方向に引き回されたコイルの第1引き回しコイル部分とステータコアとの間で潰れている。従って、第1折り重ね部が第1引き回しコイル部分とステータコアとの間で潰れていない場合と比較して、ステータを軸線方向で小さくすることができる。ここで、第1折り重ね部は3重に折り重ねられているので、第1折り重ね部が2重の場合と比較して、潰された状態でも厚い。従って、コイルの第1引き回しコイル部分がステータコアに接触してしまうことを回避しやすい。よって、コイルとステータコアとの絶縁を確保することが容易となる。また、第1折り重ね部は、3重に折り重ねられているので、第1折り重ね部が4重の場合と比較して、潰れやすい。従って、コイルの第1引き回しコイル部分をステータコアの側に押し付けることにより、第1折り重ね部を潰すことが容易である。また、第1引き回しコイル部分が潰れやすいので、第1引き回しコイル部分をステータコアの側に押し付けたときにコイルに断線が発生することを防止或いは低減できる。
【0012】
本発明において、前記第1屈曲部は、前記ステータコアの前記第1方向の第1端面に当接していることが望ましい。このようにすれば、第1屈曲部とステータコアとの当接によって、スロットに挿入される絶縁紙の軸線方向の位置を規定できる。また、分布巻きされたコイルの第1引き回しコイル部分をステータコアの側に向かって押し付けたときに、第1折り重ね部がスロットの内側に移動してしまうことを防止あるいは抑制できる。
【0013】
本発明において、前記絶縁紙は、前記周方向に延びる中央部分と、前記中央部分の前記周方向の一方側の端から内周側に延びる一方側部分と、前記中央部分の前記周方向の他方側の端から内周側に延びる他方側部分と、前記中央部分と前記一方側部分との間の一方側折れ線と、前記中央部分と前記他方側部分との間の他方側折れ線と、を備え、前記第1折り重ね部は、前記中央部分、前記一方側部分、および前記他方側部分の前記第1方向の端部に連続して設けられているものとすることができる。このようにすれば、絶縁紙の端部分を2回折り返すことにより、絶縁紙に第1折り重ね部を設けることができる。また、絶縁紙が周方向で折り曲げられているので、折り重ね部が開いてしまうことを防止できる。
【0014】
本発明において、前記ステータコアと前記コイルとを絶縁する第2の絶縁紙を有し、前記第2の絶縁紙は、前記スロットの内周側の開口を封鎖する封鎖部分と、前記封鎖部分の前記周方向の一方側の端から外周側に延びて前記絶縁紙の前記一方側部分に前記ステータコアとは反対側から接触する一方側接触部分と、前記封鎖部分の前記周方向の他方側の端から外周側に延びて前記絶縁紙の前記他方側部分に前記ステータコアとは反対側から接触する他方側接触部分とを備えるとともに、前記ステータコアから前記第1方向に突出す突出部を備えており、前記突出部は、前記封鎖部分、前記一方側接触部分、および前記他方側接触部分の前記第1方向の端部に連続して設けられており、前記第1引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れているものとすることができる。このようにすれば、絶縁紙および第2の絶縁紙によりコイルとステータコアとの絶縁を確保しやすい。
【0015】
本発明において、前記一方側接触部分は、前記一方側折れ線に接し、前記他方側接触部分は、前記他方側折れ線に接しているものとすることができる。このようにすれば、絶縁紙の一方側部分と第2の絶縁紙の一方側接触部分との接触面積を確保できる。また、絶縁紙の他方側部分と第2の絶縁紙の他方側接触部分との接触面積を確保できる。従って、絶縁紙と第2の絶縁紙とがスロット内において移動することを防止できる。よって、絶縁紙と第2の絶縁紙によりコイルとステータコアとが接触することを防止しやすい。
【0016】
本発明において、前記絶縁紙は、前記スロット挿入部の前記第2方向の側で3重に折り重ねられている第2折り重ね部、を備え、前記第2折り重ね部は、前記ステータコアから前記第2方向に突出しているとともに、前記第2引き回しコイル部分と前記ステータコアとの間で潰れていることが望ましい。このようにすれば、ステータコアの第2方向に側において、絶縁紙の第2折り重ね部が、コイルの第2引き回しコイル部分とステータコアとの間で潰れている。従って、第2折り重ね部が第2引き回しコイル部分とステータコアとの間で潰れていない場合と比較して、ステータを軸線方向で小さくすることができる。また、第2折り重ね部は3重に折り重ねられているので、第2折り重ね部が2重の場合と比較して、潰された状態でも厚い。従って、コイルの第2引き回しコイル部分がステータコアに接触してしまうことを回避しやすい。よって、コイルとステータコアとの絶縁を確保することが容易となる。また、第2折り重ね部は、3重に折り重ねられているので、第2折り重ね部が4重の場合と比較して、潰れやすい。従って、コイルの第2引き回しコイル部分をステータコアの側に押し付けることにより、第2折り重ね部を潰すことが容易である。また、第2引き回しコイル部分が潰れやすいので、第2引き回しコイル部分をステータコアの側に押し付けたときにコイルに断線が発生することを防止或いは低減できる。
【0017】
次に、本発明のモータは、上記のステータと、前記周方向にS極とN極とが交互に配列された磁石部を備え、複数の前記突極部の内周側に回転可能に配置されたロータと、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明のモータによれば、ステータにおいて、コイルとステータコアとの絶縁を確保し
やすい。また、軸線方向におけるステータの大型化を抑制できるので、モータが軸線方向で大きくなることを防止あるいは抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ステータにおいて、コイルとステータコアとの絶縁を確保できる。また、軸線方向におけるステータの大型化を抑制できる。従って、モータが軸線方向で大きくなることを防止あるいは抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明を適用したモータの概略構成図である。
【
図2】
図1のモータのステータを軸線に沿って切断した断面図である。
【
図5】第1絶縁紙をセットした状態のステータコアの斜視図である。
【
図6】ステータを軸線と直交する平面で切断した断面図である。
【
図7】ステータの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したモータのステータおよび本発明を適用したモータの実施形態を説明する。
【0022】
(モータ)
図1は本発明を適用したモータの概略構成図である。
図2は
図1のモータのステータを軸線に沿って切断した断面図である。
図1、2では、コイルの巻回数などを簡略化して示す。本例のモータ1は、環状のステータ2と、ステータ2の内周側に配置されたロータ3とを備える。ロータ3は所定の軸線L回りに回転可能である。すなわち、ロータ3は、不図示の軸受によって、軸線L回りに回転可能に支持されている。モータ1は3相の直流モータである。
【0023】
ステータ2は、環状部6および当該環状部6から内周側に突出する複数の突極部7を備えるステータコア5と、ステータコア5に分布巻きされた複数本のコイル10とを備える。本例では、ステータコア5は6つの突極部7を備える。また、ステータ2は3本のコイル10を備える。環状部6の内周側には、ステータコア5の周方向で隣り合う2つの突極部7と環状部6とによって6つのスロット8が区画されている。各スロット8は軸線L回りを周方向に等角度間隔で配列されている。なお、以下の説明では、モータ1の軸線Lに沿った方向をX方向(軸線方向)とし、X方向の一方を第1方向X1、他方を第2方向X2とする。また、軸線Lに直交する方向を径方向、軸線L回りを周方向とする。
【0024】
図2に示すように、各コイル10は、異なる2つのスロット8にそれぞれ挿入されてステータコア5のX方向に延びる第1コイル部分11および第2コイル部分12と、ステータコア5の第1方向X1の側を周方向に引き回されて第1コイル部分11と第2コイル部分12とを接続する第1引き回しコイル部分13と、ステータコア5の第2方向X2の側を周方向に引き回されて第1コイル部分11と第2コイル部分12とを接続する第2引き回しコイル部分14とを備える。本例では、第1コイル部分11および第2コイル部分12は、軸線Lを間に挟んで対向する2つのスロット8に挿入されている。
【0025】
また、各スロット8には、コイル10とステータコア5とを絶縁する第1絶縁紙17(絶縁紙)が挿入されている。さらに、各スロット8には、コイル10とステータコア5とを絶縁する第2絶縁紙18(第2の絶縁紙)が挿入されている。
【0026】
ロータ3は、その外周面に、周方向にS極とN極とが交互に配列された環状の磁石部21を備える。磁石部21は、周方向で2極に分極され、N極とS極とが着磁されている。或いは、磁石部21は、周方向で4極に分極され、S極とN極が交互に着磁されている。ここで、ステータコア5は軸線Lと同軸である。すなわち、ステータコア5の軸線はモータ1の軸線Lであり、ステータコア5の各突極部7の内周面と磁石部21とは狭い隙間を開けて対向する。ステータ2の各コイル10への励磁により、ロータ3は軸線L回りに回転する。
【0027】
(第1絶縁紙および第2絶縁紙)
図3はステータ2の分解斜視図である。
図3では、ステータ2と、ステータ2に分布巻きされる一本のコイル10と、一つのスロット8に挿入される第1絶縁紙17および第2絶縁紙18を示す。
図3では、コイル10の巻回数などを簡略化して示す。
図4は第1絶縁紙17の説明図である。
図5は第1絶縁紙17を2つのスロット8に挿入した状態のステータコア5の斜視図である。
図6はステータ2を軸線Lと直交する平面で切断した場合の断面図である。
【0028】
図2および
図3に示すように、各スロット8に挿入される第1絶縁紙17は、スロット8の内側に位置するスロット挿入部30と、スロット挿入部30の第1方向X1の側で3重に折り重ねられている第1折り重ね部31と、スロット挿入部30の第2方向X2の側で3重に折り重ねられている第2折り重ね部32と、を備える。
図4に示すように、第1折り重ね部31は、第1絶縁紙17の端縁からステータコア5の側に向かって第2方向X2に延びる内側折り重ね部分35と、内側折り重ね部分35にステータコア5が位置する側から重なる外周側折り重ね部分36と、内側折り重ね部分35にステータコア5とは反対側から重なる内周側折り重ね部分37と、内側折り重ね部分35と外周側折り重ね部分36との間に位置する第1屈曲部38と、外周側折り重ね部分36と内周側折り重ね部分37との間に位置する第2屈曲部39と、を備える。外周側折り重ね部分36は、スロット8におけるコイル10を巻き回す内側に対して外側に配置される。内周側折り重ね部分37は、スロット8におけるコイル10を巻き回す内側に配置される。内周側折り重ね部分37はスロット挿入部30に連続している。
【0029】
第2折り重ね部32は、第1折り重ね部31と同様の構造を備える。すなわち、第2折り重ね部32は、第1絶縁紙17の端縁からステータコア5の側に向かって延びる内側折り重ね部分35と、内側折り重ね部分35にステータコア5が位置する側から重なる外周側折り重ね部分36と、内側折り重ね部分35にステータコア5とは反対側から重なる内周側折り重ね部分37と、内側折り重ね部分35と外周側折り重ね部分36との間に位置する第1屈曲部38と、外周側折り重ね部分36と内周側折り重ね部分37との間に位置する第2屈曲部39とを備える。内周側折り重ね部分37はスロット挿入部30に連続している。
【0030】
さらに、第1絶縁紙17は、
図3および
図4(a)に示すように、周方向に延びる中央部分40と、中央部分40の周方向の一方側の端から内周側に延びる一方側部分41と、中央部分40の周方向の他方側の端から内周側に延びる他方側部分42と、中央部分40と一方側部分41との間の一方側折れ線43と、中央部分40と他方側部分42との間の他方側折れ線44と、を備える。ここで、第1折り重ね部31は、中央部分40、一方側部分41、および他方側部分42の第1方向X1の端部に連続して設けられている。第2折り重ね部32は、中央部分40、一方側部分41、および他方側部分42の第2方向X2の端部に連続して設けられている。スロット挿入部30は、中央部分40、一方側部分41、および他方側部分42において、第1折り重ね部31と第2折り重ね部32の間に連続して設けられている。
【0031】
図5に示すように、第1絶縁紙17がスロット8に挿入されたときに、第1折り重ね部31はステータコア5から第1方向X1に突出する。より詳細には、第1折り重ね部31は、その第1屈曲部38がステータコア5の第1方向X1の第1端面5aに当接して、第1端面5aに係止された状態となる。また、第1絶縁紙17がスロット8に挿入されたときに、第2折り重ね部32はステータコア5から第2方向X2に突出する。図示は省略するが、第2折り重ね部32は、その第1屈曲部38がステータコア5の第2方向X2の第2端面5bに当接して、第2端面5bに係止された状態となる。
【0032】
次に、第2絶縁紙18は、
図1に示すように、各スロット8内で第1絶縁紙17の内側に挿入される。
図3に示すように、第2絶縁紙18は、スロット8の内周側の開口8aを封鎖する封鎖部分50と、封鎖部分50の周方向の一方側の端から外周側に延びて第1絶縁紙17の一方側部分41にステータコア5とは反対側から接触する一方側接触部分51と、封鎖部分50の周方向の他方側の端から外周側に延びて第1絶縁紙17の他方側部分42にステータコア5とは反対側から接触する他方側接触部分52とを備える。
【0033】
また、第2絶権紙は、
図2に示すように、スロット8の内側に位置する第2スロット挿入部56と、ステータコア5から第1方向X1に突出す第1突出部57と、ステータコア5から第2方向X2に突出する第2突出部58を備える。なお、第1突出部57および第2突出部58において、第2絶縁紙18は折り重ねられてはいない。また、第1突出部57のX方向の寸法は第1絶縁紙17の第1折り重ね部31のX方向の寸法よりも短く、第2突出部58のX方向の寸法は第1絶縁紙17の第2折り重ね部32のX方向の寸法よりも短い。
【0034】
図3に示すように、第1突出部57は、封鎖部分50、一方側接触部分51、および、他方側接触部分52の第1方向X1の端部に連続して設けられている。第2突出部58は、封鎖部分50、一方側接触部分51、および、他方側接触部分52の第2方向X2の端部に連続して設けられている。第2スロット挿入部56は、封鎖部分50、一方側接触部分51、および、他方側接触部分52において、第1突出部57と第2突出部58との間に連続して設けられている。
【0035】
ここで、
図5に示すように、第2絶縁紙18がスロット8に挿入されたときに、一方側接触部分51は、第1絶縁紙17の一方側折れ線43に接する。換言すれば、一方側接触部分51の外周側の端51aは、第1絶縁紙17の一方側折れ線43に達している。また、第2絶縁紙18は、第2絶縁紙18がスロット8に挿入されたときに第1絶縁紙17の他方側折れ線44に接する。換言すれば、他方側接触部分52の外周側の端52aは、第1絶縁紙17の他方側折れ線44に達している。
【0036】
また、
図2に示すように、第1絶縁紙17の第1折り重ね部31および第2絶縁紙18の第1突出部57は、第1引き回しコイル部分13とステータコア5(第1端面5a)との間で潰れている。第1絶縁紙17の第2折り重ね部32および第2絶縁紙18の第2突出部58は、第2引き回しコイル部分14とステータコア5(第2端面5b)との間で潰れている。
【0037】
(ステータの製造方法)
図7はステータ2の製造方法のフローチャートである。ステータ2を製造する際には、まず、一本のコイル10を挿入する2つのスロット8に、それぞれ第1絶縁紙17を挿入する(ステップST1)。
【0038】
ここで、
図4(a)に示すように、第1絶縁紙17では、平坦な第1絶縁紙17の第1方向X1の端部を2回谷折りすることによって、3重の第1折り重ね部31が形成されて
いる。また、第1絶縁紙17では、第1絶縁紙17の第2方向X2の端部分を2回谷折りすることによって、3重の第2折り重ね部32が形成されている。さらに、第1絶縁紙17では、当該第1絶縁紙17の周方向の両側をそれぞれ内周側に折り曲げることにより、中央部分40、一方側部分41、他方側部分42、一方側折れ線43、および他方側折れ線44が形成されている。
【0039】
第1絶縁紙17のスロット8への挿入は、X方向(軸線L方向)から行う。そして、
図5に示すように、第1絶縁紙17の第1折り重ね部31の第1屈曲部38をステータコア5の第1端面5aに係止する。また、第1絶縁紙17の第2折り重ね部32の第1屈曲部38をステータコア5の第2端面5bに係止する。これにより第1絶縁紙17は、X方向で位置決めされた状態でステータコア5に支持される。
【0040】
次に、コイル10を内周側から2つのスロット8に挿入する(ステップST2)。すなわち、コイル10を、スロット8の内周側の開口8aを介してスロット8に挿入する。この結果、
図2に示すように、コイル10には、各スロット8内でX方向に延びる第1コイル部分11および第2コイル部分12が設けられる。
【0041】
その後、第2絶縁紙18をX方向(軸線L方向)からスロット8に挿入する(ステップST3)。より詳細には、コイル10を避けながら、第2絶縁紙18を第1絶縁紙17の内周側(ステータコア5とは反対側)に挿入する。
【0042】
なお、
図3に示すように、第2絶縁紙18には、その周方向の両側をそれぞれ外周側に折り曲げて、封鎖部分50、一方側接触部分51、他方側接触部分52を設けておく。そして、第2絶縁紙18を第1絶縁紙17の内側に挿入する際には、
図6に示すように、第2絶縁紙18の一方側接触部分51の外周の端51aを第1絶縁紙17の一方側折れ線43に当接させる。また、第2絶縁紙18の他方側接触部分52の外周の端52aを第1絶縁紙17の他方側折れ線44に当接させる。
【0043】
次に、コイル10をX方向の両側からステータコア5に向かって押して、仮折りする(ステップST4)。これにより、コイル10においてステータコア5の第1方向X1の側で第1コイル部分11と第2コイル部分12とを接続する第1引き回しコイル部分13は、ステータコア5の第1端面5aに沿うように周方向に引き回される。また、第1絶縁紙17の第1折り重ね部31と第2絶権紙の第1突出部57とは、第1引き回しコイル部分13とステータコア5の第1端面5aとの間で潰された状態となる。同様に、コイル10においてステータコア5の第2方向X2の側で第1コイル部分11と第2コイル部分12とを接続する第2引き回しコイル部分14は、ステータコア5の第2端面5bに沿うように周方向に引き回される。また、第1絶縁紙17の第2折り重ね部32と第2絶権紙の第2突出部58とは、第2引き回しコイル部分14とステータコア5の第2端面5bとの間で潰された状態となる。
【0044】
その後、他の2つのコイル10についても、上記のステップST1からステップST4の動作を行う。すなわち、スロット8に第1絶縁紙17を挿入して、スロット8にコイル10を挿入する。その後に、スロット8に第2絶縁紙18を挿入して、コイル10をX方向の両側からステータコア5に向かって押して、仮折りする。
【0045】
そして、全てのコイル10について仮折りが終了した後に、再び、全てコイル10を上下方向からステータコア5に押し付けて、潰した状態とする(ステップST5)。これにより、ステータ2は完成する。
【0046】
(作用効果)
本例によれば、第1絶縁紙17の第1折り重ね部31は、スロット8から第1方向X1に引き出されて周方向に引き回されたコイル10の第1引き回しコイル部分13とステータコア5との間で潰れている。従って、第1折り重ね部31が第1引き回しコイル部分13とステータコア5との間で潰れていない場合と比較して、ステータ2をX方向で小さくすることができる。ここで、第1折り重ね部31は3重に折り重ねられているので、第1折り重ね部31が2重の場合と比較して、潰された状態でも厚い。従って、コイル10の第1引き回しコイル部分13がステータコア5に接触してしまうことを回避しやすい。よって、コイル10とステータコア5との絶縁を確保することが容易となる。また、第1折り重ね部31は、3重に折り重ねられているので、第1折り重ね部31が4重の場合と比較して、潰れやすい。従って、コイル10の第1引き回しコイル部分13をステータコア5の側に押し付けることにより、第1折り重ね部31を潰すことが容易である。また、第1引き回しコイル部分13が潰れやすいので、第1引き回しコイル部分13をステータコア5の側に押し付けたときにコイル10に断線が発生することを防止或いは低減できる。
【0047】
また、第1絶縁紙17の第2折り重ね部32は、スロット8から第2方向X2に引き出されて周方向に引き回されたコイル10の第2引き回しコイル部分14とステータコア5との間で潰れている。従って、第2折り重ね部32が第2引き回しコイル部分14とステータコア5との間で潰れていない場合と比較して、ステータ2をX方向で小さくすることができる。また、第2折り重ね部32は3重に折り重ねられているので、第2折り重ね部32が2重の場合と比較して、潰された状態でも厚い。従って、コイル10の第2引き回しコイル部分14がステータコア5に接触してしまうことを回避しやすい。よって、コイル10とステータコア5との絶縁を確保することが容易となる。また、第2折り重ね部32は、3重に折り重ねられているので、第2折り重ね部32が4重の場合と比較して、潰れやすい。従って、コイル10の第2引き回しコイル部分14をステータコア5の側に押し付けることにより、第2折り重ね部32を潰すことが容易である。また、第2引き回しコイル部分14が潰れやすいので、第2引き回しコイル部分14をステータコア5の側に押し付けたときにコイル10に断線が発生することを防止或いは低減できる。
【0048】
また、本例では、第1折り重ね部31は、その第1屈曲部38がステータコア5の第1方向X1の第1端面5aに当接している。第2折り重ね部32は、その第1屈曲部38がステータコア5の第2方向X2の第2端面5bに当接している。これにより、スロット8に挿入された第1絶縁紙17のX方向の位置が規定される。
【0049】
また、第1折り重ね部31および第2折り重ね部32のそれぞれにおいて第1屈曲部38がステータコア5に当接している。従って、コイル10の第1引き回しコイル部分13をステータコア5の側に向かって押し付けたときに、第1折り重ね部31がスロット8の内側に移動してしまうことを防止あるいは抑制できる。同様に、コイル10の第2引き回しコイル部分14をステータコア5の側に向かって押し付けたときに、第2折り重ね部32がスロット8の内側に移動してしまうことを防止あるいは抑制できる。
【0050】
さらに、本例では、第1絶縁紙17の第1方向X1の端部分を2回折り返すことにより、第1絶縁紙17に第1折り重ね部31を設けることができる。また、第1絶縁紙17が周方向で折り曲げられているので、第1折り重ね部31が開いてしまうことを防止できる。同様に、第1絶縁紙17の第2方向X2の端部分を2回折り返すことにより、第1絶縁紙17に第2折り重ね部32を設けることができる。また、第1絶縁紙17が周方向で折り曲げられているので、第2折り重ね部32が開いてしまうことを防止できる。
【0051】
また、本例では、ステータコア5とコイル10とを絶縁する第2絶縁紙18を有する。そして、第2絶縁紙18の第1突出部57は、第1引き回しコイル部分13とステータコア5との間で潰れている。第2絶縁紙18の第2突出部58は、第2引き回しコイル部分
14とステータコア5との間で潰れている。従って、第1絶縁紙17および第2絶縁紙18によりコイル10とステータコア5との絶縁を確保しやすい。
【0052】
さらに、第2絶縁紙18の一方側接触部分51は、第1絶縁紙17の一方側折れ線43に接し、他方側接触部分52は、第1絶縁紙17の他方側折れ線44に接する。これにより、第1絶縁紙17の一方側部分41と第2絶縁紙18の一方側接触部分51との接触面積を確保できる。また、第1絶縁紙17の他方側部分42と第2絶縁紙18の他方側接触部分52との接触面積を確保できる。従って、第1絶縁紙17と第2絶縁紙18とがスロット8内において移動することを防止できる。よって、第1絶縁紙17と第2絶縁紙18によりコイル10とステータコア5とが接触することを防止しやすい。
【0053】
また、本例のモータ1は、ステータ2において、コイル10とステータコア5との絶縁を確保しやすい。また、X方向におけるステータ2の大型化を抑制できるので、モータ1がX方向で大きくなることを防止あるいは抑制できる。
【符号の説明】
【0054】
1…モータ、2…ステータ、3…ロータ、5…ステータコア、5a…第1端面、5b…第2端面、6…環状部、7…突極部、8…スロット、8a…開口、10…コイル、11…第1コイル部分、12…第2コイル部分、13…第1引き回しコイル部分、14…第2引き回しコイル部分、17…第1絶縁紙(絶縁紙)、18…第2絶縁紙(第2の絶縁紙)、21…磁石部、30…スロット挿入部、31…第1折り重ね部、32…第2折り重ね部、35…内側折り重ね部分、36…外周側折り重ね部分、37…内周側折り重ね部分、38…第1屈曲部、39…第2屈曲部、40…中央部分、41…一方側部分、42…他方側部分、43…一方側折れ線、44…他方側折れ線、50…封鎖部分、51…一方側接触部分、52…他方側接触部分、56…第2スロット挿入部、57…第1突出部、58…第2突出部、X…軸線方向、X1…第1方向、X2…第2方向