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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】オキサジン系化合物およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07D 517/16 20060101AFI20220804BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220804BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220804BHJP
   C07D 513/16 20060101ALN20220804BHJP
【FI】
C07D517/16 CSP
A61K41/00
A61P35/00
C07D513/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021510504
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-21
(86)【国際出願番号】 CN2019083615
(87)【国際公開番号】W WO2019210786
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】201810420618.1
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513324321
【氏名又は名称】大連理工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514121387
【氏名又は名称】大連科栄生物技術有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】樊 江莉
(72)【発明者】
【氏名】姚 起超
(72)【発明者】
【氏名】李 海東
(72)【発明者】
【氏名】辺 雅娜
(72)【発明者】
【氏名】李 明樂
(72)【発明者】
【氏名】王 静云
(72)【発明者】
【氏名】彭 孝軍
【審査官】池上 佳菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-126702(JP,A)
【文献】特表2020-526595(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109678888(CN,A)
【文献】KAINTZ, Andreas; HARTMANN, Horst,Preparation and Characterization of Bridged Naphthoxazinium Salts,European Journal of Organic Chemistry,1999年,vol.4,pp.923-930
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 513/16
C07D 517/16
A61K 41/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Fの構造を有するオキサジン系化合物。

[一般式Fにおいて、
前記Aが、セレニウム、テルリウム元素から選択される。
前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-20の置換もしくは無置換のアルキル基から選択される。
前記置換のアルキル基が、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、ニトロ基またはスルホン酸基で任意に置換される。
前記Xが、リン酸基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオンまたは過塩素酸基から選択される。]
【請求項2】
一般式Fにおける前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-14の置換もしくは無置換のアルキル基から選択されることを特徴とする請求項1に記載のオキサジン系化合物。
【請求項3】
一般式Fにおける前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-6の置換もしくは無置換のアルキル基から選択されることを特徴とする請求項2に記載のオキサジン系化合物。
【請求項4】
一般式Fにおける前記R1およびR2のいずれが、水素であることを特徴とする請求項3に記載のオキサジン系化合物。
【請求項5】
一般式Fにおける前記R3が、水素であることを特徴とする請求項3に記載のオキサジン系化合物。
【請求項6】
前記化合物が、F-2、F-3、F-4、F-5、F-6、F-8、F-9、およびF-10から選択されることを特徴とする請求項1に記載のオキサジン系化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のオキサジン系化合物の、光/音波増感剤の製造における使用。
【請求項8】
前記光/音波増感剤が、近赤外長波長蛍光プローブであることを特徴とする請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記光/音波増感剤が、腫瘍細胞を標識するために使用されることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【請求項10】
前記光/音波増感剤が、自己組織化によるナノ粒子またはこれを用いて作製されたナノ粒子であり、ナノ粒子の粒子径が1~1000nmであることを特徴とする請求項8に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌剤の設計、合成および使用の分野に属し、具体的に、新型のオキサジン系光/音波増感剤の合成およびその腫瘍への特異的認識、並びにその診断・治療における新しい使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光線力学的作用とは、光増感剤を用いて、光の作用により、有機体細胞または生体分子を機能的にまたは形態的に変化させ、重症の場合は細胞を損傷や死滅させる作用である。この作用は、初期段階で酸素の関与が必要となることから、光増感化-酸化作用とも呼ばれ、化学では光増感化作用と呼ばれ、生物学および医学では光線力学的作用と呼ばれ、光線力学的作用で病気を治療する方法は光線力学的療法(photodynamic therapy、PDT)と呼ばれる。光線力学的療法は、光、光増感剤および酸素の相互作用に基づく新型の疾患治療手段であり、光増感剤(光線力学的療法用薬物)への研究は光線力学的治療の前途に影響を与える鍵となる。光増感剤は、特殊な化学物質であり、その基本機能がエネルギーを伝達することであり、光子を吸収して励起され、吸収した光エネルギーを他の成分の分子に速やかに伝達してこれを励起させ、光増感剤自体が基底状態に戻ることができるものである。1993年から1997年にかけて、最初の光増感剤ポルフィマーナトリウム(Porfimer Sodium)の販売が米国、カナダ、欧州連合、日本および韓国で承認されてから、PDTについての研究、開発および使用は、急速に活発となってきた。PDTは、新型の光線力学的療法用薬物の研究・開発の成功およびレザー装置技術の発達と伴い、前例のない発展ピークを迎えている。世界的に、販売が承認されているまたは臨床研究中の新しい光増感剤は10種類ぐらいある。また、PDTは、コンジローマ・アクミナタム、乾癬、火炎状母斑、関節リウマチ、眼底黄斑変性症、血管形成術後の再狭窄などの非腫瘍性疾患の治療にも使用される。国内では、代表的な光増感剤として、主に上海復旦張江生物医薬有限公司が研究・開発および製造したALA(5-ALA、外用アミノレブリン酸塩酸塩粉末)はある。医学臨床および実践では、皮膚科医者は、便宜上、ALAまたは光線力の略称を使用する。
【0003】
音波力学的療法(Sonodynamic therapy、SDT)は、超音波による生体組織へ比較的強い浸透能力、特に集束超音波による、音波エネルギーを非侵襲的に深部組織に集束させることを利用し、音波増感剤(例えば、ヘマトポルフィリン)を活性化することで抗腫瘍効果をもたらす。1990年、Yumitai.qらは、マウスに移植された腫瘍の成長への超音波とHP(ヘマトポルフィリン)の併用による阻害相乗効果を報告し、HP単独では阻害作用がなく、超音波単独ではわずかな阻害作用しかないが、両者を併用すると明らかな阻害作用があることを示し、これを音波力学的療法と名付けた。
【0004】
現在臨床に使用される光/音波増感剤は、主にポルフィリンやフタロシアニン系化合物に代表される。これらの化合物は、腫瘍治療に大きな成功を取得したが、治療系の組成比率が不安定であり、生体内の代謝が遅く、最大励起波長が短く、光毒性の副作用が発生しやすいなど多くの欠点を依然として有する。これらの欠点は、光線力学的療法の実際な効果および臨床応用を大きく制限する。光増感剤の製造および応用研究について、世界的に指針となるガイドラインがすでに存在するが、音波増感剤の製造および応用研究については、関連する理論的ガイダンスがなく、臨床に応用できる音波増感剤も極めて少ない。よって、適切な光/音波増感剤の設計は、腫瘍の診断・治療に大きな促進作用をする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的の1つは、オキサジンの基本構造を持つとともに光増感および音波増感特性を有する新規化合物を開発することである。当該新型化合物は、オキサジン系化合物が本来持っている高モル吸光係数、長吸収・発光波長、油/水両親特性を利用できるとともに、腫瘍細胞へ特別に突出した標的識別、標識および殺傷作用を有する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
よって、本発明は、まず、一般式Fの構造を有するオキサジン系化合物を提供する。
【化1】
[一般式Fにおいて、
前記Aが、硫黄(S)、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)元素から選択される。
前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-20の置換もしくは無置換のアルキル基から選択される。
前記置換のアルキル基が、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、ニトロ基またはスルホン酸基で任意に置換される。
前記Xが、リン酸基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオンまたは過塩素酸基から選択される。]
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るオキサジン系化合物は、近赤外吸収・発光を有するとともに光増感および音波増感特性を持つ光線/音波力学的活性の有機分子である。該化合物は、最大吸収および発光波長のいずれも660nmを超え、三重項交換率が高く、光照射または超音波条件下で活性酸素種を比較的高効率で生成し、癌細胞および癌組織に良好な殺傷作用を有し、正常組織にほぼ毒性副作用を有さずに腫瘍を光線/音波力学的治療することができる。よって、本発明の別の態様では、前記オキサジン系化合物の光/音波増感剤の製造における使用を公開する。当該光/音波増感剤は、近赤外長波長蛍光プローブであり、腫瘍細胞を標識するために使用される。本発明に係る前記オキサジン系化合物は、小分子薬物送達システムに使用できるだけでなく、自己組織化によりナノ粒子を形成しまたは他の材料にコートされナノ粒子を形成してから薬物送達システムに使用することもできる。ナノサイズの有効範囲は1~1000nmである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】化合物F-1の構造式である。
図2】化合物F-1のスペクトル測定実験結果である(実施例2)。
図3】光照射条件下での化合物F-1の一重項酸素収量測定実験結果である(実施例3)。
図4】超音波条件下での化合物F-1のインビトロ抗癌細胞測定実験結果である(実施例4)。
図5】光照射条件下での化合物F-1のインビトロ抗癌細胞測定実験結果である(実施例5)。
図6】化合物F-2のスペクトル測定実験結果である(実施例7)。
図7】光照射条件下での化合物F-2の一重項酸素収量測定実験結果である(実施例8)。
図8】超音波条件下での化合物F-2の一重項酸素収量測定実験結果である(実施例9)。
図9】光照射条件下での化合物F-2のインビトロ抗癌細胞測定実験結果である(実施例10)。
図10】化合物F-3のスペクトル測定実験結果である(実施例12)。
図11】光照射条件下での化合物F-3の一重項酸素収量測定実験結果である(実施例13)。
図12】超音波条件下での化合物F-3の一重項酸素収量測定実験結果である(実施例14)。
図13】光照射条件下での化合物F-3のインビトロ抗癌細胞測定結果である(実施例15)。
図14】化合物F-1の自己組織化によるナノ薬物送達システムの走査型電子顕微鏡画像である(実施例16)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、一般式Fの構造を有するオキサジン系化合物を提供する。
【化2】
[一般式Fにおいて、
前記Aが、硫黄(S)、セレニウム(Se)、テルリウム(Te)元素から選択される。
前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-20の置換もしくは無置換のアルキル基から選択される。
前記置換のアルキル基が、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、アミノ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、ニトロ基またはスルホン酸基で任意に置換される。
前記Xが、リン酸基、硫酸基、硫酸水素基、硝酸基、塩素アニオン、臭素アニオン、ヨウ素アニオンまたは過塩素酸基から選択される。]
【0010】
具体的な態様では、前記一般式FにおけるR1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-14の置換もしくは無置換のアルキル基から選択される。これらの中でも、好ましくは、前記R1、R2およびR3が、それぞれ独立して水素およびC1-6の置換もしくは無置換のアルキル基から選択される。
【0011】
より具体的な態様では、前記一般式FにおけるR1およびR2のいずれが水素である。当該特徴は、R3が水素である技術的特徴とともに、より好ましい手段を構成する。
【0012】
本発明は、各化合物のRNA特異的認識能力をさらに選別・比較した上で、最も好ましい実施態様を提供し、この実施態様では、下記の9つの化合物を近赤外蛍光プローブの製造に使用する。前記化合物が、F-1、F-2、F-3、F-4、F-5、F-6、F-7、F-8、F-9、F-10およびF-11から選択される。
【化3】
【0013】
特に明記しない限り、本明細書で使用する用語は、下記の意味を有する。
本明細書で使用する用語「アルキル基」には、直鎖状アルキル基および分岐鎖状アルキル基が含まれる。単一のアルキル基、例えば「プロピル基」を言及する場合、直鎖状アルキル基のみを意味し、単一の分岐鎖状アルキル基、例えば「イソプロピル基」を言及する場合、分岐鎖状アルキル基のみを意味する。例えば、「C1-5アルキル基」には、C1-4アルキル基、C1-3アルキル基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基およびt-ブチル基が含まれる。このような規則は、本明細書で使用する他の基にも適用する。
本明細書で使用する用語「ハロゲン」には、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が含まれる。
【0014】
上記した一般式Fを有する化合物は、その製造方法が先行技術に公開されていない。当業者は、本明細書における合成技術情報や有機合成の基本理論・技術に基づいて本発明に係る前記化合物を得ることができるはずである。本明細書に記載されている下記オキサジン系化合物の製造方法が、該化合物を合成する具体的な手段を提供するものであるが、それを限定するものでないと理解されるべきである。
【0015】
本発明に係るオキサジン系化合物は、下記方法により合成される。芳香族アミンまたはその誘導体から形成されたアゾ化合物と8-ヒドロキシジュロリジンとを、酸含有DMF中で縮合させ、目的オキサジン染料を製造する。該合成方法は、プロセスが簡単であり、転化率が高い。より具体的に、本発明に係る一般式Fの化合物の合成スキームは下記の通りである。
【化4】
【0016】
前記スキームで示される一般式Fの化合物の製造方法は、下記のステップを有する。
(1)塩酸の酸性化系において、塩化p-ニトロジアゾベンゼンと式Iの化合物を、モル比1:1で25~35℃の条件下で0.5~2時間反応させ、式II化合物を製造する。
【化5】
(2)式IIの化合物と8-ヒドロキシジュロリジン(キノリン)を、モル比1:1で酸性DMF中で135~145℃の条件下で2~4時間反応させ、一般式Fの化合物を製造する。
オキサジンを基本構造とする本発明に係る前記光/音波増感剤は、下記の特性を有する。
(1)ある程度の水溶性を有するとともに、良好の細胞膜透過性を有する。
(2)優れた近赤外発光特性を有し、生体イメージングに使用される際に、生体光漂白、光損傷および光毒性が低く、かつ発生する蛍光シグナルが比較的深い生体組織を透過することができる。
(3)波長700nmの光照射または超音波条件下で、一重項酸素を多量に生成することができる。
(4)測定条件下で暗所毒性が低く、生体適合性が良く、ある程度の水溶性を有し、光安定性が良く、優れる光増感剤として光線力学的および音波力学的療法による腫瘍治療の分野に用いられる。
【0017】
本発明は、酸素族重元素を治療用分子に導入することで、分子に光線力学的療法、音波力学的療法および化学療法の利点を同時に持たせ、腫瘍をより効率的に診断・治療することができる。また、本発明で提供する化合物は、分子構造が簡単であり、安定性が良く、毒性副作用が低く、製造および精製が容易であり、原材料の入手が容易であり、光線/音波力学的療法による腫瘍治療剤を工業的に製造するのに有利である。
【0018】
本発明に係る前記近赤外光/音波増感剤は、前記特性を有することから、腫瘍や非腫瘍細胞・組織を標識するのに使用することができる。本発明の近赤外蛍光プローブ化合物を含有する組成物は、本明細書に記載される態様で腫瘍や非腫瘍細胞・組織を染色・標識するのに直接使用できることに加えて、腫瘍細胞・組織を染色・標識するのにも使用できる。前記組成物は、本発明で提供する2光子蛍光プローブ化合物の一つを有效量で含むべきである。また、生体サンプルを染色するのに必要な他の成分、例えば溶剤、pH調整剤等を含んでもよい。これらの成分は、当分野で公知のものである。前記組成物は、水溶液の形態で存在してもよく、使用時に水で溶液を調製できる他の適切な態様で存在してもよい。
【0019】
本発明は、さらに、本発明に係る前記近赤外光/音波増感剤を用いて腫瘍細胞および生体組織サンプルを標識する方法を提供する。該方法は、前記化合物を生物サンプルに接触させるステップを含む。本明細書で使用する用語「接触」には、溶液または固相において接触させることが含まれる。
【実施例
【0020】
下記の非限定的実施例は、当業者に本発明をより深く理解させるためのものであり、いかなる態様で本発明を限定するものではない。
実施例1:化合物F-1の製造
【化6】
(1)中間体1-IIの合成
塩酸の酸性化系において、塩化p-ニトロジアゾベンゼンと式1-Iの化合物を、モル比1:1で25~35℃の条件下で0.5~2時間反応させた。反応終了後、吸引ろ過と洗浄操作を行い、赤レンガ色の固体粉末状粗生成物である式1-IIの化合物を得た。収率は95%であった。
【0021】
(2)化合物F-1の合成
前記反応(1)で得た中間体1-IIとチオジュロリジン(キノリン)を、DMFの入った丸底フラスコに加え、1mLの過塩素酸溶液を滴下した。滴下終了後、反応系を2.5h撹拌した後、反応を停止した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を行い、ジクロロメタン:メタノール(v:v)=8:1で溶出、精製し、金属光沢を有する深青色針状晶体である目的化合物F-1(構造式は図1に示す)を得た。収率は83.2%であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 9.13 (s, 1H), 8.77 (d, J = 8.2 Hz, 1H), 8.34 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.84 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.77 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.44 (s, 1H), 7.22 (s, 1H), 3.54 (d, J = 17.3 Hz, 5H), 2.96 - 2.71 (m, 3H), 2.49 (s, 6H), 2.05 - 1.99 (m, 2H), 1.98 - 1.92 (m, 2H), 1.35 (t, J = 7.2 Hz, 3H).
【0022】
実施例2:化合物F-1のスペクトル測定実験
実施例1で合成した化合物F-1を用いて、F-1-DMSO溶液をジクロロメタンに加え、均一に混合した。紫外可視分光光度計と蛍光分光光度計でそのスペクトル特性を測定した。結果は図2に示す。F-1分子は、ジクロロメタンにおいて、最大吸収が680nmであり、最大発光が700nmである。
【0023】
実施例3:光照射条件下での化合物F-1の一重項酸素収量測定実験
実施例1で合成した化合物F-1を用い、F-1-DMSO溶液をメタノールに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、波長660nmのキセノンランプ光源(グレーティングフィルターで調整)で照射し、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描いた。対照としてメチレンブルーを用い、化合物F-1の一重項酸素量子収率を計算し、結果を図3に示す。この図は、光照射時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。関係式により計算すると、化合物F-1の一重項酸素量子収率は、約0.018であった。
【0024】
実施例4:超音波条件下での化合物F-1の一重項酸素収量測定実験
実施例1で合成した化合物F-1を用い、F-1-DMSO溶液をエチレングリコールモノメチルエーテルに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、1.5W/cm2、50%サイクルの超音波刺激をし、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描き、結果を図4に示す。この図は、超音波時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。図から分かるように、化合物F-1は、超音波の促進下で一重項酸素を生成できる。
【0025】
実施例5:光照射条件下での化合物F-1のインビトロ抗癌細胞測定
MCF-7(ヒト乳癌細胞)を5000細胞/ウェルの密度で96ウェルの培養プレートに接種し、細胞インキュベーターに24時間インキュベートした(37℃、5%CO)。実施例1で合成した化合物F-1を用いて、F-1-DMSO溶液を10%牛胎児血清含有DMEMに加えてそれぞれ濃度の溶液を調製した。調製した溶液を96ウェルのプレートに加え、細胞インキュベーターに30分間インキュベートした後、波長660nmの赤光を所定時間照射した。照射終了後、細胞インキュベーターに96ウェルのプレートをさらに12時間インキュベートした。続いて、1ウェルあたり5mg/mlMTT含有培地を100μl加え、細胞インキュベーターに4時間インキュベートした。ウェル中の液体培地を取り除き、1ウェルあたりDMSOを100μl加えてMTTの酸化生成物を十分溶解させた後、マイクロプレートリーダーで570nmおよび630nmにおける各ウェルの吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。結果は図5に示す。
図5から分かるように、光照射が無い場合、化合物F-1は、細胞への殺傷効果が非常に小さく、ほぼ毒性を有しない;光照射がある場合、化合物F-1は、細胞へ明らかな殺傷効果を有し、かつ光照射エネルギー密度の増加に伴い、化合物F-1の光毒性が著しく向上する。
【0026】
実施例6:化合物F-2の製造
【化7】

(1)中間体2-IIの合成
塩酸の酸性化系において、塩化p-ニトロジアゾベンゼンと式2-Iの化合物を、モル比1:1で25~35℃の条件下で0.5~2時間反応させた。反応終了後、吸引ろ過と洗浄操作を行い、赤レンガ色の固体粉末状粗生成物である式2-IIの化合物を得た。収率は95%であった。
(2)化合物F-2の合成
前記反応(1)で得た中間体2-IIとセレノジュロリジン(キノリン)を、DMFの入った丸底フラスコに加え、1mLの過塩素酸溶液を滴下した。滴下終了後、反応系を2.5h撹拌した後、反応を停止した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を行い、ジクロロメタン:メタノール(v:v)=8:1で溶出、精製し、金属光沢を有する深青色針状晶体である目的化合物F-2を得た。収率は54.4%であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 9.26 (s, 1H), 8.91 (d, J = 7.7 Hz, 1H), 8.40 (d, J = 8.0 Hz, 1H), 7.90 - 7.74 (m, 2H), 7.67 (d, J = 21.0 Hz, 2H), 3.65 - 3.46 (m, 6H), 3.30 (s, 3H), 2.88 (s, 2H), 2.02 (d, J = 38.7 Hz, 4H), 1.36 (t, J = 6.8 Hz, 3H).
【0027】
実施例7:化合物F-2のスペクトル測定実験
実施例6で合成した化合物F-2を用いて、F-2-DMSO溶液をジクロロメタンに加え、均一に混合した。紫外可視分光光度計と蛍光分光光度計でそのスペクトル特性を測定した。結果は図6に示す。F-2分子は、ジクロロメタンにおいて、最大吸収波長が686nmであり、最大発光波長が712nmである。
【0028】
実施例8:光照射条件下での化合物F-2の一重項酸素収量測定実験
実施例6で合成した化合物F-2を用い、F-2-DMSO溶液をメタノールに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、波長660nmのキセノンランプ光源(グレーティングフィルターで調整)で照射し、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描いた。対照としてメチレンブルーを用い、化合物F-2の一重項酸素量子収率を計算し、結果を図7に示す。この図は、光照射時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。関係式により計算すると、化合物F-2の一重項酸素量子収率は、約0.47であった。
【0029】
実施例9:超音波条件下での化合物F-2の一重項酸素収量測定実験
実施例6で合成した化合物F-2を用い、F-2-DMSO溶液をエチレングリコールモノメチルエーテルに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、1.5W/cm2、50%サイクルの超音波刺激をし、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描き、結果を図8に示す。この図は、超音波時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。化合物F-2は、超音波の促進下で一重項酸素を生成できるが分かる。
【0030】
実施例10:光照射条件下での化合物F-2のインビトロ抗癌細胞測定
MCF-7(ヒト乳癌細胞)を5000細胞/ウェルの密度で96ウェルの培養プレートに接種し、細胞インキュベーターに24時間インキュベートした(37℃、5%CO)。実施例6で合成した化合物F-2を用いて、F-2-DMSO溶液を10%牛胎児血清含有DMEMに加えてそれぞれ濃度の溶液を調製した。調製した溶液を96ウェルのプレートに加え、細胞インキュベーターに30分間インキュベートした後、波長660nmの赤光を所定時間照射した。照射終了後、細胞インキュベーターに96ウェルのプレートをさらに12時間インキュベートした。続いて、1ウェルあたり5mg/mlMTT含有培地を100μl加え、細胞インキュベーターに4時間インキュベートした。ウェル中の液体培地を取り除き、1ウェルあたりDMSOを100μl加えてMTTの酸化生成物を十分溶解させた後、マイクロプレートリーダーで570nmおよび630nmにおける各ウェルの吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。結果は図9に示す。
図9から分かるように、光照射が無い場合、化合物F-2は、細胞への殺傷効果が非常に小さく、ほぼ毒性を有しない;光照射がある場合、化合物F-2は、低い光照射エネルギー密度において細胞へ明らかな殺傷効果を有する。
【0031】
実施例11:化合物F-3の製造
【化8】
(1)中間体3-IIの合成
塩酸の酸性化系において、塩化p-ニトロジアゾベンゼンと式3-Iの化合物を、モル比1:1で25~35℃の条件下で0.5~2時間反応させた。反応終了後、吸引ろ過と洗浄操作を行い、赤レンガ色の固体粉末状粗生成物である式3-IIの化合物を得た。収率は94%であった。
(2)化合物F-3の合成
前記反応(1)で得た中間体3-IIとジュロリジンテルリウム(キノリン)を、DMFの入った丸底フラスコに加え、1mLの過塩素酸溶液を滴下した。滴下終了後、反応系を2.5h撹拌した後、反応を停止した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離を行い、ジクロロメタン:メタノール(v:v)=8:1で溶出、精製し、金属光沢を有する深青色針状晶体である目的化合物F-3を得た。収率は65.9%であった。
1H NMR (400 MHz, DMSO) δ 9.13 (s, 1H), 8.90 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 8.36 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 8.07 (s, 1H), 7.80 (t, J = 7.5 Hz, 1H), 7.74 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.66 (s, 1H), 3.54 (dd, J = 13.7, 6.7 Hz, 2H), 3.43 (d, J = 5.0 Hz, 4H), 2.90 - 2.75 (m, 2H), 2.35 (t, J = 6.1 Hz, 2H), 2.07 - 2.00 (m, 2H), 1.98 - 1.86 (m, 3H), 1.36 (t, J = 7.2 Hz, 3H).
【0032】
実施例12:化合物F-3のスペクトル測定実験
実施例11で合成した化合物F-3を用いて、F-3-DMSO溶液をジクロロメタンに加え、均一に混合した。紫外可視分光光度計と蛍光分光光度計でそのスペクトル特性を測定した。結果は図10に示す。F-3分子は、ジクロロメタンにおいて、最大吸収波長が697nmであり、最大発光波長が740nmである。
【0033】
実施例13:光照射条件下での化合物F-3の一重項酸素収量測定実験
実施例11で合成した化合物F-3を用い、F-3-DMSO溶液をメタノールに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、波長660nmのキセノンランプ光源(グレーティングフィルターで調整)で照射し、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描いた。対照としてメチレンブルーを用い、化合物F-3の一重項酸素量子収率を計算し、結果を図11に示す。この図は、光照射時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。関係式により計算すると、化合物F-3の一重項酸素量子収率は、約0.73であった。
【0034】
実施例14:超音波条件下での化合物F-3の一重項酸素収量測定実験
実施例11で合成した化合物F-3を用い、F-3-DMSO溶液をエチレングリコールモノメチルエーテルに加えて均一に混合した後、1,3-ジフェニルイソベンゾフラン(DPBF)を加え、DPBFの吸光度値が約1.0となったようにDPBFの濃度を調整した後、1.5W/cm2、50%サイクルの超音波刺激をし、等時間間隔で混合系の紫外可視吸収曲線を測定した。波長411nmにおけるDPBFの吸光度の変化から吸光度と時間の関係曲線を描き、結果を図12に示す。この図は、超音波時間の増加に伴う混合系の紫外可視吸光スペクトルの変化を示している。化合物F-3は、超音波の促進下で一重項酸素を生成できるが分かる。
【0035】
実施例15:光照射条件下での化合物F-3のインビトロ抗癌細胞測定
MCF-7(ヒト乳癌細胞)を5000細胞/ウェルの密度で96ウェルの培養プレートに接種し、細胞インキュベーターに24時間インキュベートした(37℃、5%CO)。実施例11で合成した化合物F-3を用いて、F-3-DMSO溶液を10%牛胎児血清含有DMEMに加えてそれぞれ濃度の溶液を調製した。調製した溶液を96ウェルのプレートに加え、細胞インキュベーターに30分間インキュベートした後、波長660nmの赤光を所定時間照射した。照射終了後、細胞インキュベーターに96ウェルのプレートをさらに12時間インキュベートした。続いて、1ウェルあたり5mg/mlMTT含有培地を100μl加え、細胞インキュベーターに4時間インキュベートした。ウェル中の液体培地を取り除き、1ウェルあたりDMSOを100μl加えてMTTの酸化生成物を十分溶解させた後、マイクロプレートリーダーで570nmおよび630nmにおける各ウェルの吸光度を測定し、細胞生存率を算出した。結果は図13に示す。
図13から分かるように、化合物F-3は、重原子テルリウムを有することから、光照射が無い場合、細胞へある程度の殺傷効果を有するが、その化学的効果が弱い;光照射がある場合、化合物F-3は、低い光照射エネルギー密度において細胞へ明らかな殺傷効果を有する。化合物F-3は、腫瘍細胞に化学療法と光線/音波力学的療法との二重効果があることが分かる。
【0036】
実施例16:自己組織化によるナノ薬物送達システムの形成試験
実施例1で合成した化合物F-1を用い、必要に応じて適量のF-1-DMSO溶液をリン酸緩衝液(PBS)または超純水に加え、均一に振とうした後、化合物F-1は、PBSまたは超純水において自己組織化プロセスによりナノ粒子系を形成した。ナノ粒子系の走査型電子顕微鏡の結果を図14に示す。図14から分かるように、ナノ系における化合物F-1は、自己組織化により形成したナノ粒子のサイズが約200nmであり、粒子の形状が規則的であり、大きさが均一であり、優れた分散特性を有する。
図1
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図14