(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】多段式変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 9/24 20060101AFI20220804BHJP
【FI】
F16H9/24
(21)【出願番号】P 2019221672
(22)【出願日】2019-11-20
【審査請求日】2021-09-08
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519437892
【氏名又は名称】滋野 靖穂
(72)【発明者】
【氏名】滋野 靖穂
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-513254(JP,A)
【文献】特表2008-540963(JP,A)
【文献】中国実用新案第205918855(CN,U)
【文献】中国実用新案第2656716(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項5】
分割したスプロケットを軸方向へ移動するための前記カムシフター(b-60)は、前記シフトプレート(b-50)の摺動面(b-51)を両面で挟みこむ面と、回転方向後方へ向かって両面に広がる螺旋状の摺動面(b-61)(b-62)を持ち、分割した移動中のスプロケットを一回転で駆動位置、又は、待機位置に移動可能にした特徴を持つ請求項1から4のいずれか記載の多段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
チエーンとスプロケットによる変速機であって、チエーンは直線的に駆動し、駆動力伝達中の変速を可能にすることに関する。
【背景技術】
【0002】
チエーンとスプロケットを用いた変速機では、自転車の外装式変速機があって、その優れた性能は世界的にも認められているが、軸方向へ弓なりに曲げて変速する構造上、高出力化に不利である。
【0003】
自動車の分野ではMT,AT,CVTなど様々な変速機が採用されているが、大型車や、大出力の自動車に変速段数の多いものが採用されている傾向であって、性能面から見たとき、より多くの変速段数を必要としているのは、出力の小さな側であるが、重量面、コスト面等で利用は進んでいないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大出力の自動車に使用されるATの緻密な制御は、複雑な構造、複雑な油圧回路、正確な制御などのため、開発にかかるコストが問題になっているといわれている。
低いコストと言われてきたCVTも、Vベルトと、それを挟む2組のプーリーによる変速の基本構造上の問題の改良を重ね、ベルトの改良、スリップロスの改善のための油圧の高圧化、その高圧に耐える部品の改良、省燃費のための正確な制御など改良を重ねているが、その開発コストと伝動効率が問題となっている。
AT,CVTなどの変速機の開発初期は、比較的小出力用として開発されたものが、次第に大出力用に進歩したのであって、エネルギーや環境問題やコストなど、さらなる進歩を求められる流れの中で、解決すべき方向は、低コスト化、小型化、軽量化、単純化の多段式変速機の開発であり、発明以来長い歴史の中で、動力伝達装置として進歩してきたチエーンとスプロケットは、自転車以外の大きな出力用変速機となり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
通常は、チエーンを直線的な駆動中に、スプロケットを取り換えるのは不可能と思えるが、その移動を可能にする手段として、スプロケットの全てを一枚の円盤から変速の位置関係を保った状態で切り出された構造とし、変速時の複雑な制御を必要とせず、駆動中の変速を可能にし、単純な構造による、低コストの省エネルギーな多段変速機とする。
【0008】
本考案では、軸(a-10)と一体に回転する1速スプロケット(a-20)と、近接して複数の貫通孔を持つガイドプレート(a-30)を有し、円周上で分割された2速スプロケット(b-20)と、円周上で分割された2速シフトプレート(b-50)が、ガイドプレート(a-30)を挟み複数のスライドピン(b-40)によって嵌合され、2速シフトプレート(b-50)を介し、カムシフター(b-60)によって軸方向への移動を可能にする特徴を持つ、チエーン及びスプロケットによる駆動中の変速を可能にすることを特徴とする多段式変速機である。
【発明の効果】
【0009】
軸と一体に回転する駆動位置の、低速側スプロケットに外接する高速側スプロケットを分割することによって、駆動力を維持したままでの変速を可能にし、変速時の回転を合わせるための操作や、クラッチや精緻な変速ためのコントロールを必要とせず、チエーンとスプロケットによる伝動効率の良い、低コストの多段式変速機が供給可能である。
【0010】
駆動軸と、被駆動軸の両軸に、変速用スプロケットを配置した場合、両軸の変速段数を掛け合わせた変速比となり、多段変速を可能とし、現在用いられているATの変速比幅の中で容易に変速段数を増すことができ、AT化によってその乗数の変速比の中から、燃費や走行状況に最も適した変速比を選択しながらの変速を可能とし、これまでのCVTに代わる省エネルギー変速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】 変速スプロケット及び、カムシフターの形状
【
図4】 カムシフター正面作動図(上部に部品形状)
【
図10】 減速時の側面図(減速時の変速ポイント)
図4から
図11の図中のハッチング部分は駆動位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
軸(a-10)には駆動位置に1速スプロケット(a-20)、近接してガイドプレート(a-30)を配置し、2速以上の全てのスプロケットは、1速時にはガイドプレート位置にあって、変速時は1速スプロケット(a-20)の駆動位置へ移動し一体に回転する。
【0013】
複数の貫通孔を持つガイドプレート(a-30)を有し、貫通孔を移動可能なスライドピン(b-40)によって、円周上で分割された2速スプロケット(b-20)と円周上で分割されたシフトプレート(b-50)が嵌合し、シフトプレート(b-50)の摺動面を挟むカムシフター(b-60)によって、軸方向の移動を可能にし、分割されたスプロケット(b-20)はガイドプレート(a-30)位置を待機位置とし、変速時は、カムシフター(b-60)によって駆動位置に、又は待機位置に移動するチエーン及びスプロケットによる多段式変速機。
【0014】
図4は本発明に係る実施例を示す。
本発明では、分割したスプロケットを一回転で軸方向の駆動位置に移動を可能にする仕組みとして、移動するスプロケット用カムシフターとシフトプレートを各変速段ごとに配置し、カムシフターは、移動するシフトプレートの摺動面を両面から挟む面と、回転方向後方に向かって両面に広がる螺旋状の摺動面を持つ構造とし、軸方向の移動と共に、螺旋状に広がるカムシフターの摺動面に回転中のシフトプレートの前部分割面の角部が滑り込み、一回転で移動を完了する構造としている。
【0015】
図5は本発明の実施例を示す。
チエーン(d-70)に干渉しない位置(駆動軸と被駆動軸の内側)を高速側スプロケットの軸方向への移動位置とし、2速スプロケット(b-20)の分割した一枚から駆動位置(a-20)へ移動し、軸(a-10)の回転とともに、残りの分割された2速スプロケット(b-20)の全てが駆動位置(a-20)に移動する。
【0016】
駆動位置(a-20)に移動した2速スプロケット(b-20)は、予め、駆動回転中のチエーン(d-70)のローラーと接合する位置に合わせて分割されていて、自動的にチエーン(d-70)と2速スプロケット(b-20)は噛み合い変速する。
【0017】
1速スプロケット(a-20)を除き、変速時に軸(a-10)方向の移動をする高速側スプロケットの全ては、内接及び外接するスプロケットとの回転方向の位置関係及び、分割位置が設定された構造としている。
【0018】
本変速機では、高速側スプロケットの全てが変速時の位置関係を保ち、順次送り出し受け戻す構造とし、1速スプロケット(a-20)に近接して複数の貫通孔を有するガイドプレート(a-30)を有し、待機位置として高速側スプロケットの全てを配置し,変速時は小径のスプロケット側から順次駆動位置に送り出され、又は、大径側スプロケットから順次前記ガイドプレート側へ受け戻す構造としている。
【0019】
駆動中の変速は、駆動軸の1速スプロケット(a-20)のローラー中心円(a-R)と被駆動軸に設置したスプロケットのローラー中心円(h-R)の接線(d-71)の移動によって変速する。
【0020】
図6図7は本発明の加速時の実施例を示す。
駆動軸の1速スプロケット(a-20)と、被駆動軸のスプロケット(h-90)にチエーン(b-70)をリンク状に掛け、緩みのない状態として張り渡すと、1速スプロケット(a-20)のローラー中心円(a-R)と、被駆動軸のスプロケット(h-90)のローラー中心円(h-R)を結ぶ接線(d-71)上に、チエーンのローラー中心(d-P)が一線に重なる。
【0021】
本変速機の変速は、1速スプロケット(a-20)のローラー中心円(a-R)と、被駆動軸(h-90)のスプロケットローラ中心円(h-R)の接線上のチエーンのローラー中心(d-P)と、駆動位置に一番目に軸方向移動した、2速スプロケット(b-20)の分割面の、回転方向側のローラー中心(b-AP)が合えば駆動中の変速が可能になる。
【0022】
2速スプロケット(b-20)の、回転方向側の分割部にあるローラー中心が接合位置(b-AP)となるのと同様に、軸方向へ移動するスプロケットの全ては、前記
【0021】
にある方式によって位置関係を確定し、円周方向、回転方向の位置関係をもって組み付けられている。
【0023】
図8は本発明の2速時の実施例を示す。
加速を優先する設計では、加速時の接合位置の精度は高く設定可能で、軸(a-10)の回転に従って1速スプロケット(a-20)のローラー中心円(a-R)の接線(d-71)から、2速スプロケット(b-20)のローラー中心円(b-R)へ、接線(d-72)が移動し軸(a-10)の回転とともに分割されたスプロケットが送り込まれるため、1回転で変速は完了する。
【0024】
図9図10図11は本発明の減速時の実施例を示す。
減速時の変速では、駆動位置の1速スプロケット(a-20)に外接している2速スプロケット(b-20)の分割した一枚が、ガイドプレート(a-30)方向へ移動し、駆動位置(a-20)の残りの分割した2速スプロケット(b-20)は、回転に従って、2速スプロケット(b-20)のローラー中心円(b-R)の接線(d-72)から、1速スプロケット(a-20)のローラー中心円(a-R)の接線(d-71)へ移動していく。
【0025】
従って、1速スプロケット(a-20)の接線(d-71)の延長線上(d-71x)で、外接する2速スプロケット(b-20)の回転方向の、後部断面にあるローラー中心(b-DP)と重なる位置が、1速(a-20)スプロケットのローラー中心円(a-R)の接線(d-71)への移動点となる。
【0026】
減速時の接線の移動点(b-DP)を基準として、チエーンのローラー中心間寸法(ピッチ)(d-P1)を用いて接合位置(a-DP)を確認すると、1速スプロケット(a-20)とチエーン(d-70)のローラー中心(d-P)との接合位置(a-DP)は、加速時とは異なり寸法に誤差がでる。これは、チエーンの外れ防止のスプロケットの歯先(a-20-x)の長さの設定で誤差寸法を吸収でき,回転に従って1速スプロケット(a-20)のローラー中心(a-DP)に結合する。
【符号の説明】
【0028】
a-10 駆動軸
a-20 1速スプロケット
a-30 ガイドプレート
b-20 2速スプロケット
b-40 スライドピン
b-50 2速シフトプレート
b-51 2速シフトプレート摺動面
b-60 2速カムシフター
b-61 2速カムシフターの加速側摺動面
b-62 2速カムシフターの減速側摺動面
c-20 3速スプロケット
d-20 4速スプロケット
e-20 5速スプロケット
f-20 6速スプロケット
d-70 駆動用チエーン
a-DP 1速の減速時の接合ポイント
a-R 1速スプロケットのローラー中心円
a-20x 1速スプロケットの歯先
b-AP 2速へ加速時の接合ポイント
b-R 2速スプロケットのローラー中心円
b-DP 2速から1速への接線移動ポイント
d-P チエーンのローラー中心
d-P1 チエーンのローラー間1ピッチ
d-71x 1速の接線の延長線
d-71 1速の接線
d-72 2速の接線
d-73 テンショナー
H-90 比駆動軸のスプロケット
h-R 比駆動軸のスプロケットのローラー中心円