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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】成形品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20220804BHJP
   B29C 45/73 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C45/73
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018214806
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020082371
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、環境省、平成29年度セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対策の立案事業委託業務 (セルロースナノファイバー製品製造工程におけるCO2排出削減に関する技術開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】西野 彰馬
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】今西 正義
(72)【発明者】
【氏名】峯 英生
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/058674(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0151622(US,A1)
【文献】特開昭62-280013(JP,A)
【文献】特表2000-515086(JP,A)
【文献】特開2016-165860(JP,A)
【文献】特開2009-132094(JP,A)
【文献】特開2000-279559(JP,A)
【文献】特開昭60-206604(JP,A)
【文献】特開2019-115989(JP,A)
【文献】特開2000-084981(JP,A)
【文献】特開昭51-123248(JP,A)
【文献】特開平07-195484(JP,A)
【文献】特開2004-009635(JP,A)
【文献】特開2005-319727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
B29C 43/00-43/58
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維複合樹脂の成形品であって、
母材樹脂、セルロース系繊維、および、該セルロース系繊維に由来するセルロース系繊維由来物質を含んで成り、
前記成形品の少なくとも一部においては、前記セルロース系繊維由来物質の含有量が、成形品表面と、該成形品表面よりも内側の成形品内部との間で異なっており
前記成形品が突起部を有しており、
前記突起部が設けられた前記成形品の第一主面と、該第一主面に対向する該成形品の第二主面との間では、該第二主面における前記セルロース系繊維由来物質の含有量が、該第一主面における前記セルロース系繊維由来物質の含有量よりも多い、成形品。
【請求項2】
前記セルロース系繊維由来物質が、前記セルロース系繊維の熱変性物である、請求項1に記載の成形品。
【請求項3】
前記成形品表面における前記セルロース系繊維由来物質の含有量が、前記成形品内部における該セルロース系繊維由来物質の含有量よりも多い、請求項1または2に記載の成形品。
【請求項4】
前記セルロース系繊維由来物質が、フルフラール類である、請求項1~3のいずれかに記載の成形品。
【請求項5】
前記成形品内部における前記セルロース系繊維由来物質の含有量が、前記成形品の板厚中央部における該セルロース系繊維由来物質の含有量である、請求項1~4のいずれかに記載の成形品。
【請求項6】
前記セルロース系繊維由来物質の含有量が、前記成形品表面から前記成形品の板厚中央部に向かって漸次的に減少している、請求項1~5のいずれかに記載の成形品。
【請求項7】
前記成形品の少なくとも1つの主面では、前記セルロース系繊維由来物質の含有量が局所的に異なっている、請求項1~4のいずれかに記載の成形品。
【請求項8】
前記母材樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1~7のいずれかに記載の成形品。
【請求項9】
セルロース系繊維複合樹脂の成形品を製造する方法であって、
金型に母材樹脂とセルロース系繊維とを含む成形品前駆体を充填すること、
熱源を用いて、前記金型内の成形品前駆体の表面の少なくとも一部を加熱すること
を含んで成る、製造方法であって、
前記成形品が突起部を有しており、
前記突起部が設けられた前記成形品の第一主面と、該第一主面に対向する該成形品の第二主面との間では、該第二主面における前記セルロース系繊維に由来するセルロース系繊維由来物質の含有量が、該第一主面における前記セルロース系繊維由来物質の含有量よりも多い、製造方法
【請求項10】
前記加熱によって、前記セルロース系繊維由来物質を前記表面に生じさせる、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記熱源として、前記金型に備えられたヒーターを用いる、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記表面の少なくとも一部の前記加熱を成形品前駆体温度200℃以上で行う、請求項9~11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記セルロース系繊維由来物質として少なくともフルフラール類を生じさせる、請求項9~12のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、耐光性が向上した成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料から成る成形品は、様々な用途で用いられている。特に、長期的に使用される成形品などでは、耐光性が求められる。
【0003】
従来、耐光性を向上させる手段としては、光安定剤や紫外線吸収剤を樹脂中に添加することで、励起状態の樹脂から余分なエネルギーを奪う、あるいは、発生したラジカルを捕捉し影響の拡大を防止する方法が行われている。特に屋外での使用や日光に触れる可能性がある製品においては、これらの添加剤を樹脂中に添加して分散させることで、長期間の信頼性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-163265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、従前の成形品では克服すべき課題が依然あることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを見出した。
【0006】
光安定剤や紫外線吸収剤といった添加剤を樹脂材料中に添加・分散させる方法では、経時変化とともに成形品から耐光性向上に寄与する添加剤の成分が成形品外にブリードアウトしてしまう場合があるなどの課題がある。また、そのような方法では母材樹脂ごとに添加剤の種類やその添加量を個別で設定する必要があり、生産者は複数の添加剤を管理し、製品の切り替え時に樹脂材料とともに併せて添加剤の切り替えが必要になるなど、取り扱い面でも課題となることがある。したがって、添加剤の切り替えや管理が必要となり成形品の生産コストが増加してしまう場合がある。さらに、光安定剤や紫外線吸収剤といった添加剤を添加することで樹脂材料の機械特性が低下するなどの虞も考えられ得る。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本開示の主たる目的は、より好適に成形品の耐光性を向上させる成形品技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された成形品およびその製造方法に至った。
【0009】
本発明によれば、
セルロース系繊維複合樹脂の成形品であって、
母材樹脂、セルロース系繊維、およびそのセルロース系繊維に由来するセルロース系繊維由来物質を含んで成り、
成形品の少なくとも一部においては、セルロース系繊維由来物質の含有量が、成形品表面と、成形品表面よりも内側に位置する成形品内部との間で異なっている、成形品が提供される。
【0010】
また、本発明において、
セルロース系繊維複合樹脂の成形品を製造する方法であって、
金型に母材樹脂とセルロース系繊維とを充填すること、
熱源を用いて、金型内の成形品前駆体の表面の少なくとも一部を加熱すること
を含んで成る、製造方法も提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、より好適に耐光性が向上した成形品が得られる。
【0012】
具体的には、本発明では、耐光性を向上させる常套的な添加剤などに特に依拠しなくても、耐光性の向上を図ることができる。また、本発明に従えば、成形品の耐光性のみならず、機械特性をも同時に向上させることができる。このような効果については、セルロース系繊維の添加量を増加させることで比例的に成形品の耐光性および機械特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る成形プロセスを時系列的に示す模式的断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた成形品の外観写真を示す。
図3】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた種々の成形品の模式的断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた成形品の模式的断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた成形品の機械特性の評価結果を示す表を表す図である。
図6】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた成形品および比較品の耐光性の評価結果の表を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る成形プロセスで得られた成形品および比較品の耐光性の評価結果の表を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下にて、必要により図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る成形品およびその製造方法をより詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細な説明、あるいは実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0015】
出願人は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。なお、図面における各種の要素は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0016】
本明細書で直接的または間接的に用いる「上下方向」および「左右方向」などは、それぞれ図中における上下方向および左右方向に相当する。特記しない限り、同じ符号または記号は、同じ部材または同じ意味内容を示すものとする。ある好適な態様では、鉛直方向下向き(すなわち、重力が働く方向)が「下方向」に相当し、その逆向きが「上方向」に相当すると捉えることができる。かかる“上下方向”に直交する方向が「左右方向」に相当し得る。
【0017】
本明細書において「断面視」は、成形品の板厚方向に沿って切り取って得られる仮想断面に基づいている。換言すれば、成形品の板厚に沿って切り取った断面における見取図が「断面視」に相当する。“板厚方向”は、例えば、金型の型締の方向に相当するものである。また、本明細書で用いる「平面視」とは、上記板厚の方向に沿って対象物を上側または下側からみた場合の見取図に基づいている。
【0018】
<セルロース系繊維複合樹脂の成形品>
本発明におけるセルロース系繊維複合樹脂の成形品は、母材樹脂、セルロース系繊維、および、該セルロース系繊維に由来するセルロース系繊維由来物質を含んで成り、成形品の少なくとも一部においては、セルロース系繊維由来物質の含有量が、成形品表面と、該成形品表面のよりも内側の成形品内部との間で異なる。
【0019】
[セルロース系繊維複合樹脂]
本明細書において、「セルロース系繊維複合樹脂」とは、広義には母材樹脂とセルロース系繊維とを含んでなる材料のことをいい、狭義には母材樹脂中にセルロース系繊維が分散してなる材料である。母材樹脂とセルロース系繊維との複合化は公知の方法により行われてよい。複合化するための方法は、原料である母材樹脂とセルロース系繊維とを混合させればよく、例えば、ニーダによる混練、溶融混練などである。セルロース系繊維複合樹脂中、セルロース系繊維の含有量は母材樹脂に対して3重量%以上95重量%以下であってよく、例えば10重量%以上90重量%以下、好ましくは25重量%以上85重量%以下、より好ましくは50重量%以上80重量%以下である。セルロース系繊維が母材樹脂に対して90重量%以下(80重量%以下であってよく、例えば75重量%以下)であると成形が容易となり、流動性を確保するために樹脂温度を高温(例えば200℃以上)にする必要がなく、セルロース系繊維由来物質が生成して成形品全体が褐色化することを防ぐことができ、これにより成形品の板厚方向でセルロース系繊維由来物質の含有量を変化させることが容易となる。また、成形品の耐光性および機械特性の観点から、セルロース系繊維が母材樹脂に対して10重量%以上であることが好ましい。なお、本明細書において「セルロース系繊維」とは、未修飾セルロースだけでなくセルロース誘導体を含み、例えばセルロースエステル類、セルロースカーバメート類およびセルロースエーテル類などを挙げることができる。
【0020】
(母材樹脂)
「母材樹脂」とは、広義にはその内部にセルロース系繊維を含むことができる樹脂であり、狭義にはセルロース系繊維をその内部に分散可能な樹脂である。好ましくは、セルロース系繊維由来物質が生成する温度以下、例えばセルロース熱変性物が生成する温度以下、特にフルフラールが生成する温度以下の条件であっても、セルロース系繊維と混合させてセルロース系繊維複合樹脂を形成可能な樹脂である。すなわち、成形工程に供するセルロース系繊維複合樹脂(例えば、セルロース系繊維複合樹脂のペレット)がセルロース系繊維由来物質を生成することなく得られるように、母材樹脂が選択されることが好ましい。母材樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、100℃以上350℃以下、120℃以上250℃以下または130℃以上200℃以下の融点を有する熱可塑性樹脂であってよい。
【0021】
あくまで例示に過ぎないが、母材樹脂は、オレフィン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ビニルエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂およびフッ素樹脂などから選択される少なくとも一種であってよい。なかでも成形性などの観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリブタジエンなどが挙げられる。
【0022】
(セルロース系繊維)
セルロース系繊維は、針葉樹、広葉樹、竹など、サトウキビおよび草本などからなる群から選択される少なくとも一種に由来するセルロース系繊維である。セルロース系繊維の原料パルプは、クラフトパルプ、古紙パルプ、機械パルプおよび/または化学パルプなどであってよい。原料パルプは漂白されたパルプであってよい。セルロース系繊維物質は褐色を呈し得ることから、漂白されたパルプを用いることでセルロース系繊維由来物質の生成の確認が容易となり得る。
【0023】
セルロース系繊維の平均アスペクト比(繊維長/繊維幅)は5以上、10以上、20以上または25以上であってよく、1000以下、100以下、50以下または30以下であってよい。セルロース系繊維は直径1μm以上100μm以下の部分が含まれていることが好ましい。セルロース系繊維は直径がnmオーダーの範囲が含まれていてもよく、いわゆるセルロースナノファイバーであってもよい。μmオーダーの直径が含まれることによって、熱による変性にともなってセルロース系繊維物質が生成された後も繊維直径を十分に確保し、繊維添加による機械特性向上効果とフルフラール類生成による硬化での強度向上効果を実現する。セルロース系繊維複合樹脂を得るために、平均繊維幅10μm以上100μm以下、平均繊維長200μm以上1000μm以下になるよう予備粉砕し粉末状にした粉末状パルプを、母材樹脂との混練に使用してよい。このとき、粉末状パルプは、混練で生じるせん断力により繊維の解繊(繊維が解きほぐされ、直径が微細化)が生じ、繊維の一部は数nmから1μm以下になり、混練前に比べ、繊維アスペクト比(繊維長/繊維径)が高くなり得る。これにより、セルロース系繊維の大部分(例えば50重量%以上、好ましくは75重量%以上)は繊維の両端が解繊され、中央部は解繊されていない状態となる。上記混練によって得られるセルロース系繊維複合樹脂のペレットは、ペレット作製時にセルロース系繊維が熱の影響をほとんど受けないようにすることで、ペレット製造段階では変性が起こっていない白色(パルプ色)のまま製造することができる。
【0024】
(セルロース系繊維由来物質)
セルロース系繊維由来物質は、上記セルロース系繊維の変性物であり、例えば物理的変性物または化学変性物である。セルロース系繊維由来物質は、好ましくは、化学変性物である。セルロース系繊維の物理変性物とはセルロース系繊維の物理化学構造(例えば、結晶構造、高分子の三次元構造など)が変化したものであってよい。セルロース系繊維の化学変性物とはセルロース系繊維の化学構造が化学反応により変化したものであってよい。
【0025】
成形品中にセルロース系繊維由来物質が存在することにより、成形品中に耐光性が異なる部分(例えば、耐光性に優れた部分と耐光性に劣る部分の両方)を存在させることができる。また、成形品中にセルロース系繊維由来物質が存在することにより、機械特性が異なる部分(例えば、樹脂が硬化し弾性率が上昇する)を存在させることができる。成形品の板厚方向にセルロース系繊維由来物質の存在量を制御して、例えば、成形品表面とその成形品表面よりも内側の成形品内部との間でセルロース系繊維由来物質の存在量を異ならせたり、表面と裏面との間でセルロース系繊維由来物質の存在量を異ならせたりしてよい。これにより耐光性および機械特性の向上が必要な部分とそうでない部分とを分けることができ、例えば、表面は耐光性が高い硬化層とし中央は靭性の高い柔軟層とすることができる。これによって、成形品の特定部分に対して耐光性および機械特性の向上を両立させることが可能となる。
【0026】
セルロース系繊維由来物質はセルロース系繊維の熱変性物であってよい。熱変性物は、物理的変性物または化学変性物であってよい。熱変性物は、好ましくは化学変性物であり、例えば、セルロース系繊維の脱水反応生成物である。セルロース系繊維の熱変性物は下記にて説明するように、母材樹脂とセルロース系繊維とを含む成形品前駆体の少なくとも一部の表面が加熱されることによりセルロース系繊維が熱変性して生じたセルロース系繊維の熱変性物であってよい。
【0027】
セルロース系繊維由来物質、例えばセルロース系繊維の熱変性物はフルフラール類であってよい。ここで、フルフラール類とは、フルフラールまたはその誘導体であってよく、例えば次化学構造式で示す、フルフラール骨格含有化合物である。
【化1】
(式中、R、RおよびRはそれぞれ独立して、水素または有機基である。)
【0028】
、RおよびRは、限定されないが、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボキシ基、アルコキシ基および脂肪族基からなる群から選択される少なくとも1つであってよい。アルコキシ基および/または脂肪族基の炭素数は1以上15以下であってよく、例えば1以上10以下であってよく、特に1以上5以下である。脂肪族基は、ヒドロキシ酸素、アルコキシ酸素、エーテル酸素およびカルボニル酸素からなる群から選択される少なくとも1つの酸素原子を1個以上10個以下、特に1個以上5個以下有する、脂肪族基であってよい。あくまで例示に過ぎず本発明を制限するものではないが、フルフラール類の具体例としては、フルフリールアルコール、テトラヒドロフルフリールアルコール、テトラヒドロフラン、フルフラールおよびヒドロキシメチル-フルアルデヒドなどが挙げられる。フルフラール類は好ましくはフルフラールおよび/または5-(ヒドロキシメチル)-2-フルアルデヒドを含む。セルロース系繊維由来物質のなかでも特にフルフラール類の存在が成形品の耐光性および機械特性の向上に寄与するものと推定される。
【0029】
同様のヒーター加熱条件で成形しても成形品表面のセルロース系繊維由来物質の生成量には大きな違いがある。下記にセルロース系繊維由来物質の生成量を定量的に評価するために用いるLab色空間の原理に基づく色差(△E)の算出式を示す。
【数1】
(L:検出ラインのL値、L:対照領域のL値、a:検出ラインのa値、a:対照領域のa値、b:検出ラインのb値、b:対照領域のb値)
【0030】
補色空間の一種であるLab色空間において、L値は明度を示し、a値およびb値は色味の強弱を示す。a値がプラスのときは赤味を示し、マイナスのとき緑味を示す。b値がプラスのときは黄味を示し、マイナスのときは青紫味を示す。
【0031】
セルロース系繊維由来物質(セルロース系繊維の熱変性物、特にフルフラール類)は生成されると褐色の色味として現れる。そのため、本発明におけるセルロース系繊維由来物質を含有する成形品と通常の成形品との色調を測定することで、セルロース系繊維由来物質の生成量を色差として同定することができる。また、各種クロマトグラフィ(例えばガスクロマトグラフィー)を用いてもセルロース系繊維由来物質の量を測定することも可能である。
【0032】
(その他成分)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲において、上記成分以外に他の各種添加剤を含有していてもよい。
【0033】
各種添加剤としては、酸化防止剤、離型剤、染顔料、熱安定剤、強化剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、耐候性改良剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。本発明の成形品は、母材樹脂と、セルロース形繊維と、上記の添加剤の少なくとも5つ以下(例えば添加剤のうち1つ、2つ、3つ、または4つ)とのみからなってもよい。本発明によれば、光安定剤または紫外線吸収剤といった添加剤などを全く用いずとも、すなわち、セルロース系繊維複合樹脂のみであっても、耐光性の向上させることができるが、耐光性を調節するために光安定剤または紫外線吸収剤を含んでいてもよい。
【0034】
[成形品]
【0035】
本発明における成形品の形状は、所望により様々な形状を選択することが可能である。例えば、平面、曲げ状、カップ、リング、および/またはチューブなどの単純な形状であってよく、ボス、リブおよび/またはツメなどを有する各種取付部品などの複雑形状であってもよい。
【0036】
(成形品におけるセルロース系繊維由来物質の分布)
本発明における成形品の少なくとも一部においては、セルロース系繊維由来物質の含有量が、成形品表面と、その成形品表面よりも内側の成形品内部との間で異なる。成形品表面におけるセルロース系繊維由来物質の含有量は、成形品内部におけるセルロース系繊維由来物質の含有量よりも多くてよい。ここで、成形品内部におけるセルロース系繊維由来物質の含有量は、成形品の板厚中央部におけるセルロース系繊維由来物質の含有量であってよい。
【0037】
本明細書における「成形品表面」とは、当業者が成形品表面と通常認識し得る部分であればよい。成形品表面は、成形品における一方の最表面を0として板厚方向に対向するもう一方の最表面を100%の位置としたとき、0以上10%以下の位置であってよく、例えば0以上5%以下の位置である(図4参照)。また、成形品のサイズにもよるが、表面は、最表面を0としたとき、板厚方向に対して0以上5mm以下の位置であってよく、例えば0以上1mm以下の位置である。
【0038】
本明細書における「成形品内部」とは、当業者が成形品内部と通常認識し得る部分であればよい。成形品内部は成形品における上記“成形品表面”以外を指してよい。成形品内部は、成形品における一方の最表面を0として板厚方向に対向するもう一方の最表面を100%の位置としたとき、5%超95%未満の位置であってよく、例えば10%超90%未満の位置である(図4参照)。
【0039】
本明細書における「成形品の板厚中央部」とは、当業者が成形品の板厚中央部と通常認識し得る部分であればよい。成形品の板厚中央部は、板厚寸法の中点に相当する成形品部分であってよく、成形品における一方の最表面を0として板厚方向に対向するもう一方の最表面を100%の位置としたとき、約50%の位置であってよい(図4参照)。
【0040】
本明細書における「セルロース系繊維由来物質の含有量」とは、着目領域に含まれるセルロース系繊維由来物質の量であってもよいし、着目領域の濃度であってもよい。ここで濃度は、着目領域の平均の濃度(モル濃度、質量濃度など)であってもよく、クロマトグラフィなどにより直接的に、あるいは色彩測定などにより間接的に決定されたものであってよい。成形品の2つの領域間で含有量を比較する際には、測定者による恣意性を極力排除するために、同じ大きさを占める領域間、あるいは濃度同士で比較することが好ましい。
【0041】
セルロース系繊維由来物質の含有量は、成形品表面から板厚中央部に向かって漸次的に減少していてよい。例えば、平面状の成形体が有する2つの主面のそれぞれから成形品内部に向かって徐々にセルロース系繊維由来物質の含有量が減る構成としてもよい(図3(a)参照)。セルロース系繊維由来物質が一つの主面から対面側の主面に向かって徐々にセルロース系繊維由来物質の生成量が減る構成とすることもできる(図3(b)参照)。
【0042】
成形品の少なくとも1つの主面では、セルロース系繊維由来物質の含有量が局所的に異なっていてよい。言い換えれば、成形品表面における所望の領域内でセルロース系繊維由来物質の含有量が異なってもよい。例えば、1つの主面内にセルロース系繊維由来物質の含有量が局所的に高い領域が複数存在してもよい。例えばセルロース系繊維由来物質の含有量が局所的に高い領域が成形品表面内に例えば縞状、千鳥模様状およびスポット状などで存在してもよい。これにより、成形品表面においてセルロース系繊維由来物質の生成量の偏在を発生させ、面方向での変形に対する応力を緩和することができる。
【0043】
成形品は突起部を有していてよい。その場合、突起部が設けられた成形品の第一主面と、第一主面に対向する成形品の第二主面との間では、第二主面におけるセルロース系繊維由来物質の含有量が、第一主面におけるセルロース系繊維由来物質の含有量よりも多くてよい。ここで、第一主面には突起部が設けられていなくてよい。ここで第一主面とは突起部表面のことを指してもよく、突起部でない部分の表面のことを指してもよい。
【0044】
本発明の成形品を外装部品などに適用してもよい。外装部品には表面上に凸形状、つまり、突起部としてボス、リブ、ツメなどが付与されることが多い。ボス、リブ、ツメなどはいずれもアッセンブリされたユニットの表面から見えることはほとんどなく、また、ボルトや相手部品との嵌合の関係から柔軟に変形できる方が望ましい場合が多い。そのため、突起を外装表面に比べてセルロース系繊維由来物質が生成されない柔軟な形状とすることで、変形に強く折れにくくすることができる(図3(c)~(e)参照)。
【0045】
上記のような構成によれば、成形品の一面の一部もしくは全部にセルロース系繊維由来物質を生成し耐光性を向上させることができ、且つ、フルフラールを生成しないもう一方の面あるいは板厚方向の中央部で、セルロース系繊維由来物質が生成されない、あるいはセルロース系繊維由来物質の生成量を減らし、硬化しないあるいは硬化の程度が低い、柔軟な面あるいは層を任意に設定することができる。これによって、耐光性が高く、且つ、変形には強いが柔軟で割れにくいという物性を、成形品内の所望の位置に有する成形品を得ることができる。
【0046】
<セルロース系繊維複合樹脂の成形品を製造する方法>
本発明における、セルロース系繊維複合樹脂の成形品を製造する方法は、
金型に母材樹脂とセルロース系繊維とを充填する工程、
熱源を用いて、金型内の成形品前駆体の表面の少なくとも一部を加熱する工程
を含んで成る。
【0047】
本方法は、各種の樹脂成形方法(射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、インフレーション成形、押出し成形、圧縮成形など)により実施されてよく、好ましくは射出成形により実施される。本明細書において、「成形品前駆体」とは本発明の成形品となる前のセルロース系繊維複合樹脂を指し、特に加熱工程に供される以前のセルロース系繊維複合樹脂を指す。
【0048】
本発明における成形品表面にセルロース系繊維由来物質を生成させるための成形プロセスの一例を示す図1について説明する。
【0049】
図1(a)において、固定側部品であるキャビティ101、可動側部品であるコア102、ヒーター103によって構成される金型を、温調回路を用いてキャビティ101とコア102によって構成される金型内の成形空間内壁の表面温度が例えば30℃以上50℃以下になるよう設定し、スプルー104から温度を例えば200℃未満に設定した成形品前駆体105を金型内へ射出する。
【0050】
図1(b)に図示されるように射出された成形品前駆体105が金型内部に充填後、(c)に図示されるようにヒーター103によって金型を加熱し、充填した成形品前駆体105の金型の成形空間内壁と接触している成形品前駆体の最表面の温度を例えば200℃以上にする。
【0051】
成形品前駆体105は、ヒーター103の加熱の影響を受ける表面の領域106と、中央部付近のほとんど影響を受けず冷却が開始される領域107とが発生する。その後、例えば10秒程度加熱状態を維持した後、ヒーター加熱を停止することで完全な冷却を行い、図1(d)の冷却工程を経て、図1(e)のように熱変性によりセルロース系繊維からセルロース系繊維由来物質(フルフラール類)が生成された成形品表面108と熱の影響を受けずに冷却固化した比較的柔軟な内部層109を有する成形品110を得る。
【0052】
[充填工程]
充填工程において、母材樹脂とセルロース系繊維とを含むセルロース系繊維複合樹脂を金型に充填する。
【0053】
成形品前駆体の射出成形時温度は、熱変性による意図しないセルロース系繊維由来物質の生成を防ぐために、200℃未満であってよい。例えば、成形品前駆体の射出成形時温度は、150℃以上200℃以下、好ましくは180℃以上195℃以下である。
【0054】
射出成形時における金型温度は5℃以上100℃以下であってよく、好ましくは10℃以上75℃以下、より好ましくは15℃以上50℃以下、特に20℃以上45℃以下である。これにより、射出される成形品前駆体との温度差を極力大きくし、成形品前駆体と金型とが接する表面の冷却固化を著しく早めることで、繊維の板厚方向中央部への沈み込みを抑制し成形品表面近傍に繊維を拘束することができる。表面近傍にセルロース系繊維をより多く拘束し、ヒーター103の影響を多くのセルロース系繊維に与えることで変性によるセルロース系繊維由来物質(フルフラール類)の生成を促し、耐光性向上効果をより高めることが可能である。
【0055】
[加熱工程]
加熱工程においては、熱源を用いて、金型内の成形品前駆体の表面の少なくとも一部を加熱する。加熱によって、セルロース系繊維に由来するセルロース系繊維由来物質を成形品前駆体の表面に生じさせる。本発明においては、セルロース系繊維由来物質が生じるように意図的に樹脂温度および/または金型温度を制御しながらセルロース系繊維複合樹脂を成形する。セルロース系繊維複合樹脂として、ペレット段階でセルロース系繊維由来物質を含まない複合樹脂を使用することが好ましい。例えば、金型において樹脂温度が特定の温度となるまでセルロース系繊維由来物質が生じないように意図的に樹脂温度・金型温度を制御してもよい。例えば、樹脂ペレット製造段階、または、金型における加熱工程前において所定の加熱温度よりも低温(図1(a)~(b)の段階における温度)においてセルロース系繊維由来物質が発生しないことが好ましい。
【0056】
加熱の時期は、例えば、射出工程中、射出工程後の保圧工程中であってよく、保圧工程中であることが好ましい。
【0057】
成形品前駆体の表面の少なくとも一部を加熱する際の成形品前駆体の表面の温度は200℃以上であってよく、例えば200℃以上420℃以下(例えば200℃以上380℃以下)であり、好ましくは200℃以上320℃以下(例えば200℃以上300℃以下)、より好ましくは200℃以上270℃以下(例えば200℃以上250℃以下)である。このような加熱により、成形品前駆体の表面にセルロース系繊維由来物質を生じさせ易くなる。
【0058】
加熱時間は、成形品に求める物性、母材樹脂の種類などにより変動するものの、1秒以上300秒以下であってよい。例えば加熱時間は2秒以上100秒以下であってよく、好ましくは3秒以上50秒以下、より好ましくは4秒以上20秒以下である。
【0059】
熱源として、金型内部又は表面に備えられたヒーターを用いることが好ましい。ヒーターの種類は、特に限定されないものの、例えば、コイルヒーター、カーボンヒーター、セラミックヒーター、オイルヒーターおよびガスヒーターなどが挙げられる。ヒーターの形状は、特に限定されないものの、例えば、コード状、筒状、シート状および球状などが挙げられる。なお、本発明において「ヒーター」は、その作用に鑑みれば、セルロース系繊維由来物質生成ヒーターと称することができる。
【0060】
ヒーターは金型のキャビティ形成面に沿って一個又は複数個が配置されていてよい。成形品が主面を有する場合、ヒーターは主面側のキャビティ形成面に沿ってのみ存在し、非主面側のキャビティ形成面にはヒーターは特に配置されていなくてよい。また、必ずしも成形品は均一に加熱されなくてよく、ヒーターからの距離によって金型加熱状態がわずかに異なることで、成形品表面で生成されるセルロース系繊維由来物質の生成量を偏在させることができる。これにより、面方向での変形に対する応力を緩和することができる。
【0061】
[冷却工程]
加熱終了後、ヒーター加熱を停止して放熱させることにより自然冷却させてもよいし、例えば冷媒を金型内に循環させることにより積極的に冷却を行ってもよい。冷却の時間、冷却箇所などは求める成形品の物性などに応じて適宜設定できる。
【実施例
【0062】
以下、実施例および比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、特記がない限り、部および%は質量基準である。
【0063】
[セルロース系繊維複合樹脂の作製]
【0064】
針葉樹系の木材から抽出された漂白済みのパルプを、平均直径50μm、平均長さ500μmになるよう予備粉砕し粉末状パルプを得た。得られた粉末状パルプと、母材樹脂となるポリプロピレン(以下、PPと記載)とを、所定の重量比で、混練機の設定温度は190℃に設定し、パルプが極力変性しないように低温で混練して、セルロース系繊維複合樹脂のペレットを得た。上記製造方法によって製造されたをセルロース系繊維複合樹脂のペレットを射出成形前にガスクロマトグラフィー分析によって成分分析をした結果、セルロース系繊維の変性によるフルフラール成分は検出されなかった。
【0065】
[セルロース系繊維複合樹脂の成形品の作製]
成形品形状を形成する金型内部の固定側部品であるキャビティおよび可動側部品であるコア、ヒーターによって構成される金型を用いた。温調回路を用いて成形空間内壁の表面温度を40℃に設定し、スプルーから温度を190℃に設定した上記で得られたセルロース系繊維複合樹脂(成形品前駆体105)を金型内へ射出した。図1(b)のように射出された成形品前駆体105が金型内部に充填された状態で、ヒーターによって金型を加熱し、充填した成形品前駆体の金型の成形空間内壁と接触している最表面の成形品前駆体温度を210℃以上とした。その後、10秒程度加熱状態を維持した後、ヒーター加熱を停止することで完全な冷却を行い、冷却工程を経て、熱変性でセルロース系繊維からフルフラール類が生成された成形品表面と熱の影響を受けずに冷却固化した柔軟な層109を有する成形品110を得た。
【0066】
上記色差△Eを算出する式に基づき、得られた成形品のセルロース系繊維由来物質生成量の同定を行った結果、PPに対してセルロース系繊維(以下、CFと記載)が10wt%である成形品(PP-CF10wt%)では褐色化度を表す色差の値が△E=3.1であるのに対し、PP-CF75wt%では△E=10.2であった。これにより、セルロース系繊維の添加量が多い方がフルフラール類の生成量も多いことがわかる。図2において、201はPP-CF10wt%の成形品表面の写真を示す。202はPP-CF75wt%の成形品表面の写真を示す。
【0067】
[特性評価試験]
(機械特性の評価)
JISK7139(プラスチック―試験片)に記載のダンベル形状の試験片を作製し、JISK7161(プラスチック―引張特性の求め方)およびJISK7171(プラスチック―曲げ特性の求め方)に記載の強度評価を実施した。
【0068】
PP-CF10wt%およびPP-CF75wt%のそれぞれのダンベル試験片の機械特性を比率で表記した結果を図5の表に示す。
【0069】
図5の表において、(1)はPP-CF10wt%における通常射出成形プロセスによって成形されたダンベル試験片での機械特性評価結果、(2)はPP-CF10wt%における本発明の成形プロセスによって成形されたダンベル試験片での機械特性評価結果、(3)はPP-CF75wt%における通常射出成形プロセスによって成形されたダンベル試験片での機械特性評価結果、(4)はPP-CF75wt%における本発明の成形プロセスによって成形されたダンベル試験片での機械特性評価結果を示す。
【0070】
図5の表において、PP-CF10wt%およびPP-CF75wt%ともに通常成形による機械特性を1とした場合に比べ2~5%程度、各物性が向上していることが確認できる。
【0071】
(耐光性の評価)
【0072】
PP、PP-CF10wt%、PP-CF40wt%および、PPに対してガラス繊維を40wt%添加して得た成形品(PP-GF40wt%)に対して耐光性試験を実施した。条件はJISD0205に則り、サンシャインカーボンアーク照射、BP(ブラックパネル温度)83℃、湿度50%、時間150Hとした。なお、耐光性を向上させる光安定剤や紫外線吸収剤といった添加剤は未添加である。表面粗さ測定機として、Mitsutoyo(ミツトヨ)製:SJ-301を用いた。
【0073】
図6の表は、PPとPP-CF10wt%を比較し、セルロース系繊維から生成されたセルロース系繊維由来物質(フルフラール類)の有無による耐光性の向上効果を比較した結果を示す。
【0074】
図6の表において、(1)、(2)はPPにおける耐光性試験前後の成形品表面状態および面相度測定結果を示している。PPの耐光性試験後のサンプルでは、ゲート部から放射上に波紋の様な亀裂が面方向に広がっている。表面粗さの変化率もRaで1.6倍、Rzで1.28倍になっており、サンシャインカーボンアークによって面相度が悪化することが確認できた。一方、(3)、(4)はPP-CF10wt%における耐光性試験前後の成形品表面状態および面相度測定結果を示している。PP-CF10wt%においては、表面粗さの変化率がRaで1.29倍、Rzで1.08倍とPPに比べて低下している。また、成形品表面の波紋状亀裂はなく、耐光性が向上していることが確認できた。
【0075】
図7の表は、PP-CF40wt%とPP-GF40wt%を比較し、フィラー種の違いによる耐光性の向上効果を比較した結果である。
【0076】
図7の表において、(1)、(2)はPP-GF40wt%における耐光性試験前後の成形品表面状態および面相度測定結果を示している。PP-GF40wt%の耐光性試験後のサンプルでは、図6の表におけるPPのような波紋状亀裂の発生はないものの、添加されているガラス繊維が浮いているように見える繊維浮きが発生している。これはサンシャインカーボンアークの影響でPPの分子鎖が切れ、ガラス繊維周辺を覆っていたPPが収縮したためであると考えられる。また、表面粗さの変化率についても著しく悪化しており、Raで1.84倍、Rzで1.9倍となっている。一方、(3)、(4)のPP-CF40wt%では前記比較材のような繊維浮きや波紋状亀裂の発生はなく、大きな面相度の悪化はい。面相度の悪化率は、Raで1.05倍、Rzで1.3倍とPP-CF10wt%よりもさらに耐光性が向上していることが確認できた。これらの結果から、セルロース系繊維の添加量を増加させていくことで耐光性は向上することが確認できた。
【0077】
以上のとおり、PP-CFにおいて、セルロース系繊維由来物質(フルフラール類)の生成が確認でき、その成分によって耐光性および機械特性が向上した。本構成によって、耐光性を向上させる添加剤などを全く用いずに、成形条件のみで耐光性および機械特性の向上を達成することが可能となり、母材樹脂ごとに添加剤やフィラーなどを再選定する必要がなくなる。これにより生産管理面での効率化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、樹脂品または樹脂材などが使用される各種用途に用いることができる。例えば、本発明の成形品は、比較的長期で使用されたり、あるいは、屋外などで使用されたりする樹脂品・樹脂剤として好適に用いることができる。あくまでも例示に過ぎないが、本発明の成形品を車載内装品などとして用いてもよい。
【符号の説明】
【0079】
101 キャビティ
102 コア
103 ヒーター
104 スプルー
105 成形品前駆体
106 ヒーター加熱領域
107 ヒーター非加熱領域
108 セルロース系繊維由来物質生成領域
109 セルロース系繊維由来物質非生成領域
110 成形品
201 PP-CF10wt%成形品
202 PP-CF75wt%成形品
301 上下両表面にセルロース系繊維由来物質を含む成形品
302 片面にセルロース系繊維由来物質を含む成形品
303 セルロース系繊維由来物質を含む、ボス形状を有する成形品
304 セルロース系繊維由来物質を含む、リブ形状を有する成形品
305 セルロース系繊維由来物質を含む、ツメ形状を有する成形品
401 上下両表面にセルロース系繊維由来物質を含む成形品
402 板厚
403 成形品表面
404 成形品内部
405 板厚中央部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7