(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】電子制御装置、制御方法、及び電子制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
B62D6/00
(21)【出願番号】P 2018234510
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】510123839
【氏名又は名称】日本電産モビリティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】樫山 慶
(72)【発明者】
【氏名】坂田 友洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 佳央
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-013755(JP,A)
【文献】特開2001-088725(JP,A)
【文献】特開平11-011341(JP,A)
【文献】特開2010-167854(JP,A)
【文献】特開2009-090953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に備えられたステアリングホイールの操舵の補助を行うモータ、及び前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサを備える電動パワーステアリング装置を制御する電子制御装置であって、
前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクの値に応じて第1電流指令値を設定するトルク電流制御部と、
前記操舵トルクの微分値であるトルク微分値を算出し、前記トルク微分値、前記モータの回転速度、及び前記車両の車速に基づいて、第2電流指令値を設定する微分制御部と、
前記第1電流指令値及び前記第2電流指令値に基づいて、前記モータに供給すべきモータ電流指令値を算出する指令値算出部と、を備え、
前記微分制御部は、任意のトルク微分値に対して、前記回転速度が第1閾値未満である場合に前記回転速度が前記第1閾値以上である場合よりも小さい前記第2電流指令値を設定することを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記微分制御部は、前記回転速度が前記第1閾値以上である場合、前記回転速度によらずに前記トルク微分値に応じて前記第2電流指令値を設定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記微分制御部は、前記トルク微分値に前記回転速度、及び前記車速に応じたゲインを適用して前記第2電流指令値を設定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記微分制御部は、前記回転速度が前記第1閾値以上である場合、前記回転速度によらずに前記ゲインを設定することを特徴とする請求項
3に記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記ゲインは、前記回転速度が低くなるにつれて低くなることを特徴とする請求項
3または4に記載の電子制御装置。
【請求項6】
前記微分制御部は、前記回転速度に応じて前記トルク微分値を補正し、補正後の前記トルク微分値に応じて前記第2電流指令値を設定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項7】
前記微分制御部は、前記トルク微分値に所定のゲインを乗じることにより前記トルク微分値を補正し、前記回転速度が前記第1閾値未満である場合の前記ゲインの値を、前記回転速度が前記第1閾値以上である場合の前記ゲインの値よりも小さく設定することを特徴とする請求項
6に記載の電子制御装置。
【請求項8】
前記微分制御部は、前記トルク微分値に所定のゲインを乗じることにより前記トルク微分値を補正し、前記回転速度が前記第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の前記ゲインの値を、前記トルク微分値が前記第1微分閾値以上である場合の前記ゲインの値よりも小さく設定することを特徴とする請求項
6または7に記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記微分制御部は、第1微分閾値未満の任意の前記トルク微分値に応じた前記第2電流指令値について、前記回転速度が前記第1閾値未満である場合の値を、前記回転速度が前記第1閾値以上である場合の値よりも小さく設定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項10】
前記微分制御部は、前記回転速度が前記第1閾値未満である場合の前記ゲインの値、及び前記回転速度が前記第1閾値以上である場合の前記ゲインの値を、前記車両の複数の車速に応じて予め設定することを特徴とする請求項
7に記載の電子制御装置。
【請求項11】
前記微分制御部は、任意の前記トルク微分値に応じた前記第2電流指令値について、前記回転速度が前記第1閾値未満である場合に前記回転速度が低くなるにつれて値が低くなり、前記回転速度が前記第1閾値以上である場合に値が一定となるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項12】
車両に備えられたステアリングホイールの操舵の補助を行うモータ、及び前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサを備える電動パワーステアリング装置を制御する制御方法であって、
前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクの値に応じて第1電流指令値を設定する工程と、
前記操舵トルクの微分値であるトルク微分値を算出し、前記トルク微分値及び前記モータの回転速度、及び前記車両の車速に基づいて、第2電流指令値を設定する工程と、
前記第1電流指令値及び前記第2電流指令値に基づいて、前記モータに供給すべきモータ電流指令値を算出する工程と、を含み、
前記第2電流指令値を設定する工程にて、任意のトルク微分値に対して、前記回転速度が第1閾値未満である場合に前記回転速度が前記第1閾値以上である場合よりも小さい前記第2電流指令値を設定することを特徴とする制御方法。
【請求項13】
請求項1から
11のいずれか1項に記載の電子制御装置としてコンピュータを機能させるための電子制御プログラムであって、前記トルク電流制御部、前記微分制御部、及び前記指令値算出部としてコンピュータを機能させるための電子制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置、制御方法、及び電子制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリングホイールの振動を抑制する電動パワーステアリング装置が従来技術として知られている。例えば、特許文献1には、電流制御系の中に平滑フィルタを含ませることにより量子化誤差を平滑化してトルクリップルを抑制する電動パワーステアリング装置が開示されている。しかしながら、量子化誤差を平滑化することにより、電動パワーステアリング装置による制御の応答性が悪くなる可能性がある。
【0003】
また、特許文献2には、目標補助トルク値の算出においてトルクの微分値により補正を行う電動パワーステアリング装置が開示されている。当該電動パワーステアリング装置は、トルクの微分値に基づいた補正値を目標補助トルクに加えることによって、トルク変動に即応することができるようになり、操舵の応答性を向上できるというものである。しかしながら、トルク値が変動した場合には、補正された目標補助トルクも変動してしまうため、ステアリングホイールが振動し易くなる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-36078号公報
【文献】特開昭62-29465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルクセンサの出力をデジタル処理する場合には、量子化誤差が発生するために、操舵トルク値が変動する。また、操舵トルク値が変動する原因として、車両のエンジンによる振動、車両の振動、車両を運転する運転手がステアリングホイールに触れた状態での運転手の手の震え、電源電圧変動、ECUから発生するノイズ、他の電子機器のノイズ(オルタネータ、モータ、他のECU等)、エンジンの点火プラグのスパークノイズ、静電気によるノイズが挙げられる。このように操舵トルク値が変動すると、運転者が操舵していなくても、操舵力が補助されてしまい、ステアリングホイールが振動するため、運転者は不快に感じる。
【0006】
このように、特許文献1及び2に開示されている電動パワーステアリング装置では、ステアリングホイールの操舵時における操舵の応答性の向上、及びステアリングホイールの保舵時におけるステアリングホイールの振動の抑制を同時に実現することができないという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る電子制御装置は、車両に備えられたステアリングホイールの操舵の補助を行うモータ、及び前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサを備える電動パワーステアリング装置を制御する電子制御装置であって、前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクの値に応じて、前記モータに供給すべき第1電流指令値を設定するトルク電流制御部と、前記操舵トルクの微分値であるトルク微分値を算出し、前記トルク微分値及び前記モータの回転速度に応じて、第2電流指令値を設定する微分制御部と、前記第1電流指令値及び前記第2電流指令値に基づいて、前記モータに供給すべきモータ電流指令値を算出する指令値算出部と、を備える。
【0009】
前記構成によれば、例えば、微分制御部は、モータの回転速度が低速である場合、モータの回転速度が高速である場合に比べて、第2電流指令値が小さくなるように設定される場合を考える。この場合、モータの回転速度が低速となるステアリングホイールの保舵時では、モータの回転速度が高速となるステアリングホイールの操舵時に比べて、モータに供給すべきモータ電流指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0010】
前記微分制御部は、前記回転速度に応じて前記トルク微分値を補正し、補正後の前記トルク微分値に応じて前記第2電流指令値を設定してもよい。前記構成によれば、第2電流指令値が、モータの回転速度に応じたトルク微分値に基づく値となる。これにより、モータの回転速度に応じて第2電流指令値を設定することができる。
【0011】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、前記トルク微分値を0に補正してもよい。前記構成によれば、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となるため、ステアリングホイールの保舵時にトルク微分値を0に補正することができる。よって、0に補正されたトルク微分値に応じて第2電流指令値を設定することができる。
【0012】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、前記第2電流指令値を0に設定してもよい。前記構成によれば、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となるため、ステアリングホイールの保舵時に第2電流指令値が0に設定される。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0013】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満である場合に前記トルク微分値を小さくする補正する度合いを、前記トルク微分値が第1微分閾値以上である場合に前記トルク微分値を小さく補正する度合いよりも大きく設定してもよい。
【0014】
前記構成において、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となる。そこで、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合にトルク微分値を小さくする補正する度合いを、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合にトルク微分値を小さく補正する度合いよりも大きく設定する場合を考える。この場合、ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、トルク微分値を小さくなるように補正することができる。
【0015】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満である場合に前記第2電流指令値を小さくする補正する度合いを、前記トルク微分値が第1微分閾値以上第2微分閾値未満である場合に前記第2電流指令値を小さく補正する度合いよりも大きく設定してもよい。
【0016】
前記構成において、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となる。そこで、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合に第2電流指令値を小さくする補正する度合いを、トルク微分値が第1微分閾値以上第2微分閾値未満である場合に第2電流指令値を小さく補正する度合いよりも大きく設定する場合を考える。
【0017】
この場合、ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、モータに供給すべきモータ電流指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0018】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満であれば、前記トルク微分値が0である場合のみで前記第2電流指令値を0に設定してもよい。前記構成によれば、トルク微分値が0近傍の範囲にある場合において、トルク微分値が0以外であれば、第2電流指令値を0以外の値とすることができる。
【0019】
よって、第2電流指令値がカットされる範囲を最小限にすることによりステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を可能な限り向上させることができる。また、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0020】
前記微分制御部は、前記トルク微分値に所定のゲインを乗じることにより前記トルク微分値を補正し、前記回転速度が第1閾値未満である場合の前記ゲインの値を、前記回転速度が第1閾値以上である場合の前記ゲインの値よりも小さく設定してもよい。
【0021】
前記構成によれば、モータの回転速度は、ステアリングホイールの操舵速度と関連しているため、ステアリングホイールを保舵する、またはステアリングホイールの操舵速度が小さい場合にはモータの回転速度は小さくなる。モータの回転速度が小さいほど、微分ゲインの値を小さくしている。よって、ステアリングホイールの保舵時のゲインの値がステアリングホイールの保舵時以外のゲインの値より小さい。これにより、ステアリングホイールの保舵時に補正後のトルク微分値を低く抑えることができ、第2電流指令値も低く抑えることができる。
【0022】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合に前記第2電流指令値を小さく補正する度合いを、前記回転速度が第1閾値以上である場合に前記第2電流指令値を小さく補正する度合いよりも大きく設定してもよい。
【0023】
前記構成によれば、トルク微分値が任意の値である場合の第2電流指令値は、ステアリングホイールの保舵時の場合の方が、ステアリングホイールの保舵時以外の場合よりも小さくなるように補正される。これにより、ステアリングホイールの保舵時に第2電流指令値が低く抑えられる。このため、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0024】
前記微分制御部は、前記トルク微分値に所定のゲインを乗じることにより前記トルク微分値を補正し、前記回転速度が第1閾値未満である場合において、前記トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の前記ゲインの値を、前記トルク微分値が第1微分閾値以上である場合の前記ゲインの値よりも小さく設定してもよい。
【0025】
前記構成において、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となる。そこで、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合のゲインの値が、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合のゲインの値よりも小さくなるように設定される場合を考える。この場合、ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、トルク微分値を小さくなるように補正することができる。
【0026】
前記微分制御部は、第1微分閾値未満の任意の前記トルク微分値に応じた前記第2電流指令値について、前記回転速度が第1閾値未満である場合の値を、前記回転速度が第1閾値以上である場合の値よりも小さく設定してもよい。
【0027】
前記構成において、トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となり、かつ、モータの回転速度が0近傍の値となる。そこで、第1微分閾値未満の任意の前記トルク微分値に応じた第2電流指令値について、モータの回転速度が第1閾値未満である場合の値が、モータの回転速度が第1閾値以上である場合の値よりも小さくなるように設定される場合を考える。
【0028】
この場合、ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、モータに供給すべきモータ電流指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0029】
また、ステアリングホイールの保舵時では、ノイズがなければ理想的にはトルク微分値は0となる。しかし、例えばトルクセンサの量子化誤差によるノイズによってトルク微分値が0を超える値となっても、モータに供給すべきモータ電流指令値を小さくなるように補正することができるため、トルクセンサによる量子化誤差の影響を抑えることができる。
【0030】
前記微分制御部は、前記回転速度に応じて前記第2電流指令値を設定するための複数のテーブルの切り替えを行う切替処理部を有してもよい。前記構成によれば、例えば、モータの回転速度が低速である場合に第2電流指令値が低くなるように設定されたテーブルを選択し、モータの回転速度が高速である場合に第2電流指令値が高くなるように設定されたテーブルを選択するように、テーブルの切り替えを行う場合を考える。
【0031】
この場合、モータの回転速度が低速となるステアリングホイールの保舵時では、モータの回転速度が高速となるステアリングホイールの操舵時に比べて、モータに供給すべきモータ電流指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0032】
前記微分制御部は、前記回転速度が第1閾値未満である場合の前記ゲインの値、及び前記回転速度が第1閾値以上である場合の前記ゲインの値を、前記車両の複数の車速に応じて予め設定してもよい。前記構成によれば、車両の複数の車速に応じて第2電流指令値を設定して、モータに供給すべきモータ電流指令値を補正することができる。よって、車両の複数の車速に応じてステアリングホイールの振動を最適に抑制することができる。
【0033】
前記微分制御部は、前記車両の車速に応じて複数の前記第2電流指令値から1つの第2電流指令値を決定する決定部を有してもよい。前記構成によれば、車両の車速に応じて第2電流指令値が決定されるため、車両の車速に応じてステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0034】
前記微分制御部は、任意の前記トルク微分値に応じた前記第2電流指令値について、前記回転速度が第1閾値未満である場合に前記回転速度が低くなるにつれて値が低くなり、前記回転速度が第1閾値以上である場合に値が一定となるように設定されていてもよい。
【0035】
前記構成によれば、ステアリングホイールの保舵時においてモータの回転速度が低くなるにつれて第2電流指令値も低く抑えることができる。このため、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0036】
本発明の一態様に係る制御方法は、車両に備えられたステアリングホイールの操舵の補助を行うモータ、及び前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクを検出するトルクセンサを備える電動パワーステアリング装置を制御する制御方法であって、前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクの値に応じて、前記モータに供給すべき第1電流指令値を設定する工程と、前記操舵トルクの微分値であるトルク微分値を算出し、前記トルク微分値及び前記モータの回転速度に応じて、第2電流指令値を設定する工程と、前記第1電流指令値及び前記第2電流指令値に基づいて、前記モータに供給すべきモータ電流指令値を算出する工程と、を含む。
【0037】
本発明の一態様に係る電子制御プログラムは、前記電子制御装置としてコンピュータを機能させるための電子制御プログラムであって、前記トルク電流制御部、前記微分制御部、及び前記指令値算出部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一態様によれば、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の実施形態1に係る電動パワーステアリング装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す電動パワーステアリング装置が備えるECUが含む微分制御部の詳細の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す微分制御部が含むテーブル決定部のテーブルの一例を示す図である。
【
図4】(a)は
図1に示す電動パワーステアリング装置の処理内容の一例を示すフローチャートであり、(b)は
図1に示す微分制御部の処理内容の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態2に係る微分制御部の詳細の一例を示すブロック図である。
【
図6】
図5に示す微分制御部が含むテーブル決定部のテーブルの一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態3に係る微分制御部の詳細の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図7に示す微分制御部が含むテーブル決定部のテーブルの一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態4に係る微分制御部の詳細の一例を示すブロック図である。
【
図10】
図9に示す微分制御部が含むテーブル決定部のテーブルの一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態5に係る微分制御部の詳細の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
〔実施形態1〕
本発明の実施形態1について、
図1を参照しながら以下に説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)100の概略構成の一例を示すブロック図である。電動パワーステアリング装置100は、
図1に示すように、トルクセンサ1、モータ2、車速センサ3、ECU(Electronic Control Unit)4、及び回転センサ2aを備えている。
【0041】
電動パワーステアリング装置100は、車両に備えられたステアリングホイール(図示せず)に結合しているステアリングシャフト(図示せず)に減速機(図示せず)を介してモータ2の回転力を加えることによって、ステアリングホイールに対する運転者の操舵力を補助する操舵補助力を付与する装置である。電動パワーステアリング装置100は、ステアリングシャフトの代わりにピニオンまたはラックにモータ2の回転力を与える構成の電動パワーステアリング装置であってもよい。
【0042】
本発明者らは、前記ステアリングホイールに振動が発生していてもステアリングホイールを操舵しているときには、運転者は当該振動が余り気にならないが、ステアリングホイールの保舵時にはわずかな振動でも運転者は当該振動が気になるということを発見した。
【0043】
トルクセンサ1は、前記ステアリングホイールにかかる操舵トルクを検出する。前記操舵トルクは、モータ2を制御するために必要な変動値の1つである。トルクセンサ1は、検出した操舵トルクをECU4に供給する。トルクセンサ1は、前記ステアリングシャフトに設けられている。
【0044】
モータ2は、前記ステアリングホイールの操舵の補助を行う。換言すると、モータ2は、前記ステアリングホイールに操舵補助力を付与する。モータ2は、減速機に連結されている。モータ2は、自身の回転に関する情報を、レゾルバ、MR(Magneto Resistive)センサ等の回転センサ2aを介してECU4の回転速度算出部17に供給する。
【0045】
回転センサ2aは、モータ2に設けられており、モータ2の回転速度に応じた信号を出力する。回転センサ2aからの角度変化の信号が回転速度算出部17に与えられ、回転速度算出部17は角度変化情報から回転速度に変換する。回転速度算出部17は、モータ2の回転速度の情報を微分制御部8及び収斂制御部9に供給する。
【0046】
ECU4がモータ2と一体化した場合などでは、ECU4に設けられる磁気センサからモータ2の回転速度に関する情報を得るようにしてもよい。また、回転センサ2aを設けずに、ECU4の回転速度算出部17が、モータ2の電流及びモータ2の端子の電圧変化からモータ2の回転速度を算出してもよい。さらに、回転センサ2aがレゾルバである場合、回転センサ2aはECU4の外部に設けられるが、回転センサ2aがMRセンサである場合、回転センサ2aはECU4の外部または内部に設けられる。なお、モータ2の回転速度として前記ステアリングホイールの回転速度を用いるようにしてもよい。本願発明のモータ2の回転速度には前記ステアリングホイールの回転速度が含まれるものとする。
【0047】
車速センサ3は、電動パワーステアリング装置100を搭載する車両の車速を検出する。車速センサ3は、車両の車速を検出し、検出した車速の情報をCAN(Controller Area Network)通信によってECU4に供給する。
【0048】
ECU4は、位相補償部5、ローパスフィルタ6、トルク電流制御部7、微分制御部8、収斂制御部9、指令値算出部10、回転速度算出部17、及びモータ制御部11を備えている。ECU4は、電動パワーステアリング装置100を制御する電子制御装置(EPS-ECU)である。ECU4は、トルクセンサ1、モータ2、及び車速センサ3と接続されている。
【0049】
位相補償部5は、トルクセンサ1から供給された操舵トルクのデータを遅らせてトルク電流制御部7に供給する。ローパスフィルタ6は、トルクセンサ1から供給された操舵トルクから高周波成分を除去し、高周波成分を除去した結果の操舵トルクを微分制御部8に供給する。
【0050】
トルク電流制御部7は、位相補償部5から供給された操舵トルクの値、及び車速センサ3から供給された車速の値に応じて、テーブルを参照してモータ2に供給すべきトルク指令値(第1電流指令値)を設定する。当該テーブルは、操舵トルクとトルク指令値との関係を示している。トルク指令値の設定方法については公知であるため、ここでは詳述しない。トルク電流制御部7は、設定したトルク指令値を指令値算出部10に供給する。
【0051】
微分制御部8は、操舵補助の応答性を向上して操舵フィーリングを改善するために、トルク電流制御部7が設定したトルク指令値に応じて決まる合計指令値(モータ電流指令値)に対して補正を行うものである。微分制御部8は、ローパスフィルタ6から供給された操舵トルクの微分値であるトルク微分値を算出する。微分制御部8は、当該トルク微分値、モータ2の回転速度、及び車速センサ3から供給された車速に応じて、微分指令値(第2電流指令値)を設定する。微分制御部8は、設定した微分指令値を指令値算出部10に供給する。ここでは、モータ2の回転速度をモータ2の回転数として説明するが、モータ2の回転速度には、モータ2の角速度の概念も含まれる。
【0052】
ここで、例えば、微分制御部8は、モータ2の回転速度が低速である場合、モータ2の回転速度が高速である場合に比べて、微分指令値が小さくなるように設定される場合を考える。この場合、モータ2の回転速度が低速となるステアリングホイールの保舵時では、モータ2の回転速度が高速となるステアリングホイールの操舵時に比べて、モータ2に供給すべき合計指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0053】
収斂制御部9は、ステアリングホイールの回転方向に対して逆向きの補助力を与えて、ステアリングホイールの回転による低周波の振動を速やかに収束させることによって操舵フィーリングを改善するために、合計指令値に対して補正を行うものである。
【0054】
収斂制御部9は、回転速度算出部17から供給されたモータ2の回転速度、及び車速センサ3から供給された車速に基づいて、収斂指令値を設定する。収斂指令値の設定方法については公知であるため、ここでは詳述しない。収斂制御部9は、設定した収斂指令値を指令値算出部10に供給する。ここでは、微分制御部8及び収斂制御部9は、モータ2の回転速度の値を参照しているが、モータ2の回転に同期している操舵角の情報から操舵速度を算出する場合に操舵速度の値を参照してもよい。
【0055】
指令値算出部10は、トルク電流制御部7から供給されたトルク指令値、微分制御部8から供給された微分指令値、及び収斂制御部9から供給された収斂指令値を加算することにより、合計指令値を算出する。つまり、指令値算出部10は、トルク指令値、微分指令値、及び収斂指令値に基づいて、モータ2に供給すべき合計指令値を算出する。指令値算出部10は、算出した合計指令値をモータ2に供給すべきモータ電流としてモータ制御部11に供給する。モータ制御部11は、モータ2を制御する。
【0056】
次に、微分制御部8の詳細について、
図2及び
図3を参照しながら以下に説明する。
図2は、
図1に示す電動パワーステアリング装置100が備えるECU4が含む微分制御部8の詳細の一例を示すブロック図である。
図3は、
図2に示す微分制御部8が含むテーブル決定部13のテーブル14の一例を示す図である。
【0057】
微分制御部8は、
図2に示すように、算出処理部12、テーブル決定部13、及び微分指令値算出部16を備えている。算出処理部12は、前述したトルク微分値として、ローパスフィルタ6から供給された操舵トルクをデジタル的に微分することによって操舵トルクの微分値の近似値を算出する。算出処理部12は、算出したトルク微分値をテーブル決定部13に供給する。
【0058】
テーブル決定部13は、テーブル14・14a及び切替処理部15を備えている。テーブル決定部13は、モータ2の回転速度に基づいてテーブル14またはテーブル14aを参照して、算出処理部12によって算出されたトルク微分値を補正することによりトルク微分補正値を決定する。テーブル決定部13にはテーブル14・14aが予め設定されている。前記トルク微分補正値は、トルク微分値に微分ゲイン(ゲイン)を乗じた値である。前記微分ゲインは、モータ2に供給すべきモータ電流に含まれる微分電流のゲインである。
【0059】
このように、微分制御部8は、トルク微分値に所定の微分ゲインを乗じることによりトルク微分値を補正する。テーブル14・14aは、入力されたトルク微分値と、出力となるトルク微分補正値と、の関係を示しており、テーブル決定部13は、テーブル14またはテーブル14aのいずれかのテーブルを選択する。なお、テーブル14・14aは、入力されたトルク微分値と、出力となる微分ゲインと、の関係を示したものであってもよい。テーブル14・14aに描かれた直線の傾きは微分ゲインの値を示している。テーブル14・14aの横軸は、入力としてトルク微分値を示しており、テーブル14・14aの縦軸は、出力としてトルク微分補正値を示している。
【0060】
テーブル14では、
図3に示すように、トルク微分値が0近傍の値であれば、出力であるトルク微分補正値が0となっている。具体的には、トルク微分値が所定数値範囲R1内であれば、トルク微分補正値が0となっている。換言すると、所定数値範囲R1内の微分ゲインは0である。所定数値範囲R1は、トルクセンサ1の出力に乗畳しているノイズ(量子化誤差など)のうち、除去したいノイズを除去できるような値に実験結果または計算によって決定される。
【0061】
トルク微分値が所定数値範囲R1内にあることは、トルク微分値が第1微分閾値未満であることと同義である。トルク微分値と第1微分閾値とを比較する場合、当該トルク微分値は絶対値となる。つまり、トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、微分ゲインが0に設定されており、トルク微分値は0に補正されることによりトルク微分補正値が0に設定される。これにより、微分指令値算出部16から出力される微分指令値も0に設定される。
【0062】
微分指令値算出部16は、テーブル14またはテーブル14aの出力であるトルク微分補正値に所定の計算を行うことにより、合計指令値の補正に用いる微分指令値を算出する。換言すると、微分指令値算出部16は、モータ2に供給すべき電流の値となるように、トルク微分補正値に所定の係数を乗じて微分指令値に変換する。微分指令値算出部16は、算出した微分指令値を指令値算出部10に供給する。なお、微分指令値算出部16を設けずに、テーブル14・14aの微分ゲインを予め調整しておくことにより、テーブル14・14aから微分指令値が直接出力されるようにしてもよい。
【0063】
トルク微分補正値が大きくなるほど、微分指令値も大きくなり、トルク微分補正値が小さくなるほど、微分指令値も小さくなる。なお、
図3において実線L1の傾きは、トルク微分値の絶対値が所定数値範囲R1を超える範囲におけるテーブル14の微分ゲインを示しており、その値は「1」である。テーブル14aにおいては、微分ゲインの値は、トルク微分値の大きさに関わらず、一定であり、「1」を示している。
【0064】
切替処理部15は、モータ2の回転速度、及び車速センサ3から供給された車速を参照する。なお、以下に説明する切替処理部15によるテーブルの出力に係る選択の基準となるモータ2の回転速度の数値、及び車速の数値は、一例である。ここでは、切替処理部15がモータ2の回転速度の数値のみをテーブルの出力に係る選択の基準とする場合について説明する。切替処理部15は、モータ2の回転速度が0rpm以上1rpm未満である場合、テーブル14またはテーブル14aのうち、テーブル14を選択する。つまり、テーブル14に基づいてトルク微分値はトルク微分補正値に補正されて、当該トルク微分補正値は、微分指令値算出部16に供給される。
【0065】
一方、切替処理部15は、モータ2の回転速度が1rpm以上である場合、テーブル14の出力及びテーブル14aの出力のうち、テーブル14aの出力を選択する。つまり、テーブル14aの出力が微分指令値算出部16に供給される。なお、モータ2の回転速度が1rpm以上である場合の微分ゲインが「1」に設定されている場合には、実質的にはトルク微分値が補正されないことになる。このため、テーブル14aを用いずに、算出処理部12によって算出されたトルク微分値が切替処理部15からそのまま出力されてもよい。
【0066】
このように、切替処理部15は、モータ2の回転速度に応じて、異なる微分ゲインが設定されている複数のテーブルの切り替えを行う。つまり、切替処理部15は、モータ2の回転速度に応じて、微分指令値を設定するための複数のテーブルの切り替えを行う。ここで、例えば、モータ2の回転速度が低速である場合に微分指令値が低くなるように設定されたテーブルを選択し、モータ2の回転速度が高速である場合にトルク微分値が補正されないテーブルを選択するように、テーブルの切り替えを行う場合を考える。
【0067】
この場合、モータ2の回転速度が低速となるステアリングホイールの保舵時では、モータ2の回転速度が高速となるステアリングホイールの操舵時に比べて、モータ2に供給すべき合計指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0068】
また、微分制御部8は、モータ2の回転速度に応じてトルク微分値を補正し、補正後のトルク微分値としてトルク微分補正値に応じて微分指令値を設定する。よって、微分指令値が、モータ2の回転速度に応じたトルク微分値に基づく値となる。これにより、モータ2の回転速度に応じて微分指令値を設定することができる。
【0069】
以上により、テーブル決定部13は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合の値が、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合の値より低くなるように、微分ゲインを決定する。これにより、ステアリングホイールの保舵時に微分ゲインが低く抑えられる。このため、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0070】
また、微分制御部8は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の微分ゲインの値を、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合の微分ゲインの値よりも小さく設定する。つまり、微分制御部8は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の微分指令値を、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合の微分指令値よりも小さく設定する。
【0071】
さらに、微分制御部8は、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の微分ゲインの値について、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合の値を、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合の値よりも小さく設定する。つまり、微分制御部8は、第1微分閾値未満の任意のトルク微分値に応じた微分指令値について、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合の値を、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合の値よりも小さく設定する。
【0072】
ここで、ステアリングホイールの保舵時では、トルクセンサにノイズが含まれているとトルク微分値が0近傍の値となり、かつ、モータの回転速度が0近傍の値となる。ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、トルク微分値を小さくなるように補正することができ、モータ2に供給すべき合計指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0073】
また、ステアリングホイールの保舵時では、ノイズがなければ理想的にはトルク微分値は0となる。しかし、例えばトルクセンサ1の量子化誤差によるノイズによってトルク微分値が0を超える値となっても、モータ2に供給すべき合計指令値を小さくなるように補正することができるため、トルクセンサ1による量子化誤差の影響を抑えることができる。
【0074】
さらに、微分制御部8は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、トルク微分値を0に補正する。そして、微分制御部8は、前記場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、トルク微分補正値が0であることにより、微分指令値を0に設定する。トルクセンサの信号にノイズが含まれていると、ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となるため、ステアリングホイールの保舵時にトルク微分値を0に補正することができ、0に補正されたトルク微分値に応じて微分指令値が0に設定される。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0075】
微分制御部8は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合においては、トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、トルク微分値を小さくするように補正する。さらに、微分制御部8は、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合においては、トルク微分値を補正しない、または、0以外の値となる所定の補正を行う。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0076】
また、微分制御部8は、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合においては、トルク微分値の大きさに関わらず、トルク微分値を補正しないようにしてもよい。よって、ステアリングホイールの保舵時においては操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制するが、ステアリングホイールを回転させるときには、モータ2による補助の応答性を優先できる。
【0077】
次に、切替処理部15がモータ2の回転速度の数値に加えて車速の数値をテーブルの出力に係る選択の基準とする場合について説明する。切替処理部15は、車速が5km/h以上である場合、モータ2の回転速度に関わらず、テーブル14の出力及びテーブル14aの出力のうち、テーブル14aの出力を選択する。つまり、テーブル14aの出力が微分指令値算出部16に供給される。テーブル14においては、トルク微分補正値は、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合は0になるが、トルク微分値が第1微分閾値以上になると一気に大きくなり、ステアリングホイールへの補助力も一気に変化する。
【0078】
なお、車速が5km/h以上である場合、テーブル14aを用いずに、算出処理部12によって算出されたトルク微分値が切替処理部15からそのまま出力されてもよい。換言すれば、微分制御部8は、車速が5km/h以上である場合、トルク微分値を補正しない。ステアリングホイールに振動が発生していても、車両の走行速度が大きいと運転者が振動に気付きにくいため、振動を抑えることよりもトルクの変化に対する応答性を優先できる。また、切替処理部15は、車速の値を参照せずに、モータ2の回転速度の値のみから、テーブル14の出力及びテーブル14aの出力のうち1つの出力を選択する処理を行ってもよい。実施形態2以降の切替処理部15でも同様である。
【0079】
なお、
図3に示すように、トルク微分値が0近傍以外の値である場合、実線L1と点線L2とが一致しているため、トルク微分値が0近傍以外の値であれば、テーブル14の微分ゲインの値とテーブル14aの微分ゲインの値とが一致する。
【0080】
次に、電動パワーステアリング装置100の処理内容について、
図4の(a)及び(b)を参照しながら以下に説明する。
図4の(a)は、
図1に示す電動パワーステアリング装置100の処理内容の一例を示すフローチャートであり、
図4の(b)は、
図1に示す微分制御部8の処理内容の一例を示すフローチャートである。
【0081】
まず、ECU4は、トルクセンサ1から供給された操舵トルクの値を入力する(ステップS10)。操舵トルクの値は、ECU4の位相補償部5及びローパスフィルタ6に入力される。また、ECU4は、車速センサ3から供給された車速の値を入力する(ステップS11)。車速の値は、ECU4のトルク電流制御部7、微分制御部8、及び収斂制御部9に入力される。
【0082】
さらに、ECU4は、回転センサ2aを介してモータ2から供給されたモータ2の回転に関する信号を入力する(ステップS12)。モータ2の回転に関する信号は、回転速度算出部17に入力される。回転速度算出部17は、回転センサ2aからの信号に基づいてモータ2の回転速度を算出し、モータ2の回転速度の情報を微分制御部8及び収斂制御部9に供給する。
【0083】
次に、トルク電流制御部7は、トルクセンサ1から位相補償部5を介して供給された操舵トルク、及び車速センサ3から供給された車速に基づいて、トルク指令値を設定する(ステップS13:第1電流指令値を設定する工程)。トルク電流制御部7は、設定したトルク指令値を指令値算出部10に供給する。
【0084】
一方、微分制御部8は、トルクセンサ1からローパスフィルタ6を介して供給された操舵トルクの微分値であるトルク微分値、回転速度算出部17から供給されたモータ2の回転速度、及び車速センサ3から供給された車速に基づいて、微分指令値を設定する(ステップS14:第2電流指令値を設定する工程)。微分制御部8は、設定した微分指令値を指令値算出部10に供給する。
【0085】
微分制御部8の処理内容については、
図4の(b)を参照しながら以下に説明する。まず、算出処理部12は、トルクセンサ1からローパスフィルタ6を介して供給された操舵トルクの値を入力する(ステップS14a)。算出処理部12は、前述したトルク微分値を算出する(ステップS14b)。
【0086】
また、切替処理部15は、回転速度算出部17から供給されたモータ2の回転速度の値を入力する(ステップS14c)。テーブル決定部13は、モータ2の回転速度からトルク微分補正値を決定する(ステップS14d)。さらに、切替処理部15は、車速センサ3から供給された車速の値を入力する(ステップS14e)。
【0087】
テーブル決定部13は、車速の値からトルク微分補正値を決定する(ステップS14f)。つまり、テーブル決定部13は、モータ2の回転速度及び車速の値からトルク微分補正値を決定する。なお、ステップS14fの処理は省略されてもよい。テーブル決定部13は、決定したトルク微分補正値を微分指令値算出部16に供給する。微分指令値算出部16は、トルク微分補正値に所定の計算を行う(ステップS14g)。微分制御部8は、トルク微分補正値に所定の計算を行ったものを微分指令値として設定する(ステップS14h)。
【0088】
また、収斂制御部9は、回転速度算出部17から供給されたモータ2の回転速度、及び車速センサ3から供給された車速に基づいて、収斂指令値を設定する(ステップS15)。収斂制御部9は、設定した収斂指令値を指令値算出部10に供給する。
【0089】
指令値算出部10は、トルク電流制御部7から供給されたトルク指令値、微分制御部8から供給された微分指令値、及び収斂制御部9から供給された収斂指令値を加算することにより、合計指令値を算出する(ステップS16:モータ電流指令値を算出する工程)。指令値算出部10は、算出した合計指令値をモータ制御部11に供給する。モータ制御部11は、指令値算出部10から供給された合計指令値を、モータ2に供給すべきモータ電流としてのアシスト電流をモータ2に出力する(ステップS17)。モータ制御部11は、アシスト電流をモータ2に出力してモータ2を駆動する(ステップS18)。
【0090】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、
図5及び
図6を参照しながら以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図5は、本発明の実施形態2に係る微分制御部8Aの詳細の一例を示すブロック図である。
図6は、
図5に示す微分制御部8Aが含むテーブル決定部13Aのテーブルの一例を示す図である。
【0091】
微分制御部8Aは、
図5に示すように、微分制御部8と比べて、テーブル決定部13がテーブル決定部13Aに変更されている点が異なる。テーブル決定部13Aは、テーブル決定部13と比べて、テーブル14がテーブル14bに変更されている点が異なる。テーブル14bに描かれた直線の傾きは微分ゲインの値を示している。テーブル14bの横軸は、入力としてトルク微分値を示しており、テーブル14bの縦軸は、出力としてトルク微分補正値を示している。
【0092】
テーブル14bでは、
図6に示すように、トルク微分値が0近傍の値であれば、微分ゲインが0となっている。具体的には、トルク微分値が所定数値範囲R2内であれば、微分ゲインが0となっている。所定数値範囲R2は、トルクセンサ1の出力に乗畳しているノイズ(量子化誤差など)のうち、除去したいノイズを除去できるような値に実験結果または計算によって決定される。
【0093】
トルク微分値が所定数値範囲R2内にあることは、トルク微分値が第1微分閾値未満であることと同義である。トルク微分値と第1微分閾値とを比較する場合、当該トルク微分値は絶対値となる。つまり、トルク微分値が第1微分閾値未満であれば、微分ゲインが0に設定される。また、トルク微分値が0近傍以外の値であれば、テーブル14bの微分ゲインがテーブル14の微分ゲインより大きくなっている。なお、
図6において実線L3の傾きは、トルク微分値の絶対値が所定数値範囲R2を超える範囲におけるテーブル14bの微分ゲインを示している。なお、所定数値範囲R2は、前述した所定数値範囲R1とは同一であってもよいが、異なっていてもよい。
【0094】
切替処理部15は、モータ2の回転速度が0rpm以上1rpm未満である場合、テーブル14bの出力及びテーブル14aの出力のうち、テーブル14bの出力を選択する。つまり、テーブル14bの出力が微分指令値算出部16に供給される。また、テーブル14bにおいては、トルク微分補正値は、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合は0になるが、トルク微分値が第1微分閾値以上になると0から変化する。このため、ステアリングホイールへの補助力が徐々に変化することによりフィーリングがよくなるという効果がある。なお、
図6において実線L3の傾きで示される微分ゲインの値を「1」に設定してもよい。この場合には、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合に、微分制御部8Aは、トルク微分値の補正を行わないことになる。
【0095】
一方、切替処理部15は、モータ2の回転速度が1rpm以上である場合、テーブル14bの出力及びテーブル14aの出力のうち、テーブル14aの出力を選択する。つまり、テーブル14aの出力が微分指令値算出部16に供給される。また、切替処理部15は、車速が5km/h以上である場合、モータ2の回転速度に関わらず、テーブル14bの出力及びテーブル14aの出力のうち、テーブル14aの出力を選択する。
【0096】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、
図7及び
図8を参照しながら以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図7は、本発明の実施形態3に係る微分制御部8Bの詳細の一例を示すブロック図である。
図8は、
図7に示す微分制御部8Bが含むテーブル決定部13Bのテーブルの一例を示す図である。
【0097】
微分制御部8Bは、
図7に示すように、微分制御部8と比べて、テーブル決定部13がテーブル決定部13Bに変更されている点が異なる。テーブル決定部13Bは、テーブル決定部13と比べて、テーブル14・14aがテーブル14c・14d・14eに変更されている点が異なる。テーブル14c・14d・14eに描かれた直線の傾きは微分ゲインの値を示している。テーブル14c・14d・14eの横軸は、入力としてトルク微分値を示しており、テーブル14c・14d・14eの縦軸は、出力としてトルク微分補正値を示している。
【0098】
テーブル14cでは、
図8に示すように、テーブル14cの微分ゲインがテーブル14の微分ゲインより小さくなっている。なお、
図8において実線L4の傾きは、テーブル14cの微分ゲインを示している。また、後述するテーブル14dの微分ゲインは、テーブル14cの微分ゲインより大きくなっており、後述するテーブル14eの微分ゲインは、テーブル14dの微分ゲインより大きくなっている。
【0099】
切替処理部15は、モータ2の回転速度が0rpm以上1rpm未満である場合、テーブル14c・14d・14eの出力のうち、テーブル14cの出力を選択する。つまり、テーブル14cの出力が微分指令値算出部16に供給される。
【0100】
また、切替処理部15は、モータ2の回転速度が1rpm以上2rpm未満である場合、テーブル14c・14d・14eの出力のうち、テーブル14dの出力を選択する。つまり、テーブル14dの出力が微分指令値算出部16に供給される。
【0101】
さらに、切替処理部15は、モータ2の回転速度が2rpm以上である場合、テーブル14c・14d・14eの出力のうち、テーブル14eの出力を選択する。つまり、テーブル14eの出力が微分指令値算出部16に供給される。切替処理部15は、車速が5km/h以上である場合、モータ2の回転速度に関わらず、テーブル14c・14d・14eの出力のうち、テーブル14eの出力を選択する。
【0102】
以上により、切替処理部15は、モータ2の回転速度が大きいほど、微分ゲインが大きいテーブルを選択する。つまり、微分制御部8Bは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合の微分ゲインの値を、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合の微分ゲインの値よりも小さく設定している。よって、微分制御部8Bは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合に微分指令値を小さく補正する度合いを、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合に微分指令値を小さく補正する度合いよりも大きく設定する。
【0103】
モータ2の回転速度は、ステアリングホイールの操舵速度と関連しているため、ステアリングホイールを保舵する、またはステアリングホイールの操舵速度が小さい場合にはモータ2の回転速度は小さくなる。モータ2の回転速度が小さいほど、微分ゲインの値を小さくしている。よって、ステアリングホイールの保舵時の微分ゲインの値がステアリングホイールの保舵時以外の微分ゲインの値より小さい。
【0104】
また、トルク微分値が任意の値である場合の微分指令値は、ステアリングホイールの保舵時の場合の方が、ステアリングホイールの保舵時以外の場合よりも小さくなるように補正される。これにより、ステアリングホイールの保舵時に微分ゲイン及び微分指令値が低く抑えられる。このため、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0105】
また、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上第2閾値として2rpm未満である場合の微分指令値が、モータ2の回転速度が第2閾値として2rpm以上である場合の微分指令値より小さい。これにより、モータ2の回転速度に応じて閾値を細かく設定することにより、微分指令値をより最適に決定することができる。
【0106】
〔実施形態4〕
本発明の他の実施形態について、
図9及び
図10を参照しながら以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図9は、本発明の実施形態4に係る微分制御部8Cの詳細の一例を示すブロック図である。
図10は、
図9に示す微分制御部8Cが含むテーブル決定部13Cのテーブルの一例を示す図である。
【0107】
微分制御部8Cは、
図9に示すように、微分制御部8と比べて、テーブル決定部13がテーブル決定部13Cに変更されている点が異なる。テーブル決定部13Cは、テーブル決定部13と比べて、テーブル14・14aがテーブル14f・14g・14hに変更されている点が異なる。テーブル14f・14g・14hに描かれた直線の傾きは微分ゲインの値を示している。テーブル14f・14g・14hの横軸は、入力としてトルク微分値を示しており、テーブル14f・14g・14hの縦軸は、出力としてトルク微分補正値を示している。
【0108】
テーブル14fでは、
図10に示すように、トルク微分値が所定数値範囲R3内にある場合の微分ゲインは、トルク微分値の絶対値が所定数値範囲R4・R5より大きい値である場合の微分ゲインより小さくなっている。また、トルク微分値の絶対値が所定数値範囲R4・R5より大きい値である場合の微分ゲインは、トルク微分値が所定数値範囲R4・R5内にある場合の微分ゲインより小さくなっている。
【0109】
所定数値範囲R3・R4・R5、及び所定数値範囲R3・R4・R5それぞれの微分ゲインは、トルクセンサ1の出力に乗畳しているノイズ(量子化誤差など)のうち、除去したいノイズを除去できるような値に実験結果または計算によって決定される。なお、
図10において実線L5の傾きは、トルク微分値の絶対値が所定数値範囲R4を超える範囲におけるテーブル14fの微分ゲインを示している。
【0110】
トルク微分値が所定数値範囲R3内にあることは、トルク微分値が第1微分閾値未満であることと同義である。トルク微分値と第1微分閾値とを比較する場合、当該トルク微分値は絶対値となる。また、トルク微分値が所定数値範囲R4・R5内にあることは、トルク微分値が第1微分閾値以上第2微分閾値未満であることと同義である。トルク微分値と第2微分閾値とを比較する場合、当該トルク微分値は絶対値となる。なお、所定数値範囲R3は、前述した所定数値範囲R1とは同一であってもよいが、異なっていてもよい。
【0111】
また、トルク微分値が所定数値範囲R3内にあれば、後述するテーブル14gの微分ゲインは、テーブル14fの微分ゲインより大きくなっており、後述するテーブル14hの微分ゲインは、テーブル14gの微分ゲインより大きくなっている。さらに、トルク微分値が所定数値範囲R4・R5内にあれば、テーブル14gの微分ゲインは、テーブル14fの微分ゲインより小さくなっており、テーブル14hの微分ゲインは、テーブル14gの微分ゲインより小さくなっている。
【0112】
切替処理部15は、テーブル14f・14g・14hの出力のうち1つの出力を選択する。切替処理部15によるテーブル14f・14g・14hの出力の選択は、前述したテーブル14c・14d・14eの出力の選択と同様に行われる。つまり、モータ2の回転速度及び車速の条件について、テーブル14fはテーブル14cと同様の条件で選択され、テーブル14gはテーブル14dと同様の条件で選択され、テーブル14hはテーブル14eと同様の条件で選択される。
【0113】
以上により、テーブル決定部13Cは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満であれば、トルク微分値が0である場合のみで微分ゲインを0に設定して微分指令値を0に設定する。これにより、トルク微分値が0近傍の範囲にある場合において、トルク微分値が0以外であれば、微分指令値を0以外の値とすることができる。よって、微分指令値がカットされる範囲を最小限にすることによりステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を可能な限り向上させることができる。また、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0114】
また、微分制御部8Cは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値以上第2微分閾値未満である場合の微分ゲインを、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合の微分ゲインよりも大きくなるように設定している。
【0115】
つまり、微分制御部8Cは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合にトルク微分値を小さくする補正する度合いを、トルク微分値が第1微分閾値以上である場合にトルク微分値を小さく補正する度合いよりも大きく設定する。これにより、微分制御部8Cは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合において、トルク微分値が第1微分閾値未満である場合に微分指令値を小さくする補正する度合いを、トルク微分値が第1微分閾値以上第2微分閾値未満である場合に微分指令値を小さく補正する度合いよりも大きく設定している。
【0116】
ステアリングホイールの保舵時では、トルク微分値が0近傍の値となる。これにより、前記構成によれば、ステアリングホイールの保舵時では、ステアリングホイールの操舵時に比べて、モータに供給すべき合計指令値を小さくなるように補正することができる。よって、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0117】
〔実施形態5〕
本発明の他の実施形態について、
図11を参照しながら以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
図11は、本発明の実施形態5に係る微分制御部8Dの詳細の一例を示すブロック図である。
【0118】
微分制御部8Dは、
図11に示すように、微分制御部8と比べて、テーブル決定部13がゲイン決定部13D(決定部)に変更されている点、及び微分指令値算出部16を備えていない点が異なる。ゲイン決定部13Dは、テーブル決定部13と比べて、テーブル14・14aがテーブル14iに変更されている点、及び切替処理部15を備えていない点が異なる。
【0119】
テーブル14iでは、
図11に示すように、モータ2の回転速度に対する微分ゲインが車速別に設定されている。例えば、車速が0km/h、5km/h、及び10km/hのそれぞれである場合、微分ゲインが別々に設定される。車速が0km/h、5km/h、及び10km/hのいずれである場合も、モータ2の回転速度が1rpm以上であれば、微分ゲインが一定となっている。
【0120】
つまり、ゲイン決定部13Dは、車両の車速に応じて複数の微分ゲインから1つの微分ゲインを決定する。具体的には、ゲイン決定部13Dは、モータ2の回転速度及び車両の車速から微分ゲインを決定する。これにより、ゲイン決定部13Dは、車両の車速に応じて複数の微分指令値から1つの微分指令値を決定することになる。これにより、車両の車速に応じて微分指令値が決定されるため、車両の車速に応じてステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0121】
ゲイン決定部13Dは、テーブル14iに載っている車速のうち2つの車速の微分ゲインから補間演算することにより、テーブル14iに載っていない車速の微分ゲインを算出する。例えば、ゲイン決定部13Dは、車速が0km/hである場合の微分ゲインと車速が5km/hである場合の微分ゲインから補間演算することにより、車速が2.6km/hである場合の微分ゲインを算出する。
【0122】
また、微分制御部8Dは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合の微分ゲインの値、及びモータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合の微分ゲインの値を、車両の複数の車速に応じて予め設定している。これにより、車両の複数の車速に応じて微分指令値を設定して、モータに供給すべき合計指令値を補正することができる。よって、車両の複数の車速に応じてステアリングホイールの振動を最適に抑制することができる。
【0123】
このように、ゲイン決定部13Dは、モータ2の回転速度と微分ゲインとの対応関係から微分ゲインを決定する。また、
図11に示すように、微分制御部8Dは、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合、モータ2の回転速度が低くなるにつれて微分ゲインが低くなり、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合、微分ゲインが一定となるように設定されている。
【0124】
これにより、微分制御部8Dは、任意のトルク微分値に応じた微分指令値について、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm未満である場合にモータ2の回転速度が低くなるにつれて値が低くなり、モータ2の回転速度が第1閾値として1rpm以上である場合に値が一定となるように設定されている。よって、ステアリングホイールの保舵時においてモータ2の回転速度が低くなるにつれて微分指令値も低く抑えることができる。このため、ステアリングホイールの操舵時において操舵の応答性を向上させつつ、ステアリングホイールの保舵時において操舵トルクの変動に起因するステアリングホイールの振動を抑制することができる。
【0125】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電動パワーステアリング装置100の制御ブロック(特にECU4)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0126】
後者の場合、電動パワーステアリング装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0127】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0128】
1 トルクセンサ
2 モータ
2a 回転センサ
4 ECU(電子制御装置)
7 トルク電流制御部
8 微分制御部
13D ゲイン決定部(決定部)
15 切替処理部
100 電動パワーステアリング装置