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  • 特許-耐熱性複合シート及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】耐熱性複合シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/34 20060101AFI20220804BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220804BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20220804BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20220804BHJP
   C09J 7/21 20180101ALI20220804BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20220804BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20220804BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B29C70/34
B32B27/00 M
B32B27/30 D
B29C70/06
C09J7/21
C09J7/24
C09J7/38
C09J201/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019526587
(86)(22)【出願日】2017-11-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 CN2017109233
(87)【国際公開番号】W WO2018099238
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】201611081446.7
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517045598
【氏名又は名称】日東電工(上海松江)有限公司
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】李 旭
(72)【発明者】
【氏名】渡▲辺▼ 義宣
(72)【発明者】
【氏名】田 松
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-005767(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0170722(US,A1)
【文献】特開昭56-098166(JP,A)
【文献】特開2013-231110(JP,A)
【文献】特表2012-500906(JP,A)
【文献】特開2008-297678(JP,A)
【文献】特表2003-520145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00 - 70/88
C08J 5/08
C09J 7/00 - 7/50
B32B 1/00 - 43/00
B30B 15/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物である耐熱性複合シートであって、前記ガラス繊維織物を中心とし、厚み方向において対向する2つの面を有し、少なくとも一方の面がRz≦21μmである表面粗さを有し、前記2つの面のそれぞれと前記ガラス繊維織物との間の最薄厚みの比が0.5~2.0であり、前記ガラス繊維織物の表面に存在するケイ素含有薬剤を含むことを特徴とする耐熱性複合シート。
【請求項2】
前記表面粗さを有する前記面と前記ガラス繊維織物との間の最薄厚みが3~30μmである請求項1に記載の耐熱性複合シート。
【請求項3】
前記ガラス繊維織物の厚みが10~500μmである請求項1又は2に記載の耐熱性複合シート。
【請求項4】
前記フッ素含有樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選択される1種又は複数種である請求項1又は2に記載の耐熱性複合シート。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の耐熱性複合シートと、前記耐熱性複合シートの少なくとも一方の面に設けられている粘着剤層とを含む耐熱性テープ。
【請求項6】
ガラス繊維織物にケイ素含有薬剤処理を行う工程と、上記処理後のガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させる工程と、フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を加熱して複合シートを形成する工程とを備え、前記ガラス繊維織物を中心とし、厚み方向において対向する2つの面を有し、少なくとも一方の面がRz≦21μm又はRa≦7.5μmである表面粗さを有し、ケイ素含有薬剤の量が前記ガラス繊維織物の全量に対して0.05~0.2wt%であり、前記ケイ素含有薬剤は、一般式YSiXで表される有機ケイ素化合物であり、Yは、非加水分解性基であり、Xは、加水分解性基であることを特徴とする耐熱性複合シートの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させた後、加熱工程の前に、ガラス繊維織物の両側にあるフッ素含有樹脂の厚みを制御するように、ドクターブレードでフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を処理する請求項に記載の耐熱性複合シートの製造方法。
【請求項8】
前記ガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させる工程と、加熱して前記複合シートを形成する工程とを2~8回繰り返す請求項又はに記載の耐熱性複合シートの製造方法。
【請求項9】
請求項のいずれか1項に記載の耐熱性複合シートの製造方法により耐熱性複合シートを製造する工程と、前記耐熱性複合シートの少なくとも一方の面に粘着剤層を配置する工程とを備えることを特徴とする請求項に記載のテープの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性複合シートに関し、より詳細にはフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物である耐熱性複合シートに関する。本発明はさらに、上記耐熱性複合シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物の複合シートは、優れた耐熱性、絶縁性、耐食性、非粘着性等特性を有し、例えばコンベヤベルト、耐熱性シート、防錆用非粘着性シート等多くの分野で使用されている。しかし、どのような分野であれ、使用時間が長くなると、複合シートの表面摩耗がどんどん進展する。このように、複合シートの寿命をいかにしてより延長できるかは解決すべき問題である。
【0003】
テープはヒートシール分野で使用される際に、テープがホットプレートに貼り付けられた後に、テープとヒートシール対象物とが接触するため、摩耗が生じる。従来の耐熱性テープは表面に凹凸があるため、使用時に摩耗が不均一となり、一部のガラス繊維が露出しやすくなり、使用寿命が短くなる。
【0004】
また、従来の製品は、寿命を長くするために、基材フッ素樹脂層を厚くするが、加工コストが大いに高騰するのみならず、最もよい効果が得られないことが多い。例えば、厚みを大いに増して得られたテープは、角度を有するホットプレートに貼り付けられた場合に、曲げた後の反力が大きいため、貼り付けにくくなり、被着体から剥がれやすくなるため、テープの使用寿命が短くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、平坦性に優れ、耐摩耗性が高く、耐熱、絶縁、防食、非粘着等の用途に広く利用されることができ、寿命が長い耐熱性複合シート、前記耐熱性複合シートの製造方法、並びに前記耐熱性複合シートを含むテープ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物である耐熱性複合シートであって、前記ガラス繊維織物を中心とし、厚み方向において対向する2つの面を有し、少なくとも一方の面がRz≦21μm又はRa≦7.5μmである表面粗さを有することを特徴とする耐熱性複合シートを提供する。
【0007】
前記表面粗さを有する前記面と前記ガラス繊維織物との間の最薄厚みが3~30μmである本願に記載の耐熱性複合シート。
【0008】
前記ガラス繊維織物の厚みが10~500μmである本願に記載の耐熱性複合シート。
【0009】
前記ガラス繊維織物を中心とし、厚み方向において対向する2つの面を有し、前記2つの面のそれぞれと前記ガラス繊維織物との間の最薄厚みの比が0.5~2.0である本願に記載の耐熱性複合シート。
【0010】
前記フッ素含有樹脂はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選択される1種又は複数種である本願に記載の耐熱性複合シート。
【0011】
本願はさらに、本願に記載の耐熱性複合シートと、前記耐熱性複合シートの少なくとも一方の面に設けられている粘着剤層とを含む耐熱性テープを提供する。
【0012】
本願はさらに、ガラス繊維織物にケイ素含有薬剤処理を行う工程と、上記処理後のガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させる工程と、フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を加熱して前記複合シートを形成する工程とを備えることを特徴とする本願に記載の耐熱性複合シートの製造方法を提供する。
【0013】
前記ガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させた後、加熱工程の前に、ガラス繊維織物の両側にあるフッ素含有樹脂の厚みを制御するように、ドクターブレードでフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を処理する本願に記載の耐熱性複合シートの製造方法。
【0014】
前記ガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させる工程と、加熱して前記複合シートを形成する工程とを2~8回繰り返す本願に記載の耐熱性複合シートの製造方法。
【0015】
ケイ素含有薬剤の量がガラス繊維織物の全量に対して0.05~0.2wt%である本願に記載の耐熱性複合シートの製造方法。
【0016】
本願はさらに、本願に記載の耐熱性複合シートの製造方法により耐熱性複合シートを製造する工程と、前記耐熱性複合シートの少なくとも一方の面に粘着剤層を配置する工程とを備えることを特徴とする本願に記載のテープの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の耐熱性複合シートの表面粗さを調整することにより、前記複合シートの耐摩耗性を向上させ、生産性を向上させ、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の耐熱性複合シートの一例を示す概略断面構造図である。
図2図2は、本発明の耐熱性複合シートを用いた耐熱性テープの一例を示す概略断面構造図である。
図3図3は、本発明の耐熱性複合シートを用いた耐熱性テープの一例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参酌して本発明を詳細に説明する。
【0020】
[耐熱性複合シート]
<複合シート>
本発明において、前記複合シート10はフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物であり、前記ガラス繊維織物13を中心とし、前記複合シートは、厚み方向において対向する2つの面11及び12を有し、少なくとも一方の面がRz≦21μm又はRa≦7.5μmである表面粗さを有する。Rz≦13μmであることが好ましく、Ra≦2.9μmであることがより好ましい。前記少なくとも一方の面が表面粗さRz≦21μm及びRa≦7.5μmを同時に満たしていることが好ましい。前記少なくとも一方の面が表面粗さRz≦13μm及びRa≦2.9μmを同時に満たしていることがより好ましい。
【0021】
なお、本発明において、前記対向する2つの面11及び12は特に限定されず、いずれも対向する第1の面及び第2の面となることができ、そのうち一方の面が第1の面と定義される場合、他方の面が第2の面と定義され、その逆の場合も同様である。
【0022】
本発明において、前記耐熱性複合シートは好ましくはテープ基材、テープ離型フィルム、食品用コンベヤベルト、耐食性フィルム又は建築用耐久性フィルムである。
【0023】
本発明において、ガラス繊維織物13にケイ素含有薬剤処理を行い、処理後のガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させ、フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を加熱して複合シート10を形成する。複合シート10の厚みは例えば、10~500μmであり、好ましくは40~300μmである。
【0024】
<ガラス繊維織物>
本発明において、ガラス繊維織物はガラス繊維糸を製織してなる織物である。ガラス繊維織物で用いられるガラス糸は通常、直径約数μmのガラス繊維を数百本単位で集束してなるものである。ガラス繊維織物の特性は繊維の性能、経緯密度、糸構造及び織物組織により決められる。経緯密度はまた糸構造及び織物組織により決められる。経緯密度及び糸構造は、織物の例えば重量、厚み及び破断強度等の物理的特性を決める。一般な織物組織として、平織り、綾織り、朱子織り、リブ織り及びバスケット織りが挙げられる。ガラス繊維織物の種類及び構成は特に限定されない。例えば、目付けが15~110g/m2であり、糸密度としては、経糸密度及び緯糸密度がいずれも10~100本/25mmであり、且つ厚みが約10μm~約500μmであり、より好ましくは約30μm~約250μmであるガラス繊維平織り織物を好ましく使用することができる。使用する前に、その後のケイ素含有処理工程の効果を高める観点から、ガラス繊維織物に対して開繊処理を施すことができる。
【0025】
<フッ素含有樹脂>
本発明において、フッ素含有樹脂は特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレン-プロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)から選択される1種又は複数種が挙げられる。
【0026】
<表面粗さRz>
JIS-B0601-1994測定方法に準じて表面粗さRzを測定する。複合シート10の対向する2つの面11及び12のうち少なくとも一方の表面粗さRz≦21μmであり、好ましくはRz≦13μmである。
【0027】
<表面粗さRa>
JIS-B0601-1994測定方法に準じて表面粗さRaを測定する。複合シート10の対向する2つの面11及び12のうち少なくとも一方の表面粗さRa≦7.5μmであり、好ましくはRa≦2.9μmである。
【0028】
複合シート10の対向する2つの面11及び12のうち少なくとも一方の表面粗さは複合シートの使用寿命にとって特に肝要である。上記の表面粗さRz>21μmの場合、表面粗さは、例えば摩擦係数に影響を与え、複合シートが摩擦される際の表面に力を受ける度合いに影響を与え、及びそれにより表面フッ素含有樹脂層の表面損傷現象をもたらす等表面摩耗特性に大いに影響を与える。したがって、Rz>21μmの場合、表面層が表層樹脂の微結晶損傷を起こしやすくなり、さらに表層樹脂全体の損傷をもたらし、その結果、複合シートの寿命が短くなる。
【0029】
一方、Ra>7.5μmの場合、上記本発明者に発見されたメカニズムと同様に、表面粗さは、例えば摩擦係数に影響を与え、複合シートが摩擦される際の表面に力を受ける度合いに影響を与え、及びそれにより表面フッ素含有樹脂層の表面損傷現象をもたらす等表面摩耗特性に大いに影響を与える。したがって、Ra>7.5μmの場合、表面層が表層樹脂の微結晶損傷を起こしやすくなり、さらに表層樹脂全体の損傷をもたらし、その結果、複合シートの寿命が短くなる。
【0030】
また、製造性及び使用寿命の観点から、ガラス繊維織物の両側にあるフッ素含有樹脂層の最薄厚み(複合シートの外面から一番近いガラス繊維までの厚み)は通常、3~30μmであり、好ましくは5~30μmである。3μm未満の場合、フッ素含有樹脂層の厚みが薄すぎるため、摩耗の結果、内部のガラス繊維が露出しやすくなり、複合シートは表面モルフォロジーが不規則になり、離型性、耐薬品性等の効果がなくなる。一方、30μmより大きい場合、フッ素含有樹脂層の厚みが厚すぎるため、複合シートは使用時に加工性(主に反力耐性)が悪くなり、使用コストも増大する。
【0031】
前記ガラス繊維織物を中心とし、前記複合シート10の対向する2つの面11及び12とガラス繊維織物13との間の最薄厚み14と15と(逆の場合も同様)の比は0.5~2.0であり、好ましくは0.8~1.3であり、より好ましくは0.9~1.1である。該比が0.5未満の場合、加工時に該複合シートが一方向にカールしやすくなり、複合シートの実用性能が低下する。該比が2.0より大きい場合、同様のメカニズムに基づき、加工時に前記複合シートが一方向にカールしやすくなり、複合シートの実用性能が低下する。
【0032】
<複合シートの製造方法>
本発明の耐熱性複合シートの製造方法は、ガラス繊維織物にケイ素含有薬剤処理を行うこと(ケイ素含有薬剤処理工程)と、上記処理後のガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させること(含浸工程)と、フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を加熱して前記複合シートを形成する工程(加熱工程)とを備える。
【0033】
<ケイ素含有薬剤処理工程>
ケイ素含有薬剤処理とは、ケイ素含有薬剤を用いてガラス繊維織物を処理する方法である。ケイ素含有剤は、分子内に異なる化学的性質を有する2つの基を同時に含む1種の有機ケイ素化合物であり、その構造式は一般式YSiX3で表されるものである。式中、Yは、非加水分解性基であり、アルケニル基(主にビニル基)、及び末端にCl、NH2、-SH、エポキシ基、N3、(メタ)アクリロイルオキシ基、イソシアネート等官能基を有する炭化水素基、即ち炭素官能基が挙げられる。Xは、加水分解性基であり、Cl、OCH3、OCH2CH3、OC24OCH3、OSi(CH33等が挙げられる。ケイ素含有薬剤の存在により、ガラス繊維織物は、フッ素含有樹脂材料のガラス繊維織物表面における平坦化特性及び内部への侵入特性に大きな影響を与える。本願では、ケイ素含有薬剤の量がガラス繊維織物の全量に対して0.05~0.2wt%である。
【0034】
<含浸工程>
含浸工程では、フッ素含有樹脂のエマルジョンを用いてガラス繊維織物を含浸させることができる。
【0035】
フッ素含有樹脂エマルジョンは、高分子主鎖が炭素元素であり、炭素元素に結合する元素がフッ素元素である高分子樹脂エマルジョンである。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)エマルジョンは、テトラフルオロエチレン(TFE)の乳化重合により形成される。フッ素含有樹脂エマルジョンにおける該フッ素含有樹脂の含有量(固形分割合)は好ましくは約40~約60重量%である。
【0036】
含浸工程では、ガラス繊維織物をフッ素含有樹脂エマルジョンに含浸させる。含浸は、例えばガラス繊維織物をフッ素含有樹脂エマルジョンに浸漬する方法、又はガラス繊維織物にフッ素含有樹脂エマルジョンを塗布する方法、又はガラス繊維織物にフッ素含有樹脂エマルジョンをスプレーする方法により実施されうる。
【0037】
上記の含浸工程後に、それぞれガラス繊維織物の両側にあるフッ素含有樹脂の厚みを制御するように、ドクターブレード又はスクレーパでフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を処理することができる。
【0038】
<加熱工程>
加熱工程では、含浸工程でガラス繊維織物に含浸させたフッ素含有樹脂エマルジョンから分散媒を消失させ、且つフッ素含有樹脂同士を融着させ(エマルションを融着体にし)、該フッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物を形成する。
【0039】
加熱工程の具体的な方法は特に限定されず、フッ素含有樹脂エマルジョンを含浸させたガラス繊維織物を該フッ素含有樹脂の融点以上、通常はフッ素含有樹脂の融点よりも15℃~60℃高い温度までに加熱すればよい。例えば、PTFEエマルジョンを用いる場合、加熱温度は好ましくは330℃~400℃であり、より好ましくは340℃~380℃である。
【0040】
必要に応じて形成されたガラス繊維織物に対して含浸工程及び加熱工程を繰り返すことができる。該繰り返しにより、例えばフッ素含有樹脂を含浸させたガラス繊維織物の厚みを増すことができる。上記の工程により形成された複合シートの合計厚みは例えば、10~500μmであり、好ましくは40~300μmである。一般に、含浸工程及び加熱工程を2~8回繰り返す。繰り返し回数が多すぎると複合シートが厚すぎるとなり、角度を有するホットプレートに貼り付けられた場合に、曲げた後の反力が大きいため、貼り付けにくくなり、被着体から剥がれやすくなる。
【0041】
本発明の効果が得られる範囲内で、本発明の複合シートの製造方法は、含浸工程及び加熱工程以外の任意の工程を含んでもよい。
【0042】
このように、ガラス繊維織物にフッ素含有樹脂を含浸させた複合シートを得る。
【0043】
本願の複合シートは、表面粗さの調整により、平坦性に優れ、耐摩耗性が高く、貼り付けが容易であり、且つ被着体から剥がれにくく、生産性が高いという特徴を有する。本願の複合シートは、例えばテープ基材、テープ離型フィルム、食品用コンベヤベルト、耐食性フィルム又は建築用耐久性フィルム、薄膜、テープ等、耐摩耗性、耐酸性及び耐アルカリ性、耐熱性が必要とされる様々な用途に使用されることができる。
【0044】
以下、本願の複合シートが耐熱性テープに使用される例のみを説明する。当業者であれば、該例は網羅的なものではなく、単なる例示であることを理解できるはずである。
【0045】
[耐熱性テープ]
図2に示すとおり、本発明の耐熱性テープは、前記複合シートの一方の面11に設けられている粘着剤層20を含む。本発明において、耐熱性テープは、前記複合シートの他方の面12に設けられている粘着剤層20を含んでもよい。
【0046】
<粘着剤層>
本発明において、粘着剤層に用いられる粘着剤の種類は特に限定されず、アクリル系、ゴム系、ポリシロキサン系等従来のテープの粘着剤層として用いられる感圧粘着材料を使用することができる。テープの耐熱性の観点から、好ましくはポリシロキサン系粘着剤である。
【0047】
粘着剤層の厚みは、通常5~100μmであり、好ましくは10~60μmである。厚みが5μm未満の場合、粘着力が低く、使用中剥離が生じやすい。厚みが100μmより大きい場合、ヒートシールに用いられる時に、テープの厚み方向の熱伝導率が逆に低下するため、好ましくない。
【0048】
[耐熱性テープの製造方法]
本発明の耐熱性テープの製造方法は、前記複合シートを製造する前記方法により前記複合シートを製造する工程と、前記複合シートの前記一方の面(11又は12)に前記粘着剤層を形成する工程とを備える。
【0049】
<表面処理工程>
表面処理工程は、複合シートにおいて粘着剤層が設けられている面(本発明において11又は12)と該面に設けられている粘着剤層との間の接着性(投錨力)を向上させるための処理である。該工程は、必要に応じて実施することができる。表面処理工程を実施する具体的な方法は、公知のテープの製造時に実施される方法とは同じである。表面処理工程は例えば、複合シートにおいて粘着剤層が設けられている面に、表面処理剤(接着処理剤)及び分散剤を含む表面処理溶液(接着処理溶液)を塗布することにより実施することができる。
【0050】
表面処理剤としては、例えばポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリシロキサン樹脂、並びにPTFE、PFA及びETFE等フッ素含有樹脂が挙げられる。分散剤としては、例えばトルエン、キシレン、酢酸エチル、ブタノール、水、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0051】
表面処理溶液は、例えば架橋剤、硬化剤、有機フィラー、無機フィラー、界面活性剤等、表面処理剤及び分散剤以外の材料を含んでもよい。有機フィラーとしては、例えばメラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル系樹脂等の粉末が挙げられ、無機フィラーとしては、例えば酸化鉄、酸化アルミニウム、シリカ等の粉末が挙げられる。
【0052】
本発明において、表面処理溶液は、表面処理剤にフッ素含有樹脂PFA、分散剤に水、無機フィラーにシリカ粒子を含有する溶液が好ましい。
【0053】
<粘着剤層形成工程>
粘着剤層形成工程では、複合シートの一方の面11又は12に粘着剤層が設けられる。粘着剤層形成工程を実施する具体的な方法は、公知のテープの製造時に実施される方法とは同じである。粘着剤層形成工程は例えば、粘着剤を複合シートの一方の面11又は12に塗布することにより実施することができる。
【実施例
【0054】
実施例では、
(1)表面粗さRz及びRaはいずれもJIS-B0601-1994測定方法により測定される。
【0055】
(2)耐摩耗性試験は、テーバー摩耗試験機を用いて、摩耗輪CS-17、荷重500gで、複合シートに対して摩耗を1000回実施し、摩耗前後の重量を秤量し、摩耗量を算出するという方法で行われる。
【0056】
(3)複合シートの面とガラス繊維織物との間の最薄厚みは、複合シートをカッターで断面切断し、薄さが20μmのサンプルに切断し、電子顕微鏡で100倍に拡大して断面を観察し、複合シートの2つの面とガラス繊維織物との間の最薄厚みを決めるという方法で測定される。測定点数を5点とし、その平均値を採用する。
【0057】
(4)複合シートにガラス繊維が露出しているかの判断は、テーバー摩耗試験機を用いて、摩耗輪CS-17、荷重500gで、複合シートに対して摩耗を500回実施し、顕微鏡で複合シートにおける長さ1cm×幅1cmのエリアの摩耗試験後の表面状態を観察するという方法により行われる。
著しい摩耗がなく、ガラス繊維の露出がないことを◎と評価する。
表面に摩耗は生じているが、ガラス繊維の露出がないことを○と評価する。
一部のガラス繊維の露出があることを×と評価する。
ガラス繊維の摩耗が認められたことを××と評価する。
【0058】
(5)複合シートの捲縮性評価は、長さ1m×幅15mmの複合シートを用意し、一端を掴み、他端をぶら下げ、複合シートの捲縮状況を観察するという方法により行われる。
複合シートはほぼカールせず、ほぼ線状を維持していることを○と評価する。
複合シートは少しカールしているが、真っ直ぐに伸ばした後にまた使用できることを△と評価する。
複合シートは複数の輪にカールしていることを×と評価する。
【0059】
実施例1
450μm厚みのガラス繊維平織り織物を用い、ケイ素含有薬剤処理を行い、ケイ素含有薬剤の量をガラス繊維平織り織物の全量に対して0.17wt%とした。ケイ素含有薬剤処理後のガラス繊維平織り織物を、フッ素含有樹脂の含有量(固形分割合)が約55重量%のPTFEエマルジョンで含浸させた。含浸後に、ドクターブレードでガラス繊維の両側にあるPTFE厚みを制御した。脱水後、350℃の高温で20秒焼結した。さらに、上記の含浸及び焼結を1回繰り返し、ドクターブレードを制御してガラス繊維間の距離を調整することより、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比を1.2にした。得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが6.2μmであり、Rzが32μmであり、非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが3.5μmであった。
【0060】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例2
30μm厚みのガラス繊維平織り織物を用い、ケイ素含有薬剤処理を行い、ケイ素含有薬剤の量をガラス繊維平織り織物の全量に対して0.09wt%とし、且つ得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比が1.0であり、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが2.5μmであり、Rzが6.3μmであり、且つ非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが6μmであったこと以外は、実施例1と同じように実施した。
【0062】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例3
80μm厚みのガラス繊維平織り織物を用い、ケイ素含有薬剤処理を行い、ケイ素含有薬剤の量をガラス繊維平織り織物の全量に対して0.09wt%とし、且つ得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比が1.0であり、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが2.2μmであり、Rzが2.4μmであり、且つ非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが9μmであったこと以外は、実施例1と同じように実施した。
【0064】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0065】
実施例4
80μm厚みのガラス繊維平織り織物を用い、ケイ素含有薬剤処理を行い、且つ得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比が1.5であり、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが1.6μmであり、Rzが2.1μmであり、且つ非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが11μmであったこと以外は、実施例1と同じように実施した。
【0066】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例5
150μm厚みのガラス繊維平織り織物を用い、ケイ素含有薬剤処理を行い、且つ得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比が1.0であり、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが0.4μmであり、Rzが2.0μmであり、且つ非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが20μmであったこと以外は、実施例1と同じように実施した。
【0068】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0069】
比較例1
ケイ素含有薬剤の量をガラス繊維平織り織物の全量に対して0.02wt%とし、且つ得られた複合シートは、非粘着剤面(つまり、第2の面12)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みと、粘着面(つまり、第1の面11)とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みとの比が1.0であり、非粘着剤面(つまり、第2の面12)の粗さRaが9.8μmであり、Rzが32.8μmであり、且つ非粘着剤面とガラス繊維平織り織物との間の最も薄い部分の厚みが2μmであったこと以外は、実施例1と同じように実施した。
【0070】
得られた複合シートの摩耗量を測定し、得られた複合シートにおけるガラス繊維の露出状況及び捲縮状況を観察した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
上記の実施例及び比較例から明らかなように、本願では、複合シートの少なくとも一方の面の表面粗さをRz≦21μm又はRa≦7.5μmにすることにより、複合シートに優れた耐摩耗性及び捲縮性を有させ、且つ繊維の露出を避けることができた。一方、本願の表面粗さ条件を満たしていない複合シートは耐摩耗性に劣っており、且つ複合シートにおける繊維は一部露出しているか、摩耗された。
【符号の説明】
【0073】
10 複合シート
11 複合シートの第1の面
12 複合シート的第2の面
13 ガラス繊維織物
14 複合シートの第1の面とガラス繊維織物との間の最薄厚み
15 複合シート的第2の面とガラス繊維織物との間の最薄厚み
20 粘着剤層
図1
図2
図3