(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】転写システム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20220804BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220804BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20220804BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220804BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20220804BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220804BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220804BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220804BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220804BHJP
A61K 31/704 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/85 Z
C12N15/62 Z
C12N5/0783
C12N5/10
C12N15/13
A61K35/12
A61P35/00
A61K48/00
A61K45/00
A61K31/704
(21)【出願番号】P 2019533142
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 GB2017053835
(87)【国際公開番号】W WO2018115866
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-10-20
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517215973
【氏名又は名称】オートラス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】プーレ, マーティン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, サイモン
(72)【発明者】
【氏名】コルドバ, ショーン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/030691(WO,A1)
【文献】Lee, K.A. et.al.,Acriflavine inhibits HIF-1 dimerization, tumor growth, and vascularization,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2009年,Vol.106, No.42,pp.17910-17915
【文献】Wehr, M.C. et.al.,Monitoring regulated protein-protein interactions using split TEV,Nature Methods,2006年,Vol.3, No.12,pp.985-993
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写システムであって、
(a)第1の結合ドメインおよび膜局在化ドメインを含むドッキングコンポーネントと;
(b)転写因子、核局在化シグナル、および該ドッキングコンポーネントの該第1の結合ドメインと結合する第2の結合ドメインを含む転写制御コンポーネントと
を含み、
該第1の結合ドメインと該第2の結合ドメインとの結合が作用剤の存在により妨害され、そのため、該転写システムが細胞中で発現されると、
該作用剤の非存在下では、該ドッキングコンポーネントと該転写制御コンポーネントとがヘテロ二量体を形成し、該転写制御コンポーネントが細胞膜の細胞内側に保持される;
他方、該作用剤の存在下では、該転写制御コンポーネントが該ドッキングコンポーネントから分離して、核へと移行し、そこで該転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する、転写システム。
【請求項2】
転写システムであって、
(a)第1の結合ドメインおよび核局在化シグナルを含むドッキングコンポーネントと;
(b)転写因子、核外輸出シグナル、および該ドッキングコンポーネントの該第1の結合ドメインと結合する第2の結合ドメインを含む転写制御コンポーネントと
を含み、
該第1の結合ドメインと該第2の結合ドメインとの結合が作用剤の存在により妨害され、そのため、該転写システムが細胞内で発現されると、
該作用剤の非存在下では、該ドッキングコンポーネントと該転写制御コンポーネントとがヘテロ二量体を形成し、該転写制御コンポーネントが核内に保持され、そこで前記転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する;
他方、該作用剤の存在下では、該転写制御コンポーネントが該ドッキングコンポーネントから分離して、細胞質へと移行する、転写システム。
【請求項3】
前記作用剤が、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとの結合を競合的に阻害する低分子である、請求項1または2のいずれかに記載の転写システム。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の転写システムであって、前記第1の結合ドメインがTetリプレッサータンパク質(TetR)を含み、前記第2の結合ドメインが転写誘導ペプチド(TiP)を含むか;または、前記第1の結合ドメインがTiPを含み、前記第2の結合ドメインがTetRを含む;
そして、前記作用剤がテトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリン、あるいはこれらのアナログである、転写システム。
【請求項5】
前記第1の結合ドメインまたは前記第2の結合ドメインが、シングルドメインバインダーを含む、請求項1から3のいずれかに記載の転写システム。
【請求項6】
前記シングルドメインバインダーが、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体スキャフォールド、アンチカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(dAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンを含む、請求項5に記載の転写システム。
【請求項7】
前記シ
ングルドメインバインダーが、ドメイン抗体(dAb)を含む、請求項6に記載の転写システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の転写システムであって:
前記第1の結合ドメインがシングルドメインバインダーを含み、前記第2の結合ドメインが該シングルドメインバインダーに結合するペプチドを含むか、または
前記第2の結合ドメインがシングルドメインバインダーを含み、前記第1の結合ドメインが該シングルドメインバインダーに結合するペプチドを含むか
のいずれかであって、
結合が前記作用剤によって競合的に阻害される、転写システム。
【請求項9】
前記作用剤が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンである、請求項5から8のいずれかに記載の転写システム。
【請求項10】
前記転写因子が、T細胞内で発現されたときに、T細胞の分化および/または疲弊を防ぐか、あるいは低減する、請求項1から9のいずれかに記載の転写システム。
【請求項11】
前記転写因子が、セントラルメモリーをプロモートする、請求項10に記載の転写システム。
【請求項12】
前記転写因子が、EOMES、FOX01、Runx3、TCF1、LEF1、およびID3からなる群から選択される、請求項11に記載の転写システム。
【請求項13】
前記転写因子が、エフェクターメモリーをプロモートする、請求項10に記載の転写システム。
【請求項14】
前記転写因子が、T-bet、AP1、ID2、GATA3、およびRORγtからなる群から選択される、請求項13に記載の転写システム。
【請求項15】
前記転写因子が、セントラルメモリーリプレッサーである、請求項10に記載の転写システム。
【請求項16】
前記転写因子が、BCL6およびBACH2からなる群から選択される、請求項15に記載の転写システム。
【請求項17】
前記転写因子が、エフェクターメモリーリプレッサーである、請求項10に記載の転写システム。
【請求項18】
前記転写因子が、BLIMP-1である、請求項17に記載の転写システム。
【請求項19】
前記転写因子が、Bach2であるか、またはBach2を含む、請求項10に記載の転写システム。
【請求項20】
前記転写因子が、ALKによってリン酸化される能力を、減ぜられているか、または取り除かれている、改変されたバージョンのBach2を含む、請求項10に記載の転写システム。
【請求項21】
前記転写因子が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を参照して次の位置:Ser-535、Ser-509、Ser-520のうちの1つまたはそれより多くにおいて変異を有する、改変されたバージョンのBach2を含む、請求項20に記載の転写システム。
【請求項22】
請求項1から21のいずれかに記載の転写システムをコードする核酸コンストラクトであって、前記ドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列、および前記転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む、核酸コンストラクト。
【請求項23】
請求項22に記載の核酸コンストラクトであって、次の構造:
DC-coexpr-TCC;または
TCC-coexpr-DC
を有し、式中:
DCが前記ドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
coexprが該ドッキングコンポーネントおよび前記転写制御コンポーネントの共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが該転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である、核酸コンストラクト。
【請求項24】
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む、請求項23に記載の核酸コンストラクト。
【請求項25】
請求項24に記載の核酸コンストラクトであって、次の構造:
CAR-coexpr1-DC-coexpr2-TCC;
CAR-coexpr1-TCC-coexpr2-DC;
DC-coexpr1-TCC-coexpr2-CAR;または
TCC-coexpr1-DC-coexpr2-CAR
のうちの1つを有し、式中:
CARがキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
DCが前記ドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
同一または相違であり得るcoexpr1およびcoexpr2が、該ドッキングコンポーネント、前記転写制御コンポーネント、および該キメラ抗原受容体の共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが該転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である、核酸コンストラクト。
【請求項26】
請求項23または24に記載のcoexpr、
あるいは請求項25に記載のcoexpr
1またはcoexpr2が、自己切断ペプチドを含む配列をコードする、請求項2
3から25のいずれかに記載の核酸コンストラクト。
【請求項27】
請求項1から21のいずれかにおいて定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸と;請求項1から21のいずれかにおいて定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸とを含む、核酸のキット。
【請求項28】
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸を含む、請求項27に記載の核酸のキット。
【請求項29】
請求項22から26いずれかに記載の核酸コンストラクトを含む、ベクター。
【請求項30】
請求項1から21のいずれかにおいて定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列を含む第1のベクターと;請求項1から21のいずれかにおいて定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む第2のベクターとを含む、ベクターのキット。
【請求項31】
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む第3のベクターも含む、請求項30に記載のベクターのキット。
【請求項32】
請求項1から21のいずれかに記載の転写システムを含む、細胞。
【請求項33】
キメラ抗原受容体を発現する、請求項32に記載の細胞。
【請求項34】
請求項32または33に記載の細胞を作るための方法であって、請求項22から26のいずれかに記載の核酸コンストラクト、請求項27もしくは28に記載の核酸のキット、請求項29に記載のベクター、または請求項30もしくは31に記載のベクターのキットを、ex vivoで細胞内へと導入するステップを含む、方法。
【請求項35】
前記細胞が、被験体から単離される試料に由来する、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
請求項32または33に記載の細胞の複数種を含む、医薬組成物。
【請求項37】
疾患の処置および/または予防のための、請求項36に記載の医薬組成物。
【請求項38】
請求項37に記載の医薬組成物であって、該医薬組成物が、次のステップ:
(i)被験体から細胞を含む試料を単離すること;および
(ii)請求項22から26のいずれかに記載の核酸コンストラクト、請求項27もしくは28に記載の核酸のキット、請求項29に記載のベクター、または請求項30もしくは31に記載のベクターのキットを用いて、該細胞の形質導入またはトランスフェクションをすること;
を含む方法により調製される、医薬組成物。
【請求項39】
前記疾患が、がんである、請求項37または38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における、請求項32または33に記載の細胞の使用。
【請求項41】
疾患の処置および/または予防のための、請求項32または33に記載の細胞を含む組成物。
【請求項42】
請求項32または33に記載の細胞内で、遺伝子の転写を調節するための、請求項1から21のいずれかに記載の作用剤を含む組成物であって、該組成物がin vitroで、該細胞へと投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項43】
被験体内の請求項32または33に記載の細胞内で、遺伝子の転写をin vivoで調節するための、請求項1から21のいずれかに記載の作用剤を含む組成物であって、該組成物が該被験体へと投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項44】
請求項43に記載の組成物であって、該組成物が、請求項36に記載の医薬組成物の前、後または同時に被験体へ投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項45】
請求項10に記載の転写システムを含む細胞内で、T細胞の分化または疲弊を防ぐか、あるいは低減するための、請求項1から9のいずれかに記載の作用剤を含む組成物であって、該組成物が該細胞へと、in vitroで投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項46】
被験体内の請求項10に記載の転写システムを含む細胞内で、T細胞の分化または疲弊をin vivoで防ぐか、あるいは低減するための、請求項1から9のいずれかに記載の作用剤を含む組成物であって、該組成物が該被験体へと投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項47】
請求項46に記載の組成物であって、該組成物が、請求項36に記載の医薬組成物の前、後または同時に被験体へ投与されることを特徴とし、前記細胞が請求項10に記載の転写システムを含む、組成物。
【請求項48】
請求項32また33に記載の細胞の複数種、ならびに前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとの結合を妨害する前記作用剤を含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子などの外部作用剤を用いて制御可能な転写システムに関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内での遺伝子発現をin vivoで制御する、多数の機構がある。細胞内での遺伝子発現を人工的に制御するために、時として、このような内因性の機構の背後にある原理を用いることができる。
【0003】
RNA干渉をベースとするシステム
RNA干渉(RNAi)は、RNAポリヌクレオチドが遺伝子発現を特異的に抑制する、内因性の細胞プロセスである。
【0004】
低分子干渉RNA分子(siRNA)は、RNaseIIIエンドヌクレアーゼ分解によってin vivoで生成され得る。この分解は、約21から23ヌクレオチド長の分子をもたらす。その後、この相対的に短いRNA種は、対応するRNAメッセージおよび転写物の分解を媒介する。RNAiヌクレアーゼ複合体(RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる)は、低分子dsRNAが塩基対形成の相互作用を通して相補的なmRNAを認識する手助けをする。siRNAとその基質との相互作用の後、当該mRNAは、RISC内に存在する酵素による分解の標的となる。この経路は生物にとって、ウイルス感染、トランスポゾンジャンピング、および類似の現象を阻害するに際して有用であり、そして内因性遺伝子の発現を調節すると考えられている。
【0005】
RNAiが遍在するということは、この自然の遺伝子調節システムを遺伝子発現の操作のための道具へと変えるための方法および組成物の開発を促進している。その発現を抑制しようとする遺伝子(標的遺伝子)の配列に対して、十分に対応するように設計されたRNAポリヌクレオチド配列が、細胞内へと導入される。適切に設計されたRNAの存在はRNAi経路を活性化し、標的遺伝子の抑制または調整をもたらす。
【0006】
米国特許出願公開第2013/096370号明細書は、制御されたRNA干渉によって内因性遺伝子または外因性遺伝子のいずれかの調節を操作するための、外部から制御可能なシステム(systemsfor)について記載する。このシステムは、siRNAをコードするヌクレオチド配列の発現を調節するための、外部から投与される作用剤(薬物または他の化合物)の使用を含む。
【0007】
しかし、siRNAの不都合は、遺伝子発現を単に下方調節できるが上方調節できないことである。また、siRNAは他の配列とクロスリアクトし、予期せぬ効果を伴って他の遺伝子の下方調節をもたらす可能性がある。最後に、複数種の遺伝子の発現を制御するためには、細胞が各々の対象遺伝子についてのsiRNAを発現する必要がある。
【0008】
ホルモン受容体ベースのシステム
所定の転写因子についての標的遺伝子を同定するために以前用いられていた1つのアプローチは、転写因子をリガンド結合ドメイン(例えば、グルココルチコイド受容体またはエストロゲン受容体の)へと融合(fuse thing)し、転写因子による転写の活性化(または抑制)がホルモン依存的であるシステムを産生することを含む(Superti-Furga et al PNAS 88:5114-5118)。しかし、このようなシステムは、ホルモンが哺乳動物の組織内で遍在し得るため、in vivoでの転写制御のための使用を制限される。
【0009】
Tetベースのシステム
外部作用剤の投与による転写のトランス活性化の制御のために、様々なテトラサイクリンベースのシステムが開発されている。これらのTetベースのシステムは、培養細胞内および生物全体内(特にネズミ内)で多数のトランスジーンの発現を制御するために、うまく用いられている。オリジナルの、テトラサイクリンに制御される転写活性化因子(tTA)は、Escherichia coli Tn10 tetR遺伝子とVP16トランス活性化ドメインとのキメラコンストラクトからなる(
図4aを参照)。誘導因子であるドキシサイクリンの非存在下において、tTA二量体は7回縦列反復する19bpのtetO配列へと特異的に結合し、これにより、最小プロモーターからの転写を活性化して、対象遺伝子をコードする標的トランスジーンの発現をドライブする。ドキシサイクリンに結合されると、tTAは構造変化してtetO配列に結合できなくなる。リバースtTA(rtTA)システム(
図4bに示す)においてtetR遺伝子は変異され、そのため、ドキシサイクリンの存在下でのみtetO配列と結合して転写を活性化し、標的トランスジーンに関しての簡便な制御を与える。
【0010】
したがって、Tetをベースとするシステムを用いて転写をオンおよびオフにすることが可能である。しかし、細胞内でTetをベースとするシステムを用いて遺伝子の転写を制御するためには、細胞内の当該標的遺伝子または各標的遺伝子を操作して、7回縦列反復する19bpのtetO配列を最小プロモーターの上流に含めることが必要である。
【0011】
したがって、上記のシステムの不都合と関連しない外部の様式において遺伝子発現を制御する代替機構が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許出願公開第2013/096370号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Superti-Furga et al PNAS 88:5114-5118
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】転写因子に媒介される制御が作用剤(低分子など)を用いてスイッチをONにされる、本発明の第1の実施形態を例示する模式図。ドッキングコンポーネントが膜局在化ドメインを含み、そのため、作用剤の非存在下では、転写コンポーネントが細胞膜の細胞内側に保持される(A);他方、作用剤の存在下(B)では、転写コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離し、これが核局在化シグナルを含むため、核へと移行し、そこで転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する。MYR=ミリスチル化シグナル;TM=膜貫通;SMBP=低分子結合タンパク質;M=模倣物/ブロッカー;TF=転写因子;NLS=核局在化シグナル;SM=低分子;NES=核外輸送シグナル。
【0015】
【
図2】転写因子に媒介される制御が作用剤(低分子など)を用いてスイッチをOFFにされる、本発明の第2の実施形態を例示する模式図。ドッキングコンポーネントが核局在化シグナルを含み、そのため、作用剤の非存在下で(a)転写コンポーネントが保持され、他方(nwhereas)、作用剤の存在下では、転写コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離して、これが核外輸送シグナルを含むため、細胞質へと移行し、転写因子に媒介される遺伝子転写の調節の停止を引き起こす。MYR=ミリスチル化シグナル;TM=膜貫通;SMBP=低分子結合タンパク質;M=模倣物/ブロッカー;TF=転写因子;NLS=核局在化シグナル;SM=低分子;NES=核外輸送シグナル。
【0016】
【
図3】各細胞タイプと関連する発現マーカーを示す、T細胞分化の直線モデルを例示する模式図。APC-抗原提示細胞;TCM-セントラルメモリーT細胞;TEFF-エフェクターT細胞;TEM-エフェクターメモリーT細胞;TN-ナイーブT細胞;TSCM-Tメモリー幹細胞。
【0017】
【
図4】転写のトランス活性化のためのテトラサイクリン応答性調節システムa)tTAシステム:このシステムにおいてエフェクターは、テトラサイクリンに制御される転写のトランス活性化因子(tTA)であり、Escherichia coli Tn10 tetR遺伝子(紫)とVP16トランス活性化ドメイン(オレンジ)とのキメラコンストラクトからなる。誘導因子であるドキシサイクリン(Dox)の非存在下では、tTA二量体は、7回縦列反復する19bpのtetO配列(tetO7)へと特異的に結合し、これにより、最小プロモーター(TATA)からの転写を活性化して、対象遺伝子をコードする標的トランスジーン(標的ORF)の発現をドライブする。Doxに結合されると、tTAは構造変化してtetO配列に結合できなくなる。b)リバースtTA(rtTA)システム:このシステムにおいて、tetR遺伝子は変異され、そのため、Doxの存在下でのみtetO配列と結合して転写を活性化する。
【0018】
【
図5】形質導入後(0日目)、およびCD19を発現する標的細胞との24時間の共培養から6日後(7日目)での、エフェクター細胞、エフェクターメモリー(EM細胞)、セントラルメモリー(CM)細胞およびナイーブ細胞の割合を示すグラフ。T細胞は、非形質導入(NT)であるか、CARのみを発現するベクター(HD37)を用いて形質導入されたか、またはCARおよび転写因子FOXO1を発現するベクター(HD37-FOXO1)を用いて形質導入されたかのいずれか(wither)であった。CD4+およびCD8+の部分集団が、別々に解析された。
【0019】
【
図6】CD19を発現する標的細胞との24時間の共培養から6日後での、CD4+T細胞およびCD8+T細胞における、CD27およびCD62Lの発現を示すグラフ。T細胞は、非形質導入(NT)であるか、CARのみを発現するベクター(HD37)を用いて形質導入されたか、CARおよび転写因子EOMESを発現するベクター(HD37-EOMES)を用いて形質導入されたか、またはCARおよび転写因子FOXO1を発現するベクター(HD37-FOXO1)を用いて形質導入されたかのいずれか(wither)であった。
【0020】
【
図7】CD19を発現する標的細胞との24時間の共培養から6日後での、CD4+T細胞およびCD8+T細胞における、CD62Lの発現を示すグラフ。T細胞は、非形質導入(NT)であるか、CARのみを発現するベクター(HD37)を用いて形質導入されたか、またはCARと転写因子Runx3およびCBFベータとを発現するベクター(HD37-Runx3_CBFベータ)を用いて形質導入されたかのいずれか(wither)であった。
【0021】
【
図8】形質導入後(0日目)、およびCD19を発現する標的細胞との24時間の共培養から6日後(7日目)での、エフェクター細胞、エフェクターメモリー(EM細胞)、セントラルメモリー(CM)細胞およびナイーブ細胞の割合を示すグラフ。T細胞は、非形質導入(NT)であるか、CARのみを発現するベクター(HD37)を用いて形質導入されたか、CARおよび転写因子BACH2を発現するベクター(HD37-BACH2)を用いて形質導入されたか、またはCARおよび転写因子BACH2の変異バージョンを発現するベクター(HD37-BACH2_S520A)を用いて形質導入されたかのいずれか(wither)であった。CD4+およびCD8+の部分集団が、別々に解析された。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の側面の要約
本発明者らは、外部作用剤を用いてある遺伝子、またはあるセットの遺伝子の転写をオンあるいはオフにすることを可能にする、ヘテロ二量体の転写システムを開発した。
【0023】
したがって、第1の側面において本発明は、転写システムであって、
(a)第1の結合ドメインを含むドッキングコンポーネントと;
(b)転写因子、およびドッキングコンポーネントの第1の結合ドメインと結合する第2の結合ドメインを含む転写制御コンポーネントと
を含み、
第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの結合が作用剤の存在により妨害され、そのため、作用剤の非存在下では、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとがヘテロ二量体を形成する、転写システムを提供する。
【0024】
本発明の第1の側面の第1の実施形態において、ドッキングコンポーネントが膜局在化ドメインも含み;そして転写コンポーネントが核局在化シグナルも含み、そのため、転写システムが細胞内で発現されると、作用剤の非存在下では、転写コンポーネントが細胞膜の細胞内側に保持される;他方、作用剤の存在下では、転写コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離して、核へと移行し、そこで転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する(
図1を参照)。
【0025】
本発明の第1の側面の第2の実施形態において、ドッキングコンポーネントが核局在化シグナルも含み;そして転写コンポーネントが核外輸送シグナルも含み、そのため、転写システムが細胞内で発現されると、作用剤の非存在下では、転写コンポーネントが核内に保持され、そこで転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する;他方、作用剤の存在下では、転写コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離して、細胞質へと移行する(
図2を参照)。
【0026】
作用剤は、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの結合を競合的に阻害する低分子であり得る。
【0027】
例えば、第1の結合ドメインはTetリプレッサータンパク質(TetR)を含み得、第2の結合ドメインは転写誘導ペプチド(TiP)を含み得る;この逆もまたあり得る;
そして、作用剤はテトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリン、あるいはこれらのアナログであり得る。
【0028】
第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインは、シングルドメインバインダー:ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体スキャフォールド、アンチカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(dAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンなど、を含み得る。
【0029】
シングルドメインバインダーは、ドメイン抗体(dAb)であるか、またはこれを含み得る。
【0030】
本発明の第1の側面の転写システムにおいて:
第1の結合ドメインはシングルドメインバインダーを含み得、第2の結合ドメインはシングルドメインバインダーに結合するペプチドを含み得るか、または
第2の結合ドメインはシングルドメインバインダーを含み得、第1の結合ドメインはシングルドメインバインダーに結合するペプチドを含み得るか
のいずれかであって、結合は作用剤によって競合的に阻害される。
【0031】
作用剤は、例えば、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンであり得る。
【0032】
当該転写因子は、T細胞内で発現されたとき、T細胞の分化および/または疲弊を防ぐか、あるいは低減し得る。
【0033】
例えば、当該転写因子はセントラルメモリーを促進し得る。当該転写因子は、EOMES,FOX01,Runx3,TCF1,LEF1,およびID3からなる群から選択される。
【0034】
あるいは、当該転写因子はエフェクターメモリーを促進し得る。当該転写因子は、T-bet,AP1,ID2,GATA3,およびRORγtからなる群から選択され得る。
【0035】
当該転写因子は、セントラルメモリーリプレッサーであり得る。当該転写因子は、BCL6およびBACH2からなる群から選択され得る。
【0036】
当該転写因子は、BLIMP-1などのエフェクターメモリーリプレッサーであり得る。
【0037】
当該転写因子は、Bach2、またはALKによってリン酸化される能力を減ぜられているか、もしくは取り除かれている改変されたバージョンのBach2であるか、あるいはこれらを含み得る。改変されたバージョンのBach2は、配列番号8で示されるアミノ酸配列を参照して次の位置:Ser-535、Ser-509、Ser-520のうちの1つまたはそれより多くにおいて変異を含み得る。
【0038】
当該転写因子は、FOXO1であり得る。
【0039】
当該転写因子は、EOMESであり得る。
【0040】
当該転写因子は、Runx3および/またはCBFベータを含み得る。
【0041】
第2の側面において本発明は、本発明の第1の側面に記載の転写システムをコードする核酸コンストラクトであって、ドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列、および転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む、核酸コンストラクトを提供する。
【0042】
核酸コンストラクトは、次の構造を有し得る:
DC-coexpr-TCC;または
TCC-coexpr-DC
であって、式中:
DCがドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
coexprがドッキングコンポーネントおよび転写制御コンポーネントの共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である。
【0043】
核酸コンストラクトは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列も含み得る。
【0044】
この点において、核酸コンストラクトは、次の構造のうちの1つを有し得る:
CAR-coexpr1-DC-coexpr2-TCC;
CAR-coexpr1-TCC-coexpr2-DC;
DC-coexpr1-TCC-coexpr2-CAR;または
TCC-coexpr1-DC-coexp2-CAR
であって、式中:
CARがキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
DCがドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
同一または相違であり得るcoexpr1およびcoexpr2が、ドッキングコンポーネント、転写制御コンポーネント、およびキメラ抗原受容体の共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である。
【0045】
上記の構造において、coexpr、coexpr1、またはcoexpr2は、自己切断ペプチドを含む配列をコードし得る。
【0046】
第3の側面において本発明は、本発明の第1の側面において定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列と;本発明の第1の側面において定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列とを含む、核酸配列のキットを提供する。
【0047】
キットは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列も含み得る。
【0048】
第4の側面において本発明は、本発明の第2の側面に記載される核酸コンストラクトを含むベクターを提供する。
【0049】
第5の側面において本発明は、本発明の第1の側面において定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列を含む第1のベクターと;本発明の第1の側面において定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む第2のベクターとを含む、ベクターのキットを提供する。
【0050】
ベクターのキットは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む第3のベクターも含み得る。
【0051】
第6の側面において、本発明の第1の側面に記載の転写システムを含む細胞が提供される。
【0052】
当該細胞は、キメラ抗原受容体を発現し得る。
【0053】
第7の側面において本発明は、本発明の第6の側面に記載の細胞を作るための方法であって、本発明の第2の側面に記載の核酸コンストラクトか、本発明の第3の側面に記載の核酸配列のキットか、本発明の第4の側面に記載のベクターか、または本発明の第5の側面に記載のベクターのキットを、細胞内に導入するステップを含む方法を提供する。
【0054】
当該細胞は、被験体から単離される試料に由来し得る。
【0055】
第8の側面において、本発明の第6の側面に記載の細胞の複数種を含む、医薬組成物が提供される。
【0056】
第9の側面において、本発明の第8の側面に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、疾患の処置および/または予防のための方法が提供される。
【0057】
当該方法は、以下のステップを含み得る:
(i)被験体から細胞を含む試料を単離することと;
(ii)本発明の第2の側面に記載の核酸コンストラクトか、本発明の第3の側面に記載の核酸配列のキットか、本発明の第4の側面に記載のベクターか、または本発明の第5の側面に記載のベクターのキットを用いて、細胞の形質導入またはトランスフェクションをすることと;
(iii)(ii)に由来する細胞を被験体に投与すること。
【0058】
第10の側面において、疾患の処置および/または予防における使用のための、本発明の第8の側面に記載の医薬組成物が提供される。
【0059】
第11の側面において、疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における、本発明の第6の側面に記載の細胞の使用が提供される。
【0060】
本発明の第9、10、および11の側面に関連して、疾患はがんであり得る。
【0061】
第12の側面において、本発明の第6の側面に記載の細胞内で、遺伝子の転写を調節するための方法(amethod)であって、in vitroで、細胞へと作用剤を投与するステップを含む、方法が提供される。
【0062】
第13の側面において、被験体内の本発明の第6の側面に記載の細胞内で、遺伝子の転写をin vivoで調節するための方法であって、被験体へと作用剤を投与するステップを含む、方法が提供される。
【0063】
記載の方法は、次のステップを含み得る:
a)本発明の第7の側面に記載の医薬組成物の、被験体への投与;および
b)作用剤の、被験体への投与
であって、a)およびb)が、いずれかの順番で、または同時に投与される。
【0064】
第14の側面において本発明は、T細胞内で発現されたとき、T細胞の分化および/または疲弊を防ぐか、あるいは低減する転写因子を含む、本発明の第1の側面に記載の転写システムを含む細胞内で、T細胞の分化または疲弊を防ぐか、あるいは低減するための方法であって、in vitroで作用剤を細胞へと投与するステップを含む方法を提供する。
【0065】
第15の側面において本発明は、T細胞内で発現されたとき、T細胞の分化および/または疲弊を防ぐか、あるいは低減する転写因子を含む、本発明の第1の側面に記載の転写システムを含む細胞内で、被験体内のT細胞の分化または疲弊をin vivoで防ぐか、あるいは低減するための方法であって、作用剤を被験体へと投与するステップを含む方法を提供する。
【0066】
当該方法は、次のステップを含み得る:
a)本発明の第7の側面に記載の医薬組成物の被験体への投与であって、その中で細胞が、T細胞内で発現されたときにT細胞の分化および/または疲弊を防ぐかあるいは低減する転写システムを含む;および
b)作用剤の、被験体への投与
であって、a)およびb)がいずれかの順番で、あるいは同時に投与される。
【0067】
第16の側面において本発明は、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの結合を妨害する作用剤、ならびに本発明の第6の側面に記載の細胞の複数種を含む、組成物を提供する。
【0068】
本発明の転写システムは、外部から投与される作用剤によって制御可能なヘテロ二量体形成システムを使用して細胞内での転写因子の局在を制御し、その結果、転写因子の、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写を上方調節または下方調節する能力を制御する。
【0069】
転写システムが天然の転写因子を利用する場合、その転写因子に関連する標的遺伝子(複数可)の転写を、人工的な配列エレメントを含むように当該標的遺伝子を操作することなく、制御することが可能である。これにより当該システムは、プロモーターの上流にいくつかのTetO配列を挿入しなければならない古典的なTetベースのシステムと比較して(that)、ずいぶんと簡潔になる。
【0070】
転写は、本発明のヘテロ二量体形成システムを用いて、ドッキングコンポーネントの細胞内での局在に依存的にオンまたはオフにされ得る(
図1および
図2の各々に示される、本発明の第1の側面の第1または第2の実施形態)。したがって、ドッキングコンポーネントおよび転写制御コンポーネント内のドメインの配置を選ぶことにより、同じ転写因子(これが、転写のサプレッサーであるか、またはアクチベーターであるかを問わず)を用いて、転写を上方調節および下方調節することが可能である。
【0071】
本発明の転写システムにおける使用のために、ヘテロ二量体形成システムと、これに対応する妨害作用剤とを選ぶことも可能である。これは、望ましい特性(哺乳動物細胞内で薬理学的に不活性であること、優れた分布容積および細胞貫通性を有していること、など)を有する作用剤を選択できる、ということを意味する。本発明のシステムは、その実施について特定のホルモンまたは抗生物質に限定されない。
【0072】
したがって本発明は、外部から投与される作用剤によって制御可能である、遺伝子発現の調節のための、簡潔、モジュラーかつ非常に柔軟な、転写システムを提供する。
【0073】
詳細な説明
転写システム
本発明は、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとを含む転写システムを提供する。ドッキングコンポーネントおよび転写制御コンポーネントは二量体形成結合ドメインを含み、これらのドメイン間の相互作用は作用剤の存在により妨害され得る。
【0074】
ドッキングコンポーネント
ドッキングコンポーネントは、転写制御コンポーネントを細胞質内(遺伝子の転写に影響を与えない場所);または核内(転写制御コンポーネントが、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写を上方調節または下方調整する場所)のいずれかにつなぎとめるアンカーとして働く。
【0075】
ドッキングコンポーネントは、転写制御コンポーネント上の相互ドメインと相互作用する第1のヘテロ二量体形成ドメインを含む。
【0076】
本発明の第1の実施形態において、ドッキングコンポーネントは膜局在化ドメインを含み、(作用剤の非存在下で)細胞膜近位の細胞質内に転写制御コンポーネントを局在させる。
【0077】
本発明の第2の実施形態において、ドッキングコンポーネントは核局在化シグナルを含み、(作用剤の非存在下で)核内に転写制御エレメントを局在させる。核内に局在すると、転写制御エレメントの一部である転写因子は、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写を上方調節するか、または下方調節し得る。
【0078】
転写制御コンポーネント
本発明の転写システムの転写制御コンポーネントは、転写因子、およびドッキングコンポーネント上の相互ドメインと相互作用する第1のヘテロ二量体形成ドメインを含む。
【0079】
本発明の第1の実施形態において、転写制御コンポーネントは核局在化シグナルを含み、そのため、作用剤の存在下で転写制御コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離すると、転写制御コンポーネントは核へと移行し、そこで転写制御エレメントの一部である転写因子は、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写を上方調節または下方調節し得る。
【0080】
本発明の第2の実施形態において、転写制御コンポーネントは核外輸送シグナルを含み、そのため、作用剤の存在下で転写制御コンポーネントがドッキングコンポーネントから分離すると、転写制御コンポーネントは核外へと移行し、転写因子の媒介する遺伝子の転写の制御はオフにされる。
【0081】
ターゲティングペプチド
細胞内でのタンパク質ターゲティングのプロセス中に、タンパク質は、細胞内で適切に局在する(すなわち、オルガネラ、細胞内膜、細胞膜、または分泌を介して細胞外部)ように指示される;これは、タンパク質自体に含まれる情報に基づく。
【0082】
この情報は、ターゲティングペプチド(一続きのアミノ酸配列である);あるいは、ターゲティングパッチ(ポリペプチドの一次配列内に分散されているが、フォールディング後には機能的な形状へとまとめ上げられる、2つまたはそれより多くの数の配列を含む)という形をとり得る。
【0083】
ターゲティングペプチドまたはターゲティングパッチは、一般に3から70のアミノ酸を含む。この配列(複数可)が、細胞内の特定の領域(核、ミトコンドリア、小胞体、または細胞膜など)へのタンパク質の輸送を指示する。
【0084】
膜局在化ドメイン
本発明の第1の実施形態において、ドッキングコンポーネントは膜局在化ドメインを含む。このドメインは、ドッキングコンポーネントを細胞膜に取りつけさせるか、または細胞膜の近位に保持させる、任意の配列であり得る。
【0085】
膜局在化ドメインは、新生ポリペプチドをまずはER膜へと取り付けさせる配列であり得る。膜の物質はERからゴルジへと、そして最終的に細胞膜へと「流れる」ため、当該タンパク質は、合成/輸送プロセスの終わりにおいても膜と会合したままである。
【0086】
膜局在化ドメインは、例えば、膜貫通配列、輸送停止配列、GPIアンカー、またはミリストイル化/プレニル化/パルミトイル化部位を含み得る。
【0087】
あるいは膜局在化ドメインは、細胞膜に局在するタンパク質または他のエンティティへと(例えば、膜近位のエンティティへの結合により)ドッキングコンポーネントを向かわせ得る。ドッキングコンポーネントは、例えば、免疫シナプスに関与する分子(TCR/CD3,CD4,またはCD8など)に結合するドメインを含み得る。
【0088】
ミリストイル化は脂肪付加修飾であり、この修飾においては、ミリスチン酸に由来するミリストイル基が、アミド結合により、N末端グリシン残基のアルファアミノ基へと共有結合する。ミリスチン酸は炭素数14の飽和脂肪酸であり、n-テトラデカン酸としても知られる。この修飾は、翻訳と同時に、または翻訳後のいずれかに付加され得る。N-ミリストイルトランスフェラーゼ(NMT)は、細胞の細胞質においてミリスチル酸付加反応を触媒する。疎水性であるミリストイル基は細胞膜内のリン脂質と相互作用するため、ミリストイル化は、これを取り付けられたタンパク質の膜へのターゲティングを引き起こす。
【0089】
本発明のドッキングコンポーネントは、NMT酵素によってミリストイル化され得る配列を含み得る。本発明のドッキングコンポーネントは、細胞内で発現されたときにミリストイル基を含み得る。
【0090】
ドッキングコンポーネントは、NMT酵素によって認識されるコンセンサス配列(NH2-G1-X2-X3-X4-S5-X6-X7-X8など)を含み得る。
【0091】
パルミトイル化は、タンパク質のシステイン残基、ならびより低頻度でセリンおよびスレオニン残基に、パルミチン酸などの脂肪酸を、共有結合により取り付けることである。パルミトイル化はタンパク質の疎水性を増強し、膜との会合を誘導するために用いられ得る。プレニル化およびミリストイル化とは対照的に、パルミトイル化は通常、可逆的である(多くの場合、パルミチン酸とタンパク質との間の結合がチオエステル結合であるため)。逆反応は、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼにより触媒される。
【0092】
Gタンパク質を介したシグナル伝達において、αサブユニットのパルミトイル化、γサブユニットのプレニル化、およびミリストイル化は、Gタンパク質を細胞膜の内側表面へとつなぎとめることに関与し、その結果、Gタンパク質がその受容体と相互作用できるようになる。
【0093】
本発明のドッキングコンポーネントは、パルミトイル化され得る配列を含み得る。本発明のドッキングコンポーネントは追加の脂肪酸を含み得、細胞内で発現されたときに膜への局在を引き起こす。
【0094】
プレニル化(イソプレニル化または脂肪付加としても知られる)は、タンパク質または化合物への疎水性分子の付加である。プレニル基(3-メチル-ブタ-2-エン-1-イル)は、GPIアンカーのような脂質アンカーと同様に、細胞膜への取り付けを容易にする。
【0095】
タンパク質のプレニル化は、ファルネシル部分またはゲラニル-ゲラニル部分のいずれかの、標的タンパク質のC末端システイン(複数可)への転移を伴う。細胞内でプレニル化を行う、3種の酵素(ファルネシルトランスフェラーゼ、Caaxプロテアーゼ、およびゲラニルゲラニルトランスフェラーゼI)がある。
【0096】
本発明のドッキングコンポーネントは、プレニル化され得る配列を含み得る。本発明のドッキングコンポーネントは1つまたはそれより多くの数のプレニル基を含み得、細胞内で発現されたときに膜への局在を引き起こす。
【0097】
核外輸送シグナル
核外輸送シグナル(NES)はタンパク質中の4つの疎水性残基という短いアミノ酸配列であり、そのタンパク質を、核膜孔複合体を通って細胞核から細胞質へと至る、核輸送を用いた輸送の標的にする。このシグナルは、細胞質内に局在するタンパク質を核への移入の標的にする核局在化シグナルとは、反対の効果を有する。NESは、エクスポーチンによって認識され、結合される。
【0098】
NESは多くの場合、いくつかの疎水性アミノ酸(多くの場合ロイシン)からなり、2から3個の他のアミノ酸がその間に配置される。既知のNESのin silico解析により、疎水性残基の最も一般的なスペーシングが、LxxxLxxLxL(”L”は疎水性残基(多くの場合ロイシン)であり、”x”は他の任意のアミノ酸)であることが見出された。
【0099】
NESdbデータベースは、200種を超える核外輸送シグナルを収載している(Xu et al(2012)Mol Biol Cell 23:3677-3693)。
【0100】
核局在化シグナル
核局在化シグナルまたは核局在化配列(NLS)は、核輸送によって細胞核へと移入するためにタンパク質を「タグ」付けするアミノ酸配列である。典型的には、このシグナルは、タンパク質表面に露出される正電荷を帯びたアミノ酸(リシンまたはアルギニンなど)の、1つまたはそれより多くの短い(例えば、5アミノ酸の)配列からなる。NLSは、ポリペプチド鎖上のいかなる場所にも位置し得る。様々な核局在タンパク質が、同じNLSを共有し得る。
【0101】
タンパク質は、核膜を通って核へと入る。核膜は、外膜と内膜という同心円状の膜からなる。内膜と外膜とは複数の部位でつながり、細胞質と核質との間にチャネルを形成する。このチャネルは、核膜を横断する輸送を媒介する複合多タンパク質構造である、核膜孔複合体(NPC)によって占有される。
【0102】
翻訳されたNLSを有するタンパク質はインポーチン(カリオフェリンとしても知られる)に強く結合し、続いて、この複合体が核膜孔を通って移動する。
【0103】
古典的なNLSは、単節型または双節型のいずれかである。最初に発見されたNLSは、SV40ラージT抗原中の配列PKKKRKV(配列番号1)であった(単節型NLS)。ヌクレオプラスミンのNLSであるKR[PAATKKAGQA]KKKK(配列番号2)は、遍在する双節型シグナル(約10アミノ酸のスペーサによって分離された、塩基性アミノ酸の2つのクラスター)のプロトタイプである。いずれのシグナルも、インポーチンαによって認識される。
【0104】
単節型NLSは、コンセンサス配列(例えば、K-K/R-X-K/R)を有し得る。この配列は、双節型NLSの塩基性クラスターの下流側の一部であり得る。
【0105】
核局在化シグナルの他の例として、ヌクレオプラスミン(AVKRPAATKKAGQAKKKKLD-配列番号3)、EGL-13(MSRRRKANPTKLSENAKKLAKEVEN-配列番号4)、c-Myc(PAAKRVKLD-配列番号5)、およびTUS-タンパク質(KLKIKRPVK-配列番号6)のNLSを融合されたeGFPが挙げられる。
【0106】
多くの他のタイプの「非古典的な」NLSがあり、例えば、hnRNP A1の酸性M9ドメイン、イースト転写リプレッサーMatα2中の配列KIPIK、およびU snRNPの複合シグナルなどがある。これらのNLSの多くは、インポーチンβファミリーの特定の受容体によって、インポーチンα様タンパク質の介入なしに、直接的に認識されるように思われる。
【0107】
転写因子
本発明の転写システムの転写制御コンポーネントは、転写因子を含む。
【0108】
転写因子は特定のDNA配列に結合して、その配列を含むかまたは隣接する遺伝子の発現を調節することで、DNAからメッセンジャーRNAへの遺伝情報の転写速度を制御するタンパク質である。
【0109】
転写因子は、RNAポリメラーゼの動員を促進(アクチベーターとして)するか、または妨害(リプレッサーとして)することで働く。
【0110】
本発明の第1の実施形態において、作用剤の存在は、転写制御コンポーネントを(したがって、転写因子を)核に再局在させる。したがって、転写因子がアクチベーターである場合、このシステムにおいて作用剤の存在は、標的遺伝子の転写を上方調節する。転写因子がリプレッサーである場合、作用剤の存在は標的遺伝子の転写を下方調節する。
【0111】
本発明の第2の実施形態において、作用剤の存在は、転写制御コンポーネントを(したがって、転写因子を)核から出させ、細胞質に再局在させる。したがって、転写因子がアクチベーターである場合、このシステムにおいて作用剤の存在は、標的遺伝子の転写を下方調節する。転写因子がリプレッサーである場合、作用剤の存在は、阻害を解除して標的遺伝子の転写の上方調節を引き起こす。
【0112】
転写因子は、DNAのエンハンサー領域またはプロモーター領域のいずれかに取りつく、少なくとも1つのDNA結合ドメイン(DBD)を含む。転写因子に依存して、隣接する遺伝子の転写が上方または下方調節される。転写因子は、他のタンパク質(転写コレギュレーターなど)のための結合部位を有するトランス活性化ドメイン(TAD)も含む。
【0113】
遺伝子発現の調節のために転写因子は様々な手段を用い、この手段としてRNAポリメラーゼのDNAへの結合の安定化もしくは妨害、またはヒストンタンパク質のアセチル化もしくは脱アセチル化の触媒が挙げられる。転写因子は、ヒストンタンパク質をアセチル化してDNAとヒストンとの結合を弱め、そしてDNAを転写しやすくし、これにより転写が上方調節される、ヒストンアセチル基転移酵素(HAT)としての活性を有し得る。あるいは転写因子は、ヒストンタンパク質を脱アセチル化してDNAとヒストンの結合を強め、そしてDNAを転写しにくくし、これにより転写が下方調節される、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)としての活性を有し得る。転写因子が機能し得る別の機構は、転写因子DNA複合体へのコアクチベーターまたはコリプレッサータンパク質の動員による。
【0114】
基本転写因子または上流転写因子という、2つの機構クラスの転写因子がある。
【0115】
基本転写因子は、転写開始前複合体の形成にかかわる。もっとも一般的なものは、TFIIA,TFIIB,TFIID,TFIIE,TFIIF,およびTFIIHと略される。これらは遍在し、全てのクラスII遺伝子の転写開始部位(複数可)を囲むコアプロモーター領域と相互作用する。
【0116】
上流転写因子は、転写を刺激または抑制するために開始部位の上流に結合するタンパク質である。上流転写因子は、遺伝子の近くにどのような認識配列が存在するかに依存して相当に多様であるゆえに、これらは特定の転写因子と同義である。
特定の転写因子のいくつかの例を、以下の表において示す:
【表3-1】
【表3-2】
【0117】
転写因子はしばしば、配列の類似性、およびこれによるそのDNA結合ドメインの三次構造に基づいて分類される。
【0118】
ベーシックドメインを有する転写因子として、ロイシンジッパー因子(例えば、bZIP,c-Fos/c-Jun,CREB,および植物のGボックス結合因子)と;ヘリックスループヘリックス因子(例えば、ユビキタス(クラスA)因子;筋原性転写因子(MyoD);Achaete-ScuteおよびTal/Twist/Atonal/Hen)と;ヘリックスループヘリックス/ロイシンジッパー因子(例えば、bHLH-ZIP,c-Myc,NF-1(A,B,C,X),RF-X(1,2,3,4,5,ANK),およびbHSH)とが挙げられる。
【0119】
亜鉛配位DNA結合ドメインを有する転写因子として、核内受容体型のCys4ジンクフィンガー(ステロイドホルモン受容体および甲状腺ホルモン受容体類似因子など)と;ダイバースCys4ジンクフィンガー(GATA因子など)と;Cys2His2ジンクフィンガードメイン(TFIIIAおよびSp1を含むユビキタス因子など)と;Kruppelを含む発生/細胞周期調節因子と;NF-6B類似結合特性を有する大型因子と;Cys6システイン-亜鉛クラスターおよび交互配置型ジンクフィンガーとが挙げられる。
【0120】
ヘリックスターンヘリックスドメインを有する転写因子として、ホメオドメインを持つものと;ペアードボックスと;フォークヘッド/ウィングドヘリックスと;熱ショック因子と;トリプトファンクラスターと;TEAD1,TEAD2,TEAD3,TEAD4などのTEA(転写エンハンサー因子)ドメインとが挙げられる。
【0121】
最後に、副構との接触を伴うベータスキャフォールド因子があり、RHR(Rel相同領域)クラスと;STATと;p53と;MADSボックスと;ベータバレルアルファヘリックス転写因子と;TATA結合タンパク質と;HMGボックスと;ヘテロメリックCCAAT因子と;Grainyheadと;低温ショックドメイン因子と;Runtとが挙げられる。
【0122】
本発明の転写因子は、恒常的活性化型であるか、または条件的活性化型(すなわち、活性化を要する)であり得る。
【0123】
転写因子は天然由来であるか、または人工的であり得る。
【0124】
T細胞分化の抑制
活性化の後にT細胞は、
図3に示す様々なT細胞サブタイプへと分化する。T細胞を用いる自家免疫治療アプローチにおいて、被験体内でのT細胞の持続性および生着性は、被験体へと投与されるナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、およびT幹細胞様メモリーT細胞の割合に関連すると考えられている。
【0125】
本発明の転写システムは、患者に投与するための組成物内で、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、および/または幹細胞様メモリーT細胞の割合を効果的に増やすように、遺伝子発現を上方調節または下方調節し得る。
【0126】
本発明の第1の実施形態において、作用剤の存在は、転写因子を核へと移行させ、そこで転写因子は、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写においてその効果を発揮し得る。
【0127】
本発明の第1の実施形態と関連して、転写因子は例えば、セントラルメモリーをリプレスする転写因子(BCL6またはBACH2など)であり得る。セントラルメモリーリプレッサーは、T細胞のエフェクターメモリー細胞への分化を阻害し、そのためT細胞が、あまり分化していないT細胞サブタイプのもの(ナイーブT細胞および幹細胞様メモリーT細胞など)として残る。これらのリプレッサーは、
図3に示す様々なステージを通してT細胞の分化速度を妨害または減少させ、T細胞集団をよりナイーブな表現型へとバイアスする。
【0128】
あるいは、本発明の第1の実施形態と関連して、当該転写因子は、エフェクターメモリーをリプレスする転写因子(BLIMP-1など)であり得る。
【0129】
本発明の第2の実施形態において、作用剤の存在は、転写因子を細胞質へと移行させ、そのため、転写因子は標的遺伝子(複数可)の転写に、もはや影響しなくなる。
【0130】
本発明の第2の実施形態と関連して、当該転写因子は例えば、セントラルメモリー転写因子(EOMES,FOX01,Runx3,TCF1,LEF1,またはID3など)であり得る。セントラルメモリー転写因子は、エフェクターメモリー細胞へのT細胞の分化を促進する。作用剤の存在によるセントラルメモリー転写因子の阻害は、この機能をブロックし、これはつまり、細胞が、あまり分化していないT細胞サブタイプのもの(ナイーブT細胞および幹細胞様メモリーT細胞など)として残る、ということを意味する。
【0131】
あるいは、本発明の第2の実施形態と関連して、当該転写因子は、エフェクターメモリー転写因子(T-bet,AP1,ID2,GATA3,またはRORγtなど)であり得る。
【0132】
BCL6
B細胞リンフォーマタンパク質(BCL6)は、N末にPOZ/BTBドメインを含む、進化的に保存されたジンクフィンガー転写因子である。BCL6は配列特異的な転写のリプレッサーとして働き、B細胞のSTAT依存的なインターロイキン4(IL-4)応答を調整することが示されている。BCL6は、いくつかのコリプレッサー複合体と相互作用して転写を阻害する。
【0133】
BCL6のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号P41182)から入手でき、配列番号7として以下に示す。
配列番号7-BCL6
【化1】
【0134】
BCL6は、以下のアミノ酸位置:518-541,546-568,574-596,602-624,630-652,658-681に、6つのジンクフィンガーを含む。
【0135】
BACH2
Broad complex and cap’n’collar homology(Bach)2タンパク質は、bric-a-brac and tramtrackとしても知られる、92kDaの転写因子である。Bach2タンパク質はベーシックロイシンジッパードメインを介して、musculoaponeurotic fibrosarcoma(Maf)ファミリーのタンパク質とヘテロ二量体を形成する。Bach2の遺伝子座はスーパーエンハンサー(SE)内にあり、そしてSEに調節される遺伝子の発現を調節する。SEは細胞系列遺伝子の発現に重要である。T細胞においては、SEに調節される遺伝子の大部分が、サイトカインおよびサイトカイン受容体の遺伝子である。Bach2は、全てのT細胞系列においてSEと関連する、主要な遺伝子である。
【0136】
Bach2タンパク質は、72のリン酸化部位からなる。これらの部位のうちSer-335は、Aktの標的となるコンセンサス配列(RXRXX(S/T)X)からなる。11の部位(Ser-260,Ser-314,Thr-318,Thr-321,Ser-336,Ser-408,Thr-442,Ser-509,Ser-535,Ser-547,およびSer-718)は、mTORの標的コンセンサス配列(+1位のプロリン)を生ずる。Ser-535およびSer-509のAlaへの置換は、Bach2の核局在を増やし、その標的遺伝子の下方調節を増強する。
【0137】
Ser-520部位は、リン酸化についてのAktの基質として同定された。Ser-520のAlaへの置換は、Bach2のリプレッサー能力も増加する。WTまたは変異型Bach2へのeGFPの融合により、S520A Bach2の核局在の増強が明らかになった。T細胞活性化の際のBach2のリン酸化は、細胞質へのBach2の分離をもたらす。リン酸化部位での変異は、このような分離に対してBach2に抵抗性を与え、したがって、その核への局在を増やす。
【0138】
転写制御コンポーネントは、野生型タンパク質と比較してより核局在するBach2のバリアントを含み得る。当該バリアントは、配列番号8で示される配列を参照してSer-535,Ser-520,またはSer-509において変異を有し得る。当該変異は、SerからAlaへの置換などの置換であり得る。
【0139】
Bach2はコンセンサスモチーフ(5’-TGA(C/G)TCAGC-3’)に結合し、このモチーフはAP-1ファミリーによって認識されるモチーフ(5’-TGA(C/G)TCA-3’)の一部である。転写因子であるAP-1ファミリーは、TCR活性化の下流の遺伝子の発現の誘導に関与する。AP-1転写因子ファミリーとしてc-Jun,JunBおよびc-Fosが挙げられる。AP-1因子は、TCR活性化に際してリン酸化され、その後エフェクターへの分化に関与する遺伝子を調節する。Bach2は、重複するモチーフへの結合についてAP-1と競合することで、これらの遺伝子の活性化をリプレスする。
【0140】
Bach2のmRNAの発現はナイーブCD8T細胞において高く、そしてセントラルメモリー細胞(CD62L+KLRG1-)、エフェクター細胞(CD62L-KLRG1-)、および終末分化したエフェクター細胞(CD62L-KLRG1+)において、徐々に下方調節される。Bach2の欠損は終末分化したT細胞をもたらし、アポトーシスを増加させる。
【0141】
Bac2のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号Q9BYV9)から入手でき、配列番号8として以下に示す。
配列番号8-Bach-2野生型
【化2】
【0142】
520位においてSからAへの置換を有する変異型Bach2の配列を、配列番号9として示す。S520A置換は、太字で下線を引かれている。
配列番号9-S520A Bach2変異体(AKTに対して非感受的)
【化3】
【化4】
【0143】
BLIMP-1
B-lymphocyte-induced maturation protein 1(BLIMP1)は、ベータインターフェロン(β-IFN)遺伝子発現のリプレッサーとして働く。このタンパク質は、β-IFN遺伝子プロモーターのPRDI(positive regulatory domain I element)と特異的に結合する。
【0144】
Bリンパ球、Tリンパ球、NK細胞および他の免疫系細胞内でBlimp-1タンパク質の発現が増加すると、抗体を分泌するプラズマ細胞の増殖および分化を介して免疫反応が起こる。Blimp-1は、造血幹細胞の「マスターレギュレーター」であるとも考えられている。
【0145】
BLIMP-1は抗体分泌細胞(ASC)の終末分化制御に関与し、エフェクターT細胞の恒常性の維持において重要な役割を果たす。
【0146】
BLIMP-1のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号O75626)から入手でき、配列番号10として以下に示す。
配列番号10-BLIMP-1
【化5】
【化6】
【0147】
EOMES
Eomesodermin(Eomes)はT-box brain protein 2(Tbr2)としても知られ、ヒトにおいてはEOMES遺伝子によってコードされるタンパク質である。Tボックス遺伝子は、転写因子をコードする。Eomesは免疫応答に関与し、CD8+T細胞において強く発現されるが、CD4+T細胞では発現されない。
【0148】
Eomesのアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号O95936)から入手でき、配列番号11として以下に示す。
配列番号11-EOMES
【化7】
【化8】
【0149】
FOX01
フォークヘッドボックスタンパク質O1(FOXO1)は、横紋筋肉腫におけるフォークヘッドとしても知られ、ヒトにおいてはFOXO1遺伝子によってコードされるタンパク質である。FOXO1はインスリンシグナリングによる糖新生およびグリコーゲン分解の調節において重要な役割を果たす転写因子であり、そして前脂肪細胞の脂肪生成への関与決定の中心でもある。
【0150】
FOX01のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号O12778)から入手でき、配列番号12として以下に示す。
配列番号12-FOX01
【化9】
【0151】
RUNX3
Runt関連転写因子3(Runx3)は、runtドメインを含む転写因子ファミリーのメンバーである。このタンパク質とベータサブユニットのヘテロ二量体は、多数のエンハンサーおよびプロモーター内に見いだされるコアDNA配列(5’-YGYGGT-3’)に結合して複合体を形成し、転写を活性化または抑制し得る。
【0152】
RUNX3のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号O13761)から入手でき、配列番号13として以下に示す。
配列番号13-RUNX3
【化10】
【0153】
TCF1
TCF-1は、HNF-1αとしても知られ、肝臓、腎臓、膵臓、腸、胃、脾臓、胸腺、および睾丸を含む内胚葉由来の器官と、ヒト皮膚におけるケラチノサイトおよびメラノサイトとに発現される転写因子である。TCF-1は、腸上皮細胞の成長および細胞系列分化に影響することが示されている。
【0154】
TCF-1のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号P20823)から入手でき、配列番号14として以下に示す。
配列番号14-TCF1
【化11】
【化12】
【0155】
LEF1
リンパ系エンハンサー結合因子-1(LEF1)は48kDの核タンパク質であり、プレB細胞およびT細胞内で発現される。LEF1は、T細胞受容体アルファ(TCRA)エンハンサー内の機能的に重要な部位に結合し、最大のエンハンサー活性を与える。LEF1は、高移動度タンパク質-1(HMG1)との相同性を共有する調節タンパク質のファミリーに属する。
【0156】
LEF1のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号Q9UJU2)から入手でき、配列番号15として以下に示す。
配列番号15-LEF1
【化13】
【0157】
ID3
DNA結合タンパク質阻害因子ID-3はヘリックスループヘリックス(HLH)タンパク質のIDファミリーのメンバーであり、これはベーシックDNA結合ドメインを欠く。そして、DNAと結合できない非機能性二量体の形成を通して転写を阻害する。
【0158】
ID3のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号Q02535)から入手でき、配列番号16として以下に示す。
配列番号16-ID3
【化14】
【0159】
T-BET
T-bet、またはTボックス転写因子TBX21は、TBX21遺伝子によってコードされ、そして一般的なDNA結合ドメインであるTボックスを共有する、系統学的に保存された遺伝子ファミリーのメンバーである。Tボックス遺伝子は、発生プロセスの調節に関与する転写因子をコードする。この遺伝子は、マウスのTbx21/Tbet遺伝子のヒトにおけるオーソログである。マウスについての研究では、Tbx21タンパク質はTh1細胞に特異的な転写因子であり、特徴的なTh1サイトカインであるインターフェロンガンマ(IFNG)の発現を制御することが示されている。ヒトのオーソログの発現も、Th1細胞およびナチュラルキラー細胞におけるIFNGの発現と相関し、これは、ナイーブなTh前駆細胞からのTh1系列の発達の開始についての、この遺伝子の役割を示唆している。
【0160】
T-betのアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号Q9UL17)から入手でき、配列番号17として以下に示す。
配列番号17-T-bet
【化15】
【0161】
AP1
アクチベータータンパク質1(AP-1)は、サイトカイン、成長因子、ストレス、ならびにバクテリアの感染あるいはウイルスの感染を含む様々な刺激に対する応答において、遺伝子発現を調節する転写因子である。AP-1は、分化、増殖、およびアポトーシスを含む多数の細胞プロセスを制御する。AP-1の構造は、c-Fos,c-Jun,ATF,およびJDPのファミリーに属するタンパク質からなるヘテロ二量体である。
【0162】
AP1のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号P05412)から入手でき、配列番号18として以下に示す。
配列番号18-AP1
【化16】
【0163】
ID2
DNA結合タンパク質阻害因子ID-2は、DNA結合の阻害因子(ID)ファミリーに属し、このファミリーのメンバーは、ヘリックスループヘリックス(HLH)ドメインを含むがベーシックドメインを含まない転写制御因子である。IDファミリーのメンバーは、ベーシックヘリックスループヘリックス転写因子の機能を、そのヘテロ二量体形成のパートナーをHLHドメインによって抑制することにより、ドミナントネガティブな様式で阻害する。このタンパク質は、細胞分化の負の調節に関与しているかもしれない。
【0164】
ID2のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号Q02363)から入手でき、配列番号19として以下に示す。
配列番号19-ID2
【化17】
【0165】
GATA3
トランス活性化を起こす、T細胞特異的な転写因子であるGATA-3は、転写因子のGATAファミリーに属する。GATA-3は、乳腺において管腔上皮細胞の分化を調節する。当該タンパク質は、2つのGATAタイプのジンクフィンガーを含み、T細胞発達の重要な調節因子である。GATA-3は、Th2細胞からのIL-4,IL-5,およびIL-13の分泌を促進し、このTh2細胞サブタイプへのTh0細胞の分化を誘導する一方で、Th1細胞へのTh0細胞の分化を抑制する、ということが示されている。
【0166】
GATA3のアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号P23771)から入手でき、配列番号20として以下に示す。
配列番号20-GATA3
【化18】
【0167】
RORγt
RAR関連オーファン受容体ガンマ(RORγ)は、転写因子の核内受容体ファミリーのメンバーであり、2つのアイソフォーム:RORyおよびRORytを有する。2番目のアイソフォームRORγtの組織分布は、胸腺に強く限定されるようであり、胸腺においてRORγtは、未成熟なCD4+/CD8+胸腺細胞内とリンパ組織誘導(LTi)細胞内とで独占的に発現される。RORγtは、リンパ系、特にリンパ節およびパイエル板の器官形成に必須であるが、脾臓形成においては必須ではない。RORγtは胸腺リンパ球形成において重要な調節の役割を果たし、これは胸腺細胞のアポトーシスの低減と、炎症促進性Tヘルパー17(Th17)細胞への胸腺細胞の分化の促進による。RORγtは、未分化なT細胞のアポトーシスの阻害、およびTh17細胞への未分化T細胞の分化の促進にも関与し、これは恐らく、FasリガンドおよびIL2の各々の発現の下方調節による。
【0168】
RORγtのアミノ酸配列はUniProt(アクセッション番号P51449)から入手でき、配列番号21として以下に示す。
配列番号21-RORγt
【化19】
【化20】
【0169】
CBFベータ
コア結合因子サブユニットベータ(CBFベータ)はヘテロ二量体型コア結合転写因子のベータサブユニットであり、造血(例えばRUNX1)および骨形成(例えばRUNX2)に特異的な多数の遺伝子をマスターレギュレートするPEBP2/CBF転写因子ファミリーに属する。このベータサブユニットは、DNA非結合調節サブユニットである;複合体が様々なエンハンサーおよびプロモーター(ネズミ白血病ウイルス、ポリオーマウイルスエンハンサー、T細胞受容体エンハンサー、およびGM-CSFプロモーターが挙げられる)のコア部位に結合するときに、このベータサブユニットはアルファサブユニットによるDNA結合をアロステリックに増強する。選択的スプライシングにより、異なるカルボキシル末端をコードする2つのmRNAバリアントが生成される。
【0170】
CBFベータのアミノ酸配列は(アクセッション番号Q13951)から入手でき、配列番号22として以下に示す。
配列番号22-CBFベータ
【化21】
【0171】
本発明の転写因子の転写制御コンポーネントは、配列番号7から22に示す転写因子か、またはそれらのバリアントの1種を含み得る。バリアント転写因子は、それが野生型配列の機能(すなわち、1種またはそれより多くの種類の標的遺伝子の転写を上方調節または下方調節する能力)を保持する限り、配列番号7から22に示す配列の1つに対して少なくとも70%,80%,90%,95%,または99%の配列同一性を有し得る。
【0172】
第1の結合ドメイン、第2の結合ドメイン、および作用剤
本発明の転写システムの第1の結合ドメイン、第2の結合ドメイン、および作用剤は、作用剤の非存在下において、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの選択的な共局在化および二量体形成を可能にする分子/ペプチド/ドメインの任意の組み合わせであり得る。
【0173】
そのため、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとは、特異的に結合し得る。
【0174】
本発明の転写システムは、特定の二量体形成システムのアレンジメントに限定されない。転写制御コンポーネントが対応する相補的な結合ドメイン(ドッキングコンポーネントおよび転写制御コンポーネントを作用剤の非存在下で共局在させ得る)を含む限り、ドッキングコンポーネントは、所定の二量体形成システムの第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインのどちらかを含み得る。
【0175】
第1の結合ドメインおよび第2の結合ドメインは、ペプチドドメインおよびペプチド結合ドメインとであり得る;この逆もまたあり得る。ペプチドドメインおよびペプチド結合ドメインは、特異的に結合し得るペプチド/ドメインの任意の組み合わせであり得る。
【0176】
作用剤は、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの間の結合よりも高い親和性で、第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインと特異的に結合できる分子(例えば低分子)であり得る。
【0177】
例えば結合システムは、ペプチド:ペプチド結合ドメインシステムを基にしたものであり得る。第1または第2の結合ドメインはペプチド結合ドメインを含み得、他方の結合ドメインは、ペプチドより低い親和性でペプチド結合ドメインと結合するペプチド模倣物を含み得る。作用剤としてペプチドを使用すると、ペプチド模倣物とペプチド結合ドメインとの結合が競合的な結合により妨害される。ペプチド模倣物は、「野生型」ペプチドと類似したアミノ酸配列であるが、ペプチド結合ドメインとの結合親和性を減ずるための1つまたはそれより多くの数のアミノ酸の変更を有する配列を有し得る。
【0178】
例えば作用剤は、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの間の親和性よりも少なくとも10、20、50、100、1000または10000倍の強さの親和性で、第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインと結合し得る。
【0179】
作用剤は、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの間の親和性よりも高い親和性で第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインと優先的に結合する、薬学的に許容される任意の分子であり得る。
【0180】
作用剤は、標的細胞の細胞質に送達され得、細胞内での結合のために用いられ得る。
【0181】
作用剤は、血液脳関門を通過する能力を有し得る。
【0182】
ペプチドの共局在化を制御するための低分子システムは本分野において知られており、例えばTetリプレッサー(TetR)、TetR相互作用タンパク質(TiP)、テトラサイクリンのシステムがある(Klotzsche et al.;J.Biol.Chem.280,24591-24599(2005);Luckner et al.;J.Mol.Biol.368,780-790(2007))。
【0183】
Tetリプレッサー(TetR)システム
Tetオペロンはよく知られた生物学的なオペロンであり、哺乳動物細胞における使用について適応されている。TetRはホモ二量体としてテトラサイクリンと結合し、結果としてTetR分子のDNAとの結合を調整するような構造変化を受ける。Klotzsche et al.(上記)は、ファージディスプレイに由来する、TetRを活性化するペプチドについて記載した。このタンパク質(TetR相互作用タンパク質/TiP)はTetR内に、テトラサイクリン結合部位と重なるが、同一ではない結合部位を有する(Luckner et al.;上記)。したがって、TiPとテトラサイクリンとは、TetRの結合について競合する。
【0184】
本発明の転写システムにおいて、ドッキングコンポーネントの第1の結合ドメインは、TetRまたはTiPであり得、もしそうであるならば転写制御コンポーネントの第2の結合ドメインは、対応した相補的な結合パートナーである。例えば、もしドッキングコンポーネントの第1の結合ドメインがTetRであるとすると、転写制御コンポーネントの第2の結合ドメインはTiPである。もしドッキングコンポーネントの第1の結合ドメインがTiPであるとすると、転写制御コンポーネントの第2の結合ドメインはTetRである。
【0185】
例えば、第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインは、配列番号23または配列番号24に示す配列を含み得る。
配列番号23-TetR
【化22】
配列番号24-TiP
MWTWNAYAFAAPSGGGS
【0186】
機能するためには、TetRはホモ二量体を形成しなければならない。したがって、受容体コンポーネント上の第1の結合ドメインがTetRであるとき、受容体コンポーネントは膜貫通ドメインと第1の結合ドメイン(TetR)との間にリンカーを含み得る。当該リンカーは、TetRが、近隣の受容体コンポーネントからのTetRとホモ二量体を形成し、正しい方向を向くことを可能にする。
【0187】
リンカーは、配列番号25に示す配列であり得る。
配列番号25-改変CD4エンドドメイン
【化23】
【0188】
あるいはリンカーは、配列番号25に示す配列と類似した長さおよび/またはドメインスペーシング特性を有する代替のリンカー配列を含み得る。
【0189】
リンカーは、配列番号25に対して少なくとも80%,85%,90%,95%,98%,または99%の配列同一性を有し得る(リンカーが、TetRが近隣の受容体コンポーネントからのTetRとホモ二量体を形成し、適切な方向を向くことを可能にする機能を提供する限り)。
【0190】
TetR/TiPシステムの潜在的な不都合の1つは、TetRが異種由来であり、免疫原性であることである。したがってTetR配列は、免疫原性がより低いが特異的にTiPと結合する能力を保持するバリアントであり得る。
【0191】
第1および第2の結合ドメインが、TetRもしくはTiP、またはこれらのバリアントである場合、作用剤はテトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、またはこれらのアナログであり得る。
【0192】
アナログとは、TetRに特異的に結合する能力を保持する、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンのバリアントを指す。
【0193】
現在のCARシステムにおいて用いられ得る、他の結合ドメインと作用剤との組み合わせが本分野で知られている。例えばCARシステムは、ストレプトアビジン/ビオチンベースの結合システムを用い得る。
【0194】
ストレプトアビジン結合エピトープ
第1または第2の結合ドメインは、1つまたはそれより多い数のストレプトアビジン結合エピトープ(複数可)を含み得る。もう一方の結合ドメインは、ビオチン模倣物を含み得る。
【0195】
ストレプトアビジンは、Streptomyces avidiniiという細菌に由来する52.8kDaのタンパク質である。ストレプトアビジンのホモ四量体は、ビオチン(ビタミンB7あるいはビタミンH)に対して、解離定数(Kd)約10-15Mの非常に高い親和性を有する。ビオチン模倣物は、ストレプトアビジンに対して野生型ビオチンより低い親和性を有し、そのため、ストレプトアビジンドメインとビオチン模倣ドメインとの間のヘテロ二量体形成を妨害するか、または防ぐ作用剤として、ビオチンそれ自体が用いられ得る。ビオチン模倣物は、例えば1nMから100uMまでのKdで、ストレプトアビジンに結合し得る。
【0196】
「ビオチン模倣」ドメインは、例えば、ストレプトアビジンと特異的に結合する短いペプチド配列(例えば、6から20,6から18,8から18,または8から15までのアミノ酸)を含み得る。
【0197】
ビオチン模倣物は、表1に示す配列を含み得る。
【表1】
【0198】
ビオチン模倣物は、StreptagII,Flankedccstreptag,およびccstreptagからなる群から選択され得る。
【0199】
ストレプトアビジンドメインは、配列番号33に示す配列を有するストレプトアビジンか、またはビオチンに結合する能力を保持する、ストレプトアビジンのフラグメントもしくはバリアントを含み得る。全長ストレプトアビジンは159のアミノ酸を有する。この159残基の全長タンパク質のNまたはC末端は、短い「コア」ストレプトアビジン(通常、残基13から残基139までからなる)をもたらすように加工される;NおよびC末端の除去は、ビオチンとの高い結合親和性のために必要である。
【0200】
「コア」ストレプトアビジン(残基13~139)の配列を、配列番号33として以下に示す。
配列番号33
【化24】
【0201】
ストレプトアビジンは、自然状態ではホモ四量体として存在する。ストレプトアビジン単量体の二次構造は8つの逆平行β鎖からなり、これらは折りたたまれて逆平行βバレル三次構造を示す。ビオチン結合部位は各βバレルの一端に位置する。4つの同一のストレプトアビジン単量体(すなわち、4つの同一のβバレル)が会合して、ストレプトアビジンの四量体の四次構造をもたらす。各バレル中のビオチン結合部位は、バレル内部からの残基、ならびに隣接するサブユニットからの保存されたTrp120からなる。このようにして、各サブユニットは隣接するサブユニット上の結合部位に寄与し、そのため、四量体は機能的な二量体の二量体とも見なせられる。
【0202】
本発明のCARシステムのストレプトアビジンドメインは本質的に、ストレプトアビジンの単量体、二量体、または四量体からなり得る。
【0203】
ストレプトアビジンの単量体、二量体、または四量体の配列は、配列番号33に示す配列のすべてまたは一部か、またはビオチンに結合する能力を保持するこれらのバリアントのすべてまたは一部を含み得る。
【0204】
ストレプトアビジンのバリアントの配列は、配列番号33またはこの機能的な一部に対して、少なくとも70,80,90,95,または99%の同一性を有し得る。ストレプトアビジンのバリアントは、ビオチン結合に関与する以下のアミノ酸:Asn23,Tyr43,Ser27,Ser45,Asn49,Ser88,Thr90,およびAsp128の残基の1つまたはそれより多くを含み得る。ストレプトアビジンのバリアント(variany)は、例えばこれらの残基の8つすべてを含み得る。結合ドメイン内のストレプトアビジンのバリアントが二量体または四量体として存在する場合、このバリアントは、隣接するサブユニットによるビオチンとの結合に関与するTrp120も含み得る。
【0205】
タンパク質-タンパク質相互作用を妨害する低分子作用剤は、薬学的な目的のために昔から開発されてきた(Vassilev et al;Small-Molecule Inhibitors of Protein-Protein Interactions ISBN:978-3-642-17082-9によりレビュー)。記載の転写システムは、このような低分子を用い得る。その相互作用が妨害される当該タンパク質またはペプチド(あるいはこれらのタンパク質の関連フラグメント)は、第1および/または第2の結合ドメインとして用いられ得、そして当該低分子は、転写因子に媒介される遺伝子発現の制御のスイッチをオンにするか、またはオフにする作用剤として用いられ得る。このようなシステムは、低分子およびタンパク質(記載のように機能するが、当該低分子は望まぬ薬理活性を欠くような)を変更することにより多様であり得る(例えば、Rivera et al(Nature Med;1996;2;1028-1032)による記載に類似な様式において)。
【0206】
その相互作用が低分子などの作用剤を用いて妨害されるタンパク質/ペプチドの一覧を、表2に示す。これらの妨害可能なタンパク質-タンパク質相互作用(PPI)は、本発明の転写システムにおいて用いられ得る。これらのPPIについてのさらなる情報は、White et al 2008(Expert Rev.Mol.Med.10:e8)より入手可能である。
【表2】
【0207】
上記の作用剤が結合する第1の結合ドメインと同じドメインに競合的に結合する第2の結合ドメインであって、したがって作用剤の非存在下では、転写システムのドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとを共局在させるために用いられ得る第2の結合ドメインは、本分野においてよく知られた技術および方法を用いて同定され得る。このような第2の結合ドメインは例えば、シングルドメインVHHライブラリーの提示により同定され得る。
【0208】
転写システムの第1の結合ドメインおよび/または第2の結合ドメインは、相互な結合ドメインと特異的に結合し、したがってドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの共局在を容易にし得るバリアント(複数可)を含み得る。
【0209】
バリアント配列は、野生型配列に対して少なくとも80%,85%,90%,95%,98%,または99%の配列同一性を有し得る(この配列が有効な二量体形成システムを提供する限り)。すなわち、当該配列が、ドッキングコンポーネントと転写コンポーネントとの十分な共局在を容易にし、そのため、これらが作用剤の非存在下でヘテロ二量体を形成し得る限り、である。
【0210】
本発明は、本発明の第1の側面の転写システムを妨害するための方法にも関連し、この方法は、作用剤を投与するステップを含む。上記のように、作用剤の投与は、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの間の共局在の妨害をもたらす。
【0211】
第1および第2の結合ドメインは、転写システムにより、存在する作用剤の濃度に比例する様式で遺伝子発現を制御し得る。したがって作用剤が、第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの間の結合親和性よりも高い親和性で、第1の結合ドメインまたは第2の結合ドメインと結合する一方、低濃度の作用剤の存在下では、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの共局在は完全には取り除かれ得ない。例えば低濃度の作用剤は、遺伝子転写を完全に阻害するのではなく、その遺伝子転写の全体としてのレベルを低減し得る。作用剤の具体的な濃度というのは、必要とされる遺伝子転写のレベルと、具体的な結合ドメインおよび作用剤とに依存して、異なる。
【0212】
キメラ抗原受容体(CAR)
本発明の細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)も発現し得る。
【0213】
古典的なCARは、細胞外抗原認識ドメイン(バインダー)を細胞内シグナリングドメイン(エンドドメイン)へとつなぐ、キメラのI型膜貫通タンパク質である。バインダーは典型的に、モノクローナル抗体(mAb)に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)であるが、抗体様の抗原結合部位を含む他の形式にも基づき得る。スペーサードメインは通常、バインダーを細胞膜から単離するために、そしてそれを適切に配向させるために必要である。一般的に用いられるスペーサードメインは、IgG1のFcである。抗原に依っては、さらにコンパクトなスペーサー(例えば、CD8α由来の軸およびIgG1のヒンジのみ)が十分であり得る。膜貫通ドメインは当該タンパク質を細胞膜内に係留し、そしてエンドドメインにスペーサーをつなぐ。
【0214】
初期のCAR設計は、FcεR1またはCD3ζいずれかのγ鎖の細胞内部分に由来するエンドドメインを有した。結果としてこれらの第1世代の受容体は、T細胞による同源の標的細胞の殺滅を誘発するに足るが、T細胞が増殖して生存するようにT細胞を完全には活性化できない免疫シグナル1を伝達した。この制限を克服するために、混成エンドドメインが構築された:T細胞共刺激分子の細胞内部位とCD3ζの細胞内部位との融合体は、抗原認識後に活性化シグナルおよび共刺激シグナルを同時に伝達し得る第2世代の受容体をもたらす。もっとも一般的に用いられる共刺激ドメインは、CD28のものである。これは、もっとも強力な共刺激シグナル-T細胞増殖を誘発するいわゆる免疫シグナル2を供給する。TNF受容体ファミリー(生存シグナルを伝達し、密接に関係するOX40および41BBなど)のエンドドメインを含むいくつかの受容体も、記載されている。活性化シグナル、増殖シグナル、および生存シグナルを伝達し得るエンドドメインを有する、さらにいっそう強力な第3世代のCARも、現在記載されている。
【0215】
CARをコードする核酸は、例えばレトロウイルスベクターを用いて、T細胞に輸送され得る。レンチウイルスベクターも使用され得る。この方法において、多数のがん特異的T細胞が養子細胞移植のために生成され得る。CARが標的抗原に結合すると、これは、CARが発現されるT細胞への活性化シグナルの伝達をもたらす。したがってCARは、標的抗原を発現する腫瘍細胞に対するT細胞の特異性及び細胞傷害性を導く。
【0216】
したがって、典型的にCARは、(i)抗原結合ドメインと;(ii)スペーサーと;(iii)膜貫通ドメインと;(iii)シグナリングドメインを含むか、またはそれと関連する細胞内ドメインとを含む。
【0217】
抗原結合ドメイン
抗原結合ドメインは、抗原を認識するCARの部分である。多数の抗原結合ドメイン(抗体、抗体模倣物、およびT細胞受容体の抗原結合部位に基づくものを含む)が本分野で既知である。抗原結合ドメインは例えば、モノクローナル抗体に由来する一本鎖可変フラグメント(scFv)か;標的抗原の天然リガンドか;標的に対して十分な親和性を有するペプチドか;シングルドメイン抗体か;Darpin(設計アンキリンリピートタンパク質)などの人工的なシングルバインダーか;またはT細胞受容体に由来する一本鎖を含み得る。
【0218】
抗原結合ドメインは、抗体の抗原結合部位に基づかないドメインを含み得る。抗原結合ドメインは例えば、腫瘍細胞の表面受容体に対する可溶性リガンドであるタンパク質/ペプチド(例えば、サイトカインまたはケモカインなどの可溶性ペプチド)に基づくドメインか;膜に係留されるリガンドもしくは受容体の細胞外ドメインであって、これと結合するペア対応物が腫瘍細胞上で発現される細胞外ドメインを含み得る。
【0219】
抗原結合ドメインは、抗原の天然のリガンドに基づき得る。
【0220】
抗原結合ドメインは、コンビナトリアルライブラリーに由来する親和性ペプチド、または新規に設計された親和性タンパク質/ペプチドを含み得る。
【0221】
スペーサードメイン
CARは、抗原結合ドメインを膜貫通ドメインとつなぎ、そして抗原結合ドメインをエンドドメインから空間的に分離するためのスペーサー配列を含む。柔軟なスペーサーは、結合を促進するために抗原結合ドメインが異なる方向に配位することを可能にする。
【0222】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインは、膜を渡るCARの配列である。
【0223】
膜貫通ドメインは、膜内において熱力学的に安定な任意のタンパク質構造であり得る。典型的にこれは、いくつかの疎水性残基を含むアルファヘリックスである。任意の膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインが、本発明の膜貫通部分を供給するために用いられ得る。タンパク質の膜貫通ドメインの存在および幅は、当業者によりTMHMMアルゴリズム(http://www.cbs.dtu.dk/services/TMHMM-2.0/)を用いて判別され得る。さらに、タンパク質の膜貫通ドメインが相対的に単純な構造(すなわち、膜を渡るために十分な長さの疎水性アルファヘリックスを作ると予想されるポリペプチド配列)であるとすると、人工的に設計されたTMドメインも用いられ得る(米国特許第7052906B1号は、合成膜貫通コンポーネントについて記載している)。
【0224】
膜貫通ドメインはCD28に由来し得、これは優れた受容体安定性を与える。
【0225】
エンドドメイン
エンドドメインは、CARのシグナル伝達部分である。それはCARの細胞内ドメインの一部であるか、またはそれと関連し得る。抗原認識後に受容体はクラスターを形成し、天然のCD45およびCD148がシナプスから除外され、そして細胞にシグナルが伝達される。もっとも一般的に用いられるエンドドメインのコンポーネントは、3つのITAMを含むCD3ゼータのものである。これは抗原の結合後、活性化シグナルをT細胞へと伝達する。CD3ゼータは、完全に適格(competent)な活性化シグナルを提供し得ず、追加の共刺激シグナルが必要となり得る。例えば、キメラのCD28およびOX40が、CD3ゼータと共に増殖/生存シグナルを伝達するために用いられ得、または3つすべてが一緒に用いられ得る。
【0226】
本発明のCARまたはTanCARのエンドドメインは、CD28のエンドドメインならびにOX40およびCD3ゼータのエンドドメインを含み得る。
【0227】
当該エンドドメインは:
(i)CD3ゼータ由来のエンドドメインなどのITAMを含むエンドドメイン;および/または
(ii)CD28由来のエンドドメインなどの共刺激ドメイン;および/または
(iii)例えばTNF受容体ファミリー(OX-40または4-1BBなど)のエンドドメインといった生存シグナルを伝達するドメイン
を含み得る。
【0228】
抗原認識部分がシグナル伝達部分とは別個の分子上にある、多数の系が記述されている(国際公開第015/150771号;国際公開第2016/124930号および国際公開第2016/030691号に記載のものなど)。したがって本発明の細胞に発現されたCARは、抗原結合ドメインおよび膜貫通ドメインを含む抗原結合コンポーネントを含み得る;この抗原結合コンポーネントは、シグナリグドメインを含む別個の細胞内シグナリングコンポーネントと相互作用し得る。本発明の細胞は、抗原結合コンポーネントおよび細胞内シグナリングコンポーネントなどを含むCARシグナリング系を含み得る。
【0229】
シグナルペプチド
本発明の細胞はシグナルペプチドを含み得、そのためCARが細胞内で発現されるとき、新生タンパク質は小胞体へと、その後にその発現場所である細胞表面へと導かれる。
【0230】
シグナルペプチドは、分子のアミノ末端にあり得る。
【0231】
本発明のCARは、一般式:
シグナルペプチド-抗原結合ドメイン-スペーサードメイン-膜貫通ドメイン-細胞内T細胞シグナリングドメイン(エンドドメイン)
を有し得る。
【0232】
核酸配列
本明細書において用いられる場合、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」は、互いに同義であるように意図される。
【0233】
多数の異なるポリヌクレオチドおよび核酸配列が、遺伝子コードの縮退の結果として同一のポリペプチドをコードし得るということが、当業者により理解される。さらに、当業者が常用技術を用いて、ポリペプチドが発現される特定のホスト生物のコドン使用頻度を反映するために、本明細書中に記載されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの配列に影響しないヌクレオチドの置換を作り得る、ということも理解される。
【0234】
本発明による核酸は、DNAまたはRNAを含み得る。この核酸は、一本鎖または二本鎖であり得る。この核酸は、その中に合成または改変されたヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであり得る。オリゴヌクレオチドに対する多数の異なるタイプの改変が、本分野において知られている。この改変として、メチルホスホネートおよびホスホロチオエート骨格、当該分子の3’末端および/または5’末端におけるアクリジンまたはポリリジン鎖の付加が挙げられる。本明細書中に記載の使用目的のために、ポリヌクレオチドが本分野において利用できる任意の方法を用いて改変され得ることが理解される。このような改変は、対象ポリヌクレオチドのin vivo活性または寿命を増強するために行われ得る。
【0235】
用語「バリアント」、「ホモログ」、または「派生物」はヌクレオチド配列との関連において、配列からのまたは配列への、1つ(またはそれを超える)の核酸の任意の置換、バリエーション、改変、交換、欠失、または付加を含む。
【0236】
核酸コンストラクト
本発明は、上で定義したドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列および転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む、核酸コンストラクトを提供する。
【0237】
核酸配列は、いずれかの順番で当該核酸コンストラクト中にあり得る(すなわち、第1-第2;または第2-第1)。
【0238】
核酸コンストラクトは、以下の構造でありえる:
DC-coexpr-TCC;または
TCC-coexpr-DC
であって、式中:
DCがドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
coexprがドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である。
【0239】
核酸コンストラクトは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列も含み得る。
【0240】
第1、第2、および第3の核酸は、任意の順番で核酸コンストラクト内にあり得る(すなわち、1-2-3,1-3-2,2-1-3,2-3-1,3-1-2,または3-2-1)。
【0241】
核酸コンストラクトは、例えば以下の構造の1つを有し得る:
CAR-coexpr1-DC-coexpr2-TCC;
CAR-coexpr1-TCC-coexpr2-DC;
DC-coexpr1-TCC-coexpr2-CAR;または
TCC-coexpr1-DC-coexp2-CAR
であって、式中:
CARがキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
DCがドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
同一または相違であり得るcoexpr1およびcoexpr2が、ドッキングコンポーネント、転写制御コンポーネント、およびキメラ抗原受容体の共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である。
【0242】
核酸コンストラクトは、2つ以上のタンパク質を発現できる核酸配列も含み得る。例えば核酸コンストラクトは、2つの核酸配列間に切断部位をコードする配列を含み得る。当該切断部位は自己切断性であり得、そのため、新生ポリペプチドが産生されると、このポリペプチドはただちに、いかなる外部の切断活性をも要さずに2つのタンパク質に切断される。
【0243】
様々な自己切断部位が知られており、以下の配列を有する口蹄疫ウイルス(FMDV)2aの自己切断ペプチドが挙げられる:
配列番号34
RAEGRGSLLTCGDVEENPGP
または
配列番号35
QCTNYALLKLAGDVESNPGP
【0244】
あるいは共発現配列は、内部リボソーム侵入配列(IRES)または内部プロモーターであり得る。
【0245】
ベクター
本発明は、本発明による1つ以上の核酸配列(複数可)もしくはコンストラクト(複数可)を含む、ベクターまたはベクターのキットも提供する。このようなベクターは、核酸配列(複数可)またはコンストラクト(複数可)をホスト細胞内へと導入するために用いられ得、その結果、ホスト細胞は核酸配列またはコンストラクトによってコードされるタンパク質を発現する。
【0246】
当該ベクターは例えば、プラスミド、ウイルスベクター(レトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクターなど)、トランスポゾンベースのベクター、または合成mRNAであり得る。
【0247】
当該ベクターは、T細胞にトランスフェクションまたは形質導入し得る。
【0248】
キット
本発明は、上で定義したドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列および転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む、核酸配列のキットも提供する。
【0249】
キットは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列も含み得る。
【0250】
本発明は、上で定義した、ドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列を含む第1のベクターと;転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む第2のベクターとを含む、ベクターのキットも提供する。
【0251】
キットは、キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む第3のベクターも含み得る。
【0252】
核酸配列のキット、またはベクターのキットは、ドッキングコンポーネントと転写制御コンポーネントとの分離を引き起こす作用剤も含み得る。
【0253】
細胞
本発明は、本発明に記載の転写システムを発現する細胞を提供する。当該細胞は、キメラ抗原受容体も発現し得る。
【0254】
当該細胞は、細胞溶解性免疫細胞であり得る。
【0255】
細胞溶解性免疫細胞は、細胞性免疫において中心的な役割を果たすタイプのリンパ球であるT細胞またはTリンパ球であり得る。細胞溶解性免疫細胞は、細胞表面上のT細胞受容体(TCR)の存在により、B細胞およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)などの他のリンパ球から区別され得る。以下に要約するように、T細胞には様々なタイプがある。
【0256】
ヘルパーTヘルパー細胞(TH細胞)は、B細胞からのプラズマ細胞およびメモリーB細胞への成熟と、細胞傷害性T細胞およびマクロファージの活性化などの免疫プロセスにおいて、他の白血球を支援する。TH細胞はその表面にCD4を発現する。TH細胞は、抗原提示細胞(APC)の表面上にあるMHCクラスII分子によってペプチド抗原を提示されると、活性化状態になる。このTH細胞は、TH1,TH2,TH3,TH17,Th9,またはTFHを含むいくつかのサブタイプ(これらは、異なるタイプの免疫応答を促進するために異なるサイトカインを分泌する)のうちの1つへと分化し得る。
【0257】
細胞溶解性T細胞(TC細胞またはCTL)は、ウイルスに感染された細胞および腫瘍細胞を破壊し、そして移植拒絶反応にも関与する。CTLはその表面にCD8を発現する。この細胞は、MHCクラスI(すべての有核細胞の表面に存在する)に会合される抗原への結合により標的を認識する。レギュラトリーT細胞によって分泌されるIL-10,アデノシン,および他の分子によってCD8+細胞はアネルギー状態へと不活化され得、実験的自己免疫性脳脊髄炎などの自己免疫疾患を防ぐ。
【0258】
メモリーT細胞は抗原特異的T細胞のサブセットであり、感染が回復した後であっても長期的に存続する。メモリーT細胞はその同種抗原への再暴露に際して、ただちに多数のエフェクターT細胞へと拡張し、したがって免疫系に、過去の感染に対する「メモリー」を提供する。メモリーT細胞は、3つのサブタイプを含む:セントラルメモリーT細胞(TCM細胞)および2タイプのエフェクターメモリーT細胞(TEM細胞およびTEMRA細胞)。メモリー細胞は、CD4+またはCD8+のいずれかであり得る。典型的にメモリーT細胞は、細胞表面タンパク質CD45ROを発現する。
【0259】
レギュラトリーT細胞(Treg細胞)は、以前はサプレッサーT細胞として知られており、免疫寛容の維持のために重要である。この細胞の主要な役割は、T細胞性免疫を免疫応答の終わりに向けてシャットダウンすることと、胸腺における負の選択のプロセスを逃れた自己反応性T細胞を抑制することである。
【0260】
2つの主要なクラスのCD4+Treg細胞が、記載されている-内在性Treg細胞およびアダプティブTreg細胞。
【0261】
内在性Treg細胞(CD4+CD25+FoxP3+のTreg細胞としても知られる)は胸腺において生じ、成長途上のT細胞と、TSLPによって活性化されている骨髄系(CD11c+)および形質細胞様(CD123+)樹状細胞の両方との間の相互作用に関連付けられる。内在性Treg細胞は、FoxP3と呼ばれる細胞内分子の存在により他のT細胞から区別され得る。FOXP3遺伝子の変異は、レギュラトリーT細胞の発生を防ぎ、致死的な免疫疾患であるIPEXを引き起こし得る。
【0262】
アダプティブTreg細胞(Tr1細胞またはTh3細胞としても知られる)は、通常の免疫応答の間に生じ得る。
【0263】
ナチュラルキラー細胞(またはNK細胞)は細胞溶解性細胞の1つのタイプであり、自然免疫系の一部を形成する。NK細胞は、ウイルスに感染した細胞からの自然シグナルに対する急速な応答を、MHCに依存しない様式により提供する。
【0264】
NK細胞(自然リンパ球のグループに属する)は大顆粒リンパ球(LGL)として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を産生するリンパ系共通前駆細胞から分化する第3種の細胞を構成する。NK細胞は骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃および胸腺において分化および成熟し、その後これらから循環内へと入ることが知られている。
【0265】
本発明の細胞は、上記の細胞タイプのいずれかであり得る。
【0266】
本発明の細胞は、患者自身の末梢血(ファーストパーティー)からか、ドナー末梢血からの造血幹細胞移植の状況(セカンドパーティー)においてか、または縁故関係のないドナー由来の末梢血(サードパーティー)から、ex vivoに作られ得る。
【0267】
あるいは細胞は、誘導前駆細胞または胚性前駆細胞から、例えばT細胞へのex vivoな分化に由来し得る。あるいは、溶解機能を維持して治療上の細胞として働き得る不死化細胞系列が用いられる。
【0268】
これらすべての実施形態において細胞は、CARおよび転写因子をコードするDNAまたはRNAの導入であって、ウイルスベクターを用いる形質導入、DNAまたはRNAを用いるトランスフェクションを含む様々な手法の1つによる導入によって生成され得る。
【0269】
本発明の細胞は、被験体由来のex vivo細胞であり得る。当該細胞は末梢血単核細胞(PBMC)試料由来であり得る。細胞は、本発明の核酸配列またはコンストラクトで形質導入される前に、例えば抗CD3モノクローナル抗体を用いる処置によって活性化および/または拡張され得る。
【0270】
本発明の細胞は:
(i)被験体または上記の他の供給源から細胞を含む試料を単離することと;
(ii)本発明による核酸配列またはコンストラクトを用いて細胞の形質導入またはトランスフェクションすることと
によって作られ得る。
【0271】
組成物
本発明は、本発明の複数種の細胞を含む医薬組成物にも関連する。当該医薬組成物はさらに、薬学的に許容されるキャリアー、希釈剤、または賦形剤を含み得る。当該医薬組成物は必要に応じて、1つ以上のさらなる医薬活性ポリペプチドおよび/または医薬活性化合物を含み得る。このような製剤は、例えば静脈内注入のために適した形態であり得る。
【0272】
本発明は、本発明の複数種の細胞、ならびに第1の結合ドメインと第2の結合ドメインとの結合を妨害する作用剤を含む組成物も提供する。
【0273】
処置方法
本発明の細胞は、がん細胞などの標的細胞を殺す能力を有し得る。
【0274】
本発明の細胞は、ウイルス感染などの感染の処置のために用いられ得る。
【0275】
本発明の細胞は、病原となる免疫反応(例えば、自己免疫疾患、アレルギー、および移植片対ホスト拒絶反応)の制御にも用いられ得る。
【0276】
本発明の細胞は、膀胱がん、乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、腎臓がん(腎細胞)、白血病、肺がん、メラノーマ、非ホジキンリンパ腫、すい臓がん、前立腺がん、および甲状腺がんなどの、がん性疾患の処置にも用いられ得る
【0277】
本発明の細胞は、以下の処置に用いられ得る:舌、口、および咽頭のがんを含む口腔ならびに咽頭のがん;食道、胃、および直腸結腸のがんを含む消化器系のがん;肝細胞癌および胆管癌を含む肝臓ならびに胆管(biliary tree)のがん;気管支がんおよび喉頭のがんを含む呼吸器系のがん;骨肉腫を含む骨および関節のがん;メラノーマを含む皮膚のがん;乳がん;女性において子宮、卵巣および子宮頸部のがん、男性において前立腺および精巣のがんを含む生殖器のがん;腎細胞癌、および子宮(utterer)または膀胱の移行上皮細胞癌を含む腎尿路のがん;神経膠腫、多型膠芽腫、および髄芽腫を含む脳のがん;甲状腺がん、副腎がん、および多発性内分泌腫瘍症候群に関連するがんを含む内分泌系のがん;ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含むリンパ腫;多発性骨髄腫および形質細胞腫;急性および慢性の両方の白血病(骨髄性またはリンパ性);ならびに、他および部位不特定のがん(神経芽腫を含む)。
【0278】
遺伝子転写の調節
本発明の細胞内で遺伝子の転写を調節するための、in vitroで細胞に作用剤を投与することによる方法も、提供される。
【0279】
本発明の第1の実施形態において、作用剤の投与は、転写因子に媒介される遺伝子調節をオンにする;他方、本発明の第2の実施形態において、作用剤の投与は、転写因子に媒介される遺伝子調節をオフにする。
【0280】
作用剤は、遺伝子転写をin vivoで調節するためにも用いられ得、これは、本発明に記載の細胞を含む被験体に作用剤を投与することによる。作用剤は、本発明に記載の細胞を被験体に投与する前に、またはその後に、または同時に、被験体に投与され得る。
【0281】
本発明の転写システムによってオンまたはオフにされる転写因子は、T細胞の分化および/または疲弊のin vivoでの制御に関与し得る。このような場合、作用剤は、本発明の細胞におけるT細胞の分化または疲弊を防ぐか、あるいは低減するために、in vivoまたはin vitroで用いられ得る。
【0282】
本発明は目下、実施例によってさらに記載される。実施例は、本発明を実施する当業者の支援に役立つことを意図し、いかなる方法においても本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0283】
実施例1-転写制御システムの開発
転写のスイッチングについて試験するために、eGFPの発現が調整されるモデルシステムを構築する。このモデルシステムは、(a)GAL4応答性プロモーター、eGFPをコードする配列、およびポリアデニル化配列からなる受信カセットと;(b1)2Aペプチドによって合成転写因子(核局在化配列または代替のトランスミッティングドメインを融合されたVP16を融合されたGAL4 DNA結合ドメイン、TIPからなる)と共発現される膜係留TetRをコードするDNAからなる送信カセットか、または(b2)2AペプチドによってTIP/GAL4/VP16融合物(核外輸送シグナルを伴う)と共発現される、核局在化シグナルを融合されたtetRをコードするDNAからなる送信カセット:を含むスプリットカセットからなる。安定的に組み入れられた受信カセットおよびいずれかの送信カセットを有するT細胞を生成する。テトラサイクリンを用いずに、そして様々な濃度のテトラサイクリンに曝露した後の様々な時点で、eGFPをフローサイトメトリー法により測定する。
【0284】
実施例2-転写制御システムの試験
CAR T細胞の分化を調整する転写因子を伴う、本システムの利便性について試験するために、次のトリシストロニックなレトロウイルスベクターコンストラクトを生成する。BACH2転写因子を改変し、TIPをアミノ末端に取りつける。これを、2Aペプチドにより膜係留TetRと共発現させる。さらにこれを、再び2AペプチドによりCD19 CARと共発現させる。T細胞をレトロウイルス形質導入により改変し、このトリシストロニックカセットを発現させる。産生の間に、テトラサイクリンの存在下または非存在下で、T細胞を培養する。形質導入後にT細胞の表現型を、T細胞分化について試験する抗体パネルを用いたフローサイトメトリーにより調査する。テトラサイクリンの非存在下または存在下のいずれかで生成したCAR T細胞の機能も、in vitroで、テトラサイクリンの非存在下および存在下で試験する。最後に、テトラサイクリンの非存在下または存在下で生成したCAR T細胞について、B細胞株(ホタルのルシフェラーゼを発現するように操作されたRajiおよびNALM6)の異種移植片を有するNSGマウスにおいて試験する。マウスには、腹腔内テトラサイクリンか、または腹腔内キャリアーのいずれかを与える。生物発光イメージングを用いて、腫瘍を追跡する。屠殺した後、脾臓および骨髄のフローサイトメトリー解析を行う。
【0285】
実施例3-キメラ抗原受容体(CARおよび転写因子(TF)の共発現
BW5T細胞内で、バイシストロニックコンストラクトを単一の転写物として発現した。この転写物は2A部位において自己切断して、キメラ抗原受容体(CAR);および転写因子(TF)を生み出す。2A部位および転写因子を欠くか(「CARのみ」)、またはCARおよび2A部位を欠く(「TFのみ」)コントロールコンストラクトも生成した。
【0286】
当該CARは、CD3ゼータおよび共刺激受容体41BBに由来するエンドドメインを含む抗CD19CARであった。
【0287】
以下の表に示す転写因子を含むコンストラクトが試験された:
【表4】
【0288】
実施例2-表現型アッセイ
【0289】
T細胞の表面上での様々なCARの発現は、CAR抗原の非存在下におけるT細胞のメモリー状態に影響し得る。さらに、CARがその同種抗原へと結合するとそのT細胞が活性化し、よりナイーブなセントラルメモリー表現型から、より分化したエフェクターメモリー表現型/エフェクター表現型へのさらなる分化をもたらす。適切な転写因子/リプレッサーの発現により、このCARを介する分化が様々な程度に防がれると予想される。
【0290】
様々な組み合わせのCAR-TFを発現するT細胞、ならびに関連するCARのみのコントロールおよびTFのみのコントロールを、24時間に渡ってCD19陽性のSKOV3標的細胞と共培養し、その後、当該T細胞を回収して7日目まで培養した。細胞をセントラルメモリーへとバイアスする因子を発現している細胞が、形質導入後によりナイーブであるか、そして抗原を有する標的細胞を用いた刺激に際してもよりナイーブなままであるかについて見るために、共培養から0日目、および7日目において、下記のメモリーマーカーをフローサイトメトリーによって解析した。
メモリーマーカー-CCR7,CD45RA,CD62L,CD27
【0291】
FOXO1についてのデータを
図5に示す。FOXO1とCAR(HD37)の共発現により、CD4+およびCD8+部分集団の両方について0日目および7日目のいずれにおいても、ナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞(CM)の割合が増加した。これは、FOXO1が、形質導入後および標的細胞との共培養後のいずれにおいても、細胞をナイーブ表現型/セントラルメモリー表現型へとバイアスするということを示す。
【0292】
図6は、標的細胞との24時間の共培養から6日後における、CD27およびCD62Lの発現についてのデータを示す。転写因子EOMESは、CD4+およびCD8+T細胞部分集団の両方において、CD27の有意な上方調節を引き起こした。FOXO1は、特にCD8+細胞において、CD27の上方調節を引き起こした。転写因子FOXO1は、CD4+およびCD8+部分集団の両方において、CD62Lの有意な上方調節を引き起こした。CD62Lはナイーブ細胞/セントラルメモリー細胞のマーカーであり、メモリーの表現型決定はFOX01について、CD62Lレベルと相関する:より多くのナイーブ細胞およびメモリー細胞。CD27は完全に分化したエフェクター細胞以外のすべての細胞のマーカーであるため、EOMESを発現する細胞は主に、CD62Lの有意な上方調節を示さない、より分化していないエフェクターメモリーのサブタイプであり得る。
【0293】
図7に示すように、形質導入後(0日目)および24時間の共培養の6日後において、Runx3およびCBFベータのいずれの存在もCD62Lの上方調節を引き起こした。
【0294】
BACH2およびBACH2変異体S520Aについてのデータを
図8に示す。BACH2およびBACH2S520Aのいずれも、0日目および7日目においてナイーブ細胞およびセントラルメモリー細胞(CM)の割合を増加させる。
【0295】
別個のアッセイにおいて、様々な組み合わせのCAR-TFを発現するT細胞、ならびに関連するCARのみを有するT細胞を、CD19陽性のSupT1標的細胞と共培養した。刺激に際して細胞が、より弱い程度に「疲弊」マーカーを発現しているかについて見るために、下記の疲弊マーカーの発現を、フローサイトメトリーによって共培養から0日目、2日目、4日目、および7日目において解析した。
疲弊マーカー-PD1,Tim3,Lag3
【0296】
細胞を、CAR発現(RQR8形質導入マーカーを介して)、ならびに対象の部分集団に依存して、様々なT細胞およびT細胞サブセットのマーカー(CD3およびCD8)によりゲートした。
【0297】
上記の明細書中に記載される刊行物のすべてが、参照により本明細書に援用される。本発明の記載の方法およびシステムの様々な改変およびバリエーションが、当業者にとって、本発明の範囲及び精神から離れることなく自明である。本発明は特定の好ましい実施形態と関連して記載されたが、請求される本発明は、このような特定の実施形態に過度に限定されてはならない、ということが理解されなければならない。実際、本発明を実施するための、記載の様式の、分子生物学または関連する分野における当業者にとって自明な様々な改変が、下記の請求項の範囲内であることが意図される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
転写システムであって、
(a)第1の結合ドメインを含むドッキングコンポーネントと;
(b)転写因子、および該ドッキングコンポーネントの該第1の結合ドメインと結合する第2の結合ドメインを含む転写制御コンポーネントと
を含み、
該第1の結合ドメインと該第2の結合ドメインとの結合が作用剤の存在により妨害され、そのため、該作用剤の非存在下では、該ドッキングコンポーネントと該転写制御コンポーネントとがヘテロ二量体を形成する、転写システム。
(項目2)
項目1に記載の転写システムであって、
前記ドッキングコンポーネントが膜局在化ドメインも含み;そして
前記転写コンポーネントが核局在化シグナルも含み、
そのため、該転写システムが細胞内で発現されると、前記作用剤の非存在下では、該転写コンポーネントが細胞膜の細胞内側に保持される;他方、該作用剤の存在下では、該転写コンポーネントが該ドッキングコンポーネントから分離して、核へと移行し、そこで前記転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する、転写システム。
(項目3)
項目1に記載の転写システムであって、
前記ドッキングコンポーネントが核局在化シグナルも含み;そして
前記転写コンポーネントが核外輸出シグナルも含み、
そのため、該転写システムが細胞内で発現されると、前記作用剤の非存在下では、該転写コンポーネントが核内に保持され、そこで前記転写因子がDNAに結合して遺伝子の転写を調節する;他方、該作用剤の存在下では、該転写コンポーネントが該ドッキングコンポーネントから分離して、細胞質へと移行する、転写システム。
(項目4)
前記作用剤が、前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとの結合を競合的に阻害する低分子である、前記の項目のいずれかに記載の転写システム。
(項目5)
前記の項目のいずれかに記載の転写システムであって、前記第1の結合ドメインがTetリプレッサータンパク質(TetR)を含み、前記第2の結合ドメインが転写誘導ペプチド(TiP)を含むか;または、前記第1の結合ドメインがTiPを含み、前記第2の結合ドメインがTetRを含む;
そして、前記作用剤がテトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリン、あるいはこれらのアナログである、転写システム。
(項目6)
前記第1の結合ドメインまたは前記第2の結合ドメインが、シングルドメインバインダーを含む、項目1から4のいずれかに記載の転写システム。
(項目7)
前記シングルドメインバインダーが、ナノボディ、アフィボディ、フィブロネクチン人工抗体スキャフォールド、アンチカリン、アフィリン、DARPin、VNAR、iBody、アフィマー、フィノマー、ドメイン抗体(dAb)、アブジュリン/ナノ抗体、センチリン、アルファボディ、またはナノフィチンを含む、項目6に記載の転写システム。
(項目8)
前記シグナルドメインバインダーが、ドメイン抗体(dAb)を含む、項目7に記載の転写システム。
(項目9)
前記の項目のいずれかに記載の転写システムであって:
前記第1の結合ドメインがシングルドメインバインダーを含み、前記第2の結合ドメインが該シングルドメインバインダーに結合するペプチドを含むか、または
前記第2の結合ドメインがシングルドメインバインダーを含み、前記第1の結合ドメインが該シングルドメインバインダーに結合するペプチドを含むか
のいずれかであって、
結合が前記作用剤によって競合的に阻害される、転写システム。
(項目10)
前記作用剤が、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、またはミノサイクリンである、項目6から9のいずれかに記載の転写システム。
(項目11)
前記転写因子が、T細胞内で発現されたときに、T細胞の分化および/または疲弊を防ぐか、あるいは低減する、前記の項目のいずれかに記載の転写システム。
(項目12)
前記転写因子が、セントラルメモリーをプロモートする、項目11に記載の転写システム。
(項目13)
前記転写因子が、EOMES、FOX01、Runx3、TCF1、LEF1、およびID3からなる群から選択される、項目12に記載の転写システム。
(項目14)
前記転写因子が、エフェクターメモリーをプロモートする、項目11に記載の転写システム。
(項目15)
前記転写因子が、T-bet、AP1、ID2、GATA3、およびRORγtからなる群から選択される、項目14に記載の転写システム。
(項目16)
前記転写因子が、セントラルメモリーリプレッサーである、項目11に記載の転写システム。
(項目17)
前記転写因子が、BCL6およびBACH2からなる群から選択される、項目16に記載の転写システム。
(項目18)
前記転写因子が、エフェクターメモリーリプレッサーである、項目11に記載の転写システム。
(項目19)
前記転写因子が、BLIMP-1である、項目16に記載の転写システム。
(項目20)
前記転写因子が、Bach2であるか、またはBach2を含む、項目11に記載の転写システム。
(項目21)
前記転写因子が、ALKによってリン酸化される能力を、減ぜられているか、または取り除かれている、改変されたバージョンのBach2を含む、項目11に記載の転写システム。
(項目22)
前記転写因子が、配列番号8で示されるアミノ酸配列を参照して次の位置:Ser-535、Ser-509、Ser-520のうちの1つまたはそれより多くにおいて変異を有する、改変されたバージョンのBach2を含む、項目21に記載の転写システム。
(項目23)
前記の項目のいずれかに記載の転写システムをコードする核酸コンストラクトであって、前記ドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列、および前記転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む、核酸コンストラクト。
(項目24)
項目23に記載の核酸コンストラクトであって、次の構造:
DC-coexpr-TCC;または
TCC-coexpr-DC
を有し、式中:
DCが前記ドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
coexprが該ドッキングコンポーネントおよび前記転写制御コンポーネントの共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが該転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である、核酸コンストラクト。
(項目25)
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む、項目24に記載の核酸コンストラクト。
(項目26)
項目25に記載の核酸コンストラクトであって、次の構造:
CAR-coexpr1-DC-coexpr2-TCC;
CAR-coexpr1-TCC-coexpr2-DC;
DC-coexpr1-TCC-coexpr2-CAR;または
TCC-coexpr1-DC-coexp2-CAR
のうちの1つを有し、式中:
CARがキメラ抗原受容体をコードする核酸配列であり;
DCが前記ドッキングコンポーネントをコードする核酸配列であり;
同一または相違であり得るcoexpr1およびcoexpr2が、該ドッキングコンポーネント、前記転写制御コンポーネント、および該キメラ抗原受容体の共発現を可能にする核酸配列であり;そして
TCCが該転写制御コンポーネントをコードする核酸配列である、核酸コンストラクト。
(項目27)
coexpr、coexpr1、またはcoexpr2が、自己切断ペプチドを含む配列をコードする、項目23から26のいずれかに記載の核酸コンストラクト。
(項目28)
項目1から22のいずれかにおいて定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列と;項目1から22のいずれかにおいて定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列とを含む、核酸配列のキット。
(項目29)
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む、項目28に記載の核酸配列のキット。
(項目30)
項目23から27のいずれかに記載の核酸コンストラクトを含む、ベクター。
(項目31)
項目1から22のいずれかにおいて定義されるドッキングコンポーネントをコードする第1の核酸配列を含む第1のベクターと;項目1から22のいずれかにおいて定義される転写制御コンポーネントをコードする第2の核酸配列を含む第2のベクターとを含む、ベクターのキット。
(項目32)
キメラ抗原受容体をコードする第3の核酸配列を含む第3のベクターも含む、項目31に記載のベクターのキット。
(項目33)
項目1から22のいずれかに記載の転写システムを含む、細胞。
(項目34)
キメラ抗原受容体を発現する、項目33に記載の細胞。
(項目35)
項目33または34に記載の細胞を作るための方法であって、項目23から27のいずれかに記載の核酸コンストラクト、項目28もしくは29に記載の核酸配列のキット、項目30に記載のベクター、または項目31もしくは32に記載のベクターのキットを、細胞内へと導入するステップを含む、方法。
(項目36)
前記細胞が、被験体から単離される試料に由来する、項目35に記載の方法。
(項目37)
項目33または34に記載の細胞の複数種を含む、医薬組成物。
(項目38)
項目37に記載の医薬組成物を被験体に投与するステップを含む、疾患の処置および/または予防のための方法。
(項目39)
項目38に記載の方法であって、次のステップ:
(i)被験体から細胞を含む試料を単離すること;
(ii)項目23から27のいずれかに記載の核酸コンストラクト、項目28もしくは29に記載の核酸配列のキット、項目30に記載のベクター、または項目21もしくは32に記載のベクターのキットを用いて、該細胞の形質導入またはトランスフェクションをすること;および
(iii)該被験体に(ii)に由来する該細胞を投与すること
を含む方法。
(項目40)
前記疾患が、がんである、項目38または39に記載の方法。
(項目41)
疾患の処置および/または予防における使用のための、項目37に記載の医薬組成物。
(項目42)
疾患の処置および/または予防のための医薬の製造における、項目33または34に記載の細胞の使用。
(項目43)
項目33または34に記載の細胞内で、遺伝子の転写を調節するための方法であって、in vitroで、該細胞へと前記作用剤を投与するステップを含む、方法。
(項目44)
被験体内の項目33または34に記載の細胞内で、遺伝子の転写をin vivoで調節するための方法であって、該被験体へと前記作用剤を投与するステップを含む、方法。
(項目45)
項目44に記載の方法であって、次のステップ:
a)項目37に記載の医薬組成物の、被験体への投与;および
b)前記作用剤の、該被験体への投与
を含み、a)およびb)がいずれかの順番で、または同時に投与される、方法。
(項目46)
項目11に記載の転写システムを含む細胞内で、T細胞の分化または疲弊を防ぐか、あるいは低減するための方法であって、前記作用剤を該細胞へと、in vitroで投与するステップを含む、方法。
(項目47)
被験体内の項目11に記載の転写システムを含む細胞内で、T細胞の分化または疲弊をin vivoで防ぐか、あるいは低減するための方法であって、前記作用剤を該被験体へと投与するステップを含む、方法。
(項目48)
項目47に記載の方法であって、次のステップ:
a)項目37に記載の医薬組成物の被験体への投与であって、前記医薬組成物中で前記細胞が項目11に記載の転写システムを含む;および
b)前記作用剤の、該被験体への投与
を含み、a)およびb)がいずれかの順番で、または同時に投与される、方法。
(項目49)
項目33また34に記載の細胞の複数種、ならびに前記第1の結合ドメインと前記第2の結合ドメインとの結合を妨害する前記作用剤を含む、組成物。
【配列表】