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特許7117395グラフェン構造体およびデバイスの製造方法
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  • 特許-グラフェン構造体およびデバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】グラフェン構造体およびデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/186 20170101AFI20220804BHJP
【FI】
C01B32/186
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020559037
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-06
(86)【国際出願番号】 GB2019050063
(87)【国際公開番号】W WO2019138232
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】1800445.7
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】520258057
【氏名又は名称】パラグラフ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】PARAGRAF LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ギニー,アイバー
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/029470(WO,A1)
【文献】特開2012-216497(JP,A)
【文献】特開2015-000843(JP,A)
【文献】特開2017-125714(JP,A)
【文献】DONG Tianqi et al.,Evaluating femtosecond laser ablation of graphene on SiO2/Si substrate,JOURNAL of LASER APPLICATIONS,AMERICAN INSTITUTE OF PHYSICS,Vol.28,No.2,2016年,pp.022202-1 -022202-6 ,TABLE II.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/186
C23C 16/26
H01L 21/205
C30B 25/00
B23K 26/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~100のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の製造方法であって、前記方法は、
反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に、サファイアの熱抵抗以上の熱抵抗を有する基板を与えるステップを含み、前記チャンバは冷却された複数の入口を有し、前記複数の入口は、使用時に前記基板全体にわたって分散するように、かつ前記基板からの離隔距離が一定になるように配置されており、
前記入口を通して前記反応チャンバ内に前駆体化合物を含む流れを供給し、それにより、前記前駆体化合物を分解して前記基板上にグラフェンを形成するステップを含み、
前記入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却され、前記サセプタは、前記前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃の温度まで加熱され、
レーザを用いて前記基板からグラフェンを選択的にアブレートするステップを含み、
前記レーザは、少なくとも8μmの波長および5から50Watt未満の出力を有する、方法。
【請求項2】
前記基板は、サファイアまたは炭化ケイ素を含み、好ましくはサファイアを含む、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザは、9~15μm、好ましくは9.4~10.6μmの波長を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記前駆体化合物は、炭化水素であり、好ましくは室温で液体の炭化水素であり、最も好ましくはC~C10アルカンである、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記前駆体化合物はヘキサンである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記基板の直径は少なくとも6インチである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
レーザを用いて前記基板からグラフェンを選択的にアブレートする前記ステップは、前記基板の少なくとも一部を、好ましくは1~300nmの深さまで、エッチングにより取り除くステップをさらに含む、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、前記基板から前記グラフェン層構造体を取り除くステップをさらに含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ホールセンサの製造のために、前記方法は、
前記レーザを用いてグラフェンを選択的にアブレートすることにより、前記基板上に前記グラフェンからなるホールセンサ部分を画定するステップを含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記基板上に複数のホールセンサ部分を設けるために使用される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
ホールセンサデバイス前駆体の製造のために、前記方法は、
前記レーザを用いてグラフェンを選択的にアブレートすることにより、前記基板上の前記グラフェンからなるホールセンサ部分と、電子部品に接続するための対応するグラフェンワイヤ回路とを画定することにより、ホールセンサデバイスを完成させるステップを含む、請求項または1に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、前記グラフェン層構造体の表面にコンタクトを与えるステップをさらに含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
フィルタの製造のためのグラフェン層構造体の製造のために、
前記レーザを用いた選択的アブレーションにより前記グラフェンの表面全体にわたって分散する複数のポアを形成するステップと、
前記基板から前記グラフェンを分離するステップとをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザを用いた選択的アブレーションにより前記グラフェンの表面全体にわたって分散する複数のポアを形成するステップの後に、前記基板から前記グラフェンを分離する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン層構造体およびグラフェン層構造体を含むデバイスの製造方法に関する。特に、本発明の方法は、グラフェン層構造体を含むデバイスを大量生産するための改善された方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、グラフェンという材料の理論上の並外れた特性から導き出された極めて多くの用途が提案されている、周知の材料である。このような特性および用途の良い例が、"The Rise of Graphene" A.K. Geim and K. S. Novoselev, Nature Materials, vol. 6, March 2007, 183-191に詳述されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
その内容を本明細書に引用により援用するWO2017/029470は、二次元材料の製造方法を開示している。具体的には、WO2017/029470はグラフェンのような二次元材料の製造方法を開示しており、この方法は、反応チャンバ内で保持されている基板を、前駆体の分解範囲内の温度であって分解した前駆体から放出された化学種からグラフェンを形成することが可能な温度まで、加熱することと、基板表面から前駆体の入口に向かって延びる急峻な温度勾配(好ましくは1メートルあたり>1000℃)を確立することと、前駆体を、相対的に低温の入口を通して上記温度勾配を通って基板表面に向かうように導入することとを含む。WO2017/029470の方法は、気相成長(vapor phase epitaxy)(VPE)システムおよび有機金属化学気相成長(metal-organic chemical vapor deposition)(MOCVD)反応器を用いて実行することができる。
【0004】
WO2017/029470の方法は、非常に良好な結晶品質、大きな材料粒径、最小限の材料欠陥、大きなシートサイズ、および自立性を含む、多数の有益な特徴を備えた、二次元材料を提供する。しかしながら、二次元材料からデバイスを製造するための高速で低コストの加工方法は依然として必要である。
【0005】
2D materials, vol. 2, 2015, 045003, Mackenzie et al. 「Fabrication of CVD graphene-based devices via laser ablation for wafer-scale characterization」の第2~6頁は、デバイス製造のためのウェハスケールのグラフェン膜の選択的レーザアブレーションを開示している。Journal of Laser Applications, vol. 28, 2016, 022202 et al. 「Evaluating femtosecond laser ablation of graphene on SiO2/Si substrate」は、グラフェンのマイクロパターニングを開示している。これらの文献はいずれも、二酸化ケイ素基板上に配置される予備成形されたグラフェン層に言及している。このグラフェンは、基板上に一体的に形成されていないため、グラフェンとのレーザ相互作用に大きな影響を与える基板表面に物理的または化学的に結合されていない。
【0006】
本発明の目的は、先行技術に付随する課題を克服するかもしくは実質的に低減するグラフェン層構造体を製造するための改善された方法を提供すること、または、少なくとも、それに代わる商業的に有用なものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、1~100、好ましくは1~40、より好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の製造方法を提供し、この方法は、
反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に、サファイアの熱抵抗以上の熱抵抗を有する基板を与えるステップを含み、上記チャンバは冷却された複数の入口を有し、当該複数の入口は、使用時に上記基板全体にわたって分散しかつ上記基板からの離隔距離が一定になるように配置されており、
上記入口を通して上記反応チャンバ内に前駆体化合物を含む流れを供給し、それにより、上記前駆体化合物を分解して上記基板上にグラフェンを形成するステップを含み、
上記入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却され、上記サセプタは、上記前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃の温度まで加熱され、
レーザを用いて上記基板からグラフェンを選択的にアブレートするステップを含み、
上記レーザは、600nmを上回る波長および50Watt未満の出力を有する。
【0008】
次に、本開示についてさらに説明する。以下の記載では、本開示のさまざまな局面/実施形態をより詳細に明らかにする。そのようにして明らかにされた各局面/実施形態は、それを否定する明確な表示がないかぎり、その他のいずれか1つの局面/実施形態または複数の局面/実施形態と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは好都合であると記載されているいずれの特徴も、好ましいまたは好都合であると記載されているその他のいずれか1つまたは複数の特徴と組み合わせることができる。
【0009】
発明者らは、グラフェンを正しい基板上で成長させた場合、このグラフェンを効率的かつ効果的にレーザエッチングすることにより、複雑に定められた外形を有するグラフェン構造体を製造できることを見出した。このことは、一続きのグラフェン層から、完全な回路または特定のデバイスを、基板上に形成できることを意味する。したがって、関連するグラフェンの電気的特性の利点のすべてを備えたデバイス用のトレースおよび配線をすべてグラフェンから形成することができる。実際、発明者らは、この方法を用いることで、成長させたグラフェン層構造体からホールセンサを一体的に作製可能であることを見出した。
【0010】
本開示は、1~100のグラフェン層、好ましくは1~40のグラフェン層、より好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の製造方法に関する。層が多いほど優れた電気的特性が観察される。グラフェンは、当該技術では周知の用語であり、六角形格子状の炭素原子からなる1つの層を含む炭素の同素体を意味する。本明細書で使用するグラフェンという用語は、積層された複数のグラフェン層を含む構造体を含む。本明細書で使用するグラフェン層という用語は、グラフェン単一層を意味する。上記グラフェン単一層は、ドープされてもされなくてもよい。本明細書に開示されるグラフェン層構造体は、グラファイトとは異なる。なぜなら、この層構造体はグラフェンと同様の特性を保っているからである。
【0011】
この方法は、サファイアの熱抵抗以上の熱抵抗を有する基板を与える第1のステップを含む。発明者らは、熱抵抗が高い基板を使用することにより、下にある基板に損傷を与えることなくグラフェン層のアブレーションが可能であることを見出した。このことは、基板の表面上に配線トレースまたはデバイスを形成することが可能であることを意味する。次に、基板そのものを従来の手段で切断することにより、個々のチップまたはデバイスを形成することができる。
【0012】
この方法の基板は、当該基板の熱抵抗がサファイアの熱抵抗以上である限り、任意の周知のMOCVDまたはVPE基板とすることができる。良好なグラフェン結晶オーバーグロース(overgrowth)の形成を促進する核生成サイトの規則正しいアレイを提供する、規則正しい結晶格子サイトとして、グラフェンが生成される結晶面を、基板が提供することが好ましい。最も好ましい基板は、高密度の核生成サイトを提供する。半導体の堆積に使用される基板の規則正しい繰り返し可能な結晶格子が理想的であり、段差がある原子の面は拡散バリアを提供する。好ましくは、基板は、サファイアまたは炭化ケイ素を含み、好ましくはサファイアを含む。その他の好適な基板は、基板の熱抵抗がサファイア以上であるという条件で、ケイ素、ダイヤモンド、窒化物半導体材料(AlN、AlGaN、GaN、InGaNおよびその錯体)、ヒ化物/リン化物半導体(GaAs、InP、AlInPおよびその錯体)を含む。
【0013】
MOCVDは、基板上に層を堆積させるための特定の方法に使用されるシステムを説明するために用いられる用語である。この頭字語は有機金属化学気相成長(metal-organic chemical vapor deposition)を表すが、MOCVDは、当該技術における用語であり、一般的なプロセスおよびそのために使用される装置に関連すると理解され、必ずしも有機金属反応物の使用または有機金属材料の製造に限定されるとみなされる訳ではない。むしろ、この用語の使用は、当業者に対し、プロセスおよび装置の一般的な一組の特徴を示すものである。さらに、MOCVDは、システムの複雑さおよび精度の点で、CVD技術とは異なる。CVD技術では簡単な化学量論および構造で反応を実施することが可能であるのに対し、MOCVDでは難しい化学量論および構造の製造が可能である。MOCVDシステムは、少なくともガス分配システム、加熱および温度制御システム、ならびに化学物質制御システムという点で、CVDシステムと異なる。典型的には、MOCVDシステムのコストは典型的なCVDシステムの少なくとも10倍である。CVD技術を用いて高品質のグラフェン層構造体を得ることはできない。
【0014】
MOCVDは、原子層堆積(atomic layer deposition)(ALD)技術とも容易に区別することができる。ALDは、試薬の段階的反応に依拠しており、望ましくない副生成物および/または余剰の試薬を除去するために使用される洗浄工程を介在させる。これは、気相の試薬の分解または分離に依拠しているのではない。これは、特に、反応チャンバから除去するのに過剰な時間を要するシランのような蒸気圧が低い試薬の使用には不向きである。
【0015】
熱抵抗の測定は当該技術では周知であり、技術は、ASTM E1225だけでなく、非定常平面熱源法、非定常線熱源法、レーザフラッシュ法、3ω法、および時間領域サーモリフレクタンス法を含む。サファイアと比較するための熱抵抗の測定は、同一サイズの基板に基づくものであり、レーザアブレーション工程を実行する条件で、すなわち好ましくは標準温度および圧力で、行われる。
【0016】
3ω法が最も好ましい。この方法では、グラフェンヒータ線を通して駆動された周波数ωの電流および交流1ωが、周波数2ωでの加熱を生じさせる。周期的な加熱により熱波が発生し、熱源における温度振動の振幅は、周囲環境の熱特性に応じて決まる。周期的な温度振動は、周期的加熱に従っており、周波数2ωで発生するが、位相φの遅延がある。この温度振動により、さらに、グラフェンヒータの抵抗が2ωで振動する。電流は周波数ωで駆動され抵抗は周波数2ωで変化するので、結果として3ωの電圧が生じる。3ω電圧は、直接測定可能であり、グラフェンヒータ線の熱的環境に関する情報を提供する。
【0017】
一般的に、グラフェン製造中の基板全体の熱的均一性を保証するためには基板ができる限り薄いことが好ましい。好ましい厚さは、50~300ミクロン、好ましくは100~200ミクロン、より好ましくは約150ミクロンである。しかしながら、より厚い基板も機能し、厚いシリコンウェハの厚さは最大2mmである。しかしながら、基板の最小厚さは、一部は基板の機械的特性および基板を加熱する最大温度によって決まる。基板の最大面積は、密結合(closely coupled)反応チャンバのサイズによって必然的に決まる。好ましくは、基板の直径は少なくとも2インチ、好ましくは2~24インチ、より好ましくは6~12インチである。成長後にこの基板を任意の周知の方法を用いて切断することにより、個々のデバイスを形成することが可能である。成長後にこの基板を任意の周知の方法を用いて切断することにより、個々のデバイスを形成することが可能である。
【0018】
基板は、本明細書に記載のように反応チャンバ内の加熱されたサセプタの上に与えられる。この方法に使用するのに適した反応器は、周知であり、基板を必要な温度まで加熱することが可能な加熱されたサセプタを含む。サセプタは、基板を加熱するための抵抗加熱素子またはその他の手段を含み得る。
【0019】
チャンバは冷却された複数の入口を有し、複数の入口は、使用時に基板全体にわたって分散しかつ基板からの離隔距離が一定になるように配置される。前駆体化合物を含む流れは、水平層流として供給されてもよく、または、実質的に鉛直方向に供給されてもよい。このような反応器に適した入口は、周知であり、Aixtron社から入手可能なプラネタリおよびシャワーヘッド反応器(Planetary and Showerhead reactor)を含む。
【0020】
その上にグラフェンを形成する基板表面と、基板表面の直上の反応器の壁との間の間隔は、反応器の熱勾配に大きな影響を与える。熱勾配はできる限り急峻であることが好ましく、これは、好ましいできる限り小さい間隔と相関関係がある。より小さな間隔により、基板表面における境界層の状態が変化し、これがグラフェン層形成の均一性を促進する。また、より小さな間隔は非常に好ましく、その理由は、プロセス変数の細かいレベルの制御が可能であるからであり、たとえば、入力流速を下げることによって前駆体消費を削減し、反応器の、ひいては基板の温度を下げることによって基板における応力および不均一性を低減し、結果的に基板表面上により均一的にグラフェンを製造し、それにより、多くの場合はプロセス時間が大幅に短縮される。
【0021】
実験は、約100mmの最大間隔が好適であることを示唆する。しかしながら、より信頼性が高くより優れた品質の二次元結晶材料は、約20mm以下、たとえば1~5mmというより小さな間隔を用いて製造され、約10mm以下の間隔は、基板表面近傍におけるより強い熱電流の形成を促進し、これが製造効率を高める。
【0022】
分解温度が比較的低い前駆体を使用し前駆体入口の温度で前駆体が無視できないほど分解する可能性がある場合、前駆体が基板に達するのに要する時間を最小にするには10mm未満の間隔が非常に好ましい。
【0023】
製造方法の実施中に、前駆体化合物を含む流れを入口を通して反応室内に供給し、それにより、前駆体化合物が分解して基板上にグラフェンを形成する。前駆体化合物を含む流れは、希釈ガスをさらに含み得る。好適な希釈ガスについては以下でより詳細に説明する。
【0024】
好ましくは、前駆体化合物は炭化水素である。好ましくは室温で液体の炭化水素であり、最も好ましくはC~C10アルカンである。単純な炭化水素の使用が好ましい。なぜなら、そうすると、気体水素が副生成物である純粋な炭素源が与えられるからである。加えて、炭化水素は、室温で液体なので、低コストで、純度が高い液体の形態で得ることができる。好ましくは、前駆体化合物はヘキサンである。
【0025】
前駆体は、好ましくは加熱された基板上を通るときに気相である。考慮すべき変数が2つあり、それらは、密結合反応チャンバ内の圧力およびチャンバへのガスの流量である。
【0026】
選択される好ましい圧力は、選択される前駆体に応じて決まる。大まかに説明すると、分子の複雑度が高い前駆体を使用した場合、改善された二次元結晶材料品質および生産率が、低い圧力、たとえば500mbar未満の圧力を使用すると観察される。理論上、圧力は低いほど良いが、非常に低い圧力(たとえば200mbar未満)で得られる利点は、非常に遅いグラフェン形成速度によって相殺されることになる。
【0027】
逆に、分子の複雑度が低い前駆体の場合は、圧力は高いほど好ましい。たとえば、グラフェン製造用の前駆体としてメタンを使用した場合、600mbar以上の圧力が適しているであろう。典型的に、大気圧を超える圧力を使用することは、基板表面の力学およびシステムへの機械的応力に与えるその好ましくない影響のため、考えられない。どの前駆体についても、好適な圧力は、たとえば、それぞれ50mbar、950mbar、およびこれら2つの圧力の間の等間隔のその他3つの圧力を使用する、5回のテスト実行を含み得る、単純な経験的実験を通して選択することができる。次に、最も好適な範囲を狭めるために、最初の実行で最も好適であると識別された間隔以内の圧力で、さらに実行してもよい。ヘキサンについての好ましい圧力は、50~800mbarである。
【0028】
前駆体の流量を利用してグラフェンの堆積速度を制御することができる。選択される流量は、前駆体内部の化学種の量と、作製すべき層の面積とに応じて決まる。基板表面上において凝集したグラフェンの層の形成を可能にするには前駆体ガスの流量が十分に高くなければならない。流量が、高い方のしきい値流量を上回っている場合、バルク材の形成、たとえばグラファイトが一般的には発生する、または、気相反応が増し結果として固体粒子が気相内に浮遊することになり、これらはグラフェンの形成に悪影響を及ぼし、および/またはグラフェン層を汚染させる可能性がある。最小しきい値流量は、理論上は、当業者に周知の技術を用い、基板表面において層の形成に使用できる十分な原子濃度を保証するために基板に供給する必要がある化学種の量を推定することにより、計算することが可能である。所定の圧力および温度における、最小しきい値流量と最大しきい値流量との間の流量およびグラフェン層の成長速度は線形的に関連がある。
【0029】
好ましくは、前駆体と希釈ガスとの混合物を、密結合反応チャンバ内の加熱された基板の上に流す。希釈ガスを使用することにより、炭素供給速度の制御をさらに精密にすることができる。
【0030】
希釈ガスが水素、窒素、アルゴンおよびヘリウムのうちの1つ以上を含むことが好ましい。これらのガスが選択される理由は、典型的な反応器の条件下で、使用できる多数の前駆体と容易に反応せず、グラフェン層に含まれてもいないからである。それでも水素は特定の前駆体と反応する場合がある。加えて、特定の条件において窒素はグラフェン層に取り込まれる可能性がある。このような場合は、その他の希釈ガスのうちの1つを使用すればよい。
【0031】
上記潜在的な問題はあるものの、水素および窒素は、MOCVDおよびVPEシステムにおいて使用される標準的なガスなので、特に好ましい。
【0032】
サセプタは、前駆体の分解温度を上回る、少なくとも50℃、より好ましくは100~200℃の温度まで、加熱される。基板が加熱されて到達する好ましい温度は、選択される前駆体に応じて決まる。選択される温度は、化学種を放出させるために前駆体を少なくとも部分的に分解させることができるよう十分高くなければならないが、基板表面から離れた気相における再結合率の上昇を、ひいては望ましくない副生成物の発生を促すほど高くないことが好ましい。選択される温度は、完全分解温度よりも高く、それにより、基板表面の力学の改善を促し、良好な結晶品質のグラフェンの形成を促進する。ヘキサンの場合、最も好ましい温度は、約1200℃、たとえば1150~1250℃である。
【0033】
基板表面と前駆体の導入ポイントとの間に熱勾配を設けるためには、入口の温度を基板よりも低くする必要がある。離隔距離が固定されている場合、温度差が大きいほど温度勾配は急峻になる。そのため、少なくとも、前駆体を導入する際に通過させるチャンバの壁、より好ましくはチャンバの複数の壁を冷却することが好ましい。冷却は、冷却システムを用いる、たとえば、流体、好ましくは液体、最も好ましくは水による冷却を用いることにより、実現できる。反応器の壁は、水冷によって一定温度に保つことができる。冷却流体は、入口(複数の入口)の周りを流れることにより、入口が貫通している反応器の壁の内側の面の温度、したがって入口を通って反応チャンバに入るときの前駆体そのものの温度が、実質的に基板温度よりも低いことを保証することができる。入口は、100℃未満、好ましくは50~60℃に冷却される。
【0034】
この方法は、レーザを用いて基板からグラフェンを選択的にアブレートするステップをさらに含む。好適なレーザは、600nmを上回る波長および50Watt未満の出力を有するものである。好ましくは、レーザの波長は700~1500nmである。好ましくは、レーザの出力は1~20Wattである。これにより、グラフェンを、近傍のグラフェンまたは基板に損傷を与えることなく、容易に取り除くことができる。
【0035】
発明者らは、意外にも、基板からグラフェンを選択的にアブレートするために特に好適なのは、同様の波長で機能するCOレーザおよびその他のレーザであることを見出した。好適なレーザは、8μmを上回る、好ましくは9~15μm、最も好ましくは9.4~10.6μmの波長、および、5Wattから50Watt未満、好ましくは10~45Watt、最も好ましくは12~20Wattの出力を有するものである。発明者らは、意外にも、たとえ出力がより大きくても、この周波数ではグラフェンがエネルギを吸収し難くしたがってグラフェンに生じる損傷が少ないことを見出した。基板の熱抵抗は、レーザのエネルギが隣接するグラフェン層構造体に損傷を与えないことを保証する。このことは、アブレーションを、より素早く実行することが可能であり、さらに、基板の少なくとも一部を、好ましくは1~300nmの深さまでエッチングによって除去するために使用できることを意味する。
【0036】
基板をエッチングする機能は、基板からグラフェン層構造体を取り除くことを容易にする。理論に縛られることを望むものではないが、これがグラフェンシートのエッジを露出させるので、グラフェンシートをより簡単に取り除くことができると考えられる。当該技術において、基板からグラフェンを分離する技術は、周知であり、キャビテーション技術(超音波等)および溶液エッチング(RCA1を含む半導体洗浄溶液と同様)を含む。
【0037】
レーザスポットサイズをできる限り小さく保つこと(すなわち解像度がより高いこと)が好ましい。たとえば、本発明者らは、25ミクロンのスポットサイズで作業した。焦点はできる限り正確でなければならない。基板の損傷を防ぐためには、連続レーザではなくレーザをパルス状にする方がよいことも見出されている。
【0038】
いくつかの実施形態ではグラフェンをドープすることが望ましい場合がある。これは、ドーピング元素を密結合反応チャンバに導入し、基板の温度、反応チャンバの圧力、およびガス流量を選択することにより、ドープされたグラフェンを生成することによって実現することができる。単純な経験的実験を用いることにより、上記ガイダンスを使用してこれらの変数を決定することができる。このプロセスは、希釈ガスとともにまたは希釈ガスなしで使用することができる。
【0039】
導入することができるドーピング元素には特に認められている制限はない。グラフェンの製造のために一般的に使用されるドーパント元素は、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、ヒ素、酸素、硼素、臭素および窒素を含む。
【0040】
好ましくは、本明細書に開示される方法は、ホールセンサの製造のためのものであり、この方法は、
レーザを用いてグラフェンを選択的にアブレートすることにより、基板上にグラフェンのホールセンサ部分を画定するステップを含む。
【0041】
ホール効果センサは、当該技術では周知の部品である。これは、磁場に応じてその出力電圧を変化させるトランスデューサである。ホール効果センサは、近接スイッチング(proximity switching)、ポジショニング、速度検出、および電流検知用途に使用される。ホール効果センサ内では、導体の薄いストリップに沿って電流が印加され、磁場の存在下で、電子が導体ストリップの1つのエッジに向けて偏向させられ、ストリップの短辺(供給電流に垂直)にわたる電圧勾配が生じる。誘導センサとは異なり、ホール効果センサは、静止(変化しない)磁場を検出できるという利点を有する。
【0042】
より好ましくは、この方法は、基板上に複数のホールセンサ部分を設けるために使用される。そうすることにより、同一基板上に複数の検出器を設けることが可能である、または、基板をその後従来の手段によって複数のセンサに分割することが可能である。
【0043】
別の実施形態に従うと、この方法はホールセンサデバイス前駆体を製造するためものであり、この方法は、
レーザを用いてグラフェンを選択的にアブレートすることにより、基板上のグラフェンからなるホールセンサ部分と、電子部品に接続するための対応するグラフェンワイヤ回路とを画定することにより、ホールセンサデバイスを完成させるステップを含む。
【0044】
好ましくは、この方法は、グラフェン層構造体の表面にコンタクトを与えるステップをさらに含む。これにより、電気回路を形成することができる。
【0045】
別の局面に従うと、この方法は、フィルタの製造のためのグラフェン層構造体の製造ためのものであり、この方法は、
レーザを用いた選択的アブレーションによりグラフェンの表面全体にわたって分散する複数のポアを形成するステップと、
グラフェンを基板から分離するステップとを含む。
【0046】
好ましくは、レーザを用いた選択的アブレーションによりグラフェンの表面全体にわたって分散する複数のポアを形成するステップの後に、基板からグラフェンを分離する。
【0047】
このやり方で作られたフィルタは、表面全体に非常に微細なポアの予め定められたパターンを有することができる。これにより、極めて微細なスケールでの複数のフィルタリング目的に特に適したものになる。直径が50μm未満、好ましくは25μm未満のポアを形成できることがわかっている。実現可能なポアのサイズは、使用されるレーザのスポットサイズに応じて決まり、レーザの焦点合わせが改善されるとより小さくなる可能性がある。現時点ではポアサイズは1μmまで小さくすることが可能であると考えられる。
【0048】
次に、上記方法の要素についてより詳細に説明する。
密結合反応チャンバにおいて、グラフェンをその上に形成する基板表面と、前駆体が密結合反応チャンバに入る入口ポイントとの間の離隔距離を、十分に小さくすることにより、密結合反応チャンバ内で気相で反応する前駆体の割合を十分に低くすることでグラフェンを形成できるようにする。離隔距離の上限は、選択される前駆体、基板温度、および密結合反応チャンバ内の圧力に応じて変化する可能性がある。
【0049】
標準的なCVDシステムのチャンバと比較して、上記離隔距離を提供する密結合反応チャンバを使用することにより、基板に対する前駆体の供給を高度に制御することが可能であり、グラフェンをその上に形成する基板表面と、前駆体が密結合反応チャンバに入るときに通る入口との間の距離を小さくすることで、急峻な熱勾配を得て、それにより、前駆体の分解を高度に制御することが可能である。
【0050】
密結合反応チャンバが提供する、基板表面とチャンバの壁との間の相対的に小さい離隔距離は、標準的なCVDシステムが提供する相対的に大きい離隔距離と比較して、
1)前駆体の入口ポイントと基板表面との間の急峻な熱勾配、
2)前駆体の入口ポイントと基板表面との間の短い流路、および
3)前駆体の入口ポイントとグラフェン形成ポイントとを接近させること、
を可能にする。
【0051】
これらの利点は、基板表面温度、チャンバ圧力、および前駆体流速を含む堆積パラメータの、基板表面への前駆体の送出速度および基板表面全体の流動力学の制御の程度に対する効果を高める。
【0052】
これらの利点、およびこれらの利点がもたらすより優れた制御により、好ましくないグラフェン堆積であるチャンバ内の気相反応を最小にすることが可能になり、前駆体分解速度に高度の柔軟性を持たせることによって化学種を基板表面に効率的に送出することが可能になり、標準的なCVD技術では不可能である基板表面における原子構成の制御が行われる。
【0053】
基板の加熱と、入口における、基板表面の真向かいの反応器の壁の冷却との両方を同時に実施することにより、急峻な熱勾配を形成することができ、したがって温度は基板表面で最大であり入口に向かって速やかに降下する。これにより、確実に、前駆体が基板表面近くになるまでは基板表面の上方の反応器空間は基板表面自体よりも温度が大幅に低くなるようにし、気相における前駆体反応の可能性を大幅に下げる。
【0054】
本明細書に記載のグラフェン成長にとって効率が良いことが実証されているMOCVD反応器の代替設計も意図されている。この代替設計は、いわゆる高回転数(High Rotation Rate)(HRR)または「渦」流システムである。上記密結合反応器は非常に高い熱勾配を用いてグラフェンを作製することを重視するが、上記新たな反応器は注入ポイントと成長面または基板との間隔が非常に広い。密結合は、元素状態の炭素を、場合によってはその他のドーピング元素を基板表面に与えてグラフェン層が形成されるようにする前駆体を極めて急速に解離させることができる。一方、新たな設計は前駆体の渦に依拠する。
【0055】
上記新たな反応器設計において、このシステムは、表面上の層流を促進するために、より高い回転数を用いて、高レベルの遠心加速が注入されたガスの流れに影響を与えるようにする。結果として渦タイプの流体の流れがチャンバ内に発生する。この流れのパターンの効果は、他のタイプの反応器と比較すると、成長/基板表面近傍における前駆体分子の滞留時間が非常に長いことである。グラフェンの堆積のために、この長い時間は基本となる層の形成を促進する。
【0056】
しかしながら、このタイプの反応器には付随する問題が2つある。第1に、他の反応器と同量の成長を実現するのに必要な前駆体の量が増加することである。なぜなら、この流れの形態のために平均自由行程が短くなり、結果として前駆体分子の衝突が多くなり非グラフェン成長原子再結合をもたらすからである。しかしながら、比較的安価なヘキサン等の試薬を使用することは、この問題を簡単に克服できることを意味する。加えて、遠心運動は、サイズが異なる原子および分子に対して異なる影響を与え、結果として、異なる元素が異なる速度で放出される。望ましくない前駆体の副生成物が放出され均一的な速度で炭素が供給されるので、これは、おそらくグラフェンの成長を促すが、一方で、元素ドーピングのような所望の効果については好ましくない可能性がある。したがって、この反応器の設計を、本明細書に記載のホールセンサまたはフィルタに使用するのが望ましいようなドープされていないグラフェンに対して使用することが好ましい。
【0057】
このような反応システムの一例は、Veeco Instruments Inc.のターボディスクテクノロジー(Turbodisc technology)、K455iまたはPropelツールである。
【0058】
好ましくは、本明細書で使用される反応器は高回転数反応器である。反応器のこの代替設計は、その大きくされた間隔と高回転数とによって特徴付けることができる。好ましい間隔は、50~120mm、より好ましくは70~100mmである。回転数は、好ましくは100rpm~3000rpm、好ましくは1000rpm~1500rpmである。
【0059】
図面
次に、本発明を、非限定的な以下の図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本明細書に記載の方法に使用されるグラフェン層成長チャンバの概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1の反応器は、気相成長(VPE)という方法で基板上にグラフェン層を堆積させるために構成されたものであり、この反応器に前駆体を導入して基板の近傍および基板上において熱的、化学的、および物理的に相互作用させることによって1~40、好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体を形成する。
【0062】
この装置は、密結合反応器1を含み、反応器1は、壁1Aを貫通するように設けられた入口3と少なくとも1つの排出口4とを有するチャンバ2を含む。サセプタ5がチャンバ2の内部に配置されている。サセプタ5は、1つ以上の基板6を保持するための1つ以上の凹部5Aを含む。この装置はさらに、チャンバ2内でサセプタ5を回転させるための手段と、ヒータ7とを含み、ヒータ7は、たとえば、基板6を加熱するためにサセプタ5に結合された、抵抗加熱素子またはRF誘導コイルを含む。ヒータ7は、基板6を良好に熱的に均一にするために必要に応じて1つまたは複数の素子を含み得る。チャンバ2内の1つ以上のセンサ(図示せず)を、コントローラ(図示せず)とともに使用することにより、基板6の温度を制御する。
【0063】
反応器1の壁の温度は、水冷によって実質的に一定の温度に保たれる。
反応器の壁は、壁1Aの内側表面1Bを含む反応器の壁の内側表面に対して実質的に隣接して(典型的には数ミリメートルの距離で)延在する1つ以上の内部チャネルおよび/またはプレナム(plenum)8を画定する。動作中、水をポンプ9によりチャネル/プレナム8を通してポンピングすることにより、壁1Aの内側表面1Bを200℃以下に保つ。一部には入口3の直径が比較的狭いことから、(典型的には内側表面1Bの温度よりも遥かに低い温度で保存される)前駆体の温度は、壁1Aの入口3を通ってチャンバ1に入るときに、実質的に壁1Aの内側表面1Bの温度以下になる。
【0064】
入口3は、実質的に1つ以上の基板6の面積以上の面積全体にわたってアレイ状に配置され、入口3に面している1つ以上の基板6の表面6Aの実質的に全体にわたって実質的に均一的な体積流を提供する。
【0065】
チャンバ2内の圧力は、入口3を通る前駆体のガスの流れおよび排出口4を通る排出ガスを制御することによって制御する。この方法により、チャンバ2内のガス、基板表面6Aを通るガス、および、さらに入口3から基板表面6Aへの分子の平均自由行程が、制御される。希釈ガスを使用する場合、その制御を利用して、入口3を通る圧力を制御することもできる。前駆体ガスは、好ましくはヘキサンである。
【0066】
サセプタ5は、堆積に必要な温度、前駆体、および希釈ガスに対する耐性を有する材料からなる。サセプタ5は通常、基板6が均一的に加熱されることを保証する均一的に熱伝導する材料で構成される。好適なサセプタ材料の例は、グラファイト、炭化ケイ素、またはこれら2つの組み合わせを含む。
【0067】
基板6は、図1にXで示される離隔距離を1mm~100mmの間として壁1Aに面するように、チャンバ2内でサセプタ5によって支持されるが、離隔距離は先に述べたように一般的には小さい方が良い。入口3がチャンバ2内に突出しているかそうでなければチャンバ2内にある場合、関連する離隔距離は、基板6と入口3の出口との間で測定される。
【0068】
基板6と入口3との間隔は、サセプタ5、基板6、およびヒータ7を移動させることによって変えることができる。
【0069】
好適な密結合反応器の例は、AIXTRON(登録商標) CRIUS MOCVD反応器、またはAIXTRON(登録商標) R&D CCSシステムである。
【0070】
気体ストリームの中で懸濁している気体の形態または分子の形態の前駆体が、入口3を通してチャンバ2に導入され(矢印Yで示される)、そうすると、これらは基板表面6Aに当たるかまたは基板表面6A上を流れる。相互に反応し得る前駆体は、異なる入口3を通して導入されてチャンバ2に入るまで、分離された状態で保たれる。前駆体またはガスの流速/流量は、ガスマスフローコントローラ等のフローコントローラ(図示せず)を介してチャンバ2の外部から制御される。
【0071】
希釈ガスを1つまたは複数の入口3から導入することにより、チャンバ2内における、ガス力学、分子濃度、および流速を修正することができる。希釈ガスは通常、グラフェン層構造体の成長プロセスに影響を与えないよう、プロセスまたは基板6材料を基準として選択される。一般的な希釈ガスは、窒素、水素、アルゴンを含み、より少ないがヘリウムを含む。
【0072】
1~40、好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の形成後、反応器は冷却され、グラフェン層構造体が上にある基板6を取り出す。次に、たとえば波長が1152nmで強度が10WのHeNeレーザ、または、波長が10.6μmで強度が45WattのCOレーザを含むレーザアブレーション装置内で、基板6を位置合わせする。次に、このレーザ装置を用いて、基板上にグラフェンコンタクトを有する回路を定める。
【0073】
実施例
次に、本発明を、非限定的な以下の例を参照しながらさらに説明する。
【0074】
以下では、1~40、好ましくは1~10のグラフェン層を有するグラフェン層構造体の製造に成功した上記装置を用いるプロセスの例について説明する。すべての例において、直径250mmの密結合縦型反応器を2インチ(50mm)のターゲット基板6つとともに、使用した。これに代わる寸法および/または異なるターゲット基板面積を有する反応器については、前駆体およびガス流量を、理論的計算および/または経験的実験を通してスケーリングすることにより、同じ結果を得ることができる。
【0075】
本発明の方法を使用すると、周知の方法との比較において実質的に改善された特性を有する、たとえば、粒径が20μmよりも大きく、直径6インチの基板を98%の被覆率で覆い、層の均一性が基板の95%を超え、シート抵抗が450Q/sq未満であり、電子移動度が2435cm/Vsを超える、パターニングされたグラフェンを製造することが可能であった。本発明の方法を用いて製造したグラフェン層の直近のテストは、温度および圧力について標準的な条件でテストした層全体にわたり、8000cm/Vsを上回る電子移動度が示された。この方法は、標準的なラマン分光およびAFMマッピング技術を用いてミクロン単位で測定した、検出不能な不連続性を有する6インチ(15cm)の基板全体にグラフェン層を製造することができた。また、この方法は、基板全体にわたり、均一的なグラフェン単層および積層された均一的なグラフェン層を、上記または最も上の均一的な単層の上にさらに層の破片、個々の炭素原子または炭素原子群が形成されることなく、製造できることが示された。
【0076】
以下の説明では、電子機器に適した高品質で高移動度の材料を送出する、有機金属化学気相成長(MOCVD)のプロセスを使用し、サファイア基板上にグラフェンの1つの単層を作製する方法の詳細について述べる。
I.サファイアのウェハをMOCVD反応器チャンバに入れる。
II.反応器を閉じることにより、ガスインジェクタが基板表面から上方に10~11mm離れた場所に位置するようにする。
III.反応器チャンバのポンプ-パージサイクルにより、周囲環境の存在をなくす。
IV.ガス流量10slmの水素を反応器に導入し一定に保つ。
V.反応器圧力を50mbarに下げる。
VI.反応器温度(すなわちサセプタ)および関連してウェハを1050℃まで加熱する。
VII.温度を、設定温度に到達後、3分間にわたって安定させる。
VIII.液体ソースからピックアップしたガスストリームを介してヘキサンを反応室チャンバに流量0.1slmで2分間導入する。そうすると、グラフェン「核生成」構造体が基板表面上に形成される。
IX.ヘキサンの流れを止める。
X.水温を1350℃まで高める。
XI.設定温度に到達後、3分間温度を安定にする。
XII.再び液体ソースからピックアップされたガスストリームを介して、今回は流量0.2slmで8分間、ヘキサンを反応器に再導入する。
XIII.反応器チャンバへのヘキサンの流れを止める。
XIX.水素がまだ流れている状態で、反応器を15分で室温まで冷却する。
XV.窒素ガスを用いて反応器チャンバを増して大気圧に戻す。
XVI.この時点でウェハを取り出すことができる。
【0077】
上記プロセスは、ガス流量、ヘキサン流量、基板温度等の、上記変数のうちのいくつかを修正することにより、キャリア濃度および電子移動度等の特性がわずかに変化したグラフェンを製造するように、変えることができる。
【0078】
サファイアウェハの熱伝導係数(熱抵抗率の逆数)は、298Kで、C軸に直交する方向において30.3W/mK、C軸に平行な方向において32.5W/mk、60℃で27.2W/mKである。これに代わる基板を、熱伝導係数がこれよりも低いかまたは等しい(すなわち熱抵抗率が高い)という条件で、298Kで使用することが可能である。
【0079】
以下は、上記ウェハスケールのグラフェン材料を用いてホール効果センサを製造する方法の説明である。以下の製造プロセスは、先に詳述したプロセスを用いて製造したサファイア基板上のグラフェンを使用する。
I.特別に設計されたマスクを、グラフェンウェハの上に、電気コンタクトを露出させる必要がある領域のみを残して載せる。
II.電子ビーム蒸着等の標準的な金属蒸着技術を用い、上記マスクを通して、5nmのクロムおよび70nmの金からなる電気コンタクトをグラフェン表面上に堆積させる。
III.金属蒸着システムからウェハを取り出し、ウェハからマスクを取り除く。
IV.ウェハをレーザエッチングシステムに入れる。出力は約8Wであったが、その中には、基板の絶縁特性に応じて、かなり幅広い窓がある。
V.レーザを、グラフェンウェハの方向に向け、ウェハ表面からグラフェンをアブレートするのに適した出力および波長に設定する。
VI.レーザを、グラフェン材料の一部が取り除かれてパターンが形成されるように制御する。これらのパターンが所望のデバイスの形状を作る。堆積させた電気コンタクトの周りに、重ならないようにパターンが形成されるよう、グラフェンの気化を制御する。上手く制御すると、1つのウェハ上に複数のグラフェンホール効果センサが形成される。
VII.レーザパターニングシステムからウェハを取り出し、サファイア基板上の複数のグラフェン系センサを提供する。
【0080】
本明細書におけるすべての百分率は、特に明記しない限り、重量百分率である。
上記詳細な説明は、説明および例示のために提供され、添付の請求項の範囲を限定することを意図している訳ではない。本明細書に例示されている現在好ましい実施形態の多数の変形は、当業者には明らかであろう変形であり、なおも添付の請求項およびその均等物の範囲に含まれる。
図1