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特許7117373触媒系、及び炭化水素流からヘテロ原子化合物を除去するためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】触媒系、及び炭化水素流からヘテロ原子化合物を除去するためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20220804BHJP
   C10G 53/14 20060101ALI20220804BHJP
   C10G 21/06 20060101ALI20220804BHJP
   C10G 27/12 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B01J31/22 M
C10G53/14
C10G21/06
C10G27/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020518588
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 GB2018051574
(87)【国際公開番号】W WO2018224846
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】102017012313-8
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(73)【特許権者】
【識別番号】519436781
【氏名又は名称】ウニヴェルシダード フェデラル ド リオ グランデ ド スル-ユーエフアールジーエス
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDADE FEDERAL DO RIO GRANDE DO SUL - UFRGS
【住所又は居所原語表記】Rua Paulo Gama No.100 Farroupilha Porto Alegre (BR)
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】デ ソーザ,ウラジミール フェハス
(72)【発明者】
【氏名】アダムスキ,ジャニス
(72)【発明者】
【氏名】デュポン,ハートン
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105419853(CN,A)
【文献】特開2012-025933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C10G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素に溶解した硫黄及び/又は窒素のヘテロ原子化合物を除去するための触媒系において、
1,3-ジアルキルイミダゾリウムカチオンを有するイオン液体と、アニオンと、鉄(II)の有機金属錯体とを備え、前記鉄(II)の有機金属錯体が、鉄(II)のイオン親和性結合剤系との有機金属カチオンとアニオンとから成るイオン系であり、
前記鉄(II)の有機金属錯体が、臭化鉄(II)の塩及び4-((2,3-ジメチル-イミダゾール-1-イル)メチル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジンから調製されることを特徴とする触媒系。
【請求項2】
前記1,3-ジアルキルイミダゾリウムが、化合物1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムに基づくことを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
前記アニオンが、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート及びビス-トリフルオロメタンスルホンイミデートから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項4】
前記鉄(II)の有機金属錯体が、鉄(II)の塩及びイオン親和性結合剤前駆体から調製されることを特徴とする、請求項1に記載の触媒系。
【請求項5】
炭化水素流からヘテロ原子を除去するための抽出酸化プロセスにおいて、
ヘテロ原子化合物を含有する鉱物又は合成由来の炭化水素流を供給して相Iを形成する工程と、
請求項1~の何れか一項に記載の触媒系を供給し、酸化剤を添加して相IIを形成する工程と、
前記ヘテロ原子化合物の酸化反応が起こるように、前記相I及びIIの間の接触を促進する工程と、
炭化水素相を備える前記相Iを、有機鉄錯体と組み合わせたイオン液体の相を備え且つ前記炭化水素流から生じる酸化された前記ヘテロ原子化合物が存在する相IIから分離する工程と
を含むことを特徴とする、抽出酸化プロセス。
【請求項6】
前記酸化剤が、過酸化物であることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記酸化剤が、少なくとも1種の無機過酸化物であることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記酸化剤が、過酸化水素であることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記酸化剤が、少なくとも1種の有機過酸化物であることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記酸化剤が、少なくとも1種の有機過酸化物と少なくとも1種の無機過酸化物との任意の割合の混合物であることを特徴とする、請求項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ヘテロ原子化合物が、硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を備えることを特徴とする、請求項又はに記載のプロセス。
【請求項12】
前記酸化反応が、50~150℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記酸化反応が、5~250分の間実施されることを特徴とする、請求項の何れか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化剤の活性化という触媒機能を有するイオン親和性結合剤系によるFe(II)錯体と組み合わされたイオン液体を含有するイオン相を用いた、抽出酸化プロセスに関する。
【0002】
抽出酸化プロセスでは、大気圧と温度の穏やかな条件を利用して、油相から、一般にはヘテロ原子化合物が通常豊富な化石起源のものを含む炭化水素から、汚染物質を除去する。イオン親和性結合剤系は、触媒として作用する鉄カチオンを、油相に浸出させることなくイオン相に維持する役割を果たす。
【背景技術】
【0003】
化石起源の炭化水素の未処理の流れは通常、汚染物質又は不純物として分類されるヘテロ原子化合物を含有している。こうした流れで最もよく見られるヘテロ原子化合物は、一般に硫黄原子(S)や窒素原子(N)を含む化合物や、酸素(O)及びニッケル(Ni)や鉄(Fe)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、バナジウム(V)等の金属を含む化合物である。
【0004】
硫黄(S)や窒素(N)を含む化合物が最も一般的な汚染物質であり、様々な種類の石油に存在する。こうした硫黄含有汚染物質及び窒素含有汚染物質は、取り扱い(精製所での触媒効率の低下)、輸送(石油及びガスパイプラインの腐食)、及び誘導体の利用(石油由来の燃料に存在すると環境汚染を引き起こす)において問題を引き起こす。
【0005】
原油の元素組成(wt%)の例を示す表を以下に示す。
【0006】
製品の技術仕様と環境仕様を調整するとともに、従来のプロセスの厳しさ(ハーシュネス)を最小限に抑えるという二つの目的のために、化石炭化水素の流れに存在する硫黄化合物と窒素化合物を除去するための代替プロセスが開発されてきた。
【0007】
石油精製業界では、従来、こうした汚染物質に存在する硫黄と窒素を除去するために、例えば水素化脱硫(HDS)や水素化脱窒素(HDN)等の水素化精製プロセスといった、幾つかの処理プロセスが利用されている。
【0008】
水素化脱硫(HDS)や水素化脱窒素(HDN)という従来のプロセスは、通常は担持金属硫化物である触媒の存在下での水素化反応により、様々な石油留分の汚染物質からそれぞれ硫黄と窒素を除去することから成る。しかし、ある硫黄含有汚染物質及び窒素含有汚染物質は、従来の経路では処理が困難であり、例えば窒素含有化合物の中には、触媒を汚染し、より厳しい運転条件を要するものがある。その場合、ヘテロ原子化合物の抽出酸化法といった、新しい触媒及び/又は処理プロセスの代替経路を開発することが必要になる。抽出酸化プロセスでは、汚染物質は、除去及び/又は不活性化されるか、若しくは油に対して不混和な溶媒又は吸着剤に対して親和性の高い他の化合物に変換される。
【0009】
従来技術は、炭化水素流からヘテロ原子化合物を除去するための代替処理プロセスを説明している。
【0010】
特許文献1及び特許文献2には、炭化水素流の前処理に適用可能な、ヘテロ原子汚染物質が豊富な原油からの蒸留物の前処理のための抽出酸化プロセスが教示されている。両文献は、過酸を用いて行われる抽出酸化の方法には、置換及び窒素化ジベンゾチオフェン、ピリジン及びキノリン化合物等、水素化精製で除去することが難しい特定の化合物を除去するといった利点があると述べている。これらの化合物は、担持金属硫化物触媒の強力な不活性化剤である。
【0011】
ヘテロ原子化合物を除去するためのプロセスを改善する1つの方法は、反応混合物へのイオン液体の添加を含む。BF 、PF 、CFSO 、(CFSO、CFCO 等のアニオン(対イオン)構造を有する、通常アルキルアンモニウムやホスホニウム、イミダゾリウムカチオンから誘導される塩から成る、100℃未満の温度の溶融塩といったイオン液体が知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)。
【0012】
イオン液体は、その固有の特性により、化学反応における溶媒及び/又は触媒として作用することができ、分子の代わりにイオンが関与するため、従来の有機溶媒で行われる反応と比較すると、反応は異なる選択性と反応性で進行する。
【0013】
様々な官能化イオン液体のうち、最も研究され且つ最も利用されているのは、1,3-ジアルキルイミダゾリウムカチオンに由来するものであり、独特な物理化学的特性を持っている。
【0014】
特許文献3には、炭化水素流中に存在する硫黄含有化合物の抽出及び/又は抽出酸化に、イオン液体を利用するプロセスが教示されている。しかし、この方法論は、石油由来の炭化水素の粗流に典型的な窒素含有化合物等、他の汚染物質の除去に取り組むことなく、炭化水素流の硫黄化合物の除去にのみ適用される。
【0015】
特許文献4は、特許文献5に記載されている方法論の改善を提示している。この改善は、イオン液体の作用と有機酸/過酸化水素酸化系の作用を組み合わせたものである。この新しい系は、ヘテロ原子汚染物質(窒素含有及び/又は硫黄含有)及び化合物が豊富な化石起源の流れといった、炭化水素の錯体混合物の粗流の前処理に適用される。この系は、硫黄だけでなくこれらの汚染物質をより多く除去することを可能にし、従って特許文献3で請求の範囲に記載されているものよりも広範囲の抽出酸化から成る。
【0016】
特許文献4に記載されている発明は、炭化水素相と、過酸化物及び酸を含有する水性酸化混合物の相と、相間の極性物質の移動といった抽出酸化プロセスを支配する物理的現象を最適化するイオン液体の相とによって形成された三相系を含む。
【0017】
特許文献4に提示されているイオン液体は、専ら物理的機能を有しており、反応は、汚染化合物の実際の酸化反応を行う過酸系(H+RCOOH)を利用して行われる。イオン液体は、水溶液と酸化される種との、及び酸化された種との相互作用を増加させることにより作用し、その抽出の改善を可能にする。
【0018】
しかし、現在の開発にもかかわらず、産業界は炭化水素流からヘテロ原子化合物を除去するための、より効率的かつ効果的なプロセスを依然として必要としている。
【0019】
従って、論文(非特許文献5)で報告されているように、イオン液体の機能を拡張し、化学的且つ物理的に作用させるために、特許文献4に示されている方法論は、酸化性化合物の選択性溶媒の特性を維持することに加えて、水性酸化混合物のカルボン酸の代わりに酸化に関与する過酸系の構成要素になるように、イオン液体の化学修飾を介して最適化された。これにより、イオン液体相で反応性現象が発生し、極性を有する標的物質と過酸化水素が移動する。この措置により、炭化水素媒体からの標的物質の除去が大幅に改善された。
【0020】
上に引用した論文において述べられている化学修飾は、イミダゾリウムカチオンの分子内にカルボキシル及び/又はエーテル官能基等の官能化置換基を組み込むことにより進行する。この官能化により、イオン液体は、硫黄含有化合物と窒素含有化合物の酸化に適した過酸系のジェネレータ、及び選択的溶媒の両方として作用した。この溶媒は、いったん油相と接触すると、標的物質がイオン相へより多く移動して酸化されることを可能にし、また、油との界面に存在する標的物質の酸化を可能にし、直ちに且つ直接イオン相に移動することとなる。
【0021】
一方、特許文献6、特許文献7、及び特許文献8によれば、ヘテロ原子化合物の抽出酸化の方法論は、酸化を強化するフェントン試薬OHを含むフリーラジカルの生成を可能にする酸化鉄、特に酸化鉄-水酸化物に基づく触媒系を利用することで改良できる。従って、有望な案は、イオン液体の化学構造に鉄を組み込むか、触媒活性鉄原子を含有する系をイオン液体に結合させて、イオン液体相でフリーラジカルを生成できるようにすること(例えばフェントン試薬OH)であり、油相からイオン液体相への標的物質の抽出の重要な役割を実行するためにイオン液体の潜在性が用いられる。
【0022】
この案を採用した取り組みの結果は、文献に記載されている(非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。しかし、これらの方法は、Feイオンが油相に浸出しないことを保証しないことは明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】米国特許第6544409号明細書
【文献】米国特許第7153414号明細書
【文献】米国特許第7001504号明細書
【文献】ブラジル特許公開第0704672-3号明細書
【文献】欧州特許第1620528号明細書
【文献】米国特許第6544409号明細書
【文献】欧州特許第1390441号明細書
【文献】米国特許第7153414号明細書
【非特許文献】
【0024】
【文献】P.Wasserscheid,T.Welton;Ionic Liquids in Synthesis,VCH-Wiley,Weinheim,2002
【文献】J.Dupont;R.F.De Souza,P.A.Z.Suarez;Chem.Rev.;2002,102,3667
【文献】P.Wasserscheid,W.Keim;Angew.Chem.Int.Ed.;2000,39,3773
【文献】T.Welton;Chem.Rev.;1999,99,2071
【文献】Lissner,E.;de Souza,W.F.;Ferrera,B.;Dupont,J.:Oxidative Desulfurization of Fuels with Task-Specific Ionic Liquids.ChemSusChem 2009,2,962-964
【文献】Zhu,W.S.;Zhang,J.T.;Li,H.M.;Chao,Y.H.;Jiang,W.;Yin,S.;Liu,H.:Fenton-like ionic liquids/H2O2 system:one-pot extraction combined with oxidation desulfurization of fuel.RSC Advances 2012,2,658-664
【文献】Yu,G.R.;Zhao,J.J.;Song,D.D.;Asumana,C;Zhang,X.Y.;Chen,X.C.:Deep Oxidative Desulfurization of Diesel Fuels by Acidic Ionic Liquids.Ind.Eng.Chem.Res.2011,50,11690-11697.
【文献】Ko,N.H.;Lee,J.S.;Huh,E.S.;Lee,H.;Jung,K.D.;Kim,H.S.;Cheong,M.:Extractive Desulfurization Using Fe-Containing Ionic Liquids.Energy Fuels 2008,22,1687-1689
【文献】Zhou,X.;Lv,S.;Wang,H.;Wang,X.;Liu,J.:Catalytic oxygenation of dibenzothiophenes to sulfones based on Felll porphyrin complex.Appl.Catal.A:Gen.2011,396,101-106
【発明の概要】
【0025】
本発明は、炭化水素流からヘテロ原子化合物を除去するための触媒系において、1,3-ジアルキルイミダゾリウムカチオンを有するイオン液体と、アニオンと、鉄(II)の有機金属錯体とを備え、前記鉄(II)の有機金属錯体が、鉄(II)のイオン親和性結合剤系との有機金属カチオンとアニオンとから成るイオン系であることを特徴とする触媒系を提供する。触媒系は、有機鉄塩錯体と組み合わせたイオン液体を含有しており、イオン液体相に対して完全な溶解性を示す。このイオン性有機金属錯体は、イオン液体に強い親和性を付与する化学構造を有しており、イオン液体相で永続的に安定化される。
【0026】
前記1,3-ジアルキルイミダゾリウムは、化合物1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムに基づくものとしてもよい。
【0027】
前記アニオンは、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート及びビス-トリフルオロメタンスルホンイミデートから選択されることとしてもよい。
【0028】
前記鉄(II)の有機金属錯体は、鉄(II)の塩及びイオン親和性結合剤前駆体から調製されることとしてもよい。
【0029】
前記鉄(II)の有機金属錯体は、臭化鉄(II)の塩及び4-((2,3-ジメチル-イミダゾール-1-イル)メチル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジンから調製されることとしてもよい。
【0030】
別の態様によれば、本発明は、炭化水素流からヘテロ原子を除去するための抽出酸化プロセスにおいて、ヘテロ原子化合物を含有する鉱物又は合成由来の炭化水素流を供給して相Iを形成する工程と、前記発明による触媒系を供給し、酸化剤を添加して相IIを形成する工程と、前記ヘテロ原子化合物の酸化反応が起こるように、前記相I及びIIの間の接触を促進する工程と、炭化水素相を備える前記相Iを、有機鉄錯体と組み合わせたイオン液体の相を備え且つ前記炭化水素流から生じる酸化された前記ヘテロ原子化合物が存在する相IIから分離する工程とを含むことを特徴とする、抽出酸化プロセスを提供する。
【0031】
前記酸化剤は過酸化物であり、適切には少なくとも1種の無機過酸化物、例えば過酸化水素、又は適切には少なくとも1種の有機過酸化物、若しくは適切には少なくとも1種の有機過酸化物と少なくとも1種の無機過酸化物との任意の割合の混合物であるとしてもよい。
【0032】
前記ヘテロ原子化合物は、硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を備えることとしてもよい。
【0033】
前記酸化反応は、50~150℃の範囲の温度で実施することとしてもよい。
【0034】
前記酸化反応は、5~250分の間実施されることとしてもよい。
【発明の効果】
【0035】
鉄(II)の有機金属錯体は、フェントン試薬OHを生成する反応といった、酸化に必要な酸化性フリーラジカルを生成する反応の触媒として作用できるFe(II)カチオンを錯体化するイオン親和性結合剤系から成る。こうしたフリーラジカルは、油相と接触した際のイオン液体の抽出作用により、炭化水素の油相から抽出された硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を酸化し、イオン液体相にすることができる。
【0036】
イオン液体を含有するフェントン型の系を利用する方法を報告している上記の文献の例とは対照的に、本発明において、Fe(II)カチオンは、イオン液体によって強く可溶化される有機金属塩錯体のイオン親和性結合剤系の作用により、イオン液体相で永続的に維持され得る。
【0037】
従って、Fe(II)カチオンは油相に浸出せず、処理済み油相の汚染と、標的物質の選択的酸化のために生成されたフリーラジカルを利用した反応のパフォーマンスの損失とを引き起こす。更に、Fe(II)をイオン液体相に維持すると、触媒として再利用することができる。
【0038】
イオン液体は、選択性溶媒として作用するほか、油相からイオン相への標的物質の迅速な移動を促進して酸化させ、酸化した物質がイオン相に留まることを保証することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
関連出願の相互参照
【0040】
本出願は、2017年6月9日に提出されたブラジル特許出願第10 2017 012318-8号の優先権の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
本発明は、炭化水素に溶解した硫黄及び/又は窒素のヘテロ原子化合物を除去するための抽出酸化プロセスで利用するための触媒系に関する。
【0041】
触媒系は、イオン親和性有機鉄イオン錯体と組み合わせたイオン液体を備えており、その分子構造は、イオン親和性結合剤系によって安定化されたFe(II)カチオンを含有し、この錯体は、好適にはイオン相に完全に溶解してイオン溶液を生じる。
【0042】
酸化は、酸化剤、好ましくはHから生成されたフェントン試薬OH等のフリーラジカルによって、錯体の構造に存在し且つイオン親和性結合剤系によってイオン構造が安定化されたFe(II)の触媒作用によって行われる。
【0043】
本発明に係る触媒系を用いるプロセスは、油相Iが、硫黄含有化合物及び窒素含有化合物で汚染された炭化水素混合物を含有しており、イオン相IIが、酸化のための触媒作用を伴う従来のイオン液体及びイオン親和性Fe(II)錯体を含有している二相系を生成し、結合剤が、炭化水素混合物から油相へのFe(II)の移動を防ぐために特異的である。イオン液体の選択的な抽出力とは、標的ヘテロ原子化合物が油相(相l)からイオン相(相II)へ即時に移動し、イオン液体と組み合わせた有機鉄錯体と密接に接触してその酸化を最大化することを意味する。
【0044】
ここで開示されたプロセスにより、反応工程全体で大気圧と温度の穏やかな条件で行われることがあるため、厳しい運転条件を用いずに水素化精製プロセスで除去することが困難な硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を選択的に除去ことができるようになる。
【0045】
このプロセスでは、酸化剤、好ましくは過酸化水素を利用して、有機硫化物(例えば、ジベンゾチオフェン)や塩基性の窒素含有芳香族化合物(例えば、ピリジン、キノリン、アクリジン等の誘導体)といった硫黄含有化合物及び窒素含有化合物を除去するが、これらは典型的にはディーゼル、ナフサ、軽油等の化石起源の炭化水素流に存在し、通常利用される硫黄及び窒素を除去するための精製プロセスでは除去が困難である。
【0046】
本発明において利用されるイオン液体は、1,3-ジアルキルイミダゾリウムカチオン、特に1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウム(BMI)カチオンや、テトラフルオロボレート(BF )、ヘキサフルオロホスフェート(PF )、及びビス-トリフルオロメタンスルホンイミデート(N(SOCF )のアニオンから誘導される分子からなる。
【0047】
本発明は、1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムN-トリフレート(BMI.NTf)とも呼ばれる、イオン液体1-n-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス-トリフルオロメタンスルホンイミデート(BMI.N(SOCF)を用いることが好ましく、以下この命名法を用いる。Fe(II)カチオンとイオン親和性結合剤系から成る有機金属錯体(触媒)をBMI.NTf2に添加した。
【0048】
本発明の触媒として採用される、鉄(II)とイオン親和性結合剤系との錯体は、有機塩であり、そのカチオンは、イオン親和性結合剤であり、この系は、Fe(II)カチオンを錯体化する結合剤L、L2、及びL3の分子から成ることが適切である。これらのバインダー分子のそれぞれは、鉄(II)の塩と有機カチオン塩から調製してもよく、このカチオンは、少なくとも1つの窒素原子(ルイス塩基)、脂肪族又は芳香族又は脂環式分子構造の成分、若しくはそれらの組み合わせを有する。
【0049】
鉄(II)の塩とイオン親和性結合剤系との錯体が、選択したイオン液体に添加される。混合物を均質化した後、石油由来の軽質及び中間留分の流れといった、硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を含む鉱物又は合成由来の炭化水素の油性流れを添加し、最後に酸化剤(適切には過酸化水素)を添加する。
【0050】
この不均一混合物は、20~150℃の範囲の温度に加熱し、大気圧で5~250分の間撹拌することが好ましい。イオン液体と組み合わせたFe(II)の有機錯体と過酸化水素との反応により、フリーラジカルが生成され、イオン液体によって油から抽出された標的種の酸化が増強される。
【0051】
酸化プロセスは、硫黄(より極性の高い)と窒素の酸化化合物を保持するイオン液体相で行われ、炭化水素は上相に残り、従って望ましくない硫黄含有有機材料及び/又は窒素含有有機材料が炭化水素流から抽出される。次いで、炭化水素を分離し、イオン液体を、炭化水素流中の硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物を抽出酸化するプロセスに再利用することができる。
【0052】
このプロセスでは、用いるイオン液体と密接に組み合わされた錯体の構造内に鉄カチオンを保つためのイオン親和性結合剤系の能力により、鉄カチオンの炭化水素相への浸出が生じないことが好ましい。
【0053】
好ましい実施形態では、鉄(II)錯体は、還流系を利用して、臭化鉄(II)と4-((2,3-ジメチル-イミダゾール-1-イル)メチル)-4’-メチル-2,2’-ビピリジンを反応させて調製し、その後、ヘキサフルオロリン酸カリウム(KPF)を添加して安定化させる。この工程の後、抽出を、理想的にはジクロロメタン:アセトニトリルが1:1の比率になるように行う必要がある。形成される錯体は、[トリス-(4-((2,3-ジメチル-イミダゾール-1-イル)メチル-4’-メチル-2,2’-ビピリジン]鉄(II)-Fe(dmbpy-Im)5PFのヘキサフルオロホスフェートである。この合成は、以下に提示する反応で説明される。
【0054】
実施例
以下の実施例は、本発明及び従来技術に係る、炭化水素流からヘテロ原子を除去するためのプロセスの実施形態を例示するものである。
【0055】
(比較例)
硫黄化合物を含有するモデル燃料は、0.0575gのジベンゾチオフェンを10mlのn-オクタン(1000ppmの有機硫黄化合物を含有する溶液)に添加することによって調製した。その直後に、イオン液体BMI.NTfを0.5mlと、炭化水素の溶液(1.3ml)と、最後に30%過酸化水素(250μl)を10mLフラスコに添加する。この不均一混合物を、大気圧で2.25時間、磁気攪拌しながら75℃で加熱する。抽出酸化プロセスの後、硫黄含有化合物は、15%しか抽出されていないことが観察される。
【0056】
(実施例2)
硫黄化合物を含有するモデル燃料は、ジベンゾチオフェンとビピリジンを10mlのn-オクタン(1000ppmの有機硫黄化合物と1000ppmの窒素含有化合物を含む溶液)に添加することによって調製した。鉄(II)-[Fe(dmbpy-Im)2+5PF 錯体を、イオン液体BMI.NTfに添加した。その直後に、錯体を含有するイオン液体を0.5mlと、炭化水素の溶液(1.3ml)と、最後に30%過酸化水素(250μl)を10mLフラスコに添加した。この不均一混合物を、大気圧で2.25時間、機械攪拌しながら75℃で加熱する。抽出酸化プロセスの後、炭化水素中に10ppm未満のジベンゾチオフェン(DBT)が存在することが観察され、これは硫黄含有化合物を99%除去したことに相当する。更に、鉄触媒の油相への移動は検出されなかった。
【0057】
(実施例3)
イオン親和性結合剤系[Fe(dmbpy-Im)2+5PF との鉄(II)錯体を含有する、0.5mlのイオン液体BMI.NTf(1.96x10-2mmol g,7.5%)を、15℃の水と共に還流冷却器を備えた10mLフラスコに添加する。次に、113ppmのS及び80ppmのNを含有する、1.3mlのディーゼル油範囲の精製流と、最後に250μLの過酸化水素とを添加する。この不均一混合物を、大気圧で2.25時間、磁気攪拌しながら75℃で加熱する。抽出酸化プロセスの後、Sが64%、Nが82%除去されたことが観察される。即ち、炭化水素相は、40ppmのSと14ppmのNを有していることになる。
【0058】
驚くべきことに、触媒として作用する、イオン親和性結合剤系と鉄(II)との錯体をイオン液体に添加すると、鉄(II)カチオンが炭化水素相に浸出しない点が保証されることに加えて、硫黄含有化合物及び/又は窒素含有化合物の炭化水素流からの除去効率が大幅に増加し、本発明の進歩性が実証されることが分かった。