(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】黄色ブドウ球菌疾患の間にコアグラーゼ活性を中和する抗体に関連した組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20220804BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220804BHJP
C07K 14/31 20060101ALI20220804BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20220804BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20220804BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220804BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220804BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220804BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220804BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220804BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220804BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220804BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20220804BHJP
A61K 39/085 20060101ALI20220804BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20220804BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220804BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20220804BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C07K14/31
C07K16/12
C07K19/00
C12P21/02 C
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61P31/04
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/39
A61K39/085
A61K39/395 V
A61K38/17 100
G01N33/53 D
G01N33/543 545A
G01N33/569 E
(21)【出願番号】P 2018542268
(86)(22)【出願日】2017-02-10
(86)【国際出願番号】 IB2017050763
(87)【国際公開番号】W WO2017137954
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2020-02-07
(32)【優先日】2016-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399019892
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
(73)【特許権者】
【識別番号】515261686
【氏名又は名称】ヤンセン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ミッシアカス ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】シュニーウィンド オラフ
(72)【発明者】
【氏名】エモロ カルラ
(72)【発明者】
【氏名】トメル レナ
(72)【発明者】
【氏名】マカダウ モリー
(72)【発明者】
【氏名】フールトセン イェルーン
(72)【発明者】
【氏名】デ ベーン マルク
【審査官】斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/057893(WO,A2)
【文献】特表2015-515492(JP,A)
【文献】特表2015-515280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61P
A61K
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEQ ID NO: 120の少なくとも25個もしくはそれ以上の連続アミノ酸を有する2つのRリピート要素からなるポリペプチド; または、SEQ ID NO: 120と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する2つのRリピート要素からなるポリペプチドを含む免疫原性組成物。
【請求項2】
前記Rリピート要素が、SEQ ID NO: 120と95%~99%の配列同一性を有する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
アジュバントをさらに含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
SEQ ID NO: 120の少なくとも25個もしくはそれ以上の連続アミノ酸を有する2つのRリピート要素からなる; または、SEQ ID NO: 120と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する2つのRリピート要素からなるポリペプチドを含む、組換えポリペプチド。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む、ポリヌクレオチド分子。
【請求項6】
発現制御配列に機能的に連結された請求項4に記載の組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項6に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物または請求項4に記載のポリペプチドと薬学的に許容される賦形剤とを含む、ワクチン。
【請求項9】
SEQ ID NO: 120の少なくとも25個もしくはそれ以上の連続アミノ酸を有する2つのRリピート要素からなる; または、SEQ ID NO: 120と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を有する2つのRリピート要素からなるポリペプチドを含む、少なくとも1つのポリペプチドを、担体と混合する段階を含む、免疫原性組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により全体が組み入れられる、2016年2月12日付で出願された米国特許仮出願第62/294,413号の優先権の恩典を主張するものである。
【0002】
II. 政府支援に関する言明
本発明は、米国立アレルギー感染病研究所によって交付された助成金番号AI52747およびAI110937ならびに米国立衛生研究所によって交付された助成金番号HD009007の下での政府支援によってなされた。米国政府は本発明においてある特定の権利を有する。
【0003】
III. 発明の分野
本発明は全体として、免疫学、微生物学、および病理学の分野に関する。より具体的には、本発明は、細菌タンパク質および細菌ペプチドに対する抗体を含む方法ならびに組成物に関し、このような抗体を誘発するために該細菌タンパク質および該細菌ペプチドが用いられる。それらのタンパク質にはコアグラーゼ(Coa)が含まれる。
【背景技術】
【0004】
IV. 背景
北米の病院は、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の流行を経験している。この生物は、軽度の皮膚感染症から致死的な敗血症、心内膜炎、および肺炎までの広範な疾患を引き起こす[2]。黄色ブドウ球菌(S. aureus)は、その多くの疾患徴候を可能にする広範な病毒性因子が豊富である。黄色ブドウ球菌と、病原性の低いブドウ球菌(staphylococcus)種とを区別する黄色ブドウ球菌の決定的な特徴の1つは、抗凝固処理血液を凝固させるその能力である[48、75]。この特徴は2種類のタンパク質、つまりコアグラーゼ(Coa)およびフォン・ウィルブランド因子結合タンパク質(vWbp)によるものである。CoaおよびvWbpは、宿主プロトロンビンに結合し、宿主プロトロンビンの立体構造変化を誘導するが、これは酵素前駆体から活性化トロンビンへの移行を模倣しており、この複合体がフィブリノゲンをフィブリンへ切断することを可能にする[66、67、71、72、133、146、188]。フィブリンは血栓のメッシュネットワークを形成する。
【0005】
CoaおよびvWbpは、黄色ブドウ球菌感染症の発病中に重要な役割を果たす[212]。coaおよびvwbの二重変異体による感染症は、マウス敗血症モデルにおいて死亡の遅延をもたらし、膿瘍を形成するブドウ球菌の能力をほぼ取り除く(Cheng et al 2010)。CoaおよびvWbpに対する体液性免疫反応は、ブドウ球菌感染症に対する防御を与える(Cheng et al 2010)。直接的なトロンビン阻害物質によるコアグラーゼの薬理学的阻害は、CoaおよびvWbpの活性を中和し、ブドウ球菌性敗血症に対する予防的防御を与える[20、177、213]。
【0006】
黄色ブドウ球菌は、乾いた表面上で生き延び、感染症の機会を高めることができる。いずれの黄色ブドウ球菌感染症もブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、つまり血流に吸収された外毒素に対する皮膚反応を引き起こすことがある。黄色ブドウ球菌は、命にかかわりうる膿血症と呼ばれる敗血症の1種を引き起こすこともある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は院内感染症の主な原因になっている。
【0007】
黄色ブドウ球菌の感染症は典型的には、抗生物質で処置され、ペニシリンが最適な薬物であるが、しかしメチシリン耐性分離株にはバンコマイシンが使用される。抗生物質に対して幅広い耐性を示すブドウ球菌株の割合は、増加しており、有効な抗菌療法に脅威を与えている。さらに、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌株が最近現れたことで、有効な治療を使用できないMRSA株が、出現し蔓延し始めているという恐怖心がかき立てられている。
【0008】
ブドウ球菌感染症の処置において抗生物質に代わる手法は、受動免疫療法においてブドウ球菌抗原に対する抗体を用いることであった。この受動免疫療法の例には、ポリクローナル抗血清の投与(WO00/15238、WO00/12132)およびリポタイコ酸に対するモノクローナル抗体による処置(WO98/57994)が含まれる。
【0009】
黄色ブドウ球菌を標的とするかまたは黄色ブドウ球菌が産生する細胞外タンパク質を標的とする第一世代のワクチンではもたらされる成果には限界があり(Lee, 1996)、ブドウ球菌感染症を処置するためにさらなる治療用組成物を開発する必要が依然としてある。
【発明の概要】
【0010】
概要
感染症の間、黄色ブドウ球菌は2つのコアグラーゼCoaおよびvWbpを分泌し、これが宿主プロトロンビンおよびフィブリノゲンとの会合によって、可溶性フィブリノゲンを不溶性フィブリンに変換し、フィブリン凝塊の形成を誘導し、ブドウ球菌疾患の確立を可能にする。CoaおよびvWbpは、ブドウ球菌の凝固および凝集にとって重要な因子であり、マウスにおける黄色ブドウ球菌膿瘍形成および致死菌血症の発病の促進にとって重要な因子である。本明細書で、本発明者らは、CoAのRドメインを有するポリペプチドをワクチンとして使用できること、およびCoAのRドメインに対して作製された抗体が多くの異なる血清型を認識し、MRSA分離株によって引き起こされる血流感染症からの広域防御を提供できることを実証する。さらに、Coaおよび/またはvWbpのD1ドメインに向けられた本明細書において記述される抗体も、感染症からの防御を提供する。黄色ブドウ球菌は、米国での菌血症および院内感染症の最多原因である。ブドウ球菌疾患を予防するFDAに認可されたワクチンは、現在のところ使用できない。
【0011】
ある種の態様において、ブドウ球菌感染症を阻害、改善、および/または予防する抗体組成物が存在する。
【0012】
ある種の態様は、ブドウ球菌感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、ブドウ球菌感染症を阻害する方法であって、ブドウ球菌Coaポリペプチドに特異的に結合するCoa結合ポリペプチドの有効量を対象に投与する段階を含む、方法に指向されている。いくつかの態様において、本方法は、2種類またはそれ以上のCoa結合ポリペプチドの有効量を投与する段階をさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、対象に抗生物質またはブドウ球菌ワクチン組成物を投与する段階をさらに含む。他の態様には、ブドウ球菌感染症を有する対象またはブドウ球菌感染症を有すると判定された対象を処置するための方法がある。さらなる態様には、ブドウ球菌感染症を予防するための方法がある。
【0013】
いくつかの局面において、Coa結合ポリペプチドはブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1に特異的に結合する。他の局面において、Coa結合ポリペプチドはブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン2に特異的に結合する。いくつかの局面において、Coa結合ポリペプチドはブドウ球菌CoaポリペプチドのRドメインに特異的に結合する。さらなる態様において、Coa結合ポリペプチドはブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1およびドメイン2の両方の領域に特異的に結合する。
【0014】
ある種の態様は、以下のいずれかによってコードされるポリペプチドにおけるエピトープに特異的に結合するCoa結合ポリペプチドに指向されている: (1) SEQ ID NO: 1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメイン; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数。ある種の局面において、Coa結合ポリペプチドは、SEQ ID NO: 1~8のいずれかによってコードされるポリペプチドのアミノ酸番号1~149、150~282、または1~282におけるエピトープに特異的に結合する。ある種の局面において、Coa結合ポリペプチドは、黄色ブドウ球菌Newmanのアミノ酸番号470~605におけるエピトープに特異的に結合する。ある種の局面において、エピトープは、本明細書において提供されるもしくは本明細書において提供される配列のいずれかによってコードされる、配列のいずれか由来の少なくとも6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200個、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)の連続アミノ酸を含むか、あるいは本明細書において提供されるもしくは本明細書において提供される配列のいずれかによってコードされる、配列のいずれか由来の多くても6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200個、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)の連続アミノ酸を有する。
【0015】
特定の態様において、Coa結合ポリペプチドは、5D5.4または3B3.14モノクローナル抗体と、ブドウ球菌Coaポリペプチドの結合について競合する。さらなる態様において、モノクローナル抗体は3B3.14または5D5.4である。いくつかの態様において、Coa結合ポリペプチドは、ELISAによって測定した場合に約0.5~20 nM-1、1.0~10 nM-1、または1.0~6.0 nM-1のブドウ球菌Coaポリペプチドに対する結合定数を有する。ある種の態様において、Coa結合ポリペプチドは、ELISAによって測定した場合に約0.5~20 nM-1または1.0~10 nM -1のブドウ球菌Coaドメイン1~2またはRドメインに対する結合定数を有する。
【0016】
Coa結合ポリペプチドは、ブドウ球菌由来のCoaタンパク質を特異的に結合する任意のポリペプチドでありうる。ある種の態様において、Coa結合ポリペプチドは、精製されたモノクローナル抗体または精製されたポリクローナル抗体である。ポリペプチドは、例えば、単一のドメインである抗体、ヒト化されている抗体、またはキメラである抗体でありうる。いくつかの態様において、2種類またはそれ以上のCoa結合ポリペプチド(例えば、2種類またはそれ以上の精製されたモノクローナル抗体または精製されたポリクローナル抗体)が対象に投与されうる。ある種の局面において、Coa結合ポリペプチドは組換え体である。他の態様において、1種類または複数種類の化学的修飾または部分の付加のような、ポリペプチドに対する化学的修飾が存在しうる。
【0017】
Coa結合ポリペプチドがブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1~2に特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCDRドメインを含む態様が提供される。Coa結合ポリペプチドがブドウ球菌CoaポリペプチドのRドメインに特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCDRドメインを含む態様が提供される。特定の態様において、Coa結合ポリペプチドは、5D5.4および3B3.14モノクローナル抗体のVHまたはVLドメインの中からの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれ以上のCDRドメインを含む。ある種の局面において、Coa結合ポリペプチドは5D5.4および3B3.14モノクローナル抗体のVHまたはVLドメインの中からの6つのCDRドメインを含む。いくつかの態様において、Coa結合ポリペプチドは、5D5.4または3B3.14モノクローナル抗体のVHまたはVLドメインと少なくともまたは多くても70%、75%、80%、85%、90%、95%、もしくは99% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である配列を含む。Coa結合ポリペプチドが5D5.4もしくは3B3.14モノクローナル抗体のVHドメインおよび/または5D5.4もしくは3B3.14モノクローナル抗体のVLドメインを含む態様が提供される。さらなる態様において、モノクローナル抗体は5D5.4または3B3.14である。
【0018】
いくつかの態様において、Coa結合ポリペプチドは、ブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1~2に特異的に結合するCoa結合ポリペプチド由来の1つまたは複数のCDRドメイン、および、免疫グロブリン、フィブロネクチン、または黄色ブドウ球菌プロテインZからなる群より選択されるポリペプチド由来の足場を含む。
【0019】
いくつかの態様において、Coa結合ポリペプチドは、ブドウ球菌CoaポリペプチドのRドメインに特異的に結合するCoa結合ポリペプチド由来の1つまたは複数のCDRドメイン、および、免疫グロブリン、フィブロネクチン、または黄色ブドウ球菌プロテインZからなる群より選択されるポリペプチド由来の足場を含む。
【0020】
Coa結合ポリペプチドは第二のCoa結合ポリペプチドに機能的に結合されうる。いくつかの局面において、第一および第二のCoa結合ペプチドは組換えにより機能的に結合される。他の局面において、第一および第二のCoa結合ペプチドは化学的に機能的に結合される。
【0021】
Coa結合ポリペプチドが約、少なくとも約、または多くても約0.1 mg/kg~5 mg/kg、1 mg/kg~5 mg/kg、0.1 mg/kg~1 mg/kg、もしくは2 mg/kg~5 mg/kg (またはその中から派生する任意の範囲)の用量で投与される態様が提供される。
【0022】
複数の態様によって、ブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1~2に特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCoa結合ポリペプチドCDRドメインを含む、精製されたポリペプチドも提供される。ある種の態様において、Coa結合ポリペプチドは、5D5.4または3B3.14モノクローナル抗体と、ブドウ球菌Coaポリペプチドの結合について競合する。ある種の局面において、ポリペプチドは、ELISAによって測定した場合に約0.1~20 nM-1、0.5~10 nM-1、または1.0~10 nM-1のブドウ球菌Coaポリペプチドに対する結合定数を有する。ポリペプチドは、例えば、単一ドメイン抗体Coa結合ポリペプチド、ヒト化抗体、またはキメラ抗体を含みうる。
【0023】
ある種の態様において、ポリペプチドは組換え体である。ある種の局面において、組換えポリペプチドは、5D5.4または3B3.14モノクローナル抗体のVHまたはVLドメイン由来の1つまたは複数のCDRドメインの少なくとも90%、95%、または99%を含む。いくつかの態様において、組換えポリペプチドは、5D5.4および/または3B3.14モノクローナル抗体のVHまたはVLドメイン由来の2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、またはそれ以上のCDRドメインを含む。
【0024】
いくつかの態様において、組換えポリペプチドは、(i) 5D5.4の可変軽鎖由来のCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3; ならびに/または(ii) 5D5.4の可変重鎖由来のCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3を含む。いくつかの態様において、組換えポリペプチドは、(i) 3B3.14の可変軽鎖由来のCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3; ならびに/または(ii) 3B3.14の可変重鎖由来のCDR1、CDR2、および/もしくはCDR3を含む。これらのCDRの配列は以下の通りである。
【0025】
(表1)5D5.4および3B3.14モノクローナル抗体のCDR配列
【0026】
いくつかの態様には、ブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1~2に特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCoa結合ポリペプチドCDRドメインを含む精製されたポリペプチドがある。いくつかの態様には、ブドウ球菌CoaポリペプチドのRドメインに特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCoa結合ポリペプチドCDRドメインを含む精製されたポリペプチドがある。上記に示す通り、ポリペプチドはCoa抗体の軽鎖および/または重鎖可変領域由来の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つのCDRを含みうる。表1は、2種類の異なるCoa抗体ならびに軽鎖および重鎖可変領域の両方由来のそのCDR1、CDR2、およびCDR3配列を提供する。ある種の態様において、ポリペプチドは特定の抗体の軽鎖可変領域由来のCDR1、CDR2、および/またはCDR3を含む。いくつかの態様においてポリペプチドは、軽鎖の可変領域および/または重鎖の可変領域由来のCDR1、CDR2、およびCDR3を有するが、そのCDR1、CDR2、およびCDR3は同じ抗体由来である必要はないことが企図される。アミノ酸配列の重複を考慮すると、いくつかのポリペプチドが同じ抗体由来のまたは同じ抗体に基づくCDR1、CDR2、およびCDR3を有するが、ある抗体由来のCDR1が別の抗体由来のまたは別の抗体に基づくCDRと置換されてもよい。例えば、ポリペプチドは5D5.4の軽鎖可変領域由来のまたは5D5.4の軽鎖可変領域に基づくCDR1、3B3.14の軽鎖可変領域由来のまたは3B3.14の軽鎖可変領域に基づくCDR2を含みうるが、しかし5D5.4の可変軽鎖領域由来のまたは5D5.4の可変軽鎖領域に基づくCDR3を有しうる。しかしながら、単一系列のCDR1、CDR2、およびCDR3群がともに用いられる場合、それらは全て軽鎖可変領域由来または重鎖可変領域由来であるが、しかしその両方由来の混合物ではないことが一般に企図される。
【0027】
あるいは、ポリペプチドは、Coa抗体の軽鎖可変領域由来のCDR1配列である、SEQ ID NO:12および18に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:12および18に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:12および18に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるCDR1配列を含みうる。あるいはまたはさらに、ポリペプチドは、Coa抗体の軽鎖可変領域由来のCDR2配列である、SEQ ID NO:13および19に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:13および19に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:13および19に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるCDR2配列を含みうる。あるいはまたはさらに、ポリペプチドは、Coa抗体の軽鎖可変領域由来のCDR3配列である、SEQ ID NO:14および20に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:14および20に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:14および20に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるCDR3配列を含みうる。あるいはまたはさらに、ポリペプチドは、Coa抗体の重鎖可変領域由来のCDR1配列である、SEQ ID NO:9および15に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:9および15に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:9および15に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるCDR1配列を含みうる。あるいはまたはさらに、ポリペプチドは、Coa抗体の重鎖可変領域由来のCDR2配列である、SEQ ID NO:10および16に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:10および16に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:10および16に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるCDR2配列を含みうる。あるいはまたはさらに、ポリペプチドは、Coa抗体の重鎖可変領域由来のCDR3配列である、SEQ ID NO:11および17に記載の全配列と70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、SEQ ID NO:11および17に記載の全配列と多くても70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一であるか、またはSEQ ID NO:11および17に記載の全配列と少なくとも70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100% (もしくはその中から派生する任意の範囲)同一である、CDR3配列を含みうる。
【0028】
他の態様によって、ブドウ球菌Coaポリペプチドのドメイン1~2にまたはRドメインに特異的に結合する抗体由来の1つまたは複数のCDRドメイン、および、免疫グロブリン、フィブロネクチン、または黄色ブドウ球菌プロテインZからなる群より選択されるポリペプチド由来の足場を含む組換えポリペプチドが提供される。任意のポリペプチドが、治療部分または検出可能な部分のような作用物質または物質に付着されうる、融合されうる、または結合されうることがさらに企図される。
【0029】
ある種の局面において、組換えポリペプチドは、第二のブドウ球菌タンパク質に特異的に結合する組換えポリペプチドに機能的に結合される。
【0030】
他の態様において、ポリペプチドは、(a) VH領域ならびにIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ由来のヒトヒンジ、CH1、CH2、およびCH3領域を含む、重鎖と; (b) VL領域およびヒトκCLまたはヒトλCLのどちらかを含む軽鎖とを含む抗体である。
【0031】
ある種の態様によって、ブドウ球菌Coaポリペプチドに特異的に結合し、5D5.4または3B3.14モノクローナル抗体である、精製されたモノクローナル抗体が提供される。
【0032】
いくつかの局面において、精製されたポリペプチドは、5D5.4または3B3.14であるマウスモノクローナル抗体からなることはない。他の態様において、精製されたポリペプチドは、単離されたマウスモノクローナル抗体ではない。
【0033】
他の態様によって、1種類または複数種類の精製されたCoa結合ポリペプチドを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの態様において、薬学的組成物は、密閉容器中の単回単位用量の精製されたポリペプチドを提供する。薬学的組成物は、抗生物質、ブドウ球菌ワクチン組成物、または第二のブドウ球菌タンパク質に特異的に結合するポリペプチドを含むが、これらに限定されない、少なくとも第二の抗菌物質を含みうる。
【0034】
ある種の態様によって、Coa結合ポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチドが提供される。
【0035】
他の態様によって、発現制御配列に機能的に連結されたCoa結合ポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターが提供される。いくつかの態様によって、発現ベクターを含む宿主細胞が提供される。
【0036】
複数の態様によって、宿主細胞において、発現制御配列に機能的に連結されたポリペプチドをコードする核酸配列を発現させる段階を含む、Coa結合ポリペプチドを製造するための方法も提供される。
【0037】
複数の態様によって、細菌感染症および/またはブドウ球菌感染症の処置のための方法および組成物におけるCoa抗体の使用も提供される。ある種の態様において、組成物は、細菌感染症、特にブドウ球菌感染症の治療的および/または予防的処置のための薬物の製造において用いられる。さらに、いくつかの態様には、細菌感染症を処置するために(例えば、対象におけるブドウ球菌膿瘍の形成および/もしくは持続を制限するために)または予防するために用いられうる方法および組成物がある。
【0038】
ある種の局面は、Coaポリペプチドを特異的に結合する1つまたは複数の精製された抗体の有効量を、ブドウ球菌感染症を有するまたは有すると疑われる対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌感染症または膿瘍形成を減少させる方法に指向されている。抗体は、精製されたポリクローナル抗体、精製されたモノクローナル抗体、組換えポリペプチド、またはその断片でありうる。ある種の局面において、抗体はヒト化されたものまたはヒトのものである。さらなる局面において、抗体は組換え抗体セグメントである。ある種の局面において、モノクローナル抗体は5D5.4または3B3.14の1つまたは複数を含む。抗体は、0.1、0.5、1、5、10、50、100 mgもしくはμg/kg~5、10、50、100、500 mgもしくはμg/kgの用量またはその中から派生する任意の範囲の用量で投与されうる。組換え抗体セグメントは、第二の組換え抗体セグメントに機能的に結合されうる。ある種の局面において、第二の組換え抗体セグメントは第二のブドウ球菌タンパク質を結合する。本方法は、第二のブドウ球菌タンパク質を結合する第二の抗体を投与する段階をさらに含むことができる。ある種の局面において、本方法は抗生物質を投与する段階をさらに含む。
【0039】
複数の態様は、モノクローナル抗体ポリペプチド、その1つまたは複数のセグメントを有するポリペプチド、およびそれらをコードするポリヌクレオチドに指向されている。ある種の局面において、ポリペプチドは、Coa特異的抗体の重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の全部または一部を含むことができる。さらなる局面において、ポリペプチドは、Coa特異的抗体の軽鎖可変鎖および/または重鎖可変鎖由来の第1、第2および/または第3の相補性決定領域(CDR)に対応するアミノ酸配列を含むことができる。
【0040】
さらなる局面において、複数の態様により、これらの態様のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株が提供される。複数の態様において、ハイブリドーマ細胞株は、5B5.4または3B3.14モノクローナル抗体を産生する株である。さらなる局面において、mAbの軽鎖および/または重鎖可変領域由来の1つ、2つ、および/または3つのCDRがヒト化抗体またはその変種において含まれることができる。
【0041】
本開示のさらなる局面は、ブドウ球菌コアグラーゼRドメインまたはそのセグメントを含むポリペプチドを含む免疫原性組成物に関する。例えば、Rドメインは、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80、85、90、95、98、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなることができる。いくつかの局面において、ブドウ球菌コアグラーゼRドメインは、完全長より短いコアグラーゼタンパク質に含まれる。例えば、Rドメインは、完全長より短いCoaタンパク質(例えば、L、1、または2ドメインセグメントの全部または一部を欠くCoaタンパク質)に含まれることができる。いくつかの局面において、Rドメインは、分泌シグナル配列が除去されたRドメインセグメント/断片である。いくつかの局面において、Rドメインは、Rドメイン由来の少なくとも1つのリピート要素を含むRドメインセグメント/断片である。いくつかの局面において、Rドメインは、Rドメイン由来の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12個のリピート要素を含むRドメインセグメント/断片(Rリピートともいわれる)を含む。いくつかの態様において、Rドメインは、完全なRドメインまたはタンデム単位で繰り返されるセグメント/断片である。いくつかの態様において、完全なRドメインまたはセグメントは、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のタンデム単位 (またはその中から派生する任意の範囲)で繰り返される。ある種の態様において、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインまたはそのセグメントを含む免疫原性組成物が提供される。例えば、組成物は、ブドウ球菌Coaタンパク質由来の少なくとも1つのブドウ球菌Rドメイン(またはそのセグメント/断片)を含むことができる。いくつかの態様において、免疫原性組成物は、少なくとも1つのRドメインを含む。いくつかの態様において、免疫原性組成物は、少なくとも2つのRドメインを含む。いくつかの態様において、免疫原性組成物は、少なくとも2つの異なるRドメインを含む。いくつかの態様において、Rドメイン(またはセグメント)は、完全長より短いコアグラーゼタンパク質に含まれる。ある種の局面において、Rドメインの配列は、Rドメインのアミノ酸配列(
図1A, 例えば、黄色ブドウ球菌Newmanのアミノ酸番号470~605)と少なくとも80%同一であるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。Rドメインの配列は本明細書において記述されている。ある種の局面において、Rドメインの配列は、本明細書において記述されるRドメインのアミノ酸配列と少なくとも85、90、95、98、99、または100%同一であるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。いくつかの態様において、Rドメインは、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインのアミノ酸配列と; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片のアミノ酸配列と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数のアミノ酸配列と、少なくとも85%、90%または95%同一である。いくつかの態様において、Rドメインは、SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101、またはそのセグメント/断片のRドメインのアミノ酸配列と少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である。さらなる局面において、Rドメインの少なくとも1つは、完全長より短いコアグラーゼタンパク質配列に含まれる。特定の態様において、完全長コアグラーゼタンパク質は、SEQ ID NO:1、2、3、4、5、6、7、8、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、または38の配列を含むCoaタンパク質である。さらなる局面において、完全長より短いCoaタンパク質は、Lドメインセグメントの全部または一部を欠く。
【0042】
上記に定義された態様において論じられたものを含むポリペプチドまたは本開示、ならびに抗体ポリペプチド、ブドウ球菌コアグラーゼポリペプチド、Rドメイン、およびRドメインセグメント/断片は、本明細書において記述されるポリペプチド配列と少なくとも、多くても、または正確に10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、45、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80 85、90、95、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、200個 (またはその中から派生する任意の範囲)の連続アミノ酸である配列を含んでもよく、別のポリペプチドと少なくとも70、75、80、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一であってもよく、かつ/あるいは連続ポリペプチドは、本明細書において記述される連続アミノ酸配列と少なくとも70、75、80、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一であってもよい。
【0043】
ある種の態様において、ブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(またはそのセグメント)の1つは、黄色ブドウ球菌Newman、85/2082、MW2、MSSA476、N315、Mu50、MRSA252、CowanI、WIS、もしくはUSA300株、またはその他任意の黄色ブドウ球菌株由来のコアグラーゼタンパク質に由来する。
【0044】
ある種の態様において、ブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(またはそのセグメント)の1つは、優性黄色ブドウ球菌系列ST5、ST8、ST22、ST30、ST45、ST239のうちの1つから採取された優性Coaの1つに由来する。
【0045】
いくつかの局面において、Rドメインの1つは、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%同一のCoa Rドメインを含む。さらなる局面において、Rドメインの1つは、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも85、90、95、98、99% (またはその中から派生する任意の範囲)同一のCoa Rドメインを含む。
【0046】
ある種の態様において、Rドメインの1つは、ブドウ球菌Coaタンパク質由来のL、1 (D1)、または2 (D2)ドメインをさらに含むCoa Rドメインである。ある種の態様において、ポリペプチドおよび/または免疫原性組成物は、Lドメインを含まない。ある種の態様において、ポリペプチドおよび/または免疫原性組成物は、D1およびまたはD2ドメインを含まない。
【0047】
いくつかの局面において、免疫原性組成物は、少なくとも3つ、4つ、または5つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含むか、またはそれからなる。さらなる局面において、免疫原性組成物は、少なくとも4つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む。特定の態様において、少なくとも4つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインは、MRSA252、MW2、N315、およびUSA300株由来のブドウ球菌Coa Rドメインである。特定の態様において、少なくとも4つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインは、ST5、ST8、ST22、およびST239由来のブドウ球菌Coa Rドメインである。特定の態様において、少なくとも4つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインは、ST5、ST8、ST22、ST30、ST45、および/またはST239由来のブドウ球菌Coa Rドメインである。いくつかの態様において、免疫原性組成物は、融合タンパク質に含まれる少なくとも2つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む(すなわち、2つのRドメインは同じポリペプチド上にある)ことが企図される。いくつかの態様において、ポリペプチドは、1つまたは複数のRドメインまたはRドメインセグメント/断片を含み; ポリペプチドは、Rドメインまたはそのセグメント/断片の前に、後に、および/または間に1つのポリペプチドリンカーを含む。
【0048】
複数の態様には、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む組換えポリペプチドが含まれる。いくつかの態様において、組換えポリペプチドは、少なくとも2つの異なるRドメインを含む。Rドメインの配列は、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%同一である。いくつかの局面において、Rドメインの配列は、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも85、90、95、98、99% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である。いくつかの態様において、Rドメインは、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインのアミノ酸配列と; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片のアミノ酸配列と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数のアミノ酸配列と、少なくとも80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である。
【0049】
さらなる態様において、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインまたはセグメント/断片をコードする配列を含む組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含むポリヌクレオチド分子が企図される。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド分子は、少なくとも2つの異なるRドメインをコードする核酸配列を含む。さらなる局面において、発現ベクターは、発現制御配列に機能的に連結された核酸配列を含む。さらなる局面において、発現ベクターを含む宿主細胞もまた企図される。
【0050】
複数の態様には、対象におけるブドウ球菌感染症を処置または予防するための、本開示の全体にわたって記述される組成物、ポリペプチド、組換えポリペプチド、免疫グロブリン調製物、ポリヌクレオチド分子、および発現ベクターの使用が含まれる。いくつかの局面において、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む組成物は、ブドウ球菌感染症を処置または予防するために用いられる。いくつかの態様において、組成物は、少なくとも2つの異なるRドメインを含む。Rドメインの配列は、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、Rドメインの少なくとも1つは、切断型コアグラーゼタンパク質配列である。
【0051】
複数の態様には、本明細書において記述されるRドメインおよびRドメイン断片/セグメントなどのブドウ球菌コアグラーゼまたはその免疫原性セグメントを含む免疫原性組成物を投与する段階を含む、ブドウ球菌感染症を予防または処置する方法が含まれる。
【0052】
ある種の態様は、本明細書において記述されるRドメインまたはRドメインセグメント/断片を含むポリペプチドなどのコアグラーゼポリペプチドのポリペプチドでレシピエントを免疫する段階、および、レシピエントから免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染症の予防または処置に用いるための免疫グロブリンを調製する方法に指向されている。
【0053】
1つの態様において、本開示のワクチン、ポリペプチド、または免疫原性組成物でレシピエントを免疫して、レシピエントから抗体産生細胞を単離する段階、単離された細胞を骨髄腫細胞と融合させる段階、ならびに融合させた細胞から免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染症の予防または処置に用いるための免疫グロブリンを調製する方法がある。いくつかの態様において、抗体産生細胞は、脾臓、末梢血、またはリンパ節細胞を含む。いくつかの態様において、本方法は、単離された免疫グロブリンを配列決定する段階をさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、抗原への結合について、単離された免疫グロブリンを試験する段階をさらに含み、抗原は、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメイン; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数を含む。
【0054】
さらなる態様は、本明細書において記述される方法によって調製された免疫グロブリンに指向されている。
【0055】
さらなる態様は、ポリペプチドに特異的に結合する免疫グロブリンであって、該ポリペプチドが、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメイン; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数を含む、免疫グロブリンに指向されている。免疫グロブリンによって特異的に認識されるポリペプチドは、本開示の全体にわたって記述されるポリペプチドでありうる。
【0056】
さらなる態様は、本明細書において記述されるRドメインおよび/またはRドメイン断片/セグメントに結合する免疫グロブリンの薬学的調製物の有効量を対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌感染症の処置または予防のための方法に指向されている。
【0057】
他の態様は、ブドウ球菌感染症の処置または予防のための薬物の製造におけるコアグラーゼ免疫グロブリンの薬学的調製物の使用に指向されている。
【0058】
さらなる態様には、SEQ ID NO:1~8、22~55、もしくは85~101に記載されるRドメインおよび/もしくはRドメインセグメント/断片またはその断片、あるいは本明細書において記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドなどの本明細書において記述される単離されたポリペプチドを有する薬学的に許容される組成物であって、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激できる、組成物を含むワクチンが含まれる。ワクチンは、本明細書において記述される単離されたポリペプチド、または本開示の全体にわたって記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドを含みうる。本発明のある種の局面において、単離されたポリペプチド、または記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドは多量体化され、例えば、二量体化または鎖状体化される。さらなる局面において、ワクチン組成物には約10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0.25、0.05% (またはその中から派生する任意の範囲)未満の他のブドウ球菌タンパク質が混入している。組成物は、単離された非コアグラーゼポリペプチドをさらに含みうる。典型的には、ワクチンはアジュバントを含む。ある種の局面において、本発明のタンパク質またはペプチドはアジュバントに(共有結合的にまたは非共有結合的に)連結され、好ましくは、アジュバントはタンパク質に化学的にコンジュゲートされる。
【0059】
さらなる態様において、ワクチン組成物は、全部もしくは一部の本明細書において記述されるポリペプチド、または本明細書において記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドをコードする組換え核酸を有し、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激できる、薬学的に許容される組成物である。ワクチン組成物は、全部もしくは一部の本開示のポリペプチド、または本明細書において記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドをコードする組換え核酸を含みうる。ある種の態様において、組換え核酸は異種プロモーターを含む。好ましくは、組換え核酸はベクターである。より好ましくは、ベクターはプラスミドまたはウイルスベクターである。いくつかの局面において、ワクチンは、該核酸を含む組換え非ブドウ球菌を含む。組換え非ブドウ球菌はサルモネラ菌(Salmonella)または別のグラム陽性細菌でありうる。ワクチンは薬学的に許容される賦形剤、より好ましくはアジュバントを含みうる。
【0060】
いくつかの態様において、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインポリペプチドを担体と混合する段階を含む、免疫原性組成物を製造する方法が企図される。いくつかの態様において、本方法は、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、または10個の異なる(異なるアミノ酸配列を有する) Rドメインを混合する段階を含む。Rドメインの配列は、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、Rドメインの少なくとも1つは、切断型コアグラーゼタンパク質配列である。
【0061】
いくつかの態様において、Rドメインは、完全長Coaタンパク質ではないか、または完全長より短いCoaタンパク質を含む。いくつかの態様において、Rドメイン(またはその断片)は、少なくとも、多くても、または正確に15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、もしくは300個 (またはその中から派生する任意の範囲)のアミノ酸を含む。いくつかの態様において、Rドメインは、黄色ブドウ球菌細胞の天然形態(すなわち細菌産生形態)では存在しない翻訳後修飾を含む。いくつかの態様において、ポリペプチドは真核細胞において産生される。
【0062】
いくつかの態様において、ポリペプチドは、ミリストイル化、パルミトイル化、イソプレニル化もしくはプレニル化、ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化、グリピレート化、アシル化、アセチル化、ホルミル化、アルキル化、メチル化、アミド結合形成、C末端でのアミド化、アルギニル化、ポリグルタミル化、ポリグリシル化、ブチリル化、グリコシル化、糖化、ポリシアル化、マロニル化、ヒドロキシル化、ヨウ素化、リン酸化、アデニリル化、プロピオニル化、S-グルタチオニル化、S-ニトロシル化、S-スルフェニル化(別名S-スルフェニル化)、スクシニル化、硫酸化、ビオチン化、ペグ化、SUMO化、ユビキチン化、NEDD化、Pup化、ジスルフィド架橋、またはラセミ化のような1つまたは複数の翻訳後修飾を有するかまたは欠く。
【0063】
複数の態様には、細菌感染症および/またはブドウ球菌感染症の処置のための方法および組成物における、本明細書において記述される少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインの使用が含まれる。さらに、ある種の態様は、細菌感染症の処置(例えば、対象におけるブドウ球菌性膿瘍形成および/または存続の制限)または予防のために使用できる方法および組成物を提供する。場合によっては、免疫反応を刺激するための方法は、本明細書において記述される免疫原性組成物およびある種の局面では他の細菌タンパク質の有効量を、対象に投与する段階を含む。他の細菌タンパク質には、(i) 分泌病毒性因子および/または細胞表面タンパク質もしくはペプチド、あるいは(ii) 分泌病毒性因子および/または細胞表面タンパク質もしくはペプチドをコードする組換え核酸分子が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0064】
ある種の局面は、本開示のポリペプチドに特異的に結合する精製された抗体またはポリペプチドの有効量を、ブドウ球菌感染症を有する対象または有すると疑われる対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌感染症を有する対象または有すると疑われる対象を処置する方法に指向されている。
【0065】
さらなる局面において、方法は、ブドウ球菌の感染の前に本開示のポリペプチドに結合する抗体の有効量を、ブドウ球菌感染症のリスクがある対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌感染症のリスクがある対象の処置に指向されている。
【0066】
ある種の態様は、上記のペプチドセグメントに特異的に結合する単離および/または組換え抗体またはポリペプチドを含む、抗体または結合ポリペプチド組成物に指向されている。ある種の局面において、抗体またはポリペプチドは、本明細書において提供されるいずれかのモノクローナル抗体の全部または一部と、80、85、90、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である配列、少なくとも80、85、90、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である配列、あるいは多くても80、85、90、95、96、97、98、99、もしくは100% (またはその中から派生する任意の範囲)同一である配列を有する。
【0067】
さらなる態様には、本明細書において論じられる1つまたは複数のポリペプチド、免疫原性組成物、または抗体もしくは抗体断片を含む、薬学的組成物がある。そのような組成物はさらなる活性成分を含有してもまたは含有しなくてもよい。
【0068】
ある種の態様には、本明細書において論じられる1つまたは複数の抗体もしくは抗体断片、ポリペプチド、または免疫原性組成物を含むポリペプチドから本質的になる、薬学的組成物がある。組成物は非活性成分を含有してもよいものと企図される。
【0069】
他の局面は、有効な抗菌量の、上記ペプチドに特異的に結合する抗体および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物に指向されている。
【0070】
「提供する」という用語は、その通常の意味にしたがって「使用のために供給するまたは与えること」を示すように用いられる。いくつかの態様において、タンパク質は、本明細書において記述される抗体またはその断片を含む組成物を投与することによって直接的に提供される。
【0071】
対象は、典型的には、ブドウ球菌感染症を有する(例えば、持続性ブドウ球菌感染症と診断されている)か、ブドウ球菌感染症を有することが疑われるか、またはブドウ球菌感染症を発症するリスクがある。いくつかの態様において、対象は、ブドウ球菌感染症と診断されているか、ブドウ球菌感染症に対して以前に処置されているか、ブドウ球菌感染症の前処置に対して耐性であると判定されているか、免疫不全であるか、免疫無防備状態であるか、入院しているか、侵襲的な医療処置を受けているか、呼吸器感染症を有するか、インフルエンザウイルスに感染しているか、または人工呼吸器を装着している。
【0072】
組成物には、ブドウ球菌感染症の処置または防御という意図された目的を達成するのに有効な量で、Coa結合ポリペプチドが含まれる。「結合ポリペプチド」という用語は、抗原への抗体の結合などの標的分子に特異的に結合するポリペプチドをいう。結合ポリペプチドは、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片に由来してもよいが、由来しなくてもよい。より具体的には、有効量とは、感染症に対する耐性、感染症の改善、または感染症の緩和をもたらすのに必要な活性成分の量を意味する。より具体的な局面において、有効量は、疾患もしくは感染症の症状を阻止、軽減、もしくは改善するか、または処置される対象の生存を引き延ばす。有効量の決定は十分に、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。本明細書において記述される方法において用いられるどの調製物についても、有効な量または用量は、インビトロアッセイ法、細胞培養アッセイ法、および/または動物モデルアッセイ法から最初に推定することができる。例えば、所望の反応を達成するため、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定することができる。
【0073】
組成物は、Coaに結合する抗体を含むことができる。抗体は、抗体断片、ヒト化抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体などであることができる。ある種の局面において、Coa抗体は、対象においてCoaに結合する抗体の産生をもたらすCoaペプチドまたは抗原またはエピトープを提供することによって誘発される。Coa抗体は、典型的には、薬学的に許容される組成物に製剤化される。Coa抗体組成物は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、もしくは19種類、またはそれ以上のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片をさらに含むことができる。ブドウ球菌抗原、または免疫原性断片もしくはセグメントをCoa抗体と同時に投与することができる。ブドウ球菌抗原または免疫原性断片およびCoa抗体を、同じまたは異なる組成物中でかつ同じまたは異なる時点で投与することができる。組成物は、黄色ブドウ球菌の複数株由来のCoaポリペプチドに結合する複数(例えば、2、3、4種類、またはそれ以上)のCoa抗体を含みうる。
【0074】
Coa抗体組成物は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、もしくは19種類、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片に対する抗体、抗体断片、または抗体細断片をさらに含むことができる。他のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片に対する抗体、抗体断片または抗体細断片をCoa抗体と同時に投与することができる。他のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片に対する抗体、抗体断片、または抗体細断片を、Coa抗体と同じまたは異なる組成物中でかつ同じまたは異なる時点で投与することができる。
【0075】
他の局面において、対象に、本明細書において記述される免疫原性組成物、組換えポリペプチド、またはベクターを投与することができる。組換えポリペプチドまたはベクターは、薬学的に許容される組成物に製剤化することができる。
【0076】
ブドウ球菌抗原または免疫原性断片は、少なくとも1つのコアグラーゼRドメインを含む免疫原性組成物、少なくとも1つのRドメインを含む組換えポリペプチド、および/または本明細書において記述される少なくとも1つのRドメインをコードする核酸配列を含むベクターと同時に投与することができる。ブドウ球菌抗原または免疫原性断片は、少なくとも1つのRドメインを含む免疫原性組成物、少なくとも1つのRドメインを含む組換えポリペプチド、および/または本明細書において記述される少なくとも1つのRドメインをコードする核酸配列を含むベクターと同じ組成物中で投与することができる。本明細書において用いられる場合、「調節する」または「調節」という用語は「増強する」または「阻害する」という単語の意味を包含する。活性の「調節」は、活性の増大または減少のいずれかでありうる。本明細書において用いられる場合、「調節因子」という用語は、タンパク質、核酸、遺伝子、生物などの上方制御、誘導、刺激、増強、阻害、下方制御、または抑制を含む、部分の機能に効果を及ぼす化合物をいう。
【0077】
組換え核酸分子は、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン、および少なくとも1つのブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片をコードすることができる。特定の局面において、ブドウ球菌コアグラーゼRドメインは、Rドメインのアミノ酸配列と少なくとも80%同一のCoa Rドメインである。特定の態様において、コアグラーゼタンパク質は、SEQ ID NO: 1~8もしくは22~38の配列またはその断片を含むCoaタンパク質である。いくつかの態様において、Rドメインは、SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101の配列、またはその断片を含む。いくつかの態様において、Rドメインは、1つまたは複数のSEQ ID NO:57~62またはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片を含む。
【0078】
いくつかの態様において、RドメインはX
d:
のアミノ酸配列を含み; いくつかの態様において、RドメインポリペプチドはX
a、X
b、および/またはX
cのアミノ酸配列を含みまたはさらに含み、X
aは
であり; X
bは
であり; かつX
cは
である。いくつかの態様において、RドメインはX
aX
bX
cX
dのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、RドメインはX
a、X
b、X
c、および/またはX
dの1つまたは複数を含む。いくつかの態様において、Rドメインは1つまたは複数のタンデムリピートX
a、X
b、X
c、および/またはX
d要素を含む。
【0079】
いくつかの態様において、RドメインはX
h:
のアミノ酸配列を含み; いくつかの態様において、RドメインポリペプチドはX
e、X
f、および/またはX
gのアミノ酸配列を含み、またはさらに含み、X
eは
であり; X
fは
であり; かつX
gは
である。
【0080】
いくつかの態様において、Rドメイン断片は
のアミノ酸配列を有する1つまたは複数のポリペプチドを含み、配列中、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、およびX
12は任意のアミノ酸である。いくつかの態様において、X
1はプロリンまたはロイシンである。いくつかの態様において、X
2はアルギニン、またはトレオニンである。いくつかの態様において、X
3はフェニルアラニン、グルタミン、またはチロシンである。いくつかの態様において、X
4はアスパラギンまたはリジンである。いくつかの態様において、X
5はプロリンまたはアラニンである。いくつかの態様において、X
6はリジンまたはグルタミン酸である。いくつかの態様において、X
7はヒスチジンまたはアスパラギンである。いくつかの態様において、X
8はアラニン、グルタミン、グリシン、またはアルギニンである。いくつかの態様において、X
9はアスパラギン酸またはアスパラギンである。いくつかの態様において、X
10はトレオニンまたはグルタミンである。いくつかの態様において、X
11はバリンまたはアラニンである。いくつかの態様において、X
12はトレオニンまたはセリンである。ポリペプチドは、SEQ ID NO:61、62、またはSEQ ID NO:102~126のいずれかによって定義される1つまたは複数のセグメントを含みうる。例えば、ポリペプチドは、少なくとも、多くても、または正確に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、もしくは40個 (またはその中から派生する任意の範囲)のセグメントを含むことができ、各セグメントはSEQ ID NO:61、62、またはSEQ ID NO:102~126のいずれかを含む。全て同じ連続ポリペプチド中にあるセグメントは、セグメント間にペプチドリンカーを有していてもよく、またはいずれの連結アミノ酸もなしに結合していてもよい。いくつかの態様において、ポリペプチドは、SEQ ID NO:61、62、またはSEQ ID NO:102~126のいずれかの2~6個のセグメントを含む。さらに、SEQ ID NO:61、62、またはSEQ ID NO:102~126のいずれかによって定義されるRドメイン断片は、本開示の全体にわたって記述されるRドメインまたはRドメイン断片/セグメントを含む任意の態様に関して用いられうることが特に企図される。
【0081】
さらなる局面において、本明細書において記述される少なくとも2つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(またはそのセグメント)を含む単離された組換えポリペプチドは、多量体化されている、例えば二量体化されているか、または2つもしくはそれ以上のポリペプチドもしくはペプチドセグメントの線状融合体である。本開示のある種の局面において、組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれ以上の単離された細胞表面タンパク質またはそのセグメントの多量体または鎖状体を含む。鎖状体は、1つまたは複数のリピートペプチド単位を有する線状ポリペプチドである。少なくとも2つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(またはそのセグメント)は、連続的であることができるか、あるいはスペーサーまたは他のペプチド配列、例えば、1つもしくは複数のさらなる細菌ペプチドによって分離されることができる。
【0082】
ある種の態様には、免疫原性組成物あるいは少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(もしくはそのセグメント)を含む組換えポリペプチドまたはそれをコードする核酸配列を含むベクターの有効量を対象に提供する段階を含む、対象においてブドウ球菌細菌またはブドウ球菌に対する免疫反応を誘発するための方法が含まれる。
【0083】
本開示の態様には、ブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(もしくはそのセグメント)と、特に、Coa Rドメイン(もしくはそのセグメント) (
図1AのRドメインを参照のこと)、または分泌細菌タンパク質もしくは細菌細胞表面タンパク質である第二のタンパク質もしくはペプチドと70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似している配列を含むポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質を含む組成物が含まれる。類似性または同一性は、同一性が好ましいが、当技術分野において公知であり、いくつかの異なるプログラムを用いて、タンパク質(または核酸)が公知の配列に対して配列同一性または類似性を有するかどうかを同定することができる。配列同一性および/または類似性は、Smith & Waterman (1981)の局所配列同一性アルゴリズムを含むがこれに限定されない当技術分野において公知の標準的な技術を用いて、Needleman & Wunsch (1970)の配列同一性アライメントアルゴリズムにより、Pearson & Lipman (1988)の類似性検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータでの実行(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA, Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wis.)により、Devereux et al. (1984)によって記述されているBest Fit配列プログラムにより、好ましくは初期設定を用いて、または検査(inspection)により決定される。好ましくは、同一性の割合は当業者にとって、公知のかつ容易に確認できるアライメントツールを用いることにより算出される。同一性の割合は、本質的には、同一のアミノ酸の数/比較されるアミノ酸の総数×100である。
【0084】
さらなる態様には、(i) 少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(もしくはそのセグメント/断片)、例えば、Coa Rドメイン(
図1AのもしくはSEQ ID NO:1~8のもしくはSEQ ID NO: 22~38のRドメイン; SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; あるいは3参照のこと) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:101~127のRドメイン断片の1つもしくは複数またはその相同体を含む免疫原性組成物; または(ii) 少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインもしくはその相同体を含む組換えポリペプチド; または(iii) 少なくとも1つのブドウ球菌Rドメインもしくはその相同体をコードする配列を含む核酸分子を含む組成物の有効量を対象に投与する段階、あるいは(iv) 本明細書において記述される細菌タンパク質の任意の組み合わせまたは順列で(i)~(iii)のいずれかを投与する段階を含む、ブドウ球菌に対する防御的または治療的免疫反応を対象において刺激するための方法が含まれる。好ましい態様において、組成物はブドウ球菌ではない。ある種の局面において、対象はヒトまたはウシである。いくつかの態様において、対象は哺乳類である。さらなる局面において、組成物は薬学的に許容される製剤に製剤化される。ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌でありうる。
【0085】
さらなる態様には、本明細書において記述される少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン、または本明細書において記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドを有し、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激できる、薬学的に許容される組成物を含むワクチンが含まれる。ワクチンは、本明細書において記述される少なくとも1つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメイン、または記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドを含みうる。ある種の局面において、本明細書において記述される少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン、または記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドは、多量体化、例えば二量体化または鎖状体化される。さらなる局面において、ワクチン組成物には約10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0.25、0.05% (またはその中から派生する任意の範囲)未満の他のブドウ球菌タンパク質が混入している。組成物は、単離された非コアグラーゼポリペプチドをさらに含みうる。典型的には、ワクチンはアジュバントを含む。ある種の局面において、本開示のタンパク質またはペプチドはアジュバントに(共有結合的にまたは非共有結合的に)連結され、好ましくは、アジュバントはタンパク質に化学的にコンジュゲートされる。
【0086】
さらなる態様は、抗原および抗体の結合を試験するための結合アッセイ法を行う段階を含む方法を含み、該抗原は、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメイン; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数に対して、少なくとも80%の同一性を含む。いくつかの態様において、結合アッセイ法はELISA (酵素結合免疫吸着アッセイ法)を含む。他の結合アッセイ法は、当技術分野において公知であり、例えば、ウエスタンブロッティング、競合アッセイ法、捕捉アッセイ法、およびFRETを含む。いくつかの態様において、本方法は、ブドウ球菌感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、試験した抗体を対象に投与することによってブドウ球菌感染症を処置または阻害する段階をさらに含む。いくつかの態様において、本方法は、抗体の濃度を試験する段階、抗体の純度を試験する段階、および黄色ブドウ球菌感染細胞への抗体の結合を試験する段階をさらに含む。
【0087】
さらなる態様において、ワクチン組成物は、本明細書において記述される少なくとも1つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む組換えポリペプチド、または本明細書において記述されるその他任意の組み合わせもしくは順列のタンパク質もしくはペプチドをコードする組換え核酸を有し、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激できる、薬学的に許容される組成物である。ある種の態様において、組換え核酸は異種プロモーターを含む。好ましくは、組換え核酸はベクターである。より好ましくは、ベクターはプラスミドまたはウイルスベクターである。いくつかの局面において、ワクチンは、該核酸を含む組換え非ブドウ球菌を含む。組換え非ブドウ球菌はサルモネラ菌または別のグラム陽性細菌でありうる。ワクチンは薬学的に許容される賦形剤、より好ましくはアジュバントを含みうる。
【0088】
さらなる態様には、本明細書において記述される少なくとも1つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインの組成物、または少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む組換えポリペプチドの有効量を、対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌に対する防御的または治療的免疫反応を対象において刺激するための方法が含まれる。
【0089】
本明細書において記述される組成物および方法のある種の態様において、ブドウ球菌感染症は黄色ブドウ球菌感染症である。いくつかの態様において、ブドウ球菌感染症はメチシリン耐性である。いくつかの態様において、ブドウ球菌感染症はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)である。
【0090】
ある種の局面において、本開示の組成物を送達する細菌は、長期間または持続的な増殖または膿瘍形成に関して制限または減弱され得る。さらなる局面において、免疫反応またはワクチン製剤をさらに増強するまたは補うために、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを弱毒細菌において過剰発現させることができる。
【0091】
「vWbpタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型vWbp (フォン・ウィルブランド因子結合タンパク質)ポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌vWbpタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0092】
「vWhタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型vWh (フォン・ウィルブランド因子結合タンパク質相同体)ポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌vWhタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。免疫反応は、生物における体液性反応、細胞性反応、または体液性および細胞性反応の両方をいう。免疫反応は、タンパク質もしくは細胞表面タンパク質を特異的に認識する抗体の存在もしくは量を測定するアッセイ法、T細胞活性化もしくは増殖を測定するアッセイ法、および/または1つもしくは複数のサイトカインの活性もしくは発現に関しての修飾を測定するアッセイ法を含むが、これらに限定されないアッセイ法によって測定することができる。
【0093】
本開示のさらなる態様において、組成物は、Coaタンパク質と70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質を含みうる。
【0094】
本開示のさらなる態様において、組成物は、vWbpタンパク質と70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質を含みうる。
【0095】
ある種の局面において、ポリペプチドまたはセグメント/断片は、参照ポリペプチドのアミノ酸配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%、またはそれ以上同一である配列を有することができる。「類似性」という用語は、参照ポリペプチドと同一であるまたは参照ポリペプチドとの保存的置換を構成するアミノ酸を一定の割合有する配列を有するポリペプチドをいう。
【0096】
本明細書において記述されるポリペプチドは、Rドメインの配列の少なくともまたは多くても3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、300、400、500、550、1000個、もしくはそれ以上の連続アミノ酸もしくはその中から派生する任意の範囲の連続アミノ酸の中に、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個、またはそれ以上の変種アミノ酸を含みうる。
【0097】
本明細書において記述されるポリペプチドセグメントは、Rドメインの配列の3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、300、400、500、550、1000個、もしくはそれ以上の連続アミノ酸またはその中から派生する任意の範囲の連続アミノ酸を含みうる。
【0098】
さらなる態様において、組成物は、Coaタンパク質をコードする核酸配列と70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似している、または少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているポリヌクレオチドを含みうる。ある種の局面において、USA300株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、N315株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、MW2株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、MRSA252株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、WIS株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、MU50株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、85/2082株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、Newman株のCoaタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。
【0099】
さらなる態様において、組成物は、Coa Rドメインをコードする核酸配列と70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似している、ポリヌクレオチドを含みうる。ある種の局面において、N315株のCoa Rドメインをコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、MW2株のCoa Rドメインをコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、MRSA252株のCoa Rドメインをコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。ある種の局面において、WIS株のCoa Rドメインをコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。
【0100】
特定の局面において、組成物は、それぞれWIS、MRSA252、N315、MW2、およびUSA300株由来の5つの異なるCoa Rドメインをコードする核酸配列と70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似しているまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%同一であるもしくは類似している、ポリヌクレオチドを含みうる。さらなる局面において、5つの異なるCoa Rドメインをコードする核酸配列は、本明細書において提供される核酸配列の全部または一部を有する。
【0101】
前記組成物は、薬学的に許容される組成物に製剤化されうる。本開示のある種の局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。
【0102】
さらなる局面において、組成物は、2回以上対象に投与されてもよく、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20回、またはそれ以上の回数で投与されてもよい。組成物の投与は、吸入または吸引を含む経口投与、非経口投与、皮下投与、静脈内投与、またはそれらの各種組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0103】
さらなる態様において、組成物は、本明細書において記述されるポリペプチドまたはそのセグメント/断片をコードする組換え核酸分子を含む。典型的には、本明細書において記述されるポリペプチドをコードする組換え核酸分子は、異種プロモーターを含む。ある種の局面において、本開示の組換え核酸分子はベクターであり、他の局面において、ベクターはプラスミドである。ある種の態様において、ベクターはウイルスベクターである。ある種の局面において、組成物は、本明細書において記述されるポリペプチドを含むか、または発現する組換え非ブドウ球菌を含む。特定の局面において、組換え非ブドウ球菌はサルモネラ菌または別のグラム陽性細菌である。組成物は、典型的には、ヒト対象のような哺乳類に投与されるが、免疫応答を誘発できる他の動物への投与が企図される。さらなる局面において、ポリペプチドを含むかまたは発現するブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌である。さらなる態様において、免疫反応は防御的免疫反応である。
【0104】
本明細書において論じられている組成物は、典型的には、ヒト対象に投与されるが、ブドウ球菌に対する免疫反応を誘発できる他の動物、特にウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、および他の家畜、すなわち、哺乳類への投与が企図される。
【0105】
ある種の局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。さらなる態様において、免疫反応は防御免疫反応である。さらなる局面において、本開示の方法および組成物は、組織または腺、例えば、乳腺の感染症、特に乳腺炎および他の感染症を予防する、改善する、軽減する、または処置するために用いることができる。他の方法は、感染症の兆候を呈していない対象、特に標的細菌に侵されていると疑われるまたは標的細菌に侵されるリスクのある対象、例えば、入院、処置、および/または回復の間に感染症のリスクまたは影響のあるまたはありうる対象における細菌負荷の予防的軽減を含むが、これに限定されることはない。
【0106】
本開示の1つの局面に関して論じられているいずれの態様も、同様に本開示の他の局面に当てはまる。具体的には、少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインまたはそれを含む組換えポリペプチドまたはそれをコードする核酸を含む組成物との関連で論じられているいずれの態様も、本明細書において定義されるRドメインの断片のような他の抗原に関して実施することが可能でありうる。
【0107】
本開示の態様は、ブドウ球菌感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、ブドウ球菌感染症を処置または阻害する方法であって、ブドウ球菌コアグラーゼタンパク質の抗原断片を特異的に認識する抗体を含む組成物の有効量を、対象に投与する段階を含み、抗原断片の全長が200アミノ酸未満であり、抗原断片がRドメインまたはその断片を含み、かつRドメインまたは断片がSEQ ID NO:61を含み、配列中、X1がプロリンまたはロイシンであり、X2がアルギニンまたはトレオニンであり、X3がフェニルアラニン、グルタミン、またはチロシンであり、X4がアスパラギンまたはリジンであり、X5がプロリンまたはアラニンであり、X6がリジンまたはグルタミン酸であり、X7がヒスチジンまたはアスパラギンであり、X8がアラニン、グルタミン、グリシン、またはアルギニンであり、X9がアスパラギン酸またはアスパラギンであり、X10がトレオニンまたはグルタミンであり、X11がバリンまたはアラニンであり、かつX12がトレオニンまたはセリンである、方法を含む。さらなる態様は、Rドメインまたはその断片を含むポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、Rドメインまたは断片がSEQ ID NO:61を含み、配列中、X1がプロリンまたはロイシンであり、X2がアルギニンまたはトレオニンであり、X3がフェニルアラニン、グルタミン、またはチロシンであり、X4がアスパラギンまたはリジンであり、X5がプロリンまたはアラニンであり、X6がリジンまたはグルタミン酸であり、X7がヒスチジンまたはアスパラギンであり、X8がアラニン、グルタミン、グリシン、またはアルギニンであり、X9がアスパラギン酸またはアスパラギンであり、X10がトレオニンまたはグルタミンであり、X11がバリンまたはアラニンであり、かつX12がトレオニンまたはセリンであり、かつ、ポリペプチドの長さが200アミノ酸未満である、免疫原性組成物に関する。
【0108】
ポリペプチド、ペプチド、抗原、または免疫原などの部分を、アジュバント、タンパク質、ペプチド、支持体、蛍光部分、または標識などの他の部分に共有結合的または非共有結合的にコンジュゲートまたは連結させることができる。「コンジュゲート」または「イムノコンジュゲート」という用語は、1つの部分と他の作用物質との機能的結合を定義するように広く用いられており、任意のタイプの機能的結合を単にいうように意図されているのではなく、化学的「コンジュゲーション」に特に限定されることはない。組換え融合タンパク質が特に企図される。本開示の組成物はアジュバントまたは薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。アジュバントは本開示のポリペプチドまたはペプチドに共有結合的または非共有結合的に結合されてもよい。ある種の局面において、アジュバントはタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに化学的にコンジュゲートされる。
【0109】
前記対象は、ブドウ球菌感染症を有する(例えば、ブドウ球菌感染症と診断されている)、ブドウ球菌感染症を有することが疑われる、またはブドウ球菌感染症を発症するリスクがある。本開示の組成物には、意図された目的を達成するのに有効な量で抗原またはエピトープが含有されている免疫原性組成物が含まれる。より具体的には、有効量とは、免疫反応を刺激するもしくは誘発するのに、または感染症に対する耐性、感染症の改善もしくは感染症の緩和をもたらすのに必要な活性成分の量を意味する。より具体的な局面において、有効量は、疾患もしくは感染症の症状を阻止、軽減、もしくは改善するか、または処置される対象の生存を引き延ばす。有効量の決定は十分に、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。本開示の方法において用いられるどの調製物についても、有効な量または用量は、インビトロ研究アッセイ法、細胞培養アッセイ法、および/または動物モデルアッセイ法から最初に推定することができる。例えば、所望の免疫反応、または循環血中抗体の濃度もしくは力価を達成するため、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に決定することができる。
【0110】
実施例の項における態様は、本開示の全ての局面に適用可能な本開示の態様であると理解される。
【0111】
複数の態様は、細菌を含有するまたは含有しない組成物を含む。組成物は、弱毒化されたまたは生存可能なまたはインタクトなブドウ球菌を含んでもまたは含まなくてもよい。ある種の局面において、組成物は、ブドウ球菌ではない細菌を含むか、またはブドウ球菌を含有しない。ある種の態様において、細菌組成物は、単離されたもしくは組換え発現されたCoa抗体またはそれをコードする核酸を含む。さらなる局面において、Coa抗体は、多量体化され、例えば、二量体、三量体、四量体などである。
【0112】
ある種の局面において、ペプチドまたは抗原またはエピトープは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個、またはそれ以上のペプチドセグメントまたはペプチド模倣体の多量体として提示することができる。
【0113】
「単離される」という用語は、その起源の細胞物質、細菌物質、ウイルス物質、もしくは培地(組換えDNA技術により産生される場合)、または化学的前駆物質もしくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含んでいない核酸またはポリペプチドをいうことができる。さらに、単離化合物とは、単離された化合物として対象に投与できるものをいい; 換言すれば、化合物は、カラムに付着されているなら、またはアガロースゲルに埋め込まれているなら単純に「単離されている」とは考えられない。さらに、「単離核酸断片」または「単離ペプチド」とは、断片として天然には存在していない、および/または典型的には機能的な状態にない、核酸またはタンパク質断片である。
【0114】
いくつかの態様において、本開示のポリペプチドは、天然に存在しないポリペプチドである。いくつかの態様において、本開示のポリペプチドは、切断型、キメラ型、および/または改変型である。いくつかの態様において、修飾は翻訳後修飾を含む。
【0115】
抗体、ペプチド、抗原、または免疫原などの組成物をアジュバント、タンパク質、ペプチド、支持体、蛍光部分または標識などの他の部分に共有結合的または非共有結合的にコンジュゲートまたは連結させることができる。「コンジュゲート」または「イムノコンジュゲート」という用語は、1つの部分と他の作用物質との機能的結合を定義するように広く用いられており、任意のタイプの機能的結合を単にいうように意図されているのではなく、化学的「コンジュゲーション」に特に限定されることはない。組換え融合タンパク質が特に企図される。
【0116】
「Coa抗体」という用語は、ブドウ球菌由来のCoaタンパク質に特異的に結合する抗体をいう。ある種の態様において、抗体は、特定のブドウ球菌株由来の特定のCoaタンパク質に結合しうる。いくつかの態様において、抗体は、ヒト化されているかまたはキメラである。
【0117】
さらなる局面において、組成物は、2回以上対象に投与されてもよく、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20回、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)の回数で投与されてもよい。組成物の投与は、吸入または吸引を含む経口投与、非経口投与、皮下投与、および静脈内投与またはそれらの各種組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0118】
組成物はヒトまたは非ヒト対象に投与されうる。例えば、ブドウ球菌に対する治療的有用性を提供できる非ヒト動物、特にウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、鳥、および他の家畜への投与が企図される。さらなる局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。いくつかの態様において、対象は非ヒトである。いくつかの態様において、組成物は、組成物中の抗原性成分に対するモノクローナル抗体を作製する目的で非ヒト対象に投与される。さらなる局面において、方法および組成物は、組織または腺の感染症を予防する、改善する、軽減する、または処置するために用いられうる。他の方法は、感染症の兆候を呈していない対象、特に標的細菌に侵されていると疑われる対象または標的細菌に侵されるリスクのある対象、例えば、入院、処置、および/または回復の間に感染症のリスクまたは影響のあるまたはありうる対象における細菌負荷の予防的軽減を含むが、これに限定されることはない。
【0119】
さらなる態様には、(i) Coa抗体; もしくは(ii) それをコードする核酸分子、を含む組成物の有効量を対象に投与する段階、または(iii) 本明細書において記述される細菌タンパク質の任意の組み合わせもしくは順列でCoa抗体を投与する段階を含む、ブドウ球菌に対する防御用または治療用組成物を対象に提供するための方法が含まれる。
【0120】
さらなる態様は、国際公報: WO/2013/162746およびWO/2013/162751に記述されており、この各々が全ての目的のために参照により組み入れられる。
【0121】
実施例の項における態様は、組成物および方法を含む本開示の全ての局面に適用可能な態様であると理解される。
【0122】
特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物だけをいうように明記されていない限りまたは代替物が相互排他的でない限り「および/または」を意味するように用いられるが、本開示では、代替物のみと「および/または」とをいうという定義を支持する。「または」という用語を用いて記載されているどんなものでも明確に除外できることも企図される。
【0123】
本出願の全体を通じて、「約」という用語は、値にはその値を決定するために用いられる装置または方法に対しての誤差の標準偏差が含まれることを示すために用いられる。
【0124】
長年にわたる特許法にしたがって、「1つの(a)」および「1つの(an)」という単語は、特許請求の範囲または明細書において「含む(comprising)」という単語とともに用いられる場合、特に断りのない限り、1つまたは複数を意味する。
【0125】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる場合、「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの、含む(comprising)の任意の形態)、「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの、有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの、含む(including)の任意の形態)または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの、含有する(containing)の任意の形態)という単語は、包括的または非制限的であり、さらなる未引用の要素または方法の段階を除外しない。
【0126】
[本発明1001]
ブドウ球菌(Staphylococcus)感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、ブドウ球菌感染症を処置または阻害する方法であって、ブドウ球菌コアグラーゼタンパク質の抗原断片を特異的に認識する抗体を含む組成物の有効量を、該対象に投与する段階を含み、該抗原断片の全長が200アミノ酸未満であり、該抗原断片がRドメインまたはその断片を含み、かつ該Rドメインまたは該断片が、1つまたは複数のSEQ ID NO:61のRドメイン断片を含み、配列中、X
1
がプロリンまたはロイシンであり、X
2
がアルギニンまたはトレオニンであり、X
3
がフェニルアラニン、グルタミン、またはチロシンであり、X
4
がアスパラギンまたはリジンであり、X
5
がプロリンまたはアラニンであり、X
6
がリジンまたはグルタミン酸であり、X
7
がヒスチジンまたはアスパラギンであり、X
8
がアラニン、グルタミン、グリシン、またはアルギニンであり、X
9
がアスパラギン酸またはアスパラギンであり、X
10
がトレオニンまたはグルタミンであり、X
11
がバリンまたはアラニンであり、かつX
12
がトレオニンまたはセリンである、方法。
[本発明1002]
1つまたは複数のSEQ ID NO:61のRドメイン断片を含むRドメインまたはその断片を含むポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、配列中、X
1
がプロリンまたはロイシンであり、X
2
がアルギニンまたはトレオニンであり、X
3
がフェニルアラニン、グルタミン、またはチロシンであり、X
4
がアスパラギンまたはリジンであり、X
5
がプロリンまたはアラニンであり、X
6
がリジンまたはグルタミン酸であり、X
7
がヒスチジンまたはアスパラギンであり、X
8
がアラニン、グルタミン、グリシン、またはアルギニンであり、X
9
がアスパラギン酸またはアスパラギンであり、X
10
がトレオニンまたはグルタミンであり、X
11
がバリンまたはアラニンであり、かつX
12
がトレオニンまたはセリンであり、かつ、該ポリペプチドの長さが200アミノ酸未満である、免疫原性組成物。
[本発明1003]
少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインまたはその断片を含むポリペプチドを含む免疫原性組成物であって、該Rドメインまたは該断片が、配列においてRドメインまたはその断片と少なくとも80%同一である、免疫原性組成物。
[本発明1004]
少なくとも2つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む、本発明1003の免疫原性組成物。
[本発明1005]
少なくとも1つのRドメインが、完全長より短いコアグラーゼタンパク質に含まれる、本発明1003または1004の免疫原性組成物。
[本発明1006]
前記完全長より短いコアグラーゼタンパク質が、LまたはFドメインセグメントの全部または一部を欠く、本発明1003または1004の組成物。
[本発明1007]
前記Rドメインが、(1) 黄色ブドウ球菌(S. aureus) Newman、85/2082、MW2、MSSA476、N315、Mu50、MRSA252、CowanI、WIS、もしくはUSA300株由来の、または(2) 黄色ブドウ球菌 ST5、ST8、ST22、ST30、ST45、もしくはST239系列由来のコアグラーゼタンパク質に由来する、本発明1003~1006のいずれかの組成物。
[本発明1008]
前記Rドメインが、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインのアミノ酸配列と; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片のアミノ酸配列と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数のアミノ酸配列と少なくとも85%、90%、または95%同一である、本発明1003~1007のいずれかの組成物。
[本発明1009]
少なくとも4つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含み、該4つの異なるRドメインが、(1) MRSA252、MW2、N315、およびUSA300株の各々由来の1つのブドウ球菌Coa Rドメインもしくはそのセグメント、または(2) ST5、ST8、ST22、ST30、およびST45の各々由来の1つのブドウ球菌Coa Rドメインもしくはそのセグメントを含む、本発明1003~1008のいずれかの組成物。
[本発明1010]
複数の前記ブドウ球菌コアグラーゼRドメインが、1つのポリペプチドに含まれ; かつ任意で該Rドメインがそれらの間に1つのポリペプチドリンカーを含む、本発明1004~1009のいずれかの組成物。
[本発明1012]
アジュバントをさらに含む、本発明1003~1010のいずれかの組成物。
[本発明1013]
少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む組換えポリペプチドであって、該Rドメインのアミノ酸配列が、配列において、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインと; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数と少なくとも80%同一である、組換えポリペプチド。
[本発明1014]
少なくとも2つの異なるブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む、本発明1013のポリペプチド。
[本発明1015]
本発明1013または1014の組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む、ポリヌクレオチド分子。
[本発明1016]
発現制御配列に機能的に連結された本発明1013の組換えポリペプチドをコードする核酸配列を含む、発現ベクター。
[本発明1017]
本発明1016の発現ベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1018]
本発明1003~1012のいずれかの組成物または本発明1013もしくは1014のポリペプチドと薬学的に許容される賦形剤とを含む、ワクチン。
[本発明1019]
ブドウ球菌コアグラーゼRドメインを含む少なくとも1つのポリペプチドを担体と混合する段階を含む、免疫原性組成物を製造する方法であって、該Rドメインの配列が、配列において、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインと; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数と少なくとも80%同一である、方法。
[本発明1020]
本発明1018のワクチンでレシピエントを免疫する段階、および該レシピエントから免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染症の予防または処置に用いるための免疫グロブリンを調製する方法。
[本発明1021]
本発明1018のワクチンでレシピエントを免疫して、該レシピエントから抗体産生細胞を単離する段階、単離された該細胞の1つまたは複数を骨髄腫細胞と融合させる段階、および融合させた該細胞から免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染症の予防または処置に用いるための免疫グロブリンを調製する方法。
[本発明1022]
前記抗体産生細胞が、脾臓、末梢血、またはリンパ節細胞を含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
単離された前記免疫グロブリンを配列決定する段階をさらに含む、本発明1020~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
抗原への結合について、単離された前記免疫グロブリンを試験する段階をさらに含み、該抗原が、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインと; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数と少なくとも80%同一であるポリペプチドを含む、本発明1020~1023のいずれかの方法。
[本発明1025]
本発明1020~1024のいずれかの方法によって調製された免疫グロブリン。
[本発明1026]
ポリペプチドに特異的に結合する免疫グロブリンであって、該ポリペプチドが、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメイン; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数を含む、免疫グロブリン。
[本発明1027]
前記免疫グロブリンに特異的に結合する前記ポリペプチドが200アミノ酸未満である、本発明1026の免疫グロブリン。
[本発明1028]
キメラであるかまたはヒト化されている、本発明1025または1026の免疫グロブリン。
[本発明1029]
本発明1025の免疫グロブリンと、薬学的に許容される賦形剤とを含む、薬学的組成物。
[本発明1030]
SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、およびSEQ ID NO:14とそれぞれ少なくとも85%同一であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVLドメインと、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、およびSEQ ID NO:11とそれぞれ少なくとも85%同一であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVHドメインとを含む、精製されたポリペプチド。
[本発明1031]
SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、およびSEQ ID NO:20とそれぞれ少なくとも85%同一であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVLドメインと、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、およびSEQ ID NO:17とそれぞれ少なくとも85%同一であるCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVHドメインとを含む、精製されたポリペプチド。
[本発明1032]
SEQ ID NO:12、SEQ ID NO:13、およびSEQ ID NO:14をそれぞれ含むCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVLドメインと、SEQ ID NO:9、SEQ ID NO:10、およびSEQ ID NO:11をそれぞれ含むCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVHドメインとを含む、本発明1030の精製されたポリペプチド。
[本発明1033]
SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19、およびSEQ ID NO:20をそれぞれ含むCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVLドメインと、SEQ ID NO:15、SEQ ID NO:16、およびSEQ ID NO:17をそれぞれ含むCDR1、CDR2、およびCDR3を含むVHドメインとを含む、本発明1031の精製されたポリペプチド。
[本発明1034]
ヒト化抗体またはキメラ抗体を含む、本発明1030~1033のいずれかの精製されたポリペプチド。
[本発明1035]
ELISAによって測定された場合に約0.1~20 nM
-1
、0.5~10 nM
-1
、または1.0~10 nM
-1
のブドウ球菌Coaポリペプチドに対する会合定数を有する、本発明1030~1034のいずれかのポリペプチド。
[本発明1036]
第二のブドウ球菌タンパク質に特異的に結合する組換えポリペプチドに機能的に結合されている、本発明1030~1035のいずれかのポリペプチド。
[本発明1037]
(a) VH領域ならびにIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ由来のヒトヒンジ、CH1、CH2、およびCH3領域を含む、重鎖と; (b) VL領域およびヒトκCLまたはヒトλCLのどちらかを含む、軽鎖とを含む抗体である、本発明1030~1036のいずれかのポリペプチド。
[本発明1038]
本発明1030~1037のいずれかの精製されたポリペプチドを含む、薬学的組成物。
[本発明1039]
密閉容器中の単回単位用量の前記精製されたポリペプチドを含む、本発明1038の薬学的組成物。
[本発明1040]
少なくとも第二の抗菌物質を含み、かつ任意で該第二の抗菌物質が、抗生物質であるか、ブドウ球菌ワクチン組成物であるか、または第二のブドウ球菌タンパク質に特異的に結合するポリペプチドである、本発明1038または1039の薬学的組成物。
[本発明1041]
本発明1030~1037のいずれかのポリペプチドをコードする核酸配列を含む、ポリヌクレオチド。
[本発明1042]
発現制御配列に機能的に連結された本発明1030~1037のいずれかのポリペプチドをコードする核酸配列を含む、発現ベクター。
[本発明1043]
本発明1042の発現ベクターを含む、宿主細胞。
[本発明1044]
宿主細胞において、発現制御配列に機能的に連結された前記ポリペプチドをコードする核酸配列を発現させる段階を含む、本発明1030~1037のいずれかのポリペプチドを製造する方法。
[本発明1045]
ブドウ球菌感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、ブドウ球菌感染症を処置または阻害する方法であって、本発明1003~1012、1029、もしくは1038~1040のいずれかの組成物、本発明1015もしくは1042の発現ベクター、本発明1018のワクチン、本発明1025~1028のいずれかの免疫グロブリン、または本発明1013および1014もしくは1030~1037のいずれかのポリペプチドの有効量を、該対象に投与する段階を含む、方法。
[本発明1046]
前記ポリペプチドまたは前記組成物がCoa結合ポリペプチドを含み、かつ該Coa結合ポリペプチドがヒト化抗体またはキメラ抗体である、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記ポリペプチドまたは前記組成物がCoa結合ポリペプチドを含み、かつ前記方法が、第二のブドウ球菌タンパク質に結合する第二のCoa結合ポリペプチドを投与する段階をさらに含む、本発明1045または1046の方法。
[本発明1048]
抗生物質またはブドウ球菌ワクチン組成物を投与する段階をさらに含む、本発明1045~1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
前記ポリペプチドまたは前記組成物がCoa結合ポリペプチドを含み、かつ該Coa結合ポリペプチドが、約0.1 mg/kg~5 mg/kgの用量で投与される、本発明1045~1048のいずれかの方法。
[本発明1050]
前記ブドウ球菌感染症が黄色ブドウ球菌感染症である、本発明1045~1049のいずれかの方法。
[本発明1051]
前記ブドウ球菌感染症がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症(MRSA)である、本発明1045~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
前記対象が、ブドウ球菌感染症と診断されているか、ブドウ球菌感染症に対して以前に処置されているか、ブドウ球菌感染症の前処置に対して耐性であると判定されているか、免疫不全であるか、免疫無防備状態であるか、入院しているか、侵襲的な医療処置を受けているか、呼吸器感染症を有するか、インフルエンザウイルスに感染しているか、または人工呼吸器を装着している、本発明1045~1051のいずれかの方法。
[本発明1053]
前記対象を、ブドウ球菌感染症を有すると同定する段階、または、該対象を、前記組成物もしくは前記ポリペプチドに対する反応について試験する段階をさらに含む、本発明1045~1052のいずれかの方法。
[本発明1054]
前記ブドウ球菌感染症を有すると判定されてから1週間以内に、前記組成物または前記ポリペプチドを前記対象に投与する、本発明1045~1053のいずれかの方法。
[本発明1055]
前記対象が、皮膚膿瘍、おでき、またはせつを呈する、本発明1045~1054のいずれかの方法。
[本発明1056]
抗原への抗体の結合を試験するための結合アッセイ法を行う段階を含む、方法であって、該抗原が、(1) SEQ ID NO:1~8もしくは22~38に対応する黄色ブドウ球菌Coaポリペプチド由来のRドメインと; (2) SEQ ID NO:39~55、SEQ ID NO:85~101のRドメイン、もしくはその断片と; または(3) SEQ ID NO:57~62もしくはSEQ ID NO:102~127のRドメイン断片の1つもしくは複数と少なくとも80%同一である、方法。
[本発明1057]
前記結合アッセイ法がELISAを含む、本発明1056の方法。
[本発明1058]
ブドウ球菌感染症を有すると判定された対象またはブドウ球菌感染症のリスクがあると判定された対象において、試験した前記抗体を該対象に投与することによってブドウ球菌感染症をさらに処置または阻害する、本発明1056または1057の方法。
本開示の他の目標、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な例は、本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲のなかで種々の変更および修正が明らかになると考えられるので、単なる例示として与えられるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0127】
本発明の上記の特徴、利点、および目標ならびにこれら以外の明らかになるものをつかみ詳細に理解できるように、上記に簡単に要約した本発明のより具体的な説明およびある種の態様を添付図面に示す。これらの図面は明細書の一部をなす。しかしながら、添付図面は本発明のある種の態様を示すものであり、それゆえ、その範囲を限定するものと見なされるべきではないことに留意されたい。
【
図1】
図1A~1E: コアグラーゼのリピートドメインは、黄色ブドウ球菌血流感染症に寄与する。(A) シグナル配列(SS)、プロトロンビン結合に関与する可変D1およびD2ドメイン(D1-D2)、リンカー(L)およびリピート(R)ドメインを有するコアグラーゼ(Coa)の一次構造。黄色ブドウ球菌Newmanにおいて、Rは、フィブリノゲンに結合する27残基ペプチドの5つのタンデムリピートを含む。モノクローナル抗体(mAbs) 5D5 (青色)および3B3 (赤色)の結合部位が同定されている。(B) 黄色ブドウ球菌Newman (野生型)およびコアグラーゼ変種の分泌タンパク質を、ポリクローナルα-Coaまたはα-vWbpおよびmAb 5D5または3B3を用いた免疫ブロッティングによって分析した。72および95 kDaマーカーの移動位置が示されている。(C) カルシウムキレート化マウス血液に黄色ブドウ球菌株(1×10
6 CFU)を室温で24時間接種し、管の反転によって凝固を分析した。(D~E) マウス(n=10)を8×10
7 CFUの黄色ブドウ球菌Newman野生型またはコアグラーゼ変種株の静脈内注射によって攻撃した。データは2つの独立した分析の代表である; (D~E) 統計的有意性をログランク検定で評価した。
【
図2】
図2A~B: コアグラーゼのリピートドメインは、黄色ブドウ球菌の表面上のフィブリンシートのアセンブリを促進する。(A) ヒト血漿(+)またはPBS対照(-)を、完全長コアグラーゼ(Coa
ST)、Rドメインについて切断されたコアグラーゼ(Coa
ΔR/ST)、Rドメイン(R
ST)単独でまたは親和性ベイトなしで予め充填されたStrep-Tactin樹脂に対するクロマトグラフィーに供した。アフィニティーカラムに保持されたタンパク質を、クマシー染色SDS-PAGEまたはプロトロンビンに対する抗体(α-PT)を用いた免疫ブロッティングによって分析した。FGはフィブリノゲンを示す。(B) ヒト血漿(+)またはPBS (-)を黄色ブドウ球菌Newman (野生型)もしくはcoa
ΔR変種の培養物にまたは培地対照(-)に添加した。フィブリン凝塊を含有するまたは含有しない沈殿物および上清中の血漿タンパク質(+/-血漿)を遠心分離によって分離し、クマシー染色SDS-PAGEまたはCoaに対する免疫ブロッティング(α-Coa)によって分析した。星印はアルブミンを同定している; その存在量はCoa
ΔRの電気泳動移動度に影響を与える(左下パネル)。数値は質量標準物質の移動位置を示す。FNはフィブリンを示す。(C) mCherryを発現する黄色ブドウ球菌野生型またはcoa
ΔR細菌を、5% Alexa488結合ヒトフィブリノゲンを補充したヒトシトレート-血漿と混合し、室温で5分間インキュベートした。フィブリンへのAlexa488フィブリノゲンの組み込みおよび細菌との会合を蛍光顕微鏡法によって画像化した。データは2つの独立した分析の代表である。
【
図3】
図3A~F: コアグラーゼのRドメインに対するモノクローナル抗体は、黄色ブドウ球菌血流感染症を防御する。精製モノクローナル抗体5D5、3B3、またはIgG1アイソタイプ対照を、5 mg kg
-1体重の濃度で未処置BALB/cマウスの腹腔内に注入した。黄色ブドウ球菌株Newman (A)、NewmanのΔvwb変種(B)、MRSA USA300 (C)、MRSA N315 (D)、MRSA252 (E)、またはWIS (F)の静脈内注射によって動物コホート(n=10)を攻撃し、生存を10日にわたってモニターした。データは2つの独立した分析の代表である; ログランク検定を用いて統計的有意性を評価した。
【
図4】
図4A~F: コアグラーゼのリピートドメインに対するモノクローナル抗体は、ブドウ球菌のオプソニン食作用による死滅を促進する。(A) 抗凝固処理したヒト血漿または血清に、5×10
6 CFUの黄色ブドウ球菌Newman (WT)、Δcoa/ΔvwbまたはMRSA分離株USA300 LACを接種し、CFUのための希釈およびプレーティングの前に60分間インキュベートした。ストレプトキナーゼ(SK)処理により凝集したブドウ球菌を放出させた。実験を2つ組で行い、結果を平均し、SEMを算出し、データを接種材料%として記録した。データを表す棒グラフは左から右に、血漿、血漿 + SK (WT 群1)、血漿、血漿 + SK (Δcoa/vwb 群2)、および血清、血清 _ SK、血漿、血漿 + SK (WT, 群3)を示す。(B) ヒトボランティアからの抗凝固処理された血液に5×10
6 CFU USA300 LACを接種し、60分間インキュベートし、SK処理有りまたは無しでCFUを計数した。食作用を遮断するために、血液サンプルをサイトカラシンD (CD)で前処理した。棒グラフは左から右に、データの各X軸群について0分、60分、および60分 + SKを表す。(C) 血液サンプルへのmAb 3B3の添加は、USA300 LACのOPKを促進した。棒グラフは左から右に、データの各X軸群について0分、60分 -3B3、および60分 +3B3を表す。(D) マウス血液をmAb 3B3の非存在下または存在下において野生型黄色ブドウ球菌とともに30分間インキュベートし、ギムザ染色し、顕微鏡検査によって観察した。(E) 黄色ブドウ球菌Newmanを、サイトカラシンD (CD)無しまたは有りおよびmAb 3B3無し(モック)または有りで抗凝固処理したマウス血液とともにインキュベートした; ブドウ球菌の生存および複製を、定時間隔でCFU計数によって評価した。(A~E) データは少なくとも2つの試験から得られた。(F) mAb 3B3またはIgG1アイソタイプ抗体をマウスの腹腔内に投与した(n= 10)。動物を黄色ブドウ球菌Newman (野生型)またはcoa
ΔR変種の静脈内注射によって攻撃した。30分後、動物を心穿刺によって採血し、CFUを計数した。データは2つの独立した分析の代表である; エラーバーはSEMを示す。両側スチューデントt検定で(A~C、F)またはボンフェローニ事後検定(E)を用いた二元配置ANOVAで統計分析を行った;
*, P<0.05および
**, P<0.01。
【
図5】
図5A~D: モノクローナル抗体5D5および3B3は、Coaの特異的活性を乱す。(A) Coaとヒトプロトロンビンとの会合をELISAによって測定し、アフィニティー精製した5D5、アフィニティー精製した3B3、ポリクローナル抗体(α-Coa)、またはIgG1アイソタイプ対照の濃度を増加させてかく乱した。(B) Coaとヒトフィブリノゲンとの会合をELISAによって測定し、アフィニティー精製した5D5、アフィニティー精製した3B3、ポリクローナル抗体(α-Coa)、またはIgG1アイソタイプ対照の濃度を増加させてかく乱した。(C) 3 μMの5D5、3B3、ポリクローナル抗体(α-Coa)、またはIgG1アイソタイプ対照の存在下において、カルシウムキレート化マウス血液に黄色ブドウ球菌Newman野生型細菌(1×10
6 CFU)を接種した。サンプルを室温でインキュベートし、凝固についてモニターした。(D) ウサギEDTA-血漿を3 μMの5D5、3B3、ポリクローナル抗体(α-Coa)、またはIgG1アイソタイプ対照の存在下において、SYTO9染色された黄色ブドウ球菌Newman野生型細菌(1×10
7 CFU)と混合した。サンプルを室温で10分間インキュベートし、蛍光顕微鏡法によって分析し、鏡下12視野の平均±SEMを算出することによって定量した。統計的有意性は、一元配置ANOVAおよびボンフェローニ事後検定で評価した:
*、P<0.01;
**、P<0.001;
***、P<0.0001。
【
図6】
図6A~C: 凝集はヒト血液中での黄色ブドウ球菌死滅を妨げる。(A) 表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis) (5×10
6 CFU)をサイトカラシンD (CD)有りまたは無しで0および60分間デシルジン抗凝固処理したヒト血液とともにインキュベートした。サンプルをPBSサポニン緩衝液または凝集溶解緩衝液(+ SK)で処理した。実験を2つ組で行い、結果を平均し、SEMを算出し、データを接種材料%として記録した。統計分析は両側スチューデントt検定によって行った。棒グラフは左から右に、データの各X軸群について0分、60分、および60分 + SKを表す。(B) mAb 3B3を有するまたは有しない抗凝固処理したマウス血液に、黄色ブドウ球菌Newman (pGFP)、黄色ブドウ球菌coaΔR (pGFP)を接種するか、または未感染のままにした。0、30、および60分の時点で、細胞外細菌をリゾスタフィンで最初に死滅させ、好中球をα-GR1で染色した。GFPの平均蛍光強度(MFI)を貪食細菌の尺度として用いた。(C) マウス血液に5% Alexa488結合ヒトフィブリノゲンを補充した。フィブリンへのAlexa488-フィブリノゲンの取り込みおよび好中球との会合を、FITC蛍光によって測定した。BおよびCにおけるデータは、3つ組で行われた2つの独立した分析の代表である; エラーバーはSEMを示す。野生型 -/+ 3B3の間の統計的有意性を、ボンフェローニ事後検定による二元配置ANOVAを用いて評価した:
*、P<0.05;
**、P<0.01。
【
図7A】USA300 (SEQ ID NO:63)、N315 (SEQ ID NO:64)、MRSA252 (SEQ ID NO:65)、MW2 (SEQ ID NO:66)、およびWIS (SEQ ID NO:67)由来のCoa配列のアライメント。これらの遺伝子のポリペプチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1~5として提供される。
【
図7B】USA300 (SEQ ID NO:63)、N315 (SEQ ID NO:64)、MRSA252 (SEQ ID NO:65)、MW2 (SEQ ID NO:66)、およびWIS (SEQ ID NO:67)由来のCoa配列のアライメント。これらの遺伝子のポリペプチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1~5として提供される。
【
図7C】USA300 (SEQ ID NO:63)、N315 (SEQ ID NO:64)、MRSA252 (SEQ ID NO:65)、MW2 (SEQ ID NO:66)、およびWIS (SEQ ID NO:67)由来のCoa配列のアライメント。これらの遺伝子のポリペプチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1~5として提供される。
【
図7D】USA300 (SEQ ID NO:63)、N315 (SEQ ID NO:64)、MRSA252 (SEQ ID NO:65)、MW2 (SEQ ID NO:66)、およびWIS (SEQ ID NO:67)由来のCoa配列のアライメント。これらの遺伝子のポリペプチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1~5として提供される。
【
図7E】USA300 (SEQ ID NO:63)、N315 (SEQ ID NO:64)、MRSA252 (SEQ ID NO:65)、MW2 (SEQ ID NO:66)、およびWIS (SEQ ID NO:67)由来のCoa配列のアライメント。これらの遺伝子のポリペプチド配列は、それぞれSEQ ID NO:1~5として提供される。
【
図8】Coa Rドメイン配列のアライメント。(SEQ ID NO:68~84)。
【
図9】抗RドメインIgGは、ヒト全血による黄色ブドウ球菌のオプソニン食作用による死滅を増強する。
図10に示されるように、抗RドメインIgGは、黄色ブドウ球菌致死攻撃モデルにおけるマウスの生存を改善する。棒グラフは左から右に、データの各X軸群について+サイトカラシンD、+ PBS、および+抗RドメインIgGを表す。
【
図10】抗RドメインIgGは、黄色ブドウ球菌致死攻撃モデルにおけるマウスの生存を改善する。
【発明を実施するための形態】
【0128】
詳細な説明
細菌病原体に対する宿主免疫は、典型的には、微生物表面を認識し、食作用による死滅を促進する抗体を伴う。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、致死的な血流感染症の原因となることが多いが、ブドウ球菌表面分子を標的とするワクチンおよび抗体治療法はこれまでに臨床効果を達成することができなかった。黄色ブドウ球菌は、宿主プロトロンビンを活性化し、免疫細胞による食作用に対して病原体を保護するフィブリン原線維を生成するコアグラーゼ(Coa)を分泌する。陰性選択のために、プロトロンビン結合D1-D2ドメインのコード配列は非常に可変であり、交差防御免疫反応を誘発しない。フィブリノゲンに結合する27残基ペプチドのタンデムリピートであるRドメインは、全てのCoA分子のC末端に保存されている。Rドメインが、フィブリノゲンをブドウ球菌表面に方向付けることによって血流感染症を可能にし、食作用を阻害する防御フィブリンシールドを生成することが、本発明者らによってここで示される。フィブリンシールドは、食作用によるブドウ球菌の死滅を引き起こしかつマウスを広範囲のMRSA分離株によって引き起こされた致命的な血流感染症から防御するR特異的抗体で、マーキングすることができる。これらの知見は、オプソニン食作用死滅からのブドウ球菌の回避におけるおよび黄色ブドウ球菌ワクチンの防御抗原としてのコアグラーゼの重要な役割を強調している。
【0129】
グラム陽性細菌であり、ヒト鼻孔および皮膚の生着菌である黄色ブドウ球菌もまた、浸潤性病原菌であり、軟組織および血流感染症の原因である(David and Daum, 2010)。MRSA (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と指定されている薬物耐性株は、ブドウ球菌感染症の予防または治療のための抗生物質の使用により出現した。最近のMRSA感染症の大流行は、抗生物質療法の失敗の増大と感染症の死亡率の増加と関連している(David and Daum, 2010)。この公衆衛生危機に対処するために、被膜(capsule)、ポリグリセリンホスフェートリポテイコ酸(polyglycerol phosphate lipoteichoic acid)、鉄調節表面決定因子タンパク質B (IsdB)およびクランピング因子A (ClfA)を含むブドウ球菌表面上の分子を各々が標的とする、いくつかのワクチンおよび抗体治療薬が開発されている(Spellberg and Daum, 2012)。しかしながら、対応する臨床試験は、指定されたエンドポイントに達することができなかった(Fowler et al., 2013; Shinefield et al., 2002)。
【0130】
臨床黄色ブドウ球菌分離株の際立った特徴は、ヒト血漿を凝固させるその能力である。この独自の特性は、ヒトプロトロンビンと会合して酵素的に活性なスタフィロトロンビンを形成し、フィブリノゲンのAおよびBペプチドを切断し、フィブリン原線維を生成するコアグラーゼ(Coa;
図1A) (Tager, 1956)の分泌に基づく(Friedrich et al., 2003)。スタフィロトロンビンはトロンビンの他の内因性基質を切断せず、他の凝固因子および炎症因子の活性化を回避しながらフィブリンの盛んな重合を引き起こす(McAdow et al., 2012b; Panizzi et al., 2004)。得られたフィブリン網目構造は細菌を食細胞から防御し、黄色ブドウ球菌膿瘍病変の形成に必須である(Cheng et al., 2010; Smith et al., 1947)。プロトロンビンの活性化は、CoaのN末端D1-D2ドメインにより媒介され、動物モデルにおける黄色ブドウ球菌血流感染症からの防御を提供する特異的抗体によりブロックされる(Cheng et al., 2010; Rammelkamp et al., 1950)。陰性選択のために、coaは黄色ブドウ球菌のコアゲノム中の最も可変性の遺伝子の1つである。D1-D2ドメインのコード配列において最大50%の配列変異が生じ、対応する産物は、スタフィロトロンビンの中和のための交差防御エピトープなしで血清型に分類することができる(McAdow et al., 2012a; Watanabe et al., 2009)。黄色ブドウ球菌は、プロトロンビンとの会合を媒介する保存されたD1-D2ドメイン構造を有するフォン・ウィルブランド因子結合タンパク質(vWbp)と指定されている第2のスタフィロトロンビンを分泌する(Bjerketorp et al., 2004)。この複合体は、Coa-スタフィロトロンビンとは異なる触媒活性を示し、低減された速度でフィブリン原線維を生成し、食作用からのブドウ球菌の回避に影響することなく膿瘍形成に寄与する(Guggenberger et al., 2012; Kroh et al., 2009)。vWbp、vwbの構造遺伝子は、限られた配列変異を示し、おそらく陰性選択の対象ではない(McAdow et al., 2012a)。
【0131】
黄色ブドウ球菌は、ヒトの皮膚および鼻孔の片利共生生物であり、血流、皮膚、および軟組織の感染症の主因である(Klevens et al., 2007)。ブドウ球菌疾患の死亡率の最近の劇的な増加は、抗生物質に対して感受性を示さないことが多いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株の広がりに起因する(Kennedy et al., 2008)。大規模な遡及的研究において、米国ではMRSA感染症の発生率が全入院の4.6%であった(Klevens et al., 2007)。米国では94,300人のMRSA感染個体のための年間医療費は24億ドルを超える(Klevens et al., 2007)。現在のMRSA流行病は、予防ワクチンの開発によって取り組む必要がある公衆衛生の危機を引き起こしている(Boucher and Corey, 2008)。これまでに、黄色ブドウ球菌疾患を予防するFDA認可済みワクチンは使用可能ではない。
【0132】
コアグラーゼ(Coa)は、ブドウ球菌性敗血症の発病において重要な病毒性因子である。Coa:プロトロンビン複合体によるフィブリンへのフィブリノゲンの変換によって、黄色ブドウ球菌は、免疫防御を回避して、全身に広がることができる。Coaに対する体液性免疫は、マウス敗血症モデルにおいて防御性である。以前の研究によって、N末端およびC末端の両方において防御性エピトープが存在すること、ならびに菌株間でのCoaのN末端の遺伝的多様性に起因するタイプ特異的な免疫が存在することが実証された。
【0133】
本発明者らは、本明細書でブドウ球菌コアグラーゼ結合抗体およびその抗原結合決定基について記述する。詳細には、モノクローナル抗体のパネルをCoaに対して作製し、タンパク質の個々のドメインに対するその親和性およびその凝固障害に基づいて特徴決定した。インビトロでの特徴に基づき、いくつかのモノクローナル抗体をマウス敗血症モデルでの防御について試験し、N末端の保存部分における防御性エピトープの特定をもたらした。重要なことには、このエピトープを標的にする抗体は、動物へ投与される場合に、病毒性黄色ブドウ球菌による曝露後のブドウ球菌性敗血症を減少させることができる。これらの分子はCoaのプロトロンビン活性化効果を遮断することができるので、そのような抗体はまた、ブドウ球菌感染後の宿主免疫反応を増強しうる。したがって、本態様のCoa結合分子により、ブドウ球菌疾患を処置または予防するための新たなかつ有効な道が拓かれる。
【0134】
I. コアグラーゼポリペプチド
複数の態様のある局面は、コアグラーゼ(Coa)ポリペプチドに関する。黄色ブドウ球菌Newman (Coa
NM)由来のCoaの一次構造の説明図は、
図1Aに提供されている。8種類の黄色ブドウ球菌株由来のCoaのアミノ酸配列は、次の通りにSEQ ID NO:1~8で提供されている: USA300 (SEQ ID NO:1)、N315 (SEQ ID NO:2)、MW2 (SEQ ID NO:3)、MRSA252 (SEQ ID NO:4)、WIS (SEQ ID NO:5)、MU50 (SEQ ID NO:6)、85/2082 (SEQ ID NO:7)、およびNewman (SEQ ID NO:8)。USA300 (SEQ ID NO:1)、N315 (SEQ ID NO:2)、MRSA252 (SEQ ID NO:4)、MW2 (SEQ ID NO:3)、およびWIS (SEQ ID NO:5)をコードする核酸由来のCoa配列のアライメントは、
図7に提供されている。
【0135】
ドミナント黄色ブドウ球菌系列から取得されたドミナントCoaの1つに由来する17個のCoa Rドメイン由来のアミノ酸配列は以下の通りに提供される:ST5_1 (SEQ ID NO:22)、ST5_2 (SEQ ID NO:23)、ST5_3 (SEQ ID NO:24)、ST8_1 (SEQ ID NO:25)、ST8_2 (SEQ ID NO:26)、ST22_1 (SEQ ID NO:27)、ST22_2 (SEQ ID NO:28)、ST22_3 (SEQ ID NO:29)、ST30_1 (SEQ ID NO:30)、ST30_2 (SEQ ID NO:31)、ST30_3 (SEQ ID NO:32)、ST45_1 (SEQ ID NO:33)、ST45_2 (SEQ ID NO:34)、ST45_3 (SEQ ID NO:35)、ST239_1 (SEQ ID NO:36)、ST239_2 (SEQ ID NO:37)、ST239_3 (SEQ ID NO:38)。
【0136】
コアグラーゼはそのN末端ドメインD1およびD2を通じて宿主プロトロンビンと相互作用する。D1およびD2の3本鎖へリックスバンドルは、構造類似性を共有するが、しかし配列レベルでは十分に保存されていない[66]。最初の150個のアミノ酸は、D1ドメインを含む[68]。Coaのアミノ末端テトラペプチドは、プロトロンビンの活性化ポケットに挿入し、プロトロンビンAsp194と塩橋を形成する[66]。Coaとプロトロンビンとの間の2つの高親和性の結合相互作用のうちの第一のものは、プロトロンビンの148ループとともにD1内の疎水性表面溝を通じて起こる[66]。SC150~282はD2ドメインを含む[68]。第二の高親和性の結合相互作用は、プロトロンビンエキソサイトIのTyr76の側鎖とD2 αヘリックスとの間においてである[66]。Coaは溶液中で二量体を形成し、各単量体がプロトロンビン1分子を結合させている[66]。プロトロンビンとD1D2ドメインの組換え構築物とによって形成される複合体(SC1~325)は、プロトロンビンの基質結合エキソサイトとは異なる相互作用によってフィブリノゲンを結合させることができる[133]。
【0137】
Coaのその他の2つのドメインはあまりよくわかっていない。D2の後には、未知の機能を有する高度に保存されたリンカー(L)領域が存在する[77]。C末端の近くには、27アミノ酸のペプチドのタンデムリピートの領域が存在し、リピートの数は菌株の間で異なる[77]。リピート領域はフィブリノゲンとの高親和性の結合に関与するものと考えられている[133、214]。
【0138】
Coaをコードする遺伝子(coa)は、全ての黄色ブドウ球菌の染色体上に見出されるが、しかしそれは最も可変性のタンパク質のうちの1つであり、12種類の既知のタイプを有する(Watanabe et al 2005, Watanabe et al 2009)。Coa対立遺伝子間の可変性の大部分は、D1およびD2ドメインにある。リンカー領域は、血清型の間の同一性86.7%で比較的保存されている(Watanabe et al 2005)。注目すべきは、成熟Coaのアミノ末端、すなわちシグナルペプチダーゼ切断部位の後の最初の7残基は、プロトロンビンを活性化し、これらの残基は、分析された全ての菌株の間で保存されている[68]。27残基ペプチドのC末端のタンデムリピートは、5つから9つまで数が変化するが、しかし血清型の間で90%超の同一性を有する(Watanabe et al 2005)。SC1~282におけるエピトープを認識する抗体は、Coa-プロトロンビン複合体の酵素活性を遮断することが必要である[215]。インビボで、C末端のリピートに対する抗体はまた防御を付与する[215]が、防御の機構は今のところ不明である。
【0139】
Coaポリペプチドは、サブユニットワクチンとして用いられ、体液性免疫反応を惹起し、黄色ブドウ球菌の曝露に対する防御免疫を付与することができる。ある態様において、複数の黄色ブドウ球菌株にわたるCoa異形を標的にする多価ワクチンが企図される。この態様は、Molly McAdow、Andrea DeDent、Alice Cheng、Carla Emolo、Dominique Missiakas、Olaf Schneewindの名において「STAPHYLOCOCCAL COAGULASE ANTIGENS AND METHODS OF THEIR USE」という名称で2012年4月26日付で出願された米国特許仮出願において論じられており、これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0140】
II. タンパク質性組成物
本明細書において用いられる場合「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む分子をいう。いくつかの態様において、タンパク質またはポリペプチドの野生型が用いられるが、しかし、本開示の多くの態様において、免疫反応を生じさせるために修飾されたタンパク質またはポリペプチドが用いられる。上記の用語は互換的に用いることができる。「修飾タンパク質」もしくは「修飾ポリペプチド」または「変種」とは、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が野生型のタンパク質またはポリペプチドに対して改変されているタンパク質またはポリペプチドをいう。いくつかの態様において、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは、(タンパク質またはポリペプチドが複数の活性または機能を有しうることを認識して)少なくとも1つの修飾された活性または機能を有する。具体的には、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは1つの活性または機能に関して改変されうるが、それでも免疫原性のような、その他の点では野生型の活性または機能を保持しているものと考えられる。
【0141】
ある種の態様において、(野生型または修飾)タンパク質またはポリペプチドのサイズは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500、もしくはそれ以上のアミノ分子およびその中から派生する任意の範囲のアミノ分子、または本明細書において記述されるもしくは参照される対応アミノ配列の派生体を含むことができるがこれらに限定されることはない。ポリペプチドを切断によって突然変異させ、それらを、対応するその野生型よりも短くさせてもよいが、それらを(例えば、標的化または局在化のために、免疫原性の増強のために、精製目的のために、など)特定の機能を有する異種タンパク質配列に融合または結合させることによって変化させることもできると考えられる。
【0142】
本明細書において用いられる場合、「アミノ分子」とは、当技術分野において公知の任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣体をいう。ある種の態様において、タンパク質性分子の残基は逐次的であり、アミノ分子残基の配列を中断するいかなる非アミノ分子も含まれない。他の態様において、その配列は1つまたは複数の非アミノ分子部分を含むことができる。特定の態様において、タンパク質性分子の残基の配列は1つまたは複数の非アミノ分子部分によって中断されることができる。
【0143】
したがって、「タンパク質性組成物」という用語は、天然に合成されたタンパク質における20種類の共通アミノ酸の少なくとも1つ、または少なくとも1つの修飾もしくは異常アミノ酸を含むアミノ分子配列を包含する。
【0144】
タンパク質性組成物は、(i) 標準的な分子生物学的技術を通じたタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの発現、(ii) 天然源からのタンパク質性化合物の単離、または(iii) タンパク質性物質の化学的合成を含む、当業者に公知の任意の技術により、作製することができる。さまざまな遺伝子に対するヌクレオチドならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列がこれまでに開示されており、公認のコンピュータ化されたデータベースにおいて見出される可能性がある。そのようなデータベースの1つが全米バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベース(ncbi.nlm.nih.gov/のワールドワイドウェブ上)である。これらの公知の遺伝子に対するコード領域は、本明細書において開示される技術を用いてまたは当業者に周知であるように、増幅および/または発現されうる。
【0145】
本開示のコアグラーゼの、特に、コアグラーゼRドメイン、SpAおよび他のポリペプチドのアミノ酸配列変種は置換変種、挿入変種または欠失変種でありうる。本開示のポリペプチドの変化は野生型と比べて、ポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50個、またはそれ以上の非連続または連続アミノ酸に影響を与えうる。変種は、本明細書において提供または参照されるいずれかの配列、例えば、Rドメインの配列と、以下の間の全ての値および範囲を含め、少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%同一であるアミノ酸配列を含みうる。変種は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個、またはそれ以上の置換アミノ酸を含みうる。本明細書において記述される組成物および方法で用いるために、Ess経路によってプロセッシングもしくは分泌されるポリペプチドまたは他の表面タンパク質(表3参照)あるいはいずれかのブドウ球菌種および株由来のソルターゼ基質が企図される。
【0146】
欠失変種は、典型的には、天然または野生型タンパク質についての1つまたは複数の残基を欠損している。個々の残基を欠失させてもよく、またはいくつかの隣接アミノ酸を欠失させてもよい。終止コドンを(置換または挿入により)コード化核酸配列に導入して、切断型タンパク質を作製することができる。挿入変異体は、典型的には、ポリペプチドにおける非末端点での物質の付加を伴う。これには1つまたは複数の残基の挿入を含めることができる。融合タンパク質と呼ばれる、末端付加体を作製することもできる。これらの融合タンパク質は、本明細書において記述または参照される1つまたは複数のペプチドまたはポリペプチドの多量体または鎖状体を含む。
【0147】
以下は、変種ポリペプチドまたはペプチドを作製するためにタンパク質のアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある種のアミノ酸を、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位のような構造との相互作用結合能をかなり失うようにまたはさほど失わないようにタンパク質構造中の他のアミノ酸の代わりに用いることができる。タンパク質の機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および性質であることから、タンパク質配列の中に、およびその基礎となるDNAコード配列の中にある種のアミノ酸置換を施し、それでも、所望の特性を有するタンパク質を産生させることができる。このように、遺伝子のDNA配列において種々の変化を施すことができるものと本発明者らは企図している。
【0148】
本開示の組成物においては、1 mlあたり約0.001 mg~約10 mgの総ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質が存在することが企図される。組成物中のタンパク質の濃度は約、少なくとも約または多くても約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/ml、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)でありうる。このうち、約、少なくとも約、または多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%がコアグラーゼRドメインもしくはコアグラーゼまたはその変種であってよく、他の細菌ペプチドおよび/または抗原のような、他のペプチドまたはポリペプチドと組み合わせて用いられてもよい。
【0149】
本開示は、ブドウ球菌病原菌による感染症と関連する疾患または状態の発症に対する予防的治療または治療効果に影響を与えるためのブドウ球菌コアグラーゼRドメイン(もしくはそのセグメント)またはその変種の投与を企図する。
【0150】
ある種の局面において、ブドウ球菌感染症の処置または予防に有効である免疫原性組成物の作製においてブドウ球菌抗原の組み合わせが用いられる。ブドウ球菌感染症はいくつかの異なる段階を経て進行する。例えば、ブドウ球菌の生活環には、片利共生定着、隣接する組織もしくは血流に接近することによる感染症の開始、および/または血液中での嫌気的増殖が含まれる。黄色ブドウ球菌病原性決定因子と宿主防御機構との間の相互作用は、心内膜炎、転移性膿瘍形成および敗血症候群のような合併症を誘発しうる。細菌表面上の異なる分子が感染症サイクルの異なる段階に関与する。ある種の抗原の組み合わせによって、多段のブドウ球菌感染症を防御する免疫反応が引き起こされる可能性がある。免疫反応の有効性は動物モデルアッセイ法においておよび/またはオプソニン食作用アッセイ法を用いて測定することができる。
【0151】
タンパク質は、組換えであってもまたはインビトロで合成されてもよい。あるいは、非組換えまたは組換えタンパク質を細菌から単離してもよい。そのような変種を含有する細菌を、組成物および方法のなかで実践できることも考えられる。結果的に、タンパク質は単離されなくてもよい。
【0152】
「機能的に等価なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンに対する6種類のコドンなどの、同じアミノ酸をコードするコドンをいうように、本明細書において用いられ、同様に、生物学的に等価のアミノ酸をコードするコドンもいう(以下のコドン表を参照のこと)。
【0153】
【0154】
アミノ酸および核酸の配列は、タンパク質の発現が関与している生物学的タンパク質活性の維持を含む上記の基準を満たす限り、それぞれ、さらなるN末端もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列などのさらなる残基を含むこともあり、それでも本質的には、本明細書において開示されている配列の1つに記載の通りでありうることも理解されると考えられる。末端配列の付加は核酸配列に特に当てはまり、例えば、コード領域の5'部分または3'部分のいずれか一方に隣接する種々の非コード配列を含むことができる。
【0155】
置換変種は、典型的には、タンパク質内の1つまたは複数の部位での1つのアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含み、他の機能または特性を失ってかまたは失うことなく、ポリペプチドについての1つまたは複数の特性を修飾するように設計されてもよい。置換は保存的であってもよく、すなわち、1つのアミノ酸が、類似の形状および電荷のアミノ酸に置換されてもよい。保存的置換は当技術分野において周知であり、これには、例えば、アラニンのセリンへの、アルギニンのリジンへの、アスパラギンのグルタミンまたはヒスチジンへの、アスパラギン酸のグルタミン酸への、システインのセリンへの、グルタミンのアスパラギンへの、グルタミン酸のアスパラギン酸への、グリシンのプロリンへの、ヒスチジンのアスパラギンまたはグルタミンへの、イソロイシンのロイシンまたはバリンへの、ロイシンのバリンまたはイソロイシンへの、リジンのアルギニンへの、メチオニンのロイシンまたはイソロイシンへの、フェニルアラニンのチロシン、ロイシンまたはメチオニンへの、セリンのトレオニンへの、トレオニンのセリンへの、トリプトファンのチロシンへの、チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニンへの、および、バリンのイソロイシンまたはロイシンへの変化が含まれる。あるいは、置換はポリペプチドの機能または活性が影響を受けるように非保存的であってもよい。非保存的変化は、典型的には、非極性アミノ酸または非荷電アミノ酸の代わりに極性アミノ酸または荷電アミノ酸を用いておよびその逆など、1つの残基を化学的に異なる残基に置換することを含む。
【0156】
以下は、等価なまたは場合によっては改善された、第二世代の分子を作製するためにタンパク質のアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある特定のアミノ酸を、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位などの構造との相互作用結合能をさほど失わないようにタンパク質構造中の他のアミノ酸の代わりに用いることができる。タンパク質の機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および性質であることから、タンパク質配列の中に、およびその基礎となるDNAコード配列の中にある特定のアミノ酸置換を施し、それでも、類似の特性を有するタンパク質を産生させることができる。このように、遺伝子のDNA配列において、その生物学的有用性または活性をさほど失わないように種々の変化を施すことができるものと本発明者らは企図している。
【0157】
そのような変化を加える場合、アミノ酸の疎水性親水性指標を考慮してもよい。タンパク質に相互作用生物機能を付与する際の疎水性親水性アミノ酸指数の重要性は、一般的に当技術分野において理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的な疎水性親水性指標の特徴が、得られるタンパク質の二次構造に寄与し、さらには、タンパク質と他の分子、例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などとの相互作用を規定することが容認されている。
【0158】
同様に、親水性に基づいて有効に同類のアミノ酸の置換がなされることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性が、タンパク質の生物特性と相関すると述べている。1つのアミノ酸を、類似の親水性値を有する別のアミノ酸に置換することができ、それでもなお、生物学的に等価かつ免疫学的に等価なタンパク質を作製することができると理解される。
【0159】
上記で概説した通り、アミノ酸の置換は一般的に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えば疎水性、親水性、電荷、大きさなどに基づく。前述のさまざまな特徴を考慮に入れた例示的置換は周知であり、アルギニンおよびリジン; グルタミン酸およびアスパラギン酸; セリンおよびトレオニン; グルタミンおよびアスパラギン; ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンを含む。
【0160】
組成物においては、1 mlあたり約0.001 mg~約10 mgの総ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質が存在することが企図される。したがって、組成物中のタンパク質の濃度は約、少なくとも約、または多くても約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/ml、もしくはそれ以上 (またはその中から派生する任意の範囲)でありうる。このうち、約、少なくとも約、または多くても約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%が、Coaを結合させる抗体であってよく、他のブドウ球菌タンパク質または本明細書において記述されるタンパク質結合抗体と組み合わせて用いられてもよい。
【0161】
A. ポリペプチドおよびポリペプチド産生
複数の態様には、本明細書において記述されるさまざまな局面で用いるためのポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの免疫原性断片が含まれる。例えば、特定の抗体を、ブドウ球菌感染症の無力化もしくは阻害についてアッセイするか、またはブドウ球菌感染症の無力化もしくは阻害で用いる。特定の態様において、本明細書において記述されるタンパク質の全部または一部を、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固体支持体上で合成することもできる。各種の自動合成機が市販されており、それらを公知のプロトコールにしたがって用いることができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tarn et al., (1983); Merrifield, (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたく、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。あるいは、ペプチドまたはポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に形質転換または形質移入し、これを発現に適した条件の下で培養する組換えDNA技術を使用することもできる。
【0162】
1つの態様では、タンパク質の産生および/または提示のための、微生物を含めた細胞への遺伝子移入の使用を含む。関心対象のタンパク質に対する遺伝子を適切な宿主細胞に移入し、引き続いて適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。実質的にすべてのポリペプチドをコードする核酸を、使用することができる。組換え発現ベクターの作製、およびそのベクターに含まれる要素は、本明細書において論じられている。あるいは、産生されるタンパク質は、タンパク質の産生に用いられる細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0163】
ある局面において、免疫原性Coa断片は、黄色ブドウ球菌から単離できるCoaタンパク質のD1および/もしくはD2ドメインならびに/またはRドメインの実質的全てを含む。
【0164】
免疫原性組成物中に同様に含まれるのは、ブドウ球菌タンパク質またはブドウ球菌タンパク質の免疫原性断片(例えば、Coa)から構成される融合タンパク質である。あるいは、複数の態様には、T細胞エピトープまたは精製タグの供与体などの異種配列、例えばβ-ガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、エピトープタグ、例えばFLAG、mycタグ、ポリヒスチジン、またはウイルス表面タンパク質、例えばインフルエンザウイルス赤血球凝集素、または細菌タンパク質、例えば破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、CRM197との融合タンパク質としての、ブドウ球菌タンパク質またはその免疫原性断片の個々の融合タンパク質も含まれる。
【0165】
本開示は、本開示のさまざまな態様で用いるためのポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの免疫原性断片について記述する。例えば、特定のポリペプチドを、免疫反応を誘発するかアッセイし、または免疫反応を誘発するために用いる。特定の態様において、本開示のタンパク質の全部または一部を、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固体支持体上で合成することもできる。各種の自動合成機が市販されており、それらを公知のプロトコールにしたがって用いることができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tarn et al., (1983); Merrifield, (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたく、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。
【0166】
あるいは、本開示のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に形質転換または形質移入し、これを発現に適した条件の下で培養する組換えDNA技術を用いることもできる。
【0167】
本開示の1つの態様では、ポリペプチドまたはペプチドの産生および/または提示のための、微生物を含む、細胞への遺伝子移入の使用を含む。関心対象のポリペプチドまたはペプチドに対する遺伝子を適切な宿主細胞に移入し、引き続いて適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。組換え発現ベクターの作製、およびそのベクターに含まれる要素は、当技術分野において周知であり、本明細書において手短に論じられている。あるいは、産生されるタンパク質は、単離かつ精製される細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0168】
本開示の別の態様では、免疫原産物、より具体的には、免疫原性活性を有するタンパク質を発現するウイルスベクターにより形質移入された、自己Bリンパ球細胞株を用いる。哺乳類宿主細胞株の他の例としては、VeroおよびHeLa細胞、CEM、721.221、H9、Jurkat、Rajiなどの、他のB-およびT-細胞株、ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RIN、およびMDCK細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望とされる様式で遺伝子産物を修飾およびプロセッシングする宿主細胞株を選択することもできる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要でありうる。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセッシングおよび修飾の特徴的かつ特異的な機構を有する。発現される外来タンパク質の的確な修飾およびプロセッシングを確実とするために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。
【0169】
tk-、hgprt-、またはaprt-細胞それぞれにおけるHSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない、いくつかの選択系を用いることができる。同様に、選択の基礎として抗代謝物耐性: トリメトプリムおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr; ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt; アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo; ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroを用いることもできる。
【0170】
動物細胞はインビトロにおいて2つの様式で、つまり培養の大半を通じて浮遊状態で増殖する非足場依存性細胞として、またはそれらの増殖(すなわち、単層型の細胞増殖)のためには固体基材への付着を要する足場依存性細胞として増殖させることができる。
【0171】
連続樹立細胞株由来の非足場依存性培養または浮遊培養は、細胞および細胞産物の、最も広く使われている大規模産生手段である。しかしながら、浮遊培養細胞には、腫瘍形成能および接着細胞よりも低いタンパク質産生のような制限がある。
【0172】
タンパク質を本明細書において具体的に述べる場合、それは、好ましくは、天然もしくは組換えタンパク質、または場合により任意のシグナル配列が除去されたタンパク質への言及である。タンパク質は、ブドウ球菌株から直接単離されてもよく、または組換えDNA技術によって産生されてもよい。タンパク質の免疫原性断片を本開示の免疫原性組成物に組み込んでもよい。これらは、タンパク質のアミノ酸配列から連続的に取り出される、以下の間の全ての値および範囲を含む少なくとも10アミノ酸、20アミノ酸、30アミノ酸、40アミノ酸、50アミノ酸、または100アミノ酸を含む断片である。さらに、そのような免疫原性断片は、ブドウ球菌タンパク質に対して作製された抗体と免疫学的に反応性であるか、またはブドウ球菌による哺乳類宿主の感染症によって作製された抗体と免疫学的に反応性である。免疫原性断片はまた、有効量で(単独でまたは担体に結合されたハプテンとしてのいずれかで)投与される場合に、ブドウ球菌感染症に対する防御的または治療的免疫反応を誘発する断片も含み、ある種の局面において、それは黄色ブドウ球菌および/または表皮ブドウ球菌感染症を防ぐ。そのような免疫原性断片は、例えば、N末端リーダー配列、ならびに/あるいは膜貫通ドメインおよび/またはC末端アンカードメインを欠損するタンパク質を含むことができる。好ましい局面において、本開示による免疫原性断片は、本明細書において記述または参照されるポリペプチドの配列選択セグメントに対し、以下の間の全ての値および範囲を含む少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、または少なくとも97~99%の同一性を有するタンパク質の細胞外ドメインの実質的に全てを含む。
【0173】
本開示の免疫原性組成物中に同様に含まれるのは、1つもしくは複数のブドウ球菌タンパク質、またはブドウ球菌タンパク質の免疫原性断片から構成される融合タンパク質である。そのような融合タンパク質は、組換えによって作製することができ、少なくとも1、2、3、4、5、または6種類のブドウ球菌タンパク質またはセグメントの一部分を含むことができる。あるいは、融合タンパク質は、少なくとも1、2、3、4、または5種類のブドウ球菌タンパク質の複数部分を含むこともできる。これらは、異なるブドウ球菌タンパク質および/または同一のタンパク質もしくはタンパク質断片の複数のもの、あるいは同一タンパク質における免疫原性断片を組み合わせ(多量体または鎖状体を形成させ)ることができる。あるいは、本開示はまた、T細胞エピトープまたは精製タグの供与体のような異種配列、例えばβガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、エピトープタグ、例えばFLAG、mycタグ、ポリヒスチジン、またはウイルス表面タンパク質、例えばインフルエンザウイルス赤血球凝集素、または細菌タンパク質、例えば破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイドもしくはCRM197との融合タンパク質としての、ブドウ球菌タンパク質またはその免疫原性断片の個々の融合タンパク質も含む。
【0174】
B. 抗体および抗体様分子
ある局面において、Coaに対する特異性を有する、1つまたは複数の抗体または抗体様分子(例えば、抗体CDRドメインを含むポリペプチド)が得られうるかまたは産生されうる。特定の態様において、CoaのD1および/またはD2ドメインに対する特異性を有する、1つまたは複数の抗体または抗体様分子(例えば、抗体CDRドメインを含むポリペプチド)は得られうるかまたは産生されうる。これらの抗体は、本明細書において記述されるさまざまな診断用途または治療用途において用いられうる。
【0175】
本明細書において用いられる場合、「抗体」という用語は、広くIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEなどの任意の免疫学的結合物質をいうこと、ならびに、抗原結合活性を保持する抗体CDRドメインを含むポリペプチドをいうことが意図される。したがって、「抗体」という用語は、抗原結合領域を有する任意の抗体様分子をいうように用いられ、Fab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFv (一本鎖Fv)などの抗体断片、および抗体CDRを有するポリペプチド、CDRを提示する足場ドメイン(例えば、アンチカリン)またはナノボディを含む。例えば、ナノボディはラクダIgG2もしくはIgG3由来の抗原特異的VHH (例えば、組換えVHH)、またはそのようなラクダIg由来のCDR提示フレイムでありうる。抗体に基づくさまざまな構築物および断片を調製および使用するための技術は、当技術分野において周知である。抗体を調製および特徴決定するための手段も当技術分野において周知である(例えば、参照により本明細書に組み入れられるAntibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988を参照のこと)。
【0176】
「ミニ抗体」または「ミニボディ」も態様で用いるために企図される。ミニボディは、ヒンジ領域によってsFvから分離された、そのC末端にオリゴマー化ドメインを含むsFvポリペプチド鎖である。Pack el al. (1992)。オリゴマー化ドメインは、付加的なジスルフィド結合によってさらに安定化されうる、自己会合α-へリックス、例えば、ロイシンジッパーを含む。オリゴマー化ドメインは、ポリペプチドの機能的結合タンパク質へのインビボでの折り畳みを促進すると考えられる過程である、膜前後の一方向性の折り畳みと適合性であるように設計される。一般的に、ミニボディは、当技術分野において周知の組換え方法を用いて産生される。例えば、Pack et al. (1992); Cumber et al. (1992)を参照されたい。
【0177】
抗体様結合ペプチド模倣体も態様において企図される。Liu et al. (2003)は、「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)を記述しており、これは規模縮小した抗体として作用し、より長い血清半減期およびあまり煩雑ではない合成法というある特定の利点を有するペプチドである。
【0178】
CDRなどの抗原結合ペプチドの別の足場も使用可能であり、態様にしたがってCoa結合分子を作製するために用いられうる。一般的に、当業者は、元の抗体に由来するCDRの少なくとも1つをグラフトするタンパク質足場のタイプを決定する方法を承知している。より詳細には、そのような足場に選択されるには、以下の基準(Skerra, 2000): 系統発生的保存が良好であること; 三次元構造が既知であること(例えば、結晶学、NMR分光、もしくは当業者に公知の他のいずれかの技術による); サイズが小さいこと; 転写後修飾がほとんどもしくは全くないこと; ならびに/または産生、発現および精製が容易であること、の最多数を満たさなければならないことが公知である。
【0179】
そのようなタンパク質足場の起源は、フィブロネクチン、好ましくはフィブロネクチンIII型ドメイン10、リポカリン、アンチカリン(Skerra、2001)、黄色ブドウ球菌のプロテインAのドメインBに由来するプロテインZ、チオレドキシンA、または「アンキリンリピート」(Kohl et al.、2003)、「アルマジロリピート」、「ロイシンリッチリピート」および「テトラトリコペプチドリピート」などのリピートモチーフを有するタンパク質の中から選択される構造であってよいが、これらに限定されることはない。例えば、アンチカリンまたはリポカリン誘導体は、さまざまな標的分子に対する親和性および特異性を有する結合タンパク質の1種であり、SpA結合分子として用いることができる。そのようなタンパク質は、参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願公開第20100285564号、同第20060058510号、同第20060088908号、同第20050106660号、およびPCT公報番号WO2006/056464に記述されている。
【0180】
例えば、サソリ、昆虫、植物、軟体動物などからの毒素などの毒素に由来する足場、および神経型NO合成酵素のタンパク質阻害物質(PIN)も、ある局面において用いられうる。
【0181】
モノクローナル抗体(mAb)にはある特定の利点、例えば、再現性および大量産生が有ると認識されている。複数の態様にはヒト、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギ、およびニワトリ由来のモノクローナル抗体が含まれる。
【0182】
「ヒト化」抗体も企図され、同様にヒト定常領域および/または可変領域ドメインを有する、マウス、ラット、または他の種由来のキメラ抗体、二重特異性抗体、組換えのおよび遺伝子操作された抗体ならびにそれらの断片も企図される。本明細書において用いられる場合、「ヒト化」免疫グロブリンという用語は、ヒトフレームワーク領域と非ヒト(通常、マウスまたはラット)免疫グロブリン由来の1つまたは複数のCDRとを含む免疫グロブリンをいう。CDRを提供する非ヒト免疫グロブリンは「ドナー」と呼ばれ、フレームワークを提供するヒト免疫グロブリンは「アクセプター」と呼ばれる。「ヒト化抗体」は、ヒト化軽鎖免疫グロブリンおよびヒト化重鎖免疫グロブリンを含む抗体である。
【0183】
C. 抗体を作製するための方法
抗体(例えば、モノクローナル抗体および/またはモノクローナル抗体)を作製するための方法は、当技術分野において公知である。手短に言えば、ポリクローナル抗体は、態様にしたがって動物をCoaポリペプチドまたはその一部分で免疫する段階、および免疫した動物から抗血清を採取する段階によって調製される。
【0184】
広範囲の動物種を抗血清の産生のために用いることができる。典型的には、抗血清の産生のために用いられる動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、またはヤギである。動物を選ぶことは、当業者に公知である通り、操作の容易さ、血清の費用、または所望の量に応じて決定される可能性がある。抗体はまた、関心対象の免疫グロブリン重鎖および軽鎖配列に関してトランスジェニックである哺乳動物または植物の生成、およびそれらから回収可能な形態での抗体の産生を通して遺伝子導入により産生できることが理解されると考えられる。哺乳動物におけるトランスジェニック産生に関連して、抗体は、ヤギ、ウシ、または他の哺乳動物の乳汁において産生され、そこから回収することができる。例えば米国特許第5,827,690号、同第5,756,687号、同第5,750,172号、および同第5,741,957号を参照されたい。
【0185】
同様に当技術分野において周知である通り、特定の免疫原組成物の免疫原性は、アジュバントとして知られる、免疫反応の非特異的刺激物質を用いることによって増強されうる。適したアジュバントには、サイトカイン、ケモカイン、補助因子、毒素、変形体、合成組成物、またはそのようなアジュバントをコードするベクターなどの、全ての受け入れられる免疫刺激化合物が含まれる。
【0186】
複数の態様にしたがって用いてもよいアジュバントは、IL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、-インターフェロン、GMCSP、BCG、水酸化アルミニウム、thur-MDP、およびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP(MTP-PE)、脂質A、ならびにモノホスホリル脂質A (MPL)を含むが、これらに限定されることはない。細菌から抽出した3つの成分を含有するRIBI、MPL、ジミコール酸トレハロース(TDM)、および2%スクアレン/Tween 80乳濁液における細胞壁骨格(CWS)も同様に企図される。MHC抗原でさえも用いてもよい。例示的なアジュバントは、フロイントの完全アジュバント(ヒト結核菌(Mycobacterium tuberculosis)死菌を含有する免疫反応の非特異的刺激物質)、フロイントの不完全アジュバントおよび/または水酸化アルミニウムアジュバントを含みうる。
【0187】
アジュバントの他に、T細胞免疫を上方制御することまたはサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている生体反応修飾物質(BRM)を同時投与することが望ましい場合がある。そのようなBRMには、シメチジン(CIM; 1200 mg/d) (Smith/Kline, PA); 低用量シクロホスファミド(CYP; 300 mg/m2) (Johnson/ Mead, NJ)、インターフェロン、IL-2、もしくはIL-12などのサイトカイン、またはB-7などの免疫ヘルパー機能に関係するタンパク質をコードする遺伝子が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0188】
抗体の産生に用いられる免疫原組成物の量は、免疫のために用いられる動物とともに免疫原の性質に応じて変化する。皮下、筋肉内、皮内、表皮内、静脈内、および腹腔内を含むが、これらに限定されない、種々の経路を用いて、免疫原を投与することができる。抗体の産生は、免疫後のさまざまな時点で免疫した動物の血液を採取することによってモニターしてもよい。
【0189】
第二の追加免疫投与(例えば、注射剤中で提供される)も同様に与えてもよい。適した力価が達成されるまで、追加免疫および力価測定の過程を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られる場合には、免疫した動物から採血して、血清を単離および保存し、かつ/または動物を用いてmAbを生成することができる。
【0190】
ウサギポリクローナル抗体を産生するために、耳静脈を通してまたは心穿刺によって動物から採血することができる。採取した血液を凝固させた後、遠心分離して、全細胞および凝血から血清成分を分離する。さまざまな用途のために血清を用いてもよいか、あるいはそうでなければ所望の抗体分画を、別の抗体、固相マトリクスに結合したペプチドを用いるアフィニティークロマトグラフィー、または例えばプロテインAもしくはプロテインGクロマトグラフィーなどの周知の方法によって精製してもよい。
【0191】
mAbは参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,196,265号において例示される技術などの周知の技術を用いることによって容易に調製されうる。典型的には、この技術は、それが野生型または変異型の組成物であれば、選択された免疫原組成物、例えば精製または部分精製された、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、またはドメインによって、適した動物を免疫することを含む。免疫組成物は、抗体産生細胞を刺激するために有効な方法で投与される。
【0192】
モノクローナル抗体(mAb)を生成するための方法は一般的に、ポリクローナル抗体を調製するための系列と同じ系列に沿って始まる。いくつかの態様において、マウスおよびラットなどのげっ歯類がモノクローナル抗体の生成において用いられる。いくつかの態様において、ウサギ、ヒツジ、またはカエルの細胞がモノクローナル抗体の生成において用いられる。ラットを用いることは、周知であり、ある特定の利点を提供しうる(Goding, 1986, pp. 60 61)。マウス(例えば、BALB/cマウス)は、日常的に用いられており、高い割合の安定融合体を一般的に与える。
【0193】
動物に、一般的に先に記述した通りに抗原を注射する。抗原をフロイントの完全または不完全アジュバントなどのアジュバントと混合してもよい。同じ抗原または該抗原をコードするDNAの追加免疫投与は、およそ2週間間隔で行われうる。
【0194】
免疫後、抗体を産生する可能性を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)をmAb生成プロトコールにおいて用いるために選択する。これらの細胞は、生検として採取された脾臓、扁桃、もしくはリンパ節から得てもよいか、または末梢血試料から得てもよい。一般的に、脾臓細胞は、分裂する形質芽球段階の抗体産生細胞に富む起源である。典型的には、末梢血は容易にアクセス可能であるので、末梢血細胞は容易に得られうる。
【0195】
いくつかの態様において、動物のパネルを免疫して、最高の抗体力価を有する動物の脾臓を採取し、シリンジによって脾臓をホモジナイズすることによって脾臓リンパ球を得る。典型的には、免疫したマウスからの脾臓はリンパ球約5×107~2×108個を含有する。
【0196】
次に、免疫した動物からの抗体産生Bリンパ球を、不死化骨髄腫細胞、一般的には免疫した動物と同じ種の細胞と融合させる。ハイブリドーマ産生融合手法において用いるのに適した骨髄腫細胞株は好ましくは、非抗体産生細胞であり、高い融合効率を有し、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの生育を支持するある特定の選択培地において生育不可能になる酵素欠損を有する。
【0197】
当業者に公知である通りに、いくつかの骨髄腫細胞のいずれかの1つを用いてもよい(Goding, pp. 65 66, 1986;Campbell, pp. 75 83, 1984)。例えば、免疫動物がマウスである場合、P3 X63/Ag8、X63 Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210 Ag14、FO、NSO/U、MPC 11、MPC11 X45 GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bulを用いてもよく; ラットの場合、R210.RCY3、Y3 Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用いてもよく; かつU 266、GM1500 GRG2、LICR LON HMy2、およびUC729 6は全て、ヒト細胞融合体に関連して有用である。骨髄腫発現システムに関する考察に関しては、Yoo et al. (2002)を参照されたい。
【0198】
1つのマウス骨髄腫細胞は、NS-1骨髄腫細胞株(P3-NS-1-Ag4-1とも呼ばれる)であり、これは細胞株寄託番号GM3573を要請することによって、NIGMS Human Genetic Mutant Cell Repositoryから容易に入手可能である。用いてもよい別のマウス骨髄腫細胞株は、8アザグアニン耐性マウス骨髄腫SP2/0非産生細胞株である。
【0199】
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドを生成するための方法は通常、骨髄腫細胞と体細胞とを2:1の比率で混合する段階を含むが、比率は細胞膜の融合を促進する物質(化学物質または電気物質)の存在下でそれぞれ、約20:1~約1:1まで変化してもよい。センダイウイルスを用いる融合法は、Kohler and Milstein(1975;1976)によって記述されており、Gefter et al.,(1977)による37%(v/v) PEGなどのポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法が記述されている。電気的に誘発された融合法を用いることも適切である(Goding pp. 71 74, 1986)。
【0200】
融合手法は通常、低い頻度で約1×10-6~1×10-8個の生存ハイブリッドを産生する。しかし、生存融合ハイブリッドは、選択培地において培養することによって、親の非融合細胞(特に、通常無限に分裂し続けると考えられる非融合骨髄腫細胞)から識別されることから、これは問題とはならない。選択培地は一般的に、組織培養培地においてヌクレオチドのデノボ合成を遮断する物質を含有する培地である。例示的なおよび好ましい物質は、アミノプテリン、メトトレキセート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートは、プリンとピリミジンの両方のデノボ合成を遮断するが、アザセリンはプリン合成のみを遮断する。アミノプテリンまたはメトトレキセートを用いる場合、ヌクレオチド源としてヒポキサンチンおよびチミジンを培地に補充する(HAT培地)。アザセリンを用いる場合、ヒポキサンチンを培地に補充する。
【0201】
好ましい選択培地はHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を操作することができる細胞のみがHAT培地において生存することができる。骨髄腫細胞はサルベージ経路における重要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠損し、それらは生存することができない。B細胞はこの経路を操作することができるが、それらは培養において限られた寿命を有し、一般的に約2週間以内に死滅する。したがって、選択培地を生存できる細胞のみが、骨髄腫およびB細胞から形成されたハイブリッドである。
【0202】
この培養は、特異的ハイブリドーマが選択されるハイブリドーマ集団を提供する。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおける単一クローン希釈によって細胞を培養する段階の後、個々のクローン上清を所望の反応性に関して試験する(約2~3週間後)ことによって行われる。アッセイ法は、放射性免疫測定法、酵素免疫測定法、細胞障害アッセイ法、プラークアッセイ法、ドット免疫結合アッセイ法などのように、感度がよく、単純であり、かつ迅速であるべきである。
【0203】
次に、選択されたハイブリドーマを連続希釈して、個々の抗体産生細胞株へとクローニングし、mAbを提供するためにこれらのクローンを無限に成長させることができる。細胞株を2つの基本的な方法でmAb産生のために活用してもよい。第一に、ハイブリドーマの試料を、当初の融合体のための体細胞および骨髄腫細胞を提供するために用いられる組織適合性のタイプの動物(例えば、同系マウス)に注入(しばしば腹腔内に)することができる。任意で、動物を注射前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)などの油によってプライミングする。注入された動物は、融合細胞ハイブリッドによって産生される特異的モノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生させる。血清または腹水などの動物の体液を採取して、高濃度のmAbを提供することができる。第二に個々の細胞株をインビトロにおいて培養することができ、そこで、mAbは培養培地に自然と分泌され、そこから抗体を高濃度で容易に得ることができる。
【0204】
さらに、産生細胞株からの抗体(またはそれに由来する他の部分)の発現を、いくつかの公知の技術を用いて増強することができる。例えば、グルタミンシンテターゼおよびDHFR遺伝子発現システムは、ある特定の条件下で発現を増強するための一般的手法である。限界希釈クローニングおよびマイクロドロップ(Microdrop)技術などの通常の技術を用いて、高発現細胞クローンを同定することができる。GSシステムは、欧州特許第0 216 846号、同第0 256 055号、および同第0 323 997号、ならびに欧州特許出願第89303964.4号に関連して全体または部分的に論じられている。
【0205】
いずれかの手段によって産生されたmAbは、必要に応じてろ過、遠心分離、およびHPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーなどの、さまざまなクロマトグラフィー法を用いてさらに精製してもよい。モノクローナル抗体の断片は、ペプシンもしくはパパインなどの酵素による消化を含む方法によって、および/または化学的還元によるジスルフィド結合の切断によって産生されたモノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、モノクローナル抗体断片は、自動ペプチド合成機を用いて合成することができる。
【0206】
分子クローニング手法を用いてモノクローナル抗体を生成してもよいことも企図される。1つの態様において、免疫動物の脾臓から単離したRNAから、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリーを調製して、適切な抗体を発現するファージミドを、抗原を発現する細胞および対照細胞を用いるパニングによって選択する。従来のハイブリドーマ技術に対するこの手法の長所は、およそ104倍もの多くの抗体を1回のラウンドで産生およびスクリーニングできる点、ならびにHおよびL鎖の組み合わせによって新しい特異性が生成され、それによって適切な抗体を発見する機会がさらに増大する点にある。
【0207】
別の態様は、例えば、Cre媒介部位特異的組換えを用いて改変免疫グロブリン座を含む細胞のゲノム配列から抗体を発現する細胞を産生するための方法を記述している、米国特許第6,091,001号において見い出され、開示される通り、抗体を産生することに関する。該方法は、第一のlox座が部位特異的相同組換えによりゲノム配列に挿入されるように、lox座と、改変領域に変換されるゲノム配列の免疫グロブリン座の領域に隣接する第一のDNA配列と相同な標的化配列とを含む相同性標的化ベクターを抗体産生細胞に最初に形質移入する段階を含む。次に、組み込まれたlox部位とのCre媒介組換えに適した第二のlox部位と、免疫グロブリン座の領域を改変領域に変換するための改変配列とを含むlox標的化ベクターを細胞に形質移入する。この変換は、改変配列がlox部位のCre媒介部位特異的組換えによりゲノム配列に挿入されるように、インビボにおいてCreとlox部位を相互作用させることによって行われる。
【0208】
あるいは、モノクローナル抗体断片は、自動ペプチド合成機を用いて、または大腸菌における完全長の遺伝子もしくは遺伝子断片の発現によって、合成することができる。
【0209】
D. 抗体およびポリペプチド結合体
複数の態様によって、抗体結合体またはペイロードを形成させるために少なくとも1つの作用物質に連結されている、Coaタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドに対する抗体および抗体様分子が提供される。診断物質または治療用物質としての抗体分子の有効性を増大させるために、少なくとも1つの所望の分子または部分を連結させること、または共有結合的に結合もしくは複合体化させることが通常である。そのような分子または部分は、少なくとも1つのエフェクターまたはレポーター分子でありうるが、これらに限定されることはない。エフェクター分子は、所望の活性、例えば、細胞毒性活性を有する分子を含む。抗体に付着されたエフェクター分子の非限定的な例としては、毒素、治療用酵素、抗生物質、放射性標識ヌクレオチドなどが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイ法を用いて検出されうる任意の部分と定義される。抗体に結合されたレポーター分子の非限定的な例としては、酵素、放射性同位元素、ハプテン、蛍光標識、リン光性分子、化学発光性分子、発色団、発光性分子、光親和性分子、着色粒子、またはリガンド、例えばビオチンが挙げられる。
【0210】
抗体結合体のある例は、抗体が検出可能な標識に連結している結合体である。「検出可能な標識」は、その使用によって、それらが付着している抗体が検出され、かつ/または必要に応じてさらに定量される、その特異的機能的特性および/または化学的特徴により検出されうる化合物および/または要素である。
【0211】
抗体結合体は一般的に、診断物質として使用が好ましい。抗体診断物質は一般的に2つのクラスに分類され、種々の免疫測定法などのインビトロ診断において用いるための抗体、および/または「抗体指向性の(antibody directed)造影」として一般的に知られるインビボ診断プロトコールにおいて用いるための抗体に分類される。多くの適切な造影剤が、その抗体に対する付着法とともに、当技術分野において公知である(例えば、各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,021,236号; 同第4,938,948号; および同第4,472,509号を参照のこと)。用いられる造影部分は、常時性イオン; 放射活性同位元素; 蛍光体; NMRにより検出可能な物質; X線造影剤でありうる。
【0212】
常磁性イオンの場合、例としてクロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)および/またはエルビウム(III)などのイオンが挙げられることができ、ガドリニウムが特に好ましい。X線造影などの他の状況において有用なイオンは、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)を含むが、これらに限定されることはなく、特にビスマス(III)が好ましい。
【0213】
治療的および/または診断的用途のための放射活性同位元素の場合、アスタチン211、14炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレン、35イオウ、テクネチウム99m、および/またはイットリウム90を用いることができる。125Iは、ある態様において用いられることが多く、テクネチウム99mおよび/またはインジウム111も、その低エネルギーのためにおよびロングレンジ検出に適切であるために用いられることが多い。放射活性標識モノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法にしたがって産生されてもよい。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはヨウ化カリウム、ならびに次亜塩素酸ナトリウムなどの化学酸化剤またはラクトペルオキシダーゼなどの酵素酸化剤と接触させることによってヨウ素化することができる。モノクローナル抗体は、リガンド交換過程によって、例えば過テクネチウム酸をスズ溶液によって還元する段階、還元したテクネチウムをSephadexカラム上でキレート化する段階、および抗体をこのカラムに適用する段階によって、テクネチウム99mで標識してもよい。あるいは、例えば過テクネチウム酸、SNCl2などの還元剤、フタル酸ナトリウム-カリウム溶液などの緩衝液、および抗体をインキュベートすることによる直接標識技術を用いてもよい。金属イオンとして存在する放射性同位元素を抗体に結合させるために用いられることが多い中間官能基は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)である。
【0214】
結合体として用いるために企図される蛍光標識の中には、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY- R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、カスケードブルー、Cy3、Cy5,6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、オレゴングリーン488、オレゴングリーン500、オレゴングリーン514、パシフィックブルー、REG、ローダミングリーン、ローダミンレッド、レノグラフィン、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはテキサスレッドが含まれる。
【0215】
抗体結合体は、抗体が二次結合リガンドおよび/または酵素(酵素タグ)に連結され、色素形成基質と接触した場合に発色産物を生成する、インビボにおいて主に用いることが企図される結合体を含む。適した酵素の例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(西洋ワサビ)水素ペルオキシダーゼ、またはグルコースオキシダーゼが挙げられるが、これらに限定されることはない。好ましい二次結合リガンドは、ビオチンならびに/またはアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。そのような標識を用いることは当業者に周知であり、例えば、各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第3,817,837号; 同第3,850,752号; 同第3,939,350号; 同第3,996,345号; 同第4,277,437号; 同第4,275,149号、および同第4,366,241号に記述されている。
【0216】
分子を抗体に部位特異的に付着させるさらに別の公知の方法は、ハプテンに基づくアフィニティー標識と抗体との反応を含む。本質的に、ハプテンに基づくアフィニティー標識は、抗原結合部位においてアミノ酸と反応し、それによってこの部位を破壊して、特異的抗原反応を遮断する。しかし、これは抗体結合体による抗原結合の損失が起こることから、有利ではない可能性がある。
【0217】
アジド基を含有する分子もまた、低強度紫外光によって生成される反応性のナイトレン中間体を通してタンパク質と共有結合を形成するために用いられる可能性がある(Potter and Haley, 1983)。特に、プリンヌクレオチドの2-および8-アジド類似体は、粗細胞抽出物におけるヌクレオチド結合タンパク質を同定するための部位特異的フォトプローブとして用いられている(Owens and Haley, 1987; Atherton et al., 1985)。2-および8-アジドヌクレオチドはまた、精製タンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするためにも用いられており(Khatoon et al., 1989; King et al., 1989; およびDholakia et al., 1989)、かつ抗体結合剤として用いられうる。
【0218】
抗体をその結合部分に付着または結合させるためにいくつかの方法が当技術分野において公知である。いくつかの付着法は、例えば抗体に付着させたジエチレントリアミン五酢酸無水物(DTPA); エチレントリアミン四酢酸; N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド; および/またはテトラクロロ-3 -6 -ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3などの有機キレート剤を使用する金属キレート錯体を用いることを含む(各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第4,472,509号および同第4,938,948号)。モノクローナル抗体はまた、グルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸などの結合剤の存在下で酵素と反応させてもよい。フルオレセインマーカーとの結合体は、これらの結合剤の存在下でまたはイソチオシアネートとの反応によって調製される。米国特許第4,938,948号において、乳腺腫瘍の造影は、モノクローナル抗体を用いて達成され、検出可能な造影部分をメチル-p-ヒドロキシベンズイミデートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのリンカーを用いて抗体に結合させる。
【0219】
いくつかの態様において、抗体結合部位を変化させない反応条件を用いて、免疫グロブリンのFc領域にスルフヒドリル基を選択的に導入することによる免疫グロブリンの誘導体化が企図される。本発明の方法論にしたがって産生された抗体結合体は、改善された寿命、特異性、および感度を示すことが開示されている(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,196,066号)。Fc領域における糖質残基に結合しているエフェクターまたはレポーター分子の部位特異的付着も同様に、文献において開示されている(O'Shannessy et al., 1987)。この手法は、現在臨床評価中である診断的および治療的に有望な抗体を産生するために報告されている。
【0220】
いくつかの態様において、抗Coa抗体は、米国特許第6,048,616号; 同第5,990,479号; 同第5,690,807号; 同第5,505,928号; 同第5,262,357号(これらは全て、その全体が参照により本明細書に組み入れられる)とともにPCT公報番号99/26299(1999年5月27日に公開)に記述されるような半導体ナノ結晶に連結される。特に、生物および化学アッセイ法において半導体ナノ結晶として用いるための例示的な材料には、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、MgS、MgSe、MgTe、CaS、CaSe、CaTe、SrS、SrSe、SrTe、BaS、BaSe、BaTe、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs、InSb、AlS、AlP、AlSb、PbS、PbSe、Ge、およびSi、ならびにその三級および四級混合物などのII~VI属、III~V、およびIV属半導体を含む、先に記述された材料が含まれるが、これらに限定されることはない。半導体ナノ結晶を抗体に連結させる方法は、米国特許第6,630,307号および同第6,274,323号に記述されている。
【0221】
III. 核酸
ある態様には、本明細書において記述されるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする組換えポリヌクレオチドがある。企図されるポリヌクレオチド配列には、Coaに対する抗体またはそのCoa結合部分をコードするものが含まれる。
【0222】
本出願において用いられる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、組換えであるか、または、全ゲノム核酸がない状態で単離されているかのいずれかの核酸分子をいう。「ポリヌクレオチド」という用語の範囲内に含まれるのは、オリゴヌクレオチド(長さが100残基またはそれ未満の核酸)、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどを含む、組換えベクターである。ポリヌクレオチドは、ある局面において、天然の遺伝子またはタンパク質コード配列から実質的に単離されている、調節配列を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コーディングもしくはアンチセンス)または二本鎖であってよく、RNA、DNA(ゲノム、cDNAもしくは合成)、その類似体、またはその組み合わせであってよい。ポリヌクレオチドのなかにさらなるコーディングまたは非コーディング配列が存在してもよいが、存在しなくてもよい。
【0223】
この点において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、または「核酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸(適切な転写、翻訳後修飾または局在化に必要とされる任意の配列を含む)をいうように用いられる。当業者に理解される通り、この用語はゲノム配列、発現カセット、cDNA配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質、および変異体を発現するかまたは発現するように適合されうる、遺伝子操作されたもっと小さな核酸セグメントを包含する。ポリペプチドの全部または一部をコードする核酸は、そのようなポリペプチドの全部または一部をコードする連続核酸配列を含むことができる。また、特定のポリペプチドは、わずかに異なる核酸配列を有するがそれでも同じまたは実質的に類似のタンパク質をコードする、変種を含む核酸によってコードされうることも考えられる(上記を参照のこと)。ポリペプチドの全部または一部をコードする核酸は、本明細書において記述または参照される1つまたは複数のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの、以下の間の全ての値および範囲を含む10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1095、1100、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、9000、10000、またはそれ以上のヌクレオチド、ヌクレオシドまたは塩基対の連続核酸配列を含むことができる。また、特定のポリペプチドは、わずかに異なる核酸配列を有するが、それでも、同じまたは実質的に類似のタンパク質をコードする、変種を含む核酸によってコードされうることも考えられる。
【0224】
特定の態様には、Coaに結合するポリペプチド(例えば、抗体またはその断片)をコードする核酸配列を組み入れた、単離された核酸セグメントおよび組換えベクターがある。「組換え」という用語は、ポリペプチドまたは特異的ポリペプチドの名称と関連して用いることができ、これは一般に、インビトロにおいて操作されている核酸分子またはこのような分子の複製産物である核酸分子から産生されたポリペプチドをいう。
【0225】
核酸セグメントは、コード配列それ自体の長さにかかわらず、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、マルチクローニング部位、他のコードセグメントなどのような、他の核酸配列と組み合わせてもよく、したがってその全長はかなり変化することがある。それゆえ、ほぼすべての長さの核酸断片を使用することができ、その全長は精製の容易さによっておよび意図された組換え核酸プロトコールにおける用途によって制限されることが好ましいものと考えられる。場合によっては、核酸配列は、例えば、ポリペプチドの精製、輸送、分泌、翻訳後修飾を可能にするための、または標的化もしくは有効性などの治療的有用性を可能にするための、さらなる異種コード配列を有するポリペプチド配列をコードすることができる。先に論じられる通り、タグまたは他の異種ポリペプチドを、修飾されたポリペプチドをコードする配列に付加することができ、「異種」とは、修飾されたポリペプチドと同じものではないポリペプチドをいう。
【0226】
ある態様には、本明細書において開示される配列と実質的同一性を有するポリヌクレオチド変種があり; 該変種は、本明細書において記述される方法(例えば、標準パラメータによるBLAST解析)を用い本明細書において提供されるポリヌクレオチド配列と比べて、以下の間の全ての値および範囲を含む少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%、またはそれ以上の配列同一性を含む。ある局面において、単離されたポリヌクレオチドは、配列の全長にわたり、本明細書において記述されるアミノ酸配列と少なくとも90%、好ましくは95%、およびそれ以上の同一性を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列; または該単離されたポリヌクレオチドに相補的なヌクレオチド配列を含む。
【0227】
A. ベクター
ポリペプチドは、核酸分子によってコードされてもよい。核酸分子は核酸ベクターの形態であってよい。「ベクター」という用語は、異種核酸配列を、複製され発現されうる細胞へ導入するために、挿入できる担体核酸分子をいうように用いられる。核酸配列は「異種」であってよく、これは文脈中で、ベクターが導入されている細胞にとって、または核酸配列が組み入れられる核酸にとって核酸配列が異質であることを意味し、これには、細胞中または核酸中の配列と同種であるが、しかし、通常は見出されない、宿主細胞内または核酸内のある位置における配列が含まれる。ベクターにはDNA、RNA、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、標準的な組換え技術(例えば、ともに参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001; Ausubel et al., 1996)を通じてベクターを構築するのに必要なものを十分に持っていると考えられる。ベクターは、Coaを結合させる抗体を産生するために宿主細胞において用いられてもよい。
【0228】
「発現ベクター」という用語は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターをいう。場合によっては、次にRNA分子をタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳する。発現ベクターは、特定の宿主生物において機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳にとって必要な核酸配列をいう種々の「制御配列」を含みうる。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、その上他の機能も果たしかつ本明細書において記述される、核酸配列を含んでもよい。
【0229】
ベクターは、多数の制限酵素部位を含有する核酸領域であるマルチクローニング部位(MCS)を含むことができ、そのうちのいずれかを標準的な組換え技術とともに用いて、ベクターを消化することができる(参照により本明細書に組み入れられる、Carbonelli et al., 1999、Levenson et al., 1998、およびCocea, 1997を参照のこと)。
【0230】
大部分の転写された真核生物RNA分子は、RNAスプライシングを受けて、一次転写産物からイントロンを除去する。タンパク質発現に向けた転写産物の適切なプロセッシングを確実とするために、ゲノム真核生物配列を含有するベクターはドナーおよび/またはアクセプタースプライシング部位を必要としうる(参照により本明細書に組み入れられる、Chandler et al., 1997を参照のこと)。
【0231】
ベクターまたは構築物は一般的に、少なくとも1つの終結シグナルを含む。「終結シグナル」または「終結因子」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写の特異的な終結に関与するDNA配列から構成される。したがって、ある態様において、RNA転写産物の産生を終わらせる終結シグナルが企図される。インビボで、望ましいメッセージレベルを達成するには、終結因子が必要でありうる。真核生物システムにおいて、終結因子領域はまた、ポリアデニル化部位を露出させるように、新たな転写産物の部位特異的切断を可能にする特定のDNA配列も含んでもよい。これは、約200個のA残基(ポリA)のストレッチを転写産物の3'末端に付加するように、特殊な内因性ポリメラーゼにシグナルを送る。このポリA尾部で修飾されたRNA分子は、より安定的であると考えられ、より効率的に翻訳される。したがって、真核生物を含む他の態様において、終結因子はRNA切断のためのシグナルを含むことが好ましく、終結因子シグナルはメッセージのポリアデニル化を促進することがより好ましい。
【0232】
発現において、特に真核生物の発現において、転写産物の適切なポリアデニル化を行わせるためにポリアデニル化シグナルを含めることが一般的と考えられる。
【0233】
宿主細胞においてベクターを増殖させるために、ベクターは、1つまたは複数の複製起点部位(「ori」と呼ばれることが多い)を含有してもよい。あるいは、宿主細胞が酵母である場合には、自律複製配列(ARS)を使用することもできる。
【0234】
1. プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」は制御配列である。プロモーターは、典型的には、転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である。これには、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子などの、調節タンパク質および分子が結合しうる遺伝要素を含めてもよい。「機能的に配置された」、「機能的に連結された」、「制御下」、および「転写制御下」という語句は、プロモーターが核酸配列との関連で、その配列の転写開始および発現を制御するのに正しい機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関わるシス作用調節配列をいう「エンハンサー」とともに用いられてもまたは用いられなくてもよい。
【0235】
当然、発現用に選択された細胞型または生物においてDNAセグメントの発現を効率的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いることが重要でありうる。分子生物学の当業者は、タンパク質を発現させるためにプロモーター、エンハンサー、および細胞型の組み合わせを用いることを一般的に承知している(参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照のこと)。用いられるプロモーターは構成的、組織特異的、または誘導的であってよく、ある種の態様において、組換えタンパク質またはペプチドの大規模産生などの特定条件の下で、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指令しうる。
【0236】
遺伝子の発現を調節するために本開示との関連で種々の要素/プロモーターが用いられてもよい。特定の刺激に反応して活性化されうる核酸配列の領域である、そのような誘導性要素の例としては、免疫グロブリン重鎖(Banerji et al., 1983; Gilles et al., 1983; Grosschedl et al., 1985; Atchinson et al., 1986, 1987; Imler et al., 1987; Weinberger et al., 1984; Kiledjian et al., 1988; Porton et al.; 1990)、免疫グロブリン軽鎖(Queen et al., 1983; Picard et al., 1984)、T細胞受容体(Luria et al., 1987; Winoto et al., 1989; Redondo et al.; 1990)、HLA DQαおよび/またはDQβ(Sullivan et al., 1987)、βインターフェロン(Goodbourn et al., 1986; Fujita et al., 1987; Goodbourn et al., 1988)、インターロイキン-2 (Greene et al., 1989)、インターロイキン-2受容体(Greene et al., 1989; Lin et al., 1990)、MHCクラスII 5 (Koch et al., 1989)、MHCクラスII HLA-DRα(Sherman et al., 1989)、β-アクチン(Kawamoto et al., 1988; Ng et al.; 1989)、筋クレアチニンキナーゼ(MCK) (Jaynes et al., 1988; Horlick et al., 1989; Johnson et al., 1989)、プレアルブミン(トランスチレチン) (Costa et al., 1988)、エラスターゼI (Ornitz et al., 1987)、メタロチオネイン(MTII) (Karin et al., 1987; Culotta et al., 1989)、コラゲナーゼ(Pinkert et al., 1987; Angel et al., 1987)、アルブミン(Pinkert et al., 1987; Tronche et al., 1989, 1990); α-フェトプロテイン(Godbout et al., 1988; Campere et al., 1989)、γ-グロビン(Bodine et al., 1987; Perez-Stable et al., 1990)、β-グロビン(Trudel et al., 1987)、c-fos (Cohen et al., 1987)、c-Ha-Ras (Triesman, 1986; Deschamps et al., 1985)、インスリン(Edlund et al., 1985)、神経細胞接着分子(NCAM) (Hirsh et al., 1990); α1-アンチトリペイン(Latimer et al., 1990); H2B (TH2B)ヒストン(Hwang et al., 1990); マウスおよび/またはI型コラーゲン(Ripe et al., 1989)、グルコース調節タンパク質(GRP94およびGRP78) (Chang et al., 1989)、ラット成長ホルモン(Larsen et al., 1986)、ヒト血清アミロイドA (SAA) (Edbrooke et al., 1989)、トロポニンI (TN I) (Yutzey et al., 1989)、血小板由来増殖因子(PDGF) (Pech et al., 1989)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Klamut et al., 1990)、SV40 (Banerji et al., 1981; Moreau et al., 1981; Sleigh et al., 1985; Firak et al., 1986; Herr et al., 1986; Imbra et al., 1986; Kadesch et al., 1986; Wang et al., 1986; Ondek et al., 1987; Kuhl et al., 1987; Schaffner et al., 1988)、ポリオーマ(Swartzendruber et al., 1975; Vasseur et al., 1980; Katinka et al., 1980, 1981; Tyndell et al., 1981; Dandolo et al., 1983; de Villiers et al., 1984; Hen et al., 1986; Satake et al., 1988; Campbell et al., 1988)、レトロウイルス(Kriegler et al., 1982, 1983; Levinson et al., 1982; Kriegler et al., 1983, 1984a, b, 1988; Bosze et al., 1986; Miksicek et al., 1986; Celander et al., 1987; Thiesen et al., 1988; Celander et al., 1988; Choi et al., 1988; Reisman et al., 1989)、乳頭腫ウイルス(Campo et al., 1983; Lusky et al., 1983; Spandidos and Wilkie, 1983; Spalholz et al., 1985; Lusky et al., 1986; Cripe et al., 1987; Gloss et al., 1987; Hirochika et al., 1987; Stephens et al., 1987)、B型肝炎ウイルス(Bulla et al., 1986; Jameel et al., 1986; Shaul et al., 1987; Spandau et al., 1988; Vannice et al., 1988)、ヒト免疫不全ウイルス(Muesing et al., 1987; Hauber et al., 1988; Jakobovits et al., 1988; Feng et al., 1988; Takebe et al., 1988; Rosen et al., 1988; Berkhout et al., 1989; Laspia et al., 1989; Sharp et al., 1989; Braddock et al., 1989)、サイトメガロウイルス(CMV) IE (Weber et al., 1984; Boshart et al., 1985; Foecking et al., 1986)、テナガザル白血病ウイルス(Holbrook et al., 1987; Quinn et al., 1989)が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0237】
誘導性要素にはMT II-ホルボルエステル(TFA)/重金属(Palmiter et al., 1982; Haslinger et al., 1985; Searle et al., 1985; Stuart et al., 1985; Imagawa et al., 1987, Karin et al., 1987; Angel et al., 1987b; McNeall et al., 1989); MMTV (マウス乳腺腫瘍ウイルス)-グルココルチコイド(Huang et al., 1981; Lee et al., 1981; Majors et al., 1983; Chandler et al., 1983; Lee et al., 1984; Ponta et al., 1985; Sakai et al., 1988); β-インターフェロン-ポリ(rI)x/ポリ(rc) (Tavernier et al., 1983); アデノウイルス5 E2-E1A (Imperiale et al., 1984); コラゲナーゼ-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987a); ストロメリシン-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); SV40-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); ネズミMX遺伝子-インターフェロン、ニューカッスル病ウイルス(Hug et al., 1988); GRP78遺伝子-A23187 (Resendez et al., 1988); α-2-マクログロブリン-IL-6 (Kunz et al., 1989); ビメンチン-血清(Rittling et al., 1989); MHCクラスI遺伝子H-2κb-インターフェロン(Blanar et al., 1989); HSP70-E1A/SV40ラージT抗原(Taylor et al., 1989, 1990a, 1990b); プロリフェリン-ホルボルエステル/TPA (Mordacq et al., 1989); 腫瘍壊死因子-PMA (Hensel et al., 1989); および甲状腺刺激ホルモンα遺伝子-甲状腺ホルモン(Chatterjee et al., 1989)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0238】
本開示のペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を制御するために用いられる特定のプロモーターは、標的細胞、好ましくは細菌細胞においてポリヌクレオチドを発現できる限り、決定的に重要であるものとは考えられない。ヒト細胞が標的化される場合、ポリヌクレオチドコード領域を、ヒト細胞において発現されうるプロモーターの近傍かつ制御下に位置付けることが好ましい。一般的に言えば、そのようなプロモーターは細菌プロモーター、ヒトプロモーター、またはウイルスプロモーターのいずれかを含みうる。
【0239】
タンパク質の発現のため対象にベクターが投与される態様において、ベクターとともに用いるのに望ましいプロモーターは、サイトカインによって下方制御されないもの、またはたとえ下方制御されても、免疫反応を誘発するのに有効な量の少なくとも1つのブドウ球菌コアグラーゼRドメインを産生するのに十分に強力なものであることが企図される。これらの非限定的な例はCMV IEおよびRSV LTRである。とりわけ、発現が樹状細胞またはマクロファージのような、抗原の発現が望ましい細胞におけるなら、組織特異的プロモーターを用いることができる。哺乳類MHC IおよびMHC IIプロモーターは、そのような組織特異的プロモーターの例である。
【0240】
2. 開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位(IRES)
特異的開始シグナルもコード配列の効率的な翻訳に必要とされうる。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供する必要がありうる。当業者は容易にこれを決定して、必要なシグナルを提供することができるであろう。
【0241】
本開示のある種の態様では、内部リボソーム進入部位(IRES)要素を用いて、多重遺伝子の、または多シストロン性の伝達暗号を作製する。IRES要素は、5'□メチル化Cap依存的翻訳のリボソーム走査モデルを迂回して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988; Macejak and Sarnow, 1991)。IRES要素は異種の読み取り枠に連結させることができる。IRESによって各々が隔てられた多数の読み取り枠をともに転写し、多シストロン性の伝達暗号を作製することができる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて多数の遺伝子を効率的に発現させ、単一の伝達暗号を転写させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照のこと)。
【0242】
3. 選択可能およびスクリーニング可能なマーカー
本開示のある種の態様において、本開示の核酸構築物を含む細胞は、発現ベクターの中にスクリーニング可能または選択可能なマーカーをコードすることによってインビトロまたはインビボで同定することができる。転写され翻訳される場合、マーカーは同定可能な変化を細胞に付与し、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にする。一般的に、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が可能になるものであるのに対し、陰性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が妨害されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0243】
B. 宿主細胞
本明細書において用いられる場合、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養物」という用語は互換的に用いることができる。これらの用語の全てが、任意のおよび全ての次世代のその子孫も含む。故意または偶然の変異により全ての子孫が同一ではないことがあると理解されると考えられる。異種核酸配列を発現するという文脈において、「宿主細胞」とは、原核細胞または真核細胞をいい、これには、ベクターを複製できるかまたはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現できる、任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞はベクターまたはウイルスのレシピエントとして、使用されることができかつ使用されている。宿主細胞は「形質移入」または「形質転換」されてもよく、それらは組換えタンパク質をコードする配列などの、外因性の核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。形質転換細胞には、初代被験細胞およびその子孫が含まれる。
【0244】
いくつかのベクターは、原核細胞と真核細胞の両方において複製および/または発現させる制御配列を使用してもよい。当業者はさらに、それらを維持してベクターの複製を許容するために上記の宿主細胞の全てをインキュベートする条件を理解すると考えられる。同様に、ベクターの大規模産生とともに、ベクターによってコードされる核酸、およびその同族のポリペプチド、タンパク質、またはペプチドの産生を可能にすると考えられる技術および条件が理解され、公知である。
【0245】
C. 発現システム
先に論じた組成物の少なくとも一部または全部を含む多数の発現システムが存在する。原核生物および/または真核生物に基づくシステムを態様で用いるために使用して、核酸配列、またはその同源のポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生することができる。そのような多くのシステムが市販されており、広く使用可能である。
【0246】
昆虫細胞/バキュロウイルスシステムは、ともに参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、同第4,879,236号に記述されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標) 2.0の名称で、およびCLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標) BACULOVIRUS EXPRESSION SYSTEMの名称で購入することができる。
【0247】
開示の発現システムに加え、発現システムの他の例としては、合成エクダイソン誘導性受容体またはそのpET発現システム、つまり大腸菌発現システムを含む、STRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標) Inducible Mammalian Expression Systemが挙げられる。誘導性発現システムの別例はINVITROGEN(登録商標)から入手可能で、T-REX(商標) (テトラサイクリン調節発現)システム、つまり全長CMVプロモーターを用いた誘導性の哺乳動物発現システムを有するものである。INVITROGEN(登録商標)は、メチロトローフ酵母ピチアメタノリカ(Pichia methanolica)における組換えタンパク質の高レベル産生のために設計された、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母発現システムも提供している。当業者なら、発現構築物などのベクターを発現させる方法、核酸配列、またはその同源のポリペプチド、タンパク質、もしくはペプチドを産生する方法を承知していると考えられる。
【0248】
D. 遺伝子移入の方法
組成物の発現をもたらすための核酸送達に適した方法は、本明細書において記述する通りまたは当業者に公知である通り、核酸(例えば、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含め、DNA)を細胞、組織または生物に導入できる事実上いかなる方法も含むものと考えられる。そのような方法には、マイクロインジェクション(参照により本明細書に組み入れられる、Harland and Weintraub, 1985; 米国特許第5,789,215号)を含む、注入(その各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,994,624号、同第5,981,274号、同第5,945,100号、同第5,780,448号、同第5,736,524号、同第5,702,932号、同第5,656,610号、同第5,589,466号、および同第5,580,859号)による; 電気穿孔(参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,384,253号)による; リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973; Chen and Okayama, 1987; Rippe et al., 1990)による; DEAEデキストランの後にポリエチレングリコールを用いること(Gopal., 1985)による; 直接音波負荷(Fechheimer et al., 1987)による; リポソームを介した形質移入(Nicolau and Sene, 1982; Fraley et al., 1979; Nicolau et al., 1987; Wong et al., 1980; Kaneda et al., 1989; Kato et al., 1991)による; 微粒子銃(PCT出願番号WO 94/09699および95/06128; 米国特許第5,610,042号; 同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号、および同第5,538,880号、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる)による; 炭化ケイ素繊維を用いた撹拌(各々が参照により本明細書に組み入れられる、Kaeppler et al., 1990; 米国特許第5,302,523号および同第5,464,765号)による; アグロバクテリウム(Agrobacterium)を介した形質転換(各々が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,591,616号および同第5,563,055号)による; またはプロトプラストのPEGを介した形質転換(各々が参照により本明細書に組み入れられる、Omirulleh et al., 1993; 米国特許第4,684,611号および同第4,952,500号)による; 乾燥/阻害を介したDNAの取り込み(Potrykus et al., 1985)によるような、DNAの直接送達が含まれるが、これらに限定されることはない。これらなどの技術の適用によって、細胞小器官、細胞、組織、または生物を安定的にまたは一過的に形質転換することができる。
【0249】
IV. 免疫反応およびアッセイ法
上記で考察する通り、本開示は、対象においてコアグラーゼまたは1つもしくは複数のコアグラーゼRドメインあるいはその変種に対する免疫反応を惹起または誘導することに関係する。1つの態様において、免疫反応は、感染症または関連する疾患、とりわけブドウ球菌に関連する疾患を有する、有することが疑われる、または発症するリスクがある対象を防御または処置することができる。本開示の免疫原性組成物の使用の1つは、病院または感染症のリスク増大を伴う他の環境において医療手技を受ける前に対象を予防接種することによって院内感染症を予防することである。
【0250】
A. 免疫アッセイ法
本開示は、本開示の組成物により免疫反応が誘導または惹起されるかどうか、およびどの程度まで誘導または惹起されるかを評価するための血清学的アッセイ法の実施を含む。実施されうる多くのタイプの免疫アッセイ法が存在する。本開示により包含される免疫アッセイ法には、米国特許第4,367,110号に記述されているもの(二重モノクローナル抗体サンドイッチアッセイ法)および米国特許第4,452,901号に記述されているもの(ウエスタンブロット)が含まれるが、これらに限定されることはない。他のアッセイ法には、インビトロおよびインビボの両方での、免疫細胞化学および標識リガンドの免疫沈降が含まれる。
【0251】
免疫アッセイ法は一般に、結合アッセイ法である。ある種の好ましい免疫アッセイ法は、当技術分野において公知のさまざまなタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)および放射免疫アッセイ法(RIA)である。組織切片を用いる免疫組織化学的検出もまた特に有用である。一例を挙げれば、抗体または抗原をポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェル、ディップスティック、またはカラム支持体などの、選択した表面に固定化する。次いで、臨床サンプルなどの、所望の抗原または抗体を含有すると疑われる試験組成物をウェルに加える。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後、結合した抗原または抗体を検出することができる。検出は一般に、検出可能な標識に連結されている、所望の抗原または抗体に特異的な、別の抗体の添加によって達成される。このタイプのELISAは「サンドイッチELISA」として公知である。検出は、所望の抗原に特異的な二次抗体の添加の後、該二次抗体に対して結合親和性を有する三次抗体であって、検出可能な標識に連結されている、三次抗体の添加によって達成することもできる。
【0252】
試験サンプルが既知量の標識抗原または抗体と結合で競合する、競合ELISAも実行の可能性がある。未知サンプル中の反応性種の量は、コーティングされたウェルとのインキュベーションの前または間に、該サンプルと既知の標識種とを混合することによって測定される。サンプル中の反応性種の存在は、ウェルへの結合に使用可能な標識された種の量を低下させるように作用し、したがって最終的なシグナルを減少させる。用いられる形式に関係なく、ELISAはコーティング、インキュベーティングまたは結合、非特異的に結合された種を除去するための洗浄、および結合された免疫複合体の検出などの、ある種の特徴を共通して有する。
【0253】
抗原または抗体はプレート、ビーズ、ディップスティック、膜、またはカラム基材の形態でのような、固体支持体に連結されてもよく、分析されるサンプルが、固定化された抗原または抗体に適用される。プレートを抗原または抗体のいずれかでコーティングする際に、一般的に、プレートのウェルは、一晩または特定の期間の間、抗原または抗体の溶液とともにインキュベートされる。次にプレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着された物質を除去する。次いで、ウェルに残存している任意の使用可能表面を、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインおよび粉乳の溶液が含まれる。コーティングは、固定性表面上での非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、したがって、該表面上への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを減少させる。
【0254】
B. 細菌感染症の診断
上記の感染症を処置または予防するためのタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド、ならびにこれらのポリペプチド、タンパク質および/またはペプチドに結合する抗体の使用に加え、本開示は、対象内であれ医療機器上であれ、同様に感染しうる感染症を診断するためのブドウ球菌の存在の検出を含む、種々の様式でのこれらのポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体の使用を企図する。本開示によれば、感染症の存在を検出する好ましい方法は、個体から、例えば、個体の血液、唾液、組織、骨、筋肉、軟骨または皮膚から採取されたサンプルのような、1種類または複数種類のブドウ球菌種または菌株に感染していることが疑われるサンプルを得る段階を含む。サンプルの単離に続き、本開示のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体を用いる診断アッセイ法を行ってブドウ球菌の存在を検出することができ、サンプル中でのそのような存在を判定するためのそのようなアッセイ技術は当業者に周知であり、放射免疫アッセイ法、ウエスタンブロット分析およびELISAアッセイ法などの方法を含む。概して、本開示によれば、ブドウ球菌に感染していることが疑われるサンプルを本開示によるポリペプチド、タンパク質、ペプチド、抗体またはモノクローナル抗体に加え、サンプル中の、ポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドに結合する抗体、または抗体に結合するポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドによってブドウ球菌が示される、感染症を診断する方法が企図される。
【0255】
したがって、本開示による抗体は、ブドウ球菌の感染症の予防(すなわち、受動免疫)のために、進行中の感染症の処置のために、または研究ツール用として用いることができる。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サル化抗体およびヒト化抗体または霊長類化抗体、ならびにFab免疫グロブリン発現ライブラリの産物を含め、抗体の結合特異性を維持している断片のような、Fab断片を含む。したがって、本開示は、抗体の可変重鎖および軽鎖のような一本鎖の使用を企図する。これらのタイプのいずれの抗体または抗体断片の作製も当業者に周知である。細菌タンパク質に対する抗体の作製の具体例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030153022号に見出すことができる。
【0256】
上記のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体のいずれも、ブドウ球菌の同定および定量のために、検出可能な標識で直接的に標識することができる。免疫アッセイ法で用いるための標識は一般に、当業者に公知であり、コロイド金またはラテックスビーズのような着色粒子を含む、酵素、放射性同位体、ならびに蛍光物質、発光物質、および発色物質を含む。適切な免疫アッセイ法は酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)を含む。
【0257】
C. 防御免疫
本開示のいくつかの態様において、タンパク質性組成物は対象に防御免疫を付与する。防御免疫とは、免疫反応が起こる作用因子を伴った特定の疾患または状態を対象が発症することを防ぐ特異的な免疫反応を開始する身体の能力をいう。免疫原性上有効な量は、対象に防御免疫を付与することができる。
【0258】
本明細書においておよび付随する特許請求の範囲において用いられる場合、ポリペプチドまたはペプチドという用語は、ペプチド結合を介して共有結合的に連結された一続きのアミノ酸をいう。異なるポリペプチドは、本開示による異なる機能性を有する。1つの局面によれば、ポリペプチドは、レシピエントにおいて能動免疫反応を誘導するようにデザインされた免疫原に由来するが、本開示の別の局面によれば、ポリペプチドは、例えば動物での、能動免疫反応の誘発後に生じる、かつレシピエントにおいて受動免疫反応を誘導する働きのできる、抗体に由来する。しかしながら、どちらの場合も、ポリペプチドは、任意の可能なコドン用法にしたがってポリヌクレオチドによりコードされる。
【0259】
本明細書において用いられる場合、「免疫反応」またはその等価語「免疫学的反応」という語句は、レシピエント対象での本開示のタンパク質、ペプチド、炭水化物、またはポリペプチドに対して方向付けられた体液性(抗体を介した)反応、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)反応、または体液性反応と細胞性反応の両方の発生をいう。そのような反応は、免疫原の投与によって誘導された能動反応または抗体、抗体を含有する材料もしくは初回抗原刺激を受けたT細胞の投与によって誘導された受動反応でありうる。細胞性免疫反応はクラスIまたはクラスII MHC分子と結合したポリペプチドエピトープの提示により誘発されて、抗原特異的なCD4 (+) Tヘルパー細胞および/またはCD8 (+)細胞傷害性T細胞を活性化する。反応には単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球または先天性免疫の他の成分も伴われうる。本明細書において用いられる場合、「能動免疫」とは、抗原の投与によって対象に付与される任意の免疫をいう。
【0260】
本明細書において用いられる場合、「受動免疫」とは、対象への抗原の投与なしで対象に付与される任意の免疫をいう。「受動免疫」はそれゆえ、免疫反応の細胞メディエーターまたはタンパク質メディエーター(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)を含めた活性化免疫エフェクターの投与を含むが、これらに限定されることはない。モノクローナルまたはポリクローナル抗体組成物は、抗体によって認識される抗原を持った生物による感染症の予防または処置のための受動免疫付与に用いることができる。抗体組成物は、さまざまな生物と関連しうる種々の抗原に結合する抗体を含むことができる。抗体成分はポリクローナル抗血清であることができる。ある種の局面において、抗体は動物または抗原を接種された第二の対象からアフィニティー精製される。あるいは、ブドウ球菌を含むがこれに限定されない、グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、同一の、関連の、または別の微生物または生物に存在する抗原に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体の混合物である、抗体混合物を用いることもできる。
【0261】
受動免疫は、免疫グロブリン(Ig)、および/またはドナーもしくは周囲の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られる他の免疫因子を患者に投与することによって、患者または対象に与えることができる。他の局面において、本開示の抗原組成物は、ブドウ球菌または他の生物に対して作製された抗体を含む、抗原組成物での攻撃に反応して産生されるグロブリン(「過免疫グロブリン」)の供給源もしくはドナーとしての役割を果たす対象に投与することができる。このように処置された対象は、過免疫グロブリンを、従来の血漿分画法により得て、ブドウ球菌感染症に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染症を処置するために別の対象に投与できる、血漿を提供することができる。本開示による過免疫グロブリンは、免疫不全の個体に、侵襲的処置を受けている個体に、または個体がワクチン接種に反応して自身の抗体を産生できる時間のない個体にとりわけ有用である。受動免疫に関連した例示的な方法および組成物は、米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたく、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0262】
本明細書および添付の特許請求の範囲の意図に関して、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、Bおよび/またはT細胞が反応するまたは認識する抗原上の部位をいうように互換的に用いられる。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元の折り畳みが並置した隣接アミノ酸からも非隣接アミノ酸からも形成されることができる。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝されても保持されるのに対し、三次元の折り畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、通常、固有の空間的構造の中に少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法は、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols (1996)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が標的抗原への別の抗体の結合を遮断する能力を示す、単純な免疫アッセイ法において同定することができる。T細胞はCD8細胞の場合およそ9アミノ酸の、またはCD4細胞の場合およそ13~15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに反応して、初回抗原刺激を受けたT細胞がする3H-チミジンの取り込み(Burke et al., 1994)により、抗原依存的な死滅(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法, Tigges et al., 1996)により、またはサイトカイン分泌により決定されるように、抗原依存的な増殖を測定するインビトロでのアッセイ法により同定することができる。
【0263】
細胞を介した免疫学的反応の存在は、増殖アッセイ法(CD4 (+) T細胞)またはCTL (細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法により決定することができる。免疫原の防御効果または治療効果に対する体液性および細胞性反応の相対的寄与は、免疫した同系動物からIgGおよびT細胞を個別に単離し、第二の対象において防御効果または治療効果を測定することにより、識別することができる。
【0264】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、互換的に用いられ、動物またはレシピエントの免疫反応の一部として機能する構造的に関連したタンパク質のいくつかのクラスのいずれかをいい、それらのタンパク質にはIgG、IgD、IgE、IgA、IgM、および関連タンパク質が含まれる。
【0265】
正常な生理学的条件の下で、抗体は、血漿および他の体液中にならびにある種の細胞の膜中に見られ、B細胞と表示されるタイプのリンパ球またはその機能的等価体によって産生される。IgGクラスの抗体は、ジスルフィド結合によってともに連結された四本のポリペプチド鎖で構成されている。インタクトなIgG分子の四本の鎖は、H鎖といわれる二本の同一の重鎖およびL鎖といわれる二本の同一の軽鎖である。
【0266】
ポリクローナル抗体を産生するために、ウサギまたはヤギなどの宿主を、一般的にアジュバントとともかつ必要なら担体に結合された、抗原または抗原断片で免疫する。その後、抗原に対する抗体を宿主の血清から回収する。ポリクローナル抗体を単一特異性にする抗原に対して、ポリクローナル抗体を親和性精製することができる。
【0267】
モノクローナル抗体は、抗原での適切なドナーの過免疫により、または脾細胞の初代培養物もしくは脾臓に由来する細胞株の使用によりエクスビボで産生することができる(Anavi, 1998; Huston et al., 1991; Johnson et al., 1991; Mernaugh et al., 1995)。
【0268】
本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体の免疫学的部分」という語句は、抗体のFab断片、抗体のFv断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖、抗体の重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体、抗体の軽鎖の可変断片、抗体の重鎖の可変断片、ならびにscFvとしても公知の、抗体の一本鎖変種を含む。さらに、この用語は、種の1つがヒトでありうる異なる種に由来する融合遺伝子の発現産物であるキメラ免疫グロブリンも含み、その場合、キメラ免疫グロブリンはヒト化されているといわれる。典型的には、抗体の免疫学的部分は、それが由来するインタクトな抗体と、抗原への特異的結合について競合する。
【0269】
任意で、抗体または好ましくは抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質との融合タンパク質に化学的にコンジュゲートされてもよいか、またはその融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲の意図に関して、そのような全ての融合タンパク質は、抗体または抗体の免疫学的部分の定義に含められる。
【0270】
本明細書において用いられる場合、「免疫原性作用物質」または「免疫原」または「抗原」という用語は、アジュバントとともに、単独で、またはディスプレイビヒクル上に提示された状態で、レシピエントに投与することにより、それ自体に対する免疫学的反応を誘導できる分子を記述するよう互換的に用いられる。
【0271】
V. 処置の方法
先に論じられる通り、組成物およびこれらの組成物を用いる方法により、感染症または関連疾患、特にブドウ球菌に関連するものを有する対象、それらを有すると疑われる対象、またはそれらを発症するリスクのある対象を処置すること(例えば、細菌負荷量または膿瘍の形成もしくは持続を制限すること)ができる。組成物の使用の1つは、入院処置の前に対象を予防接種することによって、病院内感染症を予防することである。
【0272】
本明細書において用いられる場合、「免疫反応」またはその等価語「免疫学的反応」という語句は、レシピエント対象における本開示のタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドに対する体液性(抗体を介した)反応、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)反応、または体液性反応と細胞性反応の両方をいう。処置または治療は、免疫原の投与によって誘導された能動免疫反応、または抗体、抗体を含有する材料もしくはプライミングを受けたT細胞の投与によって達成された受動的治療でありうる。
【0273】
本明細書において用いられる場合、「受動免疫」とは、細胞メディエーターまたはタンパク質メディエーター(例えば、Coaタンパク質に結合するポリペプチド)を含めた免疫エフェクターの投与によって対象に付与される任意の免疫をいう。抗体組成物は、抗体によって認識される抗原を持った生物による感染症の予防または処置のための受動免疫化に用いることができる。抗体組成物は、さまざまな生物と関連しうる種々の抗原に結合する抗体CDRドメインを含む抗体またはポリペプチドを含むことができる。抗体成分はポリクローナル抗血清であることができる。ある局面において、抗体は動物または抗原を接種された第二の対象からアフィニティー精製される。あるいは、ブドウ球菌を含むがこれに限定されない、グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、同一の、関連の、または別の微生物または生物に存在する抗原に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体の混合物である、抗体混合物を用いることもできる。
【0274】
受動免疫は、ドナーまたは既知の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られる免疫グロブリン(Ig)もしくはその断片および/または他の免疫因子を対象に投与することによって、患者または対象に与えることができる。他の局面において、抗原組成物は、ブドウ球菌または他の生物に対して作製された抗体を含む、組成物からの曝露に反応して産生されるグロブリン(「過免疫グロブリン」)の供給源もしくはドナーとしての役割を果たす対象に投与することができる。このように処置された対象は、過免疫グロブリンを、従来の血漿分画法により得て、ブドウ球菌感染症に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染症を処置するために別の対象に投与できる、血漿を提供することができる。過免疫グロブリンは、免疫不全の個体に、侵襲的処置を受けている個体に、または個体がワクチン接種に反応して自身の抗体を産生できる時間のない個体にとりわけ有用である。受動免疫に関連した例示的な方法および組成物は、米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたく、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0275】
本明細書および添付の特許請求の範囲の意図に関して、「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、Bおよび/またはT細胞が反応または認識する抗原上の部位をいうように互換的に用いられる。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元の折り畳みが並置した隣接アミノ酸からも非隣接アミノ酸からも形成されることができる。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝されても保持されるのに対し、三次元の折り畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、通常、固有の空間的構造の中に少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法は、Epitope Mapping Protocols (1996)に記述されている方法を含む。T細胞はCD8細胞の場合およそ9アミノ酸の、またはCD4細胞の場合およそ13~15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに反応して、プライミングを受けたT細胞による3H-チミジンの取り込み(Burke et al., 1994)により、抗原依存的な死滅(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法, Tigges et al., 1996)により、またはサイトカイン分泌により決定される通り、抗原依存的な増殖を測定するインビトロでのアッセイ法により同定することができる。
【0276】
細胞を介した免疫学的反応の存在は、増殖アッセイ法(CD4 (+) T細胞)またはCTL(細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法により判定することができる。免疫原の防御効果または治療効果に対する体液性および細胞性反応の相対的寄与は、免疫した同系動物からIgGおよびT細胞を個別に単離し、第二の対象において防御効果または治療効果を測定することにより、識別することができる。本明細書においておよび特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、互換的に用いられる。
【0277】
任意で、抗体または好ましくは抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質との融合タンパク質に化学的に結合されてもよいか、またはその融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲の意図に関して、そのような全ての融合タンパク質は、抗体または抗体の免疫学的部分の定義のなかに含まれる。
【0278】
1つの態様において、方法は、ブドウ球菌病原菌によって引き起こされる疾患または状態の処置を含む。ある局面において、複数の態様は、院内の病院内感染症などのブドウ球菌感染症の処置の方法を含む。いくつかの態様において、処置は、ブドウ球菌抗原の存在下で投与される。さらに、いくつかの例において、処置は、1つまたは複数の抗生物質などの、細菌感染症に対してよく使われる他の剤の投与を含む。
【0279】
本開示の方法は、ブドウ球菌病原菌によって引き起こされる疾患または状態の処置を含む。本開示の免疫原性ポリペプチドは、ブドウ球菌に罹患している者またはブドウ球菌に曝されていると疑われる者において免疫反応を誘導するために与えることができる。ブドウ球菌への曝露で陽性と判定された個体、または曝露の可能性に基づいて感染症のリスクがあると考えられる個体について、それらの方法を用いることができる。
【0280】
具体的には、本開示は、ブドウ球菌感染症、特に病院獲得型の院内感染症の処置の方法を包含する。本開示の免疫原性組成物およびワクチンは、待期的手術の場合に用いるのに特に好都合である。そのような患者は、前もって手術日を承知しており、前もって予防接種することができる。本開示の免疫原性組成物およびワクチンはまた、医療従事者を予防接種するために用いるのに好都合である。
【0281】
いくつかの態様において、処置は、アジュバントもしくは担体または他のブドウ球菌抗原の存在下で投与される。さらに、いくつかの例において、処置は、1つまたは複数の抗生物質などの、細菌感染症に対してよく用いられる他の作用物質の投与を含む。
【0282】
ワクチン接種のためにペプチドを用いるには、B型肝炎表面抗原、キーホールリンペットヘモシアニン、またはウシ血清アルブミンなどの、免疫原担体タンパク質とのペプチドのコンジュゲーションが必要になりうるが、必ず必要になるわけではない。このコンジュゲーションを行うための方法は、当技術分野において周知である。
【0283】
前記治療用組成物は、投与製剤に適合する様式でかつ治療的に有効であるような量で投与される。投与される量は、処置される対象に依る。投与されるのに必要な活性成分の的確な量は、医師の判断に依る。初回投与および追加免疫に適したレジメも同様に多様であるが、初回投与後にその後の投与を行うことが典型的である。
【0284】
適用の様式は広く異なってもよい。ポリペプチド治療物質の投与のための従来の方法のいずれも適用可能である。これらには、固体の生理学的に許容される基剤上でのまたは生理学的に許容される分散液中での経口適用、非経口的適用、注射による適用などが含まれると考えられる。組成物の投与量は、投与経路に依ると考えられ、かつ、対象のサイズおよび健康状態によって異なると考えられる。
【0285】
場合によっては、組成物の複数回の投与、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、またはそれ以上の投与が有ることが望ましいと考えられる。投与は、以下の間の全ての範囲を含む1、2、3、4、5、6、7、8~5、6、7、8、9、10、11、12 十二週間の間隔でありうる。
【0286】
A. 抗体および受動免疫化
ある局面は、レシピエントをワクチンで免疫して、レシピエントから抗体を単離する段階、または組換え抗体を産生する段階を含む、ブドウ球菌感染症の予防または処置で用いる抗体を調製する方法に指向している。これらの方法によって調製され、ブドウ球菌感染症を処置または予防するために用いられる抗体は、さらなる局面である。Coaを特異的に結合させる抗体および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物は、ブドウ球菌疾患の処置または予防のための薬物の製造において用いられうるさらなる局面である。薬学的調製物の有効量を対象に投与する段階を含むブドウ球菌感染症の処置または予防のための方法は、さらなる局面である。
【0287】
ポリクローナル抗体の産生のための接種材料は、典型的には、抗原組成物(例えば、Coaのペプチドもしくは抗原もしくはエピトープまたはそのコンセンサス)を、生理食塩水またはヒトへの使用に適した他のアジュバントなどの、生理学的に許容される希釈剤に分散させて、水性組成物を形成することにより調製される。免疫刺激量の接種材料を哺乳動物に投与し、接種を受けた哺乳動物をその後、抗原組成物が防御抗体を誘導するのに十分な時間維持する。この抗体をアフィニティークロマトグラフィーなどの周知の技術によって所望とされる程度まで単離することができる(Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual 1988)。抗体には、種々の一般に用いられる動物、例えば、ヤギ、霊長類、ロバ、ブタ、ウマ、モルモット、ラット、またはヒト由来の抗血清調製物を含めることができる。動物から採血し、血清を回収する。
【0288】
抗体は、全抗体、抗体断片、または抗体細断片を含むことができる。抗体は、いずれかのクラス(例えば、IgG、IgM、IgA、IgD、またはIgE)の全免疫グロブリン、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、または2種類もしくはそれ以上の抗原に対して二重特異性を有するハイブリッド抗体であることができる。それらは断片(例えば、ハイブリッド断片を含むF(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)であってもよい。抗体はまた、十分な親和性で特異的な抗原に結合することにより抗体のように作用する、天然タンパク質、合成タンパク質、または遺伝子操作されたタンパク質も含む。
【0289】
ワクチンをレシピエントに投与することができ、このレシピエントが、特定のワクチンからの曝露に応じて産生される抗体の供給源として働く。このようにして処置された対象は、従来の血漿分画法によって抗体が得られうる血漿を提供すると考えられる。単離された抗体は、ブドウ球菌感染症に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染症を処置するために、同じまたは異なる対象に投与されうる。抗体は、幼児、免疫不全個体におけるブドウ球菌疾患の処置もしくは予防に特に有用であるか、または処置を必要としかつワクチン接種に対する反応を起こす時間が個体にない場合に特に有用である。
【0290】
さらなる局面は、グラム陽性細菌、好ましくはブドウ球菌、より好ましくは黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌による感染症を処置または予防するために用いられうる、免疫原性組成物の構成要素の少なくとも2つに対して反応である2種類またはそれ以上の抗体またはモノクローナル抗体(またはその断片; 好ましくはヒトのものまたはヒト化されたもの)を含む薬学的組成物である。
【0291】
B. 併用療法
組成物および関連する方法、特に、Coaまたはそのペプチドもしくはコンセンサスペプチドを結合させる抗体の患者/対象への投与を従来の治療の施行と併せて用いることもできる。これらには、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、または抗生物質の各種組み合わせなどの抗生物質の投与が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0292】
1つの局面において、治療を、抗細菌処置とともに用いることが企図される。あるいは、治療は数分間から数週間に及ぶ間隔だけ、他の剤による処置に先行するかまたは続くこともできる。他の剤および/またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドが別々に投与される態様において、治療用組成物が依然として、有利に組み合わさった効果を対象に及ぼすことができるように、一般に、各送達時間の間にかなりの時間が経ってしまわないことを確実にする。そのような場合、双方の様式を互いに約12~24時間以内におよび、好ましくは、互いに約6~12時間以内に施すことができると企図される。しかしながら、場合によっては、投与の期間をかなり延ばすことが望ましい場合もあり、その場合には各投与の間隔は数日(2、3、4、5、6、または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8週間)である。
【0293】
例えば抗生物質治療を「A」とし、Coaまたはそのペプチドもしくはコンセンサスペプチドを結合させる抗体を含む抗体治療を「B」とし、治療のさまざまな組み合わせを使用することができる。
【0294】
患者/対象への抗体組成物の投与は、組成物のもしあれば毒性を考慮に入れながらも、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコールに従う。処置周期は必要に応じて繰り返されるものと期待される。同様に、水和などの、種々の標準的な治療を記述の治療と併せて適用できるものと企図される。
【0295】
C. ワクチン
本開示は、ブドウ球菌感染症、特に病院獲得型の院内感染症を予防または改善するための方法を含む。したがって、本開示は、能動免疫と受動免疫の両方の態様で用いるためのワクチンを企図する。ワクチンとして用いるのに適切であると提唱されている免疫原性組成物は、免疫原性コアグラーゼもしくはその断片またはその変種、例えば、1つもしくは複数のコアグラーゼRドメインから調製することができる。他の態様において、コアグラーゼ、その断片またはその変種を他の分泌病毒性タンパク質、表面タンパク質またはその免疫原性断片と組み合わせて用いることができる。ある種の局面において、抗原材料は、望ましくない低分子量分子を除去するために十分に透析され、かつ/または所望のビヒクル中へのより容易な製剤化のために凍結乾燥される。
【0296】
タンパク質/ペプチドに基づくワクチンのための他の選択肢は、DNAワクチンとしての、抗原をコードする核酸の導入を含む。この点で、最近の報告によれば、隣接する10個の最小のCTLエピトープ(Thomson, 1996)、またはいくつかの微生物由来のB細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびT-ヘルパー(Th)エピトープの組み合わせ(An, 1997)を発現する組換えワクシニアウイルスの構築、ならびに防御免疫反応に抗原刺激を与えるためにそのような構築物を用いてマウスを免疫することの成功について記述されている。このように、文献の中には、防御免疫反応の効率的なインビボ抗原刺激のためにペプチド、ペプチドパルス抗原提示細胞(APC)、およびペプチドをコードする構築物を用いることの成功に関する十分な証拠が存在している。ワクチンとしての核酸配列の使用は、米国特許第5,958,895号および同第5,620,896号に例示されている。
【0297】
活性成分としてポリペプチドまたはペプチド配列を含むワクチンの調製は一般的に、米国特許第4,608,251号、同第4,601,903号、同第4,599,231号、同第4,599,230号、同第4,596,792号、および同第4,578,770号によって例示されるように、当技術分野において十分に理解されており、それらの特許の全てが参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製され: 注射前の液体溶液または液体懸濁液に適した固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化されてもよい。活性な免疫原性成分は、薬学的に許容されるかつ活性成分と適合性である、賦形剤と混合されることが多い。適切な賦形剤は、例えば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびその組み合わせである。さらに、必要に応じて、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、またはワクチンの有効性を増強するアジュバントのような補助物質の量を含んでもよい。特定の態様において、ワクチンは、米国特許第6,793,923号および同第6,733,754号に記述されるように、物質の組み合わせを用いて製剤化され、それらの特許は参照により本明細書に組み入れられる。
【0298】
ワクチンは、通常、非経口的に、注射により、例えば、皮下または筋肉内のいずれかにより投与されうる。他の投与方法に適したさらなる製剤は、坐剤および、場合により、経口製剤を含む。坐剤の場合、従来の結合剤および担体は、例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドを含むことができ; そのような坐剤は、活性成分を約0.5%~約10%、好ましくは約1%~約2%の範囲内で含有する混合物から形成されることができる。経口製剤は、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような通常用いられる賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤または粉末の形態をとり、約10%~約95%の、好ましくは約25%~約70%の活性成分を含有する。
【0299】
ポリペプチドおよびポリペプチドをコードするDNA構築物は、中性型または塩型としてワクチンに製剤化することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。
【0300】
典型的には、ワクチンは、投与製剤に適合する様式で、かつ治療的に有効かつ免疫原性であるような量で、投与される。投与される量は、個体の免疫系の抗体合成能および望ましい防御の程度を含め、処置される対象に依る。投与されるのに必要な活性成分の的確な量は、医師の判断に依る。しかしながら、適切な投与量範囲は、ワクチン接種1回あたり数百マイクログラムの活性成分の次数のものである。初回投与および追加免疫の接種に適したレジメも同様に多様であるが、初回投与後にその後の接種または他の投与を行うことが典型的である。
【0301】
適用の様式は広く異なってもよい。ワクチンの投与のための従来の方法のいずれも適用可能である。これらには、固体の生理学的に許容される基剤内でのまたは生理学的に許容される分散液中での経口適用、非経口的に、注射により、などが含まれると考えられる。ワクチンの投与量は投与経路に依り、かつ対象のサイズおよび健康状態によって異なる。
【0302】
場合によっては、ワクチンの複数回の投与、例えば、2、3、4、5、6回、またはそれ以上の投与が有ることが望ましいと考えられる。ワクチン接種は、以下の間の全ての範囲を含めむ1、2、3、4、5、6、7、8~5、6、7、8、9、10、11、12 (12 twelve)週間の間隔でありうる。抗体の防御レベルを維持するには、1~5年の間隔での定期的な追加免疫が望ましいと考えられる。米国特許第3,791,932号; 同第4,174,384号; および同第3,949,064号に記述されているように、免疫過程の後に、抗原に対する抗体のアッセイを行ってもよい。
【0303】
1. 担体
所与の組成物はその免疫原性が異なる場合がある。それゆえ、宿主免疫系を追加免疫することが必要になることが多く、これはペプチドまたはポリペプチドを担体に結合させることにより達成することもできる。例示的なかつ好ましい担体はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。卵白アルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンを担体として用いることもできる。ポリペプチドを担体タンパク質にコンジュゲートさせるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビスジアゾ化(bis-biazotized)ベンジジンを含む。
【0304】
2. アジュバント
ポリペプチドまたはペプチド組成物の免疫原性は、アジュバントとして公知の、免疫反応の非特異的刺激物質を用いることによって増強することができる。適切なアジュバントは、サイトカイン、毒素、または合成組成物などの、許容される全ての免疫刺激性化合物を含む。1つもしくは複数のコアグラーゼドメイン1~2のような、コアグラーゼおよびもしくはその変種、または本明細書において企図されるその他任意の細菌タンパク質もしくは組み合わせに対する抗体反応を増強するために、いくつかのアジュバントを用いることができる。アジュバントは、(1) 抗原を体内に捕捉して持続放出を引き起こすこと; (2) 免疫反応に関わる細胞を投与部位に引き付けること; (3) 免疫系細胞の増殖もしくは活性化を誘導すること; または(4) 対象の体全体に抗原を広げるのを改善することができる。
【0305】
アジュバントは、水中油型乳濁液、油中水型乳濁液、無機塩類、ポリヌクレオチド、および天然物質を含むが、これらに限定されることはない。使用できる具体的なアジュバントはIL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、GMCSP、BCG、水酸化アルミニウムまたは他のアルミニウム化合物などのアルミニウム塩、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP (MTP-PE)、脂質A、ならびにモノホスホリル脂質A (MPL)を含む。細菌から抽出された3種類の成分、つまりMPL、トレハロースジマイコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)を2%スクアレン/Tween 80乳濁液中に含有する、RIBI。MHC抗原をさらに使用することができる。他のアジュバントまたは方法は、各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,814,971号、同第5,084,269号、同第6,656,462号に例示されている。
【0306】
ワクチンのアジュバント作用を達成するさまざまな方法には、それぞれ、一般的に約0.05~約0.1%のリン酸緩衝生理食塩水溶液として用いられる水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(ミョウバン)のような作用物質を用いること、約0.25%の溶液として用いられる合成糖重合体(Carbopol(登録商標))とともに混合すること、約70℃~約101℃の範囲の温度で30秒~2分間の熱処理によってワクチンにおけるタンパク質を凝集させることが含まれる。アルブミンに対するペプシン処理抗体(Fab)での再活性化による凝集、細菌細胞(例えば、C.パルブム(C. parvum))、グラム陰性菌の内毒素もしくはリポ多糖類成分との混合物、生理学的に許容される油性ビヒクル中の乳濁液(例えば、マンニドモノ-オレエート(Aracel A)); またはブロック代用物として用いられる20%のペルフルオロカーボン溶液との乳濁液(Fluosol-DA(登録商標))を用いて、アジュバント作用をもたらすこともできる。
【0307】
アジュバントの例かつ多くの場合に好ましいアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(結核菌(Mycobacterium tuberculosis)死菌を含む免疫反応の非特異的な刺激物質)、フロイントの不完全アジュバント、および水酸化アルミニウムが含まれる。
【0308】
いくつかの局面において、Th1またはTh2型の反応のいずれかの選択的誘発物質となるようにアジュバントを選択することが好ましい。高レベルのTh1型サイトカインは、所与の抗原に対する細胞性免疫反応の誘導に有利に働く傾向があるのに対し、高レベルのTh2型サイトカインは、抗原に対する体液性免疫反応の誘導に有利に働く傾向がある。
【0309】
Th1およびTh2型免疫反応の区別は絶対的ではない。実際には、個体は、主にTh1または主にTh2とされている免疫反応を支持する。しかし、多くの場合、MosmannおよびCoffman (Mosmann, and Coffman, 1989)によりネズミCD4+ T細胞クローンにおいて記述されているものに関してサイトカインのファミリーを考えることが好都合である。伝統的には、Th1型反応は、Tリンパ球によるINF-γおよびIL-2サイトカインの産生と関連している。IL-12のような、Th1型免疫反応の誘導に直接関連することが多いその他のサイトカインは、T細胞によって産生されない。対照的に、Th2型反応は、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10の分泌に関連する。
【0310】
アジュバントの他に、生体反応修飾物質(BRM)を同時投与して、免疫反応を増強することが望ましいかもしれない。BRMは、T細胞免疫を上方制御するまたはサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている。そのようなBRMは、シメチジン(CIM; 1200 mg/d) (Smith/Kline, PA); または低用量シクロホスファミド(CYP; 300 mg/m2) (Johnson/Mead, NJ)およびγインターフェロン、IL-2もしくはIL-12のようなサイトカイン、またはB-7のような、免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含むが、これらに限定されることはない。
【0311】
D. 脂質成分および部分
ある種の態様において、本開示は、核酸とまたはポリペプチド/ペプチドと結合した1つまたは複数の脂質を含む組成物に関する。脂質は水に不溶な、かつ有機溶媒で抽出可能な物質である。本明細書において具体的に記述するもの以外の化合物は、当業者により脂質と理解され、本開示の組成物および方法によって包含される。脂質成分および非脂質は、共有結合的または非共有結合的に、互いに付着されてもよい。
【0312】
脂質は天然の脂質または合成脂質であってもよい。しかしながら、脂質は、通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、当技術分野において周知であり、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテルかつエステル結合した脂肪酸を有する脂質および重合可能な脂質、ならびにその組み合わせを含む。
【0313】
脂質と会合した核酸分子またはポリペプチド/ペプチドを、脂質を含有する溶液に分散させ、脂質によって溶解させ、脂質によって乳化させ、脂質と混合させ、脂質と組み合わせ、脂質に共有結合させ、脂質中の懸濁液として含有させ、または他の方法で脂質と会合させてもよい。本開示の脂質または脂質-ポックスウイルス-会合組成物は、任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらを単純に溶液中に散在させ、おそらくサイズまたは形状のどちらかが均一ではない凝集体を形成させてもよい。別の例において、それらは二層構造で、ミセルとして、または「崩壊した」構造で存在してもよい。別の非制限的な例において、リポフェクトアミン(Gibco BRL)-ポックスウイルスまたはSuperfect (Qiagen)-ポックスウイルス複合体も企図される。
【0314】
ある種の態様において、組成物は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはその間の任意の範囲の、特定の脂質、脂質型、あるいはアジュバント、抗原、ペプチド、ポリペプチド、糖、核酸または本明細書に開示されるもしくは当業者に公知であるような他の材料などの非脂質成分を含むことができる。非限定的な例において、組成物は約10%~約20%の中性脂質、および約33%~約34%のセレブロシド、および約1%のコレステロールを含むことができる。別の非限定的な例において、リポソームは、ミセルの約1%が特にリコペンであり、リポソームの約3%~約11%が他のテルペンを含んだままの、約4%~約12%のテルペン、ならびに約10%~約35%のホスファチジルコリン、および約1%の非脂質成分を含むことができる。このように、本開示の組成物は、任意の組み合わせまたは百分率の範囲で脂質、脂質型または他の成分のいずれを含んでもよいと企図される。
【0315】
E. 一般的な薬学的組成物
いくつかの態様において、薬学的組成物が対象に投与される。種々の局面では、対象に組成物の有効量を投与することを含みうる。いくつかの態様において、Coaまたはそのペプチドもしくはコンセンサスペプチドを結合させる抗体を対象に投与して、1種類または複数種類のブドウ球菌属由来細菌による感染症を防御または処置することができる。あるいは、1つまたは複数のそのような抗体またはポリペプチドもしくはペプチドをコードする発現ベクターを、予防的処置として対象に与えることもできる。さらに、そのような組成物を抗生物質と併せて投与することもできる。そのような組成物は一般に、薬学的に許容される担体または水媒体中に溶解または分散される。
【0316】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与される場合に有害反応、アレルギー反応または他の不都合な反応を生じることのない分子的実体および組成物をいう。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される担体」とは、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌物質、および抗真菌物質、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および作用物質の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または作用物質が活性成分と不適合である限り以外は、免疫原性組成物および治療用組成物におけるその使用が企図される。他の抗感染剤およびワクチンなどの、補助的な活性成分も組成物に組み入れることができる。
【0317】
前記活性化合物は、非経口投与のために製剤化することができ、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、またはさらに腹腔内経路による注射のために製剤化することができる。典型的には、そのような組成物は、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして調製することができ: 注射前に液体を加えることで溶液または懸濁液を調製するために用いるのに適した固体剤形を調製することもでき; かつ調製物を乳化することもできる。
【0318】
注射可能な用途に適した薬学的形態は、無菌の水溶液または分散液; ごま油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む製剤; および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌の粉末を含む。いかなる場合でも、この形態は無菌でなければならず、容易に注射可能となる程度に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0319】
前記タンパク質性組成物は、中性形態または塩形態に製剤化されてもよい。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基を伴って形成される)、および、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸を伴って形成されるものを含む。また、遊離カルボキシル基を伴って形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することができる。
【0320】
薬学的組成物は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適したそれらの混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒を含むことができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によりおよび界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防はさまざまな抗菌物質および抗真菌物質、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいと考えられる。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0321】
無菌の注射可能な溶液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒の中に、必要に応じて、上に列挙した種々の他の成分とともに組み入れ、その後、ろ過滅菌または同等の手法を行うことによって調製される。一般に、分散媒はさまざまな滅菌活性成分を、基本分散媒および上に列挙したものより必要とされるその他の成分を含む無菌のビヒクルの中に組み入れることによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加え任意の付加的な望ましい成分の粉末を、予めろ過滅菌されたその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0322】
前記組成物の投与は典型的には、任意の共通の経路によると考えられる。これには、経口投与、鼻腔投与、または口腔投与が含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、投与は同所性の、皮内の、皮下の、筋肉内の、腹腔内の、鼻腔内の、または静脈内の注射によるものであってもよい。ある態様において、ワクチン組成物は吸入することができる(例えば、参照により具体的に組み入れられる米国特許第6,651,655号)。そのような組成物は、通常、薬理学的に許容される担体、緩衝液、または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与される。
【0323】
治療的または予防的組成物の有効量は、意図された目的に基づいて決定される。「単位用量」または「投与量」という用語は、対象での使用に適した物理的に異なる単位をいうが、各単位はその投与、すなわち、適切な経路および投与計画に関連する上記の所望の反応を生じるように算出された所定の量の組成物を含有する。処置回数と単位用量の両方によって投与される量は、望まれる防御に依る。
【0324】
また、組成物の的確な量は医師の判断に依り、各個体に特有のものである。用量に影響する要因には、対象の身体的および臨床的状態、投与経路、意図された処置の目的(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の有効性、安定性、および毒性が含まれる。
【0325】
製剤化されると、溶液は、投薬製剤と適合する様式でかつ治療的にまたは予防的に有効であるような量で投与される。製剤は上記の注射可能な溶液のタイプなどの種々の投与量形態で容易に投与される。
【0326】
F. インビトロ、エクスビボ、またはインビボ投与
本明細書において用いられる場合、インビトロ投与という用語は、培養細胞を含むが、これに限定されない、対象から取り出されたまたは対象の体外の細胞に対して行われる操作をいう。エクスビボ投与という用語は、インビトロにおいて操作されており、その後で、対象に投与される細胞をいう。インビボ投与という用語は、対象の体内で行われる全ての操作を含む。
【0327】
本開示のある種の局面において、組成物はインビトロで、エクスビボで、またはインビボで投与することができる。ある種のインビトロの態様において、自己Bリンパ球細胞株を、本開示のウイルスベクターと24~48時間インキュベートするか、コアグラーゼ(cogaulase)ドメイン1~2および/もしくはその変種ならびに/または本明細書において記述されるその他任意の組成物と2時間インキュベートする。次いで形質導入細胞を、インビトロでの分析に、あるいはエクスビボ投与に用いることができる。ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,690,915号および同第5,199,942号には、治療用途で用いるための血中単核細胞および骨髄細胞のエクスビボ操作のための方法が開示されている。
【0328】
VI. 配列
8つの参照の黄色ブドウ球菌株由来のアミノ酸配列は、以下のとおりにSEQ ID NO: 1~8に提供される: USA300 (SEQ ID NO: 1)、N315 (SEQ ID NO: 2)、MW2 (SEQ ID NO: 3)、MRSA252 (SEQ ID NO: 4)、WIS (SEQ ID NO: 5)、MU50 (SEQ ID NO: 6)、85/2082 (SEQ ID NO: 7)、およびNewman (SEQ ID NO: 8)。優性の黄色ブドウ球菌系列から採取された優性Coaの1つ由来の17 Coa Rドメイン由来のアミノ酸配列は、以下のとおりに提供される: ST5_1 (SEQ ID NO:22)、ST5_2 (SEQ ID NO:23)、ST5_3 (SEQ ID NO:24)、ST8_1 (SEQ ID NO:25)、ST8_2 (SEQ ID NO:26)、ST22_1 (SEQ ID NO:24)、ST22_2 (SEQ ID NO:28)、ST22_3 (SEQ ID NO:29)、ST30_1 (SEQ ID NO:30)、ST30_2 (SEQ ID NO:31)、ST30_3 (SEQ ID NO:32)、ST45_1 (SEQ ID NO:33)、ST45_2 (SEQ ID NO:34)、ST45_3 (SEQ ID NO:35)、ST239_1 (SEQ ID NO:36)、ST239_2 (SEQ ID NO:37)、ST239_3 (SEQ ID NO:38)。
【0329】
【0330】
完全長Coaポリペプチド - USA300株 - SEQ ID NO:21:
【0331】
SEQ ID NO:22~38のCoaポリペプチドの例示的なRドメインは、SEQ ID NO:39~55およびSEQ ID NO:85~101として提供され、断片および連続配列を含む(例えば、[0094]項を参照のこと)。R断片は、SEQ ID NO:39~41、44、45、48、49、および/もしくは51~54のアミノ酸番号1~161、SEQ ID NO:42のアミノ酸番号1~133、SEQ ID NO:43のアミノ酸番号1~107、SEQ ID NO:46および/もしくは50のアミノ酸番号1~80、ならびに/またはSEQ ID NO:47もしくは55のアミノ酸番号1~107を含む連続アミノ酸ポリペプチドを含むことが特に企図される。
。
【0332】
例示的なRドメイン断片:
、配列中、X
1、X
2、X
3、X
4、X
5、X
6、X
7、X
8、X
9、X
10、X
11、およびX
12は任意のアミノ酸である。いくつかの態様において、X
1はプロリンまたはロイシンである。いくつかの態様において、X
2はアルギニンまたはトレオニンである。いくつかの態様において、X
3はフェニルアラニン、グルタミンまたはチロシンである。いくつかの態様において、X
4はアスパラギンまたはリジンである。いくつかの態様において、X
5はプロリンまたはアラニンである。いくつかの態様において、X
6はリジンまたはグルタミン酸である。いくつかの態様において、X
7はヒスチジンまたはアスパラギンである。いくつかの態様において、X
8はアラニン、グルタミン、グリシンまたはアルギニンである。いくつかの態様において、X
9はアスパラギン酸またはアスパラギンである。いくつかの態様において、X
10はトレオニンまたはグルタミンである。いくつかの態様において、X
11はバリンまたはアラニンである。いくつかの態様において、X
12はトレオニンまたはセリンである。
【実施例】
【0333】
VII. 実施例
以下の実施例は、さまざまな態様を例証する目的で与えられており、いかなる形においても本発明を限定することを意図するものではない。本発明は本明細書の中にある目標、目的および利点のほかに、言及されている、目標を実行するために、かつ目的および利点を得るために十分に適していることを当業者は容易に理解するであろう。本実施例は、本明細書において記述される方法とともに、目下、好ましい態様を代表するものであり、例示するものであり、本発明の範囲に対する限定と意図するものではない。その変更および特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨のなかに包含されるその他の用途が、当業者には思い浮かぶであろう。
【0334】
実施例1
黄色ブドウ球菌の分泌産物に対する抗体は食作用による死滅を引き起こす
細菌病原体に対する宿主免疫は、典型的には、微生物表面を認識し、食作用による死滅を促進する抗体を伴う。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、致死的な血流感染症の原因となることが多いが、ブドウ球菌表面分子を標的とするワクチンおよび抗体治療法はこれまでに臨床効果を達成することができなかった。黄色ブドウ球菌は、宿主プロトロンビンを活性化し、免疫細胞による食作用に対して病原体を保護するフィブリン原線維を生成するコアグラーゼ(Coa)を分泌する。陰性選択のために、プロトロンビン結合D1-D2ドメインのコード配列は非常に可変であり、交差防御免疫反応を誘発しない。フィブリノゲンに結合する27残基ペプチドのタンデムリピートであるRドメインは、全てのCoa分子のC末端に保存されているが、その機能的意義は知られていない。本発明者らはここで、Rドメインが、フィブリノゲンをブドウ球菌表面に向けることによって血流感染症を可能にし、食作用を阻害する防御フィブリンシールドを生成することを示す。フィブリンシールドは、ブドウ球菌の食作用による死滅を引き起こしかつマウスを引き起こされた致命的な血流感染症から防御するR特異的抗体でマーキングすることができる。
【0335】
A. コアグラーゼのRドメインは黄色ブドウ球菌の血流感染症を支持する
CoaのC末端ドメインは、保存されており、それぞれがフィブリノゲンに結合する27残基ペプチドのタンデムリピートから構成される(
図1A) (Panizzi et al., 2011; Watanabe et al., 2009)。タンデムリピートの数は、黄色ブドウ球菌の異なる分離株由来のCoa分子の間で異なる(Watanabe et al., 2009)。Rドメインのブドウ球菌疾患の発病への寄与を特徴決定するために、本発明者らは、野生型またはΔvwbのいずれかのバックグラウンドで、Rドメインを欠く、切断されたcoa (coa
ΔR)を有する同質遺伝子の黄色ブドウ球菌変種を作製した。Coa特異抗体およびvWbp特異抗体を用いた免疫ブロッティングによりプロービングされて野生型ブドウ球菌由来Coaと比較された場合、黄色ブドウ球菌coa
ΔRおよびcoa
ΔR/Δvwb株は、切断されたタンパク質を細胞外培地中に分泌した(
図1B)。CoaのD1ドメインを認識するモノクローナル抗体mAb 5D5 (以下参照)は、CoaおよびCoa
ΔRの両方に結合したが、Rドメインに特異的なmAb 3B3 (以下参照)は、Coaにのみ結合したが、Coa
ΔRには結合しなかった(
図1AB)。カルシウムキレート化マウス血液に接種されて24時間インキュベートされた場合、野生型黄色ブドウ球菌は堅固な血塊を産生したが、偽感染血液は産生しなかった(
図1C)。このアッセイ法において、Δcoa/Δvwb変種株のみが凝固の不良を示し、ΔcoaまたはΔvwb変種株は示さなかったので、ブドウ球菌は、凝固のためには両方のコアグラーゼの分泌に依存している(
図1C)。それらの各親株と比較して、coa
ΔRおよびcoa
ΔR/Δvwb変異体にも凝固の不良はなく、これにより、CoaのRドメインがブドウ球菌凝塊形成に不必要であることが示された(
図1C)。
【0336】
野生型黄色ブドウ球菌Newmanは、BALB/cマウスに静脈内接種されると、2~3日以内に致死的な血流感染症を引き起こし、ΔcoaまたはΔvwb変異のそれぞれが、Δcoa/Δvwb変異体に対して相加的である死滅時間の遅延を引き起こす[生存期間中央値60時間(野生型)、108時間(ΔcoaまたはΔvwb)および180時間(Δcoa/Δvwb)] (
図1D、E)。驚くべきことに、coa
ΔR変異はまた、死滅時間の遅延を引き起こし[生存期間中央値72時間(coa
ΔR)および126時間(coa
ΔR/Δvwb)]、これはvwb発現を有する株(野生型対coa
ΔR, P = 0.0308; Δcoa対coa
ΔR, P = 0.0229)またはvwb発現を有しない株(Δvwb対coa
ΔR/Δvwb, P = 0.043; Δcoa/ Δvwb対coa
ΔR/ Δvwb, P = 0.0084)において定量することができた。したがって、CoaのRドメインは、スタフィロトロンビン媒介性の凝固に不必要であるが、マウスにおける黄色ブドウ球菌感染症の発病に寄与する。
【0337】
B. Rドメインはブドウ球菌フィブリンシールドのアセンブリを可能にする
完全長strep-タグ付きCoa (Coa
ST)、Rドメインについて切断されたCoa (Coa
ΔR/ST)、およびRドメインのみ(R
ST)を精製し、シトレート-血漿によるアフィニティークロマトグラフィー実験のために用いた(
図2A)。Coa
STおよびR
STはモル過剰のフィブリノゲンを保持したが、Coa
ΔR/STは等モル量のフィブリノゲンしか保持しなかった(
図2A)。これは、Coa
STまたはCoa
ΔR/ST内のスタフィロトロンビンの非活性部位とフィブリノゲンの間の等モルの会合によって説明することができるが、Coa
STおよびR
STのRドメインは3~4モルのフィブリノゲンと会合する(
図2A)。予想通り、Coa
STおよびCoa
ΔR/STは、それらのD1-D2ドメインを介してプロトロンビンに結合したが、R
STは結合しなかった(
図2A)。ブドウ球菌は、フィブリノゲンとの細菌の会合を促進する、表面タンパク質、例えばクランピング因子A (ClfA)を提示する(McAdow et al., 2012a; McDevitt et al., 1994)。希薄血漿と混合されると、対数中期のブドウ球菌培養物はフィブリン凝塊を形成し、これは、遠心分離されると、細菌とともに沈降し、尿素で可溶化することができた(
図2B)。クマシー染色したSDS-PAGEによって分析したところ、フィブリンは細菌の沈降物と会合していると分かったが、アルブミンは凝集したブドウ球菌の上清に残存していた(
図2B)。免疫ブロッティングにより、完全長Coaは細菌の凝塊とともに沈降したが、Coa
ΔRは沈降しなかったことが明らかにされた(
図2B)。Coaとブドウ球菌との会合は、フィブリン凝塊の存在下において起こり、ヒト血漿なしで遠心分離されたブドウ球菌培養物では観察されなかった(
図2B)。ブドウ球菌フィブリン形成に対するRドメインの寄与を視覚化するために、mCherry発現細菌を、Alexa488結合フィブリノゲンを有する血漿サンプルに添加し、血塊形成を蛍光顕微鏡法によって調べた。細菌の近傍で大きなフィブリン沈着物を生成した、野生型ブドウ球菌とは異なり、coa
ΔR変異体は長いフィブリン鎖を産生し、これが病原体と緩やかに会合していたのみであった(
図2C)。したがって、可溶性フィブリノゲンの動員を増強することにより、C末端リピートはCoa誘発フィブリン塊に有利に働き、ブドウ球菌からのCoaの拡散を制限し、それにより細菌のすぐ近くにスタフィロトロンビン生成フィブリンシールドを局在化させる。フィブリノゲンとのRドメインの相互作用はまた、細胞結合コアグラーゼ(Coa)および遊離コアグラーゼ(vWbp)の初期の観察を説明しうる(Duthie, 1954)。
【0338】
C. Rドメイン抗体はマウスを血流感染症から防御する
黄色ブドウ球菌Newmanの完全長Coaでマウスを免疫することによって、マウスモノクローナル抗体が作製された。Coaに反応するが、vWbpまたはIsdA対照に反応しない13種類の抗体を、D1、D2、D1-D2、最初の18残基を欠くD1 (D1
Δ1-18)、L (リンカー)およびRドメインに対するその親和性および特異性について決定した(
図1A)。Coaの可変ドメインまたは保存ドメインを標的化する2つの抗体5D5および3B3をさらなる研究のために用いた。活性スタフィロトロンビンを生成するためにプロトロンビン活性部位に挿入するD1の最初の18残基内のD1ドメインに結合したmAb 5D5 (表1)は、Coa
STのプロトロンビンへの結合を妨げたが、フィブリノゲンへの結合を妨げなかった(
図5AB)。一方で、mAb 3B3は、Rドメインに結合し(表S)、Coa
STのフィブリノゲンとの会合をブロックしたが、プロトロンビンとの会合をブロックしなかった(
図5AB)。さらに、mAb 3B3ではなく、mAb 5D5は、Newman株由来のCoaに対して作製されたポリクローナル抗体と同様に、黄色ブドウ球菌Newman媒介性のマウス血液凝固をインビトロで阻害した(
図5C)。5D5、3B3もポリクローナルCoa抗体も、インビトロでEDTA-ウサギ血漿の黄色ブドウ球菌Newman凝集を阻害しなかった(
図5D)。精製されたmAbである5D5または3B3をBALB/cマウスの腹腔内に抗体5 mg/体重kgの濃度で注射し、IgG1アイソタイプ対照mAbと比較した(
図3)。5D5も3B3もともに、黄色ブドウ球菌Newmanによる致死的血流感染症に対する防御を提供した(IgG1対5D5、P<0.0001; IgG1対3B3、P<0.0001;
図3A)。黄色ブドウ球菌Δvwb変種を攻撃株(challenge strain)として用いた場合にも同様の結果が得られた(IgG1対5D5, P = 0.0011; IgG1対3B3, P = 0.0004;
図3B)。ELISAアッセイ法において、mAb 3B3は、タイプII (Coa
N315)、タイプIII (Coa
USA300)、タイプIV (Coa
MRSA252およびCoa
85/2082)ならびにタイプVII (Coa
WIS)を含む異なる血清型由来のコアグラーゼに結合することが観察された(表2)。対照的に、mAb 5D5はCoa
USA300のみを認識し、それほどではないがCoa
WISを認識した(表2)。致死的血流感染症の予防について分析された場合、3B3も5D5もともに、黄色ブドウ球菌Newmanと同様、タイプIIIコアグラーゼにより、MRSA株USA300からの防御を提供した(IgG1対5D5、P = 0.0007; IgG1対3B3、P<0.0001;
図3C)。しかしながら、mAb 3B3のみが黄色ブドウ球菌N315 (IgG1対5D5、P = 0.1186; IgG1対3B3、P<0.0001)、MRSA252 (IgG1対5D5、P = 0.5993; IgG1対3B3、P<0.0001)、およびMRSA分離株WIS (IgG1対5D5、P = 0.4243; IgG1対3B3、P<0.0001;
図3DEF)による致死的血流攻撃からマウスを防御した。したがって、Rドメインに対するモノクローナル抗体は、全ての血清型のコアグラーゼを認識し、MRSA分離株によって引き起こされる血流感染症からの広域防御を提供した。
【0339】
(表1)Coa
Newmanに対して作製されたmAbの属性
a単離されたハイブリドーマクローンからマウスモノクローナル抗体を精製した。
b免疫グロブリンコール(call)およびmAbのサブクラス。
c親和性は、Newman株由来のコアグラーゼタンパク質(Coa)に対するnM
-1単位の会合定数(K
a)としてELISAにより決定された。mAb結合部位のマッピングは、完全長CoaまたはそのサブドメインD1-D2、D1、D1
Δ1-18、D2、リンカー(L)、およびリピート(R)ドメインのいずれかを用いることにより行われた。
【0340】
(表2)異なる株のCoaタンパク質に対するmAbの親和性
a単離されたハイブリドーマクローンからマウスモノクローナル抗体を精製した。
b表S1に示されるようにそれぞれ、mAb 5D5および3B3によって認識されるCoaサブドメインD1またはR。
c親和性は、各タンパク質ドメインに対するnM
-1単位の会合定数(K
a)としてELISAにより決定された。
【0341】
D. ヒト血液中の黄色ブドウ球菌凝集
ヒトボランティアからの血液をデシルジンで抗凝固処理して、スタフィロトロンビン(staphylothromin)に影響を及ぼさずに内因性トロンビンを阻害した(McAdow et al., 2011)。血液細胞を遠心分離によって除去し、ヒト血漿0.5 mlに黄色ブドウ球菌Newman(5×10
6 CFU)を接種した。37℃にて指定された間隔、0分および60分のインキュベーションの時点で、ブドウ球菌CFUを計数した。60分以内に、野生型黄色ブドウ球菌のCFUは5×10
6 (100%)から0.15×10
6 (3%)に低下したが、同質遺伝子Δcoa/Δvwb変種のCFUは低減しなかった(
図4A)。フィブリン溶解のプラスミノゲンアクチベータであるストレプトキナーゼ(SK)による血漿サンプルの処理は、0分サンプルにおいて細菌CFUに影響を与えず、60分間にわたって凝集した野生型黄色ブドウ球菌を遊離させた(
図4A)。USA300 LACはヒト血漿中で凝集し、迅速に複製して大きな細菌負荷を生じた。USA300 LAC凝集は、脱フィブリン処理したヒト血清では起こらなかった(
図4A)。
【0342】
5×10
6 CFUのUSA300 LACに60分間感染させた20名の健常人ボランティアからの血液サンプルにおいて黄色ブドウ球菌の食作用およびオプソニン食作用死滅(OPK)を測定した。SK処理有りまたは無しで細菌CFUを定量した(表3)。対照血液サンプルをサイトカラシンD (CD)で前処理し、それによって黄色ブドウ球菌食作用を予防した(Mimura and Asano, 1976)。白血球あたり細菌10個の攻撃用量で、このアッセイ法は、SK処理血液中0~60分のCFU低減率として5×10
6 CFUのUSA300 LACのOPKを定量する。ボランティアAの血液サンプル中の食細胞は、60分以内に2.552×10
6 CFU (51.04%)を死滅させた(
図4B)。全ブドウ球菌負荷の一部(64.62%)は、SK処理無しの血液中で計数することができた(表3)。CDで前処理された場合、ブドウ球菌CFUの97.92%がボランティアAからの血液中で凝集した。凝集は、60分間のインキュベーション後に計数のためにSK処理を必要とする黄色ブドウ球菌CFUの百分率として算出された。ボランティアAについては、ブドウ球菌負荷の35.38%が60分以内に凝集したが、64.62%は貪食されていた(表3)。ボランティアG由来の血液サンプル中の食細胞は黄色ブドウ球菌を死滅させることができなかった: 接種材料の99.68%がSK-血液中に回収された(
図4B)。ここで、細菌負荷の21.93%が貪食されていたが、78.07%は凝集していた(表3)。USA300 LACをボランティアI由来の血液サンプル中で最初の接種材料の204.42%にまで拡張させた; 負荷の85.75%が凝集していた(
図4B)。これらの表現型に基づいて、本発明者らは、ヒト血液サンプルをブドウ球菌キラー、コントローラーまたはプレイとして分類した(表3)。この分類は、キラーおよびプレイ血液サンプルの両方が、コアグラーゼを発現しない片利共生生物である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)の食作用およびOPKにおいて活性であったので、黄色ブドウ球菌にのみ当てはまる(
図6A)。D1-D2またはC末端Rドメインに対する抗体力価は、ヒト血液中のUSA300 LACのOPKと相関しなかった(表3)。
【0343】
(表S3)ヒト血液中のMRSA USA300 LACの食作用およびオプソニン食作用による死滅
1得られたヒトボランティア由来の血液は、デシルジン(10 μg/ml)で抗凝固処理し、0.5 mlのアリコットに分注し、5×10
6 CFUのUSA300 LACを接種した。CFU計数のために寒天上にプレーティングする前に、PBS (0.5%サポニン、100 UのストレプトキナーゼK、トリプシン50 μg、DNAse 1 μg、およびRNAse 5 μgを有する) 0.5 mlで血液を溶解することによって接種材料を計数した。
2ヒトボランティアの凝固した血液由来の血清を、黄色ブドウ球菌Newmanゲノム配列に由来する精製された組換えタンパク質: α-溶血素(Hla)、D1-D2ドメイン(D1-D2)、またはN12D置換を保有するRドメインのタンデムリピートに対し最大半減IgG力価についてELISAにより調べた。
3血液サンプルをPBS (0.5%サポニン、DNAse 1 μg、RNAse 5 μg) 0.5 mlで37℃にて60分後に溶解し、続いてCFU計数を行った。データを2つの独立した測定から平均し、SEMおよび%総量(60分間のストレプトキナーゼ処理サンプル)を算出した。
4血液サンプルをPBS (0.5%サポニン、100 Uのストレプトキナーゼ、トリプシン50 μg、DNAse 1 μg、RNAse 5 μg) 0.5 mlで37℃にて60分後に溶解し、続いてCFU計数を行った。データを2つの独立した測定から平均し、接種材料のSEMおよび% (0分 = 5×10
6 CFU)を算出した。
55×10
6 CFUのUSA300 LACによる感染の前に、血液をサイトカラシンD 10 μg/mlで前処理した。
6凝集(%)を60分(サイトカラシンD無しで)後に%モック処理CFUから算出し、ブドウ球菌負荷をストレプトキナーゼ処理で計数した。
7サイトカラシンD処理無しのストレプトキナーゼ処理血液中Δ0~60分の負荷として、オプソニン食作用死滅(OPK) (%)を算出した。
8ヒト血液サンプルをMRSA分離株USA300 LACのキラー(K)、コントローラー(C)、またはプレイ(P)として分類した。
【0344】
E. Rドメイン抗体はフィブリンでコーティングされたブドウ球菌の食作用を促進する
ボランティアBの血液サンプル(プレイ)に添加された場合、mAb 3B3は細菌負荷を63%まで減少させたが、USA300 LACは抗体なしで血液中128%に拡大した(3B3対モック、P<0.05;
図4C)。CDによる血液の前処理は、mAb 3B3の存在下でのUSA300 LACの食作用およびOPKを無効にした(
図4C)。GFPを発現する黄色ブドウ球菌Newmanをマウス血液に接種し、好中球をGR1染色およびフローサイトメトリーによって単離した(
図6BC)。ブドウ球菌の食作用は抗体の非存在下で生じたが、ブドウ球菌と好中球との会合はmAb 3B3の存在下で増大した(
図6B)。さらに、GFP蛍光は30分後に増大せず、細菌の複製が停止していたことが示された(Thammavongsa et al., 2013)。ブドウ球菌の抗体媒介性の取り込みは、黄色ブドウ球菌coa
ΔRサンプル由来の好中球では観察されなかった(
図6B)。野生型黄色ブドウ球菌の好中球による取り込みは、血液サンプルにAlexa488結合ヒトフィブリノゲンを添加し、好中球の蛍光を測定することにより検出された、フィブリンの取り込みを伴った(
図6C)。黄色ブドウ球菌に感染したマウス血液をギムザ(Giemsa)染色し、これによって好中球外側のフィブリン凝集ブドウ球菌の大きな塊が明らかにされた(
図4D)。mAb 3B3で処理した場合、ブドウ球菌はマウス好中球により内在化されるように考えられた(
図4D)。マウス血液をUSA300 LACに感染させ、30分および60分のインキュベーション後にCFUについて分析した。モック対照と比較して、mAb 3B3は、USA300 LACの食作用による死滅を促進した。予想通り、OPKはCDでの前処理によってブロックされた(
図4E)。黄色ブドウ球菌のOPKは、黄色ブドウ球菌の静脈内攻撃の後、感染30分後に心臓血液中のCFU計数を行うことでマウスにおいてインビボで定量した。mAb 3B3は細菌負荷を、野生型黄色ブドウ球菌に感染したマウスでは減少させたが、coa
ΔR変種に感染したマウスでは減少させなかった(
図4F)。
【0345】
本発明者らは、黄色ブドウ球菌が食作用による死滅を回避する独特の機構: 食細胞による取り込みから病原菌を防御するフィブリンシールドのコアグラーゼ媒介性アセンブリを進化させたことを報告する。Rドメインは、細菌を防御する細菌フィブリンシールドの形成を駆動するが、抗体沈着のために捕捉されたCoaも曝露する。その鍵となる病毒性決定因子に対する抗体応答の中和を回避するために、coa、すなわちD1-D2ドメインのコード配列は、陰性選択の対象となり、別のコアグラーゼ血清型のD1-D2ドメインに対する抗体によって中和されることができない変種産物を生成する(McAdow et al., 2012a; Watanabe et al., 2009)。本発明者らは、Rドメインに対するモノクローナル抗体がOPK破壊のためブドウ球菌を標的とすることも示している。そうであれば、能動的ワクチン接種または受動的に移入されたモノクローナルによって誘発されるRドメイン特異的抗体は、黄色ブドウ球菌血流感染症を防御し、MRSA感染症に対抗するために用いられうる。成功を収めたワクチンは一般に、病原菌の破壊を実施するために細菌表面構造に対する抗体に依存する(Robbins et al., 1996)。しかしながら、黄色ブドウ球菌は、いくつかの異なる免疫回避機構、例えば好中球走化性の遮断、食作用、補体活性化および抗体沈着によって抗体媒介性破壊を回避することができる(Spaan et al., 2013)。ワクチンの開発は、止血因子ではなく補体および抗体を補充した培養HL60食細胞におけるOPKを測定する標準化アッセイ法に依存する(Nanra et al., 2013)。このアッセイ法は、ブドウ球菌コアグラーゼの免疫回避属性を評価することはできず、OPKを促進する表面分子に対する抗体の役割を過大評価する可能性がある。
【0346】
F. 材料および方法
細菌の増殖、株、およびプラスミド。黄色ブドウ球菌および大腸菌(Escherichia coli)を、必要に応じて、アンピシリン(100 μg ml-1)またはクロラムフェニコール(10 μg ml-1)を有するトリプトソイおよびLuriaブロスまたは寒天中で増殖させた。以前の研究により、黄色ブドウ球菌Newmanならびにその変種Δcoa、ΔvwbおよびΔcoa/Δvwbが、GFPまたはmCherryを発現するプラスミド有りまたは無しで報告されている(Cheng et al., 2010)。pKOR1を用いて、野生型またはΔvwb NewmanにcoaΔR対立遺伝子(コドン470~605の欠失)を導入した(Bae and Schneewind, 2005)。以前の研究により、完全長成熟Coa (黄色ブドウ球菌Newman、USA300、N315、MRSA252、85/2082、もしくはWIS) (McAdow et al., 2012a; Thomer et al., 2013)またはCoa Newmanドメイン(D1、D1-D2、D1Δ1-18、D2、およびL) (McAdow et al., 2012a)の精製のために大腸菌プラスミドが作製された。プラスミドpET15b-rSTは、Rドメイン(コドン470~605)およびC末端Strepタグのコード配列を持つ。
【0347】
培養および凝固におけるコアグラーゼの同定。コアグラーゼの分泌を調べるために、ブドウ球菌の培養物を光学密度A600 0.4 (およそ108コロニー形成単位(CFU) ml-1)まで増殖させた。上清、すなわち遠心された培養物1 ml中のタンパク質をトリクロロ酢酸100 % (w/v) 75 μlで沈殿させ、アセトンで洗浄し、乾燥させ、サンプル緩衝液(62.5 mM Tris-HCl, pH 6.8、2% SDS、10%グリセロール、5% 2-メルカプトエタノール、0.01%ブロモフェノールブルー) 50 μl中で可溶化させた。フィブリン凝塊中のコアグラーゼの運命を調べるために、細菌培養物(およそ108 CFU ml-1)またはブロス950 μlをPBSまたはヒトシトレート-血漿50 μlと37℃で10分間混合し、13,000×gで10分間遠心分離して可溶性物質と凝固物質を分離した。SDS-PAGEによる抽出物の分離の前に、4 M尿素を用いてフィブリン凝塊を可溶化した。タンパク質をクマシー染色で視覚化し、またはCoaに対するウサギアフィニティー精製抗体(α-Coa)もしくはvWbpに対するウサギアフィニティー精製抗体(α-vWbp) (Thomer et al., 2013)およびマウスアフィニティー精製モノクローナル抗体3B3もしくは5D5を用いた免疫ブロッティングのためにポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に転写した。
【0348】
プルダウン実験。CoaサブドメインおよびCoa株変種について先に記述された方法にしたがってCoaST、CoaΔR/STおよびRSTをStrep-Tactin-Sepharose (IBA)に対して精製した(McAdow et al., 2012a; Thomer et al., 2013)。全ての精製タンパク質をPBS中に貯蔵した。プルダウン実験のため、PBS中に1:1希釈した健常ヒトボランティア由来シトレート-血漿(500 μl)を、100 nmolの精製CoaST、CoaΔRSTまたはRSTで予め充填されたまたは予め充填されていないStrep-Tactin-Sepharoseビーズに対して重力流により適用した。結合したタンパク質をサンプル緩衝液中で樹脂を沸騰させることによって回収し、SDS-PAGE分離、続いてクマシー染色または免疫ブロットにより分析した。
【0349】
凝固アッセイ法。細菌懸濁液(およそ108 CFU ml-1) 10 μlを、滅菌プラスチック試験管(BD falcon)中のクエン酸ナトリウム(終濃度10 mM)で抗凝固化された採取したばかりのマウス血液90 μlに添加した。サンプルを室温でインキュベートし、定時間隔で管を45°の角度に傾けることによって血液凝固を確認した。示されている場合、抗体は3 μMの終濃度で添加された。統計分析は、Prism (GraphPad Software)を用いた両側スチューデントt検定によって行った。
【0350】
顕微鏡検査。血餅中の細菌の視覚化のため、mCherryを発現するブドウ球菌(およそ108 CFU ml-1) 5 μlを、5% Alexa488結合ヒトフィブリノゲン(Life Technologies)を補充したヒトシトレート-血漿5 μlと5分間混合した。ガラススライド上に置かれたサンプルの画像を、100倍対物レンズを用いてSP5タンデムスキャナスペクトル2光子共焦点顕微鏡(Leica)で捕捉した。凝集の評価のため、ブドウ球菌(およそ108 CFU ml-1) 1 mlを500分の1のSYTO9 (Invitrogen)とともに15分間インキュベートし、2回洗浄し、PBS 1 mlに懸濁した。細菌をガラス顕微鏡スライド上のヒトシトレート-血漿とともに15分間1:1でインキュベートした。示されている場合、抗体は3 μMの終濃度で添加した。画像は、20倍の対物レンズを用いてIX81生細胞全反射蛍光顕微鏡(Olympus)で捕捉した。ImageJソフトウェアの閾値関数を用いて、ブドウ球菌が黒色で背景が白色である二色性の形式に画像を変換した。統計的有意性は、Prism (GraphPad Software)を用いた二元配置分散分析によって判定した。
【0351】
コアグラーゼに対するモノクローナル抗体の産生。初回免疫付与のために完全フロイントアジュバント(DIFCO)中1:1で乳化された精製組換えCoaNM 100 μgを腹腔内注射により3匹の8週齢BALB/c雌性マウス(Jackson Laboratory)に免疫した。21日目および42日目に、不完全フロイントアジュバント(DIFCO)中1:1で乳化されたCoaNM 100 μgで動物を追加免疫した。31日目および52日目に、動物を採血し、CoaでコーティングしたNunc MaxiSorp 96ウェル平底プレート上でELISAによりスクリーニングした。初回免疫付与の79日後、抗原に対する強力な免疫反応性を示したマウスをPBS中25 μgのCoaで追加免疫した。3日後、脾細胞を収集し、SP2/0骨髄腫細胞株のインターロイキン6分泌派生体であるマウス骨髄腫細胞株SP2/mIL-6と融合させた。ハイブリドーマを、ELISAおよび限界希釈によりサブクローニングした抗原特異的クローンによってスクリーニングし、単一細胞に由来するモノクローナル抗体分泌ハイブリドーマを作製した。ハイブリドーマ細胞株を、10% FBSを有するDMEM-10培地中で細胞106個ml-1の密度まで増殖させ、6週間にわたって放置した。記述されているように(McAdow et al., 2012a; Thomer et al., 2013)、アフィニティークロマトグラフィーによって、ろ過した培養上清から抗体を精製した。
【0352】
ELISA。mAbの結合親和性および特異性を決定するために、Nunc MaxiSorp 96ウェルプレートを、0.1 M重炭酸ナトリウム中20 nMの濃度で調製したさまざまなCoa変種血清型およびサブドメインでコーティングし、親和性を先の記述の通りに測定した(McAdow et al., 2012a)。vWbpおよびIsdAでコーティングしたELISAプレートを陰性対照として役立てた。プロトロンビンまたはフィブリノゲンの結合を妨害するmAbの能力を、以前に記述されたように(McAdow et al., 2012a)測定し、ボンフェローニ事後検定による一元配置ANOVAを用いて統計分析を行った。精製Hla、D1-D2STまたはRN12Dへの結合についてのヒトボランティア由来の血清中の最大半減IgG力価を、以前に記述されたように(McAdow et al., 2012a) ELISAによって決定した。RN12Dは、免疫グロブリンに結合しないSpAの変種であるSpAKKAAとCoaNewman由来Rドメインの2つの27残基リピートとの間の翻訳ハイブリッドであり、各リピートの12位にAsn12Asp、続いてC末端Strepタグが続く; 精製されたRN12Dは、フィブリノゲン結合に欠陥がある。
【0353】
動物感染および免疫試験。体重1キログラムあたり100 mg ml-1のケタミンおよび20 mg ml-1のキシラジンで麻酔した動物(10匹のコホート)、6週齢の雌性BALB/cマウス(Charles River Laboratories)の眼窩周囲静脈叢に2×108 CFU ml-1 (USA300)、8×108 CFU ml-1 (Newman, N315, WIS)または2×109 CFU ml-1 (MRSA252)の濃度でPBS中の細菌懸濁液100 μlを接種した。攻撃10時間前に、mAbを5 mg kg-1の濃度で腹腔に注入した。統計分析は、Prism (GraphPad Software)を用いて両側Log Rank検定により行った。血液中のブドウ球菌の運命を評価(インビボ血液生存アッセイ法)するために、感染から30分後にCO2吸入により動物を安楽死させ、心穿刺を行った。血液サンプルを0.5 %サポニンで処理して真核細胞を溶解し、PBSで連続希釈し、CFUの計数のために寒天上にプレーティングした。両側スチューデントt検定を用いて統計分析を行った。動物実験は、施設内生物安全委員会(IBC)および施設内動物実験委員会(IACUC)による実験プロトコールの審査および承認に従う施設内ガイドラインによって実施された。
【0354】
血液中の細菌生存、オプソニン食作用アッセイ法、およびフローサイトメトリー分析。エクスビボでの細菌の複製および生存を測定するために、1 mlあたり0.005 mgのデシルジンで抗凝固処理された新鮮採血マウスまたはヒト血液0.5 mlを、5×105 CFU (マウス)または5×106 CFU (ヒト)を含有する細菌懸濁液50 μlとともにインキュベートした。示されている場合、ヒト血液を処理してデシルジン-血漿または血清を作製した。示されている場合、5% Alexa488結合ヒトフィブリノゲン(Life Technologies)、サイトカラシンD (0.04 mM)、または精製マウスモノクローナル抗体(およそ10 μg ml-1の終濃度)をサンプルに添加した。37℃で0、30または60分間のインキュベーション後、0.5%サポニンを有するPBS 0.5 mlまたは凝集溶解緩衝液(PBS 1 mlあたり0.5%サポニン、200 UストレプトキナーゼK、トリプシン100 μg、DNAse 2 μg、RNAse 10 μg) 0.5 mlを各サンプルに37℃で10分間添加した後、CFUの計数のために寒天上にプレーティングした。凝集溶解緩衝液での処理は、図中+SKとして注釈されている。統計分析は両側スチューデントt検定によって行った。フローサイトメトリー分析のために、サンプルを最初にリゾスタフィン(10 μg ml-1)とともに5分間インキュベートして細胞外細菌を溶解し、次に赤血球溶解緩衝液(QIAGEN)とともに氷上で30分間インキュベートした。400×gでの遠心分離後に血液白血球を回収し、1% FBSを含有するPBS中において3回洗浄し、懸濁した。細胞をアロフィコシアニン結合α-GR1で染色し、FACSCanto (BD)を用いて分析した。両側スチューデントt検定を用いてデータを分析した。ヒトボランティアは、シカゴ大学の施設内審査委員会により審査され、承認されたプロトコールの下で登録された。
【0355】
実施例2
多成分ブドウ球菌ワクチン組成物への包含のための、分子疫学および全ゲノム配列決定を用いた優性の臨床黄色ブドウ球菌系列におけるプロトタイプのブドウ球菌コアグラーゼタンパク質配列の選択
A. 目的
プロトタイプのブドウ球菌コアグラーゼ(Coa)配列の有病率に基づく選択の目的で現在使用可能な黄色ブドウ球菌株の多様性に関するゲノム情報を収集かつ分析すること。これらの優性の完全長Coa配列は、臨床的に関連性のある黄色ブドウ球菌株から最も代表的なRドメインを選択するための基礎を形成すると考えられる。
【0356】
B. 方法
1. 優性のブドウ球菌配列型(ST)の分子疫学
配列型(ST)は、いくつかのハウスキーピング遺伝子のヌクレオチド配列を特徴決定するマルチローカス配列タイピング(Multi Locus Sequence Typing; MLST)技法によって定義される。分離株における各ハウスキーピング遺伝子について、既存の命名法にしたがって対応する配列に対立遺伝子番号が割り当てられる(すなわち、各独特な対立遺伝子配列はそれ自身の独特な対立遺伝子番号を有する)。得られた対立遺伝子番号の組み合わせは、定義された命名法にしたがって、対立遺伝子プロファイルまたは配列型(ST)を定義する。黄色ブドウ球菌の場合、7つのハウスキーピング遺伝子がSTを定義するために用いられる。黄色ブドウ球菌MLST命名法は、http://saureus.m1st.net.のワールドワイドウェブ上に見出される。
【0357】
USA: メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症に関する新興感染症プログラムネットワーク(Center for Disease Control (CDC), 2005~2013年の間, cdc.gov/abcs/reports-findings/survreports/mrsa13.pdfのワールドワイドウェブ上に記述されている)の一環としてActive Bacterial Core Surveillance (ABCs)により報告された有病率データに基づき米国において優性のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)配列型(ST)が同定された。
【0358】
EU: Grundmann et al. (Grundmann et al. 2010 PLoS Med. 7(1): e1000215, PMID20084094; Grundmann et al. 2014 Euro Surveill. 19(49). pii: 20987, PMID25523972)によって報告された有病率データに基づきEUにおける優性のメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)およびMRSA STが同定された。
【0359】
アジア: Chen and Huang, 2014, Clin Microbiol Infection PMID: 24888414; Chuang and Huang, 2013, Lancet Infect Disease PMID:23827369; およびChung et al., 2015 IJAA (PMID:25982914)を含む複数の再調査およびメタ分析に基づきアジアにおける優性のMSSAおよびMRSA STが同定された。
【0360】
2. 全ゲノム配列データおよびアセンブリ
黄色ブドウ球菌の公的に使用可能な全ゲノム配列(WGS)アセンブリをGenBankから16JUL2015にて抽出した。さらなる黄色ブドウ球菌WGSデータは、Wellcome Trust Sanger Instituteの2つの公的に使用可能なリポジトリから収集された(sanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/staphylococcus-aureus.htmlのワールドワイドウェブ上に記述されている)。第1のリポジトリには、British Society for Antimicrobial Chemotherapy (BSAC, bsac.org.uk/のワールドワイドウェブ上に記述されている) (Sangerウェブサイトのプロジェクト番号_2036)からのデータが含まれていた。BSACは、市中感染症および病院感染症の両方から微生物を幅広く取りそろえ収集している。英国とアイルランドでは、毎年最高6000種類の臨床分離株が収集されている。ペアエンドのイルミナは、203種類の黄色ブドウ球菌分離株が20NOV2014のこのリポジトリからダウンロードされたことを読み取る。アセンブリは、デフォルト設定を用いSPAdes 3.1.1 (Bankevitch et al. 2012 J Comput Biol. 19(5):455-77, PMID: 22506599)で構築された。全203種類の分離株は、ヒト血液からのMRSAであり、2009年および2010年に分離された。第2のリポジトリには、欧州での黄色ブドウ球菌の遺伝的多様性を記述する研究からのデータが含まれていた(例えばSangerウェブサイトのsanger.ac.uk/resources/downloads/bacteria/staphylococcus aureus.htmlのワールドワイドウェブを参照のこと)。これらの欧州分離株の収集および分類は、Grundmannおよび同僚らによる2つの研究において記述されている(Grundmann et al. 2010 PLoS Med. 7(1): e1000215, PMID20084094; Grundmann et al. 2014 Euro Surveill. 19(49). pii: 20987, PMID25523972)。第1の研究では、2006年および2007年に欧州26ヶ国における450箇所の病院からMSSAおよびMRSA分離株が収集された。これらの分離株のうち、90.1%が血液から分離された。第2の研究では、2011年に欧州25ヶ国における453箇所の病院からMSSAおよびMRSA分離株が収集された。これらの分離株は、黄色ブドウ球菌血流感染症を有する対象に由来していた。Sangerウェブサイト上で使用可能なWGSデータは、上記の2つの研究からの589種類の黄色ブドウ球菌分離株の代表的選択物に対応している。これらの分離株のペアエンドイルミナリードは、26AUG2015にダウンロードされた。リードは、Nesoniツールセット0.131を用いて品質フィルタリングされた(例えばgithub.com/Victorian-Bioinformatics-Consortium/nesoniを参照のこと)。低品質であいまいな塩基とアダプター配列のクリッピングを含むデフォルト設定が用いられた。51 bpより短いリードおよびそのペアのリードは破棄された。品質フィルタリングされたリードは、「ケアフル」オプションならびにk-mer値27、37、および47を用い、SPAdes 3.6.0でアセンブルされた。
【0361】
3. インシリコマルチローカス配列タイピング(MLST)
黄色ブドウ球菌に使用可能なMLSTスキームを用いて黄色ブドウ球菌WGSアセンブリを分類した。対立遺伝子は、完全なBLASTマッチに基づいて分類された。
【0362】
4. 遺伝子予測および注釈
Prokka 1.11 (例えばgithub.com/tseemann/prokka参照)を用いて遺伝子を予測し、WGSアセンブリに注釈を付けた。Coa (「ブドウ球菌コアグラーゼ」として注釈を付けた)タンパク質配列をProkka注釈から抽出した。完全長Coa配列は、N末端3アミノ酸ストレッチ「MKK」およびC末端3アミノ酸ストレッチ「VTK」を含むそれらのCoa配列として定義された。特定のCoa集合内のCoa配列変異の評価は、CD-HIT 4.6 (bioinformatics.org/cd-hit/のワールドワイドウェブ上に記述されている)を用いて判定された。CD-HITは、冗長性なし(オプション: -t 0)を可能にする100%同一性クラスタリング(オプション: -c 1.0)を用いおよび最も正確なクラスタリングアプローチ(オプション: -g 1)を用い実行された。
【0363】
C. 結果:
1. 分子疫学
分子疫学データの詳細な分析を用いてUSA、欧州およびアジアにおける優性の黄色ブドウ球菌系列を同定した。
【0364】
a. USA
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症に関する新興感染症プログラムネットワークの一環としてActive Bacterial Core Surveillance (ABCs)により報告された有病率データは、MRSAマルチローカス配列型ST5 (USA100)およびST8 (USA300)が主として、USAの病院(HA)および地域社会(CA)の設定で侵襲性MRSA感染症に関連していることを実証している。
【0365】
b. EU
2006年および2011年に実施された大規模な欧州サーベイランス研究(Grundmann et al. 2010 PLoS Med. 7(1): e1000215, PMID20084094; Grundmann et al. 2014 Euro Surveill. 19(49). pii: 20987, PMID25523972)に基づき、本発明者らは、1990年代初めに英国で最初に検出されたST22 (すなわちEMRSA-15)を、欧州全域の医療の場の全体を通して優性のクローンと同定した。他の重要な欧州クローンは、ST8 = CC8 (USA300)、ST5、ST125、ST225 = CC5 (USA100)、ST30、およびST45である。
【0366】
c. アジア
近年のいくつかの総説では、MRSA株の有病率、クローン構造および抗生物質耐性プロファイルに重点を置いて、アジアの医療施設および地域社会の両方における黄色ブドウ球菌の疫学が広範に取り上げられている(Chen and Huang, 2014, Clin Microbiol Infection PMID: 24888414 and Chuang and Huang, 2013, Lancet Infect Disease PMID:23827369)。2つの優性のHA-MRSAクローン、すなわちST239およびST5がアジア全域に広がっている。
【0367】
結論として、本発明者らは、ST5、ST8、ST22、ST30、ST45、およびST239に対応する、米国、欧州、およびアジアにおける6つの優性の臨床的に関連性のある黄色ブドウ球菌系列(または配列型, ST)を同定した。
【0368】
2. 黄色ブドウ球菌全ゲノム配列
4512黄色ブドウ球菌WGSアセンブリプロジェクトはGenBankにおいて使用可能であった。使用可能な刊行物およびメタデータに基づき、最初の選択が行われ、それによって全ての非ヒト分離株および十分なメタデータのない分離株が廃棄された。関連した刊行物による分離株は、多くの場合よく特徴決定された参照分離株であるため、とにかく保管された。最初のスクリーニングにより、関連する刊行物による166種類を含む2177種類の関連する分離株が得られた。GenBankおよびPubMedでのさらなる検索により、残り2011種類の分離株のなかで、1951株は配列決定プロジェクト/研究に手動で関連付けられることが示された。最後に、集合は2つの集合に分けられた: 最初のものは一次的な関心対象であり、1043種類の最近(1995年以降)の臨床ヒト分離株を含み、もう一方のものは二次的な関心対象であり、1134種類の古い(1995年以前からの)および/または非臨床分離株(例えば目、咽喉、鼻孔、皮膚、便、家庭の表面などからの)を含む。一次集合には、(i) 2009年および2010年より英国からのMRSA血液分離株を含むBSAC集合の203個のWGSアセンブリ、ならびに(ii) 2006年および2011年より欧州からのMRSAおよびMSSA血液分離株を含むGrundmann集合の376個のアセンブルされたゲノムが補充された。要約すると、本発明者らの最終的な一次WGS集合は、1043 (GenBank) + 203 (BSAC) + 376 (Grundmann) = 1622個のWGSアセンブリからなっていた。本発明者らの最終的な二次集合は1134個のWGSアセンブリ(GenBank)からなっていた。
【0369】
3. MLSTプロファイリング
インシリコでの最終的な一次WGS集合(n=1622ゲノム)のMLSTプロファイリングにより、全6種類の優性系列が以下の量: ST5 (n=540)、ST8 (n=84)、ST22 (n=205)、ST30 (n=38)、ST45 (n=60)、ST239 (n=17)で存在していることが示された。インシリコでの最終的な二次WGS集合(n=1134ゲノム)のMLSTプロファイリングにより、全6種類の優性系列が以下の量: ST5 (n=493)、ST8 (n=252)、ST22 (n=2)、ST30 (n=5)、ST45 (n=17)、ST239 (n=7)で存在していることが示された。
【0370】
4. 完全長Coa配列の同定
6種類の優性の黄色ブドウ球菌系列に属するWGSアセンブリにおけるCoa配列の同定により、これらの分離株の大部分が、N末端の3アミノ酸ストレッチ「MKK」およびC末端の3アミノ酸ストレッチ「VTK」を含む完全長Coaを有することが示された。一次WGS集合内で、完全長Coaを有する分離株の割合は、82% (ST239)から98% (ST8)の範囲であった(表1)。二次集合内で、完全長Coaを有する分離株の割合は、0% (ST22)から100% (ST8およびST239)の範囲であった(表2)。
【0371】
(表1)一次WGS集合中の6種類の優性の黄色ブドウ球菌系列における完全長Coaの同定
【0372】
(表2)二次WGS集合中の6種類の優性の黄色ブドウ球菌系列における完全長Coaの同定
【0373】
5. Coa配列変異
優性の黄色ブドウ球菌系列内のCoa配列変異を評価するために、本発明者らは、一次集合から対応する完全長Coa配列を全て回収した。一次集合中のWGSアセンブリ(およびそれゆえ完全長Coa)の数はST30およびST239 (すなわち両方ともn = 50未満)に限られていたので、本発明者らはまた、二次集合中に見出された完全長Coa配列もこれらのSTに用いた。
【0374】
a. ST5
ST5分離株において同定された457個の完全長Coa配列の配列分析により、計42個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで24個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。別の5つの独特な配列は2回見出された(すなわち各1つが2つの分離株において見出された)。残る13個の独特な配列のうち、3つの最も優性なものが191個、85個、および59個の分離株において見出された。したがって、3つの最も優性のCoa配列は、ST5における完全長Coa配列の73% (すなわち457のうち191個 + 85個 + 59個 = 335個)に当たった。参照分離株N315およびMu50はともに、ST5内に見出される二番目に最も優性のCoaを含む。3つの優性のST5 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。対応する配列が見出される参照分離株は、配列見出しの括弧内に与えられる。
【0375】
b. ST8
ST8分離株において同定された82個の完全長Coa配列の配列分析により、計6個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで2個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。別の2つの独特な配列は2回見出された(すなわち各1つが2つの分離株において見出された)。残る2個の独特な配列は、最も優性なものであり、57個および19個の分離株において見出された。したがって、2つの最も優性のCoa配列は、ST8における完全長Coa配列の93% (すなわち82個のうち57個 + 19個 = 76個)に当たった。参照分離株NewmanおよびUSA300は、それぞれST8内で見出される最も優性のCoaおよび二番目に最も優性のCoaを含む。2つの優性のST8 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。対応する配列が見出される参照分離株は、配列見出しの括弧内に与えられる。
【0376】
c. ST22
ST22分離株において同定された165個の完全長Coa配列の配列分析により、計25個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで17個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。別の3つの独特な配列は3回見出された(すなわち各1つが3つの分離株において見出された)。残る5個の独特な配列のうちで、3つの最も優性のCoa配列が123個、8個、および5個の分離株において見出された。したがって、3つの最も優性のCoa配列は、ST22における完全長Coa配列の82% (すなわち165のうち123個 + 8個 + 5個 = 136個)に当たった。3つの優性のST22 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。
【0377】
d. ST30
ST30分離株において同定された41個の完全長Coa配列の配列分析により、計9個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで6個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。残る3個の独特な配列は、最も優性なものであり、27個、5個および3個の分離株において見出された。したがって、3つの最も優性のCoa配列は、ST30における完全長Coa配列の85% (すなわち41個のうち27個 + 5個 + 3個 = 35個)に当たった。ST30分離株ではなくST36分離株(ST30の単一遺伝子座変種)である参照分離株MRSA252は、ST30内で見出される最も優性のCoaを含む。ST30分離株ではなくST239分離株である参照分離株85/2082は、ST30内で見出された二番目に最も優性のCoaを含む(このCoaはST239内の最も優性のCoaと同一であることが分かった: 以下参照)。3つの優性のST30 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。対応する配列が見出される参照分離株は、配列見出しの括弧内に与えられる。
【0378】
e. ST45
ST45分離株において同定された57個の完全長Coa配列の配列分析により、計19個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで12個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。別の2つの独特な配列は2回見出された(すなわち各1つが2つの分離株において見出された)。残る5個の独特な配列のうち、3つの最も優性なものが16個、15個、および4個の分離株において見出された。したがって、3つの最も優性のCoa配列は、ST45における完全長Coa配列の61% (すなわち57のうち16個 + 15個 + 4個 = 35個)に当たった。参照分離株WISは、ST45内に見出される二番目に最も優性のCoaを含む。3つの優性のST45 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。対応する配列が見出される参照分離株は、配列見出しの括弧内に与えられる。
【0379】
f. ST239
ST239分離株において同定された21個の完全長Coa配列の配列分析により、計7個の独特な配列が明らかにされ、そのうちで4個は1回見出された(すなわち単一の分離株中に各1つ)。残る3個の独特な配列は、最も優性なものであり、10個、4個および3個の分離株において見出された。したがって、3つの最も優性のCoa配列は、ST239における完全長Coa配列の81% (すなわち21個のうち10個 + 4 + 3個 = 17個)に当たった。参照分離株85/2082は、ST30内の二番目に最も優性のCoaと同一であるST239内に見出される最も優性のCoaを含む。3つの優性のST239 Coa配列を、最も優性なものから最も優性でないものの順に、fasta形式で以下に列挙する。Rドメインには下線が引かれている。対応する配列が見出される参照分離株は、配列見出しの括弧内に与えられる。
【0380】
6. コンセンサスRリピート配列の同定
Coa Rドメインは、1つからいくつかの27アミノ酸のタンデムリピート(Rリピート)からなる。侵襲性黄色ブドウ球菌株のコンセンサスRリピートを同定するために、全ての独特なRリピート配列を上記のRドメイン配列(すなわちSEQ ID NO: 39~55)から抽出し、20配列のセットを得、これを手動で整列させた。このアライメントに基づいて90%のコンセンサスRリピート配列を定義した(表3)。
【0381】
(表3)6種類の優性黄色ブドウ球菌系列における90%コンセンサスRリピートの同定
【0382】
D. 結論:
ST5 (USA100)、ST8 (USA300)、ST22、およびST239は、USA、欧州およびアジアにおいて見出される優性のMRSAクローンであることが同定された。侵襲性感染症に関連した他の関連性のあるMSSA黄色ブドウ球菌クローンは、いくつかのEU加盟国において主にまん延しているように考えられるST30およびST45である。各系列について、本発明者らは、ワクチン組成物において用いられる臨床的に関連性のある黄色ブドウ球菌株から代表的なRドメインを選択するために使用できる、最も優性の2つまたは3つの完全長Coa配列を同定した。
【0383】
実施例3
ブドウ球菌USA300LAC由来のコアグラーゼタンパク質のRドメインサブユニット(SEQ ID NO:1)を含むポリペプチドを、精製後に除去されたN末端His-SUMOタグとともに大腸菌において組換え産生した。Rドメインは、完全長の成熟コアグラーゼタンパク質のアミノ酸位置番号470~583として定義され、発現されたRドメインサブユニットは、タグ除去後、完全長タンパク質に存在するものと変わりがなかった。精製されたRドメインサブユニットの配列は
であったが、これはSEQ ID NO:43および89において定義されるRドメインを含む。
【0384】
抗体は、水酸化アルミニウムアジュバントに吸着された組換えRドメイン100 μgの3回の筋肉内投薬によるNew Zealand Whiteウサギの免疫付与によって産生された。用量は3週間離して投与され、最後の用量から3週間後に最終的な採血を行った。総IgGは、プロテインG精製を用いて血清から得られ、PBS中に貯蔵された。
【0385】
以前に記述されているように(Thomer L. et al., J Exp Med. 2016 Mar 7;213(3):293-301)、黄色ブドウ球菌株USA300LACでマウス攻撃試験を行った。
【0386】
全血死滅アッセイ法(WBKA)では、細菌を死滅する新鮮血液の能力を測定する。黄色ブドウ球菌の場合、死滅には、抗体および補体タンパク質による細菌のオプソニン化、その後の食作用とそれに伴う死滅を要する。追加の抗体を血液に補充することにより、オプソニン化の程度を増大させるか、または食作用を妨げるブドウ球菌タンパク質の活性を阻害することによって死滅を改善する抗体の能力が試験される。WBKAは、健常ヒトドナー由来の新鮮な(1時間未満の)ヘパリン化血液で行った。黄色ブドウ球菌株USA300LACを初期対数期まで増殖させ、5 μg/mLの精製IgGまたはPBSの存在下において5×105 CFU/mLで健常ドナー血液に添加した。食作用による死滅を阻害するために、サイトカラシンDをコントロールチューブに添加した。60分のインキュベーション後、以前に記述されたようにコロニーカウントを決定した(Thomer L. et al., J Exp Med. 2016 Mar 7;213(3):293-301)。時間 = 60分での細菌の生存率は、時間 = 0分で測定した細菌の数に対して算出した。
【0387】
図9に示されるように、抗RドメインIgGは、ヒト全血による黄色ブドウ球菌のオプソニン食作用による死滅を増強する。精製されたウサギ抗RドメインIgGを、ヒト全血における食作用によって黄色ブドウ球菌の死滅を誘導する能力について試験した。2人のドナーからの血液を独立して試験した。両方の血液ドナーで、食作用阻害剤であるサイトカラシンDを添加すると、細菌の生存性が増大し、ドナーの血液は黄色ブドウ球菌の食作用による死滅が既に可能であることが示された。抗RドメインIgGの添加は、PBS対照と比較して両ドナーの血液中の細菌の生存を有意に減少させ、抗RドメインIgGがヒト細胞による黄色ブドウ球菌のオプソニン食作用による死滅を増強することが示された。
【0388】
図10に示されるように、抗RドメインIgGは、黄色ブドウ球菌致死攻撃モデルにおけるマウスの生存を改善する。黄色ブドウ球菌による致死的感染の前に、マウスを抗RドメインIgGまたはPBS対照で受動免疫した。抗RドメインIgGを与えられたマウスは、PBSのみを与えられたマウスと比較して有意に改善された生存を示した(P<0.0005)。
【0389】
本明細書において開示され主張される方法の全ては、本開示に照らして過度の実験なしになされ実行されることができる。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して記述されているが、当業者には、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく本明細書において記述される方法および方法の段階においてまたは段階の順序において変形が適用されうることが明らかであろう。より具体的には、化学的にも生理学的にも関連するある種の作用物質は、本明細書において記述される作用物質に置き換えられうるが、同じまたは同様の結果が達成されることは明らかであろう。当業者に明らかなそのような類似の置換および修飾は全て、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨、範囲および概念の範囲内であるとみなされる。本出願において引用される全ての参照文献は、全ての目的のために参照により具体的に組み入れられる。
【0390】
参照文献
以下の参照文献は、本明細書に記載のものを補完する例示的な手順のまたはその他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に特に組み入れられる。
【配列表】