(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】回転伝達ディスク
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20220804BHJP
F16H 55/30 20060101ALI20220804BHJP
F16D 13/64 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
F16D65/12 Q
F16D65/12 R
F16D65/12 A
F16H55/30 Z
F16D13/64 Z
(21)【出願番号】P 2019054374
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2021-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】305032254
【氏名又は名称】サンスター技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】久保田 哲史
(72)【発明者】
【氏名】村山 友貴
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-250330(JP,A)
【文献】国際公開第2005/040631(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0223931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 49/00-71/04
F16H 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転伝達ディスクであって、
回転伝達時に荷重が作用する外周部と、
前記外周部の内側に形成された中央開口部と、
前記回転伝達ディスクを回転体に取り付けるため前記外周部から前記中央開口部内へと突出する位置に形成された複数の取り付け孔と、
を備え、
隣接する2つの取り付け孔が前記回転伝達ディスクの中心に対してなす分割角度の各々の範囲において、前記分割角度を所定の角度比率で内分するように径方向に延びる内分直線と荷重がかけられる前記外周部の半径領域内の一つの半径を有する内周線との交点を荷重点として、当該荷重点から前記分割角度をなす一方の取り付け孔へと延在する第1の桟部と、当該荷重点から前記分割角度をなす他方の取り付け孔へと延在する第2の桟部と、が形成されており、
前記第1の桟部と、隣接する分割角度の範囲内にある前記第2の桟部とは互いに交差し、この交差した領域に前記取り付け孔が各々位置している、
回転伝達ディスク。
【請求項2】
前記交差した領域は、複数の弧が複合的に接続されて形成された部分を有する、請求項1に記載の回転伝達ディスク。
【請求項3】
前記第1の桟部及び前記第2の桟部と前記外周部との接続部分には、凹状の弧の部分が形成されている、請求項1又は2に記載の回転伝達ディスク。
【請求項4】
前記凹状の弧は、複数の弧が複合的に接続されて形成されている、請求項3に記載の回転伝達ディスク。
【請求項5】
前記弧の曲率半径は、前記外周部の内周円の半径よりも小さい、請求項2乃至4のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項6】
前記分割角度の各々は実質的に等しい等分角度である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項7】
前記複数の取り付け孔は、前記回転伝達ディスクの中心から径方向に等距離の位置に形成されている、請求項1から6のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項8】
前記交差した領域には、前記第1の桟部及び前記第2の桟部のみが交差する、請求項1から7のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項9】
交差する前記第1の桟部及び前記第2の桟部と、前記外周部の円とにより、閉じた開口部が形成される、請求項1から8のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項10】
前記所定の角度比率は1:2~1:4である、請求項1から9のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項11】
前記所定の角度比率は1:3である、請求項10に記載の回転伝達ディスク。
【請求項12】
前記回転伝達ディスクは、前記所定の角度比率が1:1と異なるとき、前記第1の桟部及び前記第2の桟部のうち桟の長さが短い方が回転を先導して回転するように前記回転体に取り付けられる、請求項1から11のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項13】
全ての前記第1の桟部及び前記第2の桟部は、前記外周部と一体に成形されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項14】
全ての前記第1の桟部及び前記第2の桟部は一体に成形された桟内周部を形成しており、該桟内周部は、前記外周部に連結手段により連結されている、請求項1から12のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項15】
前記回転伝達ディスクはブレーキディスクである、請求項1から14のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項16】
前記外周部はブレーキパッドが適用される面を有する、請求項15に記載の回転伝達ディスク。
【請求項17】
前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記ブレーキパッドが当接する領域である、請求項16に記載の回転伝達ディスク。
【請求項18】
前記ブレーキディスクの前記外周部は波形部を有する、請求項15から17のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項19】
前記回転伝達ディスクはスプロケットである、請求項1から13のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項20】
前記外周部には、スプロケット歯が形成されている、請求項19に記載の回転伝達ディスク。
【請求項21】
前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記スプロケット歯に張設されたチェーンにより荷重が作用する領域である、請求項20に記載の回転伝達ディスク。
【請求項22】
前記回転伝達ディスクはクラッチである、請求項1から13のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【請求項23】
前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記クラッチに相対する部材が当接する領域である、請求項22に記載の回転伝達ディスク。
【請求項24】
前記外周部には、重量軽減用の孔が複数形成されている、請求項1から18のいずれか1項に記載の回転伝達ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転伝達ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキディスクやスプロケット等の回転伝達ディスクの多くは、強度を確保しつつ軽量化を達成することが共通して要求されている。
しかし、ブレーキディスクやスプロケットが使用される機種は、それぞれ異なるレイアウトにより構成されており、また、それらの取り付け対象部品となるホイールに様々な仕様が存在するなど、使用機種や相手部品に応じて製品緒元が大きく異なっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記事実に鑑みなされたもので、様々な使用条件の下で、強度を確保しつつ軽量化を達成することを可能とする回転伝達ディスクを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、本発明の回転伝達ディスクは、回転伝達時に荷重が作用する外周部と、前記外周部の内側に形成された中央開口部と、前記回転伝達ディスクを回転体に取り付けるため前記外周部から前記中央開口部内へと突出する位置に形成された複数の取り付け孔と、を備え、隣接する2つの取り付け孔が前記回転伝達ディスクの中心に対してなす分割角度の各々の範囲において、前記分割角度を所定の角度比率で内分するように径方向に延びる内分直線と荷重がかけられる前記外周部の半径領域内の一つの半径を有する内周線との交点を荷重点として、当該荷重点から前記分割角度をなす一方の取り付け孔へと延在する第1の桟部と、当該荷重点から前記分割角度をなす他方の取り付け孔へと延在する第2の桟部と、が形成されており、前記第1の桟部と、隣接する分割角度の範囲内にある前記第2の桟部とは互いに交差し、この交差した領域に前記取り付け孔が各々位置している。
【0005】
好ましい前記交差した領域は、複数の弧が複合的に接続されて形成された部分を有する。好ましくは、前記第1の桟部及び前記第2の桟部と前記外周部との接続部分には、凹状の弧の部分が形成されており、また前記凹状の弧は、複数の弧が複合的に接続されて形成されている。より好ましくは、前記弧の曲率半径は、前記外周部の内周円の半径よりも小さい。
【0006】
前記分割角度の各々は実質的に等しい等分角度であってもよい。また、前記複数の取り付け孔は、前記回転伝達ディスクの中心から径方向に等距離の位置に形成されていてもよい。
【0007】
好ましくは、前記交差した領域には、前記第1の桟部及び前記第2の桟部のみが交差する。また、交差する前記第1の桟部及び前記第2の桟部と、前記外周部の円とにより、閉じた開口部が形成される。
【0008】
好ましくは、前記所定の角度比率は1:2~1:4である。さらに好ましくは、前記所定の角度比率は1:3である。
前記回転伝達ディスクは、前記所定の角度比率が1:1と異なるとき、前記第1の桟部及び前記第2の桟部のうち桟の長さが短い方が回転を先導して回転するように前記回転体に取り付けられる。
【0009】
全ての前記第1の桟部及び前記第2の桟部は、前記外周部と一体に成形されていてもよい。或いは、全ての前記第1の桟部及び前記第2の桟部は一体に成形された桟内周部を形成しており、該桟内周部は、前記外周部に連結手段により連結されていてもよい。
【0010】
前記回転伝達ディスクの一つの態様はブレーキディスクである。この場合、例えば前記外周部はブレーキパッドが適用される面を有する。また、前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記ブレーキパッドが当接する領域である。好ましくは、前記ブレーキディスクの前記外周部は波形部を有する。
【0011】
前記回転伝達ディスクの別の態様はスプロケットである。この場合、前記外周部には、スプロケット歯が形成されている。また、前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記スプロケット歯に張設されたチェーンにより荷重が作用する領域である。
【0012】
前記回転伝達ディスクのさらに別の態様はクラッチである。この場合、前記荷重がかけられる前記外周部の半径領域は、前記クラッチに相対する部材が当接する領域である。
前記外周部には、重量軽減用の孔が複数形成されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転伝達ディスク(ブレーキディスク)の正面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの背面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの斜視図である。
【
図4】
図4は、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの側面図である。
【
図5】
図5は、
図1のA-A線に沿って取られた、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの断面図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの隣接する取り付け孔の中心角並びに第1及び第2の桟部の角度比率を説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:1にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7B】
図7Bは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:2にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7C】
図7Cは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:3にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7D】
図7Dは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:4にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7E】
図7Eは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:5にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7F】
図7Fは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:6にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図7G】
図7Gは、第1の実施形態に係る回転伝達ディスクの角度比率を1:7にしたときの応力分布、重量比及び応力の解析結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第2の実施形態に係る回転伝達ディスク(ブレーキディスク)の正面図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態に係る回転伝達ディスクの背面図である。
【
図10】
図10は、第2の実施形態に係る回転伝達ディスクの斜視図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係る回転伝達ディスクの側面図(
図8のA’―A’線に沿う方向から見たときの側面図)である。
【
図12】
図12は、第2の実施形態に係る回転伝達ディスクの側面図(
図8のA’―A’線に垂直な方向から見たときの側面図)である。
【
図13】
図13は、
図1のA’―A’線に沿って取られた、第2の実施形態に係る回転伝達ディスクの断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の第3の実施形態に係る回転伝達ディスク(スプロケット)の正面図である。
【
図15】
図15は、第3の実施形態に係る回転伝達ディスクの背面図である。
【
図16】
図16は、第3の実施形態に係る回転伝達ディスクの斜視図である。
【
図17】
図17は、第3の実施形態に係る回転伝達ディスクの側面図である。
【
図18】
図18は、
図14のB―B線に沿って取られた、第3の実施形態に係る回転伝達ディスクの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図1から
図5には、本発明の第1の実施形態に係る回転伝達ディスク1が示されている。この回転伝達ディスク1は、自転車や自動二輪車等で用いられるブレーキディスクとして実現したものである。回転伝達ディスク1の材料として、例えばアルミニウムや炭素鋼等を用いてもよいが、これに限定されるものではない。
【0015】
図1から
図3に最も良く示されているように、回転伝達ディスク1は、回転伝達時に荷重が作用する外周部2と、外周部2の内側に形成された中央開口部3と、回転伝達ディスク1をホイール等の回転体(図示せず)に取り付けるため外周部2から中央開口部3内へと突出する位置に形成された複数の取り付け孔5と、を備えている。
【0016】
図1から
図5の例では、取り付け孔5は、6個設けられている。図の例では、6個の取り付け孔5は、隣接する2つの取り付け孔5,5が回転伝達ディスクの中心に対してなす中心角(分割角度)が実質的に等しい等分角度となるように周方向に分布している。取り付け孔5が6個の場合、等分角度は、360°/6=60°となる。取り付け孔5の配置は、回転伝達ディスク1が取り付けられるホイール等の回転体の仕様に応じて決定されるため、必ずしも分割角度の各々が等しくなる等分角度であるとは限らない。例えば、ホイールの仕様に応じて、分割角度が50°、55°、60°、65°,...というように不均等(一部均等を含んでもよい)であっても本発明を適用することができる。
【0017】
また、
図1から
図5の例では、取り付け孔5は、回転伝達ディスクの中心Oから径方向に等距離の位置に形成されている。しかし、この点に関しても、取り付け孔5の配置は、ホイール等の仕様に応じて決定されるため、必ずしも取り付け孔5の中心Oからの径方向距離が等しくなるとは限らず、異なっていてもよく(一部等半径を含んでもよい)、この場合でも。本発明を適用することができる。
【0018】
各々の取り付け孔5は、外周部2から中央開口部3内へと径方向(ディスク中心Oから半径方向に延びる方向)に対して傾斜した角度で延在する第1の桟部6と、外周部2から中央開口部3内へと径方向に対して傾斜した角度で延在する第2の桟部7とが交差した領域8に形成されている。第1の桟部6、第2の桟部7及び交差した領域8は、外周部2と共に周開口部9を各々形成している。交差した領域8には、第1の桟部6及び第2の桟部7のみが交差しており、これら桟部以外には、交差した領域8に交差する部分は存在していない。
【0019】
外周部2の外縁には、凸凹の繰り返しからなる花びら状の波形部10が形成されており、外周部2には、重量軽減用の孔11が形成されている。外周部2は、波形部10の凸部分を含めて、図示しないブレーキパッドが適用可能である面を有する。例えばブレーキパッドは一対のパッドで外周部2を表面及び裏面の両面から当接することによって回転伝達ディスクにブレーキ力を印可してもよい。よって、回転伝達時、すなわちブレーキパッドが外周部2に当接してブレーキ力が印可されたとき、回転伝達ディスク1の回転方向とは逆方向に外周部2に直接荷重がかけられる。また、花びら状の波形部10により、ブレーキパッドの摩耗により生じた微量粉末を除去することが可能となる。なお、本発明は、波形部10を有するブレーキディスクに限定されるものではなく、波形部を有していない円状のブレーキディスク等にも適用可能であることはいうまでもない。
【0020】
図4の側面図から明らかなように、回転伝達ディスク1は、外周部2、第1の桟部6、第2の桟部7、交差した領域8及び波形部10が所定の厚さ範囲に収まるように、プレート状に形成されている。
【0021】
回転伝達ディスク1は、
図2に示される裏側面をホイールに押し当て、
図1に示される表側面から取り付け孔5にボルトを通してホイールのネジ孔に螺合することによって、ホイールに取り付けられる。そのため、
図1、
図2及び
図5に示されるように、取り付け孔5は、表側面において、ボルトの頭が着座できるように、皿状に凹んだ部分12(
図3)を有する。
【0022】
次に、
図6を用いて、第1の桟部6及び第2の桟部7の角度比率、ひいては、これら桟部の径方向に対する傾斜角度を決定する方法について説明する。
図6(
図2に示される裏面側から見た図であり、波形部10が図示を省略されている)には、回転伝達ディスク1の取り付け孔のうち隣接する2つの取り付け孔5,5の中心角である分割角度θ
dが示されている。分割角度θ
dは、ディスク中心Oから隣接する2つの取り付け孔5,5の中心を各々通過する直線P、Qがなす角度であり、上述のように、取り付け孔5が6個であり、かつ、等分角度の場合には、θ
d=60°となる。
【0023】
ここで分割角度θdを所定の比率θ1:θ2で内分するように中心Oから延びる内分直線Rを考える。このとき、内分直線Rが、回転伝達ディスク1の荷重がかけられる半径領域の一つの半径の内周線Uと交わる位置を荷重点Lとする。回転伝達ディスク1の荷重がかけられる半径領域は、該回転伝達ディスク1がブレーキディスクの場合、外周部2、すなわちブレーキパッドが適用されて荷重が直接伝達される半径領域となり、かかる半径領域内にある一つの半径を選択し、該半径を有する内周線Uと内分直線Rとの交点を荷重点Lとすることができる。例えば当該半径領域は、波形部10の外周半径から外周部2の内周円Vの半径より所定長さ(例えば1.5mm)大きい半径を有する領域である。最大の荷重がかけられると推定される位置(例えばブレーキパッドの重心に相当する位置)を特定し、該最大荷重を与える位置の半径を有する内周線と内分直線Rとの交点を荷重点Lとしてもよい。
【0024】
荷重点Lから当該分割角度を決めている2つの取り付け孔5,5へと延在する2つの直線S、Tを決め、これら直線S、Tに沿った方向に外周部2から中央開口3へと延在するように第1の桟部6及び第2の桟部7の傾斜角度を決定することができる。
【0025】
すなわち、ホイールの仕様に応じて複数の取り付け孔5の位置が与えられたとき、分割角度θdを内分する所定の比率θ1:θ2を適宜調節して回転伝達ディスク1を構成することによって、中央開口部3や周開口部9の存在によって軽量化を達成しつつ、応力を適宜に分散させることが可能となり、よってディスク強度を維持することが可能となる。
【0026】
なお、分割角度の範囲P~Qは、当該範囲を反時計周りに回転させたP’~Q’で示されるように、1つの取り付け孔5を支持する第1の桟部6及び第2の桟部7を網羅する範囲となる。
【0027】
図6の例では、θ
1=20°θ
2=40°であり、所定の比率は1:2となる。回転伝達ディスク1は、第1の桟部6及び第2の桟部7のうち桟の長さが短い方、すなわち
図6の例では第1の桟部6が回転を先導して回転する方向が正方向(すなわち、ブレーキ力が印可されるのとは逆の方向)となるようにホイールに取り付けられる。
図2、6に示されるように、回転伝達ディスク1を裏面側から見た場合には、正方向は反時計回りであり、
図1に示されるように、回転伝達ディスク1を表面側から見た場合には、正方向は時計回りとなる。(ただし、所定の角度比率が1:1となるとき、第1の桟部6及び第2の桟部7は等しい長さとなり、径方向に対して等しい傾斜角度で各々延在するため、いずれの回転方向も正の回転方向として回転伝達ディスク1を回転させてもよい。ただし、第1及び第2の桟部の太さが異なる場合、所定の角度比率1:1でも太い方の桟部が先導する方向を正方向にする)
また、より好ましくは、
図6に示されるように、交差した領域8は、複数の弧20、21、22、23、24が複合的に接続されて形成された部分を有するのがよい。ここで、弧20、23、24は凸状の弧であり、弧21、22は凹状の弧である。また好ましくは、第1の桟部6及び第2の桟部7と外周部2との接続部分には、凹状の弧の部分25、26、27、28が形成されている。これらの弧21~28の曲率半径は、外周部2の内周円Vの半径よりも小さく形成されている。
【0028】
特に弧27、28を複数の弧で複合的に形成し、かつ、弧27、28の複合円の曲率半径が内周円Vの半径よりも小さくすることにより、応力集中を効果的に防止することが可能となる。
【0029】
このように弧を形成することによって、応力の局所的な集中を防止し、回転伝達ディスク1全体の強度を確保することが可能となる。
次に、所定の角度比率を様々に変えたときの各サンプルの応力及び重量の解析結果を、
図7A~Gを用いて説明する。
【0030】
図7A~Gにおいて、拘束条件として、取り付け孔5を完全に拘束し、荷重条件として、すべてのサンプルにおいて同一条件(半径位置、円周位置、入力荷重)にて負荷をかけるという解析条件で解析が行われた。また、サンプル条件として、形状緒元:外径、内径、板圧、取り付け孔(径、P.I.D、等分角度)、並びに、荷重部形状等は同一とし、第1及び第2の桟部の角度(θ
1、θ
2)のみを変えて解析が行われた。また、すべてのサンプルにおいて、取り付け孔が6個で等分角度θ
d=60°であり、等分角度をさらに等分(2~8等分)して、所定の角度比率θ
1:θ
2が1:1、1:2、1:3、...1:7の計7個のサンプルが用いられた。このうち角度比率θ
1:θ
2=1:1のサンプル(1)(
図7A)をベンチマークとした(角度比率θ
1:θ
2=1:1で正回転及び逆回転で応力結果が異なるのは第1及び第2の桟部の太さが異なるためである)。
【0031】
図7A~Gに示されるように、重量の点で、サンプル(1)に対して有意となるのが、θ
1:θ
2=1:2のサンプル(2)(
図7B)、θ
1:θ
2=1:3のサンプル(3)(
図7C)及びθ
1:θ
2=1:4のサンプル(4)(
図7D)であった。このうち共通部有無に依らず重量が最小となるのは、θ
1:θ
2=1:2のサンプル(2)(
図7B)であり、サンプル(3)、(4)(
図7C、
図7D)がこれに続く。また、正回転で最も低い局所的な応力の最大値(295Mpa)が確認されたのが、サンプル(3)(
図7C)であった。すなわち、局所的な応力の最大値が小さいため、ディスクの強度を確保できるものと推定される。このサンプル(3)の最小応力は、サンプル(1)で確認された最も低い応力(逆回転で292MPa)に近い値である。従って、サンプル(2)、(3)及び(4)は、重量軽減及び強度確保の点で好ましい実施例であると考えられる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、回転伝達ディスク1全体が一体に成形されていた。本発明の回転伝達ディスクは、これに限定されるものではなく、2つ以上の部品から構成することもできる。この例を第2の実施形態として
図8から
図13を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の第2の実施形態の構成要件については、第1の実施形態と同じ参照番号にbを附して詳細な説明を省略する。
【0032】
図8から
図13に示されるように、第2の実施形態に係る回転伝達ディスク1bは、外周部2bと桟内周部13とを備えており、桟内周部13は、外周部2bから中央開口部3bへと延びる複数のブリッジ部15と、ピン14を介して外周部2bと連結される。
【0033】
桟内周部13には、回転伝達ディスク1bの全ての第1の桟部6b及び第2の桟部7bが一体に成形されており、第1及び第2の桟部の交差した領域8bの各々には、取り付け孔5bが各々形成されている。なお、複数の取り付け孔5bの中には、中心Oからの距離が異なるものも含まれている。
【0034】
なお、第2の実施形態においても、複合した弧の部分20~24や凹状張り出し部25~27が形成されていてもよい。
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様の作用効果の他に、ホイールの仕様に応じて桟内周部13のみを交換するだけで対応できる回転伝達ディスクを提供することができる。或いはその逆に外周部2bのみを摩耗等により交換することもできる。
(第3の実施形態)
第1及び第2の実施形態は、本発明の回転伝達ディスクをブレーキディスクとして構成していた。第3の実施形態は、本発明の回転伝達ディスクをスプロケットとして構成したものであり、以下、第3の実施形態を
図14から
図18を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成要件については、第1の実施形態と同じ参照番号にcを附して詳細な説明を省略する。
【0035】
図14から
図18に示されるように、回転伝達ディスク1cは、外周部2cと、外周部2cの内側に形成された中央開口部3cと、回転伝達ディスク1をホイール等の回転体(図示せず)に取り付けるため外周部2cから中央開口部3c内へと突出する位置に形成された複数の取り付け孔5cと、を備えている。
図14から
図16に最も良く示されるように、第1の実施形態と同様に、第1の桟部6cと、隣接する分割角度の範囲内にある第2の桟部7cとは互いに交差し、この交差した領域8cに取り付け孔5cが各々位置している。第3の実施形態においても、第1の実施形態に関して
図6で説明したように、所定の角度比率に基づいて、第1の桟部6c及び第2の桟部7cが延在する各々の方向が定められている。また、第3の実施形態においても、複合した弧の部分20~24や凹状張り出し部25~27が形成されていてもよい。
【0036】
外周部2cには、スプロケット歯16が形成されており、スプロケット歯16には、無端回動のチェーン(図示せず)が張設される。よって、当該チェーンが張設される外周部2cの領域には荷重が作用し、荷重がかけられる外周部2cの半径領域が定まる。
【0037】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、軽量化と共に高い強度を達成したスプロケットを提供することができる。
第3の実施形態に係るスプロケットとしての回転伝達ディスク1cを自転車等に取り付けた場合、その対向する側に第1の実施形態或いは第2の実施形態に係るブレーキディスクとしての本発明の回転伝達ディスク1,1bを配置してもよい。勿論、本発明は、この応用例に限定されるものではない。
【0038】
以上が本発明の実施形態であるが、本発明は、上記例にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内において任意好適に変更可能である。
例えば、上記実施形態では、本発明の回転伝達ディスクをブレーキディスク若しくはスプロケットとして説明したが、本発明の回転伝達ディスクは、回転力を伝達することができる他の任意のディスク、一例として、クラッチ、又は、スプロケット以外のギア等にも適用可能である。
【0039】
本発明の回転伝達ディスクをクラッチとして構成する場合、外周部をクラッチ面を備えるように構成する。この場合、荷重がかけられる外周部2、2b、2cの半径領域は、当該クラッチに相対する部材が当接する領域である。
【0040】
また、取り付け孔の個数についても、上記実施形態では、6個の例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、回転伝達ディスクが取り付けられるホイール等に応じて、6個より少なくても或いは6個より多くてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1、1b、1c 回転伝達ディスク
2、2b、2c 外周部
3、3b、3c 中央開口部
5、5b、5c 取り付け孔
6、6b、6c 第1の桟部
7、7b、7c 第2の桟部
8、8b、8c 交差した領域
9、9b、9c 周開口部
10、10b 波形部
11、11b 重量軽減用の孔
12 皿状に凹んだ部分
13 桟内周部
14 ピン
15 ブリッジ部
16 スプロケット歯