(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】蓄電素子
(51)【国際特許分類】
H01M 6/16 20060101AFI20220804BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20220804BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220804BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20220804BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20220804BHJP
H01M 50/129 20210101ALI20220804BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220804BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220804BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20220804BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20220804BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20220804BHJP
H01G 11/80 20130101ALI20220804BHJP
H01G 11/66 20130101ALI20220804BHJP
【FI】
H01M6/16 C
H01M10/0585
H01M10/052
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/129
H01M4/66 A
H01M4/13
H01M4/134
H01G11/84
H01G11/78
H01G11/80
H01G11/66
(21)【出願番号】P 2018149395
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 隆二
(72)【発明者】
【氏名】平田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】江川 泰昭
(72)【発明者】
【氏名】池山 美紗子
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-125360(JP,U)
【文献】特開2011-134690(JP,A)
【文献】特開2013-105679(JP,A)
【文献】特開昭59-180962(JP,A)
【文献】特開2018-032547(JP,A)
【文献】特開2017-069203(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/04
H01M 6/16
H01M 4/64- 4/84
H01M 50/10-50/198
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の一主面側にヒートシール層が積層されてなるラミネートフィルムからなる外装体内に、平
板状の電極体と不定形状の電解質とが収納された蓄電素子であ
って、
前記外装体は、上下方向で前記ヒートシール層を対面させた状態で積層されたラミネートフィルムの周縁領域が熱溶着されてなり、
前記電極体は、正極集電体の一主面に正極材料が配置された平板状の正極と、平板状のリチウム金属又はリチウム合金からなる負極とが上下方向に積層されてなるとともに、前記周縁領域に囲繞された領域に配置されつつ、最上層と最下層の一方が前記ヒートシール層に熱溶着されており、
前記正極集電体は、オーステナイト系ステンレス鋼からなるとともに、前記電極体の最上層と最下層の前記一方に配置され、
前記外装体内において、前記
正極集電体と対面する前記ラミネートフィルムは、
前記金属箔の一主面に
変性ポリオレフィン系樹脂からなるヒートシール層が接着層を介して積層されてな
る、
ことを特徴とする蓄電素子。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電素子であ
って、前記正極と前記負極とを一つだけ備えたことを特徴とする蓄電素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蓄電素子の製造方法であって、
上下方向で対面するラミネートフィルム間に前記電極体を配置すると共に、当該電極体の配置領域
において前記正極集電体が配置されている側から熱圧着して前記ヒートシール層と前記
正極集電体とを熱溶着させるステップと、
前記上下方向で対面するラミネートフィルムの周縁領域を熱圧着して前記外装体を封止する封止ステップと、
を含むことを特徴とする蓄電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネート型の蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ワンタイムパスワード機能やディスプレイを搭載したICカード、又はタグやトークン(ワンタイムパスワード生成機)などといった、電源を内蔵しながら極めて薄い電子機器(以下、機器とも言う)が普及しつつある。これらの機器の実現には、電源となる蓄電素子(一次電池、二次電池、電気二重層コンデンサーなど)の小型化や薄型化が欠かせない。小型化や薄型化に適した代表的な蓄電素子としては、以下の特許文献1に記載されているラミネート型蓄電素子がある。
【0003】
図1Aに一般的なラミネート型蓄電素子(以下、蓄電素子101とも言う)の外観を示した。また、
図1Bに、
図1Aに示した蓄電素子101の分解斜視図を示した。
図1Aに示すように、蓄電素子101は、平板状の外観形状を有し、ラミネートフィルムからなる扁平な矩形袋状の外装体12内に電極体が密封されている。また、矩形の外装体12の一辺から正極端子板24及び負極端子板28(以下、総称して電極端子板とも言う)が外方に導出されている。
【0004】
次に、蓄電素子101の構成を、
図1Bを参照しつつ説明する。なお、
図1Bでは一部の部材や部位にハッチングを施し、他の部材や部位と区別し易いようにしている。
図1Bに示すように、外装体12は、互いに対面する二枚のラミネートフィルム(113a、113b)の周縁領域14が互いに熱溶着されてなり、外装体12の内部には、電極体2が、図示しない電解液と共に封入されている。
【0005】
ここで、二枚のラミネートフィルム(113a、113b)が対面する方向を上下方向とすると、電極体2は、シート状の正極4と、シート状の負極8とが、セパレーター6を介して上下方向に積層された状態で圧着されたものである。正極4は、金属板や金属箔からなる正極集電体3の一主面に、正極活物質を含む正極材料5が配置されてなる。負極8は、金属板や金属箔などからなる負極集電体7の一主面に、負極活物質を含む負極材料9が配置されてなる。そして、正極4と負極8とは、正極材料5と負極材料9とがセパレーター6を介して対面するように積層されている。正極集電体3、及び負極集電体7には、それぞれ、帯状の正極端子板24、及び帯状の負極端子板28のそれぞれの一端が取り付けられている。そして、この正極端子板24と負極端子板28の他端側が外装体12の一辺から外方に導出されている。
【0006】
なお、蓄電素子101がリチウム一次電池であれば、正極4は、二酸化マンガンなどの正極活物質を含んだスラリー状の正極材料5が正極集電体3の表面に塗工されたものであり、負極8は、負極集電体7がなく、箔状あるいは平板状のリチウム金属やリチウム合金(以下、負極リチウムとも言う)で構成される。そして、その負極リチウムの下面に負極端子板28が取り付けられる。
【0007】
次に、蓄電素子101の外装体12に使用されているラミネートフィルム(113a、113b)の構造について説明する。
図2に、ラミネートフィルム(113a、113b)の断面構造を示した。
図2は、
図1Aのa-a矢視断面に対応する縦断面図である。ラミネートフィルム(113a、113b)は、熱ラミネート加工されたものであり、周知の押し出しラミネート法で作製される。ラミネートフィルム(113a、113b)は、
図2に示したように、アルミ箔やステンレス箔などの金属箔32を基材とし、その金属箔32の一主面に、ポリプロピレンなどの熱溶融性を有する樹脂からなるヒートシール層31が積層され、他方の面にPETなどからなる保護層33が積層されたものである。そして、外装体12は、二枚のラミネートフィルム(113a、113b)が、互いのヒートシール層31同士が対面するように重ね合わせられたのち、周縁領域14同士が熱溶着されることによって袋状に加工されたものである。
【0008】
なお、以下の非特許文献1には、製品として実際に販売されているラミネート型蓄電素子である薄型二酸化マンガンリチウム一次電池の特徴や放電性能などが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】FDK株式会社、”薄型リチウム一次電池”、[online]、[平成30年6月25日検索]、インターネット<URL:http://www.fdk.co.jp/battery/lithium/lithium_thin.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図1A、
図1B、及び
図2に示した一般的なラミネート型蓄電素子101においては、蓄電素子101の平面サイズと厚さとが既定のため、高容量な蓄電素子101を実現するためには、電極体2の平面サイズを、可能な限り外装体12の周縁領域14の内側の領域の面積に近づけるように大きくする必要がある。しかし、電極体2の平面サイズを大きくすると、外装体12の周縁領域14と電極体2の周囲とのの間隔が極めて少なくなる。そのため、外装体12内において電極体2の位置が僅かにずれただけでも電極体2の角(
図2、符号10)が外装体12の内面に当たり、ヒートシール層31に亀裂が生じる可能性がある。
【0012】
外装体12のヒートシール層31に亀裂が生じると、ヒートシール層31によって絶縁されていたラミネートフィルム(113a、113b)の基材である金属箔32と集電体(3,7)とが導通する。このヒートシール層31の亀裂に起因する導通を防止するために、電極体2を絶縁テープで覆い、ラミネートフィルム(113a、113b)と電極体2の集電体(3、7)との間に絶縁テープを介在させる方法も考えられる。しかし、絶縁テープで電極体2を覆えば、蓄電素子101が厚くなり蓄電素子101の薄型化という要求に逆行する。蓄電素子101の厚さを絶縁テープなしの場合と同等に維持しようとすれば、電極体2の厚さを薄くする必要があり、蓄電素子101の高容量化が難しくなる。また、絶縁テープを電極体2に覆うための工程も必要であり、蓄電素子101の製造コストを増大させる要因となる。
【0013】
そこで本発明は、製造工程を増加させることなく外装体の内部における電極体の位置ずれを抑制し、性能を低下させずに高容量化することができるラミネート型の蓄電素子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、 金属箔の一主面側にヒートシール層が積層されてなるラミネートフィルムからなる外装体内に、平板状の電極体と不定形状の電解質とが収納された蓄電素子であって、
前記外装体は、上下方向で前記ヒートシール層を対面させた状態で積層されたラミネートフィルムの周縁領域が熱溶着されてなり、
前記電極体は、正極集電体の一主面に正極材料が配置された平板状の正極と、平板状のリチウム金属又はリチウム合金からなる負極とが上下方向に積層されてなるとともに、前記周縁領域に囲繞された領域に配置されつつ、最上層と最下層の一方が前記ヒートシール層に熱溶着されており、
前記正極集電体は、オーステナイト系ステンレス鋼からなるとともに、前記電極体の最上層と最下層の前記一方に配置され、
前記外装体内において、前記正極集電体と対面する前記ラミネートフィルムは、前記金属箔の一主面に変性ポリオレフィン系樹脂からなるヒートシール層が接着層を介して積層されてなる、
ことを特徴とする蓄電素子である。
【0017】
前記正極と前記負極とを一つだけ備えた蓄電素子とすることもできる。
【0019】
また、上記の製造方法であって、
上下方向で対面するラミネートフィルム間に前記電極体を配置すると共に、当該電極体の配置領域において前記正極集電体が配置されている側から熱圧着して前記ヒートシール層と前記正極集電体とを熱溶着させるステップと、
前記上下方向で対面するラミネートフィルムの周縁領域を熱圧着して前記外装体を封止する封止ステップと、
を含むことを特徴とする蓄電素子の製造方法も本発明の範囲である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、製造工程を増加させることなく外装体の内部における電極体の位置ずれを抑制し、性能を低下させずに高容量化することができるラミネート型の蓄電素子、及びラミネート型の蓄電素子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】一般的なラミネート型蓄電素子101の外観を示す図である。
【
図1B】一般的なラミネート型蓄電素子101の分解斜視図である。
【
図2】一般的なラミネート型蓄電素子101の封止部分の拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施例に係るラミネート型蓄電素子の封止部分の拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施例に係る蓄電素子が備える外装体の上側部分を構成しているラミネートフィルムの縦断面図である。
【
図5A】従来の蓄電素子における外装体の金属箔と電極体との間の導通の発生原理を示す図である。
【
図5B】本発明の実施例に係る蓄電素子における外装体の金属箔と電極体との間の導通の抑制原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ以下で説明する。なお、説明に用いた以下の図面においては、同一又は類似の部分に同一の符号を付すことによって、重複する説明を省略することがある。また、図面によっては、説明の際に不要な符号を省略することがある。
【0023】
===従来の封止構造の問題点===
図1A、
図1B、及び
図2に示した従来の蓄電素子101では、上述したように、電極体2の平面サイズを大きくすると、外装体12内における電極体2の位置が僅かにずれたたけでもラミネートフィルム(113a、113b)のヒートシール層31に亀裂が生じる可能性がある。したがって、外径寸法を維持しつつ蓄電素子101の高容量化を達成するためには、電極体2を極めて高精度で位置合わせして外装体12内に配置する必要がある。例えば、ICカードに組み込まれる蓄電素子101は、平面サイズが27mm×22mmで厚さ0.45mmである。そして、この蓄電素子101では、200μm程度の位置合わせ精度が必要となる。
【0024】
そこで本発明者は、電極体2の最上層に配置されている正極集電体3の上端面にヒートシール層31を熱溶着することによって、外装体12の内部における電極体2の位置を固定することができれば、電極体2の位置ずれを抑止し、ヒートシール層31への亀裂等の機械的損傷の発生を防ぐことができると考えた。そして、本発明者は、このような考察に基づき、外装体12を構成するラミネートフィルム(113a、113b)の最適な構造や、外装体12の内部における電極体2の固定方法などについて鋭意研究を重ね、本発明に想到した。
【0025】
===実施例===
<蓄電素子の構成>
本発明の実施例に係る蓄電素子として、負極に負極リチウムを用いたラミネート型のリチウム一次電池を挙げる。
図3に本発明の実施例に係る蓄電素子1を示した。
図3は、蓄電素子1の縦断面図であり、ここでは封止部分を拡大して示している。
図3に示したように、本発明の実施例に係る蓄電素子1の基本的な構造や構成は、
図1に示した一般的なラミネート型蓄電素子101と同様である。しかし、実施例に係る蓄電素子1は、外装体12が、
図2に示したラミネートフィルム(113a、113b)とは異なる構造のラミネートフィルム(13a、13b)で構成されている。
【0026】
図4に、本発明の実施例に係る蓄電素子1の外装体12において、正極集電体3に接している上方のラミネートフィルム13aの縦断面図を示した。ここで、ラミネートフィルム13aにおいて、保護層33が外方に配置されていることとして内外の各方向を規定すると、
図4に示したように、ラミネートフィルム13aは、従来の蓄電素子101に使用されているラミネートフィルム13aと同様に、基材である金属箔32の外方に保護層33が積層されている。しかし、本実施例の蓄電素子1の外装体12に用いられているラミネートフィルム(以下、実施例のラミネートフィルム13aとも言う)では、周知のドライラミネート法で作製されたラミネートフィルム13aを用いており、金属箔32と最も内側のヒートシール層31との間に接着層34が設けられている。そして、実施例に係る蓄電素子1では、ラミネートフィルム13aのヒートシール層31が、正極集電体3に熱溶着されている。なお、本実施例に係る蓄電素子1では、外装体12を構成する二枚のラミネートフィルム(13a、13b)は、いずれもドライラミネート法で作製されたもの(以下、便宜的にドライラミネート型フィルムとも言う)であるが、少なくとも、正極集電体3に接触する上方のラミネートフィルム13aがドライラミネート型であればよい。すなわち、下方のラミネートフィルム13aについては、従来の熱ラミネート加工されたもの(以下、便宜的に熱ラミネート型フィルムとも言う)であってもよい。
【0027】
ところで、実施例に係る蓄電素子1では、正極集電体3に、オーステナイト系ステンレス鋼(18Cr-8N)を用いている。周知のごとく、オーステナイト系ステンレス鋼は、ヤング率が高い導電体である。すなわち、オーステナイト系ステンレス鋼からなる正極集電体3は、薄くても高い剛性を備え、蓄電素子1の薄型化に寄与している。
【0028】
ところが、一般的に、ステンレス鋼の表面に熱可塑性樹脂を熱溶着することが難しい。そこで、本実施例の蓄電素子1では、ラミネートフィルム(13a、13b)のヒートシール層31が変性ポリオレフィン系樹脂で構成されている。変性ポリオレフィン系樹脂は、ステンレスからなる正極集電体3に対してラミネートフィルム13aを熱溶着させることができ、電極体2を外装体12の内部の所定位置に固定することができる。したがって、実施例に係る蓄電素子1では、電極体2の位置ずれが防止され、ヒートシール層31への接触に伴う亀裂等の機械的損傷が発生し難いものとなっている。そして、蓄電素子1では、外装体12の内面が正極集電体3の上端面に直接熱溶着されているため、外装体12と電極体2とを固定するための絶縁テープ等の固定用部材が不要となる。すなわち、本実施例の蓄電素子1は、外装体12の内部スペースが有効活用され、電極体2の平面サイズを可能な限り大きくすることができると共に、固定用部材やその固定用部材で電極体2を絶縁するための工程に係るコストを低減させることができる。
【0029】
なお、二枚のラミネートフィルム(13a、13b)の周縁領域14を熱溶着させて電極体2を外装体12内に密封する手順、及びラミネートフィルム13aを電極体2の正極集電体3に熱溶着させる手順としては、まず、
図4に示した上方の矩形のラミネートフィルム13aと下方の矩形のラミネートフィルム13bの間に電極体2を配置したのち、二つの矩形のラミネートフィルム(13a、13b)の周縁領域14の三辺を封止する。それによって、一辺が開口する袋状の外装体12が作製される。そして、上方のラミネートフィルム13aの外方から電極体2の収納領域を熱圧着して、正極集電体3の上面にラミネートフィルム13aを熱溶着させる。そして、袋状の外装体12内に電解液を注入した後、外装体12の周縁領域14において開口している一辺を封止して蓄電素子1を完成させる。
【0030】
なお、外装体12の周縁領域14に対する熱圧着の条件と、電極体2を熱圧着するときの条件とは異なっており、本実施例では、周縁領域14を熱溶着させる際には、温度、圧力、及び時間を、それぞれ、180℃、0.1MPa、3secとし、ラミネートフィルム13aと電極体2とを熱溶着させる際には、温度、圧力、及び時間を、それぞれ、160℃、0.1MPa、1secとしている。
【0031】
ところで、熱ラミネート型フィルムを用いた従来の蓄電素子101では、電極体2とラミネートフィルム113aとを熱圧着させる工程において、ラミネートフィルム113aの金属箔32と正極集電体3との間で導通が発生するという問題があった。
図5Aに、従来の蓄電素子101におけるラミネートフィルム113aの金属箔32と電極体2との間の導通の発生原理を示した。
図5Aに示したように、従来の蓄電素子101では、ラミネートフィルム113aの内面に電極体2を熱溶着する際、電極体2に加わる熱や荷重によって正極材料5や正極集電体3の一部が破損すると、その破損によって発生した微細な破片41が外装体12の内面を傷つけ、場合によっては、その破片41がラミネートフィルム113aのヒートシール層31を貫通し金属箔32に接触する。このような場合、電極体2の破片41は導電性を有するため、外装体12の金属箔32と電極体2との間で導通が生じる。また、ラミネートフィルム113aの内面に電極体2を熱溶着する際に、加熱する温度や、加圧する力の強さが一定となるように制御していたとしても、加熱する温度が高かったり、加圧する力が強かったりすると、正極集電体3の上部がヒートシール層31にめり込み、金属箔32と接触して両者間で導通が生じる可能性がある。
【0032】
一方、本実施例に係る蓄電素子1では、ラミネートフィルム13aにドライラミネート型フィルムを用いており、外装体12の金属箔32と電極体2との間の導通の発生を抑制することができるようになっている。
図5Bに、実施例に係る蓄電素子1におけるラミネートフィルム13aの金属箔32と電極体2との間の導通の抑制原理を示した。実施例に係る蓄電素子1では、外装体12に、ヒートシール層31と金属箔32との間に接着層34が介在するラミネートフィルム13aを用いており、電極体2の収納領域を熱圧着する工程において発生した電極体2の破片41がヒートシール層31を貫通しても、接着層34が破片41と金属箔32との接触を阻害する。また、正極集電体3の上部がヒートシール層31にめり込んだとしても、接着層34が正極集電体3と金属箔32との接触を阻害する。すなわち、実施例に係る蓄電素子1では、ラミネートフィルム13aの接着層34がバリア層として機能する。
【0033】
===性能評価===
次に、本発明の実施例に係る蓄電素子1をサンプルとして作製し、そのサンプルにおける外装体12の金属箔32と電極体2との間の導通の抑制効果を評価した。なお、作製したサンプル(以下、実施例のサンプルとも言う)では、ラミネートフィルム13aにおける接着層34の厚さが1μm~3μm程度であり、ラミネートフィルム(13a、13b)を除けば、上記非特許文献1にCF042722Uとして記載されている薄型二酸化マンガンリチウム一次電池と同様の構造、構成、及びサイズを有している。
【0034】
また、比較例のサンプルとして、従来の一般的な蓄電素子1と同様に、熱ラミネート型フィルム(113a、113b)からなる外装体12を備えたリチウム一次電池を作製した。なお、この比較例のサンプルと実施例のサンプルとはラミネートフィルム(13、113)の構造のみが異なっており、いずれのサンプルも、電極体2の収納領域において正極集電体3の上面にラミネートフィルム(13a、113a)のヒートシール層31が熱溶着されている。そして、実施例及び比較例のサンプルについて、それぞれ1000個の個体を用意し、全個体について絶縁検査を行った。具体的には、各サンプルの正極4側のラミネートフィルム(13a、113a)に探針を当て、ラミネートフィルム(13a、113a)と正極端子板24との間に5.0Vの直流電圧を印加し、ラミネートフィルム(13a、113a)の金属箔32と正極端子板24との間の抵抗値を、絶縁抵抗計を用いて測定した。
【0035】
以下の表1に各サンプルに対する絶縁検査の結果を示した。
【0036】
【表1】
表1に示したように、比較例のサンプルでは、製品に対する絶縁検査において不良とされる100MΩ未満の抵抗値を示した個体が12個あった。すなわち、不良率が1.2%であった。一方、実施例のサンプルでは、全ての個体が100MΩ以上の抵抗値を有して全数が良品として判定された。さらに、比較例のサンプルでは、良品として判定されたものの、100MΩ以上500MΩ未満の抵抗値を示した個体が9個あり、500MΩ以上1000MΩ未満の抵抗値を示した個体が12個あった。一方、実施例のサンプルでは、100MΩ以上500MΩ未満の抵抗値を示した個体がなく、500MΩ以上1000MΩ未満の抵抗値を示した個体は3個だけであった。すなわち、1000個中、997個の個体が1000MΩ以上の抵抗値を示し、極めて優れた絶縁性能を有していた。したがって、ドライラミネート型フィルムを外装体12に用いた実施例のサンプルでは、
図5Bに示した原理によって外装体12内に正極4の破片41が存在しても接着層34がバリア層として機能していることが確認できた。
【0037】
===その他の実施例===
なお、上述した実施例についての説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。本発明は、上記実施例の趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【0038】
上記実施例に係る蓄電素子1は、負極8に負極リチウムを用いたリチウム一次電池であり、
図2や
図3に示されている負極集電体7を備えていない構造を有していた。そして、負極リチウムは、ラミネートフィルム13bのヒートシール層31に熱溶着され難い性質を有するため、外装体12は、正極集電体3側に配置されるラミネートフィルム13aが電極体2に熱溶着されていた。もちろん、負極8側に負極集電体(
図1B、符号7)を備えた電極体2であれば、負極8側がラミネートフィルム13bに熱溶着されていてもよい。
【0039】
本発明の実施例に係る蓄電素子1は、ドライラミネート法によって作製されたラミネートフィルム(13a、13b)からなる扁平袋状の外装体12内に、平板状の正極4と平板状の負極8とが上下方向に積層されてなる電極体2が収納されてなる蓄電素子1であれば、リチウム一次電池に限定されない。もちろん、実施例に係る蓄電素子1は、二次電池、電解液に代えてポリマー電解質を備えた電池、全固体電池のように電解液もセパレーター6も備えていない電池であってもよい。
【0040】
上記実施例に係る蓄電素子1において、外装体12を構成しているラミネートフィルム(13a、13b)の接着層34は、ヒートシール層31が破損した際に金属箔32と電極体2とを絶縁することができればよく、接着層34の厚さは、蓄電素子1が組み込まれる機器側の仕様や使用環境にあわせて適宜変更することができる。
【0041】
電極体2の角10が当接することによるヒートシール層31の破損を防ぐために、電極体2の角10が稜部面取り加工されていてもよい。
【0042】
電極体2は、一つの正極4と一つの負極8とをセパレーター6を介して対面させた構成を一組の素電池として、複数組の素電池が直列接続されるように、上下方向に積層されたものであってもよい。そして、その直列接続された複数組の素電池からなる電極体2が、一つの外装体12内に収納されていてもよい。しかし、ICカードなどの厚さが規格によって規定されている電子機器の電源には、普通、上記実施例と同様に、正極4と負極8とを一つずつ備えた「一層型」の蓄電素子1が用いられる。そして、その蓄電素子1の容量を増大させるためには、電極体2の平面サイズを拡大させることが必要となる。したがって、本発明は、一層型のラミネート型蓄電素子に適用されることで、より格別な効果を奏するものとなる。
【符号の説明】
【0043】
1,101 蓄電素子、2 電極体、3 正極集電体、4 正極、
5 正極材料、6 セパレーター、7 負極集電体、8 負極、
9 負極材料、12 外装体、
13a,13b,113a,113b ラミネートフィルム、
14 周縁領域、24 正極端子板、28 負極端子板、
31 ヒートシール層、32 金属箔(基材)、33 表層、34 接着層、
41 破片