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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】X線画像データ処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20220804BHJP
   G01N 23/041 20180101ALI20220804BHJP
【FI】
A61B6/00 330Z
A61B6/00 333
G01N23/041
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019551561
(86)(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2018057391
(87)【国際公開番号】W WO2018172501
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】17162475.2
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100122769
【弁理士】
【氏名又は名称】笛田 秀仙
(74)【代理人】
【識別番号】100163809
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】バルテルス マティアス
(72)【発明者】
【氏名】コーラー トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ロースル エワルド
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-203074(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0095562(US,A1)
【文献】特表2016-501630(JP,A)
【文献】国際公開第2016/177903(WO,A1)
【文献】特開2009-150875(JP,A)
【文献】Franz M. Epple et al.,Phase Unwrapping in Spectral X-Ray Differential Phase-Contrast Imaging With an Energy-Resolving Photon-Counting Pixel Detector,IEEE TRANSACTIONS ON MEDICAL IMAGING,2015年03月,Vol. 34, No. 3,pp. 816-823
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00
G01N 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータ用の処理装置であって、
予め決められた形状を有するファントムを使用して計算される、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を提供する比例係数提供ユニットと、
前記比例係数提供ユニットによって提供される前記比例係数を使用して、対象物の前記イメージングデータに含まれる、前記第1のX線エネルギービンのピクセルの検出強度値及び前記第2のX線エネルギービンのピクセルの検出強度値から、前記対象物のイメージングデータに関する暗視野信号及び物体誘起位相シフトの少なくとも一方を決定する暗視野及び位相シフト決定ユニットと、
を有し、
前記比例係数提供ユニットは、前記第1のX線エネルギービンの減衰値及び前記第2のX線エネルギービンの減衰値に依存して、前記比例係数を提供する、
処理装置。
【請求項2】
前記比例係数提供ユニットが、ルックアップテーブルを有する、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記暗視野及び位相シフト決定ユニットは、前記第1のX線エネルギービンの検出強度値及び前記第2のX線エネルギービンの検出強度値から、前記第1のX線エネルギービンの減衰値、前記第2のX線エネルギービンの減衰値、前記第1のX線エネルギービンの暗視野信号、前記第2のX線エネルギービンの暗視野信号、物体誘起位相シフト、及び外乱誘起位相シフト、を決定する、請求項1に記載の処理装置。
【請求項4】
前記暗視野及び位相シフト決定ユニットは、
に従う最小二乗法による最小化を用い、ここで、Bi,1、Bi,2、Vi,1、Vi,2、αi,1及びαi,2は、それぞれ、ブランクスキャン中に取得されるモアレパターンの強度、可視性、及び位相であり、mi,1は前記第1のエネルギービンの測定されたデータであり、mi,2は前記第2のエネルギービンの測定されたデータであり、Aは前記第1のエネルギービンの減衰値であり、Aは前記第2のエネルギービンの減衰値であり、Dは前記第1のエネルギービンの暗視野信号であり、Dは前記第2のエネルギービンの暗視野信号であり、φは前記物体誘起位相シフトであり、ψは外乱誘起位相シフトであり、cは比例係数である、請求項1に記載の処理装置。
【請求項5】
前記暗視野及び位相シフト決定ユニットは、前記決定に、隣接ピクセルの外乱誘起位相シフトの間の差を小さくする更なる制限を含めるように構成される、請求項1に記載の処理装置。
【請求項6】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定する比例係数決定装置であって、
予め決められた形状を有するファントムを使用して、第1のX線エネルギービンを使用する微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から前記第1のX線エネルギービンの第1の物体誘起位相シフトを計算し、前記ファントムを使用して、第2のX線エネルギービンを使用する微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から前記第2のX線エネルギービンの第2の物体誘起位相シフトを計算する計算ユニットと、
前記第1の物体誘起位相シフト及び前記第2の物体誘起位相シフトから前記比例係数を得る取得ユニットと、
を有する、比例係数決定装置。
【請求項7】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定する比例係数決定システムであって、
請求項6に記載の比例係数決定装置と、
複数の部分を有するファントムであって、各部分は、X線のビーム方向を横切る方向において予め決められた態様で変化する高さを有し、前記ファントムの前記部分の高さは、前記ビーム方向に延在し、前記ファントムのそれぞれ異なる部分が、それぞれ異なる平均高さを有する、ファントムと、
を有し、
前記比例係数決定装置が、前記第1のX線エネルギービンの減衰値及び前記第2のX線エネルギービンの減衰値に依存して、前記比例係数を決定する、比例係数決定システム。
【請求項8】
微分位相コントラストX線イメージングシステムであって、
微分位相コントラストイメージングユニットと、
第1及び第2のX線エネルギービンのX線を提供するX線源と、
請求項1に記載の処理装置であって、前記微分位相コントラストイメージングユニットから、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータを受信するように構成される処理装置と、
を有する微分位相コントラストX線イメージングシステム。
【請求項9】
請求項7に記載の比例係数決定システムを更に有し、前記比例係数決定システムは、前記処理装置の前記比例係数提供ユニットに、前記比例係数に関する情報を提供する、請求項8に記載の微分位相コントラストX線イメージングシステム。
【請求項10】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理方法であって、
予め決められた形状を有するファントムを使用して計算される、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を提供する比例係数提供ステップと、
比例係数提供ユニットによって提供される前記比例係数を使用して、対象物の前記イメージングデータに含まれる前記第1のX線エネルギービンのピクセルの検出強度値及び前記第2のX線エネルギービンのピクセルの検出強度値から、前記対象物のイメージングデータに関する暗視野信号及び物体誘起位相シフトの少なくとも一方を決定する決定ステップと、
を有し、
前記比例係数提供ステップは、前記第1のX線エネルギービンの減衰値及び前記第2のX線エネルギービンの減衰値に依存して、前記比例係数を提供する、
方法。
【請求項11】
前記比例係数提供ステップは、
前記第1のX線エネルギービンと予め決められた形状を有するファントムとを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から、前記第1のX線エネルギービンの第1の物体誘起位相シフトを計算し、前記第2のX線エネルギービンと前記ファントムとを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から、前記第2のX線エネルギービンの第2の物体誘起位相シフトを計算する計算ステップと、
前記第1の物体誘起位相シフト及び前記第2の物体誘起位相シフトから前記比例係数を得る取得ステップと、
を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理方法のためのソフトウェアであって、前記ソフトウェアがコンピュータ上で実行されるとき、請求項10に記載の方法の各ステップをコンピュータに実行させるプログラムコード手段を有するソフトウェア。
【請求項13】
エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定するためのソフトウェアであって、前記ソフトウェアは、前記ソフトウェアがコンピュータ上で実行されるとき、請求項11に記載の方法の各ステップを前記コンピュータに実行させるプログラムコード手段を有するソフトウェア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線イメージングデータ、特に位相コントラストX線イメージングデータの処理に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子ベースの微分位相コントラストイメージングは、近年勢いを増している。そのような技術は、従来の減衰画像、すなわち屈折及び暗視野信号を補完する追加情報を提供することができる。とりわけ、フルフィールドデジタルマンモグラフィ(FFDM)は、この技術の有望なアプリケーションである。最近、最初の臨床FFDMユニットが、Philips MicroDose L30に基づくX線回折格子ハードウェアを装備することに成功した(T. Koehler et al., Slit-scanning differential x-ray phase-contrast mammography: Proof-of-concept experimental studies, Medical Physics 42, 1959 (2015)参照)。最初の結果は、スリットスキャンシステムがFOV、スキャン時間、線量に関する重要な要件を満たすことを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、微分位相コントラストイメージングは、機械的な不安定性及び振動の影響を受けやすい。物体のパラメータ(減衰、屈折、暗視野信号)を抽出するために、記録されたデータは通常、物体なしの参照スキャン(「ブランクスキャン」、上記のT. Koehler他の文献を参照)を考慮することにより処理される。その結果、結果的に得られる画像品質は、反復スキャン中に得られるモアレパターンの繰り返し性によって制限される。従来、例えばブランクスキャンと物体スキャンとの間の振動によって引き起こされる偏差は、誤って物体に帰するものとされて、画像アーチファクトをもたらす。
【0004】
例えば、独国特許出願公開第102014213817A1公報に記述されるように、イメージング装置の構造的な変更により振動等の発生を低減することを目的とする試みがある。しかしながら、このような構造的な変更は、より複雑な機械、すなわちコストの増加につながり、洗練された試みであっても、望ましくない影響を完全に排除することはできない。
【0005】
本発明の目的は、特に格子ベースの微分位相コントラストイメージングにおける振動及び同様のものに関連する前述の問題に対処するためのアプローチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様において、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理装置であって、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフト(object induced phase shift)と第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を提供するように構成される比例係数提供ユニットと、比例係数提供ユニットによって提供される比例係数を使用して、前記イメージングデータに含まれる第1のエネルギービンのピクセルの検出強度値及び第2のエネルギービンのピクセルの検出強度値から、暗視野信号及び物体誘起位相シフトの少なくとも一方を決定するように構成される暗視野及び位相シフト決定ユニットと、を有する処理装置が提示される。請求項に記載の本発明の状況において、「暗視野及び位相シフト決定ユニット」の語は、暗視野信号及び物体誘起位相シフトの両方を決定するように構成される単一のユニット、又は暗視野信号と物体誘起位相シフトとを個別に別々のサブユニットにおいて決定するように構成される決定ユニットを意味することができる。
【0007】
本発明の第2の態様において、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定する比例係数決定装置であって、第1のエネルギービン及び予め決められた形状をもつファントムを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から第1のエネルギービンに関する第1の位相シフトを計算し、第2のエネルギービン及び前記ファントムを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から第2のエネルギービンの第2の位相シフトを計算するように構成される計算ユニットと、第1の位相シフト及び第2の位相シフトから比例係数を取得するように構成される取得ユニットと、を有する比例係数決定装置が提示される。
【0008】
本発明の第3の態様において、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線メージングデータの処理方法であって、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例係数を提供する比例係数提供ステップと、比例係数提供ステップにより提供される比例係数を使用して、前記イメージングデータに含まれる第1のエネルギービンのピクセルの検出強度値及び第2のエネルギービンのピクセルの検出強度値から暗視野信号及び物体誘起位相シフトの少なくとも一方を決定する決定ステップと、を有する処理方法が提示される。
【0009】
本発明の第4の態様では、エネルギービニングされる位相差コントラストX線イメージングにおいて第1のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定する比例係数決定方法であって、第1のエネルギービン及び予め決められた形状を有するファントムを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から第1エネルギービンの第1位相シフトを計算し、第2のエネルギービン及び前記ファントムを使用して、微分位相コントラストX線イメージングにより得られる位相画像から第2のエネルギービンの第2の位相シフトを計算する計算ステップと、第1の位相シフト及び第2の位相シフトから比例係数を取得する取得ステップと、を有する比例係数決定方法が提示される。
【0010】
本発明は、例えば、スペクトル情報を利用することにより、格子ベースの微分位相コントラストイメージングにおける振動に関連する問題に対処する。
【0011】
本願の発明者は、マルチエネルギービンX線検出器、振動誘起モアレパターン位相シフトのエネルギー独立性、物体誘起モアレパターン位相シフトのエネルギー依存性、及びエネルギービンの関数として物体誘起位相シフトの依存性を測定できるように設計されたファントム、に基づいて、モアレパターンの振動状態を決定する際にスペクトル情報を利用することができることを見出した。
【0012】
特に、イメージング装置の基本的な物理構造を変更する必要がない一方で、適切なデータ処理により、振動誘起シフト及び同様のものが、物体の特性から分離されることができ、ゆえに、画像内の振動アーチファクトが低減されることがわかった。
【0013】
ここで、本発明は、2より多くのエネルギービンも企図されるので、2つのエネルギービンのみの場合に限定されないことに留意されたい。それぞれの検出された強度値を考慮する場合、振動による位相シフトを決定するために3又はそれより多くのエネルギービンが使用されることができ、更なるエネルギービンの使用は、例えば、本願明細書において2つのエネルギービンについて明示的に説明されるように、第1及び第2のエネルギービンを考慮すること、第1及び(更に)第3のエネルギービンを考慮すること、並びに第2及び第3のエネルギービンを考慮することのそれぞれを実施することによって、個別の(ある程度独立した)決定が可能になるという利点を与える。更に、2つのエネルギービンを使用して、振動による位相シフトを識別することができ、これは、第3のエネルギービンを使用した同時微分位相コントラストイメージングの補正に使用される。
【0014】
好適な実施形態において、比例係数提供ユニットは、第1のエネルギービンの減衰値及び第2のエネルギービンの減衰値に応じて比例係数を提供するように構成される。
【0015】
第1及び第2のエネルギービンそれぞれの減衰値に応じて比例係数を提供する場合、精度の向上が実現可能であるが、状況に応じて、(例えば影響がほとんどない場合に)個々の異なる減衰について変化しない係数の近似値を提供することもできる。
【0016】
上述の実施形態の好適な変形例において、比例係数提供ユニットはルックアップテーブルを有する。
【0017】
ルックアップテーブルは、減衰値をルックアップテーブルのパラメータとして使用することにより、比例係数に迅速にアクセスすることを可能にする。それでもなお、係数を提供する他の方法も可能であり、例えば計算式、又は計算及びルックアップテーブルの組み合わせを提供することも可能である。
【0018】
好適な実施形態において、暗視野信号及び位相シフト決定ユニットは、選択された画像値に関して測定データを得る見込みが最大化されるように、第1のエネルギービンの測定されたデータmi,1及び第2のエネルギービンの測定されたデータmi,2から、第1のエネルギービンの減衰値A、第2のエネルギービンの減衰値A、第1のエネルギービンの暗視野信号D、第2のエネルギービンの暗視野信号D、物体誘起位相シフトφ、及び外乱誘起位相シフトψを決定するように構成される。
【0019】
これは、例えば、測定データと期待データとの間の差にペナルティを課す費用関数が最小化されることを含む。
【0020】
上記の実施形態の好適な変形例において、暗視野信号及び位相シフト決定ユニットは、

に従う最小二乗法による最小化を用いるように構成される。ここで、Bi,1、Bi,2、Vi,1、Vi,2、αi,1及びαi,2は、それぞれ、ブランクスキャン中に取得されるモアレパターンの強度、可視性、及び位相である。
【0021】
しかしながら、最小二乗最小化のようなアプローチを使用することは、1つの選択肢にすぎない。与えられた状況のように、光子のカウントを扱い、負のポアソン対数尤度を最小化することができ、ブランクスキャンの強度が変化する場合は、重み付き最小二乗費用関数を使用することが望ましいことがある。
【0022】
具体的には、上述の実施形態の好適な変形例としても考えられうる更なる好適な実施形態において、暗視野信号及び位相シフト決定ユニットは、決定(例えば、最小二乗最小化)の際に、隣接ピクセルの外乱誘起位相シフトの間のわずかな差を優先するために更なる制限を含むように構成される。特に、最小二乗最小化の場合、これは、予め決められた値より小さい隣接ピクセルの外乱誘起位相シフトの間の絶対差に関する制限に対応しうる。
【0023】
隣接ピクセルが同様の外乱又は振動に苦しむことは先験的知識と見なすことができ、従って、そのような情報が、決定に含められることができる。振動は、回折格子の互いに対する相対位置を変化させることがあり、この場合、更に干渉計は、そのような変化に非常に敏感であることに留意されたいす(μmレンジの変化でさえ目に見える効果をもたらすことがわかった)。
【0024】
好適な実施形態において、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定する比例係数決定システムが提供され、比例係数決定システムは、本発明による比例係数決定装置と、複数の部分を有するファントムとを有し、ファントムの各部分は、X線のビーム方向を横切る方向において、予め決められた態様で変化する高さを有し、ファントムの部分の高さは、ビーム方向における前記部分の延長であり、ファントムのそれぞれ異なる部分は、異なる平均高さを有し、比例係数決定装置は、第1のエネルギービンの減衰値及び第2のエネルギービンの減衰値に応じて比例係数を決定するように構成される。
【0025】
好適な実施形態において、微分位相コントラストX線イメージングシステムが提供され、微分位相コントラストX線イメージングシステムは、微分位相コントラストイメージングユニットと、第1及び第2のエネルギービンのX線を提供するように構成されるX線源と、微分位相コントラストイメージングからエネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータを受信するように構成される本発明による処理装置と、を有する。
【0026】
上述の実施形態の好適な変形例において、イメージングシステムは更に、上述の実施形態による比例係数決定システムを有し、比例係数決定システムは、処理装置の比例係数提供ユニットに比例係数に関する情報を提供するように構成される。
【0027】
比例係数が一定であり(又は定数の値(又は値の組)によって少なくとも十分に近似され)、ゆえに、値を決定するための特定の構成が必要とされない(予め決められた値又は値のセットを記憶する手段を除く)場合が企図され、他の場合には、比例係数に関する情報を明確に決定するように構成される比例係数決定システムが有利であり、これは、例えばエネルギービンのサイズが非常に大きいため、これらのビンにより測定される有効エネルギーが、物体によるビームハードニングのために大きく変化する場合などである。しかしながら、エネルギービンが狭い場合は、単純に式(5)(以下を参照)を使用して比例係数を計算するだけで十分でありうる。
【0028】
本発明の更なる態様において、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理方法のためのソフトウェア製品であって、ソフトウェア製品がコンピュータ上で実行されるときに本発明による方法のステップをコンピュータに実行させるプログラムコード手段を有するソフトウェア製品、及びエネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングにおいて、第1のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンの物体誘起位相シフトとの間の比例係数を決定するソフトウェア製品であって、ソフトウェア製品がコンピュータ上で実行されるときに本発明による方法のステップをコンピュータに実行させるプログラムコード手段を有するソフトウェア製品が提示される。
【0029】
請求項1に記載の処理装置、請求項7に記載の決定ユニット、請求項11に記載の処理方法、請求項12に記載の決定方法、並びに請求項13及び14に記載のコンピュータプログラムは、特に従属請求項に規定される同様の及び/又は同一の好適な実施形態を有することを理解されたい。
【0030】
本発明の好適な実施形態は、従属請求項又は上記の実施形態とそれぞれの独立請求項との任意の組み合わせでもあり得ることを理解されたい。
【0031】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記述される実施形態から明らかになり、それらを参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施形態による微分位相コントラストX線イメージングシステムを示す図。
図2】本発明の実施形態による、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理方法を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1は、本発明の実施形態による微分位相コントラストX線イメージングシステムを示す。
【0034】
システム10は、例えば第1のエネルギーレンジの光子及び第2のエネルギーレンジの光子を含む第1及び第2のエネルギービンのX線を提供するように構成されるX線源15と、対応する微分位相コントラストイメージングユニット20と、を有する。
【0035】
図1では、X線源15とイメージングユニット20との間にファントム25が設けられているが、対象物を撮像するシステム10の動作時は、ファントム25ではなく対象物(図示せず)が、X線源15とイメージングユニット20との間に提供される。
【0036】
ファントム25は、それぞれ異なる高さのいくつかの柱体25aからなる。これらのピラー25aの上部には、ビーム方向において投影される材料高さの一定の勾配をもつ三角形がある。投影される電子密度の一定の勾配(ビーム方向の材料高さによって実現される)は、モアレパターンの一定の位相シフトを生成することに留意されたい。
【0037】
更に、システム10において、イメージングユニット20は、比例係数決定装置30及び処理装置35に結合される。
【0038】
比例係数決定装置30は、計算ユニット40及び取得ユニット45を有し、それらの動作については以下で説明する。
【0039】
処理ユニット35は、比例係数提供ユニット50と、暗視野信号及び位相シフト決定ユニット55とを有し、その動作も以下の記述から明らかになる。
【0040】
比例係数提供ユニット50は、比例係数決定装置30に結合され、そこから比例係数に関するデータ又は情報を受信する。
【0041】
図2は、本発明の実施形態による、エネルギービニングされる微分位相コントラストX線イメージングデータの処理方法を示すフロー図を示す。
【0042】
以下で更に説明するように、この実施形態の方法は、計算ステップ60を有し、図1に示されるようにファントムを微分位相コントラストX線イメージングすることにより得られる位相画像から、第1のエネルギービンに関する第1の位相シフトが計算され、かかる位相画像は、第1のエネルギービンを使用し又はそれに対応する。計算ステップ60は更に、第2のエネルギービンを使用してファントムを微分位相コントラストX線イメージングすることにより得られる位相画像から、第2のエネルギービンの第2の位相シフトを計算することを含む。
【0043】
計算ステップ60において計算された情報に基づいて、次の取得ステップ65は、減衰に関する影響を考慮しながら、ファントムに基づいて第1の位相シフト及び第2の位相シフトから比例係数を取得することを含む。
【0044】
得られる比例係数は、比例係数提供ステップ70において提供され、第1のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトと第2のX線エネルギービンに関する物体誘起位相シフトとの間の比例関係を示す。
【0045】
最後に、比例係数提供ステップ70により提供される比例係数を使用して、前記イメージングデータに含まれる第1のエネルギービンのピクセルの検出強度値及び第2のエネルギービンのピクセルの検出強度値から、暗視野信号及び物体誘起位相シフトの少なくとも一方を決定する決定ステップ75が提供される。
【0046】
以下において、本発明の実施形態の上述の概要が更に説明される。
【0047】
一般的な幾何学的光線について、ピクセルiのタルボット-ロー干渉計の背後で測定される強度について一般に使用されるモデルは、
【0048】
ここで、B、V、及びαは、ブランクスキャン中に得られるモアレパターンの強度、可視性、及び位相をそれぞれ示す。物体のパラメータA、D、φは、それぞれ減衰、暗視野信号、位相シフトに対応する。物体パラメータは、測定データmを使用して最小二乗最小化によって取得される。
【0049】
しかしながら、上記のように、機械的振動は、以下に対応するモアレパターンの追加の位相シフトψを生成する。
【0050】
非スペクトルデータ蓄積を用いる場合、φ及びψが、最小化の最中に分離されることができない。しかしながら、2つのエネルギービンe=[1,2]を有するX線検出器を使用する場合、式(3)は、以下となる:
【0051】
振動シフトψを除くすべてのパラメータは光子エネルギーに依存することに注意されたい。
【0052】
単一エネルギーのX線光子の場合、位相シフトφのエネルギー依存性は以下のとおりである:
【0053】
多色X線の場合、比例係数cは、
により両方のエネルギービンにおいて得られる位相シフトφとφとの間の関係を記述し、比例係数cは、両方のエネルギービンに対応する有効エネルギースペクトルs及びsに依存する。それは、図1に示されるファントムを使用して測定されることができる。
【0054】
両方のエネルギービンについて別個に式(2)を使用することにより、両方のビンの位相画像が得られる。位相画像内の個々の柱体に対応する領域において平均化することにより、式(6)を介して各柱体のcが得られる。高さが異なるため、柱体は、個々異なる程度のビームハードニングを与え、かかるビームハードニングは、両方のビンA,Aについて減衰信号の中で符号化され、減衰画像から抽出されることができる。この方策に従って、c(A,A)についてルックアップテーブルを得ることが可能である。
【0055】
わずかに異なる実施形態(図示しない)において、エネルギービンの平均エネルギーの商に対応する多色X線の場合も、単一エネルギーX線光子の場合と同様に比例係数cが等しくなり、それに対応して、c(A,A)についてそのようなルックアップテーブルが得られうる。
【0056】
物体パラメータから振動誘起シフトを分離するために、両方のエネルギービンに関して式(3)を明示的に記述し、式(6)を使用する。
【0057】
両方のビンからの測定データmi,eを使用する最小二乗最小化によって、物体の位相φは、振動成分ψから分離されることができる:
【0058】
上記の説明は、ピクセルごとに物体誘起位相シフトと振動誘起位相シフトとを分離するのに十分な情報をすでに提供していることに注意されたい。しかしながら、更なる事前知識を追加することによって、推定は更にロバストにされることができ、すなわち、データが隣接する検出器ピクセルと同時に取得される場合、振動誘起位相は、隣接ピクセル同士で同じ(又はほぼ同じ)はずである。スキャン方向に垂直な画像内のラインのピクセルにxのインデックスが付けられる場合、最小化は次のような式で表現できる:
ここでβは、振動誘起位相の変動がどれくらい許容されるかを制御する正則化パラメータである。この場合、隣接するピクセルの振動位相もまた考慮される。太字のシンボルは、ベクトルに言及するために使用される。最後の項は、隣接ピクセルの外乱誘起位相シフトの間の小さな差を優先し、これは、これらの差が振動する格子の共通の原因であるという先験知識と一致する。
【0059】
本願発明者らは、マルチエネルギービンX線検出器に基づくスペクトル情報を利用することにより、機械的不安定性及び変動に伴う問題を回避することを提案する。モアレパターンの振動状態は、振動誘起モアレパターン位相シフトのエネルギー非依存性と、物体誘起シフトのエネルギー依存性を利用して決定されることができる。本願発明者らは、物体誘起位相シフトのエネルギー依存性を測定するためのファントムを提案する。適切なデータ処理により、振動誘起シフトが、物体の特性から分離されることにより、画像のアーチファクトを最小限に抑えることができる。
【0060】
本発明は、図面及び前述の説明において詳しく図示され説明されたが、そのような図示及び説明は、説明的又は例示的であり、限定的なものではないと考えられるべきである。本発明は開示された実施形態に限定されない。
【0061】
特に、上記の説明は、2つのエネルギービンの使用に言及しているが、本発明は、そのような方法に限定されると理解されるべきではなく、例えば追加のエネルギービンの場合、それに応じて追加の比例係数が提供されることができることを述べておく。
【0062】
開示される実施形態に対する他の変更形態は、図面、開示、及び添付の特許請求の範囲の検討から、請求項に記載の本発明を実施する際に当業者によって理解され、達成されることができる。
【0063】
特許請求の範囲において、「含む、有する(comprising)」という語は、他の構成要素又はステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数性を除外しない。
【0064】
単一のプロセッサ、デバイス、又は他のユニットが、特許請求の範囲に記載されるいくつかのアイテムの機能を果たすこともできる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。
【0065】
提供、決定、計算、取得、及び処理などの操作は、コンピュータプログラムのプログラムコード手段として、及び/又は専用ハードウェアとして実現されることができる。
【0066】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に又はその一部として供給される光学記憶媒体又は固体媒体のような適切な媒体に記憶/配布されることができるが、他の形態で、例えばインターネット又は他の有線若しくは無線の電気通信システムを介して、配布されることもできる。
【0067】
請求項中の如何なる参照符号も請求項の範囲を制限するものとして解釈されるべきでない。
図1
図2