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特許7117447ジルコニア質セッタおよびMnZn系フェライトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】ジルコニア質セッタおよびMnZn系フェライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/486 20060101AFI20220804BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20220804BHJP
   C04B 35/64 20060101ALI20220804BHJP
   C04B 35/38 20060101ALI20220804BHJP
   H01F 1/34 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
C04B35/486
C04B38/00 303Z
C04B35/64
C04B35/38
H01F1/34 140
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021214278
(22)【出願日】2021-12-28
【審査請求日】2022-01-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】安岡 照夫
(72)【発明者】
【氏名】村井 健一
(72)【発明者】
【氏名】永山 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 達文
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-142950(JP,A)
【文献】特開平04-359413(JP,A)
【文献】特開平08-183656(JP,A)
【文献】特開2008-081339(JP,A)
【文献】特開平01-183462(JP,A)
【文献】特開2002-316870(JP,A)
【文献】特開2017-165598(JP,A)
【文献】特開2006-165479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/48 - 35/488
C04B 35/26 - 35/40
C04B 35/64
C04B 38/00
F27D 3/12
H01F 1/34
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaOの含有量は0.28質量%以下であり、気孔率は12.0体積%以上45.0体積%以下であることを特徴とする、ジルコニア質セッタ。
【請求項2】
CaOを含有しない、請求項1に記載のジルコニア質セッタ。
【請求項3】
気孔率が、25.0体積%以下である、請求項1または2に記載のジルコニア質セッタ。
【請求項4】
の含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下、MgOの含有量が1.0質量%以下、CeOの含有量が1.0質量%以下、SiOの含有量が10.0質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタ。
【請求項5】
FeとZnOとMnOとを主成分とするMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項6】
前記MnZn系フェライトの原料を焼結する際の、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下にする、請求項5に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項7】
昇温された前記MnZn系フェライトの原料を、温度1250℃以上、1360℃以下、酸素濃度1.5体積%以上、20体積%以下に保持する、請求項6に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項8】
昇温後保持された前記MnZn系フェライトの原料を冷却する際の、冷却温度1000℃以下の酸素濃度を300ppm以下にする、請求項7に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項9】
FeとZnOとMnOとを主成分とするMnZn系フェライトの原料を焼結することにより得られる焼結体における、セッタ接地面のZnO含有量が、前記焼結体内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項10】
主成分100mol%中、Feを50.9~53.2mol%、ZnOを21.0~24.4mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.009質量部、CaOを0.010~0.034質量部、Biを0.000~0.060質量部、MoOを0.000~0.039質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項11】
前記MnZn系フェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ'が12000以上である、請求項10に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項12】
前記MnZn系フェライトのキュリー温度が110℃以上であり、23℃200kHzにおける虚部の比初透磁率μ"が7500以上である、請求項10または11に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項13】
主成分100mol%中、Feを50.6~53.7mol%、ZnOを18.0~20.0mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項14】
前記MnZn系フェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ'が8500以上である、請求項13に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項15】
前記MnZn系フェライトのキュリー温度が150℃以上であり、23℃500kHzにおける虚部の比初透磁率μ"が5500以上である、請求項13または14に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項16】
主成分100mol%中、Feを50.5~54.0mol%、ZnOを11.0~18.0mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項17】
前記MnZn系フェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ'が7000以上である、請求項16に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項18】
前記MnZn系フェライトのキュリー温度が170℃以上であり、23℃900kHzにおける虚部の比初透磁率μ"が5000以上である、請求項16または17に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項19】
主成分100mol%中、Feを51.3~54.5mol%、ZnOを9.0~14.3mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.015質量部、CaOを0.020~0.060質量部、ZrOを0.030~0.070質量部、TiOを0.010~2.500質量部、Coを0.15~0.45質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライトを、請求項1~4のいずれか一項に記載のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とするMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項20】
前記MnZn系フェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ'が4500以上である、請求項19に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項21】
前記MnZn系フェライトのキュリー温度が200℃以上であり、23℃1.5MHzにおける虚部の比初透磁率μ"が3000以上である、請求項19または20に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア質セッタ、MnZn系フェライトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MnZn系フェライトは、家電機器や電子機器などに搭載されるノイズ対策部品用の磁芯材料などとして用いられている。また、MnZn系フェライトは、その使用用途にあわせて、高透磁率の達成、優れた透磁率の周波数安定性の維持などの高機能化が検討されてきている。
【0003】
また、近年需要が増加している車載用途においては、外部環境の温度が高くなることが想定されるため、上記特性に加えて、キュリー温度の向上や耐熱性能の向上等が求められている。ここで、フェライトのキュリー温度は、フェライト組成の配合比に依存する傾向があることが知られている。
【0004】
特許文献1には、フェライトにおける、基本成分、副成分および不可避的不純物中の炭素量を規定範囲内に制御することにより、特定の温度範囲(-20℃~150℃)において高い比初透磁率を有することができるMn-Zn-Co系フェライトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-229626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、得られたフェライトのキュリー温度および比初透磁率の範囲が限定的であり、より広い範囲に適用できる技術の開発が求められていた。また、このように従来の技術では、フェライトの組成自体に着目したものが多く、フェライト原料を焼結する際に用いるセッタの組成に着目しているものは非常に少なかった。
【0007】
本発明は、このような背景を鑑みてなされたものであり、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するフェライトを製造可能なジルコニア質セッタ、当該セッタを用いて製造したMnZn系フェライト並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るジルコニア質セッタは、CaOの含有量は0.28質量%以下であり、気孔率は45.0体積%以下であることを特徴とする。
【0009】
上記ジルコニア質セッタの一実施形態は、CaOを含有しない。
【0010】
上記ジルコニア質セッタの一実施形態は、気孔率が、25.0体積%以下である。
【0011】
上記ジルコニア質セッタの一実施形態は、Yの含有量が1.0質量%以上10.0質量%以下、MgOの含有量が1.0質量%以下、CeOの含有量が1.0質量%以下、SiOの含有量が10.0質量%以下である。
【0012】
本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法は、FeとZnOとMnOとを主成分とするMnZn系フェライトを、上述した本発明のジルコニア質セッタを用いて製造することを特徴とする。
【0013】
上記製造方法の一実施形態は、前記MnZn系フェライト原料を焼結する際の、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下にする。
【0014】
上記製造方法の一実施形態は、昇温された前記MnZn系フェライト原料を、温度1250℃以上、1360℃以下、酸素濃度1.5体積%以上、20体積%以下に保持する。
【0015】
上記製造方法の一実施形態は、昇温後保持された前記MnZn系フェライト原料を冷却する際の、冷却温度1000℃以下の酸素濃度を300ppm以下にする。
【0016】
本発明に係るMnZn系フェライトは、上述した本発明のMnZn系フェライトの製造方法を用いて製造したMnZn系フェライトであり、
前記MnZn系フェライト原料を焼結することにより得られる焼結体における、セッタ接地面のZnO含有量が、前記焼結体内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るMnZn系フェライトは、主成分100mol%中、Feを50.9~53.2mol%、ZnOを21.0~24.4mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.009質量部、CaOを0.010~0.034質量部、Biを0.000~0.060質量部、MoOを0.000~0.039質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であることを特徴とする。
【0018】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が12000以上である。
【0019】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、キュリー温度が110℃以上であり、23℃200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が7500以上である。
【0020】
本発明に係るMnZn系フェライトは、主成分100mol%中、Feを50.6~53.7mol%、ZnOを18.0~20.0mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であることを特徴とする。
【0021】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が8500以上である。
【0022】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、キュリー温度が150℃以上であり、23℃500kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が5500以上である。
【0023】
本発明に係るMnZn系フェライトは、主成分100mol%中、Feを50.5~54.0mol%、ZnOを11.0~18.0mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であることを特徴とする。
【0024】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が7000以上である。
【0025】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、キュリー温度が170℃以上であり、23℃900kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が5000以上である。
【0026】
本発明に係るMnZn系フェライトは、主成分100mol%中、Feを51.3~54.5mol%、ZnOを9.0~14.3mol%、残部のMnOとなる量で含有し、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.015質量部、CaOを0.020~0.060質量部、ZrOを0.030~0.070質量部、TiOを0.010~2.500質量部、Coを0.15~0.45質量部含有し、
表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であることを特徴とする。
【0027】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が4500以上である。
【0028】
上記MnZn系フェライトの一実施形態は、キュリー温度が200℃以上であり、23℃1.5MHzにおける虚部の比初透磁率μ”が3000以上である。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するフェライトを製造可能なジルコニア質セッタ、当該セッタを用いて製造したMnZn系フェライト並びにその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上述したように、従来の技術では、主にフェライト組成に着目したものが多く、フェライトの製造に用いるセッタに着目したものは非常に少なかった。
本発明者らは、ジルコニア質セッタ中に含まれるCaO成分と、セッタ気孔率とを特定の範囲内にすることで、当該ジルコニア質セッタを用いて製造したフェライトが、高い比初透磁率及び高いキュリー温度を有することを新たに見出した。
ここで、磁界の強さHと磁束密度Bとの関係をB=μHで表した時の比例定数μを透磁率という。また、透磁率μを真空の透磁率μ=4π×10-7[H/m]で割ったものを比透磁率という。特に、初磁化曲線において、原点付近の微小磁界印加時における比透磁率のことを比初透磁率μ’という。また、キュリー温度とは、強磁性体が常磁性体に変わる温度のことを指す。キュリー温度は、JIS規格に準拠し測定を行うことができる。
【0031】
本発明に係るジルコニア質セッタを電子材料の焼成等に用いることで、上記各種特性を達成可能な、従来よりも幅広い組成のフェライトを製造することができる。さらに、当該フェライトの組成をより適切な範囲に設定することで、より高い比透磁率とより高いキュリー温度を兼ね備えたフェライトの提供が可能となる。
【0032】
以下、本発明に係るジルコニア質セッタ、MnZn系フェライトおよびその製造方法について説明する。
なお、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0033】
<ジルコニア質セッタ>
本発明に係るジルコニア質セッタ(以下、本セッタとも記す)は、CaOの含有量が、0.28質量%以下であり、気孔率が、45.0体積%以下である。上記要件を満たすことにより、フェライト原料とセッタ成分との反応を抑制でき、高い比透磁率および高いキュリー温度を有するフェライトを製造できる。なお、当然ながら、本セッタの構成成分のうち、上記CaO(および後述する他の成分)以外の残部は、ZrOとなる。
【0034】
より具体的には、セッタ中のCaOの含有量が、0.28質量%以下であれば、当該セッタを用いて製造したフェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が高くなる。また、セッタ中のCaOの含有量は、0.14質量%以下が好ましく、0質量%である(すなわち、セッタ中にCaOを含有しない)ことがより好ましい。セッタ中のCaOの含有量が、0.14質量%以下であれば、当該セッタを用いて製造したフェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ’がより高くなる。さらに、セッタ中にCaOを含有しなければ、当該セッタを用いて製造したフェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ’および23℃200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”がより高くなる。
【0035】
また、セッタの気孔率が、45.0体積%以下であれば、当該セッタを用いて製造したフェライトの23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が高くなる。さらに、より高い比初透磁率を得る観点から、セッタの気孔率は、30.0体積%以下であることが好ましく、25.0体積%以下であることがより好ましく、12.0体積%以下であることがさらに好ましい。なお、セッタの気孔率が0体積%の場合も高い比初透磁率μ’を有するフェライトを容易に製造することができる。セッタの気孔率は、JIS R 2205-74に準拠して測定することができる。
【0036】
なお、本セッタは、ジルコニア質セッタであり、例えば、電子材料焼成用として使用することができる。本セッタ中の構成成分は、ZrOおよび上述したCaOの他に、例えば、Y,MgO,CeO,SiO等の従来公知の成分を含むことができる。これらの他の成分の含有量は適宜設定でき、特に限定されないが、例えば、以下の範囲にすることができる。すなわち、セッタ中のYの含有量を1.0質量%以上10.0質量%以下、MgOの含有量を1.0質量%以下、CeOの含有量を1.0質量%以下、SiOの含有量を10.0質量%以下とすることができる。
なお、本セッタは、これらの他の成分を含まなくてもよく、セッタ中にこれらの他の成分の配合量が少ない場合やこれらの他の成分を含まない場合に(即ち、他の成分の配合量が0質量%により近い程)、より高い比初透磁率を達成できる傾向がある。セッタが配合する各成分の組成に関しては、ICP分析により計測を行うことができる。
【0037】
本セッタは、従来公知の製造方法を用いて適宜製造でき、その製造方法は特に限定されない。例えば、本セッタを構成する各成分を配合したセッタ原料(粉体)を、油圧プレス等により所望の形状に成形し、乾燥および焼成することにより、本セッタを製造することができる。なお、その際の乾燥条件や焼成条件も適宜設定でき、特に限定されない。例えば、大気中、温度:1350~1600℃、時間:1~5時間の条件で焼成を行うことができる。
【0038】
<MnZn系フェライトの製造方法>
本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法(以下、本製造方法とも記す)は、本発明に係るジルコニア質セッタを用いて、Fe(酸化鉄(III))とZnO(酸化亜鉛)とMnO(酸化マンガン)とを主成分とするMnZn系フェライト(MnZn系フェライトコア)を製造するものである。本製造方法は、キュリー温度が110℃~245℃となるフェライトに対して好ましく適用できる。本製造方法では、フェライトとセッタ成分との間の反応を抑制でき、フェライト表面の異常粒生成を抑制できる。その結果、得られるフェライトの比初透磁率の周波数特性が改善され、200kHz以上の周波数帯域における虚部の比初透磁率μ”を高めることができる。以下に、本製造方法について詳しく説明する。
【0039】
本製造方法は、混合工程、第1の乾燥および造粒工程、仮焼工程、解砕工程、第2の乾燥および造粒工程、成型工程、および焼結工程を有することができる。
まず、焼結後のフェライト組成が所望の組成となるように、各成分原料の粉末を秤量する。
次に、全ての原料粉末を混合して解砕し、混合粉末を得る(混合工程)。具体的には、アトライタ等の装置を用いて、混合粉末のメジアン径D50が所望の値(例えば、0.5μm以上、1.5μm以下)となるまで凝集した原料粉末を解砕混合する。なお、混合粉末の粒度分布は粒度分布測定装置で測定することができる。
【0040】
続いて、混合工程で得られた混合粉末に、適量(例えば、当該混合粉末の全質量を100質量部としたときに0.5~1.0質量部)のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどを用いて噴霧することで顆粒を得る(第1の乾燥および造粒工程)。
【0041】
次に、第1の乾燥および造粒工程により得られた顆粒を、例えば、空気雰囲気で、適切な温度および時間(例えば、温度750℃で1時間)仮焼して仮焼物を得る(仮焼工程)。
【0042】
続いて、所望のキュリー温度および比初透磁率に併せて、所望量の他の成分(副成分)を得られた仮焼物に対して添加する。当該他の成分としては、例えば、SiO(二酸化ケイ素)、CaO(酸化カルシウム)(実際の添加時はCa(OH)の形態)、Bi(酸化ビスマス)、MoO(三酸化モリブデン)、ZrO(二酸化ジルコニウム)、TiO(酸化チタン)、Co(酸化コバルト)(実際の添加時はCoを形態)を用いることができる。そして、各添加物を添加した後、仮焼物を解砕して解砕粉末を得る(解砕工程)。具体的には、解砕工程において、解砕後の粒径のメジアン径D50が所望の値(例えば、0.5μm以上、1.0μm以下)になるまで仮焼物を解砕して解砕粉末を得る。
【0043】
次に、解砕工程において得られた解砕粉末に、適量(例えば、解砕粉末の全質量を100質量部としたときに、0.5~1.0質量部)のポリビニルアルコールなどのバインダーを加え、スプレードライヤーなどで噴霧することで顆粒を得る(第2の乾燥および造粒工程)。この際、顆粒のメジアン径D50は適宜設定できるが、例えば、40μm以上、200μm以下とすることができる。
【0044】
続いて、第2の乾燥および造粒工程で得られた顆粒を所望の形状、例えば、外径が19mm、内径が13mm、高さが11mmのトロイダル型のコアに成形する(成型工程)。
【0045】
次に、上述した構成の本発明に係るジルコニア質セッタ上に得られたコアを積載し、焼結炉を用いて焼結を行う(焼結工程)。
ここで、本製造方法では、MnZn系フェライト原料を焼結する際の、焼結条件としては、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下にすることが好ましい。当該条件を満たすことにより、得られるフェライト(焼結体)内部のZnO成分に対するフェライト表面のZnO成分の割合をより高く、すなわち、焼結体内外のZnO成分の含有量差をより小さく抑制することができる。その結果、フェライト中の組成不均一に起因する内部応力の発生を容易に抑制でき、比初透磁率μ’および虚部の比初透磁率μ”の低下を容易に抑制できる。
【0046】
また、本製造方法では、さらに、昇温されたMnZn系フェライト原料を、1250℃以上、1360℃以下、酸素濃度1.5体積%以上、20体積%以下に保持することが好ましい。当該条件を満たすことで、焼結体の結晶粒を容易に成長させることができる。
【0047】
さらに、本製造方法では、昇温後保持された前記MnZn系フェライト原料を冷却する際の、冷却温度1000℃以下の酸素濃度を300ppm以下にすることが好ましい。当該条件を満たすことで、焼結体の結晶粒を容易に成長させることができる。
【0048】
以上より、本製造方法では、以下の焼結条件にて、フェライトを製造することが特に好ましい。すなわち、まずMnZn系フェライト原料を焼結する際の、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下にする(昇温工程)。そして、昇温されたMnZn系フェライト原料を、温度1250℃以上、1360℃以下、酸素濃度1.5体積%以上、20体積%以下に保持する(温度保持工程)。続いて、焼結炉内の酸素濃度を焼結炉内の温度にあわせて(連続的に)減少させ、冷却温度1000℃以下の酸素濃度を300ppm以下にする(冷却工程)。
このような製造方法を用いることにより、焼結体の結晶粒を容易に成長させることができる。また、当該方法より、焼結中の温度や酸素濃度を所定の範囲内に制御することで、フェライト中の酸素空孔を減少させ、高温環境におけるCoイオンの拡散を抑制し、高温環境に長時間晒された場合でも、初期特性からの特性低下を抑制できる。なお、MnZn系フェライト中にTiOを含有させることにより、高温環境におけるCoイオンの拡散抑制効果をより高めることができる。
また、MnZn系フェライト原料(被焼成物)を本セッタ上に積載し、かつ上記製造条件を用いて焼結を行うことで、フェライト原料とセッタに含まれる成分との反応を容易に抑制でき、さらに飽和蒸気圧の高いZnO成分の減少を容易に抑制できる。結果として、比初透磁率μ’のみならず、上述したμ”の高いフェライトを容易に得ることができる。
【0049】
従来のMnZn系フェライトの製造方法の一例として、温度保持工程における温度を1380~1420℃の高温とすることで焼結体の結晶粒径を成長させ、飽和蒸気圧の高いZnO成分が焼結体から減少することを抑制するため、焼結体と同じ組成を有するフェライト粉末中に被焼成体を配置させて焼結する方法が知られている。しかしながら、本発明では、このような複雑でコストのかかる製造方法を用いることなく、上述したような簡単な方法で、高い比初透磁率を有するMnZn系フェライトを得ることが可能となる。
【0050】
<MnZn系フェライト>
本発明に係るMnZn系フェライト(以下、本フェライトとも記す)は、上述した本発明に係るジルコニア質セッタを用いて、本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法により製造することができる。
本フェライトは、以下の第1~第5のMnZn系フェライトを含むものである。なお、MnZn系フェライトは、主成分となるFe、MnOおよびZnOの組成比率によって、キュリー温度が特定される傾向がある。なお、フェライトが配合する各成分の組成に関しては、蛍光X線分析により計測を行うことができる。第2~第5のMnZn系フェライトは、キュリー温度が110℃~245℃となるように組成(主に主成分組成)を設定されている。MnZn系フェライトは、キュリー温度が高くなる程、常温(例えば、25℃)における結晶磁気異方性定数および磁歪定数の値が高くなるため、キュリー温度の上昇に伴い、比初透磁率は小さくなる傾向がある。しかしながら、本製造方法を用いて得られる本フェライトは、キュリー温度を高く維持した状態でも高い比初透磁率を有することができる。
本フェライトは、高いキュリー温度および高い比初透磁率を有することができるため、様々な使用温度環境に応じて、コモンモードチョークコイルやその他のコイルの磁芯として使用することができ、これらのコイルの高性能化を達成できる。
【0051】
(第1のMnZn系フェライト)
第1のMnZn系フェライト(以下、第1フェライトとも記す)は、上述した本製造方法を用いて製造することができ、第1のフェライト原料を焼結することにより得られる焼結体における、セッタ接地面のZnO含有量が、前記焼結体内部のZnO含有量に対して、95.0%以上となる。このようにフェライト内外のZnO比率が95.0%以上であれば、組成不均一に起因する内部応力の発生を抑制でき、比初透磁率の低下を容易に抑制できる。
【0052】
(第2のMnZn系フェライト)
第2のMnZn系フェライト(以下、第2フェライトとも記す)は、主成分100mol%中、Feを50.9~53.2mol%、ZnOを21.0~24.4mol%、残部のMnOとなる量で含有する。また、第2フェライトは、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.009質量部、CaOを0.010~0.034質量部、Biを0.000~0.060質量部、MoOを0.000~0.039質量部含有する。さらに、第2フェライトは、表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上となる。
【0053】
主成分であるFe、ZnOおよびMnOの含有割合を上記範囲とすることで、所望のキュリー温度を容易に得ることができる。より具体的には、Feの含有割合が上記下限値以上であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。また、Feの含有割合が上記上限値以下であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。さらに、ZnOの含有割合が上記下限値以上であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。また、ZnOの含有割合が上記上限値以下であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。
【0054】
BiおよびMoOを上記範囲量含有することで、焼結体の結晶粒の成長を促進することができ、結果として、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。ここで、Biは、フェライトの結晶粒径を不均一にする傾向がある。したがって、Biの添加量は最小限に抑えつつフェライトの結晶粒径を成長させることが好ましい。Biの含有割合が上記下限値以上であれば、十分な結晶粒成長が行われ、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。また、Biの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記下限値以上であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒成長が抑制されることなく、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
【0055】
また、SiOおよびCaOを上記範囲量含有することで、フェライトの比抵抗が改善されるため、比初透磁率の周波数特性を向上し、200kHz以上の周波数領域におけるμ”値を高めることができる。より具体的には、SiOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、SiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
【0056】
また、フェライト内外のZnO比率が95.0%以上であれば、組成不均一に起因する内部応力の発生を抑制でき、比初透磁率の低下を容易に抑制できる。
【0057】
第2フェライトは、キュリー温度が110℃以上であることが好ましい。なお、第2フェライトのキュリー温度は、上述したように、例えば、245℃以下とすることができる。また、第2フェライトは、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が12000以上であることが好ましい。さらに、第2フェライトは、23℃200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が7500以上であることが好ましい。
【0058】
(第3のMnZn系フェライト)
第3のMnZn系フェライト(以下、第3フェライトとも記す)は、主成分100mol%中、Feを50.6~53.7mol%、ZnOを18.0~20.0mol%、残部のMnOとなる量で含有する。また、第3フェライトは、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有する。さらに、第3フェライトは、表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上となる。
【0059】
主成分であるFe、ZnOおよびMnOの含有割合を上記範囲とすることで、所望のキュリー温度を容易に得ることができる。より具体的には、Feの含有割合が上記下限値以上であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。また、Feの含有割合が上記上限値以下であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。さらに、ZnOの含有割合が上記下限値以上であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。また、ZnOの含有割合が上記上限値以下であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。
【0060】
BiおよびMoOを上記範囲量含有することで、焼結体の結晶粒の成長を促進することができ、結果として、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。ここで、Biは、フェライトの結晶粒径を不均一にする傾向がある。したがって、Biの添加量は最小限に抑えつつフェライトの結晶粒径を成長させることが好ましい。Biの含有割合が上記下限値以上であれば、十分な結晶粒成長が行われ、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。また、Biの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記下限値以上であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒成長が抑制されることなく、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
【0061】
また、SiOおよびCaOを上記範囲量含有することで、フェライトの比抵抗が改善されるため、比初透磁率の周波数特性を向上し、200kHz以上の周波数領域におけるμ”値を高めることができる。より具体的には、SiOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、SiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
さらに、Coを上記範囲量含有することで、広い温度範囲において結晶磁気異方性定数を小さくでき、より広い温度範囲において比初透磁率を高めることができる。
また、TiOをCoと上記範囲量で複合添加することで、高温環境におけるCoによるCoイオンの熱拡散を抑制でき、高温環境に長時間晒された場合でも初期特性からの特性低下を抑制できる。また、TiOはMnZn系フェライトに添加することで、2価と3価の金属イオン間の電子交換を抑制する効果があり、粒内抵抗を高める効果がある。ここで、例えば、第3フェライトのキュリー温度Tcが150℃以上(例えば、170℃以上)である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、高温(例えば150℃)放置試験前後のμ’の変化率をより低く抑えることができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。さらに、第3フェライトのキュリー温度が200℃以上である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、1.5MHzにおけるμ”値が低下するのを容易に防ぐことができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。
さらに、フェライト内外のZnO比率が95.0%以上であれば、組成不均一に起因する内部応力の発生を抑制でき、比初透磁率の低下を容易に抑制できる。
【0062】
第3フェライトは、キュリー温度が150℃以上であることが好ましい。なお、第3フェライトのキュリー温度は、上述したように、例えば、245℃以下とすることができる。また、第3フェライトは、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が8500以上であることが好ましい。さらに、第3フェライトは、23℃500kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が5500以上であることが好ましい。
【0063】
(第4のMnZn系フェライト)
第4のMnZn系フェライト(以下、第4フェライトとも記す)は、主成分100mol%中、Feを50.5~54.0mol%、ZnOを11.0~18.0mol%、残部のMnOとなる量で含有する。また、第4フェライトは、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.010質量部、CaOを0.015~0.030質量部、Biを0.001~0.030質量部、MoOを0.001~0.020質量部、Coを0.10~0.55質量部、TiOを0.10~2.50質量部含有する。さらに、第4フェライトは、表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上となる。
【0064】
主成分であるFe、ZnOおよびMnOの含有割合を上記範囲とすることで、所望のキュリー温度を容易に得ることができる。より具体的には、Feの含有割合が上記下限値以上であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。また、Feの含有割合が上記上限値以下であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。さらに、ZnOの含有割合が上記下限値以上であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。また、ZnOの含有割合が上記上限値以下であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。
【0065】
BiおよびMoOを上記範囲量含有することで、焼結体の結晶粒の成長を促進することができ、結果として、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。ここで、Biは、フェライトの結晶粒径を不均一にする傾向がある。したがって、Biの添加量は最小限に抑えつつフェライトの結晶粒径を成長させることが好ましい。Biの含有割合が上記下限値以上であれば、十分な結晶粒成長が行われ、10kHzにおいて高い比初透磁率を得ることができる。また、Biの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記下限値以上であれば、結晶粒径が均一な焼結体を容易に得ることができるため、周波数特性が低下することを容易に防ぐことができ、高いμ”を得るができる。また、MoOの含有割合が上記上限値以下であれば、結晶粒成長が抑制されることなく、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
【0066】
また、SiOおよびCaOを上記範囲量含有することで、フェライトの比抵抗が改善されるため、比初透磁率の周波数特性を向上し、200kHz以上の周波数領域におけるμ”値を高めることができる。より具体的には、SiOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、SiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
さらに、Coを上記範囲量含有することで、広い温度範囲において結晶磁気異方性定数を小さくでき、より広い温度範囲において比初透磁率を高めることができる。
また、TiOをCoと上記範囲量で複合添加することで、高温環境におけるCoによるCoイオンの熱拡散を抑制でき、高温環境に長時間晒された場合でも初期特性からの特性低下を抑制できる。また、TiOはMnZn系フェライトに添加することで、2価と3価の金属イオン間の電子交換を抑制する効果があり、粒内抵抗を高める効果がある。ここで、例えば、第4フェライトのキュリー温度Tcが150℃以上(例えば、170℃以上)である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、高温(例えば150℃)放置試験前後のμ’の変化率をより低く抑えることができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。さらに、第4フェライトのキュリー温度が200℃以上である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、1.5MHzにおけるμ”値が低下するのを容易に防ぐことができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。
さらに、フェライト内外のZnO比率が95.0%以上であれば、組成不均一に起因する内部応力の発生を抑制でき、比初透磁率の低下を容易に抑制できる。
【0067】
第4フェライトは、キュリー温度が170℃以上であることが好ましい。なお、第4フェライトのキュリー温度は、上述したように、例えば、245℃以下とすることができる。また、第4フェライトは、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が7000以上であることが好ましい。さらに、第4フェライトは、23℃900kHzにおける虚部の比初透磁率μ”が5000以上であることが好ましい。
【0068】
(第5のMnZn系フェライト)
第5のMnZn系フェライト(以下、第5フェライトとも記す)は、主成分100mol%中、Feを51.3~54.5mol%、ZnOを9.0~14.3mol%、残部のMnOとなる量で含有する。また、第5フェライトは、前記主成分の全量を100質量部としたときに、副成分としてSiOを0.000~0.015質量部、CaOを0.020~0.060質量部、ZrOを0.030~0.070質量部、TiOを0.010~2.500質量部、Coを0.15~0.45質量部含有する。さらに、第5フェライトは、表面の少なくとも一部のZnO含有量が、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上となる。
【0069】
主成分であるFe、ZnOおよびMnOの含有割合を上記範囲とすることで、所望のキュリー温度を容易に得ることができる。より具体的には、Feの含有割合が上記下限値以上であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。また、Feの含有割合が上記上限値以下であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。さらに、ZnOの含有割合が上記下限値以上であれば、高い比初透磁率を容易に維持できる。また、ZnOの含有割合が上記上限値以下であれば、キュリー温度が所望の温度よりも低下することを容易に防ぐことができる。
【0070】
SiO、CaOおよびZrOを上記範囲量含有することで、フェライトの比抵抗が改善されるため、比初透磁率の周波数特性を向上し、200kHz以上の周波数領域におけるμ”値を高めることができる。より具体的には、SiOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、SiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記下限値以上であれば、200kHz~1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、CaOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。また、ZrOの含有割合が上記下限値以上であれば、1.5MHzにおけるμ”値が低下することを容易に防ぐことができる。また、ZrOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下することを容易に防ぐことができる。
さらに、Coを上記範囲量含有することで、広い温度範囲において結晶磁気異方性定数を小さくでき、より広い温度範囲において比初透磁率を高めることができる。
また、TiOをCoと上記範囲量で複合添加することで、高温環境におけるCoによるCoイオンの熱拡散を抑制でき、高温環境に長時間晒された場合でも初期特性からの特性低下を抑制できる。また、TiOはMnZn系フェライトに添加することで、2価と3価の金属イオン間の電子交換を抑制する効果があり、粒内抵抗を高める効果がある。ここで、例えば、第5フェライトのキュリー温度Tcが150℃以上(例えば、170℃以上)である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、高温(例えば150℃)放置試験前後のμ’の変化率をより低く抑えることができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。さらに、第5フェライトのキュリー温度が200℃以上である場合、TiOの含有割合が上記下限値以上であれば、1.5MHzにおけるμ”値が低下するのを容易に防ぐことができる。また、この場合に、TiOの含有割合が上記上限値以下であれば、10kHzにおけるμ’値が低下するのを容易に防ぐことができる。
さらに、フェライト内外のZnO比率が95.0%以上であれば、組成不均一に起因する内部応力の発生を抑制でき、比初透磁率の低下を容易に抑制できる。
【0071】
第5フェライトは、キュリー温度が200℃以上であることが好ましい。なお、第5フェライトのキュリー温度は、上述したように、例えば、245℃以下とすることができる。また、第5フェライトは、23℃10kHzにおける比初透磁率μ’が4500以上であることが好ましい。さらに、第5フェライトは、23℃1.5MHzにおける虚部の比初透磁率μ”が3000以上であることが好ましい。
【実施例
【0072】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、これらの記載により本発明を制限するものではない。
【0073】
[特性の評価方法]
まず、作製したフェライトの特性評価を行う際に使用する試料について説明する。後述する実施例および比較例で作製したフェライトを、外径が19mm、内径が13mm、および高さが11mmのトロイダル型のフェライトコアに成形した。このフェライトコアに線径が0.26mmの銅線を10回巻きつけて試料を作製し、インピーダンスアナライザを使用して比初透磁率μ’、虚部の比初透磁率μ”を測定した。尚、測定の際の電流値は0.2mAであった。
【0074】
[実施例1]
まず、焼結後のFe含有量が52.20mol%、ZnO含有量が22.50mol%、MnO含有量が25.30mol%として合計100mol%となるように、Fe、Mn、ZnOの各原料粉末を秤量した。
次に、これらの原料粉末を混合して、得られた混合物のメジアン径D50が0.5μm以上、1.5μm以下となるまでアトライタで解砕した。
続いて、得られた混合粉末の全質量を100質量部としたときに0.5質量部となるポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで、顆粒を得た。
次に、当該顆粒を、空気雰囲気中で、750℃で1時間仮焼して仮焼物を得た。
得られた仮焼物の全質量を100質量部としたときに、焼結後のSiO含有量が0.005質量部となるように、SiOを仮焼物に添加した。同様に、焼結後のCaO含有量が0.021質量部になるように、Ca(OH)を添加し、焼結後のBi含有量が0.014質量部となるようにBiを添加した。さらに、焼結後のMoO含有量が0.003質量部となるように、MoOを仮焼物に添加した。
次に、得られた仮焼物と添加物との混合物を、解砕後の粒径のメジアン径D50が0.5μm以上、1.0μm以下になるように解砕機で解砕して解砕粉末を得た。
続いて、この解砕粉末に、解砕粉末の全質量を100質量部としたときに、1質量部となるポリビニルアルコールを加え、スプレードライヤーで噴霧することで顆粒を得た。このときの顆粒のメジアン径D50は110μmであった。
【0075】
次に、焼結後のフェライトコアの外径が19mm、内径が13mm、高さが11mmのトロイダル型となるよう成形し、セッタ上に積載した。
このとき用いたセッタ成分の組成は、Y含有量が5.0質量%、CaO含有量が0.28質量%、MgO含有量が0.0質量%、CeO含有量が0.0質量%、SiO含有量が7.0質量%、残部がZrOであり、セッタ気孔率は25.0体積%であった。なお、セッタ成分の組成は、ICP分析により計測を行い、セッタ気孔率は、JIS R 2205-74に準拠して測定した。
【0076】
用いた焼結条件は、昇温温度域(昇温部)600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下とした。また、昇温されたフェライト原料を(保持部)温度1310℃で保持し、その際、酸素濃度を2.5体積%に設定した。さらに、その後、冷却温度1000℃になるまで、酸素濃度を温度に併せて連続的に減少させ、冷却温度域(冷却部)1000℃以下の酸素濃度を300ppm以下となるようにした。すなわち、600℃以上の昇温工程においては酸素濃度を5.0体積%以下、温度保持工程においては酸素濃度を2.5体積%、冷却工程においては300ppm以下となるように設定した。
【0077】
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は12,192であり、200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”は8349であり、キュリー温度は126℃であった。なお、キュリー温度は、JIS規格に準拠し測定を行った。
【0078】
[実施例2~16および比較例1~3]
セッタ成分組成およびセッタ気孔率を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~16および比較例1~3のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例1~16および比較例1~3で作製したセッタ成分の組成、セッタ気孔率、これらのセッタを用いて作製したフェライトの10kHzにおける比初透磁率μ’および200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”(23℃)並びにキュリー温度を表1に示す。なお、実施例1~16において得られたフェライト表面の少なくとも一部のZnO含有量は、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であった。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、特定の成分組成および気孔率を有する本セッタを用いて、MnZn系フェライト原料の焼結を行うことにより、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するMnZn系フェライトを得ることができた。
【0081】
[実施例17]
焼結条件において、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を0.01体積%とした以外は、実施例1と同様にして、MnZn系フェライトを作製し、その特性を測定した。
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は12,082であり、200kHzにおける虚部の比初透磁率μ”は8345であり、キュリー温度は126℃であった。
【0082】
[実施例18および19、比較例4]
焼結条件における、昇温温度域600℃以上1310℃以下の酸素濃度を、表2に示すように変更した以外は、実施例17と同様にして、実施例18および19、比較例4のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例17~19および比較例4で作製したMnZn系フェライトの焼結工程における昇温過程600℃~1310℃における酸素濃度、フェライト内部のZnO成分に対する表面のZnOの割合(ZnO比率)、フェライトの10kHzにおける比初透磁率μ’および200kHzにおける比初透磁率の虚部成分μ”(23℃)並びにキュリー温度を表2に示す。なお、フェライトの組成は、蛍光X線分析により計測を行った。
【0083】
【表2】
【0084】
表2に示すように、特定の焼結条件により焼結を行うことによって、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するMnZn系フェライトを得ることができた。詳しくは、得られるフェライト(焼結体)内部のZnO成分に対するフェライト表面のZnO成分の割合をより高くすることによって、高い比初透磁率および高いキュリー温度が得られている。さらに、昇温温度域600℃以上1310℃以下における酸素濃度を5.0体積%以下にすることによって、比初透磁率の低下を抑制できている。
【0085】
[実施例20]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例20のMnZn系フェライトを作製し、その特性を測定した。
すなわち、各原料粉末の秤量の際に、焼結後のFe含有量が50.90mol%、ZnO含有量が22.50mol%、MnO含有量が26.60mol%として合計100mol%となるように、Fe、Mn、ZnOの各原料粉末を秤量した。
また、セッタ成分組成を、Y含有量が5.0質量%、CaO含有量が0.05質量%、MgO含有量が0.0質量%、CeO含有量が0.0質量%、SiO含有量が7.0質量%、残部がZrOとした。
【0086】
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は16,189であり、200kHzにおけるμ”は8583であり、キュリー温度は110℃であった。
【0087】
[実施例21~35および比較例5~13]
フェライト成分組成を表3に示すように変更した以外は、実施例20と同様にして、実施例21~35および比較例5~13のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例20~35および比較例5~13のフェライトの主成分および副成分組成、作製したフェライトの10kHzにおける比初透磁率μ’(23℃)、200kHzにおける比初透磁率の虚部成分μ”(23℃)、キュリー温度を表3に示す。なお、実施例20~35において得られたフェライト表面の少なくとも一部のZnO含有量は、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であった。
【0088】
【表3】
【0089】
表3に示すように、本発明に係る第2のMnZn系フェライトは、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有することがわかった。
【0090】
[実施例36]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例36のMnZn系フェライトを作製し、その特性を測定した。
すなわち、各原料粉末の秤量の際に、焼結後のFe含有量が50.60mol%、ZnO含有量が18.50mol%、MnO含有量が30.90mol%として合計100mol%となるように、Fe、Mn、ZnOの各原料粉末を秤量した。
また、得られた仮焼物の全質量を100質量部としたときに、焼結後のSiO含有量が0.004質量部となるように、SiOを仮焼物に添加した。同様に、焼結後のCaO含有量が0.021質量部になるように、Ca(OH)を添加し、焼結後のBi含有量が0.014質量部となるようにBiを添加した。さらに、焼結後のMoO含有量が0.003質量部となるように、MoOを仮焼物に添加し、焼結後のCoが0.29質量部となるように、Coを添加し、焼結後のTiO含有量が0.75質量部となるように、TiOを仮焼物に添加した。
さらに、用いたセッタ成分の組成を、Y含有量が5.0質量%、CaO含有量が0.05質量%、MgO含有量が0.0質量%、CeO含有量が0.0質量%、SiO含有量が7.0質量%、残部がZrOとした。
【0091】
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は8,642、500kHzにおける虚部の比初透磁率μ”は5,635、キュリー温度は150℃であった。
また、このフェライトにおける150℃1000hrの高温放置試験前後の120℃におけるμ’の変化率は-5.1%であった。
【0092】
[実施例37~53および比較例14~28]
フェライトの主成分および副成分の組成を表4に示すように変更した以外は、実施例36と同様にして、実施例37~53および比較例14~28のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例36~53、および比較例14~28のフェライトの主成分、副成分、10kHzにおける比初透磁率μ’(23℃)、500kHzにおける比初透磁率の虚部成分μ”(23℃)、150℃の恒温槽(空気雰囲気)に1000時間放置した後の比初透磁率μ’(120℃)が放置する前の比初透磁率μ’(120℃)に対して変化した割合、キュリー温度を表4に示す。なお、実施例36~53において得られたフェライト表面の少なくとも一部のZnO含有量は、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であった。
【0093】
【表4】
【0094】
表4に示すように、本発明に係る第3のMnZn系フェライトは、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有することがわかった。
【0095】
[実施例54]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例54のMnZn系フェライトを作製し、その特性を測定した。
すなわち、各原料粉末の秤量の際に、焼結後のFe含有量が50.50mol%、ZnO含有量が16.00mol%、MnO含有量が33.50mol%として合計100mol%となるように、Fe、Mn、ZnOの各原料粉末を秤量した。
また、仮焼物の全質量を100質量部としたときに、焼結後のSiO含有量が0.004質量部となるように、SiOを仮焼物に添加した。同様に、焼結後のCaO含有量が0.021質量部になるように、Ca(OH)を添加し、焼結後のBi含有量が0.014質量部となるようにBiを添加した。さらに、焼結後のMoO含有量が0.003質量部となるように、MoOを添加し、焼結後のCoが0.290質量部となるように、Coを添加し、焼結後のTiO含有量が1.000質量部となるように、TiOを仮焼物に添加した。
さらに、用いたセッタ成分の組成を、Y含有量が5.0質量%、CaO含有量が0.05質量%、MgO含有量が0.0質量%、CeO含有量が0.0質量%、SiO含有量が7.0質量%、残部がZrOとした。
【0096】
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は7,151、900kHzにおける虚部の比初透磁率μ”は5,327、キュリー温度は170℃であった。
また、このフェライトにおける150℃1000hrの高温放置試験前後の120℃のμ’の変化率は-4.8%であった。
【0097】
[実施例55~71および比較例29~43]
フェライトの主成分および副成分の組成を表5に示すように変更した以外は、実施例54と同様にして、実施例55~71および比較例29~43のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例54~71および比較例29~43のフェライトの主成分、副成分、10kHzにおける比初透磁率μ’(23℃)、900kHzにおける比初透磁率の虚部成分μ”(23℃)、150℃の恒温槽(空気雰囲気)に1000時間放置した後の比初透磁率μ’(120℃)が放置する前の比初透磁率μ’(120℃)に対して変化した割合、キュリー温度を表5に示す。なお、実施例54~71において得られたフェライト表面の少なくとも一部のZnO含有量は、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であった。
【0098】
【表5】
【0099】
表5に示すように、本発明に係る第4のMnZn系フェライトは、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有することがわかった。
【0100】
[実施例72]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例72のMnZn系フェライトを作製し、その特性を測定した。
すなわち、各原料粉末の秤量の際に、焼結後のFe含有量が51.30mol%、ZnO含有量が11.50mol%、MnO含有量が37.20mol%として合計100mol%となるように、Fe、Mn、ZnOの各原料粉末を秤量した。
また、仮焼物の全質量を100質量部としたときに、焼結後のSiO含有量が0.007質量部となるように、SiOを仮焼物に添加した。同様に、焼結後のCaO含有量が0.040質量部になるように、Ca(OH)を添加し、焼結後のZrO含有量が0.050質量部となるようにZrOを添加した。さらに、焼結後のTiO含有量が0.200質量部となるように、TiOを添加し、焼結後のCoが0.300質量部となるように、Coを仮焼物に添加した。
さらに、用いたセッタ成分の組成は、Y含有量が5.0質量%、CaO含有量が0.05質量%、MgO含有量が0.0質量%、CeO含有量が0.0質量%、SiO含有量が7.0質量%、残部がZrOであった。
【0101】
上記製造方法より得られたフェライトの23℃、10kHzにおける比初透磁率μ’は4,856であり、1.5MHzにおける虚部の比初透磁率μ”は3,612であり、キュリー温度は201℃であり、飽和磁束密度は501mTであった。
【0102】
[実施例73~89および比較例44~56]
フェライトの主成分および副成分の組成を表6に示すように変更した以外は、実施例72と同様にして、実施例73~89および比較例44~56のMnZn系フェライトを作製し、それらの特性を測定した。
実施例72~89および比較例44~56のフェライトの主成分、副成分、10kHzにおける比初透磁率μ’(23℃)、1.5MHzにおける比初透磁率の虚部成分μ”(23℃)、10kHzにおける比初透磁率(150℃)、キュリー温度、飽和磁束密度(23℃)を表6に示す。ここで、当該飽和磁束密度は、各例より得られたMnZn系フェライトをリングコアとし、当該リングコアに1次巻き線を50回、2次巻き線を20回巻き付け、直流磁界1196A/mを印可したときに測定される飽和磁束密度である。なお、実施例72~89において得られたフェライト表面の少なくとも一部のZnO含有量は、内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であった。
【0103】
【表6】
【0104】
表6に示すように、本発明に係る第5のMnZn系フェライトは、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有することがわかった。
【0105】
このように、本発明に係るジルコニア質セッタを用いることによって、高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するMnZn系フェライトを提供することができた。
【0106】
なお、本発明は上記実施形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【要約】
【課題】高い比初透磁率および高いキュリー温度を有するフェライトを製造可能なジルコニア質セッタ、当該セッタを用いて製造したMnZn系フェライト並びにその製造方法の提供。
【解決手段】CaOの含有量は0.28質量%以下であり、気孔率は45.0体積%以下であるジルコニア質セッタ。FeとZnOとMnOとを主成分とするMnZn系フェライトを、前記ジルコニア質セッタを用いて製造するMnZn系フェライトの製造方法。前記製造方法を用いて製造され、MnZn系フェライト原料を焼結することにより得られる焼結体における、セッタ接地面のZnO含有量が、前記焼結体内部のZnO含有量に対して、95.0%以上であるMnZn系フェライト。
【選択図】なし