(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】燃料と油圧オイルおよび落雷に対する保護を組み合わせたシーリング化合物で充填されたプラスチックキャップ
(51)【国際特許分類】
B64C 1/00 20060101AFI20220804BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B64C1/00 B
C09K3/10 F
(21)【出願番号】P 2019554619
(86)(22)【出願日】2018-03-26
(86)【国際出願番号】 EP2018057572
(87)【国際公開番号】W WO2018184878
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】102017205634.7
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517284496
【氏名又は名称】ケメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ブロック,ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】ベッカー,ヘンドリク
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0153136(US,A1)
【文献】特表2016-521337(JP,A)
【文献】特表2015-519524(JP,A)
【文献】特開2013-095423(JP,A)
【文献】特開2009-030030(JP,A)
【文献】特開2014-001362(JP,A)
【文献】特開2016-097678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 1/00
B64D 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に少なくとも1つの高性能ポリマーで構成される航空機構造の接続要素をシールするためのプラスチックキャップであって、該プラスチックキャップは、DIN IEC 60243に準拠した少なくとも10kV/mmの破壊抵抗を持ち
、高エネルギー吸収能力を持つシーリング化合物で充填され、
前記シーリング化合物が、気体および/または空気充填の中空パッキングからなる群から選択される少なくとも1つのフィラーと、鉱物およびポリマー、気体および/または空気非充填のフィラーからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるフィラーからなるフィラーの組み合わせを含み、前記シーリング化合物が、1重量%~7重量%の範囲の少なくとも1つのフィラーの含有量、及び10重量%~25重量%の範囲の少なくとも1つのさらなるフィラーの含有量を有し、前記プラスチックキャップと前記シーリング化合物は互いに凝集結合している、プラスチックキャップ。
【請求項2】
前記少なくとも1つの高性能ポリマーが、ポリエーテルイミドおよび/またはポリフェニレンスルフィドである、請求項1に記載のプラスチックキャップ。
【請求項3】
前記少なくとも1つの高性能ポリマーが、ポリエーテルイミドである、請求項2に記載のプラスチックキャップ。
【請求項4】
前記少なくとも1つの高性能ポリマーが、衝撃改質されている、請求項1~3の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項5】
前記少なくとも1つの高性能ポリマーが、1.5%以下の吸水率を有する、請求項1~4の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項6】
前記シーリング化合物が、ポリスルフィドおよび/またはポリチオエーテルスルフィドに基づくものである、請求項1~5の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項7】
前記シーリング化合物が、硬化剤としての二酸化マンガン、イソシアネート化合物、イソシアネートプレポリマーおよび/またはエポキシ化合物と組み合わせたポリスルフィドおよび/またはポリチオエーテルである、請求項6に記載のプラスチックキャップ。
【請求項8】
前記シーリング化合物は、0.7~1.5g/cm
3の密度を有する、請求項1~7の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項9】
前記少なくとも1つのフィラー中の前記中空パッキングが、マイクロバルーンである、請求項1~8の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項10】
前記シーリング化合物が、
4重量%~7重量%の範囲の前記少なくとも1つのフィラーの含有量を有する、請求項1~9の何れか1項に記載のプラスチックキャップ。
【請求項11】
前記プラスチックキャップおよび前記シーリング化合物は、化学的付着により互いに凝集結合されている、請求項1~
10の何れか1項に記載のプラスチックキャップ
。
【請求項12】
請求項1~
11の何れか1項に記載のプラスチックキャップを充填および装着する方法であって、前記プラスチックキャップは、計量ロボットによってまたは手動で請求項1~
11の何れか1項に記載のシーリング化合物で充填され、その後、自動化された方法または手動によって航空機の接続要素に適用され、前記シーリング化合物が硬化される、方法。
【請求項13】
前記プラスチックキャップが、計量ロボットによって前記シーリング化合物で充填され、次いで、自動化された方法によって航空機の接続要素に適用される、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
請求項
12又は13の方法により、請求項1~
11の何れか1項に記載のプラスチックキャップが適用された、少なくとも1つの接続要素を有する、航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機構造における接続要素のシーリングの分野に属する。本発明は、燃料と油圧オイルおよび落雷に対する複合保護として機能するシーリング化合物で充填されたプラスチックキャップに関する。加えて、本発明は、そのようなプラスチックキャップの充填および適用の方法および対応する航空機を含む。
【背景技術】
【0002】
航空機産業では、接続要素、特にリベット、リベットヘッド、およびネジ接続は、燃料および油圧オイルからそれらを密封し、湿気および電気化学反応による腐食から保護するために、シーリング化合物でコーティングされている。
【0003】
さらに、このようなシーリングは、接続要素の漏れやすい部位を介した燃料の損失の可能性、および航空機内の圧力降下も防ぐ。
【0004】
特定の危険にさらされる航空機の一部では、シーリング化合物でシールされた特別なプラスチックキャップ(=シールキャップ)も使用される。プラスチックキャップは、複雑な構造のために、統合されたエアーギャップを備えたツインシェル構造の形で、付加的に落雷からの保護を提供することを目的としている。
【0005】
これらのキャップへのシーリング化合物の充填とその適用、すなわち、シーリングされる接続要素へのその取り付けは、非常に複雑である。さらに、内部のシーリング化合物の良好な接着を保証するために、キャップの表面を塗装する必要がある。
【0006】
前記シールキャップの比較的不経済な製造および組み立ては、これまでこの技術の広範な使用に対する障壁となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、航空機構造の接続要素を液体からシールするためのシーリング化合物で充填したプラスチックキャップを提供することであり、これらのプラスチックキャップは、特にリン酸トリブチルに基づく燃料および油圧オイル、また落雷に対する複合保護として機能し、経済的に実行可能な方法で製作および適用できる。
【0008】
より具体的には、これらのキャップは、既存のシールキャップよりも幅広い使用範囲または高い変形性を持ち、航空機建設における頻度の明確な増加を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、請求項1に記載のプラスチックキャップ、請求項13に記載の方法、および請求項15に記載の航空機によって達成された。好ましい実施形態は、それぞれ従属請求項に記載されている。
【0010】
航空機構造の接続要素のシーリング用の本発明のプラスチックキャップは、主に少なくとも1つの高性能ポリマーから成り、DIN IEC 60243に準拠した少なくとも10kV/mmの破壊抵抗を有し、気体および/または空気で充填された中空パッキングからなる群から選択された少なくとも1つのフィラーを含む高エネルギー吸収能力を持つシーリング化合物で充填され、プラスチックキャップとシーリング化合物は互いに凝集結合している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義:
本文脈において「高性能ポリマー」が言及されている場合、意味するものは、高い化学的および熱的安定性を特徴とするホモポリマーおよびコポリマーである。
【0012】
「プラスチックキャップ・・・が主に少なくとも1つの高性能ポリマーで構成されている」とは、高性能ポリマーではない他の構成成分の含有量が50重量%未満であることを意味する。
【0013】
本文脈における「シーリング化合物」は、化学的、熱的および/または化学線により硬化でき、少なくともある程度はまだ硬化していない2つのシーリング化合物成分の混合物を常に意味するものとする。
【0014】
「プラスチックキャップとシーリング化合物が互いに凝集結合している」ことで理解されるべきことは、導入されたシーリング化合物と少なくとも1つの高性能ポリマーを非破壊的に分離できないか、航空機の操作の通常の条件下で分離できないことである。
【0015】
「プラスチックキャップの充填および適用」、すなわち本発明の方法におけるプラスチックキャップの充填および適用について言及する場合、これには、複数のプラスチックキャップを用いる方法の実施も含まれるものとする。
【0016】
燃料、特に灯油に対する優れたシール性と、特にSkydrol(登録商標:Solutia、Inc.)などのリン酸トリブチルをベースとする油圧オイルに対する安定性、および同時に落雷に対する高い破壊抵抗を有するエネルギー吸収能力の組み合わせにより、本発明のシーリング化合物充填プラスチックキャップは、リベットまたはネジ接続のシーリングが優先される航空機の領域でのみ使用される従来のシールキャップよりも幅広い使用範囲を有する。
【0017】
本発明のシールキャップの適用において、落雷が発生しやすい領域と一般的なシールのみを必要とする領域の異なる重要な領域間の正確な区別は、従来のシールキャップの場合ほど重要ではない。その結果、航空機の建設の頻度を明確に増やすことができる。
【0018】
本発明のシーリング化合物充填プラスチックキャップの好ましい特徴および実施形態を以下に説明する。
【0019】
プラスチックキャップ内の少なくとも1つの高性能ポリマーは、特に、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリエーテルイミド(PEI)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)からなる群から選ばれる。
【0020】
さらに好ましくは、プラスチックキャップ内の少なくとも1つの高性能ポリマーは、ポリエーテルイミドおよび/またはポリフェニレンスルフィドである。前述の高性能ポリマーは、灯油、燃料、およびSkydrol(登録商標:Solutia、Inc.)などのリン酸トリブチルをベースとする油圧オイルの両方に対して特に高い安定性を持っている。
【0021】
より好ましくは、少なくとも1つの高性能ポリマーは、ポリエーテルイミドである。これは、ポリエーテルイミドはDIN IEC 60243に準拠して、16kV/mmの破壊抵抗を持つためである。最も好ましくは、少なくとも1つの高性能ポリマーは、ULTEMTM9075樹脂(Sabic Innovative Plastics)である。
【0022】
プラスチックキャップの破壊抵抗は、DIN IEC 60243に準拠して、好ましくは少なくとも13kV/mm、より好ましくは少なくとも15kV/mmである。高い破壊抵抗は、落雷に対する充填されたプラスチックキャップの保護効果をさらに高めるという利点がある。
【0023】
少なくとも1つの高性能ポリマーは、線状形態または分岐形態であってもよい。有利には、耐衝撃性が改良されている、すなわち、ガラス繊維、炭素繊維および/または鉱物繊維が充填されており、したがって機械的に強化されている。
【0024】
少なくとも1つの高性能ポリマーは、好ましくは1.5%以下、より好ましくは0.4%以下、最も好ましくは0.2%以下の吸水率を有する。吸水率が低いと、導電率がさらに低下し材料特性に変化がないため有利である。
【0025】
好ましくは、プラスチックキャップに充填されるシーリング化合物は、ポリスルフィドおよび/またはポリチオエーテルに基づくものである。より好ましくは、二酸化マンガン、イソシアネート化合物、イソシアネートプレポリマーおよび/または硬化剤としてのエポキシ化合物と組み合わせたポリスルフィドおよび/またはポリチオエーテルである。
【0026】
シーリング化合物は、好ましくは0.7~1.5g/cm3の間、より好ましくは1.1~1.3g/cm3の間の密度を有する。したがって、適用されるシーリング化合物の重量の低減が達成されるため、言及された範囲内の密度が有利である。
【0027】
フィラーとしての気体および/または空気充填の中空パッキングの本発明の使用は、これらが微小細胞特性によりエネルギー吸収効果を有するという利点を有する。気体および/または空気で充填された中空パッキングは、好ましくはマイクロバルーンである。
【0028】
シーリング化合物は、好ましくは、1重量%~13重量%の範囲、より好ましくは4重量%~7重量%の範囲の少なくとも1つのフィラー含有量を有する。シーリング化合物の機械的指数はそれでも満たされるため、言及された制限内の含有量は有利である。
【0029】
非常に特に好ましい実施形態では、シーリング化合物は、気体および/または空気で充填された中空パッキングからなる群から選択される少なくとも1つのフィラーと、鉱物およびポリマー、気体および空気の非充填のフィラーからなる群から選択される少なくとも1つのさらなるフィラーとからなるフィラーの組み合わせを含む。上述のフィラーの組み合わせの使用は、そのようなシーリング化合物に対する特定の要求が満たされるという利点を有する。気体および/または空気で充填された中空パッキングは、ここでもマイクロバルーンであることが好ましい。
【0030】
シーリング化合物は、好ましくは、1重量%~13重量%の範囲、より好ましくは4重量%~7重量%の範囲の少なくとも1つの気体および/または空気充填中空パッキングの含有量を有し、また10重量%~25重量%の範囲、より好ましくは15重量%~23重量%の範囲の少なくとも1つのさらなるフィラーの含有量を有する。これにより、特に引張強度、伸び及び安定性に関して正の機械特性をもたらすので、言及された制限内の含有量は有利である。
【0031】
プラスチックキャップとそれに充填されたシーリング化合物は、シーリングコン化合物とプラスチックキャップの化学的付着が達成されるという点で、互いに凝集結合することが好ましい。
【0032】
本発明はまた、本発明の上述のプラスチックキャップを充填および適用する方法を提供し、プラスチックキャップは、計量ロボットによってまたは手動で上述のシーリング化合物で充填され、その後、自動化された方法または手動で航空機内の接続要素に適用され、シーリング化合物が硬化される。
【0033】
硬化は、好ましくは熱的におよび/または赤外線により行われる。
【0034】
本発明の方法の特徴は、適用直前に新たに混合されたシーリング化合物で充填された予備成形のプラスチックキャップの使用を含むため、その並外れた経済的実行可能性である
【0035】
プラスチックキャップの輸送と保管に特別な物流は必要なく、建設現場で必要な承認を得たシーリング化合物が一般に入手できるため、本発明の方法はさらに高い変形性を有する。
【0036】
本発明のシーリング化合物充填のプラスチックキャップの使用により、シーリングキャップの充填および取り付けにおける手作業の低減が可能になり、その結果、航空機構造における頻度が著しく増加する。
【0037】
したがって、好ましい実施形態において、プラスチックキャップは、計量ロボットによってシーリング化合物で充填され、その後、自動化された方法によって航空機の接続要素に適用される。
【0038】
最後に、本発明は、本発明の方法によって本発明のプラスチックキャップが適用された少なくとも1つの接続要素を有する航空機にも関する。
【実施例】
【0039】
本発明の耐雷性プラスチックキャップは、油圧オイルおよび燃料に対する安定性について試験されている。
【0040】
試験設定:
チタンねじは、チタンナットを使用して、対応するドリル加工された炭素繊維シートに取り付けられた。
【0041】
ポリエーテルイミド(PEI)で構成され、最大4重量%の気体充填マイクロバルーンを含むポリスルフィドであるシーリング化合物で充填されたプラスチックキャップが、上記のネジとナットに取り付けられた。次に、シーリング化合物を23℃で14日間硬化させ、その過程でプラスチックキャップとシーリング化合物が互いに凝集結合した。
【0042】
その後、硬化したシーリング化合物で充填されたプラスチックキャップの幾つかを、油圧オイル(HyJet IV A+)に、70℃で168時間保管し、他の幾つかを灯油(Jet A1)に、100℃で336時間保管した。
【0043】
油圧オイルに保管されたプラスチックキャップ、灯油に保管されたプラスチックキャップ、および保管されていないプラスチックキャップは、それぞれ対応する切り欠きを持つ金属ブロックに固定された。次に、装置を使用して、金属ブロックを、炭素繊維シートから直角に引き離した。同時に、ネジとナットからプラスチックキャップを引き離すのに必要な力を確認した(「引き抜き力」)。
【0044】
さらに、プラスチックキャップを取り外した後、プラスチックキャップの凝集破壊とシーリング化合物の外観が検査によって確認された。 ここでは、リベット接続とプラスチックキャップがシーリング化合物で完全に覆われるように、凝集破壊が定義されている。
【0045】
得られた結果は以下の表1に纏められている。
【0046】
【0047】
表1から推測できるように、プラスチックキャップを油圧オイルまたは灯油に保管した場合、結果に大きな変化は見られなかった。