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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】宇宙機、制御システム
(51)【国際特許分類】
   B64G 1/10 20060101AFI20220804BHJP
   B64G 1/22 20060101ALI20220804BHJP
   B64G 1/66 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
B64G1/10
B64G1/22
B64G1/66 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020567677
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001655
(87)【国際公開番号】W WO2020152744
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】397060072
【氏名又は名称】スカパーJSAT株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 忠徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 淳
(72)【発明者】
【氏名】平田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】戎崎 俊一
(72)【発明者】
【氏名】和田 智之
【審査官】姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5153407(US,A)
【文献】特開平10-244651(JP,A)
【文献】特開平06-028696(JP,A)
【文献】特表2013-512145(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104155747(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/10
B64G 1/22
B64G 1/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間において、対象物にレーザを照射して前記対象物の軌道または姿勢を変える宇宙機であって、
レーザを発生させるレーザ装置と、
前記レーザを収束させるフォーカス手段と、
前記宇宙機と前記対象物との距離を含む検出情報を取得する検出手段と、
前記距離に基づいて前記対象物でレーザが収束するように前記フォーカス手段を制御するとともに前記対象物における前記レーザの照射位置を決定する照射制御手段と、
前記対象物を撮像した撮像画像を取得する取得手段と、
を有し、
前記照射制御手段は、前記撮像画像に基づいて前記対象物におけるレーザが照射された位置を取得し、前記レーザが照射された位置に基づいて新たな照射位置を決定する、
を有することを特徴とする宇宙機。
【請求項2】
前記照射制御手段は、前記撮像画像に基づいて前記対象物におけるレーザの初期照射位置を決定し、前記初期照射位置に対して前記レーザを照射し、前記撮像画像に基づいて前記対象物におけるレーザが照射された位置を取得し、前記レーザが照射された位置に基づいて新たな照射位置を決定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の宇宙機。
【請求項3】
前記照射制御手段は、
前記対象物における前記レーザの照射位置を決定する場合には、第1の出力値で前記レーザを出力するように制御し、
前記対象物の軌道または姿勢を変える場合には、前記第1の出力値より大きい第2の出力値で前記レーザを出力するように制御する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の宇宙機。
【請求項4】
前記照射制御手段は、前記検出情報に基づいて、前記対象物における前記レーザの照射位置および/または前記レーザの出力値を決定する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の宇宙機。
【請求項5】
前記照射制御手段は、前記レーザを照射した後の前記検出情報に基づいて、新たな照射位置および/または新たな出力値を決定する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の宇宙機。
【請求項6】
前記検出情報は、前記宇宙機と前記対象物との距離、前記対象物の位置、大きさ、形状、撮像画像、および回転状態のうち少なくともいずれか1つを含む、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の宇宙機。
【請求項7】
前記レーザ装置から射出したレーザを反射するミラーをさらに有し、
前記照射制御手段は、前記ミラーを用いて前記レーザの照射方向を変える、
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の宇宙機。
【請求項8】
前記照射制御手段は、前記対象物に取り付けられる推進力強化部材においてレーザが収束されるように前記フォーカス手段を制御し、かつ前記推進力強化部材に対してレーザが照射されるように照射位置を決定する、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の宇宙機。
【請求項9】
前記推進力強化部材は、
照射されたレーザを透過する透明部材と、
前記透明部材と前記対象物との間に設けられ、前記レーザを吸収して、前記レーザのエネルギーにより少なくとも一部が蒸発する不透明部材と、
を有する、
ことを特徴とする請求項8に記載の宇宙機。
【請求項10】
宇宙空間上に設けられる請求項1から9のいずれか一項に記載の宇宙機と、
地球上に設けられる監視装置と、
を有する制御システムであって、
前記監視装置は、
前記対象物の位置を検知する検知手段と、
前記対象物の位置情報を前記宇宙機に送信する送信手段と、を有し、
前記宇宙機は、
前記位置を前記監視装置から受信する受信手段と、をさらに有する、
ことを特徴とする制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙機、制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、宇宙空間におけるデブリ(宇宙ゴミ)の増加が問題となっている。デブリとは、不要になった人工衛星や故障した人工衛星、または衝突等によって放出された人工衛星の一部等である。デブリは、運用中の人工衛星と衝突を引き起こす危険性があり、数センチ程度のデブリが人工衛星に衝突した場合でも人工衛星にとって壊滅的な被害が生じる。また、デブリが増加して人工衛星と衝突することによりデブリが爆発的に増加する問題(ケスラーシンドローム)が懸念されている。デブリの増加を防止するためには、デブリを焼却除去するか、他の人工衛星と衝突しない軌道(墓場軌道)に移動させる必要がある。
【0003】
デブリを除去する方法として、(デブリ除去用の)人工衛星にデブリを密着させて、ともに大気圏に突入することでデブリを焼却除去する技術が提案されている(特許文献1)。また、人工衛星からガスを噴出してデブリに力を加えることで、デブリの制御を行う技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-174647号公報
【文献】特表2013-512145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、デブリが回転している場合は接近が困難であり、仮に衝突した場合デブリを増加させてしまう問題がある。また、デブリ除去用の人工衛星自体も焼却されてしまうため、莫大な費用が掛かるという問題もある。特許文献2の方法では、人工衛星によって噴射されるガスでデブリに力を加えるためデブリに近づく必要があり、衝突する危険を伴う。
【0006】
そこで、本発明は、宇宙空間上において、安全に対象物の軌道または姿勢を変える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、宇宙空間において、対象物にレーザを照射して前記対象物の軌道または姿勢を変える宇宙機であって、レーザを発生させるレーザ装置と、前記レーザを収束させるフォーカス手段と、前記宇宙機と前記対象物との距離を含む検出情報を取得する検出手段と、前記距離に基づいて前記対象物でレーザが収束するように前記フォーカス手段を制御する照射制御手段と、を有することを特徴とする宇宙機である。
【0008】
この構成によれば、宇宙機は、フォーカス手段を用いてレーザを収束させることで、離れた位置からレーザを照射して対象物の軌道または姿勢を変えることができる。これにより、対象物に衝突するリスクを低減することができる。ここで、宇宙機は、例えば、宇宙空間において、対象物にレーザを照射して対象物の軌道または姿勢を制御する人工衛星である。また、対象物とは、宇宙空間に存在するデブリ(宇宙ゴミ、スペースデブリ)を含む人工物や、人工物以外の物体(例えば、隕石等)である。また、宇宙空間上で宇宙機によって対象物を検出することで、小さな対象物(例えば、10センチ以下のデブリ)を検出することができ、レーザ照射により軌道や姿勢を変えることができる。
【0009】
前記照射制御手段は、前記検出情報に基づいて、前記対象物における前記レーザの照射位置および/または前記レーザの出力値を決定するとよい。この構成によれば、対象物の検出情報(状態)に応じて適切な箇所に適切な出力値でレーザを照射することができる。また、レーザ照射を行うことで危険が生じる可能性のある箇所を避けて照射位置を決定することもできる。
【0010】
前記照射制御手段は、前記レーザを照射した後の前記検出情報に基づいて、新たな照射位置および/または新たな出力値を決定するとよい。この構成によれば、レーザを照射しながら照準を合わせることができる。また、レーザ照射による対象物の変化(位置、回転速度など)に応じて適切なレーザ照射を行うことができる。前記検出情報は、前記宇宙機と前記対象物との距離、前記対象物の位置、大きさ、形状、撮像画像、および回転状態のうち少なくともいずれか1つを含むとよい。
【0011】
前記照射制御手段は、前記レーザの照準を合わせる場合には、第1の出力値(小出力)で前記レーザを出力するように制御し、前記対象物の軌道または姿勢を変える場合には、前記第1の出力値より大きい第2の出力値(大出力)で前記レーザを出力するように制御するとよい。この構成によれば、1つのレーザ装置(光源)で、照準合わせ、およびレーザ照射が可能となる。なお、照準合わせ用の光源と、レーザ照射用の光源とを別体としてもよい。
【0012】
前記レーザ装置から射出したレーザを反射するミラーをさらに有し、前記照射制御手段は、前記ミラーを用いて前記レーザの照射方向を変えるとよい。この構成によれば、レーザの出射方向を容易に変えることができる。なお、フォーカス手段の向きを変更したり、宇宙機自体の向きを変更することで、レーザの出射方向を変更してもよい。
【0013】
前記照射制御手段は、前記対象物に取り付けられる推進力強化部材においてレーザが収束されるように前記フォーカス手段を制御し、かつ前記推進力強化部材に対してレーザが照射されるように照射位置を決定するとよい。また、前記推進力強化部材は、照射されたレーザを透過する透明部材と、前記透明部材と前記対象物との間に設けられ、前記レーザを吸収して、前記レーザのエネルギーにより少なくとも一部が蒸発する不透明部材と、を有するとよい。
【0014】
この構成によれば、レーザ照射によるアブレーションによる推力を増大させることができる。透明部材はレーザを透過する部材であって、例えば、シート状や微球体等の部材である。また、透明部材は、人工衛星の運用期間(例えば、10~15年)、宇宙空間上で原子状酸素や放射線等が照射されても透過性を有する材料で生成されることが望ましい。透過性を有するとは、レーザ(光)の吸収および散乱が生じないか所定の範囲内であることを示す。透明部材の材料は、例えば、フッ素樹脂、純粋アクリルまたは石英ガラス等を用いるとよい。不透明部材は、例えば、シート状の部材であって、レーザを吸収して膨張するという特性を持つ材料で生成されることが望ましい。不透明部材にレーザが照射されると、当該レーザのエネルギーにより不透明部材の少なくとも一部が蒸発し、プラズマ化して噴き出す。この噴き出す力の反力Δvによって、推進力強化部材を取り付けた物体に対して推進力を与える。
【0015】
本発明の一態様は、宇宙空間上に設けられる上記の宇宙機と、地球上に設けられる監視装置と、を有する制御システムであって、前記監視装置は、前記対象物の位置を検知する検知手段と、前記対象物の位置情報を前記宇宙機に送信する送信手段と、を有し、前記宇宙機は、前記位置を前記監視装置から受信する受信手段と、をさらに有する、ことを特徴とする制御システムである。
【0016】
なお、本発明は、上記構成の少なくとも一部を有するレーザ装置として捉えることができる。また、本発明は、上記処理の少なくとも一部を含む制御方法、または、かかる方法をコンピュータに実行させるためのプログラムやそのプログラムを非一時的に記憶したコンピュータ読取可能な記憶媒体として捉えることもできる。上記構成および処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、宇宙空間上において、安全に対象物の軌道または姿勢を変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るデブリ制御の一例を示す図
図2】本実施形態に係るレーザ照射の一例を示す図
図3】本実施形態に係るデブリ制御のビジネスモデルの一例を示す図
図4】本実施形態に係るデブリ制御のビジネスモデルの一例を示す図
図5】本実施形態に係るデブリ制御のビジネスモデルの一例を示す図
図6】本実施形態に係るレーザ照射システムの一例を示す図
図7】本実施形態に係るフォーカス部およびステアリング部の一例を示す図
図8】本実施形態に係る処理の一例を示すフローチャート
図9】本実施形態に係る照射位置の一例を示す図
図10】本実施形態に係る特殊パッドの推進力増強の一例を示す図
図11】本実施形態に係る特殊パッドの一例を示す図
図12】本実施形態に係る特殊パッドの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
(実施形態)
<概要>
本実施形態に係る宇宙機は、宇宙空間において、対象物にレーザを照射して対象物の軌道または姿勢を制御する人工衛星である。対象物の軌道または姿勢を制御することで、例えば、不要な対象物を除去する。
【0020】
対象物とは、宇宙空間に存在するデブリ(宇宙ゴミ、スペースデブリ)を含む人工物や、人工物以外の物体(例えば、隕石等)である。デブリとは、制御不能になった人工衛星や、運用終了に伴い不要となった人工衛星、衝突等によって放出された人工衛星の一部を含むものである。本実施形態では、デブリを対象物とする例について説明する。
【0021】
軌道または姿勢の制御とは、宇宙空間に存在する対象物(デブリ)の軌道や姿勢を変えることを示す。軌道を変えるとは、例えば、デブリの高度を上げたり下げたりすることである。これにより、デブリを大気圏に再突入させて焼却除去したり、他の衛星と衝突しない軌道(墓場軌道)に移動させたり、デブリと他の物体との衝突を回避するために当該人工衛星を一時的に移動したりする。また、姿勢を変えるとは、例えば、デブリの回転を抑制することである。これにより、物理的にアクセスする際の衝突リスクを軽減する。
【0022】
なお、本実施形態では、宇宙機として人工衛星を用いる例について説明するが、無人宇宙機に限定されず、宇宙機として有人宇宙機を用いてもよい。また、人工衛星(親機)等に搭載される機器(子機)を宇宙機としてもよい。
【0023】
<デブリ除去方法>
図1は、本実施形態に係るデブリ除去の一例を示す図である。図1には、地球11と、地球11を覆う大気圏12と、地球周回軌道である軌道13が示されている。また、宇宙機100は、対象物にレーザを照射する人工衛星である。デブリ200は、軌道13を速度vで移動する人工衛星であって、運用期間の満了等により不要となったものとする。宇宙機100は、デブリ200に対してレーザを照射することにより、デブリ200に反力Δvを発生させる。デブリ200は、当該反力により、例えば、高度を下げ大気圏に再突入して焼却除去される。なお、デブリ除去方法は上記に限定されず、例えば、デブリ200の高度を上げて(または下げて)他の人工衛星が存在しない軌道(墓場軌道)へ移動させてもよい。
【0024】
図2は、レーザ照射によって生じる反力を示す図である。レーザ21は、宇宙機100によって照射されたレーザである。レーザ21がデブリ200に照射されると、デブリ200の表面の物質が蒸発し、プラズマ化して噴き出す(プラズマアブレーション)。この時に物質が噴き出す力(矢印22)の反作用をデブリ200が受けることにより反力Δv(矢印23)が生じる。
【0025】
<デブリ除去のビジネスモデル>
本実施形態に係る宇宙機を用いたデブリ除去のビジネスモデルとして、例えば、以下の3つが挙げられる。以下、順に説明する。
1.宇宙環境維持機関の依頼に基づくデブリ除去
2.コンステレーションユーザの依頼に基づくデブリ除去
3.静止衛星のデオービット(Deorbit)依頼に基づくデブリ除去
【0026】
≪1.宇宙環境維持機関の依頼に基づくデブリ除去≫
図3は、本実施形態に係る宇宙機を用いたビジネスモデルの一例を示す図である。宇宙利用ユーザ31は、国や、宇宙機関、オペレータ等である。宇宙環境維持機関32は、宇宙利用ユーザ31から搬出金を集めて、デブリの観測や、デブリ除去依頼等を行う機関である。デブリ除去代行業者33は、本実施形態に係る宇宙機等を用いてデブリを実際に除去する業者である。例えば、デブリ除去代行業者33は、宇宙環境維持機関32からデブリ除去費用(デブリ除去依頼)を受け取り、デブリの移動(軌道制御)等を行う。これにより、デブリと宇宙利用ユーザ31の運用する人工衛星等との衝突リスクが低減される。
【0027】
宇宙空間上で衛星同士が衝突してデブリが爆発的に増加する問題(ケスラーシンドローム)が懸念されている。また、近年では、小型衛星の数が増え続けて物体同士の密度が上昇することにより、衝突のリスクがさらに高まっている。そのような背景から、近い将来に宇宙のデブリを積極的に減らす需要が発生すると推測される。この場合、デブリを除去することは、ユーザ全員の便益になることから、除去費用を集める上記のような機関が創出されることが見込まれる。ここで、宇宙空間におけるデブリの観測網の拡充によって、衝突リスクをより認識できるようになってきている。このため、衝突リスクに応じて、本実施形態に係る宇宙機を運用する上記業者は、当該機関からの依頼に基づくデブリ除去を実施する。
【0028】
≪2.コンステレーションユーザの依頼に基づくデブリ除去≫
図4Aは、本実施形態に係る宇宙機を用いたビジネスモデルの一例を示す図である。コンステレーションユーザ41は、衛星コンステレーションを構築している宇宙機関やオペレータ等である。衛星コンステレーションとは、複数の人工衛星を協調して互いに通信範囲が重ならないように配置することで、全地表面を網羅する一群の衛星システムである。デブリ除去代行業者42は、コンステレーションユーザ41から宇宙機の配置料(配置依頼)を受け取り、上記複数の人工衛星に対して宇宙機を配置する業者である。通常、コンステレーションでは、同一軌道に多数の衛星を投入するため、1つの衛星が制御不能(人工衛星故障)になった場合、その衛星が他の衛星に衝突するリスク(事業継続危機)が生じる。
【0029】
このような場合に、デブリ除去代行業者42は、コンステレーションユーザ41の軌道離脱依頼に応じて、本実施形態に係る宇宙機を用いて、制御不能な衛星の軌道を変更することで、他のコンステレーション衛星と衝突するリスクを低減(回避)する。そして、デブリ除去代行業者42は、コンステレーションユーザ41から成功報酬を受け取る。なお、コンステレーションの構築の際に、衛星コンステレーションを構成する複数の人工衛星それぞれに対して宇宙機をそれら近傍に配置するとよい。これにより、迅速にデブリを除去することができる。なお、上記に限定されず、1つの軌道に対し、1つまたは少数の宇宙機を配置し、宇宙機に搭載された推進部を用いてデブリに近づきデブリ除去を行うことで、低コストでデブリを除去することができる。
【0030】
図4Bは、衛星コンステレーションを構成する複数の人工衛星200a~200hと、複数の人工衛星それぞれに対して配置される宇宙機100a~100hである。図4Bでは、人工衛星200aが故障した場合に宇宙機100aによって軌道が変更された(高度が下げられた)例を示している。
【0031】
≪3.静止衛星のデオービット(Deorbit)依頼に基づくデブリ除去≫
図5は、本実施形態に係る宇宙機を用いたビジネスモデルの一例を示す図である。静止軌道オペレータ51は、静止衛星を運用するオペレータである。静止衛星とは、高度約36,000kmの円軌道を、地球の自転周期と同じ周期で公転する人工衛星である。デブリ除去代行業者52は、静止軌道オペレータ51の運用する静止衛星のデオービットを代行する業者である。デオービットとは、人工衛星を軌道から離脱させることを示す。例えば、静止軌道オペレータ51は、デブリ除去代行業者52に契約金を支払うことでデオービット代行契約を結ぶ。そして、通常運用中に燃料枯渇等で人工衛星が制御不能になった場合、静止軌道オペレータ51は、デブリ除去代行業者52に当該人工衛星の軌道を離脱するよう依頼する。デブリ除去代行業者52は、上記依頼に応じて、制御不能になった人工衛星の軌道を変更する。これにより、制御不能になった人工衛星の軌道離脱が行われる(デオービット)。軌道離脱は、例えば、他の人工衛星が存在しない軌道に移動することが挙げられる。そして、デブリ除去代行業者52は、静止軌道オペレータから成功報酬を受け取る。
【0032】
上記の例は、人工衛星の運用中に燃料(推薬)が枯渇した場合であるが、人工衛星において燃料の残量管理は不確定性が高く、デオービットを確実に実施するためにはマージンを持つ必要がある。本実施形態に係る宇宙機を用いることで、衛星事業者は燃料の不確実性のマージンや、デオービットのための燃料を確保する必要がなくなる。これにより、衛星事業者は燃料を枯渇するまで軌道制御等に使用することが可能となる。
【0033】
<構成>
図6は、本実施形態に係るレーザ照射システムの構成を示す図である。レーザ照射システムは、宇宙機100、監視装置110等を含む。
【0034】
≪宇宙機100≫
宇宙機100は、レーザ照射機能を有する人工衛星である。宇宙機100は、取得部101、検出部102、制御部103、推進部104、通信部105、レーザ装置106、フォーカス部107、ステアリング部108等を有する。宇宙機100は、レーザ装置106によって出力されたレーザを、フォーカス部107、ステアリング部108を介して、デブリ200に照射する。
【0035】
取得部101は、不図示の撮像部を用いて画像を取得する機能部である。また、取得部101は、後述のレーザ装置106より出力された探索用のレーザの反射光を取得する。取得部101は、種々のセンサであると捉えることもできる。
【0036】
検出部102は、取得部101によって取得された画像または反射光に基づいて、デブリ200の検出情報を取得する機能部である。検出情報は、宇宙機100とデブリ200との距離、デブリ200の位置、大きさ、形状、撮像画像、回転状態(姿勢)等である。例えば、検出部102は、Lidar(Light Detection and Ranging)を用いて宇宙機100とデブリ200との距離を取得する。
【0037】
制御部103(照射制御手段)は、宇宙機100とデブリ200との距離に基づいて、レーザ装置106から出射したレーザがデブリ200で収束するようにフォーカス部107を制御する。例えば、フォーカス部107が光学系である場合、当該光学系の焦点距離を調整する。また、制御部103は、検出部102によって取得された検出情報に基づいて、デブリ200に対するレーザの照射位置や、レーザの出力値を決定する機能部である。例えば、制御部103は、検出部102によって検出されたデブリ200の位置や姿勢、およびレーザ照射に適した領域に基づいてレーザの照射位置を決定する。レーザ照射に適した領域とは、レーザ照射を行うことで危険が生じる可能性のある箇所(例えば、燃料タンク等)を除く領域である。また、制御部103は、地上における安全なエリア等を考慮してレーザを照射する位置やタイミングを決定してもよい。安全なエリアとは、デブリ200が大気圏に再突入した際に燃え尽きずに残ってしまった破片などを落下させるためのエリアである。例えば、安全なエリアは、船舶および航空機等の航路や陸地から数十~数百海里以上離れている海上である。制御部103は、後述する監視装置110から通信部105を介してレーザ照射に適した領域や安全なエリアに関する情報を取得するとよい。
【0038】
推進部104は、レーザ照射に必要な姿勢を調整するためにスラスタまたはホイール等の推力発生装置(アクチュエータ)を用いて、宇宙機100の姿勢または軌道の制御を行う機能部である。姿勢制御方法は特に限定されず、既存の方式である3軸安定方式、バイアスモーメンタム方式、ゼロモーメンタム方式等を採用することができる。
【0039】
通信部105は、地上の監視装置110と通信を行うための機能部である。通信部105を介して、宇宙機100は、デブリ200の大まかな位置(粗軌道位置)や、上記のレーザ照射に適した領域や安全なエリアに関する情報等を取得する。
【0040】
レーザ装置106は、レーザを出力する装置である。本実施形態では、レーザ装置106は、ファイバーレーザを並列に用いたパルスレーザシステムを用いることにより、高強度(高出力)のレーザを出力する。レーザ装置106は、後述するアブレーションを発生させるために必要な出力値の3倍程度の出力が可能であることが望ましい。なお、レーザは上記に限定されず、固体レーザ等の種々のレーザを出力してもよい。例えば、デブリ200を探索したり、デブリ200に対してレーザの照準を合わせる場合、小出力のレーザを出力してもよい。なお、照準合わせ用の光源と、レーザ照射用の光源とを別体としてもよい。また、照準合わせ用の光源は可視光を発してもよい。
【0041】
フォーカス部107は、レーザ装置106によって出射されたレーザを収束させるための部材である。フォーカス部107を介することで、宇宙機100は、遠隔地点からでもデブリ200へレーザを出射することができる。本実施形態では、フォーカス部107は、一般的な望遠鏡を用いるが、レーザを収束させるための部材であれば望遠鏡に限定されない。また、本実施形態では、遠隔地点として、デブリ200から20メートル~1000メートル程度離れた位置を想定しているが、宇宙機100とデブリ200との距離は特に限定されない。
【0042】
ステアリング部108は、フォーカス部107によって出力されたレーザの照射方向を変えるための部材である。例えば、ステアリング部108として、可動式のミラーを用いることができる。ステアリング部108を用いることで、宇宙機100は遠隔地点からでも容易にレーザの照射方向をデブリ200に向けることができる。また、宇宙機100とデブリ200とが同じ軌道上に存在しない場合でも、遠隔からでも容易にレーザの照射方向をデブリ200に向けることができるため、宇宙機100がデブリ200と衝突する危険性を軽減している。
【0043】
図7は、本実施形態に係るフォーカス部107およびステアリング部108の構成の一例を示す図である。レーザ装置106から出力されたレーザは、フォーカス部107を介することで徐々に収束する。そして、レーザは、ステアリング部108によって反射されることで、照射方向が変更される。
【0044】
なお、レーザをターゲットに向ける方法は上記に限定されない。例えば、ステアリング部108を用いずに、宇宙機100自体の姿勢制御によって、レーザが出射する方向を変えてもよい。また、フォーカス部107の向きを変更することで、レーザが出射する方向を変えてもよい。なお、本実施形態では、フォーカス部107およびステアリング部108は、宇宙機100の一部として設けられる例を示すが、宇宙機100とは別体として設けられてもよい。
【0045】
≪監視装置110≫
監視装置110は、デブリ200の大まかな位置を検出したり、検出したデブリ200の情報を宇宙機100に送信する装置である。また、監視装置110は、上記のレーザ照射に適した領域や安全なエリアに関する情報等を宇宙機100に送信してもよい。
【0046】
≪デブリ200≫
【0047】
デブリ200は、本実施形態では、制御不能になった人工衛星や、運用終了に伴い不要となった人工衛星等の大型のものから、衝突等によって放出された人工衛星等の一部(例えば、ネジ等の部品)など小さなものを含んでもよい。なお、デブリ200の対象は上記に限定されず、宇宙空間に存在する物体(例えば、隕石など)を含む。また、デブリ200のサイズも特に限定されない。一般に、宇宙空間に存在する物体において、10[cm]以上の大きさであれば地上から検出することが可能とされているが、本実施形態に係る宇宙機100は、宇宙空間上でデブリ200を検出するため10[cm]以下の物体でも検出を行うことができる。
【0048】
<処理内容>
図8は、本実施形態に係る処理の一例を示すフローチャートである。
【0049】
ステップS801では、監視装置110は、デブリ200の大まかな軌道(位置)を検出する。そして、監視装置110は、検出したデブリ200の位置を宇宙機100へ送信する。
【0050】
ステップS802では、検出部102は、上記で取得した大まかな位置に基づいてデブリ200を探索し、デブリ200の検出情報を取得する。例えば、検出部102は、宇宙機100とデブリ200との距離、デブリ200の位置、大きさ、形状、撮像画像、回転状態(姿勢)等を上記検出情報として取得する。
【0051】
ステップS803では、制御部103は、宇宙機100の照射モードがロックモードであるか否かを判断する。ロックモードとは、宇宙機100が検出したデブリ200に対してレーザを照射するモードである。ロックモードである場合はステップS804へ進み、そうでない場合はステップS801へ戻る。
【0052】
ステップS804では、宇宙機100はレーザを出射して、レーザの照準を合わせる。具体的には、レーザ装置106によって出射されたレーザは、フォーカス部107を通ることで収束する。そして、ステアリング部108によって照射方向が変更される。本実施形態では、制御部103は、宇宙機100とデブリ200との距離(検出情報)に基づいて、デブリ200でレーザが収束されるようにフォーカス部107を制御する。ここで、本実施形態では、レーザの照準を合わせる場合には、制御部103はレーザの出力値を「小(第1の出力値)」に設定する。
【0053】
図9は、デブリ200における照射位置の一例を示す図である。例えば、デブリの各面における角部(例えば、領域A1~A4)にレーザを照射することで、回転トルクを発生させる。また、対角上に交互にレーザを照射することで、デブリ200を移動させるための外力を加えることができる。対角上に交互にレーザを照射とは、例えば、領域A1→領域A4→領域A1→領域A4の順にレーザを照射することを示す。また、中央部(例えば、領域A5)にレーザを照射してデブリ200を移動させるための外力を加えてもよい。
【0054】
ステップS805では、制御部103は、上記の照準位置と実際に照射された位置とが一致しているか否かを判断する。制御部103は、例えば、取得部101によって取得される画像に基づいて実際に照射された位置を取得する。一致している場合にはステップS806へ進み、そうでない場合にはステップS804へ戻る。
【0055】
ステップS806では、宇宙機100は、レーザを出射して、デブリ200に対して照射を行う。本実施形態では、対象物の軌道または姿勢を変える場合には、制御部103はレーザの出力値を「大(第2の出力値)」に設定する。
【0056】
ステップS807では、検出部102は、デブリ200の軌道または姿勢を検出する。
【0057】
ステップS808では、制御部103は、デブリ200の制御が完了したか否かを判断する。制御が完了する場合とは、例えば、軌道制御において目的の軌道に移動した場合や、姿勢制御においてデブリ200の回転(自転)が止まった場合等である。制御が完了した場合は本処理を終了し、そうでない場合はステップS809へ進む。
【0058】
ステップS809では、制御部103は、上述の検出情報に基づいてデブリ200の慣性モーメントIまたは重心Gを求める。
【0059】
ステップS810では、制御部103は、各種パラメータを更新する。例えば、デブリ200の姿勢制御を行う場合、制御部103は、上述の検出情報に基づいて測定したトルク(測定トルクN1と称する。)と想定したトルク(想定トルクN2と称する。)とが一致するようにパラメータを更新する。ここでは、パラメータとして、想定した推力Fと焦点位置かから重心までの長さrが更新(調整)される。想定した推力Fの調整は、例えば、照射するレーザの強度(レベル)を変えることで行うことができる。ここで、測定トルクN1は想定加速度α、慣性モーメントI、測定した初期姿勢変化量ω0および照射後の姿勢変化量ω1を用いて以下のようにして求められる。また、想定トルクN2は、上記の想定推力F、長さrを用いて以下のようにして求められる。なお、上記のパラメータをデブリ毎に保持して管理するための変換表を設けてもよい。
≪測定トルクN1≫
N1=I×α=I×(ω1-ω0)
≪想定トルクN2≫
N2=F×r
【0060】
ステップS811では、制御部103は、デブリ200の姿勢を変えたり、デブリ200を移動するために必要なトルクを計算する。
【0061】
ステップS812では、制御部103は、上記の必要なトルクに基づいてレーザの照射位置を求める。レーザの照射位置としては、デブリ200のいずれの位置でもよいが、後述する推進力強化部材(特殊パッド)に対してレーザが照射されるように照射位置を決定するとよい。また、レーザ照射を行うことで危険が生じる可能性のある箇所を避けて照射位置を決定するとよい。制御部103は、監視装置110から通信部105を介して、上記の危険が生じる可能性のある箇所を取得するとよい。また、制御部103は、上記の必要なトルクに基づいてレーザの出力値を算出する。そして、ステップS806へ戻る。
【0062】
以上のように、レーザ照射後の対象物の軌道や姿勢を検出して、レーザの照射位置や出力値の制御にフィードバックすることにより、対象物の軌道または姿勢を制御する。
【0063】
<軌道制御・姿勢制御の試算結果>
本実施形態に係る宇宙機100による遠隔軌道制御の試算結果について説明する。本試算では、宇宙機100は、デブリ200から100メートル離れた場所から、100[W]のレーザ照射を行うことを想定している。また、デブリ200は、重さ(M)が1[t]であって、1辺が1メートルの立方体である大型のデブリを想定している。この場合、レーザ照射によって、デブリ200は20[m/s]の反力(Δv)を受けるという試算を得た。上記試算結果によれば、例えば、レーザを10秒間照射し続けることによって、デブリ200の高度を約66[km]移動させることができる。
≪試算条件≫
レーザの出力値:100[W]
デブリのサイズ:1[m
デブリの重さ :1[t]
≪試算結果≫
反力 :20[m/s]
移動量 :66[km] (in 10[s])
【0064】
また、上記と同様の試算条件で遠隔回転制御(姿勢制御)を行うと、デブリ200の角加速度(α)は3×10-5[rad/s]になるという試算結果を得た。当該試算結果によれば、レーザを10秒間照射し続けることによって、デブリ200の角速度(ω)は、30[rad/s]になる。ここで、上記の試算では、一辺がa、質量がMの立方体の一辺を通る回転軸周りの慣性モーメント(I=2×a×M/3)を用いている。
≪試算結果≫
角加速度 :3×10-5[rad/s
角速度 :30[rad/s] (in 10[s])
【0065】
上記の試算結果より、100[W]程度のレーザ装置でも1[t]のデブリ200の軌道や姿勢を変えることが可能である。100[W]のレーザは、例えば、1辺が30[cm]の立方体程度の小型のレーザ装置で実現可能であるため、小型の人工衛星に搭載することができ、省コスト化が見込める。
【0066】
<特殊パッド>
本実施形態においてデブリ200に取り付けられる特殊パッドについて説明する。本実施形態に係る特殊パッドは、上記レーザを照射によってアブレーションを発生させ、その結果生じるプラズマの反力を増強させるための部材である。特殊パッドは、推進力増強部材であると捉えることもできる。
【0067】
特殊パッドは、人工衛星の打ち上げ前にあらかじめ取り付けられることを想定しているが、宇宙空間上で取り付けられてもよい。また、特殊パッドは、図9の領域A1~A5に取り付けるとよいが、特殊パッドの取り付け位置や、形状、サイズは特に限定されない。例えば、デブリ200の表面に帯状に取り付けられてもよく、デブリ200の表面全体に取り付けられてもよい。また、複数の帯状の特殊パッドを設け、当該特殊パッドの角度を変更可能としてもよい。
【0068】
≪特殊パッドによる推進力増強≫
図10A図10Dは、本実施形態に係る特殊パッド900による推進力増強の一例を示す図である。図10Aは、本実施形態に係る特殊パッド900の基本的な構造を示す。特殊パッド900は、デブリ200の表面に取り付けられる部材であって、透明部材901および不透明部材902等を有する。特殊パッド900の構造の詳細については後述する。図10Bは、図10Aに示すレーザ照射の結果、アブレーションによって不透明部材902の一部が噴き出す力(矢印22)およびその反力Δv(矢印23)を示す。図10Cは、特殊パッド900を用いずにデブリ200の表面にレーザ21を照射した場合の例を示す。図10Dは、図10Cに示すレーザ照射の結果、アブレーションによってデブリ200の一部が噴き出す力(矢印22)およびその反力Δv(矢印23)を示す。ここで、図10B図10Dとを比較すると、図10Dでは、噴き出した物質が宇宙空間に放出される力(矢印22)によって反力Δvが生じているのに対して、図10Bでは、噴き出した物質が透明部材901を押し出す力によって数桁倍の反力Δvが生じる。
【0069】
≪特殊パッドの構成≫
図11は、本実施形態に係る特殊パッド900の一例を示す図である。本実施形態に係る特殊パッド900は、透明部材901、不透明部材902および保護部材903等を有する。
【0070】
透明部材901は、上記のレーザを透過する部材である。透明部材901の形状は特に限定されないが、本実施形態ではシート状の部材である例について説明する。透明部材901は、人工衛星の運用期間(例えば、10~15年)、宇宙空間上で原子状酸素や放射線等が照射されても透過性を有する材料で生成されることが望ましい。透過性を有するとは、レーザ(光)の吸収および散乱が生じないか所定の範囲内であることを示す。本実施形態では、透明部材901はフッ素樹脂で生成される例について説明する。これは、フッ素樹脂におけるC-F結合の結合エネルギーが強く、耐熱性および耐酸化性等を有するためである。なお、透明部材901は透明であればよく、純粋アクリルや石英ガラス等を用いてもよい。
【0071】
不透明部材902は、デブリ200と透明部材901との間に設けられる部材である。不透明部材902の形状は特に限定されないが、本実施形態ではシート状の部材である例について説明する。不透明部材902は、上記のレーザを吸収して膨張するという特性を持ち、当該レーザのエネルギーにより少なくとも一部が蒸発し、プラズマ化して噴き出す。不透明部材902は、蒸発しやすい(沸点が低い)素材であって、太陽熱で蒸発しない程度の沸点を有する素材で生成される不透明な部材であることが望ましい。不透明部材902は、例えば、黒色素材(例えば、黒いレジウムなど)を含んだアクリルで生成することができる。なお、不透明部材902は、上記のアクリルに限定されない。例えば、不透明部材として、アルコールを用いてもよい。
【0072】
保護部材903は、特殊パッド900のうち少なくとも一つの面に設けられる部材であって、上記の人工衛星の運用期間中、透明部材901等を保護するために用いられる。保護部材903は、耐放射線性、遮光性(太陽光による熱入力を防止)および耐酸化性(耐原子状酸素性)のうち少なくとも1つ以上の機能を有することが望ましい。なお、保護部材903は、他の物体との擦過を防止する機能を有していてもよい。保護部材903の素材は、特に限定されないが、パーフルオロカーボン、シリカ、フッ素樹脂、ポリイミドフィルム(例えば、カプトン(登録商標)等)、アルミ等の金属等を用いることができる。なお、保護部材903は、レーザ照射により蒸発することが望ましい。なお、保護部材903は、必ずしも設けられる必要はない。
【0073】
また、本実施形態では、特殊パッド900の表面(例えば、保護部材903の表面)に、記号等のマークを付加する。これは、特殊パッド900の位置を容易に検出できるようにするため、および、レーザの照準を合わせる際の識別のためである。図12A図12Cは、上記マークの一例を示す図である。図12Aは、特殊パッド900の表面に文字を付加した例を示す。文字の内容は特に限定されない。図12Aに示す例では、文字「A5」は、図9に示す領域A5に取り付けられていることを示している。マークは、記号、文字、図、一次元コード、二次元コード等でもよい。また、マークとして表面に着色を施してもよい。また、図12Bに示すように、特殊パッド900の表面において、レーザを照射するための領域(図12Bの斜線部)と、マークを付加する領域とを分けてもよい。これにより、一度レーザを照射した場合でも表面のうちマークを付加した領域が残るため、次にレーザを照射する際にも上記の位置の検出および識別を行うことが可能である。さらに、図12Cに示すように、特殊パッド900の表面に的を示す線を付加してもよい(図12C)。なお、上記は一例であって、特殊パッド900の形状や取り付け部位に応じて適宜変更することができる。
【0074】
≪積層構造≫
本実施形態に係る特殊パッド900は、図11に示すように、1つ以上の透明部材901および不透明部材902が交互に積層される構造を有する。積層数は特に限定されないが、10~100層とするとよい。図11では50層の例を示す。本実施形態に係る特殊パッド900は、例えば、透明部材901および不透明部材902が共に0.1[mm]であって、それぞれを50層分積層した厚みが約(0.1+0.1)×50=10[mm]の部材である。
【0075】
さらに、本実施形態では、透明部材901と不透明部材902とを積層構造にしている。そのため、一度レーザ照射が行われて不透明部材902(Layer1)が蒸発した場合でも、次にレーザ照射を行った場合に、レーザ21は、2層目の透明部材901(Layer2)を透過して、2層目の不透明部材902(Layer2)を蒸発させる。このような構成により、レーザ照射を繰り返した場合でも、透明部材901および不透明部材902が1層以上残っている限り反力を増強させることができる。
【0076】
<本実施形態の有利な効果>
宇宙機100は、上記の構成を有することにより、デブリ200の軌道や姿勢を遠隔で変えることができる。これにより、宇宙機100がデブリ200に近接する必要がなくなり、宇宙機100とデブリ200とが衝突する危険性を低減できる。
【0077】
また、宇宙機100は、上記の構成を有することにより、出力値が100[w]程度の小型のレーザ装置を用いた場合でも、1[t]程度のデブリの軌道制御や姿勢制御を行うことができる。これにより、レーザ装置を搭載する宇宙機の小型化や省コスト化が見込める。また、上記の特殊パッドを対象にレーザ照射を行うことで、より小型のレーザ装置を用いても上記デブリの軌道や姿勢を変えることができる。
【0078】
また、宇宙機100は、上記の構成を有することにより、デブリ200を追尾しない場合でも、例えば、ステアリング手段でレーザの向きを変えることで、デブリ200の軌道や姿勢を変えることができる。これにより、宇宙機100を移動させるための燃料を低減させることができる。
【0079】
また、宇宙機100は、上記の構成を有することにより、推進装置(例えば、スラスタ)を用いずに、レーザ照射のみで宇宙機100自身や、デブリ200の軌道や姿勢を制御することができる。これにより、人工衛星が運用機関を終えた後に移動するための燃料等を確保する必要がなくなるため、運用コストを抑えることができる。
【0080】
(その他)
上記の実施形態および変形例の構成は、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、適宜組み合わせて利用することができる。また、本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更を加えて実現しても構わない。
【符号の説明】
【0081】
100:宇宙機 101:取得部 102:検出部
103:制御部 104:推進部 105:通信部
106:レーザ装置 107:フォーカス部 108:ステアリング部
110:監視装置 200:デブリ
900:特殊パッド 901:透明部材 902:不透明部材
903:保護部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12