(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ロータコア磁石固定用樹脂組成物、及びロータコア
(51)【国際特許分類】
C08L 61/06 20060101AFI20220804BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220804BHJP
H02K 1/2706 20220101ALI20220804BHJP
【FI】
C08L61/06
C08K3/36
H02K1/2706
(21)【出願番号】P 2018206863
(22)【出願日】2018-11-01
【審査請求日】2021-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大介
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-102596(JP,A)
【文献】特開2013-181101(JP,A)
【文献】特開2008-291190(JP,A)
【文献】特開2009-232525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
H02K 1/2706
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータコアに設けられたスロットの内側に磁石を固定するための
ロータコア磁石固定用樹脂組成物であって、
フェノール樹脂と無機フィラーとを含み、
前記フェノール樹脂として
、レゾール型フェノール樹脂
のみを含み、
前記フェノール樹脂と前記無機フィラーとの合計量に対し、前記無機フィラーの含有量が30質量%以上であ
り、
前記無機フィラーの平均粒径は、80μm~200μmである、
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項2】
前記レゾール型フェノール樹脂は、重量平均分子量が1,800~8,500である、請求項
1に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂の、前記無機フィラーに対する質量比が、5/95~70/30である、請求項1
又は2に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機フィラーはシリカである、請求項1~
3の何れか1項に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項5】
粉末状、粒状、顆粒状、又はタブレット状である、請求項1~
4の何れか1項に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項6】
前記
ロータコア磁石固定用樹脂組成物を金型から脱型した直後に測定したスパイラルフローと、同じ
ロータコア磁石固定用樹脂組成物を25℃で2000時間保管した後のスパイラルフローとの変化率が、50%以上150%未満である、請求項1~
5の何れか1項に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~
6の何れか1項に記載の
ロータコア磁石固定用樹脂組成物によって磁石を固定してなるロータコア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータコアに設けられたスロットの内側に磁石を固定するための樹脂組成物、及び当該樹脂組成物によって磁石を固定したロータコアに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車及び電気自動車等に搭載される駆動用モーター等は、そのロータコアの内縁部に磁石を挿入するためのスロット部が設けられている。ロータコアは、それぞれのスロット部に磁石を挿入した後、スロット部と磁石との間に生じる間隙部に樹脂を注入し、当該樹脂を硬化することによって磁石が固定され、封止されている。
【0003】
磁石を固定し、封止するための樹脂材料は、半導体封止材料に近い組成の材料が用いられ、エポキシ樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、エポキシ硬化剤、無機充填剤を主成分とする樹脂材料が広く使用されている。
【0004】
例えば、特許文献1~3には、エポキシ樹脂を主成分とした樹脂組成物であって、高温で長時間使用できる磁石固定用の樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-132802号公報
【文献】特開2013-183627号公報
【文献】特開2013-183629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1~3に記載の樹脂組成物に主成分として含まれるエポキシ樹脂は、硬化温度が高く、硬化反応が終了するまでの時間が長い。このため、特許文献1~3に記載の樹脂組成物は、エポキシ樹脂に硬化促進剤を大量に加えることが必要である。しかしながら、樹脂組成物に硬化促進剤を大量に加えると室温において反応が進行する。このため、特許文献1~3に記載の樹脂組成物は、室温で安定に樹脂組成物を貯蔵することができず、さらには継時的に流動性が低下するという問題がある。また、スロット内部に磁石を固定するためには、エポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物では機械強度が不十分であるという問題がある。
【0007】
本発明は、前記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータコアのスロットに磁石を固定するために用いられる樹脂組成物であり、融解したときにおいて高い流動性を備え、加熱硬化後において高い機械強度を備える、かつ室温で安定に貯蔵することができる樹脂組成物及びその関連技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るロータコア磁石固定用樹脂組成物は、ロータコアに設けられたスロットの内側に磁石を固定するためのロータコア磁石固定用樹脂組成物であって、フェノール樹脂と無機フィラーとを含み、前記フェノール樹脂として、レゾール型フェノール樹脂のみを含み、前記フェノール樹脂と前記無機フィラーとの合計量に対し、前記無機フィラーの含有量が30質量%以上であり、前記無機フィラーの平均粒径は、80μm~200μmである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ロータコアのスロットに磁石を固定するために用いられる樹脂組成物であり、融解したときにおいて高い流動性を備え、加熱硬化後において高い機械強度を備え、かつ室温で安定に貯蔵することができる、新規な樹脂組成物、及びその関連技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)は、本発明の一態様に係る樹脂組成物によって磁石を固定するロータコアの概要を示す上面図であり、(b)は、前記ロータコアにおけるA-A’矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本実施形態に係る磁石固定用樹脂組成物の組成について詳細に説明する。以下、磁石固定用樹脂組成物を単に樹脂組成物とも称する。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0012】
本明細書において、「樹脂組成物」とは、スロットに注入され、固化する前の状態、つまり、加熱により硬化していない状態である樹脂組成物のことを意味する。ここで、「樹脂組成物」とは、粉末状、粒子状及びタブレット状等、その形状については限定されない。また、本明細書において「成形物」とは例えば、粉末状、粒子状、及びタブレット状等に成形された「樹脂組成物」のことを意味する。また、本明細書において、「固定部材」とは「樹脂組成物」(或いは「成形物」)を加熱硬化させて得られた部材を意味する。
【0013】
<樹脂組成物>
本発明の一態様に係る樹脂組成物は、フェノール樹脂と無機フィラーとを含んでいる。
【0014】
これにより、融解したときにおいて高い流動性を備え、加熱硬化後において高い機械強度を備える樹脂組成物を得ることができる。よって、ロータコアに設けられたスロットの内側に磁石を固定するための樹脂組成物として好適に用いることができる。
【0015】
〔フェノール樹脂〕
フェノール樹脂は、樹脂組成物における無機フィラーのバインダーとして機能する。フェノール樹脂は、一般的にフェノール類と、アルデヒド類とを反応させて得られ、合成条件によってレゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂とにわけられる。
【0016】
本明細書において、単に「フェノール樹脂」と記載する場合、当該「フェノール樹脂」は、「レゾール型フェノール樹脂」と「ノボラック型フェノール樹脂」との両方の意味、若しくは、「レゾール型フェノール樹脂」と「ノボラック型フェノール樹脂」とのうち何れか一方の意味を包含する。また、「レゾール樹脂」とは、「レゾール型フェノール樹脂」のことを意味し、「ノボラック樹脂」とは、「ノボラック型フェノール樹脂」のことを意味する。
【0017】
(レゾール型フェノール樹脂)
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物は、フェノール樹脂として少なくともレゾール型フェノール樹脂を含む。樹脂組成物が、フェノール樹脂として少なくともレゾール型フェノール樹脂を含んでいることにより、室温にて貯蔵するときにおける高い安定性を備えた樹脂組成物を得ることができる。また、レゾール型フェノール樹脂を含んでいることにより、加熱硬化することによって、高い機械強度を備えた固定部材を成形できる樹脂組成物を得ることができる。ここで、機械強度とは、典型的には、曲げ強度である。
【0018】
レゾール型フェノール樹脂を合成するために用いられる原料には、フェノール類と、アルデヒド類とを挙げることができ、これらを塩基性触媒、又は2価の金属塩触媒等の存在下において重合させる。
【0019】
フェノール類としては、フェノール、カルダノール、カシューナットシェルリキッドを挙げることができ、その他のフェノール類として、例えば、クレゾール類、キシレノール類、アルキルフェノール類、ビスフェノール類、及び多価フェノール類等を挙げることができる。ここで、クレゾール類には、例えば、o-クレゾール、m-クレゾール、及びp-クレゾール等を挙げることができ、キシレノール類には、例えば、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、及び3,5-キシレノール等を挙げることができる。アルキルフェノール類には、例えば、イソプロピルフェノール、p-イソブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール等を挙げることができる。ビスフェノール類には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及びビスフェノールS等を挙げることができる。多価フェノール類には、例えば、レゾルシン、ピロガロール、及びカテコール等を挙げることができる。これらフェノール類のうち、フェノール、クレゾール類、カルダノール、カシューナットシェルリキッド、及びビスフェノールA等を、フェノール樹脂の原料として用いることがより好ましく、これにより、硬化性と、靭性等の機械的な強度とのバランスに優れたフェノール樹脂を得ることができる。なお、これらフェノール類は、単独で、又は、2種類以上を混合して使用することができる。
【0020】
また、アルデヒド類には、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グリオキザール、ベンズアルデヒド、及びサリチルアルデヒド等を挙げることができ、これらのアルデヒド類のうち、フェノール樹脂の硬化性を高めることができること、及びコスト的な観点から、ホルムアルデヒド、及びパラホルムアルデヒド等を用いることがより好ましい。なお、これらアルデヒド類は、単独で、又は、2種類以上を混合して使用することができる。
【0021】
レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量は、1,800~8,500であることが好ましく、2,000~7,500であることがさらに好ましい。レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が1,800~8,500であることが好ましい理由は以下に示す通りである。
【0022】
1つ目の理由は、樹脂組成物を製造するときにおいて、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が、1,800~8,500範囲内においてより小さい程、製造設備内で樹脂組成物がゲル化することをより好適に防止することができることである。これにより、樹脂組成物及びその成形物を安定的に生産できる。また、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が、1,800~8,500範囲内においてより大きい程、樹脂組成物から成形された成形物がブロッキングすることを好適に防止することができる。
【0023】
2つ目の理由は、製造された樹脂組成物をロータコアのスロットに注入するときにおいて、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が、1,800~8,500範囲内においてより小さい程、プレヒーターや加熱筒、ポットにて予備加熱することで融解した樹脂組成物をロータコアに設けられたスロット内に注入するときにおける樹脂組成物の流動性を高めることができることである。これにより、ポット内部に残留する樹脂組成物の硬化物の量を低減することができる。
【0024】
3つ目の理由は、樹脂組成物をスロット内に注入し、硬化させることで得られた固定部材により磁石を固定した後において、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が、1,800~8,500範囲内においてより大きい程、当該固定部材の耐熱性及び機械強度を高めることができることである。これにより、モーター使用時に発生する振動等による、樹脂組成物の硬化物からなる固定部材の割れを抑制することができるロータコアを得ることができる。
【0025】
樹脂組成物に配合するレゾール型フェノール樹脂の形態は、水溶液、アルコール溶液、及び溶剤を含まないもの何れであってもよいが、無溶剤タイプである固形状のレゾール型フェノール樹脂を用いることが、樹脂組成物から成形された成形物が粘土状となることによりブロッキングすることを好適に防止することができるという観点からより好ましい。
【0026】
また、樹脂組成物に配合するレゾール型フェノール樹脂の形態は、樹脂組成物の成形物をロータコアのスロット部に注入する方法によって適宜選択してもよい。例えば、トランスファー成形に用いられる樹脂組成物を製造する場合、樹脂組成物の流動性を高める観点から、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量は、1,800~8,500の範囲内においてより小さいことが好ましく、射出成型に用いられる樹脂組成物を製造する場合、ブロッキングを抑制できる固体粒状の成形物を得ることができ、それにより射出成形機ホッパーから加熱筒への材料の投入が容易になるという観点から、1,800~8,500の範囲内においてより大きいことが好ましい。
【0027】
(ノボラック型フェノール樹脂)
樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂を含んでいることがより好ましい。
【0028】
樹脂組成物はノボラック型フェノール樹脂を含んでいることにより、当該樹脂組成物を融解したときにおける流動性を高めることができる。また、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを併用することにより、レゾール型フェノール樹脂が有している官能基によってノボラック型フェノール樹脂を硬化させることができる。すなわち、レゾール型フェノール樹脂とノボラック型フェノール樹脂とを併用することによって、樹脂組成物は、レゾール型フェノール樹脂によりもたらされる高い機械強度を備えつつ、ノボラック型フェノール樹脂によりもたらされる融解したときにおける高い流動性を備えることができる。このため、融解した樹脂組成物を、スロット部と、磁石との間隙部に注入する際、より薄い間隙部への注入が可能となる。また、樹脂組成物を加熱硬化して得られる固定部材に高い靱性と、高い機械強度を付与することができる。
【0029】
樹脂組成物が含むノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は、800~7,000であることが好ましく、1,500~6,000であることがさらに好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、800~7,000の範囲内において小さい程、融解した樹脂組成物に高い流動性を付与することができる。また、ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量が、800~7,000の範囲内において大きい程、樹脂組成物を加熱硬化させて得られる固定部材に高い機械強度を付与することができる。
【0030】
ノボラック型フェノール樹脂を合成するために用いられる原料には、フェノール類と、アルデヒド類とを挙げることができる。これら原料を酸触媒等の存在下において重合させることで、ノボラック型フェノール樹脂を生成する。フェノール類、及びアルデヒド類は、レゾール型フェノール樹脂を合成するために用いられるものと同じである。
【0031】
また、ノボラック型フェノール樹脂は、エラストマー変性されたものであってもよい。エラストマー変性されたノボラック型フェノール樹脂におけるエラストマーの構成単位としては、例えば、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、イソプレンゴム、シリコーン樹脂等を含んでなる構成単位を挙げることができ、その他、カルダノール、カシューナッツシェルリキッド、桐油、及び、ロジン等の乾性油をエラストマーの構成単位として用いることができる。これらのうち、エラストマーの構成単位としては、例えば、アクリルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムであることがより好ましい。ノボラック型フェノール樹脂をアクリルゴム、及び/又はアクリロニトリルブタジエンゴムによって変性することにより、当該成形材料から成形される成形物に高い耐熱性と、高い靭性とを付与することができる。
【0032】
(フェノール樹脂の配合比)
レゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂とを併用する場合、レゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂との質量比(レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂)は、95/5~5/95であることが好ましく、90/10~10/90であることがさらに好ましい。レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂(質量比)が、95/5以下であれば樹脂組成物の流動性が高くなる。また、レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂(質量比)が、5/95以上であれば、樹脂組成物を例えば、トランスファー成形において金型から抜型可能となる時間を短くすることができる。また、樹脂組成物をスロット部と、磁石との薄い間隙部に注入した際、硬化させる時間を短くすることができる。さらに、成形物を加熱硬化して得られる固定部材の機械強度を高めることができる。
【0033】
(その他の樹脂)
一態様に係る樹脂組成物は、本発明の効果である、室温にて安定して貯蔵することができるという効果、及び機械強度を損なわない程度の量において、適宜、フェノール樹脂以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。
【0034】
また、その他の樹脂として、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ポリビニルブチラール等のエラストマー等を応力緩和剤として配合してもよい。
【0035】
〔硬化助剤〕
本実施形態に係る樹脂組成物は、フェノール樹脂を硬化させるための硬化助剤を含んでいることが好ましい。フェノール樹脂を硬化させるための硬化助剤は、硬化された固定部材より、硬化助剤が拡散されても、周囲の金属を腐食させることがないという観点、及び、レゾール樹脂の硬化が室温付近で進行せず、室温での保存安定性に優れるという観点より、アルカリ化合物であることが好ましい。好ましくは、アルカリ性の金属酸化物、及びアルカリ性の金属塩が挙げられ、より具体的には、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び酸化マグシウム等を挙げることができる。
【0036】
なお、アミン類は硬化助剤として機能するものの、硬化された固定部材よりこれらアミン類が徐々に放散され、周囲の金属を腐食させるため好ましくない。また、プロトン酸、ルイス酸は硬化助剤として機能するものの、レゾール樹脂の硬化が室温付近でも進行するため、室温での保存安定性の観点から好ましくない。
【0037】
〔無機フィラー〕
樹脂組成物が含む無機フィラーは、公知のものを使用することができる。例えば、シリカ、炭酸カルシウム、タルク、焼成クレー、未焼成クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、炭素繊維等、一般的な樹脂組成物に使用されている無機フィラーを使用することができる。無機フィラーは、1種、または複数種を併用することができる。高湿度条件下であっても膨張せず、体積が一定に保たれるという観点より、無機フィラーはシリカであることが好ましい。
【0038】
シリカの形状としては、特に限定されず、粉砕シリカ、球状シリカ等が挙げられるが、球状シリカであることが好ましい。球状シリカを用いることにより、樹脂組成物の流動性が高く、樹脂組成物製造時、及び成形物の成形時に生じる設備摩耗を低減することができる。
【0039】
また、無機フィラーの表面は、表面処理剤等によって表面処理がされていてもよい。例えば、無機フィラーがシリカの場合、シリカと、シランカップリング剤とを反応させることにより、表面処理を施したシリカを用いてもよい。このように、表面処理がされることで、フェノール樹脂との界面接着強度を向上させることができる。
【0040】
無機フィラーの平均粒径は、1μm~200μmであることが好ましく、10μm~180μmであることがより好ましく、80μm~180μmであることが特に好ましい。無機フィラーの平均粒径が、1μm以上であれば、流動性に優れ、200μm以下であれば、スロットと磁石の間隙が非常に薄い場合でも樹脂組成物成分が均一に注入されることが可能となる。ここで、平均粒径とは、累積(又は頻度)分布におけるメディアン径(D50)のことを指す。
【0041】
樹脂組成物に含まれるフェノール樹脂と、無機フィラーとの配合比は、フェノール樹脂の、無機フィラーに対する質量比(フェノール樹脂/無機フィラー)が、5/95~70/30であることが好ましく、17/83~67/33がより好ましい。フェノール樹脂の、無機フィラーに対する質量比が、5/95以下であれば、樹脂組成物の流動性が高く、70/30以上であれば、成形物の機械強度が高くなる。
【0042】
〔その他のフィラー〕
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、無機フィラーとは別に、木粉、ヤシ殻、籾殻、パルプ、ケナフ、綿糸、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維等の有機フィラーを必要に応じて配合してもよい。
【0043】
〔その他の成分〕
離型剤、着色剤、カップリング剤、応力緩和剤、難燃剤、フィラーの表面処理剤等、一般的な樹脂組成物に配合される成分を含んでいてもよい。着色剤には、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、硫酸バリウム、鉄黒、弁柄等の公知の顔料、又は、例えば、アニリンブラック、アリザニン等の公知の染料を挙げることができる。離型剤には、例えば、合成ポリエチレンワックス、シリコーンワックス、カルナバワックス、モンタン酸ワックス、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アマイド等の公知の離形剤を挙げることができる。難燃剤には、赤リン、リン酸エステル、水酸化アルミニウム等を挙げることができる。また、フィラーの表面処理剤には、カチオニック・アンモニウム塩、及びカップリング剤を挙げることができ、カップリング剤としては、アミノ基、メルカプト基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、ビニル基等の不飽和二重結合を有するカップリング剤を用いることができ、これらの中でも、アミノ基、エポキシ基を有するカップリング剤を用いることがより好ましい。
【0044】
〔樹脂組成物の形状〕
本実施形態に係る樹脂組成物の形態は、特に限定されず、粉末状、粒状、顆粒状、これらを圧縮したタブレット状、液状等が挙げられる。樹脂組成物の成形への利用、輸送、貯蔵等の作業性が容易になるという観点より、粉末状、粒状、顆粒状、及びタブレット状のうち何れか1つであることが好ましい。
【0045】
〔樹脂組成物の製造方法〕
樹脂組成物の製造方法は、フェノール樹脂と、無機フィラーとを混合し、その後、粗砕機にて混合物を粗砕することによって、粉末状及び粒状に成形してもよい。なお、溶剤を含むレゾール型フェノール樹脂を使用する場合、一態様において、樹脂組成物に含まれる溶剤を除去してもよい。
【0046】
フェノール樹脂と無機フィラーとを混合するための混合装置としては、例えば、2軸ロール型の混合装置、1軸又は2軸押出機、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、及び、バンバリーミキサー等を挙げることができる。なお、混合装置における混合のための条件は、装置のスケール、及び、樹脂組成物の混合効率を考慮して適宜設計すればよい。
【0047】
樹脂組成物を粗砕するための粗砕機は、例えば、スクリーン(多孔板)を有するスピードミル等が挙げられる。スクリーンの穴径は特に限定されないが、成形に利用しやすいという観点より、0.1~10.0mmであることが好ましい。
【0048】
樹脂組成物を粗砕した後、粒状、粉状、又は、粒状と、粉状との混合状樹脂組成物を得ることができる。これにより、混合物を粒粗砕し、例えば、タブレット状に成形してもよい。
【0049】
粗砕後の粒及び粉混合状の樹脂組成物を、フェノール樹脂の融点以上の温度であり、硬化が進まない温度以下の温度に樹脂組成物を加熱しながら撹拌する。フェノール樹脂を融解し、当該フェノール樹脂成分によって、無機フィラーを結着させて、顆粒状にしてもよい。
【0050】
また、金型を用いることによって、タブレット状等に成形してもよい。これにより、ロータコアへの適用、貯蔵等の作業性が容易になる。
【0051】
樹脂組成物の混合、溶剤の除去、樹脂組成物の破砕、造粒若しくはタブレットへの成形は、いずれも、フェノール樹脂が硬化しない程度の温度にて行なうことが好ましいことは言うまでもない。
【0052】
〔樹脂組成物の物性〕
以下に、本実施形態に係る樹脂組成物及びその成形物の物性について説明する。
【0053】
(薄肉流動性)
本実施形態に係る樹脂組成物は、融解したときにおける薄肉流動性に優れる。樹脂組成物の薄肉流動性について説明する。トランスファーモールド装置として、トランスファーモールディングプレスTFP12-16(藤和精機製12トン)を用いる。トランスファーモールド装置にセットした、厚さ0.10mm、幅5.00mm、長さ70mmの薄肉直線状の流路を持ったトランスファー成形用金型を175℃にして、薄片状の樹脂組成物を得る。この薄片状の樹脂組成物が脱型された直後の時点を「製造直後」として規定する。
【0054】
樹脂組成物10.0gを装置のポットに投入し、直ちにプランジャー圧力2.9MPa、又は5.9MPaにて加圧する。加圧開始から120秒後に金型から樹脂組成物を脱型し、その際の薄片状樹脂組成物の長さがプランジャー圧力2.9MPaでも、5.9MPaでも、2.5cm以上であることが好ましい。
【0055】
(経時変化による材料流動性:スパイラルフロー保持率)
トランスファーモールド装置として、トランスファーモールディングプレスTFP12-16を用いる。トランスファーモールド装置にセットした、EIMS T901に準拠したスパイラルフロー測定用金型を175℃にする。樹脂組成物20.0gを装置のポットに投入し、直ちにプランジャー圧力2.9MPaにて加圧する。加圧開始から120秒後に金型から樹脂組成物を脱型し、その際のスパイラル状樹脂組成物の長さが20.0cm以上であることが好ましい。
【0056】
製造直後のスパイラル状樹脂組成物の長さを20.0cm位以上に調整する具体的な方法としては、例えば、以下の(1)~(4)の方法が挙げられる。
【0057】
(1)測定時の金型温度において、樹脂組成物の溶融粘度が低くなるよう、重量平均分子量の小さいレゾール型フェノール樹脂を使用する方法。
【0058】
(2)測定時の金型温度において、樹脂組成物の溶融粘度が低くなるよう、重量平均分子量の小さいノボラック型フェノール樹脂を使用する方法。
【0059】
(3)レゾール型フェノール樹脂/ノボラック型フェノール樹脂の質量比を小さくし、樹脂組成物中のフェノール樹脂成分のゲル化時間を長くする方法。
【0060】
(4)樹脂組成物に配合する無機フィラーの配合比を少なくし、樹脂組成物の溶融粘度を低くする方法。
これら(1)~(4)の中から1種の方法を単独で用いてもよく、又は、複数の方法を併用してもよい。
【0061】
また、スパイラル状樹脂組成物を保管温度5℃、及び、25℃における2688時間(16週間)後のスパイラルフロー(流動性)をさらに測定したときに、下記(式1)に従って算出したスパイラルフロー保持率の値が50~150%の範囲であることが好ましい。これによれば、低温(5℃程度)にて保存せずとも、室温(25℃程度)において樹脂組成物を保管することができる。スパイラルフロー保持率とは、樹脂組成物の流動性の値に対し、所定温度で、所定時間保管した後の流動性の値の比率のことである。
スパイラルフロー保持率(%)=100×(X2)/(X1)・・・(式1)
ここで、(X1)は樹脂組成物のスパイラルフロー測定値であり、(X2)は樹脂組成物保管温度5℃、又は、25℃における規定時間後の樹脂組成物のスパイラルフローの値を示す。
【0062】
(曲げ強度)
樹脂組成物から製造される固定部材の好ましい曲げ強度について説明する。JIS K6911に準じ、樹脂組成物をトランスファー成形にて、金型温度175℃で3分間成形することにより、長さ100mm、幅10mm、厚さ4mmの曲げ強度測定用試験片(成形物)を作製する。作製した試験片を、175℃で4時間熱処理することで硬化させ、室温まで冷却後、ストログラフVC10-C(東洋精機製)によって測定したときの曲げ強度の値が80MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがさらに好ましい。曲げ強度の値が80MPa以上であれば、磁石固定用に用いる成形物として十分の機械強度を備えているといえる。
【0063】
(耐ATF試験:曲げ強度、曲げ強度保持率)
ATF(オートマチックトランスミッションフルード)に浸漬した後の固定部材の曲げ強度について説明する。本実施形態に係る固定部材は、(曲げ強度)と同じ方法で作製した試験片を150℃のATF中に2000時間浸漬した後の曲げ強度保持率が90%以上の値であることが好ましい。曲げ強度保持率は、下記(式2)に従って算出する。
曲げ強度保持率(%)=100×(S2)/(S1)・・・(式2)
ここで、(S1)はATF浸漬前の曲げ強度、(S2)は150℃のATFに2000時間浸漬後の曲げ強度である。曲げ強度は、(曲げ強度)と同じ方法で測定する。
【0064】
ここで、使用するATFは、一般的に使用されているものであれば特に限定されず、基油に各種添加剤を含む。基油は、鉱油系基油、合成油系基油、またはこれらの混合物であってよい。添加剤成分としては、粘度調整剤、摩擦調整剤等が挙げられる。
【0065】
(耐ATF試験:重量変化率、体積変化率)
また、上述の(曲げ強度)と同じ方法で作製した試験片についてATF浸漬前の試験片の重量(W1)及び体積(V1)と、ATF浸漬後の試験片の重量(W2)及び体積(V2)とを測定し、下記(式3)、及び(式4)に従い重量変化率と、体積変化率とを求める。ATFに浸漬させる時間は、例えば、500時間、1000時間、及び、2000時間である。それぞれの時間浸漬後の試験片の重量変化率は、-1.00~1.00%であることが好ましく、-0.75~0.75%であることがより好ましく、-0.5~0.5%であることが特に好ましい。また、それぞれの時間浸漬後の試験片の体積変化率は-1.00~1.50%であることが好ましく、-0.75~1.00%であることがより好ましく、-0.50~0.50%であることが特に好ましい。
重量変化率(%)=100×(W2-W1)/W1・・・(式3)
耐ATF体積変化率(%)=100×(V2-V1)/V1・・・(式4)
<ロータコア>
本発明の一実施形態に係る樹脂組成物によって、磁石を固定したロータコアも発明の範疇である。
【0066】
樹脂組成物による磁石の固定は、スロット部と、磁石との間隙部へ樹脂組成物を注入した後、硬化することにより行われる。樹脂組成物を硬化させるときにおける固定部材の成形方法としては、圧縮成形、トランスファー成形、射出成型、及び押出成形等の公知の方法によって成形物を成形すればよい。
【0067】
樹脂組成物が充填されるロータコアの一例について、
図1を用いて説明する。
【0068】
図1の(a)は、本発明の一態様に係る樹脂組成物によって磁石を固定するロータコア110の概要を示す上面図であり、
図1の(b)は、前記ロータコア110におけるA-A’矢視断面図である。
図1の(a)に示すように、ロータ100は、ロータコア110と、ロータコアの内周縁部に設けられたスロット部130と、スロット部130に挿入された磁石120と、を備えている。
図1の(a)に示されているように、ロータコア110は、A点を中心点とするドーナツ状の円盤形状をしている。また、
図1の(b)に示されているように、ロータコア110は、複数の電磁鋼板112を積層するようにして構成されている。ロータ100は、破線で示すエンドローラを装着し、シャフト(ロータ)を送入することによって、例えば、ハイブリッド車及び電気自動車等に搭載される駆動用モーターとして利用される。本発明の一態様に係る樹脂組成物は、スロット部130に挿入された磁石120を固定するために、スロット部130の内壁と、磁石120との間隙部に注入され、硬化される。ここで、ロータコア110は、一態様に係る樹脂組成物によって形成されているため、機械強度、特に曲げ強度が高められている。このため、駆動用モーターの耐久性を高めることができる。よって、一態様に係る樹脂組成物を用いて製造されたロータコアも、本発明の範疇である。
【0069】
また、本実施形態に係る樹脂組成物は、応用として、コイル封止、電気部品、機械部品、民生部品等に使用することができる。
【0070】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0071】
参考例1~12、14、15及び実施例13並びに比較例1及び2の樹脂組成物(磁石固定用樹脂組成物)を作製し、次いで、各樹脂組成物の薄肉流動性、及び各樹脂組成物を硬化した成形物の曲げ強度の評価を行った。
【0072】
〔樹脂組成物の作製〕
参考例1~12、14、15及び実施例13並びに比較例1及び2に用いた各材料の詳細は、以下に示す通りである。
≪レゾール型フェノール樹脂≫
・レゾール型フェノール樹脂PS-4122B(レゾール型固形フェノール樹脂、Mw=6,900、固形分100%、群栄化学工業社製)
・レゾール型フェノール樹脂PL-2211(メタノール溶性レゾール型フェノール樹脂、Mw=2,120、固形分60%、群栄化学工業社製)
・レゾール型フェノール樹脂PL-3224(メタノール溶性レゾール型フェノール樹脂、Mw=800、固形分70%、群栄化学工業社製)
≪ノボラック型フェノール樹脂≫
・ノボラック型フェノール樹脂PS-1317(ノボラック型フェノール樹脂、Mw=6,560、固形分100%、群栄化学工業社製)
・ノボラック型フェノール樹脂PSK-2320(ノボラック型フェノール樹脂、Mw=5,650、固形分100%、群栄化学工業社製)
・ノボラック型フェノール樹脂PSM-4324(ノボラック型フェノール樹脂、Mw=1,690、固形分100%、水酸基等量107、群栄化学工業社製)
・ノボラック型フェノール樹脂Nd100(ノボラック型フェノール樹脂、Mw=1,140、固形分100%、群栄化学工業社製)
・ノボラック型フェノール樹脂PSM-4271(ノボラック型フェノール樹脂、Mw=870、固形分100%)
≪その他の樹脂≫
・エポキシ樹脂EOCN-1020-70(オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ等量199、Mw=1,900、固形分100%)
≪無機フィラー≫
・シリカ:球状溶融シリカRS-30、平均粒径80μm、東海ミネラル社製
≪その他の成分≫
・硬化触媒:水酸化カルシウム(有恒鉱業社製)(レゾール型フェノール樹脂PS-4122Bの硬化触媒)
・硬化促進剤:トリフェニルホスフィン(北興化学工業社製)(エポキシ樹脂EOCN-1020-70の硬化促進剤)
・着色剤(カーボンブラック♯40、三菱化学社製)
・応力緩和剤(KR-272、信越化学工業社製)
・離型剤(ステアリン酸亜鉛:アデカ社製)
・離型剤(カルナバワックス♯1:日本ワックス社製)
・シランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン:KBE-903、信越化学工業社製)
・シランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン:KBE-403、信越化学工業社製)。
≪樹脂固形分試験方法≫
樹脂組成物に含まれる各フェノール樹脂の質量は、溶剤を含んでいないフェノール樹脂自身の質量を固形分の質量として採用する。フェノール樹脂における固形分の質量を算出する方法について説明する。予め恒量した内径50mm、高さ15mmのアルミシャーレを精秤後、対象樹脂1.5gを精秤し、135℃中の恒温器中に60分間熱処理した後、デシケータ中で放冷した。この質量を測定し、下記(式5)に従い樹脂固形分を算出した。
樹脂固形分(%)=100×(M2-M0)/(M1)・・・(式5)
ここに(M0)は恒量済のアルミシャーレの質量、(M1)はアルミシャーレ中に入れた樹脂質量、(M2)は熱処理後のアルミシャーレと、樹脂成分とを合わせた質量を表す。
【0073】
(参考例1)
まず、参考例1の樹脂組成物として、以下の表1に示す組成に基づき、レゾール型フェノール樹脂PS-4122B、ノボラック型フェノール樹脂PSM-4324、レゾール型フェノール樹脂PS-4122Bの硬化触媒として水酸化カルシウム、無機フィラーとしてシリカ、その他の原料として、ステアリン酸亜鉛、カーボンブラック、及び3-アミノプロピルトリメトキシシランを、ビニール袋に投入し、振とうしてプリミックスを行うことにより、混合物を得た。混合物を、95℃にした2軸ロールで5分間混練し、室温まで冷却した後、4mm径のスクリーンを付した粗砕機にて粗砕し、粒及び粉の混合状の樹脂組成物を得た。
【0074】
(参考例2)
参考例1の樹脂組成物から、分子量の異なるレゾール型フェノール樹脂PL-2211に変えて、参考例2の樹脂組成物を作製した。
【0075】
(参考例3)
参考例1の樹脂組成物から、分子量の異なるノボラック型フェノール樹脂PSK-2320に変えて、参考例3の樹脂組成物を作製した。
【0076】
(参考例4)
参考例3の樹脂組成物から、分子量の異なるノボラック型フェノール樹脂Nd100に変えて、参考例4の樹脂組成物を作製した。
【0077】
(参考例5)
参考例4の樹脂組成物から、レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂の配合比率を変えて、参考例5の樹脂組成物を作製した。
【0078】
(参考例6)
参考例5の樹脂組成物から、分子量の異なるノボラック型フェノール樹脂PSM-4324に変えて、参考例6の樹脂組成物を作製した。
【0079】
(参考例7)
参考例4の樹脂組成物から、無機フィラーの配合比率を大きくして、参考例7の樹脂組成物を作製した。
【0080】
(参考例8)
参考例3の樹脂組成物から、無機フィラーの配合比率を小さくして、参考例8の樹脂組成物を作製した。
【0081】
(参考例9)
参考例4の樹脂組成物に、応力緩和剤を加えて、参考例9の樹脂組成物を作製した。
【0082】
(参考例10)
参考例1の樹脂組成物から、分子量の異なるレゾール型フェノール樹脂PL-3224に変えて、参考例10の樹脂組成物を作製した。
【0083】
(参考例11)
参考例1の樹脂組成物から、分子量の異なるノボラック型フェノール樹脂PSM-4271に変えて、参考例11の樹脂組成物を作製した。
【0084】
(参考例12)
参考例1の樹脂組成物から、分子量の異なるノボラック型フェノール樹脂PS-1317に変えて、参考例12の樹脂組成物を作製した。
【0085】
(実施例13)
参考例1の樹脂組成物から、ノボラック型フェノール樹脂を除き、実施例13の樹脂組成物を作製した。
【0086】
(参考例14)
参考例1の樹脂組成物から、レゾール型フェノール樹脂及びノボラック型フェノール樹脂の配合比率を変えて、参考例14の樹脂組成物を作製した。
【0087】
(参考例15)
参考例1の樹脂組成物から、無機フィラーの配合比率を大きくして、参考例15の樹脂組成物を作製した。
【0088】
(比較例1)
以下の表1に示す組成に基づき、ノボラック型フェノール樹脂PSM-4324、エポキシ樹脂EOCN-1020-70、シリカ、カルナバワックス、カーボンブラック、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランを、ビニール袋に投入し、振とうしてプリミックスを行い、混合物を得た。混合物を95℃にした2軸ロールで5分間混練した。2軸ロール上にある製造途中のシート状の樹脂組成物にエポキシ樹脂EOCN-1020-70の硬化促進剤としてトリフェニルホスフィンを投入し、95℃にした2軸ロールでさらに5分間混練し、室温まで冷却後、4mm径のスクリーンを備えた粗砕機にて粗砕し、粒及び粉の混合状の樹脂組成物を得た。
【0089】
(比較例2)
参考例1の樹脂組成物から、無機フィラーの配合比率を小さくして、比較例2の樹脂組成物を作製した。
【表1】
次いで、上記表1に示された
参考例1~
12、14、15
及び実施例13並びに比較例1及び2の樹脂組成物の物性を評価した。
【0090】
〔フェノール樹脂分子量〕
フェノール樹脂の分子量(Mw)は、下記のGPC測定装置及びカラムを使用し、標準物質にポリスチレンを用いて測定した。
GPC測定装置:東ソー社製HPLC8320GPC
カラム:TSKgel G3000HXL+G2000HKL+G2000HKL(東ソー社製)
〔薄肉流動性〕
各参考例、実施例及び各比較例の樹脂組成物について、12トントランスファーモールディングプレスTFP12-16(藤和精機製)にセットした厚さ0.10mm、幅5.00mm、長さ70mmの流路を備えたトランスファー成形用金型を175℃にし、薄片状の樹脂組成物を得た。樹脂組成物10.0gを装置のポットに投入後、プランジャー圧力2.9MPa、又は、5.9MPaにて加圧する。加圧開始から120秒後に金型から樹脂組成物を脱型し、このときの薄片状樹脂組成物の長さを読み取り、この値を薄肉流動性の値とした。
【0091】
〔経時変化による流動性保持率:スパイラルフロー保持率〕
12トントランスファーモールディングプレスTFP12-16(藤和精機製)にセットしたEIMS T901に準拠したスパイラルフロー測定用金型を175℃にし、20.0gの樹脂組成物を装置のポットに投入後、プランジャー圧力2.9MPaにて加圧する。加圧開始から120秒後に金型から樹脂組成物を脱型し、このときのスパイラル状樹脂組成物の長さを読み取り、この値をスパイラルフローの値とした。
【0092】
スパイラルフローについて、樹脂組成物製造後、及び、樹脂組成物保管温度5℃、25℃における336時間後、672時間後、1344時間後、2016時間後、2688時間後のスパイラルフローの値を測定し、下記(式1)に従ってスパイラルフロー保持率を算出した。
スパイラルフロー保持率(%)=100×(X2)/(X1)・・・(式1)
ここで、(X1)は樹脂組成物のスパイラルフロー測定値であり、(X2)は樹脂組成物保管温度5℃、又は、25℃における規定時間後の樹脂組成物のスパイラルフローの値を示す。
【0093】
〔曲げ強度〕
JIS K 6911(1995年版)に準じ、各参考例、実施例及び各比較例の樹脂組成物をトランスファー成形にて175℃で3分間成形することにより、長さ100mm、幅10mm、厚さ4mmの曲げ強度測定用試験片(成形物)を成形した。この試験片を175℃で4時間熱処理し、室温まで冷却後、ストログラフV10-C(東洋精機製)を使用して曲げ強度を測定した。曲げ強度測定時のクロスヘッドスピードは、2mm/分とした。
【0094】
〔曲げ強度(耐ATF試験)〕
上述した〔曲げ強度〕と同じ方法で作製した曲げ強度測定用試験片について、試験片を150℃のATF(トヨタ自動車製、オートフルードタイプT-IV)中に2000時間浸漬した後の曲げ強度を測定した。
【0095】
〔曲げ強度(耐ATF試験)〕
150℃にしたATFに2000時間浸漬後の試験片について、下記(式2)に従い、曲げ強度保持率を算出した。
曲げ強度保持率(%)=100×(S2)/(S1)・・・(式2)
ここで、(S1)はATF浸漬前の曲げ強度、(S2)は150℃のATFに2000時間浸漬後の曲げ強度である。
【0096】
また、上述した〔曲げ強度〕と同じ方法で作製した曲げ強度測定用試験片について、シリカゲルを入れたデシケータ内で24時間放置後の重量(W1)、体積(V1)を測定した。この試験片を150℃としたATFに浸漬させ、500時間、1000時間、及び、2000時間経過ごとに重量(W2)、体積(V2)を測定し、下記(式3)、及び(式4)に従い重量変化率と、体積変化率とを測定した。
耐ATF重量変化率(%)=100×(W2-W1)/W1・・・(式3)
耐ATF体積変化率(%)=100×(V2-V1)/V1・・・(式4)
以下の表2に、
参考例1~
12、14、15
及び実施例13並びに比較例1、2のそれぞれの成形物の薄肉流動性、経時変化によるスパイラルフロー保持率、曲げ強度、及び、耐ATF試験(曲げ強度、曲げ強度保持率、重量変化率、体積変化率)の結果を示した。
【表2】
表1及び表2に示す結果より、以下のことが確認できる。
【0097】
参考例1、及び比較例2を比較すると、参考例1では無機フィラーの含有量が、樹脂組成物全体の78.66質量%であるのに対し、比較例2では23.94質量%である。その結果、参考例1と、比較例2とでは、成形物の曲げ強度において大きな違いが現れた。参考例1では、成形物の曲げ強度が184MPaであったのに対し、比較例2では、58MPaであり、無機フィラーを多く含む参考例1の成形物の方が曲げ強度が高いことが確認できた。
【0098】
また、参考例8、及び比較例2を比較すると、参考例8では無機フィラーの含有量が、樹脂組成物の32.26質量%であるのに対し、比較例2では23.94質量%である。その結果、参考例8では、成形物の曲げ強度が115MPaであり、成形物として好ましい曲げ強度である110MPより高い値であったのに対し、比較例2では、58MPaであった。よって、無機フィラーの含有量が、樹脂組成物の30質量%以上であることにより、曲げ強度が高い成形物を得ることができることを確認した。
【0099】
参考例1、2、10の成形物の比較により、レゾール型フェノール樹脂の重量平均分子量が1,800~8,500の範囲にある、参考例1、及び2の成形物が、参考例10の成形物より曲げ強度が高いことが確認できた。参考例1、及び2の成形物の曲げ強度は110MPa以上であるのに対し、参考例10の成形物の曲げ強度は110MPa未満であった。
【0100】
参考例1及び実施例13の樹脂組成物の比較により、ノボラック型フェノール樹脂をさらに含む参考例1の樹脂組成物は、薄肉流動性、及び経時変化によるスパイラルフロー保持率が、レゾール型フェノール樹脂のみを含む実施例13の成形物よりも高いことが確認できた。
【0101】
参考例3及び4の樹脂組成物の比較により、重量平均分子量が小さいノボラック型フェノール樹脂を含む参考例4の樹脂組成物は、薄肉流動性、及び経時変化によるスパイラルフロー保持率が、参考例3の樹脂組成物よりも高いことが確認できた。
【0102】
参考例5、6、14の成形物の比較により、レゾール型フェノール樹脂の、ノボラック型樹脂に対する質量比が大きいほど、成形物曲げ強度、及び耐ATF試験曲げ強度が高く、耐ATF試験曲げ強度保持率が高く、耐ATF試験重量変化率が低いことが確認できた。
【0103】
参考例7、8、15、及び比較例2の樹脂組成物の比較により、フェノール樹脂の、無機フィラーに対する質量比が多いほど、薄肉流動性、及び製造直後の流動性が高いことが確認できた。比較例2の樹脂組成物のように、フェノール樹脂の、無機フィラーに対する質量比が多すぎると(フェノール樹脂/無機フィラー=75/25)、成形物の曲げ強度、耐ATF試験の曲げ強度、及び耐ATF試験の曲げ強度保持率が低くなることが確認できた。
【0104】
また、参考例1~12、14、15及び実施例13並びに比較例2の成形物と、比較例1の樹脂組成物との比較により、レゾール樹脂を含む参考例1~12、14、15及び実施例13並びに比較例2の樹脂組成物は、レゾール樹脂を含まない比較例1の樹脂組成物よりも経時変化によるスパイラルフロー保持率が高いことが確認できた。参考例1~12、14、15及び実施例13並びに比較例2の樹脂組成物は、製造直後の樹脂組成物に対し、25℃で2016時間保管した後の樹脂組成物のスパイラルフロー保持率が50%以上150%未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、磁石固定用材料、民生部品、電気電子部品、自動車部品等に用いられる樹脂組成物、及び成形物として利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
100 ロータ
110 ロータコア
120 磁石
130 スロット