(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】表層崩壊リスク評価装置、表層崩壊リスク評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01W 1/00 20060101AFI20220804BHJP
E02D 17/20 20060101ALI20220804BHJP
G01D 21/00 20060101ALI20220804BHJP
G08B 31/00 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
G01W1/00 Z
E02D17/20 106
G01D21/00 D
G08B31/00 B
(21)【出願番号】P 2021104638
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2021-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】520242399
【氏名又は名称】九州電力送配電株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】501410779
【氏名又は名称】九州電技開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】小川 健
(72)【発明者】
【氏名】久保田 豊
(72)【発明者】
【氏名】堀本 さとみ
(72)【発明者】
【氏名】八嶋 俊雄
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169489(JP,A)
【文献】特開2016-122239(JP,A)
【文献】特開平09-158186(JP,A)
【文献】特開2006-252128(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0062359(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/00 - 1/18
E02D 17/00 - 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象地域における対象地点の斜面崩壊の危険性を評価する表層崩壊リスク評価装置であって、
基準水流量を記憶する基準水流量記憶部と、
前記分析対象地域において累積水流量が基準水流量以上である本流地点群を抽出する本流地点群抽出部と、
前記対象地点に対して前記本流地点群との距離を用いて水流評価値を計算する水流評価値計算部と、
前記水流評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する危険度評価部を備える、表層崩壊リスク評価装置。
【請求項2】
前記基準水流量は、崩壊が生じた崩壊地点群に対して、前記崩壊地点群の各崩壊地点と前記本流地点群との距離に対する崩壊地点の個数の分布について、少なくとも、第1距離区分と、第1距離区分よりも遠い第2距離区分と、第2距離区分よりも遠い第3距離区分にそれぞれ属する崩壊地点の個数である第1個数と第2個数と第3個数について、第1個数が最も多く、第3個数が最も少なく、第2個数は第1個数よりも少なく第3個数よりも多い値である、請求項1記載の表層崩壊リスク評価装置。
【請求項3】
前記対象地点における地形を評価する地形評価値を計算する地形評価値計算部を備え、
前記危険度評価部は、前記地形評価値と前記水流評価値とを用いて危険評価値を計算して、前記危険評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する、請求項1又は2に記載の表層崩壊リスク評価装置。
【請求項4】
前記地形評価値は、前記対象地点において、
縦断形状が凸であり、かつ、横断形状が凹である地形は、他の形状に比較して危険度が高いと評価される値であり、
地表の傾斜が大きいほど危険度が高いと評価される値であり、
前記水流評価値は、前記対象地点において、累積水流量が基準水流量以上である本流地点群に近いほど危険度が高いと評価される値である、請求項3記載の表層崩壊リスク評価装置。
【請求項5】
対象地点における斜面崩壊の危険性を評価する崩壊リスク評価方法であって、
崩壊リスク評価装置は、地形評価値計算部と、水流評価値計算部と、危険度評価部を備え、
前記地形評価値計算部及び前記水流評価値計算部が、それぞれ、地形評価値及び水流評価値を計算する評価値計算ステップと、
前記危険度評価部が、前記地形評価値及び前記水流評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する危険度計算部を備え、
前記地形評価値は、前記対象地点において、
縦断形状が凸であり、かつ、横断形状が凹である地形は、他の形状に比較して危険度が高いと評価される値であり、
地表の傾斜が大きいほど危険度が高いと評価される値であり、
前記水流評価値は、前記対象地点において、累積水流量が基準水流量以上である本流地点群に近いほど危険度が高いと評価される値である、表層崩壊リスク評価方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から4のいずれかに記載の表層崩壊リスク評価装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、表層崩壊リスク評価装置、表層崩壊リスク評価方法及びプログラムに関し、特に、対象地点における表層崩壊の危険性を評価する表層崩壊リスク評価装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、降水量を用いて鉄塔付近の災害を予測することが知られていたところ、出願人は、地形情報を用いて危険斜面を抽出することを提案した(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】九州電技開発株式会社,「電技だより 第65号 鉄塔敷地斜面災害予測システムの改良」,[online],インターネット,<URL:http://www.dengi.co.jp/dengidayori/no65/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1記載の技術では、地形情報において、崩壊が生じた地形との類似性に着目するものであった。しかしながら、崩壊が生じた地形と同じ形状の地形であっても、崩壊の危険度までが同じとは限らなかった。そのため、より精度の高い危険度の判定が求められていた。
【0005】
そこで、本願発明は、表層崩壊の危険性を評価することの精度を高めることに適した表層崩壊リスク評価装置等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の第1の観点は、分析対象地域における対象地点の斜面崩壊の危険性を評価する表層崩壊リスク評価装置であって、基準水流量を記憶する基準水流量記憶部と、前記分析対象地域において累積水流量が基準水流量以上である本流地点群を計算する本流地点群抽出部と、前記対象地点に対して前記本流地点群との距離を用いて水流評価値を計算する水流評価値計算部と、前記水流評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する危険度評価部を備える。
【0007】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の表層崩壊リスク評価装置であって、前記基準水流量は、崩壊が生じた崩壊地点群に対して、前記崩壊地点群の各崩壊地点と前記本流地点群との距離に対する崩壊地点の個数の分布について、少なくとも、第1距離区分と、第1距離区分よりも遠い第2距離区分と、第2距離区分よりも遠い第3距離区分にそれぞれ属する崩壊地点の個数である第1個数と第2個数と第3個数について、第1個数が最も多く、第3個数が最も少なく、第2個数は第1個数よりも少なく第3個数よりも多い値である。
【0008】
本願発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の表層崩壊リスク評価装置であって、前記対象地点における地形を評価する地形評価値を計算する地形評価値計算部を備え、前記危険度評価部は、前記地形評価値と前記水流評価値とを用いて危険評価値を計算して、前記危険評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する。
【0009】
本願発明の第4の観点は、第3の観点の表層崩壊リスク評価装置であって、前記地形評価値は、前記対象地点において、縦断形状が凸であり、かつ、横断形状が凹である地形は、他の形状に比較して危険度が高いと評価される値であり、地表の傾斜が大きいほど危険度が高いと評価される値であり、前記水流評価値は、前記対象地点において、累積水流量が基準水流量以上である本流地点群に近いほど危険度が高いと評価される値である。
【0010】
本願発明の第5の観点は、対象地点における斜面崩壊の危険性を評価する崩壊リスク評価方法であって、崩壊リスク評価装置は、地形評価値計算部と、水流評価値計算部と、危険度評価部を備え、前記地形評価値計算部及び前記水流評価値計算部が、それぞれ、地形評価値及び水流評価値を計算する評価値計算ステップと、前記危険度計算部が、前記地形評価値及び前記水流評価値を用いて前記対象地点の表層崩壊の危険性を評価する危険度計算部を備え、前記地形評価値は、前記対象地点において、縦断形状が凸であり、かつ、横断形状が凹である地形は、他の形状に比較して危険度が高いと評価される値であり、地表の傾斜が大きいほど危険度が高いと評価される値であり、前記水流評価値は、前記対象地点において、累積水流量が基準水流量以上である本流地点群に近いほど危険度が高いと評価される値である。
【0011】
本願発明の第6の観点は、コンピュータを、第1から第4のいずれかの観点の表層崩壊リスク評価装置として機能させるためのプログラムである。
【0012】
なお、本願発明を、本願発明の第6の観点のプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体として捉えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
非特許文献1記載の技術などでは、例えば各地点での降水量や地形のように、各地点を個別に分析する傾向にあった。出願人は、水流(例えば対象地域を区分したメッシュの間での水の流れなど)に着目し、実際に表層崩壊が生じた表層崩壊地点を分析した。各地点に近傍地点から流れる流量を累積した累積水流量に着目して、表層崩壊地点が、累積水流量が所定の値以上となる本流地点群に近いほど多く、遠いほど少なくなる関係を見出した。
【0014】
本願発明の各観点によれば、出願人の新たな知見に基づき、水流に着目して、対象地点に対して本流地点群との距離を用いて崩壊の危険性を評価することにより、表層崩壊の危険性の予測精度を高くすることができる。
【0015】
さらに、本願発明の第3の観点などにあるように、対象地点での地形の危険性を示す地形評価値を、水流評価値を用いて修正した危険評価値によって、水流評価値によって地形評価値による予測の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本願発明の実施の形態に係る表層崩壊リスク評価装置1の(a)構成の一例を示すブロック図と、(b)、(c)及び(d)動作の一例を示すフロー図である。
【
図3】(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、基準水流量が、20、100及び50のときの、基準水流量の違いによる崩壊開始点の分布を示すグラフである。
【
図4】基準水流量を20とするときの、水流図を示す。
【
図5】
図3(a)において、崩壊開始点についての本流セル群との距離(m)(横軸)と、データ数割合(%)との関係を示すグラフである。
【
図6】地形評価値を水流評価値により補正した場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
図1は、本願発明の実施の形態に係る表層崩壊リスク評価装置1の(a)構成の一例を示すブロック図と、(b)、(c)及び(d)動作の一例を示すフロー図である。
【0019】
図1(a)を参照して、表層崩壊リスク評価装置1は、地形情報分析部3と、地形評価部5と、水流評価部7と、危険度評価部9(本願請求項の「危険度評価部」の一例)と、パラメータ記憶部10を備える。
【0020】
地形情報分析部3とは、地理空間情報記憶部11と、分割処理部12と、形状解析部13と、水文解析部15を備える。
【0021】
地形評価部5とは、傾斜曲率計算部17と、地形評価値計算部21(本願請求項の「地形評価値計算部」の一例)を備える。
【0022】
水流評価部7は、基準水流量記憶部23(本願請求項の「基準水流量記憶部」の一例)と、本流地点群抽出部25(本願請求項の「本流地点群抽出部」の一例)と、水流評価値計算部27(本願請求項の「水流評価値計算部」の一例)を備える。
【0023】
危険度評価部9は、危険評価値計算部29と、危険度判定部31を備える。
【0024】
パラメータ記憶部10は、評価値などを計算するときに使用するパラメータを記憶する。
【0025】
地形情報分析部3において、地理空間情報記憶部11は、地理空間情報を記憶する。地理空間情報は、例えば、空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(位置情報)とそれに関連付けられた様々な事象に関する情報である。また、位置情報のみからなる情報であってもよい。地理空間情報には、地域における土地利用図、地質図、ハザードマップ等の主題図、都市計画図、地形図、地名情報、台帳情報、統計情報、空中写真、衛星画像などの情報がある。また、表層崩壊リスク評価装置1の利用者などが、現地で測定した情報であってもよい。
【0026】
分割処理部12は、地理空間情報記憶部11が記憶する地理空間情報から、危険性を評価する対象地点(本願請求項の「対象地点」の一例)を含む分析対象地域(本願請求項の「分析対象地域」の一例)を抽出して、分割情報を生成する。分割情報は、例えば、分析対象地域を一定間隔(例えば5m間隔)で格子状に分割したメッシュデータである。以下では、分割で生じた各矩形地域を、セルという。
【0027】
形状解析部13は、分割情報のそれぞれのセルに対して、地理空間情報での標高値データを対応づけて分割標高データとする。各セルに対応する標高値データは、例えば、地理空間情報での標高値データの一部又は全部であってもよく、これらの標高値データを統計処理したものであってもよい。
【0028】
水文解析部15は、分割標高データのそれぞれの各セルに対して累積水流量を対応づけて地形情報とする。例えば、分割標高データを利用して、各セルから最も急な降下傾斜となる近傍セルへのフロー(流れ)の方向を求める。そして、各セルに対して、近傍セルから当該セルに流れるとする流量を累積して累積水流量を計算して地形情報とする。
【0029】
このように、地形情報は、例えば、分析対象地域を一定間隔で格子状に分割したメッシュデータで、各セルに対して地理空間情報での標高値データ及び累積水流量が対応づけられたものである。
【0030】
分割処理部12、形状解析部13及び水文解析部15は、例えば、ArcGIS(esriジャパン株式会社)などによって実現することができる。例えば、5m間隔のDEMデータを使用してラスターデータを作成し、小さな欠陥を取り除き、各セルから最も急な降下傾斜となる近傍セルへの流れの方向を示すラスターデータを生成して、各セルへ累積する流量のラスターデータを作成すればよい。
【0031】
図1(b)は、地形評価部5の動作の一例を示すフロー図である。
図2は、曲率を説明するための図である。
図1(b)及び
図2を参照して、地形評価部5の動作を説明する。
【0032】
図1(b)を参照して、傾斜曲率計算部17は、地形情報を利用して、傾斜及び曲率を計算する(ステップSTA1)。地形評価値計算部21は、地形評価値を計算する(ステップSTA2)。
【0033】
まず、傾斜について説明する。傾斜は、各セルの水平面からの傾きを示す地形量である。例えば、傾斜角は、対象セルとその近傍セルを比較し、それらの値の最大変化率を計算して求めることができる。この場合、原則として、対象セルとその8つの近傍セルの高度を比較したとき、距離に対するそれらの最大高度変化が対象セルからの最も急な降下傾斜となる。
【0034】
続いて、
図2を参照して、曲率の計算について説明する。曲率は、斜面が尾根型か谷型かを表す数値である。縦断形状及び横断形状は、それぞれ、最大傾斜方向に平行な及び直交する方向の形状である。断面曲率及び平面曲率は、それぞれ、縦断方向及び横断方向の凹凸を示す曲率である。
【0035】
図2(a)は、断面曲率を説明するための図である。断面曲率は、斜面に平行であり、水の流れの加速と減速に影響する。
図2(a)の左側(断面曲率が負の場合)の形状は、上方向に凸状であり、流れが減速する。
図2(a)の中央(断面曲率が正の場合)の形状は、上方向に凹状であり、流れが加速する。
図2(c)の右側(断面曲率がゼロの場合)の形状は、表面が直線である。
【0036】
図2(b)は、平面曲率を説明するための図である。断面曲率は、斜面に垂直であり、水の流れの収束と分岐に関係する。
図2(b)の左側(平面曲率が正の場合)の形状は、上方向に凸状であり、流れが分岐しやすい。
図2(b)の中央(平面曲率が負の場合)の形状は、上方向に凹状であり、流れが収束しやすい。
図2(c)の右側(平面曲率がゼロの場合)の形状は、表面が直線である。
【0037】
傾斜曲率計算部17は、下記の式により、各セルの改合成曲率を計算する。ここで、aは正の数であり、パラメータ記憶部10に記憶されている。
改合成曲率=平面曲率(凹が負)+a×断面曲率(凸が負)
【0038】
なお、一般に、合成曲率は、凹型の傾向が強いように、「平面曲率(凹が負)-断面曲率(凸が負)」により計算される。そのため、上記の式により計算される値を「改合成曲率」という。
【0039】
なお、各セルの曲率の計算には、例えば、計算するセル及び近傍セルに含まれる標高値データを利用してもよい。
【0040】
実際に崩壊が生じた個所を調査した。以下では、崩壊が生じた個所を「崩壊箇所」といい、対比のために採用した、崩壊が生じていない個所を「健全個所」という。
【0041】
平面曲率については、健全個所では概ね-5~+5の範囲にあり、崩壊個所では-15~+5であった。断面曲率については、健全個所では概ね-5~+5の範囲にあり、崩壊個所では-5~+10であった。
図2(c)は、断面曲率と平面曲率を組み合わせたものである。崩壊箇所は、概ね、断面曲率が凸(負)で、かつ、平面曲率が凹(負)の個所であったことが確認された(
図2(c)の右上の欄を参照)。そこで、改合成曲率を斜面評価の指標の一つとして採用する。改合成曲率は、負の値が大きいほど崩壊が発生しやすい斜面という評価になる。
【0042】
傾斜について、健全個所では概ね30°以下であるが、崩壊箇所では10~50°にばらついていた。傾斜と曲率との関係性を調べると、概ね、崩壊箇所の方が、傾斜角が大きい傾向がみられた。そこで、傾斜を、斜面評価の指標の一つとして採用する。傾斜は、値が大きいほど崩壊が発生しやすい斜面という評価になる。
【0043】
地形評価値計算部21は、下記の式により、各セルの地形評価値を計算する。ここで、bは正の数であり、パラメータ記憶部10に記憶されている。
地形評価値=改合成曲率-b×傾斜
【0044】
パラメータa及びbについては、健全個所及び崩壊箇所を用いて決定することができる。例えば、実際の崩壊箇所に対してaを変更して調べたところ、a=1のときに改合成曲率が高くなるにつれて崩壊箇所数が多くなる傾向にあった。そのため、パラメータa=1を採用することができる。また、例えば、実際の崩壊箇所及び健全個所を調べると、b=0.3では、崩壊箇所のデータ数が-10~-5より-5~0の方が多くなり、健全個所はすべて-13以上となった。また、b=0.35では、崩壊箇所に正の値がなく、健全個所はすべて-15以上となった。b=0.4では、崩壊箇所に正の値がないが、健全個所が-20~-15と低い値にも及んでいた。この場合、b=0.35を採用し、例えば、地形評価値が-15以下で最も注意すべきとし、-15よりも大きく-10以下で次に注意すべきとし、-10よりも大きく0以下で次に注意すべきとし、0よりも大きいと比較的安定していると評価する。
【0045】
図1(c)は、水流評価部7の動作の一例を示すフロー図である。
図3~
図5は、水流評価値を説明するための図である。
図1(c)及び
図3~
図5を参照して、水流評価部7の動作を説明する。
【0046】
基準水流量記憶部23は、基準水流量を記憶する。
図1(c)を参照して、本流地点群抽出部25は、地形情報を利用して、累積水流量が基準水流量以上である本流セル群(本願請求項の「本流地点群」の一例)を抽出する(ステップSTB1)。水流評価値計算部27は、各セルに対応して水流評価値を計算する(ステップSTB2)。水流評価値は、各セルと本流セル群との距離を用いて計算される値であり、例えば、距離が近いほど危険度が高く、遠いほど危険度が低いとされる値である。
【0047】
図3は、基準水流量の違いによる崩壊開始点の分布を示す。
図3(a)、(b)及び(c)は、それぞれ、基準水流量が、20、100、及び、50である。横軸は、崩壊開始点と本流セル群との距離(m)である。縦軸は、データ数の割合(%)(各距離の崩壊開始点数について、崩壊開始点の全体数に対する割合)(四角のグラフ参照)と、各距離の崩壊開始点の地形評価値の平均(点)(三角のグラフ参照)である。
図3を参照して、基準水流量について説明する。
【0048】
例えば、累積水流量が少ない個所は、周りから集まってくる水が少ない個所である。累積水流量が増えるにつれて、水が周りから集まる谷あいや渓流などが抽出できる。さらに累積水流量が増えると小さな河川(支流など)を形成する状況が抽出できる。累積水流量がさらに増えると、水がさらに集まって河川(主流など)を形成する状況を抽出できる。例えば、基準水流量が100である場合は河川(本流など)を示し、基準水流量が50である場合は小さな河川(支流など)を含めており、基準水流量が20である場合は谷あいや渓流などをも含めていると考えられる。
【0049】
図3(a)を参照して、基準水流量が20のとき、崩壊開始点が、本流セル群に近いほど多く、遠くなるにつれて少なくなる傾向がみられる(例えば、表1にあるように、本流からの距離が0m(本願請求項の「第1距離区分」の一例)では49個であり最も多く、本流からの距離が50mよりも遠い(本願請求項の「第3距離区分」の一例)では1個であり最も少なく、本流からの距離が10mよりも遠くて20m以下である場合(本願請求項の「第2距離区分」の一例)では21個であり、これは49個よりも少なく1個よりも多い。なお、本願発明では、崩壊開始点に限らず、例えば、最も崩壊箇所が大きいセルの個数などであってもよい。)。また、地形評価値について、本流セルに近いほど小さく、遠くなると大きくなる傾向がみられる。そのため、基準水流量は、20を採用する。
図4は、基準水流量を20とするときの、水流図を示す。
【0050】
なお、
図3(b)及び(c)を参照して、基準水流量が100及び50のときには、地形評価値について、本流セルに近いほど小さく、遠くなると大きくなる傾向がみられたものの、データ数の分布には明確な関連性が認められなかった。すなわち、一般には河川の水量が多い主流部分に着目しがちであるが、本願発明では、崩壊開始点の予測について基準水流量を採用することにより、一般的な分析では関心が及びにくい支流部分にも着目することができ、これによって崩壊開始点との関係性が明らかとなり、予測精度を向上させることができる。
【0051】
図5は、
図3(a)において、崩壊開始点についての本流セル群との距離(m)(横軸)と、データ数割合(%)との関係を示すグラフである。これを指数関数で近似したとき、近似式は、y=48.138e
-0.062xである。ここで、xは、本流セル群からの距離であり、yはセル数(割合%)である。
【0052】
表1は、近似曲線を使用して決定した水流評価値を示す。水流評価値計算部27は、各セルに対応して、表1に従って、各セルの本流セル群からの距離に応じて水流評価値を求める。
【0053】
【0054】
続いて、
図1(d)及び
図6を参照して、危険度評価部9の動作を説明する。
図6は、地形評価値を水流評価値により補正した場合の一例を示す図である。
【0055】
図1(d)を参照して、危険評価値計算部29は、各セルに対して、地形評価値を水流評価値により補正して、危険評価値を計算する(ステップSTC1)。危険度判定部31は、各セルの危険評価値を利用して、各セルで表層崩壊が生じるリスクを判定する(ステップSTC2)。
【0056】
図6を参照して、危険評価値について説明する。
図6(a)は、各セルの地形評価値の値を示す。
図6(a)は、補正がない状態を示す。
図6(b)は、各セルの地形評価値に対して、水流評価値を乗除することにより補正した一例を示す。
図6(c)は、各セルの地形評価値に対して水流評価値を加減することにより補正した一例を示す。以下では、地形評価値を補正しない場合を「補正なし」という。地形評価値を水流評価値の乗除で補正する場合を「×補正」という。地形評価値を水流評価値の加減で補正する場合を「+補正」ともいう。
【0057】
図6において危険度最小値が崩壊地内部で検出されたか否かを判定すると、
図6(a)及び(c)の補正なし及び+補正では検出されたのに対し、
図6(b)の×補正では検出されなかった。同様にして合計25箇所で判定したところ、補正なしの正当率は65%、×補正の正答率も65%であったのに対し、+補正の正当率は70%であった。そのため、+補正が、最も精度よく検出できた。
【0058】
同様に、補正なし、×補正及び+補正における全体の点数分布域を10等分して1~10ランク(1が最も危険)に区分し、崩壊開始点の平均ランクを求めた。補正なしは2.21、×補正は3.07であったのに対し、+補正の正当率は2.16であった。この場合、1に近いほど危険が高いと判定できている。そのため、+補正が、最も精度よく検出できている。
【0059】
よって、危険評価値計算部29は、例えば、次の式により危険評価値を計算する。ここで、水流評価値=水流値/10、水流値=本流セル群(累積水流量≧20)からの距離別崩壊数の近似式から求めた値、地形評価値=改合成曲率-0.35×傾斜、改合成曲率=平面曲率(凹が負)+断面曲率(凸が負)、である。なお、この例では、危険評価値は負であるほど危険と判定されるものであるため、水流評価値は減じる補正となる。
危険評価値=地形評価値-水流評価値
【0060】
一般的には、危険評価値計算部29は、パラメータ記憶部10が記憶する正のパラメータa、b及びcにより、次の式により危険評価値を計算することができる。ここで、水流評価値=本流セル群(累積水流量≧20)からの距離別崩壊数の近似式から求めた値、地形評価値=改合成曲率-b×傾斜、改合成曲率=平面曲率(凹が負)+a×断面曲率(凸が負)、である。なお、この例では、危険評価値は負であるほど危険と判定されるものであるため、水流評価値は減じる補正となる。
危険評価値=地形評価値-c×水流評価値
【0061】
なお、例えば、危険評価値計算部29が、基準水流量並びにパラメータa、b及びcを、実際に崩壊が生じた箇所を用いて決定してもよい。基準水流量は、例えば、崩壊開始点が本流セル群からの距離に応じて単調減少する傾向となるように決定する。このとき、指数関数などの所定の近似式を考慮して、近似式との誤差が最小となるようにしてもよい。パラメータaは、例えば、改合成曲率が高くなるにつれて崩壊箇所数が多くなる傾向がみられる値とする。パラメータbは、崩壊箇所及び健全箇所の分布によって、崩壊箇所が小さくなって危険と判断され、かつ、健全箇所が大きくなって安全と判断される傾向となるように決定することができる。パラメータcは、例えば、危険度最小値が崩壊地内部で検出された正答率が最も高くなるようにしたり、崩壊開始点の平均ランクが最も小さくなるようにしたりして、決定することができる。
【0062】
危険度判定部31は、各セルの危険評価値について、小さい値であれば表層崩壊が生じるリスクが高いと判定し、大きい値であれば表層崩壊が生じるリスクが低いと判定する。
【符号の説明】
【0063】
1 表層崩壊リスク評価装置、3 地形情報分析部、5 地形評価部、7 水流評価部、9 危険度評価部、10 パラメータ記憶部、11 地理空間情報記憶部、12 分割処理部、13 形状解析部、15 水文解析部、17 傾斜曲率計算部、21 地形評価値計算部、23 基準水流量記憶部、25 本流地点群抽出部、27 水流評価値計算部、29 危険評価値計算部、31 危険度判定部
【要約】
【課題】 表層崩壊の危険性を評価することの精度を高めることに適した表層崩壊リスク評価装置等を提案する。
【解決手段】 表層崩壊リスク評価装置1において、地形評価部5は対象地点の地形を評価し、水流評価部7は周囲から水が集まる状況によって対象地点を評価する。危険度評価部9は、地形評価部5による地形評価に加えて、水流評価部7による谷あいや渓流などのように水が集まる個所による評価を加味して、分析対象地域における対象地点の斜面崩壊の危険性を評価する。
【選択図】
図1