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特許7117460カラーディスパージョンの向上及びヘイズの低減が実現された、ファセットカットされた宝石
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  • 特許-カラーディスパージョンの向上及びヘイズの低減が実現された、ファセットカットされた宝石 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-03
(45)【発行日】2022-08-12
(54)【発明の名称】カラーディスパージョンの向上及びヘイズの低減が実現された、ファセットカットされた宝石
(51)【国際特許分類】
   A44C 27/00 20060101AFI20220804BHJP
   A44C 17/00 20060101ALI20220804BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20220804BHJP
【FI】
A44C27/00
A44C17/00
G02B5/18
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021537027
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 US2019018910
(87)【国際公開番号】W WO2020046414
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-19
(31)【優先権主張番号】16/112,870
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521085515
【氏名又は名称】ディフラクション・グレーティング・サーヴィシズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】DIFFRACTION GRATING SERVICES, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100218604
【弁理士】
【氏名又は名称】池本 理絵
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ベンダーリー,デイヴィッド
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0157667(US,A1)
【文献】特開昭62-041605(JP,A)
【文献】登録実用新案第3028021(JP,U)
【文献】米国特許第08314989(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44C 27/00
A44C 17/00
G02B 5/18
B24B 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成される宝石であって、前記複数のファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
前記複数のファセットは、入射する光を全内部反射によって反射するように、前記対称軸に対して傾斜しており、かつ、互いに隣り合って前記対称軸に対して対称的に配置されており、
前記宝石は前記対称軸に対して非対称に前記材料にパターニングされた回折格子を含み、
記回折格子は、隣り合って並ぶ前記複数のファセットに配置されて、前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるように、前記光路の少なくとも1つに沿って進む光を回折する回折構造を有し、
記回折格子は、前記光路の少なくとも1つに沿って進む光を回折する唯一の回折格子であって、前記出射光のヘイズを低減させる、宝石。
【請求項2】
前記材料は上側ファセット部分と下側ファセット部分とを有し、
前記下側ファセット部分において、前記複数のファセットは前記対称軸に対して対称的に配置されている、請求項1に記載の宝石。
【請求項3】
前記回折格子が周期的な回折特徴を有する、請求項1に記載の宝石。
【請求項4】
前記隣り合って並ぶ前記複数のファセットは、前記対称軸の一側に配置される第1グループと、前記対称軸の反対側に配置される第2グループと、に分けられており、
前記非対称な回折格子は、前記第1グループと前記第2グループとのいずれか一方のみに配置されている、請求項1に記載の宝石。
【請求項5】
空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成される宝石であって、前記ファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
前記ファセットは、入射する光を全内部反射によって反射するように、前記対称軸に対して傾斜しており、かつ、前記対称軸に対して対称的に配置されており、
前記宝石は前記対称軸に対して非対称に前記材料にパターニングされた複数の回折格子を含み、
回折格子は、前記ファセットに配置されて、前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるように、各光路に沿って進む光を回折する回折構造を有し、
回折格子は、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子であって、前記出射光のヘイズを低減させる、宝石。
【請求項6】
各回折格子が前記ファセットにエッチングされている、請求項5に記載の宝石。
【請求項7】
回折格子が奇数個存在する、請求項5に記載の宝石。
【請求項8】
なくとも1つの回折格子が周期的な回折特徴を有する、請求項5に記載の宝石。
【請求項9】
複数の回折格子が前記対称軸の周りで不均等な角度的間隔をあけて配置される、請求項5に記載の宝石。
【請求項10】
各回折格子が、前記対称軸の一側における前記材料上に配置され、
前記一側に対して鏡像の位置にある前記対称軸の反対側には前記材料上に回折格子がない、請求項5に記載の宝石。
【請求項11】
宝石においてヘイズを減少させる方法であって、
前記宝石は、空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成され、前記ファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
記ファセットは、入射する光を全内部反射によって反射するように、前記対称軸に対して傾斜しており、かつ、前記対称軸に対して対称的に配置されており、
前記方法は、
前記対称軸に対して非対称に前記材料に複数の回折格子をパターニングすること、
前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるために、各光路に沿って進む光を回折する回折構造を有する各回折格子を前記ファセットに配置すること、及び、
前記出射光のヘイズを低減させるために、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子として各回折格子を配置すること、
を含む方法。
【請求項12】
各回折格子を前記ファセットにエッチングする、請求項11に記載の方法
【請求項13】
期的な回折特徴を有するように少なくとも1つの回折格子を構成する、請求項11に記載の方法
【請求項14】
前記対称軸の一側における前記材料上に各回折格子を配置し、
前記一側に対して鏡像の位置にある前記対称軸の反対側には前記材料上に回折格子を配置しない、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成される宝石であって、前記ファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
前記宝石は前記対称軸に対して非対称に前記材料にパターニングされた複数の回折格子を含み、
各回折格子は、前記ファセットに配置されて、前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるように、各光路に沿って進む光を回折する回折構造を有し、
各回折格子は、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子であって、前記出射光のヘイズを低減させる、宝石。
【請求項16】
各回折格子が前記ファセットにエッチングされている、請求項15に記載の宝石。
【請求項17】
各回折格子が、前記対称軸の一側における前記材料上に配置され、
前記一側に対して鏡像の位置にある前記対称軸の反対側には前記材料上に回折格子がない、請求項15に記載の宝石。
【請求項18】
回折格子が奇数個存在する、請求項15に記載の宝石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、ダイヤモンドなどのファセットカットされた宝石に関する。より具体的には、ダイヤモンドのファセット(facet)に1つ又は複数の回折格子をパターニングすることによって、ダイヤモンドの望ましい光学的属性、例えば、カラーディスパージョン(color dispersion)やファイア(fire)を向上させると同時に、ダイヤモンドの白濁、乳白色、曇りの外観によって特徴付けられるヘイズ(haze)などの望ましくない光学的属性を低減することに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドから出射する光のブリリアンス(brilliance)あるいはブライトネス(brightness)、出射光のファイアあるいはカラーディスパージョン、ダイヤモンド内の暗いエリアと白いエリア(明るいエリア)とのコントラスト、及びシンチレーション(scintillation)あるいはスパークル(sparkle)といったダイヤモンドの望ましい光学的属性を向上させるように、また、入射光を最大限に取り込むように、ダイヤモンドをカット及び研磨することが知られている。カラーディスパージョンを向上させるために、ダイヤモンドに対称的に施されたファセットに、ダイヤモンドの対称主軸に対して対称的な配置で回折格子をエッチングなどによりパターニングすることも知られている。しかしながら、対称的に配置されたそのような回折格子の使用が有利である一方で、取り込まれた光が回折格子間を通過し回折格子によって回折して干渉することで、ダイヤモンドにとって望ましくないヘイズ、すなわち白濁、乳白色、曇りといった外観が引き起こされ、その美しさと価値の大幅な低下がみられた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従って、そのようなヘイズを減少させる、好ましくは実質的に排除するように、ダイヤモンドのファセット上に1つ又は複数の回折格子をパターニングする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の一態様にかかるダイヤモンドなどの宝石は、光透過性の材料により構成されており、空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有し、前記カットされた複数のファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出る。少なくとも1つの回折格子が対称軸に対して非対称に前記材料に配置されている。この回折格子は、ファセットの少なくとも1つにエッチングなどによってパターニングされた回折構造を有する。この回折構造は、出射光のカラーディスパージョンを向上させるように、光路の少なくとも1つに沿って進む光を回折する。この回折格子は、少なくとも1つの光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子となっている。
【0005】
好ましい実施形態によれば、この回折格子は、対称軸の一側(片側)における前記材料上に配置される。光路上で前記一側に対して鏡像の位置にある対称軸の反対側には前記材料上に回折格子がパターニングされていない。
【0006】
この回折格子の非対称配置によって、宝石のヘイズあるいは白濁、乳白色、曇りなどの外観が最小限に抑えられる。この回折格子は光路上で唯一の回折格子であるため、宝石中を進む光はただ1つの回折格子によって回折する。これによって光路上の連続する回折格子間での光干渉を回避でき、宝石の美しさと価値は保護される。本開示の別の態様は、そのようなヘイズを低減する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】ラウンドブリリアントカット(round brilliant cut)のダイヤモンドなど、ファセットカットされた既知の宝石の側面図である。
図2図1の既知のダイヤモンドに入射し、ダイヤモンドを通過及び出射する光の複数の光路を模式的に示した図である。
図3】ダイヤモンド上に複数の回折格子が非対称に配置されたある実施形態にかかる図1のダイヤモンドの底面図と、その周期的な回折特徴を示すために1つの回折格子の一部分を拡大した図である。
図4】ダイヤモンド上に複数の回折格子が非対称に配置された別の実施形態にかかる図1のダイヤモンドの底面図である。
図5】ダイヤモンド上に回折格子が非対称に配置された更に別の実施形態にかかる図1のダイヤモンドの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面の図1における参照番号20は、一般に、ファセットカットされた宝石、特にラウンドブリリアントカットのダイヤモンドを指す。本発明は、ラウンドブリリアントカットのダイヤモンドについて説明及び図示されているが、プリンセス(princess)、マーキス(marquise)、バゲット(baguette)、ハート(heart)、ブリオレット(briolette)、オーバル(oval)、及びペア(pear)などの異なるカットも使用できることは理解されよう。また、宝石はダイヤモンドである必要はなく、光を透過する天然又は人工(合成)の材料であって空気よりも高い屈折率を有するものであればどの装飾品でもよい。この装飾品には、例えば、貴石又は半貴石、更にはキュービックジルコニウム(立方晶系ジルコニア)が含まれる。
【0009】
図1に最もよく示されるように、ダイヤモンド20には上側円錐台状部分あるいはクラウン22、下側円錐形部分あるいはパビリオン24があり、クラウン22とパビリオン24との間には環状のガードル26がある。クラウン22には平坦な上面又はテーブル28があり、パビリオン24は尖った端部又はキューレット30に向かって先細になっている。クラウン22にはクラウンファセット32がカットされ、パビリオン24にはパビリオンファセット34がカットされている。各ファセット32、34は平面である。ダイヤモンド20は垂直な対称軸36を有し、この軸36に対してクラウンファセット32及びパビリオンファセット34は傾斜して対称的に配置されている。軸36はキューレット30を通って延び、テーブル28に垂直である。ダイヤモンド20は光透過性材料により構成され、その屈折率は空気よりも大きく、典型的には約2.417である。この屈折率の場合、ダイヤモンドの任意の平面で全内部反射(全反射)によって光が反射する臨界角は約24.44度である。
【0010】
図2に最もよく示されるように、ダイヤモンド20に入った入射光は複数の光路に沿ってダイヤモンド20を通過し出射光としてダイヤモンド20を出る。より具体的には、クラウンファセット32に入射する一般的な光線40は、軸36の一側(片側)にあるパビリオンファセット34に向かって下向きに屈折し、次に軸36の反対側にあるパビリオンファセット34に向かって横切るように反射し、その後テーブル28に向かって上向きに反射してテーブル28を通過し光線42として出る。更に、テーブル28に入射する一般的な光線44は、軸36の一側(片側)にあるパビリオンファセット34に向かって下向きに進み、次に軸36の反対側にあるパビリオンファセット34に向かって横切るように反射し、その後クラウンファセット32に向かって上向きに反射してクラウンファセット32を通過し光線46として出る。パビリオンファセット34はダイヤモンドの前述の臨界角よりも小さい角度で傾斜しているので、そこに入射する光は全内部反射(全反射)によって反射する。
【0011】
図3の実施形態によると、パビリオン24上には軸36に対して非対称にパターニングされた複数の回折格子50がある。説明しやすくするために、底面図のようにパビリオン24における軸36周りの異なる角度位置を数字1~16で示した。従って、非限定的な例では、回折格子50が位置1、3、5、7、10、12及び14にのみ配置されているものとして示されている。各光路に沿って進む光を回折させて、出射光のカラーディスパージョンを向上させるための、あるパビリオンファセット34上に位置する周期的、準周期的、又は非周期的な回折構造を、各回折格子50が有する。以下で詳細に説明されるが、出射光のヘイズを低減するよう、各回折格子50は、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子となっている。
【0012】
各回折格子50は軸36の一側(片側)のパビリオン24上に配置され、この一側に対して光路上で鏡像の位置にある軸36の反対側にはパビリオン24上に回折格子がない。従って、格子50は位置1にあって、その鏡像位置9にはない。格子50は位置3にあって、その鏡像位置11にはない。格子50は位置5にあって、その鏡像位置13にはない。格子50は位置7にあって、その鏡像位置15にはない。格子50は位置10にあって、その鏡像位置2にはない。格子50は位置12にあって、その鏡像位置4にはない。格子50は位置14にあって、その鏡像位置6にはない。各光路には格子50が1つしかないので、連続する格子間の光干渉はほとんど又は全くない。従って、本開示の方法により格子50を非対称に配置することで、ダイヤモンドの外観のヘイズは減少及び低減され、ダイヤモンド20の美しさと価値は保護される。
【0013】
図3の実施形態では格子50は7つあるが、格子数はただ1つでもよいし他の数でもよい。格子数は偶数又は奇数でもよい。格子50は軸36の周りに等角度に配置されていない。格子50はクラウンファセット32上にも配置できる。各格子50は単一のファセットの一部に堆積(沈着)又はエッチングしてもよく、あるいは1つ又は複数のファセットに堆積(沈着)又はエッチングしてもよい。
【0014】
図4の実施形態を参照すると、3つの格子50が示されており、各格子50によって複数のパビリオンファセット34が覆われている。ここでも、軸36の周りに非対称に格子50が配置されている。各回折格子50は、軸36の一側(片側)のパビリオン24上に配置され、この一側に対して鏡像の位置にある軸36の反対側にはパビリオン24上に回折格子がない。
【0015】
図5の実施形態を参照すると、単一の格子50が示されており、パビリオン24の半分を占めるパビリオンファセット34が格子50によって覆われている。パビリオンの反対側の鏡像側に格子はない。ここでも、軸36の周りに非対称に格子50が配置されている。
【0016】
図3の拡大された円形詳細図に最もよく示されているように、各回折格子50は、例えば、溝、くぼみ(刻み目)、突起、反射性マーキングあるいは吸収性マーキング、又はそれらの任意の組み合わせによる複数の個別回折構造又は特徴(特徴部)52を有する。これらの回折特徴52はダイヤモンドの外面に、例えば堆積(沈着)やエッチングによってパターニングされ得る。これらの回折特徴52は周期的、準周期的あるいは非周期的であってよい。好ましい実施形態では、ダイヤモンドに周期的な複数の溝がエッチングされ、これらの溝は互いに平行に延びる。好ましい実施形態では、各溝は20nmから100nmまでの範囲内の深さとなるよう位置しており、ゆえに格子50は実質的に見えなくなる。これらの特徴52によって光は散乱及び回折し、光の振幅の変調や位相のシフトが起こり得る。
【0017】
各回折格子50は、好ましくは以下のようにエッチングされる。まず、ダイヤモンドの表面を洗浄して不純物を取り除きマスクを接着しやすくする。次に、ハードマスクを堆積する。ハードマスクを堆積するにはいくつかの方法がある。一例として、ハードマスクはプラズマ励起化学気相成長法(plasma-enhanced chemical vapor deposition:PECVD)によって蒸着できる。マスク-ダイヤモンドの相対的なエッチング速度(選択性)とダイヤモンドの所望のエッチング深さとによって、マスクの厚さは決まる。次に、ハードマスクの上にソフトマスク又はフォトレジスト層が堆積される。このフォトレジスト層は通常、スピンコート又はスプレーコーティング工程によって堆積される。フォトレジストマスクには、主にポジティブとネガティブの2つの型がある。ネガティブ型フォトレジストマスクでは、フォトレジスト層の露光した部分が現像液に不溶になる。フォトレジスト層の露光していない部分は、現像液によって溶解される。
【0018】
次に、溶媒を追い出してフォトレジスト層を固化及び安定化するためのソフトな脱水ベーク工程が行われる。フォトレジスト層は、通常350~450nmの範囲内の紫外線(UV光)に感受性がある。フォトレジスト層は、所望の回折格子パターンを使用して選択的に露出される。適切な照射量(吸収量)を保証するために、表面でのエネルギー密度と露光時間が適切になるように注意深く制御する。露光後ベーク(post exposure bake:PEB)工程では、追加のフォトレジストベークが行われる。これにより、フォトレジスト層の脱水が更に進んで定在波によって引き起こされる波模様が滑らかになる。
【0019】
次に現像工程においては、パターニングされたダイヤモンドを現像液の浴に単に浸漬して現像してもよいし、より高い均一性を保証するために、コンピュータ制御されたスプレー/パドル方式の自動化プログラムを用いて、遠心回転するプラットフォーム上で現像してもよい。UVエネルギーに曝された領域が現像されて除去される場合、そのフォトレジスト層はポジティブ型であると考えられる。現像後に露光領域が残っている場合、そのフォトレジスト層はネガティブ型であると考えられる。現像後、投影された回折格子パターンに基づいてハードマスクは選択的に露出される。次に、ハードマスクのこの層はウェットプロセス又はドライプロセスで除去される。その方法としては、ハードマスクの物理的エッチング及び化学的エッチングを促進するガス混合物を使用した反応性イオンエッチング(reactive ion etching:RIE)などがある。
【0020】
先のエッチングと同様に、反応性イオンエッチング(RIE)又は誘導結合プラズマ(ICP-RIE)エッチングサイクルによって、ダイヤモンドの露出部分がエッチングされる。このエッチングサイクルの間、ハードマスクパターンによってダイヤモンド表面は保護されている。ダイヤモンドのエッチング深さに達すると、通常は化学プロセスによって残りのマスクが除去される。回折格子がパターニングされた、洗浄後のダイヤモンドには一時的な層やマスクは残らない。
尚、出願当初の請求項は以下のとおりであった。
〔請求項1〕
空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成される宝石であって、前記カットされた複数のファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
前記宝石は前記対称軸に対して非対称に前記材料にパターニングされた少なくとも1つの回折格子を含み、
前記少なくとも1つの回折格子は、前記ファセットの少なくとも1つに配置されて、前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるように、前記光路の少なくとも1つに沿って進む光を回折する回折構造を有し、
前記少なくとも1つの回折格子は、前記光路の少なくとも1つに沿って進む光を回折する唯一の回折格子であって、前記出射光のヘイズを低減させる、宝石。
〔請求項2〕
前記材料は上側ファセット部分と下側ファセット部分とを有し、
前記下側ファセット部分において、前記カットされた複数のファセットは前記対称軸に対して対称的に配置され、
前記カットされた複数のファセットは、入射する光を全内部反射によって反射するように前記対称軸に対して傾斜している、請求項1に記載の宝石。
〔請求項3〕
前記少なくとも1つの回折格子が周期的な回折特徴を有する、請求項1に記載の宝石。
〔請求項4〕
前記対称軸に対して非対称に前記材料上に配置された複数の回折格子が存在し、
各回折格子は、前記ファセットに配置されて、前記出射光のディスパージョンを向上させるように、各光路に沿って進む光を回折する回折構造を有し、
各回折格子は、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子であって、前記出射光のヘイズを低減させる、請求項1に記載の宝石。
〔請求項5〕
各回折格子が複数のファセットにエッチングされている、請求項4に記載の宝石。
〔請求項6〕
各回折格子が、前記対称軸の一側における前記材料上に配置され、
前記一側に対して鏡像の位置にある前記対称軸の反対側には前記材料上に回折格子がない、請求項4に記載の宝石。
〔請求項7〕
回折格子が奇数個存在する、請求項4に記載の宝石。
〔請求項8〕
宝石においてヘイズを減少させる方法であって、
前記宝石は、空気より大きい屈折率と、対称軸と、カットされた複数のファセットと、を有する光透過性の材料により構成され、前記カットされた複数のファセットに入射して前記材料に入る光が複数の光路に沿って前記材料を通過し出射光として前記材料を出るものであり、
前記カットされた複数のファセットは、入射する光を全内部反射によって反射するように、前記対称軸に対して傾斜しており、かつ、前記対称軸に対して対称的に配置されており、
前記方法は、
前記対称軸に対して非対称に前記材料に複数の回折格子をパターニングすること、
前記出射光のカラーディスパージョンを向上させるために、各光路に沿って進む光を回折する回折構造を有する各回折格子を前記ファセットに配置すること、及び、
前記出射光のヘイズを低減させるために、各光路に沿って進む光を回折する唯一の回折格子として各回折格子を配置すること、
を含む方法。
〔請求項9〕
前記対称軸の一側における前記材料上に各回折格子を配置し、
前記一側に対して鏡像の位置にある前記対称軸の反対側には前記材料上に回折格子を配置しない、請求項8に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5